JP4162476B2 - 槽蓋用ロック装置 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は、誘導電流による磁気作用を利用した誘導リング式動力伝達装置を用いて構成される、洗濯機等における槽蓋用ロック装置に関するものである 。
【0002】
【背景技術】
従来から、例えば全自動洗濯機の洗濯兼脱水槽は、脱水時等に高速回転するようになっていることから、脱水終了直後に洗濯兼脱水槽の槽蓋を開操作すると洗濯兼脱水槽が未だ回転している場合があり、かかる状態下で、誤って腕等を洗濯兼脱水槽の中に入れてしまうと、腕が洗濯物に絡まる等して事故が起こるおそれがあった。
【0003】
そこで、このような問題に対処するために、例えば、ソレノイドへの通電によって駆動変位せしめられる作動体を利用して、洗濯兼脱水槽の回転作動時に槽蓋を開操作不能なロック状態とするロック装置を採用することが考えられる。ところが、かかるロック装置では、ソレノイドへの通電を遮断すると直ちに槽蓋のロック状態が解除されることから、停電やコンセント抜け等が原因で洗濯機が脱水作動中に停止した場合には、洗濯兼脱水槽の回転が停止していないにも拘わらずロック状態が解除されて槽蓋の開操作が可能となってしまい、前述の如き腕の洗濯兼脱水機への挿入による事故発生のおそれがあるという不具合があった。
【0004】
また、特許文献1には、ソレノイドへの通電によって動作する作動体を利用して槽蓋を開操作不能なロック状態とすると共に、その後ソレノイドへの通電が遮断されても、かかるロック状態が維持されるようにした構造のソレノイド式のロック装置が提案されている。しかしながら、かかるロック装置においては、ソレノイドへの通電が遮断されてロック状態に維持された場合に、再度、ソレノイドへ通電しなければロック状態を解除することが出来ないようになっていることから、例えば、脱水時に停電等が発生すると、ロック装置によって槽蓋が開操作不能な状態に維持されているために、停電が復旧しない限りロック状態が解除されず、洗濯物を取り出すことが出来ないという問題があった。
【0005】
なお、このような問題に鑑み、例えば、作動体を槽蓋をロック解除せしめるアンロック位置に向かって付勢して該アンロック位置に弾性的に保持せしめる付勢手段を設けると共に、電気モータの駆動力を作動体に伝達せしめて該付勢手段による付勢力に抗してロック位置に向かう方向に駆動力を伝達する駆動力伝達手段を設け、更に、離隔して対向配置した誘導用永久磁石と誘導リングを駆動力伝達手段による伝達経路上に配設し、それら誘導用永久磁石と誘導リングの間での誘導電流に基づく磁力の作用(磁気誘導)によって電気モータの駆動力を作動体に伝達せしめて、該作動体を付勢手段による付勢力に抗してロック位置に保持せしめるようにしたロック装置が考えられる。このようなロック装置によれば、作動体がロック位置に保持された状態下で電気モータの駆動が停止されると、付勢手段の付勢力によって作動体がアンロック位置に向かって返戻作動せしめられることとなるが、その際、誘導用永久磁石と誘導リングの間の誘導電流による磁気ダンパ作用に基づく作動抵抗力が駆動力伝達手段を介して作動体に及ぼされて、作動体が時間的に緩やかに返戻作動せしめられることとなり、電気モータの駆動停止から時間的に遅れて作動体による槽蓋のロック状態が解除されることとなる。従って、例えば電気モータが駆動停止して洗濯兼脱水槽の回転が略停止する程度の所定時間だけ、槽蓋を開操作不能にして、その後開蓋することが出来るのであり、それによって、回転中の洗濯兼脱水槽の中に誤って腕を入れること等に起因する事故を防止することが出来ると共に、停電時等にも洗濯兼脱水槽の回転が略停止した後には速やかに開蓋して洗濯物を取り出すことが出来るようになる。
【0006】
ところが、このようなロック装置においては、適用される各種の洗濯機の構造や使用条件等に応じて槽蓋のロック状態からアンロック状態に至る時間を設定変更する場合に、駆動力伝達手段を構成する歯車等を交換してギヤ比を変更設定することによって対応しなければならず、その対応が面倒であるという問題があったのである。
【0007】
【特許文献1】
特開平9−217532号公報
【0008】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、誘導用永久磁石と誘導リングの間の磁気誘導に伴う誘導リングの発生力が簡単な構造をもって容易に調整され得て駆動力の効率化および製造コストの低減化が両立して高度に達成され得る、新規な構造の誘導リング式動力伝達装置を用いることにより、洗濯機等に設けられた槽蓋のロック状態とアンロック状態の設定条件が有利に変更設定され得る新規な構造の洗濯機等における槽蓋用ロック装置を提供することにある。
【0009】
【0010】
【解決手段】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載され、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0011】
すなわち、本発明の第一の態様は、洗濯機等の回転槽を備えた装置本体に装着されて、該回転槽の開口部に配設された槽蓋を開操作不能に係止せしめ得る槽蓋用ロック装置であって、前記装置本体に対して変位可能に支持されて、前記槽蓋に対して係止されることにより該槽蓋の開操作を阻止せしめるロック位置と、該槽蓋に対する係止が解除されて該槽蓋の開操作を許容するアンロック位置とをとり得る係止ピンと、該係止ピンを前記アンロック位置に向かって付勢して、該アンロック位置に弾性的に保持せしめる付勢手段と、ロータにモータ用永久磁石を設けると共に、ステータに設けたコイルへの通電によって該モータ用永久磁石に対して回転駆動力が及ぼされることにより、一方向に連続して回転作動せしめられる電気モータと、該電気モータによる回転力を前記係止ピンに伝達せしめて、該係止ピンに対して前記付勢手段による付勢力に抗して前記ロック位置に向かう方向に駆動力を伝達する駆動力伝達手段と、前記電気モータの回転駆動力を被駆動部材としての前記係止ピンに伝達する伝達経路上において、前記モータ用永久磁石を誘導用永久磁石として利用すると共に、該誘導用永久磁石の径方向外方に誘導リングを配設して、該誘導用永久磁石と該誘導リングを相互に離隔して対向するように同一の回転中心軸上でそれぞれ回転可能に配置せしめ、該誘導リングの外周面に強磁性材からなる補強部材を固着して、該電気モータの通電時には該誘導用永久磁石と該誘導リングの間での磁気誘導により該電気モータにおける該誘導用永久磁石の回転駆動力を該誘導リングを介して該係止ピンに伝達せしめて、該係止ピンを前記付勢手段による付勢力に抗して前記ロック位置に保持せしめる一方、該電気モータの通電停止時には該付勢手段による付勢力により逆方向の回転駆動力が該誘導リングに伝達せしめられると共に、該誘導リングと該誘導用永久磁石との間で磁気誘導による回転抵抗力が生じることにより、該係止ピンが逆方向の回転駆動力に従って緩やかに前記アンロック位置へ返戻作動せしめられるようにした誘導リング式動力伝達装置とを、有することを、特徴とする。
【0012】
このような本態様に従う構造とされた槽蓋用ロック装置における誘導リング式動力伝達装置においては、電気モータに通電することにより、誘導用永久磁石と誘導リングの間での誘導電流に基づく磁力の作用によって誘導用永久磁石と誘導リングが非接触につれ回りして、回転駆動力が被駆動部材に伝達される。
【0013】
そこにおいて、本態様では、導電体からなる誘導リングの外周面に強磁性材からなる補強部材が固着されていることにより、誘導リングに作用する有効磁束が大きく確保されて、誘導用永久磁石と誘導リングの間での誘導電流に基づく磁力の作用が一層効果的に発揮される。それ故、誘導用永久磁石と誘導リングの間での回転力の伝達効率が向上され得るのであり、それによって、回転駆動力の高効率化、ひいてはエネルギコストの削減が簡単な構造をもって有利に図られ得る。
【0014】
しかも、本態様においては、補強部材の形状や大きさ、材質等を適宜に設定変更することにより、誘導用永久磁石と誘導リングの間での誘導電流に基づく磁力の作用による回転力の伝達効率を容易に調整することが可能となる。また、補強部材の形状や大きさ、材質等を調整することにより、電気モータが停止せしめられた際に被駆動部材に対して及ぼされる磁気ダンパ作用の大きさも、同様にして、容易に調整することが出来るのである。
【0015】
なお、本態様においては、誘導用永久磁石や誘導リングの構造や大きさ、形状等は特に限定されるものではない。また、例えば電気モータと被駆動部材の伝達経路上に歯車機構等の減速手段を設けることも可能である。また、電気モータとしては、各種のものが採用可能であるが、電気モータが停止した際の被駆動部材に対する磁気ダンパ作用を有利に得るためには、大きなディテントトルクが生ぜしめられるものが望ましく、例えば、同期モータや誘導モータが好適に採用される。また、誘導リングは、充分な機械的強度を備えた非磁性の導電体であれば良く、例えば、チタン(Ti)やバナジウム(V) 、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)等の常磁性体や、銅(Cu)等の反磁性体等を用いることが可能である。また、補強部材には、例えば鉄(Fe)やニッケル(Ni)、コバルト(Co)等の強磁性体が好適に用いられ得る。更に、補強部材の形状や大きさ等は、特に限定されるものでないが、望ましくは、厚さ寸法や幅寸法等が大きいものが採用され得る。
【0016】
【0017】
【0018】
また、本態様に従う構造とされた槽蓋用ロック装置においては、洗濯機の脱水作動等に際して、電気モータに通電することにより、電気モータの回転力が駆動力伝達手段や誘導リング式動力伝達装置を介して係止ピンに及ぼされて該係止ピンがロック位置に移動および保持せしめられることとなり、以て、槽蓋が開操作不能に保持され得る。また一方、かかる係止ピンがロック位置に保持された状態下で、電気モータへの通電が中止されると、付勢手段の付勢力によって係止ピンがアンロック位置に向かって返戻作動せしめられることとなる。その際、係止ピンの返戻作動に伴う駆動力が該係止ピンの側から入力されて電気モータの側に向かって逆向きに伝達されることとなり、駆動力伝達手段に作動抵抗力が発生すると共に、駆動力伝達手段の伝達経路上に配された誘導リング式動力伝達装置が逆向きに作動せしめられて、誘導用永久磁石と誘導リングが相対回転されると共にそれら誘導用永久磁石と誘導リングの間に生ぜしめられる磁気誘導の作用によりかかる相対的な回転速度に応じた抵抗力が発生することとなり、その結果、係止ピンの返戻作動に伴い駆動力伝達手段の作動抵抗力と誘導用永久磁石と誘導リングの回転抵抗力が係止ピンに及ぼされて、係止ピンが時間的に緩やかに返戻作動せしめられることとなり、電気モータへの通電の中止から時間的に適当な遅れをもって係止ピンによるロック状態が解除されることとなる。
【0019】
そこにおいて、特に本態様では、誘導リングの外周面に強磁性材からなる補強部材を固着した誘導リング式動力伝達装置を用いたことにより、誘導用永久磁石と誘導リングの間の磁気作用による吸引力が向上されて、誘導用永久磁石と誘導リングの間での磁気誘導による回転力の高効率化が図られることから、電気モータに通電した際に、係止ピンがロック位置に変位する速度が大きくされ得るのであり、それによって、回転槽が回転駆動されると直ちに槽蓋のロック状態が保持され得るようにすることが可能となり、安全性が有利に向上され得るのである。
【0020】
しかも、本態様では、誘導リングに固着される補強部材の大きさや形状、材質等を適宜に設定変更することにより、電気モータに通電した際の誘導用永久磁石と誘導リングの間の磁気誘導に伴う回転力や、電気モータに通電を中止した後の誘導用永久磁石と誘導リングの間の誘導電流に基づく磁力作用による回転抵抗力を容易に調整することが可能となり、以て、係止ピンのアンロック位置からロック位置への移動時間や該ロック位置からアンロック位置への返戻作動に要する時間等の設定変更が、補強部材の大きさや形状、材質等を設定変更するという簡単な作業で実現されることから、製作性やコスト削減化が効果的に向上され得ると共に、各種槽蓋を備えた装置本体への適用範囲が有利に拡張され得る。
また、本態様においては、電気モータを構成するモータ用永久磁石を利用して誘導リング式動力伝達装置が構成されることから、誘導用永久磁石を別途設ける必要がなく、ロック装置を構成する部品点数を少なくすることが可能となり、ロック装置の構造の簡略化や低コスト化が図られ得る。
そして、本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る槽蓋用ロック装置において、前記誘導リングにおける前記永久磁石に対する対向部位を、回転中心軸回りで同一方向に連続して広がる環状体とすると共に、前記補強部材を該環状体の全周に亘って連続して設けたことを特徴とする。このような本態様においては、電磁誘導が及ぼされる誘導リングの全周に亘って補強部材が配設されることから、上述の如き回転駆動力の伝達効率や磁気ダンパ作用の向上効果が一層有利に実現され得る。なお、本態様の環状体は、誘導リングの形状に応じて例えば円環板形状や円筒形状等が適宜に採用され得る。より具体的には、例えば厚さ寸法が小さいテープ材を複数回巻き付けたり、厚さ寸法が大きいリング部材を外嵌固定する等して固着せしめた構造等が採用され得る。
【0021】
また、本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る槽蓋用ロック装置であって、前記係止ピンを前記ロック位置と前記アンロック位置との変位方向の両側において、該ロック位置と該アンロック位置に対してそれぞれ位置決めするストッパ手段を設けたことを、特徴とする。このような本態様においては、係止ピンをロック位置とアンロック位置に位置決めすることが可能となって、係止ピンによる槽蓋のロック/アンロックの作動の安定性が向上され得る。なお、かかるストッパ手段は、係止ピンに対して当接等することによって係止ピンの移動位置を直接に規定する他、駆動力伝達手段を構成する歯車等の作動範囲を制限的に規定することによって係止ピンの移動位置を間接的に規定するもの等であっても良い。
【0022】
また、本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れかの態様に係る槽蓋用ロック装置であって、前記駆動力伝達手段において、前記電気モータの出力軸の回転を減速せしめて前記係止ピンに駆動力を及ぼす減速機構を採用すると共に、該駆動力伝達手段による該電気モータの出力軸から前記係止ピンに至る駆動力の伝達経路上において、前記付勢手段よりも前記誘導リング式動力伝達装置を、該電気モータの出力軸に近い位置に設けたことを、特徴とする。このような本態様においては、係止ピンをアンロック位置に保持するための付勢手段による付勢力を、係止ピンに対してより効率的に及ぼすことが可能となると共に、係止ピンのロック位置からアンロック位置への返戻作動に際して、誘導リング式動力伝達装置による抵抗力を係止ピンに対して一層効率的に作用せしめることが可能となる。
【0023】
【0024】
【発明の実施形態】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0025】
先ず、図1〜5には、本発明の第一の実施形態として、誘導リング式動力伝達装置10を組み付けた洗濯機等における槽蓋のロック装置12が示されている。このロック装置12は、電気モータ14や永久磁石16、誘導リング18等を含んで構成されており、開口箱体構造を有するハウジング本体20に対してその開口部に蓋体22が重ね合わされて固着されることによって略閉塞状の中空箱体構造とされ、図示しない洗濯機本体に装着されるハウジング24を備えている。そして、電気モータ14に通電することにより、電気モータ14の回転駆動力が永久磁石16や誘導リング18等を介して係止レバー26に伝達されて、係止レバー26が、図示しない槽蓋の開操作を許容するアンロック位置からロック位置に保持されるようになっており、また、電気モータ14への通電を中止することにより、係止レバー26がロック位置からアンロック位置に返戻作動されるようになっている。
【0026】
より詳細には、電気モータ14はハウジング本体20の最底部に収容配置されている。この電気モータ14は、交流同期モータとされており、出力軸としてのロータ28が中心軸上で回転可能に配設されていると共に、ロータ28の周囲には、円環形状のコイル30がステータ32に固定された状態で配設されている。ロータ28は、略厚肉円筒形状の永久磁石16にスリーブ34が固定された構造とされており、スリーブ34を軸方向に貫通して形成された中心孔36において、ステータ32の中心軸上に固設されたロータ支軸38に対して、回転可能に外挿されている。また、永久磁石16には、係止爪40が形成されていると共に、かかる係止爪40の近くには、係止爪40に対してロータ28の回転方向一方向で係止される係止部材42が一軸回りで揺動可能に配設されている。そして、これら係止爪40と係止部材42によって、ロータ28の回転方向を規定する逆回転防止機能が構成されている。また、永久磁石16の外周面には、周方向に交互に複数対のN磁極とS磁極が設定されている。
【0027】
さらに、コイル30は、電気絶縁材からなる糸巻き形状のボビン44に対してワイヤが巻回された構造とされている。また一方、ステータ32は、それぞれ強磁性材によって形成された上側ステータ部材46と下側ステータ部材48によって構成されている。上側ステータ部材46は、全体として薄肉円環形状を有しており、その内周縁部には、複数の突出部50が形成されており、かかる突出部50は、軸方向一方の側に屈曲されている。また、下側ステータ部材48は、全体として有底円筒形状を有しており、その底壁部には、複数の突出片52が設けられている。これら複数の突出片52は、それぞれ、下側ステータ部材48の底壁部から切り起こされて、下側ステータ部材48の筒壁部と略平行とされている。
【0028】
そして、これら上側ステータ部材46と下側ステータ部材48がコイル30に対して固定的に組み付けられることによって、ステータ32がコイル30に固定されており、かかる状態下において、上側ステータ部材46に設けられた複数の突出部50と下側ステータ部材48に設けられた複数の突出片52が、コイル30の内周面上において、周方向に所定距離を隔てて位置せしめられている。このように周方向に所定距離を隔てて位置せしめられた上側ステータ部材46に設けられた突出部50と下側ステータ部材48に設けられた突出片52によって、コイル30の内周面上において、周方向に所定距離を隔てて位置せしめられた複数の磁極部が形成されており、それら複数の磁極部がロータ28の外周面に設けられた磁極に対して径方向で離隔して対向配置せしめられている。そしてコイル30への通電により、ステータ32とロータ28の両極部間に作用する磁力に基づいて、ロータ28に回転駆動力が及ぼされるようになっている。
【0029】
さらに、ロータ28を構成する永久磁石16の径方向外方には、誘導リング18が配設されている。かかる誘導リング18は、銅やアルミニウム等の金属系の導電体によって形成されており、全体として逆カップ形状を有していると共に、その内径寸法は、永久磁石16の外径寸法よりも大きくされている。また、誘導リング18の上底部の中心軸上には、軸方向外方に突出するようにして出力軸54が固設されていると共に、かかる出力軸54の軸方向外方に突出した部分には、出力ピニオン56が形成されている。そして誘導リング18は、永久磁石16に外挿されて、ロータ支軸38回りで回転可能に配設されており、永久磁石16と誘導リング18の間での磁気誘導によってロータ28乃至は永久磁石16の回転駆動力が誘導リング18に伝達されて、誘導リング18が永久磁石16と同じ方向に回転せしめられるようになっている。なお、このことから明らかなように、本実施形態では、ロータ28に設けられた永久磁石16を誘導用永久磁石として利用している。
【0030】
また、ロック装置12におけるハウジング24の周壁部には、切欠き58が形成されており、この切欠き58に対して、外方に突出する給電用電極60,60を有する電極ブロック62が嵌合配置されている。
【0031】
さらに、このようなロック装置12には、駆動力伝達手段としての減速歯車列64が設けられている。この減速歯車列64は、1番車66、2番車68、3番車70、4番車72を含んで構成されている。1番車66は、同軸上に一体形成された1番ピニオン74と1番歯車76を有しており、1番歯車76が出力ピニオン56に噛合されている。2番車68は、同軸上に一体形成された2番ピニオン78と2番歯車80を有しており、2番歯車80が1番ピニオン74に噛合されている。3番車70は、同軸上に一体形成された3番ピニオン82と3番歯車84を有しており、3番歯車84が2番ピニオン78に噛合されている。4番車72は、4番歯車86を有しており、かかる4番歯車86が3番ピニオン82に噛合されている。また、4番車72には、同軸上に上側ボス部88と下側ボス部90が設けられており、上側ボス部88は、蓋体22に設けられた挿通孔92からハウジング24の外部に突出せしめられていると共に、その突出先端部分には、係止レバー26が取り付けられている。これによって、電気モータ14の回転駆動力が、誘導リング18や、減速歯車列64を構成する1番車66、2番車68、3番車70および4番車72を介して、係止レバー26に伝達されるようになっている。
【0032】
また、これら1乃至3番車66,68,70の支軸94,96,98は、何れも、上側ステータ部材46と蓋体22の間に跨って配設支持されており、ロータ支軸38と平行に延びる状態で、互いに平行に配設されている。また、4番車72は、下側ボス部90の先端部分が、ボビン44に設けられた筒状の支持部100に対して、回転可能に内挿されていると共に、上側ボス部88の突出先端部が、蓋体22に設けられた挿通孔92に対して、回転可能に内挿配置されており、かかる状態下において、上側ボス部88と下側ボス部90の中心軸、即ち、4番車72の中心軸は、ロータ支軸38と平行とされている。
【0033】
また、係止レバー26は、全体として長手平板形状を有していると共に、その長手方向一方の端部には、厚さ方向一方の側に突出する係止突部102が一体形成されており、かかる係止突部102が図示しない槽蓋に対して係止されるようになっている。そして、係止レバー26は、長手方向他方の端部が4番車72の上側ボス部88にボルト固定されるようになっており、それによって、係止レバー26が4番車72と一体的に回動せしめられるようになっている。また、係止レバー26の近くには、係止レバー26の回動量を規定するストッパ手段としてのアンロック位置側ストッパ突起104とロック位置側ストッパ突起106が、蓋体22に突設されている。
【0034】
更にまた、4番車72には、ケース108が取り付けられている。このケース108は、硬質の合成樹脂材等の硬質材で構成されており、全体として逆カップ形状を有している。また、ケース108の上底壁部の中央部分には、中心孔110が形成されていると共に、ケース108の周壁部には、切欠部112が設けられている。そして、ケース108は、中心孔110に4番車72の下側ボス部90が内挿されて接着等によって固定されることによって、4番車72に取り付けられている。また、ケース108内には、付勢手段としてのゼンマイ114が配設されている。このゼンマイ114は、ばね鋼等によって形成された板ばねが、4番車72の下側ボス部90の回りで渦巻き状に巻かれた形状を有しており、周方向一方の端部が下側ボス部90に係止されていると共に、周方向他方の端部がハウジング本体20に設けられた係止片116に係止されている。それによって、4番車72と一体的に回動せしめられる係止レバー26が、ゼンマイ114の付勢力によって、アンロック位置に弾性的に保持せしめられるようになっている。
【0035】
また、特に本実施形態では、誘導リング18の外周面、換言すれば誘導リング18における永久磁石16に対向する面と反対側の面には、補強部材としてのショートリング118が固着されている。かかるショートリング118は、薄肉の円環形状とされており、鉄やニッケル、コバルト等の強磁性材により形成されていると共に、該ショートリング118の内径寸法が誘導リング18の外径寸法と略同一とされている。そして、ショートリング118は、予め射出成形や押し出し成形等によりリング状に形成したものを圧入やかしめ固定等により誘導リング18に固着したり、或いは長手矩形板形状を呈し、且つ弾性変形乃至は塑性変形可能な強磁性材を誘導リング18に巻き付けて両端部を接合すると共に、必要に応じて接着剤や粘着テープ等を用いて固着することにより誘導リング18に固定されている。なお、上述の説明から明らかなように、本実施形態では、誘導リング18の筒壁部が、該誘導リング18の永久磁石16に対する対向部位を回転中心軸回りで周方向に連続して広がる環状体とされていると共に、ショートリング118がかかる環状体の全周に亘って連続して設けられている。また、本実施形態においては、誘導リング式動力伝達装置10が、誘導リング18や永久磁石16、ショートリング118を含んで構成されていると共に、電気モータ14の回転駆動力を伝達する被駆動部材が係止レバー26とされている。
【0036】
次に、このような構造とされた誘導リング式動力伝達装置10を備えたロック装置12の作動形態を、図6〜8等を参照しつつ説明する。先ず、ロック装置12に電源が接続されていない状態では、図6に示されているように、係止レバー26には、ゼンマイ114による付勢力が及ぼされることにより、アンロック位置側ストッパ突起104に当接せしめられた一方の移動端に保持されている。そして、かかる状態下において、ロック装置12に電源を接続して、電気モータ14のコイル30に通電することにより、ロータ28が回転駆動せしめられることとなる。
【0037】
その際、ロータ28を構成する永久磁石16と永久磁石16の径方向外方に位置せしめられた誘導リング18との間での磁気誘導によって、ロータ28の回転駆動力が、誘導リング18に固設された出力ピニオン56から減速歯車列64を構成する1番車66、2番車68、3番車70および4番車72へと伝達されるようになっている。そして、4番車72は、ゼンマイ114の付勢力に抗する方向に回動せしめられることとなり、それによって、係止レバー26が、アンロック位置からロック位置に向かって駆動せしめられる。なお、上述の説明からも、本実施形態では、電気モータ14の出力軸から係止レバー26に至る駆動力の伝達経路上においては、誘導リング式動力伝達装置10が付勢手段としてのゼンマイ114よりも電気モータ14の出力軸に近い位置に設けられていることが、明らかである。
【0038】
このようにロック位置へ向かって駆動せしめられる係止レバー26は、図7に示されているように、図示しない洗濯機の槽蓋を開操作不能にすることが出来る位置:Pを通過した後も、ロック位置側ストッパ突起106に当接するまで、回動作動を継続するようになっている。そして、係止レバー26が、図8に示されているように、ロック位置側ストッパ突起106に当接した後、ロック位置に電源が接続されない状態となり、電気モータ14のコイル30への通電が中止されて、ロータ28の回転が停止する。
【0039】
その際、4番車72は、ゼンマイ114の付勢力によって、逆方向に回動せしめられるようになっており、かかる4番車72の回動力が、3番車70,2番車68、1番車66、出力ピニオン56と伝達されて、誘導リング18が逆方向に回転せしめられる。また、4番車72が逆方向に回動せしめられることによって、4番車72と一体的に回動する係止レバー26もアンロック位置へ向かって回動せしめられる。このことからも明らかなように、本実施形態では、係止レバー26の返戻作動時において、誘導リング18は、係止レバー26に対して、出力ピニオン56、1番車66、2番車68、3番車70、4番車72を介して連結されており、係止レバー26の回動と連動して回転せしめられるようになっている。また、係止レバー26の返戻作動時においては、電気モータ14への通電が中止されていることから、永久磁石16とステータ32の間の磁力の作用によって、ロータ28は回転不能とされている。このことから明らかなように、本実施形態では、永久磁石16は、ロータ28の回転と連動して回転せしめられるようになっていることから、係止レバー26の返戻作動時にロータ28とステータ32の間の磁力の作用により、回転不能に保持されているのである。そして、係止レバー26は、槽蓋を開操作不能にすることが出来る位置:Pを再び通過した後、更に回動作動を続けて、図6に示されているように、アンロック位置側ストッパ突起104に当接することによって回動作動を終了する。
【0040】
このような誘導リング式動力伝達装置10を用いた洗濯機等の槽蓋用ロック装置12においては、誘導リング18の外周面に強磁性材からなるショートリング118が固着されていることにより、誘導リング18に作用する磁束密度が大きくされることとなり、それによって、永久磁石16が発生する回転磁界と該回転磁界により誘導リング18に誘導される渦電流との間に発生する電磁力が有効に発揮されることから、係止レバー26をゼンマイ114による付勢力に抗してロック位置側ストッパ突起106に速やかに当接させることが出来、洗濯機等の回転槽の回転時における槽蓋のロック状態が速やかに実現されて安全性が有利に向上され得るのである。
【0041】
しかも、本実施形態では、電気モータ14のコイル30への通電を中止して係止レバー26がロック位置からアンロック位置へ向かって移動する際に、誘導リング18と永久磁石16との間の磁気誘導によって誘導リング18の回転速度に比例した大きさで生ぜしめられる磁気ダンパとしての抵抗力が、ショートリング118が誘導リング18に固着されていることによってより一層大きくされ得るのであり、図7に示されているように、係止レバー16がロック位置からアンロック位置へ移動する時間:t2 を、係止レバー16がアンロック位置からロック位置へ移動する時間:t1 よりも効果的に長くすることが出来、それによって、例えば、停電等のトラブルによって電気モータ14への通電が中止された場合においても、所定の時間は、槽蓋を開操作不能にすることが出来ることから、槽蓋を開操作して、誤って洗濯機等の回転槽の中に腕を入れてしまうことを、有利に防止することが出来るのである。
【0042】
また、特に本実施形態では、係止レバー26のアンロック位置からロック位置へ移動する時間:t1 や係止レバー26のロック位置からアンロック位置へ移動する時間:t2 が、例えば減速歯車列64における1乃至4番車66,68,70,72やその他のロック装置12の構成部品を変更することなく、ショートリング118の大きさや形状、材質等を変更することで容易に設定変更され得ることから、製作コストの削減やかかるロック装置12を設けた洗濯機の使用性等が有利に向上され得る。
【0043】
さらに、本実施形態においては、永久磁石16と誘導リング18の間で生ぜしめられる磁気誘導によって永久磁石16と誘導リング18の相対的な回転速度に応じた抵抗力が係止レバー26に及ぼされることから、係止レバー26のアンロック位置への移動速度を抑えつつ、係止レバー26をアンロック位置まで確実に返戻作動させることが出来るのであり、また、係止レバー26の返戻作動に対して抵抗力を与えるためにオイルダンパ等を採用する場合に比して、構造の簡略化と低コスト化が図られ得る。
【0044】
更にまた、本実施形態では、誘導リング式動力伝達装置10によって、電気モータ14の回転力を係止レバー26に対して非接触で伝達するようになっていることから、電気モータ14の回転力を及ぼして係止レバー26をロック位置に保持するために、例えば電気モータ14の回転力を係止レバー26に伝達する伝達経路上に摩擦クラッチを配設する場合に比して、摩耗による作動特性の低下が回避され得て、優れた耐久性が実現可能となる。
【0045】
因みに、ショートリング118を誘導リング18に固着した誘導リング式動力伝達装置10を備えた本実施形態のロック装置:Aとショートリング118を誘導リング18に固着しない誘導リング式動力伝達装置を備えた比較装置:Bを準備して、それらロック装置Aと比較装置Bにおける係止レバー26をアンロック位置からロック位置に導く際の係止レバー26の動作時間および電気モータ14の負荷について、それぞれ測定し、その結果を図9に示すと共に、ロック装置:Aと比較装置:Bにおける係止レバー26をロック位置からアンロック位置に導く際の係止レバー26の戻り時間および電気モータ14の負荷について、それぞれ測定し、その結果を図10に示す。
【0046】
図9の結果からも、ショートリング118を誘導リング18に固着したロック装置:Aは、ショートリング118を誘導リング18に固着していない比較装置:Bに比して、電気モータ14における所定の負荷:l1 で係止レバー26をアンロック位置からロック位置に導くための動作時間がt1 −t0 だけ短くなることが、明らかである。また、図10からも、ロック装置:Aは、比較装置:Bに比して、電気モータ14における所定の負荷:l2 で係止レバー26をロック位置からアンロック位置に導くための戻り時間がt3 −t2 だけ長くなることが、明らかである。
【0047】
次に、図11〜14には、本発明の第二の実施形態として、誘導リング式動力伝達装置120を組み付けた洗濯機等における槽蓋のロック装置122が示されている。この誘導リング式動力伝達装置120は、第一の実施形態の誘導リング式動力伝達装置10に比して、ショートリング118の代わりにカップ状強磁性体124を備えていると共に、ロック装置122は、第一の実施形態のロック装置12に比して、係止レバー26の代わりに位置決めカム126とカムレバー128を備えている。なお、以下の説明において、第一の実施形態と同様な構造とされた部材および部位については、図中に、第一の実施形態と同様な符号を付することにより、それらの詳細な説明を省略する。
【0048】
詳細には、本実施形態における誘導リング18の外周面、換言すれば誘導リング18における永久磁石16に対向する面と反対側の面には、補強部材としてのカップ状強磁性体124が固着されている。かかるカップ状強磁性体124は、略有底円筒形状を呈しており、鉄やニッケル、コバルト等の強磁性材により形成されていると共に、カップ状強磁性体124の内径寸法が誘導リング18の外径寸法と略同一とされている。また、カップ状強磁性体124の上底部の略中央部分には、挿通孔130が貫設されている。そして、カップ状強磁性体124は、挿通孔130が誘導リング18の中心軸上に配設された出力軸54を貫通すると共に、圧入やかしめ固定等によって誘導リング18に固着されることにより、誘導リング18の外周面の略全体を覆っている。
【0049】
また、本実施形態のロック装置122における4番車72の上側ボス部88の突出先端部分には、係止レバー26の代わりに、回動部材132が配設されている。この回動部材132は、硬質の合成樹脂等の硬質材によって形成されており、円筒形状の軸部134を備えている。また、軸部134の下端部には、軸直角方向外方に突出する円環形状のフランジ部136が一体形成されている。更に、フランジ部136には、径方向外方に突出する突出部138が設けられていると共に、かかる突出部138の突出先端部分には、厚さ方向一方(図11中、上)に突出する当接突起140が一体形成されている。そして、回動部材132は、軸部134の内孔に対して上側ボス部88が圧入固定されることによって、4番車72に固定されており、それによって、回動部材132は、4番車72と一体的に回動するようになっている。
【0050】
また、回動部材132の上方には、位置決めカム126が配設されている。位置決めカム126は、硬質の合成樹脂等の硬質材によって形成されており、略一定の外径寸法で略半周に亘って広がる小径部142と該小径部142の外径寸法よりも大きな略一定の外径寸法で略半周に亘って広がる大径部144を含んで構成されている。また、小径部142の周方向一方の端部には、周方向一方の側に行くに従って次第に大径部144の外径寸法まで大径化する接続部146が設けられている。更に、小径部142の周方向他方の端部は、径方向外方に延びる段差面148によって、大径部144の周方向一方の端部と連接されている。ここにおいて、本実施形態では、接続部146と大径部144の外周面によって、カム面が形成されている。また、大径部144には、周方向に延びる貫通孔150が形成されている。そして、位置決めカム126は、回動部材132に対して相対回動可能に配設されており、かかる配設状態下において、回動部材132に設けられた当接突起140は、位置決めカム126に設けられた貫通孔150内に位置せしめられるようになっている。なお、4番車72の上側ボス部88の突出先端面には、ストッパ板152がボルト固定されており、それによって、位置決めカム126の回動部材132における軸部134からの抜け落ちが防止されるようになっている。
【0051】
また、位置決めカム126の近くには、係止ピンとしてのカムレバー128が配設されている。このカムレバー128は、全体として長手平板形状を有しており、長手方向一方の端部には、内孔を有する軸部154が厚さ方向一方(図11中、下)に突出するようにして一体形成されていると共に、長手方向他方の端部には、係止突起156が厚さ方向他方(図13,14中、上)に突出するようにして一体形成されており、かかる係止突起156が図示しない槽蓋に対して係止されるようになっている。また、カムレバー128の幅方向一方には、幅方向外方に突出するように、当接部158が一体形成されている。そして、カムレバー128は、軸部154が蓋体22に固設された支軸160に外挿されて、該支軸160回りで揺動可能に配設されている。また、カムレバー128の軸部154には、コイルスプリング162が巻き付けられており、かかるコイルスプリング162の付勢力によってカムレバー128がアンロック位置に弾性的に保持せしめられるようになっている。なお、支軸160の突出先端面には、支軸160の外径寸法よりも大きな外径寸法を有するストッパ板164がボルト固定されており、それによって、カムレバー128が支軸160から抜け落ちるのを防止するようになっている。
【0052】
次に、上述の如き構造とされた誘導リング式動力伝達装置120を備えたロック装置122の作動形態を、図15〜19等を参照しつつ説明する。先ず、ロック装置122に電源が接続されていない状態において、図15に示されているように、回動部材132の突出部138は、アンロック位置側ストッパ突起104に当接されていると共に、回動部材132の当接突起140は、位置決めカム126の貫通孔150の内周面に当接しない状態とされており、また、カムレバー128の当接部158は、小径部142と接続部146の接続部位に位置せしめられており、それによって、カムレバー128は、アンロック位置に位置せしめられているのである。そして、ロック装置122に電源が接続されると、電気モータ14のコイル30に通電されて、ロータ28が回転せしめられる。
【0053】
その際、ロータ28を構成する永久磁石16と誘導リング18の間での磁気誘導によって、ロータ28の回転駆動力を、誘導リング18に固設された出力ピニオン56から減速歯車列64を構成する1番車66、2番車68、3番車70および4番車72へと伝達するようになっており、それによって、4番車72がゼンマイ114の付勢力に抗する方向に回動せしめられる。そして、回動部材132の当接突起140が、図16に示されているように、位置決めカム126の貫通孔150の周方向一方(接続部146に近設する側)の内周面に当接した後、位置決めカム126が回動部材132と一体的に回動せしめられることとなり、それによって、カムレバー128の当接部158が接続部146に当接されて、カムレバー128がロック位置へ向かって駆動せしめられるようになっており、接続部146に当接されていた当接部158が大径部144に当接せしめられて、カムレバー128がコイルスプリング162の付勢力に抗してロック位置に位置せしめられる。即ち、本実施形態では、回動部材132の当接突起140が位置決めカム126の貫通孔150の内周面に当接するまでは、カムレバー128は、ロック位置側に向かって移動しないようになっている。
【0054】
このように当接部158が大径部144に当接された状態、即ち、槽蓋を開操作不能にした状態で、回動部材132は、図17に示されているように、突出部138がロック位置側ストッパ突起106に当接するまで、回動せしめられるようになっており、突出部138がロック位置側ストッパ突起106に当接した後、ロック装置122に電源が接続されていない状態となり、電気モータ14のコイル30への通電が中止されて、ロータ28の回転が停止する。
【0055】
その際、4番車72は、ゼンマイ114の付勢力で逆方向に回動せしめられるようになっており、かかる4番車72の回動力が、3番車70、2番車68、1番車66、出力ピニオン56と伝達されて、誘導リング18が逆方向に回転せしめられる。また、4番車72が回動せしめられることによって、4番車72と一体的に回動する回動部材132もアンロック位置へ向かって、即ち、逆方向に回動し始めることとなるが、当接突起140が貫通孔150の周方向他方(段差面148に近設する側)の内周面に当接していないことから、回動部材132の回動開始時には、回動部材132のみが回動せしめられる。そして、図18に示されているように、当接突起140が貫通孔150の内周面に当接した後は、突出部138がアンロック位置側ストッパ突起104に当接するまで、回動部材132は、位置決めカム126と一体的に逆方向に回動せしめられる。また、突出部138が、図19に示されているように、アンロック位置側ストッパ突起104に当接せしめられると、カムレバー128の当接部158は、コイルスプリング162の付勢力によって、接続部146を大径部144側から小径部142側に摺動せしめられるようになっており、それによって、カムレバー128の当接部158が、図15に示されているように、接続部146と小径部142の接続部分に位置せしめられると共に、当接突起140が貫通孔150の内周面に当接していない状態となる。即ち、本実施形態では、カムレバー128はロック位置からアンロック位置に向かって速やかに移動せしめられるようになっている。なお、このことから明らかように、本実施形態では、ゼンマイ114とコイルスプリング162が協働することによって、付勢手段が構成されている。
【0056】
上述の如き構造とされた誘導リング式動力伝達装置120を備えたロック装置122においては、誘導リング18の外周面の略全体が強磁性材からなるカップ状強磁性体124で覆われていることから、磁束密度がより一層大きくされることとなり、永久磁石16が発生する回転磁界と該回転磁界により誘導リング18に誘導される渦電流との間に発生する電磁力がより有効に発揮されることから、電気モータ14の通電時における誘導リング18の回転駆動力の向上に伴う槽蓋のロック状態への作動速度と、電気モータ14の通電中止時における誘導リング18と永久磁石16の磁気ダンパ作用による抵抗力の向上に伴う槽蓋のロック状態からアンロック状態への遅延動作が、より効果的に達成され得る。
【0057】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、これら実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものでない。
【0058】
例えば、前記実施形態では、電気モータとして交流同期モータが採用されていたが、本発明において採用される交流同期モータのコイルの数等の具体的構造は、かかる実施形態の記載等によって、何等限定されるものでなく、また、本発明においては、交流同期モータの他、誘導モータや直流モータを採用することも可能である。
【0059】
また、前記実施形態では、駆動力伝達手段として減速歯車列が採用されていたが、ベルトやプーリ等を採用することも可能である。
【0060】
さらに、誘導リング式動力伝達装置を構成する誘導用永久磁石と誘導リングの具体的な形状等は、例示の如き形状のものに限定されるものでない。
【0061】
【0062】
また、本発明の槽蓋とは、全自動洗濯機における洗濯兼脱水槽の槽蓋の他、二槽式洗濯機の洗濯槽の槽蓋や脱水槽の槽蓋、乾燥機のドラムの蓋等に適用可能である。
【0063】
さらに、前記第一の実施形態では、係止レバーがロック位置側ストッパ突起に当接した直後に電気モータへの通電が中止されていたが、係止レバーがロック位置側ストッパ突起に当接した後、所定時間が経過してから、電気モータへの通電を中止しても良い。
【0064】
更にまた、前記第二の実施形態では、突出部がロック位置側ストッパ突起に当接した直後に電気モータへの通電が中止されていたが、突出部がロック位置側ストッパ突起に当接した後、所定時間が経過してから、電気モータへの通電を中止しても良い。
【0065】
また、前記実施形態の誘導リングに固着される補強部材としては、例示の如き形状や大きさ、構造等のものに限定されるものでなく、例えば厚さ寸法の大きな多角形筒状の強磁性体や複数の環状リングからなる強磁性体を採用することも可能である。
【0066】
さらに、本発明に従う構造とされた誘導リング式動力伝達装置においては、例示の如き洗濯機の槽蓋用ロック装置への適用に限定されるものでなく、電動機を用いた駆動方式による各種の機械装置への適用が図られ得る。
【0067】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【0068】
【実施例】
本発明に従う構造とされた誘導リング式動力伝達装置を備えた洗濯機等の槽蓋用ロック装置における補強部材の形状や大きさ等を設定変更した際の係止ピンの作動特性について、図20等を参照しつつ、説明する。
【0069】
前記第二の実施形態における槽蓋用ロック装置を準備し、該ロック装置に設けられた誘導リング式動力伝達装置における誘導リングの外周面に対して、形状や大きさの異なる3つの補強部材を固着して、それぞれ、実施例1〜3とした。即ち、実施例1の補強部材は、円環形状を呈するリングとしており、その幅寸法を誘導リングの筒壁部の幅寸法と略同一に設定すると共に、その厚さ寸法を誘導リングの厚さ寸法と略同一に設定した。また、実施例2の補強部材は、円環形状を呈するリングとしており、その幅寸法を誘導リングの筒壁部の幅寸法よりも大きく、換言すれば実施例1の補強部材の幅寸法よりも大きく設定すると共に、その厚さ寸法を誘導リングの厚さ寸法よりも大きく、換言すれば実施例1の補強部材の厚さ寸法よりも大きく設定した。更に、実施例3の補強部材は、円環形状を呈するリングとしており、その幅寸法を誘導リングの筒壁部の幅寸法よりも小さく、換言すれば実施例1の補強部材の幅寸法よりも小さく設定すると共に、その厚さ寸法を誘導リングの厚さ寸法よりも小さく、換言すれば実施例1の補強部材の厚さ寸法よりも小さく設定した。また、比較例として、誘導リングの外周面に補強部材を固着しないこと以外が全て前記第二の実施形態の槽蓋用ロック装置と同様な構造とされた比較装置を準備した。而して、これら実施例1〜3および比較例における係止レバーのアンロック位置からロック位置に至る移動時間と該係止レバーのロック位置からアンロック位置に至る移動時間について、同一条件下で、それぞれ、測定した。その結果を図20に示す。
【0070】
図20に示される測定結果からも、誘導リングの外周面に補強部材を固着した誘導リング式動力伝達装置を用いた槽蓋用ロック装置においては、誘導リングに補強部材を配設しない比較装置に比して、係止レバーのアンロック位置からロック位置に至る移動時間が短くなると共に、係止レバーのロック位置からアンロック位置に至る移動時間が長くなることが、明らかである。
【0071】
また、図20における実施例1〜3の結果からも、補強部材の厚さ寸法や幅寸法を大きくする程に係止レバーのアンロック位置からロック位置に至る移動時間がより短くなると共に、係止レバーのロック位置からアンロック位置に至る移動時間が一層長くなることが、明らかである。
【0072】
【発明の効果】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされた槽蓋用ロック装置の誘導リング式動力伝達装置においては、誘導リングの外周面に強磁性材からなる補強部材を固着したことにより、誘導リングに作用する有効磁束が大きく確保されて、誘導用永久磁石と誘導リングの間の磁気作用による吸引力が効果的に発揮され得るのであり、以て、誘導用永久磁石と誘導リングの間での磁気誘導による回転力の伝達効率の向上に伴い回転駆動力の効率化が簡単な構造をもって有利に実現され得るのである。
【0073】
また、本発明の誘導リング式動力伝達装置を用いた槽蓋のロック装置においては、誘導リングの外周面に補強部材を固着してなる誘導リング式動力伝達装置を用いたことにより、誘導用永久磁石と誘導リングの間の磁気誘導が効果的に作用せしめられ得るのであり、それによって、電気モータの通電時における誘導リングの回転駆動力の向上に伴い槽蓋のロック状態への作動速度が向上され得ると共に、電気モータの通電中止時における誘導リングと永久磁石の相対的な回転抵抗力の向上に伴い槽蓋のロック状態からアンロック状態への遅延動作が効果的に実現され得ることから、優れた使用性が発揮され得る。
【0074】
しかも、本発明の誘導リング式動力伝達装置を用いた槽蓋のロック装置によれば、槽蓋のロック状態とアンロック状態の切換作動時間を補強部材の形状や大きさ、材質等を設定変更することにより容易に対応させることが可能であることから、製作性やコスト削減性等が有利に実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第一の実施形態としての槽蓋のロック装置の内部構造を示す平面説明図である。
【図2】 図1におけるロック装置の組み立て説明図である。
【図3】 図1におけるロック装置の平面説明図である。
【図4】 図1におけるロック装置の正面説明図である。
【図5】 図1におけるロック装置の側面説明図である。
【図6】 図1における係止レバーの一作動形態を示す平面説明図である。
【図7】 図1における係止レバーの作動の経時変化を示すグラフである。
【図8】 図1における係止レバーの一作動形態を示す平面説明図である。
【図9】 図1に示されたロック装置における係止レバーをアンロック位置からロック位置に導く際の動作時間と電気モータの負荷の関係を、比較装置と共に併せ示すグラフである。
【図10】 図1に示されたロック装置における係止レバーをロック位置からアンロック位置に導く際の戻り時間と電気モータの負荷の関係を、比較装置と共に併せ示すグラフである。
【図11】 本発明の第二の実施形態としての槽蓋のロック装置の組み立て説明図である。
【図12】 図11におけるロック装置の平面説明図である。
【図13】 図11におけるロック装置の正面説明図である。
【図14】 図11におけるロック装置の側面説明図である。
【図15】 図11におけるカムレバーの一作動形態を示す平面説明図である。
【図16】 図11におけるカムレバーの一作動形態を示す平面説明図である。
【図17】 図11におけるカムレバーの一作動形態を示す平面説明図である。
【図18】 図11におけるカムレバーの一作動形態を示す平面説明図である。
【図19】 図11におけるカムレバーの一作動形態を示す平面説明図である。
【図20】 本発明に従う構造とされた槽蓋用ロック装置における誘導リングの外周面に各種の補強部材を固着した際の係止ピンの作動特性について、それぞれ、測定した結果を、比較例と共に併せ示すグラフである。
【符号の説明】
10 誘導リング式動力伝達装置
14 電気モータ
16 永久磁石
18 誘導リング
26 係止レバー
118 ショートリング
Claims (4)
- 洗濯機等の回転槽を備えた装置本体に装着されて、該回転槽の開口部に配設された槽蓋を開操作不能に係止せしめ得る槽蓋用ロック装置であって、
前記装置本体に対して変位可能に支持されて、前記槽蓋に対して係止されることにより該槽蓋の開操作を阻止せしめるロック位置と、該槽蓋に対する係止が解除されて該槽蓋の開操作を許容するアンロック位置とをとり得る係止ピンと、
該係止ピンを前記アンロック位置に向かって付勢して、該アンロック位置に弾性的に保持せしめる付勢手段と、
ロータにモータ用永久磁石を設けると共に、ステータに設けたコイルへの通電によって該モータ用永久磁石に対して回転駆動力が及ぼされることにより、一方向に連続して回転作動せしめられる電気モータと、
該電気モータによる回転力を前記係止ピンに伝達せしめて、該係止ピンに対して前記付勢手段による付勢力に抗して前記ロック位置に向かう方向に駆動力を伝達する駆動力伝達手段と、
前記電気モータの回転駆動力を被駆動部材としての前記係止ピンに伝達する伝達経路上において、前記モータ用永久磁石を誘導用永久磁石として利用すると共に、該誘導用永久磁石の径方向外方に誘導リングを配設して、該誘導用永久磁石と該誘導リングを相互に離隔して対向するように同一の回転中心軸上でそれぞれ回転可能に配置せしめ、該誘導リングの外周面に強磁性材からなる補強部材を固着して、該電気モータの通電時には該誘導用永久磁石と該誘導リングの間での磁気誘導により該電気モータにおける該誘導用永久磁石の回転駆動力を該誘導リングを介して該係止ピンに伝達せしめて、該係止ピンを前記付勢手段による付勢力に抗して前記ロック位置に保持せしめる一方、該電気モータの通電停止時には該付勢手段による付勢力により逆方向の回転駆動力が該誘導リングに伝達せしめられると共に、該誘導リングと該誘導用永久磁石との間で磁気誘導による回転抵抗力が生じることにより、該係止ピンが逆方向の回転駆動力に従って緩やかに前記アンロック位置へ返戻作動せしめられるようにした誘導リング式動力伝達装置とを、
有することを特徴とする槽蓋用ロック装置。 - 前記誘導リングにおける前記永久磁石に対する対向部位を、回転中心軸回りで同一方向に連続して広がる環状体とすると共に、前記補強部材を該環状体の全周に亘って連続して設けたことを特徴とする請求項1に記載の槽蓋用ロック装置。
- 前記係止ピンを前記ロック位置とアンロック位置との変位方向の両側において、該ロック位置と該アンロック位置に対してそれぞれ位置決めするストッパ手段を設けた請求項1又は2に記載の槽蓋用ロック装置。
- 前記駆動力伝達手段において、前記電気モータの出力軸の回転を減速せしめて前記係止ピンに駆動力を及ぼす減速機構を採用すると共に、該駆動力伝達手段による該電気モータの出力軸から前記係止ピンに至る駆動力の伝達経路上において、前記付勢手段よりも前記誘導リング式動力伝達装置を、該電気モータの出力軸に近い位置に設けた請求項1乃至3の何れかに記載の槽蓋用ロック装置。
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