JP4123870B2 - 耐高温酸化性オーステナイト系ステンレス鋼板 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、耐高温酸化性オーステナイト系ステンレス鋼板に関する。より詳述すれば、天然ガスを燃料とする燃焼システムにおいて、燃焼ガスの排熱を回収するために用いる廃熱回収装置等の熱交換器に用いられる耐高温酸化性に優れた薄肉のオーステナイト系ステンレス鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
分散型電源として注目されているマイクロガスタービンや燃料電池、ガスエンジン等には熱効率向上の点から燃焼排ガスの潜熱を利用して燃焼用空気を加熱する熱交換器(以降、「再生器」という)が装着されている。
【0003】
再生器は0.1 〜0.5mm 厚にまで高度に加工した薄肉ステンレス鋼板からなるフィンと1mm厚程度のステンレス鋼板からなるプレート等から構成される。
近年、地球温暖化防止の観点からCO2 排出量の少ない天然ガスへ燃料を転換する動きがあり、それにともない従来使用されてきたフィン材が、排ガスに含まれる高濃度の水蒸気により激しい酸化を受けまたたく間に鋼がすべてスケールと化してしまうという新たな問題が生じている。
【0004】
この現象を「加速酸化」といい、原因は水蒸気による高温酸化であると考えらえる。
重油やガソリン等の従来型燃料では燃焼排ガス中の水蒸気濃度は高々10体積%未満であったが、天然ガスを燃料とすると水蒸気濃度は16体積%以上と一挙に1.6 倍程度と高くなるため、水蒸気による高温酸化が顕著になったものと考えられる。加えて分散型電源では電力需要の高い日中に運転し、電力需要の少ない夜間は停止する使用モードが一般的であるため、機器用材料には加熱・冷却の繰り返しの熱サイクルが数百〜数千回加わることになり、材料はこのような使用モードにおける耐久性も求められる。
【0005】
このように、上述の用途には経済性に優れ、フィンへの厳しい加工に耐えかつ水蒸気に対する優れた耐熱性を有し、加えて加熱・冷却の繰り返しサイクル下でも良好な性能を有する薄肉のステンレス鋼板が要求されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述のような加熱・冷却の繰り返えされる用途およびそれに使用する従来の材料としては、まず、自動車排ガス浄化触媒担体用の材料が考えられるが、これには、種々のFe-Cr-Alフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
【0007】
たとえば特公平6−104879号公報には、Ln(La,Ce,Pr,Nd) を含むフェライト系Fe-Cr-Alステンレス鋼板が、特公平6−2075号公報には、Al、Cr、Si 、Mn量を制御した高Al含有フェライト系ステンレス鋼板がそれぞれ開示されている。
【0008】
これらのFe-Cr-Alフェライト系ステンレス鋼板は耐熱性が良好なため自動車触媒担体用耐熱鋼板として使用されるが、これらの鋼は一般的に加工性のよくないフェライト系ステンレスであることに加えてAlを多量に含有するため加工性がすこぶる悪く、また溶接が難しいという問題があった。
【0009】
本発明の一つの用途である再生器のフィンのように厳しい加工が要求される部位にはこの種の材料は適用困難であった。
また、Fe-Cr-Alフェライト系ステンレス鋼板は熱間加工性も悪いので箔圧延のように薄肉にまで圧延するには圧延パス回数を増やす必要がありコスト高となる欠点もあった。
【0010】
特開平9−296259号公報には断続加熱時の耐久性に優れたフェライト系ステンレス鋼が開示されている。しかしながらこの鋼は断続的加熱条件下では優れた耐熱性を示すものの、水蒸気酸化に対する抵抗性に乏しく、またフェライト系ステンレス鋼のため加工性に問題を有していた。
【0011】
一方、従来から、一般に高温用途には、SUS304やSUS310に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼が多く用いられている。
例えば、特開平8−2181521 号公報には耐隙間腐食性、耐応力割れ性、加工性及び抗菌性にすぐれ、熱交換器プレートに適したオーステナイト系ステンレス鋼板が開示されている。この鋼板は耐隙間性と加工性を両立させるため、加工性の低下を招くCr、Mo、N等の耐食性改善元素の添加を行うことなく表面粗さを制御することで耐隙間腐食性を確保したものである。ただし、この材料は水蒸気酸化に対する耐熱性に乏しく、加えて加熱・冷却の繰り返しサイクル下での耐高温酸化性も不芳であり、本発明の意図する用途には適さない。
【0012】
特開2000−303150号公報にはAlを多く含まないフェライト系ならびにオーステナイト系ステンレス鋼箔が開示されている。この材料は直接拡散接合用で、とくにオーステナイト系の材料は圧延も容易で加工性にも優れるが、ステンレス鋼箔としての耐熱性の点で問題点を有していた。
【0013】
ここに、本発明の課題は、厳しい加工に耐えかつ圧延が容易なオーステナイト系ステンレス鋼板で、厚さ0.5mm 以下の状態においても水蒸気酸化に対する優れた耐熱性を有し、かつ数百〜数千回に及ぶ加熱・冷却サイクル下でも安定な耐熱性を示す経済性に優れたステンレス鋼板を提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述の課題を解決する手段について種々検討を重ねた結果、加工性に優れるAlを含有しないNi-Cr-Fe系オーステナイト系ステンレス鋼に着目し、その箔について水蒸気を多く含む燃焼排ガス雰囲気中で加熱・冷却サイクル下の高温酸化試験を実施した。
【0015】
その結果、0.5mm 厚を越える板厚であればこのような使用条件下で耐熱性の点でなんら問題のないステンレス鋼(たとえばSUS310S)でも、厚さが0.5mm 以下の薄肉になると水蒸気を多く含む加熱雰囲気中での加熱・冷却の繰り返しを受けることにより短時間で加速酸化をきたし、フィンがまたたく間にすべてスケール化してしまう現象を発見した。
【0016】
ここに、「加速酸化」とは、鋼がまたたく間にすべてスケール化する現象を指す。すなわち、後述するようにフィンが酸化スケールの生成により伸びてしまい、ステンレス鋼板の厚みにもよるが数百〜数千時間程度の短時間使用で0.5mm 厚以下のステンレス鋼箔の金属部分がすべてスケール化してフィンがこわれてしまう現象である。これは再生器の耐久性の点で大いに問題になる現象である。
【0017】
なお、本件の先願である特願2001−291479号明細書において「異常酸化」なる用語が用いられているが、それはもっぱら高温下での酸化により鋼表面においてCrが濃化した酸化スケールが生成することで、その地金側にCr欠乏層が生成する現象であり、言わばこれは化学的な酸化である。この点、すでに述べたところからも明らかなように、本発明における水蒸気の多量存在下での「加速酸化」は、酸化物の生成による体積膨張に一部起因するもので、むしろ「機械的要因による高温酸化」あるいは「高温変形酸化」と呼ぶべき内容であり、先願における「異常酸化」とは実質上異なる。
【0018】
そこで、鋼の加速酸化の原因を詳しく調べた結果、フィン材のこのような加速酸化は鋼表面に生成した酸化スケールとフィン材の高温強度の差異に依存し、酸化スケールの高温強度がフィン材の高温強度を上回る場合に上述のように鋼の加速酸化が見られる、すなわち高温でフィン材が酸化スケールに打ち負けて変形した場合にのみ加速酸化が生じるとの新たな知見を得た。
【0019】
厚みが0.5mm を越える鋼板の場合には酸化スケールの高温強度よりも母材の高温強度の方が圧倒的に高いため、スケール成長にともなって酸化スケール内に圧縮応力が発生しても母材の方が酸化スケールより強いため酸化スケールは自由に変形できず水蒸気雰囲気においても鋼は加速酸化しない。すなわち、母材が酸化スケールを強く拘束しスケールの変形を押さえ込むことで加速酸化が防止されるのである。ところが、板厚が0.5mm 以下の材料になると酸化スケールの強度が母材強度を上回ってしまうため、酸化スケールの成長に伴いスケール内に圧縮応力が生じることで母材がスケールに打ち負けてクリープ変形してしまい、酸化スケール内に圧縮応力が蓄積せずスケールの変形を許してしまう。したがって、酸化スケールには圧縮応力という押さえがきかず、水蒸気雰囲気中で加速酸化が起こる。このような現象は、本発明によって初めて見いだされたものである。
【0020】
そこで、本発明者らは、薄肉材において加速酸化を防止する方策を種々検討した結果、酸化スケールの高温強度を低めることで酸化スケールの高温強度を母材強度より相対的に低減させ、母材の種類によらず薄肉材の加速酸化を防止できることを知った。
【0021】
したがって、酸化スケールの高温強度に影響する因子を種々検討した結果、酸化スケールの高温強度は鋼からスケールに混入するCrとMnが大きく影響すること、すなわちMnはスケール強度を低め、逆にCrはスケール強度を高める作用がありスケールに混入するCrとMnの影響度は鋼のCrとMn含有量に影響されること、鋼の板厚とCr含有量によって定まる一定量以上のMnを含ませることで酸化スケールの高温強度を顕著に低下させることができ、結果として、鋼の加速酸化を防止できるとの本発明にかかる新しい技術を世界ではじめて開発したのである。
【0022】
上記の知見によれば、鋼のMn含有量を板厚と鋼のCr含有量で決まる一定量以上にすることで、酸化スケールの高温強度を顕著に低くすることが可能となり、その結果、薄肉材においても加速酸化を防止できることになる。
【0023】
さらに本発明によれば、水蒸気量の多いガス雰囲気中で加熱・冷却の繰り返しを行うと、ステンレス鋼箔の加速酸化は、驚くことに、酸化試験により試験片が伸びた鋼にのみ生じるのであり、試験片が伸びない鋼には加速酸化は生じない。この現象は厚さ0.5mm 以下の鋼のときには、板厚によらない。
【0024】
この現象をさらに詳しく調べた結果、酸化試験による試験片伸びは鋼のMn含有量に依存し、Mn含有量の多い鋼で試験片伸びが顕著に小さいこと、またMn含有量の多い鋼で加速酸化が生じていないことがわかった。さらに詳しく調べると、この現象はMn含有量の多い鋼に生成する酸化スケールの高温強度が顕著に低いため生じることもわかった。さらに鋼の加速酸化の発生有無は鋼のMn含有量に加え鋼のCr含有量にも微妙に影響されることもわかった。
【0025】
ここに、本発明は、上記のような各知見に基づくものであり、その要旨とするところは、質量%で、C:0.01〜0.10%、Si:1.0 %以下、Cr:23.0〜27.0%、Ni:17.0〜23.0%、希土類元素の一種以上を合計で0.005 〜0.10%を含み、Mnの含有量が2.0 %以下でかつ下記関係式を満足し、残部がP、S等の不可避不純物とFeとから成る化学組成を有し、鋼板の厚さが0.5mm 以下であるオーステナイト系ステンレス鋼板である。
【0026】
Mn (%)≧0.05×Cr(%)−0.20×板厚(mm)−0.55
上記化学組成は、次の群の少なくとも1種をさらに含有してもよい。
(1) それぞれ3%以下のMo、W、CuおよびCoの中から選ばれた1種または2種以上を合計で3%以下、
(2) それぞれ1%以下のNb、Ti、V、Zrの中から選ばれた1種または2種以上、(3) Alを0.6 %以下、
(4) Nを0.4 %以下、
(5) Bを0.01%以下、
(6) CaおよびMgの中から選ばれた1種以上をそれぞれ0.01%以下。
【0027】
【発明の実施の形態】
ここで、本発明において化学組成を前述のように規定した理由についてさらに具体的に説明する。なお、本明細書において化学組成を示す「%」はいずれも質量%である。
【0028】
C:δフェライトの生成を抑制し、オーステナイト組織を安定させるとともに高温強度を確保するため添加される。この効果を発揮させるにはC含有量を0.01%以上とするが、C含有量が0.10%を超えると合金の結晶粒界に塊状のCr23C6が析出し合金の靱性が低下するとともに加熱・冷却サイクル時の熱疲労に対する抵抗性が劣化するので上限を0.10%とした。好ましくは、0.08%以下である。
【0029】
Si:Siは溶解時に脱酸材として作用するため添加されるが、1.0 %を超える添加で脆い金属間化合物の析出を促進させ合金の組織不安定性、すなわち加熱による脆化を加速させるため、その上限を1.0 %とした。好ましくは、0.8 %以下である。
【0030】
Mn:Mnはオーステナイト組織を形成する効果を有し、溶解時に脱酸剤としても作用するため添加されるが、本発明では酸化スケールの高温強度を低める目的で下記式(1) で計算される値以上含有させる。
【0031】
0.05×Cr(%)−0.20×板厚(mm)−0.55 ・・・・・(1)
しかし、Mnが2.0 %を越える含有では鋼の熱間加工性が低下するため上限を2.0 %とした。好ましくは、1.8 %以下である。より好ましくは、0.5 〜1.6 %である。
【0032】
Cr:Crは耐熱性を高める効果を有する。すなわち鋼表面に保護性のCr2O3 酸化被膜を均一に生成させ鋼を酸化から守る作用を有する。またMnとともにCr2O3 スケールの高温強度に影響を及ぼす元素である。Cr含有量が23.0%未満だと水蒸気を含む高温酸化環境下で鋼表面にCr2O3 スケールが均一生成せず耐高温酸化性が劣化するため23.0%以上含有させる。しかし、Cr含有量が27.0%を超えると高温で長時間使用中に脆い金属間化合物であるα-Cr 相が析出するようになり鋼を脆化させるため、その上限を27.0%とした。好ましくは、24〜26%である。
【0033】
Ni:Niはオーステナイト組織を形成するために必要な元素であるが、同時に鋼の耐熱性を高める作用も有する。オーステナイト組織を得るためには少なくとも17.0%以上含有させる。またその効果は23.0%を超えると飽和するため経済性も勘案しNi含有量の上限を23.0%とした。好ましくは、19〜21%である。
【0034】
希土類元素:希土類元素は酸化スケールの密着性を向上させるため本発明が想定する環境下で用いられる鋼には添加が必須である。その効果は希土類元素の含有量の合計が0.005 %以上で達成される。一方、0.10%を超えると高温で脆い金属間化合物が析出し、鋼が脆化することから、添加する場合、その上限を0.10%とした。好ましくは、0.08%以下である。
【0035】
Mo、W、Cu、Co:Mo、W、Cu、Coは鋼の高温強度を高めることから必要により添加してもよい。この効果を発揮させるにはMo、W、Cu、Coのいずれも0.01%以上添加することが好ましい。一方、Mo、W、Cuはそれぞれ3%、あるいはその合計で3%を超えると高温で使用中に脆い金属間化合物が析出し鋼の靱性低下を招くことからその上限をそれぞれ3%とした。またCoはその含有量が3%を超えると高温強度が著しく高くなり熱間加工性が低下するため、添加する場合、その上限を3%とした。
【0036】
Mo、W、Cu、Coは、合計で3%を超えると上述のように金属間化合物が析出したり、熱間加工性が低下したりすることから、合計の添加量は3 %以下に制限する。
【0037】
Nb、Ti、V、Zr:Nb、Ti、V、Zrは炭窒化物を形成しやすく、炭窒化物の析出により高温強度を高めることができるので添加してもよい。そのような効果を発揮させるにはNb、Ti、V、Zrとも0.01%以上添加することが好ましい。しかし、それぞれ1%を超えるとこの効果が飽和することから添加する場合、上限を1%とした。
【0038】
Al:Alは溶解時の脱酸のため必要により添加してもよい。その効果を発揮させるには0.005 %以上添加することが好ましい。しかし、0.6 %を超えて添加すると高温で脆い金属間化合物であるNi3Al が析出し熱間加工性を著しく劣化させ、またクリープ破断伸びを低下させるのでその上限を0.6 %とした。
【0039】
N:Nはオーステナイト組織の安定化に寄与するのみならず高温強度を高める作用があることから必要により添加してもよい。この効果を発揮させるには0.01%以上添加するのが好ましい。しかし、通常の溶製技術ではNを0.4 %超える量だけ鋼に添加するのが困難なため添加する場合、その上限を0.4 %とした。
【0040】
B:Bは結晶粒界を強化し高温強度を高める作用があることから添加してもよい。その作用効果は好ましくは0.001 %以上で発揮される。一方、0.01%を超える含有で溶接時の高温割れ感受性が高まるためBの上限を0.01%とした。
【0041】
Ca、Mg:Ca、Mgは熱間加工性を向上するため添加してもよい。その作用効果はそれぞれ好ましくは0.001 %以上で発揮される。一方、Ca、Mgの含有量が0.01%を超えると低融点化合物であるNi-Ca 、Ni-Mg 化合物が形成され、熱間加工性がかえって悪くなるため、添加する場合、その上限を0.01%とした。
【0042】
本発明にかかる薄鋼板は、耐高温酸化性に優れたものであり、特に水蒸気含有量が10体積%以上のような高温雰囲気において、厚さ0.5mm 以下のステンレス鋼箔の状態で使用される用途において特に顕著な効果を発揮する。
【0043】
さらに特定的には、本発明にかかる薄鋼板は、水蒸気含有量が10体積%以上の燃焼排気ガスの再生器における熱交換部材として使用することで特に顕著な作用効果が発揮される。
【0044】
具体的に、そのような用途としては、前述の再生器のフィン材等が例示され、その他、都市ガスを燃焼するマイクロガスタービンや燃料電池、ガスエンジン等に装着される熱交換器に用いることができる。
【0045】
しかし、本発明の用途がそれにのみ制限されるものではなく、厚さ0.5mm 以下の鋼板においてその本質的特性である水蒸気酸化を防止できる安価な材料として多くの用途が期待される。
【0046】
【実施例】
表1の符号1〜12、および表2の符号13〜36に示す36種の合金を各30kg真空誘導加熱炉で溶製した。得られたインゴットを外削したのち1250℃で3時間加熱後に熱間鍛造により25mm厚、90mm幅のビレットを製造した。このビレットを1100℃で軟化焼鈍したのち熱間圧延で5mm厚まで圧下した熱延鋼板を製造した。
【0047】
得られた熱延鋼板を1100℃で軟化焼鈍後、冷間圧延を行うことで厚さ1.2mm の冷延鋼板を得た。さらにこの鋼板を1100℃で軟化焼鈍後、冷間圧延を施す工程を繰り返すことで0.1mm 〜0.5mm の厚みを有するステンレス鋼箔を得た。
【0048】
箔は最終熱処理として1100℃で1時間加熱後水冷する熱処理を施したのち、酸洗により表層のスケールを除去後、幅15mm、長さ35mmの試験片を切り出し、高温酸化試験に供した。
【0049】
また、表2おいて符号37〜39で示す市販の試験材も供試した。符号38の合金はJIS G4305 に規定されているSUS310S 鋼、符号39の合金はJIS G4902 に規定されているNCF800鋼である。これらの材料はいずれも1.2mm 厚の冷延鋼板で入手したが、1100℃で軟化焼鈍後、冷間圧延を施す工程を繰り返すことで同じく0.1mm 厚のステンレス鋼箔とした。
【0050】
なお、表1、表2において、「先願Mn上限」とあるのは、特願2001−291479号明細書に開示されている下記式により計算した値である。
Mn =2.8 ×REM(%)−0.025 ×Ni(%) +0.95
高温酸化試験は、都市ガスの燃焼排ガスを模擬した組成のガス(3%O2-16 %H2O-9%CO2-bal.N2)気流中、850 ℃で25分間加熱し、5分間室温に空冷する加熱・冷却の繰り返し試験を1000回実施し、試験後に鋼の加速酸化の状況ならびにステンレス鋼箔の試験片の伸び量の測定を行った。本例の加熱・冷却の繰り返し試験における850 ℃での保持時間は通算約417 時間であった。
【0051】
表1および表2に、試験結果として試験片の伸び量ならびに加速酸化の状況を併記した。
これからも分かるように、加速酸化の有無と試験片伸び量とは一対一に対応し、高温酸化試験により試験片が伸びた試験片ではすべての鋼で加速酸化が発生し鋼がすべてスケール化してしまったのに対し、試験片の伸び量が顕著に少ない合金はそのすべてで加速酸化は発生していない。
【0052】
符号37〜38の鋼は、Mn含有量が本発明の範囲であるために、試験片伸びは小さいが、それぞれ以下の理由で不芳であった。
符号37の鋼はCrが22.8%とCr含有量が23%未満であり、高温度の水蒸気を含む排ガス環境下で鋼表面に保護性のCr2O3 スケールが生成せず、かわりに厚い酸化スケールが生成したために、試験片はすべてスケール化した。
【0053】
符号38の鋼は希土類元素が含まれていないため本発明の用途である加熱・冷却繰り返し使用において熱サイクルのたびに激しいスケール剥離が生じて鋼がみるみるやせ細った。
【0054】
また、符号39の鋼はCr量が20.5%と低くかつ希土類元素を含まないため短期間で鋼がすべてスケール化した。しかし、本発明例を示す符号7〜12、および13〜36のステンレス鋼箔では、いずれも加速酸化の発生はなく良好な外観を呈した。
【0055】
表1の各試験鋼について、試験片板厚と試験片伸びとの関係を加速酸化の発生の有無も含めて図1にまとめて示す。図中、○:加速酸化が発生しなかった試験片、●:加速酸化がみられた試験片を示す。
【0056】
図1の結果からも分かるように、加速酸化が見られた試験鋼にはいずれも大きな試験片伸びが生じている。すなわち、加速酸化が生じた鋼はいずれも酸化スケールの成長応力が鋼の強度を上回ったが、加速酸化しなかった試験片では鋼の方が酸化スケールよりも強度が勝っている結果となった。これらの結果から、加速酸化は、酸化スケールの高温強度がステンレス鋼箔の高温強度を上回った場合にのみ、生じることが確認された。
【0057】
加速酸化の発生の有無を合金組成との観点から整理した結果を図2にグラフで示す。図中、○、△は加速酸化0 発生なしの試験片、●、◇は加速酸化が発生した試験片、○、●印は低Cr材、△、◇印は高Cr材をそれぞれ示す。
【0058】
図2の結果から分かるように、Mn量が多い鋼では鋼の高温強度に大きな差異がないにもかかわらず加速酸化は発生していない。しかし、Mn量の少ない合金ではすべての鋼で加速酸化が発生した。加速酸化の発生の有無は鋼のMn含有量だけではなく鋼のCr含有量も影響し、Mnが前述の式(1) 、すなわち、 0.05 ×Cr (%) −0.20×板厚(mm) −0.55で計算される値以上鋼に含まれると0.1 〜0.5mm 厚のステンレス鋼箔では加速酸化は発生しないことが確認された。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【発明の効果】
以上の説明からも分かるように、本発明にかかるステンレス薄鋼板は、都市ガスを燃焼するマイクロガスタービンや燃料電池、ガスエンジン等に装着される熱交換器に用いることで、材料コストをそれ程上昇させることなく熱交換器の寿命を大幅に延長することができ、もともとエネルギー効率の高い分散型電源の経済性をさらに著しく高めることが可能となり、よって、本発明は、CO2 排出量抑制に寄与し地球環境保全に役立つ産業上も価値の高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】高温酸化試験における試験片の板厚と試験片伸びとが加速酸化の発生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図2】式(1) と試験片板厚とが加速酸化の発生に及ぼす影響を示すグラフである。
Claims (7)
- 質量%で、
C:0.01〜0.10%、Si:1.0%以下、Cr:23.0〜27.0%、Ni:17.0〜23.0%、希土類元素の一種以上を合計で0.005〜0.10%を含み、Mnの含有量が2.0%以下でかつ下記関係式を満足し、残部がP、Sを含む不可避不純物とFeとから成る化学組成を有し、厚さが0.5mm以下であるオーステナイト系ステンレス鋼板。
Mn(%)≧0.05×Cr(%)−0.20×板厚(mm)−0.55 - 前記化学組成が、さらに質量%で、Mo:3%以下、W:3%以下、Cu:3%以下、およびCo:3%以下からなる群から選んだ1種または2種以上を合計で3%以下含む請求項1記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、さらに、Nb:1%以下、Ti:1%以下、V:1%以下、およびZr:1%以下から成る群から選んだ1種または2種以上を含む請求項1または2記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、さらに、Al:0.005〜0.6%(ただしAl:0.1%以上の場合は除く)以下を含む請求項1ないし3のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、さらに、N:0.01〜0.4%を含む請求項1ないし4のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、さらに、B:0.01%以下を含む請求項1ないし5のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、さらに、Ca:0.01%以下およびMg:0.01%以下のうちの1種または2種を含む請求項1ないし6のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
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