JP4116077B2 - マクロファージ遊走阻止因子の阻害剤の同定のためのスクリーニング方法 - Google Patents
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Description
本発明は、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)生物活性の治療阻害剤を同定するためのスクリーニングアッセイを提供する。本発明は更に、MIF生物活性を阻害することができ且つ本発明のスクリーニングアッセイにより同定される治療薬を提供する。特に、該治療薬は、サイトカイン媒介毒性に関連する様々な状態、例えばショック、炎症性疾患、対宿主性移植片病および自己免疫疾患を治療するのに有用である。
発明の背景
細菌だけでなくウイルス、真菌および寄生生物も含む多種多様な微生物による感染は、敗血症性ショックを誘発することがある。敗血症性ショックは有害な血行力学変化と凝固障害により特徴づけられる多面性の病的状態である。敗血症性ショックは多臓器機能不全におよびしばしば死に至る場合がある。ショック症候群は微生物侵入に対する宿主の応答と正確に関連づけられる。最もよく研究される例の1つである、グラム陰性菌による感染の場合には、宿主血流中への細菌の外毒素(エンドトキシン)、例えばリポ多糖(LPS)の出現が、LPSの毒性を直接的および間接的に媒介する様々な宿主因子の内因性生産を引き起こす。LPSそれ自体はほとんどの細胞にとって比較的無害である。それらの宿主由来の媒介物質(メディエーター)としては、多数の炎症性サイトカインと典型的なエンドクリンホルモンに加えて、他の多数の内因性因子、例えばロイコトリエン類および血小板活性化因子が挙げられる。しかしながら、宿主由来媒介物質の全配役およびそれらの相互関係した役割は不完全に理解されたままであることは一般に認められている。
一般に、侵された宿主において初期に現れるそれらの宿主由来媒介物質は、後に出現する因子の放出を触発すると考えられる。また、多くの内因性媒介物質はそれらの標的組織において直接エフェクター機能を発揮するだけでなく、他の媒介物質に対するその後の応答に備えて局部および遠隔の組織も感作する。この宿主因子の相互作用ネットワークは、「サイトカインカスケード」と呼ばれている。この用語は、ただ1つのまたは数個の初期刺激剤が多数の内因性媒介物質の最終的放出および関与を誘発するような形での宿主応答の迅速な拡張と増幅を意味する。宿主応答の様々な特徴が侵略の撃退を助けると思われるけれども、過度に強固なまたは不十分に調節される宿主応答は、その後数時間以内に致死が起こり得るような顕著な宿主ホメオスタシスの変化を細胞、組織および全身レベルで急速に引き起こし得る。
マウスマクロファージ遊走阻止因子(MIF)はLPS誘導下垂体タンパク質として同定された(Bernhagen他,J. Cell Biochem. Supplement 17B, E306, 1993)。当初は、MIFが内毒素血症におけるサイトカインの悪影響を中和することができる下垂体由来の防御因子かもしれないと仮定されたが、その後、MIFが実際に内毒素誘発ショックを悪化させることと、MIF活性の阻害を使ってサイトカイン媒介ショックの致死作用を別な方法で治療できることが発見された。MIFは下垂体前葉ホルモンであり、マクロファージサイトカインあり、そして敗血症性ショックに対する宿主応答の重要因子であると再定義された(Bernhagen他,Nature 365:756-759, 1993; Calandra他,J. Exp. Med. 179:1895-1902, 1994; Calandra他,Nature 377:68-71, 1995)。
MIFは30年以上も前に試験管内アッセイにおいてモルモットマクロファージのランダム遊走を阻止するT細胞産物として初めて記載された(GeorgeおよびVaughan, Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 111:514-521, 1962 ; BloomおよびBennett, Science 158:80-82, 1966 ; David, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 65:72-77, 1966)。MIFは、(1)遅延型過敏症反応に関連する(BloomおよびBennett, 1966,前掲;David, 1966,前掲)、(2)レクチン活性化T細胞により生産される(Weiser他,J. Immunol. 126:1958-1962, 1981)、および(3)マクロファージ接着、食作用および殺腫瘍活性を増強する(Nathan他,J. Exp. Med. 137:275-288, 1973 ; Nathan他,J. Exp. Med. 133:1356-1376, 1971 ; Churchill他,J. Immunol. 115:781-785, 1975)と報告されている。これらの研究の多くは、同じく遊走阻止活性を示すINF-γやIL-4のような別のサイトカインを含みむことが後になって分かった、混成培養上清を使用している(McInnesおよびRennick, J. Exp. Med. 167:598-611, 1988 ; Thurman他,J. Immunol. 134:305-309, 1985)。
組換えヒトMIFは初めヒトT細胞からクローニングされた(Weiser他,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:7522-7526, 1989)。MIFの生物活性プロフィールは完全には知られておらず、討議中である。しかしながら、MIFは(1)試験管内で血液由来マクロファージを活性化して細胞内寄生生物および腫瘍細胞を殺すこと、(2)IL-1βおよびTNFα発現を刺激すること、および(3)酸化窒素合成を誘導することが証明されている(Bernhagen他,Biochemstry 33:14144-14155, 1994)。
MIFは下垂体前葉ホルモンであり、低濃度の糖質コルチコイドにより感作された免疫細胞から放出されることが記載されている。一端分泌されたら、MIFは炎症性サイトカイン産生に対する糖質コルチコイドの免疫抑制作用を制御または対抗調節する(counter-regulate)働きをし、そして感染および組織侵入に対する宿主応答の一部として必ず生産される糖質コルチコイドの有力な抗炎症性を活性調節する作用をする(Calandra他,Nature 377:68-71, 1995)。MIFは免疫系の重要成分であり、糖質コルチコイドの免疫抑制作用に対抗して炎症や免疫を調節する働きをする。
視床下部性防御因子としてのMIFの予想される機能とは対照的に、MIFは敗血症性ショックの数種のモデルにおいて死亡率を悪化させた。よって、サイトカインカスケード内での強力なMIF応答は多分望ましくないだろう。更に、MIFの細胞活性および生化学活性が明確になっていないことは、研究者がMIFの免疫活性を明確に測定および定量しそしてMIF阻害剤を同定するためのアッセイを開発するのを非常に難しくしている。MIF阻害剤を同定する試験管内アッセイが無いことは、免疫反応におけるこの分子の正確な生物学的プロフィールの研究や、サイトカイン媒介毒性に関連する障害の治療法の開発を邪魔している。
発明の要約
本発明は、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)の生物活性を阻害する活性について試験化合物〔例えば、薬剤、リガンド(天然または合成)、タンパク質、ペプチドおよび有機小分子〕をスクリーニングするための迅速で、定量的で且つ特異的なアッセイを提供する。本発明はまた、本発明のスクリーニングアッセイにより、MIFの生物活性を阻害することができると同定された化合物(即ち、薬剤、リガンド、タンパク質、ペプチドおよび有機小分子)を提供する。本発明は更に、サイトカイン媒介毒性に関連した様々な状態、例えば限定的でなくショック、炎症性疾患、対宿主性移植片病および自己免疫疾患を包含する状態の治療に、そのような同定された化合物を利用する方法も提供する。
本発明は、一部は、MIFが互換異性化反応を触媒し、そしてこの互変異性酵素活性の阻害剤についてのアッセイを使ってMIFの他の生物活性を阻害する化合物を同定することができるという驚くべき発見に基づいている。
【図面の簡単な説明】
図1は、D−ドパクロム互変異性酵素によりおよびMIFにより触媒されるD−ドパクロムの変換についてのスキームを示す。
発明の詳細な説明
定義
次の定義を用いる。
「MIF」は、MIF活性を有し、ただしIFN−γとIL−4を除外したマクロファージ遊走阻止因子ポリペプチドである。
「MIF互変異性酵素活性」、「MIFドパクロム互変異性酵素活性」および「MIF互変異性化活性」は各々、MIF基質の互変異性化反応を触媒するMIFの能力により示されるMIFの同一の互変異性酵素活性を意味する。
「MIF基質」は、(a)D−ドパクロム〔D−3,5−ジヒドロ−6−ヒドロキシ−5−オキソ−2H−インドール−2−カルボン酸〕、(b)D−ドパクロムメチルエステル〔D−3,5−ジヒドロ−6−ヒドロキシ−5−オキソ−2H−インドール−2−カルボン酸メチルエステル〕もしくは(c)L−ドパクロムメチルエステル〔L−3,5−ジヒドロ−6−ヒドロキシ−5−オキソ−2H−インドール−2−カルボン酸メチルエステル〕、またはそれらの誘導体を包含するが、それらに限定されない。
「試験化合物」または「試験物質」または「試験阻害剤」は、各々、MIFの互変異性酵素活性を阻害する能力について試験することになっている候補の薬剤、リガンド(天然または合成)、タンパク質、ペプチドまたは有機小分子を指す。
MIFの互変異性酵素活性
MIFの互変異性酵素活性はメラニン形成の生化学経路の研究の間に明らかになった。メラニン生合成の後期はL−2−カルボキシ−2,3−ジヒドロインドール−5,6−キノン(L−ドパクロム)から5,6−ジヒドロキシインドール−2−カルボン酸(DHICA)への酵素的変換を含む。ウシの眼の水晶体から単離された別の酵素活性は、天然化合物L−ドパクロムの非生理的立体異性体であるD−ドパクロムからDHICAへの互変異性化を触媒する(図1)。天然に存在しない基質D−ドパクロムに対するこの互変異性酵素活性の原因となるタンパク質の精製およびN末端配列分析は、この酵素がMIFのウシ相同体であることを同定した。精製した生来のMIFの酵素活性は組換えヒトMIFの研究により確認され、この酵素活性は基質としてD−ドパクロムを使って同じ互変異性化反応を選択的に触媒するが、L−ドパクロムに対しては不活性であることもわかった。これらの研究の結果として、本発明はD−ドパクロムからDHICAへの変換のようなMIF基質の互変異性化を触媒するMIFの酵素活性を阻害する化合物を同定するためのアッセイを包含する。一般に、該アッセイは、MIFと適当な基質を試験化合物の存在下もしくは不在下で添加し、混合しまたは一緒にし、そして前記基質の互変異性化を測定することにより、試験管内で行われる。本発明のアッセイにおいて互変異性化活性を阻害する試験化合物は、重要な薬理活性を有するMIF阻害剤である。
本発明は、上記のように同定されたMIF阻害剤を、MIF生物活性を阻害するようにデザインされた医薬組成物においてサイトカイン毒性関連障害の治療に利用する方法を提供する。本発明は、そのような医薬組成物の調製、およびサイトカイン媒介毒性に関連した様々な状態(ショック、炎症性疾患、対宿主性移植片病および自己免疫疾患を含むがそれに限定されない)の治療への前記医薬組成物の利用を包含する。
アッセイ
本発明は、MIFの生物活性を阻害する化合物をスクリーニングするための迅速で且つ定量的な方法を提供する。本発明のアッセイは、特定のMIF基質のMIF触媒互変異性化を阻害する試験物質の能力を測定することを含んで成る。試験物質または試験化合物としては、互変異性化反応を酵素的に触媒するMIFの活性を阻害する薬剤、リガンド(天然または合成の)、タンパク質、ペプチドまたは有機小分子が挙げられるが、それらに限定されない。MIF酵素活性の阻害剤として同定されたそれらの試験物質は、MIF生物活性(MIFにより誘発される炎症および免疫活性を含むがそれに限定されない)の阻害剤の候補である。本発明のスクリーニングアッセイは、特定の基質の互変異性化反応を触媒するMIFの能力に対する試験物質の効果を測定することを含む。
詳しくは、本発明のアッセイは、まず試験物質または試験化合物の存在下と非存在下でMIFポリペプチドとMIF基質の反応混合物を調製する。MIF基質の互変異性化を測定する。MIFが触媒する互変異性化反応を阻害する化合物は、本発明に従って使用することができる候補化合物である。反応成分のどんな添加順序を使ってもよいが、MIFと試験化合物の混合物にMIF基質を添加するか、またはMIF基質と試験化合物の混合物にMIFを添加するのが好ましい。そのような添加順序は、触媒と基質化合物の両者が合わさるまでアッセイ反応が進行しないだろうから、読出を容易にする。アッセイは、例えば全成分を溶液状態にした均一アッセイとして、または例えばMIFもしくはMIF基質のいずれかを固体支持体上に固定した不均一アッセイとして、構成することができる。
本発明のスクリーニングアッセイにおいて使用することができる反応成分および反応条件としては、Rosengren他,Molecular Medicine 2:143-149, 1996およびAroca他,Eur. J. Biochemistry 208:155-163, 1992(この各々は参考として全内容が本明細書中に組み込まれる)中に記載された互変異性化反応が挙げられるが、それに限定されない。MIFの起源は、哺乳類組織(即ち、ヒト、ニワトリ、ウシ、マウスおよびラット組織)、ウシ組織(即ち、眼の水晶体は予備成形生物活性MIFタンパク質の供給源である)、および肝細胞(予備成形生物活性MIFタンパク質の豊富な供給源である)であることができるが、それらに限定されない。好ましくは組換えMIFが使われる。Bernhagen他(Biochemistry 33:14144-14155, 1994)は生物活性組換えMIFを精製する手順を記載している。
アッセイに使うことができるMIF基質としては、D−ドパクロム、D−ドパクロムメチルエステルおよびL−ドパクロムメチルエステルが挙げられるが、それらに限定されない。D−ドパクロムはL−2−カルボキシ−2,3−ジヒドロインドール−5,6−キノン(L−ドパクロム)の非天然D−異性体である。D−およびL−異性体のメチルエステルは、それらがずっと迅速に互変異性化されるという意味で、D−ドパクロムよりも優れたMIFの互変異性酵素基質である。それらの基質は通常、対応するフェニルアラニン類似体の酸化により、アッセイを実施する直前に作製される。例えば、D−ドパ〔即ちD−3−(3,4−ジヒドロキシ)フェニルアラニン〕をD−ドパクロム〔D−3,5−ジヒドロ−6−ヒドロキシ−5−オキソ−2H−インドール−2−カルボン酸〕に酸化する。本発明の好ましい態様では、スクリーニングアッセイにおいてMIF基質としてL−ドパクロムメチルエステルを使用する。本発明の別の態様では、スクリーニングアッセイにおいてMIF基質としてD−ドパクロムメチルエステルを使用する。
本発明の一態様では、試験化合物の存在下または不在下でMIFの生物活性形態およびMIF基質(例えばD−ドパクロム)を含有する反応混合物を調製する。オレンジ色のD−ドパクロム基質から無色のDHICAへの変換を分光光度測定することにより、MIFの酵素活性を阻害する試験化合物の能力を測定する。例えば、無色のドパ誘導体を酸化して着色基質D−ドパクロムを形成させることにより、着色したMIF基質をアッセイ直前に調製することができる。その着色したMIF基質に試験化合物と生物活性MIFを添加する。MIFによるMIF基質の互変異性化がDHICAの無色溶液を与えるので、例えば、限定期間に渡り、例えば1分間に渡り、変換を分光光度的にモニタリングすることができる。
MIF阻害活性が陽性である試験化合物の存在は、MIFの互変異性化活性を阻害するだろう。このアッセイはD−ドパクロム色を維持した溶液を与える。従って、MIF活性を阻害する試験化合物の能力は、代わりに比色法により観察することができ、または分光光度法により定量することができる。例えば、DHICAへのD−ドパクロムの互変異性化は、475nmの波長におけるイミノクロム吸光度の減少速度を測定することにより分光光度法により容易に測定することができる。互変異性化の別の測定手段としては、例えば、生成物と基質とのHPLC分割が挙げられる。
本発明の好ましい態様によれば、本発明のアッセイは、約0.5mMのMIF基質L−ドパクロムメチルエステルを含有する反応混合物に試験化合物を添加することを含んで成る。このMIF基質は、L−ドパメチルエステルを過ヨウ素酸塩で酸化して着色基質L−ドパクロムメチルエステルを生成せしめることにより、アッセイの直前に調製する。約50〜250ngの組換えMIFを1mlの基質溶液に添加する。475nm、または0.5mMより高い基質濃度の場合は550nmでの吸光度の減少を測定することにより、この反応をキュベット中で直接アッセイする。生じる反応生成物は無色化合物5,6−ジヒドロキシインドール−2−カルボン酸メチルエステル(DHICA-ME)である。吸光度の減少を阻害する試験化合物はMIF D−ドパクロム互変異性酵素活性の阻害剤であり、従ってMIFの炎症関連または免疫関連活性の阻害剤候補として同定される。
このアッセイは幾つかの利点を提供する。このアッセイはMIFの酵素活性を定量する迅速で、定量的で且つ特異的な手段を提供する。このアッセイは、MIFの酵素活性の阻害剤を同定する迅速なスクリーニング方法を提供する。同定された阻害剤は、MIFの別の生物活性、例えば免疫調節活性の阻害剤候補として役立つだろう。
MIF活性阻害剤
本発明は更に、MIF酵素活性の阻害剤として同定された薬剤、リガンド、タンパク質または有機小分子を提供する。本発明はまた、サイトカイン媒介毒性に関連する障害(ショック、炎症性疾患、対宿主性移植片病および自己免疫疾患を含むがそれらに限定されない)を治療するために医薬組成物において前記同定されたMIF阻害剤を利用する方法を提供する。前記阻害剤は、糖質コルチコイドが内在的に存在するにせよ外来的に投与されるにせよ、それらが糖質コルチコイドの治療効果を増大させることにより抗炎症性または他の有益な活性で作用するという点でも効用がある。
本発明は、本発明のアッセイにおいてMIFの生物活性の阻害剤として同定された化合物、例えば薬剤、リガンド(天然または合成の)、タンパク質、ペプチドまたは有機小分子も提供する。本発明の一態様では、あるMIF阻害剤はMIF結合を目当てに基質と競争することにより基質の互変異性化を阻害し得る。それらの化合物のうちの幾つかは、MIFと相互作用するけれどもそれらの特別な構造的特徴のために互変異性化されないと思われる。これらの直接競合物質(競合阻害剤)としては、非限定的例としてα−メチルドパクロムメチルエステルのD−およびL−形が挙げられる。このタイプのMIF阻害剤の使用は、二元機能阻害剤の第二の機能要素をMIFの炎症活性または免疫調節活性を阻害するのに有効な分子位置合わせまたは立体配置にするために、互変異性酵素に関連した基質結合部位を目標に定めるという効用がある。
本発明の別の態様では、或る種のMIF阻害剤〔例えばグルタチオンおよびタイパノチオン(スペルミジン橋により共有結合で連結された2分子のグルタチオンである)〕は、酵素活性にとって重要であるMIFのエピトープ(例えばアミノ末端)と相互作用することにより、互変異性化反応を阻害する。このタイプのMIF阻害剤の使用は、二元機能阻害剤の第二の機能要素をMIFの炎症活性または免疫調節活性を阻害するのに有効な分子位置合わせまたは立体配置にするために、MIFのアミノ末端を目標に定めるという点で有用である。
本発明の範囲内の化合物の例を、式I〜IXに記載の9系列の化合物群として下記に示す。
〔上式中、Q,X,YおよびZは各化合物群について上に定義したものであり、そしてR,R′およびR″は各々独立に、アルキル基(C1〜C20)、好ましくは低級アルキル基(C1〜C4)である〕。更に、本発明はそれらの化合物の医薬上許容される塩も包含する。
本発明の化合物は、容易に/商業的に入手可能な出発物質を使って標準有機化学技術に従って合成することができる。式Iの化合物は、例えば、適当なm−ヒドロキシフェニルアラニン誘導体を過ヨウ素酸塩または他の適当な酸化剤で酸化することにより合成される。例えば、I(X=Y=OH)は市販のDL−トレオ−β−(3,4−ジヒドロキシフェニル)セリン(Sigma)から入手可能である。3−ヒドロキシ−4−置換桂皮酸の転位により別のm−ヒドロキシフェニルアラニンが入手できる。
式II(Z=NHまたはNR;X=OH)の化合物は、式Iの化合物をジチオニットまたは別の適当な還元剤で還元し、Z=NRの場合には、次いでR−ハロゲン化物を使って窒素をアルキル化することにより、合成される。式II(Z=CH2)の化合物は、適当な5,6−置換インデンまたは1−もしくは2−インダノン誘導体の転位により合成される。式II(Z=OまたはS)の化合物は、それぞれ適当な5,6−置換ベンゾフランまたはチアナフタレン誘導体の変換により合成される。式II(Z=SOまたはSO2)の化合物は、式II(Z=S)の化合物を適当な条件下で過酸化水素、過酸または過ヨウ素酸塩で酸化することにより調製される。
式IIIの化合物は、式II(Q=ClまたはBr)の対応化合物を適当な塩基で処理してハロゲンのβ脱離を行うことにより合成される。式IV(Z=N;Y=OHまたはOR′)の化合物は、コウジ酸ベンジルエーテル(2−ヒドロキシメチル−5−ベンジルオキシ−4−ピラノン)をβ−アラニンエチルエステルと反応させて2−ヒドロキシメチル−5−ベンジルオキシ−4−ピリドン−1−プロピオン酸エチルエステルを与え;前記ヒドロキシメチル基を三酸化クロム−ピリジン錯体を使ってアルデヒドに酸化して2−ホルミル−5−ベンジルオキシ−4−ピリドン−1−プロピオン酸エチルエステルを与え;そして塩基、例えばリチウムジイソプロピルアミドでの処理により環化せしめて式IV(Z=N;X=OH;Y=OCH2Ph)の化合物を与えることにより、合成される。後者化合物から、ヒドロキシからハロゲンへの変換に適当な試薬(例えば三フッ化ジエチルアミノ硫黄、塩化チオニルまたは臭化チオニル)での処理により、式IV(X=OH)の化合物を調製することができる。式IV(Y=ハロゲン)の化合物については、2−ヒドロキシメチル−5−(2−テトラヒドロピラニル)オキシ−4−ピラノンから、β−アラニンエチルエステルとの反応に続き三酸化クロム−ピリジン錯体を使った酸化により、2−ホルミル−5−(2−テトラヒドロピラニル)オキシ−4−ピリドン−1−プロピオン酸エチルエステルを調製する。この生成物を次いで穏和な酸の中で加水分解して2−ホルミル−5−ヒドロキシ−4−ピリドン−1−プロピオン酸エチルエステルを与え、それを適当な脱ヒドロキシハロゲン化剤、例えば三フッ化ジエチルアミノ硫黄、塩化チオニルまたは臭化チオニルで処理して、2−ホルミル−5−ハロゲノ−4−ピリドン−1−プロピオン酸エチルエステルを与える。この生成物を次いでY=ベンジルオキシの場合のように更に変換する。
式IV(Z=C-CH3;X=OH)の化合物は、対応する4−置換−5−ヒドロキシ−2−メチルベンズアルデヒド誘導体から、塩基での処理によりフェノキシドアニオンを形成させ、次いでアクリル酸エステルを使って環化することにより調製される。式IV(Z=C-CH3;X=F,ClまたはBr)の化合物は、適当な式V(下記参照)の化合物を非ヒドロキシル溶媒中で対応するハロゲン化水素で処理し、次いで低級アルコキシドで処理することにより調製される。これは式V(Z=C-CH3;X=OR′)の化合物を与えるが、この化合物は代わりに式IV(Z=C-CH3;X=OH)の化合物をハロゲン化アルキルと非求核性塩基で処理することにより調製される。
式V(Z=N)の化合物は、対応する式II(X=ClまたはBr)の化合物を適当な塩基で処理してハロゲンのβ脱離を果たすことにより合成される。式V(Z=C-CH3)の化合物は、対応する4−置換−5−ヒドロキシ−2−メチルベンズアルデヒド誘導体を塩基で処理してフェノキシドアニオンを形成せしめ、次いでメチレンマロン酸ジエチルを使って環化させて、式IVの構造中に表されるカルボン酸基に対してgeminalな第二のカルベトキシ基を有する式IV(Z=C-CH3;R=Et;X=OH)の対応化合物の誘導体を形成せしめることにより調製される。この生成物を次いで好ましくは酸性条件下で、加水分解、脱炭酸および脱離反応にかけて式V(Z=C-CH3;R=H)の化合物を与え、それを再びエステル化してもよい。
式VIの化合物は、対応する6,7−置換キノリン誘導体を塩化ベンゾイルとシアン化ナトリウムでの処理により1−ベンゾイル−2−シアノ−1,2−ジヒドロ誘導体に変換し、次いでそれを水素化して1−ベンゾイル−2−シアノ−1,2,3,4−テトラヒドロ誘導体にすることにより合成される。次いでこの生成物を塩基性または酸性条件下で加水分解して、対応する6.7−置換−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−2−カルボン酸を与え、それを次いでエステル、例えばメチルエステルに変換することができる。1,2−位での脱水素は、例えば、酸化剤、ハロゲン化剤またはスルホニル化剤での処理に続いて塩基での処理により達成される。
式VIIの化合物は、適当なカルベノイドまたはメチレン転移試薬での処理により、例えばジアゾメタンでの処理により、亜鉛粉末の存在下でのジヨードメタンでの処理により、またはカリウムtert−ブトキシドの存在下でのブロモホルムでの処理に続いて得られたビブロモメタノ誘導体の脱臭素(例えば酢酸中の亜鉛を使用して)により、対応する式IIIの化合物から合成される。
式VIIIの化合物は、エポキシド化剤、例えばm−クロロ過安息香酸での処理により、式III(Z=CH2)の化合物から合成される。式IX(X=O)の化合物も同様に、エポキシド化剤、例えばm−クロロ過安息香酸での処理により、式Vの化合物から合成される。式IX(X=CH2)の化合物は、適当なメチレン転移条件下で、例えばジアゾメタンでの処理により、式Vの化合物から合成される。
医薬製剤
本発明のスクリーニングアッセイによりMIF互変異性酵素活性を阻害することが同定された化合物は、MIF免疫調節活性を阻害する治療活性を有する薬用化合物である。本発明の同定された化合物は、サイトカイン媒介毒性に関連した様々な状態(ショック、炎症性疾患、対宿主性移植片病および自己免疫疾患を含むがそれに限定されない)の治療のための薬理学的組成物において有用である。同定された化合物は、単独でまたは適当な担体もしくは賦形剤と混合された医薬組成物の形で、サイトカイン媒介毒性に関係がある様々な状態(ショック、炎症性疾患、対宿主性移植片病および自己免疫疾患を含むがそれに限定されない)を治療または改善する用量においてヒト患者に投与することができる。療法的有効量とは、生体内でMIFの生物活性を阻害するのに十分な化合物の量のことを指す。本願化合物の製剤および投与技術は、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”Mack Publishing Co., Easton, PA,最新版の中に見つけることができる。
適当な投与経路としては、例えば、経口、直腸、吸入、経粘膜、または腸内投与;非経口投与、例えば筋肉内、皮下、脊髄内注射、並びに鞘内、直接脳室内、静脈内、腹腔内、鼻内または眼内注射が挙げられる。あるいは、しばしばデポ製剤または徐放性製剤において、全身方式よりもむしろ局所方式で、例えば炎症部位に化合物を直接注入することにより、治療用化合物を投与することができる。更に、標的指向化されたドラッグデリバリーシステム(DDS)において、例えば抗MIFレセプター抗体でコーティングされたリポソーム中で、化合物を投与することもできる。リポソームはMIFレセプターを発現している細胞の方に標的指向され、その細胞により選択的に取り込まれるだろう。
本発明の医薬組成物は、それ自体既知であるやり方で、例えば常用の混合、溶解、糖剤製造、水ひ、乳化、カプセル化、閉じ込め、または凍結乾燥法を使って製造することができる。そのような医薬組成物は、医薬製剤への活性化合物の加工を容易にする賦形剤および補助剤を含んで成る1または複数の生理学的に許容される担体を使って常法により製剤化することができる。適当な製剤は選択される投与経路に依存する。
非経口注射の場合、本発明の医薬組成物は水性液剤、好ましくは生理学的に適合性である緩衝液、例えばハンクス溶液、リンガー溶液または生理的食塩水中に製剤化される。経粘膜投与の場合、障壁を貫通せしめるのに適当な浸透剤が製剤の中に含められる。経口投与用の本発明の医薬組成物は、治療活性化合物を医薬上許容される担体と混合することにより調製することができる。そのような担体は、患者への経口投与に向けて本発明の医薬組成物を錠剤、ピル、糖剤、カプセル剤、液剤、ゲル、シロップ剤、スラリー、懸濁液などに製剤化できるようにする。経口用医薬製剤は、固形賦形剤として所望により得られた混合物を粉砕し、そして所望であれば適当な補助剤を添加した後、顆粒の混合物を加工して錠剤または糖剤コアを得ることができる。適当な賦形剤は、特に、充填剤、例えば糖類、例えば乳糖、ショ糖、マンニトールもしくはソルビトール;セルロース製剤、例えばトウモロコシ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、ジャガイモ澱粉、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドン(PVP)である。所望であれば、崩壊剤、例えば架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムを添加してもよい。糖剤コアには適当なコーティングが施される。このために、任意にアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコールおよび/または二酸化チタンを含有してもよい濃縮糖液、ラッカー溶液、並びに適当な有機溶剤または溶剤混合物を用いることができる。識別の目的で錠剤または糖剤コーティングに色素または着色剤を添加してもよい。
経口使用できる医薬製剤としては、ゼラチン製の押込嵌め型カプセル、更にはゼラチンと可塑剤(例えばグリセロールもしくはソルビトール)とから成る密封型軟カプセルである。押込嵌め型カプセルは、充填剤、例えばラクトース、結合剤、例えばデンプン、および/または滑沢剤、例えばタルクもしくはステアリン酸マグネシウム、並びに所望により安定剤と共に活性成分を含有することができる。軟カプセルでは、活性化合物は適当な液体、例えば脂肪油、流動パラフィンまたは液体ポリエチレングリコール中に溶解または懸濁することができる。加えて、安定剤を添加してもよい。経口投与用製剤は全てそのような投与に適当な投薬量であるべきである。バッカル投与の場合、本発明の医薬組成物は常法により製剤された錠剤またはロゼンジの形をとることができる。本発明の医薬組成物は直腸用組成物、例えば坐剤または停留浣腸剤(例えばカカオ脂または他のグリセリドのような常用の坐剤基剤を含有する)の形に製剤してもよい。
吸入による投与のためには、本発明の医薬組成物は、適当な噴射剤(例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適当なガス)を使ったエアゾールパックまたは噴霧器からのエアゾールスプレー剤の形で提供される。加圧式エアゾールの場合、計量された量を送出するためのバルブを提供することにより1回量を決定することができる。本発明の医薬組成物と適当な粉末基剤(例えばラクトースまたはデンプン)との粉末混合物を含有する、吸入器またはガス注入器用のゼラチン製のカプセルおよびカートリッジを製剤することもできる。
本発明の医薬組成物は、注射、例えばボーラス注射または連続輸液による非経口投与用に製剤することができる。注射用製剤は、1回量剤形、例えばアンプルまたは多回量容器において与えることができ、そこに保存剤を加えてもよい。本発明の医薬組成物は、油性または水性賦形剤中の懸濁液、溶液または乳液のような形態をとることができ、そして配合剤(formulary agents)、例えば懸濁剤、安定剤および/または分散剤を含有することができる。非経口投与用の医薬製剤としては、水溶性形態の活性化合物の水溶液が挙げられる。更に、適当な油性注射用懸濁液として活性化合物の懸濁液を調製することができる。適当な親油性溶剤または賦形剤としては、脂肪油、例えばゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチルもしくはトリグリセリド、またはリポソームが挙げられる。水性注射用懸濁液は懸濁液の粘度を高める物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランを含んでもよい。所望により、懸濁液は適当な安定剤、または高濃縮溶液の調製を考慮に入れて化合物の溶解度を増大させる物質を含んでもよい。あるいは、活性成分が適当な賦形剤、例えば無菌の発熱物質不含有の水で使用前に再構成される粉末形態であってもよい。
本発明の医薬組成物はデポ製剤として製剤してもよい。そのような持効性製剤は、移植(例えば皮下または筋肉内)によりまたは筋肉内注射により投与することができる。例えば、化合物を適当な高分子物質もしくは疎水性物質(例えば許容される油中乳剤として)またはイオン交換樹脂と共に製剤化することができ、あるいは発泡性可溶性誘導体、例えば発泡性可溶性塩として製剤化することができる。
リポソームと乳剤は、疎水性薬剤のためのデリバリー用賦形剤または担体の周知の例である。ジメチルスルホキシドのような或る種の有機溶剤を使用してもよいが、通常は毒性の増大という損失がある。更に、徐放性システム、例えば治療薬を含む固形疎水性ポリマーの半透性マトリックスを使って、化合物を送達せしめることができる。様々な徐放性材料が確立されており、当業者に周知である。徐放性カプセルは、それらの化学的性質に依存して、数週間から100日間を超えるまで化合物を放出することができる。治療薬の化学的性質と生物学的安定性に依存して、追加のタンパク質安定化方法を使うことができる。
本発明の医薬組成物は、適当な固相またはゲル相の担体または賦形剤を含んでもよい。そのような担体または賦形剤の例としては、非限定的に、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、糖類、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチンおよびポリエチレングリコールなどのポリマーが挙げられる。
本発明のMIF阻害化合物の多くは、医薬上許容される対イオンとで形成される塩として提供することができる。医薬上許容される塩は、多数の酸、例えば非限定的に塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸等;または塩基を使って形成せしめることができる。塩は、対応する遊離の塩基形態よりも水性または他のプロトン系溶剤中で易溶性である傾向がある。医薬上許容される塩、担体または賦形剤の例は当業者に周知であり、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences,第18版,A.R. Gennaro編,Mack Publishing Co., Easton, PA, 1990中に見つけることができる。そのような塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩、亜鉛塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩などが挙げられるが、それらに限定されない。
本発明における使用に適当な医薬組成物としては、意図する目的を達成するのに有効な量で活性成分を含有する組成物が挙げられる。より詳しくは、療法的有効量とは、現存の症状を改善するかもしくは発生を防止するかまたは治療すべき患者の根本的な病気を治療するのに有効な量を意味する。療法的有効量濃度は、初めに細胞培養アッセイから推測することができる。例えば、細胞培養において決定されたIC50(即ち、MIF活性の最大阻害の半値を達成する化合物の濃度)を含む血中濃度領域を達成するように動物モデルで用量を処方することができる。療法的有効量は、患者において症状の改善または生存の延長をもたらす本発明の医薬組成物の量を意味する。そのような化合物の毒性および治療効果は、細胞培養物または実験動物において標準の製剤学、薬理学および毒物学的方法によって決定することができる。毒性作用と治療作用の間の量比が治療指数である。大きな治療指数を示す化合物が好ましい。それらの細胞培養アッセイと動物実験から得られたデータを、ヒトへの用量範囲の決定に使用することができる。そのような化合物の用量は、好ましくはほとんどまたは全く毒性のないED50を含む循環濃度の範囲内にある。用量は、使用する剤形および使用する投与経路に依存してこの範囲内で異なることができる。正確な処方、投与経路および用量は、患者の状態を見ながら個々の医師により選択することができる。投与される化合物の量は治療する患者、患者の体重、苦痛の重さ、投与の形態、および担当医の判断によるだろう。
実施例1
この実施例は、グルタチオンを使ったMIF互変異性酵素活性の阻害を例証する。L−ドパメチルエステルを過ヨウ素酸塩で酸化することにより0.5mMのMIF基質:L−ドパクロムメチルエステルを含有する反応混合物を調製した。L−ドパメチルエステルの1mM溶液を反応緩衝液(0.5mM EDTAを含む10mMリン酸ナトリウム,pH6)中に調製した。20mM過ヨウ素酸カリウム水溶液を10%(v/v)添加することによりL−ドパメチルエステルを着色したL−ドパクロムメチルエステルに酸化し、次いで反応緩衝液で1:2希釈した。約10分後、色が安定になり、基質溶液をアッセイに使用する用意ができた。
試験化合物である還元型グルタチオンを、0.1mM,0.5mM,1.0mMおよび2.0mMの濃度で、基質溶液の入った別個のキュベットに添加した。約100ngの精製組換えMIFを各キュベットに添加した。各試料キュベットの475nmでの吸光度を最初の20秒〜2分間に渡り測定した。反応速度を表す吸光度変化の初速度を記録した。組換えMIFの添加後の吸光度の減少を使って、グルタチオンの存在下での組換えMIFの互変異性酵素活性を決定した。結果を下の表2に示す。
0.5mM〜2.0mMの濃度で、グルタチオンはMIF互変異性酵素活性の効果的阻害剤であった。
実施例2
この実施例は、MIF互変異性酵素活性に対する生来のMIFアミノ末端一次配列の影響を例証する。マウスMIFのアミノ末端変異体をE.コリ中で発現させ、互変異性酵素活性についてアッセイした。生来のアミノ末端に3アミノ酸伸長配列:メチオニン−アスパラギン酸−セリンを付加することにより、マウスMIFのコード領域を変異せしめた。変更されたマウスMIFのコード領域を大腸菌(E.コリ)中で発現させ、発現されたタンパク質を精製し、そして上述した通りにMIF互変異性酵素活性についてアッセイした。この変異遺伝子の発現は、互変異性酵素活性を完全に失ったMIFタンパク質をもたらした。同じE.コリ発現系における生来の未変更アミノ末端を有するヒトMIFの発現は、その互変異性酵素活性が未精製のままの粗製細菌溶解物中でも検出することができる、高度に活性なMIFを生産した。
MIF一次配列の他の変異もMIF互変異性酵素活性を破壊した。詳しくは、MIFのN末端プロリンを除去する欠失変異体は全互変異性酵素活性の喪失を引き起こした。N末端プロリンの置換(セリンによる)は、全互変異性酵素活性の喪失を引き起こした。更に、C末端削除変異体1→104および1→110は、全く互変異性酵素活性を持たなかった。
MIF互変異性酵素活性の完全な喪失は、この領域がMIF互変異性酵素活性に対してきわめて重大な影響を及ぼすことを示唆する。
実施例3
この実施例は、試験管内でMIF互変異性化活性を阻害する化合物2b〔L−3,5−ジヒドロ−6−ヒドロキシ−2−メチル−5−オキソ−2H−インドール−2−カルボン酸〕、3b〔D/L−3,5−ジヒドロ−6−ヒドロキシ−2−メチル−5−オキソ−2H−インドール−2−カルボン酸〕、4b〔L−3,5−ジヒドロ−6−ヒドロキシ−2−メチル−5−オキソ−2H−インドール−2−カルボン酸メチルエステル〕および5b〔D/L−3,5−ジヒドロ−6−ヒドロキシ−2−メチル−5−オキソ−2H−インドール−2−カルボン酸メチルエステル〕の能力を例証する。
MIFドパクロム互変異性酵素活性についてのアッセイを実施する一般的方法は、MIF基質の前駆体(例えば上記のドパ関連化合物1a〔L−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アラニンメチルエステル〕)の酸化、および所望により、試験阻害剤の前駆体(例えば上記のドパ関連化合物2a〔L−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−メチルアラニン〕、3a〔D/L−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−メチルアラニン〕、4a〔L−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−メチルアラニンメチルエステル〕および5a〔D/L−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−メチルアラニンメチルエステル〕)の同様な酸化で始まる。この各前駆体化合物の酸化(例えば、過ヨウ素酸ナトリウムを使った)は、オレンジ色の対応するドパクロム誘導体、詳しくは、好ましいMIF基質(上記化合物1b)と試験阻害剤(上記化合物2b,3b,4bおよび5b)を生成する。MIFを添加すると、MIF基質(化合物1b〔L−3,5−ジヒドロ−6−ヒドロキシ−5−オキソ−2H−インドール−2−カルボン酸メチルエステル〕)は互変異性化を受けて無色生成物を生じる。試験阻害剤(化合物2b,3b,4bおよび5b)の存在下では、MIF基質(化合物1b)の脱色が遅れた。試験化合物2b,3b,4bおよび5bそれ自体はこの互変異性化反応において反応性でなく、即ち、このアッセイ法でそれらの化合物をMIF基質の代わりに用いた時にはそれらは互変異性化されず、従ってMIFドパクロム互変異性酵素活性により脱色されなかった。
好ましいMIFドパクロム互変異性酵素活性アッセイ方法では、ドパ関連前駆体(上記化合物1a,2a,3a,4aおよび5a)をアッセイ緩衝液(10mMリン酸ナトリウム,pH6.0)中の10mM原液として調製した。互変異性化アッセイの約10分前に、各原液1.0mlを8mlのアッセイ緩衝液と1.0mlの過ヨウ素酸ナトリウム原液(水中20mM)を加えて希釈前駆体の酸化を開始させ、かくして約1mMの最終濃度で各々のドパクロム誘導体(即ち、化合物1b,2b,3b,4bおよび5b)を生ぜしめた。実際に互変異性化アッセイを実施するためには、MIF基質(即ち化合物1b)の1mM溶液0.5mlをアッセイ緩衝液(阻害剤なしの対照反応)0.5mlまたは試験阻害剤(例えば化合物2b,3b,4bまたは5b)1mM希釈液0.5mlと混合し、次いで20mg/ml原液からの組換えMIF溶液10mlを添加した。互変異性酵素活性の指標として1分間の475nmでの吸光度の減少を測定し、そして化合物2b,3b,4bおよび5bの存在下でのこの減少の阻害率を標準法により分光光度データから算出した。
このアッセイの結果を下表に示す。
ドパクロム特異的吸光度の減少の阻害により測定されたように、試験阻害剤化合物2b,3b,4bおよび5bは各々、MIF基質と同じ濃度で存在した時にMIF互変異性酵素活性を阻害した。これらの結果は、ドパクロム関連MIF基質のα−水素の引抜き(abstraction)がMIF触媒型互変異性化反応の重要な段階であり、そしてこの水素原子を欠いている試験化合物(例えばα−メチル置換を有するもの)がMIFドパクロム互変異性酵素活性の有効な阻害剤であることを示す。
実施例4
この実施例は、リジン残基のグリケーションによるMIF互変異性化活性の阻害を例証する。生体内または試験管内でのグルコースまたは別の還元糖への長期暴露により、タンパク質および別のアミノ含有生体分子は、共有結合で取りつけられた糖派生付加物により自然に修飾されるようになる(BucalaおよびCerami, Adv. Pharmacol. 23:1-34, 1992)。この過程の化学現象はMaillard反応として広く知られており、この反応は感受性のタンパク質アミノ基、例えばペプチドのアミノ末端およびリジン残基のε−アミノ成分が、例えば還元糖の反応性カルボニル成分とまず縮合して容易に可逆性のシッフ塩基を形成する。この最初の付加物は自然転位して、安定なアマドリ生成物(または関係する特定の糖によってヘインズ生成物)を生成することができる。
精製済の組換え生産ヒトMIFタンパク質を、感受性残基の完全グリケーションを保証するために典型的には窒素雰囲気下で遮光下で37℃にて6週間、0.5Mグルコースの存在下で水性緩衝液中でインキュベートすることによりグリケーションし(本発明の本質から逸脱することなく他の自然グリケーション条件もタンパク質グリケーションに役立つだろうけれども)、そして本明細書中に記載の方法によりD−ドパクロム互変異性酵素活性について試験した。このグリケーションされたまたはAGE修飾されたMIF(“AGE−MIF”)は、全くD−ドパクロム互変異性酵素活性を示さなかった。AGE−MIFを回収し、マトリックス補助レーザー脱着イオン化質量分析法により分析すると、タンパク質の三重アマドリ生成物修飾と一致した質量を有することが決定された。即ち、約3×162(単一アマドリ生成物の質量超過)の質量超過があった。
ヒトMIFの一次配列内に3つのリジン残基が分布する。組換え生産されたMIFタンパク質は一次配列中の2番目のアミノ酸のプロリンで始まる(通常の最初の脊椎動物メチオニン残基は典型的には発現菌により切り取られる)ので、タンパク質のアミノ末端に関連した遊離アミノ基は存在しない。一緒に合わせて考えると、この結果はMIFペプチド配列中のアミノ酸の側鎖アミノ基の修飾がMIFのD−ドパクロム互変異性酵素活性を除去することができることを示す。よって、MIFのリジン残基の修飾を引き起こす化合物は、MIF生物活性(限定でなくMIFの炎症活性および免疫調節活性を含む)の阻害剤として有用である。
実施例5
この実施例は、MIFの互変異性酵素活性を測定するための過ヨウ素酸塩不含有アッセイ系を例証する。互変異性酵素アッセイは、過剰の過ヨウ素酸塩での化学的酸化によるL−ドパメチルエステル(L-DME)からの新たなL−ドパクロムメチルエステル(L-DCME)の生成を必要とする。追加の精製段階を使わないためには多量の酸化試薬過ヨウ素酸塩が必要である。更に、過ヨウ素酸塩の残りは基質の不安定性を増大させるので新たな基質溶液の調製を必要とするし、過ヨウ素酸塩は試験化合物とも反応し得る。従って、この実施例は、本発明の方法の好ましい態様として、アッセイ混合物からの残余の過ヨウ素酸酸塩およびそれの反応生成物であるヨウ素酸塩を除去し、そして基質を濃縮する方法を示す。
L-DMEと過ヨウ素酸塩からのL-DCMEの形成後、基質混合物をC18コートシリカビーズを使った逆相クロマトグラフィーにかける。脱イオン水でのフラッシュ洗浄により過ヨウ素酸塩が除かれる。基質は純メタノールを使ってカラムから溶出され、−70℃で少なくとも数カ月間安定に貯蔵できるL-DCMEのメタノール溶液を与える。
同容量のL−ドパメチルエステル(L-DME)(4mM)と過ヨウ素酸ナトリウム(8mM)の水溶液を混合し、5分間インキュベートした。真空装置を使って自己充填した10mlのC18逆相カラム上でのクロマトグラフィーにより、濃く着色したL−ドパクロムメチルエステルから残りの過ヨウ素酸塩を除去した。カラムを脱イオン水(30ml)で3回フラッシュ洗浄し、次いでメタノールを使ってL−ドパクロムメチルエステル(DCME)を溶出させた。メタノール溶出液は−70℃で少なくとも数カ月間安定であった。
上述した改良試薬を使うと、ドパクロム互変異性酵素アッセイは1mlの緩衝液A(25mMリン酸カリウムpH6.0中0.2%Tween 20)と緩衝液B(25mMリン酸カリウムpH6.0中500μM EDTA)を10〜30μlの基質L-DCME濃縮物と混合物することができる(出発のE475nm≒1〜1.4)。バックグラウンド速度をモニタリングした後、MIFを添加する(典型的には0.05〜0.5μgのMIF)。バックグラウンドとMIF触媒反応を分光光度計上で475nmでモニタリングする。
Claims (3)
- MIFの生物活性を阻害する化合物についてのスクリーニングアッセイであって、
(a)試験化合物の存在下および不在下でMIFとMIF基質の反応混合物を調製し;そして
(b)MIF基質の互変異性化を検出する
ことを含んで成り、MIF基質の互変異性化の減少がMIF活性を阻害する試験化合物の能力を示す、前記スクリーニングアッセイ。 - 前記MIF基質がD−ドパクロム、D−ドパクロムメチルエステルまたはL−ドパクロムメチルエステルを含んで成る、請求項1のスクリーニングアッセイ。
- 前記MIF基質の互変異性化が比色的にまたは分光光度的に検出される、請求項2のスクリーニングアッセイ。
Applications Claiming Priority (3)
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Publications (2)
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