JP4102266B2 - 表面硬化部品の製造方法及び表面硬化部品 - Google Patents

表面硬化部品の製造方法及び表面硬化部品 Download PDF

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Description

本発明は、浸炭部品、浸炭窒化部品などのように少なくとも炭素が浸入することによって形成される硬化層が、表面に形成されている部品(例えば、歯車、シャフト、軸受など)の製造方法及び該表面硬化部品に関するものである。
自動車、建設(建築)機械、その他産業機械において高強度が要求される部品(例えば、歯車、シャフト、軸受など)には従来から、浸炭、窒化および浸炭窒化などの表面硬化熱処理が適用されている。より具体的には、通常、SCr、SCM、SNCMなどのJISで定められた肌焼鋼を使用し、鍛造・切削などの機械加工によって所定の部品形状に加工した後、前記表面硬化熱処理を施し、その後研磨などの工程を経て完成部品が製造される。
ところで近年、自動車、建設(建築)機械、産業機械などの高応力化が進み、また部品の小型軽量化に対する要求が高まっており、動力伝達用歯車、シャフト、または該シャフトを受ける軸受などの負荷応力はますます増大してきているため、上述したような従来の表面硬化熱処理では、このような厳しい使用環境に適応し難くなってきている。なお通常の浸炭処理では、部品表面の炭素量を0.8%程度に調整する場合が多い。これはマルテンサイト組織の硬さが炭素濃度0.8%程度で最も高くなるという性質を利用しているためであり、さらに硬さを高めるために部品表面の炭素濃度を0.8%よりも多くしても組織中に硬さの低いオーステナイトが残留し、硬さの向上効果が殆ど得られないためである。
このような状況に対応して、部品表面の炭素濃度を増大させて表面硬さを向上させる高濃度浸炭法が用いられるようになってきた。高濃度浸炭法では、マルテンサイトを生成させるだけでなく、マルテンサイト組織よりも硬い物質(セメンタイト)を析出させることによって硬さをさらに高めており、セメンタイトの析出を狙って次のような処理が行われている。すなわち浸炭時の炭素ポテンシャルを過共析濃度にし、しかも浸炭温度を該過共析濃度によって定まるAcm点を超える温度(オーステナイト一相領域)とする。このようにしてセメンタイトをオーステナイトに固溶するようにして浸炭した後、温度をオーステナイト−セメンタイト二相領域まで下げることによってセメンタイトを析出させ、次いで焼入れすることによって焼入れ組織中に硬さの高いセメンタイトを生成させ、通常の浸炭よりも高い表面硬さを得ている。
しかし通常浸炭と高濃度浸炭とを比較すると、一長一短があり、一概にどちらが優れているか決めつけることはできない。すなわち高濃度浸炭は、通常浸炭に比べて、転動疲労寿命が高められている点で有利であるが、耐衝撃特性についてはむしろ劣っているのである。
ところが高濃度浸炭法に関しては、耐衝撃特性を高める観点からの研究は少なく、多くは転動疲労寿命、耐ピッチング性などの面疲労強度をさらに高める点に着目しており、主として成分面からの改善に終始している(例えば、特許文献1〜4)。
すなわち特許文献1ではM3C型炭化物(セメンタイトなど)は粗大化し易いのに対してM73型炭化物は粗大化し難いことに着目し、Crを2.5%以上として炭化物のうちM73型の割合を増やすくして高濃度浸炭し、残るM37型炭化物については脱炭を行うことによって微細化し、耐ピッチング性を高めている。
特許文献2では、1.2〜3.2%程度のCrと、0.25〜2.0%のMoとを併用してM236型炭化物の安定性を高めた上で、高濃度浸炭し、炭化物析出後にオーステナイト一相領域まで加熱してから焼入れすることによってM3C型炭化物の析出を抑制することによって微細炭化物を析出させ、転動疲労寿命、耐ピッチング性などを改善している。
特許文献3〜4では、Al、Ti、Nbなどによって高濃度浸炭時のオーステナイト結晶粒の成長を抑制し、炭化物の析出サイトであるオーステナイト結晶粒界を増やしており、その結果、微細な炭化物が多数析出し、耐ピッチング性が高められている。
しかしこれら特許文献1〜4では耐衝撃特性に関する検討は行われていない。さらには高強度の浸炭部品では、水素による遅れ破壊を防止することも重要である。遅れ破壊は、浸炭部品の使用環境中(例えば潤滑油中)から水素が鋼材内部に浸入し、結晶粒界に偏析することによって起こると考えられている。
特開2000−129347号公報 特開2001−98343号公報 特開2002−212672号公報 特開2002−266053号公報
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、転動疲労寿命、耐衝撃特性、及び耐遅れ破壊特性のいずれをも満足することのできる表面硬化部品(浸炭部品、浸炭窒化部品など)を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、所定成分の鋼材を用いた高濃度浸炭法において炭化物析出工程を短時間の高周波加熱・焼入れで行ったところ、高濃度浸炭であるにも拘わらず著しく微細化したセメンタイトがオーステナイト結晶粒内に析出し、しかも該セメンタイトの粒界析出は抑制されるため、転動疲労寿命、耐衝撃特性、及び耐遅れ破壊特性の全てを改善できることを見出し、本発明を完成した。なお前記特許文献1〜4では炭化物サイズを小さくするために本発明とは異なる種々の工夫がなされているが、それでも炭化物サイズは十分には小さくなっておらず、また粒界析出を積極的に利用している点でも本発明と異なる。加えて特許文献2の炭化物はセメンタイトではなく、M236型である。
すなわち、上記目的を達成し得た本発明の表面硬化部品の製造方法とは、C:0.10〜0.4%(質量%の意、以下同じ)、Si:2%以下(0%を含まない)、Mn:2%以下(0%を含まない)、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.1%以下(0%を含まない)、Al:0.1%以下、N:0.03%以下(0%を含まない)、O:0.003%以下(0%を含まない)を含有する部品形状に加工された鋼材を、特定の表面硬化処理法で処理する点に要旨を有するものであり、該表面硬化処理法は、炭素ポテンシャル0.9〜1.3%の条件下、鋼表面の炭素濃度によって決定されるAcm点以上の温度で少なくとも炭素を浸入させ、ガス冷却以上の速さで冷却する炭素浸入・拡散工程、この炭素浸入・拡散工程後、鋼表面がオーステナイト−セメンタイト2相領域となる温度まで高周波加熱し、該温度を1〜30秒間保持した後、直ちに油冷以上の速さで冷却するセメンタイト析出工程、及び焼戻し工程の順に前記鋼材を処理する方法である。このようにして得られる表面硬化部品は、表面に硬化層が形成されており、硬化層の炭素濃度の最大値は0.9〜1.3%であり、硬化層最表面から深さ50μmの位置の炭化物は実質的にセメンタイトであり、かつこのセメンタイトのうち最大のものの直径が1.0μm以下となっている。なお表面硬化部品の非硬化部分の成分は、前記鋼材成分と同様である。該非硬化部分は、Cu:1%以下、Ni:3%以下、Cr:2%以下、Mo:1%以下、Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下、B:0.005%以下などを含有していてもよく、Pb:0.1%以下、Bi:0.1%以下、Ca:0.02%以下、Mg:0.02%以下、及びTe:0.1%以下などを含有していてもよく、残部がFe及び不可避不純物であってもよい。
本発明によれば、所定成分の鋼材を用いて高濃度の炭素を浸入させた後、炭化物析出工程(セメンタイト析出工程)を短時間の高周波加熱・焼入れで行っているため、著しく微細化したセメンタイトをオーステナイト結晶粒内に析出させることができ、しかも該セメンタイトの粒界析出は抑制されるため、転動疲労寿命、耐衝撃特性、及び耐遅れ破壊特性の全てを満足することができる。
本発明では、部品形状に加工された特定の成分組成の鋼材を、析出工程を工夫した特定の表面硬化処理法によって処理し、焼き戻すことによって浸炭部品を製造している。表面硬化処理法についてさらに詳細に説明すると、該表面硬化処理は、少なくとも炭素を鋼材中に高濃度で浸入させる炭素浸入・拡散工程と、浸入・拡散した炭素をセメンタイトとして析出させる析出工程とで構成されており、該析出工程を極めて短時間で行っている。高濃度の炭素を浸入・拡散させた後、析出工程を極めて短時間で行うと、炭素の拡散時間が短くなるため、セメンタイトが粗大化したり、粒界に集まるのを抑制できるため、著しく微細なセメンタイトを主として粒内に析出させることができる。そのため高濃度浸炭の利点(転動疲労寿命の向上)を享受しながら、高濃度浸炭の欠点(耐衝撃特性の低下)を克服することができる。また従来の高濃度浸炭によって析出する粗大なセメンタイトでも、水素をトラップして耐遅れ破壊特性を改善するのは可能であるが、セメンタイトを微細化した本発明では、水素をより効率的にトラップすることができ、耐遅れ破壊特性をさらに改善することができる。すなわち本発明によれば、転動疲労寿命、耐衝撃特性、及び耐遅れ破壊特性の全てを良好にできる。以下、各工程に分けてより具体的に説明する。
[炭素浸入・拡散工程]
炭素浸入・拡散工程では、炭素を共析濃度よりも十分に高い濃度で浸入させることが重要である。炭素を高濃度で浸入させると、浸炭部品の表面硬さを増大させることができ、転動疲労寿命を高めることができる。また本発明では後述の炭化物析出工程でセメンタイトを析出させることが重要であるため、炭素浸入・拡散工程は、セメンタイトが析出しない程度の温度範囲で行う必要がある。以上の観点から、炭素浸入・拡散工程では、炭素ポテンシャルを0.9%以上(好ましくは0.95%以上、さらに好ましくは1.0%以上、特に1.05%以上)、1.3%以下(好ましくは1.28%以下、さらに好ましくは1.25%以下、特に1.20%以下)とし、炭素を浸入させるときの温度はAcm点以上(例えば、900℃以上、好ましくは920℃以上、さらに好ましくは925℃以上)とする。なお前記Acm点は、鋼材表面の炭素濃度によって決定される。
炭素を浸入させるときの温度の上限は、常識範囲である限り特に限定されないが、例えば980℃以下、好ましくは960℃以下、さらに好ましくは950℃以下程度である。また炭素を浸入させるときの時間も常識範囲である限り特に限定されないが、例えば、30分以上(好ましくは1時間以上)、5時間以下(好ましくは3時間以下)程度である。炭素を浸入させる時間が長くなる程、炭素を内部まで浸入(拡散)させることができる。また炭素を浸入させる時間が短いほど、浸炭部品の製造効率を高めることができる。
なお炭素を浸入・拡散した鋼材は、炭化物析出工程に供する前に、一旦、急冷する必要がある。浸炭温度から急冷することなく直接に炭化物析出温度まで冷却しようとすると、セメンタイトサイズのコントロールが困難となり、またセメンタイトが粗大化するためである。ただし冷却速度は、特に厳密に管理する必要はなく、ガス冷却以上の速さ程度(例えば、ガス冷、油冷、水冷など)であればよい。冷却は、少なくとも後述のセメンタイト析出温度未満にする必要があるが、ガス冷却以上の速さで冷却すれば、ほぼ確実にセメンタイト析出温度未満となり、通常、200℃以下程度になる。
なお炭素浸入・拡散工程では、高濃度の炭素を浸入・拡散させる限り、他の元素(例えば窒素)も浸入させてもよい。すなわち本発明の方法は、浸炭のみならず、浸炭窒化にも適用できる。
[炭化物析出工程(セメンタイト析出工程)]
炭化物析出工程では、鋼材表面がオーステナイト−セメンタイト2相域領域となる温度(炭化物析出温度)まで可及的速やかに加熱し、短時間でセメンタイトを析出させた後、可及的速やかに冷却する。短時間でセメンタイトを析出させることによって微細なセメンタイトをオーステナイト結晶粒内に析出させることができ、しかも該セメンタイトの粒界析出は抑制することができる。そのため高濃度で炭素を浸入・拡散させているにも拘わらず、耐衝撃特性を著しく改善することができる。さらには粒内の微細なセメンタイトによって水素の拡散を効率よく粒内にトラップすることができ、耐遅れ破壊特性も向上させることができる。
加熱手段は、鋼材を可及的速やかに加熱できる限り特に限定されないが、高周波加熱が現実的である。なお今後、他の手段が現実的手段として実用化されれば、該手段も本発明の範囲に含まれる。
オーステナイト−セメンタイト2相域温度は、鋼材の種類及び鋼材表面の炭素濃度に応じて異なるが、例えば830〜930℃程度であることが多い。なお該2相域温度内である限り、炭化物析出温度は特に限定されず、例えば840℃以上(好ましくは850℃以上)、910℃以下(好ましくは900℃以下)程度であってもよい。炭化物析出温度を高めに設定する程、セメンタイトの析出量を十分に確保するのが容易となる。一方、炭化物析出温度を低めに設定する程、セメンタイトの粗大化を回避するのが容易となる。
加熱保持時間は、加熱温度に応じて適宜設定されるが、例えば1秒以上(好ましくは2秒以上、さらに好ましくは3秒以上)、30秒以下(好ましくは20秒以下、さらに好ましくは15秒以下)程度である。保持時間が短すぎると、セメンタイトの析出量が不足し、耐衝撃特性及び耐遅れ破壊特性を十分に高めるのが困難となる。一方、保持時間が長すぎると炭化物が粗大化してしまい、やはり耐衝撃特性及び耐遅れ破壊特性を十分に高めるのが困難となる。
冷却手段は、鋼材を可及的速やかにオーステナイト−セメンタイト2相域温度未満に冷却できる限り特に限定されないが、通常、油冷以上の速さで冷却できる手段(油冷、水冷など)が採用できる。当該手段によって冷却すると、セメンタイトの粗大化を抑制できるだけでなく、鋼材の焼入れをも行うことができる。
[焼戻し工程]
焼戻しは、慣用の条件が採用でき、例えば温度150〜250℃程度、時間1〜3hr程度、空冷の条件を採用できる。
各工程の条件は上述した範囲から適宜設定できるが、耐衝撃特性及び耐遅れ破壊特性を高めた上で、特に転動疲労寿命を著しく高める場合には、セメンタイトがより多く析出する(ただし粗大化しない)ような条件に設定することが推奨される。例えば炭素浸入・拡散工程の炭素ポテンシャルを1.15%以上とすること、炭化物析出工程の保持時間を7秒以上にすることなどが推奨される。
上述のようにして特定の表面硬化処理法を採用すれば、転動疲労寿命、耐衝撃特性、及び耐遅れ破壊特性の全てを改善することが可能となるが、転動疲労寿命、耐衝撃特性、及び耐遅れ破壊特性の全てを高い値にするためには鋼材の選択も重要となる。
鋼材としては、C:0.10〜0.4%(質量%の意、以下同じ)、Si:2%以下(0%を含まない)、Mn:2%以下(0%を含まない)、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.1%以下(0%を含まない)、Al:0.1%以下、N:0.03%以下(0%を含まない)、O:0.003%以下(0%を含まない)を含有するものが好適に使用できる。以下、成分の限定理由について詳細に説明する。
C:0.10〜0.4%(質量%の意、以下同じ)
Cは表面硬化部品の芯部硬さを高め、部品の静的強度を確保する上で重要な元素である。従ってCは0.10%以上、好ましくは0.13%以上、さらに好ましくは0.15%以上(特に0.17%以上)とする。一方、Cが過剰となると表面硬化部品の耐衝撃特性が低下する。また鋼材の加工性(被削性、鍛造性)も低下する。従ってCは0.4%以下、好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.25%以下(特に0.23%以下)とする。
Si:2%以下(0%を含まない)
Siは焼戻し処理時の硬さ低下を抑制し、部品の表面硬化層(浸炭層、浸炭窒化層など)の硬さを確保するのに有効な元素である。従ってSiは0%超、好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.05%以上とする。一方、Siが過剰となると、鋼材が硬くなり過ぎて加工性(被削性、鍛造性)が低下する。従ってSiは2%以下、好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.6%以下、特に0.3%以下とする。なお通常は製鋼時の脱酸剤としてSiが利用されており、鋼材中にSiは0.05〜0.3%程度残存していることが多い。
Mn:2%以下(0%を含まない)
Mnは脱酸剤として作用して酸化物系介在物量を低減し鋼材の内部品質を高める点で有用であり、しかも炭素を浸入させた後に焼入れする時の焼入性を著しく向上させる効果を有する。従ってMnは0%超、好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上とする。一方、Mnが過剰となると中心偏析が顕著となり逆に内部品質が劣化するとともに縞状組織も顕著となるため、材質のバラツキが大きくなる結果、耐衝撃特性が劣化する。従ってMnは2%以下、好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下とする。
P:0.03%以下(0%を含まない)
Pは鋼材中に不可避的に含まれる元素であり、結晶粒界に析出して部品の耐衝撃特性を低下させる元素であるため、なるべく低減する方が好ましい。またPは耐遅れ破壊特性をも低下させることがある。従ってPは、0.03%以下、好ましくは0.02%以下、さらに好ましくは0.015%以下、特に0.010%以下とする。
S:0.1%以下(0%を含まない)
Sも鋼材中に不可避的に含まれる元素であり、Mnと結合してMnS介在物を生成し、部品の耐衝撃特性を低下させるため、なるべく低減する方が好ましい。またSは転動疲労寿命、耐遅れ破壊特性なども低下させることがある。従ってSは、0.1%以下、好ましくは0.03%以下、さらに好ましくは0.02%以下、特に0.01%以下とする。
Al:0.1%以下
Alは実質的に無添加であってもよいが、脱酸剤として有効なだけでなく、鋼中のNと結合してAlNを生成し、このAlNが熱処理時の結晶粒成長を抑制するため、転動疲労寿命をさらに高めるのにも有効である。かかる役割をAlに期待する場合、Alは0%超、好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.010%以上とする。一方、Alが過剰となると、粗大で硬い非金属介在物(Al23)が生成し、耐衝撃特性、転動疲労寿命などを低下させる。従ってAlは0.1%以下、好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.03%以下とする。
N:0.03%以下(0%を含まない)
Nは鋼材に不可避的に含まれる元素である。また、前記Alや後述するTi、Nbなどと結びついて窒化物または炭窒化物を形成し、浸炭の加熱時にオーステナイト粒成長を抑制する。好ましいN量は、0.003%以上、特に0.005%以上である。一方、Nが過剰になると、部品の耐衝撃特性を低下させる。また転動疲労寿命、耐遅れ破壊特性なども低下させる場合があり、さらには鋼材の熱間加工特性が低下することもある。従ってNは、0.03%以下、好ましくは0.025%以下、さらに好ましくは0.020%以下、特に0.01%以下とする。
O:0.003%以下(0%を含まない)
Oは酸化物系介在物を形成し、耐衝撃特性、転動疲労寿命などを低下させる。また耐遅れ破壊特性を低下させる場合もある。従ってOは少ないほど望ましく、0.003%以下、好ましくは0.0025%以下、さらに好ましくは0.0020%以下とする。通常、OはSi、Alなどの脱酸元素で低減され、また脱ガス装置によっても低減されるが、0%とすることは困難であり、例えば0.0001%以上(特に0.0005%以上)残存する。
前記鋼材は、必要に応じて、さらに他の元素を含有していてもよく、例えば、Cu:1%以下、Ni:3%以下、Cr:2%以下、Mo:1%以下、Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下、B:0.005%以下などの第1の追加成分を含有していてもよい。以下、これら第1の追加成分についてさらに詳細に説明する。
Cu:1%以下
Cuは必須元素ではない(従って0%のこともある)が、Feより酸化されにくい元素であり、鋼材乃至部品の耐食性を向上させるのに有効であるため、添加してもよい。Cuを添加する場合、Cuは、例えば0.01%以上、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上とすることが推奨される。一方Cuが過剰となると鋼材の熱間圧延性が低下して割れが発生し易くなる。従ってCuは、1%以下、好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.6%以下とすることが推奨される。
Ni:3%以下
Niは必須元素ではない(従って0%のこともある)が、前記Cuと同様、鋼材の耐食性を向上させるのに有効であるため、添加してもよい。またNiは表面硬化部品の耐衝撃特性をさらに向上させるのにも有効である。Niを添加する場合、Niは、例えば0.01%以上、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.3%以上とすることが推奨される。一方Niが過剰となると、鋼材及び表面硬化部品の製造コストを上昇させるだけである。従ってNiは3.0%以下、好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.5%以下とする。
Cr:2%以下
Crは必須元素ではなく、0%のこともある。しかし通常はCr無添加としても不純物として0%超〜0.10%未満程度含有していることが多く、またCrは、セメンタイトに固溶してセメンタイト硬さを向上させるため、耐摩耗性の向上に有効であって、特に歯車や軸受などの摺動部品にはよく用いられる元素であり、適量を積極的に添加するのが好ましい。Crを添加する場合、Crは、例えば0.10%以上、好ましくは0.4%以上、さらに好ましくは0.9%以上とすることが推奨される。一方Crが過剰となると、鋼材硬さが硬くなり過ぎて被削性、鍛造性などが低下する。従ってCrは、2%以下、好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.2%以下とする。
Mo:1%以下
Moは必須元素ではない(従って0%のこともある)が、焼戻し処理時の硬さ低下を抑制するため、部品の表層硬さをさらに高めるために有効である。また炭素を浸入させた後の焼入れ時の焼入性を著しく向上させる効果を持つのに加え、耐水素脆性の向上にも有効である。さらには耐衝撃特性、転動疲労寿命をさらに向上させるのにも有効なようである。Moを添加する場合、Moは、例えば0.05%以上、好ましくは0.10%以上、さらに好ましくは0.15%以上とすることが推奨される。一方Moが過剰となるとコスト高になるだけでなく、鋼材硬さが硬くなり過ぎて被削性が低下する。従ってMoは、1%以下、好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.5%以下とする。また0.28%以下程度であってもよい。
Ti:0.2%以下
Tiは必須元素ではない(従って0%のこともある)が、鋼中のN及びCと結びついて窒化物、炭化物、炭窒化物などを生成し、炭素を浸入させるために加熱する時に結晶粒成長を抑制し、転動疲労寿命を高めるのに有効である。また耐衝撃特性を高めるのにも有効なようである。さらに後述するBと併用した場合には、BNの生成を抑制し、Bの効果をさらに高めるのにも有効である。Tiを添加する場合、Tiは、例えば0.01%以上、好ましくは0.02%以上とすることが推奨される。一方Tiが過剰になると、粗大な非金属介在物が生成し、耐衝撃特性や転動疲労寿命を低下させる虞がある。従ってTiは、0.2%以下、好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.05%以下とする。
Nb:0.2%以下
Nbも必須元素ではない(従って0%のこともある)が、前記Tiと同様、鋼中のN及びCと結びついて窒化物、炭化物、炭窒化物などを生成し、炭素を浸入させるために加熱する時に結晶粒成長を抑制し、転動疲労寿命を高めるのに有効である。例えばNbを添加した場合、セメンタイトの最大直径を0.7μm以下(特に0.6μm以下)にまで低減することが可能である。また耐衝撃特性を高めるのにも有効なようである。Nbを添加する場合、Nbは、例えば0.01%以上、好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上とすることが推奨される。一方Nbが過剰になると、前記Tiと同様、粗大な非金属介在物が生成し、耐衝撃特性や転動疲労寿命を低下させる虞がある。従ってNbは、0.2%以下、好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.07%以下とする。
B:0.005%以下
Bは必須元素ではない(従って0%のこともある)が、微量で鋼材の焼入性を大幅に向上させる効果があることに加え、結晶粒界を強化して耐衝撃特性を高める作用がある。Bを添加する場合、Bは、例えば0.0005%以上、好ましくは0.0008%以上、さらに好ましくは0.0010%以上とすることが推奨される。一方Bを過剰に添加してもその効果が飽和する。またB窒化物が生成し易くなり、冷間及び熱間加工性を劣化させる虞がある。従ってBは、0.005%以下、好ましくは0.003%以下、さらに好ましくは0.0025%以下、特に0.0020%以下とする。
前記第1の追加成分(Cu、Ni、Cr、Mo、Ti、Nb、B)はそれぞれ単独で添加してもよく、それぞれを適宜組み合わせて添加してもよい。例えば耐衝撃特性を著しく高める場合には、CuとNiの併用、Moの使用、TiとBの併用(さらにNbも併用してもよい)、Nbの使用など(特にCuとNiの併用、Moの使用)などが特に有効である。また転動疲労寿命を著しく高める場合には、Mo、Nbの使用(特にMoの使用)が特に有効である。
また前記鋼材は、必要に応じて、Pb:0.1%以下、Bi:0.1%以下、Ca:0.02%以下、Mg:0.02%以下、及びTe:0.1%以下などの第2の追加成分を含有していてもよい。なお第2の追加成分は、第1の追加成分の添加の有無に拘わらず、添加できる。以下、これら第2の追加成分についてさらに詳細に説明する。
Pb:0.1%以下
Pbは必須元素ではない(従って0%のこともある)が、鋼材の被削性を向上するのに有効である。従ってPbを添加する場合、Pbは、例えば0.01%以上、好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上とする。一方Pbが過剰になると材料強度が低下する。従ってPbは、0.1%以下、好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.06%以下とする。
Bi:0.1%以下
Biも必須元素ではない(従って0%のこともある)が、前記Pbと同様、鋼材の被削性を向上するのに有効である。従ってBiを添加する場合、Biは、例えば0.01%以上、好ましくは0.02%以上とする。一方Biが過剰になると、前記Pbと同様、材料強度が低下する。従ってBiは、0.1%以下、好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.06%以下とする。
Ca:0.02%以下
Caは必須元素ではない(従って0%のこともある)が、鋼材中の硫化物の展伸を抑制し、耐衝撃特性を向上させるのに有効である。Caを添加する場合、Caは、例えば0.0005%以上、好ましくは0.0010%以上、さらに好ましくは0.002%以上とするのが推奨される。一方Caが過剰になると粗大な酸化物が生成し、材料強度を低下させる虞がある。従ってCaは0.02%以下、好ましくは0.01%以下、さらに好ましくは0.005%以下とする。
Mg:0.02%以下
Mgも必須元素ではない(従って0%のこともある)が、前記Caと同様、鋼材中の硫化物の展伸を抑制し、耐衝撃特性を向上させるのに有効である。Mgを添加する場合、Mgは、例えば0.0005%以上、好ましくは0.0010%以上、さらに好ましくは0.002%以上とするのが推奨される。一方Mgが過剰になると、前記Caと同様、粗大な酸化物が生成し、材料強度を低下させる虞がある。従ってMgは0.02%以下、好ましくは0.01%以下、さらに好ましくは0.005%以下とする。
Te:0.1%以下
Teも必須元素ではない(従って0%のこともある)が、前記Ca・Mgと同様、鋼材中の硫化物の展伸を抑制し、耐衝撃特性を向上させるのに有効である。Teを添加する場合、Teは、例えば0.005%以上、好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.02%以上とするのが推奨される。一方Teが過剰になると、前記Ca・Mgと同様、粗大な酸化物が生成し、材料強度を低下させる虞がある。従ってTeは0.1%以下、好ましくは0.07%以下、さらに好ましくは0.05%以下とする。
前記第2の追加成分(Pb、Bi、Ca、Mg、Te)はそれぞれ単独で添加してもよく、それぞれを適宜組み合わせて添加してもよい。例えばPbとBiはいずれも被削性を改善するのに有効な元素であり、片方だけを添加してもよく、PbとBiの両方を添加してもよい。なおPbとBiを併用する場合、それらの合計量(Pb+Bi)が、0.01%以上(好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上)、0.1%以下(好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.06%以下)とすることが推奨される。またCa、Mg、及びTeはいずれも耐衝撃特性を高めるのに有効な元素であり、1種だけ添加してもよく、2種又は3種を組み合わせて添加してもよい。なおMgは少ない量で耐衝撃特性を著しく改善できる点で最も効果があるようである。
前記鋼材は、本発明の効果を阻害しない範囲で他の追加成分を含有していてもよいが、他の追加成分を含まなくてもよく、残部はFe及び不可避的不純物であってもよい。
上述した鋼材を部品形状に加工し、上述した表面硬化処理法によって処理することによって本発明の表面硬化部品を得ることができる。この浸炭部品は、表面に硬化層(浸炭層、浸炭窒化層などの炭素富裕層)が形成されおり、この硬化層の炭素濃度は表面付近で最も高く、該最大値は上記カーボンポテンシャルと同様であって高濃度となっており、炭化物として実質的にセメンタイトが析出している。そのため転動疲労寿命が高められている。さらには該セメンタイトは著しく微細化されており、また粒界析出が抑制されている。そのため耐衝撃特性及び耐遅れ破壊特性も高められている。なおセメンタイトの大きさは、硬化層最表面から深さ50μmの位置で測定するのが適切であり、本発明の表面硬化部品では、該位置のセメンタイトが最大のものでも直径が1.0μm以下、好ましくは0.8μm以下、さらに好ましくは0.6μm以下、特に0.5μm以下となる程度まで微細化されている。なお前記表面硬化部品では、非硬化部(非浸炭部、非浸炭窒化部などの非炭素富裕部。例えば芯部など)の組成は上述した鋼材と同様となっている。
本発明の浸炭部品は、耐衝撃特性、転動疲労寿命、耐遅れ破壊特性などに優れているため、例えば歯車、シャフト、軸受などとして使用するのに極めて有利である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
実験例1
C:0.19%、Si:0.21%、Mn:0.70%、P:0.014%、S:0.018%、Cu:0.00%、Ni:0.00%、Cr:1.04%、Mo:0.00%、Al:0.025%、N:0.0090%、O:0.0018%を含有し、残部はFe及び不可避不純物である鋼を溶製し、直径65mmの棒状に熱間鍛造した後、溶体化処理(温度1250℃、加熱時間0.5hr、冷却:空冷)及び焼ならし処理(温度900℃、加熱時間2hr、冷却:空冷)をした。次いで切削加工することによって、図1に示すシャルピー衝撃試験片、図2に示す転動疲労試験片、及び図3に示す遅れ破壊試験片を作製した。
それぞれの試験片を、図4(a)に示すパターンa、図4(b)に示すパターンb、又は図4(c)に示すパターンcで浸炭焼入れ・焼戻しした。より詳細には、パターンaは、温度930℃、カーボンポテンシャル(Cp)約0.6〜1.1%の条件で2時間浸炭処理した後ガス冷却する炭素浸入・拡散工程と;大気雰囲気中で高周波加熱によって温度T℃に急速加熱し、t秒間保持した後水冷するセメンタイト析出工程と;温度170℃で2時間加熱した後で空冷する焼戻し工程からなる。パターンbは、温度930℃、Cp約1.1%の条件で2時間浸炭処理した後ガス冷却する浸炭浸入・拡散工程と、浸炭炉において温度860℃、Cp約0.8%の条件で1時間加熱した後、温度80℃の油で冷却するセメンタイト析出工程;温度170℃で2時間加熱した後で空冷する焼戻し工程からなるものであり、従来の高濃度浸炭法に相当する。パターンcは、温度930℃、Cp0.8%の条件で2時間浸炭した後、温度850℃、Cp0.8%の条件で20分間加熱して炭素を鋼中に拡散させ、温度80℃の油で冷却する炭素浸入・拡散工程と;温度170℃で2時間加熱した後で空冷する焼戻し工程からなるものであり、通常の浸炭法に相当する。
浸炭焼入れ・焼戻しした試験片を用いて下記の評価試験を行った。
[耐衝撃特性]
シャルピー衝撃試験片を用い、JIS Z 2242に準拠して室温での吸収エネルギーを求めた。
[転動疲労特性]
転動疲労寿命試験片の表面をラッピング加工して表面粗さRaを0.04μm以下にした後、下記の条件で試験片上に鋼球を転がす転動疲労試験を行い、破損確率が10%となる寿命(L10寿命)を求めた。
面圧:5168N/mm2(527kgf/mm2
回転数:1000rpm
鋼球数:6個
潤滑油:タービン♯68[商品名;コスモ石油(株)社製]
試験数:10
[耐遅れ破壊特性]
遅れ破壊試験片を塩酸水溶液(塩酸15体積%)に30分間浸漬した後、水洗し、乾燥した。大気中で900N/mm2又は1200N/mm2の応力を負荷し、100時間後の破断の有無を調べ、下記基準で評価した。
○:900N/mm2及び1200N/mm2のいずれの場合にも破断なし
△:1200N/mm2のときは破断するが900N/mm2のときは破断しない
×:900N/mm2及び1200N/mm2のいずれの場合にも破断する
[最大セメンタイト径]
未試験のシャルピー衝撃試験片を用い、表面から深さ50μmの位置の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を3視野分測定した(倍率:8000倍)。得られた写真に対して画像処理を行って炭化物(セメンタイト)とそうでない部分とに分類し、セメンタイトの個数と個々の面積を測定した。セメンタイト径は、測定したセメンタイトと等しい面積の円の直径として求めた。
結果を表1に示す。
Figure 0004102266
表1から明らかなように、通常の浸炭法(No.10)では炭素濃度が低いため、耐衝撃特性に優れている代わりに転動疲労寿命が低くなっている。またセメンタイトが析出していないために遅れ破壊特性が不十分である。従来の高濃度浸炭法(No.9)では炭素濃度が高いため、転動疲労寿命に優れている代わりに耐衝撃特性が不十分となっている。またセメンタイトが粗大化しているため耐遅れ破壊特性が不十分である。
浸炭と高周波加熱とを組み合わせた場合でも、浸炭濃度が通常レベルであると(No.7〜8)、通常浸炭(No.10)の場合と同様に、転動疲労寿命が低くなっており、またセメンタイトが析出しないために遅れ破壊特性が不十分となっている。
また高濃度浸炭と高周波加熱とを組み合わせた場合でも、高周波加熱温度が高すぎたり(No.5)低すぎたりすると(No.6)、セメンタイトが析出しないため、従来の高濃度浸炭(No.9)と比べても耐遅れ破壊特性が却って低下する。また、衝撃特性も不十分となっている。
さらに高濃度浸炭と高周波加熱によるセメンタイト析出処理とを組み合わせ、高周波加熱温度を適切に設定しても保持時間が60秒と僅かに長いと(No.4)、通常の高濃度浸炭(No.9)の場合と同様、耐衝撃特性は不十分となり、遅れ破壊特性も変わらない。また温度880℃で60秒も処理すると粗大炭化物の析出量が多くなって浸炭層の固溶炭素濃度が低下するためか、通常の高濃度浸炭(No.9)の場合に比べても転動寿命が低下している。
ところが高濃度浸炭と高周波加熱によるセメンタイト析出処理とを組み合わせ、高周波加熱温度及び保持時間を適切に設定してセメンタイトを微細化すると(No.1〜3)、耐遅れ破壊特性が優れたものとなる。また炭素濃度が高いにも拘わらず、耐衝撃特性も著しく改善される。特に浸炭の炭素濃度を若干高めたNo.2やセメンタイトの析出時間を若干長くしたNo.3は、転動疲労寿命が著しく優れている。
実験例2
下記表2に示す種々の成分組成の鋼を用いる以外は、実験例1のNo.2と同様にした。なおカーボンポテンシャルは、約1.0〜1.1%とした。
結果を表3に示す。
Figure 0004102266
Figure 0004102266
表2及び表3から明らかなように、Cu、Ni、Mo、Ti、B、Nb、Pb、Bi、Ca、Mg、Teなどを添加しても、処理パターンaのようにして高濃度浸炭と高周波加熱によるセメンタイト析出処理とを組み合わせた場合には、耐衝撃特性、転動疲労寿命、及び耐遅れ破壊特性の全てを良好にできる(試験No.11〜21)。特にCu、Ni、Mgなどを添加した例(試験No.11、19)では耐衝撃特性が著しく優れており、Moを添加した例(試験No.12)では耐衝撃特性と転動疲労寿命が著しく優れている。
なおCが不足した場合(試験No.22)、及びSiが過剰となった場合(試験No.24)でも、耐衝撃特性、転動疲労寿命、及び耐遅れ破壊特性の全てを良好にできるが、Cが不足した場合には鋼強度が低下し、Siが過剰となった場合には加工性が低下する。
一方、C、Mn、P、Si、Al、N、Oなどが過剰となった場合(試験No.23、25〜30)には、耐衝撃特性が不十分となる。特にPが過剰となった例(試験No.26)では耐遅れ破壊特性も不十分となり、Alが過剰となった例(No.28)では転動疲労寿命も不十分となる。またP、Si、N、Oなどが過剰となった例(No.26,27、29、30)では、耐衝撃特性、耐遅れ破壊特性、転動疲労寿命の全てが不十分となる。
図1は実施例で使用したシャルピー衝撃試験片を示す概略側面図である。 図2は実施例で使用した転動疲労寿命試験片を示す概略二面図である。 図3は実施例で使用した遅れ破壊試験片を示す概略側面図である。 図4は実施例の浸炭処理方法を示す概念図である。

Claims (6)

  1. C :0.10〜0.4%(質量%の意、以下同じ)、
    Si:2%以下(0%を含まない)、
    Mn:2%以下(0%を含まない)、
    P :0.03%以下(0%を含まない)、
    S :0.1%以下(0%を含まない)、
    Al:0.1%以下、
    Cr:2%以下(0%を含まない)、
    N :0.03%以下(0%を含まない)、
    O :0.003%以下(0%を含まない)
    を含有し、残部がFe及び不可避不純物である部品形状に加工された鋼材を、
    炭素ポテンシャル0.9〜1.3%の条件下、鋼表面の炭素濃度によって決定されるAcm点以上、980℃以下の温度で少なくとも炭素を浸入させ、ガス冷、油冷又は水冷する炭素浸入・拡散工程、
    炭素浸入・拡散工程後、鋼表面がオーステナイト−セメンタイト2相領域となる温度まで高周波加熱し、該温度を1〜30秒間保持した後、直ちに油冷又は水冷するセメンタイト析出工程、
    及び焼戻し工程の順に処理する表面硬化部品の製造方法。
  2. 前記鋼材が、Cu:1%以下、Ni:3%以下、Cr:2%以下、Mo:1%以下、Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下、及びB:0.005%以下から選択された少なくとも一種をさらに含有している請求項1に記載の表面硬化部品の製造方法。
  3. 前記鋼材が、Pb:0.1%以下、Bi:0.1%以下、Ca:0.02%以下、Mg:0.02%以下、及びTe:0.1%以下から選択された少なくとも一種をさらに含有している請求項1又は2に記載の表面硬化部品の製造方法。
  4. 表面に硬化層が形成されている鋼部品であって、
    非硬化部分はC:0.10〜0.4%(質量%の意、以下同じ)、Si:2%以下(0%を含まない)、Mn:2%以下(0%を含まない)、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.1%以下(0%を含まない)、Al:0.1%以下、Cr:2%以下(0%を含まない)、N:0.03%以下(0%を含まない)、O:0.003%以下(0%を含まない)を含有し、残部がFe及び不可避不純物であり、
    硬化層の炭素濃度の最大値は0.9〜1.3%であり、
    硬化層最表面から深さ50μmの位置におけるセメンタイトのうち最大のものの直径が1.0μm以下であることを特徴とする表面硬化部品。
  5. 非硬化部分が、Cu:1%以下、Ni:3%以下、Cr:2%以下、Mo:1%以下、Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下、及びB:0.005%以下から選択された少なくとも一種をさらに含有している請求項4に記載の表面硬化部品。
  6. 非硬化部分が、Pb:0.1%以下、Bi:0.1%以下、Ca:0.02%以下、Mg:0.02%以下、及びTe:0.1%以下から選択された少なくとも一種をさらに含有している請求項4又は5に記載の表面硬化部品。
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