JP4148640B2 - アスパラギン酸の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、L−アスパラギン酸の製造方法に関し、特に酵素法によるL−アスパラギン酸の製造方法における原料液の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
L−アスパラギン酸の製造方法として、フマル酸とアンモニウムイオン、特にフマル酸アンモニウムをL−アスパラギン酸に転換する酵素系、特にアスパルターゼを用いる方法が知られている。この方法においては、フマル酸とアンモニウムイオン又はフマル酸アンモニウムをL−アスパラギン酸に転換する酵素、例えばアスパルターゼを固定化し、この固定化酵素を充填した反応器に、フマル酸とアンモニウムイオン、又はフマル酸アンモニウムを含有する原料液を通液することにより、フマル酸とアンモニウムイオン、又はフマル酸アンモニウムをL−アスパラギン酸に転換せしめ、L−アスパラギン酸(アンモニウム塩)を含有する反応液からL−アスパラギン酸を析出分離する。
【0003】
なお、上記の方法においては、反応器から流出した反応液には、アンモニウム塩の形でL−アスパラギン酸が含有されており、反応液にフマル酸を添加して酸性化することによりL−アスパラギン酸を析出−分離し、分離した後のフマル酸含有液にアンモニアを添加して中和することにより、フマル酸アンモニウムを含有する液を調製し、これを原料液として再循環利用する方法が用いられる。
上記のごとき方法において、工業的に有利にL−アスパラギン酸を製造するには、寿命の長い固定化酵素を使用することが重要であるが、固定化酵素自体の寿命は長いにも拘らず、固定化酵素表面及び、反応器内での目詰り等により、長期間にわたる高転化率での運転が困難となる場合がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明は、固定化酵素表面および、反応器内における目詰り等の問題点を解消し、L−アスパラギン酸生成反応を長期間にわたって高転化率で維持するための原料液の処理方法を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々検討した結果、フマル酸とアンモニウムイオン又はフマル酸アンモニウムを含有する原料液を、固定化酵素に接触させる前に、所定の孔径のフィルターで濾過することにより解決できることを見出した。
【0006】
従って本発明は、フマル酸とアンモニウムイオン又はフマル酸アンモニウムからL−アスパラギン酸を生成することができる酵素系を含有する固定化酵素に、フマル酸とアンモニウムイオン、又はフマル酸アンモニウムを含有する原料液を接触させることによりL−アスパラギン酸を生成せしめる工程を含むL−アスパラギン酸の製造方法において、前記原料液を、前記固定化酵素に接触させる前に、0.1μm〜200μmの孔径を有するフィルターに通す工程を含むことを特徴とするL−アスパラギン酸の製造法を提供する。
好ましくは、前記フィルターの孔径は0.3μm〜100μmである。
さらに好ましくは、前記フィルターの孔径は0.5μm〜10μmである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の方法において用いる固定化酵素のための酵素の由来としては、微生物が好ましく、例えば、大腸菌、シュードモナス、シトロバクター等が挙げられる。例えば、大腸菌(Escherichia coli) K−12株(IFO3301)、シュードモナス・フルオレセンス (Pseudomonas fluorescens)(IFO3081)などが挙げられるが、これらに限定されず、アスパルターゼを産生することが知られている種々の微生物を用いることができ、アスパルターゼの由来の選択は、本発明を特徴付けるものではない。
【0008】
さらに、上記のごとく、生来的にアスパルターゼ生産能を有する微生物に限らず、それらの微生物からクローニングされた、アスパルターゼをコードするDNAを遺伝子工学的に導入した組換え微生物であってもよい。固定化するための酵素としては、上記のごとき微生物菌体自体でもよく、あるいはアスパルターゼを含有する菌体を破砕したもの、菌体からの酵素抽出物、種々の程度まで精製した粗精製酵素、または純粋な酵素であることができる。しかしながら、固定化酵素の製造コスト等の観点から、培養菌体それ自体を用いるのが好ましい。
【0009】
固定化の担体としては、セルロース、アルギン酸、カラギーナン、マンナンゲルなどの天然系高分子、あるいは、イオン交換樹脂やポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどの適当な合成高分子を常法により用いることができる。これらの中でも、特に、球状のスチレンジビニルベンゼン共重合体イオン交換樹脂を担体として用い、次の一般式(I)
【0010】
【化1】
(式中、Yは直接結合であるか、又は次式
【0011】
【化2】
により表される2価基であり、R1 及びR2 は相互に独立に水素原子又は有機残基であり、
【0012】
【化3】
は陰イオンを表し、そしてnは100〜5000の数である)
により表されるポリマーと菌体あるいは菌体処理物を混合し球状スチレンジビニルベンゼン共重合体イオン交換樹脂表面に被覆することにより前記担体に固定化したものを用いることができる。
【0013】
前記式(I)において、R1 又はR2 で表される有機残基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などの炭素数10個以下のアルキル基が挙げられ、特にメチル基が好ましい。さらに、ハロゲンやヒドロキシル基等の置換基を有する有機残基を使用することができ、例えば、4−クロロ−2−ジメチルペンチル基、3−エチル−2,5−ジクロロヘプチル基、2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルノニル基など、好ましくは3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基を用いることができる。また、陰イオンとしては、例えば、F- ,Cl- ,Br- ,I- 等のハロゲンイオンが挙げられる。
【0014】
この方法で固定化して作成した固定化アスパルターゼは圧力損失が少なく、拡散層も薄いので拡散抵抗が小さく、高SVでの反応に使用することができる。
本発明に用いられる原料溶液は、例えばフマル酸アンモニウム塩溶液、すなわちフマル酸をアンモニアにより中和した塩水溶液である。中和に用いるアンモニアの使用量は特に限定されないが、基質液中のフマル酸に対して、好ましくは1.8〜2.8倍モル、より好ましくは2.0〜2.4倍モルの範囲である。基質液のpHは特に限定されないが、25℃の温度条件下で、好ましくは6〜11、より好ましくは7〜10、最も好ましくは7.5〜9.5の範囲にする。
【0015】
反応の際のフマル酸濃度は通常5〜25重量%の範囲が好ましいが、生産性と得られるL−アスパラギン酸の純度、フマル酸塩の溶解度を考慮すると特に12〜25重量%の範囲で反応させるのが効果的である。
また基質媒体にはさらに、塩化マンガン、硫酸マンガンなどのマンガン塩、又は塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどのマグネシウム塩、コバルト塩などの2価金属塩を添加することが望ましく、好ましくは0.1〜50mM、より好ましくは1〜10mMの濃度で添加することが望ましい。
【0016】
本発明の原料溶液は、水に新たにフマル酸を混合したスラリーに所定のアンモニアを添加して調製することができるが、この原料溶液は主として運転初期において用いられる。本発明の普通の態様によれば、固定化酵素を通過した反応液は、反応により生成したL−アスパラギン酸、並びに未反応のかなりの量のアンモニウムイオン及び少量の未反応のフマル酸を含有しており、この反応液にフマル酸を加えて酸性化することによりL−アスパラギン酸を析出せしめてこれを採取し、フマル酸を多量に含有する母液にアンモニアを添加することによりpHを調製し、これを原料液として再循環使用する。
【0017】
本発明の特徴は、上記のごとき固定化酵素に上記のごとき原料液を接触させるに先立って、前記原料液を孔径0.1μm〜200μmのフィルターにより濾過する工程を有することである。この場合、フィルターの孔径が200μmより大きい場合には本発明の効果が得られず、またフィルターの孔径が0.1μmより小さい場合には反応系全体の圧力損失が増大し、実用的見知から好ましくない。フィルターの孔径は好ましくは0.3μm〜100μmであり、さらに好ましくは0.5μm〜10μmである。このようなフィルターとしては、材質・形状・濾過方式等は特に限定されないが、カートリッジ形のものを使用することが好ましい。
【0018】
本発明によれば、原料溶液の再循環使用連続反応法において、フィルターを使用しない場合には、通液(反応)開始後、原料液を固定化酵素に注入するためのポンプの吐出圧力が上昇し、反応開始より30日で反応を中止した。この間、フマル酸からL−アスパラギン酸への転化率はおよそ99%に維持された。他方、孔径400μmフィルターを設置して8日間反応を行った場合、吐出圧力の上昇が見られたので、この時点で孔径10μmのフィルターを設置したところ、吐出圧力の上昇は一旦停止したがその後徐々に上昇し、反応開始より73日で運転を停止した。この場合の、転化率は反応初期は99%であったが、反応開始より73日目には94.7%まで低下した。従って、孔径400μmのフィルターを使用したのでは、本発明の効果は得られなかった。
【0019】
これに対して、孔径10μmのフィルターを反応の最初から使用したところ、吐出圧力はほとんど上昇せず、386日後までにわずかに上昇したのみである。しかしながら、転化率は96%に低下したので反応を停止した。他方、孔径0.5μmのフィルターを反応の最初から使用した場合、386日後にもポンプの吐出圧力はほとんど上昇せず、また転化率は99%に維持された。従って、この条件下では386日間を超えて、さらに長期の転化率98%以上での反応の継続が可能であることが明らかである。
【0020】
以上の通り、本発明によれば、原料溶液を、固定化酵素に接触させる前に所定の孔径を有するフィルターにより濾過することにより、反応継続時間(運転継続時間)が劇的に延長される。この原理は必ずしも明らかではないが、フィルターの有無及びフィルターの孔径がポンプの吐出圧力上昇および反応の転化率に影響することから、例えばフマル酸とアンモニウムイオンとからL−アスパラギン酸の生成の反応の間の原料液中に微粒子が存在または発生し、所定のフィルターが存在しない場合はこの微粒子が固定化酵素表面および反応器内に目詰りを生じさせポンプ吐出圧の上昇および転化率の低下を招くのではないかと推定される。
【0021】
フィルターの設置場所は、原料液槽と反応器との間であればどこに設置してもかまわないが、ポンプの長期安定運転を考慮して、ポンプ出口側に設置するのが好ましい。
また、上記の結果から、フィルターの孔径が200μm以下であれば、本発明の効果は得られると推定される。さらに、フィルターの孔径が100μm以下であれば、本発明の効果は一層発揮され、10μm以下が最も好ましいと推定される。そして、フィルターの孔径が小さいことによる装置コストの上昇を考慮すればフィルターの孔径は0.5μm〜10μmが最適であると考えられる。
【0022】
【実施例】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
参考例1.固定化酵素の調製
大腸菌(E. coli ) IFO3301由来の、アスパルターゼをコードするDNAにより形質転換した大腸菌株PUasp E2(この作製方法については、特願平10−278571参照のこと)を、LB培地(ポリペプトン10g、酵母エキス5g、NaCl 10g、蒸留水1L、121℃にて15分間オートクレーブ殺菌)にアンピシリン100ppm を含む培地3mlを入れた試験管10本に接種して37℃で8時間培養後、同組成の培地にIPTGを1mMを添加した培地100mlを入れた坂口フラスコ10本にそれぞれ1本ずつ接種し、30℃で一夜振盪培養した。この培養液から、菌体を遠心分離によって回収した。この菌体のアスパルターゼ活性を測定したところ1.05moles L−アスパラギン酸生成/hr/g菌体であった。
【0023】
PAS−880(日東紡績製)をアルカリでpH7.0付近にしたもの70g及び脱イオン水230gをよく混合し、先に回収した菌体を均一に分散させた。6Lのナス型フラスコにイオン交換樹脂(アンバーライトIRA−94SC1型オルガノ社製、平均粒径0.5mm)300mlと0.5インチのテフロン球200個を入れ、ここに先に得た菌体分散液の1/6を入れ、30℃で回転させながらエバポレーターで1時間乾燥し、菌体をイオン交換樹脂に被覆させた。この操作を6回行った後、テフロン球を除去してビーズ状の固定化アスパルターゼを得た。この固定化アスパルターゼの活性は3500Uであった。(1U=1μmoles L−アスパラギン酸生成/min /ml固定化酵素)
【0024】
実施例1.
参考例1に記載したのと同様にして調製した固定化酵素500mLを、内径28.2mmのカラムに充填して密封系とし、18重量%のフマル酸アンモニウムを含有する水溶液(pH8.6)をポンプにより5L/時(SV10)の速度で固定化酵素を充填したカラムに圧送した。実験目的に応じてポンプとカラムとの間にフィルターを設置し、又は設置しなかった。カラム入口の温度は20℃とした。
【0025】
実験1
フィルターを設置しなかった。
実験2
通液当初400μmのフィルターを使用し、通液開始より8日目に孔径10μmのフィルターを設置した。
実験3
通液当初から孔径10μmのフィルターを設置した。
実験4
通液当初から孔径0.5μmのフィルターを設置した。
結果は、次の表1に示す通りであった。
【0026】
【表1】
【0027】
以上の通り、孔径10μm又は0.5μmのフィルターを通液開始当初から使用した場合、充填した固定化酵素を非常に長期間にわたり使用することができた。
Claims (1)
- フマル酸とアンモニウムイオン又はフマル酸アンモニウムからL−アスパラギン酸を生成することができる酵素系を含有する固定化酵素を充填した反応器に、フマル酸とアンモニウムイオン、又はフマル酸アンモニウムを含有する原料液を通過させることによりL−アスパラギン酸を生成せしめる工程を含むL−アスパラギン酸の製造方法において、前記原料液を、前記固体触媒に接触させる前に、0.1μm〜200μmの孔径を有するフィルターに通すことにより微粒子を除去して前記反応容器の目詰まりを防止することを特徴とするL−アスパラギン酸の製造方法。
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