JP4187373B2 - 化学気相成長用銅原料及びこれを用いた薄膜の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、化学気相成長(以下、CVDと記載する)用に用いられる銅原料及び該原料を用いる銅系薄膜の製造方法に関し、詳しくは、室温で液体である銅(II)のβ−ジケトネート錯体からなるCVD原料及びこれを用いた銅系薄膜の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
銅及び銅系合金は、高い導電性、エレクトロマイグレーション耐性からLSIの配線材料として応用されている。また、銅を含む複合金属酸化物は、高温超電導体等の機能性セラミックス材料として応用が期待されている。
【0003】
これら銅、銅を含む合金、銅を含む複合金属酸化物等の銅系薄膜の製造方法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法等が挙げられるが、加工寸法が微細になるに従い、組成制御性、段差被覆性、段差埋め込み性に優れること、LSIプロセスとの適合性等からCVD法が最適な薄膜製造プロセスとして検討されている。
【0004】
しかしながら、銅系薄膜をCVD法によって製造するための銅のCVD原料は、これまでに提案されたものが必ずしも十分な特性を有しているものではなかった。例えば、ジピバロイルメタナト銅に代表される固体の銅(II)のβ−ジケトネート錯体は、固体ゆえ、原料の気化工程において、昇華現象でガス化させるか、あるいは、融点以上の高温に原料を保つ必要があり、揮発量不足、経時変化等の原料ガス供給性やインラインでの原料の輸送に問題があった。これに対し、固体原料を有機溶剤に溶解させた溶液を用いる溶液CVD法が特開平5−132776号公報、特開平8−186103号公報等で提案されているが、固体原料では、気化装置中での温度変化や溶剤の部分的揮発、濃度変化が原因の固体析出を起こし、配管の詰まり等により供給量が経時的に減少する傾向があるので、成膜速度や銅組成制御性について安定した薄膜製造が得られないという問題が残っている。
【0005】
また、特開平10−140352号公報、特開平10−195654号公報には、液体で、揮発性の大きい原料である銅(I)のβ−ジケトネート錯体に有機珪素化合物を付加させた銅化合物の使用が提案されているが、該化合物は、熱的、化学的に不安定な化合物であり、低温で分解する、多成分系での使用に適さない等の問題がある。
【0006】
更に、米国特許5980983号には、二種類以上のβ−ジケトンの混合物を使用することで得た液体のβ−ジケトネートを用いる方法が報告されているが、混合物なので薄膜製造条件の安定性、固体析出に問題が残る。
【0007】
従って、本発明の目的は、各種CVD法に適する充分な安定性を有し、単一で液体であるCVD用銅原料及び該原料による銅系薄膜のCVD法による製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、検討を重ねた結果、液体である銅(II)のβ−ジケトネートを見出し、該化合物を用いることにより、上記課題を解決し得ることを知見した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、下記一般式(1)で表される室温で液体である銅(II)のβ−ジケトネート錯体からなるCVD用原料を提供するものである。
【化3】
(式中、Rはイソプロピル基又は第三ブチル基を表し、R 1 はメチル基又はエチル基を表し、R 2 はプロピル基又はブチル基を表す)
【0010】
また、本発明は、上記原料を用いて基板上に化学的気相成長させることを特徴とする銅系薄膜の製造方法を提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明に係るCVD用銅原料とは、室温で液体である銅(II)のβ−ジケトネート錯体からなることが特徴であり、該錯体は、既存の固体である銅(II)錯体からなるCVD用銅原料と同等の熱的、化学的安定性を有する液体である。
【0014】
上記錯体については、下記一般式(1)で表される銅錯体が、原材料のβ−ジケトンを比較的容易に得られること、分子内にハロゲン元素や窒素元素等の薄膜製造時に影響を及ぼすと考えられる元素を含んでいないことから好ましい。
【0015】
【化4】
(式中、Rはイソプロピル基又は第三ブチル基を表し、R1 はメチル基又はエチル基を表し、R2 はプロピル基又はブチル基を表す)
【0016】
上記の錯体の配位子化合物であるβ−ジケトンは、該当するケトンと有機酸エステル、酸ハライド等の有機酸の反応性誘導体との公知の縮合反応によって得られる。
【0017】
例えば、Rがイソプロピル基である銅錯体の配位子である2−メチル−6−エチルデカン−3,5−ジオンは、イソプロピルメチルケトンと2−エチルヘキサン酸フェニルをナトリウムアミドで縮合させることにより得ることができ、Rが第三ブチル基である銅錯体の配位子の場合もピナコリンと2−エチルヘキサン酸フェニルから同様に得られる。
【0018】
本発明に係る銅(II)のβ−ジケトネート錯体の製造方法は、何ら制限を受けず、β−ジケトンと銅塩との公知の反応によって得ることができ、例えば、水酸化銅(II)とβ−ジケトンから合成される。
【0019】
また、本発明に係る銅系薄膜とは、その組成物中に銅元素含有する薄膜のことであり、例えば、配線材料としては、銅、銅−アルミニウム合金、銅−銀合金等が挙げられ、高温超電導酸化物材料としては、イットリウム−バリウム−銅酸化物、ビスマス−ストロンチウム−カルシウム−銅酸化物、タリウム−バリウム−カルシウム−銅酸化物等が挙げられる。
【0020】
本発明に係るCVD法による銅系薄膜の製造方法は、上記の液体である銅(II)のβ−ジケトネート錯体を原料に用いることが特徴であり、その際の原料供給方法、成膜方法等の製造条件には、特に制限を受けず公知の方法を用いることができる。
【0021】
例えば、原料供給方法については、錯体原料を単独で用いる方法や、錯体原料を溶液にして用いる溶液法を用いることができる。この場合に用いられる有機溶剤は、錯体原料を充分に溶解させるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール(IPA)、n−ブタノール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルアルコール類、テトラヒドロフラン、グライム、ジグライム、トリグライム、ジブチルエーテル等のエーテル類、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類が挙げられ、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等によって適宜選択されるが、特にテトラヒドロフラン、グライム、ジグライム等のエーテル類が錯体の安定化効果もあり好ましく用いられる。
【0022】
また、製造される銅系薄膜が多成分系である合金や複合酸化物である場合、CVD原料を、各成分独立で気化させて、成膜時に混合する方法を用いてもよく、多成分混合状態で気化させる方法を用いてもよい。
【0023】
CVD法では、溶液を原料とする溶液CVD法も含め、原料又は原料溶液に、金属元素供給源である金属化合物の安定化剤及び/又は溶液の安定化剤として、求核性試薬が用いられることがある。本発明の銅原料の場合、特に安定性に優れるので必ずしも必要ではないが、下記のような安定化剤を使用してもよい。該安定化剤としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N, N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル等のβ−ケトエステル類又はβ−ジケトン類が挙げられる。
【0024】
これら安定剤の使用量は、CVD原料1モルに対して0.1〜10モルの範囲で使用され、好ましくは1〜4モルで使用される。
【0025】
また、本発明に係る銅系薄膜を製造するために用いる成膜法は、例えば、熱CVD、プラズマCVD、光CVD等の方法を挙げることができるが、一般にCVD装置に採用される成膜法であれば特に制限を受けない。
【0026】
例えば、熱CVDの場合は、先ず、原料を気化させて基板上に導入し、次いで、原料を基板上で分解させて銅系薄膜を基板上に成長させるのであるが、気化させる工程では原料の分解を防止するために100torr以下、特に50torr以下の減圧下で、分解温度以下で気化させることが好ましい。また、基板は予め原料の分解温度以上、好ましくは250℃以上、より好ましくは350℃以上に加熱しておくことが好ましい。また、得られた薄膜には必要に応じてアニール処理を行ってもよい。
【0027】
上記基板としては、例えば、シリコンウエハ、セラミックス、ガラス等が挙げられる。
【0028】
【実施例】
以下、製造例及び実施例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の製造例及び実施例によって何ら制限を受けるものではない。
【0029】
〔製造例1〕
<ジ(2−メチル−6−エチルデカン−3,5−ジオナト)銅の合成>
500ml四つ口フラスコに水酸化銅(II)10.0g、トルエン200g、2−メチル−6−エチルデカン−3,5−ジオン43.6gを仕込み、生成する水を除きながら2時間還流した。反応液を冷却後、5Cの濾紙で濾過し、濾液を脱溶媒し、暗緑色液体47.7g(収率95.7%)を得た。得られた液体のIR吸収より、β−ジケトンに特徴的な1600cm-1のピークが無いことを確認し、以下に示す銅のβ−ジケトナト錯体に特徴的な吸収波数を確認した。2958cm-1、2931cm-1、2873cm-1、1558cm-1、1525cm-1、1417cm-1、451cm-1。また、ICPによる銅含有量測定の結果は、理論値13.07%に対し13.13%でありよく一致した。
【0030】
〔製造例2〕
<ジ(2,2−ジメチル−6−エチルデカン−3,5−ジオナト)銅の合成>
500ml四つ口フラスコに水酸化銅(II)10.0g、トルエン200g、2,2,6−トリメチルノナン−3,5−ジオン47.0gを仕込み、生成する水を除きながら2時間還流した。反応液を冷却後、5Cの濾紙で濾過し、濾液を脱溶媒し、暗緑色液体50.1g(収率95.0%)を得た。得られた液体のIR吸収より、β−ジケトンに特徴的な1600cm-1のピークが無いことを確認し、以下に示す銅のβ−ジケトナト錯体に特徴的な吸収波数を確認した。2960cm-1、2933cm-1、2873cm-1、1567cm-1、1525cm-1、1427cm-1、470cm-1。また、ICPによる銅含有量測定の結果は、理論値12.36%に対し12.41%でありよく一致した。
【0031】
〔実施例1〕
<CVD法による銅薄膜の製造>
図1に示すCVD装置を用いて、シリコンウエハ上に、原料温度130℃、キャリアガス;アルゴン、90sccm、反応圧力;4torr、反応温度;450℃で銅成膜を10分間行った。原料は、実施例としてA;ジ(2,2,6−トリメチルノナン−3,5−ジオナト)銅、B;ジ(2,2−ジメチル−6−エチルデカン−3,5−ジオナト)銅を使用し、比較例として類似構造で固体であるC;ジ(2,2,6−トリメチルオクタン−3,5−ジオナト)銅、D;ジ(2,2−ジメチルデカン−3,5−ジオナト)銅、E;ジ(2,2−ジメチル−6−エチルオクタン−3,5−ジオナト)銅を用いた。成膜後、アルゴン中で500℃、10分間アニールを行った。これを連続して十回繰り返し、一回目と十回目の膜厚を触針段差計で測定し、一回目と十回目の成膜速度の差により経時変化を観察した。製造した薄膜の組成はX線回折で銅であることを確認した。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
〔実施例2〕
<溶液CVD法による銅薄膜の製造>
図2に示すCVD装置を用いて、シリコンウエハ上に、気化室温度200℃、原料流量;0.05ml/min、キャリアガス;アルゴン、90sccm、反応圧力;9torr、反応温度;450℃で銅成膜を5分間行った。原料は、実施例としてA’;ジ(2,2,6−トリメチルノナン−3,5−ジオナト)銅、B’;ジ(2,2−ジメチル−6−エチルデカン−3,5−ジオナト)銅のそれぞれの0.2mol/リットル濃度テトラヒドロフラン溶液を使用し、比較例として類似構造で固体であるC’;ジ(2,2,6−トリメチルオクタン−3,5−ジオナト)銅、D’;ジ(2,2−ジメチルデカン−3,5−ジオナト)銅、E’;ジ(2,2−ジメチル−6−エチルオクタン−3,5−ジオナト)銅のそれぞれの0.2mol/リットル濃度テトラヒドロフラン溶液用いた。成膜後、アルゴン中で500℃、10分間アニールを行った。これを連続して十回繰り返し、一回目と十回目の膜厚を触針段差計で測定し、一回目と十回目の成膜速度の差により経時変化を観察した。製造した薄膜の組成はX線回折で銅であることを確認した。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
【発明の効果】
本発明は、各種CVD法に適する充分な安定性を有し、液体であるCVD用銅原料及び該原料による銅系薄膜のCVD法による製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の銅系薄膜の製造に用いられるCVD装置の一例を示す概要図である。
【図2】図2は、本発明の銅系薄膜の製造に用いられるCVD装置の別の例を示す概要図である。
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