JP4097972B2 - 物理的蒸着用ターゲットおよびその製造方法 - Google Patents

物理的蒸着用ターゲットおよびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、切削工具や治工具などの基材の表面を硬質皮膜で被覆形成する際に使用される、スパッタリングやカソード放電型アークイオンプレーティングなどの物理的蒸着に使用されるターゲットに関する。
【0002】
【従来の技術】
切削工具や治工具などの基材の表面を硬質皮膜で被覆形成する方法として、スパッタリングやカソード放電型アークイオンプレーティングなどの物理的蒸着法がある。スパッタリングは、硬質皮膜の金属成分を有するターゲットにイオン化したArを衝突させ、ターゲットから金属原子を叩きだし、これを基材に堆積させて皮膜を形成する方法である。他方、カソード放電型アークイオンプレーティングは、アーク放電の際に真空中において大容量(数十〜数百A)の電子流をカソードを構成するターゲットの表面よりアノードへ放電させ、カソードから電子が放出されるときのジュール加熱によりターゲットを蒸発、イオン化し、切削工具等の基材の表面に堆積する方法である。これらの物理的蒸着法に用いられる、窒化物や炭窒化物などで形成された硬質皮膜を形成するためのターゲットとして、AlTi系ターゲットが主に用いられ、一部ではAlTi系ターゲットのTiの代わりにCrを用いることで耐酸化性が向上することから、Al,Crを必須成分とするターゲットも硬質皮膜の形成に用いられている。
【0003】
スパッタリング用Al系ターゲットとしては、特開平10−60636号公報に記載されているように、Alを主体とし、Alと化合物を形成する元素(例:Ti、Zr、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、B、希土類元素)が含まれ、Alと化合物を形成する元素がAlマトリックス中に金属あるいは元素状態で分散されたターゲットが知られている。このターゲットは、Alとマトリックス中の元素が焼結する際に反応し、これによって形成された金属間化合物が加工時の割れを引き起こし、この割れが原因となって生じるスパッタ時の異常放電やスプラッシュを防止することを目的としてなされたものである。そして、Alと化合物を形成する元素が金属あるいは元素状態として残留している限りは、化合物層が形成されても、組織に靭性が保たれ、割れが生じにくく、このため異常放電、スプラッシュを抑制することができるという。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前記特開平10−60636号公報のスパッタリング用ターゲットは、Alと化合物を形成する元素を含むターゲットを作製するときに、従来のHIP処理温度より低温側でHIPを実施し、金属間化合物層の形成を抑制し、化合物層に異常放電やスプラッシュの原因となる割れが生じないようにしている。しかし、HIP処理温度を下げると、作製されたターゲットの相対密度が低下し、スパッタリング時の放電性状が不安定になるという問題が生じる。なお、同公報には、スパッタリング用ターゲットとして、Alを主成分とし、Ti、Zr等の化合物形成元素を含むものが記載されているが、具体的にAlおよびCrを必須成分として含有するターゲットの開示はない。CrはTiなどに比して特にAlと反応し易く、化合物を形成しやすいものであるので、既述のとおり、AlおよびCrを必須成分として含有するターゲットは実用段階に至っていない。
【0005】
また、カソード放電型アークイオンプレーティングにおいては、AlとCrとの間に形成されたAl−Cr化合物そのものがアーク放電に悪影響を与えるので、前記公報の技術のように、ターゲットの作製温度を低下させ、Alと化合物を形成する元素が金属あるいは元素状態として残留させるだけでは不十分である。すなわち、アーク放電の際、ターゲットの表面には電子の放出点であるアークスポット(カソードスポット)が形成される。アークスポットの望ましい状態は、1点あるいは同時に複数点放電中に存在し、ターゲット上を高速(数〜数十m/秒)で移動することである。アークスポットの移動が滞留すると、その滞留部の近傍に溶融プールと呼ばれる溶解部分が生じ、その溶解した部分が爆発的な固体−気相の変換に伴う圧力上昇により飛散し、基材表面に付着する。この付着した溶融液滴はマクロパーティクルと呼ばれ、形成された皮膜の表面を荒らし、性能を劣化させる。
ターゲットが単一金属あるいは単一組織などの均質な場合には、スポットはターゲット表面を均一に移動する傾向があるために問題は生じ難い。一方、ターゲットが不均質すなわち組成が複数成分からなり、また組織が複数相から構成されている場合には、スポットが均一に移動しにくく、皮膜にマクロパーティクルが生じ易いという問題が起こる。
上記のとおり、カソード放電型アークイオンプレーティング用ターゲットとして、Al、Crを必須成分とするターゲットの使用が試みられているが、現状では品質の高い皮膜の形成が難しく、実用段階に至っていない。その理由は、ターゲットの成分が複数成分である上、CrはTiなどに比してAlと反応し易く、ターゲットの製造過程でAl−Cr化合物が生成されやすく、これが原因となってスポットの不均一移動が生じて、マクロパーティクルが生成し易いためである。
【0006】
本発明はかかる問題に鑑みなされたものであり、AlおよびCrを必須成分として含有するターゲットでありながら、緻密一体化の際にAl−Cr化合物の生成を抑制することができ、もって品質の高いAl、Cr含有硬質皮膜を形成することができる物理的蒸着用ターゲットおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
物理的蒸着法のうち、Al−Cr化合物の形成に特に影響を受けるのはカソード放電型イオンプレーティングである。このため、カソード放電型イオンプレーティング用ターゲットにおける問題の本質を検討した。
本発明者は、AlとCrを主成分として含有するターゲットをアーク放電させたとき、AlとCrとの間にAl−Cr化合物が形成されていると、アークスポットは化合物の部分にて優先的に放電する傾向があることを見い出した。Al−Cr化合物の部分が優先的に放電する理由は明らかではないが、以下のように考えられる。アーク放電におけるスポットの移動は雰囲気(真空、Ar、窒素などの導入ガス)、ターゲット材の融点や熱電子放出率などの因子により影響される。このようなターゲットで放電を行うと、ターゲットはCr粒子の周囲に形成されたAl−Cr化合物層の形状に応じた窪みが形成される。このような窪みが形成された場合、その部分にスポットが滞留し、集中放電が生じ易くなり、窪み部及びその周辺が優先的に放電する。このようにスポットが滞留して集中放電が生じた場合、その周辺での熱負荷はスポットが高速で移動しながら放電する場合に比較して大きくなり、マクロパーティクルがはるかに発生し易くなるとともに、Cr粒子近辺での優先的放電となるために組成にむらが生じる。従って、この問題を解消するには、Al−Cr化合物が形成されないように、あるいは形成されてもアーク放電(アークスポットの移動)に影響を与えない範囲に、Al−Cr化合物層の厚みを厳密に制御すればよい。
【0008】
本発明はかかる技術的観点に立脚し、主原料となるAl粉末、Cr粉末自体がターゲットの緻密一体化の製造過程で反応しないようにすることで所期の目的を達成することができると考えて鋭意研究した結果、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明の物理的蒸着用ターゲットは、(1) Al粉末および窒素含有Cr粉末を混合した混合粉末を緻密一体化したターゲットであって、前記窒素含有Cr粉末を構成する窒素含有Cr粒子は最表面部に窒素が5〜55原子%、好ましくは20〜55原子%含有され、AlおよびCrは原子比でAl:Cr=1:9〜9:1とされたもの、あるいは (2) Al粉末、窒素含有Cr粉末および窒化物形成補助元素の粉末を混合した混合粉末を緻密一体化したターゲットであって、前記窒素含有Cr粉末を構成する窒素含有Cr粒子は最表面部に窒素が5〜55原子%、好ましくは20〜55原子%含有され、前記窒化物形成補助元素はTi、V、Ta、Nb、W、Mo等の4b、5b、6b属の元素、鉄属元素、Si、B、Cの内から選ばれた一種又は二種以上の元素であり、Al、Crおよび窒化物形成補助元素の総量における前記窒化物形成補助元素の量が50原子%未満とされ、さらにAlおよびCrは原子比でAl:Cr=1:9〜9:1とされたものである。前記窒素含有Cr粒子としては、最表面部に窒素が固溶したものに限らず、粒子全体がCrN、Cr2 であるもののいずれか一種を単独で、あるいはこれら二種を複合して用いることができる。また、前記ターゲットは物理的蒸着として、カソード放電型アークイオンプレーティングに用いることができる。
【0009】
また、本発明の物理的蒸着用ターゲットの製造方法は、(1) Al粉末および窒素含有Cr粉末を混合した混合粉末をHIPあるいは熱間鍛造により緻密一体化する製造方法であって、前記窒素含有Cr粉末を構成する窒素含有Cr粒子は最表面部に窒素が5〜55原子%含有され、AlおよびCrは原子比でAl:Cr=1:9〜9:1となるように前記Al粉末および窒素含有Cr粉末が配合されたもの、あるいは (2) Al粉末、窒素含有Cr粉末および窒化物形成補助元素の粉末を混合した混合粉末をHIPあるいは熱間鍛造により緻密一体化する物理的蒸着用ターゲットの製造方法であって、前記窒素含有Cr粉末を構成する窒素含有Cr粒子は最表面部に窒素が5〜55原子%含有され、前記窒化物形成補助元素はTi、V、Ta、Nb、W、Mo等の4b、5b、6b属の元素、鉄属元素、Si、B、Cの内から選ばれた一種又は二種以上の元素であり、Al、Crおよび窒化物形成補助元素の総量における前記窒化物形成補助元素の量が50原子%未満となり、さらにAlおよびCrは原子比でAl:Cr=1:9〜9:1となるように前記Al粉末、窒素含有Cr粉末および窒化物形成補助元素の粉末が配合されたものである。この場合、前記窒素含有Cr粒子として、CrN、Cr2 のいずれか一種を単独であるいは二種を複合して用いることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
物理的蒸着法に使用されるターゲットは内部に組成むらがなく、また空孔ができるだけ無く、相対密度が92%以上であることが好ましい。ターゲットに組成むらがあると、これを用いて基材の表面に蒸着した皮膜も品質が不均一になる。また、内部に空孔があると、蒸着によってターゲット材が消耗し、その空孔が表面に露出すると、その空孔からガスが発生し、アーク放電が不安定になり、やはり均一な皮膜の形成が困難になる。このため、本発明のターゲットは、均一組成で高密度のターゲット材を容易に製造することができる熱間鍛造法やHIP法によって作製される。これらの方法は、複数元素の原料粉末を均一混合した混合粉末を熱間で焼結し、緻密一体化するものである。
【0011】
本発明では必須原料となるAl粉末、Cr粉末のうち、Cr粉末を構成するCr粒子の少なくとも最表面部に窒素を5〜55原子%含有させる。このようにCr粒子の最表面部に窒素が含有されたものを窒素含有Cr粒子と呼ぶ。窒素含有Cr粒子には、中心部まて窒素が含有されたものも含まれる。かかる窒素含有Cr粒子から構成される窒素含有Cr粉末を用いることで、CrのAlに対する反応性が熱間鍛造やHIPの製造条件にかからわず、十分に抑制することができるようになり、純金属Cr粉末を用いる場合に比較して、格段に異常放電やアーク放電の集中化の原因となるAl−Cr化合物の生成自体を抑制することができる。なお、前記最表面部とは、オージェ分光法、SIMSあるいはXPS等の表面からのイオンエッチングを併用し、深さ方向の元素の分布が測定可能な分析方法を用いて、表面から1μmの深さ領域を意味し、また最表面部の窒素量はその部分の平均値を意味する。
【0012】
窒素含有Cr粒子の最表面部は、窒素量が原子%で概ね0%超〜10%以下では窒素を固溶したCr合金となっており、概ね10%超〜20%以下では金属CrとCr2N の混合相となっており、概ね20%超〜35%以下ではCr2N とCrNの混合層となっており、概ね35%超〜55%以下ではCrNの単相となっている。Alに対する反応性はCr中に含まれる窒素量にも依存するが、結晶構造にも依存し、反応性は純金属Crが最も激しく、Cr>Cr2N >CrNとなる。このため、最表面部の窒素含有量は20%超〜55%以下の範囲が好ましく、より好ましくは35%超〜55%以下である。窒素量が5原子%未満ではAlとの反応抑制効果が過小であるので、本発明では最表面部における窒素量の下限を5原子%とする。一方、Cr−N化合物において最も窒素を多く含むものがCrNであり、そのときの窒素量は理論的には50原子%である。ところがCrN格子中に窒素が若干固溶することにより窒素量が50原子%を超える場合があることから、窒素量の上限を55原子%とする。
【0013】
Cr粒子への窒素の含有方法としては、Cr粒子(粉末)を窒素あるいはアンモニア等の窒素含有ガス中で加熱するガス、イオン窒化法などを適用することができる。もっとも、一般的に窒化法の場合には含有される窒素濃度が比較的低いため、Alとの反応性が低いCr2N あるいは特にCrN化合物を形成する窒素量まで窒素を含有させることが困難である。このため、窒素含有Cr粉末としては、Cr2N あるいはCrN粉末を単独で、あるいはこれらを複合して用いることが望ましい。これらの粉末は、例えばバルクのCrNあるいはCr2N を粉砕することによって製造することができる。
【0014】
本発明のターゲットは、AlおよびCrを必須成分として含有するものであり、ターゲットの金属成分がAlおよびCrである場合、AlとCrとの原子比がAl:Cr=1:9〜9:1とされる。かかるAl、Crを含有する場合、ターゲット中に前記Al−Cr化合物が生成するようになるからである。Al、Cr以外の含有元素については後述する。
【0015】
Cr量については、10原子%以上含まれる場合に特に有効である。その理由は、Cr量が数原子%程度では、CrとAlとの間に反応が生じたとしても、化合物のターゲット全体に占める割合が小さくなり、放電性状や膜特性に与える影響も小さくなるが、Crが10原子%以上含まれる場合、ターゲット中に占めるAl−Cr化合物の割合も大きくなり、放電性状や形成された皮膜の特性に与える影響も大きくなる。逆にAlが少なくても同様のことが言えるので、Cr量が90%以上ではその効果は小さい。
【0016】
ターゲットを形成するAlおよびCr以外の金属元素あるいは半金属元素については、Al、Crとともに窒化物、炭窒化物、複合窒化物等の硬質化合物を形成する元素である、Ti、V、Ta、Nb、W、Mo等の4b、5b、6b属の元素、鉄族元素、Si、B、C(以下、これらの元素を「窒化物形成補助元素」という。)を単独あるいは複合して添加することができる。これらの元素の含有量は50原子%未満に止めることが好ましい。勿論、これらの元素も、純金属あるいは合金の粉末としてAl粉末、窒素含有Cr粉末とともに混合し、焼結原料粉末とする。
【0017】
上記のとおり、本発明のターゲットは、熱間鍛造法やHIP法で製造することが好ましい。これらの方法の他、溶融Al中にCr2N 粉末、CrN粉末を混合攪拌する溶解法でも製造可能であるが、溶解法の場合、これらの窒化クロムとAlとの比重が異なるために偏析等の問題が生じやすく、基本的に均一材質のターゲット材が得難い。これに対して熱間鍛造法やHIP法はかかる問題がなく、高品質のターゲット材を得ることができる。もっとも、熱間鍛造法では一般的に製造されるターゲット材のサイズが小さくなるので、量産性を重視する場合にはHIP法が推奨される。
【0018】
前記熱間鍛造法の実施要領としては、原料粉末を例えばV型ミキサーにて均一に混合し、混合粉末を金型に充填して不活性(窒素)雰囲気中にて350〜400℃で加熱し、充填した混合粉末を予備焼結する。その後、不活性雰囲気中にて熱間鍛造する。一方、HIP法としては、前記と同様、均一に混合した混合粉末を金属カプセルに充填し、真空密封し、これをHIP処理温度と同程度の温度で一旦予熱した後、HIP処理を行う。HIPの好ましい処理条件は、処理温度500〜600℃、処理圧力70MPa以上である。もっとも、本発明では最表面部に所定量の窒素を含有する窒素含有Cr粉末を原料粉末として用いるので、処理温度を過度に下げる必要はなく、相対密度が92%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上となるように適宜選択すればよい。
【0019】
所定の窒素含有Cr粉末を用いて、上記条件にて製造したターゲット材は、Al−Cr化合物が生成しても、AlとCrと間に形成されるAl−Ti化合物層の厚みは30μm 以下に収まり、化合物層にスパッタリングの際に異常放電の原因となるような割れはほとんど生じないようになり、またカソード放電型アークイオンプレーティングにおいてもアーク放電の性状は良好となり、特にAl−Cr化合物層の厚みが15μm 以下、好ましくは5μm 以下に収まれば、アーク放電にほとんど影響を与えないようになる。なお、Al粉末、窒素含有Cr粉末などの原料粉末の平均粒径は好ましくは200μm 以下、より好ましくは100μm 以下とするのがよい。また、それぞれの粉末の平均粒径が近似している方が粉末を混合する際に偏析が生じ難くなるため、より好ましい。200μm 超では焼結による緻密一体化が不十分になるおそれがある。
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定的に解釈されるものではない。
【0021】
【実施例】
表1に示した目標金属組成を得るように、原料粉末(粉末粒径は全て100μm 程度)として適量の純Al粉末と、純Cr粉末または窒素含有Cr粉末(Cr粒子の最表面部に窒素を固溶させたもの、Cr2N 粉末あるいはCrN粉末)と、一部の試料については更に金属Ti粉末あるいはV粉末をV型ミキサーにより均一に混合し、得られた混合粉末を金属カプセルに真空封入し、HIP法により焼結緻密化してターゲット材を作製した。
【0022】
HIP条件は、処理温度400〜620℃、処理時間2hr、処理圧力100MPaとした。前記窒素含有Cr粉末(最表面部に窒素を固溶させたもの)は、純Cr粉末に対して窒素ガスを用いたイオン窒化法により温度、時間条件を変えて窒化を行い、最表面部に含有する窒素量を変化させた。窒素含有Cr粒子の最表面部に含有された窒素量は、オージェ分光法により最表面から1μm 深さの窒素量を定量分析してその平均値を求め、X線回折により生成相を同定した。上記のようにして作製したターゲット材は、組織観察を行い金属間化合物層の平均厚さを測定すると共に、相対密度をアルキメデス法により測定した。これらの測定結果を表1に併せて示す。
【0023】
表1より、比較例の試料No. 1では、相対密度上げるために550℃でHIPを実施した結果、AlとCrとが反応して65μm という相当な厚みのAl−Cr化合物層が形成され、割れが発生した。また、比較例の試料No. 2では、Al−Cr化合物の形成を押さえるために400℃でHIPを実施した結果、処理温度が低いために相対密度が91%と低く、緻密化が不十分となった。
これらに対して、実施例の試料No. 3〜11では、窒素含有Cr粉末を用いることで、Al−Cr化合物層の成長が550℃でも抑制され、結果として高密度のターゲットが得られた。特に最表面部の窒素量が20原子%を越えるもの(No. 5〜11)ではHIP温度550℃はもちろんのこと、600℃でもAl−Cr化合物層の厚みが10μm 以下に止まっており、相対密度も100%である。さらには窒素量が50原子%以上の実施例No. 9では620℃でもAl−Cr化合物層の形成は認められず、高密度のターゲット材が得られている。
【0024】
【表1】
Figure 0004097972
【0025】
前記ターゲット材の試料から直径100mmφ、厚み16mmのターゲットを加工し、カソード型アークイオンプレーティング装置に取り付け、2.66Paの窒素中にて、アーク電流150A、基板電圧100〜150V、基板温度550℃の条件でアーク放電を行い、放電性状を観察した。また鏡面研磨した超硬基板上に約3μmのAl−Cr−N、Al−Cr−Ti−N、Al−Cr−V−N皮膜を形成し、形成した皮膜の表面粗度(Ra)を触針式表面粗度計にて測定した。これらの測定結果を表2に併せて示す。
【0026】
表2より、比較例の試料No. 1では、放電は不安定であり、形成された皮膜の表面にはターゲットからの溶融粒子(マクロパーティクル)が多く付着し、表面粗度は大きい。また比較例の試料No. 2では、ターゲットの相対密度が低く、放電が不安定で途中で中断されたために皮膜を形成することができなかった。これらに対して実施例の試料No. 3〜11では放電も安定しており、形成された皮膜に付着したマクロパーティクルも少ないために、結果として優れた表面性状の皮膜が得られている。
【0027】
【表2】
Figure 0004097972
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の物理的蒸着用ターゲットによれば、Alと反応し易いCrを必須成分として含有するにもかかわらず、Crの供給源として最表面部に所定量の窒素を含有する窒素含有Cr粉末を用いるので、製造段階でAlとCrとの間にAl−Cr化合物が生成し難く、物理的蒸着法を適用する際、Ar−Cr化合物が起因となって生じる皮膜の品質劣化を防止することができ、高品質のAl、Cr含有硬質皮膜を容易に形成することができる。

Claims (8)

  1. Al粉末および窒素含有Cr粉末を混合した混合粉末を緻密一体化したターゲットであって、
    前記窒素含有Cr粉末を構成する窒素含有Cr粒子は最表面部に窒素が5〜55原子%含有されたものであり、
    AlおよびCrは原子比でAl:Cr=1:9〜9:1とされた、物理的蒸着用ターゲット。
  2. Al粉末、窒素含有Cr粉末および窒化物形成補助元素の粉末を混合した混合粉末を緻密一体化したターゲットであって、
    前記窒素含有Cr粉末を構成する窒素含有Cr粒子は最表面部に窒素が5〜55原子%含有されたものであり、
    前記窒化物形成補助元素はTi、V、Ta、Nb、W、Mo等の4b、5b、6b属の元素、鉄属元素、Si、B、Cの内から選ばれた一種又は二種以上の元素であり、
    Al、Crおよび窒化物形成補助元素の総量における前記窒化物形成補助元素の量が50原子%未満とされ、さらにAlおよびCrは原子比でAl:Cr=1:9〜9:1とされた、物理的蒸着用ターゲット。
  3. 前記窒素含有Cr粒子の最表面部に含有される窒素量が20〜55原子%である請求項1または2に記載したターゲット。
  4. 前記窒素含有Cr粒子がCrN、Cr2 のいずれか一種あるいは二種からなる、請求項1または2に記載したターゲット。
  5. 物理的蒸着としてカソード放電型アークイオンプレーティングに用いられる請求項1から4のいずれか1項に記載したターゲット。
  6. Al粉末および窒素含有Cr粉末を混合した混合粉末をHIPあるいは熱間鍛造により緻密一体化する物理的蒸着用ターゲットの製造方法であって、
    前記窒素含有Cr粉末を構成する窒素含有Cr粒子は最表面部に窒素が5〜55原子%含有されたものであり、
    AlおよびCrは原子比でAl:Cr=1:9〜9:1となるように前記Al粉末および窒素含有Cr粉末が配合された、物理的蒸着用ターゲットの製造方法。
  7. Al粉末、窒素含有Cr粉末および窒化物形成補助元素の粉末を混合した混合粉末をHIPあるいは熱間鍛造により緻密一体化する物理的蒸着用ターゲットの製造方法であって、
    前記窒素含有Cr粉末を構成する窒素含有Cr粒子は最表面部に窒素が5〜55原子%含有されたものであり、
    前記窒化物形成補助元素はTi、V、Ta、Nb、W、Mo等の4b、5b、6b属の元素、鉄属元素、Si、B、Cの内から選ばれた一種又は二種以上の元素であり、
    Al、Crおよび窒化物形成補助元素の総量における前記窒化物形成補助元素の量が50原子%未満となり、さらにAlおよびCrは原子比でAl:Cr=1:9〜9:1となるように前記Al粉末、窒素含有Cr粉末および窒化物形成補助元素の粉末が配合された、物理的蒸着用ターゲットの製造方法。
  8. 前記窒素含有Cr粒子は、CrN、Cr2 のいずれか一種あるいは二種からなる、請求項6または7に記載した物理的蒸着用ターゲットの製造方法。
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