JP4174711B2 - インサート成形用ポリエステルシート - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、図柄層を印刷したシートを金型内に入れて成形樹脂と一体化接着させ、印刷によって図柄を形成することが困難な形状の成形品であっても図柄を容易に形成することができる、インサート成形に好適なポリエステルシート及びそれを用いた成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、上記インサート成形用シートとして、透明性及び加工性に優れたアクリルシートが使用されていた。しかしながら、アクリルシートは有機溶剤に侵されやすく印刷後のフィルム強度が落ちる問題があった。また、高温環境下では、塩化ビニル製品などの可塑剤を含む製品にアクリルシートが融着したり表面が侵されるなどの問題があった。
【0003】
ポリエチレンテレフタレートフィルムではこれらの問題は発生しないが、フィルムの成形性が不充分であり、成形時にフィルムが破断するなどの問題があった。また、非晶性ポリエステルシートでは、熱履歴による白化の問題があった。一方、ポリカーボネートシートでは、透明性や耐熱性は優れているが、耐溶剤性が不十分であり使用する薬剤や手の油などにより透明性が損なわれることがあった。
【0004】
前記ポリエステルの成形性を改良するために、ポリエステルにソフトセグメントを共重合して柔軟性を付与する方法が多数開示されている。
【0005】
例えば、ポリエステルを柔軟化する方法として、ポリエチレンテレフタレ−ト等のハ−ドセグメントにドデカンジカルボン酸やダイマ−酸等の長鎖脂肪族ジカルボン酸等を共重合する方法(例えば、特許文献1参照)、またジカルボン酸成分としてテレフタル酸とダイマ−酸、グリコ−ル成分として1,4−テトラメチレングリコールとエチレングリコ−ルを共重合する方法(例えば、特許文献2)などが開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特公昭42−8709号公報
【特許文献2】
特開平3−23193号公報
【0007】
しかしながら、長鎖脂肪族ジカルボン酸や長鎖分岐脂肪族ジカルボン酸をポリエチレンテレフタレ−トに共重合する方法では、加工時の折り曲げなどで応力白化を生じたり、ガラス転移点(Tg)以上の温度下で放置すると結晶化が進行し、白化により透明性が低下するなどの問題がある。
【0008】
また、ポリテトラメチレングリコ−ル(PTMG)などの長鎖ポリエ−テル、また、ダイマ−酸(DiA)などの長鎖脂肪族ジカルボン酸をPBTに共重合することで柔軟性を付与する方法が開示されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【0009】
【特許文献3】
特公昭57−48577号公報
【特許文献4】
特公昭54−15913号公報
【0010】
しかしながら、これらの共重合ポリエステルは、ハ−ドセグメントにポリブチレンテレフタレ−ト(PBT)の結晶相を利用しているため、成形体は高度に結晶化しやすく、白化により透明性が低下するという問題がある。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、耐溶剤性、耐熱性、成形性、透明性に優れたインサート成形用ポリエステルシートを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することができた本発明とは、共重合ポリエステルを主たる構成成分とするインサート成形用ポリエステルの未延伸シートであって、前記シートは、弾性率が200〜1500MPa、広角X線で測定した結晶化指数Xcが5%以上、かつヘイズ(厚み100μm換算)が15%以下であり、
前記共重合ポリエステルは、ハードセグメントとソフトセグメントからなる共重合ポリエステルであって、
前記ハ−ドセグメントを構成するジカルボン酸成分の少なくとも70モル%以上が、テレフタル酸(TPA)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(NDA)、4,4′−ビフェニルジカルボン酸(BPA)の少なくとも1種以上であり、
前記ハ−ドセグメントを構成するグリコ−ル成分が、1,4−テトラメチレングリコ−ル(TMG)及びエチレングリコ−ル(EG)を含み、かつハ−ドセグメントを構成する全グリコ−ル成分に対する組成比が、TMGが70〜80モル%で、かつEGが20〜30モル%であり、
前記ソフトセグメントを構成するソフト成分が、ダイマ−ジオ−ル(DDO)であり、かつポリエステルの全グリコ−ル成分に対するDDOの組成比が4.1〜10.0モル%であることを特徴とするインサート成形用ポリエステルシートである。
【0013】
【作用】
本発明において、ポリエステルシートシートは共重合ポリエステルを主たる構成成分とするものである。前記共重合ポリエステルは、ハ−ドセグメントとソフトセグメントを分子鎖に有する。ハ−ドセグメントをポリエステル分子鎖に導入する目的は、ポリエステルにブロッキング性と透明性とを付与することにある。一方、ソフトセグメントをポリエステル分子鎖に導入する目的はポリエステルに柔軟性を付与し、成形性を高めるためである。
【0014】
一般的に、柔軟性を有するポリエステルのTgは常温以下であり、Tgが高くなると通常の使用条件では柔軟性が不十分となる。本発明のポリエステルシートの原料となる共重合ポリエステルもTgは低い。このため、溶融成形によって得られた未延伸シートは、シート製造直後は透明であってもTg以上の雰囲気下に放置しておくと、結晶が徐々に成長し白化のため透明性が悪化する場合がある。この現象は、溶融状態から急冷することによって、過冷却状態(アモルファス状態)にあったものが、Tg以上の温度雰囲気下で結晶化が進行したことを意味する。
【0015】
ところが、本発明のポリエステルシートは、共重合ポリエステルを溶融状態から急冷して得られる未延伸シートが、この冷却過程で既に微結晶化しているため、Tg以上の温度雰囲気下で放置しても、もはや結晶が成長することはなく、白化しない。この点が、本発明のポリエステルシートにおける最大の特徴である。
【0016】
本発明では、ポリエステルシートの特徴を弾性率、結晶化指数Xc、ヘイズという特性値を用いて表現している。
【0017】
弾性率は、ポリエステルシートの柔軟性を表す指標である。柔軟性は、例えば、ハ−ドセグメントの構造、使用するソフトセグメントの種類や量によって制御することができる。弾性率は、その値が大きくなるとともに硬く、逆に小さくなるとともに柔らかくなる。
【0018】
本発明のポリエステルシートは、インサート成形時の成形性の点から、弾性率が200〜1500MPaであることが重要である。弾性率の上限は、1450MPaであることが好ましく、特に好ましくは1400MPaである。一方、弾性率の下限は、600MPaであることが好ましく、特に好ましくは800MPaである。弾性率が200MPa未満であると、インサート成形することが困難になるばかりでなく、取り扱い難くなり、実用的でない。さらに、ソフトセグメントの組成比が高くなるので、コスト的にも不利になる。
【0019】
結晶化指数Xcは、微結晶化の度合いを示す尺度であり、ハンドリング性に対して重要な指標である。Xcは、例えば、ハ−ドセグメントの構造によって制御することができる。ハンドリング性の点からは、Xcは大きければ大きいほどよく、5%以上とすることが必要であり、好ましくは6%以上であり、特に好ましくは7%以上である。一方、結晶化指数Xcが55%を越えるようにすることはポリマー構造の面で技術的に困難である。結晶化指数Xcが55%以下であっても5%以上あれば一般的には十分なハンドリング性を有しているので、結晶化指数Xcを積極的に55%を越えるようにすることは技術的な困難さを考慮するとあまり実用的でない。
【0020】
ヘイズは、ポリエステルシートの透明性を表す指標である。ヘイズは小さければ小さいほど透明性に優れ、シート厚み100μmの換算値で15%以下とすることが重要であり、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下であり、特に好ましくは3%以下である。ヘイズが15%を超えると、白化が著しく、もはや透明性があるとは言えなくなる。一方、ヘイズの下限は0.1%とすることが好ましい。ヘイズを0.1%未満としても目視評価による透明性に大きな差異がなく、ヘイズを積極的に0.1%未満とすることは技術的困難さを考慮するとあまり実用的でない。
【0021】
前記柔軟ポリエステルシートは、前述のように溶融後急冷することのみでも微細結晶化が可能であるため、シート製造時に加熱結晶化工程を省略することができ、生産性を高めることができる。さらには、高熱環境下に放置しても透明性が低下することがない点、可塑剤を含有していないため、可塑剤がシート表面にブリードアウトすることによる諸問題、例えば、印刷図柄の滲み、図柄層との接着強度の低下、他のものと接触した場合に可塑剤の移行、がないなどのメリットがある。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明のインサート成形用ポリエステルシートを詳細に説明する。
【0023】
(1)透明性、柔軟性、ハンドリング性の付与
(1−1)共重合ポリエステルのハ−ドセグメント
本発明のインサート成形用ポリエステルシートに用いる共重合ポリエステルの設計において、まず、透明性、柔軟性、ハンドリング性の3つの性能をいずれも兼備する共重合ポリエステルの開発を行った。その際、最も困難な技術課題は透明性とハンドリング性の両立である。そのためには、共重合ポリエステルのソフトセグメントを拘束するハ−ドセグメントの設計が重要である。
【0024】
結晶の観点からは、透明性とハンドリング性とは2律背反する特性である。なぜなら、結晶化の進行とともに透明性は悪くなるのに対し、ハンドリング性は逆に向上する。すなわち、透明性とハンドリング性という相反する特性をいかに両立させるかが、本発明における最も重要な技術課題である。
【0025】
一般に、結晶化速度の遅いPETは成形時に、溶融状態から急冷して過冷却状態(アモルファス)にすると、透明な成形体が得られる。ところが、得られた成形体をTg以上の温度下で放置すると結晶化が進行し白化する。この現象は、結晶化の進行とともに結晶が成長した結果である。従って、透明性を良好にする為には、結晶のサイズを限りなく小さくすること、つまり微結晶とする必要がある。
【0026】
一方、ハンドリング性、つまり、レジン乾燥時のブロッキングや成形・加工時の金型やロ−ラ−からの解離性、さらには成形体同士の接着等は、結晶サイズとは無関係に、結晶化の度合、換言すれば結晶化度によって支配される。結晶化度は、結晶の数と結晶サイズの積で定義される。
【0027】
以上のことから、結晶相でのハ−ドセグメントを構成する場合、透明性の観点から、結晶のサイズを微結晶とすること、かつ、結晶化度に支配されるハンドリングの観点からは、微結晶の数を多くすること、の2要件が必要不可欠となる。そのためには、ハ−ドセグメントを構成するポリマ−構造の選択が非常に重要となってくる。
【0028】
一般に、ポリエステルは、ポリマ−構造によって結晶性が大きく異なる。例えば、代表的なPETとPBTではその結晶性が大きく異なり、PBTは結晶化速度が非常に速い。結晶相に求められる性質としては、透明性とハンドリング性の両立の観点から、微結晶でしかも数が多いことである。
【0029】
これらの要件を満足できる共重合ポリエステルの組成としては、例えば、下記の2つの条件を満たすハ−ドセグメントを用いることにより、透明性とハンドリング性を両立させることができる。
【0030】
(a)ハ−ドセグメントを構成するポリエステルのグリコ−ル成分として、1,4−テトラメチレングリコール(TMG)及びエチレングリコ−ル(EG)を含み、かつハ−ドセグメントを構成するポリエステルの全グリコ−ル成分に対する組成比が、TMGが20〜95モル%で、かつEGが5〜80モル%であること。
【0031】
(b)ハ−ドセグメントを構成するポリエステルのジカルボン酸成分として、テレフタル酸(TPA)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(NDA)、4,4′−ビフェニルジカルボン酸(BPA)から選ばれた少なくとも1種を70モル%以上含有すること。
【0032】
前記2条件を充足しない場合は、結晶が微結晶とはならず、白化して透明性が無くなったり、軟化点が低下して接着性が増し、レジンの乾燥時や成形時のハンドリング性が悪くなる場合がある。
【0033】
ハ−ドセグメントを構成するポリエステルの組成は、グリコ−ル成分として、TMG/EGの組成比が23〜94モル%/77〜6モル%であることがさらに好ましく、特に好ましくはTMG/EGが25〜93モル%/75〜7モル%である。一方、ジカルボン酸成分として、TPA、NDA、BPAから選ばれた少なくとも1種が75モル%以上であることがさらに好ましく、特に好ましくは80モル%以上である。
【0034】
ハ−ドセグメントを構成するポリエステルは、前記ジカルボン酸以外に、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などのジカルボン酸、またグリコ−ル成分としては、1,3−トリメチレングリコ−ル、1,5−ペンタメチレングリコ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、1,6−ヘキサメチレンジメタノ−ル、等のグリコ−ルを共重合成分として使用することも可能である。
【0035】
(1−2)共重合ポリエステルのソフトセグメント
ソフトセグメントはポリエステルに柔軟性を付与するために不可欠であり、エントロピ−弾性を有することが重要である。好適なソフト成分としては、ポリアレキレンオキシドグリコ−ル、脂肪族ポリエステル、長鎖脂肪族ジカルボン酸、長鎖脂肪族グリコ−ル等が挙げられる。
【0036】
ソフト成分として、長鎖脂肪族ジカルボン酸や長鎖脂肪族グリコ−ルを用いた場合には、数平均分子量が100未満では充分な柔軟性が得られにくい。一方、数平均分子量が1,000を越えると、ハ−ドセグメントとの相溶性が悪くなり透明性が低下しやすくなる。また、ポリアルキレンオキシドグリコ−ルを用いた場合は、数平均分子量の範囲が500未満、または4,000を越える場合には、いずれも目的とする透明柔軟ポリエステルとなりにくい。
【0037】
本発明において、共重合ポリエステルのソフト成分としては、長鎖脂肪族グリコ−ルであるダイマ−ジオ−ル(DDO)が透明性の点から最も有効である。DDOの組成比は、所望する柔軟性によって異なるが、ポリエステルの全グリコ−ル成分に対して1〜60モル%が好ましく、より好ましくは2〜58モル%であり、特に好ましくは3〜55モル%である。DDOの組成比が1モル%未満では、柔軟性が不十分となりやすい。一方、60モル%を超えると、Tgが低くなり過ぎて、成形・加工性やハンドリング性が悪化しやすくなる。
【0038】
(1−3)ハ−ドセグメントとソフトセグメントの関係
特に、透明性、柔軟性、ハンドリング性を3つの特徴を有する共重合ポリエステルを得るには、ハ−ドセグメントを構成するグリコ−ル成分とソフトセグメントを構成するグリコ−ル成分が、例えば、下記の条件を満足することが好ましい。
【0039】
(a)ハ−ドセグメントを構成するグリコ−ル成分が、主として1,4−テトラメチレングリコールとエチレングリコ−ルからなり、ソフトセグメントを構成するグリコ−ル成分が主としてダイマ−ジオ−ルからなること。
【0040】
(b)1,4−テトラメチレングリコ−ルとエチレングリコ−ルの組成比が、下記式(1)を満足すること。
−0.01Z+0.35 < X/Y < −0.01Z+0.55 …(1)
X:全グリコ−ル成分に対するエチレングリコ−ル成分のモル%
Y:全グリコ−ル成分に対する1,4−テトラメチレングリコ−ル成分のモル%
Z:全グリコ−ル成分に対するダイマ−ジオ−ル成分のモル%
【0041】
前記式(1)の下限値よりも小さい場合、すなわち、エチレングリコールに対する1,4−テトラメチレングリコールの組成比が小さすぎる場合、結晶化速度が遅く、溶融状態から急冷するとアモルファスの状態で固化するため、ブロッキングや熱履歴により白化しやすくなる。一方、前記式(1)の上限値よりも小さい場合、すなわち、エチレングリコールに対する1,4−テトラメチレングリコールの組成比が大きすぎる場合、結晶化速度が速すぎて結晶が微結晶状態より大きく成長してしまうため白化しやすくなる。
【0042】
(1−4)共重合ポリエステルの重合
共重合ポリエステルの重合方法は、従来公知の方法が適用できる。
例えば、芳香族ジカルボン酸及びその低級アルキルエステルと、エチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、テトラメチレングリコ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ダイマ−ジオ−ルなどのジオ−ルとのエステル化反応またはエステル交換反応により低分子量体を生成する初期反応と、この低分子量体を重縮合させ高分子量とする後期反応によって製造する方法が最も一般的である。
【0043】
共重合ポリエステルの製造には、エステル交換触媒として、従来公知のチタン、亜鉛、マンガン、コバルト、鉛、カルシウム、マグネシウムなどの金属化合物を適用することができる。また重縮合触媒としては、チタン、アンチモン、ゲルマニウム、スズ等の金属化合物を適用することができる。これらの触媒以外に、熱酸化安定剤やリン化合物の添加もまた可能である。
【0044】
(1−5)共重合ポリエステルへの金属塩化合物の含有
微結晶化に対しては、金属塩化合物を結晶化促進剤として併用することが有効であり、透明性が一層良好となる。金属塩化合物の含有によるヘイズの改善効果は、金属塩化合物を含有しない場合のヘイズと比較して、0.2%以上小さくなることが好ましい。ヘイズの改善効果が0.2%以下では、視覚的にみて透明性に殆ど差は見られない。好ましいヘイズの改善効果は、0.3%以上、特に好ましくは0.4%以上である。
【0045】
前記金属塩化合物としては、周期律表第I−a属、または第II−a属に属する金属元素を有する金属塩化合物が好ましい。なかでも、脂肪族カルボン酸あるいはリン化合物のLi、Na、K、Ca塩が特に好ましい。
【0046】
金属塩化合物の含有量は共重合ポリエステルの組成によっても異なるが、共重合ポリエステルに対して金属元素として0.5〜5.0質量%を含有させることが効果的である。共重合ポリエステルに対する金属塩化合物の含有量が0.5質量%未満ではさらなる結晶化促進効果が小さく、逆に5.0質量%を越えるとポリエステルへの分散性が悪くなるばかりでなく、成形性の悪化や物性低下が起こりやすくなる。
【0047】
前記金属塩化合物の含有量は、下限値がポリエステルに対して0.8質量%であることがさらに好ましく、特に好ましくは1.0質量%である。また、金属塩化合物の含有量は、上限値がポリエステルに対して4.5質量%であることがさらに好ましく、特に好ましくは4.0質量%である。
【0048】
金属塩化合物の共重合ポリエステルへの混合は、1軸押出機、2軸押出機、あるいは成形加工時のポリエステルへの溶融工程への添加等によって行うことができる。一例として、2軸押出機を使用して金属塩化合物をポリエステルへ混合する場合について述べる。
【0049】
金属塩化合物の混合には、2軸押出機(東芝機械(株)製、TEM−37BS)を使用する。混合時の樹脂温度250℃、スクリュ−回転数100rpm、ベント真空度1〜5hPa、フィ−ド量15kg/hrの条件で金属塩化合物をポリエステルに均一混合した後ストランド状に押出し、水冷下チップ状にカッティングする。また、金属塩化合物の混合時に、光安定剤や透明性に悪影響のない顔料等も同時にブレンドすることも可能である。
【0050】
(2)シートの作成
本発明において、上記の共重合ポリエステルをシート状に成型加工する必要がある。シート状に成型加工する方法としては、熱プレス法、カレンダー法、Tダイ押出法、インフレーション押出法等の公知の方法を用いることができる。好ましくは、以下に述べるTダイ押出法である。
【0051】
上記のエステル交換反応及び重縮合反応を行った共重合ポリエステルのチップを50〜100℃で一昼夜減圧乾燥し、次いで一軸押出機或いは二軸押出機を用いて(融点+10℃)〜(融点+80℃)の範囲で溶融し、必要に応じて濾過処理により異物を除去した後、表面温度が10〜50℃のチルロール上にTダイからシート状に溶融押出しすることにより、ポリエステルシートを得ることができる。
【0052】
ポリエステルシートの厚みは、特に限定されるものではないが、25〜500μmが好ましい。
【0053】
本発明のインサート成形用ポリエステルシ−トは、単層構成で用いることができるほかに、各層の機能を分配した多層構成としてもよい。
【0054】
多層構成としては、例えば、弾性率の異なる共重合ポリエステル組成物からなる層を多層化したもの、本発明で用いる共重合ポリエステルからなる層とポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカ−ボネ−ト樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂などの他の熱可塑性樹脂層を積層したもの、などが挙げられる。
【0055】
また、前記ポリエステルシートには、必要に応じて、帯電防止層、接着性改質層、易滑層(バインダー樹脂に粒子や潤滑剤などを含有させた樹脂組成物層)、等の各種の機能層を積層しても構わない。また、シート表面に物理的あるいは化学的な処理を行って、表面を改質させてもよい。
【0056】
【実施例】
次に、本発明のインサート成形用ポリエステルシートを実施例及び比較例により詳しく説明するが、本発明は当然以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0057】
本実施例で得られた共重合ポリエステルの組成及び物性、及びポリエステルシートの特性は下記の方法により評価した。
【0058】
(1)共重合ポリエステルの組成分析
ポリエステルの組成分析は、試料を重水素化クロロホルム/トリフルオロ酢酸=90/10(容積比)の混合溶媒に溶解し、NMR分光器(バリアン社製、Unity−500)を用いて行った。
【0059】
(2)融点
示差走査型熱量計(島津製作所(株)製、DSC−50)、試料10mgをアルミ製のパンに充填し、窒素雰囲気下20℃/分の昇温速度で290℃まで昇温し、同温度で3分間保持した後、アルミパンを液体窒素中に投じ急冷した。急冷したアルミパンを再度示差走査型熱量計にセットし、20℃/分の昇温速度で昇温した時に出現する吸熱ピ−クのピ−ク温度を融点とした。
【0060】
(3)還元粘度
還元粘度(ηsp/C)は試料0.1gを25mlのフェノ−ル/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶液に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
【0061】
(4)ヘイズ
ヘイズメ−タ−(日本電色工業(株)製、Model NDH2000)を用いて、試料のヘイズを測定した。測定値は下記式により、シ−ト厚み100μmのヘイズ値に換算した。
ヘイズ(%)= Hz(%)×100(μm)/A(μm)
ここで、Hz(%)は測定試料の実測ヘイズ値であり、Aは測定試料の実測厚み(μm)を示す。
【0062】
(5)弾性率
ASTM−D638に準じて、試料の弾性率を測定した。
【0063】
(6)結晶化指数Xc
試料を20mm×18mmの大きさに切り出し、広角X線回折用測定試料とした。X線回折の測定は、「X線解析の手引き 改訂第3版、84頁、1985.6.30発行、理学電機株式会社」に記載の方法に順じて下記に示す測定条件で、2θ−X線強度のプロファイルを反射法により求めた。
【0064】
Figure 0004174711
【0065】
(結晶化指数Xcの定義)
結晶化指数Xcの定義を、図1を用いて説明する。
まず、試料(ポリエステルシート)に対し広角X線測定を行い、2θ−X線強度のプロファイルの移動平均近似線(区間:30)を求めた。
縦軸のX線強度は、試料厚さ、粗さ等により変化するので、伸縮してもピ−ク高さの比率は変わらないとして、各移動平均近似線が2θ=13°におけるX線強度が250cpsとなるように、各値を1次変換した。次に、この移動平均近似線の2θが9°と35°における2点を結びベ−スラインCとし、2θが9°から35°までの範囲の移動平均近似線とベ−スラインで囲まれた面積Sを求めた。
【0066】
例えば、図1において、ハ−ドセグメントのグリコ−ル成分がEG100モル%の時の散乱プロファイル(具体例として、比較例2)を非晶構造由来とし、ソフトセグメント及びジカルボン酸成分の組成を一定にしたまま、ハ−ドセグメントのグリコ−ル成分の組成を変化させた時の散乱プロファイル(具体例として、実施例1)との差が結晶構造由来によるものとして、結晶化指数Xcを下記の如く定義した。
結晶化指数Xc(%)=((SBC−SAC)/SAC)×100
上式で、SACは非晶構造に起因する散乱プロファイルの面積を示し、SBCは結晶構造に起因する散乱プロファイルの面積を示す。
【0067】
本発明では、前記方法で求めた試料(ポリエステルシート)の散乱プロファイルの面積をSBCとした。
次いで、前記試料作成時に用いた共重合ポリエステルに対し、ソフトセグメント及びジカルボン酸成分の組成を一定にし、ハ−ドセグメントのグリコ−ル成分をEG100モル%とする以外は前記試料と同様にして共重合ポリエステルを作成し、ブランク試料とした。該ブランク試料のチップを水分率が0.1%以下となるまで真空乾燥し、二軸押出機(池貝鉄工社製、PCM−30)を用いて溶融混合し、溶融樹脂をT−ダイスより表面温度30℃のチルロール上にシート状に押出し、急冷固化させ、前記シートサンプルと同じ厚みの未延伸シートを作成し、前記と同様にして、面積SACを求めた。そして、結晶化指数Xcを前記と同様にして求めた。
【0068】
(7)成形性
得られたシートに圧空成形法により携帯電話のプッシュボタン状の凹凸を付けてインサート成形を行った。得られた成形物の凹凸の付き方を目視で外観評価を行い、下記基準で判定した。
○:凹凸がくっきりと形成されている。
△:凹凸のエッジの部分が若干なだらかになっている。
×:凹凸がはっきりと形成されていない。
【0069】
(8)耐熱性
得られたシートを100℃の熱風乾燥機で8時間熱処理し、熱処理前後での凹凸部の外観及び透明性の変化を目視観察し、下記基準で判定した。
○:凹凸部の外観及び透明性に変化なし
△:凹凸部の外観または透明性がわずかに変化
×:凹凸部の外観または透明性が大きく変化
【0070】
(9)耐溶剤性
得られたシートを、トルエンとメチルエチルケトンの2種類の有機溶媒中に8時間浸漬し、その前後での透明性の変化で目視観察し、下記基準で判定した。
○:両溶媒とも変化なし
△:わずかに変化
×:大きく変化(白化)
【0071】
実施例1
エステル交換反応釜にジメチルテレフタレ−ト(DMT)83,800質量部、エチレングリコール(EG)26,100質量部、1,4−テトラメチレングリコール(TMG)38,100質量部、ダイマージオール(DDO)(ユニケマ製、PRIPOL2033)10,000質量部、触媒としてテトラブチルチタネ−ト(TBT)100質量部、酸化防止剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバガイギ−製、イルガノックス1010)100質量部及びリン系酸化防止剤(旭電化製、アデカスタブPEP−36)100質量部を仕込み、内温を120〜226℃まで90分間で昇温し、同温度で20分間ホ−ルドしてエステル交換反応を行った。
【0072】
続いて、エステル交換反応終了物を重縮合反応釜に移送して、75分で缶内温度を220℃から250℃まで昇温した。同時に缶内圧を徐々に減圧とし、最終的に0.8hPaとした。この条件で内容物の溶融粘度が3000dPa・sとなるまで重縮合反応を続けた後、窒素で微加圧下、内容物を水中に吐出し、チップ状にカッティングした。得られた共重合ポリエステルの組成及び特性を表1に示す。
【0073】
上記共重合ポリエステルを水分率が0.1%以下となるまで真空乾燥した。次いで、チップを二軸押出機(池貝鉄工社製、PCM−30)を用いて樹脂温度220℃で溶融混合し、溶融樹脂をT−ダイスより表面温度30℃のチルロール上にシート状に押出し、急冷固化させ、厚み150μmの未延伸シートを得た。得られた未延伸シートの特性を表2及び3に示した。表2、3より、前記未延伸シートは、透明性、成形性、耐熱性、耐溶剤性に優れている。
【0074】
実施例2
実施例1において、共重合ポリエステルの仕込み時に、グリコール成分であるTMGとEGの組成比を70モル%/30モル%に変更し、かつ二軸押出機での前記共重合ポリエステルの溶融温度を206℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、厚み150μmの未延伸シートを得た。得られた共重合ポリエステルの組成及び特性を表1に、シート特性を表2及び3に示す。
【0075】
実施例3
実施例1において、共重合ポリエステルの仕込み時に、グリコール成分であるTMGとEGの組成比を70モル%/30モル%に変更し、かつDDOの組成を10モル%とし、さらに二軸押出機での前記共重合ポリエステルの溶融温度を188℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、厚み150μmの未延伸シートを得た。得られた共重合ポリエステルの組成及び特性を表1に、シート特性を表2及び3に示す。
【0076】
比較例1
実施例1において、共重合ポリエステルの仕込み時に、グリコール成分であるTMGとEGの組成比を95モル%/5モル%に変更し、かつ二軸押出機での前記共重合ポリエステルの溶融温度を234℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、厚み150μmの未延伸シートを得た。得られた共重合ポリエステルの組成及び特性を表1に、シート特性を表2に示す。なお、透明なシートが得られなかったため、圧空成形機によるインサート成形を行わなかった。
【0077】
比較例2
実施例1において、共重合ポリエステルの仕込み時に、グリコール成分としてTMGの供給を止め、EG100モル%とし、かつ二軸押出機での前記共重合ポリエステルの溶融温度を268℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、厚み150μmの未延伸シートを得た。得られた共重合ポリエステルの組成及び特性を表1に、シート特性を表2及び3に示す。得られたシートは圧空成形機によるインサート成形時に白化したため、耐熱性と耐溶剤性の評価は行わなかった。
【0078】
比較例3
実施例1において、共重合ポリエステルの仕込み時に、グリコール成分としてEGの供給を止め、TMGを100モル%とし、かつDDOを16モル%に変更し、さらに二軸押出機での前記共重合ポリエステルの溶融温度を216℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、厚み150μmの未延伸シートを得た。得られた共重合ポリエステルの組成及び特性を表1に、シート特性を表2に示す。なお、透明なシートが得られなかったため、圧空成形機によるインサート成形を行わなかった。
【0079】
比較例4
実施例1において、共重合ポリエステルの仕込み時に、グリコール成分であるTMGとEGの組成比を90モル%/10モル%、かつDDOを50モル%に変更し、かつ二軸押出機での前記共重合ポリエステルの溶融温度を140℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、厚み150μmの未延伸シートを得た。得られた共重合ポリエステルの組成及び特性を表1に、シート特性を表2及び表3に示す。
【0080】
比較例5
ポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.65dl/g)を用い、水分率が0.1%以下になるまで乾燥した後、Tダイから押し出し、静電荷により キャスティングドラムに密着させ、未延伸フィルムを得た。該未延伸フィルムを90℃に加熱されたロールで加熱し、縦方向に3.5倍延伸した後、テンター内において90℃に予熱し、110℃に加熱しながら幅方向に4.0倍延伸し、さらに、220℃で15秒間の熱固定処理を行った。次いで、該フィルムを200℃から150℃に冷却しながら巾方向に5%弛緩し、厚みが150μmの透明な二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。得られたフィルムの弾性率は4.6GPaであった。表3より、得られたフィルムは耐熱性及び耐溶剤性に優れていたが、成形性は不良であることが分かる。
【0081】
【表1】
Figure 0004174711
【0082】
【表2】
Figure 0004174711
【0083】
【表3】
Figure 0004174711
【0084】
【発明の効果】
本発明の共重合ポリエステルからなる未延伸シートは、耐溶剤性、耐熱性、成形性、透明性に優れインサート成形用途に適している。さらに、燃焼時に塩化水素ガス等の有害物質を発生せず、燃焼発熱量が低いため焼却炉を傷めないなど環境負荷が小さいという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】結晶化指数Xcを定義するための説明図である。
【符号の説明】
A ハードセグメントのグリコール成分がEG100モル%の時の2θ−X線強度プロファイルの移動平均近似線
B ソフトセグメントの組成比を一定にしたまま、ハードセグメントのグリコール組成を変化させた時の2θ−X線強度プロファイルの移動平均近似線
C 移動平均近似線(AまたはB)の2θが9°と35°における2点を結んだベースライン
AC 非晶構造に起因する散乱プロファイルの面積
BC 結晶構造に起因する散乱プロファイルの面積

Claims (1)

  1. 共重合ポリエステルを主たる構成成分とするインサート成形用ポリエステルの未延伸シートであって、前記シートは、弾性率が200〜1500MPa、広角X線で測定した結晶化指数Xcが5%以上、かつヘイズ(厚み100μm換算)が15%以下であり、
    前記共重合ポリエステルは、ハードセグメントとソフトセグメントからなる共重合ポリエステルであって、
    前記ハ−ドセグメントを構成するジカルボン酸成分の少なくとも70モル%以上が、テレフタル酸(TPA)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(NDA)、4,4′−ビフェニルジカルボン酸(BPA)の少なくとも1種以上であり、
    前記ハ−ドセグメントを構成するグリコ−ル成分が、1,4−テトラメチレングリコ−ル(TMG)及びエチレングリコ−ル(EG)を含み、かつハ−ドセグメントを構成する全グリコ−ル成分に対する組成比が、TMGが70〜80モル%で、かつEGが20〜30モル%であり、
    前記ソフトセグメントを構成するソフト成分が、ダイマ−ジオ−ル(DDO)であり、かつポリエステルの全グリコ−ル成分に対するDDOの組成比が4.1〜10.0モル%であることを特徴とするインサート成形用ポリエステルシート。
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