JP4130488B2 - 磁気記録装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は大量の情報の書き込み及び読み出しが可能な磁気記録媒体及びその使用方法並びに磁気記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気記録の高密度化及び高速化は、磁気記録媒体の改良と並んで、磁気記録装置の進歩、なかでも磁気記録の書き込み及び読み出しに用いられる磁気ヘッドの進歩に負うところが多い。例えば、近年の磁気記録媒体の小型化及び大容量化に伴って、磁気記録媒体と読み出し用磁気ヘッドとの相対速度は小さくなってきている。そこで、小さな相対速度であっても大きな出力が取り出せる新しいタイプの読み出し用磁気ヘッドとして、巨大磁気抵抗効果ヘッド(GMRヘッド)が注目されている。
【0003】
しかしながら磁気記録に内在する究極の問題として微小磁区の安定性の問題、なかでも読み出しに伴う記録情報の破壊の問題がある。かかる観点において、磁気ヘッドと磁区との磁気的相互作用を利用した従来の読み出し方法は微小磁区を破壊しやすい。従って、磁気的相互作用によらない新しい読み出し方法とその方法に適した新しい記録媒体の開発が望まれている。
【0004】
また従来の磁気記録媒体は磁気ディスク即ちファイルメモリとして機能し、その情報は一旦コンピュータ本体の半導体メモリに読み込まれる。このため、その動作は遅くまたコンピュータ本体のメモリを大量に消費するという欠点をもっている。従って、読み出し時にコンピュータ本体から直接電気的にアクセスできる新しいタイプの記録媒体が望まれている。このような新しいタイプのメモリとして、従来から開発が進められているフラッシュメモリや近年注目されているFRAMなどのメモリがある。しかし、前者は記録密度に関して、後者は強誘電体薄膜の形成に関して多くの課題を抱えている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、従来の磁気記録は、記録密度の上昇に伴う読み出し時の情報破壊の問題や、コンピュータ本体から直接アクセスができないという問題を有している。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、磁気的相互作用によらない情報の読み出し方法とそれを可能にする記録媒体並びに磁気記録装置を提供することを目的とする。
本発明はまた、読み出し時にコンピュータ本体から直接電気的にアクセス可能な磁気記録媒体並びに磁気記録装置を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の視点は、磁気記録媒体において、
第1磁性体膜と複数の記録磁区を有する第2磁性体膜とを含む積層膜と、
前記積層膜の一方の面にショットキー接合を介して接続された半導体層と、
を具備することを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の視点は、第1の視点の磁気記録媒体において、前記積層膜の他方の面にトンネル接合部を介して接続された金属膜を更に具備することを特徴とする。
【0009】
本発明の第3の視点は、第1の視点の磁気記録媒体において、前記積層膜の他方の面にショットキー接合を介して接続された半導体膜を更に具備することを特徴とする。
【0010】
本発明の第4の視点は、第1の視点の磁気記録媒体において、前記第1及び第2磁性体膜がトンネル接合部を介して接続されることを特徴とする。
本発明の第5の視点は、第2または4の視点の磁気記録媒体において、前記トンネル接合部が、第1及び第2障壁層と、前記第1及び第2障壁層間に介在する量子井戸層と、を含む共鳴トンネル構造を具備することを特徴とする。
【0011】
本発明の第6の視点は、第1乃至5のいずれかの視点の磁気記録媒体において、前記積層膜が、前記第1及び第2磁性体膜間に介在する非磁性体膜を更に具備することを特徴とする。
【0012】
本発明の第7の視点は、第1乃至6のいずれかの視点の磁気記録媒体において、前記半導体層と前記第1磁性体膜とが前記ショットキー接合を介して接続されること特徴とする。
【0013】
本発明の第8の視点は、第1乃至7のいずれかの視点の磁気記録媒体の使用法法において、前記記録磁区に沿ってプローブを走査させながら、前記プローブから各磁区にホットエレクトロンを注入し、各磁区の記録磁化方向に依存して変化する前記半導体層から流出する電流に基づいて磁気記録を読み出すことを特徴とする。
【0014】
本発明の第9の視点は、第1乃至7のいずれかの視点の磁気記録媒体の使用法法において、前記記録磁区に対応して前記磁気記録媒体に配線を接続し、前記配線から各磁区にホットエレクトロンを注入し、各磁区の記録磁化方向に依存して変化する前記半導体層から流出する電流に基づいて磁気記録を読み出すことを特徴とする。
【0015】
本発明の第10の視点は、磁気記録装置において、
マトリックスとして配置された前記記録磁区を有する第1乃至7のいずれかの視点の磁気記録媒体と、
各磁区にホットエレクトロンを注入するための複数の注入線と、
夫々が各磁区と前記注入線とを接続するように配設された複数のスイッチング素子と、
前記スイッチング素子をオン及びオフするため複数のアドレス線と、
各磁区の記録磁化方向に依存して変化する前記半導体層からの電流を注出するための複数の注出線と、
を具備することを特徴とする。
【0016】
本発明の第11の視点は、第10の視点の磁気記録装置において、各アドレス線と各注出線とが共通のワード線からなることを特徴とする。
本発明の第12の視点は、第10または11の視点の磁気記録装置において、夫々が各スイッチング素子を介して前記注入線に接続された、各磁区の記録磁化方向を書替えるための複数の磁場発生手段を更に具備することを特徴とする。
【0017】
本発明の第13の視点は、第12の視点の磁気記録装置において、前記スイッチング素子と前記記録磁区とが前記磁場発生手段を介して接続されることを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
まず、図1乃至図4を参照して、本発明に係る磁気記録の原理を説明する。
磁性体の中では、電子状態密度に関し、アップスピンバンドとダウンスピンバンドとが分裂している。例えば、図1(a)に示すように、磁性体膜F1/非磁性体膜N1/磁性体膜F2構造の積層膜MLFにおいて、磁性体膜F1、F2の磁化方向MD1、MD2が逆向きであるとする。この場合、図1(b)、(c)に示すように、磁性体膜F1、F2における電子状態密度は、アップスピン電子(図において上向き矢印で示す)及びダウンスピン電子(図において下向き矢印で示す)に関して逆の特性を有するようになる。
【0019】
図2(a)は積層膜MLFの磁性体膜F2にトンネル障壁TBを介して非磁性体膜N2が接続されると共に、磁性体膜F2にシリコン等からなる半導体膜SEMがショットキー接合された構造を示す。この構造において、非磁性体膜N2が負となるように非磁性体膜N2と積層膜MLFとの間に電圧が印加されると、非磁性体膜N2からは、磁性体膜F1、F2のフェルミ準位EF より高いエネルギーENを有する電子(ホットエレクトロン)が発生する。
【0020】
ここでまず、図2(a)に示すように、磁性体膜F1、F2の磁化方向MD1、MD2が逆向き(反平行)のままであるとする。この場合、エネルギーENにおける磁性体膜F2の電子状態密度は、ダウンスピン電子に対して高く、アップスピン電子に対して実質的に零である。このため、非磁性体膜N2からは、ダウンスピン電子のみがトンネル障壁TBを通過し、磁性体膜F2に至る。しかし、エネルギーENにおける磁性体膜F1の電子状態密度はダウンスピン電子に対して実質的に零である。このため、トンネル障壁TBを通過したダウンスピン電子は磁性体膜F1により反射され、磁性体膜F2から磁性体膜F1に進むことはできない。
【0021】
次に、図2(b)に示すように、磁性体膜F2の磁化方向が変化し、磁性体膜F1、F2の磁化方向MD1、MD2が同じ(平行)となったとする。この場合、エネルギーENにおける磁性体膜F1、F2の電子状態密度は共に、アップスピン電子に対して高く、ダウンスピン電子に対して実質的に零である。このため、非磁性体膜N2からは、アップスピン電子のみがトンネル障壁TB及び磁性体膜F2を通過し、更に、反射されることなく磁性体膜F1に進むことができる。
【0022】
非磁性体膜N2と積層膜MLFとの間の印加電圧が、磁性体膜F1と半導体膜SEMとの間のショットキー障壁の高さを超えると、磁性体膜F1に至ったアップスピン電子の一部は半導体膜SEMに流れ込む。一旦半導体膜SEM内に流れ込んだ電子は、接合電場のために積層膜MLFに戻ることはできず、半導体膜SEM内でエネルギーを失い、コレクタ電流となる。
電子の注入源となる非磁性体膜N2と積層膜MLFとをトンネル接合を介して接続すると、注入電子(ホットエレクトロン)のエネルギーを自在に変えることができる。例えば、図3及び図4に夫々示すように、代表的な強磁性体であるFeやCoの電子状態密度は、フェルミ準位よりぞれぞれ約1.5eV及び約1.2eV上に鋭い極大を持っている。従って、トンネル接合を使用することにより、磁性体膜F1、F2の電子状態密度の極大に合うような特定のエネルギーの電子を、非磁性体膜N2から選択的に注入することができる。これにより、例えば、ショットキー接合を介して電子を注入する場合に比べて高い感度が得られるようになる。
図5は本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体を概念的に示す。
【0023】
図5に示す磁気記録媒体においては、コレクタ10となる半導体層11上に、ショットキー接合を介してベース20となる積層膜21が配設される。積層膜21は、第1磁性体膜22/非磁性体膜23/第2磁性体膜24からなる。第1磁性体膜22は、磁化方向が固定され且つ半導体層11とショットキー接合を形成する。第2磁性体膜24は複数の記録磁区25に分割される。第1及び第2磁性体膜22、24は、非磁性体膜23の膜厚を適当に選択することにより磁気的に非結合状態になっている。
【0024】
半導体層11としては例えばn型シリコン基板が用いられる。第1及び第2磁性体膜22、24としては例えばCo膜、CoFe膜、NiFe膜等の強磁性体膜が用いられる。非磁性体膜23としては例えばCu膜、Ag膜等の非磁性金属膜が用いられる。
第2磁性体膜24の記録磁区25の磁化方向は「1」、「0」信号に対応し、第1磁性体膜22の磁化方向と同じ(平行)または逆(反平行)に設定される。即ち、各記録磁区25の磁化方向は、本磁気記録媒体に記録される情報に従って、予め磁気ヘッド(図示せず)によって任意に設定される。
【0025】
記録情報の読み出しは、図5に示すように、エミッタ30として機能する非磁性プローブP1を介して行われる。この時、エミッタ/ベース間には、半導体層11と第1磁性体膜22との間のショットキー障壁の高さを超える直流電圧が印加される。このため、非磁性体膜23が負となるように、プローブP1と非磁性体膜23との間に直流電源V1が接続される。また、各記録磁区25の磁化方向に依存して変化する半導体層11から流出する電流は、電流計A1により検出される。電流計A1は半導体層11の表面或いは裏面に配設されたオーミック電極(図示せず)と非磁性体膜23との間に接続される。
【0026】
前述の如く、第1及び第2磁性体膜22、24の磁化方向が平行な場合は、磁化方向が反平行な場合よりも、大きな電流が電流計A1で検出される。従って、検出された電流値から、記録情報を表す信号「1」、「0」を読み出すことができる。この読み出し方法では、磁気ヘッドに換えて非磁性プローブP1を用いているため、微小記録磁区を磁気的に破壊することなく情報の読み出しを行うことができる。
【0027】
より具体的には、ベース/エミッタ間に直流電源V1から電圧を印加すると、エミッタ30である非磁性プローブP1からベース20にホットエレクトロンが注入される。ベース20が電子の非弾性散乱長に比べて十分に薄ければ、ホットエレクトロンはエネルギーを失わずにベース/コレクタ界面に到達する。注入電圧がベース/コレクタ間のショットキー障壁の高さより低い場合は、ホットエレクトロンはコレクタ内にはいることはできず、ベースから流れ出す。
【0028】
注入電圧がショットキー障壁の高さを超えると、ホットエレクトロンの一部はコレクタ10内に流れ込むが、一度コレクタ10内に流れ込んだホットエレクトロンは、接合電場のためにベース20に戻ることはできず、コレクタ10内でエネルギーを失い、コレクタから電流計A1を通って流れ出す。
【0029】
ベース20が上述のような積層膜21で形成されている場合、ベース20内に注入されたホットエレクトロンがベース/コレクタ界面に到達する率は、積層膜21の第1及び第2磁性体膜22、24の磁化方向に強く依存する。即ち、第1及び第2磁性体膜22、24の磁化方向が同じ場合には、ホットエレクトロンはスピン散乱を受けずにコレクタ10に到達できるが、第1及び第2磁性体膜22、24の磁化方向が逆向きの場合には、強いスピン散乱を受けるため、ほとんどがコレクタ10に到達できず、ベース20でエネルギーを失い、ベース20から流れ出てしまう。
【0030】
この現象は、前述の図1(b)(c)に模式的に示すように、強磁性体では、アップスピン及びダウンスピンの電子状態密度が非対称であることに起因する。特に、Fe、Coなどの強磁性体ではフェルミ準位の上方でアップスピンとダウンスピンの電子状態密度が著しく非対称となる。なお、ホットエレクトロンのスピンの向きが非磁性体膜23内で保たれるように、非磁性体膜23の厚さはスピン拡散長に比較して十分薄くなるように設定される。
[実施例1]
図5に示す磁気記録媒体の具体的な作成例とその特性を示す。
【0031】
コレクタ10の半導体基板11として、硼素を1016/cm3 ドープしたn型シリコンを用い、その上に磁性積層膜21を真空蒸着法により形成した。第1磁性体膜22には保磁力が約300エルステッドの角形ヒステリシスを示すCoFe合金膜を、第2磁性体膜24には保磁力が約30エルステッド、飽和磁場が約60エルステッドのFe膜を、非磁性体膜23にはAu膜を用いた。膜22、23、24の膜厚は夫々2nm、10nm、2nmとし、磁化測定により第1及び第2磁性体膜22、24が磁気的に非結合状態にあることを確認した。
【0032】
ベース/コレクタ間のショットキー接合は、n型シリコン基板11の表面の自然酸化膜を弗酸により除去した後、1nmの厚さのAu膜を介在させることによって行った。Au膜を介在させたのはリークの少ない良好なショットキー接合を形成するためである。コレクタ10へのオーミックコンタクトは、AuSb合金をシリコン基板11の裏面に真空蒸着した後に熱処理することにより行った。
【0033】
エミッタに対応する非磁性プローブP1及びそれからのホットエレクトロン注入には走査型トンネル顕微鏡(STM)装置を改造して用いた。STM装置を用いると、プローブとベース電極との間に流れるトンネル電流を一定に保ったまま、プローブ/ベース間の電圧を上昇させることができる。非磁性プローブP1には電解研磨の後電界蒸発法で形成したReプローブを用い、一方コレクタ電流の測定は、オペレーショナルアンプ回路で行った。
【0034】
トンネル電流Iを一定に保ちながらプローブ/ベース間の電圧Vを増加させたところ、電圧Vがベース/コレクタ間のショットキー障壁(〜0.8V)を越えると、コレクタ電流Icが流れ始めた。電圧Vと電流Iとを適当な値に固定した状態でプローブを走査し、プローブ位置によるコレクタ電流Icの変化を画像処理したところ、数10ミクロンの大きさの明暗の縞模様が観測された。この縞模様は第1及び第2磁性体膜22、24の磁化方向の相対関係を反映する。即ち、第1及び第2磁性体膜22、24の磁化方向が同じ領域はIcが大きいので明るく、逆の領域はIcが小さいので暗くなる。
【0035】
次に、約300エルステッドの外部磁場を膜に平行に印加して第1磁性体膜22を一旦飽和させた後、外部磁場零の下で上述の測定と同様な測定を行った。その結果、先と同様な明暗の縞模様が観測された。しかし、この場合、第1磁性体膜22の磁化方向は一様に一方向を向いているので、縞模様は第2磁性体膜24の記録磁区25の磁化方向に対応する。即ち、第1磁性体膜22の磁化方向に対して磁化方向が平行な記録磁区25は明るく、磁化方向が反平行な記録磁区25は暗くなる。
【0036】
次に、プローブP1を適当な一つの記録磁区25の位置に固定し、振幅±60エルステッド、振動数1kHzの外部磁場を印加した状態でコレクタ電流Icを観測した。その結果、図18に示すようにIcが外部磁場に同期して変化するのが観測された。即ち、この結果から、記録磁区25の磁化方向を電気的に読み出すことができることが判明した。
【0037】
図6は本発明の別の実施の形態に係る磁気記録媒体を概念的に示す。
図6に示す磁気記録媒体においては、コレクタ10となる半導体層11上に、ショットキー接合を介してベース20となる積層膜21が配設される。積層膜21上には、トンネル絶縁膜41からなるトンネル接合部40を介して、エミッタ30となる非磁性金属膜31が配設される。積層膜21は、図5に示す磁気記録媒体と同様、第1磁性体膜22/非磁性体膜23/第2磁性体膜24からなる。第1磁性体膜22は、磁化方向が固定され且つ半導体層11とショットキー接合を形成する。第1及び第2磁性体膜22、24は、非磁性体膜23の膜厚を適当に選択することにより磁気的に非結合状態になっている。ベース20及びエミッタ30は、第2磁性体膜24の複数の記録磁区25に対応するように、トレンチに埋め込まれた絶縁膜12により分割される。
【0038】
図6に示す磁気記録媒体の記録情報の読み出しは、図5に示すプローブP1を用いて行うこともできるが、後述するように、記録磁区25に対応して磁気記録媒体に接続した配線を用いて行うこともできる。即ち、配線からエミッタ30及びトンネル接合部40を介して、各磁区25にホットエレクトロンを注入し、各磁区の記録磁化方向に依存して変化する半導体層11から流出する電流に基づいて磁気記録を読み出す。配線を介してホットエレクトロンを注入することにより、各軸25に対してコンピュータ本体から直接電気的にアクセスすることが可能となる。また、トンネル接合を使用することにより、前述の如く、第1及び第2磁性体膜22、24の電子状態密度の極大に合うような特定のエネルギーの電子を、非磁性金属膜31から選択的に注入することができる。
[実施例2]
図6に示す磁気記録媒体の具体的な作成例とその特性を示す。
【0039】
実施例1と同様な方法で、コレクタ10となるn型Si基板11を調製し、その上にFeCo/Au/Fe磁性積層膜21を形成した。次に、積層膜21上にAl膜を5nm蒸着し、その表面をO2 −H2 O混合ガスで酸化してトンネル絶縁膜41を形成した。エミッタ30となる非磁性金属膜31には厚さ200nmのAl膜を用い、エミッタ/ベース間のトンネル接合はAl/AlOx /Alの構造とした。ベース/コレクタ間の層間絶縁膜にはシリコン熱酸化膜を用い、エミッタ/ベース間の層間絶縁膜にはSiOを用いた。接合面積は1μm×1μmで、接合内でスピンバルブ膜が単磁区構造となるようにした。
【0040】
実施例1と同様に、300エルステッドの外部磁場で第1磁性体膜22の磁化を飽和させた後、+60エルステッド或いは−60エルステッドの外部磁場を印加した。この状態でトンネル電圧Vを増大させたところ、0.8V以上でコレクタ電流Icが観測された。ここで、外部磁場が+60エルステッドの場合(図19に線Laで示す)の電流は、外部磁場が−60エルステッドの場合(図19に線Lbで示す)の電流より約1桁大きくなった。外部磁場は第2磁性体膜24の磁化方向を決定するものであるから、第2磁性体膜24の磁化方向によってIcが大きく相違したこととなる。即ち、この結果から、記録磁区25の磁化方向を直接電気的に読み出すことができることが判明した。
【0041】
図7は本発明の更に別の実施の形態に係る磁気記録媒体を概念的に示す。
図7に示す磁気記録媒体においては、コレクタ10となる半導体層11上に、ショットキー接合を介してベース20となる積層膜26が配設される。積層膜26は第1磁性体膜22/非磁性体膜23からなる。積層膜26上には、トンネル絶縁膜41からなるトンネル接合部40を介して、エミッタ30となる第2磁性体膜24が配設される。即ち、第1磁性体膜22がベース20に含まれる一方、第2磁性体膜24がエミッタ30に含まれる。
【0042】
第1磁性体膜22は、磁化方向が固定され且つ半導体層11とショットキー接合を形成する。第2磁性体膜24は複数の記録磁区25に分割される。第1及び第2磁性体膜22、24は磁気的に非結合状態になっている。ベース20及びエミッタ30は、第2磁性体膜24の複数の記録磁区25に対応するように、トレンチに埋め込まれた絶縁膜12により分割される。
【0043】
図8は本発明の更に別の実施の形態に係る磁気記録媒体を概念的に示す。
図8に示す磁気記録媒体は、図7に示す構造の非磁性体膜23が省略された構造を有する。図8に示す構造では、但し、第1及び第2磁性体膜22、24が磁気的に非結合状態となるように、トンネル絶縁膜41を厚くすることが必要となる。
【0044】
図7及び図8に示す磁気記録媒体の記録情報の読み出しは、図5に示すプローブP1を用いて行うこともできるが、図6に示す磁気記録媒体と同様、記録磁区25に対応して磁気記録媒体に接続した配線を用いて行うこともできる。
【0045】
図7及び図8に示す磁気記録媒体は図6に示す磁気記録媒体に比較してベース20内の膜の数が少なくなるため、ベース20部を薄くすることができる。また、ベース20内の界面の数が少なくなるため、スピンの向きに依存しない散乱が減少する。このため、ホットエレクトロン電流及び従ってコレクタ電流が増加し、情報の読み出し特性が向上する。このような理由から、図7及び図8に示す磁気記録媒体では図6に示す磁気記録媒体よりも優れた特性を期待することができる。
【0046】
次に、エミッタ30とベース20との間で電子の注入を制御するトンネル接合部として共鳴トンネル接合を使用した実施の形態について述べる。
近年、量子効果デバイスが注目される中、共鳴トンネルデバイスは室温動作がすでに確認されている量子効果デバイスとして知られている(Richard.A.Kiehland,T.C.L.Gerhard Sollner,High Speed Heterostructure Devices,Semiconductors and Semimetals 41)。共鳴トンネルダイオードは、図9に示されている様な半導体ヘテロ接合を用いたデバイスについては実験及び理論計算が数多くなされている。特に、図9の様な構造を持つ共鳴トンネルダイオードは二重障壁共鳴トンネルダイオードと呼ばれ、AlGaAsの領域が障壁部分に相当している。また、障壁の数は幾つあっても共鳴トンネル現象が起こることは良く知られている。
【0047】
図10はカソードの電圧の変化に対するアノード電流の変化を示す(H.Ohnishi and et.al.,Appl.Phys.Lett.49(1986),1248)。図10からもわかるように、特定の電圧において電流電圧特性に鋭いピークが見られるのがわかる。この現象が共鳴トンネル現象として知られており、障壁に挟まれた量子井戸と呼ばれる領域にできる共鳴準位とカソードのフェルミ準位が一致した時、電子のトンネル確率が1となり、電子のトンネル抵抗が小さくなる現象として理解される。この様に共鳴トンネルダイオードは、図10に示すように負微分電流電圧特性を示し、非常に感度が良い。
【0048】
この半導体ヘテロ接合を用いた二重障壁トンネルダイオードに磁場を印加すると、ゼーマン効果がおき、量子井戸内の共鳴準位が電子のスピンに応じて、分裂を起こす。このため、カソード側から注入された電子のスピンの状態(アップまたはダウン)の違いにより、電流電圧特性のピークの位置に相違が現れる。この現象を用いることにより、カソード側の電子のスピン状態をアノード電流のピークの位置を測定することにより、識別することが可能である。
【0049】
共鳴トンネルデバイスは、半導体ヘテロ接合を用いたデバイスについて実験が主になされてきたが、現象そのものは図9に示す構造を持っていれば材料に依存しない。しかし、量子井戸におけるフォノン等の散乱が少なく、電子濃度が希薄な状態の方が共鳴トンネル現象が顕著に見えるため、多くの実験が半導体の中でなされてきた。よって、金属/絶縁体または金属/半導体のヘテロ接合を用いた共鳴トンネルダイオードについても共鳴トンネル現象は見え、昨今この様な系を用いた共鳴トンネルダイオードの実験報告もなされてきている。
【0050】
金属(CoSi2 )/絶縁体(CaF2 )ヘテロ接合はバンド不連続が15eVと大きく、半導体ヘテロ接合のAlGaAs/GaAsのバンド不連続0.25eVに比較して60倍以上ある。図9に示す構造の障壁にCaF2 、量子井戸にCoSi2 を用いることにより、二重障壁トンネルダイオードを実現することができる。バンド不連続が大きいため、カソードから注入された電子のトンネル確率が低いので、障壁及び量子井戸層を薄くすることが必要であるが、障壁層を0.9nm、量子井戸層を1.9nmでつくることにより共鳴トンネル現象を期待することができる。
【0051】
また、金属/絶縁体のヘテロ接合については半導体ヘテロ接合と異なり、数分子層を制御する技術があり、この様な共鳴トンネルダイオードを実現することができる。実際、このCaF2 /CoSi2 ヘテロ接合を用いた3重障壁共鳴トンネルダオードについては室温により負微分抵抗特性が確認されている(T.Suemasu and et.al.,Electron Lett.28,1432(1992))。また、金属(NiAl)/半導体(AlAs)ヘテロ接合共鳴トンネルダイオードについても負微分抵抗特性が確認されている(N.Tabatabaie and et.al.,Appl.Phys.Lett.,53,2528(1988))。
【0052】
前記理由により、他の金属/絶縁体ヘテロ接合についても実現可能である。たとえば、金属にFeを用いて、この上にAlを成長させて、このAlを酸化させることにより、金属(Fe)/絶縁体(Al2 O3 )ヘテロ接合をつくることができる。このヘテロ接合のバンド不連続も15eV程度の大きさを持ち、膜厚をCaF2 /CoSi2 ヘテロ接合と同程度の大きさにすることにより、共鳴トンネルダイオードを実現することができる。
【0053】
更に、この様に、量子井戸にFeの様な強磁性体を用いれば、分子場によりアップスピン電子とダウンスピン電子との間に1eV程度のエネルギー準位の差が生じている。このため、量子井戸の共鳴準位もアップスピン電子とダウンスピン電子とで分裂を起こしていることになる。よって、カソード側から入ってくる電子のスピン状態によって電流電圧特性のピークの位置に相違が生じることになり、カソード側の電子のスピン状態を識別することが可能になる。
【0054】
また、この様な強磁性体を用いた共鳴トンネルダイオードは、半導体ヘテロ接合共鳴トンネルダイオードと異なり、強磁場を外部から印加することなく、カソードの電子のスピン状態を識別することが可能になる。また、金属/半導体ヘテロ接合として、Fe/ZnSeヘテロ接合を用いることも可能である。更に、グラファイトの様な半金属を障壁部分に用いることも可能である。特に、グラファイトは面に垂直方向に状態がないため、絶縁体的な振る舞いとすると同時に、分子層ごとの制御がしやすいので障壁部分を作成しやすい特徴をもつ。
【0055】
共鳴トンネル接合部は、図6乃至図8を参照して述べた実施の形態のいずれのトンネル接合部としても使用することができる。図11は、その一例として、図6に示す磁気記録媒体に共鳴トンネル接合部を用いた構造を概念的に示す。図11中、図6と共通する部分には同一符号を付してあり、それらの詳細な説明は必要に応じてのみ行う。
【0056】
即ち、この磁気記録媒体は、コレクタ10、ベース20及びエミッタ30を有し、エミッタ/ベース間のトンネル接合部50として二重障壁共鳴トンネルダイオードが使用される。トンネル接合部50は、ベース20側に位置する一方の障壁である半導体からなる障壁層51、量子井戸に相当する半導体からなる量子井戸層52、エミッタ30側に位置する他方の障壁である半導体からなる障壁層53を有する。なお、トンネル接合部50に用いる共鳴トンネルダイオードには、半導体ヘテロ接合共鳴トンネルダイオード以外にも、前述の金属/絶縁体ヘテロ接合若しくは金属/半導体共鳴トンネルダイオードを用いることもできる。また、二重障壁共鳴トンネルダイオードに代え、三重障壁共鳴トンルダイオード若しくはそれ以上の障壁を持つ共鳴トンネルダイオードを用いることも可能である。
【0057】
トンネル接合部50は、共鳴トンネルダイオードの共鳴準位が、ベース/コレクタ間のショットキー障壁の高さを越えるものでなくてはならない。この共鳴準位は、共鳴トンネルダイオードの材料及び量子井戸の厚さを適当に選ぶことにより適宜設定可能である。また、共鳴トンネルデバイスの注入電圧に対するコレクタ電流の感度を良くするため、ベース/コレクタ間電圧を逆電圧にすることにより、ベース/コレクタ間障壁の高さを調整することも可能である。
【0058】
図11に示す磁気記録媒体においては、トンネル接合部50に共鳴トンネルデバイスを用いており、エミッタ30の金属膜31とベース20の積層膜21とを絶縁すると共に、共鳴準位に匹敵するエミッタ電圧に対しては、トンネル確率1で積層膜21にホットエレクトロンを注入することが可能になる。即ち、エミッタから注入するホットエレクトロンのエネルギーがトンネル確率により選択され、エネルギー幅の狭い電子を注入することが可能になる。よって、これにより、注入される電子のエネルギーが選択されるので、図1(a)、(b)に示すような状態密度をもつ磁性体を考慮すると、注入される電子のエネルギー幅が小さい分より高い感度が期待される。更に、金属/絶縁体ヘテロ接合共鳴トンネルダイオードのようにバンド不連続が大きい材料を用いれば、共鳴準位の線幅が細くなるので、より高感度の磁気抵抗効果を期待することができる。
【0059】
エミッタ30の金属膜31とトンネル接合部50との間に、更に薄い絶縁膜をはさみ込み、電流密度の大きさを調整することにより電流密度の絶対値を調整することが可能である。また、トンネル接合部50の共鳴トンネルダイオードの障壁の厚さを調整すことによっても、電流密度の絶対値を調整することが可能である。
【0060】
図12は本発明の更に別の実施の形態に係る磁気記録媒体を概念的に示す。
図12に示す構造は、エミッタ30としてコレクタ10と同様な半導体層32を用いたものである。即ち、エミッタ30とベース20とは第2のショットキー接合を形成する。従って、エミッタ30からベース20への電子の注入がトンネル過程ではなく、ショットキー接合を介して熱的過程によって行われる。図12に示す磁気記録媒体のそれ以外の原理については図6に示す磁気記録媒体と同様である。
【0061】
図12に示す磁気記録媒体は、しかし、図6に示す磁気記録媒体と比べると注入電圧を十分に高くすることはできないため、注入電流に比較してコレクタ電流が小さくなりやすい。その理由は、ベース/コレクタ界面のホットエレクトロンの透過率がそのエネルギーに大きく依存するためである。また、2つのショットキー接合を良好に形成する上で、成膜条件や膜構造等を良好に制御する必要がある。従って、これらの観点からは、本発明におけるより好ましい態様は前述のようにトンネル接合を介して電子を注入するタイプの磁気記録媒体である。
【0062】
更に、図12に示す磁気記録媒体においては、エミッタ30となる半導体層32に偏光した光を照射してスピン偏極電子を励起し、ホットエレクトロンとしてベース20に注入してもよい。このような構成とした場合、半導体層32にはGaAs、GaAlAs、CdSe、CdTe等の化合物半導体やCdSiAs2 等のカラコパライト型半導体に代表される直接遷移型半導体が用いられる。このような直接遷移型半導体に円偏光を照射すると、円偏光の偏光方向に基く極性を持つスピン偏極電子が励起される。このようなスピン偏極電子が励起された半導体は、スピン偏極した電子を注入するエミッタ30として機能し得る。
【0063】
なお、図5乃至図12の磁気記録媒体において、第1及び第2磁性体膜22、24には、膜面に平行或いは垂直な方向に一軸性の磁気異方性が導入されていることが望ましい。また、非磁性体膜23として、第1及び第2磁性体膜22、24との間で原子拡散の少ない非磁性金属膜を用いることが望ましい。更に、非磁性体膜23として、ホットエレクトロンの界面散乱を小さくするため、状態密度の大きい反強磁性体膜を用いることが望ましい。また、半導体層11と積層膜21との間は、金属層を介在させてショットキー特性を改善することができる。また、積層膜21上に保護層やトンネル特性を改善するための金属層を介在させることができる。
本発明に係る磁気記録媒体の使用態様としては、次のようなものを例示することができる。
【0064】
第1は、通常の磁気ディスクと同様な使用態様である。情報の書き込みは磁気ヘッドで行い、読み出しを非磁性プローブからホットエレクトロンを注入することによって行う(図5参照)。
【0065】
第2は、半導体ROMとして用いる態様である。ROMパッケージ或いはROMカードとして予め情報を記録しておきコンピュータ本体に装着して用いる。読み出しはトンネル接合からホットエレクトロンを注入することによって行う(図6参照)。
【0066】
第3は、上述の第1及び第2の使用態様の中間的な新規な態様である。即ち、情報の書き込みは磁気ディスクと同様に磁気ヘッドを用いて行い、読み出しはトンネル接合を介してホットエレクトロンを注入することによって行う。この場合、図13に模式的に示すように、磁気ディスク72上にメモリセル領域74と交互に、各ビットにアクセスするための回路76を形成することができる。
【0067】
第4は、上述の第2の使用態様に加えてROMに書き込み用の配線を更に設け、SRAMとして用いる態様である。この場合、書き込み用の配線を介して供給される電流により発生する磁場を用いて情報を書き込むことができる。
【0068】
次に、本発明に係る磁気記録媒体を用いたROM或いはRAM、即ち本発明に係る磁気記録装置について説明する。
図14は、図6乃至図8並びに図11及び図12のいずれかに示す磁気記録媒体を用いて構成したROMを示す回路図である。
【0069】
図において、磁気記録媒体の各記録磁区25に対応する、コレクタ10、ベース20及びエミッタ30の部分からなる単位構造(図6乃至図8並びに図11及び図12参照)即ち3端子ユニット64は、バイポーラトランジスタとして示される。ROMの各メモリセル62は、1つの3端子ユニット64と、スイッチング素子である1つのFET(電界効果トランジスタ)66とを有する。記録磁区25に対応する3端子ユニット64は行及び列により規定されるマトリックスとして配列され、従ってメモリセル62もマトリックスを形成するように配列される。
【0070】
マトリックスの行方向に沿ってビット線BLが配設され、列方向に沿ってワード線WLが配設される。ビット線BLはFET66のソース/ドレインを介して3端子ユニット64のエミッタ30に接続される。ワード線WLはFET66のゲート及び3端子ユニット64のコレクタ10に接続される。3端子ユニット64のベース20はグランドに接続される。
【0071】
3端子ユニット64の記録磁区25の磁化方向により記録された信号を読み出す際は、ワード線WLに電圧を印加しFET66をオンにする。この状態でビット線BLから3端子ユニット64のエミッタ30に電流を注入する。そして、3端子ユニット64のコレクタ10からの電流をワード線WLに注出し、その電流値を検出する。これにより、前述の如く、記録磁区25の磁化方向により記録された信号「1」、「0」を読み出すことができる。
【0072】
即ち、図14に示す磁気記録装置においては、ビット線BLは記録磁区25にホットエレクトロンを注入するための注入線として機能する。また、ワード線WLはスイッチング素子をオン及びオフするためアドレス線として機能すると共に、コレクタからの電流を注出するための注出線として機能する。
【0073】
アドレス線及び注出線は、図15に示すように、別々に配設してもよい。図15に示す磁気記録装置において、第1ワード線WL1がアドレス線として機能し、第2ワード線WL2が注出線として機能する。
【0074】
即ち、本発明に係るROMは、第1磁性体膜22とマトリックスとして配置された複数の記録磁区25を有する第2磁性体膜24とを含む積層膜と、積層膜の一方の面にショットキー接合を介して接続された半導体層11と、を具備する磁気記録媒体(図6乃至図8並びに図11及び図12参照)を用いて構成され、更に、図14及び図15図示の如く、
各磁区25にホットエレクトロンを注入するための複数の注入線(ビット線)BLと、
夫々が各磁区25と注入線BLとを接続するように配設された複数のスイッチング素子(FET)66と、
スイッチング素子66をオン及びオフするため複数のアドレス線(ワード線)WL若しくはWL1と、
各磁区25の記録磁化方向に依存して変化する半導体層11からの電流を注出するための複数の注出線(ワード線)WL若しくはWL2と、
を具備する。
【0075】
ここで、図15図示の如く、各アドレス線及び各注出線は共通のワード線WLに纏めることができる。
図16は、図6乃至図8並びに図11及び図12のいずれかに示す磁気記録媒体を用いて構成したRAMを示す回路図である。
【0076】
図において、磁気記録媒体の各記録磁区25に対応する、コレクタ10、ベース20及びエミッタ30の部分からなる単位構造(図6乃至図8並びに図11及び図12参照)即ち3端子ユニット64は、バイポーラトランジスタとして示される。RAMの各メモリセル62は、1つの3端子ユニット64と、スイッチング素子である1つのFET(電界効果トランジスタ)66と、記録磁区25の磁化方向を書き替えるための磁場発生素子(例えば、抵抗体やコイル)68とを有する。記録磁区25に対応する3端子ユニット64は行及び列により規定されるマトリックスとして配列され、従ってメモリセル62もマトリックスを形成するように配列される。
【0077】
マトリックスの行方向に沿ってビット線BLが配設され、列方向に沿ってワード線WLが配設される。ビット線BLはFET66のソース/ドレインを介して磁場発生素子68の一端に接続される。磁場発生素子68の他端は3端子ユニット64のエミッタ30に接続される。ワード線WLはFET66のゲート及び3端子ユニット64のコレクタ10に接続される。3端子ユニット64のベース20はグランドに接続される。
【0078】
3端子ユニット64の記録磁区25に信号を書き込む際は、ワード線WLに電圧を印加しFET66をオンにする。この状態でビット線BLから磁場発生素子68に電流を注入し、磁場を発生させる。この磁場により、記録磁区25の磁化方向を第1磁性体膜22と平行或いは反平行に設定することにより信号「1」、「0」を書き込むことができる。
【0079】
3端子ユニット64の記録磁区25の磁化方向により記録された信号を読み出す際は、図14に示す磁気記録装置と同じ操作を行う。但し、読み出し時の注入電流は、書き込み時の注入電流よりも弱くする。これにより、記録磁区25の磁化方向により記録された信号を破壊しないようにすることができる。
【0080】
即ち、図16に示す磁気記録装置においても、ビット線BLは注入線として機能し、ワード線WLはアドレス線及び注出線として機能する。しかし、アドレス線及び注出線は、図17に示すように、別々に配設してもよい。図17に示す磁気記録装置において、第1ワード線WL1がアドレス線として機能し、第2ワード線WL2が注出線として機能する。
【0081】
即ち、本発明に係るRAMは、第1磁性体膜22とマトリックスとして配置された複数の記録磁区25を有する第2磁性体膜24とを含む積層膜と、積層膜の一方の面にショットキー接合を介して接続された半導体層11と、を具備する磁気記録媒体(図6乃至図8並びに図11及び図12参照)を用いて構成され、更に、図16及び図17図示の如く、
各磁区25にホットエレクトロンを注入するための複数の注入線(ビット線)BLと、
夫々が各磁区25と注入線BLとを接続するように配設された複数のスイッチング素子(FET)66と、
スイッチング素子66をオン及びオフするため複数のアドレス線(ワード線)WL若しくはWL1と、
各磁区25の記録磁化方向に依存して変化する半導体層11からの電流を注出するための複数の注出線(ワード線)WL若しくはWL2と、
夫々が各スイッチング素子66を介して注入線BLに接続された、各磁区25の記録磁化方向を書替えるための複数の磁場発生手段68と、
を具備する。
【0082】
ここで、磁場発生手段68は記録磁区25の電子注入側(実施の形態ではエミッタ)に直列に接続することができる。換言すると、スイッチング素子66と記録磁区25とは磁場発生手段68を介して接続することができる。また、図17図示の如く、各アドレス線及び各注出線は共通のワード線WLに纏めることができる。
【0083】
なお、図14乃至図17に示す磁気記録装置において、マトリックスの行方向及び列方向は互いに等価であり且つ交換可能なものである。また、図15及び図17に示す磁気記録装置において、アドレス線及び注出線として列方向に延びる第1及び第2ワード線WL1、WL2を配設したが、アドレス線及び注出線の一方をビット線と平行に行方向に延びるように配設してもよい。即ち、注入線、アドレス線及び注出線は、マトリックスの行方向及び列方向に適宜分配して配設することができる。
【0084】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の磁気記録媒体及びその使用方法並びに磁気記録装置によれば、読み出し時に磁気的相互作用を利用しないため、より微小な磁区の読み出しが可能となり、より高密度記録が可能となる。また本発明の磁気記録媒体は、直接電気的な読み出しが可能なため、ROM、RAMとして、或いは従来の磁気ディスクと異なりコンピュータ本体から直接アクセスできる高速磁気ディスクとして用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る磁気記録の原理を説明するための図。
【図2】図1(a)に示す積層膜にトンネル障壁を介して非磁性体膜が接続されると共にショットキー接合を介して半導体膜が接続された構造を示す図。
【図3】Feの電子状態密度を示す図。
【図4】Coの電子状態密度を示す図。
【図5】本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体を概念的に示す図。
【図6】本発明の別の実施の形態に係る磁気記録媒体を概念的に示す図。
【図7】本発明の更に別の実施の形態に係る磁気記録媒体を概念的に示す図。
【図8】本発明の更に別の実施の形態に係る磁気記録媒体を概念的に示す図。
【図9】半導体ヘテロ接合を用いた二重障壁共鳴トンネルデバイスのエネルギーバンドを示す図。
【図10】図9に示す共鳴トンネルデバイスの電流電圧特性を示す図。
【図11】図6に示す磁気記録媒体に共鳴トンネル接合部を用いた、本発明の更に別の実施の形態に係る磁気記録媒体を概念的に示す図。
【図12】本発明の更に別の実施の形態に係る磁気記録媒体を概念的に示す図。
【図13】本発明の更に別の実施の形態に係る磁気記録媒体を概念的に示す平面図。
【図14】本発明の更に別の実施の形態に係る磁気記録装置を示す回路図。
【図15】本発明の更に別の実施の形態に係る磁気記録装置を示す回路図。
【図16】本発明の更に別の実施の形態に係る磁気記録装置を示す回路図。
【図17】本発明の更に別の実施の形態に係る磁気記録装置を示す回路図。
【図18】実施例1の磁気記録媒体におけるコレクタ電流の外部磁場応答性を示す図。
【図19】実施例2の磁気記録媒体におけるコレクタ電流のエミッタ/ベース電圧依存性を示す図。
【符号の説明】
10…コレクタ、11…半導体層、12…絶縁膜、20…ベース、21…磁性積層膜、22…第1磁性体膜、23…非磁性体膜、24…第2磁性体膜、25…記録磁区、26…積層膜、30…エミッタ、31…非磁性金属膜、32…半導体膜、40…トンネル接合部、41…トンネル絶縁膜、50…トンネル接合部、51…障壁層、52…量子井戸層、、53…障壁層、62…メモリセル、64…3端子ユニット、66…FET、68…磁場発生素子。
Claims (13)
- マトリックスとして配置された複数の記録磁区を有する磁気記録装置であって、前記記録磁区の夫々は、
半導体層を具備するコレクタと、
前記半導体層上にショットキー接合を介して接続されるように配設された積層膜を具備するベースと、前記積層膜は互いに磁気的に非結合状態となるように積層された第1及び第2磁性体膜を具備することと、
前記積層膜上にトンネル接合部を介して配設された金属膜を具備するエミッタと、
を具備し、
各磁区にホットエレクトロンを注入し、各磁区の記録磁化方向に依存して変化する前記半導体層から流出する電流に基づいて磁気記録を読み出すことを特徴とする磁気記録装置。 - マトリックスとして配置された複数の記録磁区を有する磁気記録装置であって、前記記録磁区の夫々は、
半導体層を具備するコレクタと、
前記半導体層上にショットキー接合を介して接続されるように配設された第1磁性体膜を具備するベースと、
前記第1磁性体膜上にトンネル接合部を介して配設された第2磁性体膜を具備するエミッタと、前記第1及び第2磁性体膜は互いに磁気的に非結合状態であることと、
を具備し、
各磁区にホットエレクトロンを注入し、各磁区の記録磁化方向に依存して変化する前記半導体層から流出する電流に基づいて磁気記録を読み出すことを特徴とする磁気記録装置。 - マトリックスとして配置された複数の記録磁区を有する磁気記録装置であって、前記記録磁区の夫々は、
半導体層を具備するコレクタと、
前記半導体層上にショットキー接合を介して接続されるように配設された積層膜を具備するベースと、前記積層膜は互いに磁気的に非結合状態となるように積層された第1及び第2磁性体膜を具備することと、
前記積層膜上に前記ショットキー接合を介して接続されるように配設された半導体膜を具備するエミッタと、
を具備し、
各磁区にホットエレクトロンを注入し、各磁区の記録磁化方向に依存して変化する前記半導体層から流出する電流に基づいて磁気記録を読み出すことを特徴とする磁気記録装置。 - 前記トンネル接合部は、第1及び第2障壁層と、前記第1及び第2障壁層間に介在する量子井戸層と、を含む共鳴トンネル構造を具備することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録装置。
- 前記積層膜は、前記第1及び第2磁性体膜間に介在する非磁性体膜を更に具備することを特徴とする請求項1または3に記載の磁気記録装置。
- 前記第1磁性体膜と前記トンネル接合部との間に積層された非磁性体膜を更に具備することを特徴とする請求項2に記載の磁気記録装置。
- 前記第1磁性体膜は前記半導体層と前記ショットキー接合を介して接続され且つ磁化方 向が固定され、前記第2磁性体膜の磁化方向は、記録される情報に従って、前記記録磁区ごとに前記第1磁性体膜の磁化方向に対して平行または反平行に変更されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の磁気記録装置。
- 前記ベース及び前記エミッタは、前記記録磁区ごとに絶縁膜によって分割されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の磁気記録装置。
- 前記コレクタの前記半導体層は、前記記録磁区に共通であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の磁気記録装置。
- 各磁区にホットエレクトロンを注入するための複数の注入線と、
夫々が各磁区と前記注入線とを接続するように配設された複数のスイッチング素子と、
前記スイッチング素子をオン及びオフするため複数のアドレス線と、
各磁区の記録磁化方向に依存して変化する前記半導体層からの電流を注出するための複数の注出線と、
を具備することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の磁気記録装置。 - 各アドレス線と各注出線とが共通のワード線からなることを特徴とする請求項10に記載の磁気記録装置。
- 夫々が各スイッチング素子を介して前記注入線に接続された、各磁区の記録磁化方向を書替えるための複数の磁場発生手段を更に具備することを特徴とする請求項10または11に記載の磁気記録装置。
- 前記スイッチング素子と前記記録磁区とが前記磁場発生手段を介して接続されることを特徴とする請求項12に記載の磁気記録装置。
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