JP2004137605A - 鋼の熱処理方法および鋼 - Google Patents

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Abstract

【課題】 転動疲労に対して長寿命であり、かつ高い割れ強度を有し、かつ経年寸法変化率の増大が抑制された鋼およびその熱処理方法を提供する。
【解決手段】 鋼のA1変態点を超える窒化処理温度で上記窒化処理した後、A1変態点未満の温度に冷却し、その後、上記A1変態点以上で上記窒化処理の温度未満の焼入れ温度域に再加熱し、焼入れを行なう。
【選択図】    図1

Description

 本発明は、減速機、ドライブピニオン、トランスミッションなどに用いられる鋼およびその熱処理方法に関するものである。
 軸受部品の転動疲労に対して長寿命を与える熱処理方法として、焼入れ加熱時の雰囲気RXガス中に、さらにアンモニアガスを添加するなどして、その軸受部品の表層部に浸炭窒化処理を施す方法がある(たとえば特開平8−4774号公報、特開平11−101247号公報)。この浸炭窒化処理を用いることにより、表層部を硬化させ、さらにミクロ組織中に残留オーステナイトを生成させ、転動疲労寿命を向上させることができる。
特開平8−4774号公報 特開平11−101247号公報
 しかしながら、上記の浸炭窒化処理方法は拡散処理のため、長時間高温に保持する必要があるので、組織が粗大化する等して割れ強度の向上を図ることは困難である。また、残留オーステナイトの増加による経年寸法変化率の増大も問題となる。
 一方、転動疲労に対して長寿命を確保し、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率の増大を防ぐには、鋼の合金設計によって行なうことが可能である。しかし合金設計によると、原材料コストが高くなるなどの問題点が発生する。
 今後の軸受部品には、使用環境の高荷重化、高温化に伴い、従来よりも、大きな荷重条件でかつより高温で使用できる特性を備えることが要求される。このため、転動疲労特性が長寿命で、高度の割れ強度と寸法安定性とを有する軸受部品が必要になる。
 本発明の熱処理方法は、鋼のA1変態点を超える窒化処理温度で上記窒化処理した後、A1変態点未満の温度に冷却し、その後、上記A1変態点以上で上記窒化処理の温度未満の焼入れ温度域に再加熱し、焼入れを行なう(請求項1)。
 この構成により、窒化処理後A1変態点未満の温度に冷却した後に最終的な焼入れを行なうので、オーステナイト粒径を細かくすることができる。この結果、シャルピー衝撃値、破壊靭性値、割れ強度、転動疲労寿命などを向上させることができる。
 さらに、たとえばオーステナイトが変態する温度にまで冷却することにより、窒化処理の際のオーステナイト粒界と最終焼入れの際のオーステナイト粒界とを無関係にすることができる。さらに、最終焼入れの際の加熱温度が窒化処理時の加熱温度よりも低いので、窒化処理の効果が及ぶ表層部における未溶解セメンタイト量は窒化処理のときよりも増大する。このため最終焼入れの加熱温度において、窒化処理のときより、未溶解セメンタイト量の比率が増大し、オーステナイト量の比率が低下する。しかも、鉄−炭素2元状態図から、セメンタイトとオーステナイトとの共存領域において、焼入れ温度の低下にともないオーステナイトに固溶する炭素濃度も低くなる。
 最終焼入れ温度に加熱したとき、オーステナイト粒の成長を妨げる未溶解セメンタイト量が多いために、オーステナイト粒は微細となる。また、焼入れによってオーステナイトからマルテンサイトやベイナイトに変態した組織は炭素濃度が低いので、窒化処理温度から焼き入れた組織に比べて靭性に富んだ組織となる。
 本発明の別の熱処理方法では、少なくとも炭素を0.6〜1.2重量%、ケイ素を0.15〜1.1重量%、マンガンを0.3〜1.5重量%含む鋼の熱処理方法であって、上記の鋼をA1変態点を超える窒化処理温度で窒化処理した後、A1変態点未満の温度に冷却し、その後、上記A1変態点以上で上記窒化処理の温度未満の焼入れ温度域に再加熱し、焼入れを行なう(請求項2)。
 上記の構成において、炭素が1.2重量%を超えると、球状化焼鈍を行なっても素材硬度が高いので冷間加工性を阻害し、冷間加工を行なう場合に十分な冷間加工量と、加工精度を得ることができない。また、浸炭窒化処理時に過浸炭組織になりやすく、割れ強度が低下する危険性がある。他方、炭素含有量が0.6重量%未満の場合には、所要の表面硬さと残留オーステナイト量を確保するのに長時間を必要としたり、再加熱後の焼入れで必要な内部硬さが得られにくくなる。
 Si含有率を0.15〜1.1重量%とするのは、Siが耐焼戻し軟化抵抗を高めて耐熱性を確保し、異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性を改善することができるからである。シリコン含有率が0.15重量%未満では異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性が改善されず、一方、1.1重量%を超えると焼きならし後の硬度を高くしすぎて冷間加工性を阻害する。
 Mnは浸炭窒化層と芯部の焼入れ硬化能を確保するのに有効である。Mn含有率が0.3重量%未満では、十分な焼入れ硬化能を得ることができず、芯部において十分な強度を確保することができない。一方、Mn含有率が1.5重量%を超えると、硬化能が過大になりすぎ、焼きならし後の硬度が高くなり冷間加工性が阻害される。また、オーステナイトを安定化しすぎて芯部の残留オーステナイト量を過大にして経年寸法変化を助長する。
 なお、本発明の鋼は、言うまでもなくFeを主成分とし、上記の元素の他に不可避的不純物を含んでいる。不可避的不純物としては、リン(P)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、アルミ(Al)などがある。これらの不可避的不純物元素の量は、それぞれ0.1重量%以下である。
 上記鋼が、さらに、2.0重量%以下のクロムを含むことができる(請求項3)。
 上記のように、さらに、2.0重量%以下のクロムを含むことにより、表層部においてクロムの炭化物や窒化物を析出して表層部の硬度を向上しやすくなる。Cr含有率を2.0重量%以下としたのは、2.0重量%を超えると冷間加工性が著しく低下したり、2.0重量%を超えて含有しても上記表層部の硬度向上の効果が小さいからである。
 上記本発明の熱処理方法では、再加熱時の焼入れ温度域を、790℃〜830℃の温度域とすることができる(請求項4)。
 この構成により、オーステナイト結晶粒の成長が生じにくい温度に再加熱して焼入れするので、オーステナイト粒径を細かくすることができる。
 上記の本発明の熱処理方法では、上記の窒化処理の際に浸炭処理を含めて行なうことができる(請求項5)。
 本発明の鋼は、上記のいずれかの熱処理方法が行われ、オーステナイト結晶粒径が平均粒径で8μm以下とされている(請求項6)。
 オーステナイト粒径を平均粒径で8μm以下とすることにより、転動疲労強度のみならず、シャルピー衝撃値、破壊靭性値、圧壊強度などを向上させることができる。
 次に図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態における転がり軸受を示す概略断面図である。図1において、この転がり軸受10は、外輪1と、内輪2と、転動体3とを主に有している。図面はラジアル軸受を表しているが、玉軸受、円すいころ軸受、ころ軸受、ニードルころ軸受も同様に本発明の実施の形態の対象になる。転動体3は、外輪1と内輪2との間に配置された保持器により転動可能に支持されている。これらの外輪1、内輪2および転動体3のうち少なくともいずれか一つの部材は、浸炭窒化層を有する鋼から構成され、かつ浸炭窒化層およびその内部の鋼のオーステナイト結晶粒度が平均粒径で8μm以下である。
 上記の熱処理を普通焼入れ、すなわち浸炭窒化処理に引き続いてそのまま1回焼入れするよりも、表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上記本発明の熱処理方法によれば、オーステナイト結晶粒の粒径が従来の2分の1以下となるミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を受けた軸受部品は、転動疲労に対して長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
 図4は、軸受部品のミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。図4(a)は本発明例の軸受部品であり、図4(b)は従来の軸受部品である。すなわち、上記図2に示す熱処理パターンを適用した軸受鋼のオーステナイト結晶粒度を図4(a)に示す。また、比較のため、従来の熱処理方法による軸受鋼のオーステナイト結晶粒度を図4(b)に示す。また、図5(a)および図5(b)に、上記図4(a)および図4(b)を図解したオーステナイト結晶粒度を示す。これらオーステナイト結晶粒度を示す組織より、従来のオーステナイト粒径はJIS規格の粒度番号で10番であり、また本発明による熱処理方法によれば12番の細粒を得ることができる。また、図4(a)の平均粒径は、切片法で測定した結果、5.6μmであった。また、焼入れ温度を830℃とすると、平均粒径は8μm程度になる。
 次に、下記のA材、B材およびC材について、一連の試験を行なった。熱処理用素材には、JIS規格SUJ2材(1.0重量%C−0.25重量%Si−0.4重量%Mn−1.5重量%Cr)を用い、A材〜C材に共通とした。
(A材:比較例):普通焼入れのみ(浸炭窒化処理せず)。
(B材:比較例):浸炭窒化処理後にそのまま焼き入れる(従来の浸炭窒化焼入れ)。浸炭窒化処理温度845℃、保持時間150分間。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。
(C材:本発明例):図3の熱処理パターンを施した軸受鋼。浸炭窒化処理温度845℃、保持時間150分間。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。
 (1) 転動疲労寿命
 転動疲労寿命試験の試験条件および試験装置の略図を、表1および図6に示す。図6(a)は転動疲労寿命試験装置の正面図であり、図6(b)は側面図である。駆動ロール11によって回転駆動される転動疲労寿命試験片1は、案内ロール13に支持された(3/4)”ボール13と接触し、面圧を発生させる。所定の面圧の下で、転動させ、転動疲労寿命試験片1に損傷が発生するまでの転動回数を調べる。この転動疲労寿命試験結果を表2に示す。
Figure 2004137605
Figure 2004137605
 表2によれば、比較例のB材は、同じく比較例で普通焼入れのみを施したA材のL10寿命(試験片10個中1個が破損する寿命)の3.1倍を示し、浸炭窒化処理による長寿命化の効果が認められる。これに対して、本発明例のC材は、B材の1.74倍、またA材の5.4倍の長寿命を示している。この改良の主因はミクロ組織の微細化によるものと考えられる。
 (2) シャルピー衝撃試験
 シャルピー衝撃試験は、Uノッチ試験片を用いて、JISZ2242に準じた方法により行なった。試験片には、JISZ2202に示されたUノッチ試験片(JIS3号試験片)を用いた。試験結果を表3に示す。
Figure 2004137605
 浸炭窒化処理を行なったB材(比較例)のシャルピー衝撃値は、普通焼入れのA材(比較例)より高くないが、C材はA材と同等の値が得られた。
 (3) 静的破壊靭性値の試験
 図7は、静的破壊靭性試験の試験片を示す図である。この試験片のノッチ部に、予き裂を約1mm導入した後に、3点曲げによる静的荷重を加え、破壊荷重Pを求めた。破壊靭性値(KIc値)の算出には次に示す(I)式を用いた。また、試験結果を表4に示す。
KIc=(PL√a/BW2){5.8−9.2(a/W)+43.6(a/W)2−75.3(a/W)3+77.5(a/W)4}…(I)
Figure 2004137605
 予き亀裂深さが浸炭窒化層深さよりも大きくなったため、比較例のA材とB材とには違いはない。しかし、本発明例のC材は比較例に対して約1.2倍の値を得ることができた。
 (4) 静圧壊強度試験
 図8は、静圧壊強度試験の試験片を示す図である。図中、P方向に荷重を付加して、静圧壊強度試験を行なった。試験結果を表5に示す。
Figure 2004137605
 浸炭窒化処理を行なっているB材は普通焼入れのA材よりもやや低い値である。しかしながら、本発明のC材は、B材よりも静圧壊強度が向上し、A材と遜色ないレベルが得られている。
 (5) 経年寸法変化率
 保持温度130℃、保持時間500時間における経年寸法変化率の測定結果を、表面硬度、残留オーステナイト量(0.1mm深さ)と併せて表6に示す。
Figure 2004137605
 残留オーステナイト量の多いB材の寸法変化率に比べて、本発明例のC材は2分の1以下に抑制されていることがわかる。
 (6) 異物混入潤滑下における寿命試験
 玉軸受6206を用い、標準異物を所定量混入させた異物混入潤滑下での転動疲労寿命を評価した。試験条件を表7に、また試験結果を表8に示す。
Figure 2004137605
Figure 2004137605
 A材に比べ、従来の浸炭窒化処理を施したB材は約2.5倍になり、また、本発明例のC材は約2.3倍の長寿命が得られた。本発明例のC材は、比較例のB材に比べて残留オーステナイトが少ないものの、窒素の侵入と微細化されたミクロ組織の影響でほぼ同等の長寿命が得られている。
 上記の結果より、本発明例のC材、すなわち本発明の熱処理方法によって製造された軸受部品は、従来の浸炭窒化処理では困難であった転動疲労寿命の長寿命化、割れ強度の向上、経年寸法変化率の低減の3項目を同時に満足することができることがわかった。
 今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の実施の形態における転がり軸受を示す断面図である。 本発明の実施の形態における熱処理方法を説明する図である。 本発明の実施の形態における熱処理方法の変形例を説明する図である。 軸受部品のミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。(a)は本発明例の軸受部品であり、(b)は従来の軸受部品である。 (a)は図4(a)を図解したオーステナイト粒界を示し、(b)は図4(b)を図解したオーステナイト粒界を示す。 転動疲労寿命試験機の概略図である。(a)は正面図であり、(b)は側面図である。 静的破壊靭性試験の試験片を示す図である。 静圧壊強度試験の試験片を示す図である。
符号の説明
 1 外輪、2 内輪、3 転動体、10 転がり軸受、11 駆動ロール、12 案内ロール、13 (3/4)”ボール、21 転動疲労寿命試験片、T1 浸炭窒化処理温度、T2 焼入れ加熱温度。

Claims (6)

  1.  鋼のA1変態点を超える窒化処理温度で前記窒化処理した後、A1変態点未満の温度に冷却し、その後、前記A1変態点以上で前記窒化処理の温度未満の焼入れ温度域に再加熱し、焼入れを行なう、鋼の熱処理方法。
  2.  少なくとも炭素を0.6〜1.2重量%、ケイ素を0.15〜1.1重量%、マンガンを0.3〜1.5重量%含む鋼の熱処理方法であって、前記鋼のA1変態点を超える窒化処理温度で窒化処理した後、A1変態点未満の温度に冷却し、その後、前記A1変態点以上で前記窒化処理の温度未満の焼入れ温度域に再加熱し、焼入れを行なう、鋼の熱処理方法。
  3.  前記鋼が、さらに、2.0重量%以下のクロムを含む、請求項2に記載の鋼の熱処理方法。
  4.  前記焼入れ温度域が790℃〜830℃の温度域である、請求項1〜3のいずれかに記載の鋼の熱処理方法。
  5.  前記窒化処理の際に浸炭処理を含めて行なう、請求項1〜4のいずれかに記載の鋼の熱処理方法。
  6.  前記請求項1〜5のいずれかに記載の鋼の熱処理方法が行われ、オーステナイト結晶粒径が平均粒径で8μm以下である、鋼。
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