JP4121838B2 - 熱可塑性樹脂組成物およびそれを含む成形品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐候性、耐衝撃性、耐薬品性、場合によっては透明性を必要とする際に使用される熱可塑性樹脂組成物およびその成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】
ABS樹脂、ハイインパクトポリスチレンに代表される耐衝撃性樹脂は、ゴム成分にスチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートやその他の単量体をグラフト重合させたグラフト共重合体を含有している。耐衝撃性樹脂の物性は、このグラフト共重合体の組成や構造、ゴム含有量および重合方法等に影響を受けている。特に、グラフト共重合体が、乳化重合法によりゴム成分に単量体をグラフト重合して製造されたものである場合には、広く知られているように、基体となるゴム成分の粒子径が耐衝撃性樹脂の耐衝撃性、加工性を支配している。具体的には、ゴム粒子径が大きくなる程、最終的に得られる耐衝撃性樹脂の耐衝撃性および加工性が向上する。
【0003】
ところが、一般的には、ゴム成分の主要構成単位がブタジエン単位である耐衝撃性樹脂では、製造直後の耐衝撃性は優れているものの、ブタジエン単位の耐候性が低いため、経時的に耐衝撃性が低下するという問題を有し、さらに、熱安定性も低いという問題も有していた。
また、ゴム成分がスチレン−ブタジエン共重合体である耐衝撃性樹脂では、スチレン−ブタジエン共重合体のスチレン単位がゴムとしての性状を低下させるため、耐衝撃性樹脂の低温域での耐衝撃性や耐薬品性が低かった。
そこで、これらの問題を解決するために、特許文献1では特定のグラフト共重合体を含むアクリル系樹脂組成物が、さらに、特許文献2〜6では、特定のゴム状重合体に特定の肥大化処理を施して製造されたグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物が提案されている。
【0004】
【特許文献1】
特開昭50−18555号公報
【特許文献2】
特開昭60−229911号公報
【特許文献3】
特開昭61−53350号公報
【特許文献4】
特開昭61−60749号公報
【特許文献5】
特開昭62−7756号公報
【特許文献6】
特開昭62−10156号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1で提案されている熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性が不十分であった。また、特許文献2〜6で提案されている熱可塑性樹脂組成物では、近年の、樹脂物性に対する高い要求レベルを満たすことはできなかった。
特に、耐候性、耐衝撃性、耐薬品性のバランスが不十分で、これらを同時に満たしていなかった。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、耐候性、耐衝撃性、耐薬品性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述した事情を鑑みて、高いレベルの耐候性、耐衝撃性、耐薬品性が同時に発現するように鋭意検討した結果、特定のアクリル酸エステル単位とジエン単位とを必須構成単位とするゴム状共重合体ラテックスに、特定のビニル系重合体をグラフト共重合させることによって、耐候性、耐衝撃性、耐薬品性が同時に向上することを見出し、以下の熱可塑性樹脂および成形品を発明した。
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるグラフト共重合体(G)は、アクリル酸エステル単位1〜99質量%と、ジエン単位99〜1質量%と、これらと共重合可能な他の単量体単位20〜0質量%とからなるゴム状重合体粒子(R)100質量部の存在下で、(メタ)アクリル酸エステルおよび芳香族アルケニルの中から選ばれた少なくとも一種の単量体50〜100質量%と、これらと共重合可能な他の単量体50〜0質量%とからなる原料単量体(B)10〜1000質量部が重合されてなるグラフト共重合体(G)であって、
前記ゴム状重合体粒子(R)には、粒子径150nm未満のものが1〜80質量%含まれていることを特徴としている。
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述したグラフト共重合体(G)1〜99質量%と、他の熱可塑性樹脂(C)である(メタ)アクリル酸エステル単位および芳香族アルケニル単位の中から選ばれた少なくとも一種を含有するビニル系共重合体(C−1)99〜1質量%とからなることを特徴としている。
【0008】
さらには、前記他の熱可塑性樹脂(C)が、(メタ)アクリル酸エステル単位を必須成分として含有するビニル系共重合体(C−2)であることが好ましい。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(G)中のゴム状重合体粒子(R)、グラフト共重合体(G)、他の熱可塑性樹脂(C)のそれぞれの屈折率差を0.02以内(0を含む)にすることができる。
本発明の成形品は、上述した熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴としている。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるグラフト共重合体(G)は、ゴム状重合体粒子(R)存在下で原料単体(B)が重合されてなるものである。
ゴム状重合体粒子(R)は、アクリル酸エステル単位とジエン単位とを有するものである。
アクリル酸エステルの種類としては特に限定されないが、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステルが例示され、中でも得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が優れることから、アクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0010】
ジエン系単位を構成するジエン化合物としては特に限定されないが、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が例示され、中でも得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が優れることから、1,3−ブタジエンが好ましい。
【0011】
ゴム状重合体粒子(R)は、必要に応じて、アクリル酸エステル単位とジエン単位と共重合可能な単量体単位を含有することができる。アクリル酸エステル単位とジエン単位と共重合可能な他の単量体としては、例えば、アクリロニトリルに代表されるシアン化ビニル系化合物、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸アルキルエステル類に代表される単官能性単量体、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能性単量体が挙げられる。
【0012】
ゴム状重合体粒子(R)における各構成成分の割合は、アクリル酸エステル単位1〜99質量%と、ジエン単位99〜1質量%、これらと共重合可能な他の単量体単位0〜20質量%であり、好ましくはアクリル酸エステル単位20〜90質量%、ジエン単位80〜10質量%、これらと共重合可能な他の単量体単位0〜20質量%であり、さらに好ましくはアクリル酸エステル単位35〜80質量%、ジエン単位65〜20質量%、これらと共重合可能な他の単量体単位0〜20質量%である。ゴム状重合体粒子(R)の各構成成分の割合がこのような範囲であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、耐候性、耐薬品性のバランスに優れる。
【0013】
上述したゴム状重合体粒子(R)は公知の乳化重合に従って製造することができる。その乳化重合の際には公知の乳化剤、連鎖移動剤、開始剤を必要に応じて使用することができる。
ゴム状重合体粒子(R)には、粒子径150nm未満のものが全ゴム状重合体粒子(R)中の1〜80質量%、好ましくは5〜60質量%、さらに好ましくは10〜50質量%含まれている。粒子径150nm未満のものが1〜80質量%含まれていない場合には、耐衝撃性と耐薬品性の両方もしくはいずれかが低下する。
【0014】
ゴム状重合体粒子(R)を上述した粒子径分布(粒子径150nm未満のものが1〜80質量%)に調節する方法としては特に制限はない。例えば、予め粒子径150nm未満のゴム状重合体を含むラテックスと粒子径150nm以上のゴム状重合体を含むラテックスとを別々に製造しておき、これらをラテックスブレンド(混合)してもよいし、粒子径150nm未満のゴム状重合体を含むラテックス、粒子径150nm以上のゴム状重合体を含むラテックスのそれぞれにグラフト重合せしめた後に、これらグラフト重合体をラテックスの状態あるいは固体化した状態でブレンドしてもよい。中でも製造上の汎用性が高いことから、ゴム状重合体をラテックスブレンドする方法が好ましい。なお、ラテックスブレンドする場合には、ラテックスブレンドした後に原料単量体をグラフト重合する。
【0015】
粒子径150nm未満のゴム状重合体を得る方法としては特に限定されず、通常の乳化重合法を採用できる。
一方、粒子径150nm以上のゴム状重合体を得る方法についても特に限定はないが、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐薬品性がより優れることから、粒子径150nm未満のゴム状重合体を酸基含有共重合体ラテックス(K)および/または酸素酸塩(S)により肥大化することが好ましい。
ここで、酸基含有共重合体ラテックス(K)としては、特公昭56−45921号公報、特公平1−32841号公報、特公平1−34521号公報、特公平4−17961号公報などに記載されたものを使用でき、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸などの酸基含有単量体単位と、アルキル基の炭素数が1〜12のアルキルアクリレート単位とを含む酸基含有共重合体ラテックスが挙げられる。
【0016】
酸素酸塩(S)としては、元素の周期律表で第IAおよび第IIA族の第3および第4周期に属する元素群の中から選ばれた元素を中心とする酸素酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、亜鉛、ニッケルおよびアルミニウムの塩の中から選ばれた少なくとも一種の酸素酸塩などが挙げられる。かかる酸素酸塩の具体的な例としては、硫酸、硝酸、リン酸等と、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、ニッケル、アルミニウムとの塩が挙げられる。好ましい酸素酸塩としては、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウムなどが挙げられる。
このような酸基含有共重合体ラテックス(K)および酸素酸塩(S)は、それぞれ単独で用いてもよいし、併用してもよい。
なお、粒子径150nm未満のゴム状重合体を酸基含有共重合体ラテックス(K)および/または酸素酸塩(S)により肥大化する方法については、上記特許文献や特開昭61−60749号公報に開示されている。
【0017】
上記ゴム状重合体粒子(R)にグラフト重合される単量体混合物(B)は、(メタ)アクリル酸エステルおよび芳香族アルケニルの中から選ばれた少なくとも一種の単量体50〜100質量%と、これらと共重合可能な他の単量体50〜0質量%とからなるものである。
(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル、およびメタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−ラウリル等のメタクリル酸エステルが挙げられるが、入手容易であることから、特にメタクリル酸メチルが好ましい。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
芳香族アルケニルの例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、入手容易であることから、特にスチレンが好ましい。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
(メタ)アクリル酸エステルおよび芳香族アルケニルと共重合可能な他の単量体としては、ゴム状重合体粒子(R)の構成成分として使用できる上述のシアン化ビニル系単量体や多官能性単量体などが例示される。なお、(メタ)アクリル酸エステルと芳香族アルケニルと共重合可能な他の単量体は、任意成分であり、原料単量体(B)中に必ず含まれている必要はない。
【0018】
原料単量体(B)の好ましい態様としては、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐候性が優れることから、(メタ)アクリル酸エステルを必須成分として含有するものであり、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステルのみからなるものである。
【0019】
ゴム状重合体粒子(R)に対する原料単量体(B)の割合は、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性や耐薬品性が高くなることから、ゴム状重合体粒子(R)100質量部に対して原料単量体(B)が10〜1000質量部、好ましくは15〜800質量部、より好ましくは20〜500質量部である。
【0020】
このようなグラフト共重合体(G)は乳化重合で製造されることが好ましい。その乳化重合に際しては、公知の乳化剤および触媒、連鎖移動剤等が使用され、その種類および添加量については特に制限はない。
また、グラフト共重合体(G)の製造では、ゴム状重合体粒子(R)に対し原料単量体(B)を一段階もしくは二段階以上でグラフト重合することができる。二段階以上でグラフト重合する場合、各段階における原料単量体(B)中の単量体組成は、いずれの段階で同じであってもよいし、必要に応じて異なっていてもよい。
【0021】
乳化重合によってグラフト共重合体(G)ラテックスを得た場合において、グラフト共重合体(G)ラテックスからグラフト共重合体(G)を得る方法としては、グラフト共重合体(G)ラテックスを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入し、スラリー状態に凝析してグラフト共重合体(G)を回収する方法(湿式法)、加熱雰囲気中にグラフト共重合体(G)ラテックスを噴霧して、半直接的にグラフト共重合体(G)を回収する方法(スプレードライ法)などが挙げられる。
【0022】
上述した湿式法において、凝固剤としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸や、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の金属塩等を用いることができる。ただし、凝固剤は重合で用いられた乳化剤の種類を考慮して選定する必要がある。すなわち、乳化剤として脂肪酸石鹸やロジン酸石鹸等のカルボン酸石鹸のみが使用されていた場合には、どのような凝固剤を用いてもグラフト共重合体(G)の回収は可能であるが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムのような酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤が含まれている場合には、上記無機酸では十分に凝析させることができないから、金属塩を用いる必要がある。
【0023】
また、湿式法において、グラフト共重合体(G)ラテックスに凝固剤を投入して形成したグラフト共重合体(G)スラリーから乾燥状態のグラフト共重合体(G)を得る方法としては、グラフト共重合体(G)中に残存する乳化剤残渣を水中に溶出させ、洗浄した後に、このスラリーを遠心もしくはプレス脱水機で脱水し、気流乾燥機等で乾燥する方法、圧搾脱水機や押出機等で脱水と乾燥とを同時に実施する方法などが挙げられる。これらの方法によれば、乾燥したグラフト共重合体(G)を粉体または粒子状で得ることができる。なお、圧搾脱水機や押出機等で脱水および乾燥した場合には、圧搾脱水機や押出機から排出されたグラフト共重合体(G)を直接、熱可塑性樹脂組成物を製造する押出機や成形機に供給して成形品を製造することもできる。
【0024】
このようにして得られたグラフト共重合体(G)は単独で使用して熱可塑性樹脂組成物としてもよいが、成形加工性や剛性、耐熱性が向上することから、通常、グラフト共重合体(G)と他の熱可塑性樹脂(C)とを混合して熱可塑性樹脂組成物を得る。
他の熱可塑性樹脂(C)としては特に限定されないが、例として、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂)、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル−スチレン−N−置換マレイミド三元共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸−N−置換マレイミド三元共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフイン、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)、スチレン−ブタジエン(SBR)、水素添加SBS、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)等のスチレン系エラストマー、各種オレフイン系エラストマー、各種ポリエステル系エラストマー、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE樹脂)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、PPS樹脂、PES樹脂、PEEK樹脂、ポリアリレート、液晶ポリエステル樹脂およびポリアミド樹脂(ナイロン)等が挙げられる。そして、これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0025】
好ましい他の熱可塑性樹脂(C)としては、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐候性がより高くなることから、(メタ)アクリル酸エステル単位および芳香族アルケニル単位の中から選ばれた少なくとも一種を必須成分として含有するビニル系共重合体(C−1)であり、より好ましい他の熱可塑性樹脂(C)としては、(メタ)アクリル酸エステル単位を必須成分として含有するビニル系共重合体(C−2)である。
【0026】
この熱可塑性樹脂組成物では、グラフト共重合体(G)中のゴム状重合体粒子(R)、グラフト共重合体(G)、他の熱可塑性樹脂(C)の屈折率を任意に設定できるが、グラフト共重合体(G)中のゴム状重合体粒子(R)、グラフト共重合体(G)、他の熱可塑性樹脂(C)のそれぞれの屈折率差が0.02以内(0を含む)であることが好ましく、0.01以内であることがさらに好ましく、0.003以内であることが特に好ましい。すなわち、グラフト共重合体(G)中のゴム状重合体粒子(R)、グラフト共重合体(G)、他の熱可塑性樹脂(C)のうちの最も屈折率が大きな成分と、最も屈折率が小さな成分との屈折率差が0.02以内(0を含む)であることが好ましい。屈折率差が上記範囲にあれば、熱可塑性樹脂組成物に透明性を付与できる。
【0027】
このような熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(G)が1〜99質量%、他の熱可塑性樹脂(C)が99〜1質量%の範囲で混合されている。熱可塑性樹脂組成物は、これら2成分のみで成形品の製造原料として用いることもできるが、必要に応じて、この熱可塑性樹脂組成物に、例えば、染料、顔料、安定剤、補強剤、充填材、難燃剤、発泡剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤等を配合することもできる。
熱可塑性樹脂組成物の製造では、これらの混合物を溶融混練することができる。溶融混練する際には、例えば、押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、ロール等の混練機等を用いることができる。
【0028】
本発明の成形品は、上述した熱可塑性樹脂組成物を成形したものである。
上記熱可塑性樹脂組成物を成形する方法としては、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法等の各種成形方法が挙げられる。
このような成形品は、様々な用途で使用でき、例えば、工業的用途例としては、車両部品、特に無塗装で使用される各種外装・内装部品、壁材、窓枠等の建材部品、食器、玩具、家電部品、インテリア部材、船舶部材および通信機器ハウジング、パソコンハウジング、PDAハウジング、液晶プロジェクターハウジング等の電機機器ハウジングに好適である。
【0029】
【実施例】
次に、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の各例中の%および部は特に明記しない限りは質量基準とする。また、参考例中に記載されているラテックス中の重合体の質量平均粒子径および粒子径分布は、MATEC APPLIED SCIENCES社製サブミクロン粒度分布測定器CHDF−2000を用いて測定された値である。
【0030】
(参考例1)小粒子ゴム状重合体(r−1)の製造
試薬注入容器、ジャケット加熱機、温度計および攪拌装置を備えたステンレス製オートクレーブに、イオン交換水210部、アクリル酸n−ブチル50部、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド0.2部、牛脂脂肪酸カリウム1部、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム0.5部、デキストローズ0.3部を仕込み、窒素置換後に1,3−ブタジエン50部を圧入した。
その後、攪拌しながらオートクレーブの内温を50℃に昇温し、次いで、ピロリン酸ナトリウム0.5部、硫酸第一鉄0.005部、イオン交換水5部からなる水溶液を圧入して重合を開始せしめた。
その間内温を50℃になる様にジャケット温度を調節し、重合開始から9時間でほぼ重合は完了し、固形分31%、粒子径80nmの小粒子ゴム状重合体(r−1)ラテックスを得た。このラテックスの平均粒子径を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
(参考例2〜5)小粒子ゴム状重合体(r−2)〜(r−5)の製造
アクリル酸n−ブチル50部および1,3−ブタジエン50部の代わりに、単量体を表1のごとく変更した以外は参考例1と同様にして重合し、小粒子ゴム状重合体(r−2)〜(r−5)ラテックスを得た。各ラテックスの平均粒子径を表1に示す。
【0033】
(参考例6)酸基含有共重合体ラテックス(K−1)の製造
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機、温度計および攪拌装置を備えたガラス製反応器内に、イオン交換水200部、オレイン酸カリウム2.2部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム2.5部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート二水和物0.3部、硫酸第一鉄七水塩0.003部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.009部を窒素フロー下で仕込み、反応器内の内温を60℃に昇温した。内温が60℃になった時点から、アクリル酸n−ブチル81.5部、メタクリル酸18.5部、クメンヒドロパーオキシド0.5部からなる混合物を120分かけて連続的に滴下した。滴下終了後さらに2時間、60℃のまま重合を継続して、固形分が33.0%、平均粒子径が145nmである酸基含有共重合体ラテックス(K−1)を得た。
【0034】
(参考例7)肥大化されたゴム状重合体(r−6)の製造
攪拌装置を備えたガラス製反応器内に、小粒子ゴム状重合体(r−1)ラテックス100部(固形分)を入れ、続いて、室温下で攪拌しながら酸基含有共重合体ラテックス(K−1)1部(固形分)を入れ、そのまま攪拌を30分間継続した。さらに、酸素酸塩である3%硫酸ナトリウム水溶液10部を加えて30分間攪拌を継続して肥大化を完了した。得られた肥大化されたゴム状重合体(r−6)の平均粒子径は370nmであった。
【0035】
(参考例8〜11)肥大化されたゴム状重合体(r−7)〜(r−10)の製造小粒子ゴム状重合体(r−1)ラテックスを表2のごとく変更した以外は参考例7と同様にして肥大化処理し、肥大化されたゴム状重合体(r−7)〜(r−10)ラテックスを得た。そのラテックスの平均粒子径を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
(参考例12)他の熱可塑性樹脂(C−1)の製造
メタクリル酸メチル99部およびアクリル酸メチル1部からなり、N,N−ジメチルホルムアミド溶液に溶解させた溶液の25℃における還元粘度が0.25dl/g、屈折率が1.489であるアクリル樹脂を公知の懸濁重合により製造した。
(参考例13)他の熱可塑性樹脂(C−2)の製造
メタクリル酸メチル85部およびスチレン15部からなり、N,N−ジメチルホルムアミド溶液に溶解させた溶液の25℃における還元粘度が0.31dl/g、屈折率が1.505であるメタクリル酸メチル−スチレン共重合体を公知の懸濁重合により製造した。
(参考例14)他の熱可塑性樹脂(C−3)の製造
アクリロニトリル29部およびスチレン71部からなり、N,N−ジメチルホルムアミド溶液に溶解させた溶液の25℃における還元粘度が0.60dl/g、屈折率が1.572であるアクリロニトリル−スチレン共重合体を公知の懸濁重合により製造した。
(参考例15)他の熱可塑性樹脂(C−4)の製造
アクリロニトリル20部、スチレン52部、N−フェニルマレイミド28部からなり、N,N−ジメチルホルムアミド溶液に溶解させた溶液の25℃における還元粘度が0.65dl/g、屈折率が1.581であるアクリロニトリル−スチレン−N−フェニルマレイミド三元共重合体を公知の連続溶液重合により製造した。
【0038】
(実施例1)
<グラフト共重合体(G−1)の製造>
小粒子ゴム状重合体(r−1)30部(固形分)、肥大化されたゴム状重合体(r−4)70部(固形分)、イオン交換水280部((r−1)および(r−4)のラテックス中の水を含む)、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2部、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム0.5部、硫酸第一鉄七水塩0.00005部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.00015部を加え、攪拌しながら内温を75℃に昇温した。75℃到達後、メタクリル酸メチル43.2部およびアクリル酸エチル1.8部(すなわち原料単量体(B)45部)と、クメンヒドロパーオキシド0.16部とからなる混合物を90分間にわたり連続的に添加し重合した。添加終了後、さらに75℃のまま60分間重合を継続して、固形分32%のグラフト共重合体(G−1)ラテックスを得た。
得られたグラフト共重合体(G−1)ラテックスに、スチレン化フェノール0.05部、ジラウリルチオプロピオネート0.05部、トリフェニルフォスファイト0.05部を加えた。その後、グラフト共重合体(G−1)ラテックスを、50℃、0.4%で前記ラテックスと同量の硫酸水中に攪拌下で投入し、さらに85℃で5分間保持してスラリーを得た。得られたスラリーに対し洗浄・脱水を三回繰り返し、次いで、65℃で36時間気流乾燥して白色粉末状のグラフト共重合体(G−1)を得た。このグラフト共重合体(G−1)の屈折率を表3に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
<熱可塑性樹脂組成物の製造>
グラフト共重合体(G−1)30質量部と、他の熱可塑性樹脂(C)70質量部と、ステアリン酸モノグリセライド0.1部と、紫外線吸収剤(チバスペシャリティケミカルズ(株)「チヌビンP」)0.2部と、光安定剤(三共(株)「サノールLS−770」)0.2部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した。次いで、この混合物を230〜260℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製PCM−30)に供給し、溶融混練してペレットを得た。さらに、このペレットを横型射出成形機((株)日本製鋼所J50−SSII)を用いてアイゾット衝撃強度測定用試片、耐薬品性評価用試片、透明性測定用試片を作製した。
そして、以下の測定方法によってアイゾット衝撃強度、耐候性、耐薬品性、透明性について評価した。その結果を表4に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
(1)アイゾット(Izod)衝撃強度の測定
ASTM D−256に準拠した方法で行った。
(2)耐候性評価
上記アイゾット衝撃強度測定用試片を、サンシャインウェザーメーター(スガ試験機(株)製)中で、ブラックパネル温度63℃、サイクル条件60分(降雨:12分)にて1000時間処理し、(1)と同様にして処理後のアイゾット衝撃強度を測定した。耐候性は、下記の保持率で評価した。
(保持率)={(処理品のIzod衝撃強度)/(未処理品のIzod衝撃強度)}×100(%)
(3)耐薬品性
長さ150mm×幅10mm×厚み2mmの試片をシリンダー温度230℃、金型温度60℃、サイドフィルムゲート金型を用いて射出成形により作製し、ISO 4599に準拠して、この試片を、定歪を与える円弧治具に取り付け、薬品(サラダ油、DOP、洗剤(花王(株)マジックリン))を塗布し、クラックやクレーズが発生し始める歪み値を測定した。この歪み値が大きい方が耐薬品性が高い。
(4)透明性
長さ100mm×幅100mm×厚み3mmの試片を、シリンダー温度230℃、金型温度60℃の条件にて射出成形により作製し、これをASTM D1003に準拠して測定した。
【0043】
(実施例2〜11、比較例1〜4)
小粒子ゴム状重合体、肥大化されたゴム状重合体、原料単量体(B)を表3のごとく変更した以外は実施例1と同様にして白色粉末状のグラフト共重合体(G−2)〜(G−11)を得た。そして、グラフト共重合体および他の熱可塑性樹脂の種類、量を表4のごとく変更した以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
なお、グラフト共重合体(G−2)〜(G−11)についても屈折率を測定し、その測定結果を表3に示すが、グラフト共重合体(G−4),(G−5),(G−10),(G−11)については不透明で測定できなかった。
【0044】
以上、各実施例および比較例の結果から、次のことが明らかとなった。
グラフト共重合体(G−1)〜(G−3),(G−7),(G−8),(G−10),(G−11)を含有する実施例1〜11の熱可塑性樹脂組成物は、本願請求項1の範囲内にあるので、いずれも良好なアイゾット衝撃強度、耐候性を示し、優れた耐薬品性を示した。
特にグラフト共重合体(G−1),(G−2),(G−11)を含む熱可塑性樹脂組成物は、いずれの測定項目でより優れた性能を示した。
さらに、グラフト共重合体(G)中のゴム状重合体粒子(R)、グラフト共重合体(G)、他の熱可塑性樹脂(C)のそれぞれの屈折率差が小さかった実施例1,2,4,5,11の熱可塑性樹脂組成物は、透明性が高かった。
【0045】
一方、比較例1の熱可塑性樹脂組成物は、ゴム状重合体粒子(R)中のアクリル酸エステルの比率が99.5質量%であるグラフト共重合体(G−4)を含んでいたので、耐薬品性は良好であるもののアイゾット衝撃強度が低かった。
その逆に、比較例2の熱可塑性樹脂組成物は、アクリル酸エステルの比率が0質量%であるグラフト共重合体(G−5)を含んでいたので、耐候性と耐薬品性とが低かった。
また、比較例3の熱可塑性樹脂組成物は、粒子径150nm未満のゴム状重合体が0質量%であるグラフト共重合体(G−6)を含んでいたので、耐衝撃性および耐薬品性が低く、逆に、比較例4の熱可塑性樹脂組成物は粒子径150nm未満のゴム状重合体が100%であるグラフト共重合体(G−9)を含んでいたので、耐衝撃性が低かった。
【0046】
【発明の効果】
以上説明したように、特定のゴム状重合体粒子(R)を使用する本発明のグラフト共重合体(G)を用いれば、耐衝撃性、耐候性、耐薬品性のバランスに優れる。
特に、耐衝撃性と耐薬品性との優れた特性バランスは、従来知られている(メタ)アクリル酸エステルゴムを構成成分とするグラフト共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物では得られない極めて高いレベルにある。したがって、本発明の熱可塑性樹脂組成物および成形品は、各種工業材料としての利用価値が極めて高い。
Claims (4)
- アクリル酸エステル単位1〜99質量%と、ジエン単位99〜1質量%と、これらと共重合可能な他の単量体単位20〜0質量%とからなるゴム状重合体粒子(R)100質量部の存在下で、(メタ)アクリル酸エステルおよび芳香族アルケニルの中から選ばれた少なくとも一種の単量体50〜100質量%と、これらと共重合可能な他の単量体50〜0質量%とからなる原料単量体(B)10〜1000質量部が重合されてなり、前記ゴム状重合体粒子(R)には、粒子径150nm未満のものが1〜80質量%含まれているグラフト共重合体(G)1〜99質量%と、
(メタ)アクリル酸エステル単位および芳香族アルケニル単位の中から選ばれた少なくとも一種を含有するビニル系共重合体(C−1)である他の熱可塑性樹脂(C)99〜1質量%とからなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。 - 前記他の熱可塑性樹脂(C)が、(メタ)アクリル酸エステル単位を含有するビニル系共重合体(C−2)であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- グラフト共重合体(G)中のゴム状重合体粒子(R)、グラフト共重合体(G)、他の熱可塑性樹脂(C)のそれぞれの屈折率差が0.02以内(0を含む)であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形品。
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