JP2004161605A - 耐摩耗性部材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】窒化珪素焼結体における焼結助剤成分の偏析部または凝集部の大きさを制御して、表面精度に優れ、高い摺動性を有しつつ、耐摩耗性に優れた耐摩耗性部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】窒化珪素を主成分とするセラミックスで形成された耐摩耗性部材であって、上記窒化珪素焼結体に形成される焼結助剤成分の凝集部または偏析部の最大径が10μm以下であることを特徴とする耐摩耗性部材。
【選択図】 図1
【解決手段】窒化珪素を主成分とするセラミックスで形成された耐摩耗性部材であって、上記窒化珪素焼結体に形成される焼結助剤成分の凝集部または偏析部の最大径が10μm以下であることを特徴とする耐摩耗性部材。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐摩耗性部材に関し、特に、摺動性に優れ、耐摩耗性が高く、ベアリングボールの構成材料として好適な耐摩耗性部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気記録装置やDVD、またはモバイル製品や各種ゲーム機器等の発達は目覚しいものがある。これらの機器は、通常、スピンドルモータ等の回転駆動装置により回転軸を高速回転させることによりディスクドライブを機能させている。
【0003】
従来、回転軸を支えるベアリング(軸受)部材、特にベアリングボールには、軸受鋼等の金属が用いられてきた。しかしながら、軸受鋼等の金属は、耐摩耗性が十分でないことから、例えば、前記電子機器のように5000rpm以上の高速回転が要求される分野においては、耐久性が低く、また部材ごとの耐久性のばらつきが大きいという問題があった。
【0004】
また、上記従来のベアリングボールは、摩耗による摺動性の劣化や、振動による音響特性の低下等の不具合が生じやすく、そのため、信頼性が高い回転駆動機構を提供することが困難な状況であった。
【0005】
このような不具合を解決するために、近年、ベアリングボールに窒化珪素を主成分とするセラミックス焼結体材料を用いる試みが為されている。窒化珪素焼結体は金属に比較して軽量であり、また、各種のセラミックス焼結体材料の中でも特に摺動特性に優れ、十分な耐摩耗性を有し、機器の高速回転時における信頼性を向上させることが可能であるため、高機能の回転駆動機構を提供することができる。
【0006】
このような窒化珪素焼結体製の摺動部材としては、窒化珪素を主原料とするセラミックス焼結体に存在する焼結助剤成分の最大偏析部が100μm以下とするものがある。
【0007】
こうした窒化珪素焼結体は、主成分としての窒化珪素に、主にMg,Al,Y,Sc,La,Ce等の金属元素の酸化物や窒化物を焼結助剤として添加して、液相焼結により焼結体を高密度化させて使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】
特許第2755702号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
近年、HDDの小型化、高容量化に伴い、回転部の回転数も8000rpm〜10000rpm以上のさらなる高速回転が要求されつつある。このような高速回転に際して、ベアリングボールの摺動特性は、その表面精度に依存する。特に、窒化珪素焼結体製のベアリングボールの場合、ベアリングボールの表面精度には、焼結助剤成分の偏析部または凝集部の大きさが影響することが本発明者らの知見として得られている。
【0010】
また、機器の高速化、高容量化に伴い、摺動部材に要求される表面精度も高精度なものとなり、焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径も数μmのオーダーに抑制することにより摺動特性を飛躍的に向上させることができるという知見も本発明者らは得ていた。
【0011】
しかしながら、現状の窒化珪素焼結体において焼結助剤成分の偏析部または凝集部は、大きなもので数十μmに達するため、高速回転機器のベアリングボールとして使用する際の表面精度の向上には限界があった。
【0012】
また、こうした焼結助剤成分の偏析部または凝集部の大きさと表面精度との関係について規定し、さらに十分な摺動特性を実現することが可能な摺動部材の製造方法を提供する技術は、これまでのところ提案されていなかった。
【0013】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、窒化珪素焼結体における焼結助剤成分の偏析部または凝集部の大きさを制御して、表面精度に優れ、高い摺動性を有する耐摩耗性部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、耐摩耗性部材における焼結助剤成分の偏析部または凝集部の大きさと、表面精度との関係について研究し、特に上記偏析部または凝集部の最大径を10μm以下とすることにより、十分な表面精度を備え、摺動性に優れた耐摩耗性部材とすることが可能であるとの知見を得て本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明に係る耐摩耗性部材は、焼結助剤成分の凝集部または偏析部の最大径が10μm以下である窒化珪素焼結体から成ることを特徴とする。
【0016】
本発明の耐摩耗性部材を構成する窒化珪素焼結体としては、例えば、窒化珪素を90質量%含有し、平均粒径が1.0μm以下の窒化珪素粉末に、希土類元素を酸化物に換算して2〜17.5質量%、必要によりMgAl2O4スピネルを2〜7質量%、Si,Ti,Hf,Zr,W,Mo,Ta,Nb,Crからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して10質量%以下添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を非酸化性雰囲気中で温度1600℃以下で焼結したものが好適に使用される。
【0017】
本発明者らによれば、上記のような原料により作製した耐摩耗性部材において、焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径を10μm以下とすることにより、耐摩耗性部材の表面精度が向上し、摺動性に優れた耐摩耗性部材とすることが可能である。
【0018】
ここで偏析部または凝集部の最大径とは、隣接する窒化珪素結晶粒子の間の粒界相に形成される焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大長さを言い、窒化珪素焼結体の表面または断面の拡大写真において、偏析部または凝集部における最も長い対角線として定義される。
【0019】
また、より好ましくは、耐摩耗性部材において、焼結助剤成分の凝集部または偏析部の最大径が10μm以下である。また、偏析部または凝集部の最大径は5μm以下であることがより好ましく、さらに、偏析部または凝集部の最大径を0.1〜0.15μmとした耐摩耗性部材がより好ましい。
【0020】
また、上記構成に係る耐摩耗性部材は、不純物としての鉄の含有量が600ppm以下であることが好ましい。
【0021】
耐摩耗性部材のセラミックス原料は、不可避的に不純物として鉄を含有する。この鉄の含有量が多いと、偏析を生じ易いことが、本発明者らの知見として得られている。そのため本発明の耐摩耗性部材では、この鉄の含有量を600ppm以下として焼結助剤成分の偏析を防止している。
【0022】
本発明者らの知見によれば、耐摩耗性部材の鉄含有量を600ppm以下とすることにより、焼結助剤成分の偏析が効果的に抑制され、偏析部または凝集部の最大径を10μm以下とすることが可能である。
【0023】
一方、前記耐摩耗性部材は、不純物としての鉄の含有量が30ppm以上であっても特に大きな不都合は生じない。
【0024】
前記の通り、セラミックス原料に含まれる鉄等の不純物は、焼結助剤成分の偏析の原因となるため、耐摩耗性部材の製造には、より不純物の少ないセラミックス原料を用いることが好ましい。
【0025】
しかしながら、セラミックス原料を高精度に精製することは、分離精製コストの高騰を招くため好ましくない。
【0026】
そこで本発明者らは、耐摩耗性部材を製造する際に、製造方法を工夫することにより、焼結助剤成分の偏析が抑制され、表面精度が向上されて、摺動性および耐摩耗性が良好な耐摩耗部材を得られるという知見を得て、さらに、高純度に精製されたセラミックス原料を使用しなくても、高機能の耐摩耗性部材とすることが可能であるという知見を得た。
【0027】
すなわち、本発明の耐摩耗性部材は、焼結助剤の偏析部の最大径を10μm以下に抑制したので、セラミックス原料の不純物としての鉄の含有量が30ppm以上であっても、摺動性および耐摩耗性に優れた耐摩耗性部材とすることが可能である。
【0028】
一方、本発明者らは、耐摩耗性部材において、焼結助剤としてスピネル,酸化マグネシウム等の金属酸化物または酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等のアルミニウム化合物,酸化チタン等の4a族金属化合物等を併用した場合について好適な材料混合比率および材料特性について研究した。
【0029】
すなわち、耐摩耗性部材に焼結助剤として上記材料を添加する場合、MgAl2O4スピネルを1〜5質量%、Si,Ti,Zr,Hf,W,Mo,Ta,NbおよびCrからなる群より選択される少なくとも1種類を酸化物および炭化物に換算して10質量%以下含有し、気孔率が1%以下であり、不純物としてFeを10〜3500ppmと、Caを10〜1000ppm含有する。
【0030】
または、耐摩耗性部材は、焼結助剤として酸化マグネシウムを0.5〜4.5質量%、酸化アルミニウムを0.5〜4.5質量%含有する。
【0031】
焼結助剤としてスピネルや酸化マグネシウムあるいはアルミニウム化合物を添加した場合、不純物としての鉄の含有量は、10〜3500ppmとすることが好ましい。焼結助剤がスピネルや酸化マグネシウムあるいはアルミニウム化合物の場合、鉄の含有量が3500ppm以下であれば、耐摩耗性部材の摺動性能が良好である。一方、耐摩耗性部材の不純物としての鉄の含有量が10ppm以上であっても、強度や摺動性能の低下等の不都合を生じない。
【0032】
また、耐摩耗性部材においてカルシウムの含有量は、10〜1000ppmとすることが好ましい。カルシウムの含有量が1000ppm以下であれば、耐摩耗性部材の摺動性能が良好である。一方、耐摩耗性部材の不純物としてのカルシウムの含有量が10ppm以上であっても、強度や摺動性能の低下等の不都合を生じない。
【0033】
一方、耐摩耗性部材の気孔率は、1.0%以下であることが好ましい。耐摩耗性部材の気孔率が1.0%を超えると、焼結助剤成分の偏析または凝集が起こりやすい。
【0034】
また、耐摩耗性部材の焼結部材としてスピネル,酸化マグネシウム等の金属酸化物または酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等のアルミニウム化合物,酸化チタン等の4a族金属化合物等を併用した場合、焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径が20μm以下であることが好ましい。
【0035】
また、耐摩耗性部材は、ビッカース硬度Hvが1300〜1500であることが好ましい。また、破壊靭性値が6.0MPa・m1/2以上であることが好ましく、さらに、抗折強度が600MPa以上であることが好ましい。さらに、窒化珪素焼結体球の圧砕強度が100N/mm2以上であることが好ましい。
【0036】
尚、ビッカース硬度はJIS-R-1610で規定された測定法により試験荷重198.1Nで室温にて試験を行った。また破壊靭性値はJIS-R-1607で規定されたIF法に基づき測定し、niiharaの式により算出したものである。圧砕強度は旧JIS規格B1501に準じた測定法により、インストロン型試験機で圧縮加重をかけ、破壊時の荷重を測定することにより対応した。抗折強度はJIS-R-1601で規定された3点曲げ強さ試験に準じた測定法により測定した。
【0037】
本発明の耐摩耗性部材は、摺動部材として十分な耐久性を期待される部材であるため、十分な硬度及び強度を備えることが好ましい。この耐摩耗性部材は、ビッカース硬度Hvが1300〜1500と高硬度であり、また破壊靭性値が6.0MPa・m1/2以上で、さらに抗折強度が600MPa以上と強度が高く、圧砕強度が100N/mm2以上であるため、摺動部材として十分な耐久性を発揮する。
【0038】
また、耐摩耗性部材としてのベアリングボールは、直径が3mm以下とすることが好ましい。
【0039】
従来、直径が3mm以下の小径のベアリングボールは、耐摩耗性部材の表面精度により影響を受けやすく、満足な摺動性を保持できないため、振動や音響特性に影響する場合があった。
【0040】
この耐摩耗性部材は、焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径が20μm以下に抑制されるため、表面精度が向上されており、摺動性能が極めて良好である。このような耐摩耗性部材は、特に小径のベアリングボールに適用されて良好な摺動性能を発揮し、高性能の摺動回転機器を提供することが可能である。
【0041】
一方、本発明に係る耐摩耗性部材の製造方法は、助剤成分を予め混合して均一に分散させた後に、主原料である窒化珪素粉末を混合して原料混合体を調製し、この原料混合体を成形後、脱脂工程を経て、焼結して製造することを特徴とする。
【0042】
セラミックス焼結体の製造方法は、通常、原料粉末と焼結助剤成分とを混合し、これを成形し、脱脂工程を経て、焼結する製造方法が採用される。しかしながら、原料粉末の十分な混合には時間を要し、また原料粉末の混合が十分でない場合、均質な原料とすることができず、焼結助剤成分の偏析の原因となることがある。
【0043】
本発明者は、耐摩耗性部材の製造の際に、原料粉末の混合方法や混合時間を調整することにより耐摩耗性部材における焼結助剤成分の偏析部または凝集部の大きさを制御することが可能であることを見出した。
【0044】
すなわち、本発明の耐摩耗性部材の製造方法は、焼結助剤成分の凝集を防止するため、予め焼結助剤成分を混合し、十分混合して均質化した後、窒化珪素材料粉末を添加してさらに混合することを特徴とする。
【0045】
また、本発明の耐摩耗性部材の製造方法において、各原料粉末すなわち焼結助剤粉末および窒化珪素粉末をあらかじめ分割して1回で混合処理する原料重量を制限し、それらの分割された焼結助剤粉末と窒化珪素粉末とを混合する。分割した他の原料粉末についても同様に混合して複数の混合粉末を調製する。そしてこれらを一つに統合してさらに十分に混合して原料粉末を調整し、成形後、脱脂工程を経て、焼結して耐摩耗性部材を製造する方法を採用することを特徴としている。
【0046】
例えば、1ロット分(総量5kg)の原料粉末を混合するにあたり、各原料粉末をそれぞれ2分割以上、好ましくは3〜5分割して比較的少量ずつ均一に混合した後、さらに最終的に1つの原料混合体として合体して、さらに十分に混合する。
【0047】
このように焼結助剤を予め混合し、さらに原料粉末を少なくとも2分割してそれぞれ混合したのち1つに統合して混合する製造方法とすることにより、より均質な原料粉末を得ることが可能であり、高品質の耐摩耗性部材を提供することができる。
【0048】
こうして得られた原料粉末を成形する方法としては、冷間静水圧成形法(CIP)が適用可能である。また焼結方法としては、常温焼結,加圧焼結,熱間静水圧プレス(HIP)焼結が適用可能である。
【0049】
一方、窒化珪素粉末および焼結助剤を混合し、この混合粉末に特に分散性が低い焼結助剤粉末を、順次間隔を置いて添加して混合する製造方法も採用される。例えば、分散性が低い焼結助剤粉末を、好ましい添加量を2分割以上に分割したものを、原料粉末の混合操作を継続しながら、1回目の添加から所定時間経過したのち、2回目以降を順次添加する製造方法である。1回目の焼結助剤添加と2回目の焼結助剤添加との間隔は、30分以上とすることが好ましい。
【0050】
上記のような製造方法によれば、焼結助剤粉末同士の凝集を抑制し、原料粉末が均質に混合されるので、焼結助剤成分の凝集部を10μm以下に抑制することが可能となる。
【0051】
以上説明のとおり、本発明に係る耐摩耗性部材およびその製造方法によれば、耐摩耗性部材の摺動性を向上し、耐摩耗性に優れた構成としたので、摺動部材を使用する機器の高信頼化および高速化を実現可能な耐摩耗性部材を提供することが可能である。
【0052】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の耐摩耗性部材の実施の形態について、添付図を参照して以下に具体的に説明する。
【0053】
耐摩耗性部材の焼結助剤成分の偏析部または凝集部の大きさを評価するには、窒化珪素焼結体の表面の10箇所について拡大写真を撮影して観察する方法を採用する。このとき、拡大写真の倍率は、2000倍が好ましい。拡大写真を撮影する手段は、特に限定されないが、例えば、金属顕微鏡,電子顕微鏡,XDS,EPMA等が一般的に用いられ、カラーマッピング処理を行うことによりさらに焼結助剤成分の偏析部や凝集部が観察し易くなる。
【0054】
なお、拡大写真で評価する際には、ベアリングボールのように球面状の表面を撮影する場合、写真の端部が湾曲して撮影されるが、撮影面積が50μm×50μmと微小な範囲であるため実質的な評価上の問題は生じない。
【0055】
図1に本発明の耐摩耗性部材の表面組織の観察写真の模式図を示す。図1は、窒化珪素焼結体の表面組織の観察写真の模式図であり、倍率2000倍で撮影したものである。図1に示すように、焼結助剤偏析部1は、窒化珪素結晶粒子2で囲まれた粒界相空間に形成されており、この焼結助剤偏析部1の最も長い対角線を以って偏析部または凝集部の最大径Lとして評価する。
【0056】
耐摩耗性部材の原料となる窒化珪素粉末の平均粒径は0.2〜3μmとする一方、焼結助剤粉末の平均粒径は3μm以下とすることが好ましい。
【0057】
焼結助剤としては、酸化イットリウム等の希土類化合物、酸化マグネシウム等の金属酸化物が好適に使用される。また、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等のアルミニウム化合物や、酸化チタン等の4a族金属化合物等を併用しても良い。この金属酸化物の添加量は、2〜15質量%の範囲が好ましい。
【0058】
以上のような材料を用いて、CIP等の成形工程、脱脂工程、HIP等の焼結工程を経て作製された耐摩耗性部材をベアリングボールとして使用するには、JIS規格に定められた所定の表面粗さとするための表面研磨加工を行い、表面精度を向上させる。
【0059】
本発明者らは、以下に示す要領で焼結助剤として希土類酸化物を含有する耐摩耗性部材を作製する際に、製造方法を調整することにより焼結助剤成分の偏析部あるいは凝集部の大きさを変化させて実施例1〜実施例3および比較例1,2の試料を作成して、これらの試料について比較検討した。
【0060】
実施例1
平均粒径0.8μmの酸化イットリウム粉末を5質量%、平均粒径0.9μmの酸化アルミニウム粉末を4質量%、残りを平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした焼結助剤原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0061】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分である酸化イットリウム粉末および酸化アルミニウムをボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに48時間ボールミルで混合した。
【0062】
このようにして3つの原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで48時間混合してさらに十分混合した。
【0063】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中1600〜1850℃常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0064】
この試料の鉄含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、550ppmであった。
【0065】
なお、試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0066】
実施例2
平均粒径0.8μmの酸化イットリウム粉末を7質量%、平均粒径0.9μmの酸化アルミニウム粉末を6質量%、残りを平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした焼結助剤原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0067】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分である酸化イットリウム粉末および酸化アルミニウムをボールミルで2時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに24時間ボールミルで混合した。
【0068】
このようにして3つの原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで24時間混合してさらに十分混合した。
【0069】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中1600〜1850℃常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0070】
この試料の鉄含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、30ppmであった。
【0071】
なお、試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0072】
実施例3
平均粒径0.8μmの酸化イットリウム粉末を10質量%、平均粒径0.9μmの酸化アルミニウム粉末を5質量%、残りを平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした焼結助剤原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0073】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分である酸化イットリウム粉末および酸化アルミニウムをボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに24時間ボールミルで混合した。
【0074】
このようにして3つの原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで24時間混合してさらに十分混合した。
【0075】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中1600〜1850℃常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0076】
この試料の鉄含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、600ppmであった。
【0077】
なお、試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0078】
比較例1
平均粒径0.8μmの酸化イットリウム粉末を10質量%、平均粒径0.9μmの酸化アルミニウム粉末を5質量%、残りを平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした焼結助剤原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0079】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分である酸化イットリウム粉末および酸化アルミニウムをボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに24時間ボールミルで混合した。
【0080】
このようにして3つの原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで24時間混合してさらに十分混合した。
【0081】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中1600〜1850℃常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0082】
この試料の鉄含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、610ppmであった。
【0083】
なお、試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0084】
比較例2
実施例2と同一の材料を用意し、原料粉末を一括して投入し、ボールミルにより48時間十分混合した。
【0085】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中1600〜1850℃常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0086】
なお、試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0087】
この試料の鉄含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、30ppmであった。
【0088】
これら実施例1〜実施例3、比較例1および比較例2の試料について、窒化珪素焼結体中の助剤成分の大きさを測定した。助剤成分の大きさの測定は、各試料の表面2箇所、断面2箇所の単位面積50μm×50μmを任意に選択して測定し、平均値を算出した。
【0089】
また、これら実施例1〜実施例3、比較例1および比較例2の試料について、3点曲げ強度(室温)の最小値を測定し、さらにレーザーフレッシュ法により熱伝導率を測定した。3点曲げ強度はJIS-B-1601に準じた測定法により、インストロン型試験機で加重をかけ、破壊時の荷重を測定した。また、熱伝導率はJIS-R-1611に準じて測定した。
【0090】
【表1】
【0091】
表1に示す評価結果に明らかなように、焼結助剤成分の偏析部の最大径を、それぞれ1μmおよび5μmとした実施例1および実施例2の耐摩耗性部材は、3点曲げ強度がそれぞれ1150MPaおよび1100MPaと優れていた。また、焼結助剤成分の偏析部の最大径を10μmとした実施例3においても3点曲げ強度は1070MPaと良好であった。
【0092】
一方、焼結助剤成分の偏析部がそれぞれ20μm,50μmの比較例1および比較例2の耐摩耗性部材は、3点曲げ強度が650MPaおよび540MPaと、実施例1〜実施例3の耐摩耗性部材に比較して著しく低くなることが判明した。
【0093】
一方、熱伝導率は実施例1〜実施例3および比較例1および比較例2の試料の比較検討により、大きな差異を生じないことが判明した。
【0094】
従って、本発明の耐摩耗性部材の焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径を10μm以下に規定した。
【0095】
また、実施例3と比較例1とを比較した。実施例3と比較例1とは、それぞれ別に用意した原料粉末を用いて、耐摩耗性部材の組成が同様の組成となるように原料粉末の混合量を調整し、同様の製造方法にて耐摩耗性部材を作製したものである。
【0096】
実施例3の鉄含有量を測定したところ600ppmであり、また比較例1の鉄含有量が610ppmであった。両者の焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径を比較したところ、実施例1の偏析部または凝集部の最大径が10μmであったのに対して、比較例1の偏析部または凝集部の最大径は20μmであった。
【0097】
従って、本発明の耐摩耗性部材の鉄含有量を600ppm以下に規定した。
【0098】
一方、実施例2と比較例2とを比較した。実施例2と比較例2とは、それぞれ同一の原料粉末を用いて同一の組成となるように混合量を調整し、それぞれ本発明の製造方法および従来の製造方法により耐摩耗性部材を製造したものである。
【0099】
実施例2および比較例2の鉄含有量を測定したところ、それぞれ30ppmであった。一方、偏析部または凝集部の最大径は、実施例2が5μmであったのに対して、比較例2においては50μmであった。
【0100】
すなわち、鉄の含有量が共に30ppmであっても製造方法の違いにより焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径が異なり、本発明の耐摩耗性部材の製造方法によれば、同様の不純物濃度の原料を使用した場合に、焼結助剤成分の偏析を効果的に防止できることが判明した。
【0101】
従って、本発明の耐摩耗性部材における鉄含有量を30ppm以上に規定した。
【0102】
次に、実施例1〜実施例3および比較例1、比較例2の各耐摩耗性部材を用いて直径2mmのベアリングボールを作製した。なお各ベアリングボールは、JIS規格に規定されるグレード3の表面精度を満たすように、表面研磨を行った。
【0103】
このベアリングボールを、ハードディスクドライブを回転駆動させるためのスピンドルモータのベアリング部材に組込んだ。ベアリング部材のその他の部材(回転軸部、ボール受け部)は、軸受鋼(SUJ2)製とした。
【0104】
このスピンドルモータを回転速度8000rpmで200時間稼動したときの不具合の有無を調査した。ここで不具合の有無とは、200時間稼動後にハードディスクドライブが正常に動作するか否かにより判定した。
【0105】
【表2】
【0106】
表2のように実施例1〜実施例3の耐摩耗性部材により形成されたベアリングボールを使用したハードディスクドライブは、不具合を発生しなかった。一方、比較例1および比較例2の耐摩耗性部材の場合、200時間の稼動の後、ハードディスクドライブに動作不良を生じる等の不具合が発生した。以上の検討結果により、本発明の耐摩耗性部材の優位性が明白となった。
【0107】
さらに本発明者らは、焼結助剤としてMgAl2O4スピネルと、Si,Ti,Zr,Hf,W,Mo,Ta,NbおよびCrからなる群より選択される少なくとも1種類を酸化物および炭化物として含有する窒化珪素を添加した耐摩耗性部材を製作して、実施例4〜実施例7と比較例3〜比較例5とを評価して考察した。
【0108】
実施例4
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を5質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を4質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0109】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに48時間ボールミルで混合した。
【0110】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで48時間混合してさらに十分混合した。
【0111】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0112】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄600ppm,カルシウム800ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ0.8%であった。
【0113】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0114】
実施例5
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を1質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を4質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0115】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで2時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに24時間ボールミルで混合した。
【0116】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで24時間混合してさらに十分混合した。
【0117】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0118】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄10ppm,カルシウム10ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ1.0%であった。
【0119】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0120】
実施例6
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を5質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を10質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0121】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに24時間ボールミルで混合した。
【0122】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで24時間混合してさらに十分混合した。
【0123】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0124】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄1000ppm,カルシウム1000ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ0.9%であった。
【0125】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0126】
実施例7
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を4質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を6質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0127】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに48時間ボールミルで混合した。
【0128】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで48時間混合してさらに十分混合した。
【0129】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0130】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄3500ppm,カルシウム900ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ0.5%であった。
【0131】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0132】
比較例3
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を6質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を4質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0133】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに48時間ボールミルで混合した。
【0134】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで48時間混合してさらに十分混合した。
【0135】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0136】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄3450ppm,カルシウム1100ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ1.1%であった。
【0137】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0138】
比較例4
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を5質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を11質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0139】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに48時間ボールミルで混合した。
【0140】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで48時間混合してさらに十分混合した。
【0141】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0142】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄3550ppm,カルシウム900ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ1.5%であった。
【0143】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0144】
比較例5
実施例5と同一の材料を用意し、原料粉末を一括して投入し、ボールミルにより48時間十分混合した。
【0145】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0146】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0147】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄10ppm,カルシウム10ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ2.0%であった。
【0148】
比較例6
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を4質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を6質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0149】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに48時間ボールミルで混合した。
【0150】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで48時間混合してさらに十分混合した。
【0151】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0152】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄3600ppm,カルシウム800ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ1.3%であった。
【0153】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0154】
比較例7
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を5質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を4質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0155】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに48時間ボールミルで混合した。
【0156】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで48時間混合してさらに十分混合した。
【0157】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0158】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄2500ppm,カルシウム1100ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ1.8%であった。
【0159】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0160】
これら実施例4〜実施例7および比較例3〜比較例7の試料について、窒化珪素焼結体中の助剤成分の大きさを測定した。助剤成分の大きさの測定は、各試料の表面2箇所、断面2箇所の単位面積50μm×50μmを任意に選択して測定し、平均値を算出した。
【0161】
また、これら実施例4〜実施例7および比較例3〜比較例7の試料について、3点曲げ強度及び圧砕強度(室温)の最小値を測定し、さらにレーザーフレッシュ法により熱伝導率を測定した。
【0162】
【表3】
【0163】
表3に示す評価結果に明らかなように、焼結助剤成分の偏析部の最大径を、それぞれ1μmおよび5μmとした実施例4および実施例5の耐摩耗性部材は、3点曲げ強度がそれぞれ950MPaおよび900MPaと優れていた。また、焼結助剤成分の偏析部の最大径が10μmである実施例6においても3点曲げ強度は830MPaと良好であった。また、焼結助剤成分の最大径を20μmとした実施例7の耐摩耗性部材においても3点曲げ強度が750MPaと、優れた強度を備えることが判明した。
【0164】
さらに圧砕強度についても、実施例4の耐摩耗性部材が290N/mm2と特に優れており、最も圧砕強度が低い実施例7でも150N/mm2と、実用上問題ない強度を有することが判明した。
【0165】
一方、焼結助剤成分の偏析部が30μmの比較例3の耐摩耗性部材は、3点曲げ強度が550MPaと低く、また、焼結助剤成分の偏析部が40μmの比較例4の耐摩耗性部材は、3点曲げ強度が500MPaであり、さらに焼結助剤成分の偏析部が50μmの比較例5の耐摩耗性部材は、3点曲げ強度が460MPaと、実施例4〜実施例7の耐摩耗性部材に比較して著しく低くなることが判明した。
【0166】
また、圧砕強度については、比較例3〜比較例7の耐摩耗部材は、20〜80N/mm2の強度にとどまり、耐摩耗性部材として十分な強度を保持していなかった。特に、偏析部の最大径が50μmである比較例5の耐摩耗部材は、圧砕強度が20N/mm2と、著しく低かった。
【0167】
一方、熱伝導率は実施例4〜実施例7および比較例3〜比較例7の試料の比較検討により、大きな差異を生じないことが判明した。
【0168】
すなわち、焼結助剤としてスピネルおよび炭化けい素を添加した耐摩耗性部材は、焼結助剤の凝集部または偏析部の最大径が20μm以下であれば、良好な特性を有する。
【0169】
従って、焼結助剤としてスピネルおよび炭化けい素を添加した耐摩耗性部材の焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径を20μm以下に規定した。
【0170】
また、実施例4と比較例3との比較検討により、耐摩耗性部材のスピネル含有量を1〜5質量%とし、さらに実施例6と比較例4との比較検討によりSi,Ti,Zr,Hf,W,Mo,Ta,NbおよびCrからなる群より選択される少なくとも1種類を酸化物および炭化物に換算した含有量を10質量%以下に規定した。
【0171】
次に、実施例7と比較例6とを比較した。実施例7と比較例6とは、それぞれ別に用意した原料粉末を用いて、耐摩耗性部材の組成が同様の組成となるように原料粉末の混合量を調整し、同様の製造方法にて耐摩耗性部材を作製したものである。
【0172】
実施例7の鉄含有量を測定したところ3500ppmであり、また比較例6の鉄含有量が3600ppmであった。両者の焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径を比較したところ、実施例7の偏析部または凝集部の最大径が20μmであったのに対して、比較例6の偏析部または凝集部の最大径は30μmであった。
【0173】
従って、焼結助剤としてスピネルおよび炭化けい素を添加した耐摩耗性部材の鉄含有量を3500ppm以下に規定した。
【0174】
さらに、実施例6と比較例7とを比較した。実施例6と比較例7とは、それぞれ別に用意した原料粉末を用いて、耐摩耗性部材の組成が同様の組成となるように原料粉末の混合量を調整し、同様の製造方法にて耐摩耗性部材を作製したものである。
【0175】
実施例6のカルシウムの含有量を測定したところ1000ppmであり、また比較例7のカルシウムの含有量が1100ppmであった。両者の焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径を比較したところ、実施例6の偏析部または凝集部の最大径が10μmであったのに対して、比較例7の偏析部または凝集部の最大径は30μmであった。
【0176】
従って、本発明の耐摩耗性部材のカルシウムの含有量を1000ppm以下に規定した。
【0177】
一方、実施例5と比較例5とを比較した。実施例5と比較例5とは、それぞれ同一の原料粉末を用いて同一の組成となるように混合量を調整し、それぞれ本発明の製造方法および従来の製造方法により耐摩耗性部材を製造したものである。
【0178】
実施例5および比較例5の鉄含有量を測定したところ、それぞれ10ppmであった。また、実施例5および比較例5のカルシウムの含有量を測定したところ、それぞれ10ppmであった。一方、偏析部または凝集部の最大径は、実施例5が5μmであったのに対して、比較例5においては40μmであった。
【0179】
すなわち、鉄およびカルシウムの含有量が共に10ppmであっても製造方法の違いにより焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径が異なり、本発明の耐摩耗性部材の製造方法によれば、同様の不純物濃度の原料を使用した場合に、焼結助剤成分の偏析を効果的に防止することが判明した。
【0180】
従って、本発明の耐摩耗性部材における鉄およびカルシウムの含有量を10ppm以上に規定した。
【0181】
さらに、実施例4〜実施例7,比較例3〜比較例7の耐摩耗性部材の気孔率と焼結助剤成分の凝集部または偏析部の最大径との関係について調査すると、実施例4〜実施例7の耐摩耗性部材の気孔率が1.0%以下であり、焼結助剤成分の凝集部または偏析部の最大径が1〜20μmであるのに対して、比較例3〜比較例7の耐摩耗性部材は、気孔率が1.0%以上であり、焼結助剤成分の凝集部または偏析部の最大径が比較例3〜比較例7のいずれも30μm以上であった。このことより、本発明の耐摩耗性部材の気孔率を1.0%以下と規定した。
【0182】
次に、実施例4〜実施例7,比較例3〜比較例7の各耐摩耗性部材を用いて直径2mmのベアリングボールを作製した。なお各ベアリングボールは、JIS規格に規定されるグレード3の表面精度を満たすように、表面研磨を行った。
【0183】
このベアリングボールを、ハードディスクドライブを回転駆動させるためのスピンドルモータのベアリング部材に組込んだ。ベアリング部材のその他の部材(回転軸部、ボール受け部)は、軸受鋼(SUJ2)製とした。
【0184】
このスピンドルモータを回転速度8000rpmで200時間稼動されたときの不具合の有無を調査した。ここで不具合とは、200時間稼動後にハードディスクドライブが正常に動作するか否かにより判定した。
【0185】
【表4】
【0186】
表4のように実施例4〜実施例7の耐摩耗性部材により形成されたベアリングボールを使用したハードディスクドライブは、不具合を発生しなかった。一方、比較例3〜比較例7の耐摩耗性部材の場合、200時間の稼動の後、ハードディスクドライブに動作不良を生じる等の不具合が発生した。以上の検討により、本発明の耐摩耗性部材の優位性が明白となった。
【0187】
【発明の効果】
本発明の耐摩耗性部材によれば、摺動性を向上し、耐久性に優れた構成としたので、機器の高容量化および高速化を実現可能な耐摩耗性部材を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る耐摩耗性部材の表面の観察写真の模式図。
【符号の説明】
1 焼結助剤偏析部
2 窒化珪素結晶粒子
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐摩耗性部材に関し、特に、摺動性に優れ、耐摩耗性が高く、ベアリングボールの構成材料として好適な耐摩耗性部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気記録装置やDVD、またはモバイル製品や各種ゲーム機器等の発達は目覚しいものがある。これらの機器は、通常、スピンドルモータ等の回転駆動装置により回転軸を高速回転させることによりディスクドライブを機能させている。
【0003】
従来、回転軸を支えるベアリング(軸受)部材、特にベアリングボールには、軸受鋼等の金属が用いられてきた。しかしながら、軸受鋼等の金属は、耐摩耗性が十分でないことから、例えば、前記電子機器のように5000rpm以上の高速回転が要求される分野においては、耐久性が低く、また部材ごとの耐久性のばらつきが大きいという問題があった。
【0004】
また、上記従来のベアリングボールは、摩耗による摺動性の劣化や、振動による音響特性の低下等の不具合が生じやすく、そのため、信頼性が高い回転駆動機構を提供することが困難な状況であった。
【0005】
このような不具合を解決するために、近年、ベアリングボールに窒化珪素を主成分とするセラミックス焼結体材料を用いる試みが為されている。窒化珪素焼結体は金属に比較して軽量であり、また、各種のセラミックス焼結体材料の中でも特に摺動特性に優れ、十分な耐摩耗性を有し、機器の高速回転時における信頼性を向上させることが可能であるため、高機能の回転駆動機構を提供することができる。
【0006】
このような窒化珪素焼結体製の摺動部材としては、窒化珪素を主原料とするセラミックス焼結体に存在する焼結助剤成分の最大偏析部が100μm以下とするものがある。
【0007】
こうした窒化珪素焼結体は、主成分としての窒化珪素に、主にMg,Al,Y,Sc,La,Ce等の金属元素の酸化物や窒化物を焼結助剤として添加して、液相焼結により焼結体を高密度化させて使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】
特許第2755702号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
近年、HDDの小型化、高容量化に伴い、回転部の回転数も8000rpm〜10000rpm以上のさらなる高速回転が要求されつつある。このような高速回転に際して、ベアリングボールの摺動特性は、その表面精度に依存する。特に、窒化珪素焼結体製のベアリングボールの場合、ベアリングボールの表面精度には、焼結助剤成分の偏析部または凝集部の大きさが影響することが本発明者らの知見として得られている。
【0010】
また、機器の高速化、高容量化に伴い、摺動部材に要求される表面精度も高精度なものとなり、焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径も数μmのオーダーに抑制することにより摺動特性を飛躍的に向上させることができるという知見も本発明者らは得ていた。
【0011】
しかしながら、現状の窒化珪素焼結体において焼結助剤成分の偏析部または凝集部は、大きなもので数十μmに達するため、高速回転機器のベアリングボールとして使用する際の表面精度の向上には限界があった。
【0012】
また、こうした焼結助剤成分の偏析部または凝集部の大きさと表面精度との関係について規定し、さらに十分な摺動特性を実現することが可能な摺動部材の製造方法を提供する技術は、これまでのところ提案されていなかった。
【0013】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、窒化珪素焼結体における焼結助剤成分の偏析部または凝集部の大きさを制御して、表面精度に優れ、高い摺動性を有する耐摩耗性部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、耐摩耗性部材における焼結助剤成分の偏析部または凝集部の大きさと、表面精度との関係について研究し、特に上記偏析部または凝集部の最大径を10μm以下とすることにより、十分な表面精度を備え、摺動性に優れた耐摩耗性部材とすることが可能であるとの知見を得て本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明に係る耐摩耗性部材は、焼結助剤成分の凝集部または偏析部の最大径が10μm以下である窒化珪素焼結体から成ることを特徴とする。
【0016】
本発明の耐摩耗性部材を構成する窒化珪素焼結体としては、例えば、窒化珪素を90質量%含有し、平均粒径が1.0μm以下の窒化珪素粉末に、希土類元素を酸化物に換算して2〜17.5質量%、必要によりMgAl2O4スピネルを2〜7質量%、Si,Ti,Hf,Zr,W,Mo,Ta,Nb,Crからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して10質量%以下添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を非酸化性雰囲気中で温度1600℃以下で焼結したものが好適に使用される。
【0017】
本発明者らによれば、上記のような原料により作製した耐摩耗性部材において、焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径を10μm以下とすることにより、耐摩耗性部材の表面精度が向上し、摺動性に優れた耐摩耗性部材とすることが可能である。
【0018】
ここで偏析部または凝集部の最大径とは、隣接する窒化珪素結晶粒子の間の粒界相に形成される焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大長さを言い、窒化珪素焼結体の表面または断面の拡大写真において、偏析部または凝集部における最も長い対角線として定義される。
【0019】
また、より好ましくは、耐摩耗性部材において、焼結助剤成分の凝集部または偏析部の最大径が10μm以下である。また、偏析部または凝集部の最大径は5μm以下であることがより好ましく、さらに、偏析部または凝集部の最大径を0.1〜0.15μmとした耐摩耗性部材がより好ましい。
【0020】
また、上記構成に係る耐摩耗性部材は、不純物としての鉄の含有量が600ppm以下であることが好ましい。
【0021】
耐摩耗性部材のセラミックス原料は、不可避的に不純物として鉄を含有する。この鉄の含有量が多いと、偏析を生じ易いことが、本発明者らの知見として得られている。そのため本発明の耐摩耗性部材では、この鉄の含有量を600ppm以下として焼結助剤成分の偏析を防止している。
【0022】
本発明者らの知見によれば、耐摩耗性部材の鉄含有量を600ppm以下とすることにより、焼結助剤成分の偏析が効果的に抑制され、偏析部または凝集部の最大径を10μm以下とすることが可能である。
【0023】
一方、前記耐摩耗性部材は、不純物としての鉄の含有量が30ppm以上であっても特に大きな不都合は生じない。
【0024】
前記の通り、セラミックス原料に含まれる鉄等の不純物は、焼結助剤成分の偏析の原因となるため、耐摩耗性部材の製造には、より不純物の少ないセラミックス原料を用いることが好ましい。
【0025】
しかしながら、セラミックス原料を高精度に精製することは、分離精製コストの高騰を招くため好ましくない。
【0026】
そこで本発明者らは、耐摩耗性部材を製造する際に、製造方法を工夫することにより、焼結助剤成分の偏析が抑制され、表面精度が向上されて、摺動性および耐摩耗性が良好な耐摩耗部材を得られるという知見を得て、さらに、高純度に精製されたセラミックス原料を使用しなくても、高機能の耐摩耗性部材とすることが可能であるという知見を得た。
【0027】
すなわち、本発明の耐摩耗性部材は、焼結助剤の偏析部の最大径を10μm以下に抑制したので、セラミックス原料の不純物としての鉄の含有量が30ppm以上であっても、摺動性および耐摩耗性に優れた耐摩耗性部材とすることが可能である。
【0028】
一方、本発明者らは、耐摩耗性部材において、焼結助剤としてスピネル,酸化マグネシウム等の金属酸化物または酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等のアルミニウム化合物,酸化チタン等の4a族金属化合物等を併用した場合について好適な材料混合比率および材料特性について研究した。
【0029】
すなわち、耐摩耗性部材に焼結助剤として上記材料を添加する場合、MgAl2O4スピネルを1〜5質量%、Si,Ti,Zr,Hf,W,Mo,Ta,NbおよびCrからなる群より選択される少なくとも1種類を酸化物および炭化物に換算して10質量%以下含有し、気孔率が1%以下であり、不純物としてFeを10〜3500ppmと、Caを10〜1000ppm含有する。
【0030】
または、耐摩耗性部材は、焼結助剤として酸化マグネシウムを0.5〜4.5質量%、酸化アルミニウムを0.5〜4.5質量%含有する。
【0031】
焼結助剤としてスピネルや酸化マグネシウムあるいはアルミニウム化合物を添加した場合、不純物としての鉄の含有量は、10〜3500ppmとすることが好ましい。焼結助剤がスピネルや酸化マグネシウムあるいはアルミニウム化合物の場合、鉄の含有量が3500ppm以下であれば、耐摩耗性部材の摺動性能が良好である。一方、耐摩耗性部材の不純物としての鉄の含有量が10ppm以上であっても、強度や摺動性能の低下等の不都合を生じない。
【0032】
また、耐摩耗性部材においてカルシウムの含有量は、10〜1000ppmとすることが好ましい。カルシウムの含有量が1000ppm以下であれば、耐摩耗性部材の摺動性能が良好である。一方、耐摩耗性部材の不純物としてのカルシウムの含有量が10ppm以上であっても、強度や摺動性能の低下等の不都合を生じない。
【0033】
一方、耐摩耗性部材の気孔率は、1.0%以下であることが好ましい。耐摩耗性部材の気孔率が1.0%を超えると、焼結助剤成分の偏析または凝集が起こりやすい。
【0034】
また、耐摩耗性部材の焼結部材としてスピネル,酸化マグネシウム等の金属酸化物または酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等のアルミニウム化合物,酸化チタン等の4a族金属化合物等を併用した場合、焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径が20μm以下であることが好ましい。
【0035】
また、耐摩耗性部材は、ビッカース硬度Hvが1300〜1500であることが好ましい。また、破壊靭性値が6.0MPa・m1/2以上であることが好ましく、さらに、抗折強度が600MPa以上であることが好ましい。さらに、窒化珪素焼結体球の圧砕強度が100N/mm2以上であることが好ましい。
【0036】
尚、ビッカース硬度はJIS-R-1610で規定された測定法により試験荷重198.1Nで室温にて試験を行った。また破壊靭性値はJIS-R-1607で規定されたIF法に基づき測定し、niiharaの式により算出したものである。圧砕強度は旧JIS規格B1501に準じた測定法により、インストロン型試験機で圧縮加重をかけ、破壊時の荷重を測定することにより対応した。抗折強度はJIS-R-1601で規定された3点曲げ強さ試験に準じた測定法により測定した。
【0037】
本発明の耐摩耗性部材は、摺動部材として十分な耐久性を期待される部材であるため、十分な硬度及び強度を備えることが好ましい。この耐摩耗性部材は、ビッカース硬度Hvが1300〜1500と高硬度であり、また破壊靭性値が6.0MPa・m1/2以上で、さらに抗折強度が600MPa以上と強度が高く、圧砕強度が100N/mm2以上であるため、摺動部材として十分な耐久性を発揮する。
【0038】
また、耐摩耗性部材としてのベアリングボールは、直径が3mm以下とすることが好ましい。
【0039】
従来、直径が3mm以下の小径のベアリングボールは、耐摩耗性部材の表面精度により影響を受けやすく、満足な摺動性を保持できないため、振動や音響特性に影響する場合があった。
【0040】
この耐摩耗性部材は、焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径が20μm以下に抑制されるため、表面精度が向上されており、摺動性能が極めて良好である。このような耐摩耗性部材は、特に小径のベアリングボールに適用されて良好な摺動性能を発揮し、高性能の摺動回転機器を提供することが可能である。
【0041】
一方、本発明に係る耐摩耗性部材の製造方法は、助剤成分を予め混合して均一に分散させた後に、主原料である窒化珪素粉末を混合して原料混合体を調製し、この原料混合体を成形後、脱脂工程を経て、焼結して製造することを特徴とする。
【0042】
セラミックス焼結体の製造方法は、通常、原料粉末と焼結助剤成分とを混合し、これを成形し、脱脂工程を経て、焼結する製造方法が採用される。しかしながら、原料粉末の十分な混合には時間を要し、また原料粉末の混合が十分でない場合、均質な原料とすることができず、焼結助剤成分の偏析の原因となることがある。
【0043】
本発明者は、耐摩耗性部材の製造の際に、原料粉末の混合方法や混合時間を調整することにより耐摩耗性部材における焼結助剤成分の偏析部または凝集部の大きさを制御することが可能であることを見出した。
【0044】
すなわち、本発明の耐摩耗性部材の製造方法は、焼結助剤成分の凝集を防止するため、予め焼結助剤成分を混合し、十分混合して均質化した後、窒化珪素材料粉末を添加してさらに混合することを特徴とする。
【0045】
また、本発明の耐摩耗性部材の製造方法において、各原料粉末すなわち焼結助剤粉末および窒化珪素粉末をあらかじめ分割して1回で混合処理する原料重量を制限し、それらの分割された焼結助剤粉末と窒化珪素粉末とを混合する。分割した他の原料粉末についても同様に混合して複数の混合粉末を調製する。そしてこれらを一つに統合してさらに十分に混合して原料粉末を調整し、成形後、脱脂工程を経て、焼結して耐摩耗性部材を製造する方法を採用することを特徴としている。
【0046】
例えば、1ロット分(総量5kg)の原料粉末を混合するにあたり、各原料粉末をそれぞれ2分割以上、好ましくは3〜5分割して比較的少量ずつ均一に混合した後、さらに最終的に1つの原料混合体として合体して、さらに十分に混合する。
【0047】
このように焼結助剤を予め混合し、さらに原料粉末を少なくとも2分割してそれぞれ混合したのち1つに統合して混合する製造方法とすることにより、より均質な原料粉末を得ることが可能であり、高品質の耐摩耗性部材を提供することができる。
【0048】
こうして得られた原料粉末を成形する方法としては、冷間静水圧成形法(CIP)が適用可能である。また焼結方法としては、常温焼結,加圧焼結,熱間静水圧プレス(HIP)焼結が適用可能である。
【0049】
一方、窒化珪素粉末および焼結助剤を混合し、この混合粉末に特に分散性が低い焼結助剤粉末を、順次間隔を置いて添加して混合する製造方法も採用される。例えば、分散性が低い焼結助剤粉末を、好ましい添加量を2分割以上に分割したものを、原料粉末の混合操作を継続しながら、1回目の添加から所定時間経過したのち、2回目以降を順次添加する製造方法である。1回目の焼結助剤添加と2回目の焼結助剤添加との間隔は、30分以上とすることが好ましい。
【0050】
上記のような製造方法によれば、焼結助剤粉末同士の凝集を抑制し、原料粉末が均質に混合されるので、焼結助剤成分の凝集部を10μm以下に抑制することが可能となる。
【0051】
以上説明のとおり、本発明に係る耐摩耗性部材およびその製造方法によれば、耐摩耗性部材の摺動性を向上し、耐摩耗性に優れた構成としたので、摺動部材を使用する機器の高信頼化および高速化を実現可能な耐摩耗性部材を提供することが可能である。
【0052】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の耐摩耗性部材の実施の形態について、添付図を参照して以下に具体的に説明する。
【0053】
耐摩耗性部材の焼結助剤成分の偏析部または凝集部の大きさを評価するには、窒化珪素焼結体の表面の10箇所について拡大写真を撮影して観察する方法を採用する。このとき、拡大写真の倍率は、2000倍が好ましい。拡大写真を撮影する手段は、特に限定されないが、例えば、金属顕微鏡,電子顕微鏡,XDS,EPMA等が一般的に用いられ、カラーマッピング処理を行うことによりさらに焼結助剤成分の偏析部や凝集部が観察し易くなる。
【0054】
なお、拡大写真で評価する際には、ベアリングボールのように球面状の表面を撮影する場合、写真の端部が湾曲して撮影されるが、撮影面積が50μm×50μmと微小な範囲であるため実質的な評価上の問題は生じない。
【0055】
図1に本発明の耐摩耗性部材の表面組織の観察写真の模式図を示す。図1は、窒化珪素焼結体の表面組織の観察写真の模式図であり、倍率2000倍で撮影したものである。図1に示すように、焼結助剤偏析部1は、窒化珪素結晶粒子2で囲まれた粒界相空間に形成されており、この焼結助剤偏析部1の最も長い対角線を以って偏析部または凝集部の最大径Lとして評価する。
【0056】
耐摩耗性部材の原料となる窒化珪素粉末の平均粒径は0.2〜3μmとする一方、焼結助剤粉末の平均粒径は3μm以下とすることが好ましい。
【0057】
焼結助剤としては、酸化イットリウム等の希土類化合物、酸化マグネシウム等の金属酸化物が好適に使用される。また、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等のアルミニウム化合物や、酸化チタン等の4a族金属化合物等を併用しても良い。この金属酸化物の添加量は、2〜15質量%の範囲が好ましい。
【0058】
以上のような材料を用いて、CIP等の成形工程、脱脂工程、HIP等の焼結工程を経て作製された耐摩耗性部材をベアリングボールとして使用するには、JIS規格に定められた所定の表面粗さとするための表面研磨加工を行い、表面精度を向上させる。
【0059】
本発明者らは、以下に示す要領で焼結助剤として希土類酸化物を含有する耐摩耗性部材を作製する際に、製造方法を調整することにより焼結助剤成分の偏析部あるいは凝集部の大きさを変化させて実施例1〜実施例3および比較例1,2の試料を作成して、これらの試料について比較検討した。
【0060】
実施例1
平均粒径0.8μmの酸化イットリウム粉末を5質量%、平均粒径0.9μmの酸化アルミニウム粉末を4質量%、残りを平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした焼結助剤原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0061】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分である酸化イットリウム粉末および酸化アルミニウムをボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに48時間ボールミルで混合した。
【0062】
このようにして3つの原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで48時間混合してさらに十分混合した。
【0063】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中1600〜1850℃常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0064】
この試料の鉄含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、550ppmであった。
【0065】
なお、試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0066】
実施例2
平均粒径0.8μmの酸化イットリウム粉末を7質量%、平均粒径0.9μmの酸化アルミニウム粉末を6質量%、残りを平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした焼結助剤原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0067】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分である酸化イットリウム粉末および酸化アルミニウムをボールミルで2時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに24時間ボールミルで混合した。
【0068】
このようにして3つの原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで24時間混合してさらに十分混合した。
【0069】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中1600〜1850℃常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0070】
この試料の鉄含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、30ppmであった。
【0071】
なお、試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0072】
実施例3
平均粒径0.8μmの酸化イットリウム粉末を10質量%、平均粒径0.9μmの酸化アルミニウム粉末を5質量%、残りを平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした焼結助剤原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0073】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分である酸化イットリウム粉末および酸化アルミニウムをボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに24時間ボールミルで混合した。
【0074】
このようにして3つの原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで24時間混合してさらに十分混合した。
【0075】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中1600〜1850℃常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0076】
この試料の鉄含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、600ppmであった。
【0077】
なお、試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0078】
比較例1
平均粒径0.8μmの酸化イットリウム粉末を10質量%、平均粒径0.9μmの酸化アルミニウム粉末を5質量%、残りを平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした焼結助剤原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0079】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分である酸化イットリウム粉末および酸化アルミニウムをボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに24時間ボールミルで混合した。
【0080】
このようにして3つの原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで24時間混合してさらに十分混合した。
【0081】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中1600〜1850℃常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0082】
この試料の鉄含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、610ppmであった。
【0083】
なお、試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0084】
比較例2
実施例2と同一の材料を用意し、原料粉末を一括して投入し、ボールミルにより48時間十分混合した。
【0085】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中1600〜1850℃常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0086】
なお、試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0087】
この試料の鉄含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、30ppmであった。
【0088】
これら実施例1〜実施例3、比較例1および比較例2の試料について、窒化珪素焼結体中の助剤成分の大きさを測定した。助剤成分の大きさの測定は、各試料の表面2箇所、断面2箇所の単位面積50μm×50μmを任意に選択して測定し、平均値を算出した。
【0089】
また、これら実施例1〜実施例3、比較例1および比較例2の試料について、3点曲げ強度(室温)の最小値を測定し、さらにレーザーフレッシュ法により熱伝導率を測定した。3点曲げ強度はJIS-B-1601に準じた測定法により、インストロン型試験機で加重をかけ、破壊時の荷重を測定した。また、熱伝導率はJIS-R-1611に準じて測定した。
【0090】
【表1】
【0091】
表1に示す評価結果に明らかなように、焼結助剤成分の偏析部の最大径を、それぞれ1μmおよび5μmとした実施例1および実施例2の耐摩耗性部材は、3点曲げ強度がそれぞれ1150MPaおよび1100MPaと優れていた。また、焼結助剤成分の偏析部の最大径を10μmとした実施例3においても3点曲げ強度は1070MPaと良好であった。
【0092】
一方、焼結助剤成分の偏析部がそれぞれ20μm,50μmの比較例1および比較例2の耐摩耗性部材は、3点曲げ強度が650MPaおよび540MPaと、実施例1〜実施例3の耐摩耗性部材に比較して著しく低くなることが判明した。
【0093】
一方、熱伝導率は実施例1〜実施例3および比較例1および比較例2の試料の比較検討により、大きな差異を生じないことが判明した。
【0094】
従って、本発明の耐摩耗性部材の焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径を10μm以下に規定した。
【0095】
また、実施例3と比較例1とを比較した。実施例3と比較例1とは、それぞれ別に用意した原料粉末を用いて、耐摩耗性部材の組成が同様の組成となるように原料粉末の混合量を調整し、同様の製造方法にて耐摩耗性部材を作製したものである。
【0096】
実施例3の鉄含有量を測定したところ600ppmであり、また比較例1の鉄含有量が610ppmであった。両者の焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径を比較したところ、実施例1の偏析部または凝集部の最大径が10μmであったのに対して、比較例1の偏析部または凝集部の最大径は20μmであった。
【0097】
従って、本発明の耐摩耗性部材の鉄含有量を600ppm以下に規定した。
【0098】
一方、実施例2と比較例2とを比較した。実施例2と比較例2とは、それぞれ同一の原料粉末を用いて同一の組成となるように混合量を調整し、それぞれ本発明の製造方法および従来の製造方法により耐摩耗性部材を製造したものである。
【0099】
実施例2および比較例2の鉄含有量を測定したところ、それぞれ30ppmであった。一方、偏析部または凝集部の最大径は、実施例2が5μmであったのに対して、比較例2においては50μmであった。
【0100】
すなわち、鉄の含有量が共に30ppmであっても製造方法の違いにより焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径が異なり、本発明の耐摩耗性部材の製造方法によれば、同様の不純物濃度の原料を使用した場合に、焼結助剤成分の偏析を効果的に防止できることが判明した。
【0101】
従って、本発明の耐摩耗性部材における鉄含有量を30ppm以上に規定した。
【0102】
次に、実施例1〜実施例3および比較例1、比較例2の各耐摩耗性部材を用いて直径2mmのベアリングボールを作製した。なお各ベアリングボールは、JIS規格に規定されるグレード3の表面精度を満たすように、表面研磨を行った。
【0103】
このベアリングボールを、ハードディスクドライブを回転駆動させるためのスピンドルモータのベアリング部材に組込んだ。ベアリング部材のその他の部材(回転軸部、ボール受け部)は、軸受鋼(SUJ2)製とした。
【0104】
このスピンドルモータを回転速度8000rpmで200時間稼動したときの不具合の有無を調査した。ここで不具合の有無とは、200時間稼動後にハードディスクドライブが正常に動作するか否かにより判定した。
【0105】
【表2】
【0106】
表2のように実施例1〜実施例3の耐摩耗性部材により形成されたベアリングボールを使用したハードディスクドライブは、不具合を発生しなかった。一方、比較例1および比較例2の耐摩耗性部材の場合、200時間の稼動の後、ハードディスクドライブに動作不良を生じる等の不具合が発生した。以上の検討結果により、本発明の耐摩耗性部材の優位性が明白となった。
【0107】
さらに本発明者らは、焼結助剤としてMgAl2O4スピネルと、Si,Ti,Zr,Hf,W,Mo,Ta,NbおよびCrからなる群より選択される少なくとも1種類を酸化物および炭化物として含有する窒化珪素を添加した耐摩耗性部材を製作して、実施例4〜実施例7と比較例3〜比較例5とを評価して考察した。
【0108】
実施例4
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を5質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を4質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0109】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに48時間ボールミルで混合した。
【0110】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで48時間混合してさらに十分混合した。
【0111】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0112】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄600ppm,カルシウム800ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ0.8%であった。
【0113】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0114】
実施例5
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を1質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を4質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0115】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで2時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに24時間ボールミルで混合した。
【0116】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで24時間混合してさらに十分混合した。
【0117】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0118】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄10ppm,カルシウム10ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ1.0%であった。
【0119】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0120】
実施例6
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を5質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を10質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0121】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに24時間ボールミルで混合した。
【0122】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで24時間混合してさらに十分混合した。
【0123】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0124】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄1000ppm,カルシウム1000ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ0.9%であった。
【0125】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0126】
実施例7
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を4質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を6質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0127】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに48時間ボールミルで混合した。
【0128】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで48時間混合してさらに十分混合した。
【0129】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0130】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄3500ppm,カルシウム900ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ0.5%であった。
【0131】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0132】
比較例3
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を6質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を4質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0133】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに48時間ボールミルで混合した。
【0134】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで48時間混合してさらに十分混合した。
【0135】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0136】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄3450ppm,カルシウム1100ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ1.1%であった。
【0137】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0138】
比較例4
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を5質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を11質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0139】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに48時間ボールミルで混合した。
【0140】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで48時間混合してさらに十分混合した。
【0141】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0142】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄3550ppm,カルシウム900ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ1.5%であった。
【0143】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0144】
比較例5
実施例5と同一の材料を用意し、原料粉末を一括して投入し、ボールミルにより48時間十分混合した。
【0145】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0146】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0147】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄10ppm,カルシウム10ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ2.0%であった。
【0148】
比較例6
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を4質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を6質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0149】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに48時間ボールミルで混合した。
【0150】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで48時間混合してさらに十分混合した。
【0151】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0152】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄3600ppm,カルシウム800ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ1.3%であった。
【0153】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0154】
比較例7
平均粒径0.8μmのスピネル粉末を5質量%、平均粒径0.9μmの炭化けい素粉末を4質量%、残部を平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末とした原料粉末を、1ロット分(原料粉末総量5kg相当)用意した。
【0155】
まず、各原料粉末を3分の1に分割し、これらの原料粉末のうち焼結助剤成分であるスピネル粉末および炭化けい素粉末をボールミルで1時間混合し、あらかじめ均質な混合粉末とした後、この混合粉末に窒化珪素粉末を添加してさらに48時間ボールミルで混合した。
【0156】
このようにして3種類の原料粉末を調製した後、これら3つの混合粉末をボールミルで48時間混合してさらに十分混合した。
【0157】
この混合原料粉末をCIP法により成形し、不活性雰囲気中にて温度1600〜1850℃で常圧焼結し、次に、1600〜1900℃でHIP処理を行い、耐摩耗部材試料を作製した。
【0158】
この試料の鉄およびカルシウムの含有量を加圧分解−ICP発光分光法により測定したところ、鉄2500ppm,カルシウム1100ppmであった。また、この試料の気孔率を測定したところ1.8%であった。
【0159】
なお、各試料は3mm×3mm×10mmの四角柱形状とし、さらにJIS規格で規定されるベアリングボールの表面精度のグレード3に相当する表面研磨加工を施工した。
【0160】
これら実施例4〜実施例7および比較例3〜比較例7の試料について、窒化珪素焼結体中の助剤成分の大きさを測定した。助剤成分の大きさの測定は、各試料の表面2箇所、断面2箇所の単位面積50μm×50μmを任意に選択して測定し、平均値を算出した。
【0161】
また、これら実施例4〜実施例7および比較例3〜比較例7の試料について、3点曲げ強度及び圧砕強度(室温)の最小値を測定し、さらにレーザーフレッシュ法により熱伝導率を測定した。
【0162】
【表3】
【0163】
表3に示す評価結果に明らかなように、焼結助剤成分の偏析部の最大径を、それぞれ1μmおよび5μmとした実施例4および実施例5の耐摩耗性部材は、3点曲げ強度がそれぞれ950MPaおよび900MPaと優れていた。また、焼結助剤成分の偏析部の最大径が10μmである実施例6においても3点曲げ強度は830MPaと良好であった。また、焼結助剤成分の最大径を20μmとした実施例7の耐摩耗性部材においても3点曲げ強度が750MPaと、優れた強度を備えることが判明した。
【0164】
さらに圧砕強度についても、実施例4の耐摩耗性部材が290N/mm2と特に優れており、最も圧砕強度が低い実施例7でも150N/mm2と、実用上問題ない強度を有することが判明した。
【0165】
一方、焼結助剤成分の偏析部が30μmの比較例3の耐摩耗性部材は、3点曲げ強度が550MPaと低く、また、焼結助剤成分の偏析部が40μmの比較例4の耐摩耗性部材は、3点曲げ強度が500MPaであり、さらに焼結助剤成分の偏析部が50μmの比較例5の耐摩耗性部材は、3点曲げ強度が460MPaと、実施例4〜実施例7の耐摩耗性部材に比較して著しく低くなることが判明した。
【0166】
また、圧砕強度については、比較例3〜比較例7の耐摩耗部材は、20〜80N/mm2の強度にとどまり、耐摩耗性部材として十分な強度を保持していなかった。特に、偏析部の最大径が50μmである比較例5の耐摩耗部材は、圧砕強度が20N/mm2と、著しく低かった。
【0167】
一方、熱伝導率は実施例4〜実施例7および比較例3〜比較例7の試料の比較検討により、大きな差異を生じないことが判明した。
【0168】
すなわち、焼結助剤としてスピネルおよび炭化けい素を添加した耐摩耗性部材は、焼結助剤の凝集部または偏析部の最大径が20μm以下であれば、良好な特性を有する。
【0169】
従って、焼結助剤としてスピネルおよび炭化けい素を添加した耐摩耗性部材の焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径を20μm以下に規定した。
【0170】
また、実施例4と比較例3との比較検討により、耐摩耗性部材のスピネル含有量を1〜5質量%とし、さらに実施例6と比較例4との比較検討によりSi,Ti,Zr,Hf,W,Mo,Ta,NbおよびCrからなる群より選択される少なくとも1種類を酸化物および炭化物に換算した含有量を10質量%以下に規定した。
【0171】
次に、実施例7と比較例6とを比較した。実施例7と比較例6とは、それぞれ別に用意した原料粉末を用いて、耐摩耗性部材の組成が同様の組成となるように原料粉末の混合量を調整し、同様の製造方法にて耐摩耗性部材を作製したものである。
【0172】
実施例7の鉄含有量を測定したところ3500ppmであり、また比較例6の鉄含有量が3600ppmであった。両者の焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径を比較したところ、実施例7の偏析部または凝集部の最大径が20μmであったのに対して、比較例6の偏析部または凝集部の最大径は30μmであった。
【0173】
従って、焼結助剤としてスピネルおよび炭化けい素を添加した耐摩耗性部材の鉄含有量を3500ppm以下に規定した。
【0174】
さらに、実施例6と比較例7とを比較した。実施例6と比較例7とは、それぞれ別に用意した原料粉末を用いて、耐摩耗性部材の組成が同様の組成となるように原料粉末の混合量を調整し、同様の製造方法にて耐摩耗性部材を作製したものである。
【0175】
実施例6のカルシウムの含有量を測定したところ1000ppmであり、また比較例7のカルシウムの含有量が1100ppmであった。両者の焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径を比較したところ、実施例6の偏析部または凝集部の最大径が10μmであったのに対して、比較例7の偏析部または凝集部の最大径は30μmであった。
【0176】
従って、本発明の耐摩耗性部材のカルシウムの含有量を1000ppm以下に規定した。
【0177】
一方、実施例5と比較例5とを比較した。実施例5と比較例5とは、それぞれ同一の原料粉末を用いて同一の組成となるように混合量を調整し、それぞれ本発明の製造方法および従来の製造方法により耐摩耗性部材を製造したものである。
【0178】
実施例5および比較例5の鉄含有量を測定したところ、それぞれ10ppmであった。また、実施例5および比較例5のカルシウムの含有量を測定したところ、それぞれ10ppmであった。一方、偏析部または凝集部の最大径は、実施例5が5μmであったのに対して、比較例5においては40μmであった。
【0179】
すなわち、鉄およびカルシウムの含有量が共に10ppmであっても製造方法の違いにより焼結助剤成分の偏析部または凝集部の最大径が異なり、本発明の耐摩耗性部材の製造方法によれば、同様の不純物濃度の原料を使用した場合に、焼結助剤成分の偏析を効果的に防止することが判明した。
【0180】
従って、本発明の耐摩耗性部材における鉄およびカルシウムの含有量を10ppm以上に規定した。
【0181】
さらに、実施例4〜実施例7,比較例3〜比較例7の耐摩耗性部材の気孔率と焼結助剤成分の凝集部または偏析部の最大径との関係について調査すると、実施例4〜実施例7の耐摩耗性部材の気孔率が1.0%以下であり、焼結助剤成分の凝集部または偏析部の最大径が1〜20μmであるのに対して、比較例3〜比較例7の耐摩耗性部材は、気孔率が1.0%以上であり、焼結助剤成分の凝集部または偏析部の最大径が比較例3〜比較例7のいずれも30μm以上であった。このことより、本発明の耐摩耗性部材の気孔率を1.0%以下と規定した。
【0182】
次に、実施例4〜実施例7,比較例3〜比較例7の各耐摩耗性部材を用いて直径2mmのベアリングボールを作製した。なお各ベアリングボールは、JIS規格に規定されるグレード3の表面精度を満たすように、表面研磨を行った。
【0183】
このベアリングボールを、ハードディスクドライブを回転駆動させるためのスピンドルモータのベアリング部材に組込んだ。ベアリング部材のその他の部材(回転軸部、ボール受け部)は、軸受鋼(SUJ2)製とした。
【0184】
このスピンドルモータを回転速度8000rpmで200時間稼動されたときの不具合の有無を調査した。ここで不具合とは、200時間稼動後にハードディスクドライブが正常に動作するか否かにより判定した。
【0185】
【表4】
【0186】
表4のように実施例4〜実施例7の耐摩耗性部材により形成されたベアリングボールを使用したハードディスクドライブは、不具合を発生しなかった。一方、比較例3〜比較例7の耐摩耗性部材の場合、200時間の稼動の後、ハードディスクドライブに動作不良を生じる等の不具合が発生した。以上の検討により、本発明の耐摩耗性部材の優位性が明白となった。
【0187】
【発明の効果】
本発明の耐摩耗性部材によれば、摺動性を向上し、耐久性に優れた構成としたので、機器の高容量化および高速化を実現可能な耐摩耗性部材を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る耐摩耗性部材の表面の観察写真の模式図。
【符号の説明】
1 焼結助剤偏析部
2 窒化珪素結晶粒子
Claims (13)
- 窒化珪素を主成分とするセラミックスで形成された耐摩耗性部材であって、上記窒化珪素焼結体に形成される焼結助剤成分の凝集部または偏析部の最大径が10μm以下である窒化珪素焼結体から成ることを特徴とする耐摩耗性部材。
- 前記窒化珪素焼結体に含有される不純物としての鉄の含有量が600ppm以下であることを特徴とする請求項1記載の耐摩耗性部材。
- 前記窒化珪素焼結体に含有される不純物としての鉄の含有量が30ppm以上であることを特徴とする請求項1記載の耐摩耗性部材。
- 前記窒化珪素焼結体に含有される不純物としてのCaの含有量が1000ppm以下であることを特徴とする請求項1記載の耐摩耗性部材。
- 前記窒化珪素焼結体に含有される不純物としてのCaの含有量が10ppm以上であることを特徴とする請求項1記載の耐摩耗性部材。
- 窒化珪素を主成分とするセラミックスで形成された耐摩耗性部材であって、焼結助剤としてMgAl2O4スピネルを1〜5質量%、Si,Ti,Zr,Hf,W,Mo,Ta,NbおよびCrからなる群より選択される少なくとも1種類を酸化物および炭化物に換算して10質量%以下含有し、気孔率が1%以下であり、不純物としてFeを10〜3500ppmと、Caを10〜1000ppm含有する窒化珪素焼結体から成ることを特徴とする耐摩耗部材。
- 窒化珪素を主成分とするセラミックスで形成された耐摩耗性部材であって、焼結助剤として酸化マグネシウムを0.5〜4.5質量%、酸化アルミニウムを0.5〜4.5質量%、Si,Ti,Zr,Hf,W,Mo,Ta,NbおよびCrからなる群より選択される少なくとも1種類を酸化物および炭化物に換算して10質量%以下含有し、気孔率が1%以下であり、不純物としてFeを10〜3500ppmと、Caを10〜1000ppm含有する窒化珪素焼結体から成ることを特徴とする耐摩耗部材。
- 前記窒化珪素焼結体に形成される焼結助剤成分の凝集部または偏析部の最大径が20μm以下である請求項6および請求項7記載の耐摩耗性部材。
- 前記窒化珪素焼結体のビッカース硬度Hvが1300〜1500であることを特徴とする請求項1,請求項6および請求項7のいずれかに記載の耐摩耗性部材。
- 前記窒化珪素焼結体の破壊靭性値が6.0MPa・m1/2以上であることを特徴とする請求項1,請求項6および請求項7のいずれかに記載の耐摩耗性部材。
- 前記窒化珪素焼結体の抗折強度が600MPa以上であることを特徴とする請求項1,請求項6および請求項7のいずれかに記載の耐摩耗性部材。
- 前記窒化珪素焼結体球の圧砕強度が100N/mm2以上であることを特徴とする請求項1,請求項6および請求項7のいずれかに記載の耐摩耗性部材。
- 助剤成分を予め混合して均一に分散させた後に、主原料である窒化珪素粉末を混合して原料混合体を調製し、この原料混合体を成形後脱脂して焼結することを特徴とする耐摩耗性部材の製造方法。
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