JP4171798B2 - イチゴの品種識別方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、イチゴの品種識別方法に関し、詳しくはイチゴのガク(へた)を含む果実及び/又は葉より抽出したDNAを鋳型として、イチゴ各品種間で識別性のある塩基配列を標的にしたPCR法によってDNAを増幅し、得られたDNAの多型及び該増幅産物を制限酵素処理して得られるDNAの多型を検出し、これを識別することによって、イチゴの品種を識別する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、イチゴの品種識別は、果実の形や大きさ、葉の形や大きさ、草型等の比較により行われてきた。しかし、これらは連続的な形質による違いに依存しているため、正確に判断するのが極めて困難であった。
さらに、上記の方法は、苗の大きさや生育状態等を揃えて同一の条件下で栽培した場合には有効であるが、果実のない苗では品種を識別することは事実上できない。
また、市場に流通している果実は、多様な条件の下で栽培されているため、上記の従来方法では品種を識別することは困難である。
【0003】
種苗法では、登録されているイチゴ品種の育成者権を認めている。しかし、育成者権を有する者、団体等が苗の増殖、販売に関する承諾を与えていない者、団体等によって、当該品種を違法に増殖、販売していることを見つけても、従来のイチゴの品種判別方法では、登録されたイチゴ品種との同一性を特定することが難しいため、育成者権の保護が有効になされていないという一面があった。
また、JAS法による農産物の表示義務が強化されると共に、消費者がイチゴの購入時に品種を基準にして選択している等の状況からしても、イチゴの品種を正確に識別することは重要なことであるにもかかわらず、外見では一部の品種を除いて殆ど識別することができず、表示の上で大きな問題である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、イチゴの種苗、果実等を試料として、栽培条件や保存条件などに左右されずに、イチゴ品種を正確に識別することが可能な方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、イチゴ品種の識別をDNA解析によって行うべく検討し、PCR法により増幅した特定のDNAを特定の制限酵素で切断して多型を生じさせ、その多型のパターンによって品種を効果的に識別できることを見出し、本発明に到達したのである。
【0006】
すなわち、イチゴのアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(以下、APX と略記することもある。)をコードする遺伝子、カルコンイソメラーゼ(以下、CHI と略記することもある。)をコードする遺伝子及びフラバノン3ヒドロキシラーゼ(以下、F3H と略記することもある。)をコードする遺伝子のイントロンを含む塩基配列が、イチゴの品種によって特異的に変異していること並びにその差を制限酵素Mlu I 、Pvu II、Hpa II、Nco I 、Acc I 、Dde I 、Rsa I 等で処理することによって検出できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
請求項1記載の本発明は、イチゴのガクを含む果実及び/又は葉より抽出したDNAを鋳型として、PCR法によってDNAを増幅し、増幅したDNAの多型及び増幅したDNAの制限酵素による消化で生じる多型を、配列番号8に係るイチゴアスコルビン酸ペルオキシダーゼ遺伝子断片の216番目から291番目に相当する挿入部位の有無、配列番号9に係るイチゴアスコルビン酸ペルオキシダーゼ遺伝子断片の93番目から98番目に相当する制限酵素 Mlu I 認識部位の有無、配列番号11に係るイチゴカルコンイソメラーゼ遺伝子断片の111番目から116番目に相当する制限酵素 Pvu II 認識部位の有無の中から選ばれた少なくとも1種の識別用DNAマーカーにより識別することを特徴とするイチゴの品種識別方法である。
請求項2記載の本発明は、PCR法において、配列番号1及び配列番号2、又は配列番号3及び配列番号4として記載されたプライマーの対を用いることを特徴とする請求項1記載のイチゴの品種識別方法である。
請求項3記載の本発明は、イチゴのガクを含む果実及び/又は葉より抽出したDNAを鋳型として、配列番号5又は6、及び配列番号7として記載されたプライマーの対を用いたPCR法によってDNAを増幅し、増幅したDNAを制限酵素 Nco I 、制限酵素 Acc I 、制限酵素 Hpa II 、制限酵素 Dde I 、又は制限酵素 Rsa I のうちの少なくとも1つから選択される制限酵素によって消化させることにより生じる多型を識別することを特徴とするイチゴの品種識別方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
イチゴの品種をDNA解析によって分類する方法では、特定のマーカーが用いられるが、本発明では新たに開発したマーカーを使用し、PCR法によって増幅した特定のDNAを特定の制限酵素で切断して多型を生じさせ、その多型のパターンによって品種を分類する方法を確立した。
すなわち、PCR法により増幅した部分にイチゴ品種間で異なる塩基配列が存在し、かつその配列を認識できる制限酵素があることから、これらの組み合わせによってイチゴの品種識別を行う方法である。
【0009】
本発明では、イチゴの品種間で特異的に塩基配列が異なる酵素遺伝子として、APX 、CHI 及び F3Hの遺伝子を選択した。APX は、植物の葉に含まれる代表的な活性酸素消去能を有する酵素の一つで、葉緑体に局在している。CHI は、カルコンシンターゼによって合成されたカルコンを異性化させる酵素であり、F3Hは、さらに3位を水酸化するなど、植物に含まれる天然色素であるアントシアニンの生合成経路を触媒するものである。
【0010】
PCR法では、イチゴ試料から抽出したDNAを鋳型とし、上記のAPX 、CHI 又は F3H遺伝子とイントロン部分を含む領域を標的にして行う。DNAの増幅に必要なプライマーについて、本発明では、既知のイチゴのイントロンを含むDNA配列を利用してPCR増幅に必要な配列を設計した後、識別が求められるイチゴ品種のDNAを鋳型として、その部分をクローニングして塩基配列を決定し、多型が生じるようなDNA配列を確認すると共に、その部分が確実に増幅するようにプライマーの設計を修正し、最終的なものとした。
これらのプライマーが、APXFP (配列表の配列番号1)とAPXRV (配列表の配列番号2)、CHIFP (配列表の配列番号3)とCHIRV (配列表の配列番号4)、又はF3HFP (配列表の配列番号5)もしくはF3HFP2(配列表の配列番号6)とF3HRV (配列表の配列番号7)である。
すなわち、DNAデータベースからAPX のDNA配列(AF158652) を選択し、このDNA配列情報を参考にしてAPXFP とAPXRV を設計した。また、DNAデータベースからCHI のDNA配列(AYO17486及びAYO17478) を選択し、このDNA配列情報からCHIFP と CHIRVを設計し、同様にDNAデータベースからF3H のDNA配列(AOY17482及びAOY17479) を選択し、このDNA配列情報から F3HFP、F3HFP2 と F3HRV を設計した。
【0011】
試料のイチゴからのDNAの抽出は、ガクを含む果実及び/又は葉から、Laurence Marechal-Drourard et.al.(Plant Molecular Biology Reporter,1995,vol.13(1),p.26-30)の方法を改変し行った。この方法では、すりつぶした試料にDNA抽出溶液を加え、保温・冷却処理したのち、遠心して得た上清にイソプロパノールなどの溶媒を加えてDNAを沈殿させ、必要に応じて遠心してDNAを分離する。次いで、TEとリボヌクレアーゼ溶液を加えてRNAを分解する。このRNase処理後の溶液にDEAEセファデックス混液を添加し、再度遠心して得た固形物に溶出バッファーを加えてDNAを溶出させ、これを常法により精製する。
【0012】
上記により抽出したDNAを鋳型とし、 APX遺伝子、CHI 遺伝子又はF3H 遺伝子とイントロン部分を含む領域を標的としてPCR法を行う。PCR反応液として、Taq ポリメラーゼ等の耐熱性DNAポリメラーゼ、反応用緩衝液、鋳型DNA、dNTPsにプライマー対を加えたものを用いる。
反応工程は、常法に従い約90〜96℃の高温処理過程(変性)、約30〜75℃のプライマー・DNA結合過程(アニーリング)、約70〜75℃のDNA複製過程(伸長)の3過程を1サイクルとする反応を30〜40サイクル行ってDNAを増幅する。
【0013】
次に、増幅DNAの電気泳動を行う。これにより、増幅産物のうち品種間の識別性が現れる塩基配列であることを示すバンドを検出する。すなわち、PCR法により増幅された産物を特定の制限酵素で処理した後、アガロースゲル等で分離すると、DNAがアガロース等のゲル中を直流電荷に引かれて移動する際に、DNAの分子量の差により分離され、臭化エチジウムブロマイド等により染色されてバンドとして増幅DNAの相違が検出されるのである。
イチゴ各品種から得られたDNA断片をアガロースゲルごと切り出してDNAを回収し、これをEasy T Vector システム(プロメガ社)等を用いてクローニングを行う。まず、DNAをプラスミドに組み込み、大腸菌に導入する。次いで、大腸菌を増殖させた後、プラスミドを取り出して精製し、DNAシーケンサーを用いてクローンの塩基配列を決定する。イチゴ各品種からのプラスミドの解析結果や公開されている配列情報を比較することによって、標的とした塩基配列中に品種間で特異的に変異しており、かつその差を制限酵素処理と電気泳動により検出できる部位が存在するかを調べ、品種識別用マーカーとする。
【0014】
イチゴAPX のクローンとして APX6ny1(配列表の配列番号8)、APX6ih2 (配列表の配列番号9)、APX6ih3 (配列表の配列番号10)、イチゴCHIのクローンとして CHIPvuII(配列表の配列番号11)、CHImain(配列表の配列番号12)、イチゴF3H のクローンとして F3HCesena1 (配列表の配列番号13)、F3HCesena2 (配列表の配列番号14)、 F3HCesena3 (配列表の配列番号15)がある。これらは、挿入配列の有無、特定の制限酵素認識部位の有無により特徴付けられる。
【0015】
イチゴ品種は、これらの対立遺伝子の組み合わせが異なることから、識別が可能である。イチゴAPX のクローンは、挿入配列の有無の他に、制限酵素Mlu I の認識部位の有無により識別され、イチゴCHI のクローンは、制限酵素Pvu IIの認識部位の有無により識別される。また、イチゴF3H のクローンの対立遺伝子間で配列の異なる部分を認識する制限酵素としては、Nco I 、Acc I 、Hpa II、Dde I 、Rsa I などがある。
【0016】
したがって、APX 挿入配列(配列表の配列番号16)、APX-Mlu I(配列表の配列番号17)、CHI-Pvu II(配列表の配列番号18)、F3H-Nco I(配列表の配列番号19)、F3H-Hpa II(配列表の配列番号20)、F3H-Acc I(配列表の配列番号21)、F3H-Dde I(配列表の配列番号22)及びF3H-Rsa I(配列表の配列番号23)の中から選ばれた少なくとも1種を識別用DNAマーカーとして用いることによって、イチゴ品種の識別をすることができる。
【0017】
本発明では、イチゴ品種として「とよのか」、「女峰」、「とちおとめ」、「章姫」、「さちのか」、「アイベリー」、「レッドパール」、「濃姫」、「サンチーゴ」、「ピーストロ」、「アイストロ」、「べにほっぺ」、「けいきわせ」、「セセナ」の14種類を供試したが、これらに限定されず、その他の品種であっても、本発明の方法により識別することが可能である。
【0018】
【実施例】
以下に、本発明を実施例などにより詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
試験例1(イチゴ品種識別用(PCR制限酵素断片長多型)マーカーの開発)
DNAデータベースからイチゴAPX のDNA配列(AF158652)を選択し、このDNA配列情報を参考にして、フォワードプライマー(APXFP)(配列表の配列番号1)とリバースプライマー(APXRV)(配列表の配列番号2)を設計した。
イチゴ「セセナ」、「女峰」、「久留米IH3号」の2品種、1系統の新葉からDNAを抽出した。すなわち、イチゴ新葉約100mgを乳鉢ですりつぶし、DNA抽出溶液(100mM 酢酸ナトリウム、50mM エチレンジアミン二ナトリウム二水和物、0.5M 塩化ナトリウム、0.5%ポリビニルピロリドン(MW40000)、1.4%ドデシル硫酸ナトリウム、pH5.5)1mlを加え、65℃で10分間保温した後、遠心(15000rpm、10分間)して固形物を分離した。上清750μlを新しい遠心管に移し、5M 酢酸カリウム250μlを加えて氷中で10〜30分間保冷後、遠心(15000rpm、10分間)した。
【0019】
次に、この上清約700μlを新しい遠心管に移し、同量のイソプロパノールを添加し、DNAを沈殿させた。遠心(15000rpm、10分間)後、上清を捨て、DNAを含む沈殿物をTE(10mM トリス塩酸、5mM EDTA、pH8.0)+リボヌクレアーゼ(RNase、終濃度0.1mg/ml)溶液200μlを添加し、55℃で30分間保温してRNAを分解した。
洗浄バッファー(10mM トリス塩酸、pH7.5、1mM EDTA、塩化ナトリウム0.4M)で平衡化したDEAEセファデックス混液200μlを上記RNase処理後の溶液に添加し、10分程度ゆっくり混ぜた。この溶液を遠心した後、上清を捨て、洗浄バッファー500μlを添加してセファデックスを洗浄した。この洗浄操作を2回繰り返した。
沈降後、上清を取り除き、60℃に保温した溶出バッファー(10mM トリス塩酸、pH7.5、1mM EDTA、塩化ナトリウム2.0M)を加え、DNAをDEAEセファデックスから溶出バッファー中に溶出させた。DNAを含む溶出バッファーを新しい遠心管に移し、イソプロパノールを添加した。10分間保冷(−80℃)後、遠心してDNAを集め、70%エタノールで洗浄した。得られたDNAを乾燥して1/10に希釈したTEバッファーに溶解した。
【0020】
このようにして抽出したDNA10〜100ngを鋳型に、APX遺伝子及びイントロン部分を含む領域を標的にしたPCR反応を行った。PCR反応液の組成は、Taq ポリメラーゼ(5ユニット/μl、宝酒造)1μl、反応用緩衝液(12mM トリス塩酸、60mM KCl、pH8.3)5μl、25mM MgCl2 2μl、鋳型DNA 100ng、dNTPs(100μM)5μlを混合し、上記のAPXFPとAPXRVをそれぞれ50pmolを加え、滅菌水を加えて合計の反応量を50μlとした。
反応装置は、ABI(Applied Biosystems Instrument)社製、Gene Amp PCR System 9700を使用し、94℃5分後、94℃30秒、55℃60秒、72℃60秒の反応を35サイクル行い、72℃5分間の伸長反応を補足した。
【0021】
増幅DNAの電気泳動は、コスモバイオ(株)製、ミューピッドIIを使用し、1.5%アガロースゲルで30分間泳動し、臭化エチジウムブロマイド染色後の紫外線照射によりバンドを検出した。
各品種から得たDNA断片(約0.75kb)をアガロースゲルごと切り出して QIAEX(キアゲン社)を用いてDNAを回収した。次に、回収したDNA断片をEasy T vector システム(プロメガ社)を用いてプラスミドに組み込み、大腸菌に導入した。
この大腸菌を増殖させた後、プラスミドを取り出して精製し、ABI社製、DNAシーケンサー PRISM377 を用いて塩基配列を決定した。各品種から数個のプラスミドを解析した結果、特徴的な配列を有するクローンAPX6nyl (配列表の配列番号8)、APX6ih2 (配列表の配列番号9)、APX6ih3 (配列表の配列番号10)等の複対立遺伝子を見出した。公開されているクローンAF158652と塩基配列を比較したところ、高い相同性があったものの、一部に異なる配列を有していた。APX6nyl は76bpの挿入があり(216番目から291番目)、またAPX6ih2 は94、95番目の位置にCGの挿入があるため、前後の配列(93〜98番目)が acgcgt となり、制限酵素 Mlu Iの認識部位であった。APX6ih3 とクローンAF158652は、挿入配列もなく、 Mlu Iの認識部位も存在しなかった。これらのことから、イチゴ品種は、これらの複対立遺伝子を組み合わせて持っていることが明らかとなった(表1)。
【0022】
【表1】
【0023】
試験例2(イチゴ品種識別用(PCR制限酵素断片長多型)マーカーの開発)
DNAデータベースからイチゴのカルコンイソメラーゼ(CHI)のDNA配列(AYO17486、AYO17478) を選択し、このDNA配列情報を参考にしてフォワードプライマー(CHIFP 、配列表の配列番号3)とリバースプライマー(CHIRV、配列表の配列番号4)を設計した。
設計したプライマーと、各品種から試験例1と同様にして抽出したDNAを鋳型に用いたPCR反応により、 CHI遺伝子及びイントロン部分を含む領域を増幅させた。得られたDNA断片をEasy T vector を用いてクローニングし、2個のクローン(CHIPvu II 、CHImain1) の塩基配列(前者が配列表の配列番号11、後者が配列番号12)を決定した。この配列は、公開されているAYO17486、AYO17478と高い相同性を有していた。しかし、複数の部位でDNA配列の異なる断片があった。
CHIPvu II は、111bp付近に制限酵素Pvu II認識部位を有していたが、CHImain1は、この付近にPvu II 認識部位を有していなかった。このことから、イチゴ品種の CHI 遺伝子については、Pvu II認識部位の有無が異なる対立遺伝子が存在することが明らかとなった。
【0024】
試験例3(イチゴ品種識別用(PCR制限酵素断片長多型)マーカーの開発)
DNAデータベースからイチゴのフラバノン3ヒドロキシラーゼ(F3H)のDNA配列(AOY17482、AOY17479) を選択し、このDNA配列情報を参考にしてフォワードプライマー(F3HFP、配列表の配列番号5、F3HFP2、配列表の配列番号6)とリバースプライマー(F3HRV 、配列表の配列番号7)を設計した。
設計したプライマーと、各品種から試験例1と同様にして抽出したDNAを鋳型に用いたPCR反応により、 F3H遺伝子及びイントロン部分を含む領域を増幅させた。得られたDNA断片をEasy T vector を用いてクローニングし、複数のクローンについて塩基配列を決定した。
得られたクローンF3HCesena1、F3HCesena2、F3HCesena3は、公開されているAOY17482、AOY17479と高い相同性を有していたが、複数の部位でDNA配列が異なっていた。
【0025】
AOY17482、AOY17479、F3HCesena1、F3HCesena2及びF3HCesena3の5個の F3Hの対立遺伝子間で配列の異なる部分を認識する制限酵素として、Nco I 、Acc I 、Hpa II、Dde I 、Rsa I などがあった。Cesena1 は、1個のAcc I 、Hpa II、Rsa I 、2個の Nco I、3個のDde I の認識部位があり、Cesena2 では、Hpa II の認識部位はなく、1個のAcc I 、Dde I 、 Nco I、Rsa I の認識部位があった。また、F3HCesena3は、1個のHpa II、 Nco I、Rsa I 、2個のAcc I 、3個のDde I の認識部位が確認された。AOY17482では、Acc I 、Rsa I の認識部位はなく、4個のDde I 、1個のHpa II、 Nco I の認識部位があった。AOY17479では、Rsa I の認識部位はなく、1個のAcc I 、Hpa II、 Nco I、3個のDde I の認識部位があった(表2)。イチゴ品種の F3H遺伝子については、複数の制限酵素認識部位の有無が異なる対立遺伝子が存在することが明らかとなった(表2)。
【0026】
【表2】
【0027】
実施例1(APX のPCR増幅DNA断片の制限酵素多型を用いたイチゴ品種の識別)
イチゴ14品種のガク又は葉より試験例1と同様の方法でDNAを抽出した。すなわち、乳鉢にイチゴのガク片約半分、DNA抽出溶液(100mM 酢酸ナトリウム、50mM エチレンジアミン二ナトリウム二水和物(EDTA)、0.5M 塩化ナトリウム、0.5%ポリビニルピロリドン(分子量40000)、1.4%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、pH5.5)200μL 、消泡剤1滴を加えてすりつぶし、さらにDNA抽出溶液400μlを添加し、遠心管に移した。65℃で10分間保温した後、遠心分離(10000rpm、10分間)を行って固形物を分離した。
【0028】
この上清600μlを新しい遠心管に移し、氷冷した5M 酢酸カリウム200μl(終濃度1.25M)を加え、氷中で10分間保冷する。遠心分離(15000rpm、4℃、10分間)後、上清750μlをとり、新しい遠心管に移し、同量のイソプロパノールを添加した。−85℃で10分間保冷後、遠心分離(15000rpm、4℃、10分間)した。上清を捨て、DNAを含む沈殿物にTE(10mM トリス塩酸、5mM EDTA、pH8.0)+リボヌクレアーゼ(RNase、終濃度0.1mg/ml)溶液150μlを添加し、55℃で10分間保温しRNAを分解した。
【0029】
洗浄バッファー(10mM トリス塩酸 pH7.5、1mM EDTA、塩化ナトリウム0.4M)で平衡化したDEAEセファッデクス混液200μlをRNase処理後の溶液に添加し、10分程度、ゆっくり混ぜた。ガラスウールを詰めたピペットチップをカラムにして混液をアプライし、排出した。(このとき排出が悪ければ、圧をかけて押し出す。)
次いで、200μlの洗浄バッファーを添加し、圧をかけ排出するという操作を2回繰り返す。カラムから完全にバッファーを排出し、カラムを新しい1.5ml遠心管に入れ、60℃に保温した溶出バッファー200μlを添加し、1分程度待ち、圧をかけて排出した。200μlのイソプロパノールを添加し、−85℃で10分間保冷後、遠心分離(15000rpm、4℃、10分間)した。上清を捨て、70%エタノール100μlを添加し、洗浄した。
遠心分離(15000rpm、4℃、10分間)後、上清を捨て、遠心管の蓋を開けて20分ほど乾燥させた。滅菌水40μlを添加し、軽くボルテックスした。55℃で10分間ほど保温し、スピンダウンして蓋についた液を集めた。得られた液10μlを泳動してDNAの有無を確かめた。
【0030】
APX マーカーを用いたイチゴ品種識別のため、以下の操作を行った。抽出したDNA(10〜100ng)5.0μl、APX 増幅用プライマー対(配列番号1及び2)それぞれ(50pmol)0.5μl、dNTPミックス4.0μl、PCR用10×バッファー5.0μl、Taq ポリメラーゼ5.0ユニット/μl(宝酒造)0.5μl、滅菌水34.5μlの合計50.0μlをPCRチューブに入れ、PCR機械(ABI社製、Gene Amp PCR System 9700) にセットして反応を開始した。
【0031】
PCR条件は次の通りである。
94℃で5分間反応後、94℃30秒、55℃60秒、72℃60秒の反応を35回繰り返し、72℃5分で伸長反応を補足した。PCR反応液50μlから10μlをとり、制限酵素10×反応バッファー2μl、制限酵素Mlu I 約10ユニット/分の合計20μlとなるように滅菌水で調整し、37℃で2〜3時間反応させてDNAを消化した。
制限酵素処理後の反応液10μlに6×ローディングバッファー2μlを添加し、エチジウムブロマイド入りの1.5%アガロースゲルのウエルに入れて、電気泳動を行った。電気泳動は、コスモバイオ(株)製、ミューピッドIIを使用して紫外線照射によりバンドを検出した。電気泳動後のアガロースゲルを紫外線下に移し、写真をとって品種間で多型を比較した(図1)。また、検出結果を表3にまとめた。図中の試料番号は、1:とよのか、2:女峰、3:とちおとめ、4:章姫、5:さちのか、6:アイベリー、7:レッドパール、8:濃姫、9:サンチーゴ、10: ピーストロ、11: アイストロ、12: べにほっぺ、13: けいきわせ、14: セセナを表す。
【0032】
【表3】
○はDNA断片(マーカー)を有する、×は有しないことを示す。
【0033】
実施例2(CHI-Pvu IIのPCR増幅DNA断片の制限酵素多型を用いたイチゴ品種の識別)
CHI-Pvu II マーカーを用いたこと以外は実施例1と同様にしてイチゴ品種の識別を行った。結果を図2と表4に示す。なお、表中の数字や記号は表3と同じである。
【0034】
【表4】
【0035】
図2及び表4から明らかなように、供試した14品種をマーカーの有無により2群に分けることができる。
【0036】
実施例3(F3H マーカーによるイチゴ品種の識別)
F3H の各 マーカーを用いたこと以外は実施例1と同様にしてイチゴ品種の識別を行った。すなわち、PCR用プライマーとPCR反応後に使用する制限酵素の種類の違いを除くとPCR反応液の組成、PCR条件及び検出操作は実施例1の場合と同様に実施した。その結果を図3(1)、(2)、(3)、(4)、(5)及び表5に示す。なお、表中の数字や記号は表3と同じである。
【0037】
【表5】
【0038】
表及び図から明らかなように、 F3Hマーカーの有無により、供試した14種の品種は分類される。すなわち、「とよのか」、「セセナ」の2品種が5種のマーカーを有し、「レッドパール」は F3H-NcoI 以外の4種、「ピーストロ」はF3H-DdeI以外の4種のマーカーを有していた。また、「さちのか」、「べにほっぺ」は F3H-HpaII、F3H-AccI及びF3H-DdeIの3種、「サンチーゴ」はF3H-AccI、F3H-DdeI及びF3H-RsaIの3種、「けいきわせ」はF3H-NcoI、F3H-AccI及びF3H-RsaIの3種のマーカーを有していた。「アイベリー」はF3H-AccI及びF3H-RsaIの2種、「章姫」は F3H-NcoI 及び F3H-AccI の2種、「濃姫」、「アイストロ」はF3H-AccIの1種、「女峰」はF3H-NcoIの1種を有しており、「とちおとめ」はどのマーカーも有していなかった。
【0039】
以上の結果より、実施例1〜3において各マーカーを組み合わせることによって、供試した14品種のイチゴはすべて識別することができることが分かる。
【0040】
【発明の効果】
本発明により、イチゴの種苗、果実等を試料として、栽培条件や保存条件などに左右されずに、イチゴ品種を正確に識別することができる方法が提供される。そのため、本発明によれば、多様な条件の下で栽培され、市場に流通しているイチゴ果実についても、その品種を正確に識別することが可能である。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 イチゴ品種間で検出されたAPX-Mlu Iマーカー多型の泳動写真である。
【符号の説明】
1は「とよのか」、2は「女峰」、3は「とちおとめ」、4は「章姫」、5は「さちのか」、6は「アイベリー」、7は「レッドパール」、8は「濃姫」、9は「サンチーゴ」、10は「ピーストロ」、11は「アイストロ」、12は「べにほっぺ」、13は「けいきわせ」、14は「セセナ」をそれぞれ示す。
【図2】 イチゴ品種間で検出されたCHI-Pvu II マーカー多型の泳動写真である。
【符号の説明】
図1と同じである。
【図3】 (1)はイチゴ品種間で検出されたF3H-Nco I マーカー多型、(2)はF3H-Hpa II マーカー多型、(3)はF3H-Acc I マーカー多型、(4)はF3H-Dde I マーカー多型、(5)はF3H-Rsa I マーカー多型のそれぞれの泳動写真である。
【符号の説明】
図1と同じである。
Claims (3)
- イチゴのガクを含む果実及び/又は葉より抽出したDNAを鋳型として、PCR法によってDNAを増幅し、増幅したDNAの多型及び増幅したDNAの制限酵素による消化で生じる多型を、配列番号8に係るイチゴアスコルビン酸ペルオキシダーゼ遺伝子断片の216番目から291番目に相当する挿入部位の有無、配列番号9に係るイチゴアスコルビン酸ペルオキシダーゼ遺伝子断片の93番目から98番目に相当する制限酵素 Mlu I 認識部位の有無、配列番号11に係るイチゴカルコンイソメラーゼ遺伝子断片の111番目から116番目に相当する制限酵素 Pvu II 認識部位の有無の中から選ばれた少なくとも1種の識別用DNAマーカーにより識別することを特徴とするイチゴの品種識別方法。
- PCR法において、配列番号1及び配列番号2、又は配列番号3及び配列番号4として記載されたプライマーの対を用いることを特徴とする請求項1記載のイチゴの品種識別方法。
- イチゴのガクを含む果実及び/又は葉より抽出したDNAを鋳型として、配列番号5又は6、及び配列番号7として記載されたプライマーの対を用いたPCR法によってDNAを増幅し、増幅したDNAを制限酵素 Nco I 、制限酵素 Acc I 、制限酵素 Hpa II 、制限酵素 Dde I 、又は制限酵素 Rsa I のうちの少なくとも1つから選択される制限酵素によって消化させることにより生じる多型を識別することを特徴とするイチゴの品種識別方法。
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