JP7369705B2 - 固定化微生物の製造方法及びそれを用いたアミノ酸の製造方法 - Google Patents

固定化微生物の製造方法及びそれを用いたアミノ酸の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は微生物の固定化方法に関するものである。
微生物や酵素を用いた物質変換反応は常温常圧で高選択性の反応を高効率で実現できる一方、反応液中に生成した目的物質と使用した微生物菌体や酵素との分離が容易ではない。そこで、使用する微生物や酵素をポリマー等に固定化し、固定化酵素、固定化菌体とすることが提案されている。固定化酵素、固定化菌体を使用すると、濾過等の操作により、生成した目的物質との容易な分離が可能になる。また、固定化酵素、固定化菌体をカラムに充填し、そこに原料を含む液を通液することで連続的な反応(目的物質の生産)が可能となり、有利である。
例えば非特許文献1には、培養ブロスから遠心分離によって集めたE.coli細胞を水に分散し、ポリエチレンイミンを加え、生じた凝集体を遠心分離によって集め、リン酸カリウム緩衝液に再分散した後、グルタルアルデヒドを加えて攪拌し、凍結乾燥した後、破砕することで固定化細胞を得ることが記載されている。
伊藤、外4名,「Continuous production of chiral 1,3-butanediol using immobilized biocatalysts in a packed bed reactor: promising biocatalysis method with an asymmetric hydrogen-transfer bioreduction」,Applied Microbiol and Biotechnol,(独国),Springer Science+Business Media,2007年,第75巻,1249~1256頁
しかし、非特許文献1の方法では、固定化細胞のろ過性が低いことが分かった。ろ過性の低い固定化微生物は、工業的規模での生産性が低くなる。
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、ろ過性のよい固定化微生物を製造すること、及びそれを用いたアミノ酸の製造方法を提供することにある。
前記課題を解決し得た本発明は、以下の通りである。
[1] 微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムとを接触させた後、
さらにポリエチレンイミン及びアルカンジアールを接触させることを特徴とする、固定化微生物の製造方法。
[2] 前記微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムとを接触させた後、
先にポリエチレンイミンを接触させ、次いでアルカンジアールを接触させる[1]に記載の製造方法。
[3] 水を含む分散媒の存在下、前記各接触を行う[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの粘度が、下記方法で測定した時に、50mPa・s以下を示す[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
粘度測定法:共栓付300mL三角フラスコに4.4gのカルボキシメチルセルロースナトリウムを精密にはかりとり、次の式によって求まる量(W)の水を加え、2%水溶液を調製する。
所要水量W(g)=カルボキシメチルセルロースナトリウム(g)×(98-水分(%))/2
(式中、水分(%)は、カルボキシメチルセルロースナトリウムの含水率を示し、105±2℃の定温乾燥器中で4時間乾燥した時の乾燥減量(%)と同じ値を指す。)
調製したカルボキシメチルセルロースナトリウムの2%水溶液を一夜間放置後、マグネチックスターラーで5分間かきまぜ、完全な溶液としたのち、口径45mm高さ145mmフタつき容器に移し、30分間25±0.2℃の恒温槽に入れ、溶液が25℃になればガラス棒でゆるくかきまぜて、BM型粘度計のローターおよびガードをとり付け、ローターを回転させ開始3分後の目盛りを読み取る(回転数は30rpm、あるいは60rpm)。ローターNo.と回転数によって定まる下記係数を目盛り読み取り値に乗じて粘度値(mPa・s)とする。
ローターNo.1、60rpm時の係数:1
ローターNo.2、60rpm時の係数:5
ローターNo.3、60rpm時の係数:20
ローターNo.4、60rpm時の係数:100
ローターNo.1、30rpm時の係数:2
ローターNo.2、30rpm時の係数:10
ローターNo.3、30rpm時の係数:40
ローターNo.4、30rpm時の係数:200
[5] 前記微生物が組換え大腸菌である[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記組換え大腸菌が、アミノ酸脱水素酵素活性を有する形質転換体である[5]に記載の製造方法。
[7] 前記組換え大腸菌が、ロイシン脱水素酵素活性及びギ酸脱水素酵素活性を有する形質転換体である[5]に記載の製造方法。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の方法によって固定化微生物を製造し、
この固定化微生物をケト酸と接触させる、アミノ酸の製造方法。
[9] 前記固定化微生物をカラムに充填し、前記ケト酸を含む溶液をこのカラムの入口に給液し、カラムの出口から前記アミノ酸を含む溶液を排出する[8]に記載のアミノ酸の製造方法。
[10] 前記ケト酸が3,3-ジメチル-2-オキソブタン酸であり、前記アミノ酸がtert-ロイシンである[8]又は[9]に記載のアミノ酸の製造方法。
なお本明細書において「固定化」とは、微生物とポリエチレンイミンとが複合体を形成し、溶離液(特に水)で洗浄しても複合体から微生物が離れない状態になることを意味する。
本発明によれば、ろ過性のよい固定化微生物を製造できる。
本発明の方法は、固定化する為の微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムとをまず接触させる第1工程を行い、得られた混合物をポリエチレンイミン、アルカンジアールなどと接触させる第2工程を行うことを特徴とする。これら第1工程及び第2工程を有する固定化微生物の製造方法によれば、第1工程で微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムとが一緒になって適切な状態(大きさ、硬さ、形状など)の凝集体(以下、微生物-CMC複合体という場合がある)を形成し、生じた凝集体を単位として第2工程でポリエチレンイミン及びアルカンジアールによる固定化が進行するためか、得られる固定化微生物のろ過性が向上する。
(第1工程)
固定化に供する微生物としては、大腸菌などの原核生物、酵母菌などの真核生物などが使用でき、大腸菌が好ましく、遺伝子組換え大腸菌がより好ましい。遺伝子組換え大腸菌は、所望の活性を有する固定化微生物を効率よく製造するのに適している。
第1工程で使用するカルボキシメチルセルロースナトリウムとしては、粘度が50mPa・s以下であるものが好ましく、粘度が30mPa・s以下であるものがより好ましく、粘度が20mPa・s以下であるものがさらに好ましい。粘度の下限は特にないが、例えば、1mPa・s以上であってもよい。最も好ましいカルボキシメチルセルロースナトリウムの粘度は、5~12mPa・sである。
なお前記粘度は、以下の粘度測定法によって決定される値を意味する。
粘度測定法:共栓付300mL三角フラスコに4.4gのカルボキシメチルセルロースナトリウムを精密にはかりとり、次の式によって求まる量(W)の水を加え、2%水溶液を調製する。
所要水量W(g)=カルボキシメチルセルロースナトリウム(g)×(98-水分(%))/2
(式中、水分(%)は、カルボキシメチルセルロースナトリウムの含水率を示し、105±2℃の定温乾燥器中で4時間乾燥した時の乾燥減量(%)と同じ値を指す。)
調製したカルボキシメチルセルロースナトリウムの2%水溶液を一夜間放置後、マグネチックスターラーで5分間かきまぜ、完全な溶液としたのち、口径45mm高さ145mmフタつき容器に移し、30分間25±0.2℃の恒温槽に入れ、溶液が25℃になればガラス棒でゆるくかきまぜて、BM型粘度計のローターおよびガードをとり付け、ローターを回転させ開始3分後の目盛りを読み取る(回転数は30rpm、あるいは60rpm)。ローターNo.と回転数によって定まる下記係数を目盛り読み取り値に乗じて粘度値(mPa・s)とする。
ローターNo.1、60rpm時の係数:1
ローターNo.2、60rpm時の係数:5
ローターNo.3、60rpm時の係数:20
ローターNo.4、60rpm時の係数:100
ローターNo.1、30rpm時の係数:2
ローターNo.2、30rpm時の係数:10
ローターNo.3、30rpm時の係数:40
ローターNo.4、30rpm時の係数:200
カルボキシメチルセルロースナトリウムのエーテル化度は、例えば、0.3以上、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上であり、例えば、3.0以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下、最も好ましくは0.8以下である。
カルボキシメチルセルロースナトリウムの量は、微生物の乾燥質量100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上であり、例えば、5000質量部以下、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下である。
微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムとの接触は、分散媒の存在下で行うことが好ましい。分散媒の存在下で行うことで、微生物-CMC複合体の凝集をろ過に適した状態にしやすくなる。
前記分散媒としては、水、水と他の溶媒との混合溶媒など、少なくとも水を含むもの(以下、水性分散媒という場合がある)が好ましい。前記混合溶媒としては、水と混合させる他の溶媒は、1種類のみであってもよく、複数種であってもよい。水性分散媒を使用すると、微生物-CMC複合体の凝集状態がよりよくなる。
前記他の溶媒としては、水溶性溶媒が好ましく、水と全組成範囲で相溶性を示す溶媒がより好ましい。水溶性溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、t-ブチルメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール等のアルコール類等を挙げることができ、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトン、脂肪族アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノールがより好ましい。
分散媒中の水の量は、水と他の溶媒との合計100質量部に対して、例えば、30質量部以上、好ましくは60質量部以上、より好ましくは90質量部以上である。
第1工程における微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムの合計の量は、分散媒100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、例えば、100質量部以下、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムの接触手順は特に限定されないが、凝集状態をよりよくする観点から、微生物を分散媒に分散させた液(以下、微生物分散液という場合がある)に、カルボキシメチルセルロースナトリウムを適当な分散媒(好ましくは水、又は水と他の溶媒との混合溶媒、特に好ましくは水)に分散又は溶解(好ましくは溶解)した液(例えば、水に溶解した液)(以下、CMC液という場合がある)を添加(好ましくは滴下)することが好ましい。
微生物分散液中の微生物の濃度は、微生物分散液100質量%中、例えば、0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、例えば、100質量%未満、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
CMC液中のカルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度は、CMC液100質量%中、例えば、0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、例えば、15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下である。
CMC液の添加時間(滴下時間)は、例えば、10分以上、好ましくは20分以上であり、例えば、2時間以下、好ましくは1時間以下、より好ましくは40分以下である。
微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムとを接触(好ましくは混合。より好ましくはCMC液の滴下による混合)した後、両成分を含む液は、適当な時間、攪拌混合してもよい。攪拌時間は、例えば、10分以上、好ましくは20分以上、より好ましくは30分以上であり、例えば、5時間以下、好ましくは3時間以下、より好ましくは1時間以下である。
微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムの両成分を含む液を攪拌混合する場合、その攪拌所要動力は、例えば、0.001kW/m3以上、好ましくは0.01kW/m3以上、より好ましくは0.1kW/m3以上であり、例えば、100kW/m3以下、好ましくは50kW/m3以下、より好ましくは10kW/m3以下である。
CMC液を滴下する時の微生物分散液の温度、及び微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムの両成分を含む液を攪拌混合するときの温度は、それぞれ、例えば、5℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上であり、例えば、50℃以下、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下である。
(第2工程)
微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムとの混合物(微生物-CMC複合体)を第1工程で得た後、第2工程では、この微生物-CMC複合体をポリエチレンイミン及びアルカンジアールと接触させる。先にポリエチレンイミンを接触させ、次いでアルカンジアールを接触させることが好ましい。
前記ポリエチレンイミンとしては、アミノ基が全て第2級アミノ基である直線状ポリエチレンイミンであってもよく、第2級アミノ基と第3級アミノ基を有する分岐状ポリエチレンイミンであってもよく、分岐状ポリエチレンイミンが好ましい。該分岐状ポリエチレンイミンは、さらに第1級アミノ基を有するものであることが好ましい。
ポリエチレンイミンの分子量は、例えば、1000以上、好ましくは10000以上、より好ましくは50000以上であり、例えば、1000000以下、好ましくは500000以下、より好ましくは100000以下である。なお前記分子量は、測定結果値でも良いが、カタログ記載値での代用も可能である。
ポリエチレンイミンは液体であることが好ましく、その粘度(測定温度:25℃)は、例えば、200mPa・s以上、好ましくは400mPa・s以上、より好ましくは600mPa・s以上であり、例えば、1100mPa・s以下、好ましくは1000mPa・s以下、より好ましくは900mPa・s以下である。
ポリエチレンイミンの量は、微生物の乾燥質量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上であり、例えば、1000質量部以下、好ましくは500質量部以下、より好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下、さらにより好ましくは10質量部以下、特に好ましくは5質量部以下である。
アルカンジアールとしては、マロンジアルデヒド、1,4-ブタンジアール、グルタルアルデヒド(1,5-ペンタンジアール)、1,6-ヘキサンジアール、2,5-ジメチルヘキサンジアールなどの炭素数が3~10程度のアルカンジアールが挙げられる。炭素数が4~6の直鎖状アルカンジアールが好ましく、グルタルアルデヒドがより好ましい。
アルカンジアールの量は、微生物の乾燥質量100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、例えば、10000質量部以下、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは200質量部以下である。
微生物-CMC複合体と、ポリエチレンイミン、アルカンジアールとの接触は、分散媒の存在下で行うことが好ましい。分散媒の存在下で行うことで、微生物-CMC複合体を適切に固定化でき、そのろ過性をより高めることができる。第2工程で使用する分散媒は、第1工程で使用する分散媒と同様の範囲から選択でき、第1工程で使用する分散媒と第2工程で使用する分散媒が同じであることが好ましい。
微生物-CMC複合体と、ポリエチレンイミン、アルカンジアールなどとの接触手順は特に限定されないが、固定化後のろ過性をよりよくする観点から、微生物-CMC複合体に、ポリエチレンイミンを分散媒(好ましくは水、又は水と他の溶媒との混合溶媒、特に好ましくは水)に分散又は溶解(好ましくは溶解)した液(例えば、水に溶解した液)(以下、ポリエチレンイミン液という場合がある)と、アルカンジアールを分散媒(好ましくは水、又は水と他の溶媒との混合溶媒、特に好ましくは水)に分散又は溶解(好ましくは溶解)した液(例えば、水に溶解した液)(以下、アルカンジアール液という場合がある)とを添加(好ましくは滴下)することが好ましい。ポリエチレンイミンとアルカンジアールの両方を含む液を添加(好ましくは滴下)してもよいが、ポリエチレンイミン液とアルカンジアール液を別々に添加(好ましくは滴下)することが好ましい。
ポリエチレンイミン液におけるポリエチレンイミンの濃度は、例えば、1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、例えば、50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
ポリエチレンイミン液は、中和されていることが好ましい。ポリエチレンイミン液のpHは、例えば、9.0以下、好ましくは8.0以下、より好ましくは7.5以下であり、例えば、5.0以上、好ましくは6.0以上、より好ましくは6.5以上である。
ポリエチレンイミン液の添加時間(滴下時間)は、例えば、10分以上、好ましくは20分以上であり、例えば、2時間以下、好ましくは1時間以下、より好ましくは40分以下である。
アルカンジアール液におけるアルカンジアールの濃度は、例えば、10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、例えば、80質量%以下、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
アルカンジアール液の添加時間(滴下時間)は、例えば、10分以上、好ましくは20分以上であり、例えば、2時間以下、好ましくは1時間以下、より好ましくは40分以下である。
ポリエチレンイミン液とアルカンジアール液を別々に添加する場合、先にポリエチレンイミン液を添加し、その添加が終了してからアルカンジアール液を添加することが好ましい。ポリエチレンイミン液の添加が終了した後、一定時間攪拌を継続してから(いわゆる熟成を行ってから)アルカンジアール液の添加を開始することがより好ましい。
前記熟成の時間は、例えば、10分以上、好ましくは20分以上であり、例えば、2時間以下、好ましくは1時間以下、より好ましくは40分以下である。
ポリエチレンイミン液とアルカンジアール液の両方の添加が終了した後、熟成をすることが好ましい。ポリエチレンイミン液とアルカンジアール液の両方の添加終了後の熟成時間は、例えば、10分以上、好ましくは20分以上であり、例えば、2時間以下、好ましくは1時間以下、より好ましくは40分以下である。
第2工程での各液の攪拌温度は、例えば、それぞれ、5℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上であり、例えば、50℃以下、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下である。
微生物、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレンイミン、及びアルカンジアールの全ての混合が終了することで微生物を固定化した液(以下、微生物固定化液という場合がある)が得られる。微生物固定化液中の固定化微生物の濃度は、微生物固定化液全体(100質量部)に対する固定化微生物の乾燥基準の質量で表現でき、該固定化微生物の質量(乾燥基準)は、例えば、0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、例えば、99質量部以下、好ましくは95質量部以下、より好ましくは90質量部以下である。
(単離工程)
微生物固定化液を、必要に応じて洗浄した後、ろ過することによって固定化微生物を単離できる。洗浄には、例えば、pHが5以上8以下の水や緩衝液を使用でき、緩衝剤としては、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)が好ましい。洗浄の手順は特に限定されず、洗浄液によるパルプ化と沈殿分離(遠心分離を含む)又はろ過とを繰り返す作業等、公知の手順が採用できる。
(固定化微生物特性)
上記のようにして得られる固定化微生物は、ろ過性に優れており、工業的規模での生産性に優れている。また微生物の活性も高く維持できる。通液性、体積維持性にも優れており、カラムに充填して反応に利用しても性能劣化が小さい。
ろ過性は、固定化微生物を含むTris緩衝液を面積15.2cm2のろ紙5A(桐山製作所製)を用いて、濾過圧1.0kgf/m3、ケーキ厚3cmでろ過した時のろ過比抵抗によって評価でき、本発明の固定化微生物によれば、ろ過比抵抗を、例えば、5×1011m/kg以下、好ましくは5×1010m/kg以下、より好ましくは5×109m/kg以下にすることができる。
微生物の活性維持特性は、固定化前の微生物の活性を1とした時の固定化後の微生物の活性(活性収率)によって表すことができ、例えば、0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上である。前記活性収率は1であることが好ましく、0.8以下、又は0.6以下であってもよい。
通液性は、固定化微生物約9gを耐圧ガラスカラム(オムニフィット、内径10mm)に詰めて30℃に温調したカラムオーブン内に入れ、垂直に立てて固定した後、蒸留水を通液した時の圧力損失によって評価できる。本発明の固定化微生物を用いた時の圧力損失は、蒸留水を500cm/hrで流したときに、0.5MPa以下、好ましくは0.1MPa以下、最も好ましくは0.05MPa以下である。
体積維持性は、固定化微生物からの微生物の脱落防止能と圧密化耐久性とに影響される指標であり、固定化微生物約9gを耐圧ガラスカラム(オムニフィット、内径10mm)に詰めて30℃に温調したカラムオーブン内に入れ、垂直に立てて固定した後、蒸留水を空間速度(SV)0.45hr-1で56時間通液した時の体積変化によって評価できる。本発明の固定化微生物を用いた時の体積変化(通液1時間での体積を基準1とした時の通液56時間での体積)は、例えば、0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは0.95以上である。
(固定化微生物反応)
前記固定化微生物は、固定化する微生物に応じて種々の反応に使用できる。例えば、該微生物(特に組換え大腸菌)が、アミノ酸脱水素酵素活性を有する場合、該固定化微生物とケト酸とを接触させることでアミノ酸を製造できる。
前記アミノ酸脱水素酵素とは、ケト酸又は環状イミンを還元的にアミノ化する活性を有する酵素であり、例えば、フェニルアラニン脱水素酵素、ロイシン脱水素酵素、ピロリン-2-カルボン酸レダクターゼ等を挙げることができ、ロイシン脱水素酵素が好ましい。
アミノ酸脱水素酵素は、該酵素の生産能力を有する微生物から得られ、該生産能力を有する微生物としては、例えば、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、スポロサルシナ(Sporosarcina)属、サーモアクチノマイセス(Thermoactinomyces)属、マイクロバクテリウム(Microbacterium)属、ハルモナス(Halomonas)属、クロストリジウム(Clostridium)属、バチルス(Bacillus)属、ニューロスポラ(Neurospora)属、エシェリヒア(Escherichia)属、又はアエロバクター(Aerobacter)属に属する微生物等が挙げられ、バチルス(Bacillus)属に属する微生物が好ましく、バチルス バディウス(Bacillus badius)IAM11059株、バチルス スファエリカス(Bacillus sphaericus)NBRC3341株などがより好ましい。
前記微生物(特に組換え大腸菌)が、アミノ酸脱水素酵素活性を有する場合、該微生物は補酵素再生酵素活性を有することが好ましい。アミノ酸脱水素酵素による反応は、NADHのような還元型の補酵素を必要とし、当該反応の進行に伴い、補酵素NADHは酸化型(NAD+)に変換される。この酸化型の補酵素を還元型に変換する能力(補酵素再生酵素活性)を前記微生物が有すると、補酵素の使用量を削減できる。
補酵素再生酵素活性を有する酵素としては、例えば、ヒドロゲナーゼ、ギ酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、グルコース脱水素酵素等を挙げることができ、ギ酸脱水素酵素が好ましい。
ギ酸脱水素酵素は、該酵素の生産能力を有する微生物から得られ、該生産能力を有する微生物としては、例えば、キャンディダ(Candida)属、クロイッケラ(Kloeckera)属、ピキア(Pichia)属、リポマイセス(Lipomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、モラキセラ(Moraxella)属、ハイホマイクロビウム(Hyphomicrobium)属、パラコッカス(Paracoccus)属、チオバシラス(Thiobacillus)属、アンシロバクター(Ancylobacter)属などに属する微生物が挙げられる。好ましくはチオバシラス(Thiobacillus)属、アンシロバクター(Ancylobacter)属に属する微生物が挙げられ、さらに好ましくはチオバシラス エスピー(Thiobacillus sp.)KNK65MA株(FERM BP-7671)、アンシロバクター アクアティカス(Ancylobacter aquaticus)KNK607M株(FERM BP-7335)などが挙げられる。
アミノ酸脱水素酵素(特にロイシン脱水素酵素)活性とギ酸脱水素酵素活性とを有する形質転換大腸菌としては、バチルス スファエリカス(Bacillus sphaericus)NBRC3341株由来のアミノ酸脱水素酵素遺伝子、及びチオバシラス エスピー(Thiobacillus sp.)KNK65MA株(FERM BP-7671)由来のギ酸脱水素酵素遺伝子を含有するエシェリヒア コリ(Escherichia coli)HB101(pFT001)(FERM BP-7672)、エシェリヒア コリ(Escherichia coli)HB101(pFT002)(FERM BP-7673)(国際公開第WO03/031626号パンフレット参照)等を挙げることができる。
前記アミノ酸脱水素酵素活性を有する微生物でケト酸を処理すると、ケト酸が還元アミノ化され、アミノ酸を製造できる。ケト酸としては、α-ケト酸が好ましく、より好ましくは式(1)で表される化合物である。
Figure 0007369705000001
(式中、R1は置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数7~20のアラルキル基、もしくは置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基を表す)
炭素数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、イソプロピル基、イソブチル基、1-メチルプロピル基、カルバモイルメチル基、2-カルバモイルエチル基、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、メルカプトメチル基、2-メチルチオエチル基、(1-メルカプト-1-メチル)エチル基、4-アミノブチル基、3-グアニジノプロピル基、4(5)-イミダゾールメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、クロロメチル基、メトキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、3-アミノプロピル基、2-シアノエチル基、3-シアノプロピル基、4-(ベンゾイルアミノ)ブチル基、2-メトキシカルボニルエチル基などが挙げられる。
炭素数7~20のアラルキル基としては、特に限定されず、例えば、ベンジル基、インドリルメチル基、4-ヒドロキシベンジル基、2-フルオロベンジル基、3-フルオロベンジル基、4-フルオロベンジル基、3,4-メチレンジオキシベンジル基などが挙げられる。
炭素数6~20のアリール基としては、フェニル基、または4-ヒドロキシフェニル基などが挙げられる。
置換基としては、アミノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルカノイル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、ハロゲン原子などが挙げられる。
ケト酸としては、3,3-ジメチル-2-オキソ-ブタン酸(トリメチルピルビン酸ともいう)が最も好ましい。
前記アミノ酸脱水素酵素活性を有する微生物で処理することで、α-ケト酸からはα-アミノ酸(好ましくはα-L-アミノ酸)が得られ、式(1)のα-ケト酸からは式(2)のα-L-アミノ酸が得られ、3,3-ジメチル-2-オキソ-ブタン酸からはtert-ロイシンが得られる。
Figure 0007369705000002
(式中、R1は、前記と同じ意味である)
アミノ酸脱水素酵素活性を有する微生物を前記方法によって固定化したもの(以下、ケト酸処理用固定化微生物という場合がある)とケト酸とは、溶媒の存在下、接触させることで反応させることができる。
反応溶媒は、固定化微生物の調製第1工程で使用する分散媒と同様の範囲から選択でき、水、又は水と他の溶媒との混合溶媒が好ましく、水が特に好ましい。ケト酸の仕込み濃度は、例えば、1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、例えば、90質量%以下、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
反応温度は、例えば、10℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上であり、例えば、80℃以下、好ましくは60℃以下、より好ましくは40℃以下である。
反応は適当な緩衝剤を用いたり、反応中に酸又は塩基を添加するなどして調製した一定のpHの範囲内で行うのが好ましく、該pHは、例えば、4以上、好ましくは6以上であり、例えば、12以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。
ケト酸処理用固定化微生物とケト酸とを反応させるとき、NADH等の補酵素を共存させることが好ましく、また、ケト酸処理用固定化微生物が補酵素再生酵素活性を有する場合にはNAD+等の補酵素を共存させることも好ましい。補酵素を共存させることにより、反応の効率が向上する。補酵素の添加量は、ケト酸に対して、例えば、0.000001当量以上、好ましくは0.00001当量以上、より好ましくは0.0001当量以上であり、例えば、2当量以下、好ましくは0.1当量以下、より好ましくは0.01当量以下である。
ケト酸処理用固定化微生物とケト酸とを反応させるとき、補酵素再生に寄与する化合物、例えば、水素、ギ酸、アルコール、アルデヒド化合物、グルコースなども共存させることが好ましい。補酵素再生に寄与する化合物の添加量は、ケト酸に対して、例えば、0.1当量以上、好ましくは0.5当量以上、最も好ましくは1当量以上、また、100当量以下、好ましくは50当量以下、最も好ましくは10当量以下である。
前記反応は、バッチ式で行ってもよいが、フロー式で行うことが好ましく、特に固定化微生物をカラムに充填し、原料を含む液をカラムの入口に給液し、カラムの出口から反応生成物を含む溶液を排出するカラム式フロー反応が好ましい。本発明の方法によれば、微生物を活性高く、通液性よく、かつ体積維持性に優れた状態で固定化できるため、特にカラムに充填して固定触媒として利用することに適している。
カラム式フロー反応での原料を含む液の通液速度は、空間速度(SV)で、例えば、0.1hr-1以上、好ましくは0.2hr-1以上、より好ましくは0.3hr-1以上であり、例えば、3hr-1以下、好ましくは2hr-1以下、より好ましくは1hr-1以下である。
固定化微生物を用いて得られる反応物は、必要に応じて単離や精製をしてもよく、そのためには、常套分離方法、例えば、抽出、濃縮、晶析、カラムクロマトグラフィーなどを適宜組み合わせてよい。
本願は、2018年9月18日に出願された日本国特許出願第2018-174075号に基づく優先権の利益を主張するものである。2018年9月18日に出願された日本国特許出願第2018-174075号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記及び/又は後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
(製造例1)菌体培養液の製造
ギ酸脱水素酵素を大量に発現できるように設計されたプラスミドの製造:
チオバシラス エスピー(Thiobacillus sp.)KNK65MA株(FERM BP-7671)のゲノムを鋳型に、DNAプライマー(Primer-1:配列表の配列番号1、及び、Primer-2:配列表の配列番号2)を用い、下記PCR条件1に従ってPCRを行なった。
PCR条件1
鋳型DNA100ngにPyrobestDNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)1.25U(0.25μL)、10×Pyrobest BufferII(タカラバイオ社製)5μL、2.5mM各dNTP溶液4μL、20μMプライマー水溶液各2μLを添加し、さらに滅菌水を加えて総量が50μLになるように調製した反応液を作製し、熱変性(96℃、30秒)、アニーリング(50℃、30秒)、伸長反応(72℃、90秒)を25サイクル繰り返した後、4℃まで冷却する。
PCRにより得られたDNA断片を制限酵素NdeIとEcoRIで切断し、同酵素で切断したベクタープラスミドpUCNT(国際公開第WO94/03613号パンフレットの明細書の記載に基づいて当業者が製造可能)とT4 DNAリガーゼを用いて結合することで、ギ酸脱水素酵素を大量に発現できるように設計されたプラスミドを取得した。
ロイシン脱水素酵素を大量に発現できるように設計されたプラスミドの製造:
バチルス スファエリカス(Bacillus sphaericus)NBRC3341株のゲノムを鋳型に、DNAプライマー(Primer-3:配列表の配列番号3、及び、Primer-4:配列表の配列番号4)を用い、上記PCR条件1に従ってPCRを行なった。
PCRにより得られたDNA断片を制限酵素EcoRIとSacIで切断し、同酵素で切断したベクタープラスミドpUCT(pUCNT(国際公開第WO94/03613号パンフレットの明細書の記載に基づいて当業者が製造可能)のNdeI認識配列を一塩基置換により破壊したプラスミドベクター)とT4 DNAリガーゼを用いて結合することで、ロイシン脱水素酵素を大量に発現できるように設計されたプラスミドを取得した。
得られたロイシン脱水素酵素を大量に発現できるように設計されたプラスミドを制限酵素EcoRIとPstIで切断し、ロイシン脱水素酵素遺伝子を含むDNA断片をTaKaRaRECOCHIP(タカラバイオ社製)を用いて回収した。
上記で得られたギ酸脱水素酵素を大量に発現できるように設計されたプラスミドをギ酸脱水素酵素遺伝子の下流のEcoRI、PstI部位で切断し、DNA断片を得た。このDNA断片と、上記ロイシン脱水素酵素遺伝子を含むDNA断片をT4 DNAリガーゼを用いて結合することにより、ロイシン脱水素酵素及びギ酸脱水素酵素を大量に発現できるように設計されたプラスミドを取得した。
得られたプラスミドをエシェリヒア コリ(Escherichia coli)HB101のコンピテントセルと混合し形質転換を行なうことで、ロイシン脱水素酵素活性及びギ酸脱水素酵素活性を有する形質転換体を育種した。
育種したロイシン脱水素酵素活性及びギ酸脱水素酵素活性を有する形質転換体を、滅菌した培地A(トリプトン1.6%、イーストエキス1.0%、塩化ナトリウム0.5%、アンピシリン0.01%、脱イオン水に溶解、滅菌前pH7.0。ただしアンピシリンは滅菌後に添加する)に植菌後、33℃で48時間、振とうして好気的に培養した。
(実施例1)固定化菌体の製造
製造例1で得られた菌体培養液1740g(湿菌体質量は35g)を遠心分離し、上清1160gを除去した。残った濃縮培養液580gを室温で攪拌しながら、濃度5質量%のカルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬社製、セロゲン6A)水溶液145gを20分間かけて添加し、そのまま30分間攪拌した。次に、同溶液を室温で攪拌しながら、塩酸でpH7に調製した濃度20質量%のポリエチレンイミン((株)日本触媒社製;エポミン(登録商標)P-1000;分子量:70000[カタログ値])水溶液66gを、20分間かけて添加し、そのまま30分間攪拌した。同溶液を室温で攪拌しながら、濃度50質量%のグルタルアルデヒド水溶液24gを、20分間かけて添加し、そのまま30分間攪拌した。攪拌を停止し、約5分間静置することで沈殿を生成させ、上清をピペットで除去した後、50mM Tris-HCl(pH7.5)290mLを加えて、室温で30分間攪拌した。この操作をさらに2回繰り返した。
得られた混合液を、面積15.2cm2のろ紙5A(桐山製作所製)を用いて、濾過圧1.0kgf/m2、ケーキ厚3cmでろ過したところ、ろ過比抵抗1.5×109m/kg以下とろ過性良好であった。当該操作により、固定化菌体63gを得た。
得られた固定化菌体約9gを耐圧ガラスカラム(オムニフィット、内径10mm)に詰めて30℃に温調したカラムオーブン内に入れ、垂直に立てて固定した。次に蒸留水をシリンジを用いて通液した。シリンジに強い圧力をかけなくても、蒸留水をスムーズに通液することができ、圧力損失の少ないカラムを製造可能であることが確かめられた。
(実施例2)固定化菌体の活性収率の評価
pH7.3に調製した反応液1mL(トリメチルピルビン酸200mg、NAD+1.45mg、硫酸亜鉛7水和物20mg、ギ酸アンモニウム150mg、硫酸アンモニウム60mgを含む50mMリン酸カリウム緩衝液)に、前記で得られた固定化菌体200mg、又は前記で得られた濃縮培養液9.2mLを超音波破砕したものを加え、30℃で1時間攪拌して反応した。残存したトリメチルピルビン酸、及び生成したL-tert-ロイシンの収率・光学純度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析したところ、固定化菌体の活性収率(固定化菌体の総活性÷固定化に用いた培養液の総活性)は0.4であった。
(トリメチルピルビン酸 HPLC分析条件)
カラム:COSMOSIL 5C18-AR(4.6mm×250mm、ナカライテスク社製)、移動相:10mMリン酸カリウム緩衝液(pH2.0)/アセトニトリル=95/5(V/V)、流速:1mL/分、カラム温度:40℃、検出:210nm。
(L-tert-ロイシン HPLC分析条件)
カラム:SUMICHIRAL OA-5000(4.6mm×250mm、住化分析センター社製)、移動相:2mM硫酸銅水溶液/メタノール=95/5(V/V)、流速:1mL/分、カラム温度:35℃、検出:254nm。
(比較例1)固定化菌体の製造
製造例1で得られた菌体培養液1740g(湿菌体質量は35g)を遠心分離し、上清1160gを除去した。残った濃縮培養液580gを室温で攪拌しながら、塩酸でpH7で調製した濃度20質量%のポリエチレンイミン(日本触媒社製エポミン)水溶液66gを、20分間かけて添加し、そのまま30分間攪拌した。同溶液を室温で攪拌しながら、濃度50質量%のグルタルアルデヒド水溶液24gを、20分間かけて添加し、そのまま30分間攪拌した。攪拌を停止し、約5分間静置することで沈殿を生成させ、上清をピペットで除去した後、50mM Tris-HCl(pH7.5)290mLを加えて、室温で30分間攪拌した。この操作をさらに2回繰り返した。
得られた混合液を、面積15.2cm2のろ紙5A(桐山製作所製)を用いて、減圧濾過(15mmHg)したところ、ろ過が途中で停止し、固定化菌体を効率よく製造することは難しい事が確かめられた。
混合液をろ過することに代えて、混合液の水分を大量のペーパータオルで吸収することで固定化菌体を得た。得られた固定化菌体約9gを耐圧ガラスカラム(オムニフィット、内径10mm)に詰めて30℃に温調したカラムオーブン内に入れ、垂直に立てて固定した。次に蒸留水をシリンジを用いて通液した。通液するためにはシリンジに加える圧力を非常に強くする必要があり、この固定化菌体をパッキングしたカラムは圧力損失が非常に大きくなるものであることが確かめられた。
(比較例2)バッチ法によるL-tert-ロイシンの合成
ガラス製反応容器に、比較例1で得られた固定化菌体102.1mgと溶液A、溶液Bそれぞれ10mlずつとを混合し、室温下で16時間攪拌後、反応液をサンプリングしHPLCにより分析したところ、トリメチルピルビン酸からL-tert-ロイシンへのモル変換率は20.3%であった。
溶液A調製方法
トリメチルピルビン酸水溶液(5.80g、66wt%)に、6N-NaOH水溶液と50mMリン酸カリウム緩衝液を入れて当該溶液をpH7に調整後、50mMリン酸カリウム緩衝液にて20mLにメスアップした。
溶液B調製方法
NAD+(2.9mg)、硫酸亜鉛7水和物(4.0mg)、ギ酸アンモニウム(3.0g)、硫酸アンモニウム(1.2g)及び1Mリン酸カリウム緩衝液(pH=7,1mL)を混合した後に、蒸留水で20mLにメスアップした。
(実施例3)フロー法によるL-tert-ロイシンの合成1
実施例1で得られた固定化菌体2.98gを耐圧ガラスカラム(オムニフィット、内径10mm)に詰めて30℃に温調したカラムオーブン内に入れ、垂直に立てて固定した。次に蒸留水をシリンジポンプ(YMC社製)を用いて流速0.05ml/分の速度でカラム内に送液した。続いて、原料溶液(溶液B、溶液Cをそれぞれ19mlずつを混合したもの)をシリンジポンプ(YMC社製)を用いて流速0.03ml/分(SV:0.45hr-1)の速度でカラム内に送液し(総送液時間:68hrs)、カラムの出口から目的のL-tert-ロイシンを含有する反応液を取得した(HPLC収率:99%)。なお、23、46、68時間の時点でサンプリングした反応液のモル変換率は、各々97%、99%、97%であった。
溶液C調製方法
トリメチルピルビン酸水溶液(2.90g、66wt%)に蒸留水(2.9g)を加えた。次に、6N-NaOH水溶液と50mMリン酸カリウム緩衝液を用いて当該溶液をpH7に調整し、最後に50mMリン酸カリウム緩衝液にて20mLにメスアップした。
(実施例4)フロー法によるL-tert-ロイシンの合成2
実施例1で得られた固定化菌体8.94gを耐圧ガラスカラム(オムニフィット、内径10mm)に詰めて30℃に温調したカラムオーブン内に入れ、垂直に立てて固定した。次に蒸留水をプランジャーポンプ(FLOM社製)を用いて流速0.1ml/分の速度でカラム内に送液した。続いて、原料溶液(溶液D、溶液Eをそれぞれ140mlずつを混合したもの)をプランジャーポンプ(FLOM社製)を用いて流速0.09ml/分(SV:0.45hr-1)の速度でカラム内に送液後(総送液時間:56hrs)、蒸留水を同速度で送液することでカラム内に滞留している反応液を押し出した。その結果、目的のL-tert-ロイシンを11.9g含有する反応液を取得した(モル変換率:99%、HPLC収率:87%)。また、20、26、44時間の時点で取得したサンプリング液のモル変換率はいずれの場合も99%であった。さらには、ガラスカラムに詰めた固定化菌体のカラム中での高さは、反応開始時の5.1cmから変化していないため、固体化菌体の体積も変化しておらず、固定化菌体からの顕著な菌体の溶出や固定化担体の溶解等は無いと考えられた。
溶液D調製方法
トリメチルピルビン酸水溶液(20.3g、70wt%)に蒸留水(20.3g)を加えた。次に、6N-NaOH水溶液と50mMリン酸カリウム緩衝液を用いて当該溶液をpH7に調整し、総液量が140mLとなるように50mMリン酸カリウム緩衝液を加えた。
溶液E調製方法
NAD+(20.3mg)、硫酸亜鉛7水和物(28.0mg)、ギ酸アンモニウム(21.0g)、硫酸アンモニウム(8.4g)及び1Mリン酸カリウム緩衝液(pH=7,7mL)を混合した後に、総液量が140mLとなるように蒸留水を加えた。
本発明は、性能に優れた固定化触媒を簡便に製造でき、種々の合成反応(好ましくはエナンチオ選択的合成反応)に有利に利用できる。

Claims (12)

  1. 微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムとを接触させた後、
    さらにポリエチレンイミン及び炭素数4~6の直鎖状アルカンジアールを接触させること
    前記微生物が組換え大腸菌であることを特徴とする、固定化微生物の製造方法。
  2. 前記微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムとを接触させた後、
    先にポリエチレンイミンを接触させ、次いで炭素数4~6の直鎖状アルカンジアールを接触させる請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムとの接触が、
    微生物に、カルボキシメチルセルロースナトリウムの分散液又は溶解液を滴下により混合することによる接触である請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 水を含む分散媒の存在下、前記各接触を行う請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. 前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの粘度が、下記方法で測定した時に、50mPa・s以下を示す請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
    粘度測定法:共栓付300mL三角フラスコに4.4gのカルボキシメチルセルロースナトリウムを精密にはかりとり、次の式によって求まる量(W)の水を加え、2%水溶液を調製する。
    所要水量W(g)=カルボキシメチルセルロースナトリウム(g)×(98-水分(%))/2
    (式中、水分(%)は、カルボキシメチルセルロースナトリウムの含水率を示し、105±2℃の定温乾燥器中で4時間乾燥した時の乾燥減量(%)と同じ値を指す。)
    調製したカルボキシメチルセルロースナトリウムの2%水溶液を一夜間放置後、マグネチックスターラーで5分間かきまぜ、完全な溶液としたのち、口径45mm高さ145mmフタつき容器に移し、30分間25±0.2℃の恒温槽に入れ、溶液が25℃になればガラス棒でゆるくかきまぜて、BM型粘度計のローターおよびガードをとり付け、ローターを回転させ開始3分後の目盛りを読み取る(回転数は30rpm、あるいは60rpm)。ローターNo.と回転数によって定まる下記係数を目盛り読み取り値に乗じて粘度値(mPa・s)とする。
    ローターNo.1、60rpm時の係数:1
    ローターNo.2、60rpm時の係数:5
    ローターNo.3、60rpm時の係数:20
    ローターNo.4、60rpm時の係数:100
    ローターNo.1、30rpm時の係数:2
    ローターNo.2、30rpm時の係数:10
    ローターNo.3、30rpm時の係数:40
    ローターNo.4、30rpm時の係数:200
  6. 前記微生物とカルボキシメチルセルロースナトリウムとを接触させた後、
    前記カルボキシメチルセルロースナトリウムを硬化する工程を含ませずに、
    前記ポリエチレンイミン及び炭素数4~6の直鎖状アルカンジアールを接触させる請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
  7. 前記固定化微生物のろ過比抵抗が、固定化微生物を含むTris緩衝液を面積15.2cm 2 のろ紙5A(桐山製作所製)を用いて、濾過圧1.0kgf/m 3 、ケーキ厚3cmでろ過した時に、5×10 11 m/kg以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
  8. 前記組換え大腸菌が、アミノ酸脱水素酵素活性を有する形質転換体である請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
  9. 前記組換え大腸菌が、ロイシン脱水素酵素活性及びギ酸脱水素酵素活性を有する形質転換体である請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
  10. 請求項8又は9に記載の方法によって固定化微生物を製造し、
    この固定化微生物をケト酸と接触させる、アミノ酸の製造方法。
  11. 前記固定化微生物をカラムに充填し、前記ケト酸を含む溶液をこのカラムの入口に給液し、カラムの出口から前記アミノ酸を含む溶液を排出する請求項10に記載のアミノ酸の製造方法。
  12. 前記ケト酸が3,3-ジメチル-2-オキソブタン酸であり、前記アミノ酸がtert-ロイシンである請求項10又は11に記載のアミノ酸の製造方法。
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