JP4120161B2 - 鉄浴型溶融還元炉の操業方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ランスおよび炉底羽口を介して酸素を供給する鉄浴型溶融還元炉で溶鉄を製錬する際に用いられ、高い生産性を維持しつつ、炉内からのダスト発生量を低減させるのに有効な操業方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、製鋼分野では、転炉内の溶銑にクロム鉱石あるいは鉄鉱石等の鉱石原料とコークス等の炭材とを添加し、その鉱石原料を直接溶融還元することによって、鉱石原料中の有価金属を回収する技術が普及している。このような鉱石原料の溶融還元を実施するに際しては、通常、大量の熱エネルギーが必要となる。高い生産性を維持しながら、こうした操業を行なうためには、エネルギー源としての炭材と、その炭材を燃焼させる酸素ガスとを可能な限り高速で供給する必要がある。
【0003】
転炉内に保持した溶銑あるいは溶鋼(以下、溶鉄という)への酸素ガスの供給は、その大部分の量をランスを用いて行なうが、大量の熱ネエルギーを得るためにランスからの酸素ガス(以下、上吹き酸素という)の供給速度を増加させると、ダストの発生量が増大するという問題が生じる。ダストの発生量が増大すると、製造する溶鋼の歩留りの低下、およびその後のダスト処理のコストの増大をきたす。したがって、高い生産性を維持しながら溶融還元を行なう場合は、ダストの発生の抑制が重要な課題となっている。
【0004】
このようなダストは、上吹き酸素が溶鉄浴面に衝突して反転する際のガスジェットの運動エネルギーによって、液滴が溶鉄バルクから切り離されて生じるダスト(以下、スピッティング系ダストという),溶鉄の脱炭反応によって生じるCOガスの気泡がはじけることに起因するダスト(以下、バブルバースト系ダストという),あるいは溶鉄から金属成分が直接蒸発することに起因するダスト(以下、ヒューム系ダストという)が主体と考えられる。
【0005】
これらのダストは、いずれも上吹き酸素の供給速度が増加することによって、上吹き酸素ジェットと溶鉄との衝突が激しくなるに従って、発生量が増大する。ダストの発生を抑制する対策としては、上吹き酸素の供給速度を低減させることが最も有効である。しかし単に上吹き酸素の供給速度を低減するだけでは高い生産性は達成できないので、工業的に有用ではない。
【0006】
高い生産性を維持するために上吹き酸素を高速で供給しつつ、しかもダストの発生量を低減させるために、従来、上吹き酸素ジェットをいわゆるソフトブローにする方法が知られており、具体的には
(1) 溶鉄の静止浴面からランスのノズル先端までの距離(以下、ランス高さという)を上昇させる
(2) ランスのノズルを多孔にして、上吹き酸素ジェットを分散させる
等の方法が用いられている。
【0007】
上吹き酸素ジェットのソフトブロー化は、ダストの発生量を低減すると同時に、2次燃焼率の向上をもたらすことが知られている。したがって上吹き酸素ジェットのソフトブロー化は、ダストの発生量を低減しつつ、溶鉄への熱エネルギー供給速度を増大させる方法として有効である。
ここで2次燃焼とは、溶鉄の酸素精錬によって炉内で発生したCOガスを、炉内の上部空間でさらに燃焼させてCO2 ガスとすることをいう。また2次燃焼率は、転炉排ガス中のCOガス量とCO2 ガス量から、下記の式で算出される。
【0008】
2次燃焼率(%)= 100×( vol%CO2 )/〔( vol%CO)+( vol%CO2 )〕
しかしながら、ランス高さが上昇すると、2次燃焼で発生した熱の着熱効率が低くなり、結果として排ガス温度の上昇や炉内の内張り耐火物の溶損の増大をもたらすという問題があった。またノズルの多孔化は、鉛直方向に対するノズル孔の傾斜角(以下、ノズル傾角という)をある程度大きくしなければ、多孔化されたノズルから分散させて供給した酸素ガスジェットが再び集合してしまい、結果として十分なソフトブロー化は達成できない。一方、ノズル傾角を大きくすると、酸素ガスジェットが炉壁に衝突して炉壁を損傷するという問題があった。
【0009】
これら以外の方法としては、特開昭59-140319 号公報には、フェロクロム溶融還元精錬法が開示されている。この精錬法は炭材の一部をランスから供給して、発熱速度を向上させようとするものである。しかしこの精錬法では、酸素ガスと炭材とを同一のランス(すなわち上吹きランス)から供給するので、ランスのノズルが詰まるという問題があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記のような問題を解消し、ランスおよび炉底羽口を介して酸素を供給する鉄浴型溶融還元炉で溶鉄を製錬する際に、高い生産性を維持しつつ、炉内からのダスト発生量を低減させるのに有効な操業方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
溶融還元炉から発生するダストは、前述したようにその発生機構から、スピッティング系ダスト,バブルバースト系ダストおよびヒューム系ダストに大別される。同一のランスのノズルを用い、同一のランス高さのもと、総酸素供給速度が一定で、上吹き酸素の一部を炉底羽口からの酸素ガス(以下、底吹き酸素という)として供給する場合、上吹き酸素ジェットの有する運動エネルギーは減少する。したがってスピッティング系ダストの発生量が低下することは容易に推定される。なお、総酸素供給速度は下記の式で算出される。
【0012】
総酸素供給速度(Nm3 /min )=上吹き酸素供給速度(Nm3 /min )+底吹き酸素供給速度(Nm3 /min )
上吹き酸素および底吹き酸素による溶鉄の脱炭反応が進行すると、COガスの気泡が発生する。底吹き酸素による脱炭反応では、COガスの気泡の生成および膨張は、溶鉄内を底吹き酸素が浮上する間に進行すると考えられる。底吹き酸素やCOガスの気泡が浮上することによって溶鉄バルクが流動して攪拌されて、溶融還元が進行する。
【0013】
一方、上吹き酸素による脱炭反応は、上吹き酸素が溶鉄に衝突する位置とその近傍で進行すると考えられる。つまり、上吹き酸素の脱炭反応によって発生したCOガスの気泡は容易に溶鉄から離脱するので、溶鉄バルクの流動にはさほど寄与しない。このため、上吹き酸素ジェットが増加すると、その運動エネルギーは溶鉄の液滴の生成および飛散に消費され、結果としてダスト発生量の増大をもたらす。すなわちバブルバースト系ダストも、上吹き酸素の一部を炉底羽口から底吹き酸素として供給することによって、低減できることが推定される。
【0014】
さらに上吹き酸素が溶鉄に衝突する位置では、多量の酸化反応熱が発生して、高温の火点を形成する。このため溶鉄の蒸発および逸散によってヒューム系ダストが発生する。同様に、底吹き酸素が炉底羽口近傍に高温の火点を形成することも推定される。しかし、この底吹き酸素によって発生するヒューム系ダストは周囲の溶鉄に捕捉されるので、炉外には飛散しない。つまり、上吹き酸素の一部を炉底羽口から底吹き酸素として供給することによって、ヒューム系ダストの発生量を低減できることが分かる。
【0015】
このようなダストの発生防止の観点のみならず、高い生産性を維持する観点から、上吹き酸素と底吹き酸素の供給速度について検討する必要がある。
溶融還元炉内の酸素と炭素の反応は、1次燃焼および2次燃焼があり、それぞれ下記の式で表わされる。なお式中の[C]は、溶鉄中のCを指す。
1次燃焼:2[C]+O2 =2CO
2次燃焼:2CO+O2 =2CO2
これらの反応の標準生成エンタルピーの変化は、1次燃焼が 10080kJ/mol-O2 (すなわち2400kcal/mol-O2 )であるのに対して、2次燃焼は 25200kJ/mol-O2 (すなわち6000kcal/mol-O2 )である。つまり2次燃焼は、1次燃焼の約 2.5倍の発熱量を有する。したがって同一の総酸素供給速度のもとで生産性を高めるためには、できる限り2次燃焼を進行させる必要がある。
【0016】
ところで、1次燃焼は酸素ガスと溶鉄との接触面で生じる気体−液体反応であり、2次燃焼は酸素ガスとCOガス含有気体との接触面で生じる気体−気体反応である。すなわち1次燃焼は酸素ガスの供給方法が上吹き,底吹きに関わらず起こり得るが、2次燃焼を底吹き酸素によって生じさせることは難しい。仮にダスト発生量を低減するために、全ての酸素ガスを炉底羽口から供給した場合、2次燃焼はほとんど発生せず、鉱石の還元反応のための熱エネルギーの供給が不足し、生産性は向上しない。
【0017】
したがって生産性を悪化させることなく、鉱石の還元反応に必要な熱エネルギーを供給するために、上吹き酸素および底吹き酸素の供給速度の範囲を明確にする必要がある。
本発明は、酸素をランスを介して溶鉄の浴面の上方から吹き付けて供給するとともに、炉底に配設した羽口を介して溶鉄の浴面の下方からも酸素を吹き込んで供給する鉄浴型溶融還元炉の操業方法において、総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合が70〜90%の範囲を満足し、かつ前記溶鉄の静止浴面からランスのノズル先端までの距離H(mm)、前記上吹き酸素供給速度Q(Nm3 / min )、ランスのノズル開口部の直径d(mm)およびノズル数n(個)から下記の式で算出されるαの値が0.12以下であるとともに、前記炉底に配設した羽口を、前記炉底の半径R( mm )に対して前記炉底の中心から 0.3 Rよりも離れた位置に配置する鉄浴型溶融還元炉の操業方法である。
【0018】
α=Lh /(H× tanθ)× exp(−0.78H/Lh )
Lh =833 ×{Q/(n×d)}2/3
H:溶鉄の静止浴面からランスのノズル先端までの距離(mm)
Q:上吹き酸素供給速度(Nm3 /min )
n:ランスのノズル数(個)
d:ランスのノズル開口部の直径(mm)
θ:噴流の広がり角またはノズル傾角
i 単孔または複数孔で傾角が12°以下の場合θ=12°(一定)
ii複数孔で傾角が12°より大きい場合θ=ノズル傾角
前記した発明においては、第1の好適態様として、前記総酸素供給速度が、初期装入原料1tあたり3〜6Nm3 / min・tの範囲を満足することが好ましい。
【0020】
【発明の実施の形態】
5t規模の上底吹き転炉でクロム鉱石の溶融還元の実験を行ない、上吹き酸素供給速度および底吹き酸素供給速度を変化させて、ダストの発生速度とクロム鉱石の還元速度を測定した。炉底羽口の配置は図1に示す2種類とした。すなわち、炉底羽口の配置Aは、炉底2の半径R(mm)に対して炉底2の中心から 0.5Rの位置に4本の炉底羽口3を配置した状態を示し、炉底羽口の配置Bは、炉底2の半径R(mm)に対して炉底2の中心から 0.3Rの位置に4本の炉底羽口3を配置した状態を示す。
【0021】
実験の手順は下記の通りである。
すなわち約 4.5tの溶銑を転炉に装入した後、炉底羽口3から酸素ガスを 5.0Nm3 /min の速度で吹き込み、かつランスから酸素ガスを15Nm3 /min の速度で吹き込みつつ、転炉1上に設けたシューターから塊コークスおよび造滓材(すなわち生石灰、珪石)を炉内に投入して、昇熱および造滓を行なった。この工程は、溶鉄温度が1600℃かつ溶融スラグ量が 100kg/tになるまで行ない、その所要時間は約20分であった。
【0022】
引き続き、総酸素供給速度が、初期装入溶鉄1tあたり3〜6Nm3 / min・tとなるように、上吹き酸素および底吹き酸素の供給速度を変化させ、クロム鉱石を投入して溶融還元を開始した。クロム鉱石の投入は、溶鉄温度が1600±20℃の範囲を維持するように2〜25kg/min の速度で投入した。さらに転炉1上のシューターから塊コークスを20kg/min の速度で投入し、またスラグ塩基度が2.0 となるように塊状の生石灰も適宜投入した。
【0023】
クロム鉱石の投入は約60分間行ない、この工程の後で、スラグ中に残留したクロムを還元回収する仕上げ還元を、溶鉄温度1600±20℃で約10分間、クロム鉱石を投入せずに行なった。
クロム鉱石を投入する溶融還元吹錬中に、煙道で排気ガス中のダスト濃度を測定した。なお上吹きランスは、開口部の直径が14.5mmのノズルを6孔有しており、ノズル傾角は15°である。
【0024】
図2は、炉底羽口3の配置をAとし、ランス高さを 1.0mとして、総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合と総酸素供給速度とを変化させた場合の実験結果を示すグラフであり、(a) は上吹き酸素供給速度の割合と排ガス中のダスト濃度との関係を示すグラフ、(b) は上吹き酸素供給速度の割合とクロム鉱石の投入速度との関係を示すグラフである。
【0025】
図2(a) に示した排ガス中のダスト濃度は、総酸素供給速度の上昇に伴って増加する。いずれの総酸素供給速度においても、上吹き酸素供給速度の割合が90%以下の範囲では、上吹き酸素供給速度の増加量に対する排ガス中のダスト濃度の増加量は小さい。しかし上吹き酸素供給速度の割合が90%を超えると、排ガス中のダスト濃度は急激に増加する。
【0026】
図2(b) に示したクロム鉱石の投入速度は、上吹き酸素供給速度の割合が70%以上の範囲では、クロム鉱石の投入速度はほぼ一定の値を示す。しかし上吹き酸素供給速度の割合が70%未満では、クロム鉱石の投入速度は急激に低下する。したがって、総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合は、70〜90%の範囲を満足する必要がある。
【0027】
すなわち上吹き酸素供給速度が過小な場合は、2次燃焼に寄与する酸素ガス量が減少するので、熱エネルギーの供給が減少しクロム鉱石の投入速度が低下する。一方、上吹き酸素供給速度が過大な場合は、ダスト発生量が増加し、しかも過剰に供給された熱エネルギーの大部分が排ガスや耐火物の顕熱上昇に消費され、耐火物の損耗速度の増加を招く原因になる。
【0028】
図3は、総酸素供給速度を 4.5Nm3 / min・t、ランス高さを1mとして、総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合と炉底羽口3の位置を変化させた場合の実験結果を示すグラフであり、(a) は上吹き酸素供給速度の割合と排ガス中のダスト濃度との関係を示すグラフ、(b) は上吹き酸素供給速度の割合とクロム鉱石の投入速度との関係を示すグラフである。なお図3中の○印は炉底羽口3の配置Aを示し、▽印は炉底羽口3の配置Bを示す。
【0029】
図3(a) に示すように排ガス中のダスト濃度は、上吹き酸素供給速度が同一であっても炉底羽口3の位置により変化した。すなわち、炉底2の半径R(mm)に対して炉底2の中心から 0.5Rの位置に4本の炉底羽口3を配置した場合(炉底羽口の配置A)に比較して、炉底2の半径R(mm)に対して炉底2の中心から 0.3Rの位置に4本の炉底羽口3を配置した場合(炉底羽口の配置B)の排ガス中のダスト濃度が増加した。
【0030】
図3(b) に示すようにクロム鉱石の投入速度は、同一の上吹き酸素供給速度では炉底羽口3の位置の影響は認められなかった。したがって、総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合が70〜90%の範囲であっても、炉底羽口3の位置によっては排ガス中のダスト濃度が増加するので、より効果的にダスト発生量を低減させるためには、炉底羽口3の位置は炉底2の半径R(mm)に対して炉底2の中心から 0.3Rよりも離れた位置に配置することが望ましい。
【0031】
炉底羽口3は炉底2の中心から 0.3Rよりも離れた位置に配置すれば良いのであるから、炉底羽口3を複数個配設する場合に、炉底羽口3間の間隔をすべて等しく配置しても良いし、必ずしも炉底羽口3を等間隔で配置しなくても良い。たとえば炉底羽口3を4個配設する場合には、4個の炉底羽口3の中心が正方形を形成するように配置(すなわち4個の炉底羽口3間の間隔がすべて等しくなるように配置)しても良いし、長方形を形成するように配置(すなわち炉底羽口3間の間隔が異なるように配置)しても良い。また、炉底2の中心から 0.3R以下の範囲を除いて直線状に配置しても良い。図1は、4個の炉底羽口3が長方形を形成するように配置した例である。
【0032】
図4は、総酸素供給速度を 4.5Nm3 / min・tとして、総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合とランス高さ,および炉底羽口3の位置を変化させた場合の実験結果を示すグラフであり、(a) はα値と排ガス中のダスト濃度との関係を示すグラフ、(b) はα値とクロム鉱石の投入速度との関係を示すグラフである。なお図4(a) 中の( )内に示した数字は、総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合の値である。また図4中の○印は炉底羽口3の配置をAとしランス高さを1mとしたデータを示し、●印は炉底羽口3の配置をAとしランス高さを 0.7mとしたデータを示し、▽印は炉底羽口3の配置をBとしランス高さを1mとしたデータを示す。
【0033】
αの値は、上吹き酸素ジェットによる溶鉄浴面のくぼみの深さLと、くぼみの半径rとの比L/rに相当する値である。くぼみの深さLは文献(瀬川清:鉄冶金反応工学 p.94 (1977))に基づいて定義した。なお本発明においては、文献中の補正項kを 0.8(一定値)とした場合のL値を用いている。くぼみの半径rは、上吹き酸素ジェットがランスの下端を頂点として角度θで円錐状に広がる場合の、溶鉄浴面での上吹き酸素ジェットの半径である。ここでθの値は、ランスノズルが単孔および複数孔でノズル傾角が12°以下の場合は12°(一定)、ランスノズルが複数孔でノズル傾角が12°より大きい場合はノズル傾角をとるものとする。こうして定義されるL値とr値を用いて算出されるL/r値がαの値であり、下記の式で算出される。
【0034】
α=Lh /(H× tanθ)× exp(−0.78H/Lh )
Lh =833 ×{Q/(n×d)}2/3
H:溶鉄の静止浴面からランスのノズル先端までの距離(mm)
Q:上吹き酸素供給速度(Nm3 /min )
n:ランスのノズル数(個)
d:ランスのノズル開口部の直径(mm)
αの値は、大きいほど上吹き酸素ジェットがハードブローになっていることを表わし、小さいほど上吹き酸素ジェットがソフトブローになっていることを表わす。
【0035】
図4(a) に示した排ガス中のダスト濃度は、αの値の増加に伴って増加し、かつ炉底羽口3の位置が炉底2の中心に近づくにつれて増加する。これは、ランス高さの低下および上吹き酸素供給速度の増加によって上吹き酸素ジェットがハードブローになることに加えて、底吹き酸素によって盛り上がった溶鉄浴面に上吹き酸素ジェットが衝突して飛沫を生じやすくなるためである。
【0036】
図4(a) によれば、前記した図2,図3の結果からダスト発生が低減可能と考えられる上吹き酸素供給速度の割合が90%以下であって、かつ底吹き羽口の位置を炉底中心から 0.3Rより遠い位置に設けた場合であっても、αを適正な値となるように酸素の上吹き条件を定めなければ、ダストを十分に低減できないことが明らかとなった。同じ底吹き羽口位置のもとで実験した結果(図中の○,●印)から、上吹き比率 100%の場合よりもダストを低減できるようにするためには、αを0.12以下にする必要があることが見出された。
【0037】
また図4中の▽印のプロットはαの値が0.12以下で炉底羽口の配置をBとした場合であるが、排ガス中のダスト濃度は、αの値が同一であっても、炉底羽口の配置をAとした場合よりも高い。
図4(b) に示したクロム鉱石の還元速度は、αの値の増加、すなわち同一上底吹き酸素供給速度のもとでは、ランス高さの低下に伴って減少する。つまりランス高さの低下は、生産性の観点からも有効ではないことが分かる。またαの値が0.12以下であっても、上吹き酸素供給速度の割合が70%未満では、クロム鉱石の投入速度は急激に低下する。したがって、総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合は、70〜90%の範囲を満足する必要がある。なおクロム鉱石の投入速度に対して炉底羽口3の位置が及ぼす影響は小さい。
【0038】
すなわち本発明は、上吹きランスから供給する酸素ガスのうちの一部を炉底羽口から供給することによって、ダスト発生速度を低減し、しかも高い生産性を得るものであり、上吹き酸素がソフトブローとなった状態で有効になる。本発明においては、αを指標として導入し、実験結果と対応させることによって、十分なソフトブローを得る条件を決定したのである。さらに、その際のダスト発生量の低減効果をより効果的に発揮させるために、望ましい炉底羽口3の位置を決定したのである。
【0039】
以上に説明した通り、本発明は図2および図4に示した実験結果をもとに、ダスト発生量が少なく、かつ鉱石の投入速度を低下させない操業条件を決定したのである。すなわち、総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合を70〜90%の範囲とし、しかもαの値を0.12以下として操業すれば、生産性の低下を招くことなくダストの発生量を低減できる。さらに炉底羽口3を、炉底2の半径R(mm)に対して炉底2の中心から 0.3 Rよりも離れた位置に配置すると、効果が一層発揮される。
【0040】
なお本発明においては、初期装入原料1tあたりの総酸素供給速度は、3〜6Nm3 / min・tの範囲を満足することが好ましい。初期装入原料1tあたりの総酸素供給速度が3Nm3 / min・t未満である場合は、総酸素供給速度が過小であるため、1次燃焼および2次燃焼に寄与する酸素ガス量が少なく、熱エネルギーの供給が減少してクロム鉱石の還元速度が低下する。
【0041】
初期装入原料1tあたりの総酸素供給速度が6Nm3 / min・tを超えると、上吹き酸素供給速度が過大であるため、スピッティング系ダスト,バブルバースト系ダストおよびヒューム系ダストが急激に増加するからである。またダストの発生を抑制するため、上吹き酸素を極端なソフトブローとすると、供給される熱エネルギーが過大となり、耐火物の損耗をまねく。
【0042】
なお、上吹きランスおよび炉底羽口を介して酸素を供給する鉄浴型溶融還元炉として、既存の上底吹き転炉を用いると、新しい設備は必要ないので、経済的に有利である。
【0043】
【実施例】
160t規模の上底吹き転炉でクロム鉱石の溶融還元を行なった。その手順は下記の通りである。
すなわち溶銑およびスクラップ(合計約 140t)を上底吹き転炉に装入した後、炭材および造滓材を炉内に投入しつつ、ランスから酸素ガスを 550Nm3 /min の速度で供給し、かつ炉底羽口から酸素ガスを 100Nm3 /min の速度で供給して、溶鉄温度が1600℃になるまで昇温および造滓を行なった。ランスのノズル開口部の直径,ノズル数,ノズル傾角は表1に示す通りである。
【0044】
【表1】
【0045】
この工程に引き続き、鉱石投入ランスからクロム鉱石を投入し、炉上から炭材を投入してクロム鉱石の溶融還元を開始した。溶融還元を行ないながら上吹き酸素供給速度および底吹き酸素供給速度を変化させ、溶鉄温度を1550〜1600℃の範囲に維持し得るクロム鉱石の投入速度、および発生するダスト量を測定した。その結果は表2に示す通りである。表2中のクロム鉱石投入量あたりのダスト発生量は、ダスト発生速度(kg/min )/クロム鉱石投入速度(kg/min )によって計算した値である。
【0046】
【表2】
【0047】
発明例1〜2は、炉底羽口3が炉底2の半径R(mm)に対して炉底2の中心から 0.3Rよりも離れた位置に配置され、総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合が70〜90%の範囲を満足する例である。参考例は、総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合が70〜90%の範囲を満足するが、炉底羽口3の位置が炉底2の中心から 0.3R以下の例である。比較例1〜2は、総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合が90%を超える例である。
【0048】
比較例1は、上吹き酸素供給速度を発明例1と同一とし、底吹き酸素供給速度を低減して上吹き酸素供給速度の割合を増加させた例である。発明例1と比較例1を比較すると、ダスト発生速度は同一であるものの、クロム鉱石投入速度は発明例1の方が高い。つまり発明例1は、比較例1に比べてダスト発生速度を増加させることなくクロム鉱石の投入速度を増加させることができる。
【0049】
また発明例1と参考例を比べると、発明例1の方が、ダスト発生速度が小さい。つまり発明例1は、参考例に比べてダスト発生速度を低減させることができる。
発明例2は、発明例1よりさらに底吹き酸素供給速度を増加させた例である。発明例2は、比較例1と同程度のダスト発生速度で、比較例2より大きいクロム鉱石投入速度が得られる。
【0050】
さらに表2に示したクロム鉱石投入量あたりのダスト発生量を見ると、発明例1〜2の方が、比較例1〜2より小さい。つまり発明例1〜2の方が、ダストの発生量が少ないことが分かる。
すなわち本発明によってダストの発生量を増加させることなく、高い生産性を得ることができる。
【0051】
なお、ここではクロム鉱石の溶融還元について説明したが、本発明は鉄鉱石,マンガン鉱石,ニッケル鉱石や炭素で還元可能なその他の鉱石、およびそれらの塊状鉱石あるいは予備還元鉱石についても効果的に適用できる。
【0052】
【発明の効果】
本発明では、鉄浴型溶融還元炉を操業する際に、ランスから供給する酸素ガスの一部を炉底羽口から供給するので、酸素供給速度の増加に伴うダスト発生量の増加を防止できる。しかも酸化反応によって発生する熱エネルギーが効率良く鉱石の還元に消費されるように、酸素供給速度の範囲を定めたので、ダスト発生量を低減すると同時に高い生産性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】炉底羽口の配置の例を示す模式図である。
【図2】総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合と総酸素供給速度とを変化させた場合の実験結果を示すグラフであり、(a) は上吹き酸素供給速度の割合と排ガス中のダスト濃度との関係を示すグラフ、(b) は上吹き酸素供給速度の割合とクロム鉱石の投入速度との関係を示すグラフである。
【図3】総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合と炉底羽口の位置とを変化させた場合の実験結果を示すグラフであり、(a) は上吹き酸素供給速度の割合と排ガス中のダスト濃度との関係を示すグラフ、(b) は上吹き酸素供給速度の割合とクロム鉱石の投入速度との関係を示すグラフである。
【図4】総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合とαの値とを変化させた場合の実験結果を示すグラフであり、(a) はαの値と排ガス中のダスト濃度との関係を示すグラフ、(b) はαの値とクロム鉱石の投入速度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 鉄浴型溶融還元炉(上底吹き転炉)
2 炉底
3 炉底羽口
Claims (2)
- 酸素をランスを介して溶鉄の浴面の上方から吹き付けて供給するとともに、炉底に配設した羽口を介して前記溶鉄の浴面の下方からも酸素を吹き込んで供給する鉄浴型溶融還元炉の操業方法において、総酸素供給速度に対する上吹き酸素供給速度の割合が70〜90%の範囲を満足し、かつ前記溶鉄の静止浴面から前記ランスのノズル先端までの距離H(mm)、前記上吹き酸素供給速度Q(Nm3 /min )、前記ランスのノズル開口部の直径d(mm)およびノズル数n(個)から下記の式で算出されるαの値が0.12以下であるとともに、前記炉底に配設した羽口を、前記炉底の半径R( mm )に対して前記炉底の中心から 0.3 Rよりも離れた位置に配置することを特徴とする鉄浴型溶融還元炉の操業方法。
α=Lh /(H× tanθ)× exp(−0.78H/Lh )
Lh =833 ×{Q/(n×d)}2/3
H:溶鉄の静止浴面からランスのノズル先端までの距離(mm)
Q:上吹き酸素供給速度(Nm3 /min )
n:ランスのノズル数(個)
d:ランスのノズル開口部の直径(mm)
θ:噴流の広がり角またはノズル傾角
i 単孔または複数孔で傾角が12°以下の場合θ=12°(一定)
ii 複数孔で傾角が12°より大きい場合θ=ノズル傾角 - 前記総酸素供給速度が初期装入原料1tあたり3〜6Nm3 / min・tの範囲を満足することを特徴とする請求項1に記載の鉄浴型溶融還元炉の操業方法。
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