JP4145996B2 - アクリル系粘着テープおよび経皮吸収製剤 - Google Patents

アクリル系粘着テープおよび経皮吸収製剤 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はアクリル系粘着テープおよびこれを用いた経皮吸収製剤に関し、詳しくは皮膚表面に対して優れた接着性を発揮できる架橋された粘着剤層を有するアクリル系粘着テープ、およびその粘着剤層に経皮吸収用薬物を含有して、この薬物を生体内に経皮投与させることによって、各種疾患の予防や治療を行うことができる経皮吸収製剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、薬物を皮膚面を通して生体内へ投与するための経皮吸収製剤としてハップ剤やテープ状の経皮吸収製剤などの皮膚面貼付型の外用剤が種々開発されており、これらの中で、特に、全身性の薬理作用を発揮する薬物を含有したテープ状の経皮吸収製剤が注目されている。
【0003】
このような実情の中で、ニトログリセリンやイソソルビドジニトレートなどの狭心症予防薬、各種ステロイド薬、非ステロイド薬、麻酔薬、抗高血圧薬などを経皮吸収用薬物として粘着剤中に含有させたテープ状の経皮吸収製剤が提案、開発され、一部は上市に至っている。これらの経皮吸収製剤はアクリル系や合成ゴム系の粘着剤に各種経皮吸収用薬物を混合したものであって、皮膚面に貼付するだけで薬物が皮膚面を通して持続的に体内に吸収されるものであり、優れた薬理作用を発揮するものである。
【0004】
しかしながら、これらの製剤は皮膚面に貼付する製剤であるために、長期間にわたる貼付では貼付部位の皮膚面に刺激などに起因するカブレなどの皮膚損傷を発生する可能性を有する製剤でもある。つまり、一般的な経皮吸収製剤は適用皮膚面に製剤を確実に固定させる目的で、通常、比較的強接着力を有する粘着剤を使用していたり、強接着力を有する粘着シートで製剤全体をオーバーコートし、このシートの接着力によって皮膚固定を行っている。
【0005】
ところが、このようにして皮膚面への接着性(密着性)を高めた場合、含有する薬物の皮膚移行性は全般的に向上するが、剥離除去する際に適用皮膚面の角質細胞に損傷を与えてしまい、特に、貼り替えながらの長期間連続貼付において顕著な皮膚刺激を生じる恐れがある。
【0006】
このように貼付型の経皮吸収製剤は、皮膚面に貼付して使用するものであるので、皮膚接着性(密着性)と皮膚低刺激性とのバランスを維持し、しかも含有する薬物の皮膚移行性や経皮吸収性を良好にする必要があり、これらの点を全て満足する経皮吸収製剤を開発することは今後の究極の課題でもある。
【0007】
そこで、この強接着に起因する皮膚刺激を低減する目的で、特開平3−220120号公報や特開平5−65223号公報、特開平5−65224号公報、特開平5−65460号公報に記載のような所謂、ゲル状の経皮吸収製剤が提案されている。この製剤はアクリル系粘着剤層中に、相溶性の高い油性の液体成分を比較的多量に含有させて粘着剤層にソフト感を付与したものであって、皮膚面に対する接着性と経皮吸収用薬物の溶解性を高めながら、皮膚面への貼付中は柔軟な粘着剤層によって皮膚刺激性が低減でき、使用後の剥離除去時には角質損傷を起こさずにスムースに剥離できるという画期的な経皮吸収製剤である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特開平3−220120号公報などの製剤は従来の経皮吸収製剤にない優れた効果を発揮するものであって、皮膚接着性や粘着剤層中への薬物の溶解性をある程度改善することはできるが、これらの両特性を充分に満足するには未だ改良の余地がある。
【0009】
さらに、特表平10−504552号公報や、特開平10−94595号公報には、酸性のポリマーと塩基性のポリマーとを混合したポリマー混合物に液状成分を配合した技術が提案されている。この技術は酸性ポリマーと塩基性ポリマーとの相互作用によって内部凝集力を付与するものであって、粘着剤層を架橋しないものである。しかしながら、架橋剤を用いずに疑似架橋的に内部凝集力を維持する場合には、添加できる液状成分の量には限界があり、通常は20重量%程度の液状成分しか含有させることができない。また、この程度の量では角質剥離などの皮膚損傷を充分に防止できないこともある。さらに、酸性ポリマーと塩基性ポリマーとは特性が大きく異なるので、配合量が多くなると相溶性が不充分になることもあり、その結果、薬物溶解性の低下を起こすこともある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、上記従来技術の課題を解決するべく更に検討を重ねた結果、相溶性に優れる特定の組成からなる共重合体を混合し、これに液状成分を配合すると共に、全体を架橋処理して粘着剤層を形成することによって、上記課題が解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明のアクリル系粘着テープは、支持体の片面に粘着剤層が形成されており、該粘着剤層は下記(A)〜(C)成分を含有すると共に、(A)成分と(B)成分の含有比率が1:0.5〜1:1.5であり、外部架橋剤によって架橋されてなることを特徴とするものである。
(A)カルボキシル基もしくはヒドロキシル基を含有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルを必須成分として共重合してなる共重合体。
(B)側鎖に塩構造を有さない窒素原子を有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルとを必須成分として共重合してなる共重合体。
(C)上記(A)成分および(B)成分と相溶する有機液状成分。
【0012】
さらに、本発明の経皮吸収製剤は、上記アクリル系粘着テープにおける粘着剤層中に、経皮吸収用薬物を含有させてなることを特徴とするものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明に用いる支持体としては、粘着剤層に含有される共重合体や有機液状成分、経皮吸収用薬物などが支持体中を通って背面から失われて含有量の低下を起こさないものが好ましい。具体的にはポリエステル、ナイロン、サラン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、サーリン、金属箔などの単独フィルムまたはこれらの積層フィルムなどを用いることができる。これらのうち支持体と後述する粘着剤層との間の接着力(投錨力)を良好とするために、支持体を上記材質からなる無孔のプラスチックフィルムと多孔質フィルムとの積層フィルムとすることが好ましい。この場合、粘着剤層は多孔質フィルム側に形成するようにすることが好ましい。
【0014】
このような多孔質フィルムとしては、粘着剤層との投錨力が向上するものが採用されるが、具体的には紙、織布、不織布、機械的に穿孔処理を施したシートなどが挙げられ、これらのうち取り扱い性などの点からは、特に紙、織布、不織布が好ましい。多孔質フィルムは投錨力向上、粘着テープや経皮吸収製剤全体の柔軟性および貼付操作性などの点から10〜200μm、プラスタータイプや粘着テープタイプのような薄手の製剤の場合には10〜100μmの範囲のものを採用する。
【0015】
また、多孔質フィルムとして織布や不織布を用いる場合、目付け量を5〜30g/m2 、好ましくは6〜15g/m2 とすることがよい。本発明において最も好適な支持体としては、1.5〜6μm厚のポリエステルフィルムと、目付量6〜12g/m2 のポリエステル製不織布との積層フィルムである。
【0016】
本発明のアクリル系粘着テープおよび経皮吸収製剤において上記支持体の片面に形成される粘着剤層は、複数種の特定のアクリル系共重合体(A成分およびB成分)と、有機液状成分(C成分)、および経皮吸収製剤の場合には経皮吸収用薬物を必須成分として含み、外部架橋剤によって架橋して適度な弾性を有する架橋構造体であり、所謂ゲル状の形態を有するものであって、適度な皮膚接着力と凝集力を備えたものである。本発明の粘着剤層が有する接着力は、例えば後述する測定方法においてベークライト板への接着力が40〜200g/24mm幅の値を示す。
【0017】
上記本発明における粘着剤層のベースポリマーとしてのA成分共重合体およびB成分共重合体は、後述する脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルなどの有機液状成分と相溶するものであって、適度な皮膚接着性と粘着剤層の保型性を有するものである。なお、一般的に粘着剤として用いられている天然ゴムや合成ゴムなどのゴム系粘着剤やシリコーン系の粘着剤では、脂肪酸エステルやモノグリセリドとの相溶性が充分ではなかったり、経皮吸収用薬物の溶解性や放出性が著しく低かったりするので、本発明にて用いることは好ましくない。また、このような粘着剤は本発明に用いるアクリル系共重合体と比べて架橋反応に関与する官能基量などの調整が難しく、また、再現性のある架橋処理を行いがたいという問題も有するので本発明に適したものとは云えないのである。
【0018】
まず、上記A成分としての共重合体は、カルボキシル基もしくはヒドロキシル基を含有する単量体と(メタ)アクリル酸エステルを必須成分として共重合することによって得ることができる。A成分の共重合体は粘着剤層に主に、粘着性や添加される有機液状成分との相溶性を向上させる成分として用いられる。
【0019】
上記カルボキシル基もしくはヒドロキシル基を含有する単量体としては、具体的には(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸や、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステルなどを用いることができる。これらの単量体は一種もしくは二種以上共重合することができるが、粘着特性としての接着性や凝集性、粘着剤層中に含有する経皮吸収用薬物の放出性、粘着剤層を架橋処理する際の反応性などの点から、A成分の共重合体中、2〜20重量%、好ましくは3〜10重量%の範囲となるように任意に設定することができる。
【0020】
さらに、上記A成分共重合体における(メタ)アクリル酸エステルとしては、粘着性の付与などの点から、炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることが好ましく、具体的にはアルキル基がブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシルなどの炭素数4〜13の直鎖アルキル基や分岐アルキル基などを有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることができ、これらは一種もしくは二種以上用いることができる。
【0021】
なお、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは上記例示のものに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮するのであれば、アルキル基以外のエステル化物や、炭素数1〜3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルや炭素数14以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを併用してもよいことは云うまでもない。
【0022】
次に、粘着剤層中に含有させるB成分としての共重合体は、側鎖に塩構造を有さない窒素原子を有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルとを必須成分として共重合することによって得ることができる。B成分の共重合体は粘着剤層に主に、薬物の溶解性や添加される有機液状成分の相溶性を向上させ、場合によっては粘着剤層に多少の凝集力の付与を行う成分として用いられる。
【0023】
側鎖の塩構造を有さない窒素原子を有する単量体としては、アミノ基、アルキルアミノ基、ピロリドン基、ピリジン基、イミダゾール基などを側鎖に有するアクリル系単量体もしくはビニル系単量体が好ましく、具体的にはアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレートなどの炭素数が1〜4のアルキル基を有するモノまたはジアルキルアミノ(メタ)アクリレート、N−ビニル−2−ピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールなどが挙げられる。これらの単量体は一種もしくは二種以上共重合することができるが、A成分の共重合体との相溶性や粘着特性の維持などの点から、B成分の共重合体中、10〜80重量%、好ましくは15〜65重量%の範囲となるように任意に設定することができる。
【0024】
なお、上記A成分およびB成分の共重合体には、本発明における各成分の特性を変化させない範囲で必要に応じて他の共重合性単量体を任意の量で共重合することもできる。
【0025】
このような共重合性単量体としては、例えばカルボキシル基((メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸など)や、ヒドロキシル基((メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステルなど)、スルホキシル基(例えばスチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸など)、アミノ基(例えば(メタ)アクリル酸アミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸tert−ブチルアミノエチルエステルなど)、アミド基(例えば(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミドなど)、アルコキシル基(例えば(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシジエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルエステルなど)などの官能基を側鎖に有する単量体が挙げられる。
【0026】
これら以外に共重合できる単量体としては、例えば(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロビオン酸ビニル、N−ビニル−2−ピロリドン、メチルビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルカプロラクタム、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリンなども用いることもできる。
【0027】
上記A成分およびB成分の共重合体のうち、最も好ましく用いることができるものとしては、A成分としてアクリル酸−2−エチルヘキシルエステルとアクリル酸との共重合体、B成分としてアクリル酸−2−エチルヘキシルエステルとN−ビニル−2−ピロリドンとの共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシルエステルとN−ビニル−2−ピロリドンとアクリル酸との共重合体、オイドラギッドE100(商品名、ローム社製、メタクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アミノアルキルエステルとの共重合体)などを用いることができる。なお、オイドラギッドRS(商品名、ローム社製)類は、塩構造体のために本発明においては充分な効果を発揮しないので用いることができないものである。
【0028】
また、本発明における上記A成分とB成分の含有比率は、1:0.5〜1:1.5であり、さらには1:0.7〜1:1.3とすることが望ましい。A成分の量が多すぎると薬物の溶解性の向上がしだいに期待できなくなる傾向を示し、B成分の量が多すぎると皮膚接着特性の向上がしだいに期待できなくなる傾向を示す。
【0029】
本発明において上記A成分およびB成分と共に粘着剤層中に含有させるC成分としての有機液状成分は、各成分と相溶性を有し、粘着剤層中に均一に溶解分散できるものであり、架橋された粘着剤層を可塑化させゲル状にして、ソフト感を付与するために重要な成分である。つまり、本発明ではこのC成分を含有させ、架橋ゲル化させることによって、本発明のアクリル系粘着テープや経皮吸収製剤を皮膚面から剥離するときに、粘着力(皮膚接着力)に起因する痛みや皮膚刺激性を低減できるのである。さらに、粘着剤層が上記のように可塑化されるので、経皮吸収製剤として経皮吸収用薬物を含有する場合、薬物のの自由拡散性が良好となるので、皮膚面上への放出性(皮膚移行性)も向上するようになる。
【0030】
このようなC成分としては、粘着剤層に対して可塑化作用を有するものであればよいが、経皮吸収製剤とした場合に含有する経皮吸収用薬物の経皮吸収性を向上させるための吸収促進作用を有するものを用いてもよい。
【0031】
このようなC成分としては、具体的にはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類、オリーブ油、ヒマシ油、スクワレン、ラノリンなどの油脂類、酢酸エチル、エチルアルコール、ジメチルデシルスルホキシド、メチルオクチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ドデシルピロリドン、イソソルビトールなどの有機溶媒、液状界面活性剤、ジイソプロピルアジペート、フタル酸エステル、ジエチルセバケート、クエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどの可塑剤、流動パラフィンなどの炭化水素類、エトキシ化ステアリルアルコール、グリセリン脂肪酸エステル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル、ラウリル酸エチル、N−メチルピロリドン、オレイン酸エチル、オレイン酸、アジピン酸ジイソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、1,3−ブタンジオールなどが挙げられ、これらのうち一種以上を配合して用いることができる。
【0032】
上記C成分の有機液状成分のうち、好ましい有機液状成分としては、脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステル(特には、モノグリセリド)が挙げられる。しかしながら、これらの脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルは、粘着剤層を可塑化する作用を発揮するものであればよいが、必要以上に炭素数の多い脂肪酸や少ない脂肪酸からなるものでは前記アクリル系共重合体との相溶性が悪くなったり、製剤を調製する際の加熱工程で揮散したりするおそれがある。また、分子内に二重結合を有する脂肪酸からなるものでは酸化分解などを生じて保存安定性に問題を生じることがある。さらに、本発明の経皮吸収製剤の場合は、単位面積あたりの経皮吸収用薬物の含有量が多いと製剤中で飽和溶解度以上の薬物が結晶するが、添加する脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルの種類によっては薬物の結晶析出を阻害したり、析出速度を遅くしたりすることがあり、得られる製剤の外観に不良を生じたり、保存安定性に悪影響を及ぼすことがある。
【0033】
よって、用いる脂肪酸エステルとしては、好ましくは炭素数が12〜16、さらに好ましくは12〜14の高級脂肪酸と炭素数が1〜4の低級1価アルコールからなる脂肪酸エステルが採用される。このような高級脂肪酸としては、好ましくはラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)であり、特にミリスチン酸を用いることがよい。また、低級1価アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールが挙げられ、これらは直鎖アルコールに限定されず分岐アルコールであってもよい。好ましくはイソプロピルアルコールが用いられる。従って、最も好ましい脂肪酸エステルは、ミリスチン酸イソプロピルである。
【0034】
一方、グリセリン脂肪酸エステルとしては炭素数が8〜10の高級脂肪酸とグリセリンからなるグリセリドが好ましい。このような高級脂肪酸としては、好ましくはカプリル酸(オクタン酸、C8)、ペラルゴン酸(ノナン酸、C9)、カプリン酸(デカン酸、C10)であり、特にカプリル酸を用いたカプリル酸モノグリセリドやジグリセリドやトリグリセリドである。
【0035】
これらC成分の含有量は、上記A成分とB成分との合計量1に対して、重量比で0.5〜1.5、好ましくは0.8〜1.5である。C成分の含有量がこの範囲を外れた場合には、実用的な皮膚接着性や低皮膚刺激性を得ることができず、また、経皮吸収用薬物の放出性(皮膚移行性)の点でも充分ではない。このような問題点は経皮吸収製剤としての製品の大きさ(面積)が小さいほど顕著に現れる。
【0036】
本発明のアクリル系粘着テープにおける粘着剤層は、上記A成分、B成分およびC成分を必須成分として含有するものであるが、これらの各成分を溶解、混合させる場合には、相溶させる必要があるので、イソプロピルアルコールやテトラヒドロフラン、アセトンなどの水にも油にも相溶する両親媒性の溶剤と、共重合体を溶解する酢酸エチルなどの疎水性溶剤を混合した溶媒にて混合する。混合割合は1:1程度とすることが好ましい。
【0037】
本発明では以上のように配合を行ったのち、外部架橋剤にて架橋処理を施して、所謂ゲル状態とし、含有する有機液状成分の流出を防止し、さらに凝集力を粘着剤層に付与する。具体的にはポリイソシアネート化合物や有機過酸化物、有機金属塩、金属アルコラート、金属キレート化合物、多官能性化合物などの架橋剤を用いた化学的架橋処理などが用いられる。これらの架橋手剤のうち、架橋反応性や取り扱い性の点から、三官能性イソシアネートやアルミニウムキレート化合物が好適である。これらの架橋剤は、塗工、乾燥するまでは溶液の増粘現象を起こさず、極めて作業性に優れたものである。この場合の架橋剤の配合量はA成分とB成分の共重合体100重量部に対して0.01〜2重量部程度である。
【0038】
本発明の経皮吸収製剤において粘着剤層に含有する経皮吸収用薬物は、その治療目的の応じて任意に選択することができ、例えばコルチコステロイド類、鎮痛消炎剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、抗高血圧剤、降圧利尿剤、抗生物質、麻酔剤、抗菌剤、抗真菌剤、ビタミン剤、冠血管拡張剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳剤、性ホルモン剤、抗鬱剤、、脳循環改善剤、制吐剤、抗腫瘍剤、生体医薬などの種類の薬物であって、皮膚面上に滞留するもではなく、皮下もしくは血中にまで浸透して局所作用もしくは全身作用を発揮する経皮吸収可能な薬物が使用できる。これらの薬物は必要に応じて二種以上併用することもできる。また、上記粘着剤層への均一な分散性や経皮吸収性の点から、これらの薬物のうち脂溶性薬物(溶解量0.4g以下/水100ml・常温)が特に好適な薬物として挙げられる。
【0039】
これらの経皮吸収用薬物の含有量は、薬物種や投与目的に応じて適宜設定することができるが、通常、粘着剤中に1〜40重量%、好ましくは3〜30重量%程度の範囲で含有させる。含有量が1重量%に満たない場合は、治療や予防に有効な量の放出が期待できない場合があり、また、40重量%を超えると増量による効果の増大が期待できないので経済的にも不利であるばかりか、皮膚に対する接着性にも劣る傾向を示す。なお、本発明においては上記薬物は粘着剤中に全部が溶解している必要はなく、粘着剤への溶解度以上の薬物を含有させて未溶解状態の薬物が含有されていてもよいものである。この場合、未溶解状態の薬物は経皮吸収製剤中で含有量にバラツキがないように均一分散している必要がある。
【0040】
但し、長期間に及ぶ持続放出性の付与や単位面積当たりの含有量を増加させての放出量の増大、皮膚刺激性の軽減のための製剤の小型化などの観点からは、上記重量範囲にかかわらず含有させてもよいことは云うまでもない。
【0041】
【発明の効果】
本発明のアクリル系粘着テープは以上のような構成からなるものであって、架橋された粘着剤層中にこれと相溶する有機液状成分を比較的多量に含有できるものである。つまり、従って、粘着剤層には凝集力を維持しながらソフト感を付与しているので、皮膚面に貼付中の刺激が少なく、しかも剥離除去時に適用皮膚面の角質損傷などの皮膚刺激を与えることも少なく、粘着特性と低皮膚刺激性とのバランスが極めて良好である。
【0042】
また、本発明における粘着剤層は、所謂ゲル構造体であるので、粘着剤層中に経皮吸収用薬物を含有させた経皮吸収製剤の場合には、含有する経皮吸収用薬物の拡散移動での自由度が大きく放出性が良好となる。しかも、有機液状成分の配合によって凹凸の多い皮膚面に対しても密着性が良好となって皮膚接着面積が増大し、皮膚接着力を維持しながら薬物の放出性(皮膚移行性)も向上させるものである。
【0043】
さらに、B成分の共重合体は薬物溶解性に優れる重合体であるので、経皮吸収製剤として粘着剤層中に経皮吸収用薬物を含有させた場合、その溶解性に優れ、その結果、経皮吸収性が向上するものである。
【0044】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示し、さらに具体的に説明する。なお、以下の文中で部および%とあるのは、全て重量換算値を意味するものである。
【0045】
実施例1
不活性ガス雰囲気下でアクリル酸2−エチルヘキシルエステル95部と、アクリル酸5部とを、過酸化ベンゾイルを重合開始剤として、約60℃の反応温度に制御しながら、酢酸エチル中で共重合させてアクリル系共重合体(A成分)の溶液を調製した。
【0046】
また、不活性ガス雰囲気下でアクリル酸2−エチルヘキシルエステル72部と、N−ビニル−2−ピロリドン25部、アクリル酸3部とを、アゾビスイソブチロニトリルを重合開始剤として、反応温度を約60℃に制御しながら、酢酸エチル中で共重合させてアクリル系共重合体(B成分)の溶液を調製した。
【0047】
固形分が10g相当の量の上記A成分の溶液に、テトラヒドロフラン50gとエストラジオール1.03gを加えて充分に攪拌したのち、固形分が10g相当の上記B成分の溶液を加え、さらにC成分としてのミリスチン酸イソプロピル(IPM−100、日光ケミカル社製)20g、架橋剤としての三官能性イソシアネート(コロネートHL、日本ポリウレタン社製)0.08g、濃度調整用の酢酸エチルを適量加えて、高速ミキサーにて攪拌して均一な粘着剤溶液を得た。
【0048】
得られた粘着剤溶液を75μm厚のポリエステル製剥離シート上に、乾燥後の厚みが80μmとなるように塗布、乾燥して架橋されたゲル状の粘着剤層を作製した。
【0049】
2μm厚のポリエステルフィルムの片面に、8g/m2 の目付量のポリエステル製不織布を接着積層してなる支持体の不織布面に、上記にて作製した粘着剤層を転写、積層し、これを60℃で48時間加温熟成して本発明の経皮吸収製剤を作製した。
【0050】
実施例2
固形分が10g相当の量の実施例1にて用いたA成分の溶液に、テトラヒドロフラン60gとエストラジオール1.4gを加えて充分に攪拌したのち、固形分が15g相当の実施例1にて用いたB成分の溶液を加え、さらにC成分としてのミリスチン酸イソプロピル(IPM−100、日光ケミカル社製)20g、架橋剤としての三官能性イソシアネート(コロネートHL、日本ポリウレタン社製)0.1g、濃度調整用の酢酸エチルを適量加えて、高速ミキサーにて攪拌して均一な粘着剤溶液を得た。
【0051】
得られた粘着剤溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして本発明の経皮吸収製剤を作製した。
【0052】
実施例3
固形分が10g相当の量の実施例1にて用いたA成分の溶液に、エストラジオール1.03gと、B成分としてのメタクリル酸アミノアルキルエステル/メタクリル酸アルキルエステル共重合体(オイドラギットE100、ローム社製)6.5g、C成分としてのアセチルクエン酸トリブチル3.5gをイソプロピルアルコールに溶解させたものを加えて、充分に攪拌した。
【0053】
次いで、さらにC成分としてのミリスチン酸イソプロピル(IPM−100、日光ケミカル社製)20g、架橋剤としてのエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(ALCH、川研ファインケミカル社製)0.1g、濃度調整用の酢酸エチルを適量加えて、高速ミキサーにて攪拌して均一な粘着剤溶液を得た。
【0054】
得られた粘着剤溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして本発明の経皮吸収製剤を作製した。
【0055】
実施例4
固形分が10g相当の量の実施例1にて用いたA成分の溶液に、イソプロピルアルコール60gとエストラジオール1.4gを加えて充分に攪拌したのち、固形分が10g相当の実施例1にて用いたB成分の溶液を加え、さらにC成分としてのミリスチン酸イソプロピル(IPM−100、日光ケミカル社製)30g、架橋剤としてのエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(ALCH、川研ファインケミカル社製)0.2g、濃度調整用の酢酸エチルを適量加えて、高速ミキサーにて攪拌して均一な粘着剤溶液を得た。
【0056】
得られた粘着剤溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして本発明の経皮吸収製剤を作製した。
【0057】
比較例1
固形分が10g相当の量の実施例1にて用いたA成分の溶液に、テトラヒドロフラン20gとエストラジオール0.5gを加えて充分に攪拌したのち、B成分を加えずにC成分としてのミリスチン酸イソプロピル(IPM−100、日光ケミカル社製)10g、架橋剤としての三官能性イソシアネート(コロネートHL、日本ポリウレタン社製)0.04g、濃度調整用の酢酸エチルを適量加えて、高速ミキサーにて攪拌して均一な粘着剤溶液を得た。
【0058】
得られた粘着剤溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして経皮吸収製剤を作製した。
【0059】
比較例2
固形分が10g相当の量の実施例1にて用いたA成分の溶液に、テトラヒドロフラン30gとエストラジオール0.9gを加えて充分に攪拌したのち、固形分が15g相当の実施例1にて用いたB成分の溶液を加え、さらにC成分としてのミリスチン酸イソプロピル(IPM−100、日光ケミカル社製)15g、架橋剤としての三官能性イソシアネート(コロネートHL、日本ポリウレタン社製)0.06g、濃度調整用の酢酸エチルを適量加えて、高速ミキサーにて攪拌して均一な粘着剤溶液を得た。
【0060】
得られた粘着剤溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして経皮吸収製剤を作製した。
【0061】
比較例3
固形分が10g相当の量の実施例1にて用いたA成分の溶液に、エストラジオール1.4gと、B成分としてのメタクリル酸アミノアルキルエステル/メタクリル酸アルキルエステル共重合体(オイドラギットE100、ローム社製)18g、C成分としてのアセチルクエン酸トリブチル10gをイソプロピルアルコールに溶解させたものを加えて、充分に攪拌した。
【0062】
次いで、さらにC成分としてのミリスチン酸イソプロピル(IPM−100、日光ケミカル社製)10g、架橋剤としてのエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(ALCH、川研ファインケミカル社製)0.1g、濃度調整用の酢酸エチルを適量加えて、高速ミキサーにて攪拌した。
【0063】
しかしながら、上記のように攪拌を行った結果、均一な粘着剤溶液を得ることができなかったので経皮吸収製剤を作製することができず、従って、後述の評価を行うこともできなかった。
【0064】
比較例4
A成分を加えずに、エストラジオール0.6gと、B成分としてのメタクリル酸アミノアルキルエステル/メタクリル酸アルキルエステル共重合体(オイドラギットE100、ローム社製)13g、C成分としてのアセチルクエン酸トリブチル7gをイソプロピルアルコールに溶解させたものを加えて、充分に攪拌した。
【0065】
次いで、さらにC成分としてのミリスチン酸イソプロピル(IPM−100、日光ケミカル社製)3g、架橋剤としてのエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(ALCH、川研ファインケミカル社製)0.06g、濃度調整用の酢酸エチルを適量加えて、高速ミキサーにて攪拌して均一な粘着剤溶液を得た。
【0066】
得られた粘着剤溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして経皮吸収製剤を作製した。
【0067】
上記各実施例および比較例にて作製した経皮吸収製剤について、以下に示す安定性試験を行い、その結果を表1に示した。
【0068】
<溶解性試験>
各実施例および比較例にて作製した経皮吸収製剤を、包装材料にて密封して、40℃、75%R.Hの加湿条件下で3か月保存し、含有する薬物(エストラジオール)の結晶の析出の有無を目視判定した。なお、保存前には各製剤とも薬物は全て溶解しているので、結晶の析出がある場合には、薬物溶解性に劣る製剤であると判断できる。
【0069】
<接着力試験>
ベークライト板に幅24mmに裁断した帯状の各製剤サンプルを貼付し、荷重300gのローラを1往復させて密着させたのち、180度方向に300mm/分の速度で剥離して、接着力(剥離力)を測定した。接着力が40〜200gの場合が剥離時の皮膚刺激の少なく、良好な製剤であると判断できる。
【0070】
【表1】
Figure 0004145996
【0071】
上記表1に記載した結果から明らかなように、本発明の実施品では薬物溶解性と皮膚接着性とのバランスがとれたものであるが、比較例品ではこれらの特性のバランスが不充分である。
【0072】
なお、上記各実施例および比較例では経皮吸収用薬物としてエストラジオールを配合させているが、各製剤の調製時に経皮吸収用薬物を配合しないアクリル系粘着テープも作製した。その結果、当然ながら薬物溶解性試験はできないが、接着力試験を行った結果、略表1と同一の結果が得られた。

Claims (9)

  1. 支持体の片面に粘着剤層が形成されており、該粘着剤層は下記(A)〜(C)成分を含有すると共に、(A)成分と(B)成分の含有比率が1:0.5〜1:1.5であり、外部架橋剤によって架橋されてなることを特徴とするアクリル系粘着テープ。
    (A)カルボキシル基もしくはヒドロキシル基を含有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルを必須成分として共重合してなる共重合体。
    (B)側鎖に塩構造を有さない窒素原子を有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルとを必須成分として共重合してなる共重合体。
    (C)上記(A)成分および(B)成分と相溶する有機液状成分。
  2. 外部架橋剤が三官能性イソシアネートもしくはアルミニウムキレート化合物からなる請求項1記載のアクリル系粘着テープ。
  3. カルボキシル基を有する単量体が(メタ)アクリル酸である請求項1記載のアクリル系粘着テープ。
  4. 側鎖に塩構造を有さない窒素原子を有する単量体がN−ビニル−2−ピロリドンおよび/または(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステルである請求項1記載のアクリル系粘着テープ。
  5. (C)成分が脂肪酸エステルおよび/またはグリセリン脂肪酸エステルである請求項1記載のアクリル系粘着テープ。
  6. (A)成分と(B)成分との合計量と(C)成分の含有比率が、1:0.5〜1:1.5である請求項1記載のアクリル系粘着テープ。
  7. 支持体がポリエステルフィルムとポリエステル製不織布からなる積層体である請求項1記載のアクリル系粘着テープ。
  8. ポリエステルフィルムの厚みが1.5〜6μmで、ポリエステル不織布の目付量が6〜12g/m2 である請求項7記載のアクリル系粘着テープ。
  9. 請求項1記載のアクリル系粘着テープにおける粘着剤層中に、経皮吸収用薬物を含有してなる経皮吸収製剤。
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