JP4177522B2 - 傾斜機能複合材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、傾斜機能複合材の製造方法に関し、一層詳細には、表面から内部に指向して非酸化物セラミックスと金属の組成比が変化しており、このために表面から内部に指向して特性が変化する傾斜機能複合材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属とセラミックスとが含有されてなる複合材は、金属に由来する高靱性と、セラミックスに由来する高硬度および耐摩耗性とを兼ね備えており、種々の分野で広汎に使用されている。例えば、炭化タングステンとコバルトが焼結されてなる炭化タングステン−コバルト系超硬合金や、炭化チタンとモリブデンが焼結されてなる炭化チタン系サーメットは、切削工具の刃具として採用されている。
【0003】
このような刃具の特性は、金属の組成比に大きく依存する。例えば、前記炭化チタン系サーメットにおいては、モリブデンの組成比が低い場合、該サーメットの硬度が高くなる。また、刃具としての使用に際して摩耗が少なくなるので、長寿命が確保される。近年においては、刃具の硬度や耐摩耗性を確保するため、複合材中の金属の組成比を低減する傾向にあり、例えば、炭化タングステン−コバルト系超硬合金からなる刃具においては、コバルトの組成比は6重量%程度とされる。また、刃具の表面の硬度や耐摩耗性をさらに向上させるため、該表面に対して、物理気相析出(PVD)法や化学気相析出(CVD)法により被膜を形成することが通例となっている。
【0004】
ところで、PVD法やCVD法により被膜を形成する場合、ワークの大きさや形状に制約を受けるという不都合がある。すなわち、被膜を効率よく形成することができないので、刃具等の製造コストが上昇してしまう。さらに、この被膜は、高応力下では容易に剥離してしまう。
【0005】
被膜の形成を不要とするためには、複合材中の金属の組成比をさらに低減して複合材の硬度を一層向上させることが有効であるかのように考えられる。しかしながら、この場合、該複合材の硬度や耐摩耗性が確保される一方で、靱性が低下してしまう。靱性が低下した刃具においては、使用時に割れや欠けが容易に生じるようになるという不具合が惹起される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記の不具合を解決するために、表面においてはセラミックスの組成比が金属よりも高く、内部においては金属の組成比がセラミックスよりも高い、いわゆる、傾斜機能複合材を刃具の構成材料として採用することも考えられる。このような傾斜機能複合材は表面が高硬度で耐摩耗性も良好であり、かつ内部が靱性に優れるからである。
【0007】
傾斜機能複合材は、例えば、100体積%の金属粒子、80体積%の金属粒子と20体積%のセラミックス粒子の混合粉末、60体積%の金属粒子と40体積%のセラミックス粒子の混合粉末、40体積%の金属粒子と60体積%のセラミックス粒子の混合粉末、20体積%の金属粒子と80体積%のセラミックス粒子の混合粉末、100体積%のセラミックス粒子をこの順序で積層し、次いでこの積層体を焼結させることにより製造される。
【0008】
しかしながら、金属粒子の焼結可能な温度とセラミックス粒子の焼結可能な温度は周知のように大きく異なり、後者の方がより高温である。したがって、金属粒子が焼結可能な温度で上記積層体を焼結した場合には、セラミックス粒子が緻密化しないので低強度の傾斜機能複合材となる。一方、セラミックス粒子が焼結可能な温度で上記積層体を焼結した場合には、金属が融解してしまうので所望の形状の傾斜機能複合材を製造することができない。また、上記のように段階的に組成比が異なる積層体の焼結を行うと、緻密化速度や焼結に伴う収縮の度合いが各層において異なるために、焼結体(傾斜機能複合材)が変形する。さらに、焼結の際に、焼結体にクラックが発生することもある。
【0009】
他の従来技術に係る傾斜機能複合材の製造方法としては、金属をセラミックスからなるクラッド材で被覆する方法や、嵌合または焼嵌め等を行う方法が例示されるが、これらの方法により製造された傾斜機能複合材は、金属からなる部位とセラミックスからなる部位とが明確に区分される。このため、硬度に優れかつ靱性にも優れる部位を得ることができない。また、前記金属からなる部位と前記セラミックスからなる部位との間に界面が存在するようになるので、この界面により熱や応力弾性波の伝導が阻害される。その結果、該界面に熱応力や応力が集中し、疲労破壊を招いてしまうという不具合がある。
【0010】
すなわち、従来技術に係る傾斜機能複合材の製造方法では、実用に供することが可能な程度の硬度および靱性を兼ね備える傾斜機能複合材を所望の形状で製造することができないという問題があり、このような傾斜機能複合材を刃具等の構成材料として採用することは事実上不可能である。
【0011】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、表面から内部に指向して非酸化物セラミックスと金属の組成比が変化することに伴って特性が変化し、高硬度と高靱性とを兼ね備え、しかも、金属からなる部位とセラミックスからなる部位とが明確に区分されず、したがって、界面が存在しないので熱応力や応力が集中することのない傾斜機能複合材の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明は、表面から内部に指向して組成比が低下する炭化チタン、炭化タングステン、炭化タンタル、炭化ニオブ、窒化チタン、窒化ケイ素、炭窒化チタン、ホウ化チタンの群の非酸化物セラミックス中の少なくともいずれか1種の群の非酸化物セラミックス中の少なくともいずれか1種と、前記表面から前記内部に指向して組成比が上昇する鉄、ニッケル、コバルト、チタンの群の金属中の少なくともいずれか1種と、ホウ素化合物とを含有してなる傾斜機能複合材の製造方法であって、
前記金属の粒子と前記非酸化物セラミックスの粒子の混合粉末を成形して成形体とする成形工程と、
前記成形体を焼結して多孔質焼結体とする一次焼結工程と、
前記多孔質焼結体の内部にホウ素アルコキシド、又はホウ酸塩を含有する溶液からなるホウ素化合物含有溶液を含浸する含浸工程と、
ホウ素化合物含有溶液が含浸された前記多孔質焼結体を表面から加熱し再焼結して緻密焼結体とする二次焼結工程と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
このようにして得られた緻密焼結体(傾斜機能複合材)は、表面が硬度や耐摩耗性に優れ、かつ内部が強度に優れる。また、この傾斜機能複合材は、金属の組成比が高い場合であっても強度や硬度が低下しない。しかも、金属の組成比が高いので靱性にも優れる。したがって、該傾斜機能複合材により刃具を構成すると、この刃具は長寿命でかつ割れや欠けが生じにくいものとなる。
【0014】
本発明では、二次焼結工程において金属粒子の拡散が起こることにより、緻密焼結体においては金属に濃度勾配が生じる。すなわち、各層において金属粒子とセラミックス粒子の組成比が異なる積層体等を作製することなく、傾斜機能複合材を容易に製造することができる。
【0015】
また、ホウ素化合物を溶媒中に分散または溶解することにより、該ホウ素化合物は単一分子またはイオンにまで解離され、多孔質焼結体の内部に均一に分散される。このように単一分子またはイオンにまで解離されたホウ素化合物を粒成長材として非酸化物セラミックス粒子を緻密化させることにより得られた傾斜機能複合材においては、ホウ素化合物を粒成長材とせずに製造された複合材よりも靱性が著しく向上する。
【0016】
非酸化物セラミックス粒子としては、平均粒径が0.1〜10μmの粒子を用いることが好ましい。硬度や強度が特に優れる傾斜機能複合材を得ることができるからである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る傾斜機能複合材につきその製造方法との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
本実施の形態に係る傾斜機能複合材は、非酸化物セラミックスと、金属と、ホウ素化合物とを含有してなる。
【0019】
非酸化物セラミックスは傾斜機能複合材に高硬度や耐摩耗性をもたらす成分である。非酸化物セラミックスとしては、後述する二次焼結工程の際に、ホウ素化合物の存在により前記金属の融点よりも低温で緻密化が促進されるものであれば特に限定はされないが、好適な例としては、炭化チタン、炭化タングステン、炭化タンタル、炭化ニオブ等の炭化物セラミックスや、窒化チタン、窒化ケイ素等の窒化物セラミックス、炭窒化チタン等の炭窒化物セラミックス、あるいはホウ化チタン等のホウ化物セラミックス等を挙げることができる。
【0020】
金属は傾斜機能複合材に高靱性をもたらす成分である。すなわち、金属の含有量が高いほど傾斜機能複合材の靱性が高くなる。したがって、該傾斜機能複合材を刃具として用いる場合、この刃具は割れや欠けが生じにくいものとなる。
【0021】
金属としては、二次焼結工程の際に融解を起こすことのないもの、換言すれば、非酸化物セラミックス粒子の緻密化が行われる温度よりも融点が高いものが選定される。このような金属であれば特に限定はされないが、非酸化物セラミックスとして上記したようなものが選定された場合においては、鉄、ニッケル、コバルト、チタン等を好適な例として挙げることができる。
【0022】
傾斜機能複合材における非酸化物セラミックスの組成比が高くなると、必然的に金属の組成比が低くなる。その結果、該傾斜機能複合材の靱性は低下する。このため、非酸化物と金属の組成比は、得られる傾斜機能複合材に必要とされる硬度や靱性に応じて設定される。例えば、非酸化物セラミックスとして炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化タングステン等を用い、金属としてコバルトを用いて切削工具の刃具とするための傾斜機能複合材を得る場合、非酸化物セラミックスの組成比(3種の合計)を75〜92重量%、コバルトの組成比を8〜25重量%とすることが望ましい。
【0023】
本実施の形態に係る傾斜機能複合材からなる刃具は、コバルトの組成比がこのように高い場合であっても、コバルトの組成比が6重量%程度の炭化タングステン−コバルト系超硬合金からなる刃具に比して硬度や耐摩耗性に優れる。また、コバルトの組成比が著しく高いことから、靱性も著しく優れており、さらに、前記炭化タングステン−コバルト系超硬合金からなる刃具と同等の切削性能を具備する。
【0024】
また、ホウ素化合物としては、二次焼結工程で非酸化物セラミックス粒子の表面を拡散しながら該非酸化物セラミックス粒子の粒成長を促進するもの、すなわち、粒成長材として作用するものであれば特に限定はされないが、ホウ素アルコキシドまたはホウ酸塩を好適な例として挙げることができる。ホウ素アルコキシドとしてはホウ素エトキシドやホウ素プロポキシド等が例示され、ホウ酸塩としてはホウ酸ニッケル、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸ニトリル等が例示される。このようなもののうち、ホウ酸ニッケルは著しく靱性に優れる傾斜機能複合材が得られるので特に好適である。
【0025】
傾斜機能複合材におけるホウ素化合物の組成比は、0.1〜10重量%とすることが好ましい。0.1重量%よりも少ないと、非酸化物セラミックス粒子の粒成長を促進させる効果に乏しい。また、10重量%よりも多いと、傾斜機能複合材の粒界にホウ素化合物が偏在するようになるので、強度が低い傾斜機能複合材となることがある。
【0026】
この傾斜機能複合材においては、内部になるにつれて非酸化物セラミックスの組成比は低下し、逆に金属の組成比は上昇する。すなわち、表面から内部に指向して、非酸化物セラミックスには負の濃度勾配が生じており、一方、金属には正の濃度勾配が生じている。また、非酸化物セラミックスと金属とを区分する界面も存在しない。
【0027】
このため、該傾斜機能複合材の硬度や耐摩耗性は、非酸化物セラミックスの組成比が最も高い表面が最も優れており、内部に指向して低下する。一方、靱性は金属の組成比が表面に比して高い内部の方が表面よりも優れている。しかしながら、上記したように、この傾斜機能複合材においては非酸化物セラミックスと金属とが明確に区分されていないので、該傾斜機能複合材の表面における靱性は金属により向上され、非酸化物セラミックスのみからなる焼結体の靱性よりも優れるようになる。さらに、非酸化物セラミックスと金属とを区分する界面が存在しないので、熱応力や応力の集中が惹起されることがない。
【0028】
すなわち、本実施の形態に係る傾斜機能複合材は、非酸化物セラミックスに負の濃度勾配が生じ、かつ金属に正の濃度勾配が生じていることに伴って、特性が表面から内部に指向して変化する。また、熱応力や応力が一箇所に集中することがないので、疲労破壊が抑制されるとともに従来技術に係る傾斜機能複合材よりも高い強度を具備する。
【0029】
この傾斜機能複合材は、次のようにして製造することができる。
【0030】
本実施の形態に係る傾斜機能複合材の製造方法を図1に示す。図1に示されるように、この製造方法は、成形体を得る成形工程S1と、前記成形体を焼結して多孔質焼結体とする一次焼結工程S2と、前記多孔質焼結体にホウ素化合物含有溶液を含浸する含浸工程S3と、前記多孔質焼結体を再焼結して緻密焼結体とする二次焼結工程S4とを備える。ここで、ホウ素化合物含有溶液とは、ホウ素化合物が溶解または分散された溶液のことを指称するものとする。
【0031】
まず、成形工程S1において、金属粒子と非酸化物セラミックス粒子の混合粉末を成形して成形体とする。混合の際には、両者を均一に混合してよい。すなわち、両者の組成比が順次異なる積層体等を作製する必要はない。
【0032】
成形工程S1での成形荷重は、後述する一次焼結工程S2において多孔質焼結体が得られるようにするため、金属粒子が塑性変形を起こさない程度に設定される。具体的には、成形荷重を100〜300MPa程度とすることが好ましい。成形荷重がこのような範囲であれば金属粒子が塑性変形を起こすことを回避することができるので、成形体の開気孔が閉塞されることがない。
【0033】
また、非酸化物セラミックス粒子としては、平均粒径が0.1〜10μmであるものを使用することが好ましい。0.1μmよりも小さい粒子であると、傾斜機能複合材の硬度を向上させる効果が乏しくなることがある。また、10μmよりも大きい粒子であると、強度を向上させる効果が乏しくなることがある。
【0034】
なお、非酸化物セラミックス粒子の代替に酸化物セラミックス粒子が用いられた場合、二次焼結工程S4において、この酸化物セラミックス粒子とホウ素化合物とが反応して複合酸化物が生成する。すなわち、酸化物セラミックス粒子は、著しくは粒成長しないので、金属粒子の多孔質焼結体の内部への拡散が抑制される。したがって、傾斜機能複合材を得ることができない。
【0035】
次いで、一次焼結工程S2において、開気孔が残留するように前記成形体を焼結して多孔質焼結体とする。この時点で緻密焼結体とすると、含浸工程S3において、該緻密焼結体にホウ素化合物含有溶液を含浸させることが困難となるからである。
【0036】
したがって、この一次焼結工程S2における焼結温度や時間は、金属粒子同士の融着が起こり、該金属粒子同士にネックが形成された状態で終了されるように設定される。すなわち、一次焼結工程S2では、非酸化物セラミックスの粒子は緻密化されない。このため、成形体が多孔質焼結体になる過程においては、体積はほとんど変化しない。
【0037】
次いで、含浸工程S3において、前記多孔質焼結体にホウ素化合物含有溶液を含浸させる。具体的には、ホウ素化合物含有溶液中に前記多孔質焼結体を浸漬する。この浸漬により、該多孔質焼結体の開気孔からホウ素化合物含有溶液が浸透する。
【0038】
ホウ素化合物を溶媒中に分散または溶解させることにより、該ホウ素化合物は単一分子またはイオンにまで解離される。したがって、この含浸工程S3においては、多孔質焼結体の開気孔に単一分子またはイオンにまで解離されたホウ素化合物が均一に分散される。その結果、二次焼結工程S4における非酸化物セラミックス粒子の粒成長を、多孔質焼結体の表面から内部に亘り促進することができる。なお、金属粒子と非酸化物セラミックス粒子とともにホウ素化合物の粒子が混合された混合粉末を成形し、次いでこれを焼結しても、得られた焼結体は曲げ強度等が低く、実用に供することができないものとなる。
【0039】
含浸工程S3でホウ素化合物含有溶液中のホウ素化合物の濃度や多孔質焼結体の浸漬時間を調整することにより、二次焼結工程S4で得られる緻密焼結体(傾斜機能複合材)のホウ素化合物の組成比を設定することができる。すなわち、含浸工程S3では、傾斜機能複合材のホウ素化合物の組成比が0.1〜10重量%となるように、ホウ素化合物含有溶液の濃度に応じて多孔質焼結体の浸漬時間が設定される。
【0040】
次いで、二次焼結工程S4において、ホウ素化合物が分散された多孔質焼結体を再焼結して緻密焼結体とする。すなわち、非酸化物セラミックス粒子を粒成長させる。この粒成長の際には、ホウ素化合物が非酸化物セラミックス粒子の表面に沿って拡散し、粒成長材として作用するので、金属粒子を融解させることなく非酸化物セラミックス粒子を緻密化させることができる。
【0041】
二次焼結工程S4では、非酸化物セラミックス粒子が粒成長する最中に金属粒子が拡散を起こして焼結体の内部へと潜入する。その結果、表面から内部に指向して、非酸化物セラミックスに負の濃度勾配が生じ、かつ金属に正の濃度勾配が生じ、しかも、非酸化物セラミックスと金属とを区分する界面が存在しない緻密焼結体(傾斜機能複合材)が製造されるに至る。
【0042】
この傾斜機能複合材の靱性は、ホウ素化合物を粒成長材とせずに緻密化された複合材や前記炭化タングステン−コバルト系超硬合金に比して著しく優れる。すなわち、後者の破壊靱性値がいずれも6〜7MPam1/2程度であるのに対し、この傾斜機能複合材の破壊靱性値は10〜12MPam1/2と著しく高い値を示す。
【0043】
この傾斜機能複合材において、非酸化物セラミックスに負の濃度勾配が生じ、かつ金属に正の濃度勾配が生じている理由は、以下のような機構によるものと推察される。
【0044】
非酸化物セラミックス粒子の粒成長は吸熱反応であり、したがって、二次焼結工程S4では、最も早く温度が上昇する多孔質焼結体の表面で粒成長が開始される。これにより熱が表面に指向して伝導するので、該多孔質焼結体の表面から内部に指向して負の温度勾配が生じる。そして、非酸化物セラミックス粒子の粒成長は、非酸化物セラミックス粒子と金属粒子との粒成長または金属粒子の粒成長よりも著しく速い速度で起こる。
【0045】
非酸化物セラミックス粒子が粒成長することに伴い、充分に粒成長していない金属粒子はこの非酸化物セラミックス粒子により押動される。この押動により、金属粒子は焼結体の内部に指向して拡散する。ここで、上記したように焼結体の内部には負の温度勾配が生じているので、内部においては、非酸化物セラミックス粒子の粒成長は表面よりも促進されない。このため、内部になるにしたがって非酸化物セラミックス粒子による金属粒子の押動が抑制される。すなわち、金属の拡散が起こりにくくなる。
【0046】
換言すれば、多孔質焼結体が緻密化する際、該多孔質焼結体の内部になるにしたがって金属粒子が拡散することが困難となる。その結果、緻密焼結体においては、表面から内部に指向して金属に正の濃度勾配が生じると考えられる。
【0047】
勿論、二次焼結工程S4における焼結温度や時間は、非酸化物セラミックス粒子の粒成長を上記のように制御することが可能なように設定される。すなわち、多孔質焼結体に負の温度勾配が生じる温度で焼結した場合、金属粒子が拡散することなく該多孔質焼結体が緻密化するので傾斜機能複合材が得られなくなるからである。具体的には、二次焼結工程S4は、焼結温度を1350〜1500℃とし、0.5〜3時間保持することにより行うことが好ましい。焼結温度が1350℃より低いと非酸化物セラミックスが充分に緻密化せず、曲げ強度等が低い焼結体となることがあり、1500℃より高いと金属粒子の融解が起こるようになるために焼結体が変形するので、やはり曲げ強度等が低い焼結体となることがある。また、保持時間が0.5時間よりも短いと非酸化物セラミックスが充分に緻密化せず、金属粒子の拡散も不充分であるので硬度が低い焼結体となることがあり、3時間よりも長いと非酸化物セラミックス粒子が過度に粒成長するので硬度や強度が低い焼結体となることがある。
【0048】
粒成長材として作用するホウ素化合物は、上記したように非酸化物セラミックス粒子の粒成長中に該非酸化物セラミックス粒子の表面に沿って拡散した後、粒界に偏在するようになる。ここで、二次焼結工程S4での焼結時間が0.5時間という短時間でも非酸化物セラミックス粒子が著しく粒成長しているのが認められることから、ホウ素化合物は、酸化ホウ素として拡散していると推察される。すなわち、拡散速度が速い粒成長材を使用すると、短時間で粒成長が起こるからである。非酸化物セラミックス粒子の粒成長の速度が、非酸化物セラミックス粒子と金属粒子との粒成長の速度や金属粒子の粒成長の速度よりも著しく速い理由は、このためであると推察される。
【0049】
このホウ素化合物の一部は、焼結時に雰囲気ガスや非酸化物セラミックスの構成成分と反応する。その結果、別のホウ素化合物が生成する。例えば、雰囲気ガスとして窒素が使用された場合には、窒素とホウ素化合物とが反応して窒化ホウ素が生成する。また、非酸化物セラミックスが上記したような炭化物セラミックスである場合には、炭化物セラミックス中の遊離炭素とホウ素化合物とが反応して炭化ホウ素が生成する。このことは、傾斜機能複合材における不純物酸素含有量が多孔質焼結体より少ないことからも支持される。
【0050】
窒化ホウ素や炭化ホウ素は硬度が高く、したがって、これらが傾斜機能複合材の表面に生成した場合には該傾斜機能複合材の表面の硬度が一層向上するので好適である。このことから諒解されるように、焼結時の雰囲気ガスとしては、窒素を使用することが好ましい。
【0051】
ここで、この傾斜機能複合材から刃具を構成する場合には、金属粒子の拡散を制御して該傾斜機能複合材の表面に残留させることが好ましい。すなわち、表面における非酸化物セラミックスの組成比が100%とならないようにする。これにより、表面が靱性に優れるようになるので、刃具として使用する際に割れや欠けが生じにくいものとなる。この場合、この傾斜機能複合材の表面は著しく硬度が高いので、PVD法やCVD法により被膜を形成してさらに硬度を向上させる必要はない。したがって、刃具の製造コストを低減することが可能となるとともに生産効率を向上することが可能となる。
【0052】
なお、二次焼結工程S4では、昇温に伴い、非酸化物セラミックス粒子の粒成長に先立ってホウ素化合物含有溶液の溶媒が揮散され、多孔質焼結体の内部から除去される。このような溶媒の揮散除去は、昇温の最中に、焼結温度よりも低い温度を一定に保持することによって行ってもよい。または、ホウ素化合物含有溶液が含浸された多孔質焼結体をオーブン等で乾燥するようにして行ってもよい。
【0053】
【実施例】
1.二次焼結工程における焼結時間の設定
2重量%の炭化タンタル(TaC)粒子と、1重量%の炭化ニオブ(NbC)粒子と、89重量%の炭化タングステン(WC)粒子と、8重量%のコバルト(Co)粒子とを、アルコールを用いて湿式混合して混合粉末とした。なお、TaC粒子、NbC粒子およびWC粒子は、平均粒径が約1μmとなるまで予め粉砕されたものを使用した。
【0054】
次いで、この混合粉末を100MPaの成形圧で冷間静水圧加圧処理することにより成形体を作製した。この成形体を乾燥した後、雰囲気ガスを窒素として950℃で0.5時間保持することにより多孔質焼結体とした。この多孔質焼結体の体積は、成形体の体積と略同等であった。すなわち、体積収縮は認められなかった。また、多孔質焼結体の内部には、50体積%程度の開気孔が3次元状に連なって存在していた。
【0055】
次いで、この多孔質焼結体をホウ酸ニッケルの10重量%水溶液に10分間浸漬した。この浸漬により多孔質焼結体の内部にホウ酸ニッケルを分散させた。その後、この多孔質焼結体をオーブン内で150℃で4時間乾燥し、溶媒である水を揮散除去した。
【0056】
次いで、雰囲気ガスを窒素とし、10Paの減圧下で1300℃まで昇温した後、圧力を300kPaに上昇させて1400℃で種々の時間保持することにより前記多孔質焼結体を緻密化させ、ホウ素化合物の組成比が0.6重量%である傾斜機能複合材を得た。また、ホウ素化合物含有溶液としてホウ酸ニトリルの10重量%水溶液を用い、上記と同様にしてホウ素化合物の組成比が1.7重量%である傾斜機能複合材を得た。
【0057】
このようにして得られた各傾斜機能複合材につき曲げ強度を測定した。なお、曲げ強度は、JIS R1601に準拠する曲げ強度試験方法により求めた。結果を図2に示す。図2から、焼結時間が0.5時間未満である場合や3時間を超える場合には、各傾斜機能複合材の曲げ強度が著しく低下することが諒解される。すなわち、二次焼結工程S4における焼結時間は、0.5〜3時間が好適であるということがいえる。
【0058】
2.二次焼結工程における焼結温度の設定
多孔質焼結体に含浸させるホウ素化合物含有溶液としてホウ酸ニトリルの10重量%水溶液を用い、かつ、二次焼結工程S4において、雰囲気ガスを窒素とし、10Paの減圧下で1300℃まで昇温した後、圧力を300kPaに上昇させて種々の温度で2時間保持した以外は上記と同様にして、ホウ素化合物の組成比が1.3重量%である傾斜機能複合材を得、曲げ強度を測定した。結果を図3に示す。
【0059】
図3から、焼結温度が1350℃未満の場合や1500℃を超える場合には、傾斜機能複合材の曲げ強度が著しく低下することが諒解される。すなわち、二次焼結工程S4における焼結温度は、1350〜1500℃が好適であるということがいえる。
【0060】
3.傾斜機能複合材の特性
[実施例1〜16、比較例1、2]
多孔質焼結体に含浸させるホウ素化合物含有溶液として図5に示すものを使用し、かつ、二次焼結工程S4において、雰囲気ガスを窒素とし、10Paの減圧下で1300℃まで昇温した後、圧力を300kPaに上昇させて1400℃で1時間保持することにより前記多孔質焼結体を緻密化させた以外は上記と同様にして、各種の傾斜機能複合材を得た。これらを実施例1〜8とする。
【0061】
これらのうち、実施例1および実施例2の傾斜機能複合材につき、表面からの深度とロックウェル硬度との関係を調べた。結果を図5に併せて示す。図5から、これらの傾斜機能複合材においては、内部に指向してロックウェル硬度が低下することが判る。この理由は、これらの傾斜機能複合材では内部になるにつれて非酸化物セラミックスの組成比が低下しているためであると考えられる。
【0062】
また、2重量%の炭化タンタル粒子と、1重量%の炭化ニオブ粒子と、72重量%の炭化タングステン粒子と、25重量%のコバルト粒子とを、アルコールを用いて湿式混合して混合粉末としたことを除いては実施例1〜8に準拠して、各種の傾斜機能複合材を得た。これらを実施例9〜16とする。
【0063】
一方、多孔質焼結体をホウ素化合物含有溶液に浸漬しなかったこと、および、緻密焼結体に対して1370℃で100MPaの圧力下で1時間、熱間静水圧加圧(HIP)処理をさらに施したことを除いては実施例1〜8または実施例9〜16に準拠して、緻密焼結体を得た。これらをそれぞれ比較例1、2とする。なお、比較例1、2の緻密焼結体においては、金属や非酸化物セラミックスに濃度勾配は生じていなかった。
【0064】
これら実施例1〜16の傾斜機能複合材および比較例1、2の緻密焼結体につき、表面からの深度0.3mmおよび5mmにおけるロックウェル硬度、曲げ強度および圧縮強度をそれぞれ測定した。なお、圧縮強度はJIS R1608に準拠する圧縮試験方法により求めた。
【0065】
結果を図5に併せて示すとともに、実施例1、2の傾斜機能複合材における表面からの深度とロックウェル硬度との関係を表すグラフにして図4に示す。これら図4および図5から、HIP処理が施された比較例1、2の緻密焼結体に比して、実施例1〜16の傾斜機能複合材の方が硬度、曲げ強度および圧縮強度に優れていることが明らかである。また、比較例1、2の緻密焼結体は表面と内部とでは特性が何ら変化していないことが諒解される。
【0066】
以上の結果から、粒成長材として作用するホウ素化合物を溶媒に分散または溶解させてホウ素化合物含有溶液とし、該ホウ素化合物含有溶液を多孔質焼結体に含浸させた後に該多孔質焼結体を再焼結することにより、表面が高硬度で圧縮強度に優れ、かつ内部が曲げ強度に優れる傾斜機能複合材が得られることが明らかである。
【0067】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る傾斜機能複合材の製造方法によれば、非酸化物セラミックスの粒成長材であるホウ素化合物を単一分子またはイオンにまで解離するので、多孔質焼結体の内部に均一に分散させることができ、非酸化物セラミックス粒子、ひいては傾斜機能複合材が容易に緻密化される。
【0068】
また、ホウ素化合物含有溶液が含浸された多孔質焼結体が再焼結される際に金属粒子が自発的に内部へと拡散するので、非酸化物セラミックスおよび金属に濃度勾配が生じる。しかも、非酸化物セラミックスと金属との間に界面が存在しない傾斜機能複合材を容易に製造することができる。
【0069】
得られた傾斜機能複合材は、前記非酸化物セラミックスの緻密化がホウ素化合物により促進されており、また、金属を高い組成比で含有することができるので、著しく靱性に優れる。このような傾斜機能複合材は、切削工具の刃具や金型の構成材料として採用することが可能である。
【0070】
さらに、この傾斜機能複合材は、非酸化物セラミックスと金属との間に界面が存在していないので、熱応力や応力が一箇所に集中することがない。したがって、疲労破壊が抑制されるとともに従来技術に係る傾斜機能複合材よりも高い強度を具備する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本実施の形態に係る傾斜機能複合材の製造方法のフローチャートである。
【図2】 二次焼結工程における焼結時間と傾斜機能複合材の曲げ強度との関係を示すグラフである。
【図3】 二次焼結工程における焼結温度と傾斜機能複合材の曲げ強度との関係を示すグラフである。
【図4】 実施例1、2の傾斜機能複合材における表面からの深度とロックウェル硬度との関係を示すグラフである。
【図5】 実施例1〜16の傾斜機能複合材および比較例1、2の緻密焼結体のロックウェル硬度、曲げ強度および圧縮強度の測定結果を示す図表である。
Claims (4)
- 表面から内部に指向して組成比が低下する炭化チタン、炭化タングステン、炭化タンタル、炭化ニオブ、窒化チタン、窒化ケイ素、炭窒化チタン、ホウ化チタンの群の非酸化物セラミックス中の少なくともいずれか1種と、前記表面から前記内部に指向して組成比が上昇する鉄、ニッケル、コバルト、チタンの群の金属中の少なくともいずれか1種と、ホウ素化合物とを含有してなる傾斜機能複合材の製造方法であって、
前記金属の粒子と前記非酸化物セラミックスの粒子の混合粉末を成形して成形体とする成形工程と、
前記成形体を焼結して多孔質焼結体とする一次焼結工程と、
前記多孔質焼結体の内部にホウ素アルコキシド、又はホウ酸塩を含有する溶液からなるホウ素化合物含有溶液を含浸する含浸工程と、
ホウ素化合物含有溶液が含浸された前記多孔質焼結体を表面から加熱し再焼結して緻密焼結体とする二次焼結工程と、
を備えることを特徴とする傾斜機能複合材の製造方法。 - 請求項1記載の傾斜機能複合材の製造方法において、
傾斜機能複合材に残留するホウ素化合物の組成比が0.1〜10重量%となる量で前記ホウ素化合物含有溶液を前記多孔質焼結体の内部に含浸することを特徴とする傾斜機能複合材の製造方法。 - 請求項1または2記載の傾斜機能複合材の製造方法において、
前記二次焼結工程を1350〜1500℃で0.5〜3時間行うことを特徴とする傾斜機能複合材の製造方法。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の傾斜機能複合材の製造方法において、
前記非酸化物セラミックスの粒子として平均粒径が0.1〜10μmの粒子を用いることを特徴とする傾斜機能複合材の製造方法。
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