JP4175911B2 - カットファイバー用弾性長繊維束およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はカットファイバー用弾性長繊維束(トウ)に関し、さらに詳しくはカットミスやカット斑のない均一な弾性短繊維を得ることができるカットファイバー用弾性長繊維束およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から紡績などの原料に使用されるステープルファイバーの製造には、例えば破断伸度が100%以下である再生繊維、半合成繊維、合成繊維等を用いて繊維束(トウ)とした後、該トウを円筒に巻きつけて連続的に切断する装置により所望の繊維長さにする方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、従来の切断装置を破断伸度の高い弾性長繊維束(トウ)の切断に用いると、カットミスが生じやすく、またカット斑が生じて使用に耐えるステープルファイバーが得られないという問題があった。従って、破断伸度が200%以上有する弾性長繊維束(トウ)を均一なカットファイバーとすることができる弾性長繊維束(トウ)やこれを均一に切断する方法の開発が要望されていた。
【0003】
【特許文献1】
特公昭51−6772号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記技術の問題を解決し、弾性長繊維束をカットファイバーとする際のカットミスやカット斑の発生を抑制することができるカットファイバー用弾性長繊維束およびその製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、破断伸度の高い弾性長繊維は、残収縮率が高いために弾性長繊維束とする際やその切断時に、繊維の伸び縮みにより、残収縮率が不揃いになり、カットミスやカット斑が生じ易くなるが、弾性長繊維の残留収縮を緩和処理し、残留収縮率を所定値以下とし、かつそのばらつきを所定の範囲内にすることにより、カットミスやカット斑のない均一な弾性短繊維が得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本願で特許請求される発明は以下の通りである。
【0006】
(1)破断伸度が200%以上の弾性繊維からなり、下式で示す平均残留収縮率が30%以下で、かつ該残留収縮率のばらつきが平均値の30%以下であることを特徴とするカットファイバー用弾性長繊維束。
残留収縮率(%)=〔(D 1 −D 0 )/D 0 〕×100
上式中、記繊度D 0 は、糸管やビームから解舒した直後の一定長の繊維を、繊度D 1 はフリーにした後の一定長の繊維を、それぞれ採取し、その質量を測定し、繊維長10000mあたりの繊維質量に換算した値をいう。
(2)弾性繊維の単糸繊度が2〜20デシテックスであることを特徴とする(1)記載のカットファイバー用弾性長繊維束。
(3)複数本の弾性長繊維を緊張状態でシート状に巻き取ってビームを作製し、該複数本のビームからシート状の弾性長繊維を引出してリラックス緩和し、該弾性長繊維の残留収縮率を30%以下とした後、これらを繊維束にして巻き取ることを特徴とするカットファイバー用弾性長繊維束の製造方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のカットファイバー用弾性長繊維束には、破断伸度が200%以上、好ましくは300%以上の弾性繊維が使用される。弾性繊維の破断伸度が200%未満では、弾性短繊維混用紡績糸とした際に充分な伸長性が得られない。
またカットファイバー用弾性長繊維束は、その平均残留収縮率が30%以下、好ましくは20%以下であり、かつ、その残留収縮率のばらつきが平均値の30%以下、好ましくは20%であることが必要である。
【0008】
弾性長繊維は、一般に紙管に巻かれた状態で供給されるが、紙管に巻かれた弾性長繊維は通常−1%〜20%の残留収縮率を有し、解舒や巻取りを繰り返し行うことにより残留収縮率がさらに変動することがある。従って、紙管に巻かれている弾性長繊維を解舒、収集して所望の太さの弾性長繊維束にする際に如何にしてその残留収縮率を均一にするかが、均一な弾性短繊維を製造する上で重要なポイントとなる。また、残留収縮率のばらつきを小さくするには、一般的には残留収縮率の小さい弾性繊維を用いればよいと考えられるが、弾性長繊維を解舒して巻き取る場合、ある程度の緊張下で作業をしないと、弾性長繊維同士が寄付き合って集団糸切れや極度の伸長斑が生じやすくなるため、単に残留収縮率の小さい弾性繊維を用いても均一な弾性短繊維を得ることができない。
【0009】
本発明では、弾性長繊維束の残留収縮率が30%以下になるように緩和処理し、その残留収縮率のばらつきを平均値の30%以下になるように調整されているため、これを従来の切断装置を用いて切断してもカットミスやカット斑の発生が抑制でき、均一な弾性短繊維を得ることができる。
ここで、残留収縮率は、後述するように紙管やビームに巻かれた繊度(D0 )とフリーにしたときの繊度(D1 )から下記式により算出した値をいう。
残留収縮率(%)=〔(D1 −D0 )/D0 〕×100
また残留収縮率のばらつきは、得られた弾性長繊維束から繊維を10本抜き出して各々の残留収縮率を測定し、これを束の長手方向に3回繰り返し、得られた合計30点のなかで、平均値から最も外れている値について、平均値との差の平均値に対する比率で表した値をいう。
【0010】
本発明に用いられる弾性繊維は、例えば、有機ジイソシアナートと実質的に線状の高分子ジオールとで調製されたイソシアナート末端のプレポリマーに、多官能性活性水素原子を有する鎖伸長剤および単官能性活性水素原子を有する末端封鎖剤を反応せしめた、分子内にウレタン基を有する弾性高分子重合体を、乾式紡糸、湿式紡糸または溶融紡糸して得られる弾性繊維が挙げられる。
上記の弾性高分子重合体には、所望により、公知のポリウレタン重合体組成物に使用される特定の化学構造を有する有機または無機の配合剤、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等の紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系化合物等の酸化防止剤、酸化亜鉛、酸化チタン、ハイドロサルサイト等のような無機微粒子、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリテトラフルオロエチレン、オルガノポリシロキサン等の粘着防止剤等を適宜配合することもできる。
【0011】
また上記の弾性高分子重合体を紡糸して弾性繊維を製造するに際しては、弾性繊維の単繊維同士を接着することなく単独で存在させ、かつ紡糸油剤を殆ど付与せずに紡糸して短繊維にカットした後で、紡績に必要な平滑性、静電防止性のために油剤を付与することが好ましい。油剤の付与により、紡績する際のカーディングを円滑にし、精紡工程等の開繊不良、ドラフト斑などを回避することができる。
弾性長繊維束に用いられる弾性繊維の単糸繊度は2〜20デシテックスであることが好ましい。この単糸繊度はフリーの状態に放置したときの繊度から算出される。単糸繊度は混用する他の繊維に応じて好適な繊度を選択すればよいが、上記の範囲であれば一般の多くの繊維に対応できる。
【0012】
本発明のカットファイバー用弾性長繊維束は、複数本の弾性長繊維を緊張状態でシート状に巻き取ってビームを作製し、該複数本のビームからシート状の弾性長繊維を引出してリラックス緩和し、残留収縮率を30%以下とした後、弾性長繊維束として巻き取ることにより得ることができる。
図1は、本発明に使用される巻取りビームの製造工程説明図、図2は、本発明のカットファイバー用弾性長繊維束の製造工程説明図である。
図1において、回転ドラム1に紙管1aの巻面を接触転がし解舒できる装置を具備した整経クリールに、弾性長繊維チーズ(紙管1a)が複数本(通常300〜1500本)仕掛けられ、各紙管1aに巻き取られている弾性長繊維は回転ドラム1を介して解舒されてシート状に送出しロール2に送り出される。
【0013】
紙管1aに巻き取られた弾性長繊維を緊張状態でシート状に巻取りビーム4に巻き取る際には、回転ドラム1に紙管1aの巻面を接触転がして解舒することが好ましい。これにより、紙管1aの巻層の張付きや綾乱れ、外内層の解舒張力を揃えることができる。なお、縦取り解舒では巻層の張付きや綾乱れ、外内層の張力差による張力変動を誘発して残留収縮差が拡大する場合がある。
整経クリールの前方には巻取りビーム4と回転ドラム4aを備えた巻取機が装備されており、送出しロール2およびストレッチロール3を経たシート状の弾性長繊維は、回転ドラム4aに接触して回転する巻取りビーム4に均一密度のシート状に緊張状態で巻取られる。
このときのドラフト率は下式により算出される。
プレ・ドラフト率=〔(A−B)/A〕×100
ビーム・ドラフト率=〔(C−A)/A〕×100
なお、Aは送出しロールの糸速、Bは回転ドラムの糸速、Cは巻取りビームの糸速である。
【0014】
弾性長繊維を解舒して巻取りビーム4に巻き取る場合はある程度の緊張下で作業をしないと弾性長繊維同士が寄付き合って集団糸切れや極度の伸長斑が生じるため、巻取り条件は、プレ・ドラフト率を80〜150%、より好ましくは90〜130%、またビーム・ドラフト率を40〜150%、より好ましくは50〜120%とするのが好ましい。
得られた巻取りビーム4の繊維束の繊度は、3万デシテックス程度と細く、また残留収縮率も50%以上と大きいため、図2に示すように、複数本の巻取りビーム4からシート状の弾性長繊維を引出しロール5により引出してリラックス緩和ボックス9に導き、リラックス緩和処理を施して残留収縮率を30%以下とした後、送出しロール7および合わせロール7を介して総繊度10万デシテックス以上の所望の弾性長繊維束(トウ)にする。
【0015】
弾性長繊維束の総繊度は、クリール仕掛け紙管本数やビーム本数を増減すことにより任意の弾性長繊維束が得られる。弾性長繊維束の総繊度が10万デシテックス以上とすることにより、その後の工業的生産での作業効率を向上させることができる。
弾性長繊維束の残留収縮率を30%以下に緩和するには、巻取りビーム4から引き出したシート状弾性長繊維を、無張力または0.02cN/デシテックス以下の低張力下で放置する緩和ゾーンを設けることにより、自らの残留収縮率によりリラックス、緩和させることができるが、リラックス緩和ボックス9で70℃〜140℃の乾熱処理してリラックス、緩和を促進させ、前記引出しロール5の糸速より遅い速度の送出しロール6で送り出し、合わせロール7で慎重に合わせてトウ巻取りビーム8に巻取ることが、残留収縮率が30%以下でバラツキの少ない弾性長繊維束を得る点から好ましい。特に冬季は室温が下がり、残収縮の緩和が抑制され易いので乾熱処理を併用することが好ましい。
【0016】
得られた弾性長繊維束(トウ)は、残留収縮率30%以下の状態で直接切断機に供給されるか、慎重に繊維束巻取りビーム8に巻上げた後、切断機に供給されて切断される。短繊維にカットする方法には特に限定はなく、例えば、ナイフの刃、熱、高周波等によるカットなどの公知の方法を採用することができる。
【0017】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中の測定は下記の方法で行った。
(1) 単糸繊度:フリーの状態に放置したときの繊度(A)とフィラメント数(B)から式(A)/(B)により算出した。
(2) 残留収縮率:紙管やビームに巻かれた繊度(D0)からフリーにした時の繊度(D1)から下記式により算出した。
残留収縮率(%)=〔(D1 −D0 )/D0 〕×100
なお、上記繊度D0 は、紙管やビームから解舒した直後の一定長の繊維を、繊度D1 はフリーにした後の一定長の繊維をそれぞれ採取し、その質量を測定し、繊維長10000mあたりの繊維質量に換算した値をいう。
(3) プレ・ドラフト率およびビーム・ドラフト率:クリールの回転ドラムの糸速(A)から送出しロールの糸速(B)および巻取りビームの糸速(C)から下記式により求めた。
プレ・ドラフト率(%)=〔(B−A)〕/A×100
ビーム・ドラフト率(%)=〔(C−A)〕/A×100
【0018】
実施例1
ジメチルアセトアミドを溶媒とするポリマー濃度34重量%のポリウレタン溶液を用いて、単繊維が接着することなく単独に存在し、かつ油剤を付与せずに乾式紡糸して、44デシテックス/4フィラメント、単糸繊度が11.55デシテックス、破断伸度が610%、紙管に巻かれた繊度40.2デシテックス、フリーの繊度46.2デシテックスで残留収縮率14.9%、500グラム巻紙管(総糸長112,500m)の弾性長繊維を得た。
【0019】
この弾性長繊維500グラム巻紙管を、カールマイヤー社製整経機の回転ドラム解舒装置付き整経クリールに700本仕掛け、回転ドラム1の糸速を130m/分で解舒し、前方の送出しロール2の糸速273m/分でプレ・ドラフト率110%で緊張走行させる。次いで巻取りビーム4の糸速234m/分で、やや弛緩させてビーム・ドラフト率が80%になる速度で巻取りビーム4に巻取らせる。巻取りの際、ビーム前の筬(筬密度13本/cm)に弾性長繊維1本を1羽に引き込み30,800デシテックスのシート状にして、幅53.3cmのビームに緊張状態で巻取り、残留収縮率が80±3%で、作業効率よく巻取ることができた。
【0020】
次ぎに、巻取りビーム4を4本を並べて、各ビームから弾性長繊維シートを16m/分の低速で引出した後、乾熱70℃のリラックス緩和ボックス9に無張力下で導き、引出しロール5と送出しロール6と間で残収縮を緩和させた後、合わせロール7で糸速1m/分で慎重に合わせて、幅53.3cmの123,200デシテックスのシート状弾性長繊維束とし、次いでトウ巻取りビーム8に巻上げた。この弾性長繊維束の残留収縮率は5±1%で均一な弾性長繊維束を得ることができた。
この弾性長繊維束をナイフ刃切断機に掛けて38mm繊維長に切断したが、得られた弾性短繊維は、長さが38±1mmの均一性に優れたカットファイバーであった。
【0021】
実施例2
実施例1において、巻取りビーム4から弾性長繊維シートを引出しロール5にて16m/分の低速で引出した後、乾熱70℃のリラックス緩和ボックス9で残留収縮率を緩和させて送出しロール6で5.5m/分で送り出し、合わせロール6で慎重に合わせた後、トウ巻取りビーム8に6.0m/分で巻上げた以外は、実施例1と同様にして弾性短繊維を製造した。
この弾性長繊維束の残留収縮率は29±2%で、38mmカット後の短繊繊長は38±2mmと均一性に優れたカットファイバーであった。
【0022】
比較例1
実施例1において、シート状幅53.3cmの巻取りビーム4を4本を並べて、各巻取りビーム4から弾性長繊維シートを16m/分の低速で引出ロール5で引出した後、リラックス緩和ボックス9を使用せずに送出しロール6および合わせロール7で糸速10m/分で慎重に合わせて、幅53.3cmの123,200デシテックスのシート状弾性長繊維束としてトウ巻取りビーム8に巻上げた以外は、実施例1と同様にして弾性短繊維を製造した。
この弾性長繊維束の残留収縮率は50±15%と不均一であり、収縮部と伸長部が混在して繊維束が波打ったきわめて不均一な弾性長繊維束のであった。
この弾性長繊維束をナイフ刃切断機に掛けたが、切断機の送りロール部で均一に把持されず、伸び縮みが拡大する結果、38mm繊維長に切断した後の短繊維は、カットミスが生じ、長さが38±4mmの不均一なカットファイバーであった。
【0023】
【発明の効果】
本発明のカットファイバー用弾性長繊維束およびその製造方法によれば、破断伸度の高い弾性長繊維を用いても繊維の伸び縮みにより残留収縮率が不揃いになることがなく、カットミスやカット斑のない均一な弾性短繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に使用される巻取りビームの製造工程説明図。
【図2】本発明のカットファイバー用弾性長繊維束の製造工程説明図。
【符号の説明】
1…回転ドラム、1a…紙管、2…送出しロール、3…ストレッチロール、4…巻取りビーム、4a…回転ドラム、5…引出しロール、6…送出しロール、7…合わせロール、8…トウ巻取りビーム、9…リラックス緩和ボックス。
Claims (3)
- 破断伸度200%以上の弾性繊維からなり、下式で示す平均残留収縮率が30%以下で、かつ該残留収縮率のばらつきが平均値の30%以下であることを特徴とするカットファイバー用弾性長繊維束。
残留収縮率(%)=〔(D 1 −D 0 )/D 0 〕×100
上式中、記繊度D 0 は、糸管やビームから解舒した直後の一定長の繊維を、繊度D 1 はフリーにした後の一定長の繊維を、それぞれ採取し、その質量を測定し、繊維長10000mあたりの繊維質量に換算した値をいう。 - 弾性繊維の単糸繊度が2〜20デシテックスであることを特徴とする請求項1記載のカットファイバー用弾性長繊維束。
- 複数本の弾性長繊維を緊張状態でシート状に巻き取ってビームを作製し、該複数本のビームからシート状の弾性長繊維を引出してリラックス緩和し、該弾性長繊維の残留収縮率を30%以下とした後、これらを繊維束にして巻き取ることを特徴とするカットファイバー用弾性長繊維束の製造方法。
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