JP4183503B2 - 半導体レーザ素子及び半導体レーザ駆動装置及び半導体レーザ駆動方法 - Google Patents

半導体レーザ素子及び半導体レーザ駆動装置及び半導体レーザ駆動方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体レーザ素子及びその駆動方法に関するもので、特に、光ディスクや光磁気ディスクなどの駆動装置において、光源として用いられる半導体レーザ素子とその駆動装置及び駆動方法に関する。更に、本発明は、窒化物半導体レーザ素子のように、自励発振状態を満足させる構成とすることが困難な半導体レーザ素子とその駆動装置及び駆動方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体レーザ素子は、単色性が良く強い光が放射されるので、レーザ出射光を集光したときのスポットサイズを小さくすることができ、光ディスクや光磁気ディスクなどの光が照射されて記録及び再生が行われる記録メディアの駆動装置において、光ピックアップに設けられる光源として用いられる。特に、波長が短く且つ光出力が得られる窒化物半導体レーザ素子は、DVD(Digital Versatile Disk)などの高密度記録メディアの駆動装置用として用いられるよう、赤色半導体レーザ素子に代わる光ピックアップ素子として開発が推進されている。
【0003】
このように、データの記録及び再生が行われる駆動装置内の光ピックアップに、半導体レーザ素子が設けられる際、半導体レーザ素子からのレーザがディスクや光学系を反射して帰還する戻り光によって、ディスクに記録されたデータが読み出される。このとき、この戻り光と半導体レーザ素子から出射されるレーザ出射光とが互いに干渉することで、情報再生時に雑音が生じてしまう。よって、優れた低雑音特性を得るため、この戻り光雑音である過剰雑音を防ぐことに、重点が置かれている。
【0004】
戻り光雑音を低減するには、光出力の強度を周期的に変動させることで、半導体レーザ素子の可干渉性を低減させる方法が有効である。尚、以下では、光強度が周期的に変動している光出力を「変調光出力」と呼ぶ。変調光出力を得るため、自励発振(パルセーション)を起こす技術が一般的に使用されている。この自励発振は、半導体レーザ素子を特別な構造で構成することで発生させることができる。これは、活性層において、光増幅領域と呼ばれる利得領域の周囲に、可飽和吸収領域と呼ばれる光吸収効果を持つ領域を形成することによって、自励発振状態とすることができる。この可飽和吸収層のQスイッチ効果(Qスイッチ:共鳴の鋭さを表すQ値を急速に変化させるためのスイッチ動作)と光増幅領域の光と発振光が協同して自励発振が引き起こされる。
【0005】
10の断面図に、従来の自励発振型半導体レーザ素子の構造の一例を示す。図10の半導体レーザ素子は、n型GaAs基板103上に、n型GaAsバッ ファ層104、n型AlGaInPクラッド層105、GaInP活性層106、p型AlGaInPクラッド層107、p型GaInP中間層108、および p型GaAsコンタクト層109を順に備えている。そして、p型AlGaInPクラッド層107、p型GaInP中間層108、及びp型GaAsコンタク ト層109は、ストライプ状のリッジ110を構成し、このリッジ110の両側にn型GaAs埋め込み層111,112が設けられる。又、半導体レーザ素子の表面側にはp電極101が、半導体レーザ素子の裏面側にはn電極102がそれぞれ設けられ、1対の電極として形成される。
【0006】
10の半導体レーザ素子において、活性層106上のクラッド層107にリッジ110を設けることで、電流注入量の異なる領域が形成される。そして、この とき、注入電流は、p電極101からリッジ110の内側を通って活性層に注入され、n電極102へと流れる。よって、活性層106では、リッジ110直下の主に電流の注入される部分が光増幅領域113として、その周囲の、電流が少なく注入される部分が可飽和吸収領域114,115として、それぞれ機能し、自励発振を発生させる。
【0007】
又、リッジ部分を備えるとともに活性層を挟むように可飽和吸収層を形成して自励発振を行う図11のような構成の半導体レーザ素子が提案されている(特許文献1参照)。図11の半導体レーザ素子は、n型電極121に、n型GaAs基板122、n型AlGaInPクラッド層123、n型AlGaInP可飽和吸 収層124、n型AlGaInPクラッド層125、AlGaInP活性層126、p型AlGaInPクラッド層127、p型AlGaInP可飽和吸収層 128を順に備える。
【0008】
更に、リッジ構造をもつp型AlGaInPクラッド層129と、n型GaAs電流ブロック層130、p型GaAsコンタクト層131、p型電極132を順に備えている。この半導体レーザ素子は、その内部に、光吸収領域としての可飽和吸収層124,128を有し、この可飽和吸収層124,128のキャリアと光増幅領域である活性層126のキャリア及び発振光とによって自励発振が引き起こされる。
【0009】
又、窒化物が混入された窒化物半導体レーザ素子においても、リッジ形状とすることで電流注入量の異なる領域を構成して自励発振させるものが提案されている(特許文献2参照)。尚、この窒化物半導体レーザ素子は、図12のような構成となる。即ち、サファイア基板141上に、n型GaNコンタクト層142、n 型AlGa1−bNクラッド層143、多重量子井戸構造を有する活性層144、p型AlGa1−aNクラッド層145、n型AlGa1−cN電流狭窄層146,147、及びp型GaNコンタクト層148を積層することにより構成される。
【0010】
このとき、クラッド層145が、平坦層145a及び幅の異なるストライプ層145b,145cで構成されることにより、電流注入のリッジ幅とレーザ光の横モードの広がり幅とを変えるリッジ部分が形成される。又、p電極150はp型コンタクト層148の上表面に、n電極149はn型コンタクト層142の上表面にそれぞれ設けられ、1対の電極として形成される。
【0011】
これまでは自励発振を利用して光出力の強度を周期的に変動させる方法について例示してきたが、自励発振を利用した方法以外に変調光出力を得る方法としては、高周波によって変調した電流を注入する高周波重畳法がある。この高周波重畳法を用いた技術として、レーザの発振閾値電流付近で、動作電流に高周波の変調電流を重畳することによりパルス状の発振をさせるものが提案されている(特許文献3参照)。
【0012】
この特許文献3における半導体レーザ素子の動作は、図13のような特性に基づいて動作を行う。図13(a)は、横軸が注入される電流量を示すとともに縦軸が光出力を示す半導体レーザ素子の電流−光出力特性を表し、図13(b)は、注入される変調電流の時間変化の様子を表し、図13(c)は、変調電流の注入によって得られる光出力の時間変化の様子を表す。図13(b)のように、変調電流として、閾値Ith以下の電流値と、閾値Ith以上の電流値との間で変調される電流を注入することで、図13(c)のようなパルス状の光出力を得ることができる。この場合、注入する電流値を高く設定しても、パルス状の発振を維持することができ、高出力を得ることができる。
【0013】
又、光増幅領域と可飽和吸収領域とを有する双安定状態の半導体レーザ素子において可飽和吸収領域に印加する電流又は電圧を変化して、変調光出力を得る方法も用いられている(特許文献4参照)。図14は、従来の双安定状態の半導体レーザ素子において光増幅領域への注入電流対光出力の特性を示した図で、注入電流と光出力との関係にヒステリシスの特性がみられる。
【0014】
即ち、光増幅領域へのみ電流を注入していくと、図14に示すように、光出力は実線で示す経路AをP4からP1をたどって増大していく。このとき、光増幅領域で発生した光を吸収することにより可飽和吸収領域でのキャリア濃度が増大していくので、それに伴って可飽和吸収領域の光吸収効果は減少していく。そして、さらに光増幅領域への注入電流を増していくと光吸収効果が飽和し、注入電流の値が立ち上がり閾値IthONとなったところで光出力がP1からP2へと急激に増大する。
【0015】
又、注入電流を減らしていくと、可飽和吸収領域はすぐには光吸収効果を回復できないので、光出力は急激には減らず、波線で示す経路BをP2からP3をたどって緩やかに減少していく。このとき、キャリア濃度と光出力とが減少していくので、それに伴って可飽和吸収領域の光吸収効果が回復する。そして、さらに光増幅領域への注入電流を減少させていくと、光吸収効果が十分回復し、注入電流が立ち下がり閾値IthOFFとなったところで光出力がP3からP4へと急激に減少する。
【0016】
この図14のような特性を持つ双安定状態の半導体レーザ素子がGaAs基板上に形成したAlGaAs/GaAs横モード制御型半導体レーザ素子として形成され、図15のように、素子の片側電極を分割して、活性層163中に光増幅領域161と可飽和吸収領域162とが設けられる。そして、光増幅領域161に印加するバイアス電流IBをV1、V2に応じた発振閾値の中間値に設定し、電圧がV1,V2と交互に変化する信号電圧Vを可飽和吸収領域162に印加する。
【0017】
14に示すヒステリシスの形状は、可飽和吸収領域への電圧印加や電流注入によって変動する。可飽和吸収領域に電圧が印加されるか電流が注入されると、キャリア濃度が増大するので光吸収効果が減少し、ヒステリシス全体が注入電流値の低い側へ移動するため立ち上がり閾値IthONの値が低くなる。よって、可飽和吸収領域の光吸収効果を増減させることにより、発振閾値を変動させることができる。よって、図15のような構成の半導体レーザ素子の注入電流―光出力特性曲線が、図16のようになる。
【0018】
活性層163内に発振光に対して損失となる可飽和吸収領域162を備えているため、光増幅領域161のみに電流を注入していくと、ある電流値で非線形的に光出力が増大する。即ち、可飽和吸収領域に印加する電圧がV1からV2(V1<V2)に上昇したとき、可飽和吸収領域162の光吸収量はそれに応じて増加するので、光出力が増大する電流値(立ち上がり閾値)はIh1からIh2へと低下する。よって、光増幅領域161に一定のバイアス電流IB(Ih2<IB<Ih1)を注入した状態で、可飽和吸収領域162に電圧がV1からV2に変化する信号電圧Vを印加することによって、立ち上がり閾値がIh1とIh2との間を変動し、変調光出力Pを得ることができる。
【0019】
【特許文献1】
特開平8−204282号公報
【特許文献2】
特開2000−286504号公報
【特許文献3】
特開昭60−35344号公報
【特許文献4】
特開平2−137383号公報
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2で提供される自励発振型の半導体レーザ素子では、パルス状の光出力を得るには、作成時の組成や構造を限定する必要がある。即ち、作成時の組成によって可飽和吸収領域と光増幅領域とを設ける場合、可飽和吸収領域と光増幅領域とのキャリア寿命の比及び微分利得の比を調整する必要がある。そして、半導体レーザ素子を自励発振状態とするには、キャリア寿命は可飽和吸収領域よりも光増幅領域が長く、かつ微分利得は可飽和吸収領域よりも光増幅領域が小さくなければならない。そのため、自励発振状態を満足させるためのパラメータ範囲が狭いことより、作成の自由度が低くなってしまう。
【0021】
又、図17において、GaAs半導体レーザ素子及びGaN半導体レーザ素子それぞれの可飽和吸収領域(吸収領域)及び光増幅領域(利得領域)での利得特性を、実線及び破線で示す。この図17より窒化物半導体レーザ素子であるGaN半導体レーザ素子は、赤色半導体レーザ素子であるGaAs半導体レーザ素子に比べて、可飽和吸収領域と光増幅領域とでの利得特性極性の傾き(微分利得)の差が小さい。
【0022】
よって、可飽和吸収領域における微分利得が光増幅領域に比べて大きいほど、少ない光の吸収でキャリア密度を変化させることが可能となり、自励発振が起こりやすくなるが、窒化物半導体レーザ素子については、両領域での微分利得の比がほぼ1となり、自励発振状態を満たすことができない。更に、窒化物半導体レーザ素子では、赤色半導体レーザ素子に比べ、不純物の添加によって微分利得を変化させるのは難しいという問題がある。そのため、窒化物半導体レーザ素子においては、可飽和吸収領域と光増幅領域とが自励発振状態を満たすようにキャリア寿命および微分利得を調整して素子を作製することは物理的に困難である。
【0023】
又、特許文献2のように、半導体レーザ素子内にリッジを形成して、活性層に、注入される電流量の異なる可飽和吸収領域と電流注入領域とを設ける場合、そのリッジの幅と厚さ、リッジ境界部分の多層膜の膜厚、クラッド層の厚さ、エッチング条件などの多数で且つ微細な構造条件を最適化する必要がある。そして、この得られた条件に従って精度良く半導体レーザ素子を作製しなければならないため、多くの条件を確定する作業が必要であり、又、その条件が得られたとしても歩留まりが低くなるという問題がある。
【0024】
又、特許文献3で提供される高周波重畳型の半導体レーザ素子では、雑音の低減効果を得るのに必要な大きさの振幅を持つ光出力を得るために、注入する変調電流の振幅値を大きくしなければならない。そのため、高密度記録媒体のピックアップ素子に用いる場合などの高い光出力が必要とされるときには、消費電力や発熱が大きくなってしまい、変調回路に大きな負担がかかるという問題がある。
【0025】
更に、特許文献4で提供される半導体レーザ素子では、戻り光を低減できる振幅の大きい光出力を得るためには、振幅の大きい電圧や電流を可飽和吸収領域に印加する必要がある。しかしながら、可飽和吸収領域に振幅の大きい電圧や電流を印加すると、それに伴って高い電圧や電流を可飽和吸収領域に印加することとなる。よって、可飽和吸収領域が飽和しやすくなり、逆に、光出力の強度変化が小さくなってしまうため、光出力の振幅が小さくなり、又、パルス状の光出力が得られにくくなる。従って、コヒーレント性が低減されにくくなり、戻り光雑音の除去効果が低くなるという問題がある。更に、高い電圧や電流を可飽和吸収領域に印加することより、立ち上がり閾値も高くなり、結果的に、光増幅領域に注入する電流値も高く設定する必要がある。
【0026】
このような問題を鑑みて、本発明は、素子構造の作製が容易で、かつ消費電力が小さく、戻り光雑音を低減できる半導体レーザ素子を提供することを目的とする。又、この半導体レーザ素子の駆動するための半導体レーザ駆動装置及び半導体レーザ駆動方法を提供することを目的とする。
【0027】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の半導体レーザ素子は、注入される電流を増幅して光を発生する光増幅領域と光増幅領域で発生した光を吸収する可飽和吸収領域より成るとともにレーザ光を発生する活性層を有し、前記光増幅領域へ供給される電流値に対して出力するレーザ光の出力を表す電流−光出力特性がヒステリシスを有する双安定状態で動作する半導体レーザ素子において、前記光増幅領域に電流を注入する第1電極と、前記可飽和吸収領域に電流を注入する第2電極と、を備え、前記第1電極に直流の動作電流に高周波電流が重畳された変調電流が供給されるとともに、前記第1電極及び前記第2電極のいずれか一方に雑音電流が供給され、前記変調電流の最大値が、前記電流−光出力特性において光出力が急激に大きくなる電流値よりも低いことを特徴とする。
【0030】
い電力で大きな振幅の変調光を出力させることができる
【0031】
又、前記変調電流の最小値が、前記電流−光出力特性において光出力が急激に小さくなる電流値以下とすることで、光出力の増幅率を大きくすることができ、光出力の振幅を更に大きくすることができる
【0033】
又、前記第1電極に前記変調電流に前記雑音電流が重畳された電流が供給されるようにしても構わない。又、この雑音電流を有色雑音電流とする
【0034】
又、前記光増幅領域が複数設けられるとともに、少なくとも2つ以上の前記光増幅領域がレーザ光を出射するレーザ出射面を備えるようにしても構わない
【0035】
又、本発明の半導体レーザ駆動装置は、注入される電流を増幅して光を発生する光増幅領域と光増幅領域で発生した光を吸収する可飽和吸収領域より成るとともにレーザ光を発生する活性層を有し、前記光増幅領域へ供給される電流値に対して出力するレーザ光の出力を表す電流−光出力特性がヒステリシスを有する双安定状態で動作する半導体レーザ素子を駆動する半導体レーザ駆動装置において、前記半導体レーザ素子が、前記光増幅領域に電流を注入する第1電極と、前記可飽和吸収領域に電流を注入する第2電極と、を備えるとともに、前記第1電極に直流の動作電流に高周波電流が重畳された変調電流を供給する変調電流供給部と、前記第1電極及び前記第2電極のいずれか一方に雑音電流を供給する雑音電流供給部と、を有し、前記変調電流供給部において、前記変調電流の最大値が、前記電流−光出力特性において光出力が急激に大きくなる電流値よりも低い値となるように、前記変調電流を生成することを特徴とする。
【0036】
のとき、更に、前記変調電流供給部において、前記変調電流の最小値が、前記電流−光出力特性において光出力が急激に小さくなる電流値以下となるように、前記変調電流を生成する。
【0038】
又、前記変調電流供給部からの前記変調電流に前記雑音電流供給部からの前記雑音電流を重畳する電流結合部を備え、当該電流結合部で前記変調電流に前記雑音電流が重畳された電流を前記第1電極に供給する。又、前記雑音電流を有色雑音電流とする。
【0040】
又、前記半導体レーザ素子において、前記光増幅領域が複数設けられるとともに、少なくとも2つ以上の前記光増幅領域がレーザ光を出射するレーザ出射面を備え、前記レーザ出射面の1つから出射されるレーザ光を計測する計測部を備え、当該計測部の計測結果によって、前記変調電流及び前記雑音電流及び前記第2電極に供給する電流それぞれのパラメータを調整する。
【0042】
又、本発明の半導体レーザ駆動方法は、注入される電流を増幅して光を発生する光増幅領域と光増幅領域で発生した光を吸収する可飽和吸収領域より成るとともにレーザ光を発生する活性層を有し、前記光増幅領域へ供給される電流値に対して出力するレーザ光の出力を表す電流−光出力特性がヒステリシスを有する双安定状態で動作する半導体レーザ素子を駆動する半導体レーザ駆動方法において、前記半導体レーザ素子に、前記光増幅領域に電流を注入する第1電極と、前記可飽和吸収領域に電流を注入する第2電極と、を設けるステップと、前記第1電極に直流の動作電流に高周波電流が重畳された変調電流を供給するとともに、前記第1電極及び前記第2電極のいずれか一方に雑音電流を供給するステップと、を有し、前記変調電流の最大値が、前記電流−光出力特性において光出力が急激に大きくなる電流値よりも低くなるように設定することを特徴とする。
【0043】
、前記変調電流の最小値が、前記電流−光出力特性において光出力が急激に小さくなる電流値以下となるように設定する。
【0045】
更に、前記変調電流に前記雑音電流を重畳したステップと、前記変調電流に前記雑音電流が重畳された電流を前記第1電極に供給するステップと、を有する。又、前記雑音電流を有色雑音電流とする。
【0047】
又、前記半導体レーザ素子において、前記光増幅領域を複数設けるとともに、少なくとも2つ以上の前記光増幅領域にレーザ光を出射するレーザ出射面を設けるステップと、前記レーザ出射面の1つから出射されるレーザ光を計測するステップと、当該計測部の計測結果によって、前記変調電流及び前記雑音電流及び前記第2電極に供給する電流それぞれのパラメータを調整するステップと、を備えるようにしても構わない。
【0048】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0049】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態における半導体レーザ素子の基本構成を示す断面図である。尚、以下では、本実施形態の半導体レーザ素子として、n型GaN基板上に設けられた窒化物半導体レーザ素子を例に挙げて説明する。
【0050】
図1に示す半導体レーザ素子10は、2つの端子1a,1bと、2つの端子2a,2bと、端子1a,1bのそれぞれと電気的に接続されたp型電極3a,3bと、端子2a,2bのそれぞれと電気的に接続されたn型電極4a,4bと、p型電極3a,3bが表面に設けられるp型クラッド層5と、n型電極4a,4bが表面に設けられるn型クラッド層6と、p型クラッド層5とn型クラッド層6の間に設けられた活性層7とから構成される。尚、n型クラッド層6の下側がn型GaN基板であり、その上面にn型クラッド層が形成されるが、説明を簡単にするために、n型GaN基板部分も含めて、n型クラッド層6とする。
【0051】
このような半導体レーザ素子10において、活性層7が、図1の共振器方向に、光増幅領域7aと可飽和吸収領域7bとが構成される。この光増幅領域7a及び可飽和吸収領域7bは、半導体レーザ素子10が双安定状態となるように、それぞれの共振器方向の長さとキャリア寿命と微分利得とが設定される。このとき、可飽和吸収領域7bは、半導体レーザ素子10の共振器方向における活性層7の長さ全体に対して、10%となるように構成する。又、可飽和吸収領域7bにおいては、キャリア寿命を調整するために不純物が添加されている。ここでは、Siを1×1019cm-3添加した。
【0052】
この双安定状態とされる場合は、自励発振状態の場合に比べ、光増幅領域7a及び可飽和吸収領域7bそれぞれの微分利得の比を大きくする必要がない。又、この双安定条件を満たす条件においては、キャリア寿命の比と微分利得の比との積が一定以下であればよいので、キャリア寿命と微分利得のパラメータ設定を広くとることができ、更に、微分利得の比の調整が不可能でも、キャリア寿命の比を好適に調整することができる。そのため、窒化物半導体レーザ素子である半導体レーザ素子10においても、双安定状態とすることによって、光増幅領域7a及び可飽和吸収領域7bに対するパラメータ設定が容易となる。
【0053】
又、p型クラッド層5の表面上において、p型電極3aが光増幅領域7aに対応した位置に設けられるとともに、p型電極3bが可飽和吸収領域7bに対応した位置に設けられる。更に、n型クラッド層6の表面上において、n型電極4aが光増幅領域7aに対応した位置に設けられるとともに、n型電極4bが可飽和吸収領域7bに対応した位置に設けられる。
【0054】
このように、活性層7が光増幅領域7aと可飽和吸収領域7bとの2つの領域に分割されているのに応じて、p型電極3a,3b及びn型電極4a,4bも分割されているため、光増幅領域7a及び可飽和吸収領域7bそれぞれへの注入電流が独立的に制御しやすい構造となっている。そのため、可飽和吸収領域7bを流れる電流と光増幅領域7aを流れる電流とによる相互干渉を回避することができる。
【0055】
このように構成される半導体レーザ素子10に対して、直流の動作電流に正弦波状の高周波電流を重畳した変調電流Iaが端子1aより与えられて光増幅領域7aに注入されるとともに、直流電流Ibが端子1bより与えられて可飽和吸収領域7bに注入される。又、光増幅領域7aに注入される変調電流Iaには、非周期的なランダムな強度変化を持つ雑音が重畳されている。以下では、この変調電流Iaに重畳される雑音として光増幅領域7aに注入する電流成分を、「戻り光雑音」と区別して、「付加雑音n」と呼ぶ。
【0056】
光増幅領域7aに注入される変調電流Iaは、図2(a)の時間波形によって示される正弦波状の高周波電流が重畳した変調電流Ioに、図2(b)の時間波形によって示される有色雑音が付加された電流によって構成された付加雑音nが重畳されて生成される。よって、変調電流Iaの時間波形は、図2(c)のようになる。尚、以下では、図2(a)に示される周期的に変化する変調電流Ioの最大値と最小値との差分の2分の1の値を、「変調電流Ioの振幅」と呼ぶ。又、図2(b)に示される付加雑音nの最大値と最小値との差分を「付加雑音nの最大振幅」と呼ぶ。
【0057】
又、直流電流Ibが端子1bより与えられて可飽和吸収領域7bに注入されるため、光増幅領域7aに注入される電流と半導体レーザ素子10の光出力の大きさとの関係が、図3(a)に示すように、ヒステリシスを構成する。尚、図3(a)の特性は図15の特性と同様の形状となるので、図3(a)における図15と同一部分には図15と同一符号を付す。このとき、図3(a)において、横軸が注入電流、縦軸が注入電流に応じて得られる光出力を表す。又、図3(b)は、図2(c)の変調電流Iaの時間波形を示し、図3(c)は、図3(b)の変調電流Iaが注入されて得られる光出力の時間波形を示す。
【0058】
このように半導体レーザ素子10の注入電流―光出力特性(尚、以下において「注入電流―光出力特性」とは、光増幅領域への注入電流の合計と光出力との関係を表す特性である)が、図3(a)のようなヒステリシスを構成するため、光増幅領域7aへ注入する電流量を高くしていくと、光出力は実線で示す経路AをP4からP1をたどって増大していく。尚、この実線で示す経路Aの状態にあるとき、光増幅領域7aで光増幅量が増加し光を発生しているが、可飽和吸収領域7bで吸収されるため、半導体レーザ素子10より実際は光出力がない。よって、注入する電流量を立ち上がり閾値IthONよりも低い値で変化させても、半導体レーザ素子10より光が出力されない。
【0059】
そして、可飽和吸収領域7bの光吸収効果が飽和し、電流量が立ち上がり閾値IthONとなったところで光出力がP1からP2へと急激に増大した後、破線で示す経路Bに沿って増大する。このように、立ち上がり閾値IthONを注入する電流量が超えることにより、半導体レーザ素子10は光出力が行える状態となる。なお、双安定状態のヒステリシスにおける「立ち上がり閾値」の定義は、半導体レーザのIL特性において一般的に称されている「閾値」とは異なるものである。その後、光増幅領域7aへ注入する電流量を低くしていくと、光出力は波線で示す経路BをP2からP3をたどって緩やかに減少する。尚、この破線で示す経路Bの状態にあるとき、可飽和吸収領域7bの光吸収効果が低いため、半導体レーザ素子10より光が出力される。そして、可飽和吸収領域7bの光吸収効果が十分回復し、電流量が立ち下がり閾値IthOFFとなったところで光出力がP3からP4へと急激に減少した後、実線で示す経路Aに沿って減少する。
【0060】
この図3(a)に示すような注入電流―光出力特性の半導体レーザ素子10において、光増幅領域7aに図3(b)(図2(c))に示す変調電流Iaが注入されるとき、変調電流Iaから図2(b)に示す付加雑音nが省かれた変調電流Ioは、図2(a)に示すように、その最大値が立ち上がり閾値IthONよりも低い値に設定される。よって、この図2(a)に示す変調電流Ioのみが光増幅領域7aに注入されたとしても、注入電流―光出力特性が図3(a)の破線で示す経路B側に移行することができない。
【0061】
このとき、変調電流Ioは、この変調電流Ioだけを光増幅領域7aに注入したときに得られる光出力がヒステリシス下部の経路Aに対応した微小な値としかならない値に調整される。よって、この変調電流Ioだけを光増幅領域7aに注入しても、戻り光雑音を低減できない。この変調電流Ioに付加雑音nを重畳することで、変調電流Iaの値が最大値となるときに立ち上がり閾値IthONよりも大きくなり、ヒステリシス上部の経路Bへ移行することができる。
【0062】
即ち、図2(a)のような変調電流Ioに、図2(b)の付加雑音nを重畳することで、図2(c)に示すように、変調電流Iaの最大値が立ち上がり閾値IthONよりも高くなる。このとき、図2(b)の付加雑音nは、その最大振幅が小さすぎる場合、変調電流Iaの最大値が立ち上がり閾値IthONよりも高くなることがなく、変調電流Ioのみを光増幅領域7aに与えたときと同様、注入電流―光出力特性が図3(a)の破線で示す経路B側に移行することができない。そのため、注入電流―光出力特性が実線で示す経路A側のみとなり、半導体レーザ素子10の光出力が低くなり、戻り光雑音を低減できない。
【0063】
又、付加雑音nの最大振幅が大きすぎると、変調電流Iaの値が立ち上がり閾値IthONを超えるタイミングが変調電流Ioの最大値の周期とは無関係となり、光出力の強度変化が変調電流Ioの周期によらないランダムなものとなり、戻り光雑音を低減できない。よって、図2(b)の付加雑音nの最大振幅は、この付加雑音nを図2(a)の変調電流Ioに重畳して変調電流Iaを生成する際、この変調電流Iaが半導体レーザ素子10に注入されるときに得られた光出力が戻り光雑音の低減効果を得られるような値に調整される。
【0064】
このとき、重畳される付加雑音nはランダムな強度変化を持つため、周期や周波数が固定されない。よって、電流のゆらぎにも強くなり戻り光雑音の低減効果を維持できる。又、付加雑音は、周期信号と比べて、発生させる際の消費電力が少ない。これに対し、付加雑音の代わりに周期信号を重畳させて変調電流Iaを生成する場合、図3(a)のヒステリシス上部の経路Bに移行させるには、重畳させる周期信号及び変調信号Ioそれぞれの周期を完全に同一又は整数倍とする必要がある。即ち、重畳させる周期信号及び変調信号Ioそれぞれの最大値を同期させなければ、大きな振幅の光出力は得られないため、回路の熱雑音などで波形がゆらぐと戻り光雑音の低減効果が減衰してしまう。
【0065】
このような付加雑音nの強度を適度に調節し変調電流Ioに付加することで、注入する変調電流Iaの値を、変調電流Ioの値を中心値としてランダムに変化させることができる。よって、変調電流Ioの最大値と付加雑音nによる強度変化が確率的に同期して、図3(a)のヒステリシス上部の経路Bへと移行することができる。
【0066】
又、図3(b)のように、変調電流Ioの最小値が立ち下がり閾値IthOFFよりも低い値に設定されると、変調電流Iaが立ち上がり閾値IthONよりも少し高くなることで、注入電流―光出力特性がP1からP2へと急激に変化して、図3(a)のヒステリシス上部の経路Bへと移行し、大きな光出力が得られる。その後、変調電流Iaが低くなり、変調電流Iaが立ち下がり閾値IthOFFよりも低くなると、注入電流―光出力特性がP3からP4へと急激に変化して、図3(a)のヒステリシス上部の経路Aへと移行し、光出力がなくなる。よって、図3(c)のように、変調電流Iaを構成する変調電流Ioの周期に応じた振幅の大きいパルス状の光出力が得られる。
【0067】
又、変調電流の周波数が高周波になると、光子数の変動が変調周波数に追いつかなくなり、ヒステリシス上の立ち上がり閾値IthONの電流値でもレーザ発振しないことがあるが、このような場合には、変調電流Ioの最大値を、IthON以上で、かつレーザ発振する電流値よりも低く設定して雑音を付加すれば、同様の効果により変調光出力が得られる。
【0068】
又、付加雑音nとして有色雑音電流及び白色雑音電流それぞれを加えたときの光出力の差について、図4を参照して説明する。図4(a)は付加雑音nとして有色雑音電流を用いたときの光出力を示し、図4(b)は付加雑音nとして白色雑音電流を用いたときの光出力を示す。図4(a)の有色雑音電流を用いた場合の光出力の方が、図4(b)の白色雑音電流を用いた場合の光出力に比べて、波形が整っている。これは、図4(b)の白色雑音電流を用いた場合では白色雑音電流の周波数帯域が制限されていないために、変調電流Iaの高周波成分による振動が光出力波形を乱れさせているのに対し、図4(a)の有色雑音電流を用いた場合には有色雑音電流の周波数帯域が制限されて、光出力の波形が乱れないという効果が得られるからである。
【0069】
このように、付加雑音nとして白色雑音電流よりも有色雑音電流を用いた方が、良好な光出力が得られる。そして、この有色雑音電流を付加雑音nとして用いるとき、付加雑音nの雑音強度を変化させると、光出力の戻り光に対する相対雑音強度(RIN)が図5のようになる。図5に示すように、RINは、最適雑音強度Dmにおいて最小となる。本実施形態では、この最適雑音強度Dmをとる有色雑音電流を付加雑音nとして光増幅領域に注入する微小な変調電流Ioに付加しているので、適度な付加雑音nを重畳することで、変調電流Iaの最大値を立ち上がり閾値IthONより高くして、半導体レーザ素子10の注入電流―光出力特性をヒステリシス上部の経路Bに押し上げて、振幅の大きい変調光出力の発生を可能にしている。
【0070】
このように変調電流Io及び付加雑音nが設定されるとき、変調電流Ioには正弦波による変調を用い、その変調周波数は約300MHzとする。このとき、図3(a)における注入電流―光出力特性の立ち上がり閾値IthONが20mA、立ち下り閾値IthOFFが16mAとなるので、変調電流Ioの値を最大19.7mAおよび最小15mAとする。又、RINを最小にするため、付加雑音nの雑音強度がDmとなるよう、有色雑音電流による付加雑音nの最大振幅が0.5mAとなるように雑音強度を調整する。又、この付加雑音nのカットオフ周波数を60MHzとする。更に、可飽和吸収領域7bへ注入する直流電流は1.0mAとする。
【0071】
このように変調電流Io及び付加雑音nの各値を設定することによって、変調電流Ioの最大値と付加雑音nとが確率的に同期して、変調電流Iaが最大値となるときに立ち上がり閾値IthONより高くなるので、増幅率が増大して高い光出力を得られる。又、変調電流Ioの最小値が立ち上がり閾値IthOFFよりも低くなるので、増幅率が急激に減少して光出力が0となる。このようにして、図3(c)のような振幅の大きいパルス状の波形となる光出力が得られる。
【0072】
よって、微弱な変調電流Ioにより構成される変調電流Iaが注入されて大きい振幅の変調光出力を得ることができるので、最大10mWの高い出力と大きい振幅を持つ変調光出力が得られる。その結果、戻り光雑音の低減効果を得ることができる。更に、可飽和吸収領域7bには光増幅領域7aとは独立に電流を注入しているので、例えば、図3(a)における注入電流―光出力特性のヒステリシスを制御して発振閾値となる立ち上がり閾値IthONを低くして、変調電流Iaをより低い電流として駆動させたり、光出力の振幅を調整することができる。
【0073】
又、半導体レーザ素子へ注入される電流値が低くなると半導体レーザ素子の緩和振動周波数が低くなる。更に、半導体レーザ素子へ注入される電流の変調周波数が高いと光出力の波形に緩和振動が現れて、光出力の波形が大きく乱れることがある。しかしながら、本実施形態のように、半導体レーザ素子10へ注入される変調電流Iaに重畳された付加雑音nとして帯域制限された有色雑音電流を用いるため、白色雑音電流に比べて高周波成分が少ない。そのため、変調電流Iaの急激な変化が抑制され、光出力の波形が緩和振動によって乱れにくくなる。又、変調電流Iaの電流値を低くすると、消費電力が抑えられる利点がある。
【0074】
又、本実施形態でのRINの付加雑音強度依存性を、図6に示す。図6において、実線が有色雑音電流となる付加雑音nが重畳された場合の状態を示し、破線が白色雑音電流となる付加雑音nが重畳された場合の状態を示す。RINが−130dB/Hz以下となるとき、光ディスクの読み込みで必要に対応した値となるが、有色雑音電流を付加雑音nとした場合の方が、白色雑音電流を付加雑音nとした場合よりも、RINが−130dB/Hz以下の値を得る雑音強度の範囲が広い。更に、有色雑音電流を付加雑音nとした場合のRINの最小値が、白色雑音電流を付加雑音nとした場合の最小値よりも低い。
【0075】
よって、付加雑音nを有色雑音電流とする方が、付加雑音nの最大振幅が小さくても光出力の振幅を大きくすることができる。そのため、より低い消費電力で振幅の大きい最適な変調光出力を得られる。又、有色雑音電流を付加雑音nとする方が、付加雑音nの雑音強度をより広い条件で設定することができるため、半導体レーザ素子10の駆動時のパラメータ設定を広く取ることができ、雑音の低減を容易に行うことができる。なお、駆動時のパラメータには、付加雑音nの雑音強度とカットオフ周波数が含まれる。
【0076】
又、このように半導体レーザ素子10が構成されるとき、この半導体レーザ素子10を備えるレーザ駆動装置を図7のように構成しても構わない。即ち、図7のレーザ駆動装置は、図2(a)のような変調電流Ioを供給する変調電流供給回路11と、図2(b)のような有色雑音電流による付加雑音nを供給する付加雑音供給回路12と、変調電流供給回路11からの変調電流Ioに付加雑音供給回路12からの付加雑音nを重畳させて半導体レーザ素子10の端子1aに供給する結合器13と、半導体レーザ素子10の端子1bに直流電流を供給する定電流源14とより構成される。
【0077】
よって、定電流源14からの直流電流が端子1b及びp電極3bを介して可飽和吸収領域7bに供給されて、半導体レーザ素子10の注入電流―光出力特性における立ち上がり閾値IthON及び立ち下がり閾値IthOFFが設定される。そして、変調電流供給回路11からの変調電流Ioと、付加雑音供給回路12からの付加雑音nとが、結合器13において重ねあわされて、変調電流Iaが生成され、この変調電流Iaが端子1a及びp電極3aを介して光増幅領域7aに注入される。そして、半導体レーザ素子10から上述のように振幅の大きい高出力の光出力が得られる。又、図7のように構成することで、変調電流Ioと付加雑音nとを個々に生成した後に結合しているので、変調電流Io及び付加雑音nそれぞれの各種パラメータを自由に調整することができる。
【0081】
以上のように、本実施形態によれば、光増幅領域7aに発振閾値程度の微小な変調電流Ioと付加雑音nよりなる変調電流Iaを注入することにより、双安定状態を満たした半導体レーザ素子10において動作電流がレーザの発振閾値程度でも変調光出力を発生できるため、従来よりも低い消費電力で戻り光雑音の低減を実現できる。即ち、自励発振状態を有する半導体レーザ素子よりも作製の容易な双安定状態の半導体レーザ素子10を用いて、低い電流を半導体レーザ素子に注入して雑音特性に優れた振幅が大きく出力の高いレーザ光を得ることができる。よって、戻り光による雑音を低減できる。又、半導体レーザ素子10へ注入する電流を低くすることができるため、消費電力が低く駆動回路への負担が少なくすることができる。更に、自励発振型素子の作製が困難な窒化物半導体レーザ素子においても駆動できるので、読み込みでも8mW以上を要求される高密度記録媒体への対応が容易に可能となる。
【0082】
尚、本実施形態では変調電流Ioの最大値が19.7mAとなる場合を例に用いたが、変調電流Ioの最大値はこれに限るものではなく、半導体レーザ素子10の立ち上がり閾値IthONよりも低く、変調電流Ioを単独で光増幅領域7aに注入したとき、図3(a)に示す半導体レーザ素子10の注入電流―光出力特性曲線において、ヒステリシス上部の経路Bに移行できない値であれば構わない。尚、このとき、この変調電流Ioに付加雑音nを重畳した変調電流Iaの最大値が半導体レーザ素子10の立ち上がり閾値IthONを超えるように、変調電流Ioの最大値を設定する必要がある。
【0083】
又、本実施形態では光増幅領域3への変調電流Ioの最小値が15mAである場合を例に用いたが、変調電流Ioの最小値はこれに限るものではなく、半導体レーザ素子10の立ち上がり閾値IthON以下であればよい。このとき、この変調電流Ioに付加雑音nを重畳した変調電流Iaの最大値が半導体レーザ素子10の立ち上がり閾値IthONを超えるように設定することで、図3(a)に示す半導体レーザ素子10の注入電流―光出力特性曲線において、ヒステリシス上部の経路Bに移行する。よって、注入電流―光出力特性のヒステリシス上部の経路Bに準じた振幅となる光出力が半導体レーザ素子10より発振する。
【0084】
このように、高出力の発振したレーザ光が半導体レーザ素子10より出力されるため、戻り光雑音の低減効果を有する光出力が得られる。しかしながら、本実施形態のように、変調電流Ioの最小値を半導体レーザ素子10の立ち下り閾値IthOFF以下とした方が、半導体レーザ素子10の状態を注入電流―光出力特性のヒステリシス上部の経路A,Bそれぞれに移行させることができるため、光出力の振幅を大きくすることができ、戻り光雑音の低減効果を更に向上させることができる。
【0085】
又、本実施形態では、付加雑音nの雑音強度がRINが最小となる最適雑音強度Dmとなるよう、即ち、付加雑音nの最大振幅を0.5mAとしたが、付加雑音の値はこれに限るものではなく、半導体レーザ素子10から得られる光出力が、RINの値が光ディスク用ピックアップで必要とされる−130dB/Hz以下となる範囲の雑音強度であれば構わない。
【0086】
このとき、付加雑音nの最大振幅が半導体レーザ素子10の注入電流―光出力特性におけるヒステリシスの幅、即ち、立ち上がり閾値IthONと立ち下がり閾値IthOFFの差分(IthON−IthOFF)以下であれば変調光出力が得られる。更に、この付加雑音nの最大振幅が変調電流Ioの振幅以下であることが好ましい。このようにすることで、低消費電力で光出力の振幅を大きくでき、RINの値を向上することができるために、戻り光雑音の低減効果を向上できる。
【0087】
又、本実施形態の半導体レーザ素子10をp型電極3a,3b及びn型電極4a,4bのように電極を2つ設けたものとしたが、電極の数はこれに限られるものでなく、2つ以上の電極を有する半導体レーザ素子としても構わない。更に、n型電極4a,4bのようにn型電極を2つに分割したが、このn型電極を1つの電極としても構わない。
【0088】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態について、図面を参照して説明する。図は、本実施形態における半導体レーザ素子の基本構成を示す断面図である。尚、以下では、本実施形態の半導体レーザ素子として、第1の実施形態と同様、n型GaN基板上に設けられた窒化物半導体レーザ素子を例に挙げて説明する。又、図は、本実 施形態における窒化物半導体レーザ素子の構成を示す断面図で、図1の窒化物半導体レーザ素子と同一部分については、同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0089】
に示した半導体レーザ素子10aは、端子1c,1d,1eと、端子2と、端子1c,1d,1eそれぞれと電気的に接続されたp型電極3c,3d,3eと、n型電極4と、p型クラッド層5と、n型クラッド層6と、p型クラッド層5とn型クラッド層6の間に設けられた活性層7xとから構成される。
【0090】
このような半導体レーザ素子10aにおいて、活性層7xが、図の共振器方向に、光増幅領域7dと可飽和吸収領域7cと光増幅領域7eが順に構成される。このとき、可飽和吸収領域7cは、半導体レーザ素子10aの共振器方向における活性層7xの長さ全体に対して、10%となるように構成する。又、p型クラッド層5の表面上において、p型電極3cが可飽和吸収領域7cに対応した位置に、p型電極3dが光増幅領域7dに対応した位置に、p型電極3eが光増幅 領域7eに対応した位置に、それぞれ設けられる。
【0091】
このような構成の半導体レーザ素子10aにおいて、端子1cに直流電流が与えられて、p型電極3cを介して可飽和吸収領域7cに注入される。又、端子1d,1eそれぞれに、直流の動作電流に正弦波状の高周波電流を重畳した変調電流Iod,Ioeに更に付加雑音nd,neが重畳した変調電流Id,Ieが与えられて、p型電極3d,3eを介して光増幅領域10b,10cそれぞれに注入される。
【0092】
尚、本実施形態では、第1の実施形態における変調電流Ioと同様に、変調電流Iod,Ioeをともに正弦波で変調するとともに、その周波数を300MHzとした。又、半導体レーザ素子10aの立ち上がり閾値IthONが20mA、立下り閾値IthOFFが16mAであったため、変調電流Iod,Ioeの合計値を最大19.7mA、最小15mAとした。
【0093】
又、変調電流Iod,Ioeに重畳される付加雑音nd,neは、第1の実施形態における付加雑音nと同様、そのカットオフ周波数を60MHzとするとともに、RINの値が最小となるような値、即ち、付加雑音nd,neの合計値の最大振幅が0.5mAとなるように調整した。更に、可飽和吸収領域7cに注入する直流電流は、第1の実施形態における可飽和吸収領域7bに注入する直流電流と同様、1.0mAとした。
【0094】
このようにして、半導体レーザ素子10aが双安定状態となるように活性層7xの可飽和吸収領域7c及び光増幅領域7d,7eが構成されるとともに、半導体レーザ素子10aの注入電流−光出力特性が図3(a)のようなヒステリシスを構成するような直流電流が可飽和吸収領域7cに与えられる。そして、付加雑音nd,neを変調電流Iod,Ioeに重畳させて生成された変調電流Id,Ieを光増幅領域7d,7eに注入することで、変調電流Iod,Ioeの合計値が最大値となるときと付加雑音nd,neが確率的に同期して、変調電流Id,Ieの最大値が立ち上がり閾値IthONより高くなる。又、変調電流Iod,Ioeの合計値が最大値となるときは、変調電流Id,Ieの最小値が立ち下がり閾値IthOFFより低くなる。
【0095】
よって、変調電流Id,Ieの合計値が立ち上がり閾値IthONより高くなって、半導体レーザ素子10aの注入電流−光出力特性が図3(a)の経路Aから経路Bに移行するとともに、変調電流Id,Ieの合計値が立ち下がり閾値IthOFFより低くなって、半導体レーザ素子10aの注入電流−光出力特性が図3(a)の経路Bから経路Aに移行する。よって、本実施形態の半導体レーザ素子10aは、第1の実施形態と同様の作用により、10mWの光出力で変調光を出力する。その結果、第1の実施形態と同様の戻り光雑音低減効果を得ることができる。
【0096】
更に、可飽和吸収領域7cには光増幅領域7d,7eとは独立に電流を注入しているので、ヒステリシスを制御して発振閾値となる立ち上がり閾値を低くして、変調電流Id,Ieの合計値をより低い値として駆動させたり、光出力の振幅を調整することができる。
【0097】
このような高出力となるパルス状のレーザ光が発生するとき、図のように、光増幅領域7d,7eがそれぞれ、レーザ出射面8a,8bを有しているので、レーザ出射面8a,8bそれぞれからレーザ光が出射する。即ち、図の半導体レーザ素子10aの両側より、レーザ光が出射する。このとき、レーザ出射面8bから発生されるレーザ光の出力状態をモニタ部30でモニタすることで、レーザ出射面8aから発生されるレーザ光の出力状態を調整することができる。
【0098】
即ち、温度変化などの外部要因によるレーザ光の出力の揺らぎを、レーザ出射面8bから出射されるレーザ光の出力状態より認識し、この出力状態を用いて、レーザ出射面8aから発生されるレーザ光の出力状態が一定となるように、注入する変調電流Iod,Ioe及び付加雑音nd,ne及び可飽和吸収領域7cへの注入電流を調整して、フィードバック制御を行うことができる。
【0100】
よって、従来のように、ビームスプリッタなどを用いて、出力されるレーザ光の一部をモニタ用のレーザ光として分ける必要なく、半導体レーザ素子10a単体で、例えば光ピックアップ用のレーザ光とモニタ用のレーザ光とを得ることができる。そのため、半導体レーザ素子10aの構成を簡単なものとすることができるとともに、光ピックアップ用のレーザ光を100%利用することができる。
【0101】
以上のように、本実施形態によれば、自励発振状態を有する半導体レーザ素子よりも作製の容易な双安定状態の半導体レーザ素子10aを用いて、低い電流を半導体レーザ素子に注入して雑音特性に優れた振幅が大きく出力の高いレーザ光を得ることができる。よって、戻り光による雑音を低減できる。又、半導体レーザ素子10aへ注入する電流を低くすることができるため、消費電力が低く駆動回路への負担を少なくすることができる。更に、温度変化等の外部要因による光出力の揺らぎを、フィードバック回路などを使用して半導体レーザ素子10aへ注入する各注入電流の調整に反映させることができるため、光出力を一定にする調整が容易になる。
【0102】
尚、本実施形態では変調電流Iod,Ioeの合計値の最大値が19.7mAとなる場合を例に用いたが、これに限るものではなく、半導体レーザ素子10aの立ち上がり閾値IthONよりも低く、付加雑音nd,neが重畳されていない状態で光増幅領域7d,7eに注入したとき、図3(a)に示すヒステリシス上部の経路Bに移行できない値であれば構わない。又、本実施形態では光増幅領域3への変調電流Iod,Ioeの合計値の最小値が15mAである場合を例に用いたが、これに限るものではなく、半導体レーザ素子10aの立ち上がり閾値IthON以下であればよい。又、変調電流Iod,Ioeの合計値の最小値を半導体レーザ素子10aの立ち下り閾値IthOFF以下とした方が、更によい。
【0103】
又、本実施形態では、付加雑音nd,neの合計値の最大振幅を0.5mAとしたが、これに限るものではなく、半導体レーザ素子10aから得られる光出力が、RINの値が光ディスク用ピックアップで必要とされる−130dB/Hz以下となる範囲の雑音強度であれば構わない。このとき、付加雑音nd,neの合計値の最大振幅が半導体レーザ素子10aの注入電流―光出力特性におけるヒステリシスの幅、即ち、立ち上がり閾値IthONと立ち下がり閾値IthOFFの差分(IthON−IthOFF)以下であれば変調光出力が得られる。更に、この付加雑音nd,neの合計値の最大振幅が変調電流Iod,Ideの合計値の振幅以下であることが好ましい。又、付加雑音が光増幅領域7d,7eのいずれか一方のみに注入されるものとしても構わない。
【0104】
又、本実施形態の半導体レーザ素子10をp型電極3c〜3eのように電極を3つ設けたものとしたが、電極の数はこれに限られるものでなく、3つ以上の電極を有する半導体レーザ素子としても構わない。更に、n型電極4のようにn型電極を1つとしたが、このn型電極を活性層7xに作成された可飽和吸収領域及び光増幅領域に応じた数の電極に分割しても構わない。
【0105】
尚、第1及び第2の実施形態において、光増幅領域7a,7d,7eに注入する変調電流Ia,Id,Ieの変調を正弦波としたが、矩形波などの正弦波以外で変調を行っても構わない。しかしながら、正弦波による変調は簡易な手段であるとともに、変調電流の生成が容易であり消費電力を低く抑えることができるので、正弦波による変調が好ましい。又、光増幅領域7a,7d,7eへ注入する変調電流Ia,Id,Ieの変調周波数を約300MHzとしたが、300MHz以外の周波数であっても、戻り光雑音の低減効果を有する変調光出力が半導体レーザ素子10,10aより得られる周波数であれば構わない。
【0106】
又、有色雑音電流とする付加雑音n,nd,neのカットオフ周波数を60MHzとしているが、これに限るものではなく、半導体レーザ素子10,10aより得られる光出力のRINが、光ディスク用ピックアップで必要とされる−130dB/Hzを満たせる範囲であれば構わない。
【0107】
又、第1及び第2実施形態では、可飽和吸収領域7b,7cへ注入される直流電流の値が1.0mAである場合を例に用いたが、値はこれに限るものではなく、可飽和吸収領域7b,7cへの注入される電流値によって決まる、半導体レーザ素子10,10aの注入電流―光出力特性におけるヒステリシスの幅が、与えられる付加雑音の合計の最大振幅以上であれば、第1及び第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0108】
又、可飽和吸収領域7b,7cに付加雑音nを注入し、光増幅領域7a,7d,7eに変調電流Io,Iod,Ioeのみを注入するようにしても構わない。その場合、付加雑音nの最大振幅によって変動する半導体レーザ素子10,10aの発振閾値(立ち上がり閾値IthONに相当する)が最低値をとるタイミングが変調電流Io又は変調電流Iod,Ioeの合計の最大値に対して確率的に同期する。よって、可飽和吸収領域7b,7cへの注入電流値が半導体レーザ素子10,10aの注入電流―光出力特性におけるヒステリシスの立ち上がり閾値IthONを上下することとなり、半導体レーザ素子10,10aより変調された光出力が成される。そのため、半導体レーザ素子10,10aより、戻り光雑音の低減効果を有する光出力が得られる。
【0109】
但し、可飽和吸収領域7b,7cへ注入できる電流値の範囲が狭いため、付加雑音n,nd,neを光増幅領域7a,7d,7eへ注入する変調電流Io,Iod,Ioeに重畳する場合に比べて、光出力の強度を好適に決定することが困難であるため、付加雑音n,nd,neを光増幅領域7a,7d,7eへ注入する変調電流Io,Iod,Ioeに重畳する方が好ましい。又、可飽和吸収領域7b,7cに注入する電流は一定電流ではなく変調電流としても、戻り光雑音の低減効果を有する光出力が得られるので構わない。この場合、可飽和吸収領域7b,7cへの注入電流量によって注入電流―光出力特性におけるヒステリシスを制御できるので、半導体レーザ素子10,10aの光出力の特性を変えることができる。
【0110】
又、半導体レーザ素子10,10aそれぞれの可飽和吸収領域7b,7cの共振器方向における長さを、活性層7,7xそれぞれの共振器方向における長さの10%としたが、10%以外でも、光出力や波形は変化せず変調光出力が得られる。但し、可飽和吸収領域7b,7cの共振器に占める割合が大きくなると発振閾値が上がり、より高い注入電流値を必要とするため、活性層7,7xの共振器方向における長さの50%以下とすることが好ましい。
【0111】
又、付加雑音が変調電流に重畳されて光増幅領域7a,7d,7eに注入されるものとしたが、付加雑音及び変調電流がそれぞれ別々の回路を介して独立にp型電極に注入されるようにしても構わない。このとき、付加雑音の雑音強度の調整がやりやすくなるという利点がある。
【0112】
<第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態について、図面を参照して説明する。図は、本実施形態における半導体レーザ素子の構成を示す外観斜視図及び上面図である。尚、以下では、本実施形態の半導体レーザ素子として、サファイア基板上に設けられた窒化物半導体レーザ素子を例に挙げて説明する。
【0113】
(a)の外観斜視図に示すように、本実施形態の半導体レーザ素子10bは、サファイア基板41の表面に、GaNバッファ層42及びn型GaNコンタ クト層43が順番に積層され、更に、n型GaNコンタクト層43に設けられた凸部43bの表面に、n型クラッド層44及びIn0.2Ga0.8N量子井戸層とIn0.05Ga0.95N障壁層とからなる多重量子井戸構造活性層45及びp型クラッド層46が順番に積層されて構成される。
【0114】
又、この半導体レーザ素子10bにおいて、図(b)の上面図に示すように、n型GaNコンタクト層43のn型クラッド層44及び多重量子井戸構造活性層45及びp型クラッド層46が積層されていない部分には、GaNバッファ層42の一部が露出するように、n型GaNコンタクト層43の凸部43bまで達 する切り込み43aが設けられ、n型GaNコンタクト層43c,43dに分割されている。又、多重量子井戸構造活性層45には、光増幅領域45aと可飽和 吸収領域45bとが設けられ、光増幅領域45aと可飽和吸収領域45bとの境界線に対応するように切り込み43aが設けられる。
【0115】
更に、図(a)、(b)のように、p型クラッド層46の表面には、光増幅領域45a及び可飽和吸収領域45bそれぞれに対応する位置に、互いに隔離するようにp型GaNコンタクト層47a,47bが設けられる。そして、p型GaNコンタクト層47a,47bそれぞれの表面にp型電極48a,48bが設けられるとともに、n型GaNコンタクト層43c,43dそれぞれの表面にn型電極49a,49bが設けられる。
【0116】
又、光増幅領域45aと可飽和吸収領域45bとは、半導体レーザ素子10bが双安定状態を満足する条件において作製されるとともに、共振器方向における可飽和吸収領域45bの長さは、多重量子井戸構造活性層45の長さに相当する共振器長さ全体の約10%とした。このように構成されるとき、p型電極48aとn電極49aとの間に電位差を印加すると、この電位差が光増幅領域46aに印加される。又、p型電極48bとn型電極49bとの間に電位差を印加すると、この電位差が可飽和吸収領域46bに印加される。
【0117】
そして、第1の実施形態と同様、直流電流をp型電極48bを介して可飽和吸収領域45bに注入して、半導体レーザ素子10bをその注入電流―光出力特性が図3(c)のようにヒステリシスを形成するような双安定状態とする。そして、図2(a)のような時間波形となる変調電流Ioに図2(b)のような時間波形となる付加雑音nを重畳することで得られた図2(c)(図3(b))のような時間波形となる変調電流Iaを、p型電極48aを介して光増幅領域45aに注入する。このようにすることで、本実施形態の半導体レーザ素子10bは、第1の実施形態と同様の作用により、振幅の大きい高出力の光出力が得られる。その結果、第1の実施形態と同様の戻り光雑音低減効果を得ることができる。
【0118】
以上のように、本実施形態によれば、自励発振状態を有する半導体レーザ素子よりも作製の容易な双安定状態の半導体レーザ素子10bを用いて、低い電流を半導体レーザ素子に注入して雑音特性に優れた振幅が大きく出力の高いレーザ光を得ることができる。よって、戻り光による雑音を低減できる。又、半導体レーザ素子10bへ注入する電流を低くすることができるため、消費電力が低く駆動回路への負担が少なくすることができる。更に、コンタクト層および電極を素子の上部に作りつけているので、素子の集積化が容易になる。
【0119】
尚、本実施形態において、第1の実施形態と同様、活性層が1つの光増幅領域と1つの可飽和吸収領域とに分割されて構成されるものとしたが、第2の実施形態のように、光増幅領域が複数設けられて可飽和吸収領域を挟むように構成されるようにしても構わない。
【0120】
尚、第1〜第3の実施形態において使用される半導体レーザ素子は、GaN系などのAl、Ga、InなどのIII族元素とV族元素であるNとの化合物で構成される窒化物半導体レーザ素子を初めとして、GaAs系、AlGaAs系、AlGaInP系、II−VI系半導体などの材料を用いた半導体レーザ素子とすることができる。
【0121】
【発明の効果】
本発明によると、双安定状態の半導体レーザ素子を構成するため、半導体レーザ素子の作製を容易なものとすることができる。又、雑音電流を光増幅領域又は可飽和吸収領域のいずれかに供給することで、光増幅領域に供給する変調電流の最大値が半導体レーザ素子の注入電流−光出力特性における立ち上がり閾値よりも低い値であっても、変調電流の最大値がこの雑音電流と確率的に同期するため、光増幅領域に与えられた電流が立ち上がり閾値を超えることができる。よって、光出力を高出力とすることができる。
【0122】
又、このとき、変調電流の最小値を立ち下がり閾値より低くすることで、注入電流−光出力特性をヒステリシスの上下に遷移させることができるため、光出力の振幅を大きくすることができる。よって、変調電流の電流値を低くして変調電流を生成する回路の消費電力を抑制することができるとともに、戻り光による雑音を低減させることができる
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態における半導体レーザ素子の概略的な構成を示した断面図。
【図2】第1の実施形態における半導体レーザ素子の活性層への注入電流の時間波形図。
【図3】第1における実施形態の半導体レーザ素子の動作特性を説明するための図。
【図4】雑音電流に有色雑音又は白色雑音を用いたときの光出力を示した図。
【図5】有色の付加雑音強度を変化させたときの、光出力の戻り光に対する相対雑音強度(RIN)を示したグラフ。
【図6】相対雑音強度(RIN)の付加雑音強度依存性を示したグラフ。
【図7】半導体レーザ素子の駆動回路の構成を示すブロック図。
【図】第2の実施形態における半導体レーザ素子の概略的な構成を示した断面図。
【図】第3の実施形態における半導体レーザ素子の構造を示す図。
【図10】従来の自励発振型半導体レーザの構造の一例を示した断面図。
【図11】従来の自励発振型半導体レーザ素子の構造を表す断面図。
【図12】従来の窒化物半導体レーザ素子の構造を表す断面図。
【図13】従来の半導体レーザの動作特性を説明するための図。
【図14】従来の双安定状態の半導体レーザにおいて光増幅領域への注入電流対光出力の特性を示した図。
【図15】従来の双安定状態の半導体レーザ素子の概略的な素子構造を示す断面図。
【図16】図15に示した従来の双安定状態の半導体レーザの注入電流―光出力特性曲線を示した図。
【図17】半導体レーザの可飽和吸収領域および光増幅領域での利得特性曲線を示した図。
【符号の説明】
1a,1b 端子
2a,2b 端子
3a,3b p型電極
4 n型電極
5 n型クラッド層
6 p型クラッド層
7 活性層
7a 光増幅領域
7b 可飽和吸収領域

Claims (15)

  1. 注入される電流を増幅して光を発生する光増幅領域と光増幅領域で発生した光を吸収する可飽和吸収領域より成るとともにレーザ光を発生する活性層を有し、前記光増幅領域へ供給される電流値に対して出力するレーザ光の出力を表す電流−光出力特性がヒステリシスを有する双安定状態で動作する半導体レーザ素子において、
    前記光増幅領域に電流を注入する第1電極と、
    前記可飽和吸収領域に電流を注入する第2電極と、
    を備え、
    前記第1電極に直流の動作電流に高周波電流が重畳された変調電流が供給されるとともに、前記第1電極及び前記第2電極のいずれか一方に雑音電流が供給され
    前記変調電流の最大値が、前記電流−光出力特性において光出力が急激に大きくなる電流値よりも低いことを特徴とする半導体レーザ素子。
  2. 前記変調電流の最小値が、前記電流−光出力特性において光出力が急激に小さくなる電流値以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
  3. 前記第1電極に前記変調電流に前記雑音電流が重畳された電流が供給されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体レーザ素子。
  4. 前記雑音電流を有色雑音電流とすることを特徴とする請求項1〜請求項のいずれかに記載の半導体レーザ素子。
  5. 前記光増幅領域が複数設けられるとともに、少なくとも2つ以上の前記光増幅領域がレーザ光を出射するレーザ出射面を備えることを特徴とする請求項1〜請求項のいずれかに記載の半導体レーザ素子。
  6. 注入される電流を増幅して光を発生する光増幅領域と光増幅領域で発生した光を吸収する可飽和吸収領域より成るとともにレーザ光を発生する活性層を有し、前記光増幅領域へ供給される電流値に対して出力するレーザ光の出力を表す電流−光出力特性がヒステリシスを有する双安定状態で動作する半導体レーザ素子を駆動する半導体レーザ駆動装置において、
    前記半導体レーザ素子が、前記光増幅領域に電流を注入する第1電極と、前記可飽和吸収領域に電流を注入する第2電極と、を備えるとともに、
    前記第1電極に直流の動作電流に高周波電流が重畳された変調電流を供給する変調電流供給部と、
    前記第1電極及び前記第2電極のいずれか一方に雑音電流を供給する雑音電流供給部と、
    を有し、
    前記変調電流供給部において、前記変調電流の最大値が、前記電流−光出力特性において光出力が急激に大きくなる電流値よりも低い値となるように、前記変調電流を生成することを特徴とする半導体レーザ駆動装置。
  7. 前記変調電流供給部において、前記変調電流の最小値が、前記電流−光出力特性において光出力が急激に小さくなる電流値以下となるように、前記変調電流を生成することを特徴とする請求項6に記載の半導体レーザ駆動装置。
  8. 前記変調電流供給部からの前記変調電流に前記雑音電流供給部からの前記雑音電流を重畳する電流結合部を備え、当該電流結合部で前記変調電流に前記雑音電流が重畳された電流を前記第1電極に供給することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の半導体レーザ駆動装置。
  9. 前記雑音電流を有色雑音電流とすることを特徴とする請求項〜請求項のいずれかに記載の半導体レーザ駆動装置。
  10. 前記半導体レーザ素子において、前記光増幅領域が複数設けられるとともに、少なくとも2つ以上の前記光増幅領域がレーザ光を出射するレーザ出射面を備え、
    前記レーザ出射面の1つから出射されるレーザ光を計測する計測部を備え、
    当該計測部の計測結果によって、前記変調電流及び前記雑音電流及び前記第2電極に供給する電流それぞれのパラメータを調整することを特徴とする請求項〜請求項のいずれかに記載の半導体レーザ駆動装置。
  11. 注入される電流を増幅して光を発生する光増幅領域と光増幅領域で発生した光を吸収する可飽和吸収領域より成るとともにレーザ光を発生する活性層を有し、前記光増幅領域へ供給される電流値に対して出力するレーザ光の出力を表す電流−光出力特性がヒステリシスを有する双安定状態で動作する半導体レーザ素子を駆動する半導体レーザ駆動方法において、
    前記半導体レーザ素子に、前記光増幅領域に電流を注入する第1電極と、前記可飽和吸収領域に電流を注入する第2電極と、を設けるステップと、
    前記第1電極に直流の動作電流に高周波電流が重畳された変調電流を供給するとともに、前記第1電極及び前記第2電極のいずれか一方に雑音電流を供給するステップと、
    を有し、
    前記変調電流の最大値が、前記電流−光出力特性において光出力が急激に大きくなる電流値よりも低くなるように設定することを特徴とする半導体レーザ駆動方法。
  12. 前記変調電流の最小値が、前記電流−光出力特性において光出力が急激に小さくなる電流値以下となるように設定することを特徴とする請求項11に記載の半導体レーザ駆動方法。
  13. 更に、前記変調電流に前記雑音電流を重畳したステップと、前記変調電流に前記雑音電流が重畳された電流を前記第1電極に供給するステップと、
    を有することを特徴とする請求項11または請求項12に記載の半導体レーザ駆動方法。
  14. 前記雑音電流を有色雑音電流とすることを特徴とする請求項11〜請求項13のいずれかに記載の半導体レーザ駆動方法。
  15. 前記半導体レーザ素子において、前記光増幅領域を複数設けるとともに、少なくとも2つ以上の前記光増幅領域にレーザ光を出射するレーザ出射面を設けるステップと、
    前記レーザ出射面の1つから出射されるレーザ光を計測するステップと、
    当該計測部の計測結果によって、前記変調電流及び前記雑音電流及び前記第2電極に供給する電流それぞれのパラメータを調整するステップと、
    を備えることを特徴とする請求項11〜請求項14のいずれかに記載の半導体レーザ駆動方法。
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