JP4165150B2 - 車両用乗員拘束装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両が前面衝突等により急減速した際に、シートに着座した乗員が前方移動するのを阻止する車両用乗員拘束装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車では前面衝突した場合に、シートに着座した乗員が慣性力により前方に移動するが、この乗員の前方移動を阻止するためにシートベルト等の乗員拘束装置の設置が義務付けられている。
【0003】
従来の乗員拘束装置としては、例えば特開2000−25546号公報に開示されるものがあり、この乗員拘束装置ではシートベルト本体とは別に高圧ガスにより膨張する袋体を設けることで、車両衝突時に乗員の身体を拘束する機能をシートベルト本体に受け持たせつつ、袋体によって衝撃を緩和する機能を発揮できるようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
かかる従来の乗員拘束装置にあっては、シートベルト本体による身体拘束では、乗員の姿勢や身体的表面形状の凹凸による影響を受けずにフィットし易いという特徴があり、また、袋体には接触面に対して荷重を均等に分布させることができるという特徴がある。
【0005】
このため、シートベルト本体と袋体とを組み合わせることによって、乗員に対する拘束力を袋体が接触する部分で均一に分布させることができるという利点があるが、身体の強度は必ずしも均一ではないため、荷重を均一に分布させた場合に身体の相対的に剛性の低い部分において変形量が大きくなってしまうことが懸念される。
【0006】
そこで、本発明は拘束した部分の身体変形を略均一に分布させる構成として、拘束時に身体への負担をより少なくするようにした車両用乗員拘束装置を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明にあっては、車両が急減速した際にシートに着座した乗員の少なくとも胸部を拘束する手段を備え、この拘束手段によって前方への乗員移動を阻止するとともに、前記拘束手段の乗員胸部と接触する部分の剛性を、乗員胸部の剛性分布に応じて変化させた車両用乗員拘束装置であって、前記拘束手段はシートベルトであり、このシートベルトの乗員胸部に対応する部分に胸当部材を設けるとともに、この胸当部材に乗員胸部の剛性分布に応じた剛性変化手段を設け、前記胸当部材を乗員胸部の前面に沿って曲率変化自在に湾曲形成し、前記剛性変化手段は、胸当部材の曲率が大きくなる方向の曲げ剛性を一様に高くする一方、曲率が小さくなる方向の曲げ剛性を上方から下方に向けて減少させる曲げ剛性変化手段であり、前記曲げ剛性変化手段は、前記胸当部材の幅方向中央部に長さ方向に延びるリブ状突起を備え、このリブ状突起を複数のスリットによって前記長さ方向に分断し、この複数のスリットの間隔を上端に行くほど大きく、下端に行くほど小さくするようになっている。
【0008】
【発明の効果】
本発明によれば、車両の前面衝突等によりシートに着座した乗員に前方への慣性力が働いて乗員胸部が拘束手段によって拘束された場合に、この拘束手段の乗員胸部と接触する部分の剛性が乗員胸部の剛性分布に応じて変化するようになっているため、この乗員胸部と接触する部分に対する身体変形を略均一に分布させることが可能となり、拘束時に身体への負担をより少なくすることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
【0010】
図1〜図6は本発明にかかる車両用乗員拘束装置の第1参考例を示し、図1は乗員拘束装置の要部を示す斜視図、図2は乗員拘束装置の全体構成を示す斜視図、図3は乗員拘束装置に用いた胸当部材の内側から見た斜視図、図4は人間の胸部の骨格構造を示す正面図、図5は乗員拘束装置による拘束作動状態を示す説明図、図6は胸当部材による乗員胸部の拘束状態を(a),(b)によって順を追って示す説明図である。
【0011】
この第1参考例の乗員拘束装置としてのシートベルト装置1は、図2に示すように拘束手段としての肩ベルト3に、図1に示す胸当部材10を設けることにより構成し、車両の前面衝突や急制動による大きな減速度が働いた時に、胸当部材10によって乗員M(図5参照)の胸部Mbを拘束して前方への乗員移動を阻止するようになっている。
【0012】
前記シートベルト装置1は、図2に示すように腰ベルト2と肩ベルト3とを備えた3点式シートベルトとして構成され、腰ベルト2は一端部2aを車体側に固定するとともに、他端部2bをタング4に挿通して肩ベルト3の一端部3aへと連なり、この肩ベルト3の他端部3bをセンターピラー5の上端部に設けたショルダーアンカ6に挿通した後、センターピラー5の下端部に設置したリトラクタ7に案内するようになっている。
【0013】
このシートベルト装置1を装着するには、腰ベルト2によって乗員Mの腰部Mw(図5参照)を支持するとともに、肩ベルト3によって乗員Mの片方の肩から斜めに胸部Mbを支持した後、前記タング4をシートSのシートクッションSaの側方に固定したバックル8に差し込むようになっている。
【0014】
そして、前記胸当部材10は図1に示すように肩ベルト3の乗員胸部Mbに対応する部分に設けられ、前面衝突時に胸当部材10によって乗員胸部Mbを拘束するようになっており、この胸当部材10に剛性変化手段Aを設けて、その剛性を乗員胸部Mbの剛性分布に応じて変化させるようになっている。
【0015】
人体の胸部骨格100の一般的な構造は、図4に示すように左右12対の第1〜第12肋骨101〜112を備え、これら第1〜第12肋骨101〜112は脊椎113から円弧を描きつつ前方へ延びており、そのうち上方の10対の第1〜第10肋骨101〜110は胸骨114にて集結して胸郭を形成し、また、下方の2対の第11,第12肋骨111,112は前方で閉じることなく逆V字状に開いている。
【0016】
上方10対の第1〜第10肋骨101〜110は、第1肋骨101から第6肋骨106の順に円弧の描く半径が大きくなっており、第7肋骨107から第10肋骨110は円弧の半径は僅かに縮小するものの、胸骨114が第6肋骨106の高さ位置までしかないため肋骨は第10肋骨110が最も長くなっており、胸骨114の上端からは鎖骨115が肩関節116に向かって延びている。
【0017】
このような構造上の特徴から胸部骨格100の剛性は高さ方向で大きく異なり、鎖骨115を含み第1肋骨101から第3肋骨103までの領域(a)では剛性が高く、そして、胸骨114の最下端よりも下方に位置する第7肋骨107から第10肋骨110までの領域(c)は剛性が低く、また、中間の第4肋骨104から第6肋骨106までの領域(b)は、前記2つの領域(a),(c)の中間の剛性を有している。
【0018】
尚、領域(c)よりも下方の領域は前面が肋骨で覆われないため、その剛性は領域(c)よりも更に低くなっている。
【0019】
前記胸当部材10は、図1,図3に示すように肉厚方向に2層構造となった矩形状に形成され、外側は胸部Mbの表面形状に略沿って湾曲する金属製の板材11で構成するとともに、乗員胸部Mbに接する内側は高分子系の合成樹脂で形成して人体胸部に近い剛性として形成されるパッド材12で構成する。
【0020】
そして、前記パッド材12の厚さtを上端12aから下端12bに向かって徐々に厚くし、この厚さtの変化による形状変化で剛性変化手段Aを構成し、図4に示した人体胸部Mbの領域(a)〜(c)の剛性に対応させるようにしている。
【0021】
また、前記パッド材12の肉厚tを連続変化することによって、剛性を上方から下方に向けて連続的に減少するようにしている。
【0022】
そして、パッド材12は、その変形を乗員胸部Mbの鎖骨115から第10肋骨110に至る範囲の変形と略一致させてある。
【0023】
本参考例の胸当部材10は、その長さLを30〜40cm程度に形成して胸部骨格100の前面を略覆うとともに、この胸当部材10の幅Wは肩ベルト3の幅wよりも若干広く形成してある。
【0024】
前記金属板材11の長さL方向の両端部外側には1対のベルト通し口11a,11bが設けられ、これらベルト通し口11a,11bに肩ベルト3を挿通するとともに、一方のベルト通し口11aを、所定長さに調節した位置決め手段としての柔軟アーム13によってショルダーアンカ6の取付部に吊下げて、胸当部材10を乗員Mの胸部Mbに位置させるようにしている。
【0025】
以上の構成によりこの第1参考例にあっては、車両が前面衝突や急制動により図5に示すようにシートSに着座した乗員Mに前方への大きな慣性力が働いた場合、乗員Mは前倒れ状態となってシートベルト装置1に張力が働き、そして、リトラクタ7の引き出しを停止しつつ乗員Mをシートベルト装置1で拘束して前方移動を阻止する。この場合、プリテンショナを搭載した車種では、このプリテンショナの作動によってベルトを引き込むようになっている。
【0026】
このように前方移動する乗員Mがシートベルト装置1に拘束されることにより、胸当部材10に乗員Mを拘束した際の押力が作用するが、この胸当部材10の内側は人体胸部に近い剛性を有するパッド材12で構成されているため、胸部Mbのみならずこのパッド材12も変形する。
【0027】
このとき、パッド材12は厚さtが上端12aから下端12bに向かって徐々に厚くなっているため、上端12a付近が圧縮許容量に達した場合にも、下端12b側では潰れ代が残されており、結果的にパッド材12から胸部Mbに作用する荷重は、パッド材12の上端12a側で大きく、かつ、下端12b側で小さくなる。
【0028】
従って、図4に示すように胸部骨格100の剛性が上方領域(a)で大きく、かつ、下方領域(c)で小さくなることに合致して、胸当部材10で拘束した部分の胸部変形を全体に亘って略均一に分布させることができ、ひいては、シートベルト装置1による乗員Mの拘束時に身体への負担をより少なくすることができる。
【0029】
また、前記パッド材12の肉厚tを連続的に変化させて、その剛性を上方から下方に向けて連続的に減少させたので、胸部Mbの局所的な変形を抑えて連続的に変形させることができる。
【0030】
更に、パッド材12は、その変形を乗員胸部Mbの鎖骨115から第10肋骨110に至る範囲の変形と略一致させることにより、胸部Mbの変形により正確に追従させることができる。
【0031】
ところで、この第1参考例では胸当部材10の内側を、高分子系の合成樹脂で形成したパッド材12で構成したことにより、胸当部材10で乗員胸部Mbに接触した際の違和感を少なくすることができる。
【0032】
図7は本発明の第2参考例を示し、前記第1参考例と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べる。
【0033】
図7は胸当部材10aの内側から見た斜視図で、この第2参考例の胸当部材10aは、第1参考例と同様に外側に金属板11を設けるとともに、内側にパッド材12を設けた2層構造とし、パッド材12の肉厚tを全体に亘って一定にした上で、このパッド材12に複数の穴20を形成し、これら穴20による形状変化によって胸当部材10aの剛性を変化(剛性変化手段A)させている。
【0034】
即ち、前記複数の穴20はパッド材12の上端12aに行くに従って穴径を小さく、かつその数(単位面積当たりの穴の占有率)を少なくする一方、パッド材12の下端12bに行くに従って穴径を大きく、かつその数(単位面積当たりの穴の占有率)を多くすることによって、剛性を上方から下方に向けて段階的に減少し、前記第1参考例と同様に図4に示した上方領域(a)で大きく、かつ、下方領域(c)で小さくなる胸部骨格100の剛性変化に合致させるようにしている。
【0035】
従って、この第2参考例のシートベルト装置にあっても、前記第1参考例と同様に胸当部材10aで拘束した部分の胸部変形を全体に亘って略均一に分布させることができ、乗員Mを拘束した際の身体への負担をより少なくすることができる。
【0036】
また、この第2参考例では、パッド材12の板厚tを変化させることなく、穴20によって剛性を変化させたので、装着時の形状的な違和感を少なくすることができる。
【0037】
図8は本発明の第3参考例を示し、前記第1参考例と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べる。
【0038】
図8は胸当部材10bの内側から見た斜視図で、この第3参考例の胸当部材10bは、第1参考例と同様に外側に金属板11を設けるとともに、内側にパッド材12を設けた2層構造とし、パッド材12の肉厚tを全体に亘って一定にした上で、このパッド材12を複数の素材で形成し、これら複数の素材による材質変化によって胸当部材10bの剛性を上方から下方に向けて段階的に減少(剛性変化手段A)させるようにしている。
【0039】
即ち、パッド材12の上方3分の1に相当する上部範囲12cでは剛性が比較的高い素材を用いる一方、下方3分の1に相当する下部範囲12eでは剛性が比較的低い素材を用い、残りの3分の1に相当する中間範囲12dでは上部,下部範囲12c,12eの中間的な剛性を有する素材を用いることにより、図4に示した胸部骨格100の剛性変化に合致させるようにしている。
【0040】
従って、この第3参考例のシートベルト装置にあっても、前記第1参考例と同様に胸当部材10bで拘束した部分の胸部変形を全体に亘って略均一に分布させることができ、乗員Mを拘束した際の身体への負担をより少なくすることができる。
【0041】
また、この第3参考例では、パッド材12の外形状や厚みtに変化を付けることなく、パッド材12の材質のみで剛性変化を実現したことにより、触感のみならず外観上の違和感を少なくすることができる。
【0042】
図9〜図12は本発明の第1実施形態を示し、前記第1参考例と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べる。
【0043】
図9は胸当部材の内側から見た分解斜視図、図10は乗員拘束装置の要部を示す斜視図、図11は胸当部材の作動状態を(a)〜(c)によって示す側面図、図12は胸当部材と乗員胸部との関係を(a),(b)によって示す側面図である。
【0044】
この第1実施形態の胸当部材10cは、図9に示すように高分子系樹脂で形成して外側に配置される矩形状の胸当本体14と、この胸当本体14の内側に配置されるパッド材15と、を設けた2重構造となり、胸当本体14の幅w方向中央部には長さ方向Lに延びる所定高さの曲げ剛性変化手段Aとしてのリブ状突起14aを突設し、胸当本体14の乗員胸部Mbに直接接触する内側に前記パッド材15を設置してある。
【0045】
パッド材15は、図9に示すように全体的に均一な厚さとして形成されるが、その幅方向中央部には前記リブ状突起14aを嵌合する凹部15aを形成してある。
【0046】
前記リブ状突起14aは、複数のスリット14bによって長さ方向に分断することにより、乗員胸部Mbの前面に沿って曲率変化自在に湾曲形成してあり、このように複数のスリット14bをリブ状突起14aに形成することにより、胸当部材10cの曲率が大きくなる方向の曲げ剛性を一様に高くする一方、スリット14bの間隔pを上端14cに行くほど大きく、下端14dに行くほど小さくすることにより、曲率が小さくなる方向の曲げ剛性を上方から下方に向けて減少させるようにしている。
【0047】
即ち、図11に示すように胸当部材10cは、同図(a)に自然状態、同図(b)に曲率が大きくなる方向に負荷が加わった状態、同図(c)に曲率が小さくなる方向に負荷が加わった状態をそれぞれ示し、(b)の曲率が大きくなる場合は、リブ状突起14aのスリット14b間が圧縮されて大きな抵抗力が発生するため剛性が一様に高くなる一方、(c)の曲率が小さくなる場合は、リブ状突起14aのスリット14b間が開く方向の変形であるため剛性が小さくなり、かつ、上述したようにスリット14bの間隔pの変化により、その剛性は上方から下方に向けて減少するという異方性を有している。
【0048】
前記胸当本体14の内部には、図9に示すように上端14cから下端14dに貫通する断面矩形状の貫通穴14eを形成してあり、図10に示すように胸当本体14に前記パッド部材15を取り付けた状態で、前記貫通穴14eに肩ベルトを挿通することにより胸当部材10cを取り付けるとともに、この胸当部材10cは第1参考例と同様に柔軟アーム13によって吊下げて位置決めするようになっている。
【0049】
従って、この第1実施形態のシートベルト装置にあっては、図12に示すように同図(a)の通常走行状態から同図(b)に示すように車両の前面衝突により乗員Mに前方への慣性力が作用して胸当部材10cを前方に押圧すると、肩ベルト3の張力により胸当本体14の両端14c,14dには後方に傾斜した引張り力が働き、この衝突初期の場合は、胸当部材10cの曲率を大きくする方向に力が作用して、図11(b)に示した特徴により変形は僅かとなり、胸当部材10cは局所的に乗員胸部Mbを強く圧迫することなく、略初期状態の状態で接触する。
【0050】
次に、乗員胸部Mbが全体的に圧縮されることにより、胸部Mb前面の凸曲面は平らとなる方向に変化していくが、これは胸当部材10cにとっては曲率を小さく変形する方向であり、図11(c)に示した特徴により胸当部材10cの変形は上端14c側で小さく、下端14d側で大きくなるため、胸当部材10cは胸部Mbを局所的に圧迫するのを防止することができる。
【0051】
このようにして、胸当部材10cで拘束した部分の胸部変形を全体に亘って略均一に分布させることができ、ひいては、シートベルト装置1による乗員Mの拘束時に身体への負担をより少なくすることができる。
【0052】
また、この第1実施形態では、パッド材15のみならず胸当本体14にあっても高分子系樹脂を用いて形成したことにより、胸当部材10cの軽量化および低コストを達成することができる。
【0053】
図13〜図17は本発明の第2実施形態を示し、前記第1参考例と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べる。
【0054】
図13は胸当部材を内側から見た斜視図、図14は胸当部材を内側から見た分解斜視図、図15は胸当本体を構成するパッド単体の一部を破断して示す斜視図、図16は胸当部材の作動状態を(a)〜(c)によって示す側面図、図17は図16中A部およびB部をそれぞれ(a)および(b)に示す拡大断面図である。
【0055】
この第2実施形態の胸当部材10dは、簡単な構造をもって前記第1実施形態と同様に剛性の異方性を得るようにしたもので、図13,図14に示すように複数のパッド単体16aを連設した胸当本体16を主体として構成し、この胸当本体16の両側に第1,第2接着テープ17,17aを貼り付けて複数のパッド単体16aを連結しており、このように構成した状態で胸当部材10dを全体的に胸部Mbの前面に沿った湾曲形状としてある。
【0056】
パッド単体16aは、図15に示すように肩ベルト3を囲繞するように高分子系樹脂により断面矩形状に形成され、その中心部分には肩ベルト3を挿通するための硬質樹脂チューブ16bを設けて形成してある。
【0057】
そして、前記パッド単体16aの長さL1は胸当部材10dの長さ方向Lで異なり、胸当本体16の上端16cに行くに従って長くなり、下端16dに行くに従って短く形成してあり、また、前記第1,第2接着テープ17,17aのうち、内側の第1接着テープ17には伸び易い素材を用い、外側の第2接着テープ17aには殆ど伸びない素材を用いることにより曲げ剛性変化手段Aを構成してある。
【0058】
即ち、図16に示すように胸当部材10dは、同図(a)に自然状態、同図(b)に曲率が大きくなる方向に負荷が加わった状態、同図(c)に曲率が小さくなる方向に負荷が加わった状態をそれぞれ示す。
【0059】
そして、(b)の曲率が大きくなる場合は、図17(a)にも示すように第2接着テープ17a側に引張り力が働き、これの伸び量が少ないために個々のパッド単体16aが圧縮されるが、内部の硬質樹脂チューブ16bが抵抗力を発生するため僅かな変形となる。
【0060】
一方、(c)の曲率が小さくなる場合は、図17(b)にも示すように第1接着テープ17に引張り力が働き、これが容易に伸びることで個々のパッド単体16aの隙間が拡大し、このとき、下端16dに近いほどパッド単体16aの長さL1が小さくなるため変形し易くなる。
【0061】
即ち、胸当部材10dは曲率が大きくなる方向には曲げ合成が一様に高く、曲率が小さくなる方向には上方から下方に向けて曲げ剛性が減少するという異方性を有している。
【0062】
従って、この第2実施形態のシートベルト装置にあっては、前記第1実施形態と同様に車両の前面衝突初期では、胸当本体16の曲率を大きくする方向に力が作用して、図16(b)に示した特徴により変形は僅かとなり、次に、乗員胸部Mbが全体的に圧縮されることにより、胸当部材10cにとっては曲率を小さく変形する方向であり、図16(c)に示した特徴により胸当部材10dの変形は上端16c側で小さく、下端16d側で大きくなるため、胸当部材10dは胸部Mbを局所的に圧迫するのを防止することができる。
【0063】
このようにして、胸当部材10dで拘束した部分の胸部変形を全体に亘って略均一に分布させることができ、ひいては、シートベルト装置1による乗員Mの拘束時に身体への負担をより少なくすることができる。
【0064】
図18〜図21は本発明の第4参考例を示し、前記第1参考例と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べる。
【0065】
図18は乗員拘束装置による拘束状態を示す斜視図、図19は胸当部材を外側から見た斜視図、図20は乗員拘束装置による拘束作動状態を示す説明図、図21は胸当部材と乗員胸部との関係を(a),(b)によって示す側面図である。
【0066】
この第4参考例は図18に示すように、車両用乗員拘束装置として可動アーム付きストッパ30を用い、この可動アーム付きストッパ30の拘束手段としての前方アーム33に、図19に示す胸当部材10eを設けることにより構成し、この胸当部材10eに乗員胸部Mbの剛性分布に応じた剛性変化手段としてのV字状切欠部18aを設けている。
【0067】
可動アーム付きストッパ30は、シートSの両側に設けたバックル31に回動可能に支持されて前方に延び、装着時には乗員Mの胸部Mb前方で位置固定される1対の可動アーム32と、これら可動アーム32の前端部を連結する前方アーム33とによって構成してある。
【0068】
前記可動アーム32は走行中には簡単に動かないように固定されるが、過大な荷重が作用した場合には若干の移動が許容されて、乗員Mに作用する衝撃を緩和できるようになっている。
【0069】
この参考例の胸当部材10eは、図19に示すように高分子系の樹脂材料で形成した胸当本体18と、この胸当本体18の胸部Mbに接触する内側に設置されるパッド材19とによって構成され、胸当本体18の剛性は人体胸部Mbに近い値に設定されている。
【0070】
胸当本体18の外形状は左右方向の幅wが約30cm、上下方向の長さLが30〜40cmとして、乗員胸部Mbを略覆う程度の大きさとし、その下側中央部には上下長さLの略中間部まで切欠かれるV字状切欠部18aを形成してある。
【0071】
胸当本体18の上端部外側には前記前方アーム33を挿通する取付部18bが形成され、この取付部18bに前方アーム33を挿通して、乗員胸部Mbにパッド材19の前面が当接する角度をもって固定してある。
【0072】
パッド材19は全体に亘って厚さが一定に形成され、その大きさは前記胸当本体18のV字状切欠部18aを除く外側形状に略一致している。
【0073】
従って、この第4参考例の乗員拘束装置にあっては、車両の前面衝突や急制動時にあって乗員Mが前方移動して胸当部材10eを前方に押圧すると、可動アーム33を前方に倒す力が働き、この可動アーム33が停止することにより胸当部材10eから乗員胸部Mbに拘束力が働く。
【0074】
胸当部材10eは、人体胸部に近い剛性を有しており、かつ、V字状切欠部18aを設けたことにより、その剛性は上端18cから下端18dに向かって徐々に減少するため、乗員胸部Mbに加わる荷重は胸当本体18の上端18c側で大きく、かつ、下端18d側で小さくなる。
【0075】
従って、前記第1参考例と同様に図4に示した胸部骨格100の剛性が上方領域(a)で大きく、かつ、下方領域(c)で小さくなることに合致して、胸当部材10eで拘束した部分の胸部変形を全体に亘って略均一に分布させることができ、ひいては、可動アーム付きストッパ30による乗員Mの拘束時に身体への負担をより少なくすることができる。
【0076】
この参考例ではシートベルトを用いていないため、胸当部材10eに作用する力は乗員胸部Mbとの垂直方向の接触力のみとなり、胸当部材10eには異方性を必要とせず、剛性が上方から下方に減少する剛性変化のみを備えておればよい。
【0077】
ところで、本発明の車両用乗員拘束装置は前記第1〜第2実施形態に例を取って説明したが、勿論これら実施形態に限ることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他の各種実施形態を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1参考例における乗員拘束装置の要部を示す斜視図。
【図2】 本発明の第1参考例における乗員拘束装置の全体構成を示す斜視図。
【図3】 本発明の第1参考例における乗員拘束装置に用いた胸当部材の内側から見た斜視図。
【図4】 本発明の第1参考例における人間の胸部の骨格構造を示す正面図。
【図5】 本発明の第1参考例における乗員拘束装置による拘束作動状態を示す説明図。
【図6】 本発明の第1参考例における胸当部材による乗員胸部の拘束状態を(a),(b)によって順を追って示す説明図。
【図7】 本発明の第2参考例における胸当部材の内側から見た斜視図。
【図8】 本発明の第3参考例における胸当部材の内側から見た斜視図。
【図9】 本発明の第1実施形態における胸当部材の内側から見た分解斜視図。
【図10】 本発明の第1実施形態における乗員拘束装置の要部を示す斜視図。
【図11】 本発明の第1実施形態における胸当部材の作動状態を(a)〜(c)によって示す側面図。
【図12】 本発明の第1実施形態における胸当部材と乗員胸部との関係を(a),(b)によって示す側面図。
【図13】 本発明の第2実施形態における胸当部材を内側から見た斜視図。
【図14】 本発明の第2実施形態における胸当部材を内側から見た分解斜視図。
【図15】 本発明の第2実施形態における胸当本体を構成するパッド単体の一部を破断して示す斜視図。
【図16】 本発明の第2実施形態における胸当部材の作動状態を(a)〜(c)によって示す側面図。
【図17】 図16中A部およびB部をそれぞれ(a)および(b)に示す拡大断面図。
【図18】 本発明の第4参考例における乗員拘束装置による拘束状態を示す斜視図。
【図19】 本発明の第4参考例における胸当部材を外側から見た斜視図。
【図20】 本発明の第4参考例における乗員拘束装置による拘束作動状態を示す説明図。
【図21】 本発明の第4参考例における胸当部材と乗員胸部との関係を(a),(b)によって示す側面図。
【符号の説明】
1 シートベルト装置(車両用乗員拘束装置)
3 肩ベルト(拘束手段)
10,10a,10b,10c,10d,10e 胸当部材
12,15 パッド材
15a パッド材の凹部
13 柔軟アーム(位置決め手段)
14 胸当本体
14a リブ状突起(曲げ剛性変化手段)
14b スリット
16 胸当本体
16a パッド単体(曲げ剛性変化手段)
17,17a 接着テープ(曲げ剛性変化手段)
18 胸当本体
18a V字状切欠部(剛性変化手段)
30 可動アーム付きストッパ(車両用乗員拘束装置)
33 前方アーム(拘束手段)
A 剛性変化手段
M 乗員
Mb 胸部
Claims (4)
- 車両が急減速した際にシートに着座した乗員の少なくとも胸部を拘束する手段を備え、この拘束手段によって前方への乗員移動を阻止するとともに、前記拘束手段の乗員胸部と接触する部分の剛性を、乗員胸部の剛性分布に応じて変化させた車両用乗員拘束装置であって、
前記拘束手段はシートベルトであり、このシートベルトの乗員胸部に対応する部分に胸当部材を設けるとともに、この胸当部材に乗員胸部の剛性分布に応じた剛性変化手段を設け、
前記胸当部材を乗員胸部の前面に沿って曲率変化自在に湾曲形成し、前記剛性変化手段は、胸当部材の曲率が大きくなる方向の曲げ剛性を一様に高くする一方、曲率が小さくなる方向の曲げ剛性を上方から下方に向けて減少させる曲げ剛性変化手段であり、
前記曲げ剛性変化手段は、前記胸当部材の幅方向中央部に長さ方向に延びるリブ状突起を備え、このリブ状突起を複数のスリットによって前記長さ方向に分断し、この複数のスリットの間隔を上端に行くほど大きく、下端に行くほど小さくしたことを特徴とする車両用乗員拘束装置。 - 前記リブ状突起は、前記胸当部材の胸当本体に設けられ、この胸当本体の前記リブ状突起を設けた側に、該リブ状突起が嵌合する凹部を有するパッド材を設置したことを特徴とする請求項1に記載の車両用乗員拘束装置。
- 車両が急減速した際にシートに着座した乗員の少なくとも胸部を拘束する手段を備え、この拘束手段によって前方への乗員移動を阻止するとともに、前記拘束手段の乗員胸部と接触する部分の剛性を、乗員胸部の剛性分布に応じて変化させた車両用乗員拘束装置であって、
前記拘束手段はシートベルトであり、このシートベルトの乗員胸部に対応する部分に胸当部材を設けるとともに、この胸当部材に乗員胸部の剛性分布に応じた剛性変化手段を設け、
前記胸当部材を乗員胸部の前面に沿って曲率変化自在に湾曲形成し、前記剛性変化手段は、胸当部材の曲率が大きくなる方向の曲げ剛性を一様に高くする一方、曲率が小さくなる方向の曲げ剛性を上方から下方に向けて減少させる曲げ剛性変化手段であり、
前記曲げ剛性変化手段は、複数のパッド単体を連設して前記胸当部材の胸当本体を構成し、この胸当本体の両側に第1,第2接着テープを貼り付けて前記複数のパッド単体を連結し、
前記パッド単体の長さは前記胸当本体の上端に行くに従って長くなり、下端に行くに従って短く形成してあり、
前記第1,第2接着テープのうち、内側の第1接着テープは、外側の第2接着テープに比較して伸び易い素材を用いたことを特徴とする車両用乗員拘束装置。 - 前記胸当部材は、該胸当部材を乗員胸部に位置させる位置決め手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用乗員拘束装置。
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