JP2004075561A - 光学活性マンデル酸アミド誘導体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明に係る(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法は、特定のベンゾイルホルムアミド誘導体(A)にサッカロマイセス属酵母を作用させ、特定の(R)−マンデル酸アミド誘導体を得ることを特徴としている。
【選択図】 なし
Description
【産業上の利用分野】
本発明は、医薬品合成の原料として有用な、(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法に関し、たとえば(R)−マンデル酸アミド誘導体として(R)−2−クロロマンデル酸アミドを含む。
【0002】
【従来の技術】
ベンゼン環上にハロゲン置換を有する(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法はこれまでに報告されていない。
【0003】
ベンゼン環上にハロゲン置換を有しない (R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法としては、
・(R)−マンデル酸に塩化チオニルなどを作用させて、酸クロライドに変換した後、アンモニアと反応させる方法 (Phytochemistry 34, 433−436 (1993)。
・(R)−マンデル酸をメチルエステルなどに変換した後に、アンモニアと反応させる方法 (Agri. Biol. Chem. 53, 165−174 (1989) )
・ラセミ体マンデル酸アミドからカラム分割により(R)−マンデル酸アミドを製造する方法 (Chem. Ber. 116, 3611−3617 (1983) )
・ベンゾイルホルムアミドをパン酵母により不斉還元し、(R)−マンデル酸アミドを製造する方法 (Aust. J. Chem. 29, 2459−2467 (1976) ) 、などが知られている。
【0004】
しかしながら、(R)−マンデル酸を原料として、ベンゼン環上にハロゲン原子を有する(R)−マンデル酸に変えることができたとしても、その原料が高価であり、また、反応中に光学純度の低下が起こりうることから工業的な製造方法としては適さない。
【0005】
また、カラム分割を用いた(R)−マンデル酸アミドの入手方法と同様な手法により、ベンゼン環上にハロゲン原子を有するラセミ体マンデル酸アミド誘導体から、ベンゼン環上にハロゲン原子を有する(R)−マンデル酸アミド誘導体を分離する方法も考えられるが、(S)体は不要となり収率は最大50%に留まるなど工業上有効な製造方法とはいえない。
【0006】
このため、工業的な製造方法として、ベンゼン環上にハロゲン原子を置換基として有する(R)−マンデル酸アミド誘導体を含め、効率の高い(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法の出現が望まれていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、工業的に利用可能な(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
安価に合成可能な、ベンゼン環上にハロゲン原子を置換基として有するベンゾイルホルムアミド誘導体を原料とし、微生物や酵素を利用した不斉還元反応により、ベンゼン環上にハロゲン原子などを置換基として有する(R)−マンデル酸アミド誘導体を合成する方法は、理論収率100%が可能であり、工業的な(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法として適している。特に医薬品原料として有用な (R)−2−クロロマンデル酸アミドの原料となる2−クロロベンゾイルホルムアミドは文献記載ない新規な化合物であった。
【0009】
しかし、これまではベンゼン環上に置換基を有しないベンゾイルホルムアミドに対してパン酵母を用いた不斉還元が報告されているのみで、ベンゼン環上に置換基を有する基質に対する反応は知られていない。
【0010】
一般に、微生物や酵素を用いた反応に於いては、反応点に近い部位に立体障害となるような置換基が導入された場合に、その反応性、立体選択性が著しい影響を受ける場合がある。
【0011】
例えば、置換基を持たないフェニルグリオキシル酸誘導体を不斉還元することが報告されているキャンディダ・ファマータ IFO 0856(特開平6−7179号公報)は、オルト位にクロロ置換を有するオルトクロロフェニルグリオキシル酸には還元活性を有しないことが報告されている (特願2002−31544) 。また、本願発明者らがロイコノストック・メセンテロイデス・サブスピーシーズ・デキストラニカムより生成させたα−ケト酸還元酵素は、2−クロロベンゾイルギ酸に対する酵素活性を100%とすると、3−クロロベンゾイルギ酸に対する酵素活性は4.5%、ベンゾイルギ酸に対する活性は12.9%に過ぎず、ベンゼン環上の置換基が活性に大きな影響を及ぼすことが示されている(特願2002−207507) 。
【0012】
また、本件発明者らは、オルト位に塩素原子を置換基として有するベンゾイルホルムアミド(2−クロロベンゾイルホルムアミド)にパン酵母を作用させた結果、極めて意外なことに、効率よく還元反応が進むことを確認した。また、生成した2−クロロマンデル酸アミドの光学純度を光学分割カラムを用いて測定した結果、95.3%ee(R)という高い純度を有することが明らかとなり、本発明を完成するに至った。
【0013】
尚、従来報告されているパン酵母を用いて合成した(R)−マンデル酸アミドは、[α]Dは報告されているものの、その光学純度は不明であった。
【0014】
更に本件発明者らは、種々の酵素を用いて2−クロロベンゾイルホルムアミドに対する還元活性を測定した結果、トロピノン還元酵素−Iが還元活性を有し、しかも、99%ee以上の(R)−2−クロロベンゾイルホルムアミドを極めて効率よく生成することを見いだした。
【0015】
なお、トロピノン還元酵素−Iは、植物中のアルカロイド合成に重要な役割を有する酵素であり、生理的にはトロピノンを還元し、トロピンを生成する。また、本酵素は、3−キヌクリジノンを還元し、(R)−3−キヌクリジノンを生成することが本件発明者らにより報告されているが (特願2002−152955) 、トロピン、3−キヌクリジノンのいずれの構造からも本酵素が2−クロロベンゾイルホルムアミドを始めとしたベンゾイルホルムアミド誘導体に作用し、しかも、99%以上の高い立体選択性を有することは予想できなかった。
【0016】
すなわち本発明は、(R)−2−クロロマンデル酸アミドの原料となる、下記式(I)で表される2−クロロベンゾイルホルムアミドを提供する。
【化6】
本発明に係る(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法は、下記一般式(II)(X1、X2は、水素、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、ニトロ基、及びスルホニル基からなる群から選ばれる基を示し、X1、X2は、互いに同一であっても異なってもよいが同時に水素であることはない。Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、ニトロ基、及びスルホニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、式(II)中のベンゼン環上の3位、4位、5位が、n個 (0から3の整数) のRにより置換されていることを意味する。)で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体(A)にサッカロマイセス属酵母を作用させ、下記一般式(III)(X1、 X2、 R、 nは、前記一般式(II)中のX1、 X2、 R、 nと同じである。) で表される(R)−マンデル酸アミド誘導体を得ることを特徴とする。
【化7】
【化8】
前記一般式(II)で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体(A)は、2−クロロベンゾイルホルムアミドであることが好ましい。
前記サッカロマイセス属酵母は、パン酵母であることが好ましい。
本発明に係る(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法は、下記一般式(IV)(Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていても良いヒドロキシル基、ニトロ基、及びスルホニル基からなる群から選ばれ少なくとも1種を示し、nは0から5の整数を示す。)で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体(B)に、トロピノン還元酵素−I活性を有する酵素活性物質を作用させ、下記一般式(V)(Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていても良いヒドロキシル基、ニトロ基、及びスルホニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種を示し、式(IV)中のベンゼン環上の2位、3位、4位、5位および/または6位が、n個(nは0から5の整数) のRにより置換されていることを意味する。)で表される(R)−マンデル酸アミド誘導体を得ることを特徴とする。
【化9】
【化10】
前記一般式(IV)で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体(B)は、式(IV)中のベンゼン環上の2位および/または6位に置換基Rを有することが好ましい。前記酵素活性物質は、Datura属、またはHyoscyamus属に属する植物に由来する酵素活性物質であることが好ましい。
前記Datura属に属する植物は、Datura stramoniumであることが好ましい。
前記Hyoscyamus属に属する植物は、Hyoscyamus nigerであることが好ましい。前記酵素活性物質は、トロピノン還元酵素−IをコードするDNAを含むベクターにより形質転換された形質転換体、またはその処理物であってもよい。
前記ベクターは、更に酸化型補酵素を還元型補酵素に再生する酵素をコードするDNAを共に含むことが好ましい。
前記酸化型補酵素を還元型補酵素に再生する酵素は、グルコース脱水素酵素であることが好ましい。
前記グルコース脱水素酵素は、Bacillus subtilis由来であることが好ましい。
【発明の実施の形態】
2−クロロベンゾイルホルムアミド
【0017】
本発明は、(R)−2−クロロマンデル酸アミドの原料となる、下記式(I)で表される2−クロロベンゾイルホルムアミドを提供する。
【化11】
【0018】
このようなベンゼン環上にハロゲン原子を置換基として有するベンゾイルホルムアミド誘導体は、例えば、以下のような方法により製造することができる。
【0019】
トルエン、アセトニトリルなどの溶媒中にシアン化第1銅を懸濁させておき、ベンゾイルクロライド誘導体を攪拌下に滴下し、加熱還流後、室温まで冷却した後に濾過により不溶物を濾別し、溶媒を減圧蒸留することにより残渣として、ベンゾイルシアナイド誘導体を得ることができる。
【0020】
また、ベンゾイルシアナイド誘導体を濃塩酸に懸濁後、室温で一晩攪拌し、更に、反応液全体を水中に投入して攪拌し、生成する結晶を濾別後、洗浄、乾燥することにより、ベンゼン環上に置換基を有するベンゾイルホルムアミド誘導体を合成することができる。
【0021】
さらに、2−クロロベンゾイルギ酸を原料として、塩化チオニルなどによるカルボニルの塩素化、もしくは、短鎖アルコールとのエステル化を経て、アンモニアと作用させることにより、ベンゼン環上にハロゲン置換を有するベンゾイルホルムアミド誘導体を合成することができる。
サッカロマイセス属酵母を用いる(R)−マンデル酸アミドの合成
【0022】
本発明は、ベンゼン環上の2位および/または6位(オルト位)に置換基を有する一般式 (II) で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体(A)(以下「基質」ということがある。)にサッカロマイセス属酵母を作用させ、一般式 (III) で表される (R)−マンデル酸アミド誘導体を製造する方法を提供するものである。
【化12】
【化13】
【0023】
前記式(II)中、X1、X2は、水素、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、ニトロ基、及びスルホニル基からなる群から選ばれることを示す。
【0024】
X1、X2は互いに同一であっても異なっていてもよく、X1とX2とが同時に水素であることはない。Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、ニトロ基、及びスルホニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記式(II)中のベンゼン環上の3位、4位、5位(ホルムアミドカルボニル基に対してメタ位及び/又はパラ位)が、n個 (ただし、nは0から3の整数、好ましくは0または1、さらに好ましくは0である) のRで置換されていることを意味する。
【0025】
前記X1、X2において、前記ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、このうちでは、塩素原子が好ましい。前記低級アルキル基としては、炭素原子数が好ましくは1〜4、さらに好ましくは1または2のアルキル基が挙げられ、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基などが挙げられる。前記保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基の保護基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基などが挙げられる。
【0026】
これらのうち、X1、X2としては、ハロゲン原子、低級アルキル基が好ましく、X1、X2の一方がハロゲン原子であることがより好ましい。
【0027】
前記式(II)中のRにおいて、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、このうちでは、塩素原子が好ましい。前記低級アルキル基としては、炭素原子数が好ましくは1〜4、さらに好ましくは1または2のアルキル基が挙げられ、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基などが挙げられる。前記保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基の保護基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基などが挙げられる。
【0028】
これらのうち、Rとしては、ハロゲン原子、低級アルキル基が好ましく、ハロゲン原子がより好ましい。
【0029】
前記式(III)中、X1、X2、R、nは、それぞれ、前記一般式(II)中のX1、X2、R、nと同様である。
【0030】
このような前記一般式 (II) で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体(A)の製造方法は限定されず、公知の方法を用いることができる。たとえば、前記ベンゼン環上にハロゲン原子を置換基として有するベンゾイルホルムアミド誘導体の製造方法は前述のとおりである。
【0031】
これらの反応に用いられるサッカロマイセス属酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビジアエ (Saccharomyces cerevisiae) が挙げられる。サッカロマイセス・セレビジアエの中でもパン酵母は安価に、大量に生菌体もしくは乾燥菌体が容易に入手可能であるため、好適に用いられる。パン酵母の中でも、オリエンタル酵母製のパン酵母を特に好適に用いることができる。
【0032】
本発明に係るサッカロマイセス属酵母を用いた前記式(II)で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体の不斉還元反応は、例えば以下のようにして行うことができる。
【0033】
基質濃度(溶媒に対する基質の重量割合):好ましくは0.01重量%〜50重量%、 さらに好ましくは0.1重量%〜20重量%、 特に好ましくは0.5〜5重量%
【0034】
溶媒:水道水、pHが好ましくは3〜9、さらに好ましくは5〜7に調整した緩衝液など
【0035】
添加物:還元反応のエネルギー源として、グルコース、スクロース、エタノール、イソプロパノール、アミノ酸などを単独で、又は任意の組み合わせで、それぞれ好ましくは0.01重量%〜50重量%を、一括、又は分割、連続して添加することもできる。
【0036】
サッカロマイセス酵母:培養したサッカロマイセス酵母をそのまま添加、遠心分離などによる集菌の後に反応液に添加、反応開始時及び反応中に分割投与などが可能である。市販されている生パン酵母や乾燥パン酵母を用いることも可能である。また、界面活性剤や有機溶媒などにより膜の透過性を変化させた菌体の処理物、無細胞抽出液なども利用できる。更に、反応液に、NADHもしくはNADPHを再生するための微生物、その処理物、酵素、例えば、グルコース脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、有機酸脱水素酵素などを対応する基質と共に添加することにより反応速度を上げることも可能である。サッカロマイセス酵母の濃度は、酵母の湿重量に換算して、溶媒に対して、好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは5〜20重量%であることが好ましい。
【0037】
基質の添加方法:基質の添加方法は特に限定されないが、特に、市販の乾燥パン酵母や生パン酵母を利用する場合には、基質を添加する前にパン酵母を水に懸濁し、グルコース、スクロースなどの糖を添加した状態で数時間放置し、呼吸に伴う泡の生成を確認した後に基質を添加するのが望ましい。基質となる前記一般式 (II) の化合物は水に対する溶解度が低いため、固体 (粉体) を、または、基質が溶解するジメチルスルホキシド、エタノールなどの溶媒に高濃度に溶解したものを、反応開始時に一括、分割、または連続して添加することができる。
【0038】
反応時間は、好ましくは6〜96時間程度であればよい。反応温度は、好ましくは15〜40℃、さらに好ましくは25〜35℃程度であればよい。
【0039】
このようにして得られる(R)−マンデル酸アミド誘導体の精製は、菌体、タンパク質の遠心分離、膜処理等による分離、溶媒抽出、蒸留、結晶化等を適当に組み合わせることにより行うことができる。
【0040】
例えば、(R)−2−クロロマンデル酸アミドを含む反応液を遠心分離することにより菌体を除去し、限外濾過などにより除蛋白したのちに、酢酸エチルなどを用いて(R)−2−クロロマンデル酸アミドを抽出し、溶媒を減圧下に留去することにより精製することができる。
【0041】
このようにして、得られる(R)−マンデル酸アミド誘導体の光学純度(enantiomeric excess;ee)は、好ましくは80%ee以上、さらに好ましくは90%ee以上、特に好ましくは95%ee以上を有する。
【0042】
光学活性な(R)−マンデル酸アミド誘導体の光学純度は、たとえば、光学分割カラムなどを用いて確認することができる。
トロピノン還元酵素−I活性を有する酵素活性物質を用いる(R)−マンデル酸アミドの合成
【0043】
本発明は、光学活性マンデル酸アミド誘導体の原料となる、下記一般式(IV)、で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体(B)に、トロピノン還元酵素−I活性を有する酵素活性物質を作用させ、下記一般式(V)で表される(R)−マンデル酸アミド誘導体を製造する方法を提供するものである。
【化14】
【化15】
【0044】
上記式(IV)中、Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていても良いヒドロキシル基、ニトロ基、及びスルホニル基からなる群から選ばれ少なくとも1種を示し、nは好ましくは0から5の整数、さらに好ましくは1〜3の整数、特に好ましくは1である。置換基Rが2以上存在する場合は、置換基Rは互いに同一であっても、異なっていてもよい。これらの置換基のベンゼン環上の位置は、2〜6位(ホルムアミドカルボニル基に対して、オルト位、メタ位、またはパラ位)のいずれも採ることができるが、好ましくは、2位および/または6位(オルト位)に置換基が存在することが望ましい。
【0045】
前記式(IV)中、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、このうちでは、塩素原子が好ましい。前記低級アルキル基としては、炭素原子数が好ましくは1〜4、さらに好ましくは1または2のアルキル基が挙げられ、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基などが挙げられる。前記保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基の保護基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基などが挙げられる。
【0046】
これらのうち、Rとしては、ハロゲン原子、低級アルキル基が好ましく、ハロゲン原子がより好ましい。
【0047】
前記式(V)中、R、nは、それぞれ前記一般式(IV)中のR、nと同様である。
【0048】
このような前記一般式(IV)で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体(B)の製造方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。たとえば、前記ベンゼン環上にハロゲン原子を置換基として有するベンゾイルホルムアミド誘導体は、前述の方法により製造することができる。
【0049】
前記一般式(IV)で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体(B)の不斉還元反応に用いることができる酵素活性物質は、トロピノン還元酵素−I活性を有し、かつケトンを不斉還元して光学活性アルコールを生成しうるものであれば、任意の酵素を用いることができる。
【0050】
なお、本発明において、トロピノン還元酵素−I活性とは、トロピノンに作用してトロピンを生成する活性をいう。トロピノン還元酵素には、トロピノンから互いに逆の立体配置を持つトロピンとシュードトロピンを生成する二種類の還元酵素が報告されている。これらの酵素は、それぞれトロピノン還元酵素−I(EC.1.1.1.206)(トロピン生成)、およびトロピノン還元酵素−II(EC1.1.1.236)(シュードトロピン生成)と名づけられている。これらの酵素は、ヒヨスチアミンやスコポラミンなどのトロパンアルカロイド生合成経路の分岐点に位置する反応を触媒する。すなわちトロピノン還元酵素−Iとは、トロピノンに作用してトロピンを生成する活性を有する酵素(EC.1.1.1.206)を指す。
【0051】
トロピノン還元酵素−Iの酵素活性は、以下のような方法によって測定することができる。すなわち、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH 6.5)、0.2mMNADPH、4mM トロピノンおよび酵素を含む反応液中で、37℃で反応させ、NADPHの減少による340nmの吸収の減少を測定することにより、トロピノン還元活性を測定することができる。また、100mMリン酸カリウム緩衝液 (pH 6.5) 、0.2mM NADPH、1mM 2−クロロベンゾイルホルムアミド及び酵素を含む反応液中で、37℃で反応させ、NADPHの減少による340nmの吸収の減少を測定することにより、2−クロロベンゾイルホルムアミド還元活性を測定することができる。それぞれ、1Uは、1分間に1μmolのNADPHの減少を触媒する酵素量とした。
【0052】
前記本発明に用いるトロピノン還元酵素−Iの由来に特に制限はない。本発明における好ましい酵素活性物質は、ベンゾイルホルムアミド誘導体(B)を基質として、少なくとも80%ee(R)以上、好ましくは90%ee(R)以上、更に好ましくは95%ee(R)以上の光学純度の光学活性マンデル酸アミド誘導体を生成することができる酵素活性物質である。生成物の光学純度は、反応生成物の光学分割カラム、例えば、CHIRALPAK AS−H (ダイセル化学製) を用い、n−ヘキサン/エタノール (75/25)の溶離液を用いた解析によって確認できる。
【0053】
本発明における好ましいトロピノン還元酵素−I活性を有する酵素活性物質は、たとえばDatura属、あるいはHyoscyamus属に属する植物から得ることができる。より具体的には、Datura stramonium 由来のトロピノン還元酵素−I(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A.,90,9591−9595(1993))、あるいはHyoscyamus niger由来のトロピノン還元酵素−I(Biosci. Biotechnol. Biochem.,63(10),1819−1822(1999))などが挙げられる。
【0054】
その他、種々の生物に由来するトロピノン還元酵素−Iも、前記式(IV)で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体(B)を還元して (R)−マンデル酸アミド誘導体を生成する活性を有する限り利用することができる。他の生物由来のトロピノン還元酵素−I活性を有する酵素としては、例えばBrugmansia candida xaurea hybrid (Phytochemistry, 52, 871−878 (1999))、Atropa belladonna (Plant Physiol., 100, 836−845 (1992))、Physalisphiladelphica (Plant Physiol., 100, 836−845 (1992))、Solanum tuberosum (DNA Databank of JAPAN (DDBJ)) 由来のトロピノン還元酵素−Iなどが挙げられる。
【0055】
なお、本発明において、酵素活性物質とは、精製酵素のみならず、トロピノン還元酵素−Iを含む微生物菌体、植物、その培養細胞、形質転換体、または、その処理物が含まれる。ここで処理物とは、生物細胞に対して、物理処理、生化学的処理、あるいは化学的処理等を行った産物を指す。また生物細胞には、上記酵素を含む植物細胞に加え、当該酵素の遺伝子を発現可能に保持する形質転換体も含まれる。また処理物を得るための物理処理には、凍結融解処理、超音波処理、加圧処理、浸透圧差処理、あるいは磨砕処理等が含まれる。また生化学的処理としては、具体的には、たとえばリゾチームなどの細胞壁溶解酵素処理などが挙げられる。更に、化学的処理としては、たとえば、界面活性剤、トルエン、キシレン、またはアセトンなどの有機溶媒との接触処理などが挙げられる。このような処理によって細胞膜の透過性を変化させた微生物、あるいはガラスビーズや酵素処理によって菌体を破砕した無細胞抽出液やそれを部分精製したものなどは処理物に含まれる。
【0056】
前記本発明で用いるトロピノン還元酵素−I活性を有する酵素活性物質として利用できる精製酵素は、例えばDatura stramonium (Phytochemistry, 37(2), 391−400 (1994))や、Hyoscyamus niger (Plant Physiol., 100, 836−845 (1992))等の植物体から公知の方法によって単離することができる。
【0057】
あるいは酵素活性物質として形質転換体を利用することもできる。まずトロピノン還元酵素−Iをコードする遺伝子を取得し、これを遺伝子組換え技術を用いて同種もしくは異種の宿主中で発現可能に保持させた形質転換体を得ることができる。この形質転換体は、そのままで、あるいは処理物として酵素活性物質とすることができる。更にこの形質転換体を培養して、トロピノン還元酵素−Iを取得することもできる。
【0058】
本発明に用いることができるトロピノン還元酵素−Iをコードする遺伝子としては、例えばDatura stramonium (Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. ,90 , 9591−9595 (1993)) やHyoscyamusniger (Biosci. Biotechnol. Biochem.,63(10),1819−1822(1999)) の遺伝子が挙げられる。
【0059】
これらトロピノン還元酵素−Iをコードする遺伝子の塩基配列情報は、DNA Databank of JAPAN(DDBJ)、EMBL、Gene−BankなどのDNAに関するデータベースに登録されている。これらの塩基配列情報に基いて、目的とする遺伝子を当該生物から取得することができる。遺伝子の取得には、PCRやハイブリダイズスクリーニングが用いられる。また、DNA合成によって遺伝子の全長を化学的に合成することもできる。
【0060】
更に上記塩基配列情報に基づいて、上記以外の生物に由来するトロピノン還元酵素−Iの遺伝子を取得することもできる。たとえば、上記塩基配列もしくはその一部の配列をプローブとして他の生物から調製したDNAに対しストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションを行うことにより、種々の生物由来のトロピノン還元酵素−Iを単離することができる。ストリンジェントな条件でハイブリダイズできるポリヌクレオチドとは、配列番号:1または配列番号:2に記載された塩基配列から選択された塩基配列を有するDNAをプローブDNAとし、たとえばECL direct nucleic acid labeling and detection system (Amersham Pharmaica Biotech社製)を用いたマニュアルに記載の条件(wash:42℃、0.5xSSCを含むprimary wash buffer)や0.2xSSC (1xSSC:15mM クエン酸3ナトリウム、150mM塩化ナトリウム)、0.1%SDS溶液中で60℃、15分間洗浄する条件において、ハイブリダイズするポリヌクレオチドを指す。プローブDNAを構成する塩基配列は、前記塩基配列から任意の少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、たとえば40、60または100個の連続した配列を一つまたは複数選択することができる。
【0061】
また、上記塩基配列情報に基づいて、ホモロジーの高い領域からPCR用のプライマーをデザインすることができる。このようなプライマーを用い、染色体DNAもしくはcDNAを鋳型としてPCRを行えば、トロピノン還元酵素−Iをコードする遺伝子を種々の生物から単離することもできる。
【0062】
本発明の(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法においては、天然型のトロピノン還元酵素−I活性を有する酵素のみならず、ベンゾイルホルムアミド誘導体を還元して(R)−マンデル酸アミド誘導体を生成する活性を有する限り、天然型酵素のアミノ酸配列に対して1または複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入したアミノ酸配列からなるトロピノン還元酵素−I活性を有する酵素を用いることも可能である。当業者であれば、例えば、部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res.10,pp.6487 (1982) , Methods in Enzymol.100,pp.448 (1983), Molecular Cloning 2ndEdt., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) , PCR A Practical Approach IRL Press pp.200(1991) )などを用いて、適宜、欠失、置換、挿入、および/または付加変異を導入することにより、蛋白質の構造を改変することができる。また、アミノ酸の変異は自然界において生じることもあり、人工的にアミノ酸を変異した酵素のみならず、自然界においてアミノ酸が変異した酵素も本発明の(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法において用いることができる。
【0063】
また、本発明の(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法においては、トロピノン還元酵素−Iのアミノ酸配列にホモロジーを有する蛋白質をコードする遺伝子も、その産物である酵素がベンゾイルホルムアミド誘導体を還元して(R)−マンデル酸アミド誘導体を生成する活性を有する限り、本発明に利用することができる。これら遺伝子は、蛋白質のホモロジー検索を利用して得ることができる。ホモロジー検索には、たとえば以下に示すデータベースを用いることができる。
【0064】
SWISS−PROT、PIRなどの蛋白質のアミノ酸配列に関するデータベース
DNA Databank of JAPAN(DDBJ)、EMBL、Gene−BankなどのDNAに関するデータベース
DNA配列を元にした予想アミノ酸配列に関するデータベース
FASTA programやBLAST programなどのホモロジー検索用のプログラムも公知である。
【0065】
更に、上記データベースをこれらのプログラムを用いて検索するサービスも、インターネット上で提供されている。この種のサービスを利用して、本発明に用いることのできるトロピノン還元酵素−I活性を有する酵素を見出すこともできる。
【0066】
Datura stramonium、Hyoscyamus niger 由来のトロピノン還元酵素−Iのアミノ酸配列と、少なくとも85%、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のホモロジーを有する蛋白質は、本発明の本発明に用いるトロピノン還元酵素−Iとして好ましい。Datura stramonium、Hyoscyamus niger 由来のトロピノン還元酵素−Iは、いずれも本発明に利用することができる酵素活性を有していた。両者のホモロジーは94%である。ここでいうホモロジーとは、たとえば、BLAST programを用いたIdentitiesの相同性の値を示す。
【0067】
本発明におけるトロピノン還元酵素−I活性を有する好ましい酵素活性物質として、トロピノン還元酵素−Iをコードする遺伝子を遺伝子組換え技術を用いて同種もしくは異種の宿主中で発現させた形質転換体、もしくはその処理物を挙げることができる。
【0068】
本発明においてトロピノン還元酵素−I遺伝子を発現させるために、形質転換の対象となる生物は、トロピノン還元酵素−I活性を有するポリペプチドをコードするDNAを含む組換えベクターにより形質転換され、トロピノン還元酵素−I活性を発現することができる生物であれば特に制限はない。
【0069】
形質転換体の作製のための手順および宿主に適合した組み換えベクターの構築は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Sambrookら、モレキュラー・クローニング、Cold Spring Harbor Laboratories)。微生物中などにおいて、本発明のNADP+を補酵素とするトロピノン還元酵素−I遺伝子を発現させるためには、まず微生物中において安定に存在するプラスミドベクターやファージベクター中にこのDNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる必要がある。そのためには、転写・翻訳を制御するユニットにあたるプロモーターを本発明のDNA鎖の5’−側上流に、より好ましくはターミネーターを3’−側下流に、それぞれ組み込めばよい。このプロモーター、ターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能することが知られているプロモーター、ターミネーターを用いる必要がある。これら各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネータ−などに関して「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」、特に酵母に関しては、Adv. Biochem. Eng. 43, 75−102 (1990)、Yeast 8, 423−488 (1992)、などに詳細に記述されている。
【0070】
また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が開発されており、特に蚕を用いた昆虫(Nature 315, 592−594 (1985))や菜種、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物中に大量に異種蛋白質を発現させる系が開発されており、好適に利用できる。形質転換体の培養、および形質転換体からのトロピノン還元酵素−Iの精製は、当業者に公知の方法により行うことができる。
【0071】
本発明による(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法においては、補酵素の再生系を組み合わせることができる。ケトンを還元してアルコールを生成する過程で、トロピノン還元酵素−Iは還元型補酵素を要求する。還元型補酵素としては、NADPHやNADHを利用することができる。たとえばNADPHを還元型補酵素に用いた場合、トロピノン還元酵素−Iによる還元反応に付随して、NADPHからNADP+が生成する。NADP+は、適当な基質の酸化反応を利用することによって、再び還元型であるNADPHに再生することができる。NADP+からNADPHへの再生は、植物、微生物、形質転換体の含有するNADP+からNADPHを再生する酵素によって行うことができる。NADPHの再生反応を触媒する酵素は、単一であってもよいし、複数の酵素で構成される多段階反応であってもよい。複数の酵素によって目的とする酵素反応が支えられているとき、一連の酵素反応を構成する酵素の集合を酵素系と呼ぶ。
【0072】
これらNADP+還元能は、反応系にグルコース、スクロースなどの糖、有機酸、またはエタノール、イソプロパノールなどのアルコールを添加することにより、増強することができる。また、NADP+からNADPHを生成する能力を有する酵素を用いてNADPHの再生を行うことができる。NADPHの生成に有用な酵素を以下に示す。これらの酵素は、精製酵素のみならず、当該酵素を有する微生物、その処理物、あるいは部分精製酵素として用いることができる。たとえばグルコース脱水素酵素の場合には、グルコースからδ−グルコノラクトンへの酸化に伴ってNADP+からNADPHへの再生が行われる。
【0073】
グルコース脱水素酵素
グルタミン酸脱水素酵素
ギ酸脱水素酵素
リンゴ酸脱水素酵素
グルコース−6−リン酸脱水素酵素
ホスホグルコン酸脱水素酵素
アルコール脱水素酵素
グリセロール脱水素酵素
【0074】
これらのNADPH再生に必要な反応を構成する成分は、本発明を構成する還元酵素反応系に添加、もしくは固定化したものを添加することができる。あるいはNADPHの交換が可能な膜を介して前記反応系に接触させることができる。
【0075】
また、トロピノン還元酵素−IをコードするDNAを含む組換えベクターで形質転換した形質転換体を、本発明の(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法に利用する場合には、NADPH再生のための付加的な反応系を不要とできる場合がある。すなわち、NADPH再生活性の高い生物を宿主として用いることにより、形質転換体を用いた還元反応において、NADPH再生用の酵素(酸化型補酵素を還元型補酵素に再生する酵素)を添加することなく効率的な反応を行える。
【0076】
あるいは前記NADPH再生に利用可能な酵素の遺伝子を、トロピノン還元酵素−IをコードするDNAと同時に導入した宿主を利用することもできる。このような形質転換体の利用によって、NADPH再生酵素とトロピノン還元酵素−Iの発現、および基質の還元反応を、より効率的に行うこともできる。これらの2つ、もしくは、それ以上の遺伝子の宿主への導入には、不和合性をさけるために複製起源の異なる複数のベクターに別々に遺伝子を導入した組み換えベクターにより宿主を形質転換する方法や、単一のベクターに両遺伝子を導入する方法、片方、もしくは、両方の遺伝子を染色体中に導入する方法などを利用することができる。
【0077】
本発明におけるNADPH再生に利用可能なグルコース脱水素酵素として、バシラス・サブチルス(Bacillus subtilis)に由来するグルコース脱水素酵素や、サーモプラズマ・アシドフィラム(Thermoplasma acidophilum) に由来するグルコース脱水素酵素を示すことができる。これら酵素をコードする遺伝子は既に単離されている(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.,80,785−789(1983); Eur. J. Biochem.,211,549−554(1993)) 。あるいは既に明らかにされているその塩基配列に基づいて、PCRやハイブリダイズスクリーニングによって、当該微生物から取得することもできる。
【0078】
単一のベクター中に複数の遺伝子を導入する場合には、プロモーター、ターミネーターなど発現制御に関わる領域をそれぞれの遺伝子に連結する方法やラクトースオペロンのような複数のシストロンを含むオペロンとして発現させることも可能である。
【0079】
単一のベクターにトロピノン還元酵素−Iとグルコース脱水素酵素を導入したプラスミドは、例えばpSE420D(特開2000−189170号公報)に各遺伝子をタンデムに連結して取得することができる。Datura stramonium 由来のトロピノン還元酵素−IとBacillus subtilis由来のグルコース脱水素酵素を導入されたプラスミドpSG−DSR1(FERM P−18395)、Hyoscyamus niger 由来のトロピノン還元酵素−IとBacillus subtilis由来のグルコース脱水素酵素を導入されたプラスミドpSG−HNR1(FERM P−18396)は、それぞれ以下のとおり特許生物寄託センターに寄託されている。
【0080】
プラスミドpSG−DSR1、またはpSG−HNR1の寄託:
(a)寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
(旧名称:通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所)
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号中央第6(郵便番号305−8566)
(b)寄託日 平成13年6月22日
(c)受託番号 FERM P−18395 (pSG−DSR1)
受託番号 FERM P−18396 (pSG−HNR1)
【0081】
本発明による(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法を構成する酵素反応は、前記トロピノン還元酵素−I活性を有する酵素活性物質と、基質であるベンゾイルホルムアミド誘導体(B)とを反応溶液中で接触させることにより、実施することができる。具体的には、水性媒体中、水性媒体と水可溶性の有機溶媒との混合系、あるいは水不溶性の溶媒との2相系中において行うことができる。水性媒体としては、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液などの中性付近に緩衝能を有する緩衝液が挙げられる。あるいは酸とアルカリを用いて反応中のpH変化を好ましい範囲にとどめることが可能であれば、緩衝液を特に使う必要はない。水に溶解しにくい有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n−ヘキサン、イソオクタン、メチル イソブチル ケトン、メチルt−ブチル エーテルなどを用いることができる。あるいは、エタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の有機溶媒と水性媒体との混合系中で行うこともできる。
【0082】
2相系では、酵素活性物質は、そのまま、あるいは水や緩衝液の溶液として供給される。基質化合物を水、緩衝液またはエタノール等の水溶性溶媒に溶解させて反応系に供給することもできる。この場合は、酵素活性物質とともに単一相の反応系を構成することになる。その他、本発明の反応は、固定化酵素、膜リアクターなどを利用して行うことも可能である。なお、酵素活性物質と反応溶液の接触形態はこれらの具体例に限定されない。反応溶液とは、基質を酵素活性の発現に望ましい環境を与える適当な溶媒に溶解したものである。
このようなトロピノン還元酵素−I活性を有する酵素活性物質による酵素反応は、以下の条件で行うことができる。
・基質濃度(反応溶液に対する重量割合):好ましくは0.01〜50重量%、さらに好ましくは、0.1〜30重量%
・反応温度:好ましくは4〜60℃、さらに好ましくは25〜40℃
・pH:好ましくは4〜9、さらに好ましくは6.5〜8.5
【0083】
反応系には必要に応じて補酵素NADP+またはNADPHを0.001mM〜100mM、好ましくは、0.01〜10mM添加することができる。また、基質は反応開始時に一括して添加するか、または連続的もしくは非連続的に添加することができる。
【0084】
NADPHの再生反応用の化合物は、基質であるベンゾイルホルムアミド誘導体(B)に対して、モル比でたとえば、好ましくは0.1〜20倍、さらに好ましくは0.5〜5倍の量を添加することができる。またNADPH再生反応用の酵素は、トロピノン還元酵素−Iに比較して酵素活性で好ましくは0.1〜100倍、さらに好ましくは0.5〜20倍程度添加することができる。以下にNADPHの再生反応用の化合物と、当該化合物を利用してNADPHを再生する酵素の組み合せの一例を示す。
【0085】
グルコース(グルコース脱水素酵素)
ギ酸(ギ酸脱水素酵素)
エタノールまたは2−プロパノール(アルコール脱水素酵素)
L−グルタミン酸(グルタミン酸脱水素酵素)
L−リンゴ酸(リンゴ酸脱水素酵素、または有機酸脱水素酵素)
【0086】
ベンゾイルホルムアミド誘導体(B)の還元により生成する、(R)−マンデル酸アミド誘導体の精製は、菌体、タンパク質の遠心分離、膜処理等による分離、溶媒抽出、蒸留、結晶化等を適当に組み合わせることにより行うことができる。例えば、(R)−2−クロロマンデル酸アミドを含む反応液を遠心分離することにより菌体を除去し、限外濾過などにより除蛋白したのちに、酢酸エチルなどを用いて(R)−2−クロロマンデル酸アミドを抽出し、溶媒を減圧下に留去することにより精製することができる。
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
(2−クロロベンゾイルホルムアミドの合成)
【0087】
シアン化第一銅116.6g (1.3 mol)、アセトニトリル 80mL、トルエン150mLを、1L四つ口フラスコに加え、懸濁した。2−クロロベンゾイルクロライド175.0g(1.0 mol) を、攪拌下に10分かけて滴下し、滴下終了後、攪拌しながら88〜90℃で3時間加熱還流した。
【0088】
反応液を室温まで冷却後、濾過により不溶物を除き、濾液を減圧濃縮した。濃縮液を減圧蒸留 (30 mmHg, 138−140℃) して、薄黄色結晶として2−クロロベンゾイルシアナイドを98.5g得た。
【0089】
500mLの4つ口フラスコに2−クロロベンゾイルシアナイド25.0g(0.15 mol)、濃塩酸165mLを添加し懸濁した。この懸濁液を室温で24時間攪拌した。反応終了後、5Lの水中に投入し攪拌し、生成した白色結晶を濾過し、洗浄後、乾燥して、2−クロロベンゾイルホルムアミド 15.3gを得た。得られた2−クロロベンゾイルホルムアミドの1H−NMR、13C−NMR、IRおよび元素分析の測定結果を以下に示す。
【0090】
1H−NMR (500 MHz, CDCl3) δ 6.16 (brs, 1H) , 6.81 (brs, 1H) , 7.36−7.68 (m, 4H)
【0091】
13C−NMR (125 MHz, CDCl3) δ 126.6, 130.4, 131.1, 133.1, 133.2, 133.7, 162.7, 189.6
【0092】
IR (KBr) 1700, 1660, 1610, 1590 cm−1
【0093】
元素分析: C 52.28% (52.34%) , H3.31% (3.29%) , N 7.46% (7.63%) (理論値)
[実施例2]
(パン酵母による2−クロロベンゾイルホルムアミドの還元)
【0094】
生パン酵母 (オリエンタル酵母製)10g、水道水60mL、スクロース10gを200mLのメジュームビンに入れ、混合後、細かい泡が発生するまで室温で放置した。
【0095】
上記混合液に2−クロロベンゾイルホルムアミド0.814gを添加し、懸濁させた後、25℃で終夜放置した。翌日、さらにスクロースを5g添加し、混合後、さらに1日反応させ、2−クロロマンデル酸アミドを得た。
[実施例3]
(2−クロロマンデル酸アミドの定量)
【0096】
既存の2−クロロマンデル酸アミド、原料の2−クロロベンゾイルホルムアミドの定量は、HPLCにより行った。イナートシル ODS−2カラム (GLサイエンス製, 0.46 x 15 cm) を用いて、15% アセトニトリルを溶離液とし、流速1mL/min.、カラム温度は室温、検出は254nmにおける吸光度、の条件で分析した結果、2−クロロマンデル酸アミドは5.3分に、2−クロロベンゾイルホルムアミドは14.3分に溶出した。
【0097】
実施例2における反応終了液の分析は、反応液を遠心分離して上清を回収し、その上清を0.22μm膜により濾過した濾液を分析した。その結果、65%の反応収率で2−クロロマンデル酸アミドが生成していることを確認できた。
[実施例4]
(2−クロロマンデル酸アミドの抽出)
【0098】
実施例2により得られた反応終了液を全量遠心分離し、洗浄液を含め、95gの上清を得た。この上清に100mLの酢酸エチルを添加し、2−クロロマンデル酸アミドを抽出した。上相の酢酸エチル相と下相の水相を分液し、水相に更に酢酸エチル100mLを添加して再度、2−クロロマンデル酸アミドを抽出し、酢酸エチル相と水相を分液した。酢酸エチル相を混合し、飽和の塩化ナトリウム水で洗浄後、硫酸ナトリウムによる脱水の後、溶媒を減圧留去し、粗2−クロロマンデル酸アミド1.04gを得た。
[実施例5]
(2−クロロマンデル酸アミドの光学純度の測定)
【0099】
光学純度の測定は、CHIRALPAK AS−H (ダイセル化学製) を用いたHPLCにより行った。n−ヘキサン:エタノール=85:15を溶離液とし、流速1.0mL/min.、カラム温度25℃、ピーク検出は254nmにおけるUV吸収の測定により行った。
【0100】
上記条件に於いて、2−クロロマンデル酸アミドは、7.5分 (前成分) と10.1分 (後成分) に溶出した。実施例4により得られた2−クロロマンデル酸アミドの光学純度は95.3%ee (前成分) であった。また、得られた2−クロロマンデル酸アミドは、下記参考例1〜3の方法により、(R)体であることを確認した。
[参考例1]
(ラセミ体2−クロロマンデル酸アミドの合成)
【0101】
2−クロロベンズアルデヒド28g(0.2 mol)、シアン化ナトリウム10g(0.2 mol) 及び水40mLを加え、室温にて攪拌しながら亜硫酸水素ナトリウムの飽和水溶液60mLを徐々に加え、室温で2時間反応させた。反応混合物を酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル相を5%炭酸水素ナトリウム、水、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧濃縮して、2−クロロマンデロニトリル30gを得た。
【0102】
2−クロロマンデロニトリル16.7g(0.1 mol) を濃塩酸50mLに添加し、室温で攪拌して溶解した。室温で7日間攪拌した後に、水200mLを加え、酢酸エチル200mLで抽出した。酢酸エチル相を飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮した。濃縮して得られたカルボン酸をアセトン40mLに溶解し、10gの濃硫酸を−10℃以下にコントロールしながら徐々に滴下して、5分間反応させた。反応後、炭酸ナトリウム10%水溶液200mL中に注ぎ、析出した結晶を濾別した。濾過した結晶を冷水にてよく洗浄後、乾燥し、200mLの液体アンモニアに添加し、一晩反応後、室温にてアンモニアを除き、析出した結晶をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、ラセミ体2−クロロマンデル酸アミド5.5gを得た。
[参考例2]
((R)−2−クロロマンデル酸の合成)
【0103】
ロイコノストック・メセンテロイデス・サブスピーシーズ・デキストラニカム(Leuconostoc mesenteroides subsp. dextranicum)を1LのMRS培地(Lactobacilli MRS broth、DifcoLaboratories製)を用いて培養し、菌体を調製した。1%の2−クロロフェニルグリオキシル酸および1%グルコースを含む100mMリン酸バッファー(pH 7.0)1Lを加え、30℃、48時間振とう反応した。
【0104】
反応液を遠心分離することによって除菌し、得られた上清に酸を添加し、pHを2以下にしたのち、酢酸エチルにより反応液中の(R)−2−クロロマンデル酸を抽出した。
【0105】
酢酸エチルをエバポレーターにより濃縮し、低温に放置することによりは、(R)−2−クロロマンデル酸を結晶として分離した。
【0106】
得られれた(R)−2−クロロマンデル酸の光学純度を、ダイセル化学工業株式会社製キラルセル OJ−H(CHIRALCEL OJ−H 4.6mm x 150mm)を用い、n−ヘキサン:イソプロパノール:トリフルオロ酢酸 =85:15:0.1の溶離液、流速1.5mL/min、254nmにおけるUV吸収を検出して測定した結果、99%ee以上のR体であった。
[参考例3]
((R)−2−クロロマンデル酸アミドの合成)
【0107】
(R)−2−クロロマンデル酸15.0g (80.4 mmol)をメタノール100mLに溶解し、硫酸0.78gを加え、75℃のオイルバス中で2.5時間還流させた。反応液を冷却後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液14.4mLを入れたナスフラスコに、反応液を一気に移液した。反応液中のメタノールをエバポレーターで留去し、酢酸エチル140mLで(R)−2−クロロマンデル酸メチルを抽出した。酢酸エチル相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターで減圧濃縮し、粗(R)−2−クロロマンデル酸メチルを得た。
【0108】
得られた粗(R)−2−クロロマンデル酸メチル15.0gに、28%−アンモニア水100mLを添加し、室温下で撹拌しながら、均一溶液になるまでメタノールを添加した。40℃で(R)−2−クロロマンデル酸メチルが消失するまで撹拌し、エバポレーターでメタノールを留去後、生成した(R)−2−クロロマンデル酸アミドを酢酸エチルで抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターで減圧濃縮し、粗(R)−2−クロロマンデル酸アミドを得た。
【0109】
粗(R)−2−クロロマンデル酸アミド10.8gをトルエンとメタノールを加えて、加熱して均一溶液にし、室温まで冷却後、終夜撹拌し、析出した結晶を濾別し、精製(R)−2−クロロマンデル酸アミド6.46gを得た。得られた(R)−2−クロロマンデル酸アミドを実施例5の方法により分析した結果、99%ee以上の前成分であったことから、実施例4で得られた2−クロロマンデル酸アミドが(R)体であることが確認できた。また、得られた(R)−2−クロロマンデル酸アミドの比旋光度は、[α]D20 = −91.4 (c=1.12, EtOH) であった。
[実施例6]
(トロピノン還元酵素の大腸菌による生産)
【0110】
トロピノン還元酵素を発現するプラスミドpSG−DSR1、あるいは、pSG−HNR1(特願2002−152955) で形質転換された大腸菌JM109株をアンピシリンを含む液体LB培地で終夜30℃培養し、0.1mM IPTGを加え、さらに4時間培養を行った。
【0111】
菌体を遠心分離により集菌した後、0.02% 2−メルカプトエタノール、2mM PMSF、10%グリセリンを含む50mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.5)に懸濁し、密閉式超音波破砕装置UCD−200TM(コスモバイオ製)を用いて3分間処理することで、菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離し、その上清を菌体抽出液中として回収した。
[実施例7]
(2−クロロベンゾイルギ酸アミドの還元活性測定)
【0112】
実施例6で調製したトロピノン還元酵素(DsTR1およびHnTR1)にトロピノンおよび2−クロロベンゾイルギ酸アミドを作用させ、その還元活性を測定した。還元活性の測定は、次のようにして確認した。
【0113】
還元活性測定法;50mM リン酸カリウム緩衝液(pH 6.5)、0.2mM NADPH及び酵素を含む反応液中に、基質(1mM 2−クロロベンゾイルギ酸アミドあるいは4mM トロピノン)を加えて30℃で反応させ、NADPHの減少にともなう340 nmの吸光度の減少を測定する。1Uは、1分間に1μmolのNADPHの減少を触媒する酵素量とした。その還元反応の活性をトロピノンの還元を100とした相対活性で表し、表1に示した。
【表1】
【0114】
[実施例8]
(トロピノン還元酵素による(R)−2−クロロマンデルアミドの生産)
200mMリン酸カリウム緩衝液(pH 6.5)、1mM NADP+、1Uトロピノン還元酵素(DsTR1あるいはHnTR1)、100mM グルコース、2U グルコース脱水素酵素(和光純薬製)、50mM 2−クロロベンゾイルギ酸アミドを含む反応液中で、30℃で終夜反応させた。生成した2−クロロマンデル酸アミドは、実施例3及び5にしたがって定量および光学純度の測定を行なった。その結果、DsTR1、HnTR1何れにおいても生成した2−クロロマンデル酸アミドは、99%ee以上のR体であった。また、反応収率は100%であった。
【0115】
[実施例9]
(pSG−DSR1で形質転換した大腸菌HB101による(R)−2−クロロマンデル酸アミドの製造)
pSG−DSR1で形質転換された大腸菌HB101株をアンピシリンを含む20mLの液体LB培地で終夜30℃培養し、0.1mM IPTGを加え、さらに4時間培養を行った。菌体を遠心分離により集菌した後、109mM 2−クロロベンゾイルギ酸アミド、164mMグルコースを含む500mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)5mLに懸濁し、終夜30℃で振とう反応を行った。その結果、生成した(R)−2−クロロマンデル酸アミドの光学純度は99%ee以上で、反応収率は100%であった。
【0116】
【発明の効果】
本発明に係る(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法によれば、工業的に利用可能な方法で、高い光学純度で(R)−マンデル酸アミド誘導体を得ることができる。特に、本発明に係る(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法は、(R)−2−クロロマンデル酸アミドを生産する方法として有用である。また本発明は、(R)−2−クロロマンデル酸アミドの原料となる2−クロロベンゾイルホルムアミドを提供するものである。
【0117】
【配列表】
Claims (13)
- 下記一般式(II)(X1、X2は、水素、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、ニトロ基、及びスルホニル基からなる群から選ばれる基を示し、X1、X2は、互いに同一であっても異なってもよいが同時に水素であることはない。Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、ニトロ基、及びスルホニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、式(II)中のベンゼン環上の3位、4位、5位が、n個 (0から3の整数)のRにより置換されていることを意味する。)で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体(A)にサッカロマイセス属酵母を作用させ、下記一般式(III)(X1、 X2、 R、 nは、前記一般式(II)中のX1、 X2、 R、 nと同じである。) で表される(R)−マンデル酸アミド誘導体を得る、(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法。
- 前記一般式(II)で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体(A)が、2−クロロベンゾイルホルムアミドであることを特徴とする請求項2に記載の(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法。
- 前記サッカロマイセス属酵母が、パン酵母であることを特徴とする請求項2または3に記載の(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法。
- 下記一般式(IV)(Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていても良いヒドロキシル基、ニトロ基、及びスルホニル基からなる群から選ばれ少なくとも1種を示し、nは0から5の整数を示す。)で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体(B)に、トロピノン還元酵素−I活性を有する酵素活性物質を作用させ、下記一般式(V)(Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていても良いヒドロキシル基、ニトロ基、及びスルホニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種を示し、式(IV)中のベンゼン環上の2位、3位、4位、5位および/または6位が、n個(nは0から5の整数)のRにより置換されていることを意味する。)で表される(R)−マンデル酸アミド誘導体を得る、(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法。
- 前記一般式(IV)で表されるベンゾイルホルムアミド誘導体(B)が、式(IV)中のベンゼン環上の2位および/または6位に置換基Rを有することを特徴とする請求項5に記載の(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法。
- 前記酵素活性物質が、Datura属、またはHyoscyamus属に属する植物に由来する酵素活性物質であることを特徴とする請求項5または6に記載の(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法。
- 前記Datura属に属する植物が、Datura stramoniumであることを特徴とする請求項7に記載の(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法。
- 前記Hyoscyamus属に属する植物が、Hyoscyamus nigerであることを特徴とする請求項7に記載の(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法。
- 前記酵素活性物質が、トロピノン還元酵素−IをコードするDNAを含むベクターにより形質転換された形質転換体、またはその処理物であることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法。
- 前記ベクターが、更に酸化型補酵素を還元型補酵素に再生する酵素をコードするDNAを共に含むことを特徴とする請求項10に記載の(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法。
- 前記酸化型補酵素を還元型補酵素に再生する酵素が、グルコース脱水素酵素であることを特徴とする請求項11に記載の(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法。
- 前記グルコース脱水素酵素が、Bacillus subtilis由来であることを特徴とする請求項12に記載の(R)−マンデル酸アミド誘導体の製造方法。
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