JP4123545B2 - 熱処理品 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車、農業機械、建設機械及び鉄鋼機械等に使用される高い疲労強度が要求される機械部品であって、特に軸受、歯車、シャフト等に使用される浸炭あるいは浸炭窒化処理が施される合金鋼、及び鉄鋼機械等や自動車、農業機械、建設機械のトランスミッションやエンジン等に使用される転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
耐摩耗性、疲労強度、または靭性等が要求される機械部品には、機能性の向上を図るため、Cr,Mn,Ni,Mo等の合金元素が多量に添加された合金鋼が一般的に使用される。これらの合金元素は焼入れ性を高め、焼入れ時に不完全焼入れ組織の形成を防止する作用も担っている。
【0003】
また、軸受や歯車等、特に高い耐摩耗性や疲労強度が要求される機械部品には、合金鋼に浸炭あるいは浸炭窒化の表面硬化処理が施される。
ところで、大型の軸受等のように厚肉で形状が複雑な部品の場合には、浸炭あるいは浸炭窒化処理後の放冷時に部品が変形したり、極端な場合には割れが発生することがある。
【0004】
このような放冷割れの発生は、放冷時に部品内外の冷却速度に差が生じ、これに伴って、大きなマルテンサイト変態応力が生じることに起因する。すなわち、割れのメカニズムは焼割れと同じであり、まず、表面が内部よりも速くMs点以下に冷却され、これにより表面にマルテンサイトが形成されて大きな体積膨張が起こるが、この体積膨張が不均一に起こり、しかも、塑性変形しにくい低温で生じると、部品の外周部に極めて大きな引張り応力が生じ、くさび形の割れが発生する(社団法人金属学会編 講座・現代の金属学材料編 第4巻 鉄鋼材料 第142頁参照)。
【0005】
一方、Cr,Mn,Ni,Mo等の合金元素が多量に添加された合金鋼に長時間浸炭あるいは浸炭窒化処理を施した部品においては、水素に起因する割れ、すなわち白点性欠陥が認められるケースがある。白点性欠陥は、毛割れ状の内部欠陥が熱処理後の冷却時や室温放置時に生じるもので、破面の断面を観察すると白点が認められる。
【0006】
更に、転がり軸受の潤滑油中に混入している金属の切粉、削りくず、バリおよび摩耗粉等の異物が軌道輪や転動体に損傷を与え、軸受寿命の大幅な低下をもたらすことが知られている。
【0007】
特公平7−88851号公報では、軸受の転がり表面層のC含有量、残留オーステナイト量および炭窒化物の含有量を最適化して異物によって生じる圧痕のエッジ部に発生する応力の集中を緩和し、これにより、クラックの発生を抑制して寿命の向上を図ることが開示されている。
【0008】
また、特公平8−26446号公報では、炭化物、炭窒化物の平均粒径を適正化し、残留オーステナイト量と表面硬さの最適な関係を見出すことにより、更に長寿命化することが開示されている。
【0009】
上述の長寿命化はCr、Mo、V等の合金元素が添加された合金鋼の使用により達成され、異物混入潤滑下寿命はMo添加が重要な役割を担っていることが示されている。これは、Moを含む微細な炭化物を析出させ、残留オーステナイト量を減少させずに、硬さを高めることにより達成されるものである。
【0010】
Mo添加量について、特許公報2541160号では、Cr添加量に対してMoを適正化し、硬質なMo複炭化物を析出させることにより、異物混入潤滑下での長寿命化が達成できることが開示されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、Cr,Mn,Ni,Mo等の合金元素が多量に添加された合金鋼に浸炭あるいは浸炭窒化処理を施して製造される部品では、放冷割れ(変態割れ)と白点性欠陥(水素脆性)の2種類の割れの発生が問題となる。
【0012】
放冷割れについては、その主たる防止策はマルテンサイト変態域を徐冷して変態応力を低減する手法が採られるが、冷却速度の制御には困難が伴い、また、マルテンサイト形成そのものを防止する手法ではないので、放冷割れを確実に防止することは困難である。
【0013】
また、他の手法として、浸炭あるいは浸炭窒化処理後に鋼をTTT図(恒温変態図)の入り江の温度に保持した塩浴中に焼入れて、部品内外の温度が一様になってから、部品を引き上げ徐冷するマルクエンチ、マルテンパー等の処理があるが、塩浴等の設備が新たに必要となり、生産性に問題が生じる。
【0014】
更に、浸炭あるいは浸炭窒化後に直接焼入れ処理を施すようにした場合には、オーステナイト結晶粒が粗大化し、この粗大化した組織は二次焼入れ処理を施しても微細化されず機械強度が低下してしまうという問題がある。
【0015】
一方、白点性欠陥については、一般的な防止策として製鋼、造塊時に真空脱ガス処理により溶鋼中の水素量を低減する手法が採られたり、また、大型の鍛造用鋼では脱水素を目的としてA1 変態点直下の温度で恒温焼鈍が施される事例がある。
【0016】
しかしながら、浸炭あるいは浸炭窒化処理する部品の場合、浸炭雰囲気中に多量に含まれる水素に長時間曝されるため、白点性欠陥が発生する可能性が極めて高まるにもかかわらず、浸炭あるいは浸炭窒化処理後に白点性欠陥防止の観点から脱水素を目的とした熱処理は行われていないのが現状である。
【0017】
また、上記従来の転がり軸受においては、CrおよびMo添加量の最適化範囲の幅が大きいため、合金炭化物の析出量が不十分となって必要な表面硬さが得られず、これが原因して十分な寿命の向上が図れない場合があった。更に、Moは安定供給が難しく、非常に高価な元素であるため、軸受コストの増大を抑えるため過剰な添加を避ける必要があった。
【0018】
本発明はかかる技術的背景を鑑みてなされたものであり、請求項1の発明の目的は、浸炭あるいは浸炭窒化による表面硬化法を適用して製造される熱処理品において、従来の設備をそのまま流用して製造でき、しかも、短時間の熱処理で放冷割れ及び白点性欠陥の両方を確実に防止することができると共に組織を改善して靭性を高めることができ、これにより、機械部品の寿命延長を図ることができる熱処理品を提供することにある。
【0019】
第2の目的は、熱処理で放冷割れ及び白点性欠陥の両方を確実に防止することができるようにして、機械部品の寿命延長を図ることができる熱処理品を提供することにある。
【0020】
第3の目的は、セメンタイトより硬質かつ微細なMo複炭化物の析出量を最適化して、異物混入潤滑下での長寿命化を図ることができる転がり軸受を提供することにある。
【0021】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、請求項1に係る熱処理品は、浸炭または浸炭窒化処理後の冷却時に、炉冷、または非浸炭部のMs点以上で、浸炭部及び非浸炭部のA1 変態点以下の温度域に恒温保持する熱処理を施し、その後、焼入れ・焼戻し処理を施してなる金属組織を有する熱処理品であって、前記熱処理品が転がり軸受の軌道輪または転動体の少なくとも一つであり、その成分が重量%で、C:0.2〜0.5%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.5〜1.2%、Cr:0.5〜2.0%、Ni:0.6%以下、Mo:0.8〜1.5%を含有し、残部がFe及び不可避の不純物からなる合金鋼でなり、前記浸炭処理を行なった場合の完成品表面における全炭化物面積率に対するMo含有炭化物面積率の比、若しくは前記浸炭窒化処理を行なった場合の完成品表面における炭化物、窒化物及び炭窒化物の全面積率に対するMo含有炭化物、Mo含有窒化物及びMo含有炭窒化物の面積率の比が0.2以上0.5以下であることを特徴とする。
【0023】
また、浸炭または浸炭窒化後、恒温保持した熱処理品のマルテンサイトの面積率が5%以下、水素濃度が2ppm以下が好ましく、更に好ましくは熱処理品のマルテンサイトの面積率が5%以下、水素濃度が1ppm以下がよい。
【0024】
第2の目的に係る熱処理品は、浸炭或いは浸炭窒化処理後に放冷を行う熱処理品において、放冷後のマルテンサイトの面積率が80%以上または10%以下の金属組織を有することを特徴とする。
【0025】
この場合、熱処理品は、その成分が重量%でC:0.15〜0.5%、Si:0.15〜1.0%、Mn:0.35〜1.5%、Cr:0.3〜2.0%、Mo:1.5%以下、Ni:3.5%以下、S:0.010%以下を含有する合金鋼であることが好ましい。
【0026】
また、第2の目的に係る発明は、浸炭または浸炭窒化処理を施す時間として、50時間以上かかる大型のものを対象とする場合、より効果的である。
第3の目的に係る転がり軸受は、軌道輪および転動体を備えた転がり軸受において、前記軌道輪および転動体の少なくとも一つは、その成分が重量%で、C:0.2〜0.5%、Mn:0.5〜1.2%、Cr:0.5〜2.0%、Ni:0.6%以下、Mo:0.8〜1.5%を含有する合金鋼でなり、浸炭或いは浸炭窒化処理後の冷却時に、炉冷、または非浸炭部のMs点以上で、浸炭部および非浸炭部のA1 変態点以下の温度域に恒温保持する熱処理を施し、その後、焼入れ・焼戻し処理を施し、浸炭処理を行った場合の完成品表面における全炭化物面積率に対するMo含有炭化物面積率の比、或いは浸炭窒化処理を行った場合の完成品表面における炭化物、窒化物及び炭窒化物の全面積率に対するMo含有炭化物、Mo含有窒化物及びMo含有炭窒化物の面積率の比が0.2以上、0.5以下であることを特徴とする。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図を参照して説明する。図1〜図7は本発明の第1の態様の実施の形態である熱処理品を説明するための図であり、図1は鋼中の水素の溶解度と温度との関係を示すグラフ図、図2は鋼中の水素の透過量と温度との関係を示すグラフ図、図3は鋼中の水素濃度とマルテンサイト面積率との関係を示すグラフ図、図4はバンド状マルテンサイトを説明するためのグラフ図、図5はCCT図、図6は水素が残存しやすい部位を説明するための説明図、図7は疲労強度試験機の概略図である。また、図8及び図9は本発明の第2の態様の実施の形態である熱処理品を説明するための図であり、図8は浸炭時間100Hrのときのマルテンサイト面積率と欠陥発生率との関係を示すグラフ図、図9は浸炭、浸炭窒化時間と欠陥発生率との関係を示すグラフ図である。更に、図10及び図11は本発明の第3の態様の実施の形態である転がり軸受を説明するための図であり、図10はマルテンサイト面積率と完成品表面のMo複炭化物比とを関係を示すグラフ図、図11は完成品表面のMo複炭化物比とL10寿命との関係を示すグラフ図である。
【0028】
まず、本発明の第1の態様の実施の形態である熱処理品について説明する。
放冷割れ及び白点性欠陥の発生状況と組織について調査した結果、以下のことが明らかになった。
1.放冷割れについて
浸炭あるいは浸炭窒化後の放冷時にマルテンサイトが多量に形成されると放冷割れが生じやすい。
2.白点性欠陥について
長時間浸炭品でかつ冷却速度が速いと白点性欠陥が発生し易いが、浸炭あるいは浸炭窒化後に徐冷した場合(特に300°C以下で徐冷)には白点性欠陥の発生は認められなかった。また、放冷後の組織がフェライト+パーライト組織にマルテンサイトが混在する場合に白点性欠陥が最も生じやすい。
3.組織について
浸炭あるいは浸炭窒化後、浸炭処理温度から直接冷却した場合、二次焼入れ処理後に粗大なマルテンサイト組織となってしまう。
【0029】
ここで、本発明者等が熱処理方法について種々検討した結果、浸炭あるいは浸炭窒化後に恒温焼鈍を施すことにより、これらの点を解決できることが明らかになった。以下、1.放冷割れ、2.白点性欠陥及び3.組織の順に詳述する。
1.放冷割れについて
浸炭あるいは浸炭窒化後の放冷時にマルテンサイトが多量に形成されると局部的に大きな引張り応力が生じて放冷割れが発生してしまう。したがって、放冷割れを防止するには、マルテンサイト変態を抑制すればよい。
【0030】
放冷割れを防止できるのは、浸炭あるいは浸炭窒化後のA1 変態点直下の恒温保持により、浸炭部はセメンタイト+パーライト組織、非浸炭部はフェライト+パーライト組織となり、放冷時にマルテンサイトの形成が起こらないためである。
【0031】
放冷割れの防止には100%恒温変態が完了し、上述したように浸炭部がセメンタイト+パーライト組織、非浸炭部がフェライト+パーライト組織となるようにマルテンサイトの形成を完全に阻止することが望ましいが、5%程度の微量のマルテンサイトが残存している場合には、周囲の柔らかいフェライト+パーライト組織がマルテンサイト変態の応力を緩和するので放冷割れは生じない。したがって、放冷割れが生じないためのマルテンサイト面積率の上限値を5%以下とする。
2.白点性欠陥について
長時間の浸炭品は水素が多量に侵入してしまい白点性欠陥の発生の危険性が高まる。水素は侵入型元素であり、拡散が非常に速く、熱処理後の冷却中にもある程度排出されるが、冷却速度が極度に速いと水素の排出が間にあわず、高濃度の水素が鋼中に残存してしまう。
【0032】
300°C以下で排出される水素は拡散性水素(これはA1 変態点直下〜600°C以上の恒温変態処理することで除去され、処理後は発生しない。)と呼ばれ、これが白点性欠陥を引き起こす原因と言われているので、300°C以下の冷却が速いと白点性欠陥の発生頻度が高くなるのである。
【0033】
白点性欠陥の発生は、鋼中への水素の侵入が主要因であるが、鋼中に高濃度の水素がチャージされても白点が必ずしも発生するのではなく、鋼中にある量以上の水素がチャージされ、かつ外的な応力の付加、例えばマルテンサイト変態のような内部応力が付加されなければ発生しない。
【0034】
白点性欠陥は組織に依存し、フェライト+パーライト組織中にマルテンサイトが混在する場合に最も割れの感受性が高まる。(増補版 鉄鋼と合金元素(上)日本学術振興会 製鋼第19委員会編、誠文堂新光社 第452頁参照)。特に合金元素の偏析により帯状に未変態のオーステナイト(残留オーステナイト)が存在すると、このオーステナイトが水素拡散の障壁となり、外部への水素の排出が阻害され、水素がトラップされやすくなるのに加え、周囲から変態中に排出された水素がオーステナイト中に濃縮されてしまう。冷却によりこのオーステナイトはマルテンサイト変態を生じるが、マルテンサイト中では水素が外にパージされにくいため水素の拡散が遅く、更に変態応力の作用も相まって、白点性欠陥に対する感受性が高くなってしまう。
【0035】
したがって、浸炭及び浸炭窒化処理した部品における白点性欠陥の防止には、浸炭あるいは浸炭窒化時に鋼中に侵入した水素を室温に冷却する前に外部に排出すればよい。
【0036】
白点性欠陥が生じる危険性が高まる鋼中水素濃度は4ppm以上(増補版 鉄鋼と合金元素(上) 日本学術振興会 製鋼第19委員会編、誠文堂新光社 第448頁参照)であることから、水素量は4ppm以下にする必要があり、安全性を見越して2ppm以下(更に好ましくは1ppm以下)とする。
【0037】
更に、白点性欠陥の防止には、マルテンサイトをなくして変態応力を除去する必要がある。また、見方を変えると、マルテンサイトをなくすことは水素のトラップサイトをなくすこと、つまり鋼中の水素量が減少することを意味する。
【0038】
次に、図を参照してさらに詳述する。
図1に鋼中の水素の溶解度と温度との関係を示す。図1から明らかなように、オーステナイト温度域で水素の溶解度は5ppm以上と高いが、フェライト(非浸炭部)温度域では3.5ppm以下と大幅に溶解度が減少している。すなわち、浸炭あるいは浸炭窒化後にオーステナイト温度域に恒温保持するよりフェライト温度域に保持する方が鋼中にチャージされた水素を短時間で排出できることを意味する。
【0039】
図2に温度と鋼中の水素の透過量(透過速度に相当)の関係を示す。図2から明らかなように、A1 変態点以下の温度での透過速度は浸炭温度であるA1 変態点以上の温度よりも大きい。これは、水素の拡散の速さが鋼の組織に依存しており、オーステナイト組織中よりもフェライト+パーライト組織中の方が拡散が速く、A1 変態点以下で保持することにより鋼中にチャージされた水素を効率よく排出できることを意味する。
【0040】
白点性欠陥に及ぼすマルテンサイトの影響について、水素量とマルテンサイト量の観点から明らかにするために以下の実験を行った。
表1の成分の鋼A〜Dについてそれぞれφ30×10mmの試験片を100個作製し、950°Cで5時間浸炭処理を施した後、種々の時間で恒温保持し、次いで、室温まで放冷した。
【0041】
【表1】
Figure 0004123545
【0042】
ここで、表1中の恒温保持時間は後述する(1)式により算出した。放冷後の100個の試験片の内50個は直ちにドライアイスを入れたジュワー瓶に入れて保存した。これらの試験片は表面研磨後、脱脂、冷風乾燥してから水素測定を行い、該測定はジュワー瓶から試験片を取り出してから1時間以内で開始した。残りの50個の試験片については中心軸線を含む断面を切り出し、光学顕微鏡を用いて組織観察によりマルテンサイト面積率を調査した(全断面積に対するマルテンサイトの占める面積の比を求めた。)。
【0043】
水素の測定は真空加熱法により行った。測定条件を以下に示す。
加熱炉:赤外線イメージ炉
加熱温度:室温〜700°C
昇温速度:10°C/min
水素測定の結果を表2に示し、また、割れの発生状態についてマルテンサイト面積率と鋼中の水素濃度との関係で整理したものを図3に示す。
【0044】
【表2】
Figure 0004123545
【0045】
図3中のD4,D8,D6,C4,B4の矢印は、マルテンサイト面積率が25%以上であることを示している。図3より恒温状態が進行して水素のトラップサイトであるマルテンサイトの面積率が減少するのに伴い、水素量も減少しているが、マルテンサイト面積率が5%以下で且つ鋼中水素濃度が2ppmとなる条件では、放冷割れ、白点性欠陥のいずれも生じない。
【0046】
一方、マルテンサイト面積率が5%以上20%以下では、鋼中の水素濃度は4ppm以下であり、白点性欠陥発生の危険性は低いが、マルテンサイト面積率が5%以上となっているので、A4,B6,C10のように放冷割れが発生してしまうのに加え、C8の条件のように水素濃度が4ppmに近いと白点性欠陥が発生する場合もある。
【0047】
また、マルテンサイト面積率が20%以上となると、水素量は相対的に高まり、4ppmを越える条件では白点性欠陥が生じ、また、C4,C6,B4の条件のように4ppm以下でもマルテンサイト面積率が高いので、放冷割れが生じる。
【0048】
以上の結果より、白点性欠陥及び放冷割れを同時に防止するための条件として、マルテンサイト面積率が5%以下、鋼中水素量は2ppm以下(更に好ましくは1ppm以下)とするのが望ましい。
【0049】
なお、浸炭後、恒温保持せずに放冷した際に、バンド状のマルテンサイト(後述する。)が形成される鋼においては、このマルテンサイトが水素の拡散を阻害し、水素がトラップされやすく水素濃度が高くなるのに加え、マルテンサイト変態による内部応力によって、放冷割れ、白点性欠陥のいずれも生じる危険が最も高い。このような鋼では、浸炭又は浸炭窒化後に恒温保持する熱処理を施すと、水素のトラップされる部位であるマルテンサイトが減って水素濃度を低下させることができ、応力の発生も防止できるので、放冷割れ、白点性欠陥をいずれも防止するのに特に適している。
3.組織について
浸炭あるいは浸炭窒化後に直接冷却した場合、炭素はマルテンサイト及び残留オーステナイト中に固溶しており、炭化物はほとんど存在しない。これに二次焼入れ処理を施すと、炭素の吐き出しが生じ球状化炭化物が生じるが、炭化物の核が存在しないため析出が遅く、オーステナイト粒の粗大化を抑制できないため、焼入れにより粗大なマルテンサイトが生じてしまう。
【0050】
これに対し、本発明では、浸炭あるいは浸炭窒化後の恒温焼鈍処理により、表面組織は微細なパーライト組織あるいはセメンタイト+微細パーライト組織で炭化物が均一且つ多量に存在した状態にある。このように既にセメンタイトの核が多量に存在していると、焼入れ温度への昇温時に層状炭化物の分断により球状化が極めて迅速に進行し、多量の球状炭化物が均一微細に分散する。この均一微細な炭化物が二次焼入れ処理温度に保持した際にピン止め効果を発揮してオーステナイト粒の粗大化を抑制するため、その後の焼入れ時に極めて微細なマルテンサイト組織が得られる。
【0051】
以上のように、浸炭あるいは浸炭窒化処理後に恒温保持を施すことにより、放冷割れ及び白点性欠陥を同時に防止し、且つ、微細なマルテンサイト組織が得られて靭性、疲労強度を大幅に向上させることができる。
【0052】
次に、浸炭あるいは浸炭窒化後に放冷する際のマルテンサイト及び鋼中の水素の残存について説明する。
放冷時にマルテンサイトが最も形成されやすい部位、すなわち最も焼きが入りやすい部位は、浸炭硬化層部(表面)と非浸炭部(芯部)の境界付近で炭素濃度が0.7〜0.8%の領域であり、この領域は炭素量でみると共析組成に近くなっている。浸炭処理を行うと、表面の硬化層は炭素濃度が約1%の過共析(セメンタイト+パーライト組織)となり、ある深さから次第に炭素濃度が低下し、芯部は炭素濃度が0.2〜0.5%の亜共析(フェライト+パーライト組織)となる。焼きの入りやすさは、一般的に共析>過共析>亜共析となっており、浸炭硬化層部と非浸炭部の境界付近は炭素濃度が0.7〜0.8%であるため、組成的に焼きが入りやすく、図4に示すように、バンド状にマルテンサイト組織が形成される場合もある。
【0053】
また、Cr,Mn,Ni,Mo等の元素が多量に添加された鋼では、図5のCCT図(連続冷却変態曲線)が長時間側に移動し(すなわち合金元素の拡散が遅い)、放冷程度の冷却速度で芯部にまで焼きが入るケースがある。
【0054】
更に、水素は高温で非常に拡散速度が速く、大型品のような数十時間の浸炭処理で、ほぼ飽和量(約6ppm)の水素がオーステナイト組織中に溶け込んでおり、冷却によって生じたマルテンサイト組織中にはオーステナイトと同程度の高濃度の水素が残存してしまうのに対し、フェライト+パーライト組織では2ppmまでしか水素は溶け込むことができない。
【0055】
したがって、浸炭時にオーステナイト組織中(芯部)に溶け込んだ水素は、冷却に伴って外部に排出されるが、フェライト+パーライト組織となっている部位では水素の溶解度も小さく、拡散も速いので水素が残存しないのに対して、マルテンサイト組織となると浸炭時に侵入した水素がほぼそのまま残ってしまうことになり、しかも、マルテンサイト組織中では水素の拡散がフェライト+パーライト組織中での拡散に比べ大幅に小さいため、マルテンサイト中の水素は容易に減少しない。特に、バンド状にマルテンサイト組織がある場合はマルテンサイト組織とフェライト+パーライト組織との境界に水素がトラップされガス化して割れが発生すると考えられる。
【0056】
水素が残存しやすい部位は、図6を参照して、マルテンサイト組織の中、及びマルテンサイト組織とフェライト+パーライト組織との界面であり、浸炭放冷時にマルテンサイトを減らすことで水素量が減少する。その他、水素が残存しやすい部位として、MnS介在物と基地との界面があり、最近の研究報告によると、水素は転位にトラップされるという説がある。
【0057】
したがって、マルテンサイト組織やこの水素のトラップの部位は、浸炭又は浸炭窒化した表面硬化層に限定されるものではなく、断面全体における金属組織に関与すると捕らえなければならず、バンド状マルテンサイトの発生部位についても上述した水素濃度2ppm以下(更に好ましくは1ppm以下)、マルテンサイト面積率5%以下の部位として限定できない。
【0058】
すなわち、バンド状マルテンサイトが形成される場合だけ、放冷割れ、白点性欠陥が生じるのではなく、芯部にマルテンサイトがまだらに形成され、これがやはり放冷割れ、白点性欠陥を生じる原因となるので、バンド状マルテンサイトにのみ注目して水素濃度2ppm以下、マルテンサイト面積率5%以下の部位を限定するのは適切でないからである。
【0059】
バンド状マルテンサイトあるいは芯部のまだら状のマルテンサイトは浸炭(又は浸炭窒化)後、恒温保持をせず放冷した場合にのみ生じる。本発明のように浸炭(又は浸炭窒化)後、恒温保持をした場合はフェライト+パーライト変態が進行しているため、バンド状のマルテンサイトの形跡を特定することはできない。バンド状マルテンサイトが問題となるのは、浸炭後に恒温保持をせずに放冷した場合だけであり、浸炭後に恒温保持した場合には水素濃度2ppm以下、マルテンサイト面積率5%以下になる。
【0060】
次に、好適な熱処理条件範囲について述べる。
[浸炭あるいは浸炭窒化後の恒温保持温度]
まず、白点性欠陥の防止の点から恒温保持温度を検討した。図2に示した温度と水素の透過量(透過速度)との関係から、水素の透過速度はA1 変態点直下が最も大きな値をとっており、水素排出の効率からみると恒温保持温度はA1 変態点直下が最も適している。保持温度が600°C以下になると、浸炭温度である900〜950°Cよりも水素の拡散速度が遅くなって水素の排出が有効に行われないので、最低600°C以上で保持することが望ましい。
【0061】
一方、放冷割れ防止の点から恒温保持温度を検討すると、恒温変態が速く進行する温度が望ましい。A1 変態点直下は変態速度が遅いので、温度の上限はA1 変態点以下30〜50°Cより低い温度が望ましい。また、Moを添加した鋼は、パーライト変態曲線のみが長時間側に移行し、特に保持温度が600°C以下では入り江が形成されて恒温変態の進行が急激に遅くなるので、保持温度の下限値は600°C以上が望ましい。
【0062】
以上の点から放冷割れ及び白点性欠陥を防止する際の恒温保持温度としては600°C〜A1 変態点以下30〜50°Cの温度範囲が最も望ましい。
[恒温保持時間]
鋼の恒温変態が完了する時間は、通常、合金元素の添加により遅くなる。ここで、本発明者等は恒温変態特性に影響する添加元素として、パーライト変態を遅らせるMo,Ni,Mnの3元素に注目して調査をした結果、変態の遅延の程度はMo>Ni>Mnとなっており、これらの元素の含有量の総和でA1 変態点以下で恒温保持した際の変態完了時間を決定できることを実験的に見出した。
【0063】
各種鋼で浸炭又は浸炭窒化後に上述したA1 変態点以下の温度で恒温保持してから放冷した場合、マルテンサイトの面積率が5%以下になる恒温保持時間t(Hr)とMo,Ni,Mnの総和の関係は次式のようになる。
【0064】
t≧18.8×(Mo+0.6×Ni+0.3×Mn)−18.5…(1)
つまり、(1)式よりMo,Ni,Mn含有量から放冷割れを防止するのに最低限必要な恒温保持時間を決定することができる。また、(1)式で決定された恒温保持時間t(Hr)を満たす熱処理を施せば、二次焼入れの場合に結晶粒が微細化しない材料を用いた機械部品であっても微細化ができ、機械的性質の向上、例えば転がり軸受に用いた場合には転がり軸受寿命を長寿命とすることができる。
【0065】
一方、白点性欠陥の防止に対しては、図3を参照して、マルテンサイト面積率が20%以下、すなわち恒温変態が80%進行した状態で、鋼中の水素濃度は白点性欠陥が生じない水準に低下しているので、(1)式から決定される恒温保持時間で問題ない。
【0066】
この浸炭あるいは浸炭窒化後の恒温保持を上述した600°C〜A1 変態点以下30〜50°Cの温度で、(1)式で決定された恒温保持時間t(Hr)、無酸化雰囲気下で行うことにより、従来の酸化雰囲気下で中間焼鈍をする方法に比べ、機械部品等の脱炭防止ができる(黒皮部の形成)。
【0067】
なお、大型部品では焼入れ性の向上のため、Mo,Ni,Mn等を多く含む鋼にしなければならない。したがって、恒温保持時間も長くなる。また、表面硬化層深さを深くしなければならないので、浸炭(又は浸炭窒化)時間が長くなり、水素が鋼中に入りやすくなる。
[冷却方法、冷却速度]
浸炭あるいは浸炭窒化温度から恒温保持温度への冷却時に冷却速度が遅すぎると、基地であるオーステナイトから炭素が吐き出され、セメンタイトがオーステナイト粒界に沿って網目状に析出し、網目状炭化物近傍のオーステナイト中の炭素濃度が減少する。この状態でA1 変態点以下に温度が低下すると、共析変態によりオーステナイトからパーライトが生じるが、炭化物の核が存在しているために層状に炭化物は析出せずに、網目状炭化物の粗大化が優先的に進行してまい、網目状炭化物近傍は炭素濃度が減少しているため、フェライトとなる。この状態から二次焼入れ処理でオーステナイト温度域に再加熱を行っても、網目状炭化物の一部は基地中に再溶解するものの、網目状炭化物近傍のオーステナイト中の炭素濃度は低いため十分な球状化セメンタイトの析出は起こらず、球状化セメンタイトの欠乏領域が形成され硬さが低下する。これを防止するには、粒界初析セメンタイト析出を抑制するように最低2〜3°C/min以上の速度で、所定の恒温保持温度まで冷却を行うとよい。
【0068】
生産性を考慮した場合、20°C/min程度の冷却速度で速やかに冷却することが好ましい。したがって、冷却速度は2〜20°C/min、好ましくは10〜20°C/minで冷却するのがよい。
【0069】
また、恒温保持の段階に入る前に所定の恒温保持温度より低下して、芯部(非浸炭部)のMs点以下にまで低下した場合は、マルテンサイトが形成され、且つ、多量の水素が残存した状態であるため、放冷割れと白点性欠陥のいずれもが生じる危険が高まる。したがって、浸炭あるいは浸炭窒化後の恒温保持を施す前に、芯部のMs点以下に温度が低下するのは避けなければならない。なお、恒温保持後、室温への冷却時の冷却速度は既に恒温保持によりパーライト変態が完了しているので任意の冷却速度で冷却できる。
【0070】
次に、鋼の化学成分の好適な限定範囲について述べる。なお、%は重量%とする。
C:0.2%未満になると、浸炭又は浸炭窒化処理時間が長くなり、熱処理生産性が悪化する一方、0.5%を超えると、靭性が大きく低下するので、Cの含有量は0.2%〜0.5%が好ましい。
【0071】
Si:Siは製鋼時に脱散剤として作用して焼入れ性を向上させると共に、基地マルテンサイトを強化するので、好ましくは0.1%としたい。また、耐焼戻し軟化抵抗性を高めて高温特性を向上させる元素であるが、過剰な添加は、被削性、鍛造性を劣化させる上、浸炭あるいは浸炭窒化時にその浸炭深さが急激に減少することとなるので、Siの含有量は0.1%〜1.0%が好ましい。
【0072】
Cr:Crは焼入れ性を向上させ、基地を固溶強化する他、浸炭あるいは浸炭窒化により表面層に炭化物、窒化物及び炭窒化物を析出させ、機械的性質の向上、例えば転がり軸受では転動疲労寿命の向上に役に立つので、Cr含有量の下限値は0.3%としたい。0.3%以下ではその添加効果が少ない。また、多量に添加すると、表面にCr酸化物が形成され、浸炭あるいは浸炭窒化時に炭素や窒素が表面から侵入するのを阻害し、熱処理生産性を低下させるので、Crの含有量は0.3〜2.0%が好ましい。
【0073】
Mn:Mnは焼入れ性を向上させると共に残留オーステナイト(異物混入下での転がり寿命に有効)の生成元素であるため、望ましくは含有量を0.2%以上としたい。但し、Mnは素材のフェライトを強化する元素であり、含有量が多すぎると冷間加工性が著しく低下するので、Mnの含有量は0.2〜1.5%が好ましい。
【0074】
Ni:Niは鋼の焼入れ性を向上させ、靭性を高める。その効果は0.3%以上の添加で顕著になる。しかし、含有量が3.5%を超えてもその効果は向上せず、過剰な添加はコストが高くなるので、Niの含有量は0.3〜3.5%が好ましい。
【0075】
Mo:Moは鋼の焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗性を増大させ、浸炭窒化により表面層に炭化物、窒化物及び炭窒化物を析出して、材料の硬さを向上する。その効果は0.3%以上の含有量で顕著となる。しかしながら、含有量が1.5%を超えてもその効果は向上せず、過剰な添加はコストが高くなるので、Moの含有量は0.3〜1.5%が好ましい。
【0076】
S:Sは鋼中のMnと結合してMnS介在物として存在するが、MnSと基地の界面が水素のトラップサイトとなるので清浄度を高めて0.02%以下にするのが好ましい。
(実施例)
この実施例は本発明の第1の態様の実施の形態に対応するものである。
【0077】
表3に示す組成の鋼種1〜9を材料とするNU240相当リング材各200個について次のA〜Fの条件の熱処理を行った。表4に熱処理条件を示す。
【0078】
【表3】
Figure 0004123545
【0079】
【表4】
Figure 0004123545
【0080】
[熱処理A]
温度930〜950°Cで60時間Rxガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、A1 変態点以下の650°Cで窒素ガス冷却を行い、引き続き30時間恒温保持後、室温まで空冷し、次いで、840〜860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化熱処理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行う。
[熱処理B−1]
温度930〜950°Cで60時間Rxガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、室温まで放冷し、次いで、840〜860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化熱処理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行う。
[熱処理B−2]
温度930〜950°Cで60時間Rxガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、室温まで強制空冷し、次いで、840〜860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化熱処理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行う。
[熱処理C]
温度930〜950°Cで60時間Rxガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、A1 変態点以下の650°Cで窒素ガス冷却を行い、引き続き10時間恒温保持後、室温まで空冷し、次いで、840〜860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化熱処理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行う。
[熱処理D]
温度930〜950°Cで60時間Rxガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、A1 変態点以下の500°Cで窒素ガス冷却を行い、引き続き30時間恒温保持後、室温まで空冷し、次いで、840〜860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化熱処理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行う。
[熱処理E]
温度930〜950°Cで60時間Rxガス+エンリッチガス+アンモニアガス7%の雰囲気で浸炭窒化を行った後、A1 変態点以下の650°Cで窒素ガス冷却を行い、引き続き30時間恒温保持後、室温まで空冷し、次いで、840〜860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化熱処理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行う。
[熱処理F]
温度930〜950°Cで60時間Rxガス+エンリッチガス+アンモニアガス7%の雰囲気で浸炭窒化を行った後、室温まで放冷し、次いで、840〜860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化熱処理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行う。
【0081】
A〜Fの熱処理を行ったリング材について、上述した表1の成分の鋼に対して行った方法と同様の方法にて鋼中の水素濃度を測定すると共に、組織観察よりマルテンサイト面積率を調査した。また、疲労試験により疲労強度を調査した。疲労強度試験機は、図7に示すように、リング材(試験片)を回転可能に挟持する荷重ロール及び駆動ロールと、リング材の外周部を支持するサポートロールとを備える。疲労試験は、駆動ロールの回転数をN=1000rpmで行い1×106 回を疲労限とした。その結果を表5に示す。なお、熱処理条件B〜Fでは表3の鋼種1,2,6についてのみ評価を行った。
【0082】
【表5】
Figure 0004123545
【0083】
[熱処理A]
この熱処理条件では、鋼種1〜6(実施例)においてはいずれも上述した(1)式から求めた恒温保持時間t(Hr)が5〜28時間の範囲で実際の恒温保持時間の30時間を下回っているので、いずれの鋼種1〜6も鋼中の水素濃度が1ppm以下と少なく、また、マルテンサイト面積率が5%以下となっており、白点性欠陥及び放冷割れの発生の可能性は非常に低い。しかも、二次焼入れ時のマルテンサイト組織微細化の効果により高い疲労強度を示している。
【0084】
一方、鋼種8,9(比較例)は、(1)式から算出される恒温保持時間t(Hr)が40時間以上となって実際の恒温保持時間の30時間より大きい値となるため、30時間の保持時間では恒温変態が完了しておらず、したがって、マルテンサイトが多量に形成され、しかも、水素濃度が3ppmの高い値をとっているため、放冷割れ及び白点性欠陥のいずれもが発生する危険性が高い。また、疲労強度が低いが、これは恒温変態が完了していないため、二次焼入れ処理でのマルテンサイト組織の微細化が十分に進行しなかったためである。
【0085】
また、鋼種7(比較例)は合金元素Mn,Mo等の添加量が少ないため、恒温保持を施さなくてもパーライト変態が完了し水素濃度も低いが、疲労強度が大幅に低下している。これは合金元素の添加量が少なすぎて、二次焼入れ処理時に不完全焼入れ組織が形成され、硬さが低下したためである。
[熱処理B−1、B−2]
この熱処理条件では、恒温保持の工程がないため、水素の排出が十分に行われず、且つ、浸炭後の放冷により組織全体がマルテンサイトとなっており、白点性欠陥と放冷割れの両方が生じる危険性が極めて高くなっている。
【0086】
条件B−1とB−2を比較すると、条件B−2より条件B−1の方が冷却速度が大きいため、冷却中に排出される水素量が少なく、また、条件B−2は条件B−1より鋼中の水素濃度が4ppm以上の高い値をとるため白点性欠陥の発生の可能性は高い。また、恒温保持を施していないので、二次焼入れ時にマルテンサイト組織は微細化しないため疲労強度はいずれの鋼種も低い。
[熱処理C]
鋼種1,2では鋼中の水素濃度が1ppm程度と低く、マルテンサイト面積率も5%以下となっており、放冷割れと白点性欠陥が生じる危険性は低い。また、疲労強度も鋼種1、2は高い値を示す。しかし、鋼種6では鋼中の水素濃度が3ppm以上と高いのに加え、マルテンサイト面積率も高く、放冷割れと白点性欠陥の両方が生じる危険性が高い。これは実際の恒温保持時間の10時間が、(1)式から算出される鋼種6の最低限必要な恒温保持時間(28時間)に対して短すぎるためであるが、鋼種1〜5のように低合金鋼を用いる場合は、熱処理CもA1 変態点直下〜600°Cの恒温変態条件を満たす。大型部品では、肉が厚く、浸炭又は浸炭窒化硬化層深さが深いことが求められる。したがって、焼入れ性向上のために、鋼種6,8,9のような高合金鋼にする必要がある。このような場合には、No.6のような鋼種は30時間程度の恒温保持をすることで、放冷割れと白点性欠陥が生じる危険性を低くすることが可能になる。
[熱処理D]
いずれの鋼種1,2,6も鋼中の水素濃度が高く、マルテンサイト面積率も高い。これは実際の恒温保持時間は30時間と長いにもかかわらず、恒温保持温度が500°Cと低いので、水素の排出が不十分でしかも恒温変態の進行が遅く変態が完了していないためであり、放冷割れと白点性欠陥の両方が生じる危険性が高い。また、恒温変態が完全に終了していないので二次焼入れ時のマルテンサイト組織の微細化の効果は小さく疲労強度は低い。
[熱処理E]
上述した熱処理条件Aと同様の理由で、浸炭窒化処理の場合でもいずれの鋼種1,2,6にも割れの発生は認められず、高い疲労強度を示している。浸炭処理のみならず浸炭窒化処理においても本発明に係る熱処理方法は割れの防止、組織の改善に極めて有効である。
[熱処理F]
浸炭窒化処理を施した場合でも恒温保持を施していないため、上述し熱処理条件Bの場合と同様に、水素濃度は4ppm以上と高く、マルテンサイトが多量に形成されているため、白点性欠陥及び放冷割れ発生の危険性が高く、また、二次焼入れ処理時にマルテンサイト組織が微細化されないため疲労強度も低い。
【0087】
次に、本発明の第2の態様の実施の形態である熱処理品(第2の目的に対応)について説明する。なお、この実施の形態では、熱処理品として、鉄鋼、圧延機用ロールネック等に用いられる厚肉で大型の軸受を例に採る。
【0088】
この実施の形態の軸受は、浸炭或いは浸炭窒化処理後の放冷時に、偏析などに起因して形成される層状の部分的なマルテンサイト組織の生成量を放冷後のマルテンサイトの面積率が80%以上または10%以下となるように限定することによって、放冷割れや白点性の欠陥が発生するという問題を解決し、これにより、低コストで転がり軸受の長寿命化を図ることができるようにしたものである。
【0089】
以下、詳述する。
浸炭または浸炭窒化処理終了後に、浸炭炉から転がり軸受部品を大気中の炉外へ取り出して放冷処理を行う場合には、添加された合金量や冷却速度のばらつきによって、ミクロ組織は種々の形態となる。本発明者らが、放冷後に問題となった割れや白点性の欠陥について調査研究を行うと、ミクロ組織観察からは、主にミク口偏析に起因したバンド状のマルテンサイトが生成しており、このバンド状のマルテンサイト組織部を起点として割れが発生していることが判明した。
【0090】
放冷割れについては、冷却時に部品内外の冷却速度に差が生じ、これに伴って大きなマルテンサイト変態応力が生じることに起因する。つまり、部分的にマルテンサイトが生成する際に、体積膨張が起こり、その周囲の組織との境界面との間で引張り応力が発生し割れに至る。本発明者等は、この解決策として、組織内で中途半端な量のマルテンサイトが生成することを防止すれば(マルテンサイトの面積率を限定する)、割れに至らないことを知見した。
【0091】
白点性欠陥は、毛割れ状の内部欠陥が熱処理後の冷却時や室温放置時に生じるもので、破面の断面を観察すると白点が認められるものであり、原因は水素に起因するものである。浸炭または浸炭窒化雰囲気には一般的にRxガスが使用されており、このガス中には約30%の水素が含まれている。この水素が、部分的に生成したマルテンサイトにトラップされ白点性の欠陥に至る。本発明者等は、この解決策として、放冷割れ対策同様に、部分的なマルテンサイトの生成を限定すれば白点性欠陥を無くすことができることを知見した。
【0092】
以下に解決に至る、限定理由を述べる。
上述したように、本発明者等は、放冷後に発生した割れや白点性の欠陥と、放冷後のミクロ組織観察との関係についての調査・研究において、放冷後のマルテンサイト面積率を限定することにより、割れや白点性欠陥の発生がなくなることを知見した。つまり、放冷後のミクロ組織において、マルテンサイトの面積率を80%以上にすると、その他の組織との境界面積が減少し、放冷割れに至るまでの応力差を受ける部分が無くなることや、水素が集中する部分が無くなることから、割れや白点性欠陥は生じなくなる。
【0093】
また、逆にマルテンサイトの面積率を10%以下とすることでも、上記と同様の理由から割れは発生しなくなる。かかる知見に基づいて、放冷後のマルテンサイトの面積率を80%以上または10%以下に限定した。
【0094】
白点性欠陥については、その発生要因が浸炭または浸炭窒化時のRXガス中の水素であり、この水素ガス中に長時間曝されているものほど上記マルテンサイトの面積率の限定効果は大きい。例えば、浸炭または浸炭窒化時間が50時間を越える場合、マルテンサイトの面積率が80%以上または10%以下でないと、白点性の欠陥発生率が高くなってしまう。このことから、マルテンサイト面積率限定範囲は50時間以上の浸炭または浸炭窒化時間を有する場合には、より有効である。
【0095】
次に、鋼の化学成分の好適な範囲限定について述べる。%は重量%とする。
C:Cは0.15%未満では、浸炭または浸炭窒化処理の時間が長くなり、生産性が悪化する。一方、0.50%を超えると靭性が大きく低下するので、Cの含有量は0.15%〜0.50%とする。
【0096】
Si:Siは製鋼時に脱酸剤として添加するものであるが、0.15%未満では脱酸効果がなく、また、1.0%を超えると浸炭または浸炭窒化のむらを生じ、部分的に十分な硬さが得られないことがあるため、Siの含有量は0.15〜1.0%とする。
【0097】
Cr:Crは焼入れ性を向上させ基地を固溶強化する他、浸炭または浸炭窒化により表面層に炭化物、窒化物および炭窒化物を析出させ、機械的性質の向上に役立つので、Cr含有量の下限値は0.30%とする。0.30%以下では、その添加効果が少ない。また、多量に添加すると、表面にCr酸化物が形成され、浸炭または浸炭窒化時に炭素や窒素が表面から侵入するのを阻害し、生産性を低下させるので、Crの含有量は0.30%〜2.0%とする。
【0098】
Mn:Mnは焼入れ性を向上させると共に残留オ―ステナイト(異物混入下での転がり寿命に有効)の生成元素であるため、下限値を0.35%とする。但し、1.50%を超えると偏析による異常組織が発生し、製造中に割れを生じたり、また、素材のフェライトを強化する元素であるが、含有量が多すぎると冷間加工性が著しく低下するので、Mnの含有量は0.35%〜1.50%とする。
【0099】
Ni:Niは鋼の焼入れ性を向上させ、靭性を高める。しかし、含有量が3.5%を超えるとその効果は向上せず、偏析による異常組織が発生し製造中に割れを生じてしまう。また、過剰な添加はコストが高くなるので、Niの含有量は3.5%以下とする。
【0100】
Mo:Moは鋼の焼入れ性および焼戻し性を増大させ、浸炭窒化により表面層に炭化物、窒化物および炭窒化物を析出して、材料の硬さを向上させる。しかし、含有量が1.50%を超えてもその効果は向上せず、過剰な添加はコストが高くなるので、Moの含有量は1.50%以下が望ましい。
【0101】
S:Sは鋼中のMnと結合してMnS介在物として存在するが、MnSと基地の界面が水素のトラップサイトとなるので清浄度を高めて0.010%以下とする。
( 実施例)
この実施例は本発明の第2の態様の実施の形態に対応するものである。
【0102】
【表6】
Figure 0004123545
【0103】
表6に示す組成の鋼種G〜Kを材料として、NU240内輪相当リングを次のM1〜M4に示す熱処理条件において製作し、放冷割れ、白点性欠陥の評価を行った。
【0104】
【表7】
Figure 0004123545
【0105】
放冷割れ、白点性欠陥の評価は、表7に示すア〜ソの各処理につき210個のリングを製作し、熱処理完成後、内及び外径表面を0.2mm研削加工した後、蛍光磁粉探傷および超音波探傷法によりリングの割れおよび白点性欠陥の発生率を評価したものである。
【0106】
超音波探傷法は次の条件で行った。
探傷子 周波数:2.25MHz、5MHz、日本クラウトクレマー社製
超音波探傷機 USD−15 日本クラウトクレマ―社製
測定方法:表面波法、斜角法によって表面近傍および内部の割れ、欠陥を検出した。
【0107】
なお、検出された場合、位置の特定後、切断して欠陥調査を行い、割れまたは白点性の欠陥を確認した。
[熱処理M1]
温度930°Cで100時間Rxガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行い、その後、炉からリングを取り出し、室温まで大気放冷を行った。なお、オ,キについては放冷時にファンを回し、比較的速い冷却を行い所定のマルテンサイト面積率とした。
[熱処理M2]
温度930°Cで80時間Rxガス+エンリッチガス+アンモニアガス8%の雰囲気で浸炭窒化を行い、その後、炉からリングを取り出し、室温まで大気放冷を行った。
[熱処理M3]
温度930°Cで50時間Rxガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行い、その後、炉からリングを取り出し、室温まで大気放冷を行った。
[熱処理M4]
温度930°Cで30時間Rxガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行い、その後、炉からリングを取り出し、室温まで大気放冷を行った。
【0108】
上記M1〜M4の浸炭または浸炭窒化処理を行った後、リング10個については組織観察によりマルテンサイト面積率の調査を行った。
残ったリングは全て820〜860°Cで30分間保持した後、焼入れを行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行った。
【0109】
放冷割れ、白点性欠陥評価の結果を図8および図9に示す。
図8は浸炭時間100Hrのときの放冷割れ、白点性欠陥発生率とマルテンサイト面積率との関係を、図9は放冷割れ、白点性欠陥発生率と浸炭、浸炭窒化時間との関係を示す。
【0110】
図8より、100時間と長時間浸炭を行ったリングにおいて、マルテンサイト面積率が10%以下では割れは発生しないものの(カ)、10%を超えると割れの発生が認められ(ア,イ,ウ,エ,オ)、45%でピークとなり、80%を越えると割れは発生しなくなる(キ)。
【0111】
このため、マルテンサイトの面積率の限定を10%以下または80%以上とした。また、ファン冷却の有無等により放冷冷却速度を変えた場合では、同一鋼種(ウ,キ)においても冷却速度を変え、本発明範囲のマルテンサイト面積率にすることによって、割れの防止は可能である(キ)。本発明のマルテンサイト面積率限定によると浸炭或いは浸炭窒化時間に関係なく、確実な割れの防止が可能である。
【0112】
図9より、浸炭または浸炭窒化時間が50時間を超えると、本発明のマルテンサイト面積率範囲外(イ,ウ,エ,ク,ケ,コ)でリングに割れが多く発生しはじめ、浸炭時間が長くなるにつれて、割れ発生率も高くなっていく。50時間以下の浸炭または浸炭窒化時間では、割れ発生率は少なくなるもののマルテンサイト面積率45%および60%のリング(サ,シ,ソ)に一部少数の割れが認められる。これらのことから、本発明のマルテンサイト面積率限定は、浸炭または浸炭窒化処理時間が50時間を超える条件、即ち、大型の転がり軸受では、より効果的であり、本発明のマルテンサイト面積率の範囲内であれば、100時間の浸炭を行っても割れの発生は認められなかった。
【0113】
次に、本発明の第3の態様の実施の形態である転がり軸受(第3の目的に対応)を説明する。
この実施の形態の転がり軸受は、軌道輪および転動体の少なくとも一つが、その成分が重量%で、C:0.2〜0.5%、Mn:0.5〜1.2%、Cr:0.5〜2.0%、Ni:0.6%以下、Mo:0.8〜1.5%を含有する合金鋼でなり、浸炭或いは浸炭窒化処理後の冷却時に、炉冷、または非浸炭部のMs点以上で、浸炭部および非浸炭部のA1 変態点以下の温度域に恒温保持する熱処理を施し、その後、焼入れ・焼戻し処理を施して完成品表面における炭化物、窒化物及び炭窒化物の全面積率に対するMo含有炭化物、Mo含有窒化物及びMo含有炭窒化物の面積率の比が0.2以上、0.5以下とし、これにより、セメンタイトより硬質かつ微細なMo複炭化物の析出量を最適化して、異物混入潤滑下での転がり軸受の長寿命化を図るようにしたものである。
【0114】
まず、合金鋼の作用および特性値の臨界的意義について詳説する。
C:軸受として必要な硬さ(HRC60以上)を得るためには、該軸受表面に炭素が0.2%以上含有されていることが必要となる。軸受表面に浸炭あるいは浸炭窒化処理を施して表面硬化を行う際、炭素含有量が0.2%未満になると浸炭又は浸炭窒化処理時間が長くなり、コストがかかるとともに熱処理生産性が悪化する。また、コア(芯部)に硬さが不足し、コアが塑性変形して転がり軸受の寿命が低下する。一方、炭素含有量が0.5%を超えると靭性が大きく低下する。以上より炭素含有量を0.2%以上0.5%以下とする。
【0115】
Cr:Crは焼入れ性を向上させ、基地を固溶強化するほか、浸炭あるいは浸炭窒化により軸受表面層に高硬度で微細な炭化物、窒化物および炭窒化物を析出させ、これにより、軸受材料の硬さを向上させて転勤疲労寿命を高めるのに役に立つ。Cr含有量の下限値として0.5%としたのは、これ以下ではその添加効果が少ないためである。また、多量に添加すると表面にCr酸化物が形成され、浸炭あるいは浸炭窒化時に炭素や窒素が表面から侵入するのを阻害し、熱処理生産性を低下させる。また、Cr含有量が多すぎると、Cr236 型の炭化物が安定に形成されてしまい、後述するMo複炭化物の形成に寄与しなくなるので、望ましくはCr含有量の上限値を2.0%とする。
【0116】
Mn:Mnは焼入れ性を向上させるとともに異物混入下での転がり寿命に有効な残留オーステナイトの生成元素であり、Mnの含有量は最低0.5%以上とする。ただし、Mnは素材のフェライトを強化する元素であり、含有量が1.2%を超えると、冷間加工性が著しく低下するので、Mnの含有量は0.5〜1.2%が望ましい。
【0117】
Ni:Niは鋼の焼入れ性を向上させ、異物混入下での転がり寿命に有効な残留オーステナイトの生成元素であり、また、靭性を高める。しかし、含有量が0.6%を超えると浸炭性が阻害され、また、残留オーステナイトが過剰となって硬さが低下する。更に、過剰な添加はコストが高くなるので、Niの含有量は0.6%以下としたい。
【0118】
Mo:Moは鋼の焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗性を増大させ、更に非常に強力な炭化物形成元素であり、焼入れ、焼戻しにより種々の微細な炭化物を形成する。特に、Cr−Mo鋼ではセメンタイトの他にM236 系の炭化物が析出する。この炭化物の組成については完全に明らかにされていないが、Fe21Mo2 6 型の複炭化物型であることが示唆されている(日本学術振興会 製鋼第19委員会編 誠文堂新光社 増補版 鉄鋼と合金元素(上) 1971年12月6日、頁1043〜1086)。
【0119】
この複炭化物の硬さ(Hv1400〜1800)は、セメンタイトの硬さ(Hv1200〜1600)(日本金属学会編 講座 現代の金属学材料編4 鉄鋼材料 1985年6月20日 頁137)よりも大きく、更にこの炭化物の生成・成長にはMo原子の濃縮が必要となるため、浸炭温度、あるいは焼入れ温度に保持した際に粗大化が遅く、微細分散状態が保たれて軸受の寿命延長に寄与する。Mo複炭化物の析出量は0.8%以上の添加で顕著となるが、含有量が1.5%を超えると複炭化物が粗大化してその効果は飽和し、また、過剰な添加はコストが高くなるので、Moの含有量は0、8〜1.5%が望ましい。
【0120】
Si:Siは製鋼時に脱散剤として作用して焼入れ性を向上させると共に、基地マルテンサイトを強化するので、好ましくは0.1%としたい。また、耐焼戻し軟化抵抗性を高めて高温特性を向上させる元素であるが、過剰な添加は、被削性、鍛造性を劣化させる上、浸炭あるいは浸炭窒化時にその浸炭深さが急激に減少することとなるので、Siの含有量は0.1%〜1.0%が望ましい。
【0121】
S:Sは鋼中のMnと結合してMnS介在物として存在するが、MnSと基地の界面が水素のトラップサイトとなるので清浄度を高めて0.02%以下にするのが好ましい。
[ 熱処理条件およびMo複炭化物比]
本発明者等は、転がり軸受の異物環境下寿命に及ぼすMo複炭化物の影響について、鋭意研究を行い、本発明範囲の材料において熱処理条件によって寿命に著しい差異が生じることを見出した。即ち、
(1)浸炭あるいは浸炭窒化処理後、放冷した場合にマルテンサイトが多量に形成されると、熱処理完了後の炭化物の析出が少なく、短寿命となる。
(2)浸炭あるいは浸炭窒化処理後、いったんパーライトを析出させると、熱処理完了後の炭化物の析出が多く、長寿命となる。
(1)の理由として、Moの焼入れ性を大幅に向上させる作用によるものと考えられる。Mo含有鋼では、焼入れ性が高いために、浸炭温度から放冷のような冷却速度でマルテンサイトが生じ、また、合金濃度が高い領域では残留オーステナイトが生成される。このような組織では、炭素がマルテンサイトおよび残留オーステナイト中にほとんど固溶した状態であり、炭化物は殆ど析出していない。したがって、この状態から焼入れ温度に再加熱した場合、セメンタイトは比較的速やかに形成されるが、上述したようにMoの拡散が遅いためにMo複炭化物の核生成に時間を要し、Mo複炭化物の析出は少ない。
【0122】
また、炭化物量が減少する結果、オーステナイト中に固溶する炭素量が増大し、Ms点が低下して残留オーステナイト量が必要以上に増加してしまい、いっそう硬さが低下して短寿命となってしまう。つまり、浸炭あるいは浸炭窒化後の冷却で形成されるマルテンサイトの量がMo複炭化物の析出状態に影響を及ぼしていると考えられる。
【0123】
一方、(2)の理由として、浸炭あるいは浸炭窒化温度からいったんフェライト+パーライト組織となっているため、焼入れ温度に加熱した際にパーライトが均一かつ微細に炭化物の球状化し、炭化物反応が速やかに行われ、Mo複炭化物の析出が促進される。
【0124】
また、微細分散した炭化物のピン止め効果により、再加熱時のオーステナイト結晶粒の粗大化が抑制されて、基地のマルテンサイト組織が微細化するため、強度が高まり寿命が増加する。
【0125】
浸炭あるいは浸炭窒化後の組織をフェライト+パーライト組織とする方法として、炉冷のような極めて遅い速度で冷却する方法がある。また、炉冷以外では、浸炭あるいは浸炭窒化後の冷却時に、引き続きA1 変態点温度以下に恒温保持を施してフェライト+パーライト組織とする熱処理法がある。
【0126】
後者の方法を適用する場合、恒温変態が100%完了しているのが望ましいが、恒温保持時間短いと、フェライト+パーライトの割合が少なくなり、室温への冷却によりマルテンサイトが形成されて、Mo複炭化物の析出が不十分となることが予想される。
【0127】
そこで、本発明者等は、かかる熱処理方法とMo複炭化物との関係、即ち、恒温変態が完了せずに形成されるマルテンサイトの量が熱処理及び研削加工完了後の完成品表面のMo複炭化物量に及ぼす影響、およびMo複炭化物析出量と転がり軸受の寿命との関係を明らかにするために、以下の実験を行った。
【0128】
表8に示した鋼種11〜16について、それぞれφ60×6mmの試験片を作製した。表8の鋼種はいずれもC,Mn,Cr,Ni,Moの含有量が本発明範囲内にある。なお、鋼種11〜16のSiおよびS含有量は、上述した第1の態様の実施の形態の好適範囲(Si≦1.0wt%、S≦0.02wt%)を満足させる値となっている。
【0129】
【表8】
Figure 0004123545
【0130】
これらの試験片を950°Cで5時間浸炭処理後、引き続きA1 変態点以下の650°Cでマルテンサイト面積率を変えるため、種々の時間、窒素雰囲気中で恒温保持後、室温まで冷却した。また、860°Cに再加熱後、焼入れ硬化処理を施した後、160°Cで2時間焼き戻し処理を施した。
【0131】
各試験片は寿命試験を行い、また、浸炭、恒温保持後の試験片については中心軸線を含む断面を切り出し、断面を光学顕微鏡によるミクロ組織観察によりマルテンサイト面積率を測定した。
【0132】
熱処理及び軸受の転動面を想定した研削仕上が完了した試験片については表面に鏡面仕上げを施した後、EPMA(島津製作所製EPMA−1600)によりC,Cr,Moの各元素について面分析を行い、炭化物面積率およびMo複炭化物の面積率を画像解析により求めた。また、面分析結果において、ある一定値以上のMo強度を示した炭化物をMo複炭化物として計測した。
【0133】
更に、各試験片については電解法により炭化物を抽出し、X線回折法により炭化物の同定を行った。
電解液としては0.2N塩酸と5%クエン酸溶液の混合溶液を使用し、陽極を試験片、陰極を銅として、電流密度10mA/cm2 で電解し、陽極残渣を回収した。
【0134】
軸受寿命試験は、「特殊鋼便覧」(第一版 電気製鋼研究所編 理工学社 1969年5月25日)第10−21頁記載のスラスト形軸受鋼試験機を用いて熱処理完了後の上記試験片を研削加工して黒皮を除去したものをスラスト寿命試験した。試験条件は以下の通りである。
【0135】
面圧:4900MPa
回転数:3000c.p.m.
潤滑油:#68タービン油(日本石油(株)製)
異物(ゴミ):Fe3 C系粉を潤滑油中に300ppm混入
硬さ:HRC52
粒径:74〜147μm
なお、試験に際して、各試験片についてその10%に顕微鏡又は肉眼で視認できるクラック、フレーキングが発生した時点を寿命(L10寿命)と判定し、この時点までの累積回転数をもって寿命の定量的表現とした。
【0136】
図10に浸炭、恒温保持後のマルテンサイト面積率と熱処理及び研削仕上完了後の完成品表面における全炭化物面積率に対するMo複炭化物面積率の比の関係を示す。
【0137】
図10において、浸炭、恒温保持後のマルテンサイト面積率が20%以上、即ちフェライト+パーライトの割合が少ないと、Mo複炭化物比は小さい。この場合、炭化物はX線回折の結果、セメンタイトのみを確認し、Mo複炭化物はほとんど析出しないことが分かる。ところが、熱処理完了後のMo複炭化物比は、恒温保持後のマルテンサイト面積率が20%以下で増加し始め、更に、恒温保持後のマルテンサイト面積率が5%以下にまで恒温変態が進行すると、Mo複炭化物比が著しく増大するのが分かる。
【0138】
なお、X線回折の結果、マルテンサイトの面積率が20%以下で増大するMo複炭化物は、M236 であることを確認した。
図11は図10において熱処理及び研削加工完了品表面におけるMo複炭化物比が増大する、浸炭、恒温保持後のマルテンサイト面積率が20%以下の試験片について、L10寿命とMo複炭化物比との関係を示す。
【0139】
図11において、Mo複炭化物比が0.2以上で寿命が大幅に向上し、Mo複炭化物比が0.5まで増加傾向が続く。しかしながら、Mo複炭化物比が0.5を超えると寿命の延長の効果が飽和するが、これは、Mo複炭化物が粗大化し始め、硬さの向上に寄与しなくなるためと考えられる。
【0140】
以上の結果より、熱処理方法としては、浸炭あるいは浸炭窒化処理後の冷却時に、炉冷あるいはA1 変態点以下の温度域に恒温保持する熱処理を施して、その後、焼入れ、焼き戻し処理を施し、熱処理完了品表面のMo複炭化物面積比を0.2〜0.5の範囲とする。
【0141】
また、恒温保持の条件であるが、恒温保持後のマルテンサイト面積率が5%以下、即ちフェライト+パーライトが95%以上となることが望ましい。
したがって、恒温保持の時間、温度及び恒温保持温度への冷却条件としては、上述した第1の態様の実施の形態の好適範囲を適用することができる。
【0142】
また、恒温保持を施して、マルテンサイト面積率を5%以下にすると、マルテンサイト変態に伴う変態応力による放冷割れや、また、浸炭あるいは浸炭窒化時の雰囲気ガス中に含まれる水素ガスに起因する白点割れの発生を防止する作用を有する。
[素材成分を変えた場合、及び熱処理方法を変えた場合の影響]
表9に示した組成の鋼21〜38を材料とするφ60×6mm円盤状試験片について、次のような熱処理T1〜T5を施した。ここで、表9の鋼種21〜29はいずれもC,Mn,Cr,Ni,Moの含有量が本発明範囲内にあり、30〜38はC,Mn,Cr,Ni,Moの含有量が部分的に本発明範囲外にある。なお、鋼種21〜29のSiおよびS含有量は、上述した第1の態様の実施の形態の好適範囲(Si≦1.0wt%、S≦0.02wt%)を満足させる値となっている。
【0143】
【表9】
Figure 0004123545
【0144】
[熱処理T1]
930〜950°Cで約6時間Rxガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、A1 変態点以下の650°Cで窒素ガス冷却を行い、引き続き15時間恒温保持後、室温まで空冷し、次いで、830〜860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化処理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行った。
[熱処理T2]
930〜950°Cで約6時間Rxガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、室温まで炉冷(脱炭防止のため窒素雰囲気中で30〜50°C/Hrの冷却速度に制御)し、次いで、830〜860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化処理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行った。
[熱処理T3]
930〜950°Cで約6時間Rxガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、室温まで放冷し、次いで、830〜860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化処理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行った。
[熱処理T4]
930〜950°Cで約6時間Rxガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、室温まで放冷し、次いで、窒素雰囲気中650〜680°Cで4時間の中間焼鈍処理を2回行った。次いで、830〜860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化処理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行った。
[熱処理T5]
930〜950°Cで約6時間Rxガス+エンリッチガス十7%アンモニアガスの雰囲気で浸炭窒化を行った後、A1 変態点以下の650°Cに窒素ガス冷却を行い、引き続き15時間恒温保持後、室温まで空冷し、次いで、830〜860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化処理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行った。
【0145】
これらの熱処理T1〜T5を施した試験片21〜38について、上記同様にしてMo複炭化物比を測定し、また、寿命試験を行った。
表10及び表11に熱処理(T1〜T5)、鋼種21〜38、研削加工完了品表面のMo複炭化物比及びL10寿命を示す。
【0146】
【表10】
Figure 0004123545
【0147】
【表11】
Figure 0004123545
【0148】
T1(熱処理)−21(鋼種)〜T1−29、T2−21〜T2−29及びT5−21〜T5−29は本発明の実施例であり、T1−30〜T1−38、T3−21〜T3−29及びT4−21〜T4−29は比較例である。実施例はいずれもMo複炭化物比が比較例に比べて高い値となっており、寿命延長の効果は著しい。
【0149】
実施例T5−21〜T5−29は浸炭処理の代わりに浸炭窒化処理を施した場合であるが、浸炭の場合と同様の効果が得られる。この場合、Mo複炭化物に加え、Mo複窒化物及びMo複炭窒化物も含まれており、表10のT5−21〜T5−29のMo複炭化物比の値はこれらを含む統計(完成品表面における炭化物、窒化物及び炭窒化物の全面積率に対するMo含有炭化物、Mo含有窒化物及びMo含有炭窒化物の面積率の比)で評価している。このように窒素を付加することにより、硬さをさらに高めることができるので、耐摩耗性や転がり寿命の向上を図ることができる。したがって、L10寿命についてもT1−21〜T1−29(浸炭)とT5−21〜T5−29(浸炭窒化)を比較すると、ほとんどの場合、多少ではあるが浸炭窒化の方がより長寿命となっていることが分かる。
【0150】
実施例T2−21〜T2−29は浸炭後、炉冷した場合であり、Mo複炭化物比は高く、L10寿命は長い。但し、炉冷による冷却は処理時間が増大するので、処理時間の観点からは、浸炭或いは浸炭窒化後、恒温保持する方が望ましい。
【0151】
比較例T1−30〜T1−38はいずれも元素含有量が本発明範囲外であり、L10寿命は短い。
T1−30は炭化物形成元素であるCr含有量が少なくて炭化物の析出量が少ないため、T1−31はCrが過剰でCr236 が安定となってMo複炭化物の析出量が少ないため、それぞれ短寿命になったと考えられる。T1−32はMo含有量が過少であるためセメンタイト中にMoが固溶してしまい、これによりMo複炭化物比が小さくなって短寿命となった。T1−33はMoを過剰に含有しているため、熱処理条件T1の恒温保持時間の15時間では恒温変態が完了せずフェライト+パーライト組織とならないことからMo複炭化物比が小さくなり、短寿命を示した。T1−34、T1−35はいずれもMo複炭化物比は高いが、T1−34はMn含有量が過少であり、残留オーステナイト量が少ないため短寿命となり、一方、T1−35はMn含有量が過剰で残留オーステナイト量が多くなりすぎ、硬さが低下したため短寿命となった。T1−36はNi含有量が過剰で残留オーステナイト量が多くなりすぎ、硬さが低下して短寿命になったと考えられる。T1−37はC含有量が過少で炭化物の析出量が少ないため短寿命になり、T1−38はC含有量が過剰であるため表面層が過浸炭となり、多量に析出したセメンタイト中にMoが固溶してMo複炭化物比が小さくなったため短寿命となった。
【0152】
比較例T3−21〜T3−29は、Mo複炭化物比が実施例に比べて小さく、寿命が短い。これは、浸炭後、恒温保持をせず、放冷した後に焼入れ硬化処理を行ったため、Mo複炭化物の析出量が少なく、十分な表面硬さが得られないためである。
【0153】
比較例T4−21〜T4−29は、浸炭後放冷した後、焼入れ処理前にA1 変態点以下の温度で中間焼鈍を行った場合であるが、比較例T3−21〜T3−29に比べて、中間焼鈍によって浸炭放冷時に形成されたマルテンサイトが焼戻しされて炭化物が析出するので、焼入れ、焼戻し処理後のMo複炭化物比は増加しているが、本発明範囲外であり、寿命延長の効果は小さい。Mo複炭化物比を本発明範囲にするには、浸炭後、A1 変態点以下の温度で恒温保持あるいは炉冷(徐冷)して、フェライト+パーライト組織とした後、焼入れ、焼戻しを行うことが必要である。
【0154】
【発明の効果】
上記の説明から明らかなように、請求項1の発明によれば、浸炭あるいは浸炭窒化による表面硬化法を適用して製造される熱処理品において、従来の設備をそのまま流用して製造できると共に、短時間の処理で従来問題となっていた放冷割れ及び白点性欠陥の両方を確実に防止することができ、しかも、組織を改善して靭性を高めることができるので、機械部品の寿命延長を図ることができるという効果が得られる。
【0155】
第2の目的に係る発明では、浸炭或いは浸炭窒化後に通常の放冷を行ってより短時間の熱処理で放冷割れ及び白点性欠陥の両方を確実に防止することができるので、低コストで機械部品の寿命延長を図ることができ、特に鉄鋼、圧延機用ロールネック軸受のような厚肉で大型の軸受に好適なものとすることができるという効果が得られる。
【0156】
第3の目的に係る発明では、Mo添加量を最適化してセメンタイトよりも硬質かつ微細なMoを含むM236 系の炭化物の析出を促進せしめて表面層を硬化することができるので、異物混入潤滑で長寿命な転がり軸受を提供することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼中の水素の溶解度と温度との関係を示すグラフ図である。
【図2】鋼中の水素の透過量と温度との関係を示すグラフ図である。
【図3】鋼中の水素濃度とマルテンサイト面積率との関係を示すグラフ図である。
【図4】バンド状マルテンサイトを説明するためのグラフ図である。
【図5】鋼のCCT図である。
【図6】水素の残存しやすい部位を説明するための説明図である。
【図7】疲労強度試験機の概略図である。
【図8】浸炭時間100Hrのときのマルテンサイト面積率と欠陥発生率との関係を示すグラフ図である。
【図9】浸炭、浸炭窒化時間と欠陥発生率との関係を示すグラフ図である。
【図10】マルテンサイト面積率と完成品表面層のMo複炭化物比とを関係を示すグラフ図である。
【図11】完成品表面層のMo複炭化物比とL10寿命との関係を示すグラフ図である。

Claims (1)

  1. 浸炭または浸炭窒化処理後の冷却時に、炉冷、または非浸炭部のMs点以上で、浸炭部及び非浸炭部のA1 変態点以下の温度域に恒温保持する熱処理を施し、その後、焼入れ・焼戻し処理を施してなる金属組織を有する熱処理品であって、前記熱処理品が転がり軸受の軌道輪または転動体の少なくとも一つであり、その成分が重量%で、C:0.2〜0.5%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.5〜1.2%、Cr:0.5〜2.0%、Ni:0.6%以下、Mo:0.8〜1.5%を含有し、残部がFe及び不可避の不純物からなる合金鋼でなり、前記浸炭処理を行なった場合の完成品表面における全炭化物面積率に対するMo含有炭化物面積率の比、若しくは前記浸炭窒化処理を行なった場合の完成品表面における炭化物、窒化物及び炭窒化物の全面積率に対するMo含有炭化物、Mo含有窒化物及びMo含有炭窒化物の面積率の比が0.2以上0.5以下であることを特徴とする熱処理品。
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