JP3823716B2 - エチレンから酸化エチレンを製造するための触媒の製造方法 - Google Patents

エチレンから酸化エチレンを製造するための触媒の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エチレンと酸素との気相接触酸化による酸化エチレンの製造に使用する銀触媒の製造方法に関する。酸化エチレンは活性水素化合物に付加重合させて非イオン系界面活性剤の製造に向けられる他、水を付加させてエチレングリコールとなし、ポリエステルやポリウレタン系高分子の原料、エンジン用不凍液などに使用される。
【0002】
【従来の技術】
従来より、エチレンと酸素との気相接触酸化により工業的に酸化エチレンを製造する際に使用される触媒は銀触媒である。酸化エチレンを効率良く生産するために、この銀触媒の改良への要請が強く、より高活性、より高選択性、より長寿命な触媒の出現が望まれ、このため、銀の担持方法、銀の反応促進剤となるアルカリ金属やその他の添加成分についての検討、またはこれら添加成分を担持する担体の改良等、種々の方法が提案されている。
【0003】
銀触媒を製造する際、錯体形成剤化合物を使用して銀を担持する方法として、次のような提案がなされている。例えば、硝酸銀にモノエタノールアミンが結合した銀錯体の水溶液を使用する(特公昭46−19606号公報参照)、乳酸銀水溶液を使用する方法(特公昭47−20079号公報参照)、炭酸銀/アセチルアセトン錯体のエタノール溶液として使用する(特公昭49−26603号公報参照)、シュウ酸銀/エチレンジアミン、モノエタノールアミン錯体の水溶液として使用する(特開昭47−11467号公報参照)、シュウ酸銀/エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン錯体の水溶液を使用する(特開昭61−54242号公報参照)、及びネオデカン酸銀のトルエン溶液として使用する(特開昭60−244338号公報参照)等である。
【0004】
そして、これら錯体形成剤化合物を使用して銀を担体に担時させるには、含浸担体を雰囲気ガス中で加熱処理して焼成させる。この場合、含浸担体を固定床または移動床の形で、単層又は多層に堆積させ、加熱した雰囲気ガスを含浸担体に接触させて行う方法が採用され、工業的規模で生産するには、含浸担体を移動床の形態で連続的に投入し、多層焼成する方法が一般的に行われている。
【0005】
雰囲気ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス、または空気、酸素と該不活性ガスとの混合物及び過熱水蒸気が使用される。
加熱処理の際に使用される装置としては、例えば「化学工学便覧(改訂5版)」1988年、社団法人化学工学協会編、丸善株式会社、昭和63年3月18日発行の674〜675頁に記載されているような通気バンド乾燥器が使用でき、雰囲気ガスを循環させて含浸担体を加熱する。
【0006】
しかしながら、錯体形成剤化合物を使用して銀を含浸後加熱処理を行う場合、加熱処理装置中を循環する雰囲気ガスには、含浸担体との接触により、銀化合物あるいは銀錯体の分解により生成する錯体形成剤化合物やその分解物、および銀化合物と錯体形成剤化合物とを溶解させるために使用した溶媒が含まれることになり、錯体形成剤化合物やその分解物、および溶媒が雰囲気ガス中に蓄積されて、触媒に錯体形成剤やその分解物が再付着したり、完全に乾燥されなくなってしまうことがあった。
【0007】
そのため、含浸担体を通過した後、ある割合で雰囲気ガスを系外に排気することが必要となる。しかしながら、排気量を多くすることは、排気分の補充のために新たに系内に導入する雰囲気ガスの量が増加することとなり、工業的な規模で生産するには不経済となってしまうこと、また、得られた触媒の触媒性能との兼ね合いから排気分として約10容積%を排気して行うことが知られている。
【0008】
このような方法により得られた触媒には、錯体形成剤化合物及びその分解物と思われる有機物が0.1〜0.3重量%残存しているが、触媒製造の直後に触媒を使用して酸化エチレンを製造するには、何ら影響はなく、高い選択率で酸化エチレンを製造することが可能であった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
酸化エチレンを工業的規模で製造する設備では、通常、それに使用する触媒の量が数十トンに及ぶために、触媒製造能力によるが、数ヶ月前より製造を開始し、必要量になるまで数ヶ月以上かけて製造することが通常である。また、触媒の製造場所から酸化エチレンの製造設備までの輸送期間に、数ヶ月間を要する場合等もある。このような理由から、触媒は1年間近く保存した後、酸化エチレンの製造に使用されるのが現状である。
【0010】
ところが、触媒製造後1ケ月以内では、高い選択率で酸化エチレンを製造できていた触媒が、長期間保存した後に使用すると、理由は明らかではないが酸化エチレンへの選択性が数%のオーダーで低下してしまうという問題があった。数%オーダーの低下は、工業的に酸化エチレンを製造するには、製造コスト的に大きな悪影響を及ぼすものである。
【0011】
そのため本発明の目的は、長期間保存しても触媒の性能が低下しない保存に対して安定な性能を示すエチレンから酸化エチレンを製造するための触媒を経済的にかつ簡単に製造する方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、保存による性能低下が、従来の方法では酸化エチレン製造用触媒の製造工程中、銀の担持に使用した錯体形成剤化合物及びその分解物と思われる有機物が加熱分解後に触媒に微量残存していることが何らかの作用を及ぼしていることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の請求項1に記載の発明は、銀とアルカリ金属群から選ばれる少なくとも1種の金属とを担持させたエチレンから酸化エチレンを製造するための触媒を連続的に製造する方法において、担体への銀の担持を、銀化合物と錯体形成剤化合物とを含有する溶液を担体に含浸後、該含浸担体を前工程として雰囲気ガスの供給及び排気が可能な連続式加熱装置に投入し、加熱した雰囲気ガスを循環させて加熱処理した後、後工程として該含浸担体に新しい加熱した雰囲気ガスを通過させて、そのうち90容積%以上を排気する処理を5分間以上行うエチレンから酸化エチレンを製造するための触媒の製造方法に関する。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、後工程の処理時間が5分間〜20分間内である請求項1に記載のエチレンから酸化エチレンを製造するための触媒の製造方法に関する。 更に、請求項3に記載の発明は、加熱した雰囲気ガスが過熱水蒸気である請求項1又は2に記載のエチレンから酸化エチレンを製造するための触媒の製造方法に関する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明に使用する触媒は、担体に銀とアルカリ金属群から選ばれる少なくとも1種の金属とを担持した触媒である。そして、担体に銀を担持させるには、銀化合物と錯体形成剤化合物とを含有する溶液を担体に含浸後、該含浸担体を前工程として雰囲気ガスの供給及び排気が可能な連続式加熱装置に投入し、加熱した雰囲気ガスを循環させて加熱処理した後、後工程として該含浸担体に新しい加熱した雰囲気ガスを通過させて、そのうち90容積%以上を排気する処理を5分間以上行う必要がある。
【0016】
触媒に使用する担体としては、アルミナ、炭化ケイ素、チタニア、ジルコニアおよびマグネシア等の耐火物が挙げられる。そのうち主成分がα−アルミナである耐火物が最終的な触媒の性能の面から好ましい。
また、この担体は、それ自体で使用する他に、担体にアルカリ金属群の少なくとも1種の金属を含有する溶液を担体に含浸し、加熱処理を行った担体として使用することもできる。アルカリ金属を担時した担体の方が、最終的に得られる触媒の性能向上の面から好ましい。担体にアルカリ金属を含有する溶液を含浸させる方法としては、アルカリ金属化合物を含有する溶液中に担体を浸漬する方法、または該溶液を担体に噴霧する方法が挙げられる。
【0017】
担体に担持するアルカリ金属群としては、セシウム、リチウムおよびナトリウム等が挙げられる。また、加熱処理温度は、アルカリ金属を含有する溶液で使用した溶媒が蒸発除去される温度であればいかなる温度も可能だが、工業的には120〜500℃、好ましくは120〜250℃で行うことが操作上好ましい。一方、加熱処理工程の雰囲気は、加熱処理温度において気体状態である単体及び化合物が使用可能であり、具体的には、例えば空気、窒素、ヘリウムおよびアルゴン等の不活性ガス、酸素と不活性ガスの混合物および過熱水蒸気が使用できる。そのうち、過熱水蒸気を使用する方法が、最終的に得られる触媒中でのアルカリ金属の分布が均一となるため好ましい。
【0018】
次に、前記した担体、すなわち担体それ自体またはアルカリ金属を担持した担体に、銀とアルカリ金属群の少なくとも1種の金属を担持させる。アルカリ金属群のなかでは、前記の担体に使用した金属が使用できるが、そのうち少なくともセシウムを含有することが最終的な触媒の性能面から好ましい。アルカリ金属は、金属そのものまたは有機金属化合物を使用することも可能だが、使用上の簡便さから、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属塩が好ましい。アルカリ金属塩としては、ハロゲン化物塩、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、重炭酸塩及び硫酸塩が挙げられる。
【0019】
銀の担持の方法は、銀化合物と錯体形成剤化合物を含有する溶液を担体に含浸後、加熱処理することである。溶液中の銀濃度は、最終的に得られる触媒に対して、5〜30重量%の担持量となるように決定される。一方、アルカリ金属の担持は、アルカリ金属化合物を、銀化合物と錯体形成剤化合物を含有する溶液に一緒に添加して行うことが簡便であり好ましいが、銀を担時した後、アルカリ金属を含有する溶液に含浸後、加熱して担持することもできる。
【0020】
銀化合物としては、500℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは260℃以下の温度で分解して銀を析出する化合物であればよい。具体的な銀化合物の例としては、酸化銀、硝酸銀、炭酸銀、硫酸銀や酢酸銀、およびシュウ酸銀等の各種カルボン酸銀等が挙げられる。なかでも、分解温度の低さから、シュウ酸銀が好ましい。
【0021】
錯体形成剤化合物としては、アンモニア、アミン化合物、カルボニル基またはカルボキシル基を有する化合物が挙げられる。アミン化合物の具体的な例としては、例えば、モノアミン、ポリアミン及びアルカノールアミン等が挙げられる。このうち、モノアミンとしては、ピリジン、アセトニトリル及び炭素数が1〜6のアミン類等が挙げられ、ポリアミンとしては、エチレンジアミン及び1,3−ジアミノプロパン等が挙げられ、アルカノールアミンとしては、エタノールアミン等が挙げられる。なかでも、エチレンジアミン及び1,3−ジアミノプロパンが最終的に得られる触媒の性能面から好ましく、特に両者の混合物が好ましい。また、カルボニル基を有する化合物の具体的な例としてはアセチルアセトン等が、カルボキシル基を有する化合物の具体的な例としてはネオデカン酸等が挙げられる。銀化合物と錯体形成剤化合物を含有する溶液の溶媒としては、水溶液が操作の簡便さから最も好ましいが、アルコールなどを加えた水溶液、またはトルエンなどの有機溶媒も使用することができる。
【0022】
銀化合物と錯体形成剤化合物を含有した溶液を担体に含浸させる方法としては、該溶液中で担体を浸漬する方法、または該溶液を担体に噴霧する方法等が挙げられる。
本発明方法における銀化合物あるいは銀錯体を分解し銀を析出させるための加熱処理は、該含浸担体を前工程として雰囲気ガスの供給及び排気が可能な連続式加熱装置に投入し、加熱した雰囲気ガスを循環させて加熱処理した後、後工程として該含浸担体に新しい加熱した雰囲気ガスを通過させて、そのうち90容積%以上を排気する処理を5分間以上行う。
【0023】
前工程で使用する雰囲気ガスの供給及び排気可能な連続式加熱装置とは、含浸担体を加熱するための該装置内の空間に、焼成すべき含浸担体が連続的に移送され、連続的に該装置外に排出される装置のことである。
該連続式加熱装置としては、「化学工学便覧(改訂5版)」1988年、社団法人化学工学協会編、丸善株式会社、昭和63年3月18日発行の674〜683頁に記載があるように、含浸担体を水平に移動するバンドに積載し移動させて加熱乾燥するもの、または傾斜回転円筒より斜め下方に含浸担体を移動させて加熱乾燥する回転乾燥器などが挙げられる。これらの内、加熱乾燥工程における含浸担体と雰囲気ガスとの接触の容易さから、加熱した雰囲気ガスを通気させるバンド乾燥器(通気バンド乾燥器)を使用するのが好ましい。雰囲気ガスは、含浸担体に対して、上方または下方から流通させて循環させる。雰囲気ガスの流通方向は、担体に含浸させた銀化合物と錯体形成剤化合物を含有する溶液が滴下しないように、含浸担体に対して下方から流通させることが好ましい。
【0024】
連続式加熱装置の大きさは、製造する触媒の量により適宜選択できるが、例えば前述したような通気バンド乾燥器では、工業的に使用するために大規模に生産する場合、含浸担体を堆積させる面は、幅が25cm以上、長さが1m以上が一般的である。
雰囲気ガスは、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス、あるいは空気、酸素と該不活性ガスとの混合物及び過熱水蒸気が使用できる。なかでも、過熱水蒸気を使用する方法が、加熱に要する時間が短時間となり、しかも最終的に得られる触媒中での銀およびアルカリ金属の分布が均一となるために好ましい。
【0025】
前工程での加熱処理の温度と時間は、銀が担体上に析出するのに必要な温度と時間が選択され、雰囲気ガスに依存するが、一般的には120〜500℃、1分〜24時間である。なお、加熱処理の時間は、該連続式加熱装置内での含浸担体の移送速度によって制御される。
雰囲気ガスとして過熱水蒸気を使用した場合、加熱温度は、120〜300℃、好ましくは130〜260℃で行われる。加熱時間は、加熱すべき含浸担体の量、過熱水蒸気の温度及びその流速にもよるが、1分〜3時間が適当である。実用性及び触媒の性能の面から時間は短い方が好ましく、通常3〜30分が好ましい。含浸担体を通過する際の過熱水蒸気の流速は、最終的に得られる触媒の性能面から0.3〜5m/秒が好ましい。
【0026】
後工程に使用する連続式加熱装置も前工程に使用するものと同様な装置が使用できる。また、前工程と後工程を一体型の連続式加熱装置を用い行う場合は、前後の連続式加熱装置を仕切板などで区切り、前段の加熱した雰囲気ガス中に含まれる含浸担体より発生した錯体形成剤及びその分解物等の有機物と溶媒を含んだ加熱した雰囲気ガスが、後段の加熱した雰囲気ガスに混入しないようにすることが必要である。後工程での加熱温度及び流速は、前工程と同様な範囲を選択して行うことができる。
【0027】
前工程の加熱処理では、含浸担体を加熱した雰囲気ガスを循環させて加熱乾燥させる。その際、加熱した雰囲気ガスを若干量追加供給し、排気させて行ってもよい。後工程は、前工程の直後に行うことが好ましく、前工程処理した含浸担体に新しい加熱した雰囲気ガスを通過させて、そのうち90容積%以上を排気する処理を5分間以上行う。雰囲気ガスの排気は、該雰囲気ガスが含浸担体と接触した後に行われ、その処理時間は5分間以上、経済的には、5分間から20分間以内が好ましい。また、後工程処理で排出された加熱した雰囲気ガスを前工程処理に投入して使用することもできる。
【0028】
後工程の処理を行わないと得られた触媒の中に錯体形成剤化合物及びその分解物等の有機物が0.1〜0.3重量%程度残存してしまい、この触媒を保存した後に使用した際に、酸化エチレンの選択率が触媒の製造直後よりも低下してしまうので好ましくない。
本発明の製造方法により、触媒中の錯体形成剤化合物およびその分解物の残存量が0.02重量%未満の触媒を得ることができ、触媒の製造時から長期間の保存後においても製造直後と同様な高い酸化エチレンの選択性を有する触媒となる。
【0029】
なお、触媒中の有機物の残存量は、熱重量測定および示差熱分析を併用し決定した(TG−DTA)。TG−DTA測定方法については、「第4版実験化学講座4 熱・圧力」、社団法人日本化学会編(1992年)、丸善株式会社、平成4年2月5日発行の57〜77頁を参考にした。触媒を空気気流中でTG−DTA測定した場合、温度が約225℃から275℃まで昇温した際に、有機物およびその分解物の燃焼除去に由来すると思われる発熱と重量減少が観測される。触媒に残存する有機物およびその分解物の量は、該温度範囲における重量減少から算出した値である。
本発明の製造方法により得られた触媒は、従来から公知の方法によりエチレンから酸化エチレンを製造する触媒として使用できる。
【0030】
具体的方法としては、反応原料ガスの組成は、エチレンが1〜40容積%、酸素が1〜20容積%の混合ガスが用いられ、また、一般に希釈剤、例えばメタンや窒素ガスを一定割合、例えば1〜70容積%が共存させることが可能である。酸素源としては、空気を反応原料ガスに直接導入するか、または工業用酸素が使用される。さらに、反応改変剤として、例えばハロゲン化炭化水素を0.1〜50容積ppm程度、反応原料ガスに加えることにより、触媒中のホットスポットの形成を防止でき、かつ触媒の性能、特に選択性が大幅に改善される。反応原料ガスの流量は、GHSV換算で1,000〜10,000h-1が一般的である。ここで、GHSVとは、触媒単位体積あたりの0℃、常圧下におけるガス流量で定義される。反応圧力は0.1〜4MPa(0〜39kg/cm2G)、反応温度は180〜350℃、好ましくは200〜300℃で行うことができる。
【0031】
【実施例】
本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用した触媒中の銀、セシウム、リチウム、ナトリウム、バリウムの含有量は、化学分析により測定し、触媒中の有機物の残存量は次に記載のとおり測定、算出した。
【0032】
〈残存量〉
社団法人日本化学会編(1992年)「第4版実験化学講座4 熱・圧力」の57〜77頁(丸善株式会社、平成4年2月5日発行)に記載のTG−DTA測定を参考に行った。触媒中の有機物の残存量は、触媒を空気気流中で温度が約225℃から275℃まで昇温した際の重量減少から算出した。
【0033】
【実施例1】
(含浸担体の調製)
αーアルミナ担体(表面積1.04m2/g、吸水率32.3%、平均細孔径1.4μm、シリカ含有量3.0重量%、8φ×3φ×8mmのリング状)50kgを炭酸リチウム(Li2CO3)939gと炭酸セシウム(Cs2CO3)86.5gが溶解した水溶液100Lに浸漬させ、余分な液を切り、次いで、これを150℃の過熱水蒸気にて20分間、2m/秒の流速で加熱し、リチウム(568重量ppm)とセシウム(227重量ppm)成分を担持した担体を調製した。
【0034】
次に、硝酸銀(AgNO3)49.0kgとシュウ酸カリウム(K224・H2O)6.40kgを各々60Lの水に溶解した後、水浴中で60℃に加温しながら徐々に混合し、シュウ酸銀の白色沈殿を得た。濾過後、沈殿物を蒸留水により洗浄して得られたシュウ酸銀(AgC24、含水率19.5%)11.9kgを、エチレンジアミン3.44kg、1,3−ジアミノプロパン943g、及び水4Lよりなるアミン混合水溶液に徐々に添加し、溶解させ、銀アミン錯体溶液を調製した。
【0035】
この銀アミン錯体溶液に、塩化セシウム(CsCl)11.4gと硝酸セシウム(CsNO3)19.9g、水酸化バリウム八水和物(Ba(OH)2・8H20)6.55g、水417mLからなる水溶液、さらに水1.73Lを添加した。
そして、前記で調製したリチウムとセシウムを担持したαーアルミナ担体50kgと前記方法で調製したセシウム及びバリウムを含有する銀アミン錯体溶液とをエバポレーターに投入し、減圧下、40℃の加温中で含浸し含浸担体を得た。
【0036】
(含浸担体の加熱処理)
その後、該含浸担体を前工程、後工程の2工程からなる連続式加熱装置によって加熱処理を行った。該連続式加熱装置は、「化学工学便覧(改訂5版)」1988年、社団法人化学工学協会編、丸善株式会社、昭和63年3月18日発行の674頁の図14・23に記載されているような通気バンド乾燥器であるが、前工程、後工程では、雰囲気ガスの供給及び排気が独立に制御可能となるように、装置内部に仕切板を設け、雰囲気ガスの混合を防止した。使用した装置の大きさは、幅が約1m、長さが約2m、高さ約3mであり、該装置内で含浸担体が堆積するバンドの幅は25cm、含浸担体が過熱水蒸気と接触する面は幅が25cm、長さが全長135cm、前工程部分が90cm、後工程部分が25cmである。雰囲気ガスには過熱水蒸気を使用し、雰囲気ガスは前工程、後工程とも流速2m/秒の状態で含浸担体に接触させた。含浸担体の投入量は50kg/h、過熱水蒸気の追加供給量は、前工程が160m3/h、後工程が450m3/hで行った。前工程では、過熱水蒸気の1440m3/hを循環させ、過熱水蒸気の系外への排出割合は10容積%、一方、後工程では、全量を系外に排気した。加熱温度は200℃とし、含浸担体を該装置内の前工程に20分間、後工程に5.6分間、合計で約26分間滞留させ、触媒を調製した。こうして製造された触媒の有機物残存量を測定したところ、有機物は検出されなかった。後工程での加熱雰囲気ガスの排出割合、排出時間及び触媒中の有機物量を表1に示す。
【0037】
得られた触媒の銀(Ag)、セシウム(Cs)、リチウム(Li)及びバリウム(Ba)の担持率は、それぞれ12重量%、590重量ppm、470重量ppm、50重量ppmであった。この組成の触媒を触媒Aとした。
触媒は、酸化エチレンの製造に使用するまでの間、ポリエチレン製袋(0.1mm厚)中に密閉し、屋内で保存した。
【0038】
(触媒の性能評価)
保存期間1ヶ月以内及び18ヶ月間保存した後の触媒を、6〜10メッシュに破砕し、その3mLを内径7.5mmのSUS製反応管に充填した。その後、反応ガス(エチレン30%、酸素8.5%、塩化ビニル1.5ppm、二酸化炭素6.0%、残り窒素)を、GHSV4300h-1、圧力0.8MPa(7kg/cm2G)で流通させ、反応を行った。触媒性能は、反応を開始して1週間経過後の触媒活性と酸化エチレンへの選択性で示した。なお、触媒活性は酸素転化率が40%になるときの反応温度T40(℃)、選択性は酸素転化率40%におけるエチレン基準の酸化エチレンへの選択率S40(%)とし、それぞれ表1に示す。
【0039】
【実施例2】
実施例1において、連族式加熱装置での前工程の滞留時間を60分間に代え、また、後工程の滞留時間を16.8分間、合計で約77分間に代えた他は実施例1と同様な方法で触媒を調製した。
こうして製造された触媒の有機物残存量を測定したところ、有機物は検出されなかった。後工程での加熱雰囲気ガスの排出割合、排出時間及び触媒中の有機物量を表1に示す。また、得られた触媒を実施例1と同様に性能評価した結果を表1に示す。
【0040】
【実施例3】
実施例1において、前工程での過熱水蒸気の追加供給量を、後工程から排出された過熱水蒸気450m3/hを前工程での追加供給量として、前工程での排出割合を24%に代えた他は、実施例1と同様な方法で触媒を調製した。
こうして製造された触媒の有機物残存量を測定したところ、有機物は検出されなかった。後工程での加熱雰囲気ガスの排出割合、排出時間及び触媒中の有機物量を表1に示す。また、得られた触媒を実施例1と同様に性能評価した結果を表1に示す。
【0041】
【比較例1】
実施例1において、前工程と後工程とのしきりのない連続式加熱装置に代えた他は、前工程と同じ条件で触媒を調製した。
こうして製造された触媒の有機物残存量を測定したところ、残存量は0.2重量%であった。触媒中の有機物量を表1に示す。また、得られた触媒を実施例1と同様に性能評価した結果を表1に示す。
【0042】
【比較例2】
実施例1において、後工程の排出割合を15%にした他は、実施例1と同様な方法で触媒を調製した。
こうして製造された触媒の有機物残存量を測定したところ、有機物が検出された。後工程での加熱雰囲気ガスの排出割合、排出時間及び触媒中の有機物量を表1に示す。また、得られた触媒を実施例1と同様に性能評価した結果を表1に示す。
【0043】
【実施例4】
実施例1において、αーアルミナ担体に担持するリチウムとセシウムとに代えて、炭酸ナトリウム(Na2CO3)1.62kgが溶解した水溶液100Lに代えた他は、実施例1と同様な方法で含浸担体を調製した。
その後、実施例1と同様な方法で加熱処理を行い、触媒を得た。得られた触媒の銀(Ag)、セシウム(Cs)、ナトリウム(Na)及びバリウム(Ba)の担持率は、それぞれ12重量%、400重量ppm、0.2重量%、50重量ppmであった。この組成の触媒を触媒Bとした。
【0044】
こうして製造された触媒の有機物残存量を測定したところ、有機物は検出されなかった。後工程での加熱雰囲気ガスの排出割合、排出時間及び触媒中の有機物量を表1に示す。また、得られた触媒を実施例1と同様に性能評価した結果を表1に示す。
【0045】
【比較例3】
実施例4において、前工程と後工程とのしきりのない連続式加熱装置に代えた他は、前工程と同じ条件で触媒を調製した。
こうして製造された触媒の有機物残存量を測定したところ、残存量は0.2重量%であった。触媒中の有機物量を表1に示す。また、得られた触媒を実施例1と同様に性能評価した結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
Figure 0003823716
【0047】
【発明の効果】
本発明は、長期保存後にも触媒の性能が低下しない触媒を経済的に、かつ簡単に製造することができる方法を提供し、それにより得られた触媒は長期間保存後に酸化エチレンの製造に使用しても、高い選択性で酸化エチレンを製造することができる。

Claims (3)

  1. 銀とアルカリ金属群から選ばれる少なくとも1種の金属とを担持させたエチレンから酸化エチレンを製造するための触媒を連続的に製造する方法において、担体への銀の担持を、銀化合物と錯体形成剤化合物とを含有する溶液を担体に含浸後、該含浸担体を前工程として雰囲気ガスの供給及び排気が可能な連続式加熱装置に投入し、加熱した雰囲気ガスを循環させて加熱処理した後、後工程として該含浸担体に新しい加熱した雰囲気ガスを通過させて、そのうち90容積%以上を排気する処理を5分間以上行うことを特徴とするエチレンから酸化エチレンを製造するための触媒の製造方法。
  2. 後工程の処理時間が5分間〜20分間内であることを特徴とする請求項1に記載のエチレンから酸化エチレンを製造するための触媒の製造方法。
  3. 加熱した雰囲気ガスが過熱水蒸気であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエチレンから酸化エチレンを製造するための触媒の製造方法。
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