JP4124387B2 - ブラウン管用シャドウマスク - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カラーブラウン管の蛍光面上に一様に略長方形のビームを形成するための、略長方形スロットと湾曲スロットを有するブラウン管用シャドウマスクに関する。
【0002】
【従来の技術】
略長方形の複数のスロットを有するカラーブラウン管用シャドウマスクの全体図を図6に示す。シャドウマスク61は、スロット形成部62とスカート部63とからなっている。スロットを通過する電子ビームは、その中心Sにおいてはスロットに対して真っ直ぐに入射するが、外周方向にいくにつれてスロットに対して斜めに入射する。そのため、従来のシャドウマスクのスロットは、スロットを構成する表側開口部と裏側開口部の形成位置が調整されている。
【0003】
図7は、従来型のシャドウマスク各部の表側開口部と裏側開口部の位置関係を示す概略図である。例えば、シャドウマスクの中央においては、図7(イ)に示すように、電子ビームの通過の邪魔にならないように大面積でエッチングされた表側開口部72は、電子ビーム73が入射する側の裏側開口部71を略中央に配置するように設けられている。しかしながら、シャドウマスクの外周側、例えば図6に示すY座標軸上のP点、X座標軸上のR点および対角座標軸上のQ点においては、図7の(ロ)、(ハ)、(ニ)にそれぞれ示すように、表側開口部72は、スロットに対して斜めに入射する電子ビーム73の通過の邪魔にならないように、裏側開口部71に対して、シャドウマスク61の外周寄りにずらすように設けられている。
【0004】
こうしたシャドウマスクにおいて、電子ビームがシャドウマスクに衝突することによって生じる熱変形(ドーミングという。)を防止するため、ニッケル−鉄合金等の熱膨張率の小さい材料からなる金属薄板が、シャドウマスク用の金属薄板として使用されている。しかし、このような金属薄板を使用したシャドウマスクは高価であるので、安価な軟鋼製のシャドウマスクを厚板化して使用することによって、ブラウン管に装着した際のシャドウマスクの熱膨張を抑制してドーミングを防止している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このようなシャドウマスクの厚板化は、エッチング加工により形成されたスロットの断面高さを大きくする。そのため、図7の(ロ)、(ハ)、(ニ)にそれぞれ示した外周側に形成されるスロットのように、表側開口部72を単にずらしただけでは、斜めに入射した電子ビーム73が、スロットの厚肉断面で遮断されてしまう。その結果、電子ビーム73を、ブラウン管の蛍光面上に所定の形状でランディングさせることができないという問題を起こした。
【0006】
図8〜図10は、こうした問題を説明する概略図である。図8の(イ)は、図6に示すX座標軸上のR点に設けられるスロット形状を示すものであり、表側開口部72を裏側開口部71に対してずらしてエッチング加工したものである。スロットの中心部Aを通過する電子ビーム73は、図8(ロ)の断面図に示すように、十分にエッチング加工されて薄肉のステップ81、82が形成された側壁部83、84の間を所望の幅Wで通過することができるのに対し、スロットの長手方向の上端部Bを通過する電子ビーム73は、図8(ハ)の断面図に示すように、十分にエッチング加工されていない側壁部88に形成された厚肉のステップ86によって遮断され、所望の幅Wで通過することができなくなる。こうしたスロットの中心部Aと長手方向の上端部Bとで側壁部の形状、特にステップの厚さがそれぞれ異なるのは、表側開口部72と裏側開口部71との位置関係に起因するエッチング進行速度の相違によるものである。すなわち、スロットの中心部Aではエッチング進行速度が大きく、十分な速度でエッチング加工されることによって薄肉のステップ81、82が形成される。これに対して、上端部Bではエッチング進行速度が小さく、十分なエッチング加工がされないので、開口幅の小さい裏側開口部71からのエッチングが進行することによって、厚肉のステップ85、86が形成されるという現象が起こる。その結果、スロットを通過して蛍光面上にランディングする電子ビームのスポットは、入射した電子ビーム73が十分にエッチング加工されない外周側の側壁部88に形成された厚肉のステップ86で遮断されることによって、ブラウン管外周側の境界線の上端部と下端部が欠けた湾曲形状となる。
【0007】
また、図3において後述するように、スロットの長手方向両端部を通過する電子ビーム31の(シャドウマスク中央側の)境界線39は、開口面積が大きくなった裏側開口部11によってその通過位置が変化する。そのため、略長方形のスロットの場合は、スロット中心部を通過する電子ビーム31は、上記境界線39と同じ位置を通過することができず、蛍光面上にランディングするスポットは、上記境界線39の長手方向両端がシャドウマスク中央側に湾曲する現象を起こす場合がある。
【0008】
従って、従来のシャドウマスク61を使用した場合に、スロットを通過して蛍光面上にランディングする電子ビームのスポットは、図9に示すように、スポット91の長手方向の両端が、ブラウン管の蛍光面の中央を通る縦座標軸に近づくように湾曲した形状となってしまう。こうしたスポット91の変形は、電子ビーム73の入射角が大きいときほど、すなわち前記の縦座標軸から離れて左右方向に向かうほど大きくなるといった問題がある。
【0009】
図10は、変形したスポット91がブラウン管の蛍光面上にランディングした状態を示す概略図である。電子ビームのスポット91のこのような変形は、本来、略長方形の形状で蛍光面にランディングすることによって得られる輝度が十分に得れらないといった問題を起こすおそれがある。また、ブラウン管の蛍光面の各部でそのスポット形状が異なるので、場所によって輝度に差が生じたり、R、G、Bの発光むらが生ずるといった問題を起こすおそれがある。
【0010】
上記問題を解決するため、本発明は、ブラウン管の蛍光面上にランディングする電子ビームのスポットが、所望する略長方形となるように形成したシャドウマスクの提供を目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、カラーブラウン管の蛍光面上に一様に略長方形のビームスポットを形成する多数のスロットを有するシャドウマスクにおいて、
前記シャドウマスクは、その中央を通る縦座標軸付近に設けられた略長方形スロットと、前記縦座標軸から離れた外周側に設けられた湾曲スロットとを有し、前記略長方形スロットは、電子ビームが入射する側にエッチング加工された略長方形の裏側開口部と、電子ビームの通過の邪魔にならないように大面積にエッチング加工された略長方形の表側開口部と、前記裏側開口部と前記表側開口部との間で傾斜した側壁部とからなり、
前記湾曲スロットは、電子ビームが入射する側にエッチング加工されて長手方向の両端が前記縦座標軸から遠ざかるように湾曲した裏側開口部と、電子ビームの通過の邪魔にならないように大面積にエッチング加工された略長方形の表側開口部と、前記裏側開口部と前記表側開口部との間で傾斜した側壁部とからなり、前記湾曲スロットの裏側開口部の湾曲の程度が、前記縦座標軸から離れるに従って大きくなることに特徴を有する。
【0012】
この発明によれば、略長方形スロットの長手方向の両端が、シャドウマスクの中央を通る縦座標軸から遠ざかるように湾曲した湾曲スロットが設けられているので、従来のスロット形状では長手方向両端の側壁部によって遮蔽される電子ビームが、遮蔽されることなく通過することができる。その結果、ブラウン管の蛍光面上にランディングするスポットの長手方向の両端が欠けることがない。また、このような湾曲スロットは、スロットを形成するシャドウマスクの中央側の長辺も同様に湾曲しているので、スロットの長手方向両端の裏側開口部の端面エッジ間が拡大した場合であっても、ブラウン管の蛍光面上にランディングした電子ビームのスポットの形状を変形させることがない。さらに、湾曲スロットの湾曲の程度は、シャドウマスクの中央を通る縦座標軸から離れるに従って大きくなるように形成されるので、湾曲スロットへの電子ビームの入射角の変化に対応することができ、ブラウン管の蛍光面全域に渡って、略長方形の電子ビームのスポットを形成することができる。従って、本発明のシャドウマスクによれば、略長方形のスポットをブラウン管の蛍光面上に一様に形成することができるので、所定の位置に電子ビームをランディングさせることができ、輝度の低下や発色むらを起こすことがない。
【0013】
上記の本発明において、前記湾曲スロットの側壁部には、当該湾曲スロットの中心部から長手方向の両端に向かうにしたがって、エッチング深さが次第に小さくなる表側開口部側のエッチング面と、エッチング深さが次第に大きくなる裏側開口部側のエッチング面とが、厚さ方向の中間部分において接触したステップが形成され、前記湾曲スロットの裏側開口部は、当該湾曲スロットの中心部から長手方向の両端に向かうにしたがって、対向幅が拡大した端面エッジを有することが好ましい。
【0014】
この発明によれば、湾曲スロットの側壁部は、その中心部から長手方向の両端に向かうにしたがって、エッチング深さが小さくなる表側開口部側のエッチング面と、エッチング深さが大きくなる裏側開口部側のエッチング面とで形成されたステップを、厚さ方向の中間部分に有するので、スロットの長手方向両端に向かうほどステップは厚くなる。そのため、スロットの長手方向両端を通過する電子ビームのシャドウマスク外周側の境界線は、厚くなったステップによってその通過が妨げられる。しかしながら、湾曲スロットの裏側開口部は、その長手方向両端がシャドウマスク外周側に湾曲するように形成されているので、スロット両端部を通過する電子ビームは、厚くなったステップが形成された場合であっても、スロット中心部を通過する電子ビームの上記境界線と同じ座標位置を通過することになる。その結果、蛍光面上にランディングするスポットは、上記境界線が真っ直ぐになる。
【0015】
また同時に、この湾曲スロットの裏側開口部は、当該湾曲スロットの中心部から長手方向両端部に向かうにしたがって、対向幅が拡大した端面エッジを有するので、裏側開口部の長手方向の端面エッジのうち、シャドウマスクの中央側の端面エッジが前記の縦座標軸に平行に形成されることとなる。その結果、湾曲スロットに入射するシャドウマスク中央側の電子ビームは、湾曲することなく真っ直ぐな境界線となって通過し、蛍光面上にランディングする。その結果、ブラウン管の蛍光面上にランディングするスポットの形状を湾曲させることなく略長方形とすることができる。
【0016】
さらに、前記湾曲スロットは、当該湾曲スロットの中心点と当該湾曲スロットの長手方向両端部の開口幅の中心点とを結んだ湾曲度表示線と、当該湾曲スロットの中心点を通る縦座標軸とのなす角度が、10度以下であることが好ましい。
【0017】
この発明によれば、シャドウマスクの中央を通る縦座標軸から離れるに従って大きくなる湾曲の程度を、湾曲スロットの中心点を通る縦座標軸に対して、10度以下の範囲の角度で湾曲させることによって、略長方形のスポットをブラウン管の蛍光面上に一様に形成することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
図1〜図4は、本発明のブラウン管用シャドウマスクの各部に形成されたスロットの形状を示している。本発明のシャドウマスクの全体形状は、図6に示す従来のシャドウマスク61と同じ形状であり、スロット形成部62とスカート部63からなっている。スロットは、電子ビーム9が入射する側にエッチング加工された裏側開口部1と、電子ビーム9の通過の邪魔にならないように大面積でエッチング加工された表側開口部2と、裏側開口部1と表側開口部2との間で傾斜した側壁部3、…、6とで構成されている。本発明のシャドウマスクは、ブラウン管の蛍光面上全域に渡って略長方形の電子ビームのスポットが形成されるように、そのスロットが形成されている。以下、シャドウマスクの各部に形成されるスロットの形状について説明する。
【0019】
図1は、図6に示すX座標軸とY座標軸とが交わるS点のスロットの正面図(イ)、A1−A1断面図(ロ)およびA2−A2断面図(ハ)である。図1(イ)に示すように、S点のスロットは、裏側開口部1と表側開口部2の何れも略長方形で形成されている。電子ビーム9は、S点のスロットに対して直角に入射するので、表側開口部2は、裏側開口部1をその中心とするように形成されている。従って、表側開口部2の開口中心Mと裏側開口部の開口中心Nは、それぞれ一致し、図1の(ロ)(ハ)に示すように、エッチング加工によって形成された側壁部3、4の形状は左右対称となる。なお、スロットの側壁部には、表側開口部側のエッチング面と、裏側開口部側のエッチング面とが、厚さ方向の中間部分において接触したステップが形成されている。
【0020】
図1(ロ)の断面図に示すように、スロットの中心部ではエッチング進行速度が大きいので、側壁部3、4にそれぞれ形成されるステップ15、16の厚さH、hは何れも薄くなる。
【0021】
一方、図1(ハ)の断面図に示すように、スロットの下端部ではエッチング進行速度が小さいので、開口幅の小さい裏側開口部1からのエッチングが進行することとなる。その結果、側壁部3、4にそれぞれ形成されるステップ15、16の厚さH、hが図1(ロ)に示す場合よりも厚くなるとともに、裏側開口部1のエッチング開口面積が大きくなって、端面エッジが拡大する。しかし、こうしたエッチング速度の相違にも関わらず、電子ビーム9が通過するステップ15、16間の幅Wは、図1(ロ)に示したスロットの中心部の幅と同じ幅で形成される。そのため、S点のスロットを通過した電子ビーム9は、蛍光面上で略長方形のスポットを形成する。
【0022】
図2は、図6に示すY座標軸上のP点のスロットの正面図(イ)、B1−B1断面図(ロ)およびB2−B2断面図(ハ)である。図2(イ)に示すように、P点のスロットは、図1に示したS点のスロットと同一形状の裏側開口部1と表側開口部2とで形成されている。表側開口部2は、スロットに対して斜めに入射する電子ビーム9の通過の邪魔にならないように、裏側開口部1に対してシャドウマスクの外周寄りにシフトするように形成されている。P点のスロットは、Y座標軸上にあるので、表側開口部2の開口中心Mと裏側開口部1の開口中心Nは、それぞれ一致し、図2の(ロ)(ハ)に示すように、エッチング加工によって形成された側壁部3、4の形状は左右対称となる。
【0023】
図2(ロ)(ハ)に示したP点のスロット各部の断面形状は、図1(ロ)(ハ)に示したS点のスロット各部の断面形状と同じであり、同じ態様のエッチング状態で形成される。そのため、斜めに入射してP点のスロットを通過した電子ビーム9は、表側開口部2に邪魔されることなく、蛍光面上で略長方形のスポットを形成する。
【0024】
図3は、図6に示すX座標軸上のR点のスロットの正面図(イ)、C1−C1断面図(ロ)、C2−C2断面図(ハ)およびC3−C3断面図(ニ)である。図3(イ)に示すように、R点のスロットは、図1や図2で示した略長方形の裏側開口部1の長手方向の両端部(上下端部)が、図6に示すY座標軸(シャドウマスク1の中央を通る縦座標軸)から遠ざかるように湾曲して形成された裏側開口部11と、略長方形の表側開口部2とで形成されている。表側開口部2は、スロットに対して斜めに入射する電子ビーム31の通過の邪魔にならないように、裏側開口部1に対してシャドウマスクの外周寄りにシフトするように形成されている。そのため、表側開口部2の開口中心Mは、裏側開口部11の開口中心Nに対してシャドウマスク1の外周側にシフトしている。
【0025】
図3(ロ)の断面図に示すように、スロットの中心部ではエッチング進行速度が大きいので、側壁部3、4にそれぞれ形成されるステップ35、36の厚さH、hは何れも薄くなるが、表側開口部2の開口中心Mがシャドウマスクの外周側にシフトしているので、シャドウマスク中央側の側壁部3に形成されたステップ35の厚さHは、シャドウマスク外周側の側壁部4に形成されたステップ36の厚さhに比べて厚くなる。このようにエッチング加工されたスロットのC1−C1断面部に斜めから入射した電子ビーム31は、シャドウマスク中央側の裏側開口部11の端面エッジ37と、シャドウマスク外周側の側壁部4のステップ36とによって通過する幅Wが決定されてスロットを通過する。このときの電子ビーム31の通過する幅Wは、図1と図2で示した略長方形スロットが形成されたステップ15、16間の幅Wに等しくなる。
【0026】
図3(ハ)の断面図に示すように、スロットの下端部ではエッチング進行速度がやや低下するので、表側開口部2からのエッチング深さが小さくなる代わりに、裏側開口部11からのエッチングが進行してその深さがやや大きくなる。その結果、側壁部3の各ステップ35、36の厚さH、hが、図3(ロ)で示した場合よりもそれぞれ厚くなるとともに、裏側開口部11のエッチング開口面積がやや大きくなる。しかし、シャドウマスク中央側の裏側開口部11の端面エッジ37の座標位置は、図3(ロ)に示す端面エッジの座標位置とほぼ同じになると共に、シャドウマスク外周側の側壁部4のステップ36の座標位置も、図3(ロ)に示すステップ36の座標位置から深さ方向にシフトした同一の座標位置となる。このようにエッチング加工されたスロットのC2−C2断面部に斜めから入射した電子ビーム31は、シャドウマスク中央側の裏側開口部11の端面エッジ37と、シャドウマスク外周側の側壁部4のステップ36とによって通過する幅Wが決定されてスロットを通過する。C2−C2断面部の裏側開口部11の形成位置は、C1−C1断面部よりも表側開口部2の開口中心M寄りに設けられているにもかかわらず、電子ビーム31の通過する幅Wは、図1と図2で示した略長方形スロットが形成されたステップ15、16間の幅Wに等しくなると共に、図3(ロ)の断面部を通過する幅および通過する座標位置が一致する。
【0027】
図3(ニ)の断面図に示すように、スロットの下端部ではエッチング進行速度が小さいので、表側開口部2からのエッチング深さがさらに小さくなる代わりに、裏側開口部11からのエッチングが進行してその深さが大きくなる。その結果、側壁部3の各ステップ35、36の厚さH、hが、図3(ハ)で示した場合よりもそれぞれ厚くなるとともに、裏側開口部11のエッチング開口面積がさらに大きくなる。しかし、シャドウマスク中央側の裏側開口部11の端面エッジ37の座標位置は、図3(ロ)(ハ)に示す端面エッジの座標位置とほぼ同じになると共に、シャドウマスク外周側の側壁部4のステップ36の座標位置も、図3(ロ)(ハ)に示すステップ36の座標位置から上方にシフトした同一の座標位置となる。このようにエッチング加工されたスロットのC3−C3断面部に斜めから入射した電子ビーム31は、シャドウマスク中央側の裏側開口部11の端面エッジ37と、シャドウマスク外周側の側壁部4のステップ36とによって通過する幅Wが決定されてスロットを通過する。C3−C3断面部の裏側開口部11の形成位置は、C2−C2断面部よりもさらに表側開口部2の開口中心M寄りに設けられているにもかかわらず、電子ビーム31の通過する幅Wは、図1と図2で示した略長方形スロットの形成されたステップ15、16間の幅Wに等しくなるとともに、図3(ロ)(ハ)の断面部を通過する幅および通過する座標位置が一致する。
【0028】
図4は、図6に示す対角座標軸上のQ点のスロットの正面図(イ)、D1−D1断面図(ロ)、D2−D2断面図(ハ)およびD3−D3断面図(ニ)である。図4(イ)に示すように、Q点のスロットは、図3に示したR点の湾曲スロットと概ね同一形状の裏側開口部11と表側開口部2とで形成されている。ここで、概ね同一形状とするのは、スロットが設けられるシャドウマスクの座標位置によっては、電子ビームの入射角による若干の調整が必要となることによる。表側開口部2は、スロットに対して斜めに入射する電子ビーム31の通過の邪魔にならないように、裏側開口部11に対してシャドウマスクの外周寄りにシフトするように形成されている。Q点のスロットは、対角座標軸上にあると共に、図2に示すP点の略長方形スロットの真横に位置し且つ図3に示すR点の湾曲スロットの真上に位置する。従って、裏側開口部11に対する表側開口部1の相対位置は、X座標軸方向においてはR点の湾曲スロットと同じ座標位置となり、Y座標軸方向においてはP点の略長方形スロットと同じ座標位置となるように形成されている。
【0029】
図4(ロ)(ハ)(ニ)に示したQ点のスロット各部の断面形状は、図3(ロ)(ハ)(ニ)に示したR点の湾曲スロット各部の断面形状と概ね同じであり、同じ態様のエッチング状態で形成される。そのため、斜めに入射してQ点のスロットを通過した電子ビーム31は、表側開口部2に邪魔されることなく、蛍光面上で略長方形のスポットを形成する。
【0030】
以上のように、シャドウマスクの左右外周側に配置されるスロットは、その中心部から下端部に向かうにしたがって、エッチング進行速度の低下に伴う断面形状の変化が起こる。すなわち、スロットの中心部から下端部に向かうにしたがって、表側開口部2からのエッチング深さが小さくなるので、相対的に裏側開口部11からのエッチング深さが大きくなって、側壁部3、4のステップ35、36の厚さH、hが厚くなると共に、裏側開口部11のエッチング開口面積も大きくなる。
【0031】
スロット下端部を通過する電子ビーム31のシャドウマスク外周側の境界線40は、厚くなったステップ36によってその通過が妨げられる。そのため、従来のような略長方形スロットの場合は、スロット中心部を通過する電子ビーム31は、上記境界線40と同じ位置を通過することができず、蛍光面上にランディングするスポットは、上記境界線40の長手方向両端が欠けるような変形を生じて湾曲する。しかし、本発明においては、スロットの長手方向の両端がシャドウマスク外周側に湾曲するように裏側開口部11が形成されるので、スロット下端部を通過する電子ビーム31は、厚くなったステップ36が形成された場合であっても、スロット中心部を通過する電子ビーム31の上記境界線40と同じ座標位置を通過することになり、蛍光面上にランディングするスポットは、上記境界線40が真っ直ぐになる。
【0032】
一方、スロット下端部を通過する電子ビーム31のシャドウマスク中央側の境界線39は、開口面積が大きくなった裏側開口部11によってその通過位置が変化する。そのため、従来のような略長方形のスロットの場合は、スロット中心部を通過する電子ビーム31が上記境界線39と同じ位置を通過することができず、蛍光面上にランディングするスポットは、上記境界線39の長手方向両端がシャドウマスク中央側に湾曲する。しかし、本発明においては、スロットの長手方向の両端がシャドウマスク外周側に湾曲するように裏側開口部11が形成されることによって、裏側開口部11の端面エッジ37の座標位置がスロットの中心部と下端部とでほぼ同じ座標位置になるので、スロット下端部を通過する電子ビーム31は、裏側開口部11の開口面積が大きくなっても、スロット中心部を通過する電子ビーム31の上記境界線39と同じ座標位置を通過することになり、蛍光面上にランディングするスポットの上記境界線39が真っ直ぐになる。
【0033】
こうしたことは、スロットの下端部に限らず上端部においても同様の現象であるので、上端部側も下端部側と同様の形状とすることが好ましい。その結果、裏側開口部11を、Y座標軸から遠ざかるように湾曲して形成することによって、ブラウン管の蛍光面上にランディングするスポットの形状を湾曲させることなく、略長方形とすることができる。
【0034】
また、シャドウマスク中央側の側壁部3のステップ35の厚さHは、比較的厚く形成されるので、シャドウマスクがプレス加工される際の大きなプレス圧力が加わったとしても、そのステップ25が変形することはない。また、たとえ変形した場合であっても、ブラウン管の蛍光面上にランディングした電子ビーム31のスポットの形状を変形させるほど変形することはない。
【0035】
湾曲スロットの湾曲の程度は、シャドウマスク1の各部分によって、10度以下の角度で湾曲させることが好ましい。湾曲の程度は、湾曲スロットの中心点と湾曲スロットの長手方向両端部の開口幅の中心点とを結んだ湾曲度表示線と、湾曲スロットの中心点を通る縦座標軸とのなす角度で表す。
【0036】
図1や図2で説明したように、シャドウマスク1の中央を通る縦座標軸付近では、スロットに対して電子ビームがほぼ正面から直角に入射するので、電子ビームは、スロットの上下端部に形成された厚肉ステップによって遮蔽される等の影響を受けることが少ない。また、縦座標軸付近であれば、シャドウマスクの上辺側であっても下辺側であっても特に影響されることはない。そのため、シャドウマスク1の中央を通る縦座標軸付近のスロットは、略長方形または小さい角度の湾曲形状とすることが好ましい。
【0037】
しかし、図3や図4で説明したように、シャドウマスク1の外周側では、スロットに対して電子ビームが斜めから傾斜して入射するので、電子ビームは、スロットの長手方向両端部に形成された厚肉ステップによって遮蔽される。厚肉ステップに遮蔽される程度は、スロットに対する電子ビームの入射角が小さくなるにしたがって、すなわちシャドウマスク1の中央を通る縦座標軸から離れるにしたがって大きくなるので、スロットを湾曲させる角度も、シャドウマスク1の中央を通る縦座標軸から離れるにしたがって上記の範囲内で大きくすることが好ましい。なお、その遮蔽の程度は、上辺側でも下辺側でもあまり変わらないので、スロットを湾曲させる角度も、シャドウマスク1の中央を通る縦座標軸から距離が同じ場合には同じ角度とすることが好ましい。
【0038】
次に、上述したブラウン管用シャドウマスクを製造するためのフォトマスクについて説明する。
【0039】
図5は、シャドウマスク1を製造するためのフォトマスクパターンの一例と、各パターンの位置関係を示している。図5(イ)は、シャドウマスクの略長方形の表側開口部2を形成するための表側開口パターン52を示し、図5(ロ)は、シャドウマスクの湾曲した裏側開口部1を形成するための裏側開口パターン51を示している。また、図5(ハ)は、表側開口パターン52を有するフォトマスクと、裏側開口パターン51を有するフォトマスクとを用いて露光する際の、各パターンの位置関係を示している。
【0040】
表側開口パターン52は、図5(イ)に示すように、角が直角の長方形である。そして、この表側開口パターン52を有するフォトマスクは、シャドウマスク1の略長方形の表側開口部2にそれぞれ対応した所定の位置に設けられる。
【0041】
裏側開口パターン51は、図5(ロ)に示すように、フォトマスクの中央を通る縦座標軸から遠ざかるように、長方形状の上部パターン53と、同じく長方形状の下部パターン54とが上下対象に形成された屈曲パターンである。屈曲パターンの屈曲角度は、パターン中央の中心点55を通る縦座標軸に対して10度以下の角度で折り曲げるように形成されている。屈曲角度は、エッチング加工後に形成されるシャドウマスクのスロットの湾曲する角度と同じになるので、フォトマスクの中央を通る縦座標軸から離れるにしたがってその角度は大きくなる。こうした裏側開口パターン51を有するフォトマスクは、シャドウマスク1の湾曲した裏側開口部11にそれぞれ対応した所定の位置に設けられる。また、シャドウマスク1の中央を通る縦座標軸付近に設けられる裏側開口部1は、略長方形状であるので、フォトマスクの中央付近も同様に、長方形の裏側開口パターンが形成される。
【0042】
シャドウマスク1は、以上説明したフォトマスクを使用することによって、従来公知の方法で形成することができる。通常、フォトエッチングの各工程で行われ、連続したインライン装置で製造される。例えば、金属板の両面に水溶性コロイド系フォトレジスト等を塗布し、乾燥後、その表面には上述の表側開口パターン52を形成したフォトマスクを密着させ、裏側には上述の裏側開口パターン51を形成したフォトマスクを密着させて、高圧水銀等の紫外線によって露光し、水で現像する。なお、図5(ハ)に示すように、表側開口パターン52を形成したフォトマスクと、裏側開口パターン51を形成したフォトマスクの位置関係は、得られるシャドウマスクに形成された表側開口部2と裏側開口部1、11との位置関係に同じになるように配置する。レジスト膜画像で周囲をカバーされた金属露出のスロット部は、各部のエッチング進行速度の相違に基づいて、上述したような各々の断面部特有の形状で形成される。なお、エッチング加工は、熱処理等された後、両面側から塩化第2鉄溶液をスプレー等して行われ、その後、水洗い、剥離等の後工程を連続的に行うことによってシャドウマスクが製造される。
【0043】
このフォトマスクによって、ブラウン管の蛍光面全域に渡って略長方形の電子ビームのスポットの形成が可能なシャドウマスクを製造することができる。得られたシャドウマスクを使用することによって、シャドウマスクを通過した電子ビームは、図11に示す従来のような位置ずれを起こさないで、蛍光面上の所定の位置に正確に照射する。その結果、蛍光面全域に渡って所望の輝度とすることができると共に、R、G、Bの発光むらも起きることがない。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のブラウン管用シャドウマスクによれば、略長方形スロットの長手方向の両端が、シャドウマスクの中央を通る縦座標軸から遠ざかるように湾曲した湾曲スロットが設けられているので、従来のスロット形状では長手方向両端の側壁部によって遮蔽される電子ビームが、遮蔽されることなく通過することができる。その結果、ブラウン管の蛍光面上にランディングするスポットの長手方向の両端が欠けることがない。また、このような湾曲スロットは、スロットを形成するシャドウマスクの中央側の長辺も同様に湾曲しているので、スロットの長手方向両端の裏側開口部の端面エッジ間が拡大した場合であっても、ブラウン管の蛍光面上にランディングした電子ビームのスポットの形状を変形させることがない。さらに、湾曲スロットの湾曲の程度は、シャドウマスクの中央を通る縦座標軸から離れるに従って大きくなるように形成されるので、湾曲スロットへの電子ビームの入射角の変化に対応することができ、ブラウン管の蛍光面全域に渡って、略長方形の電子ビームのスポットを形成することができる。従って、本発明のシャドウマスクによれば、略長方形のスポットをブラウン管の蛍光面上に一様に形成することができるので、所定の位置に電子ビームをランディングさせることができ、輝度の低下や発色むらを起こすことがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】図6に示すX座標軸とY座標軸が交わるS点のスロットの正面図(イ)、A1−A1断面図(ロ)およびA2−A2断面図(ハ)である。
【図2】図6に示すY座標軸上のP点のスロットの正面図(イ)、B1−B1断面図(ロ)およびB2−B2断面図(ハ)である。
【図3】図6に示すX座標軸上のR点のスロットの正面図(イ)、C1−C1断面図(ロ)、C2−C2断面図(ハ)およびC3−C3断面図(ニ)である。
【図4】図6に示す対角座標軸上のQ点のスロットの正面図(イ)、D1−D1断面図(ロ)、D2−D2断面図(ハ)およびD3−D3断面図(ニ)である。
【図5】シャドウマスクを製造するためのフォトマスクパターンの一例と、各パターンの位置関係を示している。
【図6】略長方形の複数のスロットを有する従来型のカラーブラウン管用シャドウマスクの全体図である。
【図7】従来型のシャドウマスク各部の表側開口部と裏側開口部の位置関係を示す概略図である。
【図8】従来型のシャドウマスクのスロットの中心部と上端部の断面図である。
【図9】従来型のシャドウマスクのスロットと、そのスロットを通過して蛍光面上にランディングする電子ビームのスポット形状を示す概略図である。
【図10】変形したスポットがブラウン管の蛍光面上にランディングした状態を示す概略図である。
【符号の説明】
1、11 裏側開口部
2 表側開口部
3、4、5、6 側壁部
15、16、25、26、35、36、45、46 ステップ
7、8、37、38 端面エッジ
51 裏側開口パターン
52 表側開口パターン
53 上部パターン
54 下部パターン
Claims (3)
- カラーブラウン管の蛍光面上に一様に略長方形のビームスポットを形成する多数のスロットを有するシャドウマスクにおいて、
前記シャドウマスクは、その中央を通る縦座標軸付近であって、電子ビームが直角に入射される位置に設けられた略長方形スロットと、前記縦座標軸から外周側に離れており、電子ビームが斜めから傾斜して入射される位置に設けられた湾曲スロットとを有し、
前記略長方形スロットは、電子ビームが入射する側にエッチング加工された略長方形の裏側開口部と、電子ビームの通過の邪魔にならないように前記裏側開口部より大面積にエッチング加工された略長方形の表側開口部と、前記裏側開口部と前記表側開口部との間で傾斜した側壁部とからなり、
前記湾曲スロットは、電子ビームが入射する側にエッチング加工されて長手方向の両端が前記縦座標軸から遠ざかるように湾曲した裏側開口部と、電子ビームの通過の邪魔にならないように前記裏側開口部より大面積にエッチング加工された略長方形の表側開口部と、前記裏側開口部と前記表側開口部との間で傾斜した側壁部とからなり、前記湾曲スロットの裏側開口部の湾曲の程度が、前記縦座標軸から離れるに従って大きくなることを特徴とするブラウン管用シャドウマスク。 - 前記湾曲スロットの側壁部には、当該湾曲スロットの中心部から長手方向の両端に向かうにしたがって、エッチング深さが次第に小さくなる表側開口部側のエッチング面と、エッチング深さが次第に大きくなる裏側開口部側のエッチング面とが、厚さ方向の中間部分において接触したステップが形成され、前記湾曲スロットの裏側開口部は、当該湾曲スロットの中心部から長手方向の両端に向かうにしたがって、対向幅が拡大した端面エッジを有することを特徴とする請求項1に記載のブラウン管用シャドウマスク。
- 前記湾曲スロットは、当該湾曲スロットの中心点と当該湾曲スロットの長手方向両端部の開口幅の中心点とを結んだ湾曲度表示線と、当該湾曲スロットの中心点を通る縦座標軸とのなす角度が、10度以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のブラウン管用シャドウマスク。
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