JP4149007B2 - 酵母の凝集性判定用dna分子および凝集性判定方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、酵母の凝集性の判定に使用できるDNA 分子および該DNA 分子を利用して酵母の凝集性を判定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、遺伝解析などの実験用途で使用される酵母(実験室酵母)で観察される凝集性(実験室酵母タイプの凝集性)は強く、マンノースという単糖が溶液中に存在すると阻害されて分散する性質を持つ。実験室酵母の凝集性は非常に強く、増殖中常に観察され、培養初期の段階でも培養液から容易に沈降して分離する現象が観察される。一方、ビール酵母で問題とされる凝集性のタイプ(ビール酵母タイプの凝集性)は、通常は弱く、マンノースの他にグルコース、マルトース、スクロースといった麦汁中に豊富に含まれる糖類で阻害されるために、実験室酵母とは性質を異にする。
【0003】
ビール酵母は製品ビールの香味等を決定する大きな要因の一つであるため、優秀な酵母を選抜、あるいは育種することはビール生産者の課題となっている。ドイツを中心に日本、その他の各国でラガータイプのビールが広く製造されているが、これに使用される酵母は、発酵が終了に近づくと酵母が凝集して発酵液の底に沈降する特性を持ち、特に下面酵母と呼ばれている。ビール醸造では、発酵が終了して沈降した酵母を回収して、さらに次回の発酵へ繰り返して使用するという製造上の特徴があるために、下面酵母のこの発酵後期に沈降する性質は、ビール醸造にとって大きな意味を持つ。なぜならば、凝集性が無い株は発酵後期になっても浮遊したままで、酵母をビールから取り除くために遠心分離などの操作が必要になるからである。しかし、反対に浮遊性の高い株は麦汁中の糖を最後まで消費する性質があるので、醗酵不良が起きることが分かっている麦芽のロットに対して利用する場合等には有用である。
従って、酵母を目的に応じて使い分けるために、評価する酵母菌株が、実験室酵母タイプの凝集性を持っているか、ビール酵母タイプの凝集性を持っているか、あるいは凝集性が無く浮遊性であるのかを判定することは重要である。
【0004】
しかし、実際の製造現場を模して凝集性を判定するには手間もかかるし、また、凝集性の微妙な違いを評価することも困難であった。従って、古くから多くの研究者によって凝集性の簡易評価方法が提案されてきた。その多くは凝集促進物質であるCaイオンを酵母と共存させることによって短期に凝集を起こさせてその度合いを測定するものである。しかしながら、この方法は非常に強い凝集性を有する実験室酵母であれば評価可能であるが、ビール製造に実際使用する酵母における弱い凝集性(ビール酵母タイプの凝集性)を判定する際には沈降は見られず、評価方法としての機能を果たさなかった。また、多数の菌株を扱うには操作が煩雑である点で問題があった。
【0005】
一方、酵母の凝集性を遺伝子の面から解明しようとする試みが行われている。この研究の結果、実験室酵母からFLO1遺伝子がクローニングされ、その塩基配列も明らかにされている [Yeast, 9, 1-10, (1993)〕。しかし、上述のように、ビール酵母タイプの凝集性は、実験室酵母タイプの凝集性とは性質を異にするものであり、この実験室酵母由来のFLO1遺伝子の有無によって、ビール酵母タイプの凝集性を判定することは困難であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、酵母の凝集性、とりわけ微弱で観察しづらいビール酵母タイプの凝集性の判定を可能にするためのDNA 分子を提供することである。また、本発明の別の課題は酵母の凝集性を簡便に多量の菌株について再現性良く判定する方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、ビール酵母の凝集性遺伝子(以下、Lg-FLO1 とする。)の塩基配列の一部を明らかにした。そしてすでに報告されているFLO1遺伝子との相同性の検討を行い、ビール酵母由来Lg-FLO1 特有の配列部分を明らかにし、酵母のゲノム中にこの塩基配列が存在するかしないかを判定することで、ビール酵母タイプの凝集性の有無が判定できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、酵母の凝集性を有する酵母に特有な配列番号1に示される塩基配列またはその相補配列の一部または全部を含む酵母の凝集性判定用DNA 分子を提供する。
本発明はまた、前記のDNA 分子を利用することにより酵母の凝集性を判定する方法を提供する。
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の酵母の凝集性判定用DNA 分子は、配列番号1(ないしは図1〜2)に示される塩基配列またはその相補配列の一部または全部を含むものである。ここで「DNA 分子」とは、2個以上のヌクレオチドを含む分子をいうものである。配列番号1はLg-FLO1 の塩基配列の一部を示しており、図3〜4は実験室酵母FLO1遺伝子の対応部分を示したものである [Yeast, 10, 211-225, (1994)] 。これら遺伝子間の相同性を比較することにより、配列番号1に示したビール酵母Lg-FLO1 遺伝子特異の塩基配列部分を特定した(この部分を以下、特異部分という。図1〜2に示される塩基配列で下線が引いてある)。
【0010】
従って、判定対象の酵母のゲノム上の塩基配列に特異部分があるかないかを検出できれば、ビール酵母タイプの凝集性の有無が判定できると考えられた。
この特異部分の検出方法は、従来知られているいずれの方法も取り得る。例えば (1)特異部分の塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むDNA 分子を放射性元素、蛍光色素等で標識した後、これをプローブとして判定対象の酵母の核酸とハイブリダイズさせるハイブリダイゼイション法、 (2)特異部分の一部または全部を含むDNA 分子またはその塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むDNA 分子を一つのプライマーとして用い、もう一方のプライマーとしてこの配列よりも上流あるいは下流の配列の一部または全部を含むDNA 分子またはその塩基配列に対して相補的塩基配列を含むDNA 分子を用いて、酵母の核酸を増幅し、増幅物の有無を確認する方法、および (3)特異部分より上流の塩基配列の一部または全部を含むDNA 分子またはその塩基配列に対して相補的塩基配列を含むDNA 分子を一つのプライマーとして用い、もう一方のプライマーとして特異部分より下流の塩基配列の一部または全部を含むDNA 分子またはその塩基配列に対して相補的塩基配列を含むDNA 分子を用いて、酵母の核酸を増幅し、増幅物の分子量の大きさを測定する方法が考えられる。
【0011】
このうち、検出感度の面で (2)と (3)が優れており、さらに (2)では特異部分と同じ塩基配列がないと増幅物が全く検出されないので実験ミスとの区別ができない為に対照が必要であるのに対し、 (3)は増幅物の異なる分子量のバンドが検出されるのでその問題で防止できる。よって、多数の試料を扱い、精製が不十分なゲノムで増幅工程をおこなう可能性のある、酵母菌のスクリーニングなどの際には (3)が最も優れている。
【0012】
(2) および (3)でプライマーに使用するDNA 分子の塩基数は、10bp程度必要であり、高い検出感度を得るためには約15〜25bpであることが好ましい。また、挟み込む部分の塩基数は約300 〜2000bpが適当である。
【0013】
(3) のプライマーの具体例としては図5に示される各プライマー対を含むDNA 分子が挙げられる。これらのプライマーには、後述のように制限酵素認識部位が付与されている。
上記のようなDNA 分子は、公知の方法に従い、化学合成によって作製することができる。
【0014】
以下に、本発明の検出方法の一例について説明するが、この方法は上記 (3) で述べた方法、つまり特異部分を含むDNA 分子またはその塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むDNA 分子を増幅し、その増幅物の分子量の大きさによってビール酵母タイプの凝集性の有無を判定する方法に関するものである。
【0015】
まず、判定対象となる酵母のゲノムを調整する。調整方法は、Hereford法や酢酸カリウム法など、公知の如何なる方法も使用可能である〔例えば蛋白質核酸酵素,35, 2523-2541 (1990)〕。
【0016】
このゲノムを対象にして、特異部分より上流の塩基配列の一部あるいは全部を含むDNA 分子またはその塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むDNA 分子からなるプライマーと、特異部分より下流の塩基配列の一部あるいは全部を含むDNA 分子またはその塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むDNA 分子からなるプライマーを用いてPCR 法によって核酸の増幅をおこなう。このとき、各プライマーには増幅物をクローニングすることを考えて制限酵素認識部位を付与することが可能である。また、増幅させる特異部分は少なくても一箇所を含むものでよく、複数の特異部分を含むものでもよい。
【0017】
PCR 法に用いるDNA ポリメラーゼは95℃の耐熱性を有するものであればその起源は問わない。PCR 法の反応条件としては変性温度は90〜95℃、アニーリング温度は40〜60℃、伸長温度は70〜75℃、サイクル数は10回以上が好ましいが、これに限らず通常PCR 法に使用できる条件であればよい。
【0018】
得られた反応生成物はアガロースゲルなどを用いた電気泳動法等の検出方法により分離され、増幅産物の分子量が測定できる。この方法により、増幅産物の分子量が特異部分のDNA 分子を含む大きさかどうかによって、その酵母がビール酵母タイプの凝集性を有するか否かの判定を行う。
【0019】
【発明の効果】
本発明により、判定対象の酵母が実験室酵母タイプの凝集性を持っているか、ビール酵母タイプの凝集性を持っているか、あるいは凝集性が無く浮遊性であるのかを簡単な方法で迅速に測定できることが可能となる。
【0020】
【実施例】
次に本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕 酵母凝集性判定用DNA の取得および塩基配列の決定
(1)ビール酵母の凝集性に関与する遺伝子の探索
ビール酵母の凝集性に関与する遺伝子を探索する目的で、以下の実験を実施した。凝集性ビール酵母、KI084株から、Stewartの方法 [J.Inst.Brew., 93, 216-219, (1987)]によって胞子を形成させ、染色体数の減少した株(以降、このような株を減数体と呼ぶ)を作成した。得られた減数体の内、6株に関して、表1に記載した培地を用いて20℃で静置条件下で48時間培養した。培養後の細胞は遠心にて集菌し、0.1M EDTAで2回洗浄後、滅菌水で2回洗浄し、滅菌水に再懸濁した。この細胞の凝集性判定を以下の方法によって行なった。すなわち、最終OD600=2.0となるように、凝集測定用緩衝液(50mM 酢酸ナトリウム、0.1% 塩化カルシウム、pH4.6)に懸濁し、室温で30分間置いた後、20秒間激しく攪拌し、さらに5分間静置した後、目視によって凝集、非凝集の別を判定した。この結果、供試した6株の減数体は、2株の非凝集性株と4株の凝集性株に分類された。
【0021】
【表1】
【0022】
これらの株から、以下に述べるようにサザン解析およびノザン解析を行なった。全DNAの抽出は、YPD培地 [2% バクトペプトン(ディフコ社)、1% 酵母抽出物(ディフコ社)、2% グルコース] で30℃で振とう培養し、静止期に達した細胞から、Herefordらの方法 [Cell, 18, 1261-1271, (1979)]によって実施した。抽出されたDNAは2μg相当をHindIII(ベーリンガー社)で消化し、1%アガロースゲルを用いて電気泳動後、ナイロンフィルターHybond N+(アマシャム社)に、そのプロトコールに従ってブロッティングを行ない、その後のサザン解析に供試した。また、全RNAの抽出は、これらの株に関し、表1に記載の培地を用いて48時間、20℃で静置培養を行なった細胞から、VilleneveとMeyerの方法 [Cell, 48, 25-37 (1987)] によって実施した。得られたRNAの10μg を、16μl のグリオキサール・DMSO溶液 [1M グリオキサール、50% DMSO、10mM りん酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)] 中で、1時間、50℃の処理によってグリオキサール化を行なった後、2μl のアプライ用緩衝液 [50% (w/v) グリセロール、10mM りん酸緩衝液(pH7.0)、0.4% (w/v) ブロムフェニルブルー] および1 μl の1mg/ml 臭化エチジウム溶液を加え、10mM りん酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)、1% アガロースを含むゲル中で電気泳動を行なった。電気泳動中は、ペリスタポンプを用いて、電気泳動層中の緩衝液を常に循環させ、pHの勾配が生ずることを防いだ。ブロムフェニルブルーがゲルの長さの70% 程度まで達したときに電気泳動を中止し、紫外線トランスイルミネーターを用いて臭化エチジウムで染色されたゲル中のRNAを観察し、リボゾーマルRNAを指標にRNAが分解されていないことを確認した。その後に、ゲル中のRNAを、その添付されたプロトコールに従って、ナイロンフィルターGenescreen-Plus(デュポン社)にブロッティングし、RNAがブロッティングされたフィルターに対し、80℃、2時間の処理を行なった。このフィルターは、Genescreen-Plusに添付されたプロトコールに従ってノザン解析に供試した。
【0023】
サザン解析およびノザン解析にプローブとして用いたFLO1遺伝子の部分長のDNA断片は、以下のように調製した。Teunissen ら [Yeast, 9, 423-427, (1993)]の報告したFLO1遺伝子の塩基配列をもとに、5'GATGAAACTGTCATTGTTGTCAAA3'と5'TCGTTTCAGCAGCTAAAGTAT3'の2種のプライマーを合成した。これらのプライマーを用い、凝集性ABXL-1D株(a, FLO1, Yeast Genetic Stock Center)の全DNAを鋳型としてPCRを行ない、全PCR産物を1%アガロースゲル中で電気泳動し、増幅された1045bpのDNA断片(以降、FLO1部分長断片と呼ぶ)をゲルから切り出し、Prep-A-Gene(バイオラッド社)を用いて回収したDNA断片を得た。この断片は、[a-32P]dCTP(アマシャム社)で標識し、プローブとして用いた。放射能の検出は、X線フィルムを用いて行なった。
【0024】
結果を図6に示す。サザン解析の結果、親株KI084には、約9.5kb、5.4kb、4.8kb、3.7kbの4本のFLO1遺伝子と相同性のあるHindIII断片が検出された。KI084株に由来する減数体株では、約4.8kbと3.7kbの2本の断片に関しては供試した全ての株に見られた。また、凝集性判定試験で凝集性と判定された4株の減数体についてのみ、共通なバンドに加えて約9.5kbの断片が検出された。また、ノザン解析の結果から、親株および凝集性判定試験で凝集性と判定された4株の減数体についてのみ、FLO1遺伝子の転写産物が観察された。これらの結果から、KI084に由来する減数体では、FLO1遺伝子と相同な3本のHindIII断片の内、約9.5kbのHindIII断片に一部もしくは全長が含まれるFLO1相同遺伝子のみが転写され、この相同遺伝子を持つ株のみが凝集性となることが示唆された。以降、このKI084株の約9.5kbのHindIII断片に一部もしくは全長が含まれるFLO1相同遺伝子を、Lg-FLO1(Lager Type-FLO1)と呼ぶ。
【0025】
(2)Lg-FLO1遺伝子の制限酵素地図の作成
KI084株に由来する減数体の内、凝集性のKMS004株および、非凝集性のKMS001株の各1株ずつを選び、前述の方法でDNAを調製し、数種類の制限酵素(ベーリンガー社)を単独で、もしくは2種の酵素を組み合わせて用い、前述のFLO1部分長断片をプローブとしたサザン解析を実施した。その結果、凝集性のKMS004株には常に、非凝集性の減数体と共通な2本のバンドの他に、非凝集性の減数体には観察されない1本のバンドが検出された。この凝集性減数体に特異的なバンドにLg-FLO1遺伝子の一部、もしくは全長が含まれると考えられ、この断片の長さを測定し、図7に示すような制限酵素地図を作成した。
【0026】
(3)Lg-FLO1遺伝子の部分長を含むKpnI断片のクローニング
図7に示した制限酵素地図をもとに、約5.6kbのKpnI断片のクローニングを試みた。KI084株に由来する凝集性の減数体KMS004株のDNAをKpnI(ベーリンガー社)で完全消化後、0.8%アガロース電気泳動法により分画し、約5.6kbに相当するDNA断片ミックスをゲルより切り出し、透析チューブ中で電気溶出することにより精製した。前述のFLO1遺伝子の部分長をプローブとしたサザン解析により、精製したDNA断片ミックス中に、目的のDNA断片が含まれているのを確認した後に、KpnIで完全消化したプラスミドpUC18(宝酒造)と精製DNA断片ミックスをDNAライゲーションキット(宝酒造)を用いて連結し、大腸菌DH5α(BRL社)を形質転換した。得られた形質転換体のうち、5000株について、ナイロンフィルターHybond N+(アマシャム社)に添付プロトコールに従ってブロッティングし、前述のFLO1部分長断片をプローブとしたコロニーハイブリダイゼーションを実施し、10株の陽性株を取得した。これらの陽性株からアルカリ法によってプラスミドを調製し、制限酵素解析を行なった結果、これらの株がもつプラスミドは同一の挿入断片を持っていることが確認できた。その中の1株のプラスミド、pKF-Kpn11の挿入断片について、凝集性減数体KMS004株と非凝集性減数体KMS001株のDNAをコントロールとするサザン解析をした結果、挿入断片は目的のLg-FLO1遺伝子の一部であることが確認できた。このプラスミド、pKF-Kpn11 を含む大腸菌(Escherichia coli) EKB624 は、平成7年1月27日付けで工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託され、寄託番号FERM BP-4984が付与されている。
【0027】
(4)Lg-FLO1遺伝子の部分長を含むKpnI断片の一部の塩基配列決定
pKF-Kpn11の挿入断片の塩基配列を決定するために、キロシーケンス用 デレーションキット(宝酒造)を用い、添付プロトコールに従ってpKF-Kpn11の挿入断片のデレーションシリーズを作成した。塩基配列の決定は、PCR/Sequencing キット(パーキン・エルマー社)を用い、DNAシーケンサ(パーキン・エルマー社)によって行なった。塩基配列の解析は、DNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング社)によって行なった。既知のFLO1遺伝子のコード領域の塩基配列と相同なコード領域が見出されたKpnI部位からHindIII部位までの2.9kbの塩基配列を両方向から決定した(配列番号1ないしは図1〜2)。決定された塩基配列中には、Lg-FLO1遺伝子のコード領域の途中から、終止コドンに至る2.6kbのORFが存在していた。
【0028】
〔実施例2〕 酵母の凝集性の判定
判定対象の酵母 [(1) 凝集性ビール酵母、(2)非凝集性ビール酵母、(3)実験室酵母(FLO1保持株)]をYPD 培地8mlへ接種し、25℃、3日間振とう培養した。これを集菌して0.5ml のソルビトール溶液 [0.9 M ソルビトール、100mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)、100mM EDTA]に懸濁し、100μlのザイモリエイス溶液 [ソルビトール溶液にザイモリエイス100T(キリンビール社)を1mg/mlになるように溶解する]を添加して、37℃、1時間インキュベートした。得られたプロトプラストを遠心分離して回収し、0.5ml の溶菌緩衝液〔50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、20mM EDTA 〕に懸濁して、100μlの10% (w/v) SDS溶液を添加し、水中に1時間放置した。このチューブを15000 rpm 、5分間遠心し、上清を回収して、等量のイソプロパノールを添加した。最終的に得られた沈澱物を400μl のTE〔10mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.0) 、1mM EDTA〕に溶解させた。
【0029】
このDNA を鋳型として、プライマー対1〜4(図5)を用いてPCR 法をおこなった。このプライマーは図1〜2の斜体部分で表される塩基配列をもとに公知の方法に従って化学合成し、TEに溶解して適当な濃度に希釈した後に、実験に使用した。尚、各プライマーには制限酵素(BamHI) 認識部位を付与した。
0.5 mlのマイクロチューブに試料DNA を1μl 添加し、表2の量比で混合後、蒸発防止のためにミネラルオイルを添加し、サーマルサイクラー(パーキンエルマー社)にセットした。
94℃で1分間の変性、50℃で2分間のアニ−リング、72℃で2分間の伸長を1サイクルとして、35サイクルさせた。
【0030】
【表2】
【0031】
反応溶液を電気泳動に供した。1000bp以下の低分子領域の解像度をあげるために3% NuSieve GTGアガロース(FMC 社)、1% Sea-Kemアガロース(FMC 社)を1×TBE 緩衝液〔0.089Mトリスベース、0.089Mほう酸、0.002M EDTA 〕に溶解し、ゲルを作製した。泳動緩衝液として1×TBE 緩衝液を使用し、100V、約50分間電気泳動した。
【0032】
この結果、全ての酵母のサンプルでいくつかのバンドが観察された(図8)。プライマー対1、2、4を用いた場合には、ビール酵母と実験室酵母が区別することができたが、ビール酵母の凝集性株と非凝集性株を見分けることができなかった。従って、試験する菌株が既に凝集性であることが分かっている場合に、その凝集性が実験室酵母タイプであるか、ビール酵母タイプであるのか区別する場合に有用である。さらに、プライマー対3を使った場合に、ビール酵母タイプの凝集性を有する酵母には、全ての酵母に共通したバンドの他に分子量の大きい約300bp のバンドが観察され、凝集性を有さない酵母にはそのバンドが観察されないので判定が可能であった。
【0033】
〔実施例3〕 スクリーニングへの応用
凝集性に関する情報のない試験株94株に対して、プライマー対3を用いて、実施例2の方法と全く同様にPCR 法による凝集性の判定をおこなった。凝集性ありと判定された株が79株、なしと判断された株は15株あった。
一方、これらの試験株を60ml容小規模発酵試験に供し、発酵終了時に目で見た沈降量の多さで凝集性の有無を確認した。
60ml容小規模発酵試験は麦汁に0.5 重量%となるように酵母を懸濁し、試験管に分注し、この試験管を緩やかに撹拌しながら8℃でおこなった。
この結果、本発明の判定方法によってビール酵母タイプの凝集性ありと予想されたものは、すべて発酵試験においても凝集性が確認され、ビール酵母タイプの凝集性なしと予想されたものはすべて凝集性が確認できなかった。また、発酵試験では結果を判定するのに5日から7日間かかるが、本発明の判定方法では1日の作業で判定が可能であった。
【配列表】
【0034】
【図面の簡単な説明】
【図1】 Lg-FLO1 遺伝子の部分的塩基配列(KpnI からHindIII までの約2.9Kb,下線は特異配列、斜体はプライマー部位) を示す。
【図2】 Lg-FLO1 遺伝子の部分的塩基配列(KpnI からHindIII までの約2.9Kb,下線は特異配列、斜体はプライマー部位) (続き)を示す。
【図3】 実験室酵母FLO1遺伝子の塩基配列(Lg-FLO1 との対応部分)を示す。
【図4】 実験室酵母FLO1遺伝子の塩基配列(Lg-FLO1 との対応部分)(続き)を示す。
【図5】 PCR に用いるプライマー対1〜4を示す。
【図6】 ビール酵母およびその減数対のFLO1遺伝子に関するサザンおよびノザン解析による電気泳動の結果(写真)を示す。
【図7】 Lg-FLO1 遺伝子部分断片の制限酵素地図を示す。
【図8】 各プライマーを用いたPCR 産物の電気泳動の結果(写真)を示す。
Claims (3)
- 配列番号1に示される塩基配列の1783位から1824位までの部分配列より上流の塩基配列中の連続する15〜25bpのヌクレオチドからなるDNA分子と、前記部分配列より下流の塩基配列中の連続する15〜25bpのヌクレオチドからなるDNA分子とから成るプライマー対を用いて、判定対象となる酵母遺伝子をPCRにより増幅し、増幅産物の電気泳動パターンにより、ビール酵母タイプの凝集性の有無を判定する方法。
- プライマー対が、下記の(a-1)に示す塩基配列を含むヌクレオチドからなるDNA分子と、(a-2)に示す塩基配列を含むヌクレオチドからなるDNA分子とから成る、請求項1に記載の方法。
(a-1) 5'-AGTATACCACATGGTGCCCT-3'
(a-2) 5'-AGGACACCATGTTGTGTATT-3' - 下記の(a-1)に示す塩基配列を含むヌクレオチドからなるDNA分子と、(a-2)に示す塩基配列を含むヌクレオチドからなるDNA分子とから成る、ビール酵母タイプの凝集性判定用プライマー対。
(a-1) 5'-AGTATACCACATGGTGCCCT-3'
(a-2) 5'-AGGACACCATGTTGTGTATT-3'
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