JP4184742B2 - 歯科用咬合器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、下あごと上あごとの相対的な動作を再現するための歯科用咬合器に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の咬合器として、特許文献1および特許文献2に記載の平均値咬合器がある。これら咬合器は、上下に対向配置される下フレームと上フレームとを有する。上フレームは、下フレームに立設した一対のアームで浮動支持され、さらにばねで定位置に復帰付勢されて、水平軸まわりに上下揺動でき、しかも咬合平面にそって左右偏心できる。片持ち支持された上フレームの姿勢を調整するために、上フレームの前端に調整軸(インサイザルピン)を配置し、その軸下端を下フレームに設けたテーブルで支えている。他にも上フレームの初期姿勢を調整するための位置調整機構が、上フレームとアームとの間に設けてある。
【0003】
【特許文献1】
特開平6−178785号公報(段落〔0018〕−〔0055〕、図1)
【特許文献2】
特開平11−28217号公報(段落〔0031〕−〔0118〕、図1)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記の咬合器によれば、下あごと上あごとの相対的な動作のうち、下あごの上下開閉運動と、歯列の咬合平面に沿う左右偏心運動とを近似的に再現でき、上フレームを斜め上方へ交代スライドさせて、回転滑走運動を擬似的に再現できる。しかし、あご関節の角度として平均値を使用するので、患者によっては適正な咬合運動を再現できないうえ、下あごを後退させるときの後退運動などを再現できないうらみがある。
【0005】
また、回転滑走運動時には、上フレームが斜め後方へ直線的に移動するだけであるから、回転滑走運動を正確に再現できない。上下のフレームを両手で支えて回転滑走運動を再現するとき、上フレームを支持するヒンジ部分が外れやすいうえ、咬合器が重たく操作し難い。左右偏心運動時に、上フレームが1点まわりに傾動旋回し、旋回先端側の垂直方向の高さが変化するため、咬合運動を正確に再現できない。
【0006】
さらに、上フレームの浮動支持構造や位置調整機構が不可欠で全体構造が複雑となるため、咬合器の価格が高く付く。ユーザーとなる歯科医院や歯科技工所では、患者数に見合う10〜20個もの咬合器を常に用意しておく必要があるため、咬合器を導入する際のコスト負担が膨大になるのを避けられない。先に説明した全ての運動を再現できる全調節性咬合器は既にあるが、これは先の平均値咬合器よりもさらに高価であり、コスト面で実用性に欠ける。
【0007】
上記のように平均値咬合器は高価であるうえ、上フレームの初期姿勢の調整に手間が掛かるため、実際の歯科医療現場では簡易形の咬合器を用いることが多い。簡易形の咬合器は、上フレームおよび下フレームのそれぞれが金属線材をU字状に折り曲げて形成されている。上フレームは下フレーム側に設けたアームで上下揺動自在に支持されて、下あごの上下揺動運動を再現でき、さらに下フレームとアームとを密巻きしたコイルばねで連結することにより、咬合平面に沿う左右偏心運動に似た動作を概略再現できる。しかし、左右偏心運動を行う場合にコイルばねが全周方向へ撓み変形し、上下フレームの間隔が変化するので、下あごの左右偏心運動や、前方運動を正確に再現できない。もちろん回転滑走運動や、後退運動は再現できない。
【0008】
本発明者は、歯科医としてユーザーの立場から咬合器のあるべき姿を検討し直し、さらに下あごの動作をより忠実に再現するための咬合メカニズムに関する研鑚を重ねた結果、従来の咬合器に重大な問題のあることに気付いた。
【0009】
すなわち、従来の平均値咬合器は、下フレームと一対のアームとを固定しておき、上フレームを上下あるいは左右運動させて、上下の両フレームに固定した模型の咬合状況を確認する構造になっている。このように、下フレームを固定して上フレーム側を動かす咬合構造は、人体の咬合動作を相対的な動作として再現しているものの、上あごが固定され下あごのみが動く人体の動きとは根本的に異なっており、そのことが円滑な回転滑走運動や、後退運動を再現できない要因であるとの確信を得、現在使用されている自由運動咬合器の臨床的な正確さを受け継ぎながら、患者ごとに異なるあご関節の前後および左右回転、さらに回転滑走運動などを咬合平面上で正確に再現できる咬合器を試作検討し、本発明を提案するに至った。
【0010】
本発明の目的は、上下開閉運動、左右偏心運動、回転滑走運動、および後方運動などの咬合動作を近似的に再現できるうえ、咬合器の全体構造を著しく簡素化して、その製造に要するコストを大幅に削減できる歯科用咬合器を提供することにある。
【0011】
本発明の目的は、上フレームと下フレームとが、弾性アーム、上ヒンジおよび下ヒンジを介して連結されている2関節型の歯科用咬合器を提供することにある。
【0012】
本発明の目的は、咬合器の初期姿勢、なかでも弾性アームと下フレームとの接近限界角を個々の患者に合わせて変更調整でき、従って平均値咬合器に比べて咬合運動をより正確に再現できる歯科用咬合器を提供することにある。
【0013】
本発明の目的は、咬合器の全体構造が簡単で、平均値咬合器に比べて著しく軽量化でき、従って咬合運動の確認が簡易型の咬合器と同様に手軽に行える歯科用咬合器を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の咬合器は、図1に示すように、上下に対向配置される上フレーム1および下フレーム2と、両フレーム1・2の後端どうしを連結する左右一対の弾性アーム3とを備えている。各弾性アーム3は、捻れ弾性を発揮できる板ばねで形成する。上フレーム1と弾性アーム3とは、上ヒンジ4を介して相対揺動可能に連結する。下フレーム2と弾性アーム3とは、設定値を越える外力が作用する状態でのみ相対揺動できる下ヒンジ5を介して連結する。弾性アーム3と下フレーム2との間には、弾性アーム3と下フレーム2との接近限界を規定するストッパー20を設ける。弾性アーム3と下フレーム2とが接近限界姿勢に屈折した状態において、下ヒンジ5のヒンジ中心が上ヒンジ4のヒンジ中心より後方に位置するとともに、弾性アーム3が後方に下り傾斜しているようにしたものである。
下フレーム2または弾性アーム3と上フレーム1との間には、上フレーム1を下方揺動不能に支持する支持構造26が設けられている。そして、この歯科用咬合器は、上下のフレーム1・2に石膏模型M1・M2を固定し、上下フレーム1・2を相対操作することで、あごの上下開閉運動、あごの左右偏心運動、下あごの後方運動、および下あごの回転滑走運動を再現できるようになっており、下フレーム2を上ヒンジ4のヒンジ中心まわりに回転操作することで、あごの上下開閉運動を再現して、石膏模型M1・M2の歯牙列の噛み合いを確認できるようになっており、上フレーム1と下フレーム2とを相対的に左右方向へ捻り操作することにより、あごの左右偏心運動を再現し、石膏模型M1・M2の咬合状態を確認できるようになっており、上フレーム1を固定し、下フレーム2を通常の噛み合い位置Nから後方へ移動操作することで、下あごの後方運動を再現できるようになっており、上フレーム1を固定し、下フレーム2を通常の噛み合い位置Nから前方へ回転操作しながら、下フレーム2を下ヒンジ5の抵抗力に抗して下方へ揺動操作することで、下あごの回転滑走運動を再現できるようになっていることを特徴とする。
【0015】
ストッパー20は、弾性アーム3側に設けられる雌ねじ体21と、雌ねじ体21にねじ込まれる雄ねじ体22とを含み、雄ねじ体22のねじ込み量を調整して、弾性アーム3と下フレーム2との接近限界角θを変更調整できる。
【0016】
弾性アーム3の一端は、上ヒンジ4と下ヒンジ5とのいずれか一方のヒンジ5(または4)に固定し、弾性アーム3の他端は、他方のヒンジ4(または5)に対して固定位置変更可能に調整ねじ12で締結する。以て、上下両ヒンジ4・5の中心間距離を変更調整できるようにすることができる。
【0018】
左右一対の弾性アーム3は、上フレーム1および下フレーム2の左右側端より中央寄りに配置することができる。
【0019】
【発明の作用効果】
本発明においては、上下のフレーム1・2と弾性アーム3とが、それぞれ上ヒンジ4と下ヒンジ5との2個のヒンジを介して相対揺動可能に連結され、咬合器が上下2個の関節部分を備えている構造とした。さらに下ヒンジ5は、設定値を越える外力が作用する状態でのみ相対揺動できる構造として、下フレーム2と弾性アーム3とが上ヒンジ4を中心にして上下に開閉揺動でき、弾性アーム3が捻り変形することで、左右方向の偏心運動を再現できるようにした。また、下フレーム2が下ヒンジ5を中心にして上下揺動する運動と、下フレーム2と弾性アーム3とが上ヒンジ4を中心にして前後に揺動する運動とを同時に行わせることにより、回転滑走運動を再現でき、下あごの咬合運動を近似的に再現できるようにした。
【0020】
弾性アーム3と下フレーム2との間に設けたストッパー20は、弾性アーム3の傾きを規定し、下フレーム2と弾性アーム3との接近限界角θを一定にするために設けてあり、あご関節の角度が平均値である場合に、問題なく咬合器を使用できる。下フレーム2と弾性アーム3とが接近限界位置にあるとき、下ヒンジ5の中心を上ヒンジ4の中心より後方に位置させるのは、下フレーム2および弾性アーム3が上ヒンジ4を中心にして前方へ揺動するようにして、下あごが前方へスライドする時の動作を忠実に再現するためである。
【0021】
以上のように本発明の咬合器によれば、上下開閉運動、左右偏心運動、回転滑走運動、などの咬合動作を近似的に再現できる。また、上下のフレーム1・2と、弾性アーム3、上下のヒンジ4・5等で咬合器を構成するので、従来の平均値咬合器に比べて、全体構造を著しく簡素化でき、その分だけ製造に要するコストを大幅に削減できるうえ、平均値咬合器に比べて著しく軽量化でき、従って咬合運動の確認を簡易型の咬合器と同様に手軽に行うことができる。
【0022】
捻れ弾性を発揮できる左右一対の弾性アーム3で上フレーム1と下フレーム2とが連結されていると、各弾性アーム3・3が個別に捻れ変形することによって、左右のあご関節の左右偏心動作を再現できるので、咬合器による咬合動作をさらに正確に再現できる。
【0023】
上フレーム1と下フレーム2とが、板ばねで形成した左右一対の弾性アーム3で連結されていると、捻れ運動をする際に弾性アーム3が上下方向へ不必要に撓み変形するのを防止して、両フレーム1・2の上下間隔を正確に保持し続けることができる。従って、簡易形の咬合器において避けられなかったコイルばねの全周方向への撓み変形を解消して、下あごの左右偏心運動や、前方運動を正確に再現できる。
【0024】
ストッパー20が雌ねじ体21と雄ねじ体22とを含み、雄ねじ体22のねじ込み量を調整することにより、弾性アーム3と下フレーム2との接近限界角θを変更調整できるようにした咬合器によれば、接近限界角θを個々の患者のあご関節に合わせて変更調整できるので、従来の平均値咬合器に比べて咬合運動をより正確に再現できる。また、雄ねじ体22を緩めて、雄ねじ体22による下フレーム2の接近規制作用を解除することにより、下フレーム2の後方向への運動を許して、下あごの後方運動を再現することができる。
【0025】
弾性アーム3の一端、例えば弾性アーム3の下端を下ヒンジ2に固定し、弾性アーム3の上端を上ヒンジ4に対して固定位置変更可能に調整ねじ12で締結すると、調整ねじ12を緩めたうえで弾性アーム3の締結位置を上下いずれかにずらして再び固定することにより、上下のヒンジ4・5の中心間距離を変更調整して、弾性アーム3と下ヒンジ2との接近限界角θが変るとき、上下フレーム1・2の対向間隔が変化するのを補正できる。
【0026】
下フレーム2または弾性アーム3と上フレーム1との間に、上フレーム1を下方揺動不能に支持する支持構造26を設けた咬合器によれば、支持構造26で上フレーム1を受け止めて、上フレーム1が石膏模型M1の重みで下向きに揺動するのを防止できるので、例えば総入歯を作成する場合に、上下のフレーム1・2に固定した石膏模型M1・M2は、歯牙列の隙間分だけ間隔を開けて対向支持することができる。
【0027】
左右一対の弾性アーム3が、上フレーム1および下フレーム2の左右側端より中央寄りに配置されていると、あごの左右偏心運動を再現するために、例えば図6に示すように上フレーム1を固定し、下フレーム2を時計回転方向へ捻りながら、下フレーム2を上ヒンジ4まわりに前方回転操作し、回転運動と滑走運動とを再現するとき、片方の弾性アーム3は殆ど変形せず、他方の弾性アーム3が捻り変形して両フレーム1・2の変位動作を吸収する。この状態において、各弾性アーム3・3の捻り変形に伴って、下フレーム2の締結座2bが、上フレーム1の締結座2bの両側端から側外方へ突出するのを避けて、左右偏心運動をより忠実に再現する。そのために、左右の弾性アーム3は、上フレーム1および下フレーム2の左右側端より中央寄りに配置している。
【0028】
【発明の実施の形態】
(第1実施例) 図1ないし図7は本発明に係る咬合器の第1実施例を示す。図1において咬合器は、上下に対向配置される上フレーム1および下フレーム2と、両フレーム1・2の後端どうしを連結する左右一対の弾性アーム3・3とを要素部材にして構成されている。
【0029】
上フレーム1はアルミニウムなどの金属板材、あるいはプラスチック板材を素材とする舌片状の板体からなり、左右中央部に前後方向の枠部1aが残る状態で板面の殆どがくりぬいてある。上フレーム1の後端には後述する上ヒンジ4を装着するための締結座1bが設けてある。下フレーム2は、上フレーム1と同様の素材で、板面の殆どがくりぬかれた舌片状に形成するが、その前後長さは上フレーム1より長く設定してある点が異なる。下フレーム2にも、枠部2aと締結座2bとが設けてある。
【0030】
両弾性アーム3は、ねじれ弾性を発揮できる帯状に形成された金属製の板ばねからなり、上下の両フレーム1・2に対して、上ヒンジ4と下ヒンジ5、および上下の各ヒンジ4・5に固定したアームブラケット6・7を介して連結してある。詳しくは、図2に示すように上フレーム1の締結座1bの下面に、上ヒンジ4の片方のヒンジプレートをビス8で固定し、他方のヒンジプレートを上方のアームブラケット6にビス9で固定する。さらに、アームブラケット6と押え板11とで弾性アーム3の上端を挟持し、これら三者3・6・11を調整ボルト(調整ねじ)12で締結固定して、弾性アーム3と上フレーム1とを相対揺動自在に連結している。
【0031】
同様に、下フレーム2の締結座2bの上面には、下ヒンジ5の片方のヒンジプレートをビス14で固定し、他方のヒンジプレートを下方のアームブラケット7にビス15で固定する。さらに、アームブラケット7と押え板16とで弾性アーム3の下端を挟持し、これら三者3・7・16をアームブラケット7にねじ込まれるボルト17で締結固定して、弾性アーム3と下フレーム2とを連結する。下ヒンジ5は市販の定トルクヒンジで構成してあり、設定値を超える外力が作用する状態でのみ、下フレーム2と弾性アーム3とを相対揺動でき、例えばタキゲン製造社製のフラットトルクヒンジ(製品番号B−1109)を適用することができる。
【0032】
弾性アーム3と下フレーム2との間には、両者2・3の接近限界を規定するストッパー20が設けてある。患者のあご関節の角度の違いに応じて、下フレーム2と弾性アーム3との接近限界角θを変更調整するために、ストッパー20は調整可能に構成する。
【0033】
具体的には、図2に示すように、下側のアームブラケット7に形成したねじ穴(雌ねじ体)21と、このねじ穴21にねじ込まれるボルト22(雄ねじ体)と、ロックナット23とでストッパー20を構成している。ロックナット21を緩めてボルト22を締緩操作することにより、下フレーム2がボルト22の下端に接当する位置が変るので、接近限界角θを大小に変更できる。
【0034】
上記のように接近限界角θが変ると、上下のフレーム1・2の対向間隔が変化する。この間隔値の変化を補正するために、先の弾性アーム3の上端に通設した調整ボルト12用の挿通穴24を上下方向の長穴で形成して、弾性アーム3のアームブラケット6に対する固定位置を変更して調整ボルト12で締結固定できるようにしてある。
【0035】
例えば、総入歯を作成する場合には、図4に示すような石膏模型M1・M2を歯牙列の隙間分だけ間隔を開けて対向支持する必要がある。つまり、上フレーム1が下フレーム2と平行になる状態で、その下方揺動を規制する必要がある。このような場合に備えて、上フレーム1と弾性アーム3との間には、上フレーム1を下方揺動不能に支持する支持構造26が設けられている。図3において支持構造26は、上フレーム1の締結座1bの下面に固定支持したねじボス27と、ねじボス27にねじ込まれた調整ボルト28と、上側のアームブラケット6に突設したねじ受部29とで構成されている。
【0036】
上記構成の咬合器は、例えば図4に示すように石膏模型M1・M2を上下のフレーム1・2に固定し、上下フレーム1・2を相対操作することにより、各種のあごの動きを再現できる。あごの上下開閉運動を再現する場合には、図4に示すように、下フレーム2を上ヒンジ4のヒンジ中心まわりに回転操作することにより、歯牙列の噛み合いを確認できる。
【0037】
あごの左右偏心運動を再現するときは、上フレーム1と下フレーム2とを相対的に左右方向へ捻り操作することにより、あごの左右偏心運動を再現し石膏模型M1・M2の咬合状況を確認できる。詳しくは、図6に示すように上フレーム1を固定し、下フレーム2を時計回転方向へ捻りながら下フレーム2を上ヒンジ4のまわりに前方回転操作して、回転運動と滑走運動とを再現する。
【0038】
このとき、図6に向かって左側の弾性アーム3は殆ど変形せず、図6に向かって右側の弾性アーム3が捻り変形して、両フレーム1・2の変位動作を吸収する。弾性アーム3・3の捻り変形に伴って、下フレーム2の締結座2bが、上フレーム1の締結座2bの両側端から側外方へ突出するのを避けて、左右偏心運動をより忠実に再現するために、左右の弾性アーム3・3のそれぞれが、図1に示すように上フレーム1および下フレーム2の左右側端より中央寄りに配置されている。下フレーム2が時計回転方向へ偏心運動するときは、右あごのイミィディエィトサイドシフトを確認し、同時に、左あごの前下方への回転滑走動作を確認できる。
【0039】
咬合器は図5に示すように下あごの後方運動を再現できる。この場合には、上フレーム1を固定し、下フレーム2を通常の噛み合い位置Nから後方へ移動操作する。詳しくは、ボルト22を緩め、ボルト22による下フレーム2の拘束を解除した状態で下フレーム2を後方へ移動操作する。
【0040】
下フレーム2を後方へ移動操作することにより、下フレーム2と弾性アーム3とは、上ヒンジ4を中心にして上方揺動しようとする。しかし、弾性アーム3が上方揺動すると、その垂直移動成分の分だけ下方の歯牙列どうしが上昇して、上方の歯牙列に接当する。このとき、第一小臼歯におけるリトルーシブガイド量を確認し、後方の歯牙から前方の歯牙へ向かって順に解離状態を確認し、歯牙の咬頭傾斜の展開角を決定することができる。治療個所が前方にある場合には、設定した位置から前方へ必要な距離だけ下フレーム2をスライド操作し、歯牙のワックスアップを行える。あるいはバイドプレートを作成できる。
【0041】
以上のように、通常は上ヒンジ4のみが相対揺動するが、後退運動を行う場合には、下ヒンジ5も揺動して下あごの動きを再現するのに寄与する。本発明の咬合器が2個の関節部分を備えていることにより可能となった、特徴的な動作である。
【0042】
下あごの回転滑走運動は、図7に矢印Sで示すように前向きの回転運動と、回転中心が斜め下向きに移動する複合的な運動になっている。この運動は、上フレーム1を固定し、下フレーム2を通常の噛み合い位置Nから前方へ矢印Pで示すように回転操作しながら、下フレーム2を下ヒンジ5の抵抗力に抗して矢印Qで示すように下方揺動操作することで再現できる。
【0043】
因みに、弾性アーム3と下フレーム2とが接近限界姿勢に屈折する通常の噛み合い位置Nの状態においては、下ヒンジ5のヒンジ中心が上ヒンジ4のヒンジ中心より後方に位置し、石膏模型M2は上ヒンジ4のヒンジ中心より前方に位置している。従って、上記のように下フレーム2を前方へ回転操作すると、下フレーム2に固定した石膏模型M2は、時計回転方向へ移動して上フレーム1側の石膏模型M1に接近する。
【0044】
この接近動作を吸収しながら、左右の第一中切歯によるガイド作用で下フレーム2が矢印Qで示すように下ヒンジ5を中心にして開くことによって、複合的な下あごの回転滑走運動を近似的に再現できるようになっている。つまり、矢印Pで示す回転運動と、矢印Qで示す運動とを組み合わせることによって、矢印Sで示す複合動作を再現できる。この動作も、本発明の咬合器が2個の関節部分を備えていることにより可能となった、特徴的な動作である。
【0045】
(第2実施例) 図8および図9は本発明に係る咬合器の第2実施例を示す。そこでは、ストッパー20をアームブラケット7の左右中央の1箇所に限って設けた。この場合には上下のフレーム1・2を左右偏心操作する際に、下フレーム2がボルト22の下端を中心にして傾動しやすいが、下フレーム2を台上において旋回操作すると、ストッパー20を2個設けた第1実施例と同様のより正確な左右偏心運動を再現できる。この第2実施例では、下ヒンジ5の構造も変更した。図9に示すように、左右で対を為すそれぞれのヒンジプレートは一個のヒンジ軸31で連結し、ヒンジ軸31の両端に設けたねじ軸32・32にナット33・33をねじ込んで、下ヒンジ5とした。
【0046】
上記のヒンジ構造によれば、設定値を超える外力が作用する状態でのみ、下フレーム2と弾性アーム3とを相対揺動でき、ナット33の締め付け具合を調整することにより、下フレーム2が揺動開閉し始めるときの抵抗力を大小に調整できる。左右偏心運動を行うために下フレーム2を左右に動かすときは、左右のナット33の片方を緩める。具体的には、下フレーム2を右に動かすときは、左のナット33を緩め、下フレーム2を左に動かすときは、右のナット33を緩める。他は先の第1実施例と同じであるので、同じ部材に同じ符号を付して、その説明を省略する。以下の実施例においても同じ扱いとする。
【0047】
(第3実施例) 図10は本発明に係る咬合器の第3実施例を示しており、ボルト22の下端を下フレーム2に対して軸34を介して揺動可能に連結し、ボルト22にねじ込んだ一対のナット35でアームブラケット7を挟持固定して、弾性アーム3の傾斜角度を変更できるようにした。
【0048】
(第4実施例) 図11は支持機構26に関する本発明の第4実施例を示す。そこでは、下フレーム2に弾性アーム3に沿うブラケット38を固定し、ブラケット38の上端に設けたねじ受部29に調節ボルト28を押し当てて、上フレーム1を支持できるようにした。調節ボルト28は上フレーム1に設けたねじボス27にねじ込み、ロックナット39で固定できる。
【0049】
図12(a)〜(c)は弾性アーム3のそれぞれ異なる具体変形例を示す。図12(a)の弾性アーム3は、短冊状の板ばねの中央に、例えば鋼線などの金属製の補強材3aを固定して構成してある。このように補強材3aを付加すると、より小さな力で捻り変形できるにもかかわらず、座屈しにくい弾性アーム3が得られる。先の補強材3aは線材や、板材などを使用できる。
【0050】
図12(b)の弾性アーム3は、短冊状の板ばねを断面L字状に折り曲げ、片方の板面の上下方向に平行な切込3bを入れて形成し、先の弾性アーム3と同様に、より小さな力で捻り変形できるにもかかわらず、座屈し難くしたものである。必要があれば、切込3bが形成されるプラスチック成形品に、短冊状の板ばねの一側縁をインサート固定して、弾性アーム3とすることができる。
【0051】
図12(c)に示す弾性アーム3は、短冊状の板ばねの左右中央に補強部3cを一体に折り曲げ形成して、捻り変形を容易化しながら、座屈変形し難いものにした。
【0052】
ストッパー20は角度調整機能を備えていることが望ましいが、本発明の咬合器は、接近限界角θを固定した状態で使用することが可能であるので、角度調整機能を備えている必要はなく、単に下フレーム2と弾性アーム3との接近限界角θを規定できればよい。ストッパー20を構成するボルト22は、下フレーム2に設けたねじ穴21にねじ込み、その軸端を下側のアームブラケット7に接当させて、接近限界角θを規定することができる。アームブラケット6・7を省略して、弾性アーム3を上下のヒンジ4・5に対して直接に連結してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 咬合器を後方側から見た斜視図である。
【図2】 図1におけるA−A線断面図である。
【図3】 図1におけるB−B線断面図である。
【図4】 あごの上下開閉運動の再現状態を示す側面図である。
【図5】 あごの後退運動の再現状態を示す側面図である。
【図6】 あごの左右偏心運動の再現状態を示す側面図である。
【図7】 あごの回転滑走運動の再現状態を示す側面図である。
【図8】 第2実施例を示す図1に相当の斜視図である。
【図9】 第2別実施例を示す下ヒンジの断面図である。
【図10】 第3実施例を示すストッパーの断面図である。
【図11】 支持機構に関する第4実施例を示す側面図である。
【図12】 弾性アームのそれぞれ異なる変形例を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 上フレーム
2 下フレーム
3 弾性アーム
4 上ヒンジ
5 下ヒンジ
20 ストッパー
22 ボルト
Claims (4)
- 上下に対向配置される上フレーム(1)および下フレーム(2)と、両フレーム(1・2)の後端どうしを連結する左右一対の弾性アーム(3)とを備えており、
各弾性アーム(3)は、捻れ弾性を発揮できる板ばねで形成されており、
上フレーム(1)と弾性アーム(3)とは、上ヒンジ(4)を介して相対揺動可能に連結されており、
下フレーム(2)と弾性アーム(3)とは、設定値を越える外力が作用する状態でのみ相対揺動できる下ヒンジ(5)を介して連結されており、
弾性アーム(3)と下フレーム(2)との間に、弾性アーム(3)と下フレーム(2)との接近限界を規定するストッパー(20)が設けられており、
弾性アーム(3)と下フレーム(2)とが接近限界姿勢に屈折した状態において、下ヒンジ(5)のヒンジ中心が上ヒンジ(4)のヒンジ中心より後方に位置するとともに、弾性アーム(3)が後方に下り傾斜しており、
下フレーム(2)または弾性アーム(3)と上フレーム(1)との間に、上フレーム(1)を下方揺動不能に支持する支持構造(26)が設けられており、
この歯科用咬合器は、上下のフレーム(1・2)に石膏模型(M1・M2)を固定し、上下フレーム(1・2)を相対操作することで、あごの上下開閉運動、あごの左右偏心運動、下あごの後方運動、および下あごの回転滑走運動を再現できるようになっており、
下フレーム(2)を上ヒンジ(4)のヒンジ中心まわりに回転操作することで、あごの上下開閉運動を再現して、石膏模型(M1・M2)の歯牙列の噛み合いを確認できるようになっており、
上フレーム(1)と下フレーム(2)とを相対的に左右方向へ捻り操作することにより、あごの左右偏心運動を再現し、石膏模型(M1・M2)の咬合状態を確認できるようになっており、
下ヒンジ(5)のヒンジ中心が上ヒンジ(4)の中心より後方に位置し、石膏模型M2は上ヒンジ4のヒンジ中心より前方に位置する通常の噛み合い位置(N)の状態から、上フレーム(1)を固定し、下フレーム(2)を後方へ移動操作することで、下あごの後方運動を再現できるようになっており、
上フレーム(1)を固定し、下フレーム(2)を通常の噛み合い位置(N)から前方へ回転操作しながら、下フレーム(2)を下ヒンジ(5)の抵抗力に抗して下方へ揺動操作することで、下あごの回転滑走運動を再現できるようになっており、
前記下あごの後方運動の再現に際しては、下フレーム(2)を弾性アーム(3)に対して相対揺動可能な状態としたうえで、下フレーム(2)を後方へ移動操作することにより、下フレーム(2)と弾性アーム(3)とは、上ヒンジ(4)を中心にして上下揺動しようとし、しかし、弾性アーム(3)が上方揺動すると、その垂直移動成分の分だけ下方の石膏模型(M2)の歯牙列どうしが上昇して、上方の歯牙列に接当し、これにて、第1小臼歯におけるリトルーシブガイド量を確認し、後方の歯牙列から前方の歯牙列に向かって順に解離状態を確認し、歯牙の咬頭傾斜の展開角を決定することができるようになっており、
前記下あごの回転滑走運動の再現に際しては、通常の噛み合い位置(N)から下フレーム(2)を前方へ回転操作すると、下フレーム(2)に固定した石膏模型(M2)は、前方下方向へ移動して上フレーム(1)側の石膏模型(M1)に接近し、この接近動作を吸収しながら左右の第一中切歯によるガイド作用で下フレーム(2)が下ヒンジ(5)を中心にして開くことによって、下あごの前向きの回転運動と、回転中心が斜め下向きに移動する複合的な回転滑走運動とを近似的に再現できるようになっていることを特徴とする歯科用咬合器。 - ストッパー(20)が、弾性アーム(3)側に設けられる雌ねじ体(21)と、雌ねじ体(21)にねじ込まれる雄ねじ体(22)とを含み、
雄ねじ体(22)のねじ込み量を調整して、弾性アーム(3)と下フレーム(2)との接近限界角(θ)を変更調整できる請求項1記載の歯科用咬合器。 - 弾性アーム(3)の一端が、上ヒンジ(4)と下ヒンジ(5)とのいずれか一方のヒンジ(5・4)に固定され、弾性アーム(3)の他端が、他方のヒンジ(4・5)に対して固定位置変更可能に調整ねじ(12)で締結されて、上下両ヒンジ(4・5)の中心間距離を変更調整できる請求項1または2記載の歯科用咬合器。
- 左右一対の弾性アーム(3)が、上フレーム(1)および下フレーム(2)の左右側端より中央寄りに配置してある請求項1〜3のいずれかに記載の歯科用咬合器。
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