JP4191308B2 - 積層断熱材およびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマー(以下、これを熱可塑性液晶ポリマーと称する)からなるフィルム(以下、これを熱可塑性液晶ポリマーフィルムと称する)を水蒸気や空気などの透過防止材として用い、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの片面もしくは両面または内部に形成した金属層を電磁波遮蔽材、とりわけ放射線遮蔽材として用いた積層断熱材に関する。さらに詳しくは、本発明による積層断熱材は、その水蒸気や空気などの透過防止材として用いる熱可塑性液晶ポリマーフィルムに由来した優れた低透湿性、低ガス透過性により、真空状態での優れた断熱特性を長期間維持することができるだけでなく、優れた電磁波耐性および放射線耐性を有することから、再施工が困難な部位に有利に使用される。
【0002】
【従来の技術】
保温保冷用断熱材は、液化石油ガスタンクなどの大型設備から家庭用冷蔵庫のような小型設備まで広範囲に使用されている。とりわけ、液化石油ガスタンクや冷凍庫などの保冷板として、タンク容器を2重壁構造にして、その間隙に発泡パーライト粉末を充填し、真空封止したもの、アルミニウム蒸着されたポリエステルフィルムをフィルム状プラスチック袋に加工し、微粉末状の断熱材を充填して真空状態で密封された断熱材が知られている(特開昭60−60396号公報)。
【0003】
このような真空断熱構造体は次第に多くの用途の保冷材として利用されており、その適用温度もかなり低温から極低温領域に拡大している。例えば、冷凍保存船では、−40℃近辺の冷凍倉庫の内部隔壁に直接壁材として貼り付ける用途がある。このような場合には、素材の弾力性が要求される。さらに、積層体においては積層部での歪みによるストレスを除去し、温度変化に対する耐久性を高めることも要求される。
【0004】
また、断熱性だけでなく、他の特性が用途によって必要とされる場合がある。その一例として、原子力分野においては強力な電磁波や放射線を遮蔽する性能が要求される場合がある。このような要求には、素材自体の耐久性に加えて、耐久性が向上した積層構造が必要となっている。このような用途に適する積層断熱材については、特開平9−109323号公報において、断熱材の素材として適切な温度範囲でガラス転移点を有しており熱融着が可能であり、耐熱性、耐放射線性を併せ持つ熱可塑性ポリイミド系樹脂を用いた積層断熱材が示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、アルミニウム蒸着されたポリエステルフィルムをフィルム状プラスチック袋に加工し、微粉末状の断熱材を充填して真空状態で密封された断熱材を極低温領域で使用すると、ポリエステルフィルムの特性である室温での柔軟性が失われる固有の性質により、衝撃による破損が発生する。また、強い電磁波や放射線によってポリエステルフィルムの強度や伸びが失われるために、使用時間が経過すると次第に脆くなってしまい、部分的な破損や接着面での剥離を発生する。これらの破損や接着面での剥離は、真空断熱材の袋内圧力を上昇させるので断熱性の低下を招く結果となる。
【0006】
電磁波や放射線に対して耐性のある素材として熱可塑性ポリイミド系樹脂を用いた積層断熱材は、時間の経過とともに水蒸気がプラスチックに吸収されるために断熱性が低下する。とりわけ、プラスチック袋に微粉末状の断熱材を充填して真空状態で密封した断熱材に、アルミニウムを積層した熱可塑性ポリイミド系樹脂を用いた場合には、水蒸気やガスなどの透過防止効果が悪化するために、袋内の圧力が上昇する結果、断熱性は時間の経過とともに劣化する。
【0007】
また、加速器や核融合炉等で超電導装置を用いる場合、液体ヘリウムなどで極低温に冷やす必要があり、この場合、極低温領域において放射線に対する耐性や断熱性が劣化しないことと同時に柔軟性を失わないことも要求される。
【0008】
本発明の目的は、使用環境とりわけ極低温領域で柔軟であり、強い電磁波や放射線に対する耐性があり、断熱性の時間的変化が極めて少ない積層断熱材およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、周囲がシールされた袋状型材内に積層構造体が詰められた構造を有し、該袋状型材が光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマー(以下、これを熱可塑性液晶ポリマーと称する)からなる繊維の織布、編物または不織布から選ばれた少なくとも1種のシート状強化材と熱可塑性液晶ポリマーからなるフィルムとの積層体から構成され、かつ該積層構造体が熱可塑性液晶ポリマーからなるフィルムの片面もしくは両面または内部に金属層を形成した構造の反射板と熱可塑性液晶ポリマーからなる繊維の織布、編物または不織布から選ばれた少なくとも1種のシート状スペーサとが1枚以上交互に積層された構造を有することを特徴とする積層断熱材およびその製造方法を見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、袋状の型材で反射板とシート状スペーサの積層を保持するので、従来のように反射板とシート状スペーサ同士を接着または熱圧着する必要がなく、簡便な方法で製造することができる。また、反射板とシート状スペーサ同士を接着または熱圧着しない場合、反射板とシート状スペーサとが密着することなく、両者の対向面の一部分の間に間隙を生ずるので、接着または熱圧着した場合と比較して、この間隙により外部からのストレスの影響が小さくなり、また断熱性も向上する。
【0011】
本発明において、型材の原料に使用される熱可塑性液晶ポリマー繊維や熱可塑性液晶ポリマーフィルム、反射板の原料に使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルム、シート状スペーサの原料に使用される熱可塑性液晶ポリマー繊維は、いずれも熱可塑性液晶ポリマーから製造される。したがって、本発明は積層断熱材の構成部材に共通の材料を用いているので、製品の歩留りを向上することができる。また、各構成部材を熱可塑性液晶ポリマーで形成しているので、強い電磁波や放射線性に対する耐性を有するとともに、従来の積層断熱材と異なり、低透湿性および低ガス透過性を有するので、水蒸気やガスなどの透過を防止して、断熱性の時間変化を極めて小さくできる。また、極低温領域であっても柔軟性を失わない。
【0012】
本発明に使用される熱可塑性液晶ポリマーの原料は特に限定されるものではないが、その具体例として、以下に例示する(1)から(4)に分類される化合物およびその誘導体から導かれる公知のサーモトロピック液晶ポリエステルおよびサーモトロピック液晶ポリエステルアミドを挙げることができる。但し、光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマーを得るためには、各々の原料化合物の組み合わせには適当な範囲があることは言うまでもない。
【0013】
(1)芳香族または脂肪族ジヒドロキシ化合物(代表例は表1参照)
【0014】
【表1】
Figure 0004191308
【0015】
(2)芳香族または脂肪族ジカルボン酸(代表例は表2参照)
【0016】
【表2】
Figure 0004191308
【0017】
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸(代表例は表3参照)
【0018】
【表3】
Figure 0004191308
【0019】
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸(代表例は表4参照)
【0020】
【表4】
Figure 0004191308
【0021】
これらの原料化合物から得られる熱可塑性液晶ポリマーの代表例として表5に示す構造単位を有する共重合体(a)〜(e)を挙げることができる。
【0022】
【表5】
Figure 0004191308
【0023】
また、本発明に使用される熱可塑性液晶ポリマーとして、フィルムの所望の耐熱性および加工性を得る目的においては、約200〜約400℃の範囲内、とりわけ約250〜約350℃の範囲内に融点を有するものが好ましいが、繊維製造およびフィルム製造の点からは、比較的低い融点の熱可塑性液晶ポリマーの方が好ましい。
【0024】
かかる好ましい熱可塑性液晶ポリマーで安価に入手できるものとして、4−ヒドロキシベンゾイル構造 Iおよび6−ヒドロキシ−2−ナフトイル構造IIの反復単位からなり、構造 Iと構造IIのモル比が65/35から82/18の範囲にある樹脂が挙げられ、これは株式会社ポリプラスチックスからベクトラ(商標)として販売されている。
【0025】
本発明において型材の原料に使用される熱可塑性液晶ポリマー繊維やシート状スペーサの原料に使用される熱可塑性液晶ポリマー繊維としては、用いる熱可塑性液晶ポリマーの種類により種々の特性を有するものが製造されている。したがって、織布、編物または不織布の原料としては、型材への加工における熱可塑性液晶ポリマーフィルムの含浸性やシート状スペーサの嵩高さ保持性などを考慮して、繊維径、フィラメント数、目付などが適宜選択される。繊維径、フィラメント数は通常80デニール/10フィラメント〜300デニール/80フィラメントであり、好ましくは100デニール/20フィラメント〜200デニール/50フィラメントである。また目付は通常40〜80g/m2 であり、好ましくは50〜70g/m2 である。
【0026】
上記の熱可塑性液晶ポリマー繊維で安価に入手できるものとして、4−ヒドロキシベンゾイル構造 Iおよび6−ヒドロキシ−2−ナフトイル構造IIの反復単位からなり、構造 Iと構造IIのモル比が65/35から82/18の範囲にある熱可塑性液晶ポリマーから製造された繊維が挙げられ、これは株式会社クラレからベクトラン(商標)として販売されている。
【0027】
本発明に使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、熱可塑性液晶ポリマーを押出成形して得られる。任意の押出成形法がこの目的のために適用されるが、周知のTダイ法、インフレーション法等が工業的に有利である。特にインフレーション法では、フィルムの機械軸方向(以下、MD方向と略す)だけでなく、これと直交する方向(以下、TD方向と略す)にも応力が加えられるため、MD方向とTD方向における機械的性質および熱的性質のバランスのとれたフィルムを得ることができる。
【0028】
上記の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、分子配向度SORを1.3以下とすることが好ましい。該液晶ポリマーフィルムは、上記のMD方向とTD方向における機械的性質および熱的性質のバランスが良好であるので、より実用性が高い。
【0029】
ここで、分子配向度SOR(Segment Orientation Ratio )とは、分子を構成するセグメントについての分子配向の度合いを与える指標をいい、従来のMOR(Molecular Orientation Ratio)とは異なり、物体の厚さを考慮した値である。この分子配向度SORは、以下のように算出される。
【0030】
まず、周知のマイクロ波分子配向度測定機において、液晶ポリマーフィルムを、マイクロ波の進行方向にフィルム面が垂直になるように、マイクロ波共振導波管中に挿入し、該フィルムを透過したマイクロ波の電場強度(マイクロ波透過強度)が測定される。そして、この測定値に基づいて、次式により、m値(屈折率と称する)が算出される。
m=(Zo/△z)X[1−νmax /νo]
ただし、Zoは装置定数、△zは物体の平均厚、νmax はマイクロ波の振動数を変化させたとき、最大のマイクロ波透過強度を与える振動数、νoは平均厚ゼロのとき(すなわち物体がないとき)の最大マイクロ波透過強度を与える振動数である。
【0031】
次に、マイクロ波の振動方向に対する物体の回転角が0°のとき、つまり、マイクロ波の振動方向と、物体の分子が最もよく配向されている方向であって、最小マイクロ波透過強度を与える方向とが合致しているときのm値を 、回転角が90°のときのm値を 90 として、分子配向度SORは 90 により算出される。
【0032】
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの適用分野によって、必要とされる分子配向度SORは当然異なるが、SOR≧1.5の場合は液晶ポリマー分子の配向の偏りが著しいためにフィルムが硬くなり、かつMD方向に裂け易い。熱可塑性液晶ポリマー繊維の織布、編物または不織布と熱圧着法により積層して得られた型材の反りが殆どないなどの形態安定性が必要とされる場合には、SOR≦1.3であることが望ましい。特に上記の反りを無くす必要がある場合には、SOR≦1.03であることが望ましい。
【0033】
本発明において使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、任意の厚みのものでよく、0.5mm以下の板状またはシート状のものをも包含する。型材の原料に使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルムの膜厚は、通常20〜500μmの範囲内にあることが好ましく、20〜200μmの範囲内にあることがより好ましい。フィルムの厚さが薄過ぎる場合には、フィルムの剛性や強度が小さくなるため、得られた型材を取扱う場合に湾曲し易い。フィルムの厚さが厚過ぎる場合には、積層断熱材を積層する工程で積層断熱材の変形や接着不良を招く。
【0034】
また、反射板の原料に使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルムの膜厚は、10〜150μmの範囲内にあることが好ましく、20〜100μmの範囲内にあることがより好ましい。フィルムの厚さが薄過ぎる場合には、フィルムの剛性や強度が小さくなるため、得られる反射板を取扱う場合に湾曲し易い。フィルムの厚さが厚過ぎる場合には、積層断熱材を積層する工程で反射板端面での変形や接着不良を招く。
【0035】
なお、熱可塑性液晶ポリマーフィルムには、シリカアエロジル、珪藻土、パーライトなどの粉末や発泡パーライト、シリカマイクロバルーンのような中空球状粉末が添加されていてもよく、また滑剤、酸化防止剤などの添加剤が配合されていてもよい。
【0036】
さらに、反射板の原料に使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱膨張係数は、該液晶ポリマーフィルムの片面もしくは両面または内部に形成された金属層の熱膨張係数と実質的に同一であることが好ましい。熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、熱処理することにより、該液晶ポリマーフィルムの片面もしくは両面または内部に形成された金属層の熱膨張係数と実質的に同一にすることができる。この結果、冷凍保管倉庫などの出入口など使用温度が極低温から室温まで繰り返し頻繁に変化する場所などに使用された積層断熱材において、反射板の温度変化による界面剥離の発生が防止され、時間的な断熱性変化が発生しないので信頼性が高められる。
【0037】
上記の熱処理は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの片面もしくは両面または内部に金属層を形成する前または後に行ってもよい。また、該フィルムは金属層を形成する段階で加熱されると、その熱膨張係数が変化することがあるので、この点を事前に考慮したプロセスを設計する必要がある。さらに、熱処理の手段としては特に制限はなく、熱風循環炉、熱ロール、セラミックヒーター、熱プレスなどを例示することができる。
【0038】
また、熱処理の温度としては、上記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱膨張係数が、該フィルムの片面もしくは両面または内部に形成した金属層の熱膨張係数よりも大きい場合には、フィルムの融点よりも140℃低い温度から、該融点までの温度範囲を選択することが好ましい。この温度範囲では、フィルムの熱膨張係数を最大で18×10-6cm/cm/℃低くすることができる。この熱膨張係数は処理時間によっても調整することができる。
【0039】
他方、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱膨張係数が、該フィルムの片面もしくは両面または内部に形成する金属層の熱膨張係数よりも小さい場合には、熱処理の温度としては、該フィルムの融点からこの融点より20℃高い温度までの温度範囲を選択することが好ましい。この温度範囲では、フィルムの熱膨張係数を最大で30×10-6cm/cm/℃大きくすることができる。熱膨張係数は処理時間によっても調整することができる。
【0040】
また、上記積層断熱材の温度変化に対する信頼性をより高めるためには、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの片面もしくは両面または内部に形成する金属層の熱膨張係数をP×10-6cm/cm/℃としたときに、該フィルムの熱膨張係数が、(P−10)×10-6cm/cm/℃から(P+10)×10-6cm/cm/℃の範囲内になるように調節することが好ましい。この範囲から外れると、金属層と該フィルムからなる基板との間の界面剥離の発生が多くなる傾向にある。ここで、銅、アルミニウムなどの代表的な金属のP値は11〜30である。
【0041】
本発明において反射板の原料に使用される金属層の材質としては、熱や電磁波や放射線を遮蔽するために使用されるような金属等から選択され、好ましくは金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄、鋼、錫、鉛、真鍮、マグネシウム、モリブデン、銅/ニッケル合金、銅/ベリリウム合金、ニッケル/クロム合金、およびこれらの混合物が挙げられる。とりわけ、放射線遮蔽には鉛が好ましい。
【0042】
これらの金属は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと熱圧着法によって加工することにより該液晶ポリマーフィルムの片面もしくは両面または内部に金属層を形成することができる。すなわち、該液晶ポリマーフィルムの片面または両面に金属箔を配置して熱圧着したり、金属箔の両面に該液晶ポリマーフィルムを配置して熱圧着することにより製造される。熱圧着の手段としては特に制限はなく、熱ロール、熱プレスなどを例示することができる。気泡などの欠陥を含有しない反射板を製造する場合は、真空状態で加熱および加圧のできる真空熱プレス法により行うのが好ましい。
【0043】
本発明の積層断熱材は、熱可塑性液晶ポリマーからなる繊維の織布、編物または不織布から選ばれた少なくとも1種のシート状強化材と熱可塑性液晶ポリマーからなるフィルムとの積層体から構成された型材2枚の間に、熱可塑性液晶ポリマーからなるフィルムの片面もしくは両面または内部に金属層を形成した構造の反射板と熱可塑性液晶ポリマーからなる繊維の織布、編物または不織布から選ばれた少なくとも1種のシート状スペーサとを1枚以上交互に積層させ、次いで前記2枚の型材を袋状に周囲をシールすることにより製造される。
【0044】
更に具体的には、型材の大きさよりも小さい反射板とシート状スペーサとを1枚以上交互に重ね合せて反射板相互の間隙を保つように積み重ねた後に、型材の周囲を熱圧着することにより製造される。この方法において型材の熱圧着の手段としては特に制限はなく、インパルスシーラーのような板状加圧加熱機や金型を使用した熱プレスなどを例示することができる。
【0045】
積層断熱材の断熱性を飛躍的に高める熱圧着方法として特に好ましいのは、真空状態で加熱および加圧のできる真空熱プレス法である。この設備を使用する場合には、金属製の枠を使用して型材の部分のみが加熱されるようにすることが必要である。
【0046】
本発明において、該真空熱プレス法を使用して積層断熱材を積層する時に好ましい真空度は、1torr以下である。積層断熱材の各構成部材は、熱可塑性液晶ポリマーからなり、その低透湿性および低ガス透過性により、真空状態での優れた断熱特性を長時間維持することができる。真空度が悪い場合には、常圧で製造した積層断熱材と比べて断熱性の改善効果が少ない。なお、このような真空状態で製造した積層断熱材は、型材の積層を完了した後に常圧に戻されると大気圧によって反射板やシート状スペーサが押し付けられて、反射板の端部での衝撃異常を発生し易くなるので、シート状スペーサの厚みを増やしたり、使用枚数を増やすなどの方法を採用して反射板相互の間隙を増やすのが好ましい。
【0047】
また、真空状態で製造した積層断熱材に用いる反射板としては、反射板を柔軟にするために金属層が変形し易くなるようにそれを構成する金属を選択し、また柔軟性のある熱可塑性液晶ポリマーフィルムを選択するのが好ましい。この場合に用いられる熱可塑性液晶ポリマーフィルムとしては、前述した4−ヒドロキシベンゾイル構造 Iおよび6−ヒドロキシ−2−ナフトイル構造IIの反復単位からなり、構造 Iと構造IIのモル比が65/35から82/18の範囲にある熱可塑性液晶ポリマー樹脂から製造されるものが好ましい。
【0048】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る積層断熱材の構成を示す。図1(a)に示すように、積層断熱材は、2枚の型材Dの間に、型材Dの大きさよりも小さい反射板Bとシート状スペーサCを1枚以上交互に重ね合わせて積層したものである。図1(b)に示すように、積層断熱材は、2枚の型材Dの間に反射板Bとシート状スペーサCを多数積層させた状態で、これら型材Dの周囲を熱圧着することにより袋状に形成される。この積層は、真空度1torr以下で行われる。
【0049】
図1(a)に示すように、上記型材Dは、熱可塑性液晶ポリマー繊維からなる織布、編物または不織布から選ばれた少なくとも1種のシート状強化材2と、熱可塑性液晶ポリマーフィルムAとの積層体からなる。反射板Bは、熱可塑性液晶ポリマーフィルムAの片面もしくは両面または内部に例えばアルミ箔のような金属層4を形成した構造をもつ。シート状スペーサCは、熱可塑性液晶ポリマー繊維からなる織布、編物または不織布から選ばれたものである。
【0050】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。なお、以下の実施例において、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点、膜厚の測定、熱伝導率の評価および放射線暴露試験は以下の方法により行った。
(1) 融点
示差走査熱量計を用いて、フィルムの熱挙動を観察して得た。すなわち、供試フィルムを20℃/分の速度で昇温して完全に溶融させた後、溶融物を50℃/分の速度で50℃まで急冷し、再び20℃/分の速度で昇温した時に現れる吸熱ピークの位置を、フィルムの融点として記録した。
(2)膜厚
デジタル厚み計(株式会社ミツトヨ製)を用い、得られたフィルムをTD方向に1cm間隔で測定し、中央部および端部から任意に選んだ10点の平均値を膜厚とした。
(3)熱伝導率
ダイナテック社のK−マチック熱伝導率測定装置を使用し、ASTM−C518に準じて、13℃と34℃との温度差における値を測定した。
(4)放射線強制暴露試験
照射線量50MGyのγ線を大気圧下で積層断熱材全体に照射した。
【0051】
〔参考例1〕
p−ヒドロキシ安息香酸73モル%と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸27モル%の共重合物で、融点が280℃である熱可塑性液晶ポリマーを溶融押出し、インフレーション成形法により膜厚が50μm、円周60cm、分子配向度SORが1.05のフィルムを得た。このフィルムを図1(a)の熱可塑性液晶ポリマーフィルムAとする。
【0052】
〔参考例2〕
参考例1で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムAを、硬質アルミ箔(株式会社東洋アルミ製、A1N30H、厚み50μm)2枚の間に配置し、熱プレス装置にて280℃、30kg/cm2 で5分間加熱圧着して反射板を得た。この反射板を図1(a)の反射板Bとする。
【0053】
〔参考例3〕
p−ヒドロキシ安息香酸73モル%と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸27モル%の共重合物で、融点が280℃である熱可塑性液晶ポリマーから溶融紡糸法により製造された繊維(株式会社クラレ製、ベクトラン、50デニール)を用いて、タテ密度およびヨコ密度が56本/インチで、目付52g/m2 に平織りしてシート状スペーサ(クッション材)を製造した。このシート状スペーサを図1(a)のシート状スペーサCとする。
【0054】
〔参考例4〕
参考例3で得られたシート状スペーサCを、参考例1で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムA2枚の間に配置し、熱プレス装置にて280℃、30kg/cm2 で5分間加熱圧着して型材を得た。この型材を図1(a)の型材Dとする。
【0055】
〔実施例1〕
参考例4で得られた型材Dから縦35cm、横35cmの平板2枚を切出した。別に参考例2で得られた反射板Bから縦30cm、横30cmの平板4枚を、参考例3で得られたシート状スペーサーCから縦30cm、横30cmの平板5枚を切り出した。図1(b)のように、これらの材料を中心が一致するように、D/C/B/C/B/C/B/C/B/C/Dの構成に積み重ねた。その後に、幅0.5cmの2枚の加熱板を備えた熱圧着密封装置(インパルスシーラー)を使用して、型材Dの端部より2cmから2.5cmの幅0.5cmの部分を2kg/cm2 の圧力で圧着した状態で加熱し、圧着温度が260℃になった時点で加熱をやめ、3秒間自然冷却し、端部4ケ所をシールして密閉し、袋状の積層断熱材を得た。
【0056】
上記の積層断熱材を20℃、65%相対湿度の部屋に24時間放置したのちに、製造時の熱伝導率を測定したところ、0.033kcal/mh℃であった。水蒸気を早く吸収させて時間変化を測定するために、50℃、85%相対湿度の恒温恒湿装置内に60日間保存したのちに、保存後の熱伝導率を測定したところ、0.041kcal/mh℃と僅かに増加したが、変化は許容できる程度であった。更に、放射線強制暴露試験後に暴露後の熱伝導率を測定したところ、0.032kcal/mh℃と初期の断熱性を保持していた。
【0057】
〔実施例2〕
実施例1において、型材Dの端部のシールを真空タンク内で行い、その真空タンク内部の圧力を1Torrに排気した以外は、実施例1と同様な条件で端部をシールして密閉した。その後に真空タンク内に外気を入れて大気圧(760Torr)とし、大気圧で密着した形状の積層断熱材を得た。実施例1と同様に、20℃、65%相対湿度の部屋に24時間放置したのちに、製造時の熱伝導率を測定したところ、0.0041kcal/mh℃であり、実施例1よりも顕著に低い値で断熱性の向上が確認された。実施例1と同様に測定した保存後の熱伝導率を測定したところ、0.0042kcal/mh℃と殆ど変化しなかった。更に、暴露後の熱伝導率も、0.0041kcal/mh℃と変化しなかった。
【0058】
〔比較例1〕
実施例1において、反射板Bの原料である熱可塑性液晶ポリマーフィルムAの代りにポリエステルフィルム(厚み50μm)を用いて、熱プレス条件を220℃、5kg/cm2 で5分間加熱圧着して得た反射板を用い、シート状スペーサCの原料である熱可塑性液晶ポリマー繊維の代りに50デニールのポリエステル繊維を用いて製造したシート状スペーサを用い、型材Dの原料として熱可塑性液晶ポリマーフィルムAの代りにポリエステルフィルム(厚み50μm)を、また熱可塑性液晶ポリマー繊維の代りに50デニールのポリエステル繊維を用いて、熱プレス装置にて220℃、5kg/cm2 で5分間加熱圧着して得た型材をそれぞれ用いて、圧着温度220℃とした以外は実施例1と同様に積層断熱材を作製した。製造時の熱伝導率は0.085kcal/mh℃、保存後の熱伝導率は0.090kcal/mh℃と大きい。放射線暴露試験後には、積層断熱材の型材の外面のポリエステルフィルムが黒変して脆くなっているだけでなく、放射線処理後に測定した暴露後の熱伝導率は0.232kcal/mh℃と極端に変化しており、断熱材としての機能が失われていた。さらに、内部のシート状スペーサも一部分変色し脆くなっており、初期の弾力性が低下しているのが観察された。
【0059】
【発明の効果】
本発明によれば、実施例から明らかなとおり、熱可塑性液晶ポリマー繊維と熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いて製造した本発明の積層断熱材は、使用環境とりわけ極低温領域でも柔軟であり、強い電磁波や放射線に対する耐性に優れており、断熱性の時間的変化が極めて少ない性能を有しており、産業用のみならず家電用の断熱材として有用である。また、本発明によれば、シート状スペーサと、反射板とを接着または熱圧着することなく積層する簡便な方法が提供されているので、優れた性能を有する積層断熱材を工業的に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係る積層断熱材の積層状態を示す断面図であり、(b)は積層断熱材を示す一部破断した側面図である。
【符号の説明】
A…熱可塑性液晶ポリマーフィルム、B…反射板、C…シート状スペーサ(熱可塑性液晶ポリマー繊維)、D…型材。

Claims (5)

  1. 周囲がシールされた袋状型材内に積層構造体が詰められた構造を有し、該袋状型材が光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマー(以下、これを熱可塑性液晶ポリマーと称する)からなる繊維の織布、編物または不織布から選ばれた少なくとも1種のシート状強化材と熱可塑性液晶ポリマーからなるフィルムとの積層体から構成され、かつ該積層構造体が熱可塑性液晶ポリマーからなるフィルムの片面もしくは両面または内部に金属層を形成した構造の反射板と熱可塑性液晶ポリマーからなる繊維の織布、編物または不織布から選ばれた少なくとも1種のシート状スペーサとが1枚以上交互に積層された構造を有することを特徴とする積層断熱材。
  2. 請求項1において、
    前記反射板に使用される熱可塑性液晶ポリマーからなるフィルムが、4−ヒドロキシベンゾイル構造 Iおよび6−ヒドロキシ−2−ナフトイル構造IIの反復単位からなり、構造 Iと構造IIのモル比が65/35から82/18の範囲にあることを特徴とする積層断熱材。
  3. 熱可塑性液晶ポリマーからなる繊維の織布、編物または不織布から選ばれた少なくとも1種のシート状強化材と熱可塑性液晶ポリマーからなるフィルムとの積層体から構成された型材2枚の間に、熱可塑性液晶ポリマーからなるフィルムの片面もしくは両面または内部に金属層を形成した構造の反射板と熱可塑性液晶ポリマーからなる繊維の織布、編物または不織布から選ばれた少なくとも1種のシート状スペーサとを1枚以上交互に積層させ、次いで前記2枚の型材を袋状に周囲をシールすることを特徴とする積層断熱材の製造方法。
  4. 請求項3において、
    前記積層を真空度1torr以下で行うことを特徴とする積層断熱材の製造方法。
  5. 請求項3または4において、
    前記反射板に使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルムが、4−ヒドロキシベンゾイル構造 Iおよび6−ヒドロキシ−2−ナフトイル構造IIの反復単位からなり、構造 Iと構造IIのモル比が65/35から82/18の範囲にあることを特徴とする積層断熱材の製造方法。
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