JP4169231B2 - ばね用高耐熱合金線、及びそれを用いた高耐熱合金ばね - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車エンジンや排気系統,あるいは加熱炉などの高温環境で好適に使用されるばね用高耐熱合金線、及びそれを用いた高耐熱合金ばねに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車に使用されるマフラーの排気ガスコントロールシステムとして、例えば図7に示すようにマフラー1に、その内部を3つの室10,11,12に隔離する隔壁と、送入と排出用の配管P1、P2と、例えば2本の戻し用の配管P3、P4とを設け、排ガスGが所定圧力に達した時に開閉するスプリング式可変バルブ2によって消音効果を向上しようとする2ウェイゾーンコントロールシステムがある。
【0003】
このシステムは、エンジンの回転が例えば低回転域(圧力弱)の時には図7(A)のように、前記バルブ2がスプリング3(例えばトーションばね)の力によって配管P3を閉鎖し、室11から排ガスを放出させることにより消音効果を高め、一方、高回転域(圧力強)に達した時には図7(B)に示すように、排ガスの圧力によって前記バルブ2を押し開けて配管P3を解放することで、2つの室11、12から放出し、排気抵抗を下げることで出力向上を図るものである。
【0004】
このようなマフラー1内を流れる排ガスは、エンジンで燃焼した極めて高い温度のまま放出されることから、ここで用いるスプリング3についても、例えば500℃を越えるような高温環境によってもばね特性の低下が起こらない材料が望まれる。
【0005】
その一例として、「ばね技術研究会・昭和62年度秋期講演会前刷集P29〜32」では、インコネル718(C:0.04,Cr:18.5,Al:0.6,Ti:0.9,Nb+Ta:5,Mo:2.9,Fe:17.8,Ni:残)の合金線について温度450〜500℃での耐熱特性試験結果が述べられ、従来のインコネルX750からなるばねと比して、耐熱性が500℃で約2倍程度向上したとしている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、近年の各種機器類はさらに高性能化が求められ、例えば前記自動車のエンジンや排気系統に使用される高温ばね製品においても、実質的にばね特性や機械的強度を損なうことなくこれまで以上の環境温度(例えば600〜800℃)に耐える耐熱性が求められるに至り、従来の前記耐熱材料などでは使用し難い。
【0007】
例えば図5に、従来の高温耐熱合金として前記インコネル718の合金線の環境温度500℃〜750℃における耐熱特性の変化を引張強さの減少率(%)として破線で示しており、温度上昇に伴ってその低下が見られ、500℃では常温時の83%程度の強度を備えていたものが,600℃では80%に、また750℃に至っては同60%程度と急激に低下している。このように耐熱性に優れるとされるインコネル×750は、限界温度をこえて使用されるときには大巾に特性を低下させる。
【0008】
したがって、このような材料では例えば600℃を越えるような高い温度範囲での使用を避けるため、例えば装置自体の出力性能を抑制し、あるいは他の冷却装置を附属させるなどの手段を講じる必要があって、コストアップ装置大型化などを惹起する。
【0009】
特にばね製品は、各種装置に組み込まれその装置の働きを直接的に発揮させるものであることから、ばね自体の特性の良否は直接的に装置自体の性能や寿命,安全性を大きく左右する。
【0010】
したがって所定のばね発生力を持つばね製品を設計する場合には、コイリング形状や寸法の他、用いる線材の太さ,材質,引張り強さ,耐力,弾性係数など多くの因子とともに、特に前記のような高温環境で使用する場合には、熱による“ばねへたり”をいかに抑制するかということが、必要線径に加工できる伸線加工性、コイリング加工性とともに重要となる。
【0011】
一方、耐熱用金属材料に関する規格として、JIS−G4901では『耐食耐熱超合金棒』が、また同G4902では『耐食耐熱超合金板』がそれぞれ規定されているが、ここで対象とするものは棒や板などの形態で寸法的に大きなものであり、強度をあまり必要としないもの、例えば軸受や鋳造鍛造品などを対象としている。
【0012】
したがって、その引張り強さが例えば1000N/mm2 以下と軟質仕上げであり、かつその製造方法についても、例えば鋼種NCF718の場合には、925〜1010℃での固溶化熱処理後に、(705〜730℃)×8Hrの保持、および(610〜630℃)の炉冷という二段階の時効温度で処理し、総時効処理時間は18時間にも及ぶことが示されている。
【0013】
このように前記規格のこれらの耐熱合金には、600℃を越えるような高い環境温度下で優れたばね特性を備えたばね材料はなく、また二段階の時効熱処理で長時間を要することから生産性にも劣る。
【0014】
本発明は、高強度かつ、高い温度に耐える耐熱性を備えたばね用高耐熱合金線、及びそれを用いた高耐熱合金ばねを提供するものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
すなわち請求項1に係る発明は、重量%で、C:0.1%以下,Cr:18.0〜21.0%,Co:12.0〜15.0%,Mo:3.5〜5.0%,Ti:2.0〜4.0%と、Al:1.0〜3.0%、Zr:0.02〜0.12%を含み、残部実質的にNiで構成したNi合金線であって、
該Ni合金線は、冷間伸線加工を行うことにより、結晶粒度(JISG0551)がその長手方向に伸びた5〜10の加工オーステナイト組織、表面粗さRzを0.5〜10μm、かつ線径を5mm以下、引張り強さを1500〜2000MPaとするとともに、
前記Ni合金線には前記冷間伸線加工に際してNiメッキを施すことを特徴とするばね用高耐熱合金線である。
【0016】
なお請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明に加えて、組成にはさらにB:0.002〜0.01%を含んでいる。
【0017】
また請求項3に係る発明は、前記合金線は、次式に示すA値が4.6〜6.0である請求項1又は2に記載のばね用高耐熱合金線。
A=2Al+Ti−4C
【0018】
請求項4に係る発明は、前記Ni合金線は、自動車マフラーにおいて排気ガスの流出を開閉する排気ガス弁開閉用の排気ガス弁開閉ばねとして用いられることを特徴とする。
【0019】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の前記ばね用高耐熱Ni合金線にコイリング加工とともに少なくとも時効熱処理を施すことにより、環境温度600℃での残留剪断ひずみ率が0.1%以下であることを特徴とする高耐熱合金ばねである。
【0020】
そしてまたばね用高耐熱合金線は、前記Ni合金線を所定形状にコイリング加工した後、さらに温度650〜850℃での時効一段熱処理を行うこともできる。
【0021】
【発明の実施の形態】
このように本発明の高耐熱Ni合金線は、Niを主体に、各重量%において、C:0.1%以下,Cr:18.0〜21.0%,Co,12.0〜15.0%,Mo:3.5〜5.0%,Ti:2.0〜4.0%と、Al:1.0〜3.0%、Zr:0.02〜0.12%を含有するNi合金を基本組成とし、その他Bを第三元素を必要に応じて添加することができ、またやむを得ず含まれるその他の不可避的不純物までは制限しない。
【0022】
このような組成のNi合金線において、本発明では、冷間伸線加工によって該合金線の結晶粒度がその長手方向に伸びた5〜10の加工オーステナイト組織で、かつ表面粗さRzが0.5〜10μmとなる線径5.0mm以下(例えば0.1〜4.0mm程度)の線材としている。
【0023】
前記合金線でその結晶粒度と表面粗さを各々前記範囲に設定する理由は、伸線加工やコイリング加工での作業安定化と、かつばね製品の高温環境における熱へたり率を抑制することに基づく。
【0024】
例えば従来から広く使用されているばね用線材として、JIS−G4314で規定される“ばね用ステンレス鋼線”やその他種々のものなどがあるが、その多くは、主として冷間での伸線加工による加工硬化によってばねとしての必要強度を持たせるようにしており、この為、前記ばね用ステンレス鋼線では例えば70〜98%にも及ぶような大きな加工率で行われている。
【0025】
その結果、加工後の鋼線内部の結晶組織はきわめて緻密な繊維構造となり、結晶粒の大きさも算定困難なほど微細化(10以上)したものとなっている。すなわちこれまでの一般的なばね用線は、大きな強度を備える線材とする為にその結晶組織をできるだけ微細な繊維組織にすることによって得ようとするものであり、その為に前記大きな加工率が付与されている。
【0026】
しかしながら、本発明が対象とする前記組成のNi合金線はステンレス鋼などと比べて剛性がきわめて大きく、伸線加工やコイリング加工時に作業歩留まりを低下させ易いという欠点があり、また仮に大きな加工率によって高強度ばねが得られたとしても、これを前記したような高温環境下にセットした場合には、熱へたりによってばねとしての機能を低下させることが判明した。またその程度は、大きな加工率で伸線加工し結晶粒度を微小にしたもの程、へたり率が大きくなるという傾向が見られた。
【0027】
そこでさらに検討進めた結果、耐熱高温ばね材料としての結晶粒度は5〜10の加工オーステナイト組織とすることが好ましいとの結論に至った。
【0028】
その結晶組織の一例として、図1に本発明に係わるNi合金線の一実施の形態の結晶組織(結晶長さ方向である縦断面)を示す組織写真による断面図(100倍)を示す。この写真に見るように、全体的に線長さ方向(左右方向)に伸ばされ加工すべりを伴った加工オーステナイト組織となっている。また図2はこのNi合金線を温度800℃×4時間で時効処理した組織写真による断面図である。これに対して図3は、高加工を施す従来の前記バネ用ステンレス鋼線(SUS304−WPB)の縦断面組織を同様に示す組織写真の断面図であって、この両写真を比較しても、組織構造や結晶粒度の差異は明らかである。
【0029】
なおこのように伸ばされた加工オーステナイト組織から結晶粒度を求めるには、JIS−G0551に示されるように、所定面積の視野内に存在する結晶数で換算し、あるいは一結晶当たりの平均断面積から算定する。画像解析などを利用して比較的容易に求めることができる。なお本発明では、前記結晶粒度は線の縦断面における大きさでもって規定することとする。
【0030】
結晶粒度が5未満のような粗大組織とした場合には、所定のばね強度を備えたものとはならず、一方、10を上回るような微細組織としたものでは前記熱へたりが大きくなるばかりか、合金線の製造やコイリング加工での歩留まり低下の一因ともなり、より好ましくは6〜8とする。
【0031】
また本発明では、冷間での前記伸線加工とともにその後の時効熱処理によって所定のばね特性を備えた5.0mm以下のばね用線とする為に、特に前記各組成の配合比率である(A=2Al+Ti−4C)の算式によるA値が、4.6〜6.0としたもの、好ましくは実施例に記載のごとく、最大を5.31、即ち4.6〜5.31の範囲とすることもできる。かかる範囲に調整することにより、時効熱処理でのγ’相による析出効果と伸線加工性とをバランスさせることができる。
【0032】
つぎに表面粗さについて、ばね成形するコイリング加工は、通常、ノズルから線材を押出しながら成形ピンに押付けることで行われ、この場合、線とピンとの間の摩擦を少なくする為に線表面には予め潤滑剤が付与される。この潤滑剤としては、例えば伸線潤滑剤として知られるステアリン酸カルシウム、硫酸ナトリウム,硫酸カリウム,石灰など各種潤滑剤の他、Ni、Cuなどの金属メッキ、あるいはその他の樹脂皮膜や無機皮膜などと併用し用いることができる。
【0033】
前記Ni合金線である本発明においては、線表面にNiメッキを施しさらにその表面に公知の水溶性皮膜を被覆する。またステアリン酸カルシウムを補助潤滑剤として用いて加工することが好ましく、この場合、潤滑剤は線表面の凹部に入り込むことで潤滑性が高められる。そして、前記ノズルの目詰まりなどのトラブルを未然に防ぎ適量の潤滑剤を線に存在させる為には、線の表面粗さRzを0.5〜10μmとすることが望まれる。
【0034】
又表面粗さは仕上げられる線の線径や加工率,使用ダイスの種類等によって異なり、例えば、Ni合金線をダイヤモンドダイスによる冷間伸線で得ようとする場合の表面粗さRzは、その線径が0.1〜1mm程度のものでは概ねRz0.5〜4μm程度とし、それを越える線径にあっては、0.8〜8μm程度の表面粗さとなり、一方合金ダイスによる一例として、線径が0.5mmを越える場合には1.4〜10μm程度と、前記ダイヤモンドダイスの場合よりやや大きくなる傾向がある。
【0035】
なおここで表面粗さRzとは、JISB0601に規定される方法で求めた10点の平均粗さを示すものであって、この範囲とすることによって、前記伸線潤滑剤等の巻き込みを高めて良好なすべり性が得られ、コイリング性並びに表面性状を向上させて製品価値を高めることに寄与する。すなわち、表面粗さが0.5μmより小さい場合には前記潤滑剤の巻き込み量が少なくなって潤滑不良を起こすこととなり、他方、10μmより大きいものでは表面性状を低下させるとともに、潤滑剤の過供給となってノズル目詰まりを助長する原因となる。
【0036】
このような特性をうるための前記組成のNi合金線の冷間での伸線加工(加工率40〜70%,好ましくは40〜60%)の前の軟化熱処理において、線の結晶粒度を4〜6程度に粗大化しておくことが好ましい。
【0037】
また、前記冷間伸線により細径化されたNi合金線の引張り強さについては、ばねでの熱へたり率が比較的少ない範囲となる、時効熱処理後の引張り強さが例えば1600〜2300MPaとなるよう、1300〜2200MPa、本発明においては1500〜2000MPaとしている。
【0038】
かくして、本合金線は所定ばねとしてコイリング加工され、さらに時効熱処理を付与することでばね製品となる。時効熱処理としては、従来の二段階熱処理に換え、大気雰囲気中での例えば温度650〜850℃(好ましくは700〜800℃),時間0.5〜8Hr(好ましくは2〜4Hr)の範囲内での一段熱処理によって簡易的に行うことができる。
【0039】
前記JIS規格G−4901でも説明したように、従来の耐熱合金(Ni合金)ではその殆どを二段階の時効熱処理で行い、処理時間も長時間に及ぶものであったが、本発明の実施により、高い耐熱温度のバネ製品を効率よく生産することができる。
【0040】
また、このように処理されたばね製品は、熱へたり率が小さくすることができ、その特性として環境温度700℃での残留剪断ひずみ率を0.3%以下としている。
【0041】
熱へたり率とは、コイリング後時効処理を行ったばねについて、所定の応力(例えば40Kgf/mm2 )に相当する高さまで圧縮して、所定の試験温度と時間(例えば600℃で96時間)加熱した後冷却する試験を行う。この試験の前後で所定の高さでばねの荷重試験を行い、その荷重の差を試験前の荷重で除したものを百分率で示したものであるが、その値は例えばコイル形状などによっても左右されるものであることから、標準的な要因となりにくい。
【0042】
そこで本発明では、この熱へたり率に代えて残留剪断ひずみ率を用いることとする。残留剪断ひずみ率とは、前記熱へたり試験での荷重損失を、その時の線材にかかるねじり応力の損失に換算し、この値を線の横弾性係数で除して百分率で表すものであり、次式に示す算式で求めることができる。なお、実施例の[表3]、段落[0060]〜[0062]、[0066]に記載のように、ばね用高耐熱合金線にコイリング加工とともに少なくとも時効熱処理を施すことにより、環境温度600℃での残留剪断ひずみ率が0.1%以下とする。
残留剪断ひずみ率={8△PD/πd3 G}×100
但し、 △P:荷重損失(N)
D :ばねの中心径(mm)
d :線材の径
G :線材の横弾性係数(N/mm2 )
【0043】
また本発明では、前記したように合金線表面にNiメッキを施すことができ、その後のコイリング加工での潤滑剤として作用するが、この場合、該Niメッキ層とNi合金線との間には相互拡散によって断面方向になだらかなNi濃度の勾配を形成させ、密着性を高めることもできる。
【0044】
次に前記合金線における各元素について、Cは、加工に伴って強度を高め強いばね材料を提供できるが、多量の添加は耐食性を低下させることからその上限を0.1%とした。
【0045】
Crは、耐高温酸化性、耐高温腐食性を向上させる元素であるが、過剰の添加は熱間及び冷間加工性を減少させるために、これらの加工性を損なわない範囲にする為に18.0〜21.0%、好ましくは18.5〜20.0%とする
【0046】
Coは合金中に固溶し材料を強化させるとともに耐熱性を向上できるが、非常に高価な元素である為、多量の添加は材料費を高め好ましくなく、よって12.0〜15.0%の範囲とした。
【0047】
Moは、材料の固溶強化に有効であるが、多量の添加はσ相などを生成して延性を低下させ、冷間加工性を損なう原因となる為、3.5〜5.0%とした。
【0048】
Alは、Niと結合してNi3Alを基本とするγ’相を析出させ、またTiはAlと置換してγ’相に固溶する。このγ’相の析出により材料の強化が図られるが、これら添加量が少ない場合にはγ’相の析出が十分ではなく、目標とする高温強度が得られない。また多量の添加は熱間加工性を阻害して原材料歩留まりを低下し、材料費コストアップの要因となることから、Alは1.0〜3.0%(好ましくは1.0〜1.5%)、Tiは2.0〜4.0%(好ましくは2.75〜3.25%)とした。
【0049】
また他の第三元素の一例として、材料のクリープ破断強度を高める為に、Zr、又はZrとBとを添加している。この場合、これら元素の過剰の添加は熱間加工性を低下させることから好ましくなく、Bは0.002〜0.01%、またZrは0.02〜0.12%としている。
【0050】
このような組成を持つ本発明のばね用高耐熱合金線は、コイル形状やトーション形状など各種形状のばね製品として利用されるものであって、コイリング加工によって所定形状に成形し、さらに前記時効熱処理を施すことで目的のばね製品が製造される。
【0051】
以下、本発明の合金線、ばね、製造方法の実施例を説明する。
表1に示す本発明の実施例品5種(実施例品1〜5)と、比較例品2種(比較例品1、2)について、真空誘導炉溶解と熱間圧延とを経て線径5.5mmの線材ロッドを得た。
【0052】
【表1】
【0053】
(伸線加工)
つぎに、連続伸線と固溶化熱処理とを行い、2.8mmと2.4mmの中間軟質線材をそれぞれ得た。そしてこの軟質線材に厚さ5μmのNiメッキ及びステアリン酸カルシウムを補助潤滑剤として付与し冷間仕上げ伸線によって線径1.8mmのNi合金線とした。
【0054】
この時の加工率は、実施例品1では43%、58%、75%であり、他の実施例品2〜5は43%、58%であり試料No.にa、b乃至a、b、cを付している。その特性を表2にまとめて示す。なお、比較合金については、従来の最適な条件で処理している。
【0055】
【表2】
【0056】
(予備試験)
コイリング及び時効熱処理の試験を行うに先立ち、このNi合金線の特性を把握する為に試料(1a)について時効温度による引張り強さと耐力の変化を見ることとし、温度600〜850℃範囲で処理した結果を図4に示す。
【0057】
この結果から、温度700℃で時効処理した場合、引張強さも耐力も各最大となり、また耐力比も約97%となったが、さらにより高い温度で処理した場合には除々に低下し、800℃を越えた場合には耐力比はやや大きく低下した。
【0058】
次に、時効熱処理の温度として700℃と800℃を設定し、処理した合金線について所定環境温度における引張り強さ減少率の変化を見ることとした。試験は前記1aと比較例品1のインコネル合金線について行ない、その結果の一例を図5に示す。
【0059】
この結果から明らかなように、比較例品では温度750℃において60%の引張強さ低下が見られたのに対し、実施例品は75%にとどまり高い環境温度に適することが分かる。
【0060】
(本試験・コイリング/時効熱処理)
上記で得た各試験結果から、ばね製品での特性を評価する為に、さらに実施例品1、2、及び比較例品1、2の4種類の合金線について、コイル平均径8mmの圧縮コイルばねを成形するコイリング性評価と時効熱処理によるばねのへたり特性を評価することとした。
【0061】
コイリング試験においてはいずれの試料も問題なく作業することができたが、ばねへたり特性において大きな差が見られた。
【0062】
なおこの時の時効処理条件としては、前記結果から実施例品については温度700と800℃における各一段時効熱処理とし、一方、比較例品1については所定の最適時効温度での一段時効熱処理条件で行うこととし、それぞれ4時間保持したものである。
【0063】
へたりを評価する試験として、前記の処理を行ったばねについて締付応力40Kgf/mm2 に相当する応力まで圧縮して、600,650,700℃の温度でそれぞれ96時間加熱後空冷した。そして試験前の応力30Kgf/mm2 に相当する高さにて試験の前後に荷重試験を行った。その荷重の結果より熱へたり率,残留剪断ひずみ率を算出した。
【0064】
なお本例では、残留剪断歪み率の算出における横弾性係数Gは、本発明合金線では7950Kgf/mm2 を、また比較合金線は8200Kgf/mm2 の値を用いた。その結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
この結果に見られるように実施例品のばねのへたり率は、比較例品ばねのへたり率に比べて小さく好ましいものであった。また、残留剪断ひずみ率についても本発明合金のものはいづれも0.10%以下と小であったのに対して、比較例品のばねでは0.13%と大きくなり、同様に環境温度を700℃とした時の残留剪断歪み率についても、図6に示すように実施例品1aが0.17%であったのに対して、比較例品1によるものでは0.32%と約2倍の違いが見られ、実施例品が優れていることが分かる。
【0067】
このように実施例品はいづれも、伸線加工性,コイリング加工性及びばね特性に優れ、600℃以上の環境温度において高い耐熱性を備えることが確認された。
【0068】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明は、環境温度600℃以上の使用において熱へたりが小さく優れた耐熱性を備えるとともに、伸線加工での加工率を比較的少ない範囲とするばね用高耐熱合金線とそのばね用高耐熱合金線を用いた高耐熱合金ばねとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の合金線の一実施の形態を示す結晶長さ方向の顕微鏡写真に基づく断面図である。
【図2】図1の合金線に特効処理を施した場合の断面図である。
【図3】従来のバネ用ステンレス鋼線の断面図である。
【図4】時効熱処理温度に伴う特性の変化を示す線図である。
【図5】環境試験温度における引張強さの変化を示す線図である。
【図6】環境試験温度における残留剪断ひずみの変化を示す線図である。
【図7】(A)、(B)はバネを自動車マフラー内の排気ガス開閉器に使用した場合を例示する斜視図である。
【符号の説明】
3 ばね
Claims (5)
- 重量%で、C:0.1%以下,Cr:18.0〜21.0%,Co:12.0〜15.0%,Mo:3.5〜5.0%,Ti:2.0〜4.0%と、Al:1.0〜3.0%、Zr:0.02〜0.12%を含み、残部実質的にNiで構成したNi合金線であって、
該Ni合金線は、冷間伸線加工を行うことにより、結晶粒度(JISG0551)がその長手方向に伸びた5〜10の加工オーステナイト組織、表面粗さRzを0.5〜10μm、かつ線径を5mm以下、引張り強さを1500〜2000MPaとするとともに、
前記Ni合金線には前記冷間伸線加工に際してNiメッキを施すことを特徴とするばね用高耐熱合金線。 - 重量%で、C:0.1%以下,Cr:18.0〜21.0%,Co:12.0〜15.0%,Mo:3.5〜5.0%,Ti:2.0〜4.0%、Al:1.0〜3.0%、Zr:0.02〜0.12%、B:0.002〜0.01%を含み、残部実質的にNiで構成したNi合金線であって、
該Ni合金線は、冷間伸線加工を行うことにより、結晶粒度(JISG0551)がその長手方向に伸びた5〜10の加工オーステナイト組織、表面粗さRzを0.5〜10μm、かつ線径を5mm以下、引張り強さを1500〜2000MPaとするとともに、
前記Ni合金線には前記冷間伸線加工に際してNiメッキを施すことを特徴とするばね用高耐熱合金線。 - 前記合金線は、次式に示すA値が4.6〜6.0である請求項1又は2に記載のばね用高耐熱合金線。
A=2Al+Ti−4C - 前記Ni合金線は、自動車マフラーにおいて排気ガスの流出を開閉する排気ガス弁開閉用の排気ガス弁開閉ばねとして用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のばね用高耐熱合金線。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のばね用高耐熱合金線にコイリング加工とともに少なくとも時効熱処理を施すことにより、環境温度600℃での残留剪断ひずみ率が0.1%以下であることを特徴とする高耐熱合金ばね。
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JP16157499A JP4169231B2 (ja) | 1999-06-08 | 1999-06-08 | ばね用高耐熱合金線、及びそれを用いた高耐熱合金ばね |
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JP16157499A JP4169231B2 (ja) | 1999-06-08 | 1999-06-08 | ばね用高耐熱合金線、及びそれを用いた高耐熱合金ばね |
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