JP4182282B2 - α,ω−ジカルボン酸類の製造方法とその触媒 - Google Patents

α,ω−ジカルボン酸類の製造方法とその触媒 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、α,ω−ジカルボン酸類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
α,ω−ジカルボン酸類は、各種化学製品およびその合成中間体等として重要な化合物であり、その製造方法としては、例えばα,ω−ジオール類を、過マンガン酸カリウム、重クロム酸カリウム等の金属酸化物を用い酸化する方法が知られているが、廃棄物処理の点で、環境負荷も高く、工業的に実施するには問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このような状況のもと、本発明者らは、安価で、取り扱い容易で、しかも反応後には無害な水となる、クリーンで優れた酸化剤として注目されている過酸化水素に着目し、α,ω−ジオール類と過酸化水素とからα,ω−ジカルボン酸類を製造する方法について、鋭意検討したところ、入手が容易なタングステン金属と過酸化水素とを反応せしめてなる金属酸化物が、α,ω−ジオール類と過酸化水素との反応において、良好な酸化触媒活性を示し、対応するα,ω−ジカルボン酸類が得られることを見いだし、本発明に至った。
【0004】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、タングステン金属と過酸化水素とを反応せしめてなる金属酸化物触媒の存在下に、α,ω−ジオール類(ただし、水酸基が結合した2つのメチレン基を結ぶ炭素鎖を構成する炭素数は3以上である。)と過酸化水素とを反応させることを特徴とするα,ω−ジカルボン酸類の製造方法とその触媒を提供するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
まず最初に、α,ω−ジオール類(ただし、水酸基が結合した2つのメチレン基を結ぶ炭素鎖を構成する炭素数は3以上である。)と過酸化水素とを反応させる際に用いる金属酸化物触媒について説明する。
【0006】
触媒としては、タングステン金属(以下、金属化合物と略記する。)と過酸化水素とを反応せしめてなる金属酸化物触媒が用いられる。
【0009】
媒である金属酸化物の調製をより容易にするという点で、粒径の小さい金属化合物を用いることが好ましい。
【0010】
かかる金属化合物と反応せしめる過酸化水素としては、通常水溶液が用いられる。もちろん過酸化水素の有機溶媒溶液を用いてもよいが、取扱いが容易であるという点で、過酸化水素水を用いることが好ましい。過酸化水素水もしくは過酸化水素の有機溶媒溶液中の過酸化水素濃度は特に制限されないが、容積効率、安全面等を考慮すると、実用的には1〜60重量%である。過酸化水素水は、通常市販のものをそのままもしくは必要に応じて、希釈、濃縮等により濃度調整を行なったものを用いればよい。また過酸化水素の有機溶媒溶液は、例えば過酸化水素水を有機溶媒で抽出処理する、もしくは有機溶媒の存在下に蒸留処理する等の手段により、調製したものを用いればよい。
【0011】
金属化合物と反応せしめる過酸化水素の使用量は、金属化合物に対して、通常3モル倍以上、好ましくは5モル倍以上であり、その上限は特にない。
【0012】
金属化合物と過酸化水素との反応は、通常水溶液中で実施される。もちろん例えばジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、例えば酢酸エチル等のエステル系溶媒、例えばtert−ブタノール等の第三級アルコール系溶媒、例えばアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒等の有機溶媒中または該有機溶媒と水との混合溶媒中で実施してもよい。
【0013】
金属化合物と過酸化水素との反応は、通常その両者を混合、接触させることにより行われ、金属化合物と過酸化水素の接触効率を向上させるため、金属酸化物調製液中で金属化合物が十分分散するよう攪拌しながら反応を行うことが好ましい。また金属化合物と過酸化水素の接触効率を高め、金属酸化物調製時の制御をより容易にするという点で、例えば粉末状の金属化合物等粒径の小さな金属化合物を用いることが好ましい。
【0014】
金属酸化物の調製時の調製温度は、通常−10〜100℃である。
【0015】
金属化合物と過酸化水素とを水中もしくは有機溶媒中で反応させることにより、金属化合物の全部もしくは一部が溶解し、金属酸化物を含む均一溶液もしくは懸濁液を調製することができるが、該金属酸化物を、例えば濃縮処理等により調製液から取り出して、触媒として用いてもよいし、該調製液をそのまま触媒として用いてもよい。
【0016】
次に、上記金属酸化物を触媒とするα,ω−ジオール類(ただし、水酸基が結合した2つのメチレン基を結ぶ炭素鎖を構成する炭素数は3以上である。)と過酸化水素との反応について説明する。
【0017】
本発明に用いられるα,ω−ジオール類は、炭素鎖の両末端に、メチレン基を介して水酸基が結合したジオール類であって、該炭素鎖を構成する炭素数が3以上のα,ω−ジオール類である。
【0018】
炭素数3以上の炭素鎖としては、例えばプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基等の炭素数3以上のアルキレン基が挙げられる。アルキレン基を構成する炭素原子は酸素原子で置換されていてもよく、またアルキレン基は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えばアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、シリル基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0019】
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、イソオクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状のアルキル基等が挙げられる。かかるアルキル基は置換基を有していてもよく、置換基としては、後述するアルコキシ基、後述するハロゲン原子、後述するシリル基等が挙げられ、かかる置換基を有するアルキル基としては、例えばクロロメチル基、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、トリメチルシリルメチル基等が挙げられる。
【0020】
アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の直鎖状、分枝鎖状または環状のアルコキシ基が挙げられる。
【0021】
アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、かかるアリール基は置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば前記アルキル基、例えば前記アルコキシ基、例えば後述するシリル基、例えば前記ハロゲン原子、例えばアセチル基、プロピオニル基等のアシル基等が挙げられ、かかる置換基で置換されたアリール基としては、例えば2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−アセチルフェニル基等が挙げられる。
【0022】
置換されていてもよいアラルキル基としては、前記アルキル基と前記アリール基とから構成されるものが挙げられ、例えばベンジル基、フェニルエチル基、4−フルオロベンジル基、4−メトキシベンジル基、2−クロロベンジル基等が挙げられる。
【0023】
シリル基としては、例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基等が挙げられ、ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0024】
また、かかる置換基が結合して、該置換基が結合している炭素原子とともに環を形成していてもよく、かかる環としては、例えばシクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロノナン環、シクロデカン環、シクロドデカン環、ベンゼン環等が挙げられ、かかる環は、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記シリル基、前記ハロゲン原子等で置換されていてもよい。
【0025】
かかるα,ω−ジオール類としては、例えば1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−フェニル−1,5−ペンタンジオール、3−フェニル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2,3−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、2−フェニル−1,6−ヘキサンジオール、3−フェニル−1,6−ヘキサンジオール、2,3−ジメチル−1,6−ヘキサンジオール、2,4−ジメチル−1,6−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−1,6−ヘキサンジオール、3,4−ジメチル−1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,6−ヘキサンジオール、3,3−ジメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、シクロペンタン−1,2−ジエタノール、シクロヘキサン−1,2−ジエタノール、シクロオクタン−1,2−ジエタノール、ベンゼン−1,2−ジエタノール等が挙げられる。
【0026】
本反応は、前記金属酸化物触媒の存在下に、α,ω−ジオール類と過酸化水素を反応させるものであり、ジオール部位が酸化されて、対応するα,ω−ジカルボン酸類が生成する。
【0027】
金属酸化物触媒の使用量は、金属として、α,ω−ジオール類に対して、通常0.001〜0.95モル倍、好ましくは0.005〜0.1モル倍である。
【0028】
過酸化水素としては、通常水溶液が用いられる。もちろん過酸化水素の有機溶媒溶液を用いてもよい。過酸化水素水もしくは過酸化水素の有機溶媒溶液中の過酸化水素濃度は特に制限されないが、容積効率、安全面等を考慮すると、実用的には1〜60重量%である。過酸化水素水は、通常市販のものをそのままもしくは必要に応じて、希釈、濃縮等により濃度調整を行なったものを用いればよい。また過酸化水素の有機溶媒溶液は、例えば過酸化水素水を有機溶媒で抽出処理する、もしくは有機溶媒の存在下に蒸留処理する等の手段により、調製したものを用いればよい。
【0029】
過酸化水素の使用量は、α,ω−ジオール類に対して、通常3モル倍以上、好ましくは4モル倍以上であり、その上限は特にないが、あまり多くなると経済的に不利になりやすいので、実用的には10モル倍以下である。なお、触媒として金属酸化物を含む調製液を用いる場合には、該調製液中に含まれる過酸化水素の量を考慮して、過酸化水素の使用量を設定してもよい。
【0030】
α,ω−ジオール類と過酸化水素との反応は、無溶媒で行ってもよいし、水溶媒中、有機溶媒中もしくは水と有機溶媒との混合溶媒中で行ってもよい。有機溶媒としては、例えばジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジグライム等のエーテル系溶媒、例えば酢酸エチル等のエステル系溶媒、例えばtert−ブタノール等の第三級アルコール系溶媒、例えばアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒等が挙げられる。
【0031】
本反応は、通常金属酸化物触媒、α,ω−ジオール類および過酸化水素を接触、混合させることにより行われるが、例えば金属化合物、過酸化水素およびα,ω−ジオール類を接触、混合させて、金属酸化物触媒の調製操作と、α,ω−ジオール類と過酸化水素との反応を、同時並行的に行ってもよい。
【0032】
反応温度は、通常50〜130℃であり、通常常圧条件下で実施されるが、減圧あるいは加圧条件下で実施してもよい。
【0033】
反応の進行と共に、α,ω−ジカルボン酸類が生成するが、かかる反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィ、高速液体クロマトグラフィ、薄層クロマトグラフィ、NMR、IR等の通常の分析手段により確認することができる。
【0034】
反応終了後、反応液をそのままもしくは必要に応じて残存する過酸化水素を、例えば亜硫酸ナトリウム等の還元剤で分解した後、濃縮処理、晶析処理等することにより、目的とするα,ω−ジカルボン酸類を取り出すことができる。また、反応液に、必要に応じて水および/または水に不溶の有機溶媒を加え、抽出処理し、得られる有機層を濃縮処理することにより、α,ω−ジカルボン酸類を取り出すこともできる。取り出したジカルボン酸類は、例えば蒸留、カラムクロマトグラフィ、再結晶等通常の精製方法によりさらに精製してもよい。
【0035】
α,ω−ジカルボン酸類を晶析処理により取り出した後の濾液や反応液を抽出処理し、有機層を取り出した後の水層は、本反応の金属酸化物触媒を含んでおり、そのままもしくは必要に応じて濃縮処理等を行った後、再度本反応に再使用することができる。
【0036】
かくして得られるα,ω−ジカルボン酸類としては、例えばグルタル酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、2−フェニルグルタル酸、3−フェニルグルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、2,3−ジメチルグルタル酸、2,4−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、2−フェニルアジピン酸、3−フェニルアジピン酸、2,3−ジメチルアジピン酸、2,4−ジメチルアジピン酸、2,5−ジメチルアジピン酸、3,4−ジメチルアジピン酸、2,2−ジメチルアジピン酸、3,3−ジメチルアジピン酸、1,7−ヘプタン二酸、スベリン酸、1,9−ノナン二酸、1,10−デカン二酸、シクロペンタン−1,2−二酢酸、シクロヘキサン−1,2−二酢酸、シクロオクタン−1,2−二酢酸、ベンゼン−1,2−二酢酸等が挙げられる。
【0037】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
実施例1
還流冷却管を付した100mLシュレンク管を窒素置換した後、室温で、タングステン金属0.074gおよび30重量%過酸化水素水1.1gを仕込み、内温50℃で15分攪拌し、触媒液を調製した。該触媒液に、1,6−ヘキサンジオール2.4gおよび30重量%過酸化水素水11gを仕込み、内温90℃で4時間攪拌、保持した。得られた反応液を冷却し、エタノール50mLを加え、十分に振とうした後、液体クロマトグラフィにより分析し、アジピン酸の生成を確認した。アジピン酸の生成量:1.8g、収率:60%(1,6−ヘキサンジオール基準)。
【0039】
実施例2
還流冷却管を付した100mLシュレンク管を窒素置換した後、室温で、タングステン金属0.074gおよび30重量%過酸化水素水1.1gを仕込み、内温50℃で15分攪拌し、触媒液を調製した。該触媒液に、1,8−オクタンジオール3gおよび30重量%過酸化水素水11gを仕込み、内温90℃で4時間攪拌、保持した。得られた反応液を冷却し、エタノール50mLを加え、十分に振とうした後、ガスクロマトグラフィにより分析し、スベリン酸の生成を確認した。スベリン酸の生成量:2.2g、収率:62%(1,8−オクタンジオール基準)。
【0040】
実施例3
還流冷却管を付した100mLシュレンク管を窒素置換した後、室温で、タングステン金属0.074gおよび30重量%過酸化水素水1.1gを仕込み、内温50℃で15分攪拌し、触媒液を調製した。該触媒液に、1,5−ペンタンジオール2.1gおよび30重量%過酸化水素水11gを仕込み、内温90℃で4時間攪拌、保持した。得られた反応液を冷却し、エタノール50mLを加え、十分に振とうした後、液体クロマトグラフィにより分析し、グルタル酸の生成を確認した。グルタル酸の生成量:0.9g、収率:33%(1,5−ペンタンジオール基準)。
【0041】
比較例1
還流冷却管を付した100mLシュレンク管を窒素置換した後、室温で、タングステン酸0.1gと30重量%過酸化水素水12.1gおよび1,6−ヘキサンジオール2.4gを仕込み、内温90℃で4時間攪拌、保持した。得られた反応液を冷却し、エタノール50mLを加え、十分に振とうした後、液体クロマトグラフィにより分析し、アジピン酸の生成を確認した。アジピン酸の生成量:1.3g、収率:44%(1,6−ヘキサンジオール基準)。
【0043】
比較例2
比較例1において、タングステン酸に代えて、酸化タングステン(使用量は、タングステンと等モル)を用いた以外は比較例1と同様に実施して、アジピン酸を、収率23%で得た(1,6−ヘキサンジオール基準)。
【0044】
比較例3
実施例1において、タングステン金属に代えて、酸化タングステン(使用量は、タングステン金属と等モル)を用いた以外は実施例1と同様に実施して、アジピン酸を、収率23%で得た(1,6−ヘキサンジオール基準)。
【0049】
【発明の効果】
本発明によれば、入手が容易タングステン金属と過酸化水素とから、容易に調製できる金属酸化物触媒の存在下に、α,ω−ジオール類とクリーンな酸化剤である過酸化水素とを反応させることにより、α,ω−ジカルボン酸類が得られるため、工業的に有利である。

Claims (2)

  1. タングステン金属と過酸化水素とを反応せしめてなる金属酸化物触媒の存在下に、α,ω−ジオール類(ただし、水酸基が結合した2つのメチレン基を結ぶ炭素鎖を構成する炭素数は3以上である。)と過酸化水素とを反応させることを特徴とするα,ω−ジカルボン酸類の製造方法。
  2. タングステン金属と過酸化水素とを反応せしめてなる、α,ω−ジオール類(ただし、水酸基が結合した2つのメチレン基を結ぶ炭素鎖を構成する炭素数は3以上である。)を酸化してα,ω−ジカルボン酸類を製造するための触媒。
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