JP2005533497A - 2相のアルコールデヒドロゲナーゼをベースとする共役酵素反応系 - Google Patents

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Abstract

本方法は、有機相と水相とから成る2相系で実施される共役酵素反応系に関する。該系は補因子−依存性の酵素と共に機能し、その際、補因子は酵素により連続的に再生される。鍵酵素はアルコールデヒドロゲナーゼである。

Description

本発明は、2相を有する溶剤混合物中で実施されることを特徴とする、酵素と共に機能する共役反応系に関する。殊に本発明は、同系中での、有機化合物の補因子−依存性の酵素的形質転換、及び、酵素的補因子再生を含む反応系に関する。
生体触媒を用いた、光学活性有機化合物、例えばアルコール及びアミノ酸の単離はますます重要となっている。2つのデヒドロゲナーゼと補因子再生とを組み合わせた使用は、前記化合物の大規模な工業的合成のための方法であることが証明された(DE19753350)。
Figure 2005533497
NAD−依存性のギ酸デヒドロゲナーゼを用いて、トリメチルピルベートの還元アミノ化によりL−偽性ロイシン(L-pseudoleucine)にする場合のNADHのin situの再生(Bommarius et al. Tetrahedron Asymmetry 1995, 6, 2851-2888)。
その触媒特性及び有効性の他に、水性媒体中で有効に使用される生体触媒は、更に、多数の合成金属含有触媒とは異なり、金属含有供給材料、殊に、重金属を含有するために毒性である供給材料を使用しなくてもよいという利点を有する。不斉還元において、高価であり、更に例えばボランのように有害である還元剤も使用しなくてよい。
しかしながら、水溶性の低い基質を変換する際には問題が生じる。水溶性の低い生成物に関しても同様の問題が存在する。これは特に上記概念による光学活性アルコールの製造において言えることであり、それというのも、出発化合物として必要なケトンが、スキーム1で使用されているα−ケト酸よりも明らかに低い溶解性を示すためである。考え得る解決法の1つは、原則的に、極性有機溶剤中又はその水溶液中での生体触媒による還元の実現であろう。この場合、酵素及び基質の双方、並びに場合により生成物は可溶性であるべきである。しかしながら、有機溶剤の直接の存在の一般的な欠点とは、この条件下で一般的に生じる、酵素活性の相当の減少である(例えばAnderson et al., Biotechnol. Bioeng.. 1998, 57, 79-86を参照のこと)。厳密にはギ酸デヒドロゲナーゼは、及び殊に、従来工業規模で使用されている唯一のNADH再生酵素でありかつ市販量で入手可能である、カンジダ ボイジニイから誘導されたFDH又はそれから誘導された突然変異体は、残念ながら有機溶剤に対して高い感受性を示す(EP1211316)。これは、それぞれ10体積%の補足的な量の有機溶剤成分を用いてDMSO、スルホラン、MTBE、アセトン、イソプロパノール及びエタノール等を使用する比較例1〜8にも示されている(図1を参照のこと)。有機溶剤の存在下でのカンジダ ボイジニイから誘導されたギ酸デヒドロゲナーゼの安定化に関する上記問題を解決するために、種々のアプローチが公知であり、例えば界面活性物質を用いた界面活性剤の付加的使用による反応の実現は公知である。しかしながら、約40分の1(!)に低下した反応速度、及びまた、生じるギ酸デヒドロゲナーゼの阻害(B. Orlich et al., Biotechnol. Bioeng. 1999, 65, 357-362)は、この場合不利であることが判明した。著者は、更に、アルコールデヒドロゲナーゼの低い安定性のために、マイクロエマルションのこの条件下での還元処理は非経済的であると記している。水相及び/又は有機相の存在下での反応部位としてリオトロピック中間相が選択されたEP340744に記載された方法に対しても、原則的には同様のことが言える。
生体触媒反応を実現するための他の基本的な可能性は、有機溶剤中での固定化酵素の適用、又は、水と水混和性有機溶剤とからなる均質溶液中での酵素の使用である。しかしながら、有機溶剤と酵素との直接接触が生じる上記技術を用いた成功は、少数の酵素クラス、殊にヒドロラーゼに限定されている。例えば、DE4436149には、「有機溶剤(水混和性又は非水混和性)の直接の存在が、ヒドロラーゼのクラスに属する少数の酵素によってのみ許容される」ことが記載されている。とかくするうちに他の酵素クラスからの少数の他の例が知られてきてはいるものの(特にオキシニトリラーゼ及び酵母菌から誘導されたFDH)、DE4436149には、大多数の酵素に関する有効性を引き続き持ち続けることが記載されている。更に、カンジダ ボイジニイから誘導されたFDHの効果的な固定化は公知でない。更に、固定化自体には、固定化工程及び固定化材料のために付加的な費用が付随する。
従って、酵素の不活性化又は変性の危険の理由により、有機溶剤の存在を回避する方法が工業的に開発されてきた。例えばDE4436149には、生成物を、反応溶液から、生成物透過膜、殊に疎水性膜を通じて有機溶剤中へと抽出する方法が記載されている。しかしながら前記方法は、撹拌槽型反応器中での標準的な方法と比較して技術的に明らかに複雑であり;更にまた、必要な有機膜は付加的な費用の要因である。更に、前記方法は連続的方法にのみ適当である。更に、前記方法を用いて達成可能な空時収率が比較的低いことは不利である。例えば、アセトフェノンの還元の際には、たった88g/(L*d)の空時収率が得られるに過ぎない(S. Rissom et al., Tetrahedron: Asymmetry 1999, 10, 923-928)。これに関連して、アセトフェノン自体は比較的良好な水溶性ケトンであるが、極めて類似した置換アセトフェノンケトン及び関連するケトンは非常により低い溶解性を有しているため、典型的な疎水性ケトンに関する空時収率は明らかにより低いはずであることに留意しなければならない。上記の考慮すべき欠点にもかかわらず、上記方法は従来、単離された酵素を用いた水溶性の低いケトンの生体触媒による不斉還元のための有利な方法であると考えられてきた(A. Liese, K. Seelbach, C. Wandrey, Industrial Biotransformations, Wiley-VCH Verlag, Weinheim, 2000, 第103-106頁も参照のこと)。
Tien Van Nguyen氏による博士論文(Rheinisch-Westfaelische Technische Hochschule Aachen, 1998)には、特に、p−クロロアセトフェノンの還元のための、ヘプタン/水溶剤系中のアルコールデヒドロゲナーゼ、NADH、ギ酸デヒドロゲナーゼから成る反応系が記載されている。ここでは、基質は各場合において10ミリモル/溶剤の全体積(=有機溶剤及び水性分の体積の合計)Lの濃度で使用された。結果によれば、前記基質濃度以下のみが、生成物の受容可能な収率を得ることを可能にする。しかしながら、10mM以下という基質濃度は工業的適用のためには到底不十分である。これから得られる空時収率は工業的適用のためにはあまりにも低すぎるであろう。
より高い基質濃度での問題点に関するT. N. Nguyenによる上記評価は、図らずも他の多数の刊行物においても確認され、これにより、例えば膜を使用することによる上記の解決の試みがもたらされた。
更に、Andersenらは、製薬学的活性物質の生体触媒を用いた製造に関する彼らの論文の範囲内で、より高い基質濃度での(一般的に期待される)他の欠点、即ち毒性効果を指摘し、これは厳密には疎水性アルコールの場合に広く生じる。上記論文(B. A. Anderson et al., J. Am. Chem. Soc. 1995, 117, 12358-12359)には、 −活性試験とは対照的に− 合成スケールでの、即ち「受容可能な基質濃度」を用いた反応は相当の毒性効果の結果として問題が多いことが判明したと記載されている。この場合上記効果は、細胞中に「固定化」された酵素を用いても認められ、更に、水溶液中でも観察された。従って予想通り、「遊離」単離酵素を使用した場合に、かつ有機溶剤の存在下では、より高い基質濃度での相応する阻害が高められた程度で生じるはずである。
従って、要約すると、現在では、上記に挙げられた欠点を回避するのに役立ち、かつ、工業的規模で水溶性の低い基質を酵素によって製造することを可能にする方法は公知でないことに注目することができる。
従って本発明の課題は、どの様にして、殊に、水溶性の低い有機化合物を、工業的規模での変換の適用が経済的でかつ環境学的に有利な条件下で行われるのに十分な程度で、共役補因子−依存性の酵素的変換に用いることができるようになるのかについての可能性を明記することであった。殊に、課題の1つは、そのような方法が水溶性の低いケトンの還元のために適当であるべきであるということであった。
上記課題は、請求項に定義された方法で達成される。請求項1〜10は、本発明により機能する反応系に関する。請求項11は装置の特許保護を請求するものである。請求項12は本発明により運転される方法に関し、その一方で請求項13及び14は本発明による反応系の有利な使用に関するものである。
水相が液体有機相と接触しており、有機化合物が、溶剤の全体積(=有機溶剤及び水性分の体積の合計)L当たり>25mMの濃度で存在する、2相溶剤系中での、アルコールデヒドロゲナーゼを用いた有機化合物の補因子−依存性の酵素的形質転換及び補因子の酵素的再生を有する共役酵素反応系が入手可能となるという事実により、殊に驚異的であり、予見不可能でありかつ本発明によれば殊に有利である方法で、上記課題に対する解決が実現される。公知技術から導き出すことのできる見解とは異なり、驚異的にも、工業的規模のために十分である濃度での酵素の1つの溶剤に基づき、有機溶剤の存在にもかかわらず、共役酵素反応系が活性の損失なく機能することができるようにすることが可能である。
反応系中で使用される有機溶剤は、存在する水相と、2つの別個の相を形成することが予定されている。この要求の範囲内で、当業者は原則的に有機溶剤を自由に選択することができる。しかしながら、有機相として、出来る限り低い水溶性(logP値≧3、有利に≧3.1、更に有利に≧3.2等)を有する溶剤を選択する場合に有利であることが判明した。有機溶剤が水溶性の低い反応混合物を受容することも同時に予定されているため、更に、上記の溶剤が、使用する有機化合物に関して出来る限り高い溶解度を有することも重要である。反応系中で優先的に使用することのできるそのような型の有機溶剤は、与えられた反応条件下で液体である芳香族又は脂肪族炭化水素である。殊に、トルエン、キシレン、ベンゼン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン及びその分枝鎖異性体が極めて殊に有利である。ハロゲン化炭化水素を使用することもできる(CHCl、CHCl、クロロベンゼン等)。
有機溶剤と水性分との量比は任意に選択することができる。有機溶剤は、溶剤の全体積(=有機溶剤及び水性分の体積の合計)に対して5〜80体積%、有利に10〜60体積%、殊に有利に約20〜50体積%の量で使用される。
公知技術において提案されているアプローチ、即ち、界面活性剤を酵素反応混合物に添加して酵素形質転換を促進し、その際、反応の進行における相転移を最小化するというアプローチとは異なり、本発明は、系が界面活性剤を含有していない場合に、本発明による反応系の使用が殊にうまく進行するという証拠を提供する。これに関連して、”界面活性剤”という用語は、ミセル構造の形成又は液−液相境界での表面張力の低下が可能である全ての物質を指すと解釈される。
既に示されたように、基質が反応系中で使用されるところの濃度は、経済的観点から有利である変換を行うことができるようなものであるべきである。従って、有機化合物は、反応の開始前に有利に、溶剤の全体積(=有機溶剤及び水性分の体積の合計)L当たり、>25mM、有利に>100mM、殊に有利に>200mM、極めて殊に有利に>500mMの濃度で存在すべきである。濃度に関する上限は、当然のことながら反応の実行可能性の保証により構成され;殊に反応混合物の撹拌可能性は全ての場合において得られるべきである。しかしながら、基質又は生成物に関する飽和限界を上回って処理することも有利であり得る。
補因子は当業者に公知である(Enzyme Catalysis in Organic Synthesis, Ed. :K. Drauz, H. Waldmann, 1995, Vol I, p.14, VCH)。触媒すべきレドックス反応に関して、考え得るアルコールデヒドロゲナーゼはここでは有利に、補因子として、分子、例えばNAD、NADH、NADPH又はNADPを水素キャリアとして利用する。
上記共役酵素反応系は、本発明によれば、ケト基がアルコール基に変換される、当業者によりこの目的のために考えられる全ての酵素反応において使用することができる。しかしながら上記の通り、酸化還元酵素反応は有利である。本発明により使用されるアルコールデヒドロゲナーゼは、有利に、生物体ロドコッカス・エリスロポリス(S−ADH)又は乳酸菌ケフィア(R−ADH)に由来する(Nguyen Doctoral Thesis, Aachen, 1998)。
使用される補因子を再生する酵素は、原則的に、使用される補因子に依存するが、一方では酸化又は還元すべき補基質にも依存する。Enzyme Catalysis in Organic Synthesis, Ed.:K. Drauz, H. Waldmann, 1995, Vol I, VCH, p. 721には、NAD(P)の再生のための多数の酵素が挙げられている。上記理由のために、商業的に重要でありかつ大規模に入手可能であり、かつ現在アミノ酸の合成のために使用されているいわゆるギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH、スキーム1)が有利に使用される。従ってこれは補因子の再生のために優先的に使用されるべきである。極めて殊に有利に、FDHは生物体カンジダ ボイジニイに由来する。これの更に進化した突然変異体を使用することもできる。(DE19753350)。この場合、C.ボイジニイから誘導されたギ酸デヒドロゲナーゼが、観察された有機溶剤に対する高い不安定性にもかかわらず(実験の部における比較例1を参照のこと)、前記条件下で効果的に使用可能であるという事実は殊に驚異的である。例えば乳酸菌ケフィア又は乳酸短杆菌から誘導されたいわゆるNADHオキシダーゼは、同様にNADHの再生のために使用することができる。
次の進展において、本発明は、本発明による反応系を有する有機化合物の形質転換のための装置に関する。有利に使用される装置は、例えば、撹拌槽又は撹拌槽カスケード、又は、バッチ操作でも連続的にも操作可能な膜型反応器である。本発明の範囲内で、「膜型反応器」という用語は、触媒が反応器中に閉じ込められ、他方で低分子量の物質が反応器に供給されるか或いは反応器を去ることができる、全ての反応容器であると理解される。この場合、膜は、直接に反応室中に組み込まれていてよいか又は外側で別の濾過モジュール中に組み込まれていてよく、この場合反応溶液は、連続的にか又は断続的に濾過モジュールを貫流し、残留物は反応器中に返送される。適当な実施態様は、特にWO98/22415及びWandrey et al. in Jahrbuch 1998, Verfahrenstechnik and Chemieingenieurwesen, VDI 第151頁以降; Wandrey et al. in Applied Homogeneous Catalysis with Organometallic Compounds, 第2巻, VCH 1996, 第832頁以降; Kragl et al., Angew. Chem. 1996, 6, 第684頁以降に記載されている。操作のバッチモード及び半連続モードに加えて前記装置内において可能である操作の連続モードは、所望の通りに、クロスフロー濾過モード(図3)か又はデッドエンド濾過(図2)の形で実行することができる。上記処理変法はどちらも原則的に公知技術において記載されている(Engineering Processes for Bioseparations, Ed.: L.R. Weatherley, Heinemann, 1994, 135-165; Wandrey et al.. Tetrahedron Asymmetry 1999, 10, 923-928)。
本発明の次の進展は、本発明による反応系を適用することによる有機化合物の酵素的形質転換のための方法に関する。前記方法は有利に、鏡像異性体が富化された有機化合物、有利にキラルアルコールの製造を含む方法である。前記方法の設計は、上記の反応系と以下に示す実施例とを基にして、当業者の自由裁量で行うことができる。所定の境界条件下で、その他の点で酵素変換のために公知である条件が適切に設定される。
本発明の次の観点は、有機化合物の酵素的形質転換のための、又は有機化合物、有利にアルコールの判定又は分析のための方法における、本発明による反応系の使用にも関する。更に有利には、本発明による反応系は上記の通り、鏡像異性体が富化された有機化合物、有利にアルコールの製造のための方法において使用される。
”共役酵素系”という表現は、本発明によれば、有機化合物の酵素的形質転換が補因子の消費を条件として生じ、第二の酵素系により補因子がin situで再生されることを表すものであると解釈される。結果として、これにより高価な補因子の使用の低下がもたらされる。
本発明は、アルコールデヒドロゲナーゼ/NADH/FDH/ギ酸系により提供される実施例を基に解明され得る。アルコールの不斉合成は、前記反応系を用いて、相応するケトンから出発して実施した。
Figure 2005533497
反応混合物の処理を、MtBEを用いた抽出及び蒸発による有機相の濃縮により実施した。相応するアルコールが、この方法で、装置の点で極めて単純な方法で、変換率69%及びエナンチオ選択率99%で得られた(実施例3)。
しかしながら、他のケトンを出発材料として使用した場合、傑出したエナンチオ選択率が得られた。例えば、上記反応条件下でのフェノキシアセトンの還元により、定量的に>99.8%eeのエナンチオ純粋生成物が得られる(実施例4)。
しかしながら、本発明による反応系は更に、立体的に要求の多いケトンにも適当である。これを、α,m−ジクロロアセトフェノンにより提供される実施例を基に例示的に記載する。前記ケトンは、メチル基と芳香環の双方で塩素原子により置換されている。ここで、2相系中での生体触媒還元により、またもや>99.2%という傑出したエナンチオ選択率で、所望の生成物である2−クロロ−1−(m−クロロフェニル)エタノールが得られる(実施例5)。ここで、変換率は約77%である。
実施例3〜5の相応する実験をスキーム2に示す。
前記の高い変換率及びエナンチオ選択率は、特に、有機溶剤の存在によって、しばしば、(低い変換率を伴う)酵素活性の低下のみならず、(エナンチオ選択率の低下を伴う)立体特異性に関する酵素特性の変化が認められるという理由のために驚異的である。
しかしながらこのような状況において、高められた基質濃度での実験結果は殊に驚異的であることが判明した。上記実験はp−クロロアセトフェノンをモデル基質として用いて実施したものである。基質濃度10mM(この基質濃度は公知技術からの実験の場合の濃度に相当する)での上記実験において69%の変換率が達成された場合(実施例3)、この変換率は、 −高められた基質濃度では、阻害等の理由から、低下された収率のみが達成できるに過ぎないという広く普及した見解に反して− このタイプの反応を用いて高めることができ、今や、溶剤(=有機溶剤及び水性溶剤)の全体積に対する濃度>25mMから出発して、より高い変換率(40mMでの)75%及び(100mMでの)74%を達成することができた(実施例6、7)。
これに関連して、濃度100mMでの高い変換率(実施例7)は殊に言及に値する。
種々の基質濃度での酵素的還元に関する実験(実施例3、6、7)をスキーム3及び図4に図示する。
Figure 2005533497
他の実験において、種々の溶剤系中での、C.ボイジニイから誘導されたFDHの長期安定性を調査した。殊に上記の炭化水素成分を使用する場合、2相系中でのFDHの迅速な不活性化を招く大抵の有機溶剤とは異なり(比較例1を参照のこと)、ギ酸デヒドロゲナーゼ、特にC.ボイジニイから誘導されたFDHの優れた安定特性は、数日後であってもまだ観察された。例えばアセトン又はDMSOの存在下では、酵素活性は24時間以内にそれぞれ35%又は66%低下するのに対して、20体積%ヘキサンの存在下では、3日後であってもまだ90%の酵素活性を記録することができる。n−ヘキサンを用いた結果を図1にグラフを用いて再現し、かつ第3表に示す。他の有機溶剤を用いた比較例を同様に図1に記録する。
上記方法の主要な利点はその単純性にある。例えば、複雑な処理工程は含まれておらず、処理をバッチ型反応器中でも連続的にもどちらでも実施することができる。同様に、先行の処理とは異なり、水性媒体を有機媒体から分離する特別な膜は不必要である。幾つかの先行の処理において必要である界面活性剤の添加も、この方法を用いれば不要となる。他の主要な利点は、技術的に重要な基質濃度である>25mMでの、光学活性アルコールの酵素を用いた製造を構築する新規の可能性にある。上記利点は明らかに公知技術からの導出は不可能であった。
”鏡像異性体が富化された”という用語は、一方の光学対掌体がもう一方の対掌体との混合物において>50モル%で存在することを表す。
分子中に立体中心が1つ存在する場合、表される構造はあり得る鏡像異性体の双方に関し、分子中に立体中心が1つを上回って存在する場合、表される構造はあり得る全てのジアステレオマーに関し、1つのジアステレオマーに関しては、それに含まれている当該の化合物のあり得る2種の鏡像異性体に関する。
生物体C.ボイジニイはAmerican Type Culture Collectionに番号ATCC32195として寄託され、公然に入手できる。
本明細書中で挙げた公知技術の刊行物は、開示により一緒に含まれるものと見なされる。
図の説明:
図1は、デッドエンド濾過を伴う膜型反応器を示す。基質1は、ポンプ2を介して、膜5を有する反応器チャンバ3に移される。溶剤の他に、触媒4、生成物6及び未反応基質1が撹拌運転反応器チャンバ中に配置される。
図2は、クロスフロー濾過を伴う膜型反応器を示す。基質7はここでポンプ8を介して、溶剤、触媒9及び生成物14も配置されている撹拌反応器チャンバ中に移される。ポンプ16を介して、溶剤の流れは、場合により存在する熱交換器12を介して、クロスフロー濾過セル15中に導かれる。ここで、低分子生成物14は膜13を介して分離される。
高分子触媒9は次いで溶剤の流れと共に、場合により再度熱交換器12を介して、場合によりバルブ11を介して、反応器10へと返送される。
実験の部:
実施例1(C.ボイジニイから誘導されたFDH(二重突然変異体:C23S/C262A)を用いた、FDH活性の比較例)
ギ酸ナトリウム2.72g(0.8モル/L)及びリン酸水素二カリウム三水和物1.14g(0.1モル/L)を秤量し、完全に脱塩したHO 40mL中に溶解させる。アンモニア溶液(25%)及びギ酸(100%)、又は相応する希釈溶液を用いて、溶液のpH値を8.2に調節する。その後、溶液を50mLメスフラスコ中に移し、完全に脱塩したHOで満たす。これとは別に、NAD三水和物71.7mg(4ミリモル/L)を秤量し、完全に脱塩したHO 約20mL中に溶解させる。アンモニア溶液(25%)及びギ酸(100%)、又は相応する希釈溶液を用いて、溶液のpH値を8.2に調節する。その後、溶液を25mLメスフラスコ中に移し、完全に脱塩したHOで満たす。引き続き、それぞれの場合において、基質溶液50μLとNADH溶液50μLとを、測定のために使用する1cmセル中で混合する。水中の有機溶剤の10%溶液(表を参照のこと)を溶剤として使用して酵素溶液10μLを添加した後、簡単に振盪し、セルを光度計中に配置し、データの記録を開始する。酵素溶液をまず測定の開始直前に添加する。C.ボイジニイから誘導されたFDH(二重突然変異体:C23S/C262A)の活性を、NADからNADHが形成される反応の光度検出により、所定の時間後に測定する。光度測定を、温度30℃、波長340nmで、測定時間15分で行った。結果を以下に第1表及び第2表に示す。
Figure 2005533497
Figure 2005533497
実施例2(FDH活性の測定)
活性の測定を実施例1の指示の通りに行ったが、但し、有機溶剤成分としてヘキサンを使用した。結果を以下に第3表に示す。
Figure 2005533497
実施例3(p−クロロアセトフェノンを用いた変換)
n−ヘプタン10mL中のp−クロロアセトフェノン(78.4mg;10mM)、ギ酸ナトリウム(50mM)及びNADH(2mM)とリン酸緩衝液40mLとから成る溶液に、(ロドコッカス・エリスロポリスから誘導された)アルコールデヒドロゲナーゼ10.1U及びギ酸デヒドロゲナーゼ(C.ボイジニイから誘導されたFDH、E.coli中で発現、二重突然変異体 C23S/C262A)10Uを添加する。生じた反応混合物を30℃で21時間撹拌する。引き続き、MTBE各25mLで3回抽出し、回収した有機相を硫酸ナトリウムを用いて乾燥させることにより処理を進行させる。真空中で溶剤を除去した後に得られる粗生成物を(H−NMR分光試験により)変換率及び(キラルGCにより)エナンチオ選択率に関して試験する。
変換率:69%
エナンチオ選択率:>99%ee
実施例4(フェノキシアセトンを用いた変換)
n−ヘプタン10mL中のフェノキシアセトン(76.0mg;10mM)、ギ酸ナトリウム(50mM)及びNADH(2mM)とリン酸緩衝液40mLとから成る溶液に、(ロドコッカス・エリスロポリスから誘導された)アルコールデヒドロゲナーゼ10.1U及びギ酸デヒドロゲナーゼ(C.ボイジニイから誘導されたFDH、E.coli中で発現、二重突然変異体 C23S/C262A)10Uを添加する。生じた反応混合物を30℃で21時間撹拌する。引き続き、MTBE各25mLで3回抽出し、回収した有機相を硫酸ナトリウムを用いて乾燥させることにより処理を進行させる。真空中で溶剤を除去した後に得られる粗生成物を(H−NMR分光試験により)変換率及び(キラルGCにより)エナンチオ選択率に関して試験する。
変換率:>95%
エナンチオ選択率:>99.8%ee
実施例5(2,3’−ジクロロアセトフェノンを用いた変換)
n−ヘプタン10mL中の2,3’−ジクロロアセトフェノン(102.7mg;10mM)、ギ酸ナトリウム(50mM)及びNADH(2mM)とリン酸緩衝液40mLとから成る溶液に、(ロドコッカス・エリスロポリスから誘導された)アルコールデヒドロゲナーゼ10.1U及びギ酸デヒドロゲナーゼ(C.ボイジニイから誘導されたFDH、E.coli中で発現、二重突然変異体 C23S/C262A)10Uを添加する。生じた反応混合物を30℃で21時間撹拌する。引き続き、MTBE各25mLで3回抽出し、回収した有機相を硫酸ナトリウムを用いて乾燥させることにより処理を進行させる。真空中で溶剤を除去した後に得られる粗生成物を(H−NMR分光試験により)変換率及び(キラルGCにより)エナンチオ選択率に関して試験する。
変換率:77%
エナンチオ選択率:>99.2%ee
実施例6(40mMでのp−クロロアセトフェノンを用いた変換)
n−ヘプタン2.5mL中のp−クロロアセトフェノン(78.4mg;10mM)、ギ酸ナトリウム(50mM)及びNADH(2mM)とリン酸緩衝液10mLとから成る溶液に、(ロドコッカス・エリスロポリスから誘導された)アルコールデヒドロゲナーゼ10.1U及びギ酸デヒドロゲナーゼ(C.ボイジニイから誘導されたFDH、E.coli中で発現、二重突然変異体 C23S/C262A)10Uを添加する。生じた反応混合物を30℃で21時間撹拌する。引き続き、MTBE各25mLで3回抽出し、回収した有機相を硫酸ナトリウムを用いて乾燥させることにより処理を進行させる。真空中で溶剤を除去した後に得られる粗生成物を(H−NMR分光試験により)変換率及び(キラルGCにより)エナンチオ選択率に関して試験する。
変換率:75%
実施例7(100mMでのp−クロロアセトフェノンを用いた変換)
n−ヘプタン1mL中のp−クロロアセトフェノン(78.4mg;10mM)、ギ酸ナトリウム(50mM)及びNADH(2mM)とリン酸緩衝液4mLとから成る溶液に、(ロドコッカス・エリスロポリスから誘導された)アルコールデヒドロゲナーゼ10.1U及びギ酸デヒドロゲナーゼ(C.ボイジニイから誘導されたFDH、E.coli中で発現、二重突然変異体 C23S/C262A)10Uを添加する。生じた反応混合物を30℃で21時間撹拌する。引き続き、MTBE各25mLで3回抽出し、回収した有機相を硫酸ナトリウムを用いて乾燥させることにより処理を進行させる。真空中で溶剤を除去した後に得られる粗生成物を(H−NMR分光試験により)変換率及び(キラルGCにより)エナンチオ選択率に関して試験する。
変換率:74%
FDHの活性を示すグラフ。 デッドエンド濾過を伴う膜型反応器を示す概略図。 クロスフロー濾過を伴う膜型反応器を示す概略図。 変換率を示すグラフ。
符号の説明
1 基質、2 ポンプ、3 チャンバ、4 触媒、5 膜、6 生成物、7 基質、8 ポンプ、9 触媒、10 反応器、11 バルブ、12 熱交換器、13 膜、14 生成物、15 クロスフロー濾過セル、16 ポンプ

Claims (14)

  1. 共役酵素反応系において、2相溶剤系中での、アルコールデヒドロゲナーゼを用いた有機化合物の補因子−依存性の酵素的形質転換及び補因子の酵素的再生を有し、その際、水相が液体有機相と接触しており、有機化合物が、溶剤の全体積L当たり>25mMの濃度で存在することを特徴とする共役酵素反応系。
  2. 使用される有機溶剤が、水中での出来る限り低い溶解度と、使用される有機化合物に関する出来る限り高い溶解度とを有する、請求項1記載の反応系。
  3. 反応条件下で液体である芳香族又は脂肪族炭化水素を有機溶剤として使用する、請求項1又は2記載の反応系。
  4. 有機溶剤が溶剤の全体積に対して5〜80体積%の量で存在している、請求項1から3までのいずれか1項記載の反応系。
  5. 系が界面活性剤を含有していない、請求項1から4までのいずれか1項記載の反応系。
  6. 有機化合物が反応の開始前に溶剤の全体積L当たり>100mMの濃度で存在している、請求項1から5までのいずれか1項記載の反応系。
  7. NADH又はNADPHが補因子として使用されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の反応系。
  8. 乳酸菌ケフィアから誘導されたアルコールデヒドロゲナーゼが有機化合物の形質転換のための酵素として使用されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の反応系。
  9. ロドコッカス・エリスロポリスから誘導されたアルコールデヒドロゲナーゼが、有機化合物の形質転換のための酵素として使用されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の反応系。
  10. 補因子の再生が、有利にカンジダ ボイジニイから誘導されたギ酸デヒドロゲナーゼ又はその突然変異体により行われている、請求項1から9までのいずれか1項記載の反応系。
  11. 請求項1から10までのいずれか1項記載の反応系を有する、有機化合物の形質転換のための装置。
  12. 有機化合物の酵素的形質転換のための方法において、請求項1から10までのいずれか1項記載の反応系を適用することを特徴とする、有機化合物の酵素的形質転換のための方法。
  13. 有機化合物の酵素的形質転換のための、又は有利にアルコールの判定又は分析のための、請求項1から10までのいずれか1項記載の反応系の使用。
  14. 鏡像異性体が富化された有機化合物、有利にアルコールを製造するための方法における、請求項13記載の使用。
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