JPH10168515A - 熱処理品 - Google Patents
熱処理品Info
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- JPH10168515A JPH10168515A JP21366497A JP21366497A JPH10168515A JP H10168515 A JPH10168515 A JP H10168515A JP 21366497 A JP21366497 A JP 21366497A JP 21366497 A JP21366497 A JP 21366497A JP H10168515 A JPH10168515 A JP H10168515A
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Abstract
共に、短時間の処理で放冷割れ及び白点性欠陥の両方を
確実に防止することができ、しかも、組織を改善して靭
性を高め、これにより、機械部品の寿命延長を図ること
ができる熱処理品を提供する。 【解決手段】 浸炭或いは浸炭窒化処理後の冷却時に、
非浸炭部のMs点以上、浸炭部及び非浸炭部のA1 変態
点直下〜600°Cの温度域に恒温保持する熱処理を施
し、その後、焼入れ硬化してなる金属組織を有する熱処
理品。
Description
業機械、建設機械及び鉄鋼機械等に使用される高い疲労
強度が要求される機械部品であって、特に軸受、歯車、
シャフト等に使用される浸炭あるいは浸炭窒化処理が施
される合金鋼、及び鉄鋼機械等や自動車、農業機械、建
設機械のトランスミッションやエンジン等に使用される
転がり軸受に関する。
求される機械部品には、機能性の向上を図るため、C
r,Mn,Ni,Mo等の合金元素が多量に添加された
合金鋼が一般的に使用される。これらの合金元素は焼入
れ性を高め、焼入れ時に不完全焼入れ組織の形成を防止
する作用も担っている。
疲労強度が要求される機械部品には、合金鋼に浸炭ある
いは浸炭窒化の表面硬化処理が施される。ところで、大
型の軸受等のように厚肉で形状が複雑な部品の場合に
は、浸炭あるいは浸炭窒化処理後の放冷時に部品が変形
したり、極端な場合には割れが発生することがある。
品内外の冷却速度に差が生じ、これに伴って、大きなマ
ルテンサイト変態応力が生じることに起因する。すなわ
ち、割れのメカニズムは焼割れと同じであり、まず、表
面が内部よりも速くMs点以下に冷却され、これにより
表面にマルテンサイトが形成されて大きな体積膨張が起
こるが、この体積膨張が不均一に起こり、しかも、塑性
変形しにくい低温で生じると、部品の外周部に極めて大
きな引張り応力が生じ、くさび形の割れが発生する(社
団法人金属学会編 講座・現代の金属学材料編 第4巻
鉄鋼材料 第142頁参照)。
素が多量に添加された合金鋼に長時間浸炭あるいは浸炭
窒化処理を施した部品においては、水素に起因する割
れ、すなわち白点性欠陥が認められるケースがある。白
点性欠陥は、毛割れ状の内部欠陥が熱処理後の冷却時や
室温放置時に生じるもので、破面の断面を観察すると白
点が認められる。
る金属の切粉、削りくず、バリおよび摩耗粉等の異物が
軌道輪や転動体に損傷を与え、軸受寿命の大幅な低下を
もたらすことが知られている。
転がり表面層のC含有量、残留オーステナイト量および
炭窒化物の含有量を最適化して異物によって生じる圧痕
のエッジ部に発生する応力の集中を緩和し、これによ
り、クラックの発生を抑制して寿命の向上を図ることが
開示されている。
炭化物、炭窒化物の平均粒径を適正化し、残留オーステ
ナイト量と表面硬さの最適な関係を見出すことにより、
更に長寿命化することが開示されている。
元素が添加された合金鋼の使用により達成され、異物混
入潤滑下寿命はMo添加が重要な役割を担っていること
が示されている。これは、Moを含む微細な炭化物を析
出させ、残留オーステナイト量を減少させずに、硬さを
高めることにより達成されるものである。
60号では、Cr添加量に対してMoを適正化し、硬質
なMo複炭化物を析出させることにより、異物混入潤滑
下での長寿命化が達成できることが開示されている。
r,Mn,Ni,Mo等の合金元素が多量に添加された
合金鋼に浸炭あるいは浸炭窒化処理を施して製造される
部品では、放冷割れ(変態割れ)と白点性欠陥(水素脆
性)の2種類の割れの発生が問題となる。
マルテンサイト変態域を徐冷して変態応力を低減する手
法が採られるが、冷却速度の制御には困難が伴い、ま
た、マルテンサイト形成そのものを防止する手法ではな
いので、放冷割れを確実に防止することは困難である。
窒化処理後に鋼をTTT図(恒温変態図)の入り江の温
度に保持した塩浴中に焼入れて、部品内外の温度が一様
になってから、部品を引き上げ徐冷するマルクエンチ、
マルテンパー等の処理があるが、塩浴等の設備が新たに
必要となり、生産性に問題が生じる。
れ処理を施すようにした場合には、オーステナイト結晶
粒が粗大化し、この粗大化した組織は二次焼入れ処理を
施しても微細化されず機械強度が低下してしまうという
問題がある。
止策として製鋼、造塊時に真空脱ガス処理により溶鋼中
の水素量を低減する手法が採られたり、また、大型の鍛
造用鋼では脱水素を目的としてA1 変態点直下の温度で
恒温焼鈍が施される事例がある。
する部品の場合、浸炭雰囲気中に多量に含まれる水素に
長時間曝されるため、白点性欠陥が発生する可能性が極
めて高まるにもかかわらず、浸炭あるいは浸炭窒化処理
後に白点性欠陥防止の観点から脱水素を目的とした熱処
理は行われていないのが現状である。
CrおよびMo添加量の最適化範囲の幅が大きいため、
合金炭化物の析出量が不十分となって必要な表面硬さが
得られず、これが原因して十分な寿命の向上が図れない
場合があった。更に、Moは安定供給が難しく、非常に
高価な元素であるため、軸受コストの増大を抑えるため
過剰な添加を避ける必要があった。
たものであり、請求項1の発明の目的は、浸炭あるいは
浸炭窒化による表面硬化法を適用して製造される熱処理
品において、従来の設備をそのまま流用して製造でき、
しかも、短時間の熱処理で放冷割れ及び白点性欠陥の両
方を確実に防止することができると共に組織を改善して
靭性を高めることができ、これにより、機械部品の寿命
延長を図ることができる熱処理品を提供することにあ
る。
性欠陥の両方を確実に防止することができるようにし
て、機械部品の寿命延長を図ることができる熱処理品を
提供することにある。
微細なMo複炭化物の析出量を最適化して、異物混入潤
滑下での長寿命化を図ることができる転がり軸受を提供
することにある。
めに、請求項1に係る熱処理品は、浸炭或いは浸炭窒化
処理後の冷却時に、非浸炭部のMs点以上、浸炭部及び
非浸炭部のA1 変態点以下の温度域に恒温保持する熱処
理を施し、その後、焼入れ硬化してなる金属組織を有す
ることを特徴とする。
で、C:0.2〜0.5%、Si:≦1.0%、Mn:
0.2〜1.5%、S:≦0.02%、Ni:≦3.5
%、Cr:0.3〜2.0%、Mo:0.3〜1.5%
を含有する合金鋼であることが好ましい。
た熱処理品のマルテンサイトの面積率が5%以下、水素
濃度が2ppm以下が好ましく、更に好ましくは熱処理
品のマルテンサイトの面積率が5%以下、水素濃度が1
ppm以下がよい。
浸炭窒化処理後に放冷を行う熱処理品において、放冷後
のマルテンサイトの面積率が80%以上または10%以
下の金属組織を有することを特徴とする。
でC:0.15〜0.5%、Si:0.15〜1.0
%、Mn:0.35〜1.5%、Cr:0.3〜2.0
%、Mo:1.5%以下、Ni:3.5%以下、S:
0.010%以下を含有する合金鋼であることが好まし
い。
は浸炭窒化処理を施す時間として、50時間以上かかる
大型のものを対象とする場合、より効果的である。第3
の目的に係る転がり軸受は、軌道輪および転動体を備え
た転がり軸受において、前記軌道輪および転動体の少な
くとも一つは、その成分が重量%で、C:0.2〜0.
5%、Mn:0.5〜1.2%、Cr:0.5〜2.0
%、Ni:0.6%以下、Mo:0.8〜1.5%を含
有する合金鋼でなり、浸炭或いは浸炭窒化処理後の冷却
時に、炉冷、または非浸炭部のMs点以上で、浸炭部お
よび非浸炭部のA1 変態点以下の温度域に恒温保持する
熱処理を施し、その後、焼入れ・焼戻し処理を施し、浸
炭処理を行った場合の完成品表面における全炭化物面積
率に対するMo含有炭化物面積率の比、或いは浸炭窒化
処理を行った場合の完成品表面における炭化物、窒化物
及び炭窒化物の全面積率に対するMo含有炭化物、Mo
含有窒化物及びMo含有炭窒化物の面積率の比が0.2
以上、0.5以下であることを特徴とする。
参照して説明する。図1〜図7は本発明の第1の態様の
実施の形態である熱処理品を説明するための図であり、
図1は鋼中の水素の溶解度と温度との関係を示すグラフ
図、図2は鋼中の水素の透過量と温度との関係を示すグ
ラフ図、図3は鋼中の水素濃度とマルテンサイト面積率
との関係を示すグラフ図、図4はバンド状マルテンサイ
トを説明するためのグラフ図、図5はCCT図、図6は
水素が残存しやすい部位を説明するための説明図、図7
は疲労強度試験機の概略図である。また、図8及び図9
は本発明の第2の態様の実施の形態である熱処理品を説
明するための図であり、図8は浸炭時間100Hrのと
きのマルテンサイト面積率と欠陥発生率との関係を示す
グラフ図、図9は浸炭、浸炭窒化時間と欠陥発生率との
関係を示すグラフ図である。更に、図10及び図11は
本発明の第3の態様の実施の形態である転がり軸受を説
明するための図であり、図10はマルテンサイト面積率
と完成品表面のMo複炭化物比とを関係を示すグラフ
図、図11は完成品表面のMo複炭化物比とL10寿命と
の関係を示すグラフ図である。
ある熱処理品について説明する。放冷割れ及び白点性欠
陥の発生状況と組織について調査した結果、以下のこと
が明らかになった。 1.放冷割れについて 浸炭あるいは浸炭窒化後の放冷時にマルテンサイトが多
量に形成されると放冷割れが生じやすい。 2.白点性欠陥について 長時間浸炭品でかつ冷却速度が速いと白点性欠陥が発生
し易いが、浸炭あるいは浸炭窒化後に徐冷した場合(特
に300°C以下で徐冷)には白点性欠陥の発生は認め
られなかった。また、放冷後の組織がフェライト+パー
ライト組織にマルテンサイトが混在する場合に白点性欠
陥が最も生じやすい。 3.組織について 浸炭あるいは浸炭窒化後、浸炭処理温度から直接冷却し
た場合、二次焼入れ処理後に粗大なマルテンサイト組織
となってしまう。
種々検討した結果、浸炭あるいは浸炭窒化後に恒温焼鈍
を施すことにより、これらの点を解決できることが明ら
かになった。以下、1.放冷割れ、2.白点性欠陥及び
3.組織の順に詳述する。 1.放冷割れについて 浸炭あるいは浸炭窒化後の放冷時にマルテンサイトが多
量に形成されると局部的に大きな引張り応力が生じて放
冷割れが発生してしまう。したがって、放冷割れを防止
するには、マルテンサイト変態を抑制すればよい。
浸炭窒化後のA1 変態点直下の恒温保持により、浸炭部
はセメンタイト+パーライト組織、非浸炭部はフェライ
ト+パーライト組織となり、放冷時にマルテンサイトの
形成が起こらないためである。
了し、上述したように浸炭部がセメンタイト+パーライ
ト組織、非浸炭部がフェライト+パーライト組織となる
ようにマルテンサイトの形成を完全に阻止することが望
ましいが、5%程度の微量のマルテンサイトが残存して
いる場合には、周囲の柔らかいフェライト+パーライト
組織がマルテンサイト変態の応力を緩和するので放冷割
れは生じない。したがって、放冷割れが生じないための
マルテンサイト面積率の上限値を5%以下とする。 2.白点性欠陥について 長時間の浸炭品は水素が多量に侵入してしまい白点性欠
陥の発生の危険性が高まる。水素は侵入型元素であり、
拡散が非常に速く、熱処理後の冷却中にもある程度排出
されるが、冷却速度が極度に速いと水素の排出が間にあ
わず、高濃度の水素が鋼中に残存してしまう。
水素(これはA1 変態点直下〜600°C以上の恒温変
態処理することで除去され、処理後は発生しない。)と
呼ばれ、これが白点性欠陥を引き起こす原因と言われて
いるので、300°C以下の冷却が速いと白点性欠陥の
発生頻度が高くなるのである。
が主要因であるが、鋼中に高濃度の水素がチャージされ
ても白点が必ずしも発生するのではなく、鋼中にある量
以上の水素がチャージされ、かつ外的な応力の付加、例
えばマルテンサイト変態のような内部応力が付加されな
ければ発生しない。
パーライト組織中にマルテンサイトが混在する場合に最
も割れの感受性が高まる。(増補版 鉄鋼と合金元素
(上)日本学術振興会 製鋼第19委員会編、誠文堂新
光社 第452頁参照)。特に合金元素の偏析により帯
状に未変態のオーステナイト(残留オーステナイト)が
存在すると、このオーステナイトが水素拡散の障壁とな
り、外部への水素の排出が阻害され、水素がトラップさ
れやすくなるのに加え、周囲から変態中に排出された水
素がオーステナイト中に濃縮されてしまう。冷却により
このオーステナイトはマルテンサイト変態を生じるが、
マルテンサイト中では水素が外にパージされにくいため
水素の拡散が遅く、更に変態応力の作用も相まって、白
点性欠陥に対する感受性が高くなってしまう。
品における白点性欠陥の防止には、浸炭あるいは浸炭窒
化時に鋼中に侵入した水素を室温に冷却する前に外部に
排出すればよい。
素濃度は4ppm以上(増補版 鉄鋼と合金元素(上)
日本学術振興会 製鋼第19委員会編、誠文堂新光社
第448頁参照)であることから、水素量は4ppm
以下にする必要があり、安全性を見越して2ppm以下
(更に好ましくは1ppm以下)とする。
イトをなくして変態応力を除去する必要がある。また、
見方を変えると、マルテンサイトをなくすことは水素の
トラップサイトをなくすこと、つまり鋼中の水素量が減
少することを意味する。
に鋼中の水素の溶解度と温度との関係を示す。図1から
明らかなように、オーステナイト温度域で水素の溶解度
は5ppm以上と高いが、フェライト(非浸炭部)温度
域では3.5ppm以下と大幅に溶解度が減少してい
る。すなわち、浸炭あるいは浸炭窒化後にオーステナイ
ト温度域に恒温保持するよりフェライト温度域に保持す
る方が鋼中にチャージされた水素を短時間で排出できる
ことを意味する。
度に相当)の関係を示す。図2から明らかなように、A
1 変態点以下の温度での透過速度は浸炭温度であるA1
変態点以上の温度よりも大きい。これは、水素の拡散の
速さが鋼の組織に依存しており、オーステナイト組織中
よりもフェライト+パーライト組織中の方が拡散が速
く、A1 変態点以下で保持することにより鋼中にチャー
ジされた水素を効率よく排出できることを意味する。
について、水素量とマルテンサイト量の観点から明らか
にするために以下の実験を行った。表1の成分の鋼A〜
Dについてそれぞれφ30×10mmの試験片を100
個作製し、950°Cで5時間浸炭処理を施した後、種
々の時間で恒温保持し、次いで、室温まで放冷した。
(1)式により算出した。放冷後の100個の試験片の
内50個は直ちにドライアイスを入れたジュワー瓶に入
れて保存した。これらの試験片は表面研磨後、脱脂、冷
風乾燥してから水素測定を行い、該測定はジュワー瓶か
ら試験片を取り出してから1時間以内で開始した。残り
の50個の試験片については中心軸線を含む断面を切り
出し、光学顕微鏡を用いて組織観察によりマルテンサイ
ト面積率を調査した(全断面積に対するマルテンサイト
の占める面積の比を求めた。)。
定条件を以下に示す。 加熱炉:赤外線イメージ炉 加熱温度:室温〜700°C 昇温速度:10°C/min 水素測定の結果を表2に示し、また、割れの発生状態に
ついてマルテンサイト面積率と鋼中の水素濃度との関係
で整理したものを図3に示す。
矢印は、マルテンサイト面積率が25%以上であること
を示している。図3より恒温状態が進行して水素のトラ
ップサイトであるマルテンサイトの面積率が減少するの
に伴い、水素量も減少しているが、マルテンサイト面積
率が5%以下で且つ鋼中水素濃度が2ppmとなる条件
では、放冷割れ、白点性欠陥のいずれも生じない。
0%以下では、鋼中の水素濃度は4ppm以下であり、
白点性欠陥発生の危険性は低いが、マルテンサイト面積
率が5%以上となっているので、A4,B6,C10の
ように放冷割れが発生してしまうのに加え、C8の条件
のように水素濃度が4ppmに近いと白点性欠陥が発生
する場合もある。
となると、水素量は相対的に高まり、4ppmを越える
条件では白点性欠陥が生じ、また、C4,C6,B4の
条件のように4ppm以下でもマルテンサイト面積率が
高いので、放冷割れが生じる。
を同時に防止するための条件として、マルテンサイト面
積率が5%以下、鋼中水素量は2ppm以下(更に好ま
しくは1ppm以下)とするのが望ましい。
に、バンド状のマルテンサイト(後述する。)が形成さ
れる鋼においては、このマルテンサイトが水素の拡散を
阻害し、水素がトラップされやすく水素濃度が高くなる
のに加え、マルテンサイト変態による内部応力によっ
て、放冷割れ、白点性欠陥のいずれも生じる危険が最も
高い。このような鋼では、浸炭又は浸炭窒化後に恒温保
持する熱処理を施すと、水素のトラップされる部位であ
るマルテンサイトが減って水素濃度を低下させることが
でき、応力の発生も防止できるので、放冷割れ、白点性
欠陥をいずれも防止するのに特に適している。 3.組織について 浸炭あるいは浸炭窒化後に直接冷却した場合、炭素はマ
ルテンサイト及び残留オーステナイト中に固溶してお
り、炭化物はほとんど存在しない。これに二次焼入れ処
理を施すと、炭素の吐き出しが生じ球状化炭化物が生じ
るが、炭化物の核が存在しないため析出が遅く、オース
テナイト粒の粗大化を抑制できないため、焼入れにより
粗大なマルテンサイトが生じてしまう。
炭窒化後の恒温焼鈍処理により、表面組織は微細なパー
ライト組織あるいはセメンタイト+微細パーライト組織
で炭化物が均一且つ多量に存在した状態にある。このよ
うに既にセメンタイトの核が多量に存在していると、焼
入れ温度への昇温時に層状炭化物の分断により球状化が
極めて迅速に進行し、多量の球状炭化物が均一微細に分
散する。この均一微細な炭化物が二次焼入れ処理温度に
保持した際にピン止め効果を発揮してオーステナイト粒
の粗大化を抑制するため、その後の焼入れ時に極めて微
細なマルテンサイト組織が得られる。
後に恒温保持を施すことにより、放冷割れ及び白点性欠
陥を同時に防止し、且つ、微細なマルテンサイト組織が
得られて靭性、疲労強度を大幅に向上させることができ
る。
際のマルテンサイト及び鋼中の水素の残存について説明
する。放冷時にマルテンサイトが最も形成されやすい部
位、すなわち最も焼きが入りやすい部位は、浸炭硬化層
部(表面)と非浸炭部(芯部)の境界付近で炭素濃度が
0.7〜0.8%の領域であり、この領域は炭素量でみ
ると共析組成に近くなっている。浸炭処理を行うと、表
面の硬化層は炭素濃度が約1%の過共析(セメンタイト
+パーライト組織)となり、ある深さから次第に炭素濃
度が低下し、芯部は炭素濃度が0.2〜0.5%の亜共
析(フェライト+パーライト組織)となる。焼きの入り
やすさは、一般的に共析>過共析>亜共析となってお
り、浸炭硬化層部と非浸炭部の境界付近は炭素濃度が
0.7〜0.8%であるため、組成的に焼きが入りやす
く、図4に示すように、バンド状にマルテンサイト組織
が形成される場合もある。
多量に添加された鋼では、図5のCCT図(連続冷却変
態曲線)が長時間側に移動し(すなわち合金元素の拡散
が遅い)、放冷程度の冷却速度で芯部にまで焼きが入る
ケースがある。
く、大型品のような数十時間の浸炭処理で、ほぼ飽和量
(約6ppm)の水素がオーステナイト組織中に溶け込
んでおり、冷却によって生じたマルテンサイト組織中に
はオーステナイトと同程度の高濃度の水素が残存してし
まうのに対し、フェライト+パーライト組織では2pp
mまでしか水素は溶け込むことができない。
中(芯部)に溶け込んだ水素は、冷却に伴って外部に排
出されるが、フェライト+パーライト組織となっている
部位では水素の溶解度も小さく、拡散も速いので水素が
残存しないのに対して、マルテンサイト組織となると浸
炭時に侵入した水素がほぼそのまま残ってしまうことに
なり、しかも、マルテンサイト組織中では水素の拡散が
フェライト+パーライト組織中での拡散に比べ大幅に小
さいため、マルテンサイト中の水素は容易に減少しな
い。特に、バンド状にマルテンサイト組織がある場合は
マルテンサイト組織とフェライト+パーライト組織との
境界に水素がトラップされガス化して割れが発生すると
考えられる。
て、マルテンサイト組織の中、及びマルテンサイト組織
とフェライト+パーライト組織との界面であり、浸炭放
冷時にマルテンサイトを減らすことで水素量が減少す
る。その他、水素が残存しやすい部位として、MnS介
在物と基地との界面があり、最近の研究報告によると、
水素は転位にトラップされるという説がある。
素のトラップの部位は、浸炭又は浸炭窒化した表面硬化
層に限定されるものではなく、断面全体における金属組
織に関与すると捕らえなければならず、バンド状マルテ
ンサイトの発生部位についても上述した水素濃度2pp
m以下(更に好ましくは1ppm以下)、マルテンサイ
ト面積率5%以下の部位として限定できない。
される場合だけ、放冷割れ、白点性欠陥が生じるのでは
なく、芯部にマルテンサイトがまだらに形成され、これ
がやはり放冷割れ、白点性欠陥を生じる原因となるの
で、バンド状マルテンサイトにのみ注目して水素濃度2
ppm以下、マルテンサイト面積率5%以下の部位を限
定するのは適切でないからである。
だら状のマルテンサイトは浸炭(又は浸炭窒化)後、恒
温保持をせず放冷した場合にのみ生じる。本発明のよう
に浸炭(又は浸炭窒化)後、恒温保持をした場合はフェ
ライト+パーライト変態が進行しているため、バンド状
のマルテンサイトの形跡を特定することはできない。バ
ンド状マルテンサイトが問題となるのは、浸炭後に恒温
保持をせずに放冷した場合だけであり、浸炭後に恒温保
持した場合には水素濃度2ppm以下、マルテンサイト
面積率5%以下になる。
る。 [浸炭あるいは浸炭窒化後の恒温保持温度]まず、白点
性欠陥の防止の点から恒温保持温度を検討した。図2に
示した温度と水素の透過量(透過速度)との関係から、
水素の透過速度はA1 変態点直下が最も大きな値をとっ
ており、水素排出の効率からみると恒温保持温度はA1
変態点直下が最も適している。保持温度が600°C以
下になると、浸炭温度である900〜950°Cよりも
水素の拡散速度が遅くなって水素の排出が有効に行われ
ないので、最低600°C以上で保持することが望まし
い。
を検討すると、恒温変態が速く進行する温度が望まし
い。A1 変態点直下は変態速度が遅いので、温度の上限
はA1変態点以下30〜50°Cより低い温度が望まし
い。また、Moを添加した鋼は、パーライト変態曲線の
みが長時間側に移行し、特に保持温度が600°C以下
では入り江が形成されて恒温変態の進行が急激に遅くな
るので、保持温度の下限値は600°C以上が望まし
い。
止する際の恒温保持温度としては600°C〜A1 変態
点以下30〜50°Cの温度範囲が最も望ましい。 [恒温保持時間]鋼の恒温変態が完了する時間は、通
常、合金元素の添加により遅くなる。ここで、本発明者
等は恒温変態特性に影響する添加元素として、パーライ
ト変態を遅らせるMo,Ni,Mnの3元素に注目して
調査をした結果、変態の遅延の程度はMo>Ni>Mn
となっており、これらの元素の含有量の総和でA1 変態
点以下で恒温保持した際の変態完了時間を決定できるこ
とを実験的に見出した。
1 変態点以下の温度で恒温保持してから放冷した場合、
マルテンサイトの面積率が5%以下になる恒温保持時間
t(Hr)とMo,Ni,Mnの総和の関係は次式のよ
うになる。
割れを防止するのに最低限必要な恒温保持時間を決定す
ることができる。また、(1)式で決定された恒温保持
時間t(Hr)を満たす熱処理を施せば、二次焼入れの
場合に結晶粒が微細化しない材料を用いた機械部品であ
っても微細化ができ、機械的性質の向上、例えば転がり
軸受に用いた場合には転がり軸受寿命を長寿命とするこ
とができる。
を参照して、マルテンサイト面積率が20%以下、すな
わち恒温変態が80%進行した状態で、鋼中の水素濃度
は白点性欠陥が生じない水準に低下しているので、
(1)式から決定される恒温保持時間で問題ない。
上述した600°C〜A1 変態点以下30〜50°Cの
温度で、(1)式で決定された恒温保持時間t(H
r)、無酸化雰囲気下で行うことにより、従来の酸化雰
囲気下で中間焼鈍をする方法に比べ、機械部品等の脱炭
防止ができる(黒皮部の形成)。
め、Mo,Ni,Mn等を多く含む鋼にしなければなら
ない。したがって、恒温保持時間も長くなる。また、表
面硬化層深さを深くしなければならないので、浸炭(又
は浸炭窒化)時間が長くなり、水素が鋼中に入りやすく
なる。 [冷却方法、冷却速度]浸炭あるいは浸炭窒化温度から
恒温保持温度への冷却時に冷却速度が遅すぎると、基地
であるオーステナイトから炭素が吐き出され、セメンタ
イトがオーステナイト粒界に沿って網目状に析出し、網
目状炭化物近傍のオーステナイト中の炭素濃度が減少す
る。この状態でA1 変態点以下に温度が低下すると、共
析変態によりオーステナイトからパーライトが生じる
が、炭化物の核が存在しているために層状に炭化物は析
出せずに、網目状炭化物の粗大化が優先的に進行してま
い、網目状炭化物近傍は炭素濃度が減少しているため、
フェライトとなる。この状態から二次焼入れ処理でオー
ステナイト温度域に再加熱を行っても、網目状炭化物の
一部は基地中に再溶解するものの、網目状炭化物近傍の
オーステナイト中の炭素濃度は低いため十分な球状化セ
メンタイトの析出は起こらず、球状化セメンタイトの欠
乏領域が形成され硬さが低下する。これを防止するに
は、粒界初析セメンタイト析出を抑制するように最低2
〜3°C/min以上の速度で、所定の恒温保持温度ま
で冷却を行うとよい。
程度の冷却速度で速やかに冷却することが好ましい。し
たがって、冷却速度は2〜20°C/min、好ましく
は10〜20°C/minで冷却するのがよい。
温保持温度より低下して、芯部(非浸炭部)のMs点以
下にまで低下した場合は、マルテンサイトが形成され、
且つ、多量の水素が残存した状態であるため、放冷割れ
と白点性欠陥のいずれもが生じる危険が高まる。したが
って、浸炭あるいは浸炭窒化後の恒温保持を施す前に、
芯部のMs点以下に温度が低下するのは避けなければな
らない。なお、恒温保持後、室温への冷却時の冷却速度
は既に恒温保持によりパーライト変態が完了しているの
で任意の冷却速度で冷却できる。
いて述べる。なお、%は重量%とする。 C:0.2%未満になると、浸炭又は浸炭窒化処理時間
が長くなり、熱処理生産性が悪化する一方、0.5%を
超えると、靭性が大きく低下するので、Cの含有量は
0.2%〜0.5%が好ましい。
て焼入れ性を向上させると共に、基地マルテンサイトを
強化するので、好ましくは0.1%としたい。また、耐
焼戻し軟化抵抗性を高めて高温特性を向上させる元素で
あるが、過剰な添加は、被削性、鍛造性を劣化させる
上、浸炭あるいは浸炭窒化時にその浸炭深さが急激に減
少することとなるので、Siの含有量は0.1%〜1.
0%が好ましい。
固溶強化する他、浸炭あるいは浸炭窒化により表面層に
炭化物、窒化物及び炭窒化物を析出させ、機械的性質の
向上、例えば転がり軸受では転動疲労寿命の向上に役に
立つので、Cr含有量の下限値は0.3%としたい。
0.3%以下ではその添加効果が少ない。また、多量に
添加すると、表面にCr酸化物が形成され、浸炭あるい
は浸炭窒化時に炭素や窒素が表面から侵入するのを阻害
し、熱処理生産性を低下させるので、Crの含有量は
0.3〜2.0%が好ましい。
残留オーステナイト(異物混入下での転がり寿命に有
効)の生成元素であるため、望ましくは含有量を0.2
%以上としたい。但し、Mnは素材のフェライトを強化
する元素であり、含有量が多すぎると冷間加工性が著し
く低下するので、Mnの含有量は0.2〜1.5%が好
ましい。
性を高める。その効果は0.3%以上の添加で顕著にな
る。しかし、含有量が3.5%を超えてもその効果は向
上せず、過剰な添加はコストが高くなるので、Niの含
有量は0.3〜3.5%が好ましい。
抵抗性を増大させ、浸炭窒化により表面層に炭化物、窒
化物及び炭窒化物を析出して、材料の硬さを向上する。
その効果は0.3%以上の含有量で顕著となる。しかし
ながら、含有量が1.5%を超えてもその効果は向上せ
ず、過剰な添加はコストが高くなるので、Moの含有量
は0.3〜1.5%が好ましい。
物として存在するが、MnSと基地の界面が水素のトラ
ップサイトとなるので清浄度を高めて0.02%以下に
するのが好ましい。 (実施例)この実施例は本発明の第1の態様の実施の形
態に対応するものである。
NU240相当リング材各200個について次のA〜F
の条件の熱処理を行った。表4に熱処理条件を示す。
0時間Rxガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行っ
た後、A1 変態点以下の650°Cで窒素ガス冷却を行
い、引き続き30時間恒温保持後、室温まで空冷し、次
いで、840〜860°Cで30分間保持した後、焼入
れ(硬化熱処理)を行い、次いで、160〜200°C
で2時間の焼戻しを行う。 [熱処理B−1]温度930〜950°Cで60時間R
xガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、室
温まで放冷し、次いで、840〜860°Cで30分間
保持した後、焼入れ(硬化熱処理)を行い、次いで、1
60〜200°Cで2時間の焼戻しを行う。 [熱処理B−2]温度930〜950°Cで60時間R
xガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、室
温まで強制空冷し、次いで、840〜860°Cで30
分間保持した後、焼入れ(硬化熱処理)を行い、次い
で、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行う。 [熱処理C]温度930〜950°Cで60時間Rxガ
ス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、A1 変
態点以下の650°Cで窒素ガス冷却を行い、引き続き
10時間恒温保持後、室温まで空冷し、次いで、840
〜860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化熱処
理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼
戻しを行う。 [熱処理D]温度930〜950°Cで60時間Rxガ
ス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、A1 変
態点以下の500°Cで窒素ガス冷却を行い、引き続き
30時間恒温保持後、室温まで空冷し、次いで、840
〜860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化熱処
理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼
戻しを行う。 [熱処理E]温度930〜950°Cで60時間Rxガ
ス+エンリッチガス+アンモニアガス7%の雰囲気で浸
炭窒化を行った後、A1 変態点以下の650°Cで窒素
ガス冷却を行い、引き続き30時間恒温保持後、室温ま
で空冷し、次いで、840〜860°Cで30分間保持
した後、焼入れ(硬化熱処理)を行い、次いで、160
〜200°Cで2時間の焼戻しを行う。 [熱処理F]温度930〜950°Cで60時間Rxガ
ス+エンリッチガス+アンモニアガス7%の雰囲気で浸
炭窒化を行った後、室温まで放冷し、次いで、840〜
860°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化熱処
理)を行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼
戻しを行う。
て、上述した表1の成分の鋼に対して行った方法と同様
の方法にて鋼中の水素濃度を測定すると共に、組織観察
よりマルテンサイト面積率を調査した。また、疲労試験
により疲労強度を調査した。疲労強度試験機は、図7に
示すように、リング材(試験片)を回転可能に挟持する
荷重ロール及び駆動ロールと、リング材の外周部を支持
するサポートロールとを備える。疲労試験は、駆動ロー
ルの回転数をN=1000rpmで行い1×10 6 回を
疲労限とした。その結果を表5に示す。なお、熱処理条
件B〜Fでは表3の鋼種1,2,6についてのみ評価を
行った。
〜6(実施例)においてはいずれも上述した(1)式か
ら求めた恒温保持時間t(Hr)が5〜28時間の範囲
で実際の恒温保持時間の30時間を下回っているので、
いずれの鋼種1〜6も鋼中の水素濃度が1ppm以下と
少なく、また、マルテンサイト面積率が5%以下となっ
ており、白点性欠陥及び放冷割れの発生の可能性は非常
に低い。しかも、二次焼入れ時のマルテンサイト組織微
細化の効果により高い疲労強度を示している。
から算出される恒温保持時間t(Hr)が40時間以上
となって実際の恒温保持時間の30時間より大きい値と
なるため、30時間の保持時間では恒温変態が完了して
おらず、したがって、マルテンサイトが多量に形成さ
れ、しかも、水素濃度が3ppmの高い値をとっている
ため、放冷割れ及び白点性欠陥のいずれもが発生する危
険性が高い。また、疲労強度が低いが、これは恒温変態
が完了していないため、二次焼入れ処理でのマルテンサ
イト組織の微細化が十分に進行しなかったためである。
Mo等の添加量が少ないため、恒温保持を施さなくても
パーライト変態が完了し水素濃度も低いが、疲労強度が
大幅に低下している。これは合金元素の添加量が少なす
ぎて、二次焼入れ処理時に不完全焼入れ組織が形成さ
れ、硬さが低下したためである。 [熱処理B−1、B−2]この熱処理条件では、恒温保
持の工程がないため、水素の排出が十分に行われず、且
つ、浸炭後の放冷により組織全体がマルテンサイトとな
っており、白点性欠陥と放冷割れの両方が生じる危険性
が極めて高くなっている。
−2より条件B−1の方が冷却速度が大きいため、冷却
中に排出される水素量が少なく、また、条件B−2は条
件B−1より鋼中の水素濃度が4ppm以上の高い値を
とるため白点性欠陥の発生の可能性は高い。また、恒温
保持を施していないので、二次焼入れ時にマルテンサイ
ト組織は微細化しないため疲労強度はいずれの鋼種も低
い。 [熱処理C]鋼種1,2では鋼中の水素濃度が1ppm
程度と低く、マルテンサイト面積率も5%以下となって
おり、放冷割れと白点性欠陥が生じる危険性は低い。ま
た、疲労強度も鋼種1、2は高い値を示す。しかし、鋼
種6では鋼中の水素濃度が3ppm以上と高いのに加
え、マルテンサイト面積率も高く、放冷割れと白点性欠
陥の両方が生じる危険性が高い。これは実際の恒温保持
時間の10時間が、(1)式から算出される鋼種6の最
低限必要な恒温保持時間(28時間)に対して短すぎる
ためであるが、鋼種1〜5のように低合金鋼を用いる場
合は、熱処理CもA1 変態点直下〜600°Cの恒温変
態条件を満たす。大型部品では、肉が厚く、浸炭又は浸
炭窒化硬化層深さが深いことが求められる。したがっ
て、焼入れ性向上のために、鋼種6,8,9のような高
合金鋼にする必要がある。このような場合には、No.
6のような鋼種は30時間程度の恒温保持をすること
で、放冷割れと白点性欠陥が生じる危険性を低くするこ
とが可能になる。 [熱処理D]いずれの鋼種1,2,6も鋼中の水素濃度
が高く、マルテンサイト面積率も高い。これは実際の恒
温保持時間は30時間と長いにもかかわらず、恒温保持
温度が500°Cと低いので、水素の排出が不十分でし
かも恒温変態の進行が遅く変態が完了していないためで
あり、放冷割れと白点性欠陥の両方が生じる危険性が高
い。また、恒温変態が完全に終了していないので二次焼
入れ時のマルテンサイト組織の微細化の効果は小さく疲
労強度は低い。 [熱処理E]上述した熱処理条件Aと同様の理由で、浸
炭窒化処理の場合でもいずれの鋼種1,2,6にも割れ
の発生は認められず、高い疲労強度を示している。浸炭
処理のみならず浸炭窒化処理においても本発明に係る熱
処理方法は割れの防止、組織の改善に極めて有効であ
る。 [熱処理F]浸炭窒化処理を施した場合でも恒温保持を
施していないため、上述し熱処理条件Bの場合と同様
に、水素濃度は4ppm以上と高く、マルテンサイトが
多量に形成されているため、白点性欠陥及び放冷割れ発
生の危険性が高く、また、二次焼入れ処理時にマルテン
サイト組織が微細化されないため疲労強度も低い。
ある熱処理品(第2の目的に対応)について説明する。
なお、この実施の形態では、熱処理品として、鉄鋼、圧
延機用ロールネック等に用いられる厚肉で大型の軸受を
例に採る。
窒化処理後の放冷時に、偏析などに起因して形成される
層状の部分的なマルテンサイト組織の生成量を放冷後の
マルテンサイトの面積率が80%以上または10%以下
となるように限定することによって、放冷割れや白点性
の欠陥が発生するという問題を解決し、これにより、低
コストで転がり軸受の長寿命化を図ることができるよう
にしたものである。
終了後に、浸炭炉から転がり軸受部品を大気中の炉外へ
取り出して放冷処理を行う場合には、添加された合金量
や冷却速度のばらつきによって、ミクロ組織は種々の形
態となる。本発明者らが、放冷後に問題となった割れや
白点性の欠陥について調査研究を行うと、ミクロ組織観
察からは、主にミク口偏析に起因したバンド状のマルテ
ンサイトが生成しており、このバンド状のマルテンサイ
ト組織部を起点として割れが発生していることが判明し
た。
冷却速度に差が生じ、これに伴って大きなマルテンサイ
ト変態応力が生じることに起因する。つまり、部分的に
マルテンサイトが生成する際に、体積膨張が起こり、そ
の周囲の組織との境界面との間で引張り応力が発生し割
れに至る。本発明者等は、この解決策として、組織内で
中途半端な量のマルテンサイトが生成することを防止す
れば(マルテンサイトの面積率を限定する)、割れに至
らないことを知見した。
理後の冷却時や室温放置時に生じるもので、破面の断面
を観察すると白点が認められるものであり、原因は水素
に起因するものである。浸炭または浸炭窒化雰囲気には
一般的にRxガスが使用されており、このガス中には約
30%の水素が含まれている。この水素が、部分的に生
成したマルテンサイトにトラップされ白点性の欠陥に至
る。本発明者等は、この解決策として、放冷割れ対策同
様に、部分的なマルテンサイトの生成を限定すれば白点
性欠陥を無くすことができることを知見した。
述したように、本発明者等は、放冷後に発生した割れや
白点性の欠陥と、放冷後のミクロ組織観察との関係につ
いての調査・研究において、放冷後のマルテンサイト面
積率を限定することにより、割れや白点性欠陥の発生が
なくなることを知見した。つまり、放冷後のミクロ組織
において、マルテンサイトの面積率を80%以上にする
と、その他の組織との境界面積が減少し、放冷割れに至
るまでの応力差を受ける部分が無くなることや、水素が
集中する部分が無くなることから、割れや白点性欠陥は
生じなくなる。
%以下とすることでも、上記と同様の理由から割れは発
生しなくなる。かかる知見に基づいて、放冷後のマルテ
ンサイトの面積率を80%以上または10%以下に限定
した。
炭または浸炭窒化時のRXガス中の水素であり、この水
素ガス中に長時間曝されているものほど上記マルテンサ
イトの面積率の限定効果は大きい。例えば、浸炭または
浸炭窒化時間が50時間を越える場合、マルテンサイト
の面積率が80%以上または10%以下でないと、白点
性の欠陥発生率が高くなってしまう。このことから、マ
ルテンサイト面積率限定範囲は50時間以上の浸炭また
は浸炭窒化時間を有する場合には、より有効である。
いて述べる。%は重量%とする。 C:Cは0.15%未満では、浸炭または浸炭窒化処理
の時間が長くなり、生産性が悪化する。一方、0.50
%を超えると靭性が大きく低下するので、Cの含有量は
0.15%〜0.50%とする。
るものであるが、0.15%未満では脱酸効果がなく、
また、1.0%を超えると浸炭または浸炭窒化のむらを
生じ、部分的に十分な硬さが得られないことがあるた
め、Siの含有量は0.15〜1.0%とする。
溶強化する他、浸炭または浸炭窒化により表面層に炭化
物、窒化物および炭窒化物を析出させ、機械的性質の向
上に役立つので、Cr含有量の下限値は0.30%とす
る。0.30%以下では、その添加効果が少ない。ま
た、多量に添加すると、表面にCr酸化物が形成され、
浸炭または浸炭窒化時に炭素や窒素が表面から侵入する
のを阻害し、生産性を低下させるので、Crの含有量は
0.30%〜2.0%とする。
残留オ―ステナイト(異物混入下での転がり寿命に有
効)の生成元素であるため、下限値を0.35%とす
る。但し、1.50%を超えると偏析による異常組織が
発生し、製造中に割れを生じたり、また、素材のフェラ
イトを強化する元素であるが、含有量が多すぎると冷間
加工性が著しく低下するので、Mnの含有量は0.35
%〜1.50%とする。
性を高める。しかし、含有量が3.5%を超えるとその
効果は向上せず、偏析による異常組織が発生し製造中に
割れを生じてしまう。また、過剰な添加はコストが高く
なるので、Niの含有量は3.5%以下とする。
を増大させ、浸炭窒化により表面層に炭化物、窒化物お
よび炭窒化物を析出して、材料の硬さを向上させる。し
かし、含有量が1.50%を超えてもその効果は向上せ
ず、過剰な添加はコストが高くなるので、Moの含有量
は1.50%以下が望ましい。
物として存在するが、MnSと基地の界面が水素のトラ
ップサイトとなるので清浄度を高めて0.010%以下
とする。 ( 実施例)この実施例は本発明の第2の態様の実施の形
態に対応するものである。
て、NU240内輪相当リングを次のM1〜M4に示す
熱処理条件において製作し、放冷割れ、白点性欠陥の評
価を行った。
すア〜ソの各処理につき210個のリングを製作し、熱
処理完成後、内及び外径表面を0.2mm研削加工した
後、蛍光磁粉探傷および超音波探傷法によりリングの割
れおよび白点性欠陥の発生率を評価したものである。
ウトクレマー社製 超音波探傷機 USD−15 日本クラウトクレマ―社
製 測定方法:表面波法、斜角法によって表面近傍および内
部の割れ、欠陥を検出した。
断して欠陥調査を行い、割れまたは白点性の欠陥を確認
した。 [熱処理M1]温度930°Cで100時間Rxガス+
エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行い、その後、炉から
リングを取り出し、室温まで大気放冷を行った。なお、
オ,キについては放冷時にファンを回し、比較的速い冷
却を行い所定のマルテンサイト面積率とした。 [熱処理M2]温度930°Cで80時間Rxガス+エ
ンリッチガス+アンモニアガス8%の雰囲気で浸炭窒化
を行い、その後、炉からリングを取り出し、室温まで大
気放冷を行った。 [熱処理M3]温度930°Cで50時間Rxガス+エ
ンリッチガスの雰囲気で浸炭を行い、その後、炉からリ
ングを取り出し、室温まで大気放冷を行った。 [熱処理M4]温度930°Cで30時間Rxガス+エ
ンリッチガスの雰囲気で浸炭を行い、その後、炉からリ
ングを取り出し、室温まで大気放冷を行った。
を行った後、リング10個については組織観察によりマ
ルテンサイト面積率の調査を行った。残ったリングは全
て820〜860°Cで30分間保持した後、焼入れを
行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを
行った。
よび図9に示す。図8は浸炭時間100Hrのときの放
冷割れ、白点性欠陥発生率とマルテンサイト面積率との
関係を、図9は放冷割れ、白点性欠陥発生率と浸炭、浸
炭窒化時間との関係を示す。
たリングにおいて、マルテンサイト面積率が10%以下
では割れは発生しないものの(カ)、10%を超えると
割れの発生が認められ(ア,イ,ウ,エ,オ)、45%
でピークとなり、80%を越えると割れは発生しなくな
る(キ)。
を10%以下または80%以上とした。また、ファン冷
却の有無等により放冷冷却速度を変えた場合では、同一
鋼種(ウ,キ)においても冷却速度を変え、本発明範囲
のマルテンサイト面積率にすることによって、割れの防
止は可能である(キ)。本発明のマルテンサイト面積率
限定によると浸炭或いは浸炭窒化時間に関係なく、確実
な割れの防止が可能である。
時間を超えると、本発明のマルテンサイト面積率範囲外
(イ,ウ,エ,ク,ケ,コ)でリングに割れが多く発生
しはじめ、浸炭時間が長くなるにつれて、割れ発生率も
高くなっていく。50時間以下の浸炭または浸炭窒化時
間では、割れ発生率は少なくなるもののマルテンサイト
面積率45%および60%のリング(サ,シ,ソ)に一
部少数の割れが認められる。これらのことから、本発明
のマルテンサイト面積率限定は、浸炭または浸炭窒化処
理時間が50時間を超える条件、即ち、大型の転がり軸
受では、より効果的であり、本発明のマルテンサイト面
積率の範囲内であれば、100時間の浸炭を行っても割
れの発生は認められなかった。
ある転がり軸受(第3の目的に対応)を説明する。この
実施の形態の転がり軸受は、軌道輪および転動体の少な
くとも一つが、その成分が重量%で、C:0.2〜0.
5%、Mn:0.5〜1.2%、Cr:0.5〜2.0
%、Ni:0.6%以下、Mo:0.8〜1.5%を含
有する合金鋼でなり、浸炭或いは浸炭窒化処理後の冷却
時に、炉冷、または非浸炭部のMs点以上で、浸炭部お
よび非浸炭部のA1 変態点以下の温度域に恒温保持する
熱処理を施し、その後、焼入れ・焼戻し処理を施して完
成品表面における炭化物、窒化物及び炭窒化物の全面積
率に対するMo含有炭化物、Mo含有窒化物及びMo含
有炭窒化物の面積率の比が0.2以上、0.5以下と
し、これにより、セメンタイトより硬質かつ微細なMo
複炭化物の析出量を最適化して、異物混入潤滑下での転
がり軸受の長寿命化を図るようにしたものである。
意義について詳説する。 C:軸受として必要な硬さ(HRC60以上)を得るた
めには、該軸受表面に炭素が0.2%以上含有されてい
ることが必要となる。軸受表面に浸炭あるいは浸炭窒化
処理を施して表面硬化を行う際、炭素含有量が0.2%
未満になると浸炭又は浸炭窒化処理時間が長くなり、コ
ストがかかるとともに熱処理生産性が悪化する。また、
コア(芯部)に硬さが不足し、コアが塑性変形して転が
り軸受の寿命が低下する。一方、炭素含有量が0.5%
を超えると靭性が大きく低下する。以上より炭素含有量
を0.2%以上0.5%以下とする。
固溶強化するほか、浸炭あるいは浸炭窒化により軸受表
面層に高硬度で微細な炭化物、窒化物および炭窒化物を
析出させ、これにより、軸受材料の硬さを向上させて転
勤疲労寿命を高めるのに役に立つ。Cr含有量の下限値
として0.5%としたのは、これ以下ではその添加効果
が少ないためである。また、多量に添加すると表面にC
r酸化物が形成され、浸炭あるいは浸炭窒化時に炭素や
窒素が表面から侵入するのを阻害し、熱処理生産性を低
下させる。また、Cr含有量が多すぎると、Cr23C6
型の炭化物が安定に形成されてしまい、後述するMo複
炭化物の形成に寄与しなくなるので、望ましくはCr含
有量の上限値を2.0%とする。
に異物混入下での転がり寿命に有効な残留オーステナイ
トの生成元素であり、Mnの含有量は最低0.5%以上
とする。ただし、Mnは素材のフェライトを強化する元
素であり、含有量が1.2%を超えると、冷間加工性が
著しく低下するので、Mnの含有量は0.5〜1.2%
が望ましい。
物混入下での転がり寿命に有効な残留オーステナイトの
生成元素であり、また、靭性を高める。しかし、含有量
が0.6%を超えると浸炭性が阻害され、また、残留オ
ーステナイトが過剰となって硬さが低下する。更に、過
剰な添加はコストが高くなるので、Niの含有量は0.
6%以下としたい。
抵抗性を増大させ、更に非常に強力な炭化物形成元素で
あり、焼入れ、焼戻しにより種々の微細な炭化物を形成
する。特に、Cr−Mo鋼ではセメンタイトの他にM23
C6 系の炭化物が析出する。この炭化物の組成について
は完全に明らかにされていないが、Fe21Mo2 C6型
の複炭化物型であることが示唆されている(日本学術振
興会 製鋼第19委員会編 誠文堂新光社 増補版 鉄
鋼と合金元素(上) 1971年12月6日、頁104
3〜1086)。
00)は、セメンタイトの硬さ(Hv1200〜160
0)(日本金属学会編 講座 現代の金属学材料編4
鉄鋼材料 1985年6月20日 頁137)よりも大
きく、更にこの炭化物の生成・成長にはMo原子の濃縮
が必要となるため、浸炭温度、あるいは焼入れ温度に保
持した際に粗大化が遅く、微細分散状態が保たれて軸受
の寿命延長に寄与する。Mo複炭化物の析出量は0.8
%以上の添加で顕著となるが、含有量が1.5%を超え
ると複炭化物が粗大化してその効果は飽和し、また、過
剰な添加はコストが高くなるので、Moの含有量は0、
8〜1.5%が望ましい。
て焼入れ性を向上させると共に、基地マルテンサイトを
強化するので、好ましくは0.1%としたい。また、耐
焼戻し軟化抵抗性を高めて高温特性を向上させる元素で
あるが、過剰な添加は、被削性、鍛造性を劣化させる
上、浸炭あるいは浸炭窒化時にその浸炭深さが急激に減
少することとなるので、Siの含有量は0.1%〜1.
0%が望ましい。
物として存在するが、MnSと基地の界面が水素のトラ
ップサイトとなるので清浄度を高めて0.02%以下に
するのが好ましい。 [ 熱処理条件およびMo複炭化物比]本発明者等は、転
がり軸受の異物環境下寿命に及ぼすMo複炭化物の影響
について、鋭意研究を行い、本発明範囲の材料において
熱処理条件によって寿命に著しい差異が生じることを見
出した。即ち、 (1)浸炭あるいは浸炭窒化処理後、放冷した場合にマ
ルテンサイトが多量に形成されると、熱処理完了後の炭
化物の析出が少なく、短寿命となる。 (2)浸炭あるいは浸炭窒化処理後、いったんパーライ
トを析出させると、熱処理完了後の炭化物の析出が多
く、長寿命となる。 (1)の理由として、Moの焼入れ性を大幅に向上させ
る作用によるものと考えられる。Mo含有鋼では、焼入
れ性が高いために、浸炭温度から放冷のような冷却速度
でマルテンサイトが生じ、また、合金濃度が高い領域で
は残留オーステナイトが生成される。このような組織で
は、炭素がマルテンサイトおよび残留オーステナイト中
にほとんど固溶した状態であり、炭化物は殆ど析出して
いない。したがって、この状態から焼入れ温度に再加熱
した場合、セメンタイトは比較的速やかに形成される
が、上述したようにMoの拡散が遅いためにMo複炭化
物の核生成に時間を要し、Mo複炭化物の析出は少な
い。
ナイト中に固溶する炭素量が増大し、Ms点が低下して
残留オーステナイト量が必要以上に増加してしまい、い
っそう硬さが低下して短寿命となってしまう。つまり、
浸炭あるいは浸炭窒化後の冷却で形成されるマルテンサ
イトの量がMo複炭化物の析出状態に影響を及ぼしてい
ると考えられる。
浸炭窒化温度からいったんフェライト+パーライト組織
となっているため、焼入れ温度に加熱した際にパーライ
トが均一かつ微細に炭化物の球状化し、炭化物反応が速
やかに行われ、Mo複炭化物の析出が促進される。
により、再加熱時のオーステナイト結晶粒の粗大化が抑
制されて、基地のマルテンサイト組織が微細化するた
め、強度が高まり寿命が増加する。
ト+パーライト組織とする方法として、炉冷のような極
めて遅い速度で冷却する方法がある。また、炉冷以外で
は、浸炭あるいは浸炭窒化後の冷却時に、引き続きA1
変態点温度以下に恒温保持を施してフェライト+パーラ
イト組織とする熱処理法がある。
00%完了しているのが望ましいが、恒温保持時間短い
と、フェライト+パーライトの割合が少なくなり、室温
への冷却によりマルテンサイトが形成されて、Mo複炭
化物の析出が不十分となることが予想される。
とMo複炭化物との関係、即ち、恒温変態が完了せずに
形成されるマルテンサイトの量が熱処理及び研削加工完
了後の完成品表面のMo複炭化物量に及ぼす影響、およ
びMo複炭化物析出量と転がり軸受の寿命との関係を明
らかにするために、以下の実験を行った。
れぞれφ60×6mmの試験片を作製した。表8の鋼種
はいずれもC,Mn,Cr,Ni,Moの含有量が本発
明範囲内にある。なお、鋼種11〜16のSiおよびS
含有量は、上述した第1の態様の実施の形態の好適範囲
(Si≦1.0wt%、S≦0.02wt%)を満足さ
せる値となっている。
処理後、引き続きA1 変態点以下の650°Cでマルテ
ンサイト面積率を変えるため、種々の時間、窒素雰囲気
中で恒温保持後、室温まで冷却した。また、860°C
に再加熱後、焼入れ硬化処理を施した後、160°Cで
2時間焼き戻し処理を施した。
恒温保持後の試験片については中心軸線を含む断面を切
り出し、断面を光学顕微鏡によるミクロ組織観察により
マルテンサイト面積率を測定した。
上が完了した試験片については表面に鏡面仕上げを施し
た後、EPMA(島津製作所製EPMA−1600)に
よりC,Cr,Moの各元素について面分析を行い、炭
化物面積率およびMo複炭化物の面積率を画像解析によ
り求めた。また、面分析結果において、ある一定値以上
のMo強度を示した炭化物をMo複炭化物として計測し
た。
化物を抽出し、X線回折法により炭化物の同定を行っ
た。電解液としては0.2N塩酸と5%クエン酸溶液の
混合溶液を使用し、陽極を試験片、陰極を銅として、電
流密度10mA/cm2 で電解し、陽極残渣を回収し
た。
電気製鋼研究所編 理工学社 1969年5月25
日)第10−21頁記載のスラスト形軸受鋼試験機を用
いて熱処理完了後の上記試験片を研削加工して黒皮を除
去したものをスラスト寿命試験した。試験条件は以下の
通りである。
混入 硬さ:HRC52 粒径:74〜147μm なお、試験に際して、各試験片についてその10%に顕
微鏡又は肉眼で視認できるクラック、フレーキングが発
生した時点を寿命(L10寿命)と判定し、この時点まで
の累積回転数をもって寿命の定量的表現とした。
ト面積率と熱処理及び研削仕上完了後の完成品表面にお
ける全炭化物面積率に対するMo複炭化物面積率の比の
関係を示す。
テンサイト面積率が20%以上、即ちフェライト+パー
ライトの割合が少ないと、Mo複炭化物比は小さい。こ
の場合、炭化物はX線回折の結果、セメンタイトのみを
確認し、Mo複炭化物はほとんど析出しないことが分か
る。ところが、熱処理完了後のMo複炭化物比は、恒温
保持後のマルテンサイト面積率が20%以下で増加し始
め、更に、恒温保持後のマルテンサイト面積率が5%以
下にまで恒温変態が進行すると、Mo複炭化物比が著し
く増大するのが分かる。
面積率が20%以下で増大するMo複炭化物は、M23C
6 であることを確認した。図11は図10において熱処
理及び研削加工完了品表面におけるMo複炭化物比が増
大する、浸炭、恒温保持後のマルテンサイト面積率が2
0%以下の試験片について、L10寿命とMo複炭化物比
との関係を示す。
以上で寿命が大幅に向上し、Mo複炭化物比が0.5ま
で増加傾向が続く。しかしながら、Mo複炭化物比が
0.5を超えると寿命の延長の効果が飽和するが、これ
は、Mo複炭化物が粗大化し始め、硬さの向上に寄与し
なくなるためと考えられる。
炭あるいは浸炭窒化処理後の冷却時に、炉冷あるいはA
1 変態点以下の温度域に恒温保持する熱処理を施して、
その後、焼入れ、焼き戻し処理を施し、熱処理完了品表
面のMo複炭化物面積比を0.2〜0.5の範囲とす
る。
後のマルテンサイト面積率が5%以下、即ちフェライト
+パーライトが95%以上となることが望ましい。した
がって、恒温保持の時間、温度及び恒温保持温度への冷
却条件としては、上述した第1の態様の実施の形態の好
適範囲を適用することができる。
面積率を5%以下にすると、マルテンサイト変態に伴う
変態応力による放冷割れや、また、浸炭あるいは浸炭窒
化時の雰囲気ガス中に含まれる水素ガスに起因する白点
割れの発生を防止する作用を有する。 [素材成分を変えた場合、及び熱処理方法を変えた場合
の影響]表9に示した組成の鋼21〜38を材料とする
φ60×6mm円盤状試験片について、次のような熱処
理T1〜T5を施した。ここで、表9の鋼種21〜29
はいずれもC,Mn,Cr,Ni,Moの含有量が本発
明範囲内にあり、30〜38はC,Mn,Cr,Ni,
Moの含有量が部分的に本発明範囲外にある。なお、鋼
種21〜29のSiおよびS含有量は、上述した第1の
態様の実施の形態の好適範囲(Si≦1.0wt%、S
≦0.02wt%)を満足させる値となっている。
時間Rxガス+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った
後、A1 変態点以下の650°Cで窒素ガス冷却を行
い、引き続き15時間恒温保持後、室温まで空冷し、次
いで、830〜860°Cで30分間保持した後、焼入
れ(硬化処理)を行い、次いで、160〜200°Cで
2時間の焼戻しを行った。 [熱処理T2]930〜950°Cで約6時間Rxガス
+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、室温まで
炉冷(脱炭防止のため窒素雰囲気中で30〜50°C/
Hrの冷却速度に制御)し、次いで、830〜860°
Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化処理)を行い、
次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを行っ
た。 [熱処理T3]930〜950°Cで約6時間Rxガス
+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、室温まで
放冷し、次いで、830〜860°Cで30分間保持し
た後、焼入れ(硬化処理)を行い、次いで、160〜2
00°Cで2時間の焼戻しを行った。 [熱処理T4]930〜950°Cで約6時間Rxガス
+エンリッチガスの雰囲気で浸炭を行った後、室温まで
放冷し、次いで、窒素雰囲気中650〜680°Cで4
時間の中間焼鈍処理を2回行った。次いで、830〜8
60°Cで30分間保持した後、焼入れ(硬化処理)を
行い、次いで、160〜200°Cで2時間の焼戻しを
行った。 [熱処理T5]930〜950°Cで約6時間Rxガス
+エンリッチガス十7%アンモニアガスの雰囲気で浸炭
窒化を行った後、A1 変態点以下の650°Cに窒素ガ
ス冷却を行い、引き続き15時間恒温保持後、室温まで
空冷し、次いで、830〜860°Cで30分間保持し
た後、焼入れ(硬化処理)を行い、次いで、160〜2
00°Cで2時間の焼戻しを行った。
21〜38について、上記同様にしてMo複炭化物比を
測定し、また、寿命試験を行った。表10及び表11に
熱処理(T1〜T5)、鋼種21〜38、研削加工完了
品表面のMo複炭化物比及びL10寿命を示す。
9、T2−21〜T2−29及びT5−21〜T5−2
9は本発明の実施例であり、T1−30〜T1−38、
T3−21〜T3−29及びT4−21〜T4−29は
比較例である。実施例はいずれもMo複炭化物比が比較
例に比べて高い値となっており、寿命延長の効果は著し
い。
の代わりに浸炭窒化処理を施した場合であるが、浸炭の
場合と同様の効果が得られる。この場合、Mo複炭化物
に加え、Mo複窒化物及びMo複炭窒化物も含まれてお
り、表10のT5−21〜T5−29のMo複炭化物比
の値はこれらを含む統計(完成品表面における炭化物、
窒化物及び炭窒化物の全面積率に対するMo含有炭化
物、Mo含有窒化物及びMo含有炭窒化物の面積率の
比)で評価している。このように窒素を付加することに
より、硬さをさらに高めることができるので、耐摩耗性
や転がり寿命の向上を図ることができる。したがって、
L10寿命についてもT1−21〜T1−29(浸炭)と
T5−21〜T5−29(浸炭窒化)を比較すると、ほ
とんどの場合、多少ではあるが浸炭窒化の方がより長寿
命となっていることが分かる。
炉冷した場合であり、Mo複炭化物比は高く、L10寿命
は長い。但し、炉冷による冷却は処理時間が増大するの
で、処理時間の観点からは、浸炭或いは浸炭窒化後、恒
温保持する方が望ましい。
元素含有量が本発明範囲外であり、L10寿命は短い。T
1−30は炭化物形成元素であるCr含有量が少なくて
炭化物の析出量が少ないため、T1−31はCrが過剰
でCr23C6 が安定となってMo複炭化物の析出量が少
ないため、それぞれ短寿命になったと考えられる。T1
−32はMo含有量が過少であるためセメンタイト中に
Moが固溶してしまい、これによりMo複炭化物比が小
さくなって短寿命となった。T1−33はMoを過剰に
含有しているため、熱処理条件T1の恒温保持時間の1
5時間では恒温変態が完了せずフェライト+パーライト
組織とならないことからMo複炭化物比が小さくなり、
短寿命を示した。T1−34、T1−35はいずれもM
o複炭化物比は高いが、T1−34はMn含有量が過少
であり、残留オーステナイト量が少ないため短寿命とな
り、一方、T1−35はMn含有量が過剰で残留オース
テナイト量が多くなりすぎ、硬さが低下したため短寿命
となった。T1−36はNi含有量が過剰で残留オース
テナイト量が多くなりすぎ、硬さが低下して短寿命にな
ったと考えられる。T1−37はC含有量が過少で炭化
物の析出量が少ないため短寿命になり、T1−38はC
含有量が過剰であるため表面層が過浸炭となり、多量に
析出したセメンタイト中にMoが固溶してMo複炭化物
比が小さくなったため短寿命となった。
炭化物比が実施例に比べて小さく、寿命が短い。これ
は、浸炭後、恒温保持をせず、放冷した後に焼入れ硬化
処理を行ったため、Mo複炭化物の析出量が少なく、十
分な表面硬さが得られないためである。
放冷した後、焼入れ処理前にA1 変態点以下の温度で中
間焼鈍を行った場合であるが、比較例T3−21〜T3
−29に比べて、中間焼鈍によって浸炭放冷時に形成さ
れたマルテンサイトが焼戻しされて炭化物が析出するの
で、焼入れ、焼戻し処理後のMo複炭化物比は増加して
いるが、本発明範囲外であり、寿命延長の効果は小さ
い。Mo複炭化物比を本発明範囲にするには、浸炭後、
A1 変態点以下の温度で恒温保持あるいは炉冷(徐冷)
して、フェライト+パーライト組織とした後、焼入れ、
焼戻しを行うことが必要である。
1の発明によれば、浸炭あるいは浸炭窒化による表面硬
化法を適用して製造される熱処理品において、従来の設
備をそのまま流用して製造できると共に、短時間の処理
で従来問題となっていた放冷割れ及び白点性欠陥の両方
を確実に防止することができ、しかも、組織を改善して
靭性を高めることができるので、機械部品の寿命延長を
図ることができるという効果が得られる。
炭窒化後に通常の放冷を行ってより短時間の熱処理で放
冷割れ及び白点性欠陥の両方を確実に防止することがで
きるので、低コストで機械部品の寿命延長を図ることが
でき、特に鉄鋼、圧延機用ロールネック軸受のような厚
肉で大型の軸受に好適なものとすることができるという
効果が得られる。
最適化してセメンタイトよりも硬質かつ微細なMoを含
むM23C6 系の炭化物の析出を促進せしめて表面層を硬
化することができるので、異物混入潤滑で長寿命な転が
り軸受を提供することができるという効果が得られる。
フ図である。
フ図である。
係を示すグラフ図である。
フ図である。
図である。
積率と欠陥発生率との関係を示すグラフ図である。
すグラフ図である。
複炭化物比とを関係を示すグラフ図である。
の関係を示すグラフ図である。
Claims (1)
- 【請求項1】 浸炭或いは浸炭窒化処理後の冷却時に、
非浸炭部のMs点以上、浸炭部及び非浸炭部のA1 変態
点以下の温度域に恒温保持する熱処理を施し、その後、
焼入れ硬化してなる金属組織を有することを特徴とする
熱処理品。
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