しかしながら、上掲の先行例(特許文献1)では、カードを挿入したり排出したりする操作が繰り返されて板金製の板ばねの係止部がカードの外殻の樹脂面と繰り返し擦れ合うと、金属である係止部によって樹脂であるカードの外殻が削られるという事態が起こってカードの凹所に嵌合した係止部によるカード保持力が著しく低下してハーフロック機構によるハーフロック作用が早期に損なわれ、初期のハーフロック性能を長期に亘って維持するということがされにくくなる。
そこで、板金製の上記板ばねを、他の先行例(特許文献2)に見られるような樹脂で成形したばね体に置き換えてそのばね体に一体に係止部を成形するということが考えられ、そのようにすると、係止部が樹脂で形成されるために、その係止部がカードの外殻の樹脂面と繰り返し擦れ合ってもカードの外殻が係止部によって削られるということがなくなる。
しかしながら、板金製の上記板ばねを、樹脂で成形したばね体にただ単に置き換えただけでは、カードの大きさや幅寸法のばらつき、さらには当該カードコネクタ自体の製作精度のばらつきを吸収し得るだけの変位量やハーフロック時のカード保持力をそのばね体に付与しておくことが困難である。すなわち、ばね体を形成している樹脂自体が板金製の板ばねに比べて弾性に乏しく、しかも、樹脂で成形されたばね体は、弾性変形時に荷重が分散しにくくてそのばね体の基端部の一箇所だけに応力が集中する傾向を生じるので、カードの挿抜に伴う繰り返し変形によって早期に塑性変形してしまうという事態が起こり、ハーフロック性能を長期に亘って維持させることが困難である。
ところで、カードセット状態からの無理抜きを防止する場合には、大きな力でカードを保持する方が有利であるが、ハーフロック力、すなわち先端部に係止部を形成した板ばねのばね力を単純に大きくすると、板金製の板ばねの係止部とカードの外殻の樹脂面との間の摩擦がさらに大きくなり、急激にハーフロック性能を低下させるばかりでなく、スライダが待機位置にある状態でのカードの挿抜抵抗が大きく、カードの挿抜が行いにくくなる上、カード挿入時にスライダが動いてしまい、挿入感が悪くなる。
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、ハーフロック機構の構成要素のうち、カードと擦れ合う要素を樹脂で成形し、かつ、弾性作用を発揮することが要求される要素を金属で製作するという考え方を基本として、初期のハーフロック性能を長期に亘って維持させることのできるカードコネクタを提供することを目的とする。
また、本発明は、スライダに確保し得る狭小スペースを活用してハーフロック機構を組み込むことが可能なカードコネクタを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、スライダに確保し得る狭小スペースを活用してハーフロック機構を組み込むことが可能であるにもかかわらず、樹脂で成形された要素の耐久性が高まるカードコネクタを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、スライダに確保し得る狭小スペースを活用してハーフロック機構を組み込むことが可能であるにもかかわらず、金属で製作された要素が安定した弾性作用を発揮するカードコネクタを提供することを目的とする。
さらにまた、本発明は、カードセット状態におけるハーフロック力の向上を、上記の目的を達成しながら実現するカードコネクタを提供することを目的とする。
本発明に係るカードコネクタは、筐体のカード挿入空間に挿入されてきたカードに押されて待機位置からカードセット位置に対応する押込位置まで押し込まれかつその押込位置でカード排出方向に弾発付勢されるスライダが前後移動自在に上記筐体に取り付けられていると共に、そのスライダを押込位置でロックする機能と押込位置でロックされたスライダのロック状態を解除する機能とを備え、上記スライダに、カードを引抜き可能に係止するハーフロック機構が備わっている。そして、上記ハーフロック機構の構成要素が、上記カード挿入空間に挿入されてきたカードを乗り越えてそのカードの凹所に嵌合することによりそのカードを引抜き可能に係止する係止突起を一体に備えた撓み変形可能な樹脂成形体でなる可動片と、上記係止突起が上記カードの凹所に嵌まり込む方向に上記可動片を弾発付勢する金属製のばね体とに分割して形成され、上記可動片が上記カード挿入空間に対するカードの挿入方向に沿って上記スライダから片持ち状に延び出ていて、その可動片の先端部に、カードの側端面に乗り上がってそのカードの側端部に具備された凹所に嵌合する上記係止突起が備わり、上記ばね体が、上記可動片の背部で上記スライダに具備された凹部に収容保持され、上記可動片の背面に沿って延びかつその背面に対して重なり状に配備されたばね主部を有し、上記スライダの凹部に取り付けられた取付片部に、円弧状の折返し部を介して上記取付片部に対向する形態で上記ばね主部が連設された板ばねでなる。
この構成であると、カードと擦れ合う係止突起を一体に備えた可動片が樹脂成形体であるので、係止突起が擦れ合うカードの外殻が樹脂であってもカードの外殻が係止突起によって削られるという事態が起こらない。そのため、カードの外殻が削られることに起因するカード保持力の低下が起こりにくくなり、初期のハーフロック性能が長期に亘って維持されるようになる。これに加え、係止突起を樹脂で形成したことにより、その係止突起の厚さ寸法やカードへの乗上りのための誘い面の傾斜角度、ハーフロック時のカードとの係止幅や当り角度などのカードの挿抜時の力加減に関係する部分の形状の変更が、板金製の板ばねの先端部を曲げることによって係止突起を形作る場合に比べて容易になるという利点もある。また、可動片を付勢するばね体が金属製であるので、カードの大きさや幅寸法のばらつき、さらには当該カードコネクタ自体の製作精度のばらつきを吸収し得るだけの変位量やハーフロックに要求される十分な大きさのカード保持力をそのばね体に付与しておくことが容易になる。しかも、ばね体が早期に塑性変形してハーフロック性能が早期に損なわれてしまうという事態も起こらない。
また、上記可動片が上記カード挿入空間に対するカードの挿入方向に沿って上記スライダから片持ち状に延び出ていて、その可動片の先端部に、カードの側端面に乗り上がってそのカードの側端部に具備された凹所に嵌合する上記係止突起が備わり、上記ばね体が、上記可動片の背部で上記スライダに具備された凹部に収容保持されていることによって、スライダに確保し得る狭小スペースを活用してハーフロック機構を組み込むことが可能になり、カードコネクタを大形化することなく初期のハーフロック性能が長期に亘って維持されるカードコネクタを提供することが可能になった。
さらに、上記ばね体は、上記スライダの凹部に取り付けられた取付片部に、円弧状の折返し部を介して上記取付片部に対向する形態で上記ばね主部が連設された板ばねでなることによって、ばね体を設置するスライダの凹部の面積(又は容積)の割に、ばね主部の長さを長く確保しやすくなる。すなわち、ばね体の撓み変形可能範囲が、ばね主部と円弧状の折返し部とを合わせた範囲になる。そのため、冒頭で説明したスライダに片持ち状に取り付けた板金製の板ばねに比べて円弧状の折返し部の長さだけ撓み変形可能範囲が長くなる。そのため、同じ荷重に対してより大きな撓み変形幅(変位幅)を想定することができるようになり、そのことが、カードなどの寸法のばらつきによるハーフロック時のカード保持力のばらつきを少なく抑えることに役立つ。その上、円弧状の折返し部では応力が分散するため、応力が局部に集中したり局部に繰り返し応力が加わったりして耐久性が低下するという事態が起こらなくなり、耐荷重性も大きくなるので、ハーフロック性能が長期に亘って安定するようになる。
本発明では、上記可動片は、上記スライダとの連設箇所を含む箇所に、その連設箇所から遠ざかった位置ほど薄肉になるようにその肉厚が変化している荷重分散部を備えていることが望ましい。また、上記可動片は、上記スライダとの連設箇所からその延出方向中間点に至る箇所が上記荷重分散部とされ、かつ、その荷重分散部の終点から自由端に至る部分でその肉厚が一様になっていることが望ましい。
これによれば、係止突起がカードに乗り上がって樹脂製の可動片が撓み変形するときに、その撓み変形が可動片の付け根部分(可動片のスライダとの連設箇所)の狭い領域の曲り変形だけに依存せず、荷重分散部やそれよりも先端側部分といった広い範囲で可動片が少しずつ撓むようになる。しかも、そのような可動片の撓み変形が起こったときに可動片に加わる応力は、その可動片の背面に対して重なり状に配備されているばね体に逃がされてそのばね主部によって受け止められるため、可動片の付け根部分に応力が集中して可動片の付け根部分が早期に塑性変形するという事態が起こりにくくなり、樹脂成形体でなる可動片の耐久性が向上し、初期のハーフロック性能が長期に亘って維持されるようになる。
本発明に係るカードコネクタは、上記係止突起が擦れ合う側端部の表面が少なくとも合成樹脂面として形成されたカードを使用対象として好適に使用することができる。
また、本発明に係るカードコネクタは、上記スライダが押込位置にあるときに上記ばね体の弾発力を増大させる補助ばね体を備えている。
この構成を採用したことによって、ばね体の弾発力、すなわちハーフロック力をスライダが押込位置にあるときにのみ補助ばね体によって増大することができる。スライダが待機位置にあるときにおいては、補助ばね体がばね体に作用しないために、ハーフロック性能を長期に亘って維持できると共に、カード挿入時に好感触が得られるようになる。
本発明では、上記補助ばね体が、スライダが押込位置にあるときのばね体の背面側に自由端部を臨ませるように、上記筐体の側壁部分から切り起こし形成した板ばねでなることが望ましい。
これによれば、補助ばね体が追加部品とならないため、コストダウンやコンパクト化を妨げる要因にならない。また上記筐体の側壁部分が、樹脂製のボディ側壁の外面に板金製のカバー側板が重なっている場合には、外側のカバー側板から切り起こし形成する板ばねで上記補助ばね体を構成することによって、必要な弾発力が容易に得られる。同時に補助ばね体はこれに対応してボディ側壁に形成される開口部を塞ぐため、防塵作用を発揮する。
本発明では、上記ばね体の自由端部から背面側に向かって当て部が突出形成され、スライダが押込位置にあるときに上記係止突起が上記凹所から外れる方向に上記可動片と共にばね体が撓み変形したときに、上記係止突起が上記凹部から外れる前に上記補助ばね体の自由端部が上記当て部に弾接することが望ましい。
この構成であると、スライダが押込位置にあるときのカードセット状態からの無理抜き時にのみ、補助ばね体の弾発力がばね体の自由端部に効果的に付勢することが可能になる。
以上のように本発明に係るカードコネクタによると、ハーフロック機構の構成要素のうち、カードと擦れ合う要素を樹脂で成形し、かつ、弾性作用を発揮することが要求される要素を金属で製作するという考え方を採用したので、カードがカード挿入空間に繰り返し挿抜されることによって削られて初期のハーフロック性能が早期に損なわれるという事態が起こらなくなり、長期に亘って良好なハーフロック性能を発揮するカードコネクタを提供することが可能になる。また、樹脂要素である可動片や金属要素であるばね体の耐久性を向上させて長期に亘って良好なハーフロック性能を発揮するカードコネクタを提供することも可能になる。そのほか、スライダに確保し得る狭小スペースを活用してハーフロック機構を組み込むことが可能であるので、小形化薄形化が要求されているカードコネクタに好適に適用することができるという効果も奏される。
また、本発明のカードコネクタによると、可動片に常時弾発力を付勢するばね体に加えて、上記スライダが押込位置にあるときに上記ばね体の弾発力を増大させる補助ばね体を備えたので、カードセット状態における無理抜き時には大きな力でカードを保持することができ、カードセット状態における無理抜きを阻むことができ、他方スライダが待機位置にあるときのカード挿入時や抜去り時には適度なハーフロック力でカードを挿抜できる上、ハーフロック力の寿命を維持するのに効果的である。この結果、カードセット状態におけるハーフロック力の向上を、上記の効果を損なうことなく実現したカードコネクタを提供することができるという効果を奏する。
図1は本発明に係るカードコネクタの全体概略外観図である。このカードコネクタは、合成樹脂成形体でなるボディ12とこのボディ12に装着された板金製のカバー13とによって筐体1が形成されており、その筐体1によってカード挿入空間(スロットル)が形作られていると共に、筐体1の内部でカード挿入空間の側部にスライダ(後述する)が配備されている。
図2にはカード挿入空間にカード100が挿入された初期状態でのボディ12の平面図、図3はスライダ3がロックされている状態でのボディ12の要部平面図、図4はロック解除時点でのボディ12の要部平面図である。
図2のように、ボディ12はその前端のヘッド部14に横に並ぶ多数の接片2が取り付けられていて、ボディ12の内側に突き出ている接片2の先端部が後述するカード100に具備された電極に対応する接点21として形成されているのに対し、ボディ12の外側へ突き出ている接片2の他端部が配線基板(不図示)のランドに半田付けされる半田付け端子22として形成されている。ボディ12はその左右の端縁部に側壁部15,16を有し、それらの側壁部15,16の相互間空間が、カード100を挿入するための上記カード挿入空間と、そのカード挿入空間の片側のスライダ収容スペースとに区画されていて、上記した多数の接片2は、カード挿入空間の前端部に突出している。
ボディ12のスライダ収容スペースに縦長形状のスライダ3が前後移動自在に取り付けられている。このスライダ3は、前端部に内向きに突き出たカード受部31を備えていて、図2のようにカード挿入空間に挿入されてきたカード100の前端コーナ部をこのカード受部31が受け止めるようになっている。また、スライダ3はコイルばねでなるばね材32によって常時後方へ向けて弾発付勢されており、その後退限界位置は、スライダ3がボディ12の後端に備わっている突部17に当たることによって規制されるようになっている。そして、突部17に当たって位置規制されているときのスライダ3の位置が、スライダ3の待機位置である(図2に示した位置)。
スライダ3はカム機構4を備えている。このカム機構4は、ボディ12の突部17に基端部が揺動自在に保持されたカムピン41と、このカムピン41の相手方要素となるカム溝45とを備えており、カム溝45が上記スライダ3に形成されている。カム溝45は、無端状の細長ハート形に形作られた往路と復路とを有していると共に、その往路と復路との接続箇所に上記カムピン41を係止するための窪みによって形成された係止部46を備えている。そして、スライダ3がカード100に押されて待機位置から前方へ押し込まれるという1回目のプッシュ動作が行われたときには、カムピン41がカム溝45の往路を通過した後、ばね材32の付勢によってスライダ3が図4の矢印rのように少しだけ後退して同図のように上記係止部46がカムピン41に係止される。この状態がスライダのロック状態であり、このロック状態では、カード100側の電極が上記接片2の接点21に弾接して両者が電気的接続される。スライダ3のロック状態から2回目のプッシュ動作が行われたときには、そのプッシュ動作の初期に図3の矢印f方向に移動したカード100の前端が同図のようにボディ12のヘッド部14に突き当たると共に、カムピン41がカム溝45の係止部46から離れることによってロック状態が解除され、その後、カムピン41がカム溝45の復路を通過して往路の始部に戻り、併せて、スライダ3がばね材32の付勢によって待機位置に復帰する。したがって、このカードコネクタでは、所謂プッシュプッシュ操作によってカードの挿入と排出とが行われる。
スライダ3にはハーフロック機構5が備わっている。このハーフロック機構5は、カード100をスライダ3に引抜き可能に係止するという機能を発揮する。すなわち、カード挿入空間に挿入されてその先端コーナ部がスライダ3のカード受部31に突き当たったときには、そのカード100がハーフロック機構5によってスライダ3に係止されるけれども、そのときのハーフロック機構5によるカードの係止力は、カード100が一定以上の力で引抜き方向に引張られたときには係止状態が解除されてカード100が引き抜かれる程度に定められている。
図5はカード100をハーフロックしている状態でのハーフロック機構5の拡大平面図、図6はカード100をハーフロックしていない状態でのハーフロック機構5の拡大平面図であり、これらの図5及び図6を参照してハーフロック機構5を次に詳細に説明する。なお、図2〜図4で判るように、ハーフロック機構5は、スライダ3のカム形成面の反対側の面に設けられている。
ハーフロック機構5は、スライダ3と一体の樹脂成形体でなる要素と金属で作られた要素との2つの要素に分割して形成されている。このうち、樹脂成形体でなる要素には係止突起51を一体に備えた可動片52が相当し、金属で作られた要素には板ばねでなる板金製のばね体55が相当する。
可動片52は、カード挿入空間に対するカード100の挿入方向(図2の矢印I方向)に沿ってスライダ3から後方に向けて片持ち状に延び出ていて、その可動片52の先端部にカード挿入空間内に突き出る上記係止突起51が一体に備わっている。そして、係止突起51には、カード100が挿入されてきたときに、カード100の側端部にその係止突起51を乗り上がらせるための傾斜した誘い面53と、係止突起51がカード100の側端部に具備された凹所110に嵌合しているときにその凹所110の前側壁面112に係止可能な係止面54とが備わっている。これに対し、ばね体55は、可動片52の背部でスライダ3に具備されている凹部33に収容保持されている。すなわち、ばね体55は、上記凹部33に形成されている取付溝部34に差し込むことによってスライダ3に固着されている幅広の取付片部56の前端縁から延び出て円弧状に湾曲した幅狭の折返し部57と、その折返し部57と等幅でその折返し部57に連設された板片状のばね主部58と、を有し、ばね主部58が可動片52の背面に沿って延び出てその可動片52に重ね合わされた状態で取付片部56に対向している。この構成を採用したことによって、スライダ3に確保し得る狭小スペースである凹部33を活用してハーフロック機構を組み込むことが可能になり、カードコネクタを大形化することなく初期のハーフロック性能が長期に亘って維持されるカードコネクタを提供することが可能になった。また、この実施形態において、カード100が挿入されていないときには、無負荷状態の可動片52の前面52aがスライダ3の内面3aと面一に位置するようになっている。また、可動片52に重なりあっているばね主部58は、無負荷状態の可動片52にばね主部58が弾接した状態になっていても、ばね主部58がただ単に接触しているだけで可動片52を付勢していない状態になっていてもよいが、いずれの状態であっても、カード100が挿入されていないときには可動片52の前面52aがスライダ3の内面3aと面一に位置するようになっていることが好ましく、そのようにしておくと、カード100が可動片52や係止突起51に突き当たらずにスムーズにカード挿入空間に挿入され、しかも、係止突起51の可動片52からの突出幅を短く抑えることが可能になる。
以上説明したカードコネクタによると、カード100がカード挿入空間に挿入されると、そのカード100がスライダ3のカード受部31に突き当たるまでの間に、係止突起51が可動片52の外側への撓み変形を伴ってカード100の側端部に乗り上った後、図2又は図5のように可動片52が元位置に復帰して係止突起51がカード100の凹所110に嵌合する。この場合、係止突起51が可動片52の外側への撓み変形を伴ってカード100の側端部に乗り上がっているときには、ばね体55のばね主部58や折返し部57が弾性変形して可動片52の変位を吸収し、係止突起52がカード100の側端部を乗り越えて凹所110に達したときには、ばね体55の復帰変形によって可動片52が元位置に復帰し、係止突起51が凹所110に嵌合する。こうして係止突起51がカード100の凹所110に嵌合していると、係止突起51の係止面54が凹所110の前側壁面112に対向しているので、カード100が引抜き方向に引張られたときには、係止面54を凹所110の前側壁面112が係止する。そして、引抜き力がそれほど大きくないときには、凹所110の前側壁面112で係止面54が後方へ押されても、ばね体55の付勢に抗して可動片52が撓み変形することはない。ハーフローック機能である。しかし、引抜き力が一定値以上であると、凹所110の前側壁面112で係止面54が後方へ押されることにより、ばね体55の付勢に抗して可動片52が外側へ撓み変形するので、係止突起51が凹所110から押し出されてカード100が引き抜かれる。ここで、ばね体55が円弧状の折返し部57とその折返し部57に連設された細長いばね主部58とを備えているので、ばね体55を設置するスライダ3の凹部33の面積(又は容積)の割に、ばね体55の撓み変形可能範囲であるばね主部58と円弧状の折返し部57とを合わせた長さを長く確保することが可能になった。そして、ばね主部58の撓み変形幅を大きく確保することが可能になり、そのことが、カードなどの寸法のばらつきによるハーフロック時のカード保持力のばらつきを少なく抑えることに役立つようになった。また、円弧状の折返し部57では応力が分散するため、応力が局部に集中したり局部に繰り返し応力が加わったりして耐久性が低下するという事態が起こらなくなり、耐荷重性も大きくなってハーフロック性能が長期に亘って安定するようになった。
このカードコネクタにおいて、カード100と擦れ合う係止突起51は樹脂成形体でなる可動片52と一体に樹脂成形されているので、係止突起51が擦れ合うカード100の外殻が樹脂であってもカード100の外殻が係止突起51によって削られるという事態は起こらない。そのため、カード100の外殻が削られてハーフロック機構5によるカード保持力の低下が起こりにくく、初期のハーフロック性能が長期に亘って維持される。しかも、係止突起51を樹脂成形すると、その係止突起51の厚さ寸法やカード100への乗上りのための誘い面53の傾斜角度、ハーフロック時のカード100との係止幅や当り角度などのカードの挿抜時の力加減に関係する部分の形状の変更を容易に行うことができる。一方、可動片52を付勢するばね体55は金属製の板ばねで製作されているため、カード100の大きさや幅寸法のばらつき、さらには当該カードコネクタ自体の製作精度のばらつきを吸収し得るだけの変位量やハーフロックに要求される十分な大きさのカード保持力をそのばね体に付与しておくことが容易に可能になる。しかも、ばね体が早期に塑性変形してハーフロック性能が早期に損なわれてしまうという事態も起こらない。
図5に示したように、この実施形態に採用されている可動片52は、スライダ3との連設箇所aを含む箇所に、その連設箇所aから遠ざかった位置ほど薄肉になるようにその肉厚が変化している荷重分散部61を備えている。この荷重分散部61には、スライダ3との連設箇所aからその延出方向中間点に至る箇所が相当していて、その荷重分散部61の終点61aから自由端に至る部分では可動片52の肉厚が一様になっている。また、この実施形態では、可動片52に荷重分散部61を具備させるために、可動片52の外側の外面に勾配θを付与してある。
このように樹脂成形体でなる可動片52の付け根部分を荷重分散部61として形成することによりその肉厚を自由端に近い箇所ほど薄くしておくと、係止突起51が図6のようにカード100に乗り上がって樹脂製の可動片52が撓み変形するときに、その撓み変形が可動片52の付け根部分の狭い領域の曲り変形だけに依存せず、荷重分散部61やそれよりも先端側部分といった広い範囲で可動片52が少しずつ撓むようになる。しかも、そのような可動片52の撓み変形が起こったときに可動片52に加わる応力は、その可動片52の背面に対して重なり状に配備されているばね体55に逃がされてそのばね主部58によって受け止められるため、可動片52の付け根部分に応力が集中して可動片52の付け根部分が早期に塑性変形するという事態が起こらなくなる。したがって、樹脂成形体でなる可動片52の耐久性が向上し、初期のハーフロック性能が長期に亘って維持されるようになる。
図7ないし図9は、図1ないし図6に示したハーフロック機構5におけるハーフロック力をスライダ3が押込位置にあるとき、すなわちカードセット状態のときに増大させるための構造を示し、図1ないし図6に示したハーフロック機構5に、上記スライダ3が押込位置にあるときに上記ばね体55の弾発力を増大させる補助ばね体70を付加したものである。
上記補助ばね体70は、スライダ3が押込位置にあるときの上記ばね体55の背面側に自由端部を臨ませるように、上記筐体1の側壁部分から切り起こし形成した板ばねでなる。具体的には、スライダ3の外側面を摺接させるボディ12一側の側壁部15に前後方向に長い開口部71を形成する。この開口部71は、スライダ3が待機位置にあるときの上記係止突起51(図8の仮想線に示す位置)の背面部分から同スライダ3が押込位置にあるときの上記係止突起51(図8の実線に示す位置)の背面部分にわたる範囲に連続して形成される。ここで、板金製の上記カバー13の左右の側縁部には、上記ボディ12の左右の側壁部15,16の外面に重ね合わせる側板部15a,16aを有し、上記筐体1の側壁部を二重構造に形成している。そして、上記開口部71を形成した側壁部15に重ね合わせるカバー13一側の側板15aにおける上記開口部71を覆っている部分を切り起こして金属製の板ばねとなし、スライダ3が待機位置にあるときの上記係止突起51の背面部分から同スライダ3が押込位置にあるときの上記係止突起51の背面部分にわたる範囲に補助ばね体70を構成している。このように構成した補助ばね体70は、スライダ3が待機位置にあるときの上記係止突起51の背面部から同スライダ3が押込位置にあるときの上記係止突起51の背面部分に向かって上記開口部71を略塞ぐ形態で片持ち状に、かつ基端側から自由端部に向かうに連れて開口部71の中に入り込む傾斜状に延出されて、左右方向に弾性変位可能であり、その自由端部がスライダ3が押込位置にあるときの上記係止突起51の背面側に臨む。また補助ばね体70の自由端部は、スライダ3の外側面に適度(スライダ3のスムーズな移動を阻害しない程度)な弾力で弾接支持されている。
他方、スライダ3側においては、ばね体55を収容保持している上記凹部33における上記ばね体55の自由端部の背面側部、すなわち上記係止突起51の背面側に重なる上記ばね主部58の端部のさらに背面側部をスライダ3の外側に開放する切欠き部72を設け、スライダ3が押込位置にあるときに上記ばね主部58の端部背面側に上記補助ばね体70の自由端部を上記開口部71を介して対向させると共に、上記ばね主部58の端部背面側に当て部73が突出形成される。この当て部73は、上記ばね主部58の端部に一体連設する平らな金属片部を折曲げ形成して該ばね主部58の端部背面側に延出してたもので、具体的には、上記の平らな金属片部をばね主部58に対して直角に折り曲げて当て部73を平板状に形成してもよいが、上記の平らな金属片部をばね主部58の端部背面側に図7に示すようにU字状に折り曲げて当て部73をそれ自体がばね性を有するように形成することが好ましい。さらに、上記当て部73は、スライダが押込位置にあるときに上記可動片52と共に上記ばね主部58が撓み変形していない状態で上記上記補助ばね体70の自由端部との間に所定の隙間を有するように、上記ばね主部58の自由端部から背面側に向かって突出形成され、上記係止突起51が上記凹所110から外れる方向に上記可動片52と共に上記ばね主部58が撓み変形したときに、上記係止突起51が上記凹部110から外れる前に上記補助ばね体70の自由端部が上記当て部73に弾接するように構成している。
次に、上記補助ばね体70の作用について説明すると、スライダ3が待機位置にあるときには、図8の仮想線に示すように、可動片52の先端部に形成された係止突起51およびその背面に重なる上記ばね主部58の自由端部に対して、上記補助ばね体70はその基端側が対向する。このため、スライダ3が待機位置にあるときのカード100の挿入時および抜去り時に、係止突起51がカード100の凹所110に係脱する際にカード100の側端部に載り上がるときの可動片52およびばね主部58の外側への撓み変位量では、上記当て部73は補助ばね体70に当接しない。したがって、スライダ3が待機位置にあるときには補助ばね体70の弾発力はばね体55に付加されることはなく、そのばね体55の弾発力、すなわちハーフロック力は増大されない。他方、スライダ3が押込位置にあるときには、図7、図8の実線、図9に示すように、上記ばね主部58の自由端部に対して、上記補助ばね体70はその自由端部が対向する。このため、スライダ3が押込位置にあり、係止突起51がカード100の凹所110の嵌合している状態、すなわちカードセット状態からカード100が無理抜きされるといった事態が起こった場合、上記係止突起51がカード100の凹所110から外れようとして可動片52およびばね主部58が外側へ撓み変位すると、上記係止突起51がカード100の凹所110から外れる前に、上記当て部73の端部が記補助ばね体70はその自由端部に弾接する。これ以降、ばね体55には補助ばね体70の弾発力が付加され、ばね体55の弾発力、すなわちハーフロック力がスライダ3が待機位置にあるときより増大されて、ガード100を大きな力で保持できるようになり、カードセット状態からのカード100の無理抜き防止機能を発揮する。
以上のように、上記スライダ3が押込位置にあるときに上記ばね体55の弾発力を増大させる補助ばね体70を備えたことによって、ばね体55の弾発力、すなわちハーフロック力をスライダ3が押込位置にあるときにのみ補助ばね体70によって増大することができる。スライダ3が待機位置にあるときにおいては、補助ばね体70がばね体55に作用しないために、ハーフロック性能を長期に亘って維持できると共に、カード挿入時に好感触が得られるようになった。
また、上記補助ばね体70が、スライダ3が押込位置にあるときのばね体55の背面側に自由端部を臨ませるように、上記筐体1の側壁部分15,15aから切り起こし形成した板ばねで構成したことによって、補助ばね体70が追加部品とならないため、コストダウンやコンパクト化を妨げる要因にならない。また上記筐体1の側壁部分15,15aが、樹脂製のボディ12の側壁部15,16の外面に板金製のカバーの13の側板15a,16aが重なっている場合には、外側のカバー側板15から切り起こし形成する板ばねで上記補助ばね体70を構成することによって、必要な弾発力が容易に得られる。同時に補助ばね体70はこれに対応してボディ側壁部15に形成される開口部を塞ぐため、防塵作用を発揮するようになる。
さらに、上記ばね体55の自由端部から背面側に向かって当て部73が突出形成され、スライダ3が押込位置にあるときに上記係止突起51が上記凹所110から外れる方向に上記可動片52と共にばね体55のばね主部58が撓み変形したときに、上記係止突起51が上記凹部110から外れる前に上記補助ばね体70の自由端部が上記当て部73に弾接することによって、スライダ3が押込位置にあるときのカードセット状態からの無理抜き時にのみ、補助ばね体70の弾発力がばね体55のばね主部58の自由端部に効果的に付勢することが可能になり、スライダ3が押込位置にあるときのハーフロック力を効率的に向上できる。
而して、可動片52に常時弾発力を付勢するばね体55に加えて、上記スライダ3が押込位置にあるときに上記ばね体55の弾発力を増大させる補助ばね体70を備えたので、カードセット状態における無理抜き時には大きな力でカード100を保持することができ、カードセット状態における無理抜きを阻むことができ、他方スライダ3が待機位置にあるときのカード挿入時や抜去り時には適度なハーフロック力でカード100を挿抜できる上、ハーフロック力の寿命を維持するのに効果的である。この結果、カードセット状態におけるハーフロック力の向上を、ハーフロック性能を長期に亘って維持しながら、実現できた。
なお、カードセット状態におけるハーフロック力を向上するだけの場合には、ばね体55を無くし、スライダ3が押込位置に移動したときに直接係止突起51に補助ばね体70の弾発力を付勢するだけで良い。この場合には上記当て部73と同様の機能を有する当て部を係止突起51からこの背面側に突出形成しておく。このような場合、筐体1のカード挿入空間に挿入されてきたカード100に押されて待機位置からカードセット位置に対応する押込位置まで押し込まれかつその押込位置でカード排出方向に弾発付勢されるスライダ3が前後移動自在に上記筐体1に取り付けられていると共に、そのスライダ3を押込位置でロックする機能と押込位置でロックされたスライダ3のロック状態を解除する機能とを備え、上記スライダ3に、カード100を引抜き可能に係止するハーフロック機構5が備わっているカードコネクタであって、上記ハーフロック機構5の構成要素が、上記カード挿入空間に挿入されてきたカード100を乗り越えてそのカード100の凹所110に嵌合することによりそのカード100を引抜き可能に係止する係止突起51を一体に備えた撓み変形可能な樹脂成形体でなる可動片52と、上記係止突起51が上記カード100の凹所110に嵌まり込む方向に上記可動片52を弾発付勢する金属製のばね体とに分割して形成する点と、そのばね体が上記スライダ3が押込位置にあるときに係止突起51を弾発付勢する点が、カードコネクタとしての必須構成となり、この場合のばね体は、本実施形態で示した補助ばね体70が相当する。