JP4158217B2 - 酢酸ベンジルの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、トルエン、酢酸及び酸素を液相で反応させ酢酸ベンジルを製造する方法に関する。例えば、酢酸ベンジルは、それ自身、溶剤や香料として有用であり、さらに、酢酸ベンジルを加水分解して得られるベンジルアルコールは、溶解性に優れた溶剤、無毒性のため医薬用添加剤、農薬、医薬などの中間体としても極めて重要な化合物である。
【0002】
【従来の技術】
トルエン、酢酸及び酸素から酢酸ベンジルを合成する反応は知られている。
【0003】
例えば気相での検討例としては、特公昭44−29046号公報や、特公昭51−25438号公報には、パラジウムとアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酢酸塩をアルミナに担持した触媒を用いる方法が開示されている。
【0004】
また、特開昭47−18843号公報には、パラジウム、ビスマス及びアルカリ金属をシリカに担持した触媒が開示されている。
【0005】
また、特開昭50−108232号公報や特公昭56−21463号公報にはパラジウム、アンチモン及び酢酸亜鉛又は酢酸カリウムをシリカに担持した触媒が開示されている。
【0006】
さらに、特公昭56−23417号公報には、パラジウム、バナジウムの酸化物及びアルカリ金属の水酸化物又はアルカリ金属の酢酸塩をアルミナに担持した触媒が開示されている。
【0007】
これらのパラジウムを主触媒とする触媒を気相で用いた場合には、反応初期の酢酸ベンジルの生成活性及び選択率においては好ましい成績が認められるものの、いずれも短時間のうちに活性が急激に低下するため、工業触媒とはなり得ないという問題があった。
【0008】
一方、液相で酢酸ベンジルを合成できることも公知である。
【0009】
例えば、「ザ・ジャーナル・オブ・オルガニック・ケミストリー」(J.Org.Chem),(33),4123(1968)には、触媒として酢酸パラジウムを用い、酢酸中、トルエンを空気で酸化して酢酸ベンジルを合成する方法が報告されている。
【0010】
しかしながら、この方法では、触媒として用いる酢酸パラジウムが反応開始直後においては均一に溶解しているが、反応の進行に伴い金属パラジウムとして析出するため、触媒活性が失われる問題を有しているため、酢酸ベンジルの工業的方法とは言い難い。
【0011】
また、各種担持触媒を用いて、液相で酢酸ベンジルを合成する方法も報告されている。
【0012】
例えば、特公昭42−13081号公報には、アルミナにパラジウムを担持した触媒とアルカリ金属の酢酸塩を用い、液相で酢酸ベンジルを合成する方法が開示されている。この方法は、触媒の活性、酢酸ベンジルの選択率のいずれも高く好ましいものの、大量のアルカリ金属の酢酸塩が必要であり工業的には現実的ではない。
【0013】
また、特開昭52−151135号公報及び特開昭52−151136号公報には、ビスマス、モリブデン、マンガン、バナジウム又はタングステンから選ばれる一つとパラジウムをシリカに担持した触媒が開示されている。これら2つの公報に記載の触媒は、触媒重量当たりの活性が高く、選択率も高い特徴があるものの、反応容器当たりの生産性が低く、工業的に満足できるものではない。
【0014】
また、特公昭50−28947号公報には、ビスマス、コバルト又は鉄から選ばれる1成分とパラジウムをシリカに担持した触媒が報告されているが、工業的に見て触媒活性は不十分であり、なおかつ酢酸カリウムを大量に使用している点も工業的には好ましくない。
【0015】
また、特公昭52−16101号公報には、パラジウム、ビスマス及びクロムをシリカに担持した触媒とアルカリ金属の酢酸塩を用いる方法が開示されている。この触媒は、単位触媒重量当たりの活性は充分高く、また酢酸ベンジル選択率もかなり高いものの、反応器当たりの活性は工業化を考えると不十分であり、酢酸ナトリウムが反応系に添加されているため、分離やリサイクルが煩雑となり、工業的には好ましくない。
【0016】
さらに、特開昭63−174950号公報には、パラジウムとビスマス又は鉛をシリカに担持した触媒と反応系に可溶なビスマス化合物又は鉛化合物の両方を用いる方法が開示されている。この方法における可溶性ビスマス又は鉛化合物は、担持されている金属状のビスマス又は鉛の溶出を防止するため、主活性種であるパラジウムの溶出が防止され、活性維持に効果があると記載されている。すなわち、この触媒はこれらの可溶性化合物が存在しない場合には主活性種であるパラジウムが反応液中に溶出してしまう触媒となっている。一方、生成した酢酸ベンジルを分離精製する工程で、触媒寿命維持のために反応系に溶解させていたビスマス化合物又は鉛化合物は、結晶として回収し反応に再使用できると記載されているが、液状の酢酸ベンジルを連続的に製造するプロセスにおいて、固体の結晶を取り扱うことは、工業的には極めて煩雑であり、実用的でない。
【0017】
また、前述の特開昭50−108232号公報や特公昭56−21463号公報には、パラジウム、アンチモン及び酢酸亜鉛又は酢酸カリウムをシリカに担持した触媒を液相においても適用できる旨の記載がなされている。しかしながら、これらの方法では、特公昭56−21463号公報によれば、亜鉛、カリウム、さらにはパラジウム、アンチモンも一部が触媒から溶出してしまうため、目的生成物であるカルボン酸エステルから触媒成分を分離する必要があり、また極めて高価なパラジウムを回収する必要があるという問題がある。また、本発明者らの検討においても同様の問題が確認されている。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、従来の触媒は、特に工業的生産面において不十分であり、また、多量のアルカリ金属塩や反応系に可溶な助触媒が添加されていたりするため、分離やリサイクルが煩雑になり工業的に好ましくない等の問題があった。
【0019】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高活性、高選択率の触媒を用いた工業的に有用な酢酸ベンジルの製造方法を提供することである。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定の物性を有するパラジウムとアンチモンをシリカに担持した触媒を用いると酢酸ベンジルの生成活性、選択率が高く、かつ触媒活性の持続性が長くなることを見出し本発明を完成するに至った。
【0021】
すなわち本発明は、トルエンと酢酸及び酸素を液相で反応させ酢酸ベンジルを製造する方法において、パラジウムとアンチモンをシリカに担持した触媒であり、パルス法一酸化炭素吸着量から求めたパラジウムの分散度が0.05以下であって、かつ触媒中のパラジウムとアンチモンの比が、パラジウム/アンチモン(原子比)として1〜10である触媒を用いることを特徴とする酢酸ベンジルの製造方法である。
【0022】
以下本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明においては、トルエン、酢酸及び酸素を液相で反応させ酢酸ベンジルを製造する際に、パラジウムとアンチモンをシリカに担持した触媒であり、パルス法一酸化炭素吸着量から求めたパラジウムの分散度が0.05以下であって、かつ触媒中のパラジウムとアンチモンの比が、パラジウム/アンチモン(原子比)として1〜10である触媒(以下、本発明の触媒という)を用いる。
【0024】
本発明においてパルス法一酸化炭素吸着量とは、触媒を水素気流中200℃で還元処理した後、50℃で一定量の一酸化炭素を間欠的に触媒に供給し、触媒に吸着されなかった一酸化炭素量をガスクロマトグラフィーを用いて定量し、これを供給した全一酸化炭素量から差し引いて求めた量(すなわち、触媒に吸着した一酸化炭素の全量)をいう(例えば、触媒学会誌,vol.28,No.1,41〜45)。
【0025】
また、本発明においてパラジウム分散度は、下式(1)で表される。
【0026】
B=K/R (1)
B: パラジウム分散度
K: 触媒1g当たりに吸着された一酸化炭素のモル数
R: 触媒1g当たりのパラジウムのモル数
本発明の触媒に用いるシリカは、特に制限はなく、どのような原料及び製法で調製したものでも用いることができる。強いてその物性を挙げれば、BET比表面積が10m2/g以上であり、細孔容積が0.2ml/g以上のものが好ましい。
【0027】
本発明の触媒の形状には特に制限はなく、反応形式に応じて粉末状のもの又は成形品を用いることができる。懸濁床では粉末又は顆粒を、固定床ではタブレットの打錠成形品、球状又は棒柱状の押し出し成形品等が好ましく用いられる。
【0028】
しかしながら、本発明における反応が、発熱反応であること及び、原料であるトルエンや酢酸、生成物である酢酸ベンジルの沸点が高いことから、液相反応が好ましいと考えられ、また、工業的な観点から、酢酸ベンジルの生産性を勘案すると固定床の反応形式が好ましいと考えられるため、上記成型品を用いるのが好ましい。
【0029】
本発明の触媒を調製するにあたり、使用されるパラジウム及びアンチモンの原料は特に限定するものではなく、具体的に例示すると、パラジウム原料としては、パラジウム金属、ヘキサクロロパラジウム酸アンモニウム、ヘキサクロロパラジウム酸カリウム、ヘキサクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム、テトラクロロパラジウム酸カリウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラブロモパラジウム酸カリウム、酸化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、ジニトロサルファイトパラジウム酸カリウム、クロロカルボニルパラジウム、ジニトロジアンミンパラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物、テトラアンミンパラジウム硝酸塩、cis−ジクロロジアミンパラジウム、trans−ジクロロジアミンパラジウム、ジクロロ(エチレンジアミン)パラジウム、テトラシアノパラジウム酸カリウム等を例示でき、アンチモンの原料としては、アンチモン金属、フッ化アンチモン、塩化アンチモン、臭化アンチモン、ヨウ化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモニメトキシド、アンチモニエトキシド、アンチモニイソプロポキシド、アンチモニブトキシド、アンチモニエチレングリコシド、アンチモニポタシウムタータレイト、酸化アンチモン、硫化アンチモン、酒石酸やシュウ酸等の有機酸との錯化合物等を例示することができる。
【0030】
本発明の触媒の金属担持量は特に限定するものではないが、パラジウム金属とアンチモン金属を合わせた重量が、シリカを含む触媒総重量に対して通常0.1〜10重量%である。
【0031】
本発明の触媒中に担持されているパラジウムとアンチモンの比は、パラジウム/アンチモン(原子比)として1〜10の範囲である。パラジウムとアンチモンの原子比が1よりも小さいと、触媒からアンチモンが溶出する。アンチモンは還元されると極めて有毒なスチピンガス(SbH3)を生成するため、環境面から厳密な処理回収が必要となり、工業的には不利益となる。一方、パラジウムとアンチモンの原子比を10よりも大きくなると、アンチモンと合金を形成しないパラジウム(フリーのパラジウム)が存在するようになり、反応の際にこのフリーのパラジウムが触媒から溶出して回収工程が必要となり、またパラジウムの溶出に伴い触媒活性が低下し、触媒寿命が得られなくなる。
【0032】
本発明において、触媒中のパラジウム及びアンチモンは大部分が0価の金属状態で合金を形成していると考えられるが、仮に合金化していない余剰のパラジウム及びアンチモンの存在があったとしてもそれを排除するものではない。しかしながら、合金化していないパラジウムやアンチモンは原料液及び/又は反応液に溶出し易いと考えられるため、触媒中の金属の損失となり不利益になる。このことから高価なパラジウムは、実質的にパラジウムとアンチモンからなる合金になっていることが好ましい。
【0033】
シリカに担持されているパラジウムが実質的にパラジウムとアンチモンからなる合金になっているかどうかは、先に記載したパルス法による触媒の一酸化炭素吸着量からパラジウムの分散度を測定することにより判別することができる。これは、パラジウムとアンチモンからなる合金には一酸化炭素が吸着しないため、この様にして求めたパラジウムの分散度は小さくなるからである。
【0034】
一方、合金が形成されておらず、パラジウムが単独で存在する場合には、パラジウムが一酸化炭素を吸着するためパラジウム分散度が大きくなり、合金触媒と容易に区別する事ができる。
【0035】
また、パラジウムとアンチモンが共に酸化状態ではなく、0価の金属状態で合金を形成していることが、本発明者らのX線光電子スペクトル(XPS)の測定により確認されている。
【0036】
本発明の触媒を調製する場合のパラジウム及びアンチモンの原料塩を担体に担持する方法は、特に限定するものではなく、公知の方法で担持することができる。具体的に例示すると、例えば沈澱法、イオン交換法、含浸法、沈着法、混練法で調製することができる。
【0037】
含浸法で調製する場合には、パラジウム原料とアンチモン原料を同時に含浸担持してもよいし、いずれか一方を含浸担持した後、残りの原料を含浸担持してもよい。しかしながら、パラジウムとアンチモンをより均一に担持するためには、同時に含浸担持するのが好ましい。最も簡便な調製方法を具体的に例示するならば、パラジウム及びアンチモンの原料を適当な溶媒に溶解し、これを担体と混合し、必要ならば所定の時間静置した後乾燥し、得られた触媒前駆体を水素又は水素を含む不活性ガス中で還元処理することで本発明の触媒を得ることができる。なお、水素による還元処理前に酸素雰囲気下で焼成しても構わない。
【0038】
還元処理の温度は、通常100〜700℃、好ましくは200〜500℃の範囲である。還元処理を行う場合の還元剤としては、水素以外にも、一酸化炭素、エチレン等のガス類、アルコール、ヒドラジン水和物等が使用され、気相又は液相での還元処理により合金触媒とすることができる。還元処理前に焼成を行う場合には、酸素又は窒素、ヘリウム、アルゴン等で希釈した酸素、さらには空気の雰囲気中で、200〜700℃で焼成すれば良い。
【0039】
本発明で用いられる原料のトルエン及び酢酸はどのような製法によって製造されたものでも使用することができる。例えば、トルエンは、石油留分から分離されたもの、石油留分を分解して得られる分解油から分離されたものなどを使用することができ、また酢酸は、アセトアルデヒドの酸化によって製造されたもの、炭化水素の酸化によって製造されたもの、過酢酸の製造時に副生したもの、メタノールと一酸化炭素から合成されたものなどのいずれでも用いることができる。これらトルエンと酢酸の混合比としては、トルエンを基準にして酢酸が0.1〜100(モル比)の範囲で、任意の混合比で反応を行うことができる。
【0040】
本発明において、反応は液相で行われるため、触媒の表面が原料液で覆われていれば反応方法に特に限定するものではなく、懸濁床による回分、半回分、連続式でも、又は固定床流通式でも実施できる。
【0041】
しかしながら、工業的観点から酢酸ベンジルの生産性を勘案すると固定床流通式が好ましい。
【0042】
使用する触媒量は、反応方法により異なるため一律には規定できないが、経済性を勘案すると、例えば、固定床の場合には、単位触媒体積、単位時間当たりのトルエンと酢酸の合計供給量(LHSV)として、通常0.1〜50h-1の範囲、より好ましくは0.1〜30h-1となる触媒量が好ましく、また懸濁床の場合には、触媒の濃度は、原料に対し0.1〜30重量%の範囲が良い。
【0043】
本発明の方法による反応は、加温、加圧下で実施される。反応温度は、通常80〜230℃、好ましくは100〜200℃が選ばれる。これより高くしても副反応の進行が増すだけであり、低くすると反応速度の点で不利になる。また圧力は、反応温度で触媒表面が液相に保たれていればよく、通常3〜100kg/cm2G、好ましくは4〜50kg/cm2Gが選ばれる。本発明の方法では、この範囲内で望むべき反応が十分進行するので、これを越える高圧は不必要である。
【0044】
本発明の方法においては、酸素を酸化剤として用いる。酸素は、窒素等の不活性ガスで希釈されていてもよく、空気であっても使用できる。酸素の供給量は、反応温度、触媒量等によって最適量が変わるが、触媒を通過した所のガス組成が爆発範囲以下であればよく、このことから、単位触媒量、単位時間当たりの酸素供給量(GHSV)は、0℃、1気圧換算で5000h-1以下が好ましい。
【0045】
反応時間は、反応温度、圧力、触媒量等の設定の仕方、又は反応方法によって変わるため一概にその範囲を決めることは困難であるが、懸濁床での回分式、半回分式においては0.5時間以上が必要で、好ましくは1〜10時間である。また懸濁床による連続式反応又は固定床流通式反応においては、滞留時間は0.03〜10時間で良い。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、パラジウムとアンチモンをシリカに担持した触媒を用い、トルエンと酢酸及び酸素を液相で反応させ工業的に有用な酢酸ベンジルを製造する方法において、パルス法一酸化炭素吸着量から求めたパラジウムの分散度が0.05以下であり、かつ触媒中のパラジウムとアンチモンの比が、パラジウム/アンチモン(原子比)として1〜10である触媒を用いることで、触媒成分であるパラジウムやアンチモンの損失なしに、高活性、高選択率で、なおかつ活性を長く持続させて酢酸ベンジルを製造することができる。
【0047】
【実施例】
以下、本反応を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明の特許請求の範囲を逸脱しない限り、これら実施例のみに限定されるものではないことはいうまでもない。
【0048】
実施例1
塩化パラジウム(和光純薬工業社製)2.00gと三塩化アンチモン(和光純薬工業社製)1.09gを200mlの丸底フラスコに秤取り、6規定の塩酸43mlを加え塩化パラジウム及び塩化アンチモンが完全に溶解するまで室温で攪拌した。次に乾燥器中で180℃、2時間乾燥させたシリカ40g(富士シリシア社製、CARIACT−Q30、BET比表面積:100m2/g、細孔容積:1.05ml/g、直径3mm球形)を加え、液が完全にシリカに吸収されるまで攪拌しながら含浸させた。含浸終了後、水分をロータリーエバポレーターで減圧下に除去した。さらにこの触媒を、真空乾燥機中で100℃、3時間乾燥した。このようにして得られた触媒を管状の熱処理管に入れ、水素を50ml/minで流しながら、60℃で0.5時間還元し、さらに400℃で5時間還元処理を行った。還元処理後の触媒は、チオシアン酸第二水銀法により洗浄水中に塩素イオンが検出されなくなるまで繰り返しイオン交換水で洗浄した。洗浄後、乾燥器中、110℃で3時間乾燥してパラジウムとアンチモンのモル比が4.2の触媒を得た。この触媒のパラジウム分散度をパルス法一酸化炭素吸着量から求めたところ、0.04であった。この触媒のX線光電子スペクトル(XPS)の測定結果を図1に示す。このチャートより触媒中のパラジウムとアンチモンは0価の金属として存在していることがわかる。
【0049】
この触媒10mlを内径13mmのSUS316製の反応管に詰め、触媒層温度170℃、反応圧力14kg/cm2Gで、トルエンと酢酸の等モル混合液を3.65g/min、酸素を23Nml/min、窒素を396Nml/min連続的に供給し反応した。反応生成物を液とガスに分離した後、液成分、ガス成分をそれぞれをガスクロマトグラフィーで分析した。このときの酢酸ベンジルの空時収率(単位触媒体積当たり、単位時間当たりの酢酸ベンジル生成量:STY)は反応開始1時間目で405g/L−cat./h、選択率は酢酸基準で99%であった。このまま、110時間反応を継続した。この時のSTYは406、選択率は99%であった。
【0050】
また、反応開始から100時間後までの反応液中に溶出したパラジウムとアンチモンの量を原子吸光分析法により測定したところ、パラジウムの溶出は確認されず、アンチモンの溶出量は1μg(触媒に担持されているアンチモンの総量に対して0.003%)であった。
【0051】
以上の結果を表1、表2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
比較例1
塩化パラジウム(和光純薬工業社製)2.00g(11.3mmol)を200mlの丸底フラスコに秤取り、6規定の塩酸43mlを加え塩化パラジウムが完全に溶解するまで室温で攪拌した。次に乾燥器中で180℃、2時間乾燥させたシリカ40g(富士シリシア社製、CARIACT−Q30、BET比表面積:100m2/g、細孔容積:1.05ml/g、直径3mm球形)を加え、液が完全にシリカに吸収されるまで攪拌しながら含浸させた。以後の操作は実施例1と全く同様にして触媒を調製した。この触媒のパラジウム分散度をパルス法一酸化炭素吸着量から求めたところ、0.10であった。
【0055】
この触媒10mlを用いた以外は、実施例1と同様に反応、分析を行なった。酢酸ベンジルの空時収率(単位触媒体積当たり、単位時間当たりの酢酸ベンジル生成量:STY)は反応開始3時間目で160g/L−cat./h、選択率は酢酸基準で79%であった。このまま、24時間反応を継続した。この時のSTYは110、選択率は84%であり、触媒の劣化が観察された。
【0056】
また、反応開始から24時間後までの反応液中に溶出したパラジウムの量を原子吸光分析法により測定したところ、パラジウムの溶出量は4308μg(触媒に担持されているパラジウムの総量に対して3.7%)であった。
【0057】
以上の結果を表1、表2にあわせて示す。
【0058】
実施例2
実施例1と同じロットの触媒を用い、酸素の供給量を58Nml/min、窒素の供給量を361Nml/minとした以外は、実施例1と同様に反応、分析を行った。結果を表1にあわせて示す。
【0059】
比較例2
三塩化アンチモン(和光純薬工業社製)0.33gを用いた以外は、実施例1と同様に触媒の調製を行い、パラジウムとアンチモンのモル比が17.2の触媒を得た。この触媒のパラジウム分散度をパルス法一酸化炭素吸着量で測定したところ、0.09であった。
【0060】
この触媒を用いた以外は実施例2と同様に反応、分析を行った。結果を表1、表2にあわせて示す。
【0061】
実施例3
三塩化アンチモン(和光純薬工業社製)3.26gを用いた以外は、実施例1と同様に触媒の調製を行い、パラジウムとアンチモンのモル比が3.0の触媒を得た。この触媒のパルス法一酸化炭素吸着量を測定したところ、一酸化炭素は吸着しなかった。
【0062】
この触媒を用いた以外は実施例2と同様に反応、分析を行った。結果を表1、表2にあわせて示す。
【0063】
実施例4
三酸化アンチモン(和光純薬工業社製)0.65gを用いた以外は、実施例1と同様に触媒の調製を行い、パラジウムとアンチモンのモル比が8.9の触媒を得た。この触媒のパルス法一酸化炭素吸着量を測定したところ、0.04であった。
【0064】
この触媒を用いた以外は実施例2と同様に反応、分析を行った。結果を表1、表2にあわせて示す。
【0065】
実施例5
実施例1と同じロットの触媒を用い、反応温度を150℃とした以外は、実施例2と同様に反応、分析を行った。結果を表1、表2にあわせて示す。
【0066】
比較例3
特公昭56−21463号公報に記載の方法を参考にして以下の実験を行った。三酸化アンチモン3.769gと酒石酸17.385gを30mlの熱水に溶解し、さらに7.56wt%硝酸パラジウム水溶液10.753gと水を加えて42mlの均一溶液とした。次に乾燥機中で180℃、2時間乾燥させたシリカ40g(富士シリシア社製、CARIACT−Q30、BET比表面積:100m2/g、細孔容積:1.05ml/g、直径3mm球形)を加え、液が完全にシリカに吸収されるまで攪拌しながら含浸させた。含浸終了後、水分をロータリーエバポレーターで減圧下に除去した。さらに70℃で乾燥後、600℃において1時間焼成した。このようにして得られた触媒を管状の熱処理管に入れ、水素を50ml/minで流しながら、150℃で2時間還元処理を行い、パラジウムとアンチモンのモル比が0.2の触媒を得た。この触媒のパルス法一酸化炭素吸着量を測定したところ、0.01であった。
【0067】
この触媒を用いた以外は実施例5と同様に反応、分析を行った。結果を表1、表2にあわせて示す。
【0068】
またこの触媒のX線光電子スペクトル(XPS)の測定結果を図2に示す。このチャートは、触媒中のアンチモンの一部が3価のイオンとして存在していることを示している。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた触媒のX線光電子スペクトル(XPS)の測定結果を示す図である。
【図2】比較例3で得られた触媒のX線光電子スペクトル(XPS)の測定結果を示す図である。
Claims (4)
- トルエン、酢酸及び酸素を液相で反応させて酢酸ベンジルを製造する方法において、パラジウムとアンチモンをシリカに担持した触媒であり、パルス法一酸化炭素吸着量から求めたパラジウムの分散度が0.05以下であって、かつ触媒中のパラジウムとアンチモンの比が、パラジウム/アンチモン(原子比)として1〜10である触媒を用いることを特徴とする酢酸ベンジルの製造方法。
- 触媒中のパラジウムが、パラジウムとアンチモンの合金を形成していることを特徴とする請求項1に記載の酢酸ベンジルの製造方法。
- 触媒が、パラジウムとアンチモンの原料塩を同時にシリカに担持して調製されたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の酢酸ベンジルの製造方法。
- 反応が固定床で行われることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の製造方法。
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