以下、本発明にかかる高周波センサの実施の形態を図面により詳細に説明する。尚、各層の厚みやパターン寸法は説明の都合上、実際の形状とは異なる。
(第1の実施の形態)
図1を参照して、本発明にかかる高周波センサとしてのドップラーセンサの第1の実施形態を説明する。
このドップラードップラーセンサの上面図を図1(a)に、図1(a)のA−A’断面図を図1(b)に示す。
ドップラーセンサ1は、基板6と、この基板6上に形成した送信アンテナ2及び受信アンテナ3と、送信アンテナ2上に絶縁層5を介して金属層4を形成して成る1つのセンサユニット8とを備える。
なお、以下の説明では、図1(b)において基板6から絶縁層5を向かう方向、すなわち電波の放射方向に沿った方向を「上方」と呼び、この「上方」と反対の方向を「下方」と呼ぶことにする。また、この説明において、基板6の側から絶縁層5の側を見ることを「上視」と呼ぶことにする。
ここで基板6は、アルミナが主材料であるセラミック材やフッ素系の基板やガラスエポキシ材等の何れを使用しても良いが、使用する周波数が高いほど、また要求する検知性能が高い場合はセラミック材を用いた方が望ましい。
この基板6について更に説明すると、アンテナとして電波を外部に放射するには、GND(接地)との電磁結合が弱い方が良いため、基板の厚みは厚い方がよい。一般に、基板の厚み、すなわちアンテナと基板との界面からGNDのアンテナ側の界面までの距離は、0.5〜1.5mmが好ましく、0.8〜1.0mmがより好ましい。また、基板の厚みが厚くなると損失が大きくなるため、基板には誘電正接(tanδ)が0.001以下の誘電体を用いることが望ましく、前述した材料を好適に利用できる。
基板6の中間には、接地部材としてのGND(接地)層7を配置する一方で、基板6の裏側には、発振器11と、送信した電波と受信アンテナ3から受信した電波を合成して、その位相差を低周波信号に変換するミキサー12と、金属層4に電位を付与する電位付与手段10と、伝送線路(図示せず)と、裏面の全体をシールドするための金属ケース13とが設けられている。また、基板6には、その表裏を導通させる2本のスルーホールが各アンテナの端部にそれぞれ形成されており、このスルーホールを用いて給電部2aと結合部3aが設けられている。給電部2aは、発振器11の出力を送信アンテナ2に給電し、結合部3aは、受信アンテナ3で受けた電波をミキサー12に電送する。尚、基板6の内部のGND層7は、この給電部2aと結合部3aを形成するスルーホール部がGND層7に接触しないようにパターン設計されている。
以上の構成により、送信アンテナ2から電波を放出させるには、発振器11で発生した高周波の電力を図示しない伝送線路により基板内を通して給電部2aから送信アンテナ2へ供給する。これにより、その送信アンテナ2から移動体に向けて電波が放射される。その後、反射してきた電波は受信アンテナ3で受信され、この受信電波に応じた電気信号が結合部3aから基板内を通過してミキサー12に送られる。このミキサー12で送受信波の信号が混合され、その結果、送受信信号間の位相差に応じた信号が出力される。この出力信号は、図示しない処理装置に送られて、所定の倍率で増幅された後、マイクロコンピューターによる移動体の位置及び速度の算出に付される。
この電波の送受信状態において、電位付与手段10を動作させてGND層7の電位を金属層4に付与すると、金属層4は基板6の内部のGND層7と同電位になる。この結果、送信アンテナ2と金属層4との間の電磁界結合が強固になり、外部に漏れる電磁力線、即ち電波が減少し、放射量を大幅に制限できる。
従って、送信アンテナ2に供給する電力をオン・オフさせることなく、電波の放射状態を制御できる。つまり、高周波回路の制御を行わずに、DC回路の制御を行うことで、放射させる電波を簡単に制御することができる。
このように高周波回路を制御しなくても済むことから、様々な利点が得られる。一般に、高周波回路を制御するには、発振器の出力をFETで制御するか、電源の供給状態を制御することが必要であるが、周波数の上昇に伴い、FETのon,off性能が低下し、半on状態になることが多いことから、確実に動作させるには、高価な部品や周辺部品にインピーダンスの小さなものを使わなければならない課題がある。更に、高周波用の部品は立ち上がり動作が不安定なため、on,offを繰り返し使う環境下では、所定の特性を得るために時間を要すことになる。これに対して、本実施形態のドップラーセンサは、高周波回路の制御を不要な構成になっていることから、上述した制約や不利な条件を受けることなく、電波の放射状態を安価で且つ高性能に制御することができる。
またドップラーセンサを設置した空間に他の電波を発生する装置があった場合にも、必要な時だけ電波を放出することができるので、電波干渉の問題も解消でき、高精度なドップラーセンサを提供することができる。
なお、金属層4と送信アンテナ2の位置関係は、必ずしも、図1に示したように、基板側に送信アンテナ2を配置するという構成には限定されない。つまり、本発明の場合、電波の放射状態のon,offは、金属層4と送信アンテナ2の間の電磁界結合度に起因しているため、図1の構成とは反対に、金属層4が基板側に配置されていても良い。また金属層4は、電位を付与しない場合は、送信アンテナの一部として作用するため、送信アンテナ2よりも小さいサイズにした方が望ましい。
(第2の実施の形態)
図2を参照して、本発明にかかる高周波センサとしてのドップラーセンサの第2の実施形態を説明する。
このドップラーセンサの外観図を図2(a)に示し、図2(b)に図2(a)のB断面図を示す。本実施形態に係るドップラーセンサは、以下に説明するように、一体アンテナと呼ばれる構造を採用していることを特徴とする。
図2(a),(b)に示すように、このドップラーセンサは、基板6の非アンテナ接触面より下側に位置して、つまり、基板6に一部が埋没した状態で一体アンテナ2を備えている。ここで、一体アンテナとは、送信アンテナと受信アンテナを一つのアンテナで兼用した構造のアンテナを言う。
一体アンテナ2の面上に絶縁層5を形成し、更にこの絶縁層5の面上に金属層4を形成している。また、第1の実施形態の構成と同様に、基板の内部にはGND層7を設ける一方で、その裏面にはミキサー12,発振器11,及び電位付与手段10が設置されている。
一体アンテナ2は、放射(送信)した電波の波形と受信した電波の波形をミキサー12により分離できるため、センサの小型化を考慮すると、本実施形態のように送受信一体の一体アンテナを採用することが望ましい。第1の実施形態と同様に、本実施形態に係るドップラーセンサの場合も、一体アンテナ2への電力供給をオン・オフ制御することなく、金属層4をGND層7と同電位にするDC成分をオン・オフ制御するだけで、電波の放射を制御できるため、簡単且つ高速に電波の放射をスイッチングすることができる。
また、本実施形態にあっては、上述した作用効果に加えて、一体アンテナ2の採用に伴う独特な作用効果も得られる。
すなわち、一体アンテナ2の一部が基板の非アンテナ接触面よりも下側に位置しているため、一体アンテナ2を絶縁するには、一体アンテナ2のエッジ部2cを完全に絶縁できるように、一体アンテナ2が基板上に突出している厚み以上に絶縁層の厚みを形成すればよい。従って、一体アンテナ2が基板6内に埋没した分絶縁層5の厚みを薄くすることができる。詳細の説明は後述する。その結果、電位付与手段10から金属層4に電位を付与すると、金属層4と一体アンテナ2間が短くなった分、電磁界結合がより強固になり、外部に放射される電波が抑制され、電波のoff性能が向上する。更に金属層4を最外層に配置することでシールド効果もあり、よりoff性能が確保される。尚最も電波のoff性能が良いのは一体アンテナ2が完全に基板6内に埋没した状態であるが、一体アンテナ2を形成する前の基板6への加工や一体アンテナ形成後の基板の面粗さの調整に費用がかかるため、用途に応じた性能設計が望ましい。一般に絶縁層5の厚みは、100μm以下であれば、材料特性(誘電正接)に関係なく、損失を抑制できる。また、セラミック粒子を焼成せず直接製膜する方法で絶縁層5を形成する場合は、0.5μm以上、基板と共に同時焼成する場合は25μm以上、樹脂材をコーティングする場合は40μm以上あると絶縁性能を確保できる。以上のことから絶縁層5の厚みは、絶縁を保持するため最低0.5μm以上、且つ損失を無視できる100μm以下に設定するのが望ましい。特に、生産効率(製造時のバラツキによる緻密度の変化)やアンテナ設計の簡素化を考慮すると、誘電正接が低いセラミック材料を使用し、1〜10μmの厚みに設定すると損失が無視できて好ましい。本実施形態では、5μmに設定している。
図3は第2の実施形態での基板6と一体アンテナ2と絶縁層5の厚みの関係を示した図であり、図3(a)に一体アンテナ2の断面拡大図を示し、図3(b)に一体アンテナ2が全て基板上にあり埋没していない状態の一体アンテナ2及び絶縁層5を積層したときの断面拡大図を示す。
図3(b)の絶縁層5の厚みは、一体アンテナ2の端面のエッジ部2cが絶縁層5にて被覆されずに露出して絶縁性能が劣化することが無いよう、一体アンテナ2の厚みaとエッジ部2cを被覆するための厚みαをたしたa+αとなり、基板6上に構成される。この厚みは一体アンテナ2上にも同様に形成される。
一方図3(a)のドップラーセンサ1では、アンテナ接触面6cが非アンテナ接触面6bよりもbの深さだけ基板表面6aよりも内部方向に入り込んでいるため、非アンテナ接触面6bから一体アンテナ2表面までの高さはa−bとなる。そのため絶縁層の膜厚は、非アンテナ接触面6bから基板の外側に突出している厚みa−bと一体アンテナ2のエッジ部2cを被覆するための厚みαをたしたa−b+αとなる。この厚みの絶縁層が図3(b)と同様一体アンテナ2上にも積層される。
従って、一体アンテナ2の一部が基板に入り込んだ分、一体アンテナ2上に積層される絶縁層5の厚みを薄くできるため、図2に示す電位付与手段10から金属層4に電位を付与すると、一体アンテナ2と金属層4との距離が短い分電磁界結合が強固になり、一体アンテナ2から外部に漏れ、放出される電波が抑制され、電波のoff性能が向上する。
(第3の実施の形態)
図4〜8を参照して、本発明に係る高周波センサとしてのドップラードップラーセンサの第3の実施の形態を説明する。
図4〜図5にドップラーセンサの構成を示し、図6〜図8に実際の動作に基づく各部位の構成とドップラーセンサが出力する放射パターン及び放射角度とを示す。
図4(a)は、ドップラーセンサの第3の実施形態の上面図、図4(b)に図4(a)のD−D’断面図、図4(c)に図4(a)のE−E’断面図を示す。また、図5にブロック図を示す。
図4のドップラーセンサ21は、基板26上に一体アンテナ22、一体アンテナ22上に絶縁層25、更にその上に金属層24とで構成されるセンサユニット28が4列、4行のマトリクス状に16個配置されている。なお、図面の説明上、1列1行目から4列4行目にかけて各センサユニットを区別するためにa〜rの符号を付与する。
例えば図4(b)に示す1列2行目のセンサユニット28eは、一体アンテナ22eの上に絶縁層25eが積層され、更にその上に金属層24eが積層される構成を採っており、4列2行目のセンサユニット28hは、一体アンテナ22hと絶縁層25hと金属層24hで構成されている。基板26の内部にはGND層27、裏面には発振器30と、送受信波の位相差を識別するミキサー31と複数の金属層24に電位を付与する電位付与手段34と、伝送線路29及びコントローラ40が配置されている。コントローラ40にはミキサー31からの出力信号を増幅する増幅部37と増幅した信号を演算する演算部38が構成されている。
次に、図5を参照して、高周波センサとしてのドップラーセンサ21を組み込んだアンテナ装置の説明をする。図5は、かかるアンテナ装置を示すブロック図であり、各金属層24は電位付与手段34と結線されており、電位付与手段34は更にGND層27とも結線されている。また、夫々の一体アンテナ22は発振器30とミキサー31に結線されている。ミキサー31は、コントローラ40と接続されており、コントローラ40内部には前記のように増幅部37と演算部38が構成されている。演算部では、夫々の金属層24の電位の状態を制御するため、電位付与手段34と接続されている。また、コントローラ40には外部の切替手段39の信号を検知する制御部36が構成されている。
この切替手段39は、所望の放射パターンに切り替える手段であり、前記切替手段39の信号を制御部36で認識し、その結果に基づいて電位付与手段34から各金属層への電位付与の状態を設定し、各センサユニットから放射される電波のon,offを制御しているため、それぞれの電波を合成されてできる全電波の放射パターン及び放射角度を制御することができる。詳細な説明は後述する。
以上の構成により、発振器30で発生した高周波の電力を基板内を通し、一体アンテナ22へ供給し、前記一体アンテナ22から移動体に向けて放射する。その後、反射してきた電波を一体アンテナ22で受信し、送信時と同様給電部,基板内を通過し、ミキサー31で送受信波を結合し位相差を出力し、増幅部37で所定の倍率に増幅後演算部38で移動体の位置、速度を算出する。
外部への電波の放出を制限するには、演算部38の命令により電位付与手段34より所定の金属層24をGNDと同電位にする。これにより、一体アンテナ22と金属層24間の電磁界結合が強固になり空間への電波の放出が制限される。
金属層24及び絶縁層25の詳細は第1の実施形態と同様につき省略する。
尚それぞれの一体アンテナ22への給電は、伝送線路29から基板内部を通り、それぞれの一体アンテナ22の裏面に直接接合している。そのため、基板26の表面に給電パターンを設けなくて良いため、小型化が可能である。基板のサイズに制約がない場合は、第1の実施形態のように基板上に給電部を設けても良い。尚複数の一体アンテナから同時に電波を放出する際は、放射される電波が同位相になるように伝送線路長を構成したり、誘電率の異なる材料を伝送線路上に配置してもよい。
次に、図6〜8を参照して、第3の実施形態でのドップラーセンサの動作について説明する。
図6は各センサユニット28の金属層24の電位のon,offの状態を図4(a)のセンサユニット配列に対応させて表した概念図である。例えば、図6の1行1列目のグラフはセンサユニット28aの金属層24aが常にoff状態であることを示し、図6の4列4行目のグラフはセンサユニット28rの金属層24rが時間t1〜t3まではon状態でt4ではoff状態にあることを示す。
次に図7を説明する。図7は図6のt1〜t4の各時間領域における実際の電波の放射状態を示した状態を示す。例えば、図6において時間t1で金属層24がoff状態にあるのは、金属層24aだけであるため、図7(a)に示すように、1行1列目のセンサユニット28aだけが電波が放射されている状態でとなっている。ここで電波が放射されている状態は図中白抜きとなり、図中塗りつぶしは電波が放射されていない状態を示す。
図6に示す時間領域t2では、金属層24a,24b,24e,24fの4つだけが電位付与手段34からのoff指令によりoff状態であるため、図7(b)に示すようにセンサユニット28a,28b,28e,28fの4つの一体アンテナからだけ電波が放射状態にある。次に時間領域t3ではセンサユニット28d,28h,28m,28n,28p,28q,28rの7個以外の金属層だけがon状態になっているため、図7(c)に示すような電波の放射状態となっている。また、時間領域t4では全ての金属層24がoff状態にあるため、図7(d)に示すように全てのセンサユニットから電波が放射されている。図8は図6の時間領域t1〜t4における放射パターンの概念を現したもので、横軸に指向幅,縦軸に放射強度を示す。
一般にアンテナの絶対利得Gaは、アンテナ有効面積をA、アンテナから送信される電波の波長をλとすると、次式により表され、送信するアンテナの個数が増加するとアンテナ有効面積が増加し、アンテナから放射される電波の放射強度が強くなる。
[数1]
Ga=A×4π/(λ×λ)
また、アンテナの絶対利得Gaと指向性利得Gdとの間には次式の関係があり、損失の無視できるアンテナの絶対利得は指向性利得(無指向性アンテナに対する利得)に等しく、指向性の形状(指向角度)で決まる。
[数2]
Ga=ηrad×Gd
従って、図7のように電波を放射しているアンテナ面積がt4>t3>t2>t1となっている場合は、図8のようにt4,t3,t2,t1の順に放射強度は小さくなり、指向幅即ち指向角度は広がるとともに、後の実施形態(第4の実施形態)で詳述するように、電波の放射方向(角度)が基板に垂直な方向からずれて、電波放射状態(金属層への接地電位の供給:オフ)にあるセンサユニット側に斜めに傾く。この傾き具合は、電波放射状態にあるセンサユニットと電波非放射状態にあるセンサユニットとの数、位置などに関連して決まる。従って、各一体アンテナに供給する電力のon,offをすることなく、金属層への電位のon,offを制御することだけで、簡単に放射パターン及び放射方向を変えることができる高機能なセンサを実現できる。
ここでは、経過時間に対する放射パターン及び放射角度が変化するということを説明したが、測定する空間と取り付けるドップラーセンサ21に必要な放射パターンがあらかじめ決まっている場合に最適な放射パターンを提供するように切り替えても良い。例えば、一体アンテナ22に対し直交方向の移動物体を検知する際、つまりドップラーセンサ21に向かって近づく或いは遠ざかる物を検知することが解っている場合は、時間領域t4で行った制御のようにあらかじめ全ての一体アンテナ22から電波を放出するように電位付与手段34をoff状態にプログラミングしておくと良い。また、一体アンテナ22に水平方向を移動する物体を検知する場合は、指向角が広い方が望ましいので、時間領域t1で行った制御のように単一の一体アンテナ22aからだけ電波が放射されるように、電位付与手段34の設定をプログラミングしておくと良い。
なお、本構成では説明の便宜上1行1列目のセンサユニット28aを選んだが、16個のセンサユニットのどれを使っても良い。また、ドップラーセンサ21が想定された空間の設置位置が決まらない場合は、付設の切替手段39により、ドップラーセンサ21に垂直方向或いは水平方向の何れの物体を検知するかを切替え、切替手段39の状態を制御部36で検出し、あらかじめ設定されたプログラムを選択し、電位付与手段34を制御すれば、高周波回路である一体アンテナ22に供給する電源のon,offを制御することなく電位付与手段34による電位付与の制御だけで電波のon,offができ簡単、高速、かつ高精度に制御できる。また複数の一体アンテナ22から任意の個数を選択して電波を放射することにより、移動体に合わせて所望する放射パターン及び放射角度をも制御できるため、高機能なドップラーセンサを1つのセンサで提供できる。
また、本説明では、一つの電位付与手段34から全ての金属層24のon,offを制御したが、金属層24のそれぞれに電位付与手段を設けても良い。
なお、上述した実施形態にあっては特に言及しなかったが、金属層(金属部材)とGND層の接続、すなわち、金属層の接地構造は重要である。金属部材はアンテナの電界強度の高い箇所に設けて接地手段に接続する。これにより、アンテナから放射される電波がより確実に遮断される(オフ状態)。
本発明者によると、この接地構造を実現するためには、図4の例で説明するとき、センサユニット28の面に垂直な方向から見た場合(一体アンテナ22を上視した場合)、金属層24(金属部材)は一体アンテナ22(アンテナ)に被さるように位置することが重要である。これは、図4の例のように、層状のアンテナ(一体アンテナ22)を用いる場合、電界分布はエッジ部分に集中するためである。逆に言えば、金属部材は必ずしも層状のアンテナの全面を被う必要は無い。金属部材は層状のアンテナのエッジ部を少なくとも覆うように(オーバーラップするように)当該金属部材を配置するだけでもよく、この金属部材を、層状のアンテナの周囲における相互に対向する2辺それぞれの中央部に相当する位置で接地することで、より確実な接地効果が得られる。
この例を図9(a)〜(c)に示す。同図(a)〜(c)のそれぞれは、前述した図4の1つのセンサユニット28と同等の積層構造を示しており、それぞれ図のA1−A1´線に沿った断面構造を同図(d)に示す。
図9(d)に示すように、上から順に、金属部材281A,281B、絶縁層282、層状のアンテナとしての送信アンテナ283、及び絶縁層で成る基板284を備える。基板284の上面に送信アンテナ283が配置され、これを絶縁層282が被うようになっている。基板284の途中の位置には、接地手段の一部を成すGND層285が埋設されている。このGND層285は、基板284の下面に設けたオン・オフスイッチ286に接続されており、このオン・オフスイッチ286が2本のスルーホールそれぞれに貫通状態で設けた導体287A,287Bを通して金属部材281A,281Bに接続されている。なお、送信アンテナ283の導体287A,287Bを貫通させる部分は、この導体287A,287Bを回避するように部分的に切除されている。
この積層構造において、図示しないコントローラからの制御信号に応答してオン・オフスイッチ286がオン(続状態)になると、金属部材281A,281Bは電気的にGND層285に接続されて接地される。
図9(a)〜(c)それぞれに示す金属部材281A,281Bは、送信アンテナ283の面の全体を被う構造を採用しておらず、この送信アンテナ283の対向する2辺のエッジ部分の全体又は一部のみを被うように形成されている。勿論、この金属部材は、アンテナ282の全体を被う1枚の層であってもよいのであるが、前述したように、電界分布が送信アンテナ283のエッジ部分に集中することを考慮して、このように2辺のみに配置した分割構造になっている。図9(a)に示す金属部材281A,281Bは、送信アンテナ283の対向する2辺それぞれのエッジ部全体を被うように積層されている。また、図9(b)に示す金属部材281A,281Bは送信アンテナ283の対向する2辺それぞれのエッジ部分を部分的に被うように積層されている。さらに、図9(c)に示す金属部材281A,281Bは送信アンテナ283の対向する2辺それぞれの中央部のみをスポット的に被うように積層されている。
しかしながら、図9(a)〜(c)に示す何れの金属部材281A,281Bも、対向辺に向いた垂直方向において送信アンテナ283とオーバーラップするように形成されている。このとき、金属部材がアンテナからはみ出す量Dは、設計上、少なくとも0.1mmとすることが望ましい。
上述のオーバーラップが無い場合、金属部材が接地されたとしても、アンテナから放射される電波をオフ状態(電波の放射遮断)にすることはできないことは、本発明者により確認されている。このようにオーバーラップ(被さり部分)が無い場合の例(図11(a),(b))、及び、オーバーラップがあった場合でも、金属部材281から外側に一体にパターンを延ばして送信アンテナ283の外側にて金属部材281及びGND層285を相互に接続した例(図11(c))、すなわち放射電波をオフ状態にできない場合の例を図11(a)〜(c)にそれぞれ示す。これらの図において、上段に示す平面図のB1−B1´線に沿った断面図を下段にそれぞれ示す。
図9に戻って、金属部材281A,281BをそれぞれGND層285と接続する接地点の位置(すなわち、導体287A,287Bの位置)は、送信アンテナ283の金属部材それぞれにオーバーラップした各対向辺の辺に沿った方向の中央位置であることが望ましい。これは、通常、送信アンテナ283の係る対向辺に沿った方向の長さLは、送信電波の波長λ、基板の誘電率εrとすると、λ/(2√(εr))に設定するため、その中央位置は振幅の最も高いλ/(4√(εr))に相当し、この高振幅の位置で接地することが接地上、とくに有効なためである。
このように接地点を決めることで、高周波電波に対して、金属部材281A,281Bをより確実に接地でき、したがって、電波の放射をより確実に遮断できることが検証されている。
なお、送信アンテナ283に導体287A,287Bを回避する切除部を形成した場合でも、接地性能は低下しないことも検証されている。
以上説明した金属部材の配置及び接地点の位置に対する要件を満足させる、図9に示した構造以外の様々な例を図10(a)〜(f)に示す。送信アンテナ283の配置角度、形状を様々に設定できるとともに、その送信アンテナ283の全周囲を金属部材が被っていてもよいし、部分的に被っていてもよい。なお、図9及び図10において、符号288は送信アンテナ283に対する給電点を示す。
したがって、上述した金属部材の配置及び接地点の位置の好適な設定に基づく接地構造を加味して、前述した図4及び7を再掲すると、図12、13に示すようになる。すなわち、図面上、接地点の位置が相違する。このように、図9及び10に基づく接地構造を採用することで、高周波電波に対する金属部材の接地をより確実に行なうことができるようになることから、放射電波も、接地電位の供給のオン・オフだけで、一層、確実に遮断することができ、これより、放射パターン及び放射方向の制御をより一層確実に実行させることができる。
ここで前述した第1〜第3の実施形態の特徴を総括すると、以下のようになる。
まず、ドップラーセンサの基本構成としては、電波を送信する薄膜平面状の送信アンテナと、電位を付与できる金属層と、前記送信アンテナと前記金属層を電気的に絶縁する絶縁層と、からなるセンサユニットと、前記センサユニットが載置される基板と、前記金属層へ電位を付与する電位付与手段と、を備える。
前記ドップラーセンサは、送信アンテナに絶縁層を介し載置された金属層に電位付与手段から電位を供給するため、前記送信アンテナと前記金属層間の電磁界結合が強固になり、前記送信アンテナから移動体に向けて放射される電波の放射強度が著しく低下する。従って、送信アンテナに供給する電力のon,offをすることなく電波のon,offを制御できるため、高周波回路のスイッチングがいらなく簡単な構成になる。また高周波回路のスイッチングに対し、直流または低周波の電位を供給するだけで素子の立ち上がり性能に依存しないため高速に制御できるドップラーセンサを提供できる。
前記センサユニットの前記送信アンテナが前記基板側へ載置されていてもよい。これにより、送信アンテナが絶縁層である基板または金属層に挟まれ狭持されているため、電位付与手段により金属層へ電位を付与すると前記送信アンテナから放射される電波はセンサの外側には全く放射されない。これがため、アンテナへの電力の供給を停止することなく電波のoff性能を確実に確保することができる。
さらに、前記センサユニットが前記基板上に複数載置されていてもよい。これにより、送信アンテナから放射される電波の指向角度を狭くし、移動体に対する方向の検知距離を伸ばすには複数の送信アンテナを配置し、各送信アンテナに電力を供給する伝送線路が同位相になるように構成する。そうすると同位相の電波は強調され逆位相の波は打ち消しあうため、ある方向は電波の出力が強くある方向は弱くなり、その結果、指向角度が狭くなり且つ特定の方向の電波の出力が強くなり検知距離が伸びる。
この原理を利用し、あらかじめ各送信アンテナへの伝送線路が同位相になるように構成し、移動体がドップラーセンサから遠方に存在する場合は、電位付与手段から各センサユニットの金属層への電位の付与を停止し、全ての送信アンテナから電波が放射されるようにすると、検知距離が伸び移動体を検知できる。また、移動体がドップラーセンサから近距離に存在し、ドップラーセンサに対し水平方向に移動する場合は、電位付与手段から各金属層に供給する電位の個数を多くし、電波を放射するアンテナの個数を制限するとドップラーセンサの指向角度を広げることができ、検知できる。従って、送信アンテナに供給する電力を制御することなく、電波のon,off制御を容易に且つ高速にできるだけでなく、電波の放射パターンも任意に可変することができるため、高性能のドップラーセンサを実現できる。
前記絶縁層の厚みは、例えば、0.5〜100μmである。絶縁層の厚みが厚くなる程、アンテナから送信される電波の放射強度が低下するため、絶縁層は薄い方が好ましく、好適には、0.5〜100μmの厚さに設定される。尚、絶縁層にフッ素樹脂を用いる場合には、形成方法としてスピンコートやスプレーコート、ディッピング等の製造方法が挙げられ、防水性を保持するには、厚みは40μm以上、放射強度の低下を考慮すると100μm以下が好ましい。また、セラミック材料を用いる場合は、セラミック粒子を直接基板に吹き付け絶縁層を形成するスパッタリング方法や基板となる未焼結のセラミックシート表面にアンテナパターンをスクリーン印刷し、そのアンテナ表面に絶縁層となる未焼結のセラミックシートを積層した後焼成し、基板と導体層であるアンテナと絶縁層を一体焼結する等の方法があり、形成方法により緻密度が異なるものの、0.5〜50μmの厚みに設定すれば確実に防水性が得られ、フッ素樹脂よりも放射強度を抑制できる。特に、生産効率(製造時のバラツキによる緻密度の変化)やアンテナ設計の簡素化を考慮すると、誘電正接が低いセラミック材料を使用し、1〜10μmの厚みに設定するのが好ましい。
さらに、前記送信アンテナが前記基板に載置時に接触するアンテナ接触面が、前記送信アンテナが載置時に前記基板と接触しない非アンテナ接触面よりも下方にあることも特徴の一つである。
ここで、非アンテナ接触面よりも下方にあるとは、送信アンテナと金属層の接触面が基板内部に埋没していることをいう。
アンテナの表面に絶縁層を形成する場合、絶縁層の厚みは、導体層である送信アンテナの厚み以上必要になる。従って、送信アンテナの一部が非アンテナ接触面よりも下方にあるため、下方に入り込んでいる分基板上に突出している送信アンテナの膜厚が薄くなり、絶縁層の厚みを薄くできる。その結果電位付与手段にて金属層に電位を付与すると、送信アンテナと金属層の距離が短くなるので、より電磁界結合度が強固になり、電波の放出がより制限され、電波放射のoff性能が向上する。
さらに、前記送信アンテナと前記絶縁層の界面にはアンカー層が形成されていることも特徴の一つである。
ここでいうアンカー層とは、アンテナと絶縁層の界面に形成された凹凸を指し、特に、予めアンテナ表面に凹凸を形成させるのではなく、絶縁層を形成する時にアンテナの表面精度を変化させて形成される凹凸部のことを指す。
このように、アンテナの表面にアンカー層を介し絶縁層を形成することで、アンテナと絶縁層の密着強度が向上して絶縁層の剥離を防止できる。また、アンカー層の凹凸部によりアンテナと絶縁層の界面に水分が浸入することを防止できる。
(第4の実施形態)
図14〜16を参照して、本発明に係る高周波センサとしてのドップラーセンサの第4の実施の形態を説明する。このドップラーセンサは、前述した第3の実施形態に係るアンテナ装置と同様のアンテナ装置に組み込まれて動作し、それにより、検出対象の空間をスキャンするように電波を放射する機能を備えたことを特徴とする。
図14(a),(b)に、本実施形態に係るドップラーセンサ200は、前述した第3実施形態に係るドップラーセンサ21と同様に構成を有するもので、電気的絶縁性を有する基板に形成された、例えば4列4行のマトリクス状配置のセンサユニット200a〜200pを有している。
すなわち、センサユニット200a〜200pのそれぞれは、基板201上に配置された送信アンテナ202a(〜202p)と、この送信アンテナ202a(〜202p)の上に形成された絶縁層203と、この絶縁層203の上に形成された金属層204a1,204a2(〜204p1,204p2)とを備えている。なお、送信アンテナ202a〜202pのそれぞれは、前述したように受信アンテナと一体に形成された一体アンテナであってもよい。
この積層構造における金属層204a1,204a2〜204p1,204p2の配置の仕方は、前述した図9(a)に示した、対向した両辺部それぞれの全体に沿って配置する手法に基づいている。
また、基板201の内部には、図4(b)に示すように、各センサユニット200a(〜200p)の金属層204a1,204a2(〜204p1,204p2)を接地するためのGND層205が形成されている。
さらに、基板201の裏面には、電位付与手段の一部として機能するオン・オフスイッチ206a(〜206p)と伝送線路207a(〜207p)とが形成されている。各センサユニット200a(〜200p)において、各オン・オフスイッチ206aは伝送線路207aの途中に介在している。この各オン・オフスイッチ206aには、内部導体208a(〜208p)を介して前述したGND層205が接続されている。これにより、各オン・オフスイッチ206aは、そのオン・オフ動作により、GND層205と各内部導体208a(〜208p)との間の電気的な導通を断続制御可能になっている。なお、基板201の裏面はカバー2011で覆われている。
この伝送線路207a〜207pのそれぞれの両端部は、図4(a),(b)に示すように、基板201の厚さ方向に貫通して形成した2本のスルーホールに充填された導体209a1,209a2(〜209p1,209p2)を介して、センサの上面に位置する金属層204a1,204a2(〜204p1,204p2)に電気的に接続されている。このため、図4(a)に示すように、金属層204a1,204a2(〜204p1,204p2)の対のそれぞれにおいて、導体209a1,209a2(〜209p1,209p2)の位置(接地点)は、送信アンテナ202a(〜202p)の対向する2辺それぞれの中央部に在る。この中央部の位置は、前述したように、送信電波の波長λの1/4に相当する。
オン・オフスイッチ206a〜206pは、それぞれ、前述した図5の回路構成と同様に、図示しないコントローラから制御信号により選択的にオン・オフされる。このため、コントローラからの制御信号に応答してオン・オフスイッチ206a〜206pの何れかがオンになると、そのオンになったオン・オフスイッチ206a(〜206p)に対応したセンサユニット200a(〜200p)の金属層204a1,204a2(〜204p1,204p2)に接地電位が与えられる(つまり、接地される)。この接地された金属層204a1,204a2(〜204p1,204p2)を有するセンサユニット200a(〜200p)は、その送信アンテナ202a(〜202p)からの電波放射が止められる(オフ)。このため、コントローラは、オン・オフスイッチ206a〜206pにスイッチ:オンの制御信号を選択的に供給することにより、センサユニット200a〜200pからの電波放射を選択的にオフに制御することができる。
次に、本実施形態に係る、放射電波のスキャン動作を説明する。
このスキャン動作は、図15(A)〜(I)に示すように、アンテナ装置のコントローラからの制御により(図5参照)、電波放射をオフとするセンサユニットを選択的に且つ順次、移動させることで実行される。この例の場合は、4つのセンサユニットのグループを順次、選択的に電波放射:オフとするものである(同図中の斜線部参照)。
例えば、時刻t=t1において同図の右下隅の4つのセンサユニット200k、200l、200o,200pが電波放射:オフに制御される(図15(A)参照)。次いで、一定間隔を置いた次の時刻t=t2において、その隣の中央部の4つのセンサユニット200j、200k、200n,200oが電波放射:オフに制御される(図15(B)参照)。次いで、次の時刻t=t3において、その隣の左端寄り4つのセンサユニット200i、200j、200m,200nが電波放射:オフに制御される(図15(C)参照)。次いで、次の時刻t=t4において、かかるセンサユニットグループは、基板201の中央部右端寄りに移動される。つまり、4つのセンサユニット200g、200h、200k,200lが電波放射:オフに制御される(図15(D)参照)。以下、同様にして、電波放射:オフのセンサユニットのグループが時刻と共に移動される(図15(E)〜(I)参照)。
このように、マトリクス状に近接配置した複数のセンサユニット200a〜200pのうち、一部のセンサユニット(例えば200k、200l、200o,200p)の金属層(例えば204k1、k2;204l1、l2;204o1、o2;204p1、p2)を接地して電波放射:オフに制御した場合、前述したように、ドップラーセンサ200の合成電波の放射パターン及び放射角度を制御することができる。例えば、センサユニット200k、200l、200o,200pのグループを電波放射:オフとすることで、合成電波は、ある放射パターンを有し、且つ、その放射方向(指向性)が電波放射:オン(つまり、オン・オフスイッチをオフにして金属部材を接地していない)の残りのセンサユニット200a〜200h、200i,200j,200m,200nのグループ(図15(A)中の白抜きのユニット)の側にある角度だけ傾く。この傾き角度は、設置される金属層の面積や間隔によるアンテナ相互間の電磁力線の状態や、発信器から各アンテナに供給する電力のバランスが崩れることで生じる位相変化などのパラメータで決まることが分かっている。
つまり、ドップラーセンサ200から放射される電波は、その電波放射面(金属層側の前面)に対して傾いて放射される。この様子を図16に模式的に説明した。このため、コントローラからの制御により、上述したように、電波放射:オフにするセンサユニットのグループを順次移動させることで、ドップラーセンサ200から放射される電波の方向を順次、移動させることができる。図15(A)〜(I)に示す矢印AR1〜AR9は、そのように放射電波の方向が時刻t=t1〜t9それぞれにおいて制御されることを示している。図15(A)〜(I)に示すセンサ配列を東西南北の方位にたとえると、ドップラーセンサ200からの電波放射方向は、時刻t=t1にて斜め北西方向となり、時刻t=t2にて斜め北方向となり、時刻t=t3にて斜め北東方向となり、時刻t=t4にて斜め西方向となり、といった具合に制御される。電波の放射方向が、最後の時刻t=t9にて斜め南東方向に制御された後、上述した時刻t1〜t9は再び次のサイクルとして同様に繰り返される。
このため、ドップラーセンサ200から放射される電波は、その電波放射面に対して、全方位の斜め方向に順次放射されて、電波による物体のスキャンが実行される。このスキャンにより物体から反射されてきた電波は、一体アンテナを形成する送信アンテナ202a〜202p、または、近接して別体装備した受信アンテナにより受信される。これにより、アンテナ装置では、前述した図5に示した受信回路と同様のドップラー受信処理に付されるので、移動する物体の位置及び速度を検知することができる。したがって、放射電波の方向を一定間隔で変更して好適に電波スキャンをすることができ、このドップラーセンサ200の壁面などに対する取付け姿勢は変化させなくても、対象空間内のターゲットの移動状態を広範囲に検知することができる。
(第3及び第4の実施形態の変形例)
ここで、前述した第3及び第4の実施形態に係るドップラーセンサの送信アンテナ(又は、一体アンテナ)、金属部材(金属層)、及びGND(接地)層の位置関係に関わる種々の変形例を示す。なお、センサユニットの数は複数であることを代表する2個、4、及び16個の場合について説明するとともに、構造に若干の差異はあるが、対比及び理解の容易さを優先して、第4の実施形態で採用した参照符号を用いる。
<第1の変形例>
図17(a)、(b)に、第1の変形例に係る高周波センサとしてのドップラーセンサ200を示す。このドップラーセンサ200は、複数のセンサユニット200a,200bのうち、一部のセンサユニット200bに対してのみ電波放射のオン・オフを制御する手段を設けたものである。同図(b)は、同図(a)のE−E´線に沿った断面構造を模式的に示している。
同図から分かるように、絶縁層203の上面に、センサユニット200bについてのみ、1枚の金属部材(金属層)204を配置し、この金属部材204を、オン・オフスイッチ206を介して、基板201に埋設してあるGND層205に接続するようにしている。このため、オン・オフスイッチ206をコントローラからの制御信号でオン・オフさせることで、金属部材204を選択的に接地し、その結果、センサユニット200bからの電波放射をオフ又はオンさせることができる。この結果、ドップラーセンサ200から放射される電波の放射パターン及び放射方向を、選択的に、所定のパターン及び方向に設定できる。放射方向は、放射電波:オフの構造を持たないもう一方のセンサユニット200aの側に傾いたオブリーク方向となる。
<第2の変形例>
図18(a)〜(c)に、第2の変形例に係る高周波センサとしてのドップラーセンサ200を示す。このドップラーセンサ200は、第1の変形例と同様に、複数のセンサユニット200a,200bのうち、一部のセンサユニット200bに対してのみ電波放射のオン・オフを制御する手段を設けたものである。同図(b)は同図(a)のC−C´線に沿った断面構造を、同図(c)は同図(a)のD−D´線に沿った断面構造を夫々模式的に示している。第1の変形例の積層構造との主な違いは、金属部材204を基板201の中であって、GND層205の下方における一方のセンサユニット200bのアンテナ202bを上視する位置に設けていることである。この金属部材204は、オン・オフスイッチ206を介してGND層205に接続されている。これによっても、前述した第1の変形例と同様の動作を発揮させることができる。
<第3の変形例>
図19(a)、(b)に、第3の変形例に係る高周波センサとしてのドップラーセンサ200を示す。このドップラーセンサ200は、第1及び第2の変形例と同様に、複数のセンサユニット200a,200bのうち、一部のセンサユニット200bに対してのみ電波放射のオン・オフを制御する手段を設けたものである。同図(b)は同図(a)のF−F´線に沿った断面構造を模式的に示している。第2の変形例の積層構造との主な違いは、金属部材204を基板201の中であって、GND層205の上方における一方のセンサユニット200bのアンテナ202bを上視する位置に設けていることである。この金属部材204は、オン・オフスイッチ206を介してGND層205に接続されている。これによっても、前述した第1及び第2の変形例と同様の動作を発揮させることができる。
<第4の変形例>
図20(a)〜(c)に、第4の変形例に係る高周波センサとしてのドップラーセンサ200を示す。このドップラーセンサ200は、複数のセンサユニット200a,200bのうち、全てのセンサユニット200a,200bに対して電波放射のオン・オフを制御する手段を設けたものである。同図(b)は同図(a)のG−G´線に沿った断面構造を、同図(c)は同図(a)のH−H´線に沿った断面構造を夫々模式的に示している。第3の変形例に係る積層構造との主な違いは、金属部材204a,204bを、両方のセンサユニット200a、200bのアンテナ202a,202bをそれぞれ上視する位置に設けていることである。この金属部材204a,204bは、オン・オフスイッチ206を介してGND層205に接続されている。このオン・オフスイッチ206は、金属部材204a,204bの一方を選択的に、又は、両方をGND層205を介して接地できるようになっている。これによっても、前述した第1〜第3の変形例と同様の動作を発揮させることができる。
また、金属部材204a,204bの大きさ、すなわち、送信アンテナ(一体アンテナ)202a、202bを夫々、上視したときのアンテナ面に対するサイズが金属部材相互間で異なるように形成している。これにより、放射される電波の方向などの制御に関する設計の自由度を一層高めることができるという更なる作用効果を得ることもできる。
<第5の変形例>
図21(a),(b)に、第5の変形例に係る高周波センサとしてのドップラーセンサ200を示す。このドップラーセンサ200は、第4の変形例と同様に、複数のセンサユニット200a,200bのうち、全てのセンサユニット200a,200bに対して電波放射のオン・オフを制御する手段を設けたものである。同図(b)は同図(a)のJ−J´線に沿った断面構造を模式的に示している。第4の変形例に係る積層構造との主な違いは、金属部材204a,204bを、基板201の内部の、相互に異なる厚さ方向の位置に設けていることである。これによっても、前述した第1〜第4の変形例と同様の動作を発揮させることができる。
とくに、一方の金属部材204aに対して、もう一方の金属部材204bの基板厚さ方向の位置は、距離dだけ深くなっている。これにより、放射される電波の方向などの制御に関する設計の自由度を一層高めるという更なる作用効果を得ることができる。
<第6の変形例>
図22(a),(b)に、第6の変形例に係る高周波センサとしてのドップラーセンサ200を示す。同図(b)は、同図(a)のK−K´線に沿った断面構造を模式的に示す。
このドップラーセンサ200は、その基本構造としては、前述した第2の変形例に記載のもの同等であるが、複数のセンサユニット200a〜200dのうちの全センサユニット200a〜200dに対して電波放射のオン・オフを制御する手段を設けること、及び、そのオン・オフ制御の手段の一部を成す金属部材を各ユニットについて複数層、距離を変えて設けている点が相違する。
すなわち、複数のセンサユニット200a〜200dのそれぞれに対して、送信アンテナ202a(〜200d)の下側に、GND層205a(〜205d)及び4枚の金属部材204a1〜204a4(…204d1〜204d4)がこの順に位置するとともに、オン・オフスイッチ206に接続している。GND層205a(〜205d)及び4枚の金属部材204a1〜204a4(…204d1〜204d4)は、センサユニット200a(〜200d)毎に、基板201内に配置されている。また、各センサユニット200aにおいて、4枚の金属部材204a1〜204a4の各相互間の距離dはd=d´の等間隔(均等ピッチ)になっている。
このため、オン・オフスイッチ206を図示しないコントローラからの制御信号に応じて適宜に切り換えさせることで、センサユニット200a(〜200d)毎に、4枚の金属層204a1〜204a4(…204d1〜204d4)のうちの何れかの金属層を接地して電波放射:オフ状態に制御することができる。
各送信アンテナ202aとその接地された金属部材204a1(〜204a4)との電磁界強度は、その両者の距離の二乗に反比例するため、かかる距離が短いほど、金属部材の影響を受け易くなり、放射される電波の傾きも大きくなる。このため、図22の例で言えば、送信アンテナ202aに近い金属部材204a1(〜204a4)を接地するほど、放射電波の傾きは大きくなる。
したがって、本変形例に係る金属部材の多段構造によれば、前述した各変形例と同等の作用効果に加えて、オン・オフスイッチ206の切換状態を所望の電波放射角度及び方向に応じて適宜に制御することで、基板201の電波放射面に対する全方位の様々な角度に電波を確実に放射させることができる。
一般に、基板の誘電率εrが大きくなるほど、アンテナとGND(接地)との間の電磁結合は強くなることから、基板の誘電率が大きいほど、上述した、電波の様々な角度への確実な放射制御に関する作用効果も顕著になる。このため、一般にセラミック基板の誘電率の方が樹脂基板のそれよりも大きいので、基板にはセラミック材を使用する方が好ましい。
したがって、このドップラーセンサ200の取付け姿勢は変化させなくても、対象空間内のターゲットの移動状態を広範囲に検知することができる。
<第7の変形例>
図23(a),(b)に、第7の変形例に係る高周波センサとしてのドップラーセンサ200を示す。同図(b)は、同図(a)のL−L´線に沿った断面構造を模式的に示す。
このドップラーセンサ200は、その基本構造としては、前述した第6の変形例に記載のもの同等であるが、複数のセンサユニット200a〜200dに夫々設ける複数の金属部材(金属層)を不均等ピッチにする点が相違する。
詳しくは、図23(b)から分かるように、各センサユニット200a(〜200d)に夫々設ける複数の金属部材204a1〜204a4(…204d1〜204d4)は、基板厚さ方向における互いの間隔が不均等になっている。具体的には、一番目のセンサユニット200aについて説明すれば、送信アンテナ202aに最も近い最上段の金属部材204a1と次段の金属部材204a2との間の間隔dはd=d1、2段目と3段目の金属部材204a2,204a3の間の間隔dはd=d2(>d1)、及び、3段目と4段目の金属部材204a3,204a4の間の間隔dはd=d3(>d2)となっており、不均等ピッチになっている。このように不均等ピッチとし、且つ、送信アンテナから遠ざかるほど間隔が広くなる金属部材の積層構造としているため、これらの金属部材を順に接地電位に接続することで、放射させる電波の傾斜角度を例えば5度、10度、15度などと、一定値毎のステップ状に一定範囲で変化させることができる。これにより、電波の放射方向を所望方向に且つより高精度にコントロールした状態で電波スキャンを実行することができる。
また、一般に、基板の誘電率εrが大きくなるほど、アンテナとGND(接地)との間の電磁結合は強くなることから、基板の誘電率が大きいほど、上述した、電波の様々な角度への確実な放射制御に関する作用効果も顕著になる。このため、一般にセラミック基板の誘電率の方が樹脂基板のそれよりも大きいので、本変形例においても前述した第6の変形例と同様に、基板にはセラミック材を使用する方が好ましい。
<第8の変形例>
図24,25を参照して第8の変形例を説明する。
なお、図24(a)のM−M´線に沿った断面を同図(b)に、N−N´線に沿った断面を同図(c)に、P−P´線に沿った断面を同図(d)に、Q−Q´線に沿った断面を同図(e)に夫々示す。また、図24(c)のS−S´線に沿った断面を図25(a)に、図24(d)のT−T´線に沿った断面を図25(a)に、さらには、図24(b)のR−R´線に沿った断面を図25(c)に夫々示す。
この変形例に係るドップラーセンサ200は、16個のセンサユニット200a〜200pを備える一方で、それらの全センサユニット200a〜200pについて送信アンテナ202a〜202pの電波放射面側に設けた金属部材による電波放射のオン・オフ制御の手段(図24(b)参照)と、送信アンテナ202a〜202pの電波放射面とは反対の裏面側、すなわち基板201内部に設けた多段の金属部材による電波放射のオン・オフ制御の手段(図24(e)参照)とを備えている。
これを1つのセンサユニット200aについて説明すると、基板201の上面に送信アンテナ(又は、一体アンテナ)202aが形成され、その上に、絶縁層203を介して金属部材(金属層)204aが形成されている。この金属部材204aは、前述した図14に記載の接地構造と同様に、スルーホールに充填した導体209a1,209a2及び基板201の裏面に形成した伝送線路207を介してオン・スイッチ206Aに接続され、このオン・スイッチ206Aが基板201の内部に埋設された共通の第1のGND層205Aに接続されている。このため、オン・スイッチ206Aのオン・オフ動作に応じて金属部材204aは第1のGND層205Aを介して接地状態又は非接地状態となる。
一方、基板201における送信アンテナ202a寄りの所定深さの位置には、アンテナユニット別に第2のGND層205Bが埋設されており、この第2のGND層205Bの下側、すなわち、送信アンテナから離れる方向(基板の厚さ方向)に沿って金属部材210a1〜210a4が順次、不均等ピッチで配設されている。この複数の金属部材210a1〜210a4の不等ピッチの配設構造は、前述した図23のものと同様である。この金属部材210a1〜210a4は、図24(e)に示すように、スルーホールに配置した導体211a1〜211a4を介して別のオン・オフスイッチ206Bにそれぞれ接続される。このオン・オフスイッチ206Bは、第1のGND層205Aに接続されている。このため、オン・スイッチ206Bのオン・オフ動作に応じて金属部材210a1〜210a4の何れかが第1のGND層205Aを介して接地状態又は非接地状態となる。
送信アンテナ202a〜202pのそれぞれは、基板201の内部を、図24(c)に示すように(同図は、断面の取り方の都合によって、センサユニット200e〜200hについて示している)、第2のGND層205B、金属部材210e1〜210e4、及び第1のGND層205Aを遊挿状態で貫通するスルーホールに配置された導体212eを介して、基板201の裏面に配置した発振器、混合器、及びコントローラなどの回路部213に接続されている。
さらに、センサユニット200a〜200pそれぞれの第2のGND層205は、図24(d)に示すように(同図は、断面の取り方の都合によって、センサユニット200i〜200lについて示している)、金属部材210i1〜210i4を基板厚さ方向に遊挿状態で貫通するスルーホールに配置した導体214iを介して第1のGND部材205Aに固定的に接続されており、互いに接地電位に保持される。
センサユニット200a〜200pそれぞれにおいて、上述した積層構造が構成されている。
このように、全センサユニット200a〜200pについて送信アンテナ202a〜202pの電波放射面側に設けた金属部材による電波放射のオン・オフ制御の手段と、送信アンテナ202a〜202pの電波放射面とは反対の裏面側、すなわち基板201内部に設けた多段の金属部材による電波放射のオン・オフ制御の手段とを備えることで、放射する電波のパターン及び角度を可変制御するパラメータが増加することから、より高精度に、より広角に、且つより多様な態様で電波によるスキャンを実行することができる。
なお、上述した各実施形態及びその変形例において実施可能なGND層は、必ずしも上述した構造に限定されるものではなく、例えば図26又は図27に示すように構成してもよい。図26に示すドップラーセンサ200のように、基板201の裏面の、一部のセンサユニット200bに対応する領域のみにGND層205を形成してもよいし、図27に示すドップラーセンサ200のように、基板201の裏面に段差を設け、この段差を越えて一部又は全部のセンサユニット200a、200bに対応する領域にGND層205を形成してもよい。このように、同一のセンサにおいて、送信アンテナ202a、202bからのGND層205までの距離を相違させることで、2枚の送信アンテナとGND間の電磁結合強度が変わり、放射される電波の強度が異なるため、合成された電波が所定の角度に傾くという作用効果を得ることもできる。
(第5の実施の形態)
本発明にかかる高周波センサとしてのドップラーセンサの第5の実施の形態を説明する。
図28に、実際の寸法とは異なるが、このドップラーセンサの第4の実施形態のユニットの要部拡大図を示し、また図29(a)にドップラーセンサの製法図を示し、図29(b)にエアロゾル発生装置113の詳細図を示す。
ドップラーセンサ101は、基板106上に一体アンテナ102、一体アンテナ102上に絶縁層105、更にその上に金属層104とで構成されるユニット100が配置されている。絶縁層105は、後述するエアロゾル発生装置から噴射されたセラミック粒子の衝突エネルギーにより絶縁性を有するセラミック膜が形成されているため、基板105或いは一体アンテナ102上の接合面にアンカー層105a,105bが形成され強固に密着されている。従って、境界層に全く空気が存在しないため、絶縁性能が確保されやすい。従って絶縁層105は他の製法より薄膜に形成できることから金属層104と一体アンテナ102との距離を最小限に構成でき、電波のoff性能を向上させることができる。
以下、本発明にかかるドップラーセンサの製造方法について、図面により詳細に説明する。
本発明を実施して絶縁層105を形成する基板には、予め、表面粗さRaが0.05μm以下となるよう研磨したセラミック基板106を使用し、その表面及び基板の裏面にイオンブレーティング成膜方法を用いて、銅からなる5μmの金属層を略全面に形成した後、エッチング処理を行ない研磨した面の所定の位置に一体アンテナ102、裏面には電位付与手段,発振器,ミキサー,コントローラを実装するパターンが構成されている。更に絶縁層105上にイオンプレーティング法にて一体アンテナ102よりも小さな形状で且つ透過視するとアンテナ上に配置するように金属層104を形成し、金属層104と電位付与手段が導通するようにスルーホール加工し、更にスルーホール内部にメッキ加工をしている。尚、送信アンテナ102及び金属層104の導体の製膜方法としてイオンプレーティング法を採用したが、スパッタリング法でもメッキ方でも良い。但し、あらかじめ研磨した基板が製膜中に荒れたり、後工程で積層できるよう膜の密着強度が保有できるよう注意が必要である。
次に絶縁層105を形成する絶縁層作製装置について概略を説明する。
図29(a)は、絶縁層作製装置の装置図であり、ヘリウムを内蔵するガスボンベ111は、搬送管112を介してエアロゾル発生器113に連結され、さらに搬送管を通じて製膜室114内に5mm×0.5mmの長方形の開口を持つノズル115が設置される。コンピュータにより上下、前後左右に制動できる基板ホルダ117に基板101の送受信アンテナ21cが形成された面がノズルに対向して10mmの間隔をあけて配置される。製膜室114は排気ポンプ118に接続している。
図29(b)はエアロゾル発生器113の詳細図である。エアロゾル発生器113は、容器131内にあらかじめ真空乾燥により十分に吸着水分を除去した、平均一次粒子径が0.6μm以下のアルミナ(Al2O3)のセラミック超微粒子粉体132を内蔵し、図29(b)では図示しない搬送管112に接続された導入部133がセラミック超微粒子粉体132に埋没するように設置される。容器131の上方には上下にスライドできる導出部134が配置され、図29(b)では図示しない搬送管12に接続される。容器131には、機械的振動作用を与える振動器135が接続される。なお、図中の矢印は、ヘリウムガスおよびヘリウムガスにセラミック超微粒子粉体132が混合されたエアロゾル136の流れる向きを示す。
以上の構成からなる絶縁層作製装置の作用を次に述べる。ガスボンベ11を開き、ヘリウムガスを流量2.5リットル/分で搬送管112を通じてエアロゾル発生器113の導入部133から導入し、セラミック超微粒子粉体132を容器131内に巻き上げ、エアロゾル136を発生させる。このとき振動器135の機械的振動作用によりセラミック超微粒子粉体132は、次々と導入部133の開口近傍に供給されるため、安定的にエアロゾル136が発生可能である。エアロゾル136中のセラミック超微粒子のうち、凝集して二次粒子を形成しているものは、その重量が比較的大きいため高く舞い上がることができない。これに対して、重量の小さい一次粒子あるいはそれに準じた比較的小さい粒子は、容器内の上方まで舞い上がることができる。そのため導出部134は高さ方向の位置をスライドさせて適当に設定すれば分級器として働き、所望の粒径のセラミック超微粒子を選抜して導出させることができる。本発明では、1個当りの径が50〜100nmの結晶子が凝縮され径が0.6μm以下となったセラミック超微粒子をガス中に分散させて導出したエアロゾル136が、搬送管112を通じてノズル115より基板106に向けて200〜300m/sの音速、亜音速で噴射される。エアロゾル136の噴射速度は、ノズル115の形状、搬送管112の長さ、内径、ガスボンベ111のガス圧、排気ポンプ118の排気量などにより制御される。これらの制御によりたとえばエアロゾル発生器113の内圧を数万Pa、製膜室114の内圧を数百Paにしてこれらの間に差圧をつけることにより、噴射速度は亜音速から超音速の領域まで加速できる。十分に加速されて運動エネルギーを得たエアロゾル136中のセラミック超微粒子は、基板106および送受信アンテナ102表面に衝突し、図28に示すような基板106および送受信アンテナ102表面に凹凸部の高低差が50〜300nm程度のアンカー層105a,105bを形成するとともに、その衝撃のエネルギーで細かく破砕され平均結晶子径が10nm以下となった微細断片粒子が基板106および送受信アンテナ102の表面に物理的に接着したり、また互いが接着接合して緻密質な絶縁層105を5μm程度形成している。本実施形態の絶縁層は、多結晶であり、前記絶縁層を構成する結晶は実質的に結晶配向性がなく、また前記結晶同士の界面にはガラス層からなる粒界層が実質的に存在しないため、その緻密度は99%以上となり空隙はほとんど存在しない。
このように、粒子径が0.6μm以下のセラミック微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを、基板101に向けて噴射して衝突させ、この衝撃によってセラミック微粒子からなる絶縁層105を送受信アンテナ102の表面に形成すると、絶縁層105内に残留応力は生じる。図30は製法別の残留応力の生じ方を示した図である。図30(a)は本方式による製膜法であり、図30(b)はスパッタリング法又はイオンプレーティング法等の他方式である。本方式では、粒子の物理的な衝撃力で製膜していくため、セラミック粒子108が既に膜状になった絶縁層105上に食い込むように衝突するため、その衝突のエネルギーにより粒子は基板の左右方向に広がる力が掛かる。従って基板106はn−n方向に伸ばされる力が働き、絶縁層105には戻ろうとする力即ち圧縮力がp−p方向にかかる。一方、図30(b)に示すように他方式は、セラミック粒子109が基板106に製膜される際、粒子間または分子間の結合力により引き寄せられ、基板106はq−q方向に力が掛かる。その為基板が元に戻るようなr−r方向の力が作用し、絶縁層105には引っ張り力がかかる。一般に構造物は、引っ張り力よりも圧縮力の方が耐えることができるため、本方式では、10μm程度の膜厚にしても、破壊することなく形成することができる。
また、上記方法により形成された絶縁層105は、すでに焼成体と同程度の硬度を保有しているため、その後の加熱操作などによる焼き締めは必要なく、また、基板106および送受信アンテナ102の表面に絶縁層105を物理的に形成しているため、焼結させて得た絶縁層に比べて緻密である。そして、送受信アンテナ102の表面にアンカー層105bを介し絶縁層105を形成することで、凹凸部に絶縁層105を形成するセラミック材料が食い込み送受信アンテナ102と絶縁層105の密着強度が向上し絶縁層の剥離防止を防止できる。
以上の説明を総括すると、ドップラーセンサの製造方法において、基板の両面に導体を製膜し、エッチング方にて片側は送信アンテナを形成し、他側は電位付与手段を実装するための線路を形成し、次に前記送信アンテナに向かいセラミックの微粒子を高速にて噴射、衝突させ、堆積させ絶縁層を形成し、その表面に金属層を製膜した後、前記基板にスルーホールを形成し、前記スルーホール内部に導体を付着させ前記金属層と前記線路を導通させたことを特徴とする。
ここでいうセラミックとはアルミナ(Al2O3)や石英ガラス(SiO2)を主材料としたセラミック材料である。
基板上に送信アンテナである導体、絶縁層更に金属層である導体を製膜する場合、基板側の導体を完全に絶縁するには導体の厚み+導体のエッジ部分に必要な絶縁層の厚みが必要である。一般に導体の膜厚を5μm前後とすると、絶縁層の厚みは、10μm前後必要となる。
スパッタリングやイオンブレーティングなどの成膜方法により絶縁層を緻密に形成しても良いが、成膜時に基板に衝突するセラミック粒子の大きさが原子レベルのため、形成する絶縁層の厚みが5μm前後と厚くなると、引張り方向の残留応力により破壊する恐れがあり、絶縁層の厚みを厚くしたい場合には不向きである。
そこで、2μm以下のセラミック微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを、前記基板に向けて噴射して衝突させ、この衝撃によってセラミック微粒子からなる絶縁層を形成した場合、絶縁層内に残留応力は生じるが圧縮方向に働くため、10μm程度の膜厚でも破壊することなく形成できる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態や実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。本実施形態においては、アンテナ形状を四角形として説明しているが、その形状は菱形でも円形でも良く同様の効果を得ることができる、など様々な形態が考えられる。
また、前述した実施形態及びその変形例に係るドップラーセンサを成す高周波センサでは、図4〜5に示したように、センサユニット28a,28b,…を形成した積層体、発振器30、ミキサ31、電位付与手段34、及びコントローラ40を一体に形成していたが、本発明に係る高周波センサは必ずしもこの構造に限定されるものではない。例えば、それらの構成要素の少なくとも一部とその残りの構成要素とを互いに別々に形成し、電気信号を相互に送受可能なように構成することもできる。
さらに、本実施形態においては、基板形状を平板状として説明しているが、その形状は曲面状でも円筒状でも良い。そして、基材の表面に平滑層を介して配置されるアンテナの形状も、基材の形状に応じて曲面状や円筒状にすれば良い。