JP4168646B2 - 4,4’−(1−フェニルエチリデン)ビスフェノールの製造方法 - Google Patents
4,4’−(1−フェニルエチリデン)ビスフェノールの製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アセトフェノンとフェノールとを反応させて、4,4'−(1−フェニルエチリデン) ビスフェノール (以下、ビスフェノールAPと略称する)を製造する方法に関する。
【0002】
ビスフェノールAPは、ポリカーボネート、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリスルホン、ポリアリレート等の原料として、ならびに感熱紙用顕色剤の中間体として有用である。特に、ビスフェノールAPを原料とするエポキシ樹脂、ポリスルホン等は、そのほとんどが電子材料として使用されている。
【0003】
【従来の技術】
アセトフェノン1モルとフェノール2モルとの縮合反応によりビスフェノールAPを製造する公知の方法として、
(1)塩化水素とメチルメルカプタンを触媒として、75℃、3日間の反応により、収率86%でビスフェノールAPを得る方法(イタリア特許第685,536 号)、
(2)塩化水素と塩化亜鉛を触媒として、60℃、2日間の反応により、アセトフェノン転化率92%、収率84.6%でビスフェノールAPを得る方法(特開昭61−33136 号公報)、
(3)塩化水素、塩化亜鉛およびブチルメルカプタンを触媒として、50℃、6時間の反応により、アセトフェノン転化率96.5%、収率87.6%でビスフェノールAPを得る方法(特開平2−196746号公報)、等がある。
【0004】
上記(1)および(3)によれば、触媒の塩化水素は、塩化水素ガスを予め反応液中に吹き込んで溶解させた後、反応を行う。上記(2)には、塩化水素の供給法についての記載はない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これらの公知の方法は、アセトフェノンの低い反応性を高めるため、触媒として塩化水素とメルカプタン類および/または塩化亜鉛との組合わせを利用して反応速度を高めることを図ったものである。しかし、上記(1)および(2)の方法は、触媒による反応促進効果が不十分であり、反応に長時間を要するので、工業的実施には適していない。
【0006】
現在、ビスフェノールAPの多くが、電子材料用途に使用されるフォトレジスト原料 (添加剤) として需要が伸びている。そのため、ビスフェノールAPには、金属濃度が0.5 ppm 以下であることが求められている。露光硬化した樹脂に金属分があると、プラズマでエッチングする際、エッチングした基盤にスカムが残りやすく、回路不要要因となるためである。触媒として塩化亜鉛等の金属化合物を使用した場合には、製造されたビスフェノールAPの金属濃度を0.5 ppm 以下にするため、脱金属工程を追加する必要があるが、工数増加は工業的なビスフェノールAPの製造方法にとっては不利である。
【0007】
この理由から、上記(3)の方法は、触媒による反応促進効果は十分に高いものの、触媒として塩化亜鉛を用いるため、脱金属工程の追加が必要となり、工業的に満足できる方法とは言えない。(2)の方法も、触媒として塩化亜鉛を用いているので、同じことがいえる。
【0008】
本発明の課題は、触媒として塩化亜鉛等の金属化合物を使用せずに、アセトフェノンとフェノールとの縮合反応によりビスフェノールAPを効率よく (即ち、短い反応時間および高い収率で) 製造できる、ビスフェノールAPの工業的製造に適した方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、触媒として、金属化合物を使用せずに、ブチルメルカプタンおよび塩化水素を使用した場合、アセトフェノンとフェノールとの縮合反応を塩化水素ガス加圧下で実施することにより反応時間が著しく短縮され、塩化亜鉛を触媒として使用しなくても、工業化に適した反応時間で収率よくビスフェノールAPを製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
ここに、本発明は、アセトフェノンとフェノールとを反応させてビスフェノールAPを製造する方法において、触媒としてメルカプト基を有する有機化合物と塩化水素とを使用し、塩化水素ガス加圧下で反応させることを特徴とする、ビスフェノールAPの製造方法である。
【0011】
本発明の方法において、塩化亜鉛等の金属化合物を触媒として使用しなくても上記の縮合反応が著しく促進される理由は解明されていないが、塩化水素ガス加圧下での反応により、触媒の塩化水素が反応の間ずっと反応液中に溶け込んだ状態に保持されることが反応促進に寄与しているのではないかと推測される。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の方法において原料として用いるアセトフェノンは、蒸留精製したものに限らず、キュメン法フェノールプロセスにおいて蒸留塔底液から得られる粗アセトフェノンも使用できる。
【0013】
フェノールは、タール等から分留したものでも、合成品でもよい。触媒成分のうち、塩化水素は、本発明では加圧の目的にも使用するので、無水塩化水素ガスを使用することが好ましい。
【0014】
塩化水素と共に用いる触媒としては、ブチルメルカプタンがある。
【0015】
アセトフェノン1モルに対してフェノール2モルが反応するので、フェノールの使用量は、化学量論的には、この割合でよい。しかし、アセトフェノンとフェノールとの反応は、普通にはフェノールを溶媒としても作用させ、無溶媒で行う。そのため、フェノールを大過剰に使用することも可能である。フェノールの使用量は、アセトフェノンに対して、好ましくは2〜20倍モルであり、より好ましくは6〜15倍モルである。フェノールの量が2倍モルより少ないと、副反応が多く生ずる上、反応の進行につれて反応液の粘性が高まり、攪拌困難となる。フェノールの量が多すぎると、反応効率が悪化して生産性が悪くなる。
【0016】
本発明では、触媒の塩化水素ガスは、反応器内を塩化水素ガスの加圧雰囲気に保持するようにして使用する。十分な反応速度を得るには、アセトフェノン1モルに対して0.15モル以上の塩化水素を使用することが好ましい。塩化水素の使用量の上限は特に規定されない。
【0017】
ブチルメルカプタンの使用量は、アセトフェノン1モルに対して0.01〜0.2 モルの量とすることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.15モルである。
【0018】
反応圧力は大気圧より高ければよいが、ゲージ圧で好ましくは0.01〜4 MPa 、より好ましくは0.05〜0.2 MPa である。反応圧力が常圧であると、上記▲1▼の従来技術のように、反応の進行が非常に遅くなる。この加圧の反応圧力は塩化水素ガスによりもたらされるが、塩化水素ガスがこの圧力の全圧を構成している必要はない。例えば、大気雰囲気の耐圧容器に塩化水素ガスを圧入することによって塩化水素ガスの加圧雰囲気としてもよく、或いは耐圧容器内の雰囲気を塩化水素ガスで置換してからさらに塩化水素ガスで加圧してもよい。
【0019】
反応はフェノールが液体となる温度で行うことが好ましい。反応温度は好ましくは40〜80℃、より好ましくは、50〜60℃である。反応温度が高すぎると、副生成物が増加し、ビスフェノールAPの収率が低下する。
【0020】
反応時間は、反応圧力、塩化水素およびブチルメルカプタンの量、反応温度等の条件にもよるが、2〜24時間である。本発明のビスフェノールAPの製造方法は、回分式および連続式のいずれの方式で実施することもできる。次に回分式の場合の手順の例を説明するが、反応手順はこれに限られるものではない。
【0021】
原料のフェノールとアセトフェノン、および触媒のブチルメルカプタンをそれぞれ所定量ずつ耐圧容器に仕込み、攪拌しながら所定の反応温度に加熱して、フェノールを融解させ、反応液を形成する。次に、反応液を所定の温度に保持して攪拌しながら、塩化水素ガスを所定圧力になるまで耐圧容器に投入する。塩化水素ガスを投入する前に、耐圧容器内の雰囲気を塩化水素ガスに置換してもよい。塩化水素ガスは、必ずしも容器内の液中に吹き込む必要はなく、上部空間に投入してよい。その場合、攪拌が十分であれば、塩化水素ガスは反応液中によく溶解するので、十分な反応速度を得ることができる。攪拌速度を、十分な反応速度が得られるように強めてよい。こうして塩化水素ガスの加圧雰囲気を保持しながら、反応液を所定の反応温度で攪拌して反応を行う。
【0022】
反応終了後、未反応のフェノールが固化しないうちに反応液を耐圧容器から取り出す。反応液から、例えば、水洗後に油層を蒸留して未反応のフェノールを回収した後、残渣を再結晶することによって、生成物のビスフェノールAPを回収することができる。必要により、生成物を常法に従って、再結晶、抽出、クロマトグラフィー処理等により精製してもよい。本発明の方法では、反応に金属化合物を使用しないため、脱金属処理を行わずに金属濃度が0.5 ppm 以下のビスフェノールAPを得ることができる。
【0023】
【実施例】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例中、アセトフェノン転化率(%)とビスフェノールAPの収率(%)は、HPLCによる反応液の分析結果を用いて、次式に従って算出した:
アセトフェノン転化率(%)
= (反応したアセトフェノン量/仕込みアセトフェノン量)×100
ビスフェノールAP収率(%)
= (生成ビスフェノールAPモル量/仕込みアセトフェノンモル量)×100
【0025】
【実施例1】
温度計と攪拌機を備えた1L ガラスオートクレーブに、アセトフェノン48.1 g (0.4 mol)、フェノール451.1 g (4.8 mol) 、およびブチルメルカプタン2.84 g (0.032 mol)を仕込み、ゆっくり攪拌しながら加熱して、57℃に保持した。次に、攪拌速度を740 rpm に上げ、吹き込みノズルを使用せずに塩化水素ガス5.1 g (0.14 mol)を投入して、内圧を0.08 MPaにした。この状態で6時間反応させた。反応液を分析したところ、アセトフェノン転化率85.0%、ビスフェノールAP収率74.1%であった。ICP発光分析による金属濃度はNa:0.11ppm 、Fe:0.24ppm であった。
【0026】
【実施例2】
実施例1と同じ反応容器に、アセトフェノン48.1 g (0.4 mol )、フェノール376.4 g (4.0 mol) 、およびブチルメルカプタン2.84 g (0.032 mol )を仕込み、ゆっくり攪拌しながら加熱して、57℃に保持した。次に、攪拌速度を700 rpm に上げ、吹き込みノズルを使用せずに、塩化水素ガス3.4 g (0.092 mol) を投入して、内圧を0.08MPa にした。この状態で7.7 時間反応させた。反応液を分析したところ、アセトフェノン転化率83.1%、ビスフェノールAP収率73.1%であった。ICP発光分析による金属濃度はNa:0.18ppm 、Fe:0.31ppm であった。
【0027】
【比較例1】
温度計、攪拌機、ガス吹き込みノズルおよび還流冷却器を備えた1L 丸底フラスコに、実施例1と同量のアセトフェノン、フェノールおよびブチルメルカプタンを仕込み、ゆっくり攪拌しながら加熱して、57℃に保持した。次に、吹き込みノズルを使用して塩化水素ガス5.1 g を反応液に吹込み、溶解させた。この状態で6時間反応させた。反応液を分析したところ、アセトフェノン転化率48.0%、ビスフェノールAP収率40.2%であった。
【0028】
【比較例2】
比較例1と同様の反応容器に、実施例2と同量のアセトフェノン、フェノールおよびブチルメルカプタンを仕込み、ゆっくり攪拌しながら加熱して、57℃に保持した。次に、吹き込みノズルを使用して塩化水素ガス3.4 g を反応液に吹込み、溶解させた。この状態で8時間反応させた。反応液を分析したところ、アセトフェノン転化率43.7%、ビスフェノールAP収率32.4%であった。
【0029】
実施例1、2の結果と比較例1、2の結果をそれぞれ対比すると明らかなように、反応液の組成が全く同じでも、従来技術に従って塩化水素ガスを予め液中に溶解させておく比較例1、2に比べて、耐圧容器を用いて塩化水素ガスの加圧雰囲気を保持した実施例1、2では、アセトフェノンの転化率とビスフェノールAPの収率のいずれも、同じ反応温度および時間で比較して、著しく向上した。その結果、本発明により、塩化亜鉛といった金属化合物を触媒として使用せずに、工業的実施に適した反応時間で、ビスフェノールAPを収率よく製造することが可能となった。
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、アセトフェノンとフェノールとの反応によるビスフェノールAPの製造において、触媒としてブチルメルカプタンと塩化水素だけを使用し、塩化亜鉛等の金属化合物を使用せずに、工業的実施に適した短かい反応時間で収率よく、目的とするビスフェノールAPを製造することが可能となる。
【0031】
得られたビスフェノールAPは金属を含有しておらず、金属濃度が0.5 ppm 以下という、ビスフェノールAPに要求される純度を満たしている。従って、触媒として塩化亜鉛を使用した場合に必要となる脱金属工程が不要となるので、本発明の方法は、少ない工程数で金属濃度0.5 ppm 以下のビスフェノールAPを効率よく製造できる方法として工業的意義がある。
Claims (1)
- アセトフェノンとフェノールとを反応させて4,4'−(1−フェニルエチリデン)ビスフェノ−ルを製造する方法であって、触媒として、金属化合物を使用せずに、ブチルメルカプタンおよび塩化水素を使用し、塩化水素ガス加圧下で反応させることを特徴とする、4,4'−(1−フェニルエチリデン) ビスフェノールの製造方法。
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WO2021054300A1 (ja) | 2019-09-18 | 2021-03-25 | 三菱瓦斯化学株式会社 | ポリカーボネート樹脂の製造方法、及び、成形体 |
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