JP4157778B2 - 成形金型および樹脂成形体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、型締めされた状態で成形材料が充填されるキャビティを構成する固定金型と可動金型よりなる成形金型に関し、特に樹脂成形体の成形に供される成形金型に関する。
【0002】
なお、本発明の成形金型は、成形材料としては樹脂のほか金属粉末、溶融金属にも使用可能であり、したがって、成形体としては樹脂成形体のほか金属成形体にも使用可能である。また、本発明の成形金型は、成形法としては射出成形法および圧縮成形法の両方に使用可能である。
【0003】
【従来の技術】
以下、樹脂成形体の射出成形に用いられる成形金型を例に説明を行う(非特許文献1参照)。
【0004】
樹脂成形体の射出成形に使用される成形金型は、一般的に図1に示されるような構造が採用されている。成形材料である樹脂Aは、図示しない射出ユニットで溶融可塑化された後に、ノズル10より高圧で、固定金型2と移動金型3よりなる成形金型1内に射出される。すなわち、ノズル10より射出された溶融状態の樹脂Aは、スプール11を介して固定金型2と移動金型3とによって構成されるキャビティ4内に充填され、冷却・固化された後に取り出され、樹脂成形体となる。
【0005】
この溶融状態の樹脂Aの充填時において、キャビティ4内に滞留していた空気および溶融状態の樹脂Aから発生するガス(以下、単に「ガス」と総称する。)をキャビティ4外に放出することが必要である。このため、一般的には、固定金型2と移動金型3との合わせ面であるパーティング面5における各金型2,3の接触面5a,5bのいずれかにガス抜き溝を設ける方法(例えば、特許文献1、2参照)で対処している。なお、成形金型1内部にガス抜き機構を設けてキャビティ4からガスを除去する方法(例えば、特許文献3参照)も提案されているが、成形金型1の構造が複雑になるため成形金型のコストが高くなり一般的でない。
【0006】
また、キャビティ4内に樹脂Aが充填される際に、キャビティ4に内部圧力が発生するが、この内部圧力に打ち勝つ型締め力を図示しない型締め装置によって成形金型1に作用させることで、パーティング面5より樹脂がはみ出すことを防止している。このようにパーティング面5を構成する接触面5a,5bには大きな接触面圧が作用するために、接触面5a,5bには硬度を高くする焼入れ等の熱処理が施される。
【0007】
なお、溶融状態の樹脂Aは高圧でキャビティ4内に射出されるために、パーティング面5に隙間が生じると溶融状態の樹脂Aがパーティング面5よりはみ出し、いわゆる「バリ」を発生させる。成形条件(温度、圧力)によっては、例えば高温高圧条件下では、パーティング面5の隙間が0.03mmを超えるとバリが発生することが知られている。
【0008】
以上のように、成形金型1においてパーティング面5の役割は極めて重要なものであるが、上記のように焼入れ等の熱処理を施すために成形金型1が高価になること、高圧力で成形金型1を締め付けるためにパーティング面5を構成する接触面5a,5bを損傷すること、いわゆる「ヘタリ」を発生させること等の問題が生じる。
【0009】
以下、これらの問題点について、さらに詳細に説明する。
【0010】
(1)パーティング面を構成する接触面の硬度
一般的には、成形金型1(固定金型2、移動金型3)には機械構造用炭素鋼が用いられ、わが国では通常S55C鋼が使用されているが、さらにコスト低減のためにS45C鋼、S35C鋼等の低炭素鋼の使用が望まれている。しかし、S55C鋼でもそのまま使用すると硬度が低いため、接触面にヘタリなどが発生することから、接触面の硬度を上昇させるために火炎焼入れを施すことが多い。ところが、S55C鋼より炭素含有量の低い低炭素鋼では焼入れで硬度を上昇させることは困難であり、単に火炎焼入れを行うだけでは十分な硬度が得られない。また、S55C鋼に対する火炎焼入れも手作業で行われるために、熟練者以外では焼入れ面の場所による硬度むらを発生させるために品質が安定しない問題がある。また、火炎焼入れでは、マスキングがし難いため必要な面のみの焼入れが困難であり、パーティング面を構成する接触面を超えてキャビティを構成するキャビティ面まで焼入れがなされてしまう場合がある。このような場合には、キャビティ面の硬化によって樹脂への転写性が変化し、樹脂成形体の表面性状に異常を来たすことにもつながる。
【0011】
(2)ガス抜き
上述したように、キャビティ内に樹脂を充填させる際に、キャビティ内のガスをキャビティ外に放出させる必要がある。従来は図2および図3に示すような、パーティング面25を構成する接触面25bにガス抜き溝26を機械加工により形成する方法や、図4に示すような、金型42内にガス抜き孔47を設け、多孔質金属48、有孔金属49を介してガス抜きを行う方法が行われている。
【0012】
標準的な成形条件下で用いる金型の場合、図2および図3に示す方法では、パーティング面を構成する接触面に設けるガス抜き溝の深さは、結晶性材料用のもので0.015mm未満、非結晶性材料用のもので0.03mm未満とする必要があり、精密な機械加工等を要するためコストが高くなる問題がある。図4に示す方法でも、成形金型が複雑な機械加工を必要とすることからコストが高くなることに加え、有孔金属等の孔の目詰まりが発生しやすく、長期使用には問題がある。
【0013】
(3)バリの発生
バリは、パーティング面に生じた隙間から樹脂がはみ出すことにより発生するものであるが、このようなパーティング面の隙間は、キャビティ内への樹脂充填の際におけるキャビティ内部圧力上昇による成形金型の開き(固定金型と移動金型の接触面同士が離れること)や、接触面のヘタリ等を原因とするものである。
【0014】
成形金型の開きに関しては、前述したとおり、パーティング面の隙間が0.003mm程度でバリが発生し得ることが経験的に知られている。したがって、パーティング面を構成する接触面にガス抜き溝を設けた場合には、成形金型のわずかな変形により接触面同士が少しでも離れるとバリが発生する隙間の上限値(0.003mm)をすぐに超えてしまう。このために、樹脂のキャビティ内への射出圧力を全体的に低下させることや、経験的に設定したキャビティ内への樹脂の充填完了時間に近づいたときに射出圧力を低下させること等、成形条件に制限を加えることによって接触面同士の離脱を防止する処置が実施されている。しかし、このように射出圧力を低下させると樹脂成形体の転写不良、充填不良、変形等が発生しやすい問題がある。
【0015】
したがって、このような成形条件に制限を加える手段を取れない場合には、型締め力を上昇させてパーティング面を構成する接触面の接触面圧を大きくする方法が採用されるが、この方法では、成形機を大型化する必要があり、設備コスト、操業コストとも大きくなる問題がある。また、必要以上の接触面圧を接触面に作用させると、接触面の損傷やヘタリが発生するため、かえってバリの原因にもなる。パーティング面を構成する接触面の接触面圧を上昇させるための対応としては、成形金型にSCM440のような合金鋼を使用し、接触面を焼入れ処理する方法が実施されているが、成形金型の著しいコスト上昇を招くため、最適な方法とはいえない。
【0016】
【非特許文献1】
綾井英二、「射出成形の手引き」、初版(増補改訂版)、アルファー企画、平成2年4月
【特許文献1】
特許2994580号公報
【特許文献2】
特開平7−329128号公報
【特許文献3】
特開平7−40396号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような問題を解決するものであり、キャビティ内のガス抜きを容易としつつ、バリの発生を防止すること、さらにはパーティング面を構成する接触面のヘタリを防止して寿命を延長することができる成形金型を低コストで提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、型締めされた状態で成形材料が充填されるキャビティを構成する固定金型と可動金型よりなる成形金型において、前記固定金型と前記可動金型がともにS55C鋼より炭素含有量の低い低炭素鋼からなり、前記固定金型と前記可動金型とのパーティング面における、前記キャビティに隣接する部分を含む接触面の双方に、深さが0.003〜0.03mmの多数の微小くぼみを有し、当該多数の微小くぼみが、微小径のショットを高速で噴射して衝突させるショットピーニング処理により形成されたものであり、当該ショットピーニング処理による加工硬化と金属組織の改善によって、前記多数の微小くぼみが形成された接触面の疲労強度を前記ショットピーニング処理前よりも向上させたものであることを特徴とする成形金型である。
【0021】
請求項2に係る発明は、前記ショットピーニング処理に用いるショットが、炭化珪素を含むものであり、当該ショットを用いたショットピーニング処理によって、前記多数の微小くぼみが形成された接触面に残留した炭素分により当該接触面に潤滑性が付与されている、請求項1に記載の成形金型である。
【0024】
請求項3に係る発明は、樹脂成形体の成形に用いる、請求項1または2に記載の成形金型である。
【0025】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の成形金型を用いて樹脂成形体を製造することを特徴とする樹脂成形体の製造方法である。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
本発明は、成形金型のパーティング面を構成する、前記キャビティに隣接する部分を含む接触面が、ショットピーニング処理により形成された多数の微小くぼみを有することを特徴とするものである。
【0028】
以下、上記ショットピーニング処理について詳細に説明する。
【0029】
成形金型を構成する固定金型と可動金型とのパーティング面における接触面の双方またはいずれか一方に微小径のショットを高速で噴射して衝突させる。
【0030】
これにより、接触面の表面にショットの衝突によって微小くぼみが多数形成される。この微小くぼみが多数形成された接触面を有する成形金型を合わせたとき(すなわち、固定金型と移動金型の接触面同士を接触させたとき)、多数の微小くぼみが連なってパーティング面にちょうどラビリンスシールに近似した形状の通路が形成される。このため、ガス抜きのための通路が確保されてガスは容易に通過するが、溶融状態の樹脂は通過できない,したがって、キャビティ内のガス抜きを容易としつつ、バリの発生を防止することが可能となる。
【0031】
また、ショットが接触面に衝突することにより、ショットの運動エネルギーが熱エネルギーに変換されてショットが衝突した接触面が加熱され、その表面近傍の温度が一時的にA3変態点を超える。このため、接触面の表面がショットの衝突により、加熱、ピーニング加工、焼き戻しが繰り返して行われることとなる。この結果、ショットピーニングによる残留圧縮応力の発生にともなう表面の加工硬化に加え、表面近傍の金属組織が改善されるため、疲労強度が向上し、接触面のヘタリが防止される(特許1594395号公報参照)。
【0032】
したがって、上記ラビリンスシールの効果を得るためには、固定金型または可動金型のいずれか一方の接触面だけにショットピーニング処理を施せばよいが、接触面のヘタリ防止のためには、固定金型と可動金型の両方の接触面にショットピーニング処理を施す方が好ましい。
【0033】
上記ショットピーニング処理により形成される微小くぼみの深さは、0.003〜0.03mmとする。0.003mm未満ではガス抜き効果が低下するからであり、0.03mmを超えるとラビリンスシールの効果が低下して溶融状態の樹脂が微小くぼみ(凹部)に侵入しやすくなりバリが形成されるおそれが高まるからである。
【0034】
上記ショットピーニング処理による加工硬化と金属組織の改善が可能となる結果、成形金型(固定金型および可動金型)の材質としては、従来のS55C鋼に加え、さらに低炭素含有量のS45C鋼、S35C鋼なども使用可能となり、C含有量が0.61質量%以下の機械構造用炭素鋼を用いることができることとなる。
【0035】
ショットピーニング処理に用いるショットとしては、金属粉やセラミックス粉を用いればよいが、成形金型の接触面の材質より硬度の高いものが望ましく、金属粉であればスチール粉、セラミックス粉であればアルミナ粉や炭化珪素粉を用いればよい。なかでも炭化珪素粉は、炭素分を接触面の表面に残留させて潤滑性を付与することができるため、特に好ましい。
【0036】
ショットの径は平均径で40〜200μm、ショットの噴射速度は100m/s以上の範囲とすることが推奨され、この範囲内で、ショットピーニング処理後の接触面に形成された微小くぼみの深さが0.003〜0.03mmとなるように、適宜調整すればよい。上記ショット径および噴射速度の範囲が推奨されるのは、この範囲でショットピーニング処理を行うことにより、残留圧縮応力の付与による表面の加工硬化に加え、接触面の表面近傍の温度がA3変態点を超えるため、金属組織が改善される効果が得られるからである。
【0037】
また、キャビティ面等が硬化処理されることを避ける必要がある場合には、例えばキャビティ面等に粘着ガムテープを数層重ねて貼り付けるだけの簡単なマスキングを行うことにより容易に対処できる。
【0039】
【実施例】
SC45C鋼を用いて成形金型の試験片を作製し、この試験片の表面に対して、平均径50μmの炭化珪素粉を圧縮空気圧力0.5MPaで噴射することにより噴射速度200m/sでショットピーニング処理を行った。図5に、ショットピーニング処理後の試験片の表面近傍の硬度分布を示す。この図に示すように、処理前の母材の硬度がHv300であったものが、処理後の表面の硬度がHv430まで上昇している。また、SC35C鋼を用いた場合には、図示していないが、処理前の母材の硬度がHv200であったものが、処理後の表面の硬度がHv300まで上昇した。このように、本発明を適用することにより、焼入れによっては硬化できない低炭素鋼でも硬化処理ができることを確認した。
【0040】
図6に、上記ショットピーニング処理の前後における試験片の表面近傍の様子を示す。(a)は比較例(処理前)、(b)は本発明例(処理後)である。図6の(a)と(b)とを比較して分かるように、本発明例では、比較例に比べて表面近傍の金属組織が緻密化しているとともに、表面に凹部が形成されている。この凹部の深さは約7μm(0.007mm)、幅は10〜20μmであった。
【0041】
したがって、S45C鋼からなる固定金型、可動金型の少なくとも一方の接触面に上記ショットピーニング処理を施すことにより、パーティング面に上記微小くぼみが連なったラビリンスシール近似の形状の通路が形成されることとなり、ガス抜き通路を確保しつつ樹脂は通過させないという効果が発揮されることが明らかである。
【0042】
なお、実施例においては低炭素鋼を用いたが、本発明は低炭素鋼以外の金型用の材料に適用できることはいうまでもなく、金型の材料は用途に応じて適宜選択すればよい。
【0043】
【発明の効果】
以上より、本発明によれば、キャビティ内のガス抜きを容易としつつ、バリの発生を防止すること、さらにはパーティング面を構成する接触面のヘタリを防止して寿命を延長することができる成形金型を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】樹脂成形体の射出成形に使用される成形金型の構造を示す概略断面図である。
【図2】パーティング面にガス抜き溝を形成した従来例を示す概略断面図であり、(a)は金型全体、(b)は(a)のX部の詳細である。
【図3】パーティング面にガス抜き溝を形成した別の従来例を示す概略断面図である。
【図4】金型内に多孔質金属、有孔金属を取り付けた従来例を示す概略断面図である。
【図5】ショットピーニング処理後における、試験片表面からの深さと硬度Hvとの関係を示すグラフ図である。
【図6】ショットピーニング処理の前後における、試験片表面近傍の様子を示す断面図であり、(a)は比較例(処理前)、(b)は本発明例(処理後)である。
【符号の説明】
1…成形金型
2…固定金型
3…移動金型
4…キャビティ
5,25…パーティング面
5a,5b,25b…接触面
10…ノズル
11…スプール
26…ガス抜き溝
47…ガス抜き孔
48…多孔性金属
49…有孔金属
A…樹脂
Claims (4)
- 型締めされた状態で成形材料が充填されるキャビティを構成する固定金型と可動金型よりなる成形金型において、前記固定金型と前記可動金型がともにS55C鋼より炭素含有量の低い低炭素鋼からなり、前記固定金型と前記可動金型とのパーティング面における、前記キャビティに隣接する部分を含む接触面の双方に、深さが0.003〜0.03mmの多数の微小くぼみを有し、当該多数の微小くぼみが、微小径のショットを高速で噴射して衝突させるショットピーニング処理により形成されたものであり、当該ショットピーニング処理による加工硬化と金属組織の改善によって、前記多数の微小くぼみが形成された接触面の疲労強度を前記ショットピーニング処理前よりも向上させたものであることを特徴とする成形金型。
- 前記ショットピーニング処理に用いるショットが、炭化珪素を含むものであり、当該ショットを用いたショットピーニング処理によって、前記多数の微小くぼみが形成された接触面に残留した炭素分により当該接触面に潤滑性が付与されている、請求項1に記載の成形金型。
- 樹脂成形体の成形に用いる、請求項1または2に記載の成形金型。
- 請求項3に記載の成形金型を用いて樹脂成形体を製造することを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
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