JP4164782B2 - 整面処理性に優れたFe−Ni系合金薄板およびそれを用いたシャドウマスク - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カラー受像管用シャドウマスク、ICリードフレーム等の各種機能材料として用いられるFe−Ni系合金薄板およびシャドウマスクに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Fe−Ni系合金は優れた低膨張特性を利用して、シャドウマスクあるいは半導体集積回路のリードフレームやワイヤの素材として使用されている。代表的なFe−Ni系合金としては、Fe−36%Ni(インバー)、Fe−31Ni−5Co(スーパーインバー)、Fe−42Ni、Fe−50%Ni、Fe−29Ni−17Co(コバール)等がある。
これらのFe−Ni系合金でなるFe−Ni系合金薄板は、多くの場合、例えばカラー受像管用シャドウマスクや、リードフレーム等の加工にはエッチングが用いられている。例えば、このFe−Ni系合金カラー受像管シャドウマスクに用いた場合では、例えば円形状や矩形状の孔をエッチングで貫通させるような処理が施される。
【0003】
ところで、最近では、シャドウマスクの高精細化やリードフレームの多ピン化、また新たな用途として、Fe−Ni系合金に微細なセルを形成し、金属隔壁としてプラズマディスプレイパネルに組み込まれる試みもなされ、エッチング加工による微細加工に対応するため、素材の改良による加工精度の向上が一段と求められている。
しかしながら、Fe−Ni系合金薄板を微細なエッチング加工を施す時、しばしば、エッチング孔が異形化したり、エッチング孔が局部的に小さくなる不良が発生していた。
【0004】
この不良の原因の一つには、腐食残渣によるものがあり、従来からFe−Ni系合金薄板の表面の清浄度向上において、種々の提案がなされている。
なかでも、本願出願人の提案による特開平9−31599号は、表面から1ないし5nm深さにおけるホウ素の濃度を表面ホウ素濃度(Bsuf)とし、板厚の中心部分のホウ素濃度(Bmid)とするとき、表面ホウ素濃度と中心ホウ素濃度との比(Bsuf/Bmid)の最大値が500以下であるFe−Ni系合金薄板を開示するものであって、表面清浄度と素材表層部のホウ素の濃化に着目した点で良案であると言える。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等の検討によれば、Fe−Ni系合金薄板の最表層部と整面処理の関係を詳細に検討した結果、表層に濃化しているのは、上述の特開平9−31599号に記載されるようなホウ素だけではなく、結合状態で化合物、若しくは化合物+メタルとなったホウ素、窒素、硫黄、Mn、Si等があり、これらの元素が表層部に濃化していることを知見した。
そこで本発明者等は、エッチング孔が異形化したり、エッチング孔が局部的に小さくなる不良が発生したカラー受像管シャドウマスクやリードフレーム材などの素材となるFe−Ni系合金薄板の最表面を詳細に分析を行ったところ、最表面近傍において、上述した特定の元素が、化合物、若しくは化合物+メタルの結合状態を示す元素が濃化している領域が存在していることを突き止めた。
【0006】
そして、本発明者等は更に表面状態を鋭意検討した結果、表層部において上述したような元素の濃化が認められたものは、その濃化が発生した領域で整面処理速度が不均一となり、表面粗さが粗くなり、腐食残渣が発生して、その後のパターンエッチング工程で、腐食残渣領域でのエッチングの進行が遅れ、結果、エッチング孔の異形化や、エッチング孔が局部的に小さくなる不良になったことを突き止めた。
本発明の目的は、整面処理の不均一性を解消することで、エッチング加工による微細加工に対応可能なFe−Ni系合金薄板およびそれを用いたシャドウマスクを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたもので、本発明の最も重要な特徴は、特定の深さの表層部における、化合物、若しくは化合物+メタルの結合状態を示す元素の量を調整することにある。
すなわち本発明は、最表面から1nmまでの深さを光電子分光装置で測定した時、結合エネルギー185〜196eVのB(ホウ素)の最大検出量が7原子%以下、結合エネルギー395〜403eVのN(窒素)の最大検出量が4原子%以下、結合エネルギー156〜168eVのS(硫黄)の最大検出量が2原子%以下であり、且つ、前記B ( ホウ素 ) とN ( 窒素 ) とS(硫黄)の最大検出量の総和が13原子%以下のFe−Ni系合金薄板であって、該Fe−Ni系合金薄板は重量%でNi:28〜52%、Si:0.03%以下、Mn:0.3%以下、S:0.006%以下、B:0.003%以下、N:0.005%以下を含有し、残部は不可避的不純物とFeでなる整面処理性に優れたFe−Ni系合金薄板である。
【0008】
好ましくは、最表面から1nmまでの深さを光電子分光装置で測定した時、結合エネルギー97〜105eVのSiの最大検出量が、4原子%以下、結合エネルギー45〜50eVのMnの最大検出量が、4原子%以下である整面処理性に優れたFe−Ni系合金薄板である。
【0009】
更に好ましくは、最表面から1nmまでの深さを光電子分光装置で測定した時、結合エネルギー185〜196eVのB(ホウ素)、結合エネルギー395〜403eVのN(窒素)、結合エネルギー156〜168eVのS(硫黄)、結合エネルギー97〜105eVのSi、結合エネルギー45〜50eVのMnの量の総和が、10原子%以下である整面処理性に優れたFe−Ni系合金薄板である。
【0010】
また本発明は、上述のFe−Ni系合金薄板を用いてなるシャドウマスクであり、本発明のFe−Ni系合金薄板に円形のエッチング孔を形成した時、前記エッチング孔の真円度が、4π×(孔面積)/(孔周囲長の2乗)≧0.60の関係を満たすシャドウマスクである。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳しく説明する。
先ず、Fe−Ni系合金薄板の最表面からスパッタ(ドライエッチング)を用いて、徐々にスパッタを施すと、合金の板厚中心に近づくにつれて、酸化物や、窒化物、炭化物またはそれらの複合物と言った化合物がなくなり、構成合金元素がメタルの状態として現れるようになる。これを、特定時間のスパッタ毎にESCA或いはXPSと称される光電子分光装置で分析すると、最表面から特定時間をスパッタを施した後の深さの領域で、存在する元素、その元素の量や、元素の結合状態を知ることができる。
【0012】
ここで、上述の光電子分光装置を用いて分析する場合、その被分析物をどの程度スパッタしているのか、判らないと言う欠点がある。そのため、一般的には、SiO2製の標準試料を用いて、1分のスパッタによって例えば1nmがスパッタされるように調整を行い、この条件下で、種々の未知試料においても、1分のスパッタで1nmの厚みをドライエッチングで除去しているものと看做している。
これに従い、本発明者等も、SiO2製の標準試料を用いた時、1分のスパッタで1nmの深さがスパッタされるように調整した光電子分光装置を用いて分析し、1分のスパッタで被測定物が1nmの厚みが除去されたものと看做した。
【0013】
上述のスパッタ条件に調整された光電子分光装置でFe−Ni系合金薄板表面を分析すると、図1に示すように、0.5nm(スパッタ時間:0.5分)〜1nm(スパッタ時間:1分)の時、表面近傍で濃化する各元素の濃化挙動が最も大きく変化していることから、本発明では最表面から1nmまで(1nmの深さは含まれる)の深さと規定した。
また、本発明で言う最表面とは、スパッタを施さない状態で、光電子分光装置を用いて分析する面を最表面と言う。
【0014】
次に、極表面濃化元素の量を限定した理由を述べると以下のようになる。
先ず、結合エネルギー185〜196eVの範囲内で検出されるB(ホウ素)には、主として窒化ホウ素や酸化ホウ素、或いは更にそれらの複合化合物、及びメタルとしてのホウ素が検出され、これらの複合物は、多くの場合、通常のホウ素単独で存在する時に比して極めて酸により腐食され易く、7原子%を超えて濃化すると、エッチングの際に著しく素材表面を粗して、腐食残渣が残り易いと言う現象を起こし、酸に対して安定な場所と不安定な場所を形成することになり、整面処理時にエッチングむらを生じることになる。
逆に酸に対して強い元素と結びつけば、濃化の無い箇所に比して、エッチングが進まず、貫通孔形成工程時まで、濃化箇所が残留して、貫通孔の異形化に繋がる場合もあるため、7原子%以下に規定した。好ましくは3原子%以下が良い。
【0015】
またBはN(窒素)と結びつき易い元素であり、Nが存在すれば、NとBとの化合物を作り易い性質をもっている。
本発明で規定した結合エネルギー395〜403eVの範囲内で検出されるNは窒化ホウ素や他の元素と結びついて窒化物を形成したものが殆どである。例えば、この範囲内で検出されるNの具体的な結合状態は、上述のBや、Siと結合した化合物が多く、非常に安定で耐酸性が高い状態となる。
従って、これらの窒化物が薄板表面全体に均一に形成されれば酸に対して安定であるか、局所的に存在する場合は、酸に対して安定な場所と不安定な場所を形成することになり、整面処理時にエッチングむらを生じることになる。
この結合状態のN(窒素)の最大検出量が、4原子%を超えて存在すれば表面に形成されるBN(窒化ホウ素)が局所的に存在し易くなり、BNが存在する表面と、存在しない表面とが混在することで局部的に素材表面を粗して腐食残渣が残存する現象や、BN自体が安定なためにエッチングを妨げる場合もあることから4原子%以下に規定した。好ましくは3原子%以下が良い。
【0016】
次に、S(硫黄)は反応性が高いため、殆どが化合物を形成しており、化合物となったSは硝酸等の整面処理水溶液と反応しやすく、一端酸に溶解したSは残渣となり表面に残るため、水溶液界面に残さを残し素材表面にエッチングむらを引き起こす。また、Sの化合物は優先的に腐食されるため表面に微小の凹凸を形成し不均質な表面を形成するため、Sを抑制することで均一な素材表面を形成できる。
また、結合エネルギー156〜168eVのS(硫黄)の多くは鋼中元素と結びついたものであり、これらは整面処理水溶液と反応して薄板表面を粗し、上記の現象を引き起こす。従って、これらの現象を抑制するためには2原子%とすることが必要である。好ましくは1.5原子%以下が良い。
【0017】
好ましくは、結合エネルギー156〜168eVのS(硫黄)と結合エネルギー185〜196eVの(ホウ素)と、結合エネルギー395〜403eVのN(窒素)の最大検出量の総和が、最表面から1nmまでの深さを光電子分光装置で測定した時、13原子%以下に制御することで、表面に存在するこれらの結合エネルギーを持つBやNの化合物の存在が、表面に存在するSの化合物量を制御するため、整面処理時のエッチングむらを抑制し、中庸化することができる。好ましくは7原子%以下が良い。
【0018】
次に、表層部近傍に濃化するSiとMnは硝酸等の整面処理水溶液と反応しやすく水溶液界面に残さを残し腐食むらを発生させ易い。
結合エネルギー97〜105eVのSiの最大検出量が、4原子%以下、結合エネルギー45〜50eVのMnはSi、Mnの単純な酸化物のみでなく、これらの元素と酸素からなる複合化合物でも存在する。複合酸化物の場合、単純な酸化物と比較して化学的に安定でないために耐酸性も低い。
従って整面処理時にこれらの酸化物は溶解し、残渣を残す。最表面から1nmまでの深さを光電子分光装置で測定した時のこれらの結合エネルギーを持つSi、Mnの量が、それぞれともに4原子%以下に制御することでMn、Siの化合物量を制御し整面処理時のむらを中庸化でき均一な清浄素材表面を形成できる。特にこれらの酸化物は粒界に円柱状に存在するため、マトリクス部位に比べてエッチング速度を低減するため、Si、Mnをそれぞれ4原子%以下に制限する。好ましくは3原子%以下が良い。
【0019】
なお、好ましくは最表面から1nmまでの深さを光電子分光装置で測定した時、結合エネルギー185〜196eVの範囲内で検出されるB(ホウ素)、結合エネルギー395〜403eVのN(窒素)、結合エネルギー156〜168eVのS(硫黄)、結合エネルギー97〜105eVのSi、結合エネルギー45〜50eVのMnの最大検出量の総和が、20原子%以下に制御することで表面の整面処理特性を複合的に制御でき、整面処理時のむらの発生を抑制し、極めて均一で清浄な素材表面を形成できるため、特に好ましい。好ましくは15原子%以下が良く、更に好ましくは10原子%以下である。
【0020】
上述した特定元素を、最表面から1nmまでの深さまで、本発明で規定する特定量に制限するためには、次のような合金組成を有するものを選ぶことが良い。例えば、IC用リードフレームやシャドウマスク、プラズマディスプレイの金属隔壁等に用いられる電子部品材料に適用する場合は、その低熱膨張特性に優れる合金組成として、Niの含有量を重量%で28〜52%の範囲で、それぞれに求められる熱膨張係数を調整することができる。
具体的には、シャドウマスク用に用いる場合は、Niの含有量は32〜38%、Niの一部を7%以下のCoで置換した所謂スーパーインバーとする場合は、Niの含有量は28〜33%、またICリードフレーム用に用いる場合は、Niの含有量は38〜50%、プラズマディスプレイ用の金属隔壁に用いる場合は、Niの含有量は45〜52%の範囲に夫々調整すると良い。
【0021】
Si、Mnは通常Fe−Ni系合金では、脱酸を目的に微量含有されているが、過剰に添加すれば、表層部近傍への濃化が促進されるばかりか、偏析を起こし易くなるため、Si:0.03%以下、Mn:0.3%以下であることが望ましい。
Bは熱間加工性の改善と同時に粒界に拡散し易く、上記活性元素表面酸化の抑制に大きな効果を有するものである。しかし、0.003%を超えると、表層部近傍に濃化し易くなるばかりか、熱間加工性を劣化させるため、0.003%以下が好ましい。
【0022】
Sは、鋼中に存在する多くの不可避的不純物元素と結合してMnS等の介在物を形成する。この介在物は軟化焼鈍における結晶粒の成長を抑制したり、エッチングを阻害したりする。このため、熱間加工性とエッチング性を向上させる目的でSの含有量を0.006%以下に調整することが好ましく、素材表面への濃化をより一層抑制するためには、0.002%以下が良い。
Nは、合金中に不可避的不純物として存在する元素である。Nは、鋼中ではAlNを生成し介在物となって、エッチング性および軟化焼鈍特性を害するものである。0.005%を超えて存在すると介在物が多くなりすぎ、エッチング性と軟化焼鈍特性を悪化させるため、0.005%以下であるが、素材表面への濃化をより一層抑制するためには、0.003%以下が良い。
【0023】
上述した本発明のFe−Ni系合金薄板をシャドウマスク用に用いれば、エッチング加工によって優れた真円度を有するシャドウマスクを得ることができ、高精細シャドウマスクに十分に対応可能となる。なお、このようなパターンエッチング加工により、所定の孔形状に穿孔した後のものはフラットマスクとも称される。
このシャドウマスクに形成された円形のエッチング孔は、優れた真円度を有しており、真円度=4π×(孔面積)/(孔周囲長の2乗)で定義した時、真円度は0.60以上の真円度を付与することができ、真円度が0.60以上となるとエッチング孔の異形化が殆どない状態にあり、高精細シャドウマスクに特に好適である。
なお、上記するエッチング孔とは、Fe−Ni系合金薄板表面の大孔エッチング孔を指し、実際に貫通する部位の小孔エッチング孔を指すものではない。
【0024】
そして更に、本発明のFe−Ni系合金薄板をICリードフレームに用いれば、ピン数が160ピンを超えるような多ピン化に対応可能なFe−Ni合金薄板となる。
即ち、請求項1乃至6の何れかに記載のFe−Ni系合金薄板を用いてなることを特徴とするリードフレームである。
【0025】
なお、本発明の特定元素を、最表面から1nmまでの深さまでの最大濃化量を、本発明で規定する特定量に制限したFe−Ni系合金薄板を得るためには、冷間圧延の圧下率や、焼鈍時の雰囲気を適宜調整してやれば良く、例えば還元力の強い雰囲気中で高温の焼鈍後に、60%以上の高い圧下率の冷間圧延を行い、以後の冷間圧延は12%以上の圧下率で行い、焼鈍は低温、短時間で施すことで達成される。
【0026】
【実施例】
Fe−Ni系合金薄板素材を、冷間圧延の圧下率、焼鈍時の雰囲気を適宜調整した後、圧下率72%の冷間圧延後、低温、短時間の焼鈍を施し、22%の圧下率で冷間圧延後、低温、短時間の歪取り焼鈍を施したFe−36%Ni合金薄板でなるシャドウマスク材を作製した。
この時、焼鈍時の雰囲気や、冷間圧延の圧下率で最表面近傍にB、N、S、Si、Mn等を濃化させるよう調整した比較材も同時に作製した。
このようにして得られたFe−Ni系合金薄板から、光電子分光分析装置(ESCA)で測定を行う供試材を採取し、その供試材をジエチルエーテルとエタノールを3:1で混合した液で超音波洗浄し、この供試材を分析面積が2mm×1mmの範囲の測定できるように調整したスパッタ銃を備えた光電子分光分析装置を使用して、SiO2を1分間に1nmスパッタできるスパッタ速度で、これらの薄板をスパッタ、分析を繰り返してして深さ方向の元素の濃化を調査した。
この時、Fe−Ni系合金の分析においてはFe、Niのピークをオージェピークの干渉無く捉えるためにはMgKα線を使用することがあるが、その場合、NiのオージェピークがNのピークと重なるため、X線源にはAlKα線を用いた。
【0027】
また、分析面積の大きな光電子分光分析装置は分析面積の小さな装置と比較して、表面の平均的な情報を得る目的や微量の元素検出に有利である。また、洗浄条件は定性分析で微量な汚染物質のNa、Clを検出しない条件を多数の試料によって確認して定めた。
供試材は、No.1、No.2、No.3が本発明材、No.4が最表層近傍にS、Nが濃化したもの、No.5が最表層近傍にS、B、Nが濃化したものであり、供試材の素材化学組成を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
先ず、試料最表面(スパッタなし)の定性分析を行い、検出された元素を確認した。定量評価に当っては、前記定性分析で検出された元素の他、検出元素が極微量の場合にはバックグラウンドの状況によっては定量評価が困難なために、薄板の各構成元素であるC、O、Fe、Ni、Si、Mn、B、N、S、Alのメタルの状態と、化合物を形成している結合エネルギー範囲で、各元素の光電子ピークを微量でも検出できるように細かに、複数回採取し重ね合わせるように光電子分光装置の分析条件を設定した。
またこの時、B、N、S、Si、Mnについては、それぞれ結合エネルギーがB:180〜200eV、N:400〜410eV、S:155〜175eV、Si:95〜115eV、Mn:43〜63eVの結合エネルギーの範囲を測定した。
【0030】
この測定範囲で、特にBについては結合エネルギー185〜196eV、Nについては結合エネルギー395〜403eV、Sについては結合エネルギー156〜168eV、Siについては結合エネルギー97〜105eV、Mnについては結合エネルギー45〜50eVといった、本発明で規定するエネルギー範囲内で検出されたピークを詳細に物質同定と定量化を行った。
【0031】
装置固有の相対感度係数を用いてこれらの検出元素全てをもって100原子%となるように定量化した。この結果を表2〜表6に示す。
なお、夫々の元素を測定した深さは、スパッタ無し(最表面)、0.3分スパッタ後(0.3nm)、0.6分スパッタ後(0.6nm)、0.9分スパッタ後(0.9nm)の順に、5.0分スパッタ後(5.0nm)まで、8条件を測定し、定量化した元素は、B、C、N、O、Ai、Si、S、Mn、Fe、Niの10元素である。
【0032】
上記したエネルギー範囲で検出された結合エネルギーと、合金組成、熱処理の雰囲気を考慮し、データベースから化合物を同定すると、Bピークは190.0〜190.7eVのBNと192.0〜193.6eVのB2O3等を主体とし、186.5〜187.3eVのメタルとしてのB、そして更にこれらの化合物等の複合化合物となっていることが判る。
No.5の0minスパッタ時のB(ホウ素)スペクトルを一例として図3に示す。ピークトップは191.1eVにあるが、ピーク範囲としては185〜196eVくらいまで見られるので、これは190.0〜190.7eVのBNと192.0〜193.6eVのB2O3等および、酸窒化物のようなN、Oと結合した状態を持つ化合物と考えられ、製面処理性を劣化させる複合化合物が多いことが判る。なお、本発明材のNo.1、No.2には、Bが殆ど検出されていなかった。
【0033】
次にNピークは397.4〜398.0eVのSiN、398.2〜399.0eVのBN、398.9eVのS2N4等を主体としたスペクトルであることを確認し、比較材No.5は、特にBNのピークが顕著に検出された。
Sピークは164.0eVのメタルと164.6eVのS2N4、160.0〜163.5eVの硫黄化物を主体としたスペクトルからなっていることを確認し、比較材No.5は特に硫黄化物のピークが顕著に検出された。
【0034】
Siは98.9〜99.7のメタルと102.7eVのSiO、102.3〜103.9eVのSiO2、101.5〜102.0eVのSi3N4等を主体としたスペクトルであることを確認し、比較材No.4は、特に酸化物と窒化物のピークが顕著に検出された。
Mnは48〜49eVのメタルと48.2eVのMnO、49.7eVのMn2O3、48.4eVのMn3O4の酸化物等を主体としたスペクトルであることを確認し、比較材No.4、5は、特にこれら酸化物のピークが顕著に検出された。
ただし、現存データベースと装置の分解能から必ずしも結合エネルギーピークを確実に捉えられていないため、その他の化合物がある場合や、それらの化合物と上記化合物の複合形態をとることも十分に考えられる。
【0035】
また、上記のNo.1〜No.5までの供試材を10%水酸化ナトリウム水溶液中で60℃×10分浸漬後、これを純水で洗浄、0.03Nの硝酸に2分浸漬してエッチングのむら模様の発生状況を確認する整面テストを行った結果について表7に示す。
整面処理テストで見られるエッチングのむらの判定は目視によって判定し、No.1の表面電子顕微鏡写真を図1に、No.3の表面電子顕微鏡写真を図2として示した。なお、腐食残渣の判定は、例えば、電子顕微鏡を用いれば、1000倍で10乃至30視野の領域を、ランダムに走査させて、判定しても良いし、エックス線分析で元素マッピングを行っても良い。
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
【表6】
【0041】
【表7】
【0042】
本発明で規定する濃度範囲内に調整されたNo.1、No.2、No.3は、整面処理のエッチングのむらが認めらず、腐食残渣もないことが判る。また、No.1の表面電子顕微鏡写真を観ると、均一な整面処理面であることが判る。
一方、No.4、No.5の比較材は、何れも整面処理でエッチングのむらが発生して、腐食残渣も認められた。また、No.4の表面電子顕微鏡写真でも判るように、整面処理面が不均一であることが判る。
【0043】
さらに、No.1〜5の試料と同じ工程で作成したFe−Ni系合金薄板をシャドウマスクとすべく、円形のエッチング孔をエッチング加工にて穿孔した場合の真円度0.60未満の孔の比率を表8に示す。
なお、この場合の評価はエッチング加工で穿孔したエッチング孔500個について、1つ1つを光学顕微鏡で400倍で150万画素のデジタルカメラで撮影し、これを画像処理装置による2値化と測定によって先の真円度の定義に基づいて各孔の真円度をもとめその真円度の度数分布を調査した。
【0044】
【表8】
【0045】
本発明のFe−Ni系合金薄板をシャドウマスク材として使用したNo.1〜3での場合はいずれも真円度が0.60未満の孔は見られていないが、比較例のNo.4とNo.5では真円度が0.60よりも小さい孔が認められ、エッチング孔が異形化したものが見られた。
本発明のFe−Ni系合金薄板をシャドウマスク材として使用したシャドウマスクのエッチング孔は真円度が0.60以上の優れた真円度を有することが判る。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば製面処理時のエッチングの均一性を飛躍的に改善することができ、加工精度の向上を一段と求められるFe−Ni合金薄板にとって欠くことのできない技術となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のFe−Ni系合金薄板を整面処理した時の表面の電子顕微鏡写真である。
【図2】比較材のFe−Ni系合金薄板を整面処理した時の表面の電子顕微鏡写真である。
【図3】比較材No.5のスパッタ0minのB(ホウ素)のESCAプロファイルを示す図である。
Claims (5)
- 最表面から1nmまでの深さを光電子分光装置で測定した時、結合エネルギー185〜196eVのB(ホウ素)の最大検出量が7原子%以下、結合エネルギー395〜403eVのN(窒素)の最大検出量が4原子%以下、結合エネルギー156〜168eVのS(硫黄)の最大検出量が2原子%以下であり、且つ、前記B ( ホウ素 ) とN ( 窒素 ) とS(硫黄)の最大検出量の総和が13原子%以下のFe−Ni系合金薄板であって、該Fe−Ni系合金薄板は重量%でNi:28〜52%、Si:0.03%以下、Mn:0.3%以下、S:0.006%以下、B:0.003%以下、N:0.005%以下を含有し、残部は不可避的不純物とFeでなることを特徴とする整面処理性に優れたFe−Ni系合金薄板。
- 最表面から1nmまでの深さを光電子分光装置で測定した時、結合エネルギー97〜105eVのSiの最大検出量が、4原子%以下、結合エネルギー45〜50eVのMnの最大検出量が、4原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載の整面処理性に優れたFe−Ni系合金薄板。
- 最表面から1nmまでの深さを光電子分光装置で測定した時、結合エネルギー185〜196eVのB(ホウ素)、結合エネルギー395〜403eVのN(窒素)、結合エネルギー156〜168eVのS(硫黄)、結合エネルギー97〜105eVのSi、結合エネルギー45〜50eVのMnの最大検出量の総和が、20原子%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の整面処理性に優れたFe−Ni系合金薄板。
- 請求項1乃至3の何れかに記載のFe−Ni系合金薄板を用いてなることを特徴とするシャドウマスク。
- 請求項1乃至3の何れかに記載のFe−Ni系合金薄板に円形のエッチング孔を形成した時、前記エッチング孔の真円度が、
4π×(孔面積)/(孔周囲長の2乗)≧0.60
の関係を満たすことを特徴とするシャドウマスク。
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1999
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