JP4152856B2 - 電磁波吸収体及び電磁波ノイズ制御電子機器 - Google Patents

電磁波吸収体及び電磁波ノイズ制御電子機器 Download PDF

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Description

本発明は、強磁性体を用いた電磁波吸収体及び電磁波ノイズ制御電子機器に関する。
近年、インターネット利用をはじめとして、携帯電話あるいは携帯情報端末、高度道路情報システム、ブルートゥ−スなど電波を利用した情報通信機器が普及してきており、ユビキタス社会が訪れてきている。しかし、これら情報機器の普及に伴って、これら情報機器から放射される電磁波がもたらす、他の電子機器への誤作動や、人体への影響が問題とされてきている。
そのため、電子機器には、誤作動を起こしたり、他の電子機器や人体に影響を与えたりしないように、電磁波をできるだけ放出しないこと、外部から電磁波を受けても誤作動しないことが求められ、電子機器に対し、電磁波を反射あるいは吸収する電磁波遮蔽を施すことが行われている。
電子機器、特に携帯可能な電子機器は、多機能、高性能化、小型化、軽量化が求められ、電磁波吸収においても同様で、堅牢で吸収効率がよく、小スペースで軽量であるものが求められている。
従来より行われている導体シールドでは、不要輻射源からの反射による電磁結合が助長されるので、磁性体の磁気損失、すなわち虚数部透磁率μ”を利用した不要輻射の抑制が有効であるとして、軟磁性体扁平粉の厚みが表皮深さより薄く、充分なアスペクト比を有し、磁性体表面を不導体化した磁性体粉を有機結合剤中に約95質量%加えてなる、効率のよい電磁波吸収特性を有し、可撓性を有する電磁波吸収体の提案がある(例えば、特許文献1参照。)。この実施例においては評価にあたって銅板で裏打ちされた電磁波吸収体を用いており、この電磁波吸収体の厚みは測定用銅板込みで2mmとされている。
また、強磁性元素とセラミック元素をマグネトロンスパッタリングで基板上に製膜し、低温でアニールすることにより高抵抗のセラミック層中に強磁性体からなる超微結晶を析出させ、アイソレートしてなる電磁波吸収体の提案があり、100MHz〜10GHzの高周波帯域で、電気抵抗が高く、渦電流による電磁波の反射が抑えられ、虚数部透磁率が大きいため優れた電磁波吸収特性を有するとされている(例えば、特許文献2参照。)。
特開平9−93034号公報 特開平9−181476号公報
しかし、特許文献1記載の電磁波吸収体はその厚みが銅板込みで2mmであり、電磁波吸収体自体のシート厚みは1mm以上と厚く、しかもその95質量%が鉄などの強磁性体からなるので重く、軽量化が達成されたとはいえない。また、有機結合剤の量が少ないので堅牢性、可撓性も充分とはいえない。さらに、軟磁性体粉の扁平化や表面の不導体化に手間を要するため軟磁性体扁平粉は高価なものとなり、これを多量に用いるので電磁波吸収体も高価なものとなり、産業上満足のいくものではなかった。
また、特許文献2には、セラミック相と強磁性超微結晶相とを含んでなる超微結晶磁性膜からなる電磁波吸収体の提案がある。この電磁波吸収体においては、セラミック相中に強磁性超微結晶を生成させるためには高温の熱処理が必要とされている。特許文献2の実施例ではスライドガラス上にRFマグネトロンスパッタ法でセラミック/強磁性元素の膜を製膜し、200〜350℃の熱処理をして強磁性超微結晶を形成させている。特許文献2では有機フィルム上に作製することを考慮しているものの、有機フィルムとしては高耐熱有機フィルムを用いざるを得ない。高耐熱有機フィルムは価格が高く、高価なものとなる。さらに、仮に高耐熱有機フィルム上にこのような強磁性超微結晶相を形成させたとしても、有機フィルムと生成されたセラミックスとでは熱膨張率に大きな差があり、クラックが生じやすく、可撓性や堅牢性が高いというものではない。
このような状況から、電子機器や電子部品などに、組み込み応用が容易で、電磁波吸収特性が良く、小型、軽量で、可撓性があり、堅牢な電磁波吸収体は、未だ満足のいくものがなく、求められている。
上記状況に鑑み、本発明者らは、強磁性体の超微粒子分散を検討し、電磁波吸収特性に優れ、小型、軽量で可撓性があり、堅牢な電磁波吸収体に到達した。
すなわち、本発明の電磁波吸収体は、炭酸ガス透過率が1×10 −9 [cm (STP)cm/(cm ×s×cmHg)]以上の有機高分子からなる基体上に、強磁性体を物理的に蒸着してなることを特徴とする。
また、本発明の積層電磁波吸収体は、前記電磁波吸収体を複数層積層してなることを特徴とする。
また、本発明の熱伝導シート付き電磁波吸収体は、前記電磁波吸収体からなるシートの少なくとも一方の面に、熱伝導性充填剤を含有する熱伝導シートを積層してなることを特徴とする。
また、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器は、前記電磁波吸収体が電子部品あるいは電子部品群の少なくとも一部を覆ってなることを特徴とする。
また、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器は、前記電磁波吸収体が、印刷回路板を有する電子機器の少なくとも一つの印刷回路板の少なくとも一方の面の一部又は全面に設けられてなることを特徴とする。
また、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器は、前記電磁波吸収体が、印刷回路板を有する電子機器の印刷回路に信号を伝達する電気コネクタに積層されていることを特徴とする。
また、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器は下面に前記電磁波吸収体が積層された押釦スイッチ用キートップ部材を用いてなることを特徴とする。
また、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器はクリック部材を配列したクリックシートと、クリックシート上に設けられたキートップとを有し、クリックシートの一方の面に前記電磁波吸収体が積層されてなる押釦スイッチ用キートップ部材を有することを特徴とする。
また、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器は少なくとも一方の面に前記電磁波吸収体が積層されたプレフォーム用インサートシートを用いてなることを特徴とする。
本発明によれば、電磁波吸収特性が良く、小型、軽量で、可撓性があり、堅牢な電磁波吸収体を提供することができる。
本発明で用いられる強磁性体としては、金属系軟磁性体および/または、酸化物系軟磁性体が主に用いられるが、金属系軟磁性体と酸化物系軟磁性体は1種単独で用いてもよいし、この両者を混合して用いてもよい。
金属系軟磁性体としては、鉄および鉄合金が好ましい。
鉄合金として具体的にはFe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al及びFe−Al−Si合金を用いることができる。これらの金属系軟磁性体は1種単独で用いてもよいし、2種以上の組合せを用いてもよい。鉄および鉄合金のほかにコバルトやニッケルの金属あるいはそれらの合金を用いてもよい。
酸化物系軟磁性体としてはフェライトが好ましい。具体的にはMnFe、CoFe、NiFe、CuFe、ZnFe、MgFe、Fe、Cu−Zn−フェライト、Ni−Zn−フェライト、Mn−Zn−フェライト、BaCoFe1222、BaNiFe1222、BaZnFe1222、BaMnFe1222、BaMgFe1222、BaCuFe1222、BaCoFe2441を用いることができる。これらのフェライトは1種単独で用いても良いし、2種以上を組合せて用いてもよい。
有機高分子基体として用いられる有機高分子は、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリシロキサン系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂や、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムなどのジエン系ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなどの非ジエン系ゴムなどが挙げられる。これらは熱可塑性であってもよく、熱硬化性であってもよく、その未硬化物であってもよい。また、該有機高分子は上述の樹脂、ゴムなどの変性物、混合物、共重合物であってもよい。
本発明の電磁波吸収体は、有機高分子からなる基体上に、強磁性体超微粒子が、基体である有機高分子の表層から数ミクロン、例えば3〜10μmの範囲にわたり分散していることが好ましい。すなわち、強磁性体超微粒子が有機高分子の表面にのみ蒸着されると、蒸着量が増えるにつれて連続層が形成されて、電磁波を反射しやすくなる。これに対して有機高分子の表層から数ミクロンにわたって分散すると、強磁性体超微粒子の連続層が形成されがたくなり、電磁波の反射を生じせしめずに電磁波を吸収できるようになる。該有機高分子の剪断弾性率が低いと、有機高分子基体への強磁性体の物理的蒸着時に、強磁性体超微粒子が有機高分子内に侵入あるいは強磁性体超微粒子の衝突による有機高分子の変形や流動により有機高分子表層の数ミクロンの層にわたり分散しやすくなる。この観点からは有機高分子の剪断弾性率が、1×10〜1×10(Pa)が好ましく、より好ましくは1×10〜1×10(Pa)、さらに好ましくは1×10〜1×10(Pa)とされる。これらに該当する有機高分子としては、おおよそゴム硬度90°(JIS−A)以下の弾性体が挙げられる。有機高分子の剪断弾性率が1×10(Pa)を超えても、5×1010(Pa)以下であれば、軽度の変形や流動が可能となるので、表面に凹凸を付けた有機高分子基体を用いる、あるいは一度の蒸着量を下げて、強磁性体超微粒子が連続層を形成しない程度の蒸着量の電磁波吸収体を複数層積層してトータルの蒸着量を稼ぐことにより良好な電磁波吸収特性を有するものとすることができる。
また、飛ばされた強磁性体原子が入り込みやすい分子間空隙の広さを示す指標として、ガス透過率を用いることができる。本来は、前記した強磁性体元素の大きさに等しいアルゴンガス、クリプトンガスが透過率を確認することに都合がよいが、ガス透過率の測定には一般的でないため、例えば炭酸ガスの透過率データで代用することができる。この炭酸ガス透過率の大きなものとして、1×10−9[cm(STP)cm/(cm×s×cmHg)]以上のポリフェニレンオキサイド、ポリメチルペンテン、ナイロン11、ハイインパクトポリスチレンなどのゴム成分との混合物や共重合物、1×10−8[cm(STP)cm/(cm×s×cmHg)]以上のポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、シリコーンゴムなどが挙げられる。剪断弾性率の点からもシリコーンゴムなどのゴム類は特に好ましい。
また、有機高分子表面に物理的な凹凸を付加的に加工することがよい。その平均面粗さRaはおよそ0.5〜10μmが好ましい。
この凹凸付加加工にあたっての加工法は特に限定されるものではないが、例えば、サンドブラスト、エッチングなどや、粗面の転写により形成する方法が挙げられる。
さらに、発泡体は内部に空隙を有するため、都合がよく、微細なセルで、連続気泡になっており、表面にスキン層のないものがよい。セル径がおおよそ100μm以下、好ましくは50μm以下の発泡体が好ましい。空孔率は5〜50%程度が好ましい。
該有機高分子はフィルムとして用いられ、その膜厚は薄い方がよく、1〜200μm程度とされる。有機高分子のフィルムが単独では薄くてハンドリングできない場合は、別にキャリヤーを設けてもよい。
薄い膜厚を形成するには、製膜材料の流動性の大きいことがよく、有機高分子を溶剤に溶解した溶液を製膜してもよく、有機高分子が単独で流動性を有する場合は無溶剤で製膜してもよい。
図1に、有機高分子基体上に強磁性体が物理的に蒸着された状態の模式図を示す。図1は、有機高分子基体(1)上に強磁性体(2)が物理的に蒸着されているが、強磁性体(2)は有機高分子基体(1)の中に部分的に潜り込んだ状態となり、強磁性体が三次元的に偏在しており、均質膜を形成していない状態となっていることを示している。強磁性体が、直接、超微粒子化された状態で分散されているため、再加熱等による強磁性体の再結晶をはかる必要がない。
強磁性体(2)として金属軟磁性体が均質膜を形成するように蒸着されていると、金属軟磁性体の固有抵抗が小さいので、渦電流が発生して、強磁性体の電磁波吸収効果がなくなり、むしろ反射機能がでてくるため、電子回路や電子部品からの電磁波を吸収できずに、反射してしまい、電子回路等に逆に影響を与えてしまう。したがって、金属軟磁性体を有機高分子基体(1)上に物理的に蒸着する場合は、均質な強磁性体膜を形成しないようにすることがよい。膜の表面抵抗(直流抵抗)はおおよそ1×10〜1×1010Ω/□であることが好ましい。
後述する物理蒸着法により原子状態になった強磁性体元素は、おおよそ数Åのサイズであるが、有機高分子は、金属やセラミックスと異なり分子間に空隙を有しており、飛ばされた強磁性体原子は、この空隙に入りこむため、一平面に堆積して薄膜を形成することがなく、三次元的に偏在するため、蒸着量が少ない場合は、超微粒子が独立して、良導通を示さない状態になり易い。
図1に示すように、強磁性体(2)の超微粒子が有機高分子基体(1)の内部に深く入り込むと、一度の蒸着で蒸着量が多くても容易に偏在し、均質膜となることがなく、高い抵抗を維持することができる。
したがって、超微粒子が有機高分子に深く入り込むことが強磁性体膜の形成効率を高める上で好都合である。
前述のように有機高分子の剪断弾性率が低いと、分子が容易に変形するので超微粒子が深く入り込みやすい。前記有機高分子のガス透過率が高い場合や、発泡体も同様の効果を示す。
物理蒸着法(PVD)での各種成膜方法は、真空にした容器の中で薄膜形成物質を何らかの方法で気化させ、近傍に置いた基板上に堆積させて薄膜を形成する方法である。
物理蒸着法を薄膜物質の気化方法で分類すると、蒸発系とスパッタ系に分けられ、蒸発系にはEB蒸着、イオンプレーティング、スパッタ系にはマグネトロンスパッタリング、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングなどが挙げられる。
EB蒸着は、蒸発粒子のエネルギーが1eVと小さいので、基板のダメージが少なく、膜がポーラスになりやすく、膜強度が不足する傾向があるが、強磁性体膜の固有抵抗は高くなるという特徴がある。
イオンプレーティングはアルゴンガスや蒸発粒子のイオンは加速されて基板に衝突するため、EBよりエネルギーは大きく、付着力の強い膜を得ることができる。しかし、ドロップレットと呼んでいるミクロンサイズの粒子が多数付着してしまうと放電が停止してしまう。また、酸化物系強磁性体を成膜するには、酸素などの反応性ガスを導入しなければならず、膜質コントロールが難しい。
通常のマグネトロンスパッタリングは、磁界の影響で強いプラズマが発生するため成長速度が速く、図1に示す様に強磁性体が部分的に有機高分子基体の中に潜り込んだ状態となり、三次元的に偏在して均質膜を形成しない状態で蒸着されるという特徴があるが、ターゲットの利用効率が低い。
ミラートロンスパッタリングなど、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングは、二枚のターゲットを向かい合わせに平行に配置し、対向するターゲット間にターゲット面に垂直な磁力線を印加して、プラズマを発生させ、対向するターゲットの外に基板を置き、プラズマダメージを受けることなく所望の薄膜を生成する方法である。そのため、基板上の薄膜を再スパッタすることなく、成長速度がさら速く、スパッタされた原子が衝突緩和することがない。
したがって、代表的な有機の共有結合エネルギーは約4eVであり、C−C、C−H、Si−O、Si−Cの結合エネルギーはそれぞれ3.6、4.3、4.6、3.3eVであるのに対して、対向ターゲット型マグネトロンスパッタでスパッタされた原子は8eV以上と高いエネルギーを持っている。
対向ターゲット型マグネトロンスパッタでは、このように高いエネルギーを持っているので、有機高分子の種類にもよるが、有機高分子の一部の化学結合を切断し、衝突するので、スパッタ後の基体表面には例えば5μm程度の凹凸が形成され、強磁性体原子が、有機高分子基体の表面からおおよそ3〜10μm程度まで進入することができる。これは高エネルギーの強磁性体原子の基体表面への衝突により強磁性体原子と有機高分子の局部的なミキシングが生じたためと推測される。このような現象が生ずることにより、前記した強磁性超微粒子の偏在をもたらすことができ、一度の大量の強磁性体を分散させることができるので好ましい。すなわち、一度の蒸着で、強磁性体の質量を稼ぐことができることから、吸収減衰率の大きな吸収体を容易に得ることができるため、好ましい。
また、特に、強磁性体をスパッタする場合は、通常のマグネトロンスパッタでは磁力線が強磁性体ターゲット中を通るのでターゲットの厚みによってスパッタレートが決まったり、放電がおきにくくなったりするのに対し、対向ターゲット型マグネトロンスパッタでは磁場をターゲットのスパッタ面に垂直に印加するため、強磁性体をターゲットに用いても磁場が保持され、ターゲットの厚さに関係なく高速スパッタができるという特徴を有する。
膜厚は、膜厚計で測定できるが、膜の密度あるいは有機高分子基体の内部に侵入し、偏在していることから、該基体上にある膜の厚さ(蒸着により増加した堆積厚み)とは等しくなく、被着させた強磁性体の量と見るのが正しい。この被着量とみなしたひとつの有機高分子基体上の膜厚は、200nm以下が好ましく、これより厚いと偏在できずに堆積し、均質な導通性を有する膜が生成してしまう。それゆえ、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下がよい。一方、電磁波吸収能の点からは0.5nm以上であることが好ましい。
しかし、過度に膜厚が薄くなると、吸収能力が低減するものであるから、蒸着された高分子基体を複数層積層して積層電磁波吸収体とすることにより、適宜、電磁波吸収体に占める強磁性体の総量を増やすことが好ましい。この総量は吸収レベルにもよるが、おおよそ総合計厚みで10〜500nm(みなし膜厚として)がよい。
この膜厚は、物理的蒸着前後での質量増加量を強磁性体の比重と蒸着面積で割った値として求められる。あるいは、ガラス等の硬質基板上に堆積した厚みを測定することによって求められる。
積層電磁波吸収体においては、その積層数は特に限定されるものではないが、積層電磁波吸収体の全体の厚みを考慮して決められる。物理的蒸着後の、複数積層した有機高分子基体を含む全体の厚みは、おおよそ20〜200μm程度となるのが好ましい。そのため、有機高分子基体の厚みも積層電磁波吸収体にした時の全体の厚みを考慮して適宜選択することが好ましい。
また、強磁性体と有機高分子の割合は、強磁性体と有機高分子の体積比を、0.00005:1〜0.0025:1程度とすることが好ましく、この場合、その比重は有機高分子だけの場合と比べ、最大でも約数%増しとなり、1.5以下となる。それ故、強磁性体の量が相対的に少ないため、有機高分子の特性を維持し、十分な機械物性を保持できる。
積層電磁波吸収体においては、各層を形成する電磁波吸収体の強磁性体の厚みは同一であってもよいが、各層ごとに強磁性体の厚みを変えてもよい。
例えば、電磁波吸収能力があるといえども、ある程度の反射が起こり、電磁波を放射した電子回路や電子部品に影響を与えることがあるので、積層する各層の強磁性体のみなし厚みを、電子部品側の層から徐々に増して、傾斜的に配置するなど、極力反射を抑えることも可能である。
本発明の熱伝導シート付き電磁波吸収体に用いられる熱伝導シートは熱伝導性充填剤を含有するシートであり、熱伝導性充填剤としては、銅やアルミニウム等の金属、アルミニウムやインジウムなどの低融点合金、アルミナ、シリカ、マグネシア、ベンガラ、ベリリア、チタニア等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の金属窒化物、或いは炭化ケイ素などを用いることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
熱伝導性充填剤の平均粒子径は0.1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましい。
粒径が0.1μm未満の場合には、粒子の比表面積が大きくなりすぎて高充填化が困難となる。粒径が100μmを超える場合には、熱伝導シートの表面に微小な凹凸が現れ、熱的な接触抵抗が大きくなるおそれがある。
熱伝導性充填剤の含有量は充填剤の種類にもよるが、10〜85vol%とすることが好ましい。10vol%未満では、必要とする熱伝導性が得られない場合があり、85vol%を超えると、シートが非常に脆いものとなってしまうおそれがある。
熱伝導シートを構成するシートの材質は特に限定されるものではないが、耐熱性、耐候性等の点からシリコーンゴム、ウレタンゴム等が好ましく用いられる。
この熱伝導シート付き電磁波吸収体は、パワートランジスタやサイリスタのような発熱性半導体の放熱用途に特に効果がある。
本発明の電磁波吸収体は種々の電子機器の電子部品から発生する電磁波によるノイズを抑制することができる。即ち電子機器が有する電子部品の中、他からの電磁波により誤作動を起こすおそれのある電子部品や電磁波を発生して他の電子部品に誤作動を起こすおそれのある電子部品を本発明の電磁波吸収体で覆って、電子部品から発生する、あるいは電子部品に影響を与えようとする電磁波ノイズを制御することができる。このような電子機器としては、信号を発信、受信あるいは受発信する機器であればどのような電子機器も対象となる。即ち、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器は、該電子機器の有する電子部品あるいは電子部品群の少なくとも一部を上記電磁波吸収体で覆ってなることを特徴とする。
本発明の電磁波ノイズ制御電子機器は、上記電磁波吸収体が、印刷回路板を有する電子機器の少なくとも一つの印刷回路板の少なくとも一方の面の一部又は全面に設けられてなることを特徴とする。
即ち、印刷回路板の両面全体、あるいは片面全体を覆っていてもよく、両面あるいは片面の一部を覆っていてもよい。印刷回路板上に設けられている電子部品から発生する電磁波が同じ印刷回路板上の他の電子部品に悪影響を与えるものでなければ、全体を電磁波吸収体で覆って、外部からの電磁波を吸収してもよい。
又、印刷回路板上の電子部品から発生する電磁波が同じ印刷回路板上の他の電子部品に悪影響を与えるものであれば、その悪影響を与える電磁波を発生する電子部品以外を例えばシールドボックスあるいは電磁波吸収体で覆って、かつ、その悪影響を与える電磁波を発生する電子部品を個別に電磁波吸収体で覆ってもよい。
本発明の電磁波吸収体は可撓性を有するため、上記印刷回路板がフレキシブル印刷回路板である場合に、印刷回路板が応力により変形しても印刷回路板の変形に容易に追従してしっかりと電子部品を覆うことができるので特に適している。
又、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器が少なくとも印刷回路板と印刷回路に信号を伝達する電気コネクタとを有するものであって、前記電磁波ノイズ抑制体が、該電気コネクタの少なくとも一部に積層されていると、電気コネクタに及ぼす外部からの電磁波による誤作動を惹き起こす信号の侵入を防止できる。この場合も本発明の電磁波吸収体は可撓性を有するため、電気コネクタがフレキシブルコネクタであると、外部応力によりフレキシブルコネクタが変形してもその変形に容易に追従してしっかりとフレキシブルコネクタを覆うことができるので特に適している。
上記のような電子機器の例として携帯電話機、カメラ付き携帯電話機等を例示できる。
また、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器としては、下面に前記電磁波吸収体が積層された押釦スイッチ用キートップ部材を用いた電磁波ノイズ制御電子機器を挙げることができ、このような押釦スイッチ用キートップ部材の具体例としては、押圧部を設けた加飾シートの下面に前記電磁波吸収体が積層されてなる押釦スイッチ用キートップ部材を挙げることができる。
前記加飾シートの材料としては、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、アクリル、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなど熱可塑性の樹脂が選択されるが、印刷性や成形加工性等を考慮するとポリエステル、ポリカーボネート、アクリル及びそれらのアロイ、共重合物が好ましい。
この加飾シートは必要に応じてシートの所定の位置に文字、記号、絵柄等の必要な印刷を施しておくことができる。この印刷は従来ある印刷方法を用いればよく、特に限定されるものではない。さらには塗装、メッキ、蒸着、ホットスタンプ、レーザーマーキング等の手法を用いて装飾を行っておいてもよい。
前記押圧部は加飾シートに絞り加工などにより凹部を設け、その凹部に樹脂、エラストマ等を充填してもよく、平板状の加飾シートの一方の面に樹脂、エラストマ等からなる押釦スイッチ状の成型体を接着してもよい。
加飾シートの凹部に充填されるあるいは加飾シート上に設けられる樹脂またはエラストマとしては、特に限定されるものではない。
電磁波吸収体は押圧部を設けた加飾シートの下面に積層される。加飾シートに設けられた凹部に樹脂、エラストマ等を充填したものの場合は、凹部に充填された樹脂エラストマ等の底面と、加飾シートの凹部を有する側の面を共に覆う様に電磁波吸収体が積層される。
加飾シート上に押釦スイッチ状の成型体が設けられたものの場合は加飾シートが設けられた面とは反対側の面に電磁波吸収体が積層される。
又、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器としては、クリック部材を配列したクリックシートと、クリックシート上に設けられたキートップとを有し、クリックシートの一方の面に前記電磁波吸収体が積層されてなる押釦スイッチ用キートップ部材を有する電子機器を挙げることができる。
このような押釦スイッチ用キートップ部材の具体例としては、クリック部材が上に凸のドーム状で、ドーム状クリック部材内面(クリックシート下面)の少なくとも上部に導電性の被膜からなる可動接点が設けられ、キートップを押圧したときにクリック部材が変形して、例えばその下に配置された印刷配線基板上の固定接点に接触可能となっているものを挙げることができる。
電磁波吸収体はクリックシートのキートップ側の面に積層されていてもよく、キートップ側と反対側の面に積層されていてもよい。キートップ側と反対側の面に積層されている場合は、電磁波吸収体は前記可動接点と電気的に絶縁状態にある様に設けられる。即ち、可動接点のある部分を除いたクリックシート表面に電磁波吸収体が積層されていてもよく、クリックシート下面の全面に電磁波吸収体が積層され、電磁波吸収体の表面のうち、ドーム状クリック部材内面の少なくとも上部に絶縁被膜を介して可動接点を設けてもよい。電磁波吸収体が可動接点と電気的に絶縁されていると、キースキャンの際に他のキーとの干渉を抑制することができる。電磁波吸収体がドーム状クリック部材の一方の面全面にわたって設けられているとミリ波帯域での電磁波の漏れを防止することができる。
クリックシートは押圧による変形性、押圧力解除時の反発による復元性、成型性等の点から例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂が好ましい。可動接点を構成する材料としては、導電性材料であれば特に限定されないが、銀、銅、カーボン等からなるものが好ましく用いられる。
また、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器としては、少なくとも一方の面に前記の電磁波吸収体が積層されたプレフォーム用インサートシートを用いてなるものを挙げることができる。
プレフォーム用インサートシートはAV機器のフロントパネル、自動車の計器パネル、押釦などに用いられる成形品の表面に形成されるものであり、透光性基材と、透光性印刷層を有するものである。即ち、透光性基材の一方の面に透光性印刷層を有していてもよく、透光性印刷層を間に挟んで2枚の透光性基材層が積層されていてもよい。本発明のプレフォーム用インサートシートは押釦スイッチに用いられる成形品の表面に形成されるものとして特に有効である。
透光性基材の一方の面に透光性印刷層を有するインサートシートの場合は、電磁波ノイズ抑制体は透光性印刷層と異なる面に積層されているのが好ましく、透光性印刷層を間に挟んで2枚の透光性基材層が積層されている場合はどちらの面に積層されていてもよい。
電磁波吸収体の透光性基材と反対側の面に導電層を設けるのが好ましい。導電層としては、金属箔、金属蒸着膜、印刷された導電ペースト等を例示できる。この導電層を設けることにより、電磁波を反射させ、外に逃さない、反射波を再吸収することができる、共振のQを小さくすることでアンテナ効果を抑制することができる、金属光沢層の機能をも有することができるなどの効果を有する。
以下に、実施例を用いて、本発明をさらに詳しく説明する。
(評価)
なお、実施例、比較例で得た電磁波吸収体の電磁波吸収特性は、図2に示す方法で、近傍界の吸収を測定周波数2GHzで吸収減衰率と反射減衰率を測定した。ネットワークアナライザーは、アンリツ製ベクトルネットワークアナライザー37247Cを用いた。
比較例1)
有機高分子基体として12μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(剪断弾性率3.8×10(Pa)、炭酸ガス透過率1×10−11[cm(STP)cm/(cm×s×cmHg)]、平均表面粗さ1.8μm)上に、Mn−Zn系高透磁率フェライト3nmを、対向ターゲット型マグネトロンスパッタ法によりスパッタした。強磁性体の表面抵抗を注意深く直流4端子法で測定し、所望の大きさに整え、10枚にポリエステル系接着剤を挿み、真空プレスで一体化して、総厚138μmの電磁波吸収体を得た。次いで、比重と電磁波吸収特性を測定した。
(実施例
25μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、有機高分子基体として20μm厚のシリコーンゴム(剪断弾性率1×10(Pa)、炭酸ガス透過率2.2×10−7[cm(STP)cm/(cm×s×cmHg)])を設け、この上に、Fe−Ni系軟磁性金属20nmを、対向ターゲット型マグネトロンスパッタ法によりスパッタした。強磁性体の表面抵抗を注意深く直流4端子法で測定し、所望の大きさに整え、総厚45μmの電磁波吸収体を得た。次いで、比重と電磁波吸収特性を測定した。
(実施例
25μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、有機高分子基体として10μm厚のウレタンゲル(剪断弾性率1.7×10(Pa)、炭酸ガス透過率5.3×10−8[cm(STP)cm/(cm×s×cmHg)])を設け、この上に、Fe−Si−Al系軟磁性金属15nmを、マグネトロンスパッタ法(非対向ターゲット型)によりスパッタした。強磁性体の表面抵抗を注意深く直流4端子法で測定し、さらにウレタンゲルを2μm塗布し、再度スパッタを行った。これを繰り返し、強磁性体層を3層設け、総厚79μmの電磁波吸収体を得た。次いで、比重と電磁波吸収特性を測定した。
(実施例
マグネトロンスパッタ法に代えて、対向ターゲット型マグネトロンスパッタ法を用いたこと以外、実施例と同様にしてFe−Si−Al系軟磁性金属15nmをスパッタして、強磁性体層を3層設け、総厚79μmの電磁波吸収体を得た。
(比較例
扁平状のFe−Ni系軟磁性金属粉(平均粒径15μm、アスペクト比65)94重量部に、ポリウレタン樹脂5重量部、硬化剤としてイソシアネート化合物1重量部、溶剤(シクロヘキサノンとトルエンの1:1混合物)30重量部を加えたペーストを乾燥後の厚みが1.1mmとなるよう、バーコート法で塗布して膜を形成し、十分乾燥させた後、真空加熱プレスし、85℃で24時間キュアリングして膜厚1mmの電磁波吸収体を得た。次いで、比重と電磁波吸収特性を測定した。
Figure 0004152856
なお、表1において、比重はキャリヤー込みの値である。(有機高分子基体としてPETを用いた場合はPET付で測定)
破断強度・伸びはキャリヤーなしで測定。
表1から、電磁波吸収特性は実施例1〜、比較例1、2もほぼ同等であるが、比較例の電磁波吸収体は比重が6.1と重く、脆いため、衝撃がかかった場合に壊れやすいものであるのに対し、比較例1の電磁波吸収体は基体であるポリエチレンテレフタレートと同等の強度、可撓性を有し、実施例の電磁波吸収体はトータル厚み45μmと薄くて軽く、伸度および可撓性を有するので堅牢度に優れるとともに加工性に優れる。また、実施例の電磁波吸収体も薄くて軽く、可撓性を有することがわかる。また、実施例の比較から、強磁性体超微粒子の偏在性において、対向ターゲット型マグネトロンスパッタ法が通常のマグネトロンスパッタ法(非対向ターゲット型)より優れていることがわかる。
有機高分子基体上に強磁性体が物理的に蒸着された状態の模式図を示す図である。 電磁波吸収体の電磁波吸収特性の測定方法を示す概略図である。
符号の説明
1:有機高分子基体
2:強磁性体
3:電磁波吸収体
4:テストフィクスチャー
5:ネットワークアナライザー
6:銅箔パターン
7:絶縁フィルム

Claims (16)

  1. 炭酸ガス透過率が1×10 −9 [cm (STP)cm/(cm ×s×cmHg)]以上の有機高分子からなる基体上に、強磁性体を物理的に蒸着してなることを特徴とする電磁波吸収体。
  2. 有機高分子の剪断弾性率が1×10〜1×1010Paであることを特徴とする請求項1記載の電磁波吸収体。
  3. 有機高分子基体上に物理的に蒸着された強磁性体の厚みが0.5〜200nmであることを特徴とする請求項1または2記載の電磁波吸収体。
  4. 比重が1.5以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の電磁波吸収体。
  5. 有機高分子からなる基体上に、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング法で強磁性体を物理的に蒸着してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の電磁波吸収体。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項記載の電磁波吸収体を複数層積層してなる積層電磁波吸収体。
  7. 有機高分子基体上に物理的に蒸着された強磁性体の合計厚みが500nm以下であることを特徴とする請求項6記載の積層電磁波吸収体。
  8. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の電磁波吸収体からなるシートの少なくとも一方の面に、熱伝導性充填剤を含有する熱伝導シートを積層してなることを特徴とする熱伝導シート付き電磁波吸収体。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の電磁波吸収体が電子部品あるいは電子部品群の少なくとも一部を覆ってなる電磁波ノイズ制御電子機器。
  10. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の電磁波吸収体が、印刷回路板を有する電子機器の少なくとも一つの印刷回路板の少なくとも一方の面の一部又は全面に設けられてなることを特徴とする電磁波ノイズ制御電子機器。
  11. 印刷回路板がフレキシブル印刷回路板であることを特徴とする請求項10記載の電磁波ノイズ制御電子機器。
  12. 少なくとも印刷回路板と印刷回路に信号を伝達する電気コネクタとを有し、該請求項1〜8のいずれか1項に記載の電磁波吸収体が、該電気コネクタの少なくとも一部に積層されていることを特徴とする電磁波ノイズ制御電子機器。
  13. 電気コネクタがフレキシブルコネクタである請求項12記載の電磁波ノイズ制御電子機器。
  14. 下面に請求項1〜5のいずれか1項に記載の電磁波吸収体が積層された押釦スイッチ用キートップ部材を用いてなることを特徴とする電磁波ノイズ制御電子機器。
  15. クリック部材を配列したクリックシートと、クリックシート上に設けられたキートップとを有し、クリックシートの一方の面に請求項1〜5のいずれか1項の電磁波吸収体が積層されてなる押釦スイッチ用キートップ部材を有することを特徴とする電磁波ノイズ制御電子機器。
  16. 少なくとも一方の面に請求項1〜5のいずれか1項に記載の電磁波吸収体が積層されたプレフォーム用インサートシートを用いてなる電磁波ノイズ制御電子機器。

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