JP4193580B2 - シートベルト - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はシートベルトに関するものであり、特に、乗員の拘束機能(拘束能力)の向上に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
シートベルトには、一端がロック式巻取装置に接続され、他端が車体に対して固定とされたウェビングにより乗員を拘束するものがある。また、ロック式巻取装置の一種に緊急ロック式巻取装置と称されるものがある。緊急ロック式巻取装置は、例えば、ウェビングの巻取り機能を備えるとともに、通常は、ウェビングの引出しを許容するが、ウェビングが設定値以上の加速度で引き出される等、設定条件が成立した場合にウェビングの引出しを阻止する機能を備える。ロック式巻取装置によれば、例えば、車両衝突時にウェビングの巻取装置からの引出しが阻止され、ウェビングが緩んで乗員の拘束機能が不足することが回避される(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のロック式巻取装置は、電動モータを備え、ウェビングを動力で巻き取るように構成されている。電動モータは、車両の衝突の可能性がある場合に作動させられ、ウェビングが巻き取られて緩みが除去される。それにより、車両の対象物への衝突時における拘束機能の不足が低減させられる。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−114069号公報
【特許文献2】
特開2001−239920号公報
【特許文献3】
特許第2946995号公報
【特許文献4】
特許第2809515号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果】
しかしながら、特許文献1に記載のロック式巻取装置は電動モータを駆動源としてウェビングを巻き込むように構成されており、ロック式巻取装置が大形となる。巻取装置を備えず、ウェビングの長さが乗員により、その体格に合わせて調節されるシートベルトであれば、調節後にウェビングの緩みが増大することはないものの、調節時に緩みがあれば、その分、拘束機能が低くなる。巻取装置は備えるが、ロック式ではなく、電動モータを駆動源とする巻取機構を備えないシートベルトであって、装着時にウェビングの全部が巻取装置から引き出されるとともに、その長さが乗員の体格に合わせて調節されるシートベルトにおいては一層拘束機能が低い。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景とし、ウェビングの緩みを巻取装置へ巻き込まないで除去し得るようにすることを課題としてなされたものであり、本発明によって、下記各態様のシートベルトが得られる。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴およびそれらの組合わせが以下の各項に記載のものに限定されると解釈されるべきではない。また、一つの項に複数の事項が記載されている場合、それら複数の事項を常に一緒に採用しなければならないわけではない。一部の事項のみを選択して採用することも可能なのである。
【0007】
なお、以下の各項において、(1)項に(2)項および(3)項に記載の特徴を追加したものが請求項1に相当し、その請求項1に(4)項に記載の特徴を追加したものが請求項2に、その請求項2に(5)項に記載の特徴を追加したものが請求項3に、その請求項3に(6)項に記載の特徴を追加したものが請求項4に、請求項2ないし4のいずれかに(8)項に記載の特徴を追加したものが請求項5に、請求項2ないし5のいずれかに(10)項に記載の特徴を追加したものが請求項6に、請求項1ないし6のいずれかに(12)項に記載の特徴を追加したものが請求項7に、請求項2ないし6のいずれかに(11)項に記載の特徴を追加したものが請求項8に、それぞれ相当する。
【0008】
(1)一端がロック式巻取装置に接続され、他端が車体に対して固定とされたウェビングにより乗員を拘束するシートベルトにおいて、前記ウェビングを前記ロック式巻取装置に巻き取ることなくウェビングの緩みを除去する緩み除去装置を設けたシートベルト。
ロック式巻取装置も車体に対して固定とされるため、ウェビングは少なくとも2個所において車体に固定とされ、衝突時に乗員の身体がシートベルトにより拘束されることとなる。ここにおいて「車体に対して固定」とは、ウェビングが少なくとも長手方向に関して、車体に対して実質的に移動しない状態とされることを意味し、完全に固定される必要はない。例えば、3点式シートベルトのショルダアンカにおいては、ウェビングの中間部がフックに長手方向に摺動可能に通されるのであるが、ショルダベルトとは反対側のウェビングの端部が、ロック式巻取装置に巻かれ、少なくとも衝突時には引き出し不能となるため、フックに通された部分が車体に対して固定とされたことになる。
ロック式巻取装置の一種に前記緊急ロック式巻取装置があり、これには、前述のようにウェビングの引出し加速度に感応してロック機構が作動状態となるウェビング感応方式の巻取装置、車体減速度に感応してロック機構が作動状態となる車体感応方式の巻取装置、両方に感応する二重感応方式の巻取装置等がある。ロック式巻取装置にはさらに自動ロック式巻取装置がある。自動ロック式巻取装置は、例えば、ウェビングを任意の長さに引き出した後、少しでも巻き込ませると自動的にロックし、それ以上引き出せなくなるように構成される。
本発明に係るシートベルトによれば、ロック式巻取装置によりウェビングの引出しが阻止された状態で緩み除去装置にウェビングの緩みを除去させることができ、緩みが除去される際にウェビングが引き出されることがなく、効果的に引締めが行われる。
また、ウェビングをロック式巻取装置に巻き取ることなくウェビングの緩みを除去し得るため、ロック式巻取装置に巻取用駆動源を設けることが不可欠ではなくなり、巻取用駆動源を省略すれば、ロック式巻取装置を小形化しつつ拘束機能の高いシートベルトを得ることができる。
ただし、本項のシートベルトにおいてロック式巻取装置に巻取用駆動源も設けてウェビングを巻き取るようにしてもよい。そのようにすれば、ウェビングの引締めを無理なく行い得る。ウェビングの緩みが1箇所において除去される場合、その部分については引締めが良好に行われるが、離れた箇所では引き締められ難いのに対し、ウェビングの互いに離れた少なくとも2箇所において緩みを除去することができ、ウェビングを全体的に引き締めて緩みを除去することができるのである。あるいはウェビングの緩みの除去を速やかに行い得る。また、周辺の状況に応じて、ロック式巻取装置によるウェビングの巻取りと、ロック式巻取装置に巻き取ることなく行うウェビングの緩み除去とを選択して行うことも可能となる。
【0009】
(2)当該シートベルトが設けられた車両が対象物と衝突することを予知して衝突予知情報を作成する衝突予知装置と、
前記衝突予知情報に応じて前記緩み除去装置を作動させる制御装置と
を含む (1)項に記載のシートベルト。
衝突予知に基づいて緩み除去装置を作動させれば、衝突に先立ってウェビングの緩みを除去することができ、乗員の拘束機能を向上させることができる。衝突予知後、車両が実際に対象物に衝突したとき、乗員の体を適切に拘束し得るのである。
(3)前記制御装置が、前記衝突予知装置による前記衝突予知情報の作成にもかかわらず車両が衝突しなかったことが明らかになった場合に、前記緩み除去装置を元の状態に復帰させる復帰制御部を備えた (2)項に記載のシートベルト。
衝突が予知されても実際に車両が対象物に衝突するとは限らず、緩み除去装置が元の状態に復帰させられることにより、ウェビングの拘束力が衝突予知前の大きさに減少させられる。そのため、車両が対象物に衝突しないにもかかわらず、拘束力が大きいままとされて乗員に不快感を与えることが回避される。
【0010】
(4)前記緩み除去装置が、前記ウェビングの一部を車体に対して固定とする少なくとも1つのアンカを、ウェビングを引き締める向きに移動させる少なくとも1つのアンカ移動装置を含む (1)項ないし (3)項のいずれかに記載のシートベルト。
アンカには、例えば、ウェビングのロック式巻取装置に接続された側とは反対側の端部を車体に固定するウェビング端アンカ,次に説明するショルダアンカ,ロック式巻取装置を車体に対して固定とするアンカ,乗員の腰部を拘束するラップベルトを車体に対して固定とするラップアンカがある。いずれのアンカであっても、乗員がウェビングを装着した状態においてウェビングを車体に対して固定とし、乗員を拘束する機能を果たさせるため、アンカをウェビングを引き締める向きに移動させることにより、拘束力を増大させることができる。
アンカの移動方向は、ウェビングを引き締めることができる方向であればよく、アンカの種類,アンカの周辺の状況に応じて適宜に設定することが望ましく、例えば、上下方向,水平方向あるいは水平面に対して交差する方向にアンカを移動させる。アンカを水平方向に移動させる場合、例えば、アンカを長手形状の部材とし、その一端部において車体に回動可能に取り付けるとともに、他端部にウェビングを保持させ、アンカ回動装置によりアンカを回動させてウェビングをほぼ水平方向に移動させて引き締める。アンカに長手形状のウェビング保持部材を回動可能に設け、ウェビング保持部材にウェビングを保持させるとともに、回動装置により回動させてウェビングを水平方向に移動させるようにしてもよい。この際、ウェビング保持部材は、アンカの回動部を構成する。
(5)乗員の胸部を拘束するショルダベルトと、そのショルダベルトを乗員の肩の近傍で車体に対して固定とするショルダアンカとを含み、前記少なくとも1つのアンカ移動装置が、前記ショルダアンカの位置を前記ショルダベルトを引き締める向きに移動させるショルダアンカ移動装置を含む (4)項に記載のシートベルト。
ショルダアンカはショルダベルトを引き締める向きに移動させられればよく、例えば、水平方向に移動させられてもよい。しかし、少なくとも鉛直上向きの成分を有する向きに移動させられることが望ましい場合が多く、ショルダアンカを上方へ移動させてショルダベルトを引き締める場合、ショルダベルトの通過経路が上がり、乗員の体の上の方の部分が拘束されることとなり、上下方向における拘束範囲が増大し、乗員が効果的に拘束される。特に、ショルダアンカが乗員の体格に適した位置より下側にある場合に、上方へ移動させられることにより、乗員の体の上部が拘束され、拘束機能が向上する。
(6)前記ショルダアンカの位置を前記乗員の体格に合わせるために前記ショルダアンカ移動装置を制御する位置調整制御装置を含む (5)項に記載のシートベルト。
ショルダアンカを移動させてその位置を変えれば、ウェビングの通過経路が変えられ、乗員の体格に合わせた経路とすることができる。ショルダアンカ移動装置および位置調整制御装置が乗員の体格に合わせてショルダアンカの位置を調整するショルダアンカ位置調整装置を構成する。したがって、本項の発明によれば、ショルダアンカ位置調整装置のショルダアンカ移動装置を利用してショルダアンカを移動させ、ウェビングを引き締めて緩みを除去することができ、ウェビングの緩み除去機能を有するシートベルトを容易に構成し、安価に得ることができる。
【0011】
(7)前記少なくとも1つのアンカ移動装置が、前記ウェビングの他端を車体に対して固定とするアンカをウェビングを引き締める向きに移動させるウェビング端アンカ移動装置を含む (4)項ないし (6)項のいずれかに記載のシートベルト。
【0012】
(8)当該シートベルトが、乗員の胸部を拘束するショルダベルトと、乗員の腰部を拘束するラップベルトとを備えた三点式シートベルトであり、前記少なくとも1つのアンカ移動装置が、乗員が三点式シートベルトを装着するためのタングプレートとバックルとの一方を車体に対して固定とするためのラップアンカを前記ショルダベルトおよびラップベルトを引き締める向きに移動させるラップアンカ移動装置を含む (4)項ないし (7)項のいずれかに記載のシートベルト。
三点式シートベルトには、ショルダベルトとラップベルトとが分離可能で、ラップベルトの、乗員の一方の側の部分と他方の側の部分との結合部にショルダベルトの下端を結合する分離三点式シートベルトと、ショルダベルトとラップベルトとが1本の連続ウェビングで構成され、それらショルダベルトとラップベルトとの境界部がフックを介してアンカに結合される連続三点式シートベルトとがある。上記フックが、ウェビングに長手方向に摺動可能に取り付けられたスルータングとされ、車体に対して固定とされたバックルに結合されることが多い。
バックルは、ウェビングを介して間接的にラップアンカに結合されてもよく、ラップアンカと一体的に構成されてもよい。いずれもバックルが車体に固定とされていることになる。逆にタングを車体に対して固定とし、フックとバックルとを一体的に構成することも可能である。
いずれにしてもラップアンカが移動させられることにより、ショルダベルトもラップベルトも引き締められ、それらベルトの緩みが除去されて拘束機能が向上させられる。
【0013】
(9)前記少なくとも1つのアンカ移動装置が、前記ロック式巻取装置を車体に対して固定とする巻取装置アンカを前記ウェビングを引き締める向きに移動させる巻取装置アンカ移動装置を含む (4)項ないし (8)項のいずれかに記載のシートベルト。
【0014】
(10)前記少なくとも1つのアンカ移動装置が、
互いに螺合された雄ねじ部材および雌ねじ部材と、
それら雄ねじ部材と雌ねじ部材との一方を回転可能かつ軸方向に移動不能に保持する保持部材と、
動力駆動源を備え、前記雄ねじ部材と雌ねじ部材とのうち前記保持部材に保持されたものを回転駆動する回転駆動装置と
を含み、前記雄ねじ部材と雌ねじ部材とのうち前記保持部材に保持されない側のものに前記アンカが接続された (4)項ないし (9)項のいずれかに記載のシートベルト。
雄ねじ部材と雌ねじ部材とのうち、保持部材によって保持されたものが回転駆動されれば、保持部材に保持されていない側のものが軸方向に移動させられ、アンカが移動させられる。
雄ねじ部材および雌ねじ部材を用いれば、アンカをウェビングの緩みを除去する方向へも、緩みを与える方向へも確実に移動させることができ、緩みの除去が正確に行われる。また、アンカを緩み除去前の位置へ復帰させるのであれば、その復帰も正確に行われる。
さらに、アンカにウェビングが緩む方向の力が作用しても、互いに螺合された雄ねじ部材と雌ねじ部材とが相対回転させられて軸方向に相対移動することがなく、アンカが移動させられず、ウェビングが緩みが除去された状態に保たれるようにすることができる。
【0015】
(11)前記アンカ移動装置による前記アンカの駆動力の上限を規定するフォースリミッタを含む (4)項ないし(10)項のいずれかに記載のシートベルト。
本項の発明によれば、緩みが除去される際にウェビングの拘束力が過大となり、乗員に不快感を与えることが回避される。
【0016】
(12)前記緩み除去装置が、前記ウェビングの途中の部分に屈曲部を生じさせるとともに、ウェビングのその屈曲部に属する部分を長くすることにより、ウェビングの他の部分を引き締める屈曲装置を含む (1)項ないし(11)項のいずれかに記載のシートベルト。
屈曲装置は、ウェビングの通常はほぼ真っ直ぐな部分を引き締め時に屈曲させるものでも、ウェビングの一部を当初から屈曲させており、引き締め時にその屈曲部に属する部分を長くするものでもよい。
ウェビングの途中に生じさせられた屈曲部に属する部分の長大化は、ウェビングの長手方向において、屈曲部が生じさせられた部分の少なくとも一方の側の部分が強制的に屈曲部側へ移動させられることにより許容される。それによりウェビングの緩み部分が屈曲部を構成し、ウェビングの屈曲部以外の部分の長さが短くなって拘束機能が増大させられる。
(13)前記屈曲装置が、
前記ウェビングの通過経路に沿って、その通過経路の長手方向に互いに隔たって配設された2つの固定ガイド部材と、
それら2つの固定ガイド部材の中間位置において、前記通過経路と交差する方向に移動可能に設けられた可動ガイド部材と、
その可動ガイド部材を前記交差する方向に移動させるガイド部材移動装置と
を含む(12)項に記載のシートベルト。
固定ガイド部材および可動ガイド部材は、例えば、円形断面のピンや、回転案内部材の一種であるローラにより構成される。
ガイド部材移動装置は、可動ガイド部材を直線移動させる装置でもよく、回動により移動させる装置でもよく、直線移動および回動の組み合わせによって移動させる装置でもよい。
可動ガイド部材は、その移動により、ウェビングの2つの固定ガイド部材の間の部分を、その他の部分から離れる方向に移動させ、ウェビングの屈曲部に属する部分を長くし、ウェビングを引き締め、緩みを除去する。
(14)前記ガイド部材移動装置による前記可動ガイド部材の駆動力の上限を規制するフォースリミッタを含む(13)項に記載のシートベルト。
本項の発明によれば、ウェビングの緩みが除去されるとともに、拘束力が過大になることが回避される。
【0017】
(15)前記可動ガイド部材が、回動軸線まわりに回動可能な回動部材のアーム部の自由端に設けられ、前記ガイド部材移動装置が前記回動部材を回動させることにより可動ガイド部材を移動させるものであり、その可動ガイド部材に前記ウェビングにより加えられる反力が前記上限に達した場合に前記アームが塑性変形により湾曲するものとされ、その塑性変形するアームが前記フォースリミッタを構成している(14)項に記載のシートベルト。
例えば、車両の衝突によりウェビングの張力が増大し、可動ガイド部材に加えられる反力が増大しても、上限に達するまではアームは塑性変形せず、屈曲部を生じさせ、長くした状態に保つが、反力が上限に達すればアームが塑性変形し、ウェビングの拘束力が過大になることが回避される。
アームは弾性変形するものとしてもよい。
(16)前記ガイド部材移動装置が、
前記回動部材と一体的に回動するウォームホイールと、
そのウォームホイールと噛み合い、回転駆動装置により回転させられるウォームとを含む(15)項に記載のシートベルト。
本項の発明によれば、可動ガイド部材に、屈曲部の長さを短くする方向の力が作用しても可動ガイド部材が回動させられることがなく、ウェビングの緩みが回避される。
【0018】
(17)複数のアンカにより車体に対して固定とされるウェビングにより乗員を拘束するシートベルトであって、前記複数のアンカの少なくとも1つを前記ウェビングを引き締める向きに移動させるアンカ移動装置を含むシートベルト。
本項のシートベルトは、前記緊急ロック式巻取装置,自動ロック式巻取装置を備えたシートベルトであってもよく、ロック機能のない巻取装置を備えたシートベルトであってもよく、巻取装置を備えないシートベルトであってもよい。(18)項に記載のシートベルトにおいても同様である。
本項のシートベルトによれば、例えば、 (4)項に記載の作用および効果が得られる。
前記 (1)項ないし(16)項の各々に記載の特徴は本項のシートベルトにも適用可能である。
【0019】
(18)複数のアンカにより車体に対して固定とされるウェビングにより乗員を拘束するシートベルトであって、前記ウェビングの途中の部分に屈曲部を生じさせるとともに、ウェビングのその屈曲部に属する部分を長くすることにより、ウェビングの他の部分を引き締める屈曲装置を含むシートベルト。
本項のシートベルトによれば、例えば、(12)項に記載の作用および効果が得られる。
前記 (1)項ないし(16)項の各々に記載の特徴は本項のシートベルトにも適用可能である。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に、本発明の実施形態であるシートベルト10を備える車両の室内の一部を概略的に示す。図において、符号12はウェビングである。ウェビング12は帯状の合成繊維からなり、一端が緊急ロック式巻取装置(Emergency Locking Retractor;以下ELRと略称する)14に接続されている。ELR14はセンタピラー16内に設けられ、フロア18の近傍に設けられたELRアンカ20に係止される。これらセンタピラー16およびフロア18は車体を構成し、ELR14は車体に対して固定とされている。
【0021】
ウェビング12の他端は、上記ELRアンカ20に隣接して設けられたラップアウタアンカ22に係止され、車体に対して固定とされている。ウェビング12のELR14とラップアウタアンカ22との間の部分は、センタピラー16の外面上部に設けられたショルダアンカ24のフック26に通されるとともに、ショルダアンカ24とラップアウタアンカ22との間の部位にタングプレート28が移動可能に取り付けられている。
【0022】
これに対して、フロア18近傍に、座席30を挟んでラップアウタアンカ22とは反対側にラップインナアンカ32が設けられ、バックル34が一体的に設けられている。バックル34と上記タングプレート28とが係合させられることにより、ウェビング12がラップインナアンカ32に接続され、車体に固定される。このように、ウェビング12は車体に設けられたショルダアンカ24,ラップアウタアンカ22およびラップインナアンカ32の3点で車体に連結され、乗員を座席に拘束する。本シートベルト10は、いわゆる連続3点式シートベルトなのであり、乗員が座席30に座ってシートベルト10を着用し、タングプレート28がバックル34に係合させられた状態において、ウェビング12の乗員の胸部を拘束する部分がショルダベルト36を構成し、腰部を拘束する部分がラップベルト38を構成する。
【0023】
ELR14の構造は、一般に良く知られているので詳細な図示を省略して簡単に説明する。本実施形態においてELR14は、ばね部材を含む巻取機構,その巻取機構とは別に設けられ、車両衝突時にウェビング12を迅速にシャフトに巻き取る衝突時巻取機構40(図5参照),緊急時にウェビング12のシャフトからの引出しを阻止するロック機構,ロック機構が作動した状態において乗員に作用する拘束力が過大になることを防止するフォースリミッタを備えている。シャフトは車体に固定の支持部材に回転可能に支持され、ウェビング12の一端が巻き付けられており、ロック機構は、例えば、ウェビング12がシャフトから設定値以上の加速度で引き出されると、シャフトに回動可能に設けられた爪部材が上記支持部材に設けられたリング状の歯に噛み込み、ウェビングが引き出されないように構成される。ウェビングに作用する張力が減少すれば、爪部材が歯との噛み合いから外れ、ロック状態が解除される。衝突時巻取機構40は、例えば、ガス発生器およびシリンダを備え、ガス発生により得られる駆動力に基づいてウェビングが巻き取られるように構成される。
【0024】
本シートベルト10においては、前記ショルダアンカ24が上下方向に移動可能に設けられ、ショルダアンカ移動装置50により移動させられるようにされている。それにより、ショルダアンカ24の位置が乗員の体格に合わせられるとともに、緊急時等にウェビング12が引き締められ、その緩みが除去される。
【0025】
ショルダアンカ24およびショルダアンカ移動装置50を図3および図4に基づいて説明する。
ショルダアンカ移動装置50は、図3に示すように、ショルダアンカ24と共に前記センタピラー16の上部外面に設けられている。センタピラー16の上部に位置を固定して設けられた保持部材としての保持プレート54には、上下方向に延びる一対の案内部としてのレール56(図4参照)が設けられるとともに、移動部材としてのスライダ58が上下方向に移動可能に嵌合されている。
【0026】
保持プレート54により、雄ねじ部材としてのスクリュ60が上下方向に延びる軸線まわりに回転可能かつ軸方向に移動不能に保持されている。保持プレート54に上下方向に隔たって取り付けられたブラケット62,64により、スクリュ60の上端部と下端部とがそれぞれ保持されているのであり、このスクリュ60に一対の雌ねじ部材としてのナット66,68が螺合されている。ナット66,68の一方はスライダ58の上側に配設され、他方はスライダ58の下側に配設されるとともに、それぞれスライダ58との係合によりその軸線まわりの相対回転を阻止されている。したがって、スクリュ60が動力駆動源としての電動モータ70によって回転させられることによりナット66,68が昇降させられ、スライダ58が一対のレール56に案内されつつ昇降させられる。本実施形態においては、電動モータ70(図5参照)はサーボモータにより構成され、回転駆動装置を構成している。サーボモータは回転角度の正確な制御が可能な回転電動モータであり、電動モータ70には作動量ないし作動位置検出装置としてのエンコーダ72(図5参照)が設けられ、スライダ58の位置がエンコーダ72の検出信号に基づいて得られるようにされている。サーボモータに代えてステップモータを用いてもよい。
【0027】
上記スライダ58に前記ショルダアンカ24が取り付けられており、スライダ58の昇降によりショルダアンカ24が上下方向の任意の位置へ移動させられる。スクリュ60とナット66,68とのうち、保持プレート54に保持されない側のものにショルダアンカ24が接続されているのである。ショルダアンカ24の移動は、ショルダアンカ24により保持された一対のシュー78,80(図4参照)を介して一対のレール56により案内される。ショルダアンカ24には取付部としての雄ねじ部82が設けられており、雄ねじ部82を利用して前記フック26が取り付けられるとともに前記ウェビング12が通され、ショルダベルト36がショルダアンカ24により乗員の肩の近傍で車体に対して固定とされる。
【0028】
シートベルト10が乗員により着用され、ウェビング12が乗員を拘束する状態においてショルダアンカ24およびスライダ58を介してスクリュ60に加えられる荷重は、スクリュ60を支持する前記ブラケット62,64を介して保持プレート54により受けられる。ブラケット62,64はそれぞれ、その保持プレート54に固定された側の端部とは反対側の端部において保持プレート54に形成された係合部としての開口86,88(図3参照)に嵌入させられるとともに、開口86,88の下側の端面にそれぞれ当接させられており、保持プレート54に荷重を伝達する。上側の開口86の下側の端面は、外側ほど、すなわちスクリュ60から離れるほど上方へ傾斜させられた傾斜面とされており、ブラケット62は、開口86の下側の端面の最も外側の部分に当接し、荷重を加える。
【0029】
上記ブラケット62には、図3に示すように、その上下方向に延びる部分に歪ゲージ90が取り付けられ、ウェビング12に作用する張力を検出する張力検出装置92を構成している。後述するように、前記ELR14によりウェビング12の引出しが阻止された状態でショルダアンカ24が上方へ移動させられ、ウェビング12が引き締められれば、その張力が増大し、スクリュ60からブラケット62に加えられる荷重によって歪ゲージ90に歪が生じる。この歪は図示を省略するブリッジ回路により電気信号に変換されるとともに、信号処理回路を経て後述する制御装置に供給される。
【0030】
本シートベルトにおいては、前記スライダ58を乗員による手動操作に基づいて昇降させ、ショルダアンカ24の位置を調整することができるようにされている。ショルダアンカ24の上方への移動を指示する指示部材ないし操作部材としてのショルダアンカ上昇指示スイッチ94(図5参照)あるいはショルダアンカ24の下方への移動を指示する指示部材ないし操作部材としてのショルダアンカ下降指示スイッチ96を乗員が操作することにより、電動モータ70が指示に基づく方向および量、回転させられ、スライダ58が昇降させられてショルダアンカ24が昇降させられる。ショルダアンカ24の上下方向の位置が変えられれば、ウェビング12のショルダアンカ24によって車体に係止される部分の上下方向の位置が変えられ、その通過経路が変えられる。そのため、乗員は、ショルダアンカ24を移動させ、自身の体格に応じた位置へウェビング12を移動させることができる。
【0031】
乗員のスイッチ操作に基づいて得られたショルダアンカ24の位置は、後述するコンピュータのRAMに設けられたショルダアンカ位置記憶部としてのショルダアンカ位置メモリに記憶される。この位置は、本実施形態においては電動モータ70の累積回転角(回転位置)を検出するエンコーダ72のカウント値によって記憶される。
【0032】
一旦、調整されたショルダアンカ24の位置であって、ショルダアンカ位置メモリに記憶された位置は、車両の電源が落とされてもバックアップされて残される。そのため、乗員が、ショルダアンカ位置選択部材ないしショルダアンカ位置設定部材としてのショルダアンカ位置選択スイッチ98(図5参照)を操作することにより、ショルダアンカ24はショルダアンカ位置メモリに記憶された位置へ移動させられる。複数の位置が記憶されていれば、乗員はショルダアンカ位置選択スイッチを複数回、操作することにより、ショルダアンカ24が複数の位置へ順次移動させられる。ショルダアンカ24が記憶された位置へ移動させられた状態においてウェビング12が自身の体に合わないのであれば、乗員はショルダアンカ上昇指示スイッチ94あるいはショルダアンカ下降指示スイッチ96を操作してショルダアンカ24を自身の体格に合った位置へ移動させる。この移動により得られた位置もショルダアンカ位置メモリに記憶される。また、車両の電源がOFFにされるとき、エンコーダ72のカウント値がRAMに記憶されるとともにバックアップされ、車両電源OFF時におけるショルダアンカ24の位置が記憶される。
【0033】
本シートベルトは、図5に示す制御装置110によって制御される。制御装置110は、CPU112,ROM114,RAM116およびそれらを接続するバス118を備えるコンピュータ120を主体として構成されている。バス118にはさらに、入出力インタフェース122が接続されている。入出力インタフェース122には、前記衝突時巻取機40,構電動モータ70が駆動回路124を介して接続されている。
【0034】
入出力インタフェース122には、さらに、前記エンコーダ72,張力検出装置92,ショルダアンカ上昇指示スイッチ94,ショルダアンカ下降指示スイッチ96,ショルダアンカ位置選択スイッチ98が接続されるとともに、衝突検知装置126および衝突予知装置128が接続されている。これら衝突検知装置126および衝突予知装置128は、例えば、特開2002−104131号公報等に記載されているように、既によく知られており、詳細な図示および説明は省略するが、衝突検知装置126は、例えば、車両の減速度を検出する減速度センサを備え、衝突時の減速度に基づいて車両が対象物に衝突したことを検知するように構成されている。例えば、減速度が設定値より大きくなった場合に衝突したとされる。また、衝突予知装置128は、車両が対象物に衝突するのに先立って、衝突を予知するように構成されており、例えば、レーザレーダあるいはミリ波レーダや画像取得装置等の周辺監視装置および車輪速センサ等の車両運動状態取得装置等を備え、各装置により得られる情報に基づいて、車両が対象物に衝突することを予知して衝突予知情報を作成するように構成されている。衝突検知装置126および衝突予知装置128は、車両の走行中一定微小時間ごとに車両が衝突する可能性があるか否かを繰り返し判定する。さらに、ROM114には、図6にフローチャートで示すウェビング緩み除去制御ルーチン等のプログラムが記憶されている。
【0035】
本シートベルトを備えた車両に乗員が乗る際には、座席30に座り、シートベルト10を着用する。その際、ウェビング12の位置が自身の体格に合わないと感ずれば、スイッチ94ないし98を操作してショルダアンカ24を移動させ、ウェビング12を自身の体格に合った位置へ移動させる。
【0036】
以下、ウェビング緩み除去制御ルーチンに基づいてウェビング12の緩み除去制御を説明する。
ウェビング緩み除去制御ルーチンは、車両の電源投入により実行され、ステップ1(以後、S1と略記する。他のステップについても同じ。)において車両の対象物、例えば、他の車両,樹木,建物等の建造物等への衝突が予知されているか否かが判定される。この判定は、衝突予知装置128による衝突予知に基づいて行われる。衝突予知装置128により、車両が衝突する可能性があると判定された場合にも、ないと判定された場合にも、衝突予知装置128からその旨を示す信号が制御装置110に伝達される。衝突が予知されていなければ、S1の判定結果はNOになってS10が実行された後、ルーチンの実行は終了する。S10については後述する。
【0037】
衝突予知装置128により車両の対象物への衝突が予知されれば、S1の判定結果がYESになってS2が実行され、フラグFが1にセットされているか否かが判定される。フラグFがセットされていなければ、S2の判定結果がNOになってS3が実行され、ショルダアンカ24の移動指令が出される。それにより電動モータ70に電流が供給され、図2に矢印で示すように、ショルダアンカ24が上方へ移動させられ、ショルダベルト36が図2に矢印で示すように引き上げられる。電動モータ70への電流供給は、ショルダアンカ24の移動によりウェビング12がシャフトから引き出される際の加速度が設定値以上となり、ELR14においてロック機構が作動し、ウェビング12の引き出しが阻止された状態となるように行われる。なお、ロック機構を、電気的に作動させられ、ウェビングの引き出しを強制的に阻止する機能を有する機構とし、衝突予知に基づいてロック機構を作動させ、ウェビングの引き出しを阻止させるようにしてもよい。ロック機構は、例えば、ウェビング12を巻き取るシャフトの外周面に歯を設け、電磁アクチュエータとしてのソレノイドの励磁によって爪部材を歯から抜け出させることによりロックを解除し、ソレノイドの消磁により付勢手段としてのスプリングによって爪部材を歯に噛み合わせてシャフトの回転を阻止し、ロック状態とする機構とされる。これら歯および爪部材は、シャフトのウェビング巻取方向の回転は許容する。
【0038】
次いでS4が実行され、ウェビング12の張力が設定値以上になったか否かが判定される。S4の判定は前記張力検出装置92からの検出信号に基づいて行われ、ウェビング12の張力が設定値より小さいのであれば、S4の判定結果がNOになり、S5がスキップされてS6が実行され、車両が対象物に衝突したか否かの判定が行われる。この判定は、衝突検知装置126からの検知信号に基づいて行われ、衝突していなければ、S6の判定結果がNOになってS7が実行され、タイマのリセット後、S6の判定結果が初めてNOになってから設定時間が経過したか否かが判定される。S7では、衝突が予知されていない状態において衝突が予知されるとともに、初めてS6の判定が行われて衝突が検知されていないとされてからの時間がコンピュータ120に設けられたタイマによりカウントされ、衝突が予知はされるが検知されない状態が設定時間以上継続しているか否かが判定される。この判定は、設定時間が経過するまでNOであり、本ルーチンの1回の実行が終了する。
【0039】
上記設定時間は、本実施形態においては、平均的な体格の乗員が普通にシートベルト10を着用した状態において、ショルダアンカ24の移動によりウェビング12の張力が設定値以上となった後にS7の判定結果がYESになる時間に設定されており、衝突予知後、衝突が検知される前にウェビング12の張力が設定値以上になれば、S4の判定結果がYESになってS5が実行され、フラグFがセットされる。フラグFはセットにより、ショルダアンカ24の移動によってウェビング12の張力が設定値以上になったことを記憶する。ショルダアンカ24は、ELR14のロック機構が作動するように上方へ移動させられるため、ロック機構の作動後は、ショルダアンカ24が上方へ移動させられる際にウェビング12がELR14から引き出されることがなく、ウェビング12が効果的に引き締められ、緩みが除去される。このようにウェビング12の緩みは、ELR14に巻き取られることなく除去される。また、ショルダベルト36の通過経路が上がり、乗員の体の上の方の部分が拘束されることとなり、上下方向における拘束範囲が増大し、乗員が効果的に拘束される。なお、S7の判定に用いられる設定時間は、例えば、乗員がシートベルト10をウェビング12の緩みが比較的多い状態で着用している状態を想定して設定してもよい。
【0040】
フラグFがセットされることにより、次にS2が実行されるとき、その判定結果がYESになってS3ないしS5がスキップされてS6が実行される。そのため、電動モータ70へは電流が供給されず、ショルダアンカ24はS4の判定結果がYESになった状態での位置に停止させられる。ウェビング12の張力を検出し、設定値と比較することにより、ショルダアンカ移動装置50によるショルダアンカ24の駆動力の上限が規定され、ウェビング12による乗員の拘束力が制限されるのである。
【0041】
その後、衝突が検知されれば、S6の判定結果がYESになってS11が実行され、衝突時巻取機構40の作動指令が出力されてウェビング12の巻取りが行われる。衝突予知に基づき、衝突に先立ってショルダアンカ24が上方へ移動させられ、ウェビング12が引き締められて緩みが除去されており、車両が対象物に衝突した際に乗員が良好に拘束されるとともに、衝突時巻取機構40によるウェビング12の巻取りにより乗員がより適切に拘束される。
【0042】
ショルダアンカ24が、ウェビング12の張力が設定値以上となる位置まで移動させられる前に車両が対象物に衝突すれば、S4の判定結果がYESになることなくS6の判定結果がYESになってS11が実行される。この場合でも衝突予知に基づいてショルダアンカ24が上方へ移動させられた分、ウェビング12の緩みが除去されており、拘束機能向上の効果が得られる。
【0043】
衝突が予知されたが、車両が対象物に衝突しなかった場合には、S6の判定結果がYESになることなく、設定時間が経過してS7の判定結果がYESになる。そのため、S8においてショルダアンカ24の初期位置への復帰が指令される。初期位置は、衝突が予知されていない状態において衝突が予知された際のショルダアンカ24の位置であって、緩み除去開始前位置ないし緩み除去開始時位置であり、本実施形態においてはエンコーダ72のカウント値により得られ、ショルダアンカ移動指令に基づいて、あるいは衝突予知に基づいて、RAM116のアンカ初期位置記憶部としてのショルダアンカ初期位置メモリに記憶させられる。初期位置への復帰指令に基づいて電動モータ70がショルダアンカ24を下方へ移動させる向きに回転させられ、ショルダアンカ24が下降させられる。
【0044】
そして、S9においてショルダアンカ24が初期位置へ復帰したか否かが判定される。この判定結果はショルダアンカ24が初期位置へ復帰するまでNOである。ショルダアンカ24が初期位置へ復帰すれば、S9の判定結果がYESになってS10が実行され、フラグFがリセットされるとともに、S7において設定時間を計測するタイマがリセットされる。このように衝突が予知されたものの衝突が検知されなかった場合には、ショルダアンカ移動装置50が元の状態に復帰させられ、ショルダアンカ24がウェビング12の緩み除去前の位置へ復帰させられる。ウェビング12は、ELR14の巻取機構を構成するばね部材の付勢,ショルダアンカ24の位置および乗員の体格に応じた状態に戻され、拘束力の大きさも緩み除去前の大きさに戻される。そのため、衝突が生じなかったにもかかわらず、ウェビング12の緩みが除去され、拘束力が大きい状態に保たれて乗員に不快感や違和感を与えることが回避される。なお、ショルダアンカ24が初期位置へ復帰させられ、ウェビング12が緩められれば、ELR14によるウェビング12の引出しのロックが解除され、乗員はウェビング12を引き出すことができる。
【0045】
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、制御装置110の、衝突が予知された際のショルダアンカ24の位置である初期位置をメモリに記憶させる部分およびショルダアンカ初期位置メモリが初期位置取得部ないし初期位置規定部を構成し、制御装置110のS8を実行する部分が復帰制御部を構成している。また、制御装置110のショルダアンカ上昇指示スイッチ94等の操作に基づいてショルダアンカ移動装置50を制御する部分が位置調整制御装置を構成し、ショルダアンカ移動装置50,スイッチ94,96,98と共に位置調整装置を構成している。また、制御装置110のS4を実行する部分が張力検出装置92と共にフォースリミッタを構成している。ウェビング12の張力は、ウェビング12の乗員を拘束する拘束力と対応しており、張力検出装置92は拘束力関連量取得装置を構成し、ウェビング12の緩みの除去,それにより増大させられる拘束力の制御に用いられる。
【0046】
なお、衝突が予知されたが、車両が対象物に衝突せず、ショルダアンカ24が初期位置へ復帰させられる際に、初期位置に到達する前に衝突予知が解除された場合、更にショルダアンカ24が下降させられて初期位置へ到達するようにしてもよい。また、衝突予知が解除された後に、ショルダアンカ24を初期位置へ復帰させるようにしてもよい。
【0047】
本発明の別の実施形態であるシートベルト150を図7ないし図10に基づいて説明する。
本シートベルト150も連続三点式シートベルトであるが、ラップインナアンカ152が上下方向に移動可能に設けられ、ラップアンカ移動装置154により移動させられてウェビング156が引き締められるようにされている。
【0048】
ラップインナアンカ152は横断面形状が円形を成し、上下方向に配設されるとともに、その上部にバックル158が一体的に設けられ、下端部に雌ねじ穴160が設けられている。ラップインナアンカ152の雌ねじ穴160が設けられた部分が雌ねじ部材を構成している。バックル158にはタングプレート162が係合させられ、ラップインナアンカ152によりタングプレート162が車体に対して固定とされる。ウェビング156のタングプレート162とショルダアンカ(図示省略)との間の部分がショルダベルト164として機能し、タングプレート162とラップアウタアンカ(図示省略)との間の部分がラップベルト166として機能する。
【0049】
ラップインナアンカ152は、車体に位置を固定して上下方向に延びる姿勢で設けられた保持部材としてのケーシング170に回転不能かつ軸方向に移動可能に嵌合されている。ラップインナアンカ152の外周面には、図7および図8に示すように、その軸方向に延びる状態で複数の係合部としての係合突起172が設けられるとともに、ケーシング170内に軸方向に平行に設けられた複数の被係合部としての係合凹部174に嵌合され、それら係合突起172および係合凹部174を含む回転阻止装置によってラップインナアンカ152の回転が阻止されているのである。なお、ケーシング170は複数の部材が互いに組み付けられて構成されている。
【0050】
ケーシング170内には、雄ねじ部材としてのスクリュ178およびスクリュ178を回転させる回転駆動装置180が収容され、スクリュ178はラップインナアンカ152の雌ねじ穴160に螺合されている。回転駆動装置180は、動力駆動源としての電動モータ182,電動モータ182の回転をスクリュ178に伝達する回転伝達装置184を含む。回転伝達装置184は、図7および図9に示すように、電動モータ182により回転させられる駆動歯車186,駆動歯車186に噛み合わされた複数、例えば、3個の遊星歯車188およびそれら遊星歯車188と噛み合わされた内歯車190を含む。遊星歯車188は位置を固定し、自身の軸線まわりに回転可能に設けられ、内歯車190はスクリュ178と一体的に設けられ、回転可能に設けられており、電動モータ182の回転が減速されてスクリュ178に伝達される。回転伝達装置184は減速機能を備えているのである。
【0051】
スクリュ178はケーシング170により軸受192を介して回転可能に支持されるとともに軸方向の移動を阻止されており、スクリュ178が電動モータ182によって回転させられることにより、ラップインナアンカ152が軸方向に移動させられ、昇降させられる。ラップインナアンカ152のウェビング156を緩める方向の移動は、ケーシング170の上端部に設けられた内向きのフランジ部194に係合突起172が当接することにより規制される。この際のラップインナアンカ152の位置が初期位置である。
【0052】
本シートベルト150においては、ELR(図示省略)が動力巻取機構を備えており、動力駆動源としての電動モータ200(図10参照)によってウェビング156を巻き取ることができるようにされている。ELRのロック機構は、作動状態においてウェビング156の引出しは阻止するが、動力巻取機構によるウェビング156の巻取りは許容するように構成されている。また、動力巻取機構は、非作動時であって、電動モータ200に電流が供給されない状態では、ウェビング156の引出しおよびばね部材によるウェビング156の巻取りを許容する構成とされている。
【0053】
本シートベルト150を制御する制御装置210を図10に示す。制御装置210は、前記制御装置110と同様にコンピュータ212を主体として構成されており、同じ作用をなす構成要素には同じ符号を付して対応関係を示し、説明を省略する。本制御装置210により、電動モータ182,200が制御される。また、電動モータ182,200への供給電流量を検出する電流検出装置214,216が接続され、コンピュータ212のROM114には、図示は省略するが、ウェビング緩み除去制御ルーチンが記憶されている。
【0054】
本シートベルト150を備えた車両においては、乗員が搭乗し、座席に座ってシートベルト150を着用するときには、ラップインナアンカ152は初期位置に位置する。そして、衝突予知装置128によって車両の対象物への衝突が予知されれば、まず、ELRの電動モータ200が起動され、ウェビング156がシャフトに巻き取られ、引き締められる。電動モータ200への供給電流が設定値以上になれば、電流供給が停止され、ウェビング156の巻取りが停止させられる。
【0055】
次いで、電動モータ182に電流が供給され、ラップインナアンカ152がラップアンカ移動装置154によって下降させられ、ショルダベルト164およびラップベルト166を引き締める向きに移動させられる。電動モータ182への電流供給は、ラップインナアンカ152の移動によりウェビング156が、ELRのロック機構がロック状態となる加速度で引き出されるように行われる。そのため、巻き取られたウェビング156が少量、引き出されることとなるが、ロック状態が得られるまでであり、ラップインナアンカ152は、電動モータ182への供給電流が設定値以上になるまで移動させられるが、ウェビング156が引き締められ、ショルダベルト164およびラップベルト166の緩みが除去される。
【0056】
ウェビング156が引き締められるに従ってウェビング156に作用する張力が増大し、引締めに要する供給電流が増大する。電動モータ182への供給電流は張力に一義的に対応しており、供給電流の検出に基づいてラップインナアンカ152を適切な拘束力が得られる位置へ移動させることができる。その後、電動モータ182への電流供給が停止されるが、互いに螺合されたスクリュ178と雌ねじ穴160を有するラップインナアンカ152とが相対回転することはなく、ウェビング156は緩みが除去された状態に保たれる。
【0057】
ラップインナアンカ152の移動によるウェビング156の引締め時にELRのロック機構がロック状態とされており、ウェビング156が引き出されることがなく、緩みが除去された状態に保たれる。電動モータ182,200への各供給電流の上限は、ラップインナアンカ152の移動によるウェビング156の引締めと電動モータ200の作動によるウェビング156の巻取りとの両方が行われることを考慮し、それらが行われた状態においてウェビング156の緩みが除去されるとともに、適切な拘束力が得られる大きさに設定されている。
【0058】
このように本シートベルト150においては、ラップインナアンカ152の移動と、ELRによるウェビング156の巻取りとの両方によってウェビング156の緩みが除去されるため、ウェビング156が無理なく引き締められる。ウェビング156の、比較的長くかつショルダアンカの位置で屈曲させられてショルダベルト164を構成している部分は両端で引き締められ、比較的短いラップベルト166を構成している部分は一端で引き締められるのであり、それによって、ウェビング156全体の緩みが無理なく除去されるのである。また、ラップアンカ移動装置154において電動モータ182の回転は回転伝達装置184により減速されてスクリュ178に伝達されるため、ラップインナアンカ152をショルダベルト164,ラップベルト166を引き締める向きに移動させるのに十分な駆動力が得られるとともに、移動速度を容易に制御することができる。
【0059】
なお、ラップインナアンカ152の移動によるウェビング156の引締めと、ウェビング156の巻取りによる引締めとを同時に行ってもよい。この場合、ウェビング156の引締めによってELRのロック機構がロック状態とされることがないのであれば、ウェビング巻取り用の電動モータ200に巻取り後、保持電流を供給し、ウェビング156が巻き取られ、緩みが除去された状態に保たれるようにする。あるいは、ラップインナアンカ152の移動によるウェビング156の引締めを先に行うようにしてもよい。この場合、ELRにおけるウェビング156の巻取りにより、ロック機構のロック状態が解除されるのであれば、例えば、電動モータ200に保持電流を供給したり、ロック機構を、衝突予知に基づいて電気的に作動させられ、強制的にウェビング156の引出しを阻止するものとしたりすればよい。
【0060】
衝突が予知されたが、車両が対象物に衝突しなかった場合には、ラップアンカ152が初期位置へ復帰させられ、ラップアンカ移動装置154が元の状態に復帰させられて拘束力が減少させられる。ラップインナアンカ152はラップアンカ移動装置154により、ウェビング156の引締め時とは逆向きに移動させられ、係合突起172がフランジ部194に当接するまで移動させられるのであるが、この初期位置への復帰は、ラップインナアンカ152が止まり、電動モータ182への供給電流量が増大することにより検出される。ELRの電動モータ200をウェビング156の巻取り方向とは逆向きに回転させても、ウェビング156が強制的に送り出されることはなく、除去された緩みは戻されないが、ラップインナアンカ152の初期位置への復帰によりロック機構によるロックが解除され、乗員はウェビング156を引き出して緩めることができる。
【0061】
本実施形態においては、電流検出装置214,216が拘束力関連量検出装置を構成し、制御装置210の電流検出装置214,216の検出値に基づいて電動モータ182,200への電流供給を制御する部分がフォースリミッタを構成している。また、フランジ部194が初期位置規定部としてのストッパを構成している。
【0062】
本発明の更に別の実施形態を図11および図12に基づいて説明する。
本シートベルト250は、ウェビング252の途中の部分に屈曲部を生じさせる屈曲装置254を備えている。本シートベルト250も連続三点式シートベルトとされているが、ELR(図示省略),ウェビング252のELRとショルダアンカ(図示省略)との間の部分および屈曲装置254はセンタピラー256内に設けられ、屈曲装置254は、ウェビング252のショルダアンカとELRとの間の部分に屈曲部を生じさせる。なお、ELRは、本実施形態においては、動力巻取機構を備えないものとされている。
【0063】
屈曲装置254は、図11に示すように、固定ガイド部材としての2つの固定ガイドローラ260,262と、可動ガイド部材としての1個の可動ガイドローラ264と、ガイド部材移動装置としての可動ガイドローラ回動装置266とを含む。ウェビング252は、ELRとショルダアンカとの間の部分においてセンタピラー256に沿ってほぼ上下方向に配設され、2つの固定ガイドローラ260,262は、ウェビング252に対して、その拘束面と直角に交差する方向の一方の側において、ウェビング252の通過経路に沿って、その通過経路の長手方向に互いに隔たった位置に回転可能に配設されている。
【0064】
可動ガイドローラ264は、回動部材268のアーム部270に保持されている。回動部材268は、固定ガイドローラ260,262の回転軸線と平行な回動軸線まわりに回動可能に設けられており、その回動軸線から一方の側へ延び出させられたアーム部270の自由端部に、可動ガイドローラ264が回動部材268の回動軸線と平行な軸線まわりに回転可能に保持されるとともに、ウェビング252の通過経路の長手方向において2つの固定ガイドローラ260,262の中間位置に配設され、回動部材268の回動により、ウェビング252の通過経路とほぼ直角に交差する方向に移動可能である。
【0065】
回動部材268にはウォームホイール272が一体的に設けられ、回動部材268と一体的に回動する。回動部材268のアーム部270とは反対側の部分には扇形部274が設けられるとともに、回動部材268の回動軸線を中心とする一円周に沿って歯が形成され、ウォームホイール272が設けられているのである。ウォームホイール272はウォーム276と噛み合わされている。ウォーム276は動力駆動源としての電動モータ278によって回転させられる。それにより、ウォームホイール272が回転させられるとともに、回動部材268が回動させられて可動ガイドローラ264がウェビング252の通過経路とほぼ直角に交差する方向に移動させられ、図11に実線で示すように、上下方向にほぼ直線状に延びるウェビング252に接触するが、ウェビング252を屈曲させない非作用位置と、二点鎖線で示すように、ウェビング252を屈曲させ、2つの固定ガイドローラ260,262の間の部分に屈曲部280を生じさせる作用位置とに移動させられる。
【0066】
アーム部270は、本実施形態においては、可動ガイドローラ264にウェビング252により加えられる反力が上限に達した場合に塑性変形により湾曲するものとされている。また、アーム部270には歪ゲージ286が設けられて張力検出装置を構成し、ウェビング252に作用する張力が検出されるようにされている。本シートベルト250は、図示は省略するが、コンピュータを主体とする制御装置により制御される。
【0067】
本シートベルト250を備えた車両に乗員が乗るとき、可動ガイドローラ264は非作用位置に位置し、屈曲部280は形成されていない。そして、車両の対象物への衝突が予知されたならば、電動モータ278が起動され、回動部材268が、可動ガイドローラ264が作用位置へ移動する向きに回動させられる。この際、回動部材268は、ELRのロック機構がウェビング252の引出しを阻止する状態となる加速度で回動させられる。可動ガイドローラ264の作用位置への移動により屈曲部280が生じさせられるとともに、ウェビング252の屈曲部280に属する部分が長くされる。この屈曲部280の長大化は、ウェビング252の長手方向において、屈曲部280が生じさせられた部分よりショルダアンカ側の部分が強制的に屈曲部280側へ移動させられることにより許容される。ELRのロック機構が作動状態とされてウェビング252の引出しが阻止されており、ウェビング252の屈曲部280に属する部分以外の部分が引き締められ、緩みが除去される。
【0068】
ウェビング252の屈曲部280に属する部分が長くなるほど、ウェビング252に作用する張力が増大する。歪ゲージ286を含んで構成される張力検出装置により検出されるウェビング252の張力が設定値以上になったならば、可動ガイドローラ264の移動が停止させられる。張力検出装置および制御装置の、張力検出装置により検出される張力に基づいて可動ガイドローラ264の移動を停止させる部分が、衝突予知時における可動ガイドローラ264の駆動力の上限を規制するフォースリミッタを構成している。
【0069】
この状態で車両が対象物に衝突したならば、乗員からウェビング252に、ウェビング252を引っ張る力が作用するとともに、可動ガイドローラ264にウェビング252により加えられる反力が増大する。この反力が上限に達した場合、図12に示すように、アーム部270が塑性変形により湾曲し、拘束力が過大になることが回避される。この場合、アーム部270の塑性変形によって可動ガイドローラ264の移動が許容され、その分、屈曲部280が短くなり、ウェビング252に緩みが与えられることとなるが、乗員に作用する拘束力が増大し続けることが回避される。また、アーム部270が塑性変形することにより、乗員に作用する運動エネルギが吸収され、衝撃が緩和される。本実施形態においてはアーム部270が、車両衝突時において可動ガイドローラ264の駆動力の上限を規制するフォースリミッタを構成している。
【0070】
車両の衝突が予知されたが、車両が対象物に衝突しなかった場合には、回動部材268が逆方向に回動させられ、可動ガイドローラ264が作用位置から非作用位置へ復帰させられる。可動ガイドローラ264の非作用位置であって、初期位置への復帰は、例えば、張力検出装置により検出される張力が回動部材268の作用位置への回動前の大きさ(例えば、0)になったことにより検出されてもよく、回動部材268の回動限度を規定するストッパを設けるとともに、電動モータ278への供給電流を検出する電流検出装置を設け、供給電流の増大により検出されてもよく、あるいは光電センサ,近接センサ,リミットスイッチ等の検出装置により検出されてもよい。
【0071】
なお、アーム部は弾性変形するものとしてもよい。この場合、回動部材は、アーム部がウェビングからの反力によって弾性変形させられつつ回動させられる。屈曲部を生じさせる際には、回動部材が非作用位置に位置する状態から電動モータが予め設定された量回転させられる。回動部材の回動により、アーム部がウェビングからの反力によって弾性変形させられつつ、可動ガイドローラが移動する。ウェビングの緩み量が少なくなるほど、すなわちウェビングの屈曲していない部分の張力が大きくなるほど、また、ウェビングの屈曲部の屈曲角度が大きくなるほど、ウェビングにより可動ガイドローラに加えられる反力が大きくなり、アーム部が大きく弾性変形させられ、ウェビングが過度に引き締められることが回避される。さらに、屈曲装置がウェビングに屈曲部を生じさせた状態において、車両衝突等によってウェビングに作用する張力が増大すれば、アーム部がさらに弾性変形させられ、ウェビングの拘束力が過大になることが回避される。
【0072】
ウェビングを屈曲させてその緩みを除去する場合、可動ガイド部材を上下方向に移動させてもよく、可動ガイド部材をウェビングに屈曲部を設ける方向に引っ張ってもよい。また、可動ガイド部材移動装置は、可動ガイド部材を直線移動させる装置としてもよい。それらの実施形態を図13に基づいて説明する。
【0073】
本シートベルト300においても、屈曲装置302はセンタピラー内部に設けられており、2つの固定ガイド部材としての固定ガイドローラ304,306,1つの可動ガイド部材としての可動ガイドローラ308および可動ガイド部材移動装置としての可動ガイドローラ移動装置(図示省略)を含んでいる。
【0074】
2つの固定ガイドローラ304,306は、ウェビング310の上下方向に沿った通過経路の長手方向、すなわち上下方向においても、長手方向と交差する方向、すなわち水平方向においても隔たった位置にそれぞれ互いに平行な軸線まわりに回転可能に設けられている。また、上側に位置する固定ガイドローラ304の上に別の案内部材としてのガイドローラ312が位置を固定し、回転可能に設けられており、固定ガイドローラ304とガイドローラ312との間を通り、固定ガイドローラ306に案内されたウェビング310の下側に固定ガイドローラ304,306が位置する。可動ガイドローラ308は、2つの固定ガイドローラ304,306の中間位置であって、ウェビング310の上側に昇降可能に設けられ、固定ガイドローラ304,306の間において傾斜して配設されたウェビング310の通過経路と交差する方向に移動可能に設けられている。可動ガイドローラ移動装置は、図示は省略するが、電動モータを動力駆動源とし、可動ガイドローラ308を上下方向に直線移動させるように構成されている。
【0075】
本シートベルト300においては、車両の衝突が予知された場合、可動ガイドローラ移動装置の電動モータが起動され、図13に二点鎖線で示すように、可動ガイドローラ308が下方へ移動させられて、ウェビング310の固定ガイドローラ304,306の間の部分が下方へ屈曲させられて屈曲部314が形成される。可動ガイドローラ308は、ELRのロック機構がロック状態となる加速度でウェビング310が移動させられるように下降させられ、ウェビング310のシャフトからの引出しが阻止された状態でウェビング310が可動ガイドローラ308と共に下方へ移動させられて屈曲部314が形成され、緩みが除去される。可動ガイドローラ308は、例えば、ウェビング310に作用する張力が設定値以上になるまで下降させられる。電動モータへの供給電流量が設定値以上になるまで下降させられてもよい。
【0076】
また、図示は省略するが、フォースリミッタが設けられ、車両の衝突予知時における可動ガイドローラ308の移動によるウェビング310の引き締めにより、拘束力が過大になることがないようにされており、また、車両の衝突によりウェビング310から可動ガイドローラ308に作用する反力が上限に達すれば、可動ガイドローラ308によるウェビング310の引き締めが緩められるようにされている。フォースリミッタは、例えば、ウェビング310に作用する張力を検出し、その張力が設定値以上にならないように可動ガイドローラ308の移動を制御する等、種々の態様で構成される。さらに、衝突が予知されたが、車両が対象物に衝突しなかった場合には、可動ガイドローラ308はウェビング引締め前の位置である初期位置へ復帰させられる。初期位置は、前記実施形態と同様に、種々の態様で得られる。可動ガイドローラ308の初期位置への復帰は、ウェビング310に作用するELRの巻取機構のばね部材の付勢力(巻取力)によって為されるようにしてもよい。可動ガイドローラ308は可動ガイドローラ移動装置によって初期位置へ復帰させ、ウェビング310が上記巻取力によって可動ガイドローラ308に追従して戻るようにしてもよい。
【0077】
なお、前記実施形態においてフォースリミッタは、ウェビングに作用する張力や電動モータへの供給電流量に基づいてアンカの駆動力を制限する構成とされていたが、それらに限らず、例えば、ELRに設けられるフォースリミッタと同様に、ウェビングに加えられる張力により、抵抗付与部材としてのワイヤを変形させてウェビングの引き出しに抵抗を加え、やがてはウェビングが引き出されないようにされる構成としてもよい。
【0078】
また、本発明は、上記各実施形態の各特徴を互いに組み合わせた態様で実施することができる。例えば、ラップアンカ以外のアンカを移動させてウェビングの緩みを除去する場合あるいはウェビングに屈曲部を設けて緩みを除去する場合に、ELRに動力巻取機構を設け、アンカの移動によるウェビングの引締めとウェビングの巻取りによる引締めとの両方が行われるようにしてもよい。ラップアンカを移動させてウェビングの緩みを除去する場合、ELRに動力巻取機構を設けず、ウェビングの巻取りによる緩みの除去は行わないようにしてもよい。
【0079】
また、ラップアンカを移動させてウェビングを引き締める場合、ウェビングの張力に基づいてアンカの駆動力の上限を規定してもよく、あるいはショルダアンカの移動によるウェビングの引締め時、屈曲部の形成によるウェビングの引締め時に、アンカ移動装置の動力駆動源を構成する電動モータ、ガイド部材移動装置の動力駆動源を構成する電動モータへの供給電流量に基づいてアンカや可動ガイド部材の駆動力の上限を規定してもよい。
【0080】
さらに、シートベルトを構成する複数のアンカのうちの複数を移動させてウェビングの緩みを除去するようにしてもよく、ELRに動力巻取機構を設け、それも含めてウェビングの引き締めを複数箇所、例えば、3箇所以上において行うようにしてもよい。また、ウェビングに屈曲部を設けて緩みを除去する機能と、アンカの移動による緩み除去機能と、ELRの動力巻取機構によるウェビング巻取機能とのうちの少なくとも2つを組み合わせて緩み除去装置を構成してもよい。
【0081】
さらに、アンカを移動させてウェビングの緩みを除去する場合、アンカを予め設定された距離、移動させるようにしてもよい。アンカの移動距離は、一定でもよく、アンカの初期位置に応じて段階的に、あるいは連続的に設定されてもよい。
【0082】
また、アンカ移動装置や屈曲装置の動力駆動源は、電動モータの他に、例えば、流体圧アクチュエータの一種である流体圧シリンダとしてのエアシリンダにより構成してもよい。
【0083】
さらに、車両衝突時に緩み除去装置が作動させられてウェビングの緩みが除去されるようにしてもよい。
【0084】
また、図示は省略するが、シートベルトを、ウェビングの他端を車体に対して固定とするアンカをウェビングを引き締める向きに移動させるウェビング端アンカ移動装置を含むものとしてもよい。
【0085】
さらに、図示は省略するが、シートベルトを、ロック式巻取装置を車体に対して固定とする巻取装置アンカを、ウェビングを引き締める向きに移動させる巻取装置アンカ移動装置を含むものとしてもよい。この巻取装置アンカ移動装置および上記ウェビング端アンカ移動装置は、例えば、前記ショルダアンカ移動装置50やラップアンカ移動装置154と同様に構成することができる。
【0086】
以上、本発明のいくつかの実施形態を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、本発明は、前記〔発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態であるシートベルトを備えた車両の内部を概略的に示す斜視図である。
【図2】図1に示すシートベルトを乗員が着用した状態を示す正面図である。
【図3】上記シートベルトのショルダアンカおよびショルダアンカ移動装置を示す正面断面図である。
【図4】上記ショルダアンカおよびショルダアンカ移動装置を示す平面断面図である。
【図5】上記シートベルトを制御する制御装置のうち本発明に関連の深い部分を概略的に示すブロック図である。
【図6】上記制御装置の主体を為すコンピュータのROMに記憶されたウェビング緩み除去制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】本発明の別の実施形態であるシートベルトのラップインナアンカおよびラップアンカ移動装置を示す正面図(一部断面)である。
【図8】図7に示すラップインナアンカの回転を阻止する回転阻止装置を示す斜視図である。
【図9】図7に示すラップアンカ移動装置の回転伝達装置を示す底面図である。
【図10】図7に示すラップインナアンカ等を有するシートベルトを制御する制御装置のうち本発明に関連の深い部分をを概略的に示すブロック図である。
【図11】本発明の更に別の実施形態であるシートベルトの屈曲装置を概略的に示す正面図である。
【図12】図11に示す屈曲装置によりウェビングに屈曲部が形成されるとともに、ウェビングからの反力によってアーム部が塑性変形させられた状態を概略的に示す正面図である。
【図13】本発明の更に別の実施形態であるシートベルトの屈曲装置を概略的に示す正面図である。
【符号の説明】
10:シートベルト 12:ウェビング 14:緊急ロック式巻取装置
24:ショルダアンカ 50:ショルダアンカ移動装置 54:保持プレート 60:スクリュ 66,68:ナット 70:電動モータ 92:張力検出装置 110:制御装置 128:衝突予知装置 150:シートベルト 152:ラップインナアンカ 154:ラップアンカ移動装置
156:ウェビング 158:バックル 160:雌ねじ穴 162:タングプレート 164:ショルダベルト 166:ラップベルト 170:ケーシング 178:スクリュ 180:回転駆動装置 182:電動モータ 210:制御装置 214,216:電流検出装置 250:シートベルト 252:ウェビング 254:屈曲装置 260,262:固定ガイドローラ 264:可動ガイドローラ 266:可動ガイドローラ回動装置 268:回動部材 270:アーム部 272:ウォームホイール 276:ウォーム 278:電動モータ 280:屈曲部
300:シートベルト 302:屈曲装置 304,306:固定ガイドローラ 308:可動ガイドローラ 310:ウェビング 314:屈曲部
Claims (8)
- 一端がロック式巻取装置に接続され、他端が車体に対して固定とされたウェビングと、
そのウェビングを前記ロック式巻取装置に巻き取ることなくそのウェビングの緩みを除去する緩み除去装置と
を含み、前記ウェビングにより乗員を拘束するシートベルトであって、
当該シートベルトが設けられた車両が対象物と衝突することを予知して衝突予知情報を作成する衝突予知装置と、
その衝突予知情報に応じて前記緩み除去装置を作動させ、前記ウェビングを引き締めさせてそのウェビングによる乗員の拘束を強める一方、前記衝突予知装置による前記衝突予知情報の作成にもかかわらず車両が衝突しなかったことが明らかになった場合に、前記緩み除去装置を元の状態に復帰させ、前記ウェビングの拘束状態を前記衝突予知情報作成前の状態に復帰させる制御装置と
を含むことを特徴とするシートベルト。 - 前記緩み除去装置が、前記ウェビングの一部を車体に対して固定とする少なくとも1つのアンカを、ウェビングを引き締める向きに移動させる少なくとも1つのアンカ移動装置を含むことを特徴とする請求項1に記載のシートベルト。
- 前記ウェビングとして、乗員の胸部を拘束するショルダベルトを含み、前記少なくとも1つのアンカとして、前記ショルダベルトを乗員の肩の近傍で車体に対して固定とするショルダアンカを含み、前記少なくとも1つのアンカ移動装置として、前記ショルダアンカの位置を前記ショルダベルトを引き締める向きに移動させるショルダアンカ移動装置を含むことを特徴とする請求項2に記載のシートベルト。
- 前記ショルダアンカの位置を前記乗員の体格に合わせるために前記ショルダアンカ移動装置を制御する位置調整制御装置を含むことを特徴とする請求項3に記載のシートベルト。
- 当該シートベルトが、乗員の胸部を拘束するショルダベルトと乗員の腰部を拘束するラップベルトとを前記ウェビングとして備えた三点式シートベルトであり、前記緩み除去装置が、乗員がその三点式シートベルトを装着するためのタングプレートとバックルとの一方を車体に対して固定とするための、前記少なくとも1つのアンカとしてのラップアンカを前記ショルダベルトおよび前記ラップベルトを引き締める向きに移動させるラップアンカ移動装置を含むことを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載のシートベルト。
- 前記少なくとも1つのアンカ移動装置が、
互いに螺合された雄ねじ部材および雌ねじ部材と、
それら雄ねじ部材と雌ねじ部材との一方を回転可能かつ軸方向に移動不能に保持する保持部材と、
動力駆動源を備え、前記雄ねじ部材と雌ねじ部材とのうち前記保持部材に保持されたものを回転駆動する回転駆動装置と
を含み、前記雄ねじ部材と雌ねじ部材とのうち前記保持部材に保持されない側のものに前記アンカが接続されたことを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載のシートベルト。 - 前記緩み除去装置が、前記ウェビングの途中の部分に屈曲部を生じさせるとともに、ウェビングのその屈曲部に属する部分を長くすることにより、ウェビングの他の部分を引き締める屈曲装置を含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のシートベルト。
- 前記少なくとも1つのアンカ移動装置による前記少なくとも1つのアンカの駆動力の上限を規制するフォースリミッタを含むことを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載のシートベルト。
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