JP4130324B2 - 低絶縁性窒化珪素焼結体とその製造方法、およびそれを用いた耐摩耗性部材 - Google Patents

低絶縁性窒化珪素焼結体とその製造方法、およびそれを用いた耐摩耗性部材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、導電性付与材を含有する低絶縁性窒化珪素焼結体とその製造方法、およびそれを用いて静電気による不具合などを改善した耐摩耗性部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ハードディスクドライブ(HDD)などの磁気記録装置、CD−ROMやDVDなどの光ディスク装置、各種ゲーム機器などの発達には目覚しいものがある。これらのディスク媒体を有する電子機器においては、通常、スピンドルモータなどの回転駆動装置により回転軸を高速回転させ、この回転軸に装着された各種ディスクを機能させている。
【0003】
上述したような電子機器用回転駆動部の回転軸を支える軸受部材、特にベアリングボールには、軸受鋼などの金属材料が主として用いられてきたが、金属材料では耐摩耗性が不十分であることから、近年ではベアリングボールに窒化珪素焼結体などのセラミックス材料が用いられるようになってきている(例えば特開2000-314426号公報参照)。窒化珪素焼結体はセラミックス材料の中でも摺動特性に優れ、良好な耐摩耗性を有するものである。従って、高速回転を行う場合においても、機械的に信頼性のある回転駆動を提供することができる。
【0004】
しかし、窒化珪素製ベアリングボールは電気的に絶縁物であるため、高速回転を行った際に発生する静電気を、軸受鋼などの金属材料からなる回転軸やボール受け部などのベアリングボール以外の軸受部材に上手く逃がすことができないといった問題が発生する。静電気を上手く発散することができないと、ベアリングや周辺部品が必要以上に帯電し、その結果として例えばHDDのように磁気的信号を用いる記録装置では記録媒体に悪影響を与えることになる。
【0005】
そこで、必要以上に静電気が蓄積することを防止するために、絶縁性を低下させた窒化珪素製ベアリングボールの開発が進められている。例えば、電気抵抗値が10-5Ω・m程度の導電性窒化珪素焼結体は従来から知られている(特公平2-43699号公報など参照)。この導電性窒化珪素焼結体においては、金属炭化物や金属窒化物などの導電性付与材が添加されている。金属炭化物や金属窒化物などの導電性化合物を含む窒化珪素焼結体に関しては、特公平7-29855号公報、特許第2566580号公報、特開平6-227870号公報などにも記載されている。電子機器の回転駆動部などに用いられるベアリングボールにおいても、金属炭化物や金属窒化物などの導電性付与材を利用して、絶縁性を低下させた窒化珪素焼結体を使用することが検討されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、金属炭化物や金属窒化物などの導電性付与材は、窒化珪素焼結体の粒界相に存在し、これが窒化珪素の粒成長を阻害する要因となることから、窒化珪素本来の微構造ではなくなると同時に、粒界相自体の強度を低下させることが、本発明者らの研究により明らかとなった。導電性付与材を配合した窒化珪素焼結体からなるベアリングボールでは、特に粒界相の強度低下の影響が大きく、粒界相が選択的に摩耗することが明らかとなった。
【0007】
上述したような低絶縁性窒化珪素焼結体からなるベアリングボールをHDDなどの回転駆動部に適用した場合、ベアリングボールの摩耗が数nm程度であっても、軸受部の騒音を上昇させる要因となる。このようなことから、金属炭化物や金属窒化物などの導電性付与材の配合に起因する窒化珪素焼結体の耐摩耗性の低下、特に粒界相の強度低下などに基づく選択的な摩耗を抑制することが、導電性を付与した電子機器用ベアリングボールの課題となっている。
【0008】
特に、携帯用パソコン、電子手帳、各種モバイル製品などは年々小型化されており、それらに用いられるHDDなどに対しても年々高容量化、小型化の要望が強くなっている。このような要求に応じるために、例えばHDDではさらなる高速回転化が進められており、将来的には10000rpm以上の高速回転が実現されることが予測されている。高速回転を支えるのはベアリングであり、その過大な圧力は実質的にベアリングボールに集中することになる。このように、ベアリングボールはより過酷な条件下での使用が予想され、窒化珪素焼結体の摩耗は助長される傾向にある。従って、導電性付与材の配合に起因する窒化珪素焼結体の摩耗をより確実に抑制する必要がある。
【0009】
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、例えば電子機器用のベアリングボールなどに適用した際に、必要以上に静電気が蓄積することを防止した上で、導電性付与材の配合に起因する摩耗などを抑制することで、安定した高速回転を実現可能とする低絶縁性窒化珪素焼結体とその製造方法、さらにはそのような低絶縁性窒化珪素焼結体を用いた耐摩耗性部材を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体は導電性付与材として炭化珪素および窒化チタンから選ばれる少なくとも1種を10 30 体積%の範囲で含有し、電気抵抗値が0.1〜106Ω・mの範囲である窒化珪素焼結体であって、前記窒化珪素焼結体は金属炭珪化物としてモリブデン、タングステン、ニオブおよびタンタルから選ばれる少なくとも 1 種の金属の炭珪化物を 0.1 10 体積%の範囲で含み、かつ前記金属炭珪化物は前記焼結体中で結晶相を形成していることを特徴としている。
【0012】
本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体の製造方法は窒化珪素粉末、焼結助剤粉末、炭化珪素および窒化チタンから選ばれる少なくとも 1 種からなり、焼結後の含有量が 10 30 体積%の範囲となる導電性付与材、およびモリブデン、タングステン、ニオブおよびタンタルから選ばれる少なくとも 1 種の金属の炭珪化物の焼結後の含有量が 10 30 体積%の範囲となる金属炭珪化物粉末もしくは加熱により金属炭珪化物となる化合物粉末を混合して、原料混合物を調整する工程と、前記原料混合物を所望の形状に成形する工程と、前記成形工程により得た成形体に、1400〜1600℃の温度範囲で30〜150分間加熱保持する前処理を施した後、1700〜1850℃の範囲の温度で焼結する一次焼結工程と、前記一次焼結工程により得た一次焼結体を1500〜1750℃の範囲の温度でHIP処理する二次焼結工程とを具備することを特徴としている。
【0013】
本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体においては、炭化珪素および窒化チタンから選ばれる少なくとも1種の導電性付与材を配合し、窒化珪素焼結体に0.1〜106Ω・mの範囲の電気抵抗値(低絶縁性)を付与した上で、金属炭珪化物を結晶相として焼結体中に存在させている。金属炭珪化物(MxSiyz)は炭化珪素や窒化チタンに比べて硬度が低い反面、靭性に優れる材料であるため、このような金属炭珪化物粒子を粒界相などに存在させることによって、粒界相の強化を図ることができる。
【0014】
また、金属炭珪化物は炭化珪素や窒化チタンに比べると導電性が低いものの、窒化珪素のような絶縁性材料ではなく、ある程度の導電性を有している。従って、金属炭珪化物粒子を粒界相などに存在させることによって、低絶縁性窒化珪素焼結体の導電性を阻害することなく、導電性付与材としての炭化珪素や窒化チタンの配合に起因する摩耗、特に粒界相の選択的な摩耗を抑制することが可能となる。すなわち、良好な導電性と耐摩耗性とを併せ持つ低絶縁性窒化珪素焼結体を提供することができる。
【0015】
本発明の耐摩耗性部材は上記した本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体を具備することを特徴としている。本発明の耐摩耗性部材は特に電子機器用ベアリングボールに好適である。このような電子機器用ベアリングボールによれば、電子機器に対して種々の悪影響を及ぼす静電気を良好に逃がした上で、安定した高速回転を実現することが可能となる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体は0.1〜106Ω・mの範囲の電気抵抗値を有している。ここで、窒化珪素自体は本質的に絶縁性材料であり、一般的には電気抵抗値が108Ω・m以上である。そこで、本発明では窒化珪素焼結体に導電性付与材として炭化珪素および窒化チタンから選ばれる少なくとも1種を含有させ、このような導電性付与材により窒化珪素焼結体に0.1〜106Ω・mの範囲の電気抵抗値を付与している。
【0017】
窒化珪素焼結体の電気抵抗値が106Ω・m(108Ω・cm)を超えると、低絶縁性窒化珪素焼結体としての特性を満足させることができず、例えばベアリングボールとしてHDDの回転駆動部などに適用した際に、高速回転により生じる静電気を回転軸やボール受け部などの金属材料からなる軸受部材に良好に逃がすことができない。すなわち、窒化珪素焼結体の電気抵抗値が106Ω・mを超えると、静電気などの導通量を十分に確保することができない。
【0018】
一方、窒化珪素焼結体の電気抵抗値を0.1Ω・m(10Ω・cm)未満としても、静電気の放散などに関してそれ以上の効果が得られないだけでなく、そのような電気抵抗値を得るためには多量の導電性付与材を添加する必要が生じる。窒化珪素焼結体に多量の導電性付与材を配合すると、導電性付与材同士の凝集体などが多量に発生し、これにより窒化珪素焼結体の破壊靭性値や耐摩耗性などの機械的特性を損なうことになる。窒化珪素焼結体の電気抵抗値は10〜105Ω・mの範囲であることがより好ましい。
【0019】
本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体においては、上記した0.1〜106Ω・mの範囲の電気抵抗値を得るために、窒化珪素焼結体中に炭化珪素(SiC)および窒化チタン(TiN)から選ばれる少なくとも1種の導電性付与材を含有させている。窒化チタンは酸化チタンとして添加し、これを焼結過程で窒化してもよい。炭化珪素や窒化チタンは10-5Ω・m(10-3Ω・cm)以下の電気抵抗値を有し、かつ化学的に安定であることから、焼結過程においても特性や形状を良好に保つことができる。従って、比較的少量の配合量で窒化珪素焼結体に低電気絶縁性(導電性)を良好に付与することが可能となる。さらに、耐熱性や摺動特性にも優れるという特徴を有する。なお、導電性付与材の存在はEPMAやX線回折により分析可能である。
【0020】
上述した炭化珪素や窒化チタンからなる導電性付与材は平均粒径が2μm以下の粒子形状を有することが好ましい。さらに、導電性付与材は最大径が4μm以下であることが好ましく、より好ましくは2μm以下である。このような形状を有する炭化珪素粒子や窒化チタン粒子を用いることによって、窒化珪素焼結体中に導電性付与材を良好に分散させることができる。これに対して、導電性付与材としてウイスカーや繊維を用いると、これらが耐摩耗性部材の表面にトゲ状の凸部として存在するおそれが生じる。表面にトゲ状の凸部が存在すると、摺動時に相手部材への攻撃性が高まると共に、破壊の起点となるおそれがある。
【0021】
導電性付与材の配合量は、目的とする窒化珪素焼結体の電気抵抗値に応じて適宜設定される。上記した0.1〜106Ω・mの範囲の電気抵抗値を得る上で、炭化珪素や窒化チタンの含有量は、窒化珪素焼結体に対して10〜30体積%の範囲とすることが好ましい。導電性付与材の含有量が30体積%を超えると、窒化珪素焼結体の硬度が必要以上に上昇し、耐摩耗性や破壊靭性値などの特性が低下すると共に、窒化珪素の粒成長の阻害要因が増大し、選択的摩耗などがより一層生じやすくなる。導電性付与材の含有量が10体積%未満であると、電気抵抗値を所定の値に制御することが困難になるため、あまり好ましくはない。導電性付与材の配合量は15〜25体積%の範囲とすることがより好ましい。
【0022】
上述した導電性付与材は実質的に窒化珪素焼結体の粒界相に存在することになる。ここで、窒化珪素焼結体の粒界相は、使用した焼結助剤の種類にもよるが、例えばSi−R(希土類元素)−O系化合物、Si−Al−R−O系化合物、Si−Al−O系化合物、Si−R−O−N系化合物、Si−Al−R−O−N系化合物、Si−Al−O−N系化合物などの酸化物や酸窒化物により形成される。このような粒界相(ガラス相)に高硬度の炭化珪素粒子や窒化チタン粒子が存在すると粒界相の靭性やねばりなどが低下して、前述したように粒界相の選択的な摩耗などが生じやすくなる。
【0023】
そこで、本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体においては、金属炭珪化物(MxSiyz)の結晶相を窒化珪素焼結体中に存在させている。ここで、Mは任意の遷移金属であり、x、yおよびzは任意の係数である。金属炭珪化物粒子などの結晶相は主として窒化珪素焼結体の粒界相に存在する。金属炭珪化物粒子(MxSiyz粒子)は、炭化珪素粒子や窒化チタン粒子に比べて硬度が低いものの、その反面として靭性に優れることから、粒界相に靭性やねばりなどが付与される。言い換えると、粒界相が強化され、粒界相の選択的な摩耗を抑制することが可能となる。
【0024】
また、金属炭珪化物(MxSiyz)は炭化珪素や窒化チタンに比べると導電性が低いものの、窒化珪素のような絶縁性材料ではなく、ある程度の導電性を有している。従って、金属炭珪化物粒子を粒界相などに存在させることによって、低絶縁性窒化珪素焼結体の導電性を阻害することなく、導電性付与材としての炭化珪素や窒化チタンの配合に起因する摩耗、特に粒界相の選択的な摩耗を抑制することが可能となる。すなわち、低絶縁性窒化珪素焼結体に良好な導電性と耐摩耗性を付与することができる。なお、金属炭珪化物の結晶相の存在はX線回折により特定することができる。
【0025】
上述した金属炭珪化物(MxSiyz)としては、各種遷移金属元素の炭珪化物を使用することができるが、特にモリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)およびタンタル(Ta)から選ばれる少なくとも1種の金属の炭珪化物を用いることが好ましい。このような金属炭珪化物(M1 xSiyz:M1はMo、W、NbおよびTaから選ばれる少なくとも1種、x、y、zは任意の数)は、粒界相などの耐摩耗性をより一層良好に向上させることから、本発明において好ましく用いられるものである。なお、本発明で言う金属炭珪化物(MxSiyz)とはあくまでも遷移金属の炭珪化物であり、炭化珪素(SiC)は含まれない。
【0026】
窒化珪素焼結体への金属炭珪化物の配合は、例えば炭珪化モリブデンや炭珪化タンタルなどの金属炭珪化物粉末を、窒化珪素焼結体の原料混合物に直接添加することに限らず、加熱により金属炭珪化物となる化合物粉末を原料混合物に添加してもよい。すなわち、上述したMo、W、Nb、Taなどの炭化物粉末を含む原料混合物を用いて、本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体を作製すると、その焼結過程で金属炭化物(MxC)と珪素(例えば粒界に存在するSiOなど)とが反応し、金属炭珪化物(MxSiyz)が生成する。このような焼結過程で粒界相に析出させた金属炭珪化物粒子を利用してもよい。
【0027】
上述したように、金属炭珪化物粒子を焼結過程で粒界相に析出させる場合、その生成反応は例えば以下の反応式に基づくものである。
反応式:SiO+MxC→MxSiyz+CO↑
上記した反応式に示されるように、金属炭珪化物の生成反応は成形体内部からCOガスを系外に放出しながら進行するため、金属炭珪化物と粒界相(ガラス相)との界面の親和性を高めることができる。これによって、金属炭珪化物粒子の脱粒などが安定して抑制されることから、低絶縁性窒化珪素焼結体の耐摩耗性をより一層向上させることが可能となる。
【0028】
金属炭珪化物の結晶相(金属炭珪化物粒子など)の大きさや形状は、特に限定されるものではないが、その平均粒径は5μm以下であることが好ましい。金属炭珪化物粒子は主として粒界相に存在するため、その大きさがあまり大きいと粒界相の強化効果が低減するおそれがある。金属炭珪化物の結晶相の平均粒径は0.5〜3μmの範囲であることがより好ましい。このような理由から、金属炭珪化物粉末を直接使用する場合には、平均粒径が5μm以下、さらには3μm以下の粉末を使用することが好ましい。焼結過程で析出させる金属炭珪化物は基本的に微結晶相となる。
【0029】
また、金属炭珪化物の含有量は、窒化珪素焼結体の全量に対して0.1〜10質量%の範囲とすることが好ましい。金属炭珪化物の含有量があまり少ない場合には、粒界相の靭性やねばりなどを高める効果が不十分となり、例えば粒界相の選択的な摩耗を十分に抑制することができない。一方、金属炭珪化物の含有量が過剰になると、窒化珪素の緻密化焼結が逆に妨げられるおそれがある。このようなことから、金属炭珪化物の含有量は窒化珪素焼結体に対して0.1〜10質量%の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは2〜8質量%の範囲である。なお、焼結過程で金属炭珪化物を生成する場合には、金属炭化物などの化合物粉末を金属炭珪化物に換算して添加量を調整するものとする。
【0030】
本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体は、導電性付与材を配合すると共に、金属炭珪化物を焼結体中に結晶相として存在させる以外は一般的な窒化珪素焼結体と同様に、各種の金属化合物を焼結助剤として含むことができる。焼結助剤としては、例えば希土類元素(イットリウムを含むランタノイド元素)の酸化物、アルカリ土類元素の酸化物などが用いられる。希土類元素の酸化物としては、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)などの酸化物を使用することが好ましい。これらは粒界相の構成成分となるものである。また、アルカリ土類元素の酸化物としては、マグネシウムやカルシウムの酸化物を用いることが好ましい。なお、焼結助剤としての化合物には、焼結時に酸化物となる希土類元素やアルカリ土類元素の化合物(炭酸塩など)を用いてもよい。
【0031】
また、上述した希土類元素やアルカリ土類元素の酸化物に加えて、窒化アルミニウムや酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物、さらにチタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの酸化物や窒化物を、焼結助剤の一部として用いることも有効である。アルミニウム化合物は窒化珪素結晶粒間の結合力の強化に寄与する。これらの化合物は酸化物や窒化物として添加してもよいし、焼結時に酸化物や窒化物となる化合物を添加してもよい。
【0032】
上述したような焼結助剤は窒化珪素100質量部に対して5〜20質量部の範囲で含有させることが好ましい。焼結助剤量が5質量部未満であると、窒化珪素焼結体を十分に緻密化できないおそれがある。一方、焼結助剤量が20質量部を超えると、粒界相や焼結助剤成分の偏析の形成量が必要以上に増加し、これにより窒化珪素焼結体の耐摩耗性や強度の低下などを招くおそれがある。上述した焼結助剤のうち、希土類酸化物の含有量は5〜15質量部の範囲とすることが好ましく、またアルカリ土類酸化物の含有量は0.5〜5質量部の範囲とすることが好ましい。さらに、これらに加えて窒化アルミニウムや酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物を1〜7質量部の範囲で含有させることが好ましい。
【0033】
本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば以下に示すような方法により製造することが好ましい。まず、窒化珪素粉末、焼結助剤粉末、導電性付与材粉末、および金属炭珪化物粉末(もしくは加熱により金属炭珪化物となる化合物粉末(例えば金属炭化物粉末))をそれぞれ所定量秤量し、これらを均一に混合して原料混合物を調製する。
【0034】
上記した各原料粉末には、摺動特性を考慮してウイスカーや繊維ではなく、粒子状粉末を用いることが好ましい。各原料粉末の大きさは特に限定されるものではないが、窒化珪素粉末は平均粒径が0.2〜1μmの範囲が好ましく、焼結助剤粉末は平均粒径が2μm以下であることが好ましい。導電性付与材粉末の平均粒径は2μm以下であることが好ましい。導電性付与材粉末の平均粒径が2μmを超えると、焼結性の阻害が著しくなる。金属炭珪化物粉末の平均粒径は前述したように5μm以下、さらには3μm以下が好ましい。
【0035】
また、各原料粉末を混合するにあたっては、まず窒化珪素粉末と焼結助剤粉末とを混合して第1の混合粉末を調製し、この第1の混合粉末に導電性付与材粉末を混合して第2の混合粉末を調製した後、第2の混合粉末に金属炭珪化物粉末(もしくは加熱により金属炭珪化物となる化合物粉末)を混合することが好ましい。このように、段階的に混合粉末を調製し、最終的に全原料を含む原料混合物を調製することによって、導電性付与材や金属炭珪化物を均一分散させることができる。各段階の混合はそれぞれ30分以上行い、各混合粉末を十分に均一化した後に、次の混合工程を実施することが好ましい。
【0036】
上述した原料混合物は必要に応じて造粒した後、所望の形状に成形する。成形方法に関しては、通常の成形方法を適用することができ、例えば冷間静水圧プレス(CIP)を適用して成形体を作製することが好ましい。このようにして得た成形体を焼結することによって、本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体が得られる。焼結方法に関しては、常圧焼結、加圧焼結、熱間静水圧プレス(HIP)などが適用可能であるが、特に常圧焼結や加圧焼結などによる一次焼結と、HIPによる二次焼結とを組合せた2段階焼結を適用することが好ましい。
【0037】
一次焼結工程は大気圧下もしくは雰囲気加圧下にて1700〜1850℃の範囲の温度で実施する。このような一次焼結工程の前処理として、まず焼結助剤による液相が生成し、かつ窒化珪素がα相からβ相に転移して結晶粒の再配列が起こる温度、すなわち1400〜1600℃の温度で、成形体を30〜150分間加熱保持する。このような温度での前処理(加熱保持)を経ることによって、加熱により金属炭珪化物となる化合物粉末を用いた場合は、金属炭化物などの化合物粉末を珪素と良好に反応させることができ、金属炭珪化物を十分に生成することが可能となる。さらに、金属炭珪化物粒子の分散性や粒界相とのなじみ性が向上するため、金属炭珪化物による粒界相の強化効果を高めることができる。
【0038】
上述した1400〜1600℃の温度範囲における加熱時間が不十分であると、金属炭珪化物を十分に生成できなかったり、あるいは粒界相とのなじみが不十分となって、粒界相の摩耗抑制効果が低減するおそれが大きい。このようなことから、一次焼結工程の昇温過程における1400〜1600℃の温度範囲の加熱時間が30〜150分間となるように、例えば一定の温度で保持したり、あるいは昇温速度を調整する。なお、前処理としての加熱保持温度が1400℃に満たないと、上記したような効果が得られず、一方1600℃を超えると窒化珪素の焼結が進行してしまうため、やはり十分な効果が得られない。
【0039】
このような前処理を経た後に、1700〜1850℃の範囲の温度で所定時間保持することにより一次焼結体を作製する。ここで、一次焼結温度が1700℃未満であると、その後にHIP処理を施しても十分に緻密質な窒化珪素焼結体を得ることができない。また、一次焼結温度を1850℃を超えて設定してもそれ以上の効果が得られないだけでなく、窒化珪素結晶粒や焼結助剤成分の偏析が粗大化して焼結体の機械的強度が低下してしまう。さらに、焼成炉などの消耗も激しくなる。
【0040】
次に、一次焼結工程により得た一次焼結体に対してHIP(熱間静水圧プレス)処理を施し、窒化珪素焼結体の高密度化を図る。二次焼結工程としてのHIP処理の温度は1500〜1750℃の範囲とする。HIP処理温度が1500℃未満であると、窒化珪素焼結体(二次焼結体)を十分に高密度化できない。一方、HIP処理温度が1750℃を超えると、窒化珪素結晶粒の不要な粗大化などが起こり、窒化珪素焼結体の機械的強度が低下するおそれがある。HIP処理時の印加圧力は90〜170MPaの範囲とすることが好ましい。
【0041】
上述したような条件下で一次焼結工程および二次焼結工程を実施することによって、目的とする低絶縁性窒化珪素焼結体が得られる。このような低絶縁性窒化珪素焼結体は、通常の工作機械などに適用される耐摩耗性部材として使用することも可能であるが、特に電子機器用耐摩耗性部材として好適に用いられるものである。電子機器用耐摩耗性部材の具体例としては、各種電子機器の回転駆動部に用いられる転動体、例えばベアリングボールが挙げられる。転動体の形状は通常真球が一般的であるが、円柱状や棒状などであってもよい。本発明の耐摩耗性部材は、特に直径が3mm以下の小さいベアリングボールに対して有効である。
【0042】
図1は本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体からなる電子機器用ベアリングボールを有するベアリングの一例を示す図である。図1に示すベアリング1は、本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体からなる複数のベアリングボール2と、これらベアリングボール2を支持する内輪3および外輪4とを有している。内輪3や外輪4はJIS-G-4805で規定されるSUJ2などの軸受鋼で形成することが好ましく、これにより信頼性のある高速回転を実現することが可能となる。なお、基本構成は通常のベアリングと同様である。
【0043】
上述したようなベアリングが適用される電子機器としては、HDDなどの磁気記録装置、CD−ROMやDVDなどの光ディスク装置、ディスク型の各種ゲーム装置などが挙げられる。光ディスク装置は、光磁気記録装置、相変化型光記録装置、再生専用型光ディスク装置などの種々の装置を含むものである。さらに、これら以外にも回転駆動部を有する電子機器であれば種々の装置に対して適用可能である。
【0044】
磁気記録装置、光ディスク装置、ディスク型ゲーム装置などにおいては、媒体駆動用スピンドルモータの回転駆動部に本発明の耐摩耗性部材がベアリングボールなどとして用いられる。これらの電子機器において、スピンドルモータは例えば4000rpm以上の回転速度、さらには7000rpm以上の回転速度で駆動される。低絶縁性窒化珪素焼結体からなるベアリングボールは、安定した高速回転を実現した上で、高速回転により生じる静電気を良好に逃がすことができる。これによって、電子機器の静電気による不具合、さらにはベアリングボールの摩耗による騒音の発生などを解消することが可能となる。
【0045】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例とその評価結果について述べる。
【0046】
実施例1〜13、比較例1〜6
まず、平均粒径が0.7μmの窒化珪素粉末90質量部に対して、焼結助剤として平均粒径0.8μmの酸化イットリウム粉末を5質量部、および平均粒径0.9μmの酸化アルミニウム粉末を5質量部添加し、これらを窒化珪素製ボールミルで2時間混合した。このよう混合粉末を複数用意し、それぞれに平均粒径0.5μmの炭化珪素粉末および平均粒径0.8μmの窒化チタン粉末の少なくとも一方を、所定の体積比となるように添加した後、窒化珪素製ボールミルで24時間混合した。
【0047】
なお、炭化珪素粉末および窒化チタン粉末の添加量は、最終的な原料混合物中の体積比が表1の値となるようにそれぞれ調整した。また、実施例8については窒化チタンに代えて酸化チタンを添加し、これを焼結過程で窒化させて窒化チタン粒子とした。
【0048】
次いで、上記した導電性付与材を配合した各混合粉末に、それぞれ総質量に対する比率が表1の値となるように、表1に示す金属炭珪化物粉末または金属炭化物粉末を添加した後、同様に窒化珪素製ボールミルで24時間混合した。これら各混合粉末を適当な容器に移して数時間乾燥させた後、適量のPVA水溶液を加えて撹拌し、さらに500μmの篩で通篩することによって、それぞれ原料混合粉末を調製した。
【0049】
次に、各原料混合粉末を98MPaの圧力で金型プレスした後、300MPaの条件でCIPを行って、それぞれ成形体を作製した。得られた各成形体を脱脂した後、窒素雰囲気中にて表1に示す一次焼結温度で2時間焼結した。この一次焼結工程の昇温過程で1400〜1600℃の温度範囲を表1に示す保持時間で加熱保持し、この加熱保持に引き続いて一次焼結を行った。続いて、表1に示すHIP温度でHIP焼結(二次焼結)を実施した。HIP圧力はいずれも98MPaとした。さらに、各焼結体の表面をJIS-B-1501で定められたグレード5(Ra0.02μm)程度に研磨した。このようにして、それぞれ目的とする窒化珪素焼結体を作製した。
【0050】
また、本発明との比較のために、導電性付与材を添加していない窒化珪素焼結体(比較例1)、金属炭珪化物を添加していない窒化珪素焼結体(比較例2)、導電性付与材を過剰に添加した窒化珪素焼結体(比較例3)、導電性付与材の添加量を過少量とした窒化珪素焼結体(比較例4)、金属炭珪化物を過剰に添加した窒化珪素焼結体(比較例5)、一次焼結工程の前処理(1400〜1600℃)の加熱保持時間を短くした窒化珪素焼結体(比較例6)を、それらの条件以外は実施例と同様にして作製した。
【0051】
【表1】
Figure 0004130324
【0052】
上述した実施例1〜13および比較例1〜6による各窒化珪素焼結体の炭珪化物結晶相の平均粒径と電気抵抗値を測定した。その結果を表2に示す。なお、炭珪化物結晶相の平均粒径は、各焼結体の断面を研磨加工した後、研磨面の任意の3箇所(単位面積50×50μm)を測定箇所として選択し、各測定箇所においてEPMAによるカラーマップを利用して炭珪化物結晶相の大きさを測定し、これらの平均値として求めた。電気抵抗値は、各焼結体の上下面をラップ加工して、上下面にそれぞれ電極を設置し、室温にてその間の抵抗(体積抵抗値)を絶縁抵抗計で測定した。
【0053】
また、実施例1〜13および比較例1〜6による各窒化珪素焼結体について、転がり寿命、摩耗深さ、およびHDDに用いた際の静電気による不具合の有無を調べた。転がり寿命はスラスト型軸受試験機を用い、SUJ2鋼製ボール(3/8インチ)を相手材として、各窒化珪素焼結体製平板上を回転させることにより測定した。転がり寿命の測定条件は、1球あたりの最大接触応力を5.1GPa、回転数を1200rpmとし、タービン油の油浴潤滑下で最高400時間まで回転させ、窒化珪素焼結体製平板の表面が剥離するまでの時間で評価した。なお、「打ち切り」とは400時間の経過後にも剥離が生じなかったものである。摩耗深さは400時間経過後の平板表面の摩耗量である。
【0054】
また、静電気による不具合の有無は、各実施例および比較例と同一条件で作製したベアリングボールを10個一組としてベアリングをそれぞれ作製し、これらをそれぞれスピンドルモータに組込んでHDD用モータとして使用して、スピンドルモータを回転速度7200rpmで200時間連続稼動させた際の静電気による不具合の有無を調べた。静電気による不具合はHDDを各100台用意して測定した。ボール受け部などの他のベアリング部材には軸受鋼SUJ2材を使用した。
【0055】
【表2】
Figure 0004130324
【0056】
表2から明らかなように、各実施例の低絶縁性窒化珪素焼結体はいずれも静電気による不具合を解消することができるだけでなく、転がり寿命や耐摩耗性に優れる(摩耗量が少ない)ことが分かる。これに対して、比較例1は導電性付与材を配合していないために静電気による不具合が発生しており、また金属炭珪化物を配合していない比較例2は400時間の転がり寿命を達成しているものの、実施例に比べて摩耗量が多いことが分かる。また、導電性付与材を過剰に配合した比較例3、金属炭珪化物を過剰に配合した比較例5、および加熱保持時間が短くて金属炭珪化物の生成が不十分な比較例6は、いずれも転がり寿命が劣っている。さらに、導電性付与材の配合量が少ない比較例4においても、静電気による不具合が発生している。
【0057】
実施例14〜16
焼結助剤の種類や添加量を変更する以外は、実施例1と同様の製造工程によって、それぞれ低絶縁性窒化珪素焼結体を作製した。実施例14については窒化珪素粉末92質量部に対して、焼結助剤として酸化イッテルビウム粉末を5質量部、および酸化アルミニウム粉末を3質量部添加した。また、実施例15については窒化珪素粉末91質量部に対して、焼結助剤として酸化セリウム粉末を5質量部、および酸化マグネシウム粉末を4質量部添加し、実施例16については窒化珪素粉末88質量部に対して、焼結助剤として酸化エルビウム粉末を8質量部、酸化アルミニウム粉末を2質量部、および窒化アルミニウム粉末を2質量部添加した。
【0058】
【表3】
Figure 0004130324
【0059】
上述した実施例14〜16による各窒化珪素焼結体の炭珪化物結晶相の平均粒径と電気抵抗値を、実施例1と同様にして測定した。また、各窒化珪素焼結体について、転がり寿命、摩耗深さ、およびHDDに用いた際の静電気による不具合の有無を、実施例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表4に示す。
【0060】
【表4】
Figure 0004130324
【0061】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体によれば、電子機器用耐摩耗性部材などに適用した際に、必要以上に静電気が蓄積することを防止した上で、導電性付与材の配合に起因する摩耗などを抑制することが可能となる。また、本発明の製造方法によれば、そのような低絶縁性窒化珪素焼結体を再現性よく製造することができる。さらに、本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体を適用した耐摩耗性部材によれば、例えば各種電子機器の静電気による不具合を解消した上で、回転駆動部において信頼性に優れた高速回転を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の低絶縁性窒化珪素焼結体からなるベアリングボールを用いたベアリングの一構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
1……ベアリング,2……ベアリングボール,3……内輪,4……外輪

Claims (7)

  1. 導電性付与材として炭化珪素および窒化チタンから選ばれる少なくとも1種を10 30 体積%の範囲で含有し、電気抵抗値が0.1〜106Ω・mの範囲である窒化珪素焼結体であって、
    前記窒化珪素焼結体は金属炭珪化物としてモリブデン、タングステン、ニオブおよびタンタルから選ばれる少なくとも 1 種の金属の炭珪化物を 0.1 10 体積%の範囲で含み、かつ前記金属炭珪化物は前記焼結体中で結晶相を形成していることを特徴とする低絶縁性窒化珪素焼結体。
  2. 請求項記載の低絶縁性窒化珪素焼結体において、
    前記金属炭珪化物の結晶相は5μm以下の平均粒径を有することを特徴とする低絶縁性窒化珪素焼結体。
  3. 窒化珪素粉末、焼結助剤粉末、炭化珪素および窒化チタンから選ばれる少なくとも 1 種からなり、焼結後の含有量が 10 30 体積%の範囲となる導電性付与材、およびモリブデン、タングステン、ニオブおよびタンタルから選ばれる少なくとも 1 種の金属の炭珪化物の焼結後の含有量が 10 30 体積%の範囲となる金属炭珪化物粉末もしくは加熱により金属炭珪化物となる化合物粉末を混合して、原料混合物を調整する工程と、
    前記原料混合物を所望の形状に成形する工程と、
    前記成形工程により得た成形体に、1400〜1600℃の温度範囲で30〜150分間加熱保持する前処理を施した後、1700〜1850℃の範囲の温度で焼結する一次焼結工程と、
    前記一次焼結工程により得た一次焼結体を1500〜1750℃の範囲の温度でHIP処理する二次焼結工程と
    を具備することを特徴とする低絶縁性窒化珪素焼結体の製造方法。
  4. 請求項記載の低絶縁性窒化珪素焼結体の製造方法において、
    前記一次焼結工程の前処理により、前記加熱により金属炭珪化物となる化合物粉末を、前記成形体中の珪素と反応させて、金属炭珪化物を生成することを特徴とする低絶縁性窒化珪素焼結体の製造方法。
  5. 請求項または請求項記載の低絶縁性窒化珪素焼結体の製造方法において、
    前記一次焼結工程の前処理により、前記金属炭珪化物を窒化珪素結晶粒間に存在する粒界相内に結晶相として分布させることを特徴とする低絶縁性窒化珪素焼結体の製造方法。
  6. 請求項1または請求項記載の低絶縁性窒化珪素焼結体を具備することを特徴とする耐摩耗性部材。
  7. 請求項記載の耐摩耗性部材において、
    前記耐摩耗性部材は電子機器用ベアリングボールであることを特徴とする耐摩耗性部材。
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