JP4130268B2 - ゴム変性スチレン系樹脂の製造法 - Google Patents

ゴム変性スチレン系樹脂の製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐衝撃性が優れている成形品の原料となるゴム変性スチレン系樹脂を、安定かつ連続的に得ることができるゴム変性スチレン系樹脂の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来より、ゴム変性スチレン系樹脂は、弱電機器、事務機器、包装容器、雑貨等の製造材料として汎用されているものの、ABS樹脂等と比べると成形品の耐衝撃性において劣る点で改良の余地がある。とりわけ、弱電機器や事務機器業界の分野においては、製品の見栄えや価格低下の要請から一層の薄肉化が求められており、それに応えるためにも耐衝撃性の改良は重要である。
【0003】
ゴム変性スチレン系樹脂に含まれるゴム粒子は、その粒子径を大きくするほど耐衝撃性が高まるが、逆に表面光沢等の外観が低下するため、一般的には0.3〜5μm、好ましくは0.5〜3μm程度が最適であるとされている。また、耐衝撃性の向上には、ゴム変性スチレン系樹脂のゴム粒子中に含まれている内包オクルージョン(ゴム粒子中に分散含有された、即ち吸蔵されたスチレン系樹脂)の含有率も重要な要素であり、この内包オクルージョンの含有率が高いほど、耐衝撃性を向上させることができる。
【0004】
上記のとおり、ゴム変性スチレン系樹脂における耐衝撃性と表面光沢の問題を解決するためには、表面光沢を損なわない範囲でゴム粒子の粒子径を大きくし、かつ内包オクルージョンの含有率を増加させることが重要となる。しかし、現実には、ゴム変性スチレン系樹脂の耐衝撃性と表面光沢をバランスよく、かつ高いレベルで維持することは困難である。
【0005】
特開昭63−118346号公報には、唯一の第一の連続攪拌槽反応器と、一つの第二の連続攪拌槽反応器を直列に連結した装置を用いた耐衝撃ポリスチレンの連続的製造方法が提案されている。しかし、この製造方法によれば、第一の連続攪拌槽反応器における重合液をそのまま第二の連続攪拌槽反応器に導入しているため、上記したようなゴム粒子の粒子径と内包オクルージョン含有率の関係を満たすことができない。この問題は、汎用重合開始剤である過酸化物を用いた場合に、より顕著に発現する。その原因としては、過酸化物を用いた場合、ゴム粒子とスチレン系重合体とのグラフト物が多く生成するのでゴム粒子中の内包オクルージョンの含有率が多くなるが、その反面、生成したグラフト物がゴム粒子と連続相であるスチレン系樹脂との界面において界面活性作用をなすため(例えば、Ounther E.MolauやHenno.Keskkula(J.Polymer.Sci.A4,1595(1966),J.Polymer.Sci.A3,4235(1965),Applied Polymer Symposia 1,35(1968)参照)、ゴム粒子がスチレン系樹脂中に細かく乳化分散し、粒子径が小さくなり、粒子径分布が広くなるものと考えられる。よって、耐衝撃性及び表面光沢の改善については、十分に満足できるものではない。
【0006】
特開平4−366116号公報には、主原料溶液をゴムを含む第1の原料溶液とゴムを含まない第2の原料溶液の2種類に分割し、第1の原料溶液を第1反応器に連続的に供給し、そこで相反転前の状態に維持し、その初期重合液と第2の原料溶液を一緒に第2反応器に連続的に供給し、そこで相反転後の状態まで初期重合を行い、この初期重合液を後続の主重合用反応器で後重合を行うゴム変性スチレン系樹脂の連続的製造方法が提案されている。
【0007】
この方法によれば、第1反応器内の状態を相反転前の状態に維持しても、反応器内のゴム状重合体の含有率が特開昭63−118346号公報等に見られるような通常の含有率に比べて多いので、その分だけスチレン系樹脂の転化率を高め、グラフト反応を進行させることができる。そのため、第1反応器内で相反転した際にできるゴム粒子の内包オクルージョン含有率をより高くすることができる。しかし、その一方で、第2原料溶液をすべて第2反応器に連続的に供給するため、第2反応器内のゴム状重合体の含有率が通常の方法の含有率と同じになってしまう。このため、第2反応器で相反転した場合、通常の場合よりもゴム状重合体の含有率に対するグラフト物の割合が多い分だけ界面活性作用が強くなり、その結果、得られる粒子の粒子径がより小さく、しかも粒子径分布がより広くなってしまうため、耐衝撃性と表面光沢をバランスよく高めることが困難である。
【0008】
本発明は、反応操作が容易であり、高い耐衝撃性を保持したゴム変性スチレン系樹脂の成形品を得ることができる、ゴム変性スチレン系樹脂の製造法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、2基以上の完全混合型の反応器と1基以上の塔型反応器がこの順序で設置された、3基以上の反応器を備えた連続反応装置を用いたゴム変性スチレン系樹脂の製造法であり、スチレン系樹脂の製造に使用するスチレン系モノマーの全量を所望割合に3分割した後、
まず、第1反応器に最初のスチレン系モノマーとゴム全量を供給して初期重合する工程、
次に、第2反応器に第1反応器で得られた重合液と次のスチレン系モノマーを供給しながら、攪拌下でゴム相反転後の状態まで重合させてゴム状重合体を分散粒子化する工程、
さらに、第2反応器で得られた重合液と最後のスチレン系モノマーを第3反応器に連続的に供給し、重合転化率を上昇させる工程、
を具備するゴム変性スチレン系樹脂の製造法を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下において、本発明のゴム変性スチレン系樹脂の製造法の一例を、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明のゴム変性スチレン系樹脂の製造法で用いる連続反応装置の概念図である。なお、図1に示す連続反応装置は、3基の完全混合型の反応器と1基の塔型反応器の計4基の反応器の組み合わせであるが、本発明の連続反応装置は、2基の完全混合型の反応器と1基の塔型反応器の計3基の反応器の組み合わせでもよく、その他、2基の完全混合型の反応器と2基の塔型反応器の計4基の反応器の組み合わせでもよく、さらに3基以上の完全混合型の反応器と2基以上の塔型反応器の計5基以上の反応器の組み合わせでもよい。また、第1と第2及び/又は第2と第3の完全混合型の反応器の間には、前段の完全混合型の反応器で得られた重合液と次段の完全混合型の反応器で使用するスチレン系モノマーを混合するための混合器を設けることができる。
【0011】
本発明においては、反応に先立って、ゴム変性スチレン系樹脂の製造に使用するスチレン系モノマーを所望割合に3分割する(以下において、3分割したそれぞれのスチレン系モノマーを、反応に使用する順に「スチレン系モノマー1」、「スチレン系モノマー2」、「スチレン系モノマー3」と称する。)。この3分割の割合は特に限定されるものではなく、等量に3分割してもよいし、2つが同じ割合で一つが異なる割合でもよいし、3つとも異なる割合でもよい。また、スチレン系モノマーと共に溶剤を使用する場合には、スチレン系モノマーと溶剤の混合物も3分割することができる。本発明におけるスチレン系モノマー1、2、3の分割の割合は、重量比で5:3:2を中心として、それぞれ10〜180%の幅、好ましくは50〜150%の幅で変化させることが望ましい。
【0012】
まず、完全混合型の第1反応器11内に、スチレン系モノマー1、ゴムの全量、さらに必要に応じて重合開始剤、溶剤及び他の成分からなる原料溶液を投入し、攪拌しながら初期重合反応を行うが、このとき、ゴム成分が粒子化する重合転化率を超えない範囲で重合反応を行う。スチレン系モノマー1、2、3とゴムを除いた、重合開始剤、溶剤、他の添加成分は、以下の所望の反応工程において各反応器に所要量を添加することができる。
【0013】
この工程で用いる第1反応器11は、反応系を均一にできるような攪拌手段を備えているものであれば特に限定されるものではなく、攪拌翼付きの完全混合型の反応器を用いることができる。
【0014】
第1反応器11の重合反応においては、原料溶液を投入し、反応を開始した初期の段階で、スチレン系モノマー1とスチレン系樹脂を含む溶液部分(樹脂相)が、ゴムとスチレン系モノマー1を含む溶液部分(ゴム相)から分離し、ゴム相が連続相で、樹脂相が分散相という状態となる。その後、さらに重合反応を進行させると、生成したスチレン系樹脂の量が増大し、樹脂相が分散相として留まれなくなった時点で、樹脂相が連続相となりゴム相が分散相となる(即ち、ゴムが粒子化する)、いわゆる相反転が起こる。よって、第1反応器11における重合反応において、「ゴムが粒子化する重合転化率を超えない範囲」とは、前記した相反転が生じない(ゴムが粒子化しない)範囲の重合転化率であることを意味する。この相反転は、樹脂相とゴム相の容積比に依存するため、第1反応器11における重合反応は、生成したスチレン系樹脂の重量が、仕込んだゴムの重量と同量以下の状態で行うことが好ましい。
【0015】
スチレン系モノマー1とゴムの使用量は、スチレン系モノマーが好ましくは75〜98重量%であり、ゴムが好ましくは2〜25重量%である。ゴムは、本発明の製造法で使用する全量をこの工程で供給する。
【0016】
本発明で用いるスチレン系モノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン等のアルキル置換スチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−4−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン、2−クロロスチレン、4−クロロスチレン等のハロゲン化スチレン等を挙げることができ、これらの中でも、スチレン、4−メチルスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。これらのスチレン系モノマーは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
また、本発明においては、これらのスチレン系モノマーと共重合可能な他のモノマーを用いることができる。なお、以下において「スチレン系モノマー1、2又は3」という場合には、このような他のモノマーを含む場合があることも意味するものである。この他のモノマーとしては、アクリル酸又はメタクリル酸、アクリル酸メチル又はメタクリル酸メチル、アクリル酸エチル又はメタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル又はメタクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル又はメタクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸(C1〜C8)エステル又はメタクリル酸(C1〜C8)エステル、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミドのようなN−置換マレイミド等のマレイン酸又はその誘導体等を挙げることができ、これらの中でもアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルが好ましく、特にメタクリル酸メチルが好ましい。これらのモノマーは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明で用いるゴムとしては、ブタジエンゴム、ブタジエン−イソプレンゴム、ブタジエン−アクリロニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム等の非スチレン系ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム等のスチレン系ゴムを挙げることができ、これらの中でも、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムのような分子内にブタジエン単位を含むゴムが好ましい。これらのゴムは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、ブタジエンゴムは、シス−1,4構造の含有率の高いハイシス型のものであっても、シス−1,4構造の含有率の低いローシス型のものであってもよい。また、共重合体の場合の重合形態は特に限定されるものではなく、ブロック共重合体、ランダム共重合体、テーパーブロック構造を有する共重合体であってもよい。
【0019】
本発明においては、さらに重合開始剤を添加することができる。この重合開始剤としては、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート等のパーオキシケタール類、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ジ−t-ブチルパーオキシジイソプロピルベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、ビス(t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシカーボネート類、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等のパーオキシエステル類のような有機過酸化物を挙げることができ、その他にも、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリルのようなアゾ化合物を挙げることができる。これらの重合開始剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
重合開始剤の使用量は、原料となるゴム重量100重量部に対して、好ましくは0.005〜1.0重量部、特に好ましくは0.005〜0.2重量部である。
【0020】
本発明においては、さらに溶剤を添加することができる。この溶剤としては、反応に不活性なもの、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素類、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系炭化水素類、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類等を挙げることができる。これらの溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
溶媒の使用量は、適度な重合反応速度を維持し、溶剤回収にともなう負担を軽減するため、原料となるスチレン系モノマー1とゴムの合計量100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量%であり、特に好ましくは0.1〜20重量%である。
【0021】
また、本発明の製造方法においては上記各成分の他にも、分子量調整剤、α−メチルスチレンダイマー、メルカプタン類、テルペン類、ハロゲン化合物等の連鎖移動剤等を添加することができる。
【0022】
第1反応器11における重合反応時の温度は、重合開始剤の使用の有無に応じて設定する。重合開始剤を使用しない場合には、例えば、90〜150℃、好ましくは100〜130℃で反応を行う。重合開始剤を使用する場合には、例えば、80〜150℃、好ましくは90〜140℃で反応を行う。この重合反応は攪拌下で行うことが望ましい。
【0023】
このような第1反応器11における重合反応により生成した重合液は第2反応器13に送られるが、その前に、第1反応器11と第2反応器13との間に設置された混合器12において、第1反応器11で得られた重合液に次のスチレン系モノマー2を連続的に添加混合した後、第2反応器13に供給することが望ましい。
【0024】
次に、完全混合型の第2反応器13において、重合反応によりゴム成分を分散粒子化させ、粒子形状を調整する。即ち、この第2反応器13において相反転がなされ、樹脂相が連続相となり、ゴム相が分散相となる。このときのゴム相は、スチレン系樹脂が含有されたゴム粒子から構成されている。
【0025】
この第2反応器13としては、ヘリカルリボン、スクリュー、アンカー等の攪拌翼を備えたものを用いることができる。また、スクリュー型やヘリカルリボン型の攪拌翼を備えているものの場合には、ドラフトチューブを取り付けて反応器内の上下循環を強化することもできる。
第2反応器13における反応温度は、好ましくは90〜150℃、特に好ましくは100〜130℃である。
【0026】
このような第2反応器13における重合反応により生成した重合液は第3反応器15に送られるが、その前に、第2反応器13と第3反応器15との間に設置された混合器14において、第2反応器13で得られた重合液に最後のスチレン系モノマー3を連続的に添加混合した後、第3反応器15に供給することが望ましい。
【0027】
また、このときの第2反応器13出口における重合液の粘度は、第1反応器11出口における重合液の粘度の1.0倍以下であることが好ましく、0.5倍以下であることが特に好ましい。
【0028】
次に、完全混合型の第3反応器15において、さらに反応させ、重合転化率を上昇させる。
第3反応器15における反応温度は、好ましくは110〜150℃である。重合反応は攪拌下で行うことが望ましい。
【0029】
第3反応器15において生成した重合液は、次の第4反応器となる塔型反応器16に送り込まれ、さらに重合反応が進行され、重合転化率が高められて、最終的に目的物とするゴム変性スチレン系樹脂が得られる。
【0030】
この塔型反応器16としては、一般に用いられているものを挙げることができる。例えば、住友重機械工業(株)製のSMR型反応器、ノリタケカンパニー(株)製のスタティックミキサー内蔵型反応器、東レ(株)製のハイミキサー内蔵型反応器を挙げることができる。さらに、反応器の内部又は外部に温度制御用のコイル又はジャケットを有し、攪拌翼付きの塔型反応器を使用することもできる。このような反応器としては、特開昭57−125202号公報の第7頁の図4に示されているような攪拌翼とシェルアンドチューブ型の内部熱交換器を交互に組み合わせたもの、実公平7−2591号公報の第5頁の図1に示されているような冷却用コイルと攪拌翼を交互に組み合わせたもの等を使用することができる。
【0031】
塔型反応器16における反応温度は、入口が好ましくは110〜150℃であり、出口が好ましくは120〜180℃である。重合反応は攪拌下で行うことが望ましい。
【0032】
このようにして重合反応がなされたゴム変性スチレン系樹脂を含む溶液は、残留モノマーや溶剤等の不要物を除去したのち、必要に応じてさらに精製処理し、例えば、押出機により所望形状に成形してゴム変性スチレン系樹脂を得ることができる。
【0033】
このようにして得られるゴム変性スチレン系樹脂に含有されているゴム粒子は、樹脂中において、コア/シェル構造又はカプセル構造のような単一オクルージョン構造、サラミ構造、迷路構造等の種々の形態で分散含有されていてもよい。
【0034】
また、ゴム変性スチレン系樹脂に含まれているゴム粒子の平均粒子径(体積平均粒子径)は、成形品の耐衝撃性や表面光沢、さらには内包オクルージョンの含有率を考慮して設定することが望ましい。
【0035】
ゴム粒子の体積平均粒子径は、通常は0.01〜5.0μmであり、好ましくは0.5〜3.0μmである。体積平均粒子径は、メチルエチルケトン/アセトン=1/1(容量比)溶液にゴム変性スチレン系樹脂を溶解し、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置にて得られた粒度分布曲線から求められるものである。
【0036】
ゴム粒子の粒子径分布は特に限定されるものではなく、単一のピークを有するような粒子径分布、2峰性又は3峰性以上の複数ピークを有する粒子径分布であってもよいが、単一の粒子径分布を有するものが好ましい。
【0037】
このようなゴム変成スチレン系樹脂におけるゴム粒子の平均粒子径は、ゴムの種類及び分子量、ゴムの使用量、連鎖移動剤の種類及び添加量、重合温度、重合時における攪拌速度等の要素により、調整することができる。
【0038】
本発明のゴム変性スチレン系樹脂におけるゴム粒子中の内包オクルージョンの含有率(g)は、ゴム粒子の粒子径、ゴム含量及び目的とする耐衝撃性により適宜変更することができるものであるが、好ましくは1.0以上であり、特に好ましくは1.5以上である。なお、この内包オクルージョン含有率は、次式:
内包オクルージョン含有率=Oc/Rc
[式中、Ocは内包オクルージョンの重量を示し、Rcは添加するゴムの重量を示す]より算出した値である。
【0039】
本発明の製造方法により得られたゴム変性スチレン系樹脂は、他の成分を配合してゴム変性スチレン系樹脂組成物とすることもできる。この場合の他の成分としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸塩、高級脂肪酸アミド、エチレンビスステアリルアミド等のビスアミドのような滑剤、ミネラルオイルのような可塑剤、フェノール系、リン系の酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、着色剤、シリコーンオイルのような離型剤等を挙げることができる。
【0040】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0041】
実施例1
図1に示す連続反応装置を用い、下記の方法でゴム変性スチレン系樹脂を製造した。
まず、原料として、ブタジエンゴム(日本ゼオン製、BR1242ST)18重量%とスチレン82重量%(スチレン系モノマー1;モノマー全量の37重量%)、前記2成分の合計量100重量部に対して15重量部に相当するトルエン及び前記ブタジエンゴム重量に対して1500ppmの重合開始剤[1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(日本油脂製、パーヘキサ3M)]を混合したものを用意した。
この原料溶液を、攪拌機を内装している容量50リットルの完全混合型の第1反応器11に20リットル/時の速度で連続的に供給し、重合反応を行った。反応温度は95℃、翼攪拌機の回転速度は150rpmとした。第1反応器の出口における重合転化率は5%であり、レーザー回折計によりゴム粒子が生成していないことを確認した。グラフト率は16.6%であった。
【0042】
次に、第1反応器11で生成した重合液を取り出しながら混合器12に20リットル/時の速度で連続的に供給し、それと並行して次のスチレン(スチレン系モノマー2;モノマー全量の37重量%)を12リットル/時の速度で連続的に供給した。
次に、混合器12で混合した重合液とスチレン(スチレン系モノマー2)を、攪拌機を内装している容量50リットルの完全混合型の第2反応器13に32リットル/時の速度で連続的に供給し、重合反応を行った。反応温度は130℃、翼攪拌機の回転速度は100rpmとした。第2反応器の出口における重合転化率は25%であり、レーザー回折計によりゴム粒子が生成していることを確認した。グラフト率は58.3%であった。
【0043】
次に、第2反応器13で生成した重合液を取り出しながら混合器14に32リットル/時の速度で連続的に供給し、それと並行して最後のスチレン(スチレン系モノマー3;モノマー全量の26重量%)を混合器14に8リットル/時の速度で連続的に供給した。
次に、混合器14で混合した重合液とスチレンを、攪拌機を内装している容量50リットルの完全混合型の第3反応器15に40リットル/時の速度で連続的に供給し、重合反応を行った。反応温度は135℃、翼攪拌機の回転速度は30rpmとした。第3反応器の出口における重合転化率は45%であった。
【0044】
次に、第3反応器で生成した重合液を、容量100リットルの塔型反応器(攪拌翼付き塔型反応器)16に40リットル/時の速度で連続的に供給した。このとき、t-ブチルクミルパーオキシド(日本油脂製、パーチブルC)を、当初の全原料溶液に対して160ppmの割合で添加した。反応温度は入り口が135℃、出口が160℃であり、攪拌機の回転速度は14rpmとした。塔型反応器16の出口における重合転化率は87%であった。
塔型反応器16から連続的に取り出した重合液を多管チューブ内で加熱した後、脱揮室(15mmHg、250℃)でフラッシュ蒸発処理して、残留しているモノマーや溶剤を除去した。その後、ストランド状に成形したものを切断し、ゴム変性スチレン系樹脂ペレットを得た。
【0045】
このようにして得られたゴム変性スチレン系樹脂ペレットに含有されているゴム粒子の体積平均粒子径を、下記の方法により測定した。なお、粒子径分布は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所(株)製,LA−910)により、単一ピークを示すことを確認した。また、射出成形機(日精樹脂工業(株)製,IS-40E)を用いて、ゴム変性スチレン系樹脂ペレットをシリンダー温度220℃、金型温度45℃で所定形状に射出成形し、試験片を得た。この試験片を用いて、下記の各試験を行った。結果を表1に示す。
【0046】
(1)体積平均ゴム粒子径
メチルエチルケトン/アセトン=1/1(容量比)溶液約200mlにゴム変性スチレン系樹脂約50mgを溶解し、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所LA910)にて得られた粒度分布曲線から求めた。
【0047】
(2)内包オクルージョンの含有率
▲1▼ゴム変性スチレン系樹脂中のゲル含有量の測定
ゴム変性スチレン系樹脂ペレット0.05gを精秤し、メチルエチルケトン/メタノール(容量比10/1)混合溶液を35ml加えて、2時間振とうして溶解させた。冷却遠心分離器で−4℃、15000rpmで、20分間遠心分離した。上澄みを捨てて沈殿を取り出し、60℃で3時間真空乾燥し、次式:ゲル含有量(%)=乾燥ゲルの重量×100/樹脂ペレット重量、よりゲル含有量を求めた。
【0048】
▲2▼内包オクルージョン含有率の測定
下記式より、内包オクルージョン含有量を求めた。
内包オクルージョン含有率=
[ゲル含有量(%)−仕込みゴム含有量(%)]/仕込みゴム含有量(%)。
【0049】
(3)グラフト率
▲1▼グラフトゴムの分別
サンプリングした重合液の転化率から固形分率を計算し、メチルエチルケトン/トルエン(容量比2/3)混合溶媒を用い、固形分濃度が1重量%であるサンプル溶液を得た。このサンプル溶液を25mlの遠心沈澱管に入れ、メタノール6.5mlを滴下した後、−4℃で15分間、15,000rpmで遠心分離し、沈殿物と上澄み液に分けた。この場合の沈殿物は未反応のゴム重合体及びグラフトゴムであり、上澄み部はホモポリスチレンである。なお、上澄み部にホモポリスチレンしか存在しないことは、上澄み部分の溶媒を留去した固体部分の1H−NMRで確認した。
【0050】
▲2▼グフラト率の算出
グラフトゴム中のポリスチレンの割合を1H−NMRスペクトルに基づいて下記式から算出した。グラフトゴム中のゴム量は、ブタジエンゴム量と未反応のブタジエンゴムの合計量である。
グラフト率(%)=
(グラフトゴム中のスチレン量/グラフトゴム中のゴム量+未反応のゴム量)×100。
【0051】
(4)重合液の粘度測定
第1、第2及び第3反応器から取り出した各重合液を、E型粘度計(BROOK FIELD社製、model DV-III型)を用い、それぞれ25℃、35℃及び40℃で測定し、得られた測定値を第1、第2及び第3反応器の温度に換算して粘度とした。
【0052】
(5)アイゾット衝撃強度
JIS K7110に準じて測定した。
【0053】
(6)デュポン衝撃強度
JIS K7211に準じて、厚み2mmの試験片の50%破壊エネルギーを測定した。
【0054】
実施例2
実施例1において、第1反応器で添加する重合開始剤の量を500ppmとし、第1反応器の温度を110℃、第2反応器の攪拌機の回転速度を45rpmに変更した以外は実施例1と同様にして、ゴム変性スチレン系樹脂ペレットを得た。結果を表1に示す。
【0055】
比較例1
図1に示す連続反応装置を用い、下記の方法でゴム変性スチレン系樹脂を製造した。
まず、原料として、ブタジエンゴム(日本ゼオン製、BR1242ST)9重量%とスチレン91重量%、前記2成分の合計量100重量部に対して15重量部に相当するトルエン及び前記ブタジエンゴム重量に対して1500ppmの重合開始剤[1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(日本油脂製、パーヘキサ3M)]からなる原料溶液を用意した。
この原料溶液を、攪拌機を内装している容量50リットルの完全混合型の第1反応器11に、40リットル/時の速度で連続的に供給し、重合反応を行った。反応温度は105℃、翼攪拌機の回転速度は150rpmとした。第1反応器の出口における重合転化率は10%であり、レーザー回折計によりゴム粒子が生成していないことを確認した。グラフト率は15.3%であった。
【0056】
次に、第1反応器11で生成した重合液を取り出しながら混合器12に40リットル/時の速度で連続的に供給した。
次に、混合器12内の重合液を、攪拌機を内装している容量50リットルの完全混合型の第2反応器13に、40リットル/時の速度で連続的に供給し、重合反応を行った。反応温度は125℃、翼攪拌機の回転速度は40rpmとした。第2反応器の出口における重合転化率は21%であり、レーザー回折計によりゴム粒子が生成していることを確認した。グラフト率は44.2%であった。
次に、第2反応器13で生成した重合液を取り出しながら混合器14に40リットル/時の速度で連続的に供給した。
次に、混合器14内の重合液を、攪拌機を内装している容量50リットルの完全混合型の第3反応器15に、40リットル/時の速度で連続的に供給し、重合反応を行った。反応温度は130℃、翼攪拌機の回転速度は30rpmとした。第3反応器の出口における重合転化率は45%であった。
【0057】
次に、第3反応器で生成した重合液を、容量100リットルの塔型反応器(攪拌翼付き塔型反応器)16に40リットル/時の速度で連続的に供給した。このとき、t-ブチルクミルパーオキシド(日本油脂製、パーチブルC)を、当初の全原料溶液に対して160ppmの割合で添加した。反応温度は入り口が135℃、出口が160℃であり、攪拌機の回転速度は14rpmとした。塔型反応器16の出口における重合転化率は87%であった。
塔型反応器16から連続的に取り出した重合液を多管チューブ内で加熱した後、脱揮室(15mmHg、250℃)でフラッシュ蒸発処理して、残留しているモノマーや溶剤を除去した。その後、押出機によりストランド状に成形したものを切断し、ゴム変性スチレン系樹脂ペレットを得た。結果を表1に示す。
【0058】
比較例2
比較例1において、第1反応器の温度を110℃、第2反応器の温度を120℃、攪拌機の回転速度を25rpmに変更した以外は比較例1と同様にして、ゴム変性スチレン系樹脂ペレットを得た。結果を表1に示す。
【0059】
比較例3
図1に示す連続反応装置を用い、下記の方法でゴム変性スチレン系樹脂を製造した。
まず、原料として、ブタジエンゴム(日本ゼオン製、BR1242ST)15重量%とスチレン85重量%、前記2成分の合計量100重量部に対して15重量部に相当するトルエン及び前記ブタジエンゴム重量に対して1500ppmの重合開始剤[1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(日本油脂製、パーヘキサ3M)]を混合したものを用意した。
この原料溶液を、攪拌機を内装している容量50リットルの完全混合型の第1反応器11に、20リットル/時の速度で連続的に供給し、重合反応を行った。反応温度は95℃、翼攪拌機の回転速度は150rpmとした。第1反応器の出口における重合転化率は4%であり、レーザー回折計によりゴム粒子が生成していないことを確認した。グラフト率は14.7%であった。
【0060】
次に、第1反応器11で生成した重合液を取り出しながら混合器12に20リットル/時の速度で連続的に供給し、それと並行してスチレンを混合器12に20リットル/時の速度で連続的に供給した。
次に、混合器12内の重合液を、攪拌機を内装している容量50リットルの完全混合型の第2反応器13に、40リットル/時の速度で連続的に供給し、重合反応を行った。反応温度は125℃、翼攪拌機の回転速度は30rpmとした。第2反応器の出口における重合転化率は23%であり、レーザー回折計によりゴム粒子が生成していることを確認した。グラフト率は46.0%であった。
次に、第2反応器13で生成した重合液を取り出しながら混合器14に40リットル/時の速度で連続的に供給した。
次に、混合器14内の重合液を、攪拌機を内装している容量50リットルの完全混合型の第3反応器15に、40リットル/時の速度で連続的に供給し、重合反応を行った。反応温度は135℃、翼攪拌機の回転速度は30rpmとした。第3反応器の出口における重合転化率は42%であった。
【0061】
次に、第3反応器で生成した重合液を、容量100リットルの塔型反応器(攪拌翼付き塔型反応器)16に40リットル/時の速度で連続的に供給した。このとき、t-ブチルクミルパーオキシド(日本油脂製、パーチブルC)を、当初の全原料溶液に対して160ppmの割合で添加した。反応温度は入り口が135℃、出口が160℃であり、攪拌機の回転速度は14rpmとした。塔型反応器16の出口における重合転化率は89%であった。
塔型反応器16から連続的に取り出した重合液を多管チューブ内で加熱した後、脱揮室(15mmHg、250℃)でフラッシュ蒸発処理して、残留しているモノマーや溶剤を除去した。その後、ストランド状に成形したものを切断し、ゴム変性スチレン系樹脂ペレットを得た。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
Figure 0004130268
【0063】
【発明の効果】
本発明のゴム変性スチレン系樹脂の製造法によれば、内包オクルージョン含有率とグラフト率を高めることができ、これらが耐衝撃性を高めるように作用するため、ゴム粒子径を従来のものと同程度にした場合でも、大幅に耐衝撃性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のゴム変性スチレン系樹脂の製造に用いる連続反応装置の概念図である。
【符号の説明】
11 第1反応器
12 混合器
13 第2反応器
14 混合器
15 第3反応器
16 塔型反応器

Claims (3)

  1. 3基の完全混合型の反応器と1基の塔型反応器がこの順序で設置された、4基の反応器を備えた連続反応装置を用いたゴム変性スチレン系樹脂の製造法であり、ゴム変性スチレン系樹脂の製造に使用するスチレン系モノマーの全量を所望割合に3分割した後、
    まず、3基の完全混合型の反応器の内の第1反応器に最初のスチレン系モノマーとゴム全量を供給して初期重合する工程、
    次に、3基の完全混合型の反応器の内の第2反応器に第1反応器で得られた重合液と次のスチレン系モノマーを供給しながら、攪拌下でゴム相反転後の状態まで重合させてゴム状重合体を分散粒子化する工程、
    さらに、第2反応器で得られた重合液と最後のスチレン系モノマーを3基の完全混合型の反応器の内の第3反応器に連続的に供給し、重合転化率を上昇させる工程、
    さらに、第3反応器で得られた重合液を塔型反応器に連続的に供給し、重合転化率を上昇させる工程、
    を具備するゴム変性スチレン系樹脂の製造法であって、
    得られたゴム変性スチレン系樹脂に含まれているゴム粒子が、体積平均粒子径が4.2〜5.0μ m であり、下記式から求められるゴム粒子中の内包オクルージョンの含有率( g )が1.5以上である、ゴム変性スチレン系樹脂の製造法。
    内包オクルージョン含有率=Oc/Rc
    [ 式中、Ocは内包オクルージョンの重量を示し、Rcは添加するゴムの重量を示す ]
  2. 第1と第2の完全混合型の反応器の間及び第2と第3の完全混合型の反応器の間において、前段の完全混合型の反応器で得られた重合液と次段の完全混合型の反応器で使用するスチレン系モノマーを混合した後、次段の完全混合型の反応器に供給する請求項1記載のゴム変性スチレン系樹脂の製造法。
  3. 第2反応器出口における重合液の粘度が、第1反応器出口における重合液の粘度の1.0倍以下である請求項1又は2記載のゴム変性スチレン系樹脂の製造法。
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