JP4122142B2 - ハイブリッド車の駆動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明はハイブリッド車の駆動制御装置に関し、より詳しくは電動モータによる走行時に加速意図が示されて内燃機関による走行への切り替えが指令されたときのクラッチ締結時のショックを低減するようにしたものに関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関と、内燃機関の出力軸にクラッチを介して連結される電動モータと、電動モータの出力軸に接続されて内燃機関と電動モータの少なくともいずれかの出力トルクを入力して変速しつつ車輪を駆動する自動変速機を備えたハイブリッド車においては、電動モータによる走行時にアクセルペダルが踏み込まれて運転者から加速意図が示された、パワーオンダウンシフト(キックダウン)のときなどに、クラッチを締結して内燃機関による走行へ切り替えられる。
【0003】
しかしながら、その場合、単に内燃機関を始動してクラッチを締結すると、機関出力トルクがモータ出力トルクに加わって車両の駆動トルクが急変して乗員にショックを与える場合がある。
【0004】
そこで、特開2000−23312号公報記載の技術において、内燃機関の始動に備えて第2の電動モータを設けると共に、内燃機関の出力トルクを第2の電動モータに吸収させながら、機関回転数とモータ回転数とを一致させるように制御してショックを低減することが提案されている。
【0005】
より具体的には、この従来技術においては、内燃機関の出力トルクを吸収したときの第2の電動モータの出力トルクを検出すると共に、機関出力トルクを推定し、検出トルクと推定トルクの差に基づいて自動変速機に接続される電動モータの目標トルクを補正するように構成している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、内燃機関の出力トルクを精度良く推定するのは困難であることから、上記した従来技術においては、必ずしも、十分にショックを低減することができなかった。さらに、クラッチ伝達トルクの挙動も予測し難いことから、上記した従来技術においては、瞬時のトルク変化に対して制御の応答性の点で必ずしも十分ではなかった。
【0007】
従って、この発明の目的は上記した不都合を解消することにあり、内燃機関と、内燃機関の出力軸にクラッチを介して連結される電動モータと、電動モータの出力軸に接続されて内燃機関と電動モータの少なくともいずれかの出力トルクを入力して変速しつつ車輪を駆動する自動変速機を少なくとも備えたハイブリッド車において、電動モータによる走行時に加速意図が示されて内燃機関による走行へ切り替えられるときのパワーオンダウンシフト時のクラッチ締結時のショックを低減するようにしたハイブリッド車の駆動制御装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を解決するために請求項1項にあっては、前記内燃機関の出力軸に油圧クラッチを介して連結される電動モータと、前記電動モータの出力軸に接続されて前記内燃機関と前記電動モータの少なくともいずれかの出力トルクを入力し、前記入力したトルクを変速して車輪を駆動する自動変速機を備えたハイブリッド車の駆動制御装置において、前記電動モータによる走行時に運転者の加速意図に応じて前記内燃機関による走行への切り替えが指令されたとき、前記内燃機関の始動と前記油圧クラッチへの準備圧供給を開始する開始制御手段、前記電動モータの回転数と前記内燃機関の回転数の差回転を検出する差回転検出手段、前記内燃機関が始動した後、前記検出された差回転が第1の所定値未満となるまで、前記電動モータの出力トルクを増加制御すると共に、前記油圧クラッチへの油圧供給を増加制御する増加制御手段、および前記検出された差回転が第2の所定値未満となったとき、前記内燃機関の出力トルクを一時的に減少させながら、前記内燃機関の回転を前記電動モータの回転に同期させる同期制御手段を備える如く構成した。
【0009】
このように、運転者の加速意図に応じて内燃機関による走行への切り替えが指令されたとき、パワーオンダウンシフト時に、内燃機関の始動と油圧クラッチへの準備圧供給を開始し、電動モータの回転数と内燃機関の回転数の差回転を検出し、内燃機関が始動した後、差回転が第1の所定値未満となるまで、電動モータの出力トルクと油圧クラッチへの油圧供給を増加制御すると共に、差回転が第2の所定値未満となったとき、内燃機関の出力トルクを一時的に減少させながら、内燃機関の回転を電動モータの回転に同期させるようにした。
【0010】
換言すれば、検出された差回転の減少(機関回転数の上昇)に同期させて電動モータ、油圧クラッチおよび内燃機関を協調制御すると共に、機関出力トルクを減少させつつ油圧クラッチを締結するようにしたので、内燃機関の出力トルクを推定することなく、ドライブシャフトトルクの変動を小さくすることができ、それによってパワーオンダウンシフト時の油圧クラッチの締結時のショックを低減することができると共に、油圧クラッチの負荷も低減することができる。
【0011】
請求項2項にあっては、前記同期制御手段は、前記油圧クラッチへの供給油圧をライン圧まで増加制御しながら、前記電動モータの出力トルクを減少制御する如く構成した。
【0012】
油圧クラッチへの供給油圧をライン圧まで増加制御しながら、電動モータの出力トルクを減少制御する如く構成したので、パワーオンダウンシフト時の油圧クラッチの締結時のショックを一層効果的に低減することができると共に、油圧クラッチの負荷も一層効果的に低減することができる。
【0013】
請求項3項にあっては、前記第2の所定値は、前記第1の所定値より小さく設定される如く構成した。
【0014】
第2の所定値は第1の所定値より小さく設定される如く構成したので、これによって同様にパワーオンダウンシフト時の油圧クラッチの締結時のショックを一層効果的に低減することができると共に、油圧クラッチの負荷も一層効果的に低減することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に即してこの発明の一つの実施の形態に係るハイブリッド車の駆動制御装置を説明する。
【0016】
図1は、そのハイブリッド車の駆動制御装置を全体的に示す概略図である。
【0017】
図示の如く、この装置は、4気筒火花点火式の内燃機関(「ENG」と示すと共に、以下「エンジン」という)10と、エンジン10の出力軸10aに油圧クラッチ12を介して入力軸14aが連結される電動モータ(「Motor」と示す)14と、電動モータ14の出力軸14bに接続された自動変速機16を備える。
【0018】
エンジン10はOHC直列4気筒からなり、吸気管(図示せず)にインテークマニホルド(図示せず)を介して接続された各気筒の吸気バルブ(図示せず)の付近には、インジェクタ(図示せず)が設けられる。インジェクタから燃料が噴射されると、噴射された燃料は吸気管から吸入された空気と混合され、混合気となって各気筒に流入する。
【0019】
エンジン10は、始動されると、各気筒に流入した混合気を点火させて燃焼させ、ピストン(図示せず)を駆動してクランク軸(図示せず)を回転する。クランク軸の回転は、上記した出力軸10aから取り出される。
【0020】
油圧クラッチ12は、図2に示す如く、複数枚のクラッチディスク12aとクラッチプレート12bが交互に配置された多板式の油圧クラッチからなる。尚、符号12cは油圧チャンバを、符号12dはリターンスプリングを示す。
【0021】
油圧クラッチ12は、作動油(ATF)が導入されて油圧を供給されると、クラッチディスク12aをクラッチプレート12bに押しつけ、よってエンジン10の出力軸10aと電動モータ14の入力軸14aを直結する。
【0022】
電動モータ14はDCブラシレス発電電動機からなり、モータ通電回路18を介してバッテリ(図示せず)に接続され、通電されるとき電動モータとして動作すると共に、通電を停止されるとき、エンジン10に駆動されて発電機(ジェネレータ)として動作してバッテリを充電する。
【0023】
図1に示す如く、自動変速機16は金属ベルト式の無段変速機(CVT)からなると共に、ファイナルギヤ20、デイファレンシャルギヤ22およびドライブシャフト23を介して車輪24に接続される。自動変速機16はエンジン10および電動モータ14の少なくともいずれかの出力トルクを入力し、油圧機構25を介して供給される油圧で設定されるレシオ(変速比)で入力トルクを変速して車輪24を駆動して車両(図示せず)を走行させる。尚、油圧クラッチ12への油圧供給も、油圧機構25を介して行われる。
【0024】
エンジン10の出力軸10aの付近には油圧クラッチ12の上流側において第1の回転数センサ26が設けられ、エンジン10の回転数(クラッチ入力回転数)NEに比例した信号を出力すると共に、電動モータ14の出力軸14bの付近には自動変速機16の接続上流側において第2の回転数センサ28が設けられ、電動モータ14の回転数NM(ミッション入力回転数)に比例した信号を出力する。
【0025】
また、エンジン10のスロットルバルブ(図示せず)の付近にはスロットル開度センサ30が設けられ、スロットル開度THに応じた信号を出力する。さらに、エンジン10の冷却水通路(図示せず)の付近には水温センサ32が設けられ冷却水温TWに応じた信号を出力すると共に、吸気管(図示せず)の適宜位置には外気温センサ34が設けられて外気温TAに比例した信号を出力する。
【0026】
車両の運転席床面のアクセルペダル(図示せず)の付近にはアクセル開度センサ38が配置され、運転者のアクセルペダル踏み込み量APに応じた信号を出力する。尚、アクセルペダルはスロットルバルブと機械的に切り離され、スロットルバルブは図示しないパルスモータなどのアクチュエータを介してアクセルペダル操作と独立に駆動される。
【0027】
また、自動変速機16の油圧機構25の付近には温度センサ40が設けられて作動油(ATF)の温度TATFに比例した信号を出力すると共に、ドライブシャフト23の付近には車速センサ42が設けられ、車両の走行速度(車速)に比例した出力信号を出力する。
【0028】
これらセンサの出力は、コントローラ50に入力される。コントローラ50はマイクロコンピュータからなり、上記したセンサ出力に基づいてエンジン回転数などを検出すると共に、電動モータ14のモータ通電回路18への通電指令値から電動モータ14の出力トルクを算出する。
【0029】
図3は、この実施の形態に係るハイブリッド車の駆動制御装置の動作を示すフロー・チャートである。
【0030】
同図の説明に入る前に、図4などを参照してこの実施の形態に係る装置の動作の背景を説明する。
【0031】
この動作は、車両が電動モータ14によって走行しているときに、アクセルペダルが踏み込まれて運転者による加速意図が示され、エンジン10による走行への切り替えが指令されたときの動作に関する。即ち、パワーオンダウンシフト(キックダウン)時の動作に関する。
【0032】
図4はその切り替え時点におけるトルク伝達を示す説明図である。即ち、同図(a)に示す電動モータ14による走行のとき、電動モータ14の出力トルクが自動変速機16に入力される。
【0033】
次いで、エンジン走行への切り替えが指令されると、同図(b)に示すように電動モータ14でアシストしてエンジン10の始動が開始される。エンジン始動時には、電動モータ14の出力トルクがエンジン10のイナーシャを補完(吸収)するように増加制御される。
【0034】
図4(c)に示す如く、エンジン10の始動が完了すると、エンジン10の出力トルクと電動モータ14の出力トルクが共に自動変速機16に入力され、次いで、油圧クラッチ12の締結(エンゲージ)が完了すると、同図(d)に示す如く、エンジン10の出力トルクのみが電動モータ14の出力軸を介して自動変速機16に入力される。
【0035】
この油圧クラッチ12の締結が完了したとき、電動モータ14のイナーシャ補完トルク分だけドライブシャフトトルクTdsが急変し、前記したように乗員にショックを与えることがある。
【0036】
そこで、この実施の形態に係る装置の動作にあっては、図5タイム・チャートに示す如く、電動モータ14、油圧クラッチ12、およびエンジン10を協調制御するように構成して上記したショックの低減を図ると共に、副次的には出力軸トルクの変動を減少させて油圧クラッチ12の負荷を低減するようにした。
【0037】
以下、図3フロー・チャートを参照し、この実施の形態に係る装置の動作を説明する。
【0038】
先ず、S10において、KD(キックダウン、即ち、パワーオンダウンシフト)したか、換言すれば運転者によって加速意図が示されたか否か判断する。これは、電動モータ14による走行時に、図5の上部に示す如く、アクセル開度APが急増したか、より詳しくはアクセル開度APを示すアクセル開度センサ38の出力APの時間的な変化量が所定値以上か否かで判断する。S10で否定されるときは以降の処理をスキップする。
【0039】
S10で肯定されるときはS12に進み、スロットル開度THを保持(記憶)する。即ち、この実施の形態に係る装置にあっては、アクセルペダルとスロットルバルブは機械的に切り離されたDBW方式となっていることから、そのときのアクセル開度APに対応する、エンジン10のスロットル開度THを保持(記憶)する。
【0040】
次いでS14に進み、運転者の加速意図に応じてエンジン10の始動を決定すると共に、timer0(アップカウンタ)をスタートさせて時間計測を開始する。
【0041】
次いでS16に進み、油圧クラッチ12へ準備圧を供給(油圧供給)する。即ち、図5のクラッチ圧指令値PCLに示す如く、油圧クラッチ12に供給される油圧が図示のような特性となるように、図示しない電磁ソレノイドへの通電を開始する。この準備圧供給はいわゆる無効ストローク詰めに相当する油圧供給であり、具体的には図6に示す如く、所定の時間tp0、所定の高さP1となるように電磁ソレノイドへの通電を介して指令する。
【0042】
より具体的には、所定の時間tp0および高さP1は、作動油ATFの粘性に関連したパラメータである、クラッチ回転数(第1の回転数センサ26の出力に基づいて検出される油圧クラッチ12の回転数)NCLあるいは作動油ATFの温度TATFに基づいて図7あるいは図8に示す特性に従い、油圧クラッチ12の応答性を向上させて無効ストローク詰めが最適となるように決定する。
【0043】
次いでS18に進み、timer0の値が所定時間t0を超えるのを待機する。所定時間t0は、エンジンのクランキング特性に応じて適宜設定される無駄時間であり、具体的には図9に示す如く、エンジン10の暖機状態を示す水温TWが上がるにつれて減少するように設定される。尚、水温TWに代え、作動油ATFの温度TATFを用いても良い。
【0044】
S18で所定時間t0の経過が確認されると、電動モータ14のアシストでエンジン10のクランキングが開始したと判断し、S20,S22,S24に進んで電動モータ14、油圧クラッチ12およびエンジン10の制御を行う。
【0045】
尚、説明の簡略化のため、一つのフロー・チャートで示したが、S20からS24までの処理は、実際は別々のルーチンで並行して同時に(同期して)実行される。また、上記以外にも自動変速機16の制御も行われるが、この発明の要旨に直接の関連を有しないため、省略する。
【0046】
図10は、その電動モータ14の制御を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【0047】
以下説明すると、S100において現在のモータトルク相当通電指令値MTをモータトルク指令値MT0とする。モータトルク指令値はモータ通電回路18への通電指令値として算出されるが、このステップの処理は具体的には、その通電指令値から電動モータ14が出力すると推定されるトルク相当値を算出し、その値に置き換えることを意味する。
【0048】
次いでS102に進み、timer1(アップカウンタ)をスタートさせて時間計測を開始し、S104に進み、差回転dNがしきい値NN(図5に示す。例えば800rpm)未満となったか否か判断する。差回転dNは、モータ回転数(第2の回転数センサ28に基づいて検出される電動モータ14の回転数)NMからエンジン回転数(あるいはクラッチ回転数NCL。第1の回転数センサ26に基づいて検出)NEを減じて算出される。
【0049】
差回転dNはエンジン回転数NEからモータ回転数NMを減じて負値として算出しても良い。尚、差回転dNは、モータ回転数NMを一定とするとき、間接的にエンジン回転数NEを示す値となる。
【0050】
しきい値NNは、図11にその特性を示す如く、車速Vとスロットル開度THから検索自在にマップ化しておく。しきい値NNは、具体的には、図示の如く、絶対値において大、中、小の3種類の特性となるように設定する。尚、図示例は一例であって、しきい値NNの個数は、それ以上でもそれ未満でも良い。
【0051】
しきい値NNはまた、図12にその特性を示す如く、外気温TAから検索自在にマップ化しておく。外気温TAが高いほどエンジン回転数NEの上昇率が早くなるため、しきい値NNは、外気温TAが高いほど増加するように設定する。S104ではこのように、車速V、スロットル開度THおよび外気温TAに応じて設定されたしきい値NNと比較する。
【0052】
S104で否定されるときはS106に進み、上記したtimer1の値から図13にその特性を示すテーブルを検索し、値s1を検索する。図示の特性は入力1〔sec〕に対して出力20倍となるように設定される。次いで得た出力を適宜な特性で変換し、加算項MTCUを算出すると共に、車速V(加速意図が示されたときの)に応じて補正する。
【0053】
より具体的には、図14に示す如く、加算項MTCUを、車速V(加速意図が示されたときの)に応じて減少するように補正する。これはクラッチ油圧制御と協調させるためであり、車速Vが高くなるほど変速時間が増加してクラッチ供給油圧制御時間も増加し、引込み量も増加することから、図示の如く車速に応じて減少するように補正し、よって車速が増加してクラッチ油圧供給制御時間が増加するにつれてイナーシャ補完分も減少させる。
【0054】
次いでS108に進み、モータトルク指令値MT0に加算項MTCUを加算して増加補正し、S104に戻って肯定されるまで同様の処理を繰り返す。即ち、図5タイム・チャートに示す如く、差回転dNがNN未満となるまで、モータ出力トルクTMを一定の割合で増加させ、エンジン10のイナーシャによる出力トルクを補完(吸収)する。
【0055】
S104で肯定されるときはS110に進み、timer2(アップカウンタ)をスタートさせて時間計測を開始し、S112に進み、計測値が0.1〔sec〕を超えるか否か判断し、否定されるときはS106に進む。図5タイム・チャートに示す如く、差回転dNがNN未満となるまではモータ出力トルクTMを徐々に増加させると共に、その後は減少制御に移行するが、直ちに減少させるとトルク変動が急変するため、所定時間(0.1sec)待機する。
【0056】
S112で肯定されるときはS114に進み、timer3(アップカウンタ)をスタートさせて時間計測を開始し、S116に進み、上記したtimer3の値から図15にその特性を示すテーブルを検索し、値s2を検索する。図示の特性は入力1〔sec〕に対して出力30倍となるように設定される。次いで得た出力を適宜な特性で変換し、減算項MTCDを算出すると共に、作動油ATFの温度TATFに応じて補正する。
【0057】
より具体的には、図16に示す如く、減算項MTCDを、作動油(ATF)の温度TATFに応じて増加するように補正する。これは、作動油(ATF)の温度が高いほど粘性が低くなり、クラッチ油圧制御の応答性が上がることから、それを考慮してクラッチ油圧制御と協調させるためである。
【0058】
次いでS118に進み、モータトルク指令値MT0から減算項MTCDを減算して減少補正し、S120に進み、モータトルク指令値MT0が0以下か否か判断し、肯定されるときはプログラムを終了すると共に、否定されるときはS116に戻って同様の処理を繰り返す。
【0059】
このように、モータ出力トルクTMは、図5タイム・チャートに示す如く、差回転dNがNN未満になるまで所定の変化率で増加制御され、差回転dNがNN未満になった後、所定時間の経過を待って増加のときの変化率に比較すると大きな変化率で零に達するまで減少制御される。
【0060】
次いで、クラッチ制御について説明する。
【0061】
図17は、その油圧クラッチ12の制御を示すサブルーチン・フロー・チャートである。尚、油圧クラッチ12は、図3フロー・チャートのS16で説明した処理により、準備圧の供給が完了した状態にある。
【0062】
以下説明すると、S200において、値P0をクラッチ圧指令値(油圧クラッチ12の電磁ソレノイドへの通電量によって定義される指令値)PCLとする。即ち、モータトルク指令値と同様に、クラッチ圧指令値も、電磁ソレノイドへの通電指令値として算出される。
【0063】
値P0は、油圧クラッチ12のリターンスプリング12dの初期セット荷重相当の圧力を意味し、具体的には以下のように算出する。
P0=FRTN/APST
上記で、FRTN:リターンスプリング12dの荷重、APST:油圧クラッチ12のピストン面積、である。
【0064】
次いでS202に進み、timer4(アップカウンタ)をスタートさせて時間計測を開始し、S204に進み、上記したtimer4の値から図18にその特性を示すテーブルを検索し、値s3を検索する。図示の特性は、入力1〔sec〕に対して出力1倍、換言すれば入出力がそのまま対応するように設定される。次いで得た出力を適宜な特性で変換し、加算項CLCUを算出すると共に、車速V(加速意図が示されたときの)に応じて補正する。
【0065】
より具体的には、図19に示す如く、加算項CLCUを、車速V(加速意図が示されたときの)に応じて減少するように補正する。これは、図14に関して述べた如く、車速Vが高くなるほど変速時間が増加してクラッチ供給油圧制御時間も増加して引込み量も増加することから、図示の如く設定し、車速が増加してクラッチ油圧供給制御時間が増加するにつれてクラッチ圧増加量を減少して引込み量を減少させるためである。
【0066】
次いでS206に進み、クラッチ圧指令値PCLに加算項CLCUを加算して増加補正し、S208に進み、差回転dNが前記したしきい値NN未満か否か判断し、否定されるときはS204に戻って肯定されるまで同様の処理を繰り返す。
【0067】
S208で肯定されるときはS210に進み、timer5(アップカウンタ)をスタートさせて時間計測を開始し、S212に進み、上記したtimer5の値から図20にその特性を示すテーブルを検索し、値s4を検索する。図示の特性も入出力がそのまま対応するように設定される。次いで得た出力を適宜な特性で変換し、第2の加算項CLCHを算出し、S214に進み、クラッチ圧指令値PCLに第2の加算項CLCHを加算して増加補正する。
【0068】
ここで、第2の加算項CLCH>加算項CLCU(最大値)とする。即ち、図5タイム・チャートに示す如く、差回転dNがしきい値NNを超えるまではモータ出力トルク制御と同定度の、比較的小さい一定の増加率でクラッチ供給油圧を漸増させると共に、dNがNN未満となった後、最大の増加率でクラッチ供給油圧を増加させる。
【0069】
次いでS216に進み、クラッチ圧指令値PCLがライン圧相当値(図5に示す)以上となったか否か判断し、否定されるときはS212に戻ってクラッチ圧指令値PCLに第2の加算項CLCHを加算して増加補正すると共に、肯定されるときはプログラムを終了する。
【0070】
このように、この制御においては検出された差回転の減少(換言すればエンジン回転数NEの上昇)に同期させて油圧クラッチ12への供給油圧(クラッチ圧指令値)の増加制御と電動モータ14の出力トルクTM(モータトルク指令値MT0)の増減制御を行う。より具体的には、検出された差回転dNをしきい値NNと比較し、検出された差回転がしきい値を超えるまで油圧クラッチ12への供給油圧(クラッチ圧指令値)を同様の変化率で増減制御するようにした。
【0071】
次いで、エンジン制御について説明する。
【0072】
図21は、そのエンジン10の制御を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【0073】
以下説明すると、S300において点火時期を微小量(微小クランク角度)dQ遅角(リタード)させる。即ち、このエンジン制御はエンジン10の出力トルクを一時的に減少させることを意図しており、その意図から点火時期を遅角させるようにした。このとき、エンジン出力トルクの急変を避けるため、後述する本来的な遅角量QTRTDに比して微小量dQ遅角する。
【0074】
尚、図21フロー・チャートで図示は省略するが、エンジン10は油圧クラッチ12に準備圧が供給されて無効ストローク詰めがなされた時点で電動モータ14の回転が伝達されてクランキングされ、始動される。エンジン10は始動された後、運転者の加速意図がなされたときのアクセル開度APに相当するスロットル開度THに応じた出力となるエンジン回転数まで上昇制御される。
【0075】
次いでS302に進み、差回転dN(=NM−NE)が第2のしきい値NRTD(例えば30rpm)未満となるのを待機してS304に進み、timer6(アップカウンタ)をスタートさせて時間計測を開始し、S306に進み、点火時期を所定量(所定クランク角度)QTRTDだけ大きく遅角(リタード)させる。
【0076】
図22に示す如く、所定量QTRTDはスロットル開度THに比例して増加するように設定される。これは、スロットル開度THが大きいほど、出力低下量も大きくする必要があるためである。
【0077】
次いでS308に進み、timer6の値が所定値(遅角時間)trtdを超えたか否か判断し、肯定されるまで所定量の遅角を継続する。これにより、エンジン10の出力トルクを大きく減少させる。
【0078】
所定値trtdは、意図するエンジン出力の低減量に応じた値とし、具体的には図23に示す如く、車速(運転者によって加速意図が示されたときの)Vに応じて増加するように設定すると共に、図24に示す如く、スロットル開度THの時間当たりの変化量ΔTHに応じて増加するように設定する。尚、所定値trtdに代え、クランク角度を用いても良い。
【0079】
そしてS308で肯定されるときはS310に進み、点火時期を遅角量QTRTDに相当する量だけ進角方向に戻し、S312に進み、同様に点火時期を微少量dQだけ進角方向に戻してプログラムを終わる。
【0080】
図5タイム・チャートを参照して上記を説明すると、このように検出された差回転dNがしきい値(所定回転数)NRTD未満となったとき、エンジン10の出力トルクTEを一時的に減少させながら、油圧クラッチ12への供給油圧をライン圧(ライン圧相当値)まで増加制御する。
【0081】
このように、この制御においては検出された差回転の減少(エンジン回転数の上昇)に同期させて電動モータ14、油圧クラッチ12およびエンジン10を協調制御するようにした。即ち、同一のパラメータ(差回転dN)を共通のしきい値NN,NRTDと比較することで、電動モータ14、油圧クラッチ12およびエンジン10の制御の内容を切り替えるようにした。
【0082】
図5タイム・チャートを参照して説明すると、dNがNN未満となるまで、エンジン10の始動に伴うイナーシャを吸収すべく、モータ出力トルクTMとクラッチ圧指令値PCLを同程度の増加率で増加させる。
【0083】
次いで、dNがモータ回転数NMに接近する、NRTD未満となった時点で点火時期を遅角させてエンジン出力トルクTEを減少させると共に、クラッチ供給油圧をライン圧相当値まで急増させ、油圧クラッチ12を完全に締結させる。
【0084】
尚、クラッチ締結でモータ出力トルクは不要となることから、それ以前のdNがNN未満となった時点で零まで漸減させると共に、遅角も不要となることから、進角させる。
【0085】
このように構成したので、図5タイム・チャートに示す如く、運転者によって加速意図が示されたパワーオンダウンシフトにあっても、モータ出力トルクTMの特性を滑らかにすることができてドライブシャフトトルクTdsの変動を小さくすることができる。それによって、エンジン10の出力トルクTEを推定することなく、油圧クラッチ12の締結時のショックを低減することができると共に、油圧クラッチ12の負荷も低減することができる。
【0086】
図25は、この実施の形態に係るハイブリッド車の駆動制御装置の制御(動作)についてのシミュレーション結果を示すタイム・チャートであり、図26はかかる制御を行わない場合についてのシミュレーション結果を示すタイム・チャートである。
【0087】
図25と図26の対比から明らかな如く、図26の場合にあってはドライブシャフトトルクTdsの変動量が100kgfm程度であったのに対し、図25に示す、この実施の形態に係る装置にあっては10kgfm程度に減少した。この程度であれば、ドライブシャフト23の一瞬のトルクの落ち込みによるショックは運転者が感じることがない。
【0088】
上記の如く、この実施の形態は、内燃機関(エンジン10)と、前記内燃機関の出力軸10aに油圧クラッチ12を介して連結される電動モータ14と、前記電動モータの出力軸14bに接続されて前記内燃機関と前記電動モータの少なくともいずれかの出力トルクTE,TMを入力し、前記入力したトルクを変速して車輪24を駆動する自動変速機(CVT)16を備えたハイブリッド車の駆動制御装置(コントローラ50)において、前記電動モータによる走行時に運転者の加速意図に応じて前記内燃機関による走行への切り替えが指令されたとき、前記内燃機関の始動と前記油圧クラッチへの準備圧供給を開始する開始制御手段(S10からS16)、前記電動モータの回転数NMと前記内燃機関の回転数NEの差回転dNを検出する差回転検出手段(第1、第2の回転数センサ26,28)、前記内燃機関が始動した後、前記検出された差回転dNが第1の所定値NN未満となるまで、前記電動モータの出力トルクを増加制御すると共に(S100からS108)、前記油圧クラッチへの油圧供給を増加制御する増加制御手段(S200からS208)、および前記検出された差回転dNが第2の所定値未満NRTDとなったとき、前記内燃機関の出力トルクを一時的に減少させながら、前記内燃機関の回転を前記電動モータの回転に同期させる同期制御手段(S300からS308)を備える如く構成した。
【0089】
また、前記同期制御手段は、前記油圧クラッチへの供給油圧をライン圧まで増加制御しながら、前記電動モータの出力トルクを減少制御する(S212からS216,S104,S110からS120))如く構成した。
【0090】
また、前記第2の所定値NRTDは、前記第1の所定値NNより小さく設定される如く構成した。
【0091】
尚、上記において、点火時期を遅角させてエンジンの出力トルクを減少させたが、燃料供給停止(フューエルカット(FC))を介してエンジンの出力トルクを減少させても良く、両者を併用しても良い。
【0092】
また、上記において、自動変速機としてCVTを用いたが、有段変速機であっても良い。また、電動モータもDCモータに限られるものではなく、ACモータであっても良い。
【0093】
【発明の効果】
請求項1項にあっては、運転者の加速意図に応じて内燃機関による走行への切り替えが指令されたとき、パワーオンダウンシフト時に、内燃機関の始動と油圧クラッチへの準備圧供給を開始し、電動モータの回転数と内燃機関の回転数の差回転を検出し、内燃機関が始動した後、差回転が第1の所定値未満となるまで、電動モータの出力トルクと油圧クラッチへの油圧供給を増加制御すると共に、差回転が第2の所定値未満となったとき、内燃機関の出力トルクを一時的に減少させながら、内燃機関の回転を電動モータの回転に同期させるようにした。
【0094】
換言すれば、検出された差回転の減少(機関回転数の上昇)に同期させて電動モータ、油圧クラッチおよび内燃機関を協調制御すると共に、機関出力トルクを減少させつつ油圧クラッチを締結するようにしたので、内燃機関の出力トルクを推定することなく、ドライブシャフトトルクの変動を小さくすることができ、それによってパワーオンダウンシフト時の油圧クラッチの締結時のショックを低減することができると共に、油圧クラッチの負荷も低減することができる。
【0095】
請求項2項にあっては、油圧クラッチへの供給油圧をライン圧まで増加制御しながら、電動モータの出力トルクを減少制御する如く構成したので、パワーオンダウンシフト時の油圧クラッチの締結時のショックを一層効果的に低減することができると共に、油圧クラッチの負荷も一層効果的に低減することができる。
【0096】
請求項3項にあっては、第2の所定値は第1の所定値より小さく設定される如く構成したので、これによって同様にパワーオンダウンシフト時の油圧クラッチの締結時のショックを一層効果的に低減することができると共に、油圧クラッチの負荷も一層効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態に係るハイブリッド車の駆動制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1装置の油圧クラッチの構造を詳細に示す説明斜視図である。
【図3】図1装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図4】図1装置において電動モータによる走行から内燃機関による走行に切り替える時点におけるトルク伝達を示す説明図である。
【図5】図1装置の動作を全体的に示すタイム・チャートである。
【図6】図3フロー・チャートのクラッチ準備圧の特性を示すタイム・チャートである。
【図7】図6に示すクラッチ準備圧の特性の中の準備圧保持時間tp0などのクラッチ回転数NCLに対する特性を示す説明グラフである。
【図8】図6に示すクラッチ準備圧の特性の中の準備圧保持時間tp0などの作動油温度TATFに対する特性を示す説明グラフである。
【図9】図3フロー・チャートの所定時間(無駄時間)の特性を示す説明グラフである。
【図10】図3フロー・チャートのモータ制御のサブルーチン・フロー・チャートである。
【図11】図10フロー・チャートのしきい値NNの特性を示す説明グラフである。
【図12】同様に、図10フロー・チャートのしきい値NNの特性を示す説明グラフである。
【図13】図10フロー・チャートの加算項MTCUの算出に使用される特性を示す説明グラフである。
【図14】同様に、図10フロー・チャートの加算項MTCUの特性を示す説明グラフである。
【図15】図10フロー・チャートの減算項MTCDの算出に使用される特性を示す説明グラフである。
【図16】同様に、図10フロー・チャートの減算項MTCDの特性を示す説明グラフである。
【図17】図3フロー・チャートのクラッチ制御のサブルーチン・フロー・チャートである。
【図18】図17フロー・チャートの加算項CLCUの算出に使用される特性を示す説明グラフである。
【図19】同様に、図17フロー・チャートの加算項CLCUの特性を示す説明グラフである。
【図20】図17フロー・チャートの第2の加算項CLCHの算出に使用される特性を示す説明グラフである。
【図21】図3フロー・チャートのエンジン制御のサブルーチン・フロー・チャートである。
【図22】図21フロー・チャートの点火時期の遅角量QTRTDを示す説明グラフである。
【図23】図21フロー・チャートの点火時期の遅角時間trtdを示す説明グラフである。
【図24】同様に、図21フロー・チャートの点火時期の遅角時間trtdを示す説明グラフである。
【図25】図1装置の動作(制御)についてのシミュレーション結果を示すタイム・チャートである。
【図26】図1装置の動作(制御)を行わない場合のシミュレーション結果を示すタイム・チャートである。
【符号の説明】
10 内燃機関(エンジン)
12 油圧クラッチ
14 電動モータ
16 自動変速機(CVT)
18 モータ通電回路
26 第1の回転数センサ
28 第2の回転数センサ
50 コントローラ
Claims (3)
- 内燃機関と、前記内燃機関の出力軸に油圧クラッチを介して連結される電動モータと、前記電動モータの出力軸に接続されて前記内燃機関と前記電動モータの少なくともいずれかの出力トルクを入力し、前記入力したトルクを変速して車輪を駆動する自動変速機を備えたハイブリッド車の駆動制御装置において、
a.前記電動モータによる走行時に運転者の加速意図に応じて前記内燃機関による走行への切り替えが指令されたとき、前記内燃機関の始動と前記油圧クラッチへの準備圧供給を開始する開始制御手段、
b.前記電動モータの回転数と前記内燃機関の回転数の差回転を検出する差回転検出手段、
c.前記内燃機関が始動した後、前記検出された差回転が第1の所定値未満となるまで、前記電動モータの出力トルクを増加制御すると共に、前記油圧クラッチへの油圧供給を増加制御する増加制御手段、
および
d.前記検出された差回転が第2の所定値未満となったとき、前記内燃機関の出力トルクを一時的に減少させながら、前記内燃機関の回転を前記電動モータの回転に同期させる同期制御手段、
を備えたことを特徴とするハイブリッド車の駆動制御装置。 - 前記同期制御手段は、前記油圧クラッチへの供給油圧をライン圧まで増加制御しながら、前記電動モータの出力トルクを減少制御することを特徴とする請求項1項記載のハイブリッド車の駆動制御装置。
- 前記第2の所定値は、前記第1の所定値より小さく設定されることを特徴とする請求項1項または2項記載のハイブリッド車の駆動制御装置。
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