JP4127474B2 - スパッタリングターゲット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スパッタリングターゲット、特に硬質窒化被膜形成用のスパッタリングターゲット、に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、金属、サーメット、セラミック素材を所定の形状に切削する際の切削スピードは高速化の傾向にある。一般に切削に使われる硬質工具としては、炭化タングテン(WC)よりなる超硬合金あるいはコバルト(Co)に、耐熱および耐酸化性を向上させるためにチタン−窒素系膜(TiN系膜)、チタン−アルミニウム−窒素系膜(TiAlN系膜)、チタン−炭素系膜(TiC系膜)のような被膜を、イオンプレーティングなどによって被覆したものが提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
これらの被膜が表面に形成された硬質工具は従来より耐久性が向上したものであって好ましいものであるが、先に述べた切削スピードの高速化により加工中に被膜が剥がれる場合があって、工具寿命の点で更なる改良が求められている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために、クロムを主成分とし、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、タングステン、モリブデンおよびボロンからなる群より選択される少なくとも一種の元素を副成分として含有し、かつ酸素、炭素、硫黄、水素等の不純物成分を所定量以下に制限されたスパッタリングターゲットを使用することによって、硬質窒化被膜が高い密着力で形成可能となることを確認した。
【0005】
従って、本発明によるスパッタリングターゲットは、クロムを主成分とし、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、タングステン、モリブデンおよびボロンからなる群より選択される少なくとも一種の元素を10〜50原子%含み、酸素、炭素、硫黄および水素の合計含有量が3000ppm以下であること、を特徴とするものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
<スパッタリングターゲット>
本発明は、クロム(Cr)を主成分とし、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、モルブデン(Mo)およびボロン(B)からなる群より選択される少なくとも一種の元素を10〜50原子%含み、酸素(O)、炭素(C)、硫黄(S)および水素(H)の合計含有量が3000ppm以下であるスパッタリングターゲットに関するものである。
【0007】
上記の本発明によるスパッタリングターゲットにおいて、酸素(O)、炭素(C)、硫黄(S)および水素(H)の合計含有量は、3000ppm以下、好ましくは2000ppm以下、更に好ましくは1000ppm以下、である。上記元素の合計含有量が3000ppmを超える場合には、形成された膜のが密着力が不足して本願発明の目的を達成することが困難になる。
【0008】
上記のCrを主成分とする本発明によるスパッタリングターゲットにおいて、Al、Si、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、MoおよびBからなる群より選択される少なくとも一種の元素の含有量は、10〜50原子%、好ましくは10〜20原子%である。これらの各元素のうち実質的に一種類だけが含有されている場合にはその元素の量が上記範囲内であり、上記の群内の元素が二種以上が含有されている場合にはそれらの合計量が上記範囲内であればよい。
【0009】
ここで、AlおよびSiは、主として形成された膜の耐酸化性を向上させる成分であり、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、MoおよびBは、スパッタ条件において存在する窒素ガスと結合して窒化物を生成し、主として膜の耐摩耗性を高める成分である。
【0010】
これらの各元素をどれを選択するか、その組み合わせおよび各元素の存在比率等は、スパッタリングターゲットの具体的な目的ないし用途、それから形成された膜の特性等に応じて適宜決定することができる。本発明において好ましいものとして確認されているのは、AlまたはSiのいずれかあるいは両者を5〜30原子%、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、MoおよびBのいずれかあるいは2種以上を5〜20原子%含むものである。上記各元素が上記範囲内で存在することによって、上記各元素の複合効果を得ることが可能になる。
【0011】
上記の本発明によるスパッタリングターゲットにおいて、上記の主成分(即ちCr)、他の必須成分、任意成分ならびに不純物成分の存在量は、いずれも下記の測定方法によって得られた値とする。
【0012】
すなわち、図1に示すように、例えば円盤状のスパッタリングターゲットの中心部(位置1)と、この中心部を通り円周を均等に分割した4本の直線上の中心から90%(中心を0%、半径の長さを100%とする)の距離にある点(位置2〜9)、および中心から50%(上記と同様に、中心を0%、半径の長さを100%とする)の距離にある点(位置10〜17)から、それぞれ長さ15mm、幅15mmの試験片を合計17個採取し、これらの試験片から得られた結果の平均値とする。
ここで、O、C、SおよびHの含有量は、具体的には、
O、H:不活性ガス融解−熱伝導度法
C、S:高周波燃焼−赤外線吸収法
によって、求められるものである。
【0013】
本発明によるスパッタリングターゲットは任意の方法によって製造することができるが、最終的に得られるスパッタリングターゲットが、前記の通りに、Al、Si、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、MoおよびBからなる群より選択される少なくとも一種の元素を10〜50原子%含み、O、C、SおよびH等の不純物元素を合計が3000ppm以下、好ましくは2000ppm以下、更に好ましくは1000ppm以下、のものとなるようにする必要がある。よって、スパッタリングターゲットの原料としては上記不純物元素の含有量が低いものを用いることが好ましく、そしてスパッタリングターゲットとするまでの製造工程(例えば、成型工程、焼結工程および機械加工工程等)も真空ないし上記の不純物元素の存在量が低い雰囲気下で実施することが好ましい。
【0014】
例えば、スパッタリングターゲット原料である各金属粉末を溶解鋳造し、得られたインゴットを粉砕、ガスアトマイズ法あるいはプラズマ回転陽極法等により金属粉末を製造し、この金属粉末を所定量混合し、得られた混合粉末を用いて、例えば常圧焼結、ホットプレス(HP)法、熱間静水圧プレス(HIP)法などを実施することからなる粉末冶金法により焼結体とし、次いでこの焼結体に機械加工を行って所望の形状および表面特性のスパッタリングターゲットとする方法に従って製造する方法を採用することができる。あるいは各金属元素を混合溶解し、その溶湯をガスアトマイズ法あるいはプラズマ回転陽極法等により合金粉末を製造し、えら得た合金粉末を用いて前記製造方法と同様に例えば常圧焼結、ホットプレス(HP)法、熱間静水圧プレス(HIP)法などを実施することからなる粉末冶金法により焼結体とし、次いでこの焼結体に機械加工を行って所望の形状および表面特性のスパッタリングターゲットとする方法に従って製造する方法などが検討される。
【0015】
上記製造方法の場合、上記の金属(合金)粉末の製造、混合工程、焼結工程および機械加工工程の各工程を真空または上記不純物成分が実質的に存在しない雰囲気下で行うことが好ましい。
【0016】
ここで、この金属(合金)粉末製造工程において最大粒径50μm以下の小さい粒子が多く存在する場合、金属粒子の比表面積が増大しO、C、SおよびHの各元素量、特に酸素量を増加させる傾向があり、一方直径が500μm以上の過度に大きい粒子にはスパッタリングターゲットのO、C、SおよびHの各元素含有量のばらつきを増大させる傾向さらには焼結性を低下させる傾向が認められる。このため、得られた粉末に対し、篩分けなどを行い粒度分布毎に選別して、過度に粒径が小さい粒子あるいは大きい粒子は積極的には使用しないことが好ましい。好ましい粒径の範囲は50〜150μmである。特に、焼結性を向上する為に、粒径が大きい粉末と小さい粉末を所定の比率で再混合して使用することが好ましい。
【0017】
また、これらの金属粉末を例えばホットプレス法などによって焼結する場合には、真空中(例えば真空度5×10−4 torr以下)で所定時間加熱して脱ガス処理を行うことが好ましい。この脱ガス処理が終了するまで予備加圧を付加せず、その状態を所定時間維持することにより、粉末表面上の吸着ガス成分を十分に除去することで焼結性を向上することが可能となり、その結果、最終的に得られるスパッタリングターゲットの欠陥を低減することが可能となる。
この脱ガス処理は、200〜600℃、好ましくは400〜500℃の温度で、2間以上行うことが好ましい。
【0018】
また、脱ガス処理および焼結処理に際して、加熱を行う場合にはその加熱の昇温速度は10℃/分以下、好ましくは5℃/分以下、にすることが好ましい。このような昇温速度を採用することにより、効率的に脱ガス処理および焼結処理を行うことができる。昇温速度が前記範囲より速いときは、脱ガスが充分達成されない場合があり好ましくない。
焼結体の機械加工は常法により行うことができる。
【0019】
このような本発明で規定するスパッタリングターゲットは、窒素ガス含有雰囲気中でスパッタリングを行うことによって金属表面に硬質窒化被膜を再現性よく形成可能なものである。
【0020】
このような本願発明によるスパッタリングターゲットから硬質窒化被覆膜を形成させる方法は、従来からこの種の反応性スパッタリングターゲットにおいて採用されて来た方法と本質的に同様であって、従って本発明でも従来から採用されてきた方法をそのままあるいは必要に応じて所定の改変を加えて用いることができる。本発明において好ましい膜形成方法の一例としては、例えばAIP(アークイオンプレーティング)法やPVD(プラズマ真空蒸着)法を例示することができる。
【0021】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
<実施例1>
表1の試料No.1〜No.7に示す各組成の電解原料を真空溶解し、アトマイズ法等により粒径が100μm〜200μmの各組成の合金粉末を作製した。
【0022】
次に、この合金粉末をカーボン型にセットし、真空度2×10−4torr、で表1に示す各脱ガス温度および脱ガス時間で脱ガス処理を行った。その際、各脱ガス温度までの昇温速度は全て10℃/分とした。
【0023】
脱ガス後は、各脱ガス温度から表1に示す各昇温速度で温度1250℃まで昇温後、真空度を維持した状態で5時間加熱を行うホットプレスを行い、各焼結体を得た。
【0024】
得られた焼結体を機械加工し、直径5インチ×厚さ10mmのターゲットを各複数個作成した。
得られたターゲットのうち各1枚を用い、図1に示すように、スパッタリングターゲットの中心部(位置1)と、この中心部を通り円周を均等に分割した4本の直線上の中心から90%(中心を0%、半径の長さを100%とする)の距離にある点(位置2〜9)、および中心から50%(上記と同様に、中心を0%、半径の長さを100%とする)の距離にある点(位置10〜17)から、それぞれ長さ15mm、幅15mmの試験片を合計17個採取し、これらの試験片から下記の測定方法で得られた値の平均値を各組成の値とした。
ここで、O、C、SおよびHの含有量は、具体的には、
O、H:不活性ガス融解−熱伝導度法(LECO社製 TC−436)
C、S:高周波燃焼−赤外線吸収法(LECO社製 CS−444)
を用いて測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0025】
また、これらターゲットを用い、アークイオンプレーティング法によりCo含有のハイス鋼のエンドミルに被膜を作成した。
イオンプレーティングは、基板温度400℃、反応N2ガス圧1Pa、−150Vのバイアス電圧を印加し、膜厚10μmになるまで処理した。
【0026】
この工具を用い、径10mmのエンドミルに対し、切削速度100m/分、送り0.05mm、切り込み量はPick Feed 0.5mm、軸方向切り込みは5mmでエアーブローしながら直線ダウンカットにて切削を実施。切削長60mを加工した後、コーティングの剥離を調査した。この結果もあわせて表1に示す。
【0027】
<実施例2>
325メッシュのCr粉と100メッシュの表1に示す各成分元素の粉末を表1の試料No.8〜No.26の各組成になるよう混合し、これをAr中で24時間ボールミル混合を行い、混合粉末を得た。
【0028】
次に、これら混合粉末をカーボン型にセットし、真空度2×10−4torrで表1に示す各脱ガス温度および脱ガス時間で脱ガス処理を行った。その際、各脱ガス温度までの昇温速度は全て昇温速度5℃/分とした。
【0029】
脱ガス後は、各脱ガス温度から表1に示す各昇温速度で温度1250℃まで昇温後、真空度を維持した状態で5時間加熱を行うホットプレスを行い、各組成の焼結体を得た。
得られた焼結体を機械加工し、直径5インチ×厚さ10mmのターゲットを各複数枚作成した。
【0030】
得られたターゲットのうち各1枚を用い、実施例1と同様の方法により各ガス成分を測定した。得られた結果を表1に示す。
また、これらターゲットを用い、実施例1と同様な条件でイオンプレーティング、切削試験を行った結果を表1に示す。
【0031】
<比較例1>
325メッシュのCr粉と100メッシュの表1に示す各成分元素の粉末を表1の試料No.27〜No.32の各組成になるよう混合し、これをAr中で24時間ボールミル混合を行い、混合粉末を得た。
【0032】
次に、これら混合粉末をカーボン型にセットし、真空度2×10−4torrで表1に示す各脱ガス温度および脱ガス時間で脱ガス処理を行った。その際、各脱ガス温度までの昇温速度は全て昇温速度5℃/分とした。
【0033】
脱ガス後は、各脱ガス温度から表1に示す各昇温速度で温度1250℃まで昇温後、アルゴン雰囲気中で5時間の加熱を行うホットプレスを行い、各組成の焼結体を得た。
【0034】
得られた焼結体を機械加工し、直径5インチ×厚さ10mmのターゲットを各複数枚作成した。
得られたターゲットのうち各1枚を用い、実施例1と同様の方法により各ガス成分を測定した。得られた結果を表1に示す。
また、実施例1と同様な条件にてコーティングおよび切削試験を行った結果を表1に示す。
【0035】
<比較例2>
325メッシュのCr粉と100メッシュの表1に示す各成分元素の粉末を表1の試料No.33〜43の各組成になるよう混合し、これを大気中で24時間ボールミル混合を行い、混合粉末を得た。
【0036】
次に、これら混合粉末をカーボン型にセットし、アルゴン雰囲気中、昇温速度10℃/分で、温度1100℃まで加熱後、3時間保持、1500kg/cm2の面圧で Canning HIP処理を行った。
得られた焼結体を機械加工し、直径5インチ×厚さ10mmのターゲットを各複数枚作成した。
【0037】
得られたターゲットのうち各1枚を用い、実施例1と同様の方法により各ガス成分を測定した。得られた結果を表1に示す。
また、実施例1と同様な条件にてコーティングおよび切削試験を行った結果を表1に示す。
【表1】
【0038】
上記の表から明らかなように、本発明によるスパッタターゲットを用いた場合、硬質窒化被膜が高い密着力で形成可能となる。なお、上記表において、「剥離なし」とは、スクラッチテスト(100N)によって評価したときに引っ掻き跡の面積中の面積比で剥離部分が10%未満であることを、「一部剥離」とは、同評価法において引っ掻き跡の面積中の面積比で剥離部分が10〜80%未満であることを、「完全に剥離」とは、同評価法において引っ掻き跡の面積中の面積比で剥離部分が80%を越えているものであることを意味する。
【0039】
【発明の効果】
以上の説明から明らかのように、本発明によれば、スパッタターゲット中のトータル不純物量(O、C、S、H)を3000ppm以下にまで低減されたものである。このようなスパッターターゲットは、窒素ガス含有雰囲気中でスパッタリングを行うことによって金属表面、例えば好ましくは炭化コバルト、コバルト、ステンレスの表面に、硬質窒化膜を再現性よく成膜することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】スパッタリングターゲットの試験片の採取箇所を示す図
Claims (3)
- 窒素ガス含有雰囲気中でスパッタリングを行って金属表面に硬質窒化被膜を形成させるスパッタリングターゲットであって、クロムを主成分とし、(イ)アルミニウム、ケイ素およびチタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素を、または(ロ)アルミニウム、ケイ素およびチタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素とジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、タングステン、モリブデンおよびボロンからなる群より選択される少なくとも一種の元素とを、10〜50原子%、および不純物元素として酸素、炭素、硫黄、水素のいずれかを含むスパッタリングターゲットであり、前記の酸素、炭素、硫黄、水素の合計含有量が3000ppm以下であることを特徴とする、スパッタリングターゲット。
- アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、タングステン、モリブデンおよびボロンからなる群より選択される少なくとも一種の元素を10〜20原子%含む、請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
- 酸素、炭素、硫黄および水素の合計含有量が2000ppm以下である、請求項1または2に記載のスパッタリングターゲット。
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