JP4172065B2 - エポキシ樹脂組成物及び電子部品装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、成形材料、積層板用または接着剤の材料として好適なエポキシ樹脂組成物及びその組成物により素子を封止して得られる電子部品装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、成形材料、積層板用、接着剤用材料として、エポキシ樹脂が広範囲に使用され、トランジスタ、IC等の電子部品の素子封止の分野ではエポキシ樹脂組成物が広く用いられている。この理由としては、エポキシ樹脂が成形性、電気特性、耐湿性、耐熱性、機械特性、インサート品との接着性等の諸特性にバランスがとれているためである。特に、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂とフェノールノボラック硬化剤の組み合わせはこれらのバランスに優れており、IC封止用成形材料のベース樹脂として主流になっている。また、硬化促進剤としては3級アミン、イミダゾール等のアミン化合物、ホスフィン類、ホスホニウム等のリン化合物が一般に使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
近年、電子部品のプリント配線板への高密度実装化が進んでおり、これに伴い電子部品は従来のピン挿入型のパッケージから、表面実装型のパッケージが主流になりつつある。IC、LSIなどの表面実装型ICは、実装密度を高くするために素子のパッケージに対する占有体積がしだいに大きくなり、パッケージの肉厚は非常に薄くなってきた。さらに、ピン挿入型パッケージは、ピンを配線板に挿入した後に配線板裏面からはんだ付けが行われるためパッケージが直接高温にさらされることがなかったのに対し、表面実装型ICは配線板表面に仮止めを行った後、はんだバスやリフロー装置などで処理されるため、直接はんだ付け温度にさらされる。この結果、ICパッケージが吸湿した場合、はんだ付け時に吸湿水分が急激に膨張しパッケージクラックに至り、これが大きな問題になっている。
【0004】
さらに近年、このリフロー時のパッケージクラック耐性、いわゆる耐リフロークラック性を改良するために、無機充填剤を多く含む樹脂組成物が提案されている。しかし無機充填剤量の増加は成形時流動性の低下を招き、充填不良、ボイド発生等の成形上の障害やICチップのボンディングワイヤーが断線し導通不良が発生するなど成形品の性能低下を招くため無機充填剤の配合量が限られ、結果として耐リフロークラック性の著しい向上が望めないという問題があった。
特にトリフェニルホスフィン等のリン系硬化促進剤や1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等のアミン系硬化促進剤を用いた場合、流動性が低く耐リフロークラック性の著しい向上が望めないのが実情である。さらに、ホスフィン系硬化促進剤を使用した場合には、使用するエポキシ樹脂/硬化剤の種類によってはボイドが多量に発生するという問題がある。
【0005】
これらの問題を解決する方法として、特開平7−228672号公報には電子供与性置換基を有するフェニル基を3つ有するホスフィンと無水マレイン酸又はキノン類との付加反応物を硬化促進剤として使用する方法が開示されているが、半導体チップ上に形成されたパッシベーション膜との密着性が低いために剥離による耐湿信頼性の低下が問題となっている。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みなされたもので、ボイドの発生がなく、吸湿時の硬化性、パッシベーション膜との接着性、耐湿性に優れるエポキシ樹脂組成物、およびその組成物で封止した素子を備える電子部品装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定のトリフェニルホスフィンとキノン化合物との付加反応物を配合することにより、ボイドの発生がなく、吸湿時の硬化性、パッシベーション膜との接着性に優れるエポキシ樹脂組成物を見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、(1)(A)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、(B)1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有するフェノール樹脂、(C)次式(I)で示される硬化促進剤、
【化4】
(ここで、R1 、は炭素数1〜6のアルキル基、R2は、水素、炭素数1〜6のアルキル基及び炭素数1〜6のアルコキシル基から選ばれ、両者の炭素数1〜6のアルキル基は同一でも、異なっていてもよい。R3は水素または炭素数1〜6のアルキル基を示し、mは1または2を示す。)を必須成分として含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物、(2)組成物全体に対して55体積%以上の無機充填剤(D)を含有することを特徴とする上記(1)記載のエポキシ樹脂組成物、(3)エポキシ樹脂(A)のエポキシ基とフェノール樹脂(B)のフェノール性水酸基との当量比((B)/(A))が0.5〜2であることを特徴とする上記(1)または(2)記載のエポキシ樹脂組成物、(4)(A)成分が次式(II)及び/又は(III)のエポキシ樹脂を含むことを特徴とする上記(1)〜(3)記載のいずれかのエポキシ樹脂組成物、
【化5】
(ここで、式中各4個のR4、R5は全て同一でも異なっていてもよく、水素またはメチル基を示す。)(5)(B)成分が次式(IV)、次式(V)及び次式(VI)で示されるフェノール樹脂の少なくともいずれかを含むことを特徴とする上記(1)〜(4)記載のいずれかのエポキシ樹脂組成物、
【化6】
(ここで、X、Y、Zは0〜10を示す。)(6)上記(1)〜(5)記載のいずれかのエポキシ樹脂組成物により封止された素子を備える電子部品装置、である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いられる(A)成分のエポキシ樹脂は、一般に使用されているもので特に限定はないが、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノール、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のフェノール類のグリシジルエーテル、ブタンジオ一ル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテル、フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等のカルボン酸類のグリシジルエステル、アニリン、イソシアヌール酸等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したもの等のグリシジル型またはメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、分子内のオレフィン結合をエポキシ化して得られるビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシル−5,5−スピロ(3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン等の脂環型エポキシ樹脂、パラキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、メタキシリレン・パラキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル、ビフェニル型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられ、単独であるいは2種以上混合して用いることができる。これらのエポキシ樹脂の中で、下記一般式(II)や(III)で示されるものが流動性及び耐リフロー性の点で好ましく、中でも 、耐リフロー性の観点からは4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルが、成形性や耐熱性の観点からは4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニルがより好ましい。これら式(II)、式(III)のエポキシ樹脂は、それぞれ単独で用いても併用してもよいが、性能を発揮するためには、(A)成分のエポキシ樹脂全量に対して、合わせて60重量%以上使用することが好ましい。
【0010】
【化7】
(ここで、式中各4個のR4、R5は全て同一でも異なっていてもよく、水素またはメチル基を示す。)
【0011】
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いられる(B)成分の1分子中にフェノール性水酸基を2個以上有するフェノール樹脂は、特に制限はなく公知のフェノール樹脂を広く使用することができる。例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られる樹脂、パラキシリレン変性フェノール樹脂、メタキシリレン・パラキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂などが挙げられ、単独であるいは2種以上混合して用いることができる。これらのフェノール樹指は、分子量、軟化点、水酸基当量などに制限なく使用することができる。中でも、硬化性の点からは下記一般式(IV)、(V)、(VI)で示されるものが好ましく、さらに低吸湿の観点から式(V)の構造が好ましい。これら式(IV)、式(V)、式(VI)のフェノール樹脂は、それぞれ単独で用いてもいずれか2種あるいは3種全てを併用してもよいが、性能を発揮するためには、(B)成分のフェノール樹脂全量に対して合わせて60重量%以上使用することが好ましい。
【0012】
【化8】
上記式(IV)、式(V)、式(VI)中のX、Y、Zは0〜10の数を示す。それぞれが10を越えた場合は(B)成分の溶融粘度が高くなるため、エポキシ樹脂組成物の溶融成形時の粘度も高くなり、未充填不良やボンディングワイヤ(素子とリードを接続する金線)の変形を引き起こしやすくなる。したがって、X、Y、Zは0〜10の範囲であることが必要であるが、1分子中の平均で1〜4の範囲に設定されることがより好ましい。
【0013】
本発明において(A)成分のエポキシ樹脂と(B)成分のフェノール化合物との配合比率は、エポキシ樹脂のエポキシ当量に対するフェノール樹脂の水酸基当量の比率が0.5〜2.0の範囲に設定されることが好ましく、より好ましくは0.7〜1.5、さらに好ましくは0.8〜1.3である。0.5未満ではエポキシ樹脂の硬化が不充分となり、硬化物の耐熱性、耐湿性及び電気特性が劣りやすい。また、1.5を超えるとフェノール樹脂成分が過剰になり硬化樹脂中に多量のフェノール性水酸基が残るため、電気特性及び耐湿性が悪くなりがちである。
【0014】
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いられる(C)成分の硬化促進剤は、次式(I)を満足していれば特に制限されるものではない。
【化9】
上記式(I)中のR1、R2は、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、t−ブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシル基から選ばれ、両者が水素の場合を除き同一でも、異なっていてもよい。R3は水素または炭素数1〜6のアルキル基を示し、mは1または2を示す。
このような化合物としては例えば表1の化合物等が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。これらの中でR3がHである例示化合物が硬化性の点で好ましく、R2がHでありmが1である例示化合物がPIQピール接着力の点で好ましく、さらにR1がメチル基である例示化合物が良好な吸湿時硬化性を示すので好ましい。
これらの例示化合物は、特に製造方法に制限はないが、有機ホスフィンとキノンとを有機溶媒中で付加反応させて単離する方法等で得ることができる。また、有機ホスフィンとキノンとを(B)成分のフェノール樹脂中で付加反応させた後に、単離せずにそのままフェノール樹脂中に溶解した状態で用いることもできる。
【0015】
【表1】
【0016】
また本発明の樹脂組成物には、(C)成分以外に、エポキシ樹脂とフェノール性水酸基を有する化合物の硬化反応を促進する硬化促進剤として一般に用いられているものを1種以上併用することができる。これらの硬化促進剤としては、例えば、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等のジアザビシクロアルケンまたはその誘導体、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等のジアザビシクロアルケンまたはその誘導体のフェノールノボラック塩、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の三級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンとp−ベンゾキノンのベタイン型付加生成物、ジフェニル(p−トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキル・アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン等の有機ホスフィン類、またはこれら有機ホスフィンと有機ボロン類との錯体などが挙げられる。
【0017】
これらの硬化促進剤を併用する場合、(C)成分の配合量は、全硬化促進剤量に対して30重量%以上が好ましく、より好ましくは50重量%以上である。(C)成分の配合量が30重量%未満であるとボイドの発生、吸湿時硬度の低下、パッシベーション膜との接着性の低下等が生じやすく本発明の効果が少なくなる。
(C)成分を含む全硬化促進剤の合計配合量は、ボイドの減少、吸湿時硬化性の向上、パッシベーション膜との接着性向上、流動性の向上が達成される量であれば特に限定されるものではないが、(A)成分のエポキシ樹脂と(B)成分のフェノール樹脂の合計量100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、より好ましくは1〜7.0重量部である。0.1重量部未満では短時間で硬化させることが困難で、10重量部を超えると硬化速度が早すぎて良好な成形品が得られない場合が生じる。
【0018】
本発明の樹脂組成物に配合される無機充填剤(D)としては特に限定はないが、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、ガラス、アルミナ、炭酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸カルシウム、窒化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア、タルク、クレー、マイカ等の微粉未、またはこれらを球形化したビーズなどが挙げられる。さらに、難燃効果のある無機充填剤としては水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硼酸亜鉛などが挙げられ、これらを単独で用いても併用してもよい。上記の無機充填剤の中で、線膨張係数低減の観点からは溶融シリカが、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましい。
【0019】
(D)成分の無機充填剤の配合量は、樹脂組成物全体に対して55〜90体積%の範囲であることが好ましい。これら無機充填剤は硬化物の熱膨張係数や熱伝導率、弾性率などの改良を目的に添加するものであり、配合量が55体積%未満ではこれらの特性を充分に改良できず、90体積%を超えると樹脂組成物の粘度が著しく上昇し流動性が低下して成形が困難になりがちである。
また、無機充填剤(D)の平均粒径は1〜50μmの範囲が好ましく、10〜30μmがより好ましい。1μm未満では樹脂組成物の粘度が上昇しやすく、50μmを超えると樹脂成分と充墳剤とが分離しやすくなり、硬化物が不均一になったりあるいは硬化物特性がばらついたり、更には狭い隙間への充填性が低下しがちである。
流動性の観点からは、(D)成分の無機充填剤の粒子形状は角形より球形が好ましく、且つ粒度分布が広範囲に分布したものが望ましい。例えば、充填剤を75体積%以上配合する場合、その70重量%以上を球状粒子とし、0.1〜80μmという広範囲に分布したものが望ましい。このような充填剤は最密充填構造をとりやすいため配合量を増しても材料の粘度上昇が少なく、流動性の優れた組成物を得ることができる。
【0020】
本発明のエポキシ樹脂組成物を封止用成形材料として用いる場合、封止される素子を備える電子部品装置の耐湿性を向上させる観点からは、陰イオン交換体を添加することが好ましい。ここで問題とする耐湿性とはICパッケージ等の電子部品装置の耐湿信頼性であり、特にバイアス型高温高湿試験、HAST(Highly Accelerated Humidity and Stress Test)などの電圧印加下での耐湿性試験が対象である。これらの耐湿性試験で発生する不良モードは殆どがICの素子上に形成されているアルミ配線の腐食による断線であるが、本発明の(A)成分のエポキシ樹脂、(B)成分のフェノール樹脂、(C)成分の硬化促進剤及び(D)成分の特定配合量の無機充填剤の組合せからなるエポキシ樹脂組成物を使用することで良好な耐湿信頼性を得ることができる。しかし、更に優れた電圧印加型の耐湿性を得るためには陰イオン交換体の添加が有効である。電圧印加型耐湿試験の場合は陽極側のアルミ配線が特に腐食しやすく、この原因としては以下の現象が考えられる。陽極側の配線またはボンディングパッドは水分が存在する場合、水の電気分解により発生する酸素により陽極酸化を受け、表面に安定な酸化アルミの皮膜が形成されるためアルミ腐食は進行しないはずである。しかし、微量でも塩素などのハロゲンイオンが存在すると酸化アルミ膜を可溶化するため、下地のアルミが溶解する孔食腐食となる。この陽極側の孔食腐食は陰極側の粒界腐食と比較し進行が速いため、電圧印加型耐湿試験では陽極側のアルミ配線腐食が先に進行し不良となる。そこで、陽極側の腐食を防止するためには微量のハロゲンイオンを捕捉できる陰イオン交換体の添加が有効になる。
【0021】
本発明において用いることのできる陰イオン交換体としては特に制限はないが、次式(VII)で示されるハイドロタルサイト類や、
【化10】
Mg1-xAlx(OH)2(CO3)x/2・mH2O ……(VII)
(0<x≦0.5、nは正数)
マグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ビスマスから選ばれる元素の含水酸化物が好ましく、これらを単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0022】
ハイドロタルサイト類は、ハロゲンイオンなどの陰イオンを構造中のCO3と置換することで捕捉し、結晶構造の中に組み込まれたハロゲンイオンは約350℃以上で結晶構造が破壊するまで脱離しない性質を持つ化合物である。この様な性質を持つハイドロタルサイト類を例示すれば、天然物として産出されるMg6Al2(OH)16CO3・4H2Oや合成品としてMg4.3Al2(OH)12.6CO3・mH2Oなどが挙げられる。また、本発明のエポキシ樹脂組成物は(B)成分のフェノール樹脂の影響で、純水を使用した硬化物の抽出液がpH値3〜5と酸性を示す。したがって、両性金属であるアルミに対しては腐食しやすい環境となるが、ハイドロタルサイト類は酸を吸着する作用も持つことから抽出液を中性に近づける作用もあり、この作用効果もハイドロタルサイト類添加がアルミ腐食防止に対し有効に働く要因であると推察できる。
【0023】
マグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ビスマス、アンチモンから選ばれる元素の含水酸化物も、ハロゲンイオンを水酸イオンと置換することで捕捉でき、さらにこれらのイオン交換体は酸性側で優れたイオン交換能を示す。本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料については、前述のように抽出液が酸性側となることから、これらの含水酸化物もアルミ腐食防止に対し特に有効である。これらを例示すればMgOnH2O、Al2O3nH2O、TiO2nH2O、ZrO2nH2O、Bi2O3nH2O、Sb2O5nH2Oなどの含水酸化物が挙げられる。
【0024】
これらの陰イオン交換体の配合量は、ハロゲンイオンなどの陰イオンを捕捉できる十分量であれば特に限定されるものではないが、(A)成分のエポキシ樹脂100重量部対して、0.1〜30重量部の範囲に設定されることが好ましく、より好ましくは1〜5重量部である。
【0025】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて樹脂成分と充項剤との接着性を高めるためのカップリング剤として、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン等の各種シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート類、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等の公知の添加剤を用いることができる。また、カーボンブラック、有機染料、有機顔料、酸化チタン、鉛丹、ベンガラ等の公知の着色剤を添加しても良い。
【0026】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、成形時に金型との良好な離型性を持たせるため離型剤を添加してもよい。この離型剤としては、酸化型または非酸化型のポリオレフィンを(A)成分のエポキシ樹脂100重量部に対して0.01〜10重量部添加することが好ましく、より好ましい添加量は0.1〜5重量部である。0.01重量部未満では十分な離型性を得ることができず、10重量部を超えると接着性が阻害されるおそれがある。この酸化型または非酸化型のポリオレフィンとしては、ヘキスト社製H4やPE、PEDシリーズ等の数平均分子量が500〜10000程度の低分子量ポリエチレンなどが挙げられる。また、これ以外の離型剤としては、例えばカルナバワックス、モンタン酸工ステル、モンタン酸、ステアリン酸などが挙げられ、単独で用いても2種以上併用してもよい。酸化型または非酸化型のポリオレフィンに加えてこれら他の離型剤を併用する場合、その配合割合は(A)成分のエポキシ樹脂100重量部に対して通常0.l〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜3重量部である。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、電子部品装置に難燃性を付与するために難燃剤を添加してもよい。この難燃剤としては、ハロゲン原子、アンチモン原子、窒素原子又はリン原子を含む公知の有機若しくは無機の化合物、金属水酸化物などが挙げられ、中でも、臭素化エポキシ樹脂、三酸化アンチモンなどが好ましい。これらの難燃剤は(A)成分のエポキシ樹脂100重量部に対して1〜30重量部配合されることが好ましく、より好ましくは2〜15重量部である。
さらに、その他の添加剤として、シリコーンオイルやシリコーンゴム粉末等の応力緩和剤などを必要に応じて配合することができる。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、各種成分を均一に分散混合できるのであれば、いかなる手法を用いても調製できるが、一般的な手法として、所定の配合量の成分をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、押出機等によって溶融混練した後、冷却、粉砕する方法を挙げることができる。例えば、上述した成分の所定量を均一に撹拌、混合し、予め70〜140℃に加熱してあるニーダー、ロール、エクストルーダーなどで混練、冷却し、粉砕するなどの方法で得ることができる。成形条件に合うような寸法及び重量でタブレット化すると使いやすい。
【0029】
本発明で得られるエポキシ樹脂組成物により素子を封止して得られる電子部品装置としては、リードフレーム上に半導体素子を固定し、素子の端子部(ボンディングパッドなど)とリード部をワイヤボンディングやバンプなどで接続した後、エポキシ樹脂組成物を用いてトランスファ成形などにより封止してなる、一般的な樹脂封止型ICパッケージ等が挙げられる。これを例示すればDIP(Dual Inline Package)、PLCC(Plastic Leaded Chip Carrier)、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)、SOJ(Small Outline J-lead package)、TSOP(Thin Small Outline Package)、TQFP(Thin Quad Flat Package)などが挙げられ、特に表面実装法により配線板に実装される電子部品装置に適用した場合、優れた信頼性を発揮できる。
また、上記に示したリード(外部接続端子)を有する樹脂封止型パッケージの形態であれば、封止される素子はトランジスタ、サイリスタ、IC、LSI、ダイオードなどの半導体素子ばかりでなく、抵抗体、抵抗アレイ、コンデンサ、ポリスイッチなどのスイッチ類なども対象となり、本発明のエポキシ樹脂組成物はこれらの素子に対しても優れた信頼性を提供できるとともに、各種素子や電子部品をセラミック基板に搭載した後に全体を封止してなるハイブリットICについても優れた信頼性を得ることができる。さらには、裏面に配線板接続用の端子を形成した有機基板の表面に素子を搭載し、バンプまたはワイヤボンディングにより素子と有機基板に形成された配線を接続した後、エポキシ樹脂組成物を用いて素子を封止してなる、BGA(Ball Grid Array)やCSP(Chip Size Package)などの電子部品装置についても優れた信頼性を得ることができる。プリント回路板の製造などにも有効に使用できる。
本発明で得られる樹脂組成物を用いて、電子部品装置を封止する方法としては、低圧トランスファー成形法が最も一般的であるが、インジェクション成形法、圧縮成形法等を用いてもよい。
【0030】
【実施例】
次に本発明の実施例を示すが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1〜3、5〜12、参考例4、比較例1〜13
エポキシ樹脂としてはエポキシ当量196、融点106℃のビフェニル骨格型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂1:油化シェルエポキシ(株)製、YX−4000H)、エポキシ当量192、融点79℃のジフェニルメタン骨格型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2:新日鐡化学(株)製、ESLV−80XY)、エポキシ当量192、軟化点80℃、臭素含有量48重量%の臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(臭素化エポキシ1)、エポキシ当量393、軟化点80℃、臭素含有量48重量%の臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(臭素化エポキシ2)、硬化剤としては水酸基当量176、軟化点70℃のフェノール・アラルキル樹脂(硬化剤1:三井化学(株)製、ミレックスXL−225)、水酸基当量199、軟化点89℃のビフェニル骨格型フェノールノボラック樹脂(硬化剤2:明和化成(株)製、MEH−7851)、水酸基当量197、軟化点79℃のナフトールフェノールノボラック樹脂(硬化剤3:新日本製鐵化学(株)製、SN−180)、実施例の硬化促進剤としては前記表1の例示化合物No.1、3、5、7、10、14、20、22、比較例の硬化促進剤としてはトリフェニルホスフィン(促進剤A)、トリフェニルホスフィンとpーベンゾキノンとの付加反応物(促進剤B)、トリ(p−トリル)ホスフィンとpーベンゾキノンとの付加反応物(促進剤C)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7のフェノールノボラック塩(サンアプロ(株)製、U−CAT SA−841)(促進剤D)、無機充填剤としては溶融石英粉を用い、その他の添加成分としてはカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、カルナバワックス、三酸化アンチモン、カーボンブラックを用い、表2、表3に示す重量比で配合し、混練温度80〜90℃、混練時間15分の条件でロール混練を行い、実施例1〜3、5〜12、参考例4、比較例1〜13のエポキシ樹脂組成物を得た。
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
実施例、参考例、比較例で得られたエポキシ樹脂組成物について、次の(1)〜(6)の各種特性試験を行った。結果を表4及び表5に示す。
(1)スパイラルフロー
EEMI1−66に準じて、180℃、7Mpa、90秒の条件で成形したときの流動長さ(インチ)を測定した。
(2)熱時硬度(ショアD)
180℃、7Mpa、90秒の条件で成形したときの試験片(50mmφ×3mmt)のショアD硬度を測定した。
(3)吸湿時熱時硬度(ショアD)
25℃/50%RHの条件で72時間放置後の樹脂組成物を用いて上記(2)と同様に熱時硬度を測定した。
(4)PIQピール接着力(N/m)
10μmのPIQ層が形成された幅10mm、厚さ5μmのアルミニウム箔を用いて、PIQ層上に180℃、7Mpaの条件で3mmtの板状試験片を形成し、90°方向、50mm/分の速度でピール強度を測定。
(5)耐湿性
線幅10μm、厚さ1μmのアルミ配線を施したTEGチップを用いて作製したSOPパッケージ(18.3×8.4×2.6mm、28ピン、42アロイリードフレーム)を、175℃で5時間アフタキュア後、85℃/85%RHで72時間加湿した。次いで215℃/90秒VPSリフロー処理を行い、所定時間2気圧PCT処理を行いアルミ配線腐食による断線の有無を評価した。
(6)内部ボイド発生数
180℃、7Mpa、90秒の条件で成形した8×10(mm)の素子を搭載した80ピン、外形14×20×2t(mm)のQFPパッケージ(シリコンチップとリードフレームを繋ぐ金線の平均長さは6mm)を軟X線透視装置で観察して0.1mmφ以上の大きさのボイド数をカウントした。
【0034】
【表5】
【0035】
【表6】
【0036】
実施例1〜3、5〜8に示すように、本発明の樹脂組成物は、約40インチのスパイラルフロー、約80の熱時硬度、70以上の吸湿時熱時硬度を示し、PIQピール接着力、耐湿信頼性及びボイド発生数の点で優れていた。これに対して、本発明の硬化促進剤を含まない比較例では、比較例1の樹脂組成物では流動性が低く、ボイドの発生が極めて多かった。また比較例2の樹脂組成物では吸湿時熱時硬度が劣り、比較例3の樹脂組成物では流動性及びPIQピール接着力が劣り、比較例4の樹脂組成物では流動性、吸湿時熱時硬度及びボイド数が劣っていた。さらに比較例5の樹脂組成物はPIQピール接着力及び耐湿信頼性が劣っていた。また、異なる樹脂組成について検討を行った実施例、比較例から、実施例9〜12の本発明の樹脂組成物は、比較例6〜9の樹脂組成物に比較して熱時硬度及び吸湿時熱時硬度が優れ、比較例10〜13の樹脂組成物に比較して、PIQピール接着力、耐湿信頼性及びボイド発生数の点で優れていた。
【0037】
【発明の効果】
実施例で示したように、本発明のエポキシ樹脂組成物は、ボイドの発生がなく、吸湿時の硬化性、パッシベーション膜との接着性、及び耐湿性に優れることから特に半導体の封止用途に好適に用いられ、その工業的価値は大きい。
Claims (6)
- 組成物全体に対して55体積%以上の無機充填剤(D)を含有することを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
- エポキシ樹脂(A)のエポキシ基とフェノール樹脂(B)のフェノール性水酸基との当量比((B)/(A))が0.5〜2であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のエポキシ樹脂組成物。
- 請求項1〜5各項記載のいずれかのエポキシ樹脂組成物により封止された素子を備える電子部品装置。
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