JP4120162B2 - 酸化エチレン製造用触媒の処理方法及び酸化エチレンの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エチレンと酸素との気相接触酸化による酸化エチレンの製造方法に使用する銀触媒の処理方法及び該触媒の加熱処理後に酸化エチレンを製造する方法に関する。酸化エチレンは活性水素化合物に付加重合させて非イオン系界面活性剤の製造に向けられる他、水を付加させてエチレングリコールとなし、ポリエステルやポリウレタン系高分子の原料、エンジン用不凍液等に使用される。
【0002】
【従来の技術】
エチレンと酸素との気相接触酸化により工業的に酸化エチレンを製造する際に、使用される触媒は銀触媒である。酸化エチレンを効率良く生産するために、この銀触媒の改良への要請が強く、より高活性、より高選択性、より長寿命な触媒の出現が望まれている。このため、銀の担持方法、銀の反応促進剤となるアルカリ金属やその他の添加成分についての検討、またはこれら添加成分を担持する担体の改良等、種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば、銀を錯体形成剤を使用して担持する方法として、次のような提案がなされている。例えば、硝酸銀にモノエタノールアミンが結合した銀錯体の水溶液を使用する(特公昭46−19606号公報参照)、乳酸銀水溶液を使用する方法(特開昭47−20079号公報参照)、炭酸銀/アセチルアセトン錯体のエタノール溶液として使用する(特公昭49−26603号公報参照)、シュウ酸銀/エチレンジアミン、モノエタノールアミン錯体の水溶液として使用する(特開昭47−11467号公報参照)、シュウ酸銀/エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン錯体の水溶液を使用する(特開昭61−54242号公報参照)、及びネオデカン酸銀のトルエン溶液として使用する(特開昭60−244338号公報参照)等が挙げられる。
【0004】
また、錯体形成剤を使用して銀を担持する際に、銀化合物の分解工程の加熱方法を過熱水蒸気とすることで、短時間で均一な大きさの銀粒子を得る方法が、特開昭61−71837公報及び特開平5−200289号公報等で提案されている。
一方、酸化エチレンを工業的規模で製造する設備では、酸化エチレンの製造に使用する触媒の量が、通常、数十トンにもおよぶため、触媒の製造能力にもよるが、必要量になるまで数ヶ月以上かけて製造するのが通常である。また、触媒の製造場所から酸化エチレンの製造設備までの輸送期間に、数ヶ月を用する場合等もある。このような理由から触媒は、1年間近く保存した後、酸化エチレンの製造に使用されるのが一般的である。
【0005】
他方、工業的に使用するための触媒の製造方法として、バンド式加熱装置のように、連続的に触媒を装置に投入し、加熱処理により銀化合物を分解して銀を担持させる方法により、大規模に製造する方法が採用されている。その際に使用する雰囲気ガスとしては、窒素等の不活性ガス、過熱水蒸気、空気、酸素と不活性ガスとの混合が使用されて、雰囲気ガスは大部分が循環され、その一部が系外に排出され、排出した分、新たな雰囲気ガスを追加して加熱処理が行われている。
【0006】
雰囲気ガスの一部を系外に排出するのは、雰囲気ガスに、銀化合物又は銀錯体の分解により生成する錯体形成剤化合物、その分解物、そして、銀化合物と錯体形成剤化合物とを溶解するために使用した溶媒が含まれることになるため、雰囲気ガスに含まれた錯体形成剤化合物やその分解物が触媒に吸着されたり、また、溶媒が充満することにより加熱処理が不十分となり、触媒が完全に乾燥されないことがあることを防止するためである。
【0007】
しかしながら、排出量を多くすることは、経済的に好ましくなく、通常は、若干量の排出を行うことで錯体形成剤化合物やその分解物の蓄積を抑制して触媒を製造しているのが現状である。このようにして製造された触媒には、錯体形成剤由来と思われる有機物及びその分解物が、約0.1〜0.5重量%残存していることがある。通常、この程度の残存量は、触媒製造直後の触媒を使用して酸化エチレンを製造するには、何ら影響を及ぼすものではなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、理由は明らかではないが、触媒を長期間保存していると、触媒の製造において、焼成後触媒に微量残存した銀の担持に使用した錯体形成剤化合物、またはその分解物が何らかの作用を触媒に及ぼすために、酸化エチレンの選択性が数%のオーダーで低下して、酸化エチレンの製造コストに大きな悪影響を及ぼすことが分かった。
【0009】
本発明の目的は、保存により酸化エチレンへの選択性が低下した触媒を、製造直後の性能に回復するための触媒の処理方法と、該処理後に酸化エチレンを製造することにより高い選択性及び活性で酸化エチレンを製造することができる方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に記載の発明は、担体に銀化合物と錯体形成剤化合物としてアミン化合物を含有する溶液を含浸後、焼成して得られる銀とアルカリ金属群から選ばれる少なくとも1種の金属とを担持させた酸化エチレン製造用触媒を、酸化エチレンの製造に使用するまでの間に、酸素濃度が1〜10体積%である酸素含有ガスの雰囲気下、190〜250℃で加熱処理する酸化エチレン製造用触媒の処理方法であって、アミン化合物としてエチレンジアミンを含むことを特徴とする酸化エチレン製造用触媒に関するものであり、また、請求項7に記載の発明は、担体に銀化合物と錯体形成剤化合物としてアミン化合物を含有する溶液を含浸後、焼成して得られる銀とアルカリ金属群から選ばれる少なくとも1種の金属とを担持させた酸化エチレン製造用触媒の存在下、エチレンと酸素との気相接触酸化により酸化エチレンを製造する方法であって、アミン化合物がエチレンジアミンを含み、反応前に該触媒を酸化エチレン製造用反応管に充填し、酸素濃度が1〜10体積%である酸素含有ガスの雰囲気下、190〜250℃で加熱処理を行った後、原料のエチレン及び酸素を導入して反応させる酸化エチレンの製造方法に関する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明に使用する触媒は、担体に銀とアルカリ金属群から選ばれる少なくとも1種の金属とを担持した触媒である。そして、担体に銀を担持させるには、銀化合物と錯体形成剤化合物とを含有する溶液を含浸後、焼成する。触媒に使用する担体としては、アルミナ、炭化ケイ素、チタニア、ジルコニア及びマグネシア等の耐火物が挙げられる。そのうち主成分がα−アルミナである耐火物が最終的な触媒の性能の面から好ましい。
【0012】
また、この担体は、それ自体で使用する他に、担体にアルカリ金属群の少なくとも1種の金属を含有する溶液を含浸し、乾燥を行った担体として使用することもできる。担体にアルカリ金属を担持した担体が、最終的に得られる触媒としての性能向上の面から好ましい。担体にアルカリ金属を含有する溶液を含浸させる方法としては、アルカリ金属化合物を含有する溶液中に担体を浸漬する方法、又は該溶液を担体に噴霧する方法等が挙げられる。
【0013】
担体に担持するアルカリ金属群としては、セシウム、リチウム及びナトリウム等が挙げられる。また、乾燥温度は、アルカリ金属を含有する溶液に使用した溶媒が、蒸発除去される温度であればよい。工業的には、120〜500℃、操作上好ましくは120〜250℃が採用できる。乾燥工程の雰囲気としては、窒素、ヘリウム及びアルゴン等の不活性ガス、空気、酸素と不活性ガスの混合物及び過熱水蒸気が使用できる。そのうち、過熱水蒸気を使用する方法が、最終的に得られた触媒中でのアルカリ金属の分布が均一となるため好ましい。
【0014】
次に、前記した担体、すなわち担体それ自体又はアルカリ金属を担持した担体に、銀とアルカリ金属を担持させる。
銀の担持の方法は、銀化合物と錯体形成剤化合物とを含有する溶液を担体に含浸後、焼成する。溶液中の銀濃度は、最終的に得られる触媒に対して、5〜30重量%の担持量となるように決定される。一方、アルカリ金属の担持は、アルカリ金属化合物を、銀化合物と錯体形成剤化合物とを含有する溶液に一緒に添加して行うことが簡便であり好ましいが、初めに銀を担持後、アルカリ金属を含有する溶液に含浸後、焼成して担持することもできる。
【0015】
銀化合物としては、500℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは260℃以下の温度で分解して銀を析出する化合物であればよい。具体的な銀化合物の例としては、酸化銀、硝酸銀、炭酸銀、硫酸銀や酢酸銀及びシュウ酸銀等の各種カルボン酸銀等が挙げられる。なかでも、分解温度の低さから、シュウ酸銀が好ましい。
【0016】
錯体形成剤化合物としては、アンモニア、アミン化合物及びカルボニル基又はカルボキシル基を有する化合物等が挙げられる。アミン化合物の具体例としては、例えば、モノアミン、ポリアミン及びアルカノールアミン等が挙げられる。このうち、モノアミンとしては、ピリジン、アセトニトリル及び炭素数が1〜6のアミン類等が挙げられ、ポリアミンとしては、エチレンジアミン及び1,3−ジアミノプロパン等が挙げられる。アルカノールアミンとしては、エタノールアミン等が挙げられる。なかでも、エチレンジアミン及び1,3−ジアミノプロパンが最終的に得られる触媒の性能面から好ましく、特に両者の混合物が好ましい。また、カルボニル基を有する化合物の具体例としては、アセチルアセトン等が、カルボキシル基を有する化合物の具体例としては、ネオデカン酸等が挙げられる。 銀化合物と錯体形成剤化合物とを溶解させるための溶媒としては、水溶液が操作の簡便さから最も好ましいが、アルコール等を加えた水溶液又はトルエン等の有機溶媒も使用することができる。アルカリ金属としては、前記の担体に使用した金属が使用できるが、そのうち少なくともセシウムを含有することが最終的な触媒の性能面から好ましい。アルカリ金属は、金属そのもの又は有機金属化合物を使用することができるが、使用上の簡便さから、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属塩が好ましい。アルカリ金属塩としては、ハロゲン化物塩、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、重炭酸塩及び硫酸塩が挙げられる。
【0017】
銀化合物と錯体形成剤化合物とを含有した溶液を担体に含浸させる方法としては、該溶液中で担体を浸漬する方法又は該溶液を担体に噴霧する方法等が挙げられる。
銀化合物又は銀化合物と錯体形成剤化合物から合成された銀錯体の焼成の方法は、含浸担体を固定床又は移動床の形で、単層又は多層に堆積させ、加熱した雰囲気ガスを含浸担体に接触させて行う方法が採用できる。雰囲気ガスは、含浸担体に対して上方、下方、斜め上方又は斜め下方等から流通させる方法が一般的である。生産性の面から、含浸担体を移動床の形態で連続的に投入し、多層焼成する方法が好ましい。
【0018】
触媒を製造する際に使用する雰囲気ガスは、窒素、ヘリウム及びアルゴン等の不活性ガス、空気、酸素と不活性ガスとの混合物及び過熱水蒸気が使用できる。なかでも、過熱水蒸気を使用する方法が、最終的に得られた触媒中での銀及びアルカリ金属の分布が均一となるために好ましい。焼成の温度と時間は、銀が担体上に析出する条件を選択すればよく、一般的には、120〜500℃、30分〜24時間で行うことができる。
【0019】
雰囲気ガスとして、過熱水蒸気を使用した場合の焼成温度は、120〜300℃、好ましくは130〜260℃で行われ、焼成時間は、焼成する含浸担体の量、過熱水蒸気の温度及びその流速にもよるが、1分〜3時間が適当である。実用性及び触媒の性能の面から時間は短い方が好ましく、通常3〜30分が好ましい。過熱水蒸気の流速は、最終的に得られる触媒の性能面から0.3〜5m/秒が好ましい。
【0020】
また、焼成中は雰囲気ガスの一部を系外にパージすることが必要であり、例えば、過熱水蒸気で焼成する場合には、含浸担体の投入量、過熱水蒸気の循環量及び焼成の温度と時間にもよるが、約10体積%を系外へパージして行い、錯体形成剤化合物やその分解物の蓄積を抑制するように製造する。このような方法で得られた触媒の錯体形成剤化合物及びその分解物の有機物残存量は平均で0.1〜0.5重量%である。
【0021】
この際の有機物残存量とは、熱重量測定及び示差熱分析を併用して求めた値である(TGーDTA)。TGーDTA測定方法については、社団法人日本化学会編(1992年)「第4版実験化学講座4 熱・圧力」の57〜77ページ(丸善株式会社、平成4年2月5日発行)を参考に行った。具体的には、触媒を空気気流中で、温度が約225℃から275℃まで昇温した際に、有機物及びその分解物の燃焼除去に由来すると思われる発熱と重量減少が起こることから、錯体形成剤化合物及びその分解物の有機物残存量は、該重量減少より算出した値である。 本発明の処理方法では、前記の方法により得られた酸化エチレン製造用触媒を酸化エチレンの製造に使用するまでの間に、酸素濃度が1〜10体積%である酸素含有ガスの雰囲気下、120〜250℃で加熱処理することが必要である。ここで、酸素含有ガスの酸素以外のガス成分としては、処理温度において、酸素と反応しない不活性なガス成分であれば、どのようなガスでも使用できる。具体的なガス成分としては、窒素、ヘリウム及びアルゴン等の不活性ガス、また、メタン等の飽和炭化水素等が挙げられる。
【0022】
120〜250℃で加熱処理するとは、処理を行う触媒の温度が所定温度に維持されていることをいう。具体的には、例えば、所定温度に加熱した酸素含有ガスの雰囲気ガスを触媒に対して十分量接触させて、触媒を所定温度まで加熱して処理する、又はヒータ等で触媒を所定温度まで加熱する等の方法が採用できる。
加熱処理温度が250℃を超える場合は、銀粒子がシンタリングを起こし、また、120℃未満の場合は触媒性能向上の効果が不十分なため好ましくない。この処理を行うことにより、保存により低下した酸化エチレンの選択性を触媒製造直後の性能にまで回復することができる。
【0023】
加熱処理方法としては、触媒を固定床又は移動床の形で、単層又は多層に堆積させ、加熱した酸素含有ガスを触媒に接触させて行う方法が採用できる。酸素含有ガスは、触媒に対して上方、下方、斜め上方又は斜め下方等から流通させる方法が一般的である。固定床の設備としては、箱形の乾燥機やマッフル炉等または酸化エチレン製造用反応管のような加熱可能な管を使用することができ、また、移動床の設備としては、バンド式乾燥機等を使用することができる。
【0024】
処理を行う時期は、触媒を製造した後から酸化エチレンの製造までに行えばよく、酸化エチレンを製造する直前に行うのが、装置及び工程上簡便で好ましく、その際は、触媒を酸化エチレン製造用反応管中に充填して処理を行った後、すぐに酸化エチレンの製造工程に入れるので好ましい。
本発明の処理方法において、保存により低下した選択性を回復するには酸素ガスが必要であるが、酸素濃度が高いガスで処理を行うと、活性が低下してしまう。更に、酸素濃度が高い場合には、酸化エチレンの反応を行うために反応原料ガスを導入する際に、予め反応管内の酸素ガスを不活性ガスで置換することが必要となる。この理由は、処理に使用した酸素ガスが残っていると酸化エチレンの反応を行うために反応原料ガスを導入した際、酸素濃度が爆発範囲内となってしまい、爆発を起こす可能性があり、安全性の点で好ましくない。
【0025】
また、置換に要する時間は、反応器内へのガスの導入量及び排気量、反応器の内容積、反応原料ガスを導入する時の酸素濃度等にもよるが、同じ条件の場合、酸素濃度が5体積%のガスと酸素濃度が20体積%のガスでは、酸素濃度が20体積%のガスの方が、酸素濃度が5体積%のガスより置換に要する時間が約2倍必要となる等、生産性においても好ましくない。
【0026】
そのために酸素濃度は1〜10体積%であることが必要である。また、酸素濃度が1〜3体積%であると、該処理を酸化エチレン製造用反応管に触媒を充填して行う場合に、その後の酸化エチレンを製造するために反応原料ガスを導入する際、不活性ガスによる置換工程を経ずに、直ちに原料のエチレン及び酸素等の反応ガスを導入し、酸化エチレンの製造を開始することができるので、好ましい。
【0027】
該処理中における酸素含有ガスは、流通させなくとも処理は可能だが、流通させることが処理の効果上有効であり、触媒の処理効率も高く好ましい。酸素含有ガスの流量は、GHSV換算で、100〜10000hr-1が可能であるが、操作の容易さから、100〜7500hr-1が好ましく、更に500〜5000hr-1が好ましい。ここで、GHSVとは、0℃、常圧下における触媒単位体積あたりのガス流量で定義される。加熱処理時間は、酸素濃度と処理温度に依存するが、1〜48時間で行うのが操作上現実的であり、好ましくは1〜24時間である。加熱処理時の圧力は、減圧下でも加圧下でも可能であるが、0.1〜4MPa(0〜39kg/cm2G)が操作上好ましく、0.1〜2MPa(0〜19kg/cm2G)が更に好ましい。
【0028】
本発明による酸化エチレンの製造方法は、前記の処理をした触媒を使用して、従来公知の方法で行うことができる。装置及び方法の簡便さから、処理をしない触媒をまず、酸化エチレン製造用反応管に充填し、その後、前記した処理を行った後、原料のエチレンと酸素を導入して反応させるのが好ましい。
従来公知の方法としては、例えば、反応原料ガスの組成は、エチレンが1〜40体積%、酸素分子が1〜20体積%の混合ガスが用いられ、また、一般に希釈剤、例えばメタンや窒素ガスを一定割合、例えば1〜70体積%を共存させ、酸素源としては、空気を反応原料ガスに直接導入するか、又は工業用酸素を使用して、反応原料ガスの流量は、前記により定義されたGHSVで、1000〜10000hー1、また、反応圧力は0.1〜4MPa(0〜39kg/cm2G)、反応温度は180〜350℃、好ましくは200〜300℃で行うことができる。なお反応原料ガスに、更に、反応改変剤として、例えばハロゲン化炭化水素を0.1〜50体積ppm程度を加えて行うと、触媒中のホットスポットの形成を防止でき、かつ触媒の性能、特に選択性が大幅に改善されるので好ましい。
【0029】
【実施例】
本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用した触媒は、次のように調製した。また、錯体形成剤化合物及びその分解物の有機物残存量は次の通りに測定、算出した。
【0030】
〈有機物残存量〉
社団法人日本化学会編(1992年)「第4版実験化学講座4 熱・圧力」の57〜77ページ(丸善株式会社、平成4年2月5日発行)に記載のTGーDTA測定を参考に行った。有機物残存量は、触媒を空気気流中で、温度が約225℃から275℃まで昇温した際の重量減少から算出した値である。
【0031】
〈触媒の調製〉
αーアルミナ担体(表面積1.04m2/g、吸水率32.3%、平均細孔径1.4μm、シリカ含有量3.0重量%、8φ×3φ×8mmのリング状)50gを炭酸リチウム(Li2CO3)0.94gと炭酸セシウム(Cs2CO3)0.087gが溶解した水溶液100mLに浸漬させ、余分な液を切り、次いで、これを150℃の過熱水蒸気にて15分間、2m/秒の流速で加熱し、リチウム(568重量ppm)とセシウム(227重量ppm)成分を担持した担体を調製した。 次に、硝酸銀(AgNO3)228gとシュウ酸カリウム(K2C2O4・H2O)135gを各々1Lの水に溶解した後、水溶液中で60℃に加温しながら徐々に混合し、シュウ酸銀の白色沈殿を得た。濾過後、沈殿物を蒸留水により洗浄して得られたシュウ酸銀(Ag2C2O4、含水率19.47%)の一部である12.3gを、エチレンジアミン3.42g、1,3−ジアミノプロパン0.94g、及び水4.54gよりなるアミン混合水溶液に徐々に添加し、溶解させ、銀アミン錯体溶液を調製した。
【0032】
この銀アミン錯体溶液に、塩化セシウム(CsCl)1.14重量%と硝酸セシウム(CsNO3)1.98重量%を含有する混合水溶液1mLを攪拌しながら添加した。該混合液に、更に、水酸化バリウム八水和物(Ba(OH)2・8H2O)水溶液1mL(0.66重量%濃度)を添加した。
そして、前記で調製したリチウムとセシウムを担持したαーアルミナ担体50gと前記方法で調製したセシウム及びバリウムを含有する銀アミン錯体溶液とを、エバボレーターに入れ、エバポレーター中で減圧下、40℃の加温中で含浸した。その後、該含浸担体を、200℃の過熱水蒸気にて、2m/秒流速の気流中に15分間保持し、触媒を調製した。なお、触媒は、酸化エチレンの製造に使用するまでの間、ポリエチレン製袋(0.1mm厚)中に密閉し、屋内で保存した。 得られた触媒の銀(Ag)、セシウム(Cs)、リチウム(Li)及びバリウム(Ba)の担持率は、それぞれ12重量%、590ppm、470ppm及び47ppmであった。また平均の有機物残存量は、0.2重量%であった。
【0033】
【実施例1】
18ヶ月間保存した触媒を、6〜10メッシュに破砕し、その3mLを内径7.5mmのSUS製反応管に充填した。その後、酸素濃度1%残りが窒素であるガスを、ガス量GHSV換算で4300hr-1で供給し、加熱温度は190℃、処理時間は2時間、系内の圧力は0.8MPa(7kg/cm2G)で処理を行った。
処理後、反応ガス(エチレン30%、酸素8.5%、塩化ビニル1.5ppm、二酸化炭素6.0%、残り窒素)を、GHSV4300hr-1、圧力0.8MPa(7kg/cm2G)で流通させ反応を行い酸化エチレンを製造した。触媒性能は、反応を開始して1週間経過後の触媒活性と酸化エチレンへの選択性で表した。なお、触媒活性は酸素転化率が40%になるときの反応温度T40(℃)、選択性は酸素転化率40%におけるエチレン基準の酸化エチレンへの選択率S40(%)である。活性T40(℃)及び選択性S40(%)の結果を表1に示す。
【0034】
【実施例2〜13、比較例3】
実施例1において、18ヶ月保存した触媒を、表1に示す酸素含有ガスの酸素濃度、処理時間及び温度に代えて処理を行った。処理後、実施例1と同様な方法で反応を行い酸化エチレンを製造した。活性T40(℃)及び選択性S40(%)の結果を表1に示す。
【0035】
【実施例14】
実施例6において、ガス量をGHSV換算で1600hr-1に代えて処理を行った。処理後、実施例1と同様な方法で反応を行い酸化エチレンを製造した。活性T40(℃)及び選択性S40(%)の結果を表1に示す。
【0036】
【比較例1】
実施例1において、18ヶ月保存した触媒に本発明の処理を行わず行わなかった他は、実施例1と同様な方法で反応を行い酸化エチレンを製造した。活性T40(℃)及び選択性S40(%)の結果を表1に示す。
【0037】
【比較例2】
実施例1において、18ヶ月保存した触媒を100%窒素ガスの雰囲気下で処理を行った。処理後、実施例1と同様な方法で反応を行い酸化エチレンを製造した。活性T40(℃)及び選択性S40(%)の結果を表1に示す。
【0038】
【比較例4】
実施例1において、18ヶ月保存した触媒をマッフル炉(内径:15cm×15cm×15cm、ヤマト科学(株)社製)に投入し、マッフル炉内の空気中(酸素濃度20%の酸素含有ガス)で、加熱温度300℃、加熱処理時間4時間、大気圧に代えた他は、実施例1と同様な方法で処理を行った。処理した触媒3mLを内径7.5mmのSUS製反応管に充填し、実施例1と同様な方法で反応を行い酸化エチレンを製造した。活性T40(℃)及び選択性S40(%)の結果を表1に示す。
【0039】
【比較例5】
比較例4において、加熱温度を500℃に代えて処理を行った。処理後、同様な方法で反応を行い酸化エチレンを製造した。活性T40(℃)及び選択性S40(%)の結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
【発明の効果】
本発明の処理方法を行うと、保存により低下した触媒の酸化エチレンへの選択性を活性を低下させずに回復することができ、また、この処理後、酸化エチレンを製造することで高い選択性及び活性で酸化エチレンを製造することができる。
Claims (9)
- 担体に銀化合物と錯体形成剤化合物としてアミン化合物を含有する溶液を含浸後、焼成して得られる銀とアルカリ金属群から選ばれる少なくとも1種の金属とを担持させた酸化エチレン製造用触媒を、酸化エチレンの製造に使用するまでの間に、酸素濃度が1〜10体積%である酸素含有ガスの雰囲気下、190〜250℃で加熱処理する酸化エチレン製造用触媒の処理方法であって、アミン化合物としてエチレンジアミンを含むことを特徴とする酸化エチレン製造用触媒の処理方法。
- アミン化合物として、更に1,3−ジアミノプロパンを含有することを特徴とする請求項1に記載の触媒の処理方法。
- 酸素含有ガスの酸素濃度が1〜3体積%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒の処理方法。
- 酸素含有ガスの酸素以外のガスが不活性ガスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の触媒の処理方法。
- 酸素含有ガスの雰囲気下での加熱処理が酸素含有ガスを流通させて行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の触媒の処理方法。
- 酸化エチレン製造用触媒を得る際の焼成が、過熱水蒸気を用いて行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の触媒の処理方法。
- 担体に銀化合物と錯体形成剤化合物としてアミン化合物を含有する溶液を含浸後、焼成して得られる銀とアルカリ金属群から選ばれる少なくとも1種の金属とを担持させた酸化エチレン製造用触媒の存在下、エチレンと酸素との気相接触酸化により酸化エチレンを製造する方法において、アミン化合物がエチレンジアミンを含み、反応前に該触媒を酸化エチレン製造用反応管に充填し、酸素濃度が1〜10体積%である酸素含有ガスの雰囲気下、190〜250℃で加熱処理を行った後、原料のエチレン及び酸素を導入して反応を行うことを特徴とする酸化エチレンの製造方法。
- アミン化合物として、更に1,3−ジアミノプロパンを含有することを特徴とする請求項7に記載の酸化エチレンの製造方法。
- 酸素含有ガスの雰囲気下での加熱処理が酸素含有ガスを流通させて行うことを特徴とする請求項7又は8に記載の酸化エチレンの製造方法。
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