JP4123216B2 - 内燃機関の制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、内燃機関の制御装置において、吸入空気量の推定などを行うための技術に関する。
従来、一般的な内燃機関(ガソリンエンジン)では、スロットル弁によって吸入空気量を制御しており、特に目標トルクとなるように吸入空気量を制御するもので、スロットル弁を通過する吸入空気量を推定し、該推定した吸入空気量を、目標トルク設定のため、負荷の指標として用いるようにしたものがある(特許文献1参照)。
特開2002−256938号
一方、スロットル弁による絞り損失を無くし、燃費向上を図るため、吸気弁の作動特性(バルブタイミング、リフト量)を可変制御することによって、吸入空気量を制御するものがある。このものにおいても、目標トルクとなるような吸入空気量に制御する場合など、スロットル弁制御と同様に吸気弁を通過するシリンダ吸入空気量を推定し、目標トルク設定のため、負荷の指標として用いたい要求がある。
しかしながら、吸気弁による吸入空気量制御の場合、シリンダ吸入空気量は、バルブタイミングやリフト量によって大きく変化するため、推定に必要なパラメータの増大に応じてマップを多用(次元数の増大を含む)する構成とした場合には、ROM容量や適合工数が莫大に増大して実現困難である。
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、吸気弁による吸入空気量制御を行うものでもシリンダ吸入空気量を、マップを多用することなく、ROM容量や適合工数を押さえつつ、最小限の演算で推定できるようにすることなどを目的とする。
このため本発明は、吸気弁のバルブ特性を可変な可変動弁機構を備えた内燃機関の制御装置において、吸気弁のバルブ特性に応じた開口面積でソニック流として吸入した場合の吸入空気量QDと、吸気行程開始から終了までのシリンダ行程容積を吸気弁上流の吸気圧で満たした場合の吸入空気量QMAXと、吸気弁のバルブ特性に応じた実際の吸入空気量QCYLと、を用いて、QD/QMAXとQCYL/QMAXとを相互に一義的に決定される関数として設定し、機関制御に前記関数を用いる一方、
前記吸入空気量QMAXは、吸気行程終了時期としてシリンダ内で断熱圧縮が開始される実効吸気弁閉時期におけるシリンダ容積を用いて算出し、かつ、前記実効吸気弁閉時期を、機関回転速度と吸気弁のバルブリフト量とに基づいて、吸気弁閉時期からのオフセット補正量を算出し、該オフセット補正量によって吸気弁閉時期を補正して算出されるように構成した。
本発明者は、上記のように定義される吸入空気量QD、吸入空気量QMAXを用いると、両者の比QD/QMAXに対し、実際の吸入空気量QCYLと吸入空気量QMAXとの比QCYL/QMAXが一義的に決定されることを見出した。
これにより、過渡的な運転条件においてバルブタイミング等が変化した場合でも、QD/QMAXとQCYL/QMAXとの関数を用いて、シリンダ吸入空気量を高精度に推定しつつ応答良く最適な燃料噴射制御を行えるなど、運転性、排気性能を向上させることができる。また、QD/QMAXに対してQCYL/QMAXを2次元マップを用いて一義的に求めることができるので、パラメータが増えても、マップを多用することなく、ROM容量や適合工数を押さえつつ、最小限の演算でシリンダ吸入空気量を推定できる。
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関(エンジン)の可変動弁機構を示している。各気筒には一対の吸気弁2が設けられ、これら吸気弁2の上方には中空状の吸気駆動軸3が気筒列方向に延在している。吸気駆動軸3には、吸気弁2のバルブリフタ2aに当接して吸気弁2を開閉駆動する揺動カム4が相対回転可能に外嵌している。
吸気駆動軸3と揺動カム4との間には、吸気弁2の作動角である吸気作動角及びバルブリフト量を連続的に変更する電動式の作動角変更機構10が設けられている。吸気駆動軸3の一端部には、図外のクランクシャフトに対する吸気駆動軸3の位相を変化させることにより、上記吸気作動角の中心位相である吸気中心位相を連続的に変更する電動式の位相変更機構20が配設されている。
作動角変更機構10は、図1及び図2に示すように、吸気駆動軸3に偏心して固定的に設けられる円形の駆動カム11と、この駆動カム11に相対回転可能に外嵌するリング状リンク12と、吸気駆動軸3と略平行に気筒列方向へ延びる制御軸13と、この制御軸13に偏心して固定的に設けられた円形の制御カム14と、この制御カム14に相対回転可能に外嵌するとともに、一端がリング状リンク12の先端に連結されたロッカアーム15と、このロッカアーム15の他端と揺動カム4とに連結されたロッド状リンク16と、を有している。制御軸13は、電動アクチュエータ17によりギヤ列18を介して所定の制御範囲内で回転駆動される。
上記の構成により、クランクシャフトに連動して吸気駆動軸3が回転すると、駆動カム11を介してリング状リンク12がほぼ並進移動するとともに、ロッカアーム15が制御カム14の軸心周りに揺動し、ロッド状リンク16を介して揺動カム4が揺動して吸気弁2が開閉駆動される。
また、制御軸13の回転角度を変化させることにより、ロッカアーム15の揺動中心となる制御カム14の軸心位置が変化して揺動カム4の姿勢が変化する。これにより、吸気中心位相が略一定のままで、吸気作動角及びバルブリフト量が連続的に変化する。
このような作動角変更機構10は、駆動カム11の軸受部分や制御カム14の軸受部分等の各部材の連結部分が面接触となっているため、潤滑が行い易く、耐久性,信頼性に優れている。また、吸気弁2を駆動する揺動カム4が吸気駆動軸3と同軸上に配置されているため、例えば揺動カムを吸気駆動軸3とは異なる別の支軸で支持するような構成に比して、制御精度に優れているとともに、装置自体がコンパクトなものとなり、機関搭載性に優れいている。特に直動式の動弁系には、大きなレイアウトの変更を加えることなく適用することができる。更に、リターンスプリング等の付勢手段を敢えて必要としないために、動弁系のフリクションも低く抑制される。
図3は、電動式の位相変更機構20を示している。この位相変更機構20は、クランクシャフトと同期して回転するカムスプロケット25に固定され、このカムスプロケット25と一体的に回転する第1回転体21と、ボルト22aにより吸気駆動軸3の一端に固定され、この吸気駆動軸3と一体的に回転する第2回転体22と、ヘリカルスプライン26により第1回転体21の内周面と第2回転体22の外周面とに噛合する筒状の中間ギア23と、を有している。
この中間ギア23には3条ネジ28を介してドラム27が連結されており、このドラム27と中間ギア23との間にねじりスプリング29が介装されている。中間ギア23は、ねじりスプリング29によって遅角方向(図3の左方向)へ付勢されており、電磁リターダ24に電圧を印加して磁力を発生すると、ドラム27及び3条ネジ28を介して進角方向(図3の右方向)へ動かされる。この中間ギア23の軸方向位置に応じて、回転体21,22の相対位相が変化して、クランクシャフトに対する吸気駆動軸3の位相が変化する。
上記の電磁リターダ24は、下記するECU30からの制御信号により機関運転状態に応じて駆動制御される。
エンジンコントロールユニットとしてのECU30は、角度検出センサ31,32から検出される吸気駆動軸3及び制御軸13の角度の他、各種センサ等から検出又は推定されるクランク角度,機関回転速度,負荷,機関温度等の機関運転条件に基づいて、燃料噴射制御や点火時期制御などの一般的なエンジン制御を行い、さらに、後述するように吸気弁2の吸気作動角(バルブリフト量)及び吸気中心位相(バルブタイミング)を変更・制御する。
また、ECU30は、後述する吸入空気量推定などのため、吸気弁上流の吸気マニホールド部の吸気圧を検出する吸気圧センサ34、同じく吸気マニホールド部の吸気温度を検出する吸気温度センサ35、排気圧を検出する排気圧センサ36、排気マニホールド部の排気温度を検出する排気温度センサ37などを備えている。
次に、上記ECU30においてなされる吸入空気量制御に関連したシリンダ吸入空気量の推定について説明する。
図4は、シリンダ吸入空気量QCYLを推定する制御のメインブロック図を示す。
QD演算部は、吸気弁開時期IVO、吸気弁閉時期IVC、オーバーラップ中心角O/LCA、上死点オフセット量TDCOFS、吸気圧(マニホールド部圧力の平均値)PMAN、吸気温度(マニホールド部温度の平均値)TMAN、エンジン回転速度NEを入力して、以下のように、吸気弁のバルブ特性に応じた開口面積でソニック流として吸入した場合の吸入空気量QDを演算する。
具体的には吸入空気量QDを下記(1)式により算出する。
AIVは、所定クランク角Δθ毎に検出される吸気弁開口面積であり、ΣAIVは、その積分値である。Raは空気のガス定数、κは、空気の比熱比である。Δtは、前記所定クランク角Δθを時間換算した値であり、Δt=Δθ/(6/Ne)の演算式で算出される。
(1)式において、吸気圧PMANに対するシリンダ内圧PCYLの比(PCYL/PMAN)が、臨界圧力比(PC/PMAN)以下に低下して、吸気弁の前後圧力比が臨界圧力比(PC/PMAN)一定に維持され、吸気弁を通過する吸気流速が音速一定となるソニック流状態となる。したがって、(1)式右辺の第3項(√部分)の値は、空気の臨界圧力比[PC/PMAN={2/(κ+1)}κ/(κ-1)]一定であるので、固定値(定数)qSONICとなる。
即ち、(1)式は、次式(2)に置き換えられる
図5は、QD演算部の各演算行程のブロック図を示す。
開口面積積算部は、吸気弁開時期IVO、吸気弁閉時期IVCを入力してバルブリフト量を含めた吸気弁のバルブ特性を決定すると共に、オーバーラップ中心角O/LCAと上死点オフセット量TDCOFSとにより、実際に断熱変化による吸気行程が開始される実効上死点(以下、実効TDC)を算出し、該実効TDCから吸気弁閉時期IVCまでの吸気弁開期間中の単位クランク角(Δθ)毎の吸気弁開口面積AIVをバルブ特性から算出し、各算出値を積算して開口面積積算値ΣAIVを算出する。前記実効TDCの算出方法については、後述する。
一方、吸気温度TMANと空気のガス定数Raとを乗じた後、その平方根[(TMAN・Ra)1/2]を、マップを参照して算出し、吸気圧PMANを前記平方根[(TMAN・Ra)1/2]値で除算する。これにより、PMAN/(TMAN・Ra)1/2の項が算出される。
また、前記所定クランク角Δθを、エンジン回転速度Neと6との積(6・Ne)で除算した値[Δθ(6・Ne)]を、積分間隔時間Δtとして算出する。
そして、以上のようにして算出された吸気弁の開口面積積分値ΣAIV、PMAN/(TMAN・Ra)1/2、定数qSONIC、積分間隔時間Δtを順次乗算することにより、(2)式に応じたシリンダ吸入空気量QDが算出される。
図4に戻って、QMAX演算部は、QD演算部と同じく吸気弁開時期IVO、吸気弁閉時期IVC、IVCオフセット量IVCOFS、上死点オフセット量TDCOFS、吸気圧PMAN、吸気温度TMAN、エンジン回転速度Neを入力して、以下のように、吸入空気量QMAXを演算する。
図6は、QMAX演算部の各演算行程のブロック図を示す。
吸入空気量QMAXは、吸気行程開始から終了までのシリンダ行程容積を吸気弁上流の吸気圧で満たした場合の吸入空気量であり、吸気弁のバルブタイミング特性で、最大限吸入しうる空気量である。静的には、吸気弁閉時期IVCでのシリンダ容積から上死点TDCでのシリンダ容積を差し引いた値が行程容積であるが、実際には、吸気行程開始時期および終了時期は、それぞれ上死点TDC、吸気弁閉時期IVCに対してずれを生じる。
図7は、吸気行程時のバルブ特性、筒内圧力、吸気弁通過空気流量の変化の様子を示す。なお、吸気弁閉時期IVCは下死点後に制御される場合を示す。
図示のように、吸気弁閉時期IVCより前に、シリンダ内圧が吸気圧に達して断熱圧縮変化が開始、つまり吸気行程が終了する。この吸気弁閉時期IVCに対して実際の吸気行程が終了する時期の進み量は、エンジン回転速度Neが高いときほど、また、バルブリフト量が小さいときほど慣性の影響が大きくなって増大する。
そこで、図6において、まず、吸気弁開時期IVO、吸気弁閉時期IVCにより決定される吸気弁のバルブ特性から、バルブリフト量(最大リフト量)Ivを算出する。
次いで、前記進み量をIVCオフセット量として、エンジン回転速度Neとバルブリフト量をパラメータとするマップを設定し、該マップを参照してIVCオフセット量IVCOFSを求め、吸気弁閉時期IVCからIVCオフセット量IVCOFSを差し引いたクランク角位置を、吸気行程が終了する実効IVCとして算出する。
一方、シリンダ内圧が吸気圧と一致して断熱膨張変化による吸気行程が開始する時期の吸気上死点TDCからのずれは、バルブオーバラップによる排気の吹き返しに起因する。すなわち、図7に示すように、バルブオーバラップ状態で吸気弁が開いてからシリンダ内圧は排気圧から徐々に低下して吸気上死点TDCより遅れて吸気圧PMANと等しくなり、この時点から断熱膨張による吸気行程が開始される。吸気弁開弁開始付近では開口面積が小さいためシリンダ内圧の低下は小さく、実質的な低下は、排気の吹き返し流量が最大となるオーバーラップ中心角O/LCA付近から始まる。シリンダ内圧が低下し始めてから実際の吸気行程が開始される時期(実効TDC)までの遅れ量は、エンジン回転速度Neが高くなるほど、また、バルブオーバラップ量(オーバーラップ開口面積)が小さくなるほど慣性の影響が大きくなってシリンダ内圧の低下度合いが鈍ることにより増大する。
そこで、図6に示すように、まず、吸気弁開時期IVO、吸気弁閉時期IVCを入力し、オーバーラップ中心角O/LCAを演算する。具体的には、吸気弁開時期IVO、吸気弁閉時期IVCにより決定される吸気弁のバルブ特性IVと既知の排気弁バルブ特性EVとに基づいて、両特性のリフト量が一致する点(交点)におけるクランク角を、オーバーラップ中心角O/LCAとして算出する。
次いで、オーバーラップ中心角O/LCAに対するオーバーラップ開口面積O/LA(=吸気弁開口面積=排気弁開口面積)を、予め設定したマップを参照して算出する。オーバーラップ中心角O/LCAが小さいとき(進角側にあるとき)ほどオーバーラップ開口面積O/LAは大きい特性を有している。
次いで、エンジン回転速度Neとオーバーラップ開口面積O/LAをパラメータとして、オーバーラップ中心角O/LCAから実効TDCまでの遅れ量をTDCオフセット量としたマップを設定しておき、該マップを参照してTDCオフセット量TDCOFSを求め、オーバーラップ中心角O/LCAにTDCオフセット量TDCOFSを加算したクランク角位置を実効TDCとして算出する。なお、オーバーラップ開口面積として、後述する排気吹き返し量の演算に用いる吸気弁開時期IVCからオーバーラップ中心角O/LCAまでの吸気弁開口面積の積算値(ΣAIV)を用いてもよい。
上記実効TDC(実際の吸気行程開始時期)と実効IVC(実際の吸気行程終了時期)とに基づいて、この間に最大限吸入し得る空気量として吸入空気量QMAXが次式により算出される。
QMAX=PMAN・VEIVC/(Ra・TMAN)−PMAN・VETDC/(Ra・TMAN)
=PMAN・(VEIVC−VETDC)/(Ra・TMAN)・・・(3)
VEIVC:実効IVCでのシリンダ容積
VETDC:実効TDCでのシリンダ容積
そこで、図6において、吸気弁開時期IVO、吸気弁閉時期IVC、実効TDCを入力して、吸気弁のバルブ特性から実効TDCにおけるシリンダ容積VETDCを、マップを参照して算出し、同じくIVO、IVC、実効IVCを入力して、実効IVCにおけるシリンダ容積VEIVCを、マップを参照して算出する。
前記シリンダ容積VEIVCからシリンダ容積VETDCを差し引いて、実効行程容積VE(=VEIVC−VETDC)を算出する。
一方、QDでの算出と同様にして、吸気温度TMANと空気のガス定数Raとを乗じた後、その平方根[(TMAN・Ra)1/2]を、マップを参照して算出し、吸気圧PMANを前記平方根[(TMAN・Ra)1/2]値で除算し、PMAN/(TMAN・Ra)1/2の項を算出する。
そして、前記PMAN/(TMAN・Ra)1/2に、前記実効行程容積VEを乗じることにより、(3)式に応じたシリンダ吸入空気量QMAXが算出される。
本発明者は、以上のようにして算出した2つの吸入空気量QDと吸入空気量QMAXからQD/QMAXなるパラメータつまり、任意の吸気弁のバルブ特性において、ソニック流で吸入される空気量の、最大限吸入し得る空気量に対する割合を表すパラメータに対し、実際の吸入空気量QCYLの、最大限吸入し得る空気量(吸入空気量QMAX)に対する割合を表すパラメータが略一義的に決まることを、実験、シミュレーション等を用いて確認した。ここで、QD/QMAXに対してQCYL/QMAXが一義的に決まるとは、バルブタイミングやバルブリフト量等、バルブ特性の相違によって、QDとQMAXのそれぞれは相違していてもQD/QMAXが同一値である場合には、QCYL/QMAXも異なるバルブ特性で同一値となることを意味する。この関係により、QDとQMAXを求めるだけで、QD/QMAXからQCYL/QMAX、さらにはQCYLを推定できるのであり、最小限のパラメータを用いて2次元マップを用いてQCYLを推定できる。
そこで、予め、QD/QMAXに対するQCYL/QMAXを実験乃至シミュレーションで求めてQD/QMAXに対するQCYL/QMAXの関係をマップに設定しておく。
図4に戻って、上記QD演算部で算出した吸入空気量QDをQMAX演算部で算出した吸入空気量QMAXで除算し、この除算したQD/QMAXをパラメータとして、前記マップを参照して対応するQCYL/QMAXを検索する。
前記検索したQCYL/QMAXに、QMAXを乗算して吸気量QCYL0を算出する。このようにして算出した吸気量QCYLは、実際にシリンダ内に吸い込んだガス量であるが、このガス中には、オーバラップ期間中に吸気ポートに吹き返された排気が再吸入されて含まれているので、制御に必要な新気量を推定するには、吹き返された排気分を減算する必要がある。
そこで、上記吹き返し排気分QIFBを算出する。
図8は、QIFBの各演算行程のブロック図を示す。
ここでも、逐次変化するシリンダ内圧を検出することは実質的に不可能なので、基準となる状態で推定される基本値を求め、この基本値を運転状態に応じて補正して推定することとする。バルブオーバラップ中の開口面積は、吸気弁開時期IVCからバルブオーバラップ中心角O/LCAまでの吸気弁開口面積の積算値(ΣAIV)とし、シリンダ内圧を排気圧PEとした状態での基本値QIFB0を、(1)式同様の次式(4)により算出する。
この場合も、吸気弁前後圧力比が臨界圧以下になったときは、圧力比PMAN/PEが臨界圧に置き換えられてV0値固定のソニック流となる。
そして、実効TDCの算出で説明したように、エンジン回転速度Neが増大するほど、シリンダ内圧の排気圧からの減少遅れが大きくなって排気吹き返し量が増大する傾向を有する。
そこで、図8において、まず、前記吸気弁開時期IVOからバルブオーバラップ中心角O/LCAまでの吸気弁開口面積の積算値(ΣAIV)を算出する。
次いで、排気温度TEと空気のガス定数Raとを乗じた後、その平方根[(TE・Ra)1/2]を、マップを参照して算出し、排気圧PEを前記平方根[(TE・Ra)1/2]値で除算し、PE/(TE・Ra)1/2の項を算出する。
また、圧力比PMAN/PEに基づいて、該圧力比PMAN/PEをパラメータとする流量係数V0のマップを参照して流量係数V0を算出する。
また、前記QD等の算出と同様、所定クランク角Δθを、エンジン回転速度Neと6との積(6・Ne)で除算した値[Δθ(6・Ne)]を、積分間隔時間Δtとして算出する。
さらに、エンジン回転速度Neに基づいてマップを参照して補正係数k3を算出する。
そして、前記(ΣAIV)、PE/(TE・Ra)1/2、V0、Δtを順次乗算して、前記基本値QIFB0を算出し、この基本値QIFB0に補正係数k3を乗じることで、最終的な吹き返し排気分QIFBを算出する。
図4に戻って、前記吸気量QCYL0から吹き返し排気分QIFBを減算して、シリンダ吸入新気量QCYL1を算出する。基本的には、これで新気量は求められるが、以上の演算では、マニホールド部の吸気圧PMANとして、複数回の検出値の平均して吸気脈動による変動を平滑化した値を用いている。実際には、吸気脈動により吸気圧PMANが変動すると吸気温度TMANも変動し、これらの変動に伴ってシリンダに吸入される新気量も変動するので、かかる吸気脈動に対する補正を行って新気量の推定精度を高める。
以下に、上記吸気脈動に対する補正方法を説明する。
まず、吸気弁を通過する単位時間Δt当たりの流量ΔQCYLは、次式で表される。
シリンダ吸入新気量QCYLは、吸気行程期間中、前記ΔQCYLを積分してΣΔQCYLとして算出される。
ΔQCYLがソニック流になるときには、(5)式内において、吸気脈動による吸気圧変動の影響を受けることなく吸気弁の前後圧力比が臨界圧力比で固定されるので、第3項の√値部分が固定値となり、
QCYL∝PMAN・(TMAN)-1/2・・・(6)
となる。
一方、流速ΔQCYL/AIVが0に近い状態で、準静的にシリンダ容積が変化した場合のQCYLは、吸気行程終了時(吸気弁閉時)のシリンダ内圧とシリンダ内温度は、吸気マニホールドの吸気圧、吸気温度に等しく、この状態に基づいて状態方程式によって求められ、吸気脈動による吸気圧変動分ΔPMANIVCと吸気温度変動分ΔTMANIVCを考慮すると、
QCYL∝(PMAN+ΔPMANIVC)・(TMAN+ΔTMANIVC)-1・・・(7)
となる。
図9は、前記吸気圧変動分ΔPMANIVCと吸気温度変動分ΔTMANIVCの各演算行程のブロック図を示す。
吸気圧変動分と吸気温度変動分の基本値ΔP0とΔT0とを、それぞれ、吸気弁閉時期IVCから吸気弁開時期IVOとの偏差(IVC−IVO)と、エンジン回転速度Neとをパラメータとして予めシュミレーションで求めたマップを参照して算出し、これら基本値ΔP0とΔT0に負荷割合として吸気圧PMANを大気圧P0で除算した圧力比PMAN/P0を乗算することによって吸気圧変動分ΔPMANIVCと吸気温度変動分ΔTMANIVCを算出する。
ここで、(6)式で表されるソニック流状態から(7)式で表される準静的変化状態に移行するにつれて吸気脈動による変動分が大きくなることを反映させるための補正係数k1と、(6)式のソニック流状態と(7)式のされる準静的変化状態とを滑らかに繋ぐための補正係数k2を設定して、全領域に対応したQCYLの一般式を次式のように設定する。
QCYL∝(PMAN+k1・ΔPMANIVC)・(TMAN+k1・ΔTMANIVC)-1/(2-k2)・・(8)
一方、吸気脈動を考慮しない場合のQCYL1の一般式は、
QCYL1∝(PMAN+ΔPMANIVC)・(TMAN+ΔTMANIVC)-1/(2-k2)・・(9)
となるから、(8)式と(9)式とにより、
QCYL=
QCYL1・[(PMAN+k1・ΔPMANIVC)・(TMAN+k1・ΔTMANIVC)-1/(2-k2)
/[(PMAN+ΔPMANIVC)・(TMAN+ΔTMANIVC)-1/(2-k2)
ここで、(PMAN+k1・ΔPMANIVC)/(PMAN+ΔPMANIVC)を、吸気圧変動分に伴う補正分Prateとし、
(TMAN+k1・ΔTMANIVC)-1/(2-k2)/(TMAN+ΔTMANIVC)-1/(2-k2)
を吸気温度変動分に伴う補正分Trateとして、
QCYL=QCYL1・Prate・Trate・・・(10)
と表す。
図4に戻って、上記マップを参照して得られたQCYL/QDに基づいて前記吸気脈動に応じた補正係数k1をマップを参照して算出し、前記吸気圧変動分ΔPMANIVCに補正係数k1を乗じ、この値k1・ΔPMANIVCを吸気圧PMANに加算し、この値(PMAN+k1・ΔPMANIVC)を、吸気圧PMANで除算して、吸気圧変動分に伴う補正分Prateを算出する。
一方、同じく前記吸気温度変動分ΔTMANIVCに補正係数k1を乗じ、この値k1・ΔTMANIVCを吸気温度TMANに加算し、この値(TMAN+k1・ΔTMANIVC)を、吸気温度TMANで除算した値を、吸気温度変動分に伴う基本補正分Trate0として算出する。
また、QCYL/QDに基づいて前記ソニック流領域と準静的変化領域とを滑らかに繋ぐ補正係数k2をマップを参照して算出する。
そして、前記基本補正分Trate0と補正係数k2とに基づいて、基本補正分Trate0を[−1(2−k2)]べき乗した値を、マップを参照して算出し、吸気温度変動分に伴う補正分Trateとする。
以上のようにして算出した吸気圧変動分に伴うPrateと吸気温度変動分に伴う補正分Trateとを、前記吹き返し排気分QIFBを減算したシリンダ吸入新気量QCYL1に順次乗じることにより、吸気脈動による変動分を補正した最終的なシリンダ吸入新気量QCYLを算出する。
上記のように構成することにより、過渡的な運転条件においてバルブタイミング等が変化した場合でも、QD/QMAXとQCYL/QMAXとの関数を用いて、シリンダ吸入空気量を高精度に推定しつつ応答良く最適な燃料噴射制御を行えるなど、運転性、排気性能を向上させることができる。また、QD/QMAXに対してQCYL/QMAXを2次元マップを用いて一義的に求めることができるので、パラメータが増えても、マップを多用することなく、ROM容量や適合工数を押さえつつ、最小限の演算でシリンダ吸入空気量を推定できる。
本発明の一実施形態に係る内燃機関(エンジン)の可変動弁機構を示す図である。 同上可変動弁機構の一部拡大側面図である。 同上実施形態の位相変更機構を示す図である。 同上実施形態のシリンダ吸入空気量QCYLを推定する制御のメインブロック図である。 同上実施形態のQD演算部の各演算行程のブロック図である。 同上実施形態のQMAX演算部の各演算行程のブロック図である。 同上実施形態の吸気行程時のバルブ特性、筒内圧力、吸気弁通過空気流量の変化の様子を示すタイムチャートである。 同上実施形態の排気吹き返し分QIFBの各演算行程のブロック図である。 同上実施形態の吸気圧変動分ΔPMANIVCと吸気温度変動分ΔTMANIVCの各演算行程を示すブロック図である。
符号の説明
2 吸気弁
10 作動変更機構
20 位相変更機構
30 ECU
34 吸気圧センサ
35 吸気温度センサ
36 排気圧センサ
37 排気温度センサ

Claims (3)

  1. 吸気弁のバルブ特性を可変な可変動弁機構を備えた内燃機関の制御装置において、
    吸気弁のバルブ特性に応じた開口面積でソニック流として吸入した場合の吸入空気量QDと、吸気行程開始から終了までのシリンダ行程容積を吸気弁上流の吸気圧で満たした場合の吸入空気量QMAXと、吸気弁のバルブ特性に応じた実際の吸入空気量QCYLと、を用いて、QD/QMAXとQCYL/QMAXとを相互に一義的に決定される関数として設定し、機関制御に前記関数を用いる一方、
    前記吸入空気量QMAXは、吸気行程終了時期としてシリンダ内で断熱圧縮が開始される実効吸気弁閉時期におけるシリンダ容積を用いて算出し、かつ、前記実効吸気弁閉時期を、機関回転速度と吸気弁のバルブリフト量とに基づいて、吸気弁閉時期からのオフセット補正量を算出し、該オフセット補正量によって吸気弁閉時期を補正して算出されるようにしたことを特徴とする内燃機関の制御装置。
  2. 前記関数をマップに設定し、機関運転状態に応じて算出した吸入空気量QDおよび吸入空気量QMAXから、QD/QMAXをパラメータとして前記マップを参照してQCYL/QMAXを算出し、該QCYL/QMAXにQMAXを乗じて実際の吸入空気量CYLを推定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
  3. 前記関数を用いて求めた吸入空気量QCYLを、吸気脈動に応じて補正して最終的な吸入空気量QCYLを推定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
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