JP4005787B2 - 表面被覆超硬合金 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は切削工具等に使用される表面被覆超硬合金に関し、特に高硬度かつ高靭性で優れた耐酸化性を有し、炭素鋼、合金鋼などの鋼や鋳鉄のみならず、ステンレス鋼をはじめとする難削材の切削に適する表面被覆超硬合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、超硬合金は、WC(炭化タングステン)を主体とする硬質相と、コバルト等の鉄族金属の結合相からなるWC−Co系合金、もしくはこれに周期律表第4a、5a、6a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物等のいわゆるB−1型固溶体相を分散せしめた系が知られており、金属の切削加工や耐摩耗材等に広く用いられ、中でも切削工具としては炭素鋼・合金鋼などの鋼や鋳鉄の切削に主に利用されているが、最近ではステンレス鋼等の難削材の切削も進められている。
【0003】
また、かかる超硬合金では、より高硬度な硬質被覆層を合金表面に被着形成して耐摩耗性を向上させる方法が知られており、この硬質被覆層にかかる衝撃を緩和するために、超硬合金の硬質被覆層を被着形成する表面領域にB−1型固溶体の含有量を減じた、いわゆる脱β層を形成する方法が知られている。
【0004】
さらに、特開平6−93473号公報には、B−1型固溶体としてTiとZrとを用いる(Nbを用いることなく)と、母材表面から内部1〜50μmの深さ領域におけるZrの含有量が消失または減少することが記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの超硬合金では、切削加工時の熱および環境中の酸素で合金表面が酸化して変質してしまい、硬度、靭性ともに低下してしまうことが知られており、たとえ合金(母材)表面に硬質被覆層を被着形成した場合でも硬質被覆層中の欠陥部分の存在によって母材表面が酸化雰囲気に曝される場合があり、特に母材表面に脱β層を形成する(p1suf/pin<0.9、q1suf/qin<0.9)と、母材表面の酸化や変質が生じやすいものであった。
【0006】
一方、硬質被覆層の直下に脱β層を形成しない場合(p1suf=p2suf=pin、q1suf=q2suf=qin)には、硬質被覆層の耐衝撃性および耐欠損性が低下してしまうという問題があった。
【0007】
さらに、特開平6−93473号公報の母材表面領域におけるZrの含有量が少ない(q1suf/qin<0.9)被覆超硬合金では、耐塑性変形性が悪くなり、耐摩耗性が低下するという問題があった。
【0008】
したがって、本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、高い硬度と靭性を有するとともに耐酸化性に優れ、表面が連続稼動等によって高温に曝されるような過酷な環境化においても高い耐欠損性と耐摩耗性をともに向上できる表面被覆超硬合金を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題に対して超硬合金母材の構成について検討した結果、超硬合金表面に、Zrの含有量は内部のそれに対して変化量が少なく、かつZr以外の金属元素M(Mは周期律表第4a、5a、6a族金属の群から選ばれる少なくとも1種以上)の含有量が内部のそれに対して少ない第1の表面領域と、該第1の表面領域の内部に、Zrの含有量は内部のそれに対して変化量が少なく、かつZr以外の金属元素M(Mは周期律表第4a、5a、6a族金属の群から選ばれる少なくとも1種以上)の含有量が内部のそれに対して多い第2の表面領域とを設けることにより、母材表面の靭性を向上させて硬質被覆層の耐欠損性を向上させることができるとともに、硬質被覆層を被着形成した超硬合金の耐酸化性を高めることができ、連続的または断続的に長時間作動させ、高温下に長時間曝されるような場合においても優れた耐欠損性と耐摩耗性を有する表面被覆超硬合金が得られることを知見した。
【0010】
すなわち、本発明の表面被覆超硬合金は、WCと、周期律表第4a、5a、6a族金属の群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素Mの炭化物、窒化物および/または炭窒化物のうちの1種以上と、鉄属金属の結合材とからなる超硬合金の表面に、硬質被覆層を被着形成してなる表面被覆超硬合金において、前記金属元素Mは、ZrおよびNbを共に含有するとともに、前記超硬合金の表面から5μm以上200μm以下の深さにわたり、以下に示す第1の表面領域と、該第1の表面領域よりも内側に位置する第2の表面領域とを具備することを特徴とするものである。
【0011】
前記超硬合金内部における金属元素Mの総含有量:Min、前記超硬合金内部におけるZrの含有量:Zrin、前記超硬合金内部におけるWの含有量:Win、前記第1の表面領域における金属元素Mの総含有量:M1suf、前記第1の表面領域におけるZrの含有量:Zr1suf、前記第1の表面領域におけるWの含有量:W1suf、前記第2の表面領域における金属元素Mの総含有量:M2suf、前記第2の表面領域におけるZrの含有量:Zr2suf、前記第2の表面領域におけるWの含有量:W2sufとし、pin=Min/Win、p1suf=M1suf/W1suf、p2suf=M2suf/W2suf、qin=Zrin/Win、q1suf=Zr1suf/W1suf、q2suf=Zr2suf/W2sufとしたとき、0.1≦p1suf/pin≦0.9、0.9≦q1suf/qin≦1.1かつ、1.1≦p2suf/pin≦1.5、0.9≦q2suf/qin≦1.1ここで、前記表面被覆超硬合金の耐酸化性が0.01mg/mm2以下であること、前記超硬合金全体において、前記金属元素Mが、0.1≦Zr/(Ti+Zr+Hf)≦0.5、かつ、0.6≦Nb/(V+Nb+Ta)≦1.0を満足すること、前記超硬合金全体において、0.05≦Zr/(Zr+Nb)≦0.8を満足することが望ましい。
【0012】
さらに、前記超硬合金が、ZrCを0.1〜1.5重量%、NbCを0.5〜3.5重量%、TiCを1.0〜2.5重量%、TaCを0〜1.0重量%、HfCを0〜1.0重量%、Cr32を0〜1.0重量%、VCを0〜1.0重量%、Coを5〜10重量%含有し、残部がWCおよび不可避不純物からなることが望ましい。
【0013】
また、前記第1の表面領域の厚みd1が1〜50μm、前記第2の表面領域の厚みd2が10〜200μmであることが望ましい。
【0014】
さらに、前記硬質被覆層が、周期律表第4a、5a、6a族金属またはAlの炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物、炭酸窒化物およびダイヤモンドの群から選ばれる少なくとも1種の単層または複数層からなることが望ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の表面被覆超硬合金は、図1(a)の概略断面図に示すように、超硬合金(母材)2の表面に硬質被覆層3を被着形成したものである。
【0016】
母材2は、WC(炭化タングステン)と、周期律表第4a、5a、6a族金属の群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素M(Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W)の炭化物、窒化物および/または炭窒化物のうちの1種以上と、鉄属金属(Co、Ni、Fe)の結合材とからなるものであるが、本発明によれば、前記金属元素Mとして、ZrとNbとを共に含有することが大きな特徴であり、これによって下記に示す所定の深さからなる表面領域を形成することができる。なお、金属元素Mとしては、ZrおよびNb以外にTi、V、Cr、Mo、HfおよびTaの群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0017】
また、本発明によれば、超硬合金(母材)2の表面から5μm以上50μm以下の深さにわたり、超硬合金内部4における金属元素Mの総含有量:Min、超硬合金内部4におけるZrの含有量:Zrin、超硬合金内部4におけるWの含有量:Win、第1の表面領域5における金属元素Mの総含有量:M1suf、第1の表面領域5におけるZrの含有量:Zr1suf、第1の表面領域5におけるWの含有量:W1suf、第2の表面領域6における金属元素Mの総含有量:M2suf、第2の表面領域6におけるZrの含有量:Zr2suf、第2の表面領域6におけるWの含有量:W2sufとし、pin=Min/Win、p1suf=M1suf/W1suf、p2suf=M2suf/W2suf、qin=Zrin/Win、q1suf=Zr1suf/W1suf、q2suf=Zr2suf/W2sufとしたとき、0.1≦p1suf/pin≦0.9、0.9≦q1suf/qin≦1.1かつ、1.1≦p2suf/pin≦1.5、0.9≦q2suf/qin≦1.1を満たす第1の表面領域5およびこの第1の表面領域5よりも内側に位置する第2の表面領域6とを具備することが重要である。
【0018】
これによって、母材2表面の靭性を向上させて硬質被覆層3の耐欠損性を向上させることができるとともに、硬質被覆層3を被着形成した合金1の耐酸化性を高めることができ、炭素鋼・合金鋼などの鋼や鋳鉄のみならず、ステンレス鋼等難削材の切削等のように高温環境下で作動させるような場合においても優れた耐欠損性と耐摩耗性を有し、特に切削加工用として最適な表面被覆超硬合金1が得られる。
【0019】
ここで、第1の表面領域5において、p1suf/pinが0.1よりも小さいと、母材2表面での耐酸化性が低下して、特に高温域で連続的に使用すると母材2の表面が変質して硬質被覆層3が剥離したり、塑性変形を引き起こす。逆に、p1suf/pinが0.9よりも大きいと、母材2表面の靭性が低下して硬質被覆層3の耐衝撃性が低下し、チッピングが発生しやすくなる。また、q1suf/qinが0.9よりも小さいと、母材表面での耐酸化性が低下し、特に高温域で連続的に使用すると母材2の表面が変質して硬質被覆層3が剥離したりチッピングが発生しやすくなるとともに、特に刃先(切刃)における耐塑性変形性が悪化して耐磨耗性の低下を招く。逆に、q1suf/qinが1.1よりも大きいと合金表面の耐塑性変形性および耐摩耗性が低下する。
【0020】
また、第2の表面領域6においてp2suf/pinが1.1よりも小さいと、第2の表面領域6において硬度値の著しい低下部分が形成され、耐摩耗性と耐塑性変形性が低下する。逆に、p2suf/pinが1.5よりも大きいと、第2の表面領域6において靭性値の著しい低下部分が形成され、耐欠損性が低下する。また、q2suf/qinが0.9よりも小さいと、第2の表面領域6において硬度値の著しい低下部分が形成され、耐摩耗性と耐塑性変形性が低下する。逆に、q2suf/qinが1.1よりも大きいと、第2の表面領域6において靭性値の著しい低下部分が形成され、耐欠損性が低下する。
【0021】
なお、本発明における金属元素Mの分布状態は、合金の各位置における成分比をエネルギー分散型X線分析(EDS)で測定し、図1(b)のようにマッピングすることによって求めることができる。
【0022】
また、本発明における第1の表面領域5と第2の表面領域6との総和は5〜200μmが望ましく、特に5〜50μmが望ましい。第1の表面領域5と第2の表面領域6との総和が5μmより薄いと靭性向上の効果が小さく、200μm以上では表面硬度が低下して耐塑性変形性が低下する。
【0023】
ここで、第1の表面領域の厚みd1は、耐酸化性と耐欠損性を両立させるために、1〜50μmであることが望ましく、特に1〜10μmであることが望ましい。また、第2の表面領域6の厚みd2は、耐摩耗性と耐塑性変形性および耐欠損性を両立させるために、10〜200μmが望ましく、特に10〜40μmであることが望ましい。さらに、d1/d2の比は耐酸化性および耐欠損性を両立させるために、0.1〜0.6であることが望ましい。
【0024】
また、超硬合金(母材)2の組成は、耐欠損性、耐摩耗性、耐酸化性を高めるために、0.1≦Zr/(Ti+Zr+Hf)≦0.5、特に、0.1≦Zr/(Ti+Zr+Hf)≦0.4、かつ、0.6≦Nb/(V+Nb+Ta)≦1.0、特に0.7≦Nb/(V+Nb+Ta)≦1.0と所定の比率でZrとともにNbを含有することが望ましく、さらには、超硬合金全体において、0.05≦Zr/(Zr+Nb)≦0.8、特に0.1≦Zr/(Zr+Nb)≦0.6を満足することが望ましい。
【0025】
さらにまた、超硬合金(母材)2の具体的な組成は、耐酸化性、耐摩耗性と耐塑性変形性および耐欠損性を両立するために、ZrC(炭化ジルコニウム)を0.1〜1.5重量%、NbC(炭化ニオブ)を0.5〜3.5重量%、TiC(炭化チタン)を1〜2.5重量%、TaC(炭化タンタル)を0〜1重量%、HfC(炭化ハフニウム)を0〜1重量%、Cr32(炭化クロム)を0〜1重量%、VC(炭化バナジウム)を0〜1重量%、Co(コバルト)を5〜10重量%の比率で含有し、残部がWC(炭化タングステン)および不可避不純物からなることが望ましい。
【0026】
なお、上記成分のうち、コストの低減のためには高価なTaCの含有量を0.5重量%以下、特に0.1重量%以下、さらには実質的に含有させないことが望ましい。
【0027】
さらにまた、上記組成範囲の中でも、耐摩耗性を重視して旋削用切削工具として用いる上では、TiCを1.5〜2.0重量%、NbCを2.0〜3.5重量%、ZrCを0.1〜0.8重量%、Coを5.0〜7.5重量%含有し、残部がWCからなることが望ましく、また、耐欠損性を重視してフライス用切削工具として用いる上では、TiCを1.5〜2.0重量%、NbCを0.5〜2.0重量%、ZrCを0.8〜1.5重量%、Coを7.5〜10.0重量%含有し、残部がWCからなることが望ましい。
【0028】
また、本発明によれば、ステンレス等の難削材を切削する際などのように、高温域で安定に作動させるためには、表面被覆超硬合金1の耐酸化性を0.01mg/mm2以下とすることが重要である。すなわち、表面被覆超硬合金1の耐酸化性が0.01mg/mm2よりも大きくなると、硬質被覆層中に存在する欠陥等を介して超硬合金(母材)2表面が加工時に酸化してしまい、耐摩耗性および耐欠損性が低下する。
【0029】
なお、本発明における耐酸化性とは、硬質被覆層を被着形成した表面被覆超硬合金を大気中の800℃×30分の条件で保持する酸化試験を行った場合の試験前後における酸化増量割合を示す。
【0030】
また、超硬合金(母材)2の表面に被着形成される硬質被覆層としては、周期律表第4a、5a、6a族金属またはAlの炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物、炭酸窒化物およびダイヤモンドの群から選ばれる少なくとも1種、特にTiC、TiN、TiCN、Al23、TiAlNの単層または複数層からなり、図1では、母材2側から順に、TiC層、Al23層、TiN層と構成されている。
【0031】
(製造方法)
上述した表面被覆超硬合金を製造するには、まず、例えば平均粒径0.5〜10μmの炭化タングステン粉末を80〜90重量%、平均粒径0.5〜5μmのZrの炭化物、窒化物および/または炭窒化物粉末またはその固溶体粉末を総量で0.1〜10重量%、平均粒径0.5〜5μmのNbの炭化物、窒化物および/または炭窒化物粉末またはその固溶体粉末を総量で0.1〜10重量%、平均粒径0.5〜5μmのTi、V、Cr、Mo、HfおよびTaの群から選ばれる少なくとも1種の炭化物、窒化物および/または炭窒化物粉末もしくはこれら金属のうちの2種以上の固溶体粉末を総量で0.1〜10重量%、平均粒径0.5〜10μmの鉄族金属を5〜15重量%、さらには所望により金属タングステン(W)粉末あるいは炭素(C)粉末を混合する。
【0032】
次に、上記混合粉末を用いて、プレス成形、鋳込成形、押出成形、冷間静水圧プレス成形等の公知の成形方法によって所定形状に成形した後、0.1〜15Paの真空中、1000℃以上における昇温速度を0.3〜4℃/分、特に0.5〜2℃/分で昇温し、真空度10-3〜0.05Paの真空中、1350〜1500℃で0.2〜5時間、特に0.5〜2時間焼成することによって超硬合金(母材)を作製する。
【0033】
上記焼成に関しては、表面領域の組成および厚みを制御するために、特に昇温速度および焼成中の雰囲気を上記範囲に制御することが重要である。
【0034】
次に、上記超硬合金(母材)表面にCVD法やPVD法等の公知の薄膜形成法で硬質被覆層を0.1〜20μm被着形成することによって本発明の表面被覆超硬合金を得ることができる。
【0035】
また、上述した本発明の表面被覆超硬合金は、高硬度、高靭性、高強度の優れた機械的特性および高い耐酸化性を有することから、金型、耐摩耗部材、高温構造材料等に適応可能であり、中でも炭素鋼、合金鋼などの鋼や鋳鉄の加工用切削工具、さらにはステンレス鋼等の難削材加工用の切削工具として好適に使用可能である。
【0036】
【実施例】
(実施例1)
平均粒径1.5μmの炭化タングステン(WC)粉末、平均粒径1.2μmの金属コバルト(Co)粉末および平均粒径2.0μmの表1に示す金属元素M化合物粉末を表1に示す比率で添加、混合して、プレス成形で切削工具形状(CNMG120408)に成形した後、脱バインダ処理を施し、さらに、1000℃以上を3℃/分の速度で昇温して、0.01Paの真空中、1500℃で1時間焼成して超硬合金を作製した。
【0037】
得られた超硬合金の表面にCVD法でTiNを1μm、TiCNを7μm、Al23を3μm、TiNを1μmの順に硬質被覆層を成膜することによって表面被覆超硬合金を作製した。
【0038】
得られた表面被覆超硬合金に対して、波長分散型X線マイクロアナライザー(EPMA)で表面から内部に向かって、200μm×200μmの任意領域における金属元素濃度分布を測定した。なお、EPMA測定に関しては、表面領域を斜めに研磨して、表面からの深さ5μm毎に5点づつ測定し、その平均値を算出した。また、その金属元素濃度分布から図2に示すような濃度分布のマッピングをし、第1の表面領域と第2の表面領域の厚みを算出した。その結果を図1および表1に示す。
【0039】
また、800℃の大気圧雰囲気で30分間酸化処理し、酸化前後における重量増加量を測定して耐酸化性とした。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
Figure 0004005787
【0041】
そして、この切削工具を用いて下記の条件で合金鋼の切削を25分間行い、切削工具のフランク摩耗量および先端摩耗量を測定した。なお、切削試験中にフランク摩耗量あるいは先端摩耗量が0.2mmに達した場合にはその切削時間を測定した。さらに、溝付き鋼材で断続試験を行い、欠損したときの衝撃回数を比較した。その結果を表2に示す。
【0042】
(摩耗試験)
被削材 :合金鋼(SCM435)
工具形状:CNMG120408
切削速度:250m/分
送り速度:0.3mm/rev
切り込み:2mm
その他 :水溶性切削液使用
(断続試験)
被削材 :合金鋼(SCM440)
工具形状:CNMG120408
切削速度:200m/分
送り速度:0.4mm/rev
切り込み:1.5mm
その他 :水溶性切削液使用
【0043】
【表2】
Figure 0004005787
【0044】
表1および表2の結果より、Nbを含有しない試料No.1では、第1の表面領域におけるq1suf/qin(Zrの含有量)が0.9より小さくなり、耐酸化性が低下して切削性能が低下した。なお、酸化試験後の試料断面をSEM観察したところ、母材表面付近が酸化で変質していることを確認した。また、Zrを含有しない試料No.2では、第1の表面領域におけるp1suf/pin(金属元素Mの総含有量)が0.9より大きく、q1suf/qin(Zrの含有量)が0.9より小さくなるとともに、第2の表面領域におけるp2suf/pin(金属元素Mの総含有量)が1.1より小さく、かつq2suf/qin(Zrの含有量)が0.9より小さくなり、耐欠損性および耐酸化性が悪いものであった。
【0045】
これに対して、本発明に従ってZrとNbを共に添加するとともに、0.1≦p1suf/pin≦0.9、0.9≦q1suf/qin≦1.1、かつ、1.1≦p2suf/pin≦1.5、0.9≦q2suf/qin≦1.1を満たす第1の表面領域およびこの第1の表面領域よりも内側に位置する第2の表面領域とを具備する試料No.3〜8では、いずれも耐酸化性に優れるとともに、硬度、靭性とも高く、優れた切削性能を有するものであった。
(実施例2)
実施例1の試料No.5および11に対して、フライス用工具形状(SDK42)に成形した後、1400℃で1時間焼成して、その表面にPVD法で膜厚2μmのTiN膜を成膜する以外は実施例1と全く同様にして表面被覆超硬合金からなる切削工具を作製した。
【0046】
そして、得られた切削工具を用いて下記の条件
被削材 :ステンレス鋼(SUS304)
工具形状:SDK42
切削速度:200m/分
送り速度:0.2mm/刃
切り込み:2mm
その他 :水溶性切削液使用
でステンレス鋼の切削を15分間行い、実施例1と同様に切削性能を評価した結果、試料No.2についてはフランク摩耗量が0.21mmであるのに対して、試料No.7ではフランク摩耗量が0.11mmであり、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有するものであった。
【0047】
【発明の効果】
以上詳述したとおり、本発明の表面被覆超硬合金によれば、超硬合金表面に、Zrの含有量は内部のそれに対して変化量が少なく、かつ金属M(MはZr以外の周期律表第4a、5a、6a族金属の群から選ばれる少なくとも1種以上)の含有量が内部のそれに対して少ない第1の表面領域と、該第1の表面領域の内部に、Zrの含有量は内部のそれに対して変化量が少なく、かつ金属M(MはZr以外の周期律表第4a、5a、6a族金属の群から選ばれる少なくとも1種以上)の含有量が内部のそれに対して多い第2の表面領域とを配設することにより、母材表面の靭性を向上させて硬質被覆層の耐欠損性を向上させることができるとともに、合金および硬質被覆層を被着形成した合金の耐酸化性を高めることができ、高温環境下で作動させるような場合においても優れた耐欠損性と耐摩耗性を有する表面被覆超硬合金が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の表面被覆超硬合金の(a)概略断面図、(b)超硬合金(母材)中の各金属元素分布の一例である。
【符号の説明】
1 表面被覆超硬合金
2 超硬合金(母材)
3 硬質被覆層
4 内部
5 第1の表面領域
6 第2の表面領域

Claims (7)

  1. WCと、周期律表第4a、5a、6a族金属の群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素Mの炭化物、窒化物および/または炭窒化物のうちの1種以上と、鉄属金属の結合材とからなる超硬合金の表面に、硬質被覆層を被着形成してなる表面被覆超硬合金において、前記金属元素Mは、ZrおよびNbを共に含有するとともに、前記超硬合金の表面から5μm以上200μm以下の深さにわたり、以下に示す第1の表面領域と、該第1の表面領域よりも内側に位置する第2の表面領域とを具備することを特徴とする表面被覆超硬合金。
    前記超硬合金内部における金属元素Mの総含有量:Min
    前記超硬合金内部におけるZrの含有量:Zrin
    前記超硬合金内部におけるWの含有量:Win
    前記第1の表面領域における金属元素Mの総含有量:M1suf
    前記第1の表面領域におけるZrの含有量:Zr1suf
    前記第1の表面領域におけるWの含有量:W1suf
    前記第2の表面領域における金属元素Mの総含有量:M2suf
    前記第2の表面領域におけるZrの含有量:Zr2suf
    前記第2の表面領域におけるWの含有量:W2suf
    in=Min/Win
    1suf=M1suf/W1suf
    2suf=M2suf/W2suf
    in=Zrin/Win
    1suf=Zr1suf/W1suf
    2suf=Zr2suf/W2suf
    としたとき、
    0.1≦p1suf/pin≦0.9、0.9≦q1suf/qin≦1.1
    かつ、
    1.1≦p2suf/pin≦1.5、0.9≦q2suf/qin≦1.1
  2. 前記表面被覆超硬合金の耐酸化性が0.01mg/mm2以下であることを特徴とする請求項1記載の表面被覆超硬合金。
  3. 前記超硬合金全体において、前記金属元素Mが、0.1≦Zr/(Ti+Zr+Hf)≦0.5、かつ、0.6≦Nb/(V+Nb+Ta)≦1.0を満足することを特徴とする請求項1または2記載の表面被覆超硬合金。
  4. 前記超硬合金全体において、0.05≦Zr/(Zr+Nb)≦0.8を満足することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表面被覆超硬合金。
  5. 前記超硬合金が、ZrCを0.1〜1.5重量%、NbCを0.5〜3.5重量%、TiCを1.0〜2.5重量%、TaCを0〜1.0重量%、HfCを0〜1.0重量%、Cr32を0〜1.0重量%、VCを0〜1.0重量%、Coを5〜10重量%含有し、残部がWCおよび不可避不純物からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表面被覆超硬合金。
  6. 前記第1の表面領域の厚みd1が1〜50μm、前記第2の表面領域の厚みd2が10〜200μmであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の表面被覆超硬合金。
  7. 前記硬質被覆層が、周期律表第4a、5a、6a族金属またはAlの炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物、炭酸窒化物およびダイヤモンドの群から選ばれる少なくとも1種の単層または複数層からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の表面被覆超硬合金。
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