JP4128906B2 - セリウム系研摩材及びセリウム系研摩材の製造方法 - Google Patents

セリウム系研摩材及びセリウム系研摩材の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セリウム、ランタン、フッ素を含むセリウム系研摩材及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
セリウム系研摩材(以下、単に研摩材と称する場合もある。)は、種々のガラス材料の研摩に用いられており、特に近年では、ハードディスク等の磁気記録媒体用ガラス、液晶ディスプレイ(LCD)のガラス基板といった電気・電子機器で用いられているガラス材料の研摩にも用いられており、その応用分野が広がっている。セリウム系研摩材がこれらの用途に広く用いられている所以としては、セリウム系研摩材は切削性に優れることから、比較的短時間で大量のガラス材料が研摩除去できる上に、高精度の研摩面を得ることができるからである。
【0003】
セリウム系研摩材の研摩機構については、セリウム系研摩材中に含まれるフッ素成分が大きな役割を果たしているとされている。即ち、セリウム系研摩材の研摩機構は、酸化セリウムを主とする研摩粒子による機械的研摩作用という研摩材に一般的に共通する作用に加え、研摩材中に含有されるフッ素成分がガラス面と反応してフッ化物を形成し、ガラス表面の侵食を促進するという化学的研摩材用を有することによるものとされている。そして、これらの機械的作用と化学的作用との双方の効果により優れた研摩特性が発揮されるといわれている。
【0004】
セリウム系研摩材の製造工程としては、セリウム、ランタン等の希土類金属又はこれらの酸化物を含む原料(バストネサイト精鉱等の天然原料の他、最近ではバストネサイト鉱や比較的安価な中国産複雑鉱を基に人工合成した酸化希土又は炭酸希土を原料とするものが多くなっている。)を前処理後焙焼し、粉砕、分級することにより製造される。そして、上述のように、セリウム系研摩材においてフッ素成分の存在は重要であるが、このフッ素成分の添加方法としては、研摩材原料の前処理時にフッ化物を添加することが通常行なわれている(フッ化処理の詳細については特許文献1〜3を参照。)。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−269455号公報
【特許文献2】
特開2002−302667号公報
【特許文献3】
特開2002−302668号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、セリウム系研摩材を適用して研摩を行う際には、研摩材を純水等に懸濁させて研摩材スラリーとして研摩に供するが、研摩材スラリーには分散剤、固化防止剤等の添加剤に加え、更に、酸又はアルカリを添加してスラリーのpHを調整している。スラリーのpHを調節するのは、高pHのスラリーを用いた場合、研摩作業の進行に伴い研摩パッドの目詰まりが生じるからである。
【0007】
しかし、本発明者等によると、従来のセリウム系研摩材を上記のように調整したスラリーとして用いると、場合によって研摩力、表面精度が不十分なことがある。この場合、研摩材スラリーの調整による対応を考慮しても良いが、研摩材毎にスラリーの調整方法を検討するのは煩雑であり、研摩材自体の改良により対処することが好ましいともいえる。
【0008】
本発明は、以上の事情を考慮してなされたものであり、実際の研摩作業で適用されるスラリー状態を考慮したセリウム系研摩材と共に、その製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、従来のセリウム系研摩材において、これをスラリーとした際に研摩特性に差異が生じる要因について検討した。そして、その要因として、pH調整の目的でスラリーに添加する酸、アルカリのpH調整剤と、分散剤等の添加剤との組合せの相性によるものと推察した。かかる場合、pH調整剤又は添加剤のいずれかを使用しなければ、問題は生じないともいえるが、上記のように、研摩材スラリーのpHは研摩作業の安定性を確保する上で必要であり、また、分散剤等の添加剤の添加も同様の理由から重要である。
【0010】
そこで、本発明者等は、添加剤による分散性等の確保は困難である認識の基、pHの調整に着目し、pH調整剤の添加が不要なセリウム系研摩材を適用することとし、本発明に想到した。
【0011】
本発明は、ランタン、セリウム、フッ素成分を含むセリウム系研摩材において、純水にスラリー濃度20重量%となるように懸濁させた際のpHが7.0〜10.5であることを特徴とするセリウム系研摩材である。
【0012】
pHの範囲につき、上記範囲を好ましいとする理由としては、pHが7.0未満では研摩力が低いか、研摩面に荒れが生じ易い研摩材となるおそれがあるからである。また、pH10.5を超えると、初期研摩速度が低いだけでなく、研摩時に研摩パッドに目詰まりが生じ易くなるため、研摩速度が短時間で低下し、パッドのドレッシング等のリフレッシュ処理を頻繁に行なう必要があるからである。
【0013】
ここで、本発明者等によると、セリウム系研摩材のpHは、研摩材中に含まれるセリウム以外の希土類元素、特に、ランタンの状態により影響を受ける。その理由としては、セリウム系研摩材の製造工程かにおけるその構造の変化に由来するものである。即ち、上述のようにセリウム系研摩材の製造工程は、原料のフッ化処理工程、焙焼工程を経てなる。ここで、セリウム、ランタン等の希土類酸化物又は希土類炭酸塩を含む原料をフッ化処理すると、その一部が、LnF(Lnは、セリウム、ランタン等の希土類元素(ランタノイド)を示す。また、原料中にネオジム、プラセオジム等を含む場合にはこれらも含まれる。)の形態を有するフッ化物となる(以下、このフッ化物をLnFと示す。)。このときのランタノイド(Ln)は、セリウム、ランタン等の希土類元素が固溶した固溶体を形成していると考えられている。従って、フッ化処理後の焙焼前の原料は、希土類酸化物又は希土類炭酸塩等を主相とし、これにLnF相が混合した状態となっている。
【0014】
フッ化処理後の原料の焙焼工程では、LnF相中のLaFが主相中の希土類酸化物又は希土類炭酸塩と反応してオキシフッ化ランタン(LaOF)へと変化する。一方、LnF相中のCeFは、主相中の希土類酸化物又は希土類炭酸塩と反応してオキシフッ化ランタンを生成させると共にセリウムを酸化セリウムの形で放出させる。そして、この酸化セリウムは、希土類酸化物相に固溶するが、これらのCeFに関する一連の反応の結果、CeFの一部のフッ素は揮発するようになっている。セリウムとランタンでかかる挙動の相違が生じるのは、各元素のフッ素保持能力の相違による。従って、焙焼過程における原料の状態は、LnF、LaOF、希土類酸化物(原料として炭酸塩を用いた場合には炭酸塩から次第に希土類酸化物となる)よりなる。また、原料中に、ネオジム、プラセオジムが含まれている場合、これらの元素はフッ素保持能力がセリウムより高いことから、基本的にランタンと同様の挙動を示し、焙焼の進行に伴いオキシフッ化物を形成する(以下、LaOFを含めてランタン等のオキシフッ化物をLnOFとする。)。これらの配分は焙焼の進行度合いにより変化し、その配分は焙焼後の工程を経てセリウム系研摩材なった状態においてもほぼ維持される。
【0015】
ここで、上記焙焼工程において焙焼が過度に進行すると、LnOFの分解が生じ、ランタンは酸化ランタン(La3)へと変化し、そのまま研摩材中に残留することとなる。本発明者等によれば、焙焼を過度に行った場合に生じる酸化ランタンは、研摩材をスラリーとしたとき、分散媒である水と反応し水酸化ランタン(La(OH))となりスラリーのpHを上昇させることとなる。
【0016】
また、逆に焙焼の進行が不十分であると、LnOFの生成が進行せず、F/La原子比が非常に大きい場合を除いて、酸化ランタンが残留することとなる。この酸化ランタンは希土類酸化物相中でセリウムと固溶状態のランタン同様に水和能力が高いためスラリー中で水和してスラリーのpHを上げる傾向がある。
【0017】
以上の検討結果より、本発明者等は、研摩材のpHは、研摩材中のランタンの状態により影響を受けると考えた。そして、pHが好ましい範囲にある研摩材としては、酸化ランタンが存在せず、かつ、LnFの残留がないものと考えた。このことは、LnOFが適正な状態で発生していることを示す。
【0018】
このLnOFの状態につき、本発明者等は研摩材のX線回折における相対強度により判断する。これは、好ましいLnOFの状態とは、研摩材のpHのみならずその他の研摩特性(傷発生の可能性等)を考慮すれば、その量だけではなく結晶状態も含まれると考えられるからであり、その評価方法としてX線回折が適当と考えたからである。そして、本発明者等は、本発明において好ましいLnOFの状態として、X線回折を少なくとも回折角(2θ)20°〜30°の範囲で測定した際に、酸化セリウムのメインピーク強度に対する、オキシフッ化ランタノイド(LnOF)のメインピーク強度の比(LnOF/CeO)が、0.1〜0.5の範囲内とする。
【0019】
このLnOFの回折強度につき上記範囲を適正とする理由としては、0.1未満では研摩力に乏しい研摩材となるからであり、0.5を超えると、研摩傷の発生が懸念され、仕上げ用の研摩材としては不適格な場合があるからである。そして、研摩力と面精度のバランスをより厳密に考慮すれば、特に好ましい範囲は、0.2〜0.4である。
【0020】
セリウム系研摩材についてのX線回折については、通常行なわれる方法により行なうものとする。即ち、採取したセリウム系研摩材に単色X線を入射し、散乱X線の強度を測定することにより行なわれ、X線ディフラクトメーターにより行なう。ここで、X線回折の際のターゲットとしては、Cu、Mo、Fe、Co、W、Ag等が使用でき、これらターゲットによるKα線、Lα線を適用することができるが、銅ターゲットによるCuKα線又はCuKα線によって得られる回折X線を適用するのが好ましい。Fe等のX線による回折ピーク強度は低く、算出される回折強度比の精度に影響を与えるおそれがあるからである。
【0021】
尚、セリウム系研摩材のX線回折分析において、CuKα線又はCuKα線を用いた場合は、LnOFのメインピークは、26.5°±0.5°付近で観察され、酸化セリウムのメインピークは、28.1°±1.0°付近で観察される。本発明に係るセリウム系研摩材は、これらの角度で観察される回折ピークの強度の比で評価するのが好ましい。尚、本発明において、X線回折に関する「酸化セリウムのピーク」とは、希土類元素としてセリウムを主成分とする希土類酸化物のピークであり、純粋な酸化セリウムのピークのみを意味するものではない。
【0022】
ところで、本発明においては、ランタンの量及びフッ素成分の量も規定することが好ましい。これらは原料段階或いはフッ化処理段階で調整されるものであるが、これらの成分の量が適正範囲外となると、pHに影響を与え研摩特性を悪化させるおそれがある。具体的には、ランタンの含有量については、ランタンを酸化物に換算した際の全希土酸化物含有量(TREO)との重量比(La/TREO)が5〜40%の範囲内となるものが好ましい。上述の通り、ランタンは研摩材pHに影響を与える酸化ランタンと研摩力向上の要因となるLnOFを生成させる。ここで、ランタン含有量を適正範囲とすることで、フッ素の添加により比較的低温での焙焼が可能となる。そして、低温での焙焼により、LnOFの分解、酸化セリウム粒子及びLnOF粒子の粗大化を生じさせることなくLnOFを生成させることができるため、酸化ランタンの生成を抑制しつつ好ましい状態のLnOFを生成することができる。また、低温での焙焼は酸化セリウムの異常粒成長も抑制することができ、研摩傷発生の危険も回避することができる。
【0023】
また、フッ素の含有量については、フッ素とランタンとの原子比(F/La)が1.1〜2.0の範囲内とするのが好ましい。フッ素成分はセリウム系研摩材の研摩力を確保する上で必要な成分であるが、例えば、F/La原子比が3以上となる場合のようにフッ素含有量が多すぎると、焙焼工程でLnFが残留しやすくなるため、研摩材のpHを低下させることとなる。また、LnFを消失させるためには高温又は長時間の焙焼が必要となり酸化ランタンの発生、酸化セリウム粒子及びLnOFの粗大化、異常粒成長を抑制することが極めて困難となる。一方、フッ素成分含有量が少なすぎると、研摩力の問題に加えて、酸化セリウム相中に固溶している酸化ランタンの量が多くなり、スラリー時に加水分解して水酸化ランタンとなりpHを上昇させることとなる。そこで、LnFの残留を考慮してランタン含有量に対するフッ素成分量として上記範囲を適正とする。尚、より好ましいフッ素含有量は、F/Laが1.3〜1.8の範囲である。
【0024】
以上説明した本発明に係るセリウム系研摩材によれば、スラリー化する際にpH調整剤の添加がなくてもスラリーのpHを適性範囲とすることができる。そして、これにより安定した研摩特性を備える研摩材スラリーを得ることができる。
【0025】
尚、本発明に係るセリウム系研摩材は、純水にスラリー濃度20重量%となるように懸濁させた際の導電率が1mS/cm以下となるようなものが更に好ましい。スラリーとしたときの導電率が高いということは、研摩材粒子から種々のイオンが溶出し易い状態であることを示すが、この場合研摩力が低いと考えられるからである。また、導電率は0.1mS/cm以上が好ましい。0.1mS/cm未満となる傷の生じ易い研摩材となるからである。
【0026】
また、本発明に係る研摩材は、プラセオジム成分又はネオジム成分の少なくともいずれかの成分を含有していても良い。尚、ネオジム、プラセオジムについては、ランタンと同様の挙動を示すものの、ランタンよりも塩基性が高くないためこれらの元素の研摩材のpHへの影響は少ないと考えられる。
【0027】
次に、本発明に係るセリウム系研摩材の製造方法について説明する。本発明にかかる研摩材は、pHの調整された研摩材である。このpHの調整については、フッ化処理工程及び焙焼工程における改良によって達成される。つまり、上述のように、研摩材のpHを適正範囲とするためには、焙焼後の研摩材原料中のフッ化酸素ランタンが適正な状態にあること。言い換えれば、酸化ランタンが存在せず、かつ、フッ化物の残留がないことが必要である。焙焼後の研摩材原料をかかる状態とするためには、焙焼前の原料の組成を調整し、焙焼条件を適正な範囲内とすることが必要となる。
【0028】
本発明者等は、フッ化処理条件及び焙焼条件につき検討を行ったところ、フッ化処理条件としては、原料中のフッ素原子数とランタン原子数との比(F/La)が1.2〜2.3となるようにフッ素成分を添加することとし、更に、焙焼条件としては、焙焼温度を800〜1200℃としつつ、焙焼時間を焙焼後の原料中のフッ素原子数とランタン原子数との比(F/La)が1.1〜2.0となるような時間を焙焼時間として焙焼することが必要であることを見出した。
【0029】
フッ化処理条件として上記範囲とするのは、F/Laが2.3を超えると、焙焼後の原料中にフッ化物が残留することとなり、研摩材のpHが適正範囲未満となるからである。また、フッ素成分の添加量が過大となると、焙焼中に揮発するフッ素成分により焙焼炉の構成材料を痛めたり、焙焼ガスの排ガス処理の負担が大きくなる。一方、F/Laが1.2以上とするのは、研摩力の確保のためである。そして、研摩力の確保とフッ化物の残留抑制の観点から、フッ素成分添加量としてより好ましい範囲は、1.5〜2.0である。
【0030】
また、フッ化処理時に添加するフッ素成分としては、フッ化水素酸又は水溶性を有するフッ化水素酸塩を用いることが好ましい。フッ化水素酸塩としては、例えば、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム等のフッ素含有化合物又はこれらの水溶液が適用できる。
【0031】
本発明に係るセリウム系研摩材の製造方法においては、焙焼条件の設定も重要である。焙焼が不十分であると(焙焼温度が低い、又は、焙焼時間が短い)、フッ化物の残留が生じることに加え、オキシフッ化ランタノイドの生成及びセリウムの酸化が進行せず研摩力に乏しい研摩材が製造される。また、焙焼が過度になされると(焙焼温度が高い、又は、焙焼時間が長い)、フッ化物の残留の可能性は低くなるが、オキシフッ化物が分解して酸化ランタンの生成が懸念されることに加え、オキシフッ化ランタノイドや酸化セリウムの異常粒成長が生じるために研摩傷の発生し易い研摩材が製造される。
【0032】
かかる観点から、本発明者等は、焙焼温度としては、800〜1200℃の範囲が必要であるとする。800℃未満では焙焼が不十分となり、オキシフッ化ランタノイドの生成及びセリウムの酸化を促進できないからであり、1200℃を超えるとオキシフッ化ランタンが分解して酸化ランタンが生成しやすいことに加え、オキシフッ化ランタノイドや酸化セリウムの異常粒成長が生じるからである。
【0033】
一方、焙焼時間については、上記温度範囲内で焙焼後の原料中のフッ素原子数とランタン原子数との比(F/La)が1.1〜2.0となるまで焙焼を行なうこととする。このように焙焼時間について焙焼後のフッ素含有量の目標値を基準とするのは、焙焼温度、焙焼装置により好適な焙焼時間が異なるために時間を直接基準とするのは好ましくないからである。そして、F/Laの範囲を1.1〜2.0とするのは、F/Laが2.0を超えるようなフッ素揮発量の少ない短時間の焙焼では、焙焼が十分ではないためフッ化物の残留が多くなるからである。また、F/Laが1.1未満となるまで長時間焙焼すると、オキシフッ化ランタノイドの成長、異常粒成長が生じるからである。尚、更に好ましいF/Laの範囲としては、1.3〜1.8である。
【0034】
この焙焼時間の具体的な設定例としては、例えば、電気式静置炉を用いて焙焼する場合、焙焼温度を800℃とする場合には焙焼温度を12時間以上確保する必要があるが、1000℃では8時間程度、1200℃では4時間程度の焙焼時間が設定される。これに対し、電気式回転炉や流動炉、外熱式回転炉のように焙焼中の原料が常時高温ガスと接触可能な形式の焙焼炉にて焙焼を行う場合、焙焼時間は前記静置炉の1/6〜2/3程度とすることができる。
【0035】
尚、この焙焼工程においては、初めに焙焼温度を低温に設定し、途中でpH測定、X線回折分析を行い、焙焼の進行度を確認し、再度焙焼を行っても良い。
【0036】
また、本発明の好適な例としては、原料として酸化ランタン含有量(La2O3/TREO)30重量%、酸化セリウム含有量(CeO2/TERO)60%の希土原料を用いた場合、フッ化処理工程においてフッ素成分の添加量(F/TREO)が5.25〜7.0重量%とし、焙焼後の原料中のフッ素量(F/TREO)が4.55〜6.3重量%となるように焙焼温度と時間を設定すると好ましい研摩材が得られる。
【0037】
本発明においては、フッ化処理時のフッ素成分添加量を規定すると共に、焙焼条件を規定する点において特徴を有する。従って、それ以外の製造工程においては特に制限されるものではない。つまり、セリウム系研摩材の製造工程においては、原料の粉砕工程、フッ化処理工程、焙焼工程、焙焼物の解砕、粉砕工程、分級工程からなることが多いが、フッ化処理工程、焙焼工程以外の工程については、従来の方法により行うことは何ら問題ない。
【0038】
また、既に述べたようにセリウム系研摩材の原料としては、バストネサイト精鉱という天然原料を用いたものと、酸化希土、炭酸希土という人工原料を用いたものとがあるが、本発明に係る研摩材及びその製造方法ではいずれの原料も適用し得る。但し、天然原料であるバストネサイト精鉱にはもともとフッ素が含有されていることから、必要があれば、当初のフッ素含有量に応じてフッ素成分を添加、或いはフッ素を含んでいない酸化希土等を添加してフッ素濃度を希釈して調整する。また、人工原料である酸化希土、炭酸希土については原料状態ではフッ素が含まれていないことから、焙焼工程前に目的濃度となるようにフッ素成分を添加することとなる。
【0039】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態を比較例と共に説明する。本実施形態では、基本的に共通する原料を用いて、フッ化処理工程のフッ素成分添加量、焙焼条件を種々変更して複数の研摩材を製造し、それらの特性を検討した。
【0040】
本実施形態で適用するセリウム系研摩材の製造工程は、以下の通りとした。まず、原料としては、混合軽希土炭酸塩(TREO:50重量%、酸化セリウム含有量(CeO/TERO):70重量%、ランタン含有量(La/TREO):30重量%、強熱原料:50%、F/TREO:<0.1重量%)を用いた(ランタン含有量による比較を行う際を除く)。そして、予め原料と水とを混合してスラリーとし、このスラリーを湿式ボールミルにて粉砕し、平均粒径(マイクロトラック法D50(累積50%粒径))が1.5μmとなるように粉砕し、これをフッ化処理した。フッ化処理はスラリーに5mol/lのフッ化水素酸水溶液を添加した。
【0041】
フッ化処理後の複数の原料スラリーは濾過し、静置炉にて焙焼条件を変化させつつ焙焼した。そして、焙焼後の原料は乾式粉砕し、更に分級処理を行い、5μm以上の粒子を除去してセリウム系研摩材を得た。
【0042】
製造したセリウム系研摩材は、X線回折分析、pH測定、導電率測定を行った後、研摩試験を行い各研摩材の研摩特性を評価した。X線回折は、製造したセリウム系研摩材を適量採取して試料ホルダに試料面がホルダ面と一致するように均一に充填し、これをX線ディフラクトメータに設置してX線回折パターンを得た。この際の入射X線はCuKα線であり、回折X線はCuKα線によるものを基準とした。得られたX線回折パターンは各種希土類化合物の標準ピークと比較し、各ピークの示す化合物を同定し、LnOF/CeOピーク強度比を計算した。また、pH測定、導電率測定は、研摩材を純水中にスラリー濃度20重量%となるまで分散し、1時間混合後のスラリーのpH、導電率を測定した。
【0043】
研摩試験は、各実施形態及び比較例で得られたセリウム系研摩材について、研摩試験機(台東精機(株)社製:HSP−21型)を用いて研摩を行った。研摩試験では、まず、研摩材と純水とを混合して研摩材の濃度が15質量%の研摩材スラリーを調製した。そして、この研摩材スラリーとポリウレタン製の研摩パッドとを用いて、平面ガラス(φ65mm)の表面を、研摩圧力9.8kPa(100g/cm)、研摩機の回転数100rpm、研摩材スラリーの循環量5L/分で10分間研摩し、研摩前後のガラス質量の減少量に基づき研摩値を求めた。研摩値の評価は、後述する試料No.1の研摩材により研摩自他ときの減少量を100として各研摩材の研磨値を相対的に評価した。具体的には、表2、表4、表6、表8中、「◎」は、200以上、「○」は150以上200未満、「△」は120以上150未満、「×」は、120未満である。
【0044】
そして、研摩終了後、純水で洗浄し、無塵状態で乾燥させた研摩面について傷評価を行った。傷評価は、30万ルクスのハロゲンランプを光源として用いる反射法でガラス表面を観察し、大きな傷および微細な傷の数を点数化し、100点を満点として減点評価する方式で行った。この傷評価では、ハードディスク用あるいはLCD用のガラス基板の仕上げ研摩で要求される研摩精度を判断基準とした。具体的には、表2、表4、表6、表8中、「◎」は、98点以上(HD用・LCD用ガラス基板の仕上げ研摩に非常に好適)であることを、「○」は、98点未満95点以上(HD用・LCD用ガラス基板の仕上げ研摩に好適)であることを、「△」は、95点未満90点以上(HD用・LCD用ガラス基板の仕上げ研摩に使用可能)であることを、そして「×」は、90点未満(HD用・LCD用ガラス基板の仕上げ研摩に使用不可)であることを示す。
【0045】
また、研摩材の洗浄性についても試験を行った。洗浄性評価では、まず、洗浄・乾燥された光学顕微鏡観察用のスライドグラスを、研摩材スラリー中に浸漬すると共に引き上げて50℃で一旦乾燥させ、その後、純水入りの容器に浸漬させて超音波洗浄を5分間行い、超音波洗浄後、容器から取り出したスライドグラスを純水で流水洗して観察対象のスライドグラスを得た。その後、スライドグラス表面に残存する研摩材粒子の残存量を光学顕微鏡で観察することで洗浄性を評価した。具体的には、表2、表4、表6、表8中、「○」は、研摩材の残存がないことを、「△」は研摩材の残存がわずかにあることを、「×」は、研摩材の残存が非常に多いことを示す。従って、「×」を示す研摩材は、HD用・LCD用ガラス基板の仕上げ研摩に使用困難である。
【0046】
以上の製造工程、評価方法を基準とし、製造条件を変更してセリウム系研摩材を製造した。
【0047】
フッ化処理条件による比較:まず、フッ化処理時のフッ素成分添加量を変化させて製造される研摩材の特性を比較した。フッ化処理条件はフッ素成分を0重量%(TREO基準)、3重量%(F/La原子比で0.86)、5重量%(F/La原子比で1.43)、6.5重量%(F/La原子比で1.86)、8重量%(F/La原子比で2.29)、10重量%(F/La原子比で2.86)、15重量%(F/La原子比で4.29)とした。フッ化処理条件のF/TREO、F/Laの値は、フッ化水素由来のフッ素のみを基に算出している。また、焙焼条件は焙焼温度900℃、焙焼時間を10時間とした。製造された研摩材の特性を表1に示す。
【0048】
【表1】
Figure 0004128906
【0049】
そして、これらの研摩材の研摩試験結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
Figure 0004128906
【0051】
以上の結果から、フッ素処理条件と研摩材の特性との関係を見ると、フッ化処理条件としてF/Laを1.43(No.3)〜2.29(No.5)とした場合において、研摩材のF/La原子比及びLnOF/CeOピーク強度比、並びに、スラリー状態のpHが適正範囲となることがわかった。
【0052】
また、研摩特性との関係においては、研摩材のF/La原子比及びLnOF/CeOピーク強度比、並びに、スラリー状態のpHが適正範囲にある研摩材は研摩試験、洗浄試験共に良好な結果を示すことが確認された。
【0053】
焙焼条件による比較:次に、焙焼条件を変更して複数の研摩材を製造した。まず、焙焼時間を10時間に固定して、焙焼温度を700℃〜1250℃とし7種類の研摩材を製造した。製造された研摩材の特性を表3に示す。このときのフッ化処理は、フッ素濃度(F/La原子比)が1.86となるように行った。
【0054】
【表3】
Figure 0004128906
【0055】
そして、これらの研摩材の研摩試験結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
Figure 0004128906
【0057】
次に、焙焼温度を950℃に固定し、焙焼時間を0.5〜72時間に変化させて8種類の研摩材を製造した。製造された研摩材の特性を表5に示す。ここでのフッ化処理条件は、F/La原子比を1.86としている。
【0058】
【表5】
Figure 0004128906
【0059】
そして、これらの研摩材の研摩試験結果を表6に示す。
【0060】
【表6】
Figure 0004128906
【0061】
以上の結果から、焙焼条件と研摩材の特性との関係を見ると、研摩材のF/La原子比及びLnOF/CeOピーク強度比、並びに、スラリー状態のpHを適正範囲とするためには、焙焼温度としては800〜1050℃が特に好ましいことが確認された。また、焙焼時間については、あまりに長時間の焙焼(48時間を超える焙焼)は、研摩材スラリーのpHを適正範囲より高いものとすることが確認された。
【0062】
また、研摩特性との関係においては、研摩材のF/La原子比及びLnOF/CeOピーク強度比、並びに、スラリー状態のpHが適正範囲にある研摩材は研摩試験、洗浄試験共に良好な結果を示すことが確認された。
【0063】
ランタン含有量による比較:ここでは、原料を変更し、ランタンの含有量が異なる希土原料を調整し、それらから研摩材を製造し特性の比較を行った。原料の調整は、塩化ランタンと塩化セリウムの混合水溶液から炭酸アンモニウムにて沈殿させたものを原料とした。ランタン含有量の調整は、混合水溶液の濃度を変化させることにより行った。また、研摩材の製造工程は上記実施形態と同様であるが、焙焼条件を1000℃、10時間とした。製造した研摩材の特性を表7に示す。
【0064】
【表7】
Figure 0004128906
【0065】
そして、これらの研摩材の研摩試験結果を表8に示す。
【0066】
【表8】
Figure 0004128906
【0067】
以上の結果から、原料組成と研摩材の特性との関係を見ると、フッ化処理条件にもよるが、原料中のランタン濃度は10〜40重量%(TREO基準)が好ましく、かかる原料により研摩材としたときのF/La原子比及びLnOF/CeOピーク強度比、並びに、スラリー状態のpHを適正範囲とするこおができることが確認された。
【0068】
また、研摩特性との関係においては、このように研摩材のF/La原子比及びLnOF/CeOピーク強度比、並びに、スラリー状態のpHが適正範囲にある研摩材は研摩試験、洗浄試験共に良好な結果を示すことが確認された。
【0069】
【発明の効果】
以上説明した本発明に係るセリウム系研摩材は、pHが予め好ましい範囲に調整されたものであり、pH調整剤を添加しなくても安定した研摩特性を有する研摩材スラリーを得ることができる。

Claims (5)

  1. ランタン、セリウム、フッ素成分を含むセリウム系研摩材において、
    ランタンを酸化物に換算した際の全希土酸化物含有量(TREO)との重量比(La /TREO)が10〜30%、セリウムを酸化物に換算した際の全希土酸化物含有量(TREO)との重量比(CeO /TREO)が60〜90%の酸化希土又は炭酸希土を原料としたものであり、
    銅ターゲットを用い、CuKα線又はCuKα 線により回折X線を少なくとも回折角(2θ)20°〜30°の範囲で測定した際に、酸化セリウムのメインピーク強度に対する、オキシフッ化ランタノイド(LnOF)のメインピーク強度の比(LnOF/CeO )が、0.1〜0.5であり、
    フッ素とランタンとの原子比(F/La)が1.1〜2.0であり、
    純水にスラリー濃度20重量%となるように懸濁させた際のpHが7.0〜10.5であることを特徴とするセリウム系研摩材。
  2. 純水にスラリー濃度20重量%となるように懸濁させた際の導電率が1mS/cm以下である請求項1に記載のセリウム系研摩材。
  3. セリウムを主成分としてランタンを含有し、La / TREOが10〜30%、かつ、CeO /TREOが60〜90%である酸化希土又は炭酸希土からなる原料をフッ化処理する工程と、フッ化処理後の原料を焙焼する工程とを含むセリウム系研摩材の製造方法において、
    フッ化処理時に、原料中のフッ素原子数とランタン原子数との比(F/La)が1.2〜2.3となるようにフッ素成分を添加し、
    焙焼温度を800〜1200℃として、焙焼後の原料中のフッ素原子数とランタン原子数との比(F/La)が1.1〜2.0となるように焙焼時間を設定して焙焼することを特徴とするセリウム系研摩材の製造方法。
  4. フッ化処理時に、原料中のフッ素原子数とランタン原子数との比(F/La)が1.5〜2.0となるようにフッ素成分を添加する請求項3記載のセリウム系研摩材の製造方法。
  5. フッ化処理時に添加するフッ素成分としてフッ化水素酸又は水溶性を有するフッ化水素酸塩を用いる請求項3又は請求項4記載のセリウム系研摩材の製造方法。
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