JP4114057B2 - 吸放湿性繊維 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、変化する衣服等の内部温湿度を調整することにより衣服等の内部を快適な状態に保つことができる吸放湿性繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
建物の気密化及び暖冷房化などの生活環境の変化、老齢化並びに生活文化の高度化に伴い、これらに対応し得る快適な繊維素材が求められている。このため、人体機能と着心地性に関する繊維製品消費科学研究の進展は著しい。
【0003】
暑熱時、運動時又は通気性の低い衣服や寝具を着用したときには、発汗や身体からの水分の蒸発により、衣服内又は寝具内の湿度が高くなり、ムレ感を感じる。一方、吸湿率に乏しい衣服を着用した場合や、吸湿率が高くても吸湿及び放湿速度が速い衣服を着用した場合には、冷暖房室内への出入り等の環境変化に対して、冷え感や暑さ感を生じやすい。また、この様な寝具を着用した場合には保温性に乏しいか、保温性はあってもムレ感や早朝の冷え感などの不快感を経験することは良く知られている。
【0004】
木綿、羊毛などの天然繊維、再生繊維のレーヨン、半合成繊維のアセテート等は比較的吸湿性に優れることが知られている。一方、合成繊維は比較的吸湿性に乏しいが、近年、このような欠点を補うべく、徴細な空洞や溝を有する繊維が出現している(例えば、特許文献1、2参照)。しかしながら、これらの繊維は水吸上げ速度や保水性に優れるものの吸湿率が乏しいために、実用上十分に衣服内の温湿度を調整することができない。
【0005】
一方、空気中の湿気を除くことができるとともに再生可能な吸湿及び放湿性の架橋アクリル系繊維が提案されている(特許文献3参照)。特許文献3に記載のアクリル系繊維は20℃65%RHでの飽和吸湿率が最大55%であり、吸放湿速度が速いことが特徴として謳たわれている。この繊維は吸着熱による発熱や脱湿能力に優れているが、吸湿速度だけでなく放湿速度も速いため、吸湿発熱作用と放湿冷却作用がほぼ同レベルであり、繊維に水分を蓄積することによる発熱効果がやや小さい。
【0006】
特許文献4は、吸放湿特性を適性化した吸湿性架橋アクリル系繊維を開示している。この繊維は、冬場の快適性に着目し、吸湿速度が放湿速度の2倍以上のものである。
【0007】
しかし、特許文献4に記載の繊維は吸湿速度に対し放湿速度が遅いため、高温多湿環境下では、吸湿発熱に対し放湿冷却が起こりにいことから暑く感じる場合がある。また、この繊維は飽和吸湿率が35%以下であるとともに、放湿速度が比較的遅いことから多湿状態では繊維の吸湿率が比較的短時間で飽和状態に達し易い。
【0008】
さらに、特許文献4は、20℃において絶乾状態である0%RHから65%RHに変化した場合の吸湿速度定数を用いているが、実際の着用を想定すると絶乾からの吸湿挙動を規定するのは余り適当ではない。また、20℃において80%RHから30%RHに変化した場合の放湿速度定数を規定しているが、ムレ感を感じるのは衣服内湿度が上昇したときであり、湿度が下降するときの放湿速度を規定するのは余り適当ではない。
【0009】
【特許文献1】
特開昭57−51812(特許請求の範囲など)
【0010】
【特許文献2】
特開平03−161506(特許請求の範囲など)
【0011】
【特許文献3】
特開平5−132858(段落番号0036など)
【0012】
【特許文献4】
特開平9−59872(請求項1など)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、衣服内又は寝具内の湿度が大きく変化した場合にその湿度を適度に調節することにより、外部温度の変化時や運動前後にも快適な着用感が得られる吸放湿性繊維を提供することを主目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために本発明者は研究を重ね、以下の知見を得た。
【0015】
温度20℃において相対湿度(RH)が20%から55%に変化した場合の吸湿速度Aと、温度20℃において相対湿度が55%から20%に変化した場合の放湿速度Bとの間に、
A−B ≦ 1(%/時間)
の関係があり、かつ、
温度20℃において相対湿度が55%から95%に変化した場合の吸湿速度Cと、温度20℃において相対湿度が95%から55%に変化した場合の放湿速度Dとの間に、
C−D ≧ −0.5(%/時間)
の関係がある吸放湿性繊維は、
A−B ≦ 1(%/時間)であることにより、RH20〜55%という比較的低い湿度範囲において放湿性能が比較的大きいため、吸収した湿気を放出し易く、過乾燥感を感じにくい。また、C−D ≧ −0.5(%/時間)であることにより、RH55〜95%という比較的高い湿度範囲において吸湿性能が比較的大きいため、発汗初期のムレ感を抑制できる。
【0016】
大気が乾燥しやすい冬の室内湿度は20%RH程度であるため、冬の過乾燥環境下での快適性を得るためには、20〜55%RHでの吸放湿特性を規定することが重要である。また、汗をかくような状況では発汗前の衣服内湿度は通常50〜60%RH程度であるため、発汗時の快適性を得るためには55〜95%RHでの吸放湿特性を規定することが重要である。
【0017】
本発明は前記知見に基づき完成されたものであり、以下の吸放湿性繊維を提供する。
【0018】
項1. アクリル系繊維、ポリエステル、ナイロン、アセテート、レーヨン、キュプラ、ポリノジックおよびリヨセルからなる群から選ばれる1種以上の繊維に、カルボキシル基を導入してなる吸放湿性繊維であって、
カルボキシル基が、金属塩型カルボキシル基、または金属塩型カルボキシル基および酸型カルボキシル基からなり、
該金属塩型カルボキシル基における金属が、(a)アルカリ金属、並びに(b)アルカリ土類金属及び/又はCu、Zn、Al、Mn、Ag、Fe、Co、Niからなる群から選択される1種以上の金属であり、(a):(b)の比率が、モル比で35:65〜65:35であり、
温度20℃において相対湿度が20%から55%に変化した場合の吸湿速度Aと、温度20℃において相対湿度が55%から20%に変化した場合の放湿速度Bとの間に、
A−B ≦ 1(%/時間)
の関係があり、かつ、
温度20℃において相対湿度が55%から95%に変化した場合の吸湿速度Cと、温度20℃において相対湿度が95%から55%に変化した場合の放湿速度Dとの間に、
C−D ≧ −0.5(%/時間)
の関係がある吸放湿性繊維。
【0019】
項2. 吸湿速度Aと放湿速度Bとの間に、
A−B ≦ 0(%/hr)
の関係があり、かつ、吸湿速度Cと放湿速度Dとの間に、
C−D ≧ 0.5(%/hr)
の関係がある項1に記載の吸放湿性繊維。
【0020】
項3. 温度20℃において相対湿度が20%から55%に変化した場合の吸湿速度Aが2(%/時間)以下である項1又は2に記載の吸放湿性繊維。
【0021】
項4. 温度20℃において相対湿度が95%から55%に変化した場合の放湿速度Dが1.5(%/時間)以下である項1、2又は3に記載の吸放湿性繊維。
項5. 温度20℃、65%RHにおける飽和吸湿率が36%以上である項1〜4のいずれかに記載の吸放湿性繊維。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
基本的構成
本発明の吸放湿性繊維は、温度20℃において相対湿度が20%から55%に変化した場合の吸湿速度Aと、温度20℃において相対湿度が55%から20%に変化した場合の放湿速度Bとの間に、
A−B ≦ 1(%/時間)
の関係があり、かつ、
温度20℃において相対湿度が55%から95%に変化した場合の吸湿速度Cと、温度20℃において相対湿度が95%から55%に変化した場合の放湿速度Dとの間に、
C−D ≧ −0.5(%/時間)
の関係がある繊維である。
【0023】
本発明において、吸湿速度A及びC、放湿速度B及びDの値は実施例に記載の方法により測定した値である。
A−B
本発明では、20℃において相対湿度が20%から55%に変化した場合の吸湿速度A、及び、55%から20%に変化した場合の放湿速度Bを用いている。冬の室内湿度は20%RHレベルであるため、冬の過乾燥環境下での衣服又は寝具内を保湿し、肌の乾燥を防止するためには、20〜55%RHでの吸湿速度と放湿速度との関係を規定することが適切である。
【0024】
本発明では、比較的低湿度の環境下での吸放湿度の相対値を示す(A−B)値が1(%/時間)以下であり、このことは、比較的低湿度環境において、湿度上昇時の吸湿速度に対して、湿度下降時の放湿速度が遅くないことを意味している。
【0025】
(A−B)が大きすぎる場合は、低湿度環境下での放湿能力に対して吸湿能力が大き過ぎて、繊維が肌付近の水分を吸い取るため、肌が乾燥しやすくなる。本発明の繊維は、(A−B)≦1(%/時間)であることにより、20〜55%RHという比較的低湿度環境において、肌の乾燥を防ごうと、繊維が積極的に水分を放出する能力を有しており、過乾燥感を感じ難いものとなる。
【0026】
(A−B)は0(%/時間)以下であることが好ましい。さらに0(%/時間)未満であること、すなわち、湿度上昇時の吸湿速度が湿度下降時の放湿速度より小さいことがより好ましい。(A−B)の下限値は特に限定されないが、通常−1.5(%/時間)程度である。
【0027】
本発明の繊維は、吸湿速度Aが2(%/時間)以下であることが好ましく、1(%/時間)以下であることがより好ましい。Aの下限値は特に限定されないが、通常0.1(%/時間)程度である。上記のAの範囲であれば、比較的低湿度環境下での湿度上昇時に吸湿速度が速すぎることがなく、乾燥した肌が軽い運動により発汗しても湿気がすぐに繊維に吸収されず、肌が潤い快適である。
【0028】
また本発明の繊維は、放湿速度Bが1.5(%/時間)以下であることが好ましく、1(%/時間)以下であることがより好ましい。Bの下限値は特に限定されないが、通常0.2(%/時間)程度である。上記のBの範囲であれば、比較的低湿度環境下での湿度下降時に比較的長時間にわたって繊維が放湿するため、乾燥した肌に水分を持続的に補給することができる。例えば冬にストーブを焚いた部屋から乾燥した屋外に出かけた場合や、夏場に屋外から空調(冷房による除湿)により乾燥した室内に入った場合には、このような持続的な放湿特性が肌の乾燥を防ぐのに役立つ。
C−D
本発明では、20℃において相対湿度が55%から95%に変化した場合の吸湿速度Cと、相対湿度が95%から55%に変化した場合の放湿速度Dとを用いている。汗をかくような状況においては、発汗前の衣服内湿度は通常50〜60%RH程度であることから、55〜95%RHでの吸湿速度と放湿速度との関係を規定するのが適切である。特に、55%RHから95%RHに変化する場合の吸湿速度を規定することが重要である。
【0029】
本発明の繊維は、高湿度環境下での吸放湿速度の相対値を示す(C−D)の値が−0.5(%/時間)以上であり、このことは、高湿度環境下での湿度上昇時の吸湿速度が湿度下降時の放湿速度に対して余り遅くないことを意味している。
【0030】
本発明の繊維は、C−D ≧ −0.5(%/時間)であり、このように衣服内の相対湿度が55%RHから95%RHに上昇したときの吸湿速度が比較的大きいため、発汗初期のムレ感が効果的に低減される。
【0031】
(C−D)は0.5(%/時間)以上であることが好ましい。(C−D)が0.5(%/時間)以上であれば、55%RHという高湿度環境下での湿度上昇時の吸湿速度が湿度下降時の放湿速度よりも大きくなり、夏場の高湿度環境又は運動による発汗時に、吸湿により衣服内を乾燥状態に保つことができるため、ムレ感のない快適な衣料等が得られる。(C−D)は1(%/時間)以上であることがより好ましい。(C−D)の上限値は特に限定されないが、通常2.5(%/時間)程度である。
【0032】
本発明の繊維は、(C−A)が0より大きいことが好ましい。このことは、高湿度時の吸湿速度の方が低湿度時の吸湿速度よりも大きいことを意味する。このように高湿度になると繊維の吸湿速度が増すために、急激な湿度上昇を抑えることができる。(C−A)は0.7(%/時間)以上であることが好ましく、1.2(%/時間)以上であることがより好ましい。(C−A)の上限値は特に限定されないが、通常2.5(%/時間)程度である。
【0033】
本発明の繊維は、Dが1.5(%/時間)以下であることが好ましく、1(%/時間)以下であることがより好ましい。Dの下限値は特に限定されないが、通常0.2(%/時間)程度である。上記のDの範囲であれば、高湿度環境下での湿度下降時に繊維による放湿が遅いため、蒸れ感が生じ難い。
(A−B)と(C−D)との組み合わせ
上述したように、本発明の繊維は(A−B)≦1(%/時間)であり、かつ、(C−D)≧−0.5(%/時間)である。(A−B)≦0(%/時間)であり、かつ、(C−D)≧0.5(%/時間)であることがより好ましく、肌が乾燥しないとともにムレ感のない極めて快適な繊維が得られる。
標準温湿度での飽和吸湿率
本発明の繊維は、20℃、65%RHにおける飽和吸湿率が5%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。更に好ましくは20%以上であり、一層好ましくは36%以上である。この飽和吸湿率は余りに高いと繊維の膨潤特性が高まるため、90%以下、特に80%以下が好ましい。
【0034】
本発明において、飽和吸湿率は実施例に記載の方法により測定した値である。
【0035】
本発明の繊維は、標準温湿度である20℃、65%RHにおける飽和吸湿率が高く、このことは標準温湿度下で吸湿及び放湿する水分が多いこと、すなわち高いポンピング作用を有していることを意味する。吸放湿速度が速くても、飽和吸水率が低いと吸放湿の持続性がなく、吸放湿の効果も小さいものになってしまう。上記の飽和吸湿率の範囲であれば、吸放湿が持続する点で好ましい。このため、本発明の繊維を他の繊維と混紡又は混織等することにより繊維構造体とする場合に、低い混率で高い調湿効果が得られる。
製造方法
(A−B)≦1.0(%/時間)かつ(C−D)≧−0.5(%/時間)である本発明の吸放湿性繊維は、特に限定されないが、例えば以下の方法により製造することができる。
【0036】
疎水性繊維などに吸放湿性を付与するには、繊維表面や繊維を構成するポリマー鎖に親水性官能基を導入することが有効である。親水性官能基としては水酸基やカルボキシル基などが挙げられる。好ましくはカルボキシル基であり、中でも塩型カルボキシル基を導入することより高い吸放湿特性が得られる。
<塩型カルボキシル基>
ここで、塩型カルボキシル基がLi、K、Na、Rb、Cs等のアルカリ金属塩型カルボキシル基である場合は高い吸湿速度及び高い放湿速度を与える。また、Be、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属塩型カルボキシル基やCu、Zn、Al、Mn、Ag、Fe、Co、Ni等のその他の金属塩型カルボキシル基は、アルカリ金属塩型カルボキシル基に較べて、低い吸湿速度及び低い放湿速度を与える。
【0037】
繊維に金属塩型カルボキシル基を導入するにあたり、アルカリ金属塩型カルボキシル基と、アルカリ土類金属塩型カルボキシル基及び/又はその他の金属塩型カルボキシル基とを併用し、アルカリ金属:アルカリ土類及び/又はその他の金属の比率を、モル比で、20:80〜80:20程度とすればよい。この比率を35:65〜65:35程度とすることがより好ましい。
【0038】
全塩型カルボキシル基に占めるアルカリ金属塩型カルボキシル基の割合が余りに高いと、湿度領域に関わらず吸湿速度及び放湿速度が共に速くなりすぎる。また、全塩型カルボキシル基に占めるアルカリ金属塩型カルボキシル基の割合が余りに低いと、湿度領域に関わらず吸湿速度及び放湿速度が共に遅くなり過ぎる。上記の範囲であれば、他の条件を適宜設定することにより(A−B)≦1(%/時間)、かつ、(C−D)≧−0.5(%/時間)の繊維を得ることができる。
【0039】
金属塩型カルボキシル基におけるカウンターイオンとしての金属イオンは、1種を単独で又は2種以上を混合して使用できる。
【0040】
また、全カルボキシル基の30モル%以下が水素イオンをカウンターイオンとする酸型カルボキシル基であってもよい。
<カルボキシル基導入方法>
ニトリル基を有するアクリル系繊維にカルボキシル基を導入する場合は、例えばニトリル基を加水分解すればよい。ニトリル基の加水分解は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アンモニアのようなアルカリ;硝酸、硫酸、塩酸のような鉱酸;又は蟻酸、酢酸のような有機酸等の処理液の存在下で加熱することにより行える。カルボキシル基を比較的短時間で生成させるためにはアルカリで加水分解することが好ましい。加水分解に先立ち、ヒドラジン等でニトリル基の一部を架橋処理しておいてもよく、この場合は、吸湿時の膨潤が少ない繊維が得られるとともに、窒素原子を含有する架橋構造によって抗菌防臭性が得られる。
【0041】
加水分解により、0.5mmol/g以上、好ましくは1mmol/g以上のカルボキシル基が存在するようにすればよい。カルボキシル基濃度は8mmol/g以下が好ましい。上記のカルボキシル基濃度の範囲であれば、その全部又は一部を金属塩型カルボキシル基に変換することにより、本発明の特定の吸放湿特性を得ることができるとともに、繊維物性が低下することがない。
【0042】
当業者であれば、処理溶液濃度、反応温度、反応時間を適宜設定することにより、容易にカルボキシル基濃度を上記の範囲にすることができる。
【0043】
またニトリル基を有さない繊維にカルボキシル基を導入する方法としては、グラフト重合法が挙げられる。ニトリル基を有さない繊維としては、ポリエステル又はナイロン等に代表される合成繊維;アセテート等に代表される半合成繊維;レーヨン、キュプラ、ポリノジック等に代表される再生セルロース繊維;リヨセル等に代表される精製セルロース繊維等が挙げられる。
【0044】
重合に供するモノマーとしては、オレフィン系有機酸であるアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、スチレンスルホン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸等が挙げられる。これらのモノマーは1種を単独で又は2種以上を混合して使用できる。特にアクリル酸、メタクリル酸がグラフト重合効率及びコストの点で好ましい。
【0045】
オレフィン系有機酸のグラフト重合率、すなわち繊維に対するオレフィン系有機酸のグラフト重合による重量増加率を5%以上とすればよい。グラフト重合率は、より好ましくは10%以上、更に好ましくは15%以上である。グラフト重合率の上限は、特に限定されないが、通常100%程度である。グラフト重合率は、重合反応前の繊維の絶乾重量(W0)に対する、グラフト重合し洗浄した後の繊維の絶乾重量(W1)から重合反応前の繊維の絶乾重量(W0)を引いた値の百分率である。これにより、繊維を0.5mmol/g以上、好ましくは1mmol/g以上、8mmol/g以下のカルボキシル基濃度を有するものとすることができる。
【0046】
上記のグラフト重合率の範囲であれば、その全部又は一部を塩型カルボキシル基に変換した場合に、本発明の特定の吸放湿特性が得られるとともに、副生成した非グラフト重合体が繊維に膠着したり繊維物性が低下することがない。
<塩型カルボキシル基の調製方法>
導入されたカルボキシル基を塩型にする方法としては、例えば、上述した加水分解繊維やグラフト重合繊維を、各種の塩の水酸化物又は塩の水溶液に浸漬した後、水洗及び乾燥する方法が好適である。この際、少なくとも、カルボキシル基をアルカリ金属塩とする処理と、アルカリ土類金属塩及び/又は前記のその他の金属塩とする処理とを同時に行ってもよく、別々に行ってもよい。いずれにしても、処理後にアルカリ金属塩型カルボキシル基とアルカリ土類金属塩型カルボキシル基及び/又はその他の金属塩型カルボキシル基とが、モル比で20:80〜80:20程度の割合で共存するようにすればよい。但し、前述したように、全カルボキシル基量に対して、30mol%以下の割合で酸型カルボキシル基が残っていても構わない。
添加剤
本発明の繊維は、本発明の目的を損なわない範囲で、つや消し剤、抗酸化剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、制電剤、難燃剤などの繊維に通常添加される添加物が配合されていてもよい。
繊維形態
本発明の繊維の断面形状は特に限定されず、丸型断面形状でもよく、丸型断面形状以外の中空、三角、多葉、扁平、田型、W型、井型、V型等の異形断面形状であってもよい。特に、軽量で保温性に富む繊維とするためには、中空断面とすることが効果的であり、吸水速乾性能を付与するためには、表面に凹部を有する断面とすることが有効である。
【0047】
また、本発明の繊維はフィラメント及びステープルのいずれであってもよい。
【0048】
本発明の繊維の繊度は特に限定されず、使用形態に応じて適切な繊度とすればよい。
使用形態
本発明の繊維は、糸、ヤーン(ラップヤーンも含む)、織物、編物、不織布、紙状物、シート状物、積層体、綿状体(球状や塊状のものを含む)等を構成する材料として使用できる。これらの構造体における本発明の繊維の含有形態は特に限定されず、実質的に本発明の繊維のみで構成された形態、他素材との混合により実質的に均一に分布した形態、複数の層を有する構造体の場合には1又は複数のいずれかの層に含有させた形態、各層に同様の比率で含有させた形態等が挙げられる。積層状である場合は、本発明の繊維を含む層と他の素材からなる層とを貼付、接着、融着又は挟み付け等により積層あるいはラミネートなど行った、例えば2〜5層程度のものが挙げられる。また積層状ではあるが、積極的な接合は行わず支持体により積層状を維持するものであってもよい。さらに、これらに外被を施したものであってもよい。
【0049】
繊維の使用形態は、最終製品の用途(運動用衣料、一般衣料(内衣、中衣、外衣)、カーテン、カーペットのようなインテリア用品、寝具、クッション、靴のインソール、空調材等としての利用の仕方)、最終製品のシーズン性、最終製品に要求される機能、このような機能への本発明の繊維の寄与の仕方等を勘案して適宜選択すればよい。
【0050】
本発明の繊維とその他の繊維とを組み合わせて使用する場合は、例えば、肌着や布おむつ等では、例えば本発明の繊維と他の繊維とを混紡又は混繊して織編地とすることができる。紙おむつ、生理用品のような吸収体や、スポーツ衣料等では、例えば本発明の繊維とその他の繊維とを組み合わせてウェッブシートとし、その他の繊維シート又は織編物と共に積層して用いることができる。これらの肌に接する製品では、本発明の繊維を含む部材を肌に接する側に配設することが好ましい。
その他の素材の使用
本発明の繊維を使用した構造体は、本発明の繊維以外の素材も含んでいてよい。本発明の繊維は前述の通り優れた吸放湿特性を備えるが、他の素材を併用することにより、この構造体に別の機能を付与したり、好ましい風合いを与えたり、鮮明な染色性などのいわゆるファッション性を高めたりすることができる。また、混紡等の加工性を改善できる場合もある。
【0051】
他の繊維は特に限定されず、天然繊維、有機繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維、無機繊維(ガラス繊維等)等の公知の繊維をいずれも・使用できる。特に、羊毛や綿等の天然繊維、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリル等の合成繊維あるいはレーヨン、ポリノジック等の再生繊維が好ましい。
【0052】
不織布として本発明の繊維を使用する場合は、短繊維として、セルロース系繊維、パルプ、合成繊維等と混合使用することができる。特に寸法安定性が求められる用途に使用される不織布では、本発明の繊維と熱接着性繊維とからなり、好ましくは本発明の繊維を10〜80重量%混合した不織布が推奨される。熱接着性繊維としては、例えばポリエチレン−ポリプロピレン、ポリエチレン−ポリエステル、ポリエステル−ポリエステル等の低融点成分と高融点成分とからなる繊維が挙げられる。本発明の繊維を用いた不織布は、優しい肌ざわりと吸水性が求められる用途に好適に使用できる。例えばおむつの用途に有用であり、おむつの不織布のトップシートのみならず、バックシートさらにはオムツカバーにも使用でき、高価な高吸水性ポリマーの使用量を減らすこともできる。
【0053】
本発明の繊維を用いた構造体が、本発明の繊維と繊維以外の素材を含む場合のその他の素材としては、ゴム、樹脂、プラスチック、紙等が挙げられる。これらはシート状、粒状等のいずれの形態であってもよい。本発明の繊維は、例えばこれらの材料とともにシート状に成型したり、これらの材料からなるシートとラミネートしたりすることができる。
本発明の繊維の使用比率
構造体が本発明の繊維以外の材料を含む場合は、本発明の繊維の吸放湿特性を十分に発揮させるために、本発明の繊維を10重量%以上含有することが好ましい。構造体を本発明の繊維のみで構成することも勿論可能であるが、紡績した場合の糸の強度又は不織布等の布の強度を向上させる上で、構造体における本発明の繊維の含有比率を50重量%以下にすることが好ましい。
【0054】
本発明の繊維の好ましい含有率は製品の用途によって異なる。肌着やおむつ等の肌に直接触れる製品に本発明の繊維を使用する場合は、風合いの柔らかい他の繊維と組み合わせて使用するのが好ましい。肌着等では本発明の繊維を10重量%以上含有することが好ましい。おむつ等では本発明の繊維を10重量%以上、特に20重量%以上が含有することが好ましい。
用途
本発明の繊維を含む構造体を利用した最終製品の用途としては、衣料(スポーツ衣料、肌着、中衣、外衣等)、おむつ、生理用品、尿失禁用シート、靴の内布又はインソールのような人が着用して利用するもの;布団、枕、クッションの様な寝具類;カーテン、カーペット、壁クロスに代表されるインテリア用品;調湿材;消臭材等が挙げられる。
【0055】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び試験例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明の評価に用いた方法は以下の通りである。
<吸湿速度、放湿速度>
被験試料を、吸湿または放湿開始時点の温湿度環境下で12時間以上調湿し、吸湿または放湿終了時点の温湿度環境下に移動した瞬間の重量(W1)g、および、移動してから1時間後の重量(W2)gを測定する。試料は、調湿環境下で1.5gのわた状のものを使用する。重量測定後に、被験試料を105℃で16時間乾燥し、絶乾重量(W0)gを測定する。吸湿速度(V1)及び放湿速度(V2)を以下の式から算出する。
【0056】
吸湿速度V1(%/時間)=Y−X
放湿速度V2(%/時間)=X−Y
上記式において、Xは環境変化直後の水分率を表し、Yは環境変化1時間後の水分率を表す。また、X及びYは以下の式から算出される。
【0057】
X(%)={(W1−W0)/W0}×100
Y(%)={(W2−W0)/W0}×100
<20℃、65%RHにおける飽和吸湿率>
被験試料繊維約5.0gを、熱風乾燥機で105℃で16時間乾燥して絶乾重量(W0)gを測定する。次に、被験試料を温度20℃で相対湿度65%に調整された恒温恒湿機に24時間放置した後、試料の重量(W3)gを測定する。20℃、65%RHにおける飽和吸湿率を次式に従って算出する。
【0058】
飽和吸湿率(%)={(W3−W0)/W0}×100
<全カルボキシル基量>
十分乾燥した被験繊維試料約1gを精秤し(W4)g、これに200mlの1N塩酸水溶液を加え30分間放置した後、ガラスフィルターで濾過し水洗する。この塩酸−水洗処理を3回繰り返した後、濾液のpHが5以上になるまで十分に水洗する。次にこの試料を200mlの水中に入れ1N水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求める。この滴定曲線からカルボキシル基に消費した水酸化ナトリウム水溶液消費量(X)mlを求め、次式によって全カルボキシル基量を算出する。
【0059】
全カルボキシル基量(mmol/g)=0.1X/W4
<金属塩型カルボキシル基量>
十分乾燥した被験繊維試料を精秤し、常法に従って濃硫酸と濃硝酸の混合溶液で酸分解した後、各金属毎に常法に従って原子吸光光度法により定量し、各金属の結合したカルボキシル基量として算出する(mmol/g)。
<酸型カルボキシル基量>
次式により酸型カルボキシル基量を算出する。
【0060】
酸型カルボキシル基量(mmol/g)=全カルボキシル基量―金属塩型カルボキシル基量
なお、上記の全カルボキシル基量、金属塩型カルボキシル基量の測定方法はニトリル基加水分解アクリル系繊維を例にとって説明したものであり、その他の繊維についても、適宜溶媒の種類や酸、アルカリの種類、濃度を調節して測定した。
実施例1
モノマーとしてアクリル酸とメタクリル酸とを重量比で1:1で混合し、モノマー濃度5重量%の水溶液を調整し、重合開始剤として過酸化ベンゾイル、キャリアーとしてナフタレン、pH調整剤としてソーダ灰を使用し、ポリエチレンテレフタレート短繊維にグラフト重合加工した。使用したポリエチレンテレフタレート短繊維は繊度6.6dtexで繊維長64mmのものであり、中空断面で立体捲縮を有するものである。反応容器としてはオーバーマイヤー型染色機を使用し、浴比1:15で60℃、40分間のグラフト重合を実施した。
【0061】
グラフト重合率は35%であった。グラフト重合の後、反応液のpHを5.5に調整し、硝酸カルシウムを添加して60℃で30分間処理した。その後、酢酸/酢酸ナトリウムを添加して60℃で30分間処理し、カルボキシル基のカウンターイオンの割合をNa:Ca:H=45:45:10に調整した。
【0062】
実施例2
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート短繊維に代えてナイロン6短繊維を用い、この繊維に同様にしてグラフト重合及び塩化処理を施し、カルボキシル基のカウンターイオンの割合をNa:Ca:H=45:45:10とした。
【0063】
実施例3
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート短繊維に代えてポリノジック短繊維を用い、この繊維に同様にしてグラフト重合及び塩化処理を施し、カルボキシル基のカウンターイオンの割合をNa:Ca:H=45:45:10とした。
【0064】
実施例4
アクリロニトリル90重量%とアクリル酸メチル10重量%からなるアクリロニトリル系重合体10重量部を48重量%ロダンソーダ水溶液90重量部に溶解した紡糸原液を、常法に従って湿式紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理して単繊維繊度0.8dtex、繊維長70mmの原料繊維を得た。
【0065】
この原料繊維1kgに30重量%の水加ヒドラジン水溶液5kgを加え、98℃で3時間架橋処理した。該架橋繊維を水洗し、3重量%の水酸化ナトリウム水溶液5kgを加え、90℃で2時間加水分解した。次いで、1N硝酸水溶液で処理して、カルボキシル基を酸型に変換し、水洗した。
【0066】
その後、繊維を水酸化ナトリウム水溶液で反応液のpHを5.5に調整することにより酸型カルボキシル基の一部をナトリウム塩型カルボキシル基に変換して、酸型カルボキシル基とナトリウム塩型カルボキシル基とが共存する状態にした。次いで、繊維を水洗後、7重量%の硝酸カルシウム水溶液5kgで50℃で30分間処理することによりナトリウム塩型カルボキシル基をカルシウム塩型カルボキシル基に変換して、酸型カルボキシル基とカルシウム塩型カルボキシル基とが共存する状態にした。次いで、繊維を水洗後、再度水酸化ナトリウム水溶液で反応液のpHを7.5に調整することにより酸型カルボキシル基の一部をナトリウム塩型カルボキシル基に変換して、酸型カルボキシル基、ナトリウム塩型カルボキシル基及びカルシウム塩型カルボキシル基の3者が共存する状態とした。
【0067】
これにより、全カルボキシル基量は4.4mmol/gで最終的にカルボキシル基のカウンターイオンの割合がNa:Ca:H=45:45:10に調整された。
【0068】
実施例1〜4の各繊維について、吸湿率A及びC、放湿率B及びD、20℃、65%RHにおける飽和吸湿率、塩型カルボキシル基の塩型、酸型カルボキシル基の比率を以下の表1に示す。
【0069】
【表1】
Figure 0004114057
【0070】
【発明の効果】
本発明により、衣服内又は寝具内の湿度が大きく変化した場合にその湿度を適度に調節することにより、外部温度の変化時や運動前後にも快適な着用感が得られる吸放湿性繊維が提供された。さらにいえば、湿度の異なる環境へ移動した場合や、運動による発汗で衣服内の湿度変化が著しい場合でも、衣服内の湿度を適度に調節することにより快適な着用感を与える繊維が提供された。

Claims (5)

  1. アクリル系繊維、ポリエステル、ナイロン、アセテート、レーヨン、キュプラ、ポリノジックおよびリヨセルからなる群から選ばれる1種以上の繊維に、カルボキシル基を導入してなる吸放湿性繊維であって、
    カルボキシル基が、金属塩型カルボキシル基、または金属塩型カルボキシル基および酸型カルボキシル基からなり、
    該金属塩型カルボキシル基における金属が、(a)アルカリ金属、並びに(b)アルカリ土類金属及び/又はCu、Zn、Al、Mn、Ag、Fe、Co、Niからなる群から選択される1種以上の金属であり、(a):(b)の比率が、モル比で35:65〜65:35であり、
    温度20℃において相対湿度が20%から55%に変化した場合の吸湿速度Aと、温度20℃において相対湿度が55%から20%に変化した場合の放湿速度Bとの間に、
    A−B ≦ 1(%/時間)
    の関係があり、かつ、
    温度20℃において相対湿度が55%から95%に変化した場合の吸湿速度Cと、温度20℃において相対湿度が95%から55%に変化した場合の放湿速度Dとの間に、
    C−D ≧ −0.5(%/時間)
    の関係がある吸放湿性繊維。
  2. 吸湿速度Aと放湿速度Bとの間に、
    A−B ≦ 0(%/hr)
    の関係があり、かつ、吸湿速度Cと放湿速度Dとの間に、
    C−D ≧ 0.5(%/hr)
    の関係がある請求項1に記載の吸放湿性繊維。
  3. 温度20℃において相対湿度が20%から55%に変化した場合の吸湿速度Aが2(%/時間)以下である請求項1又は2に記載の吸放湿性繊維。
  4. 温度20℃において相対湿度が95%から55%に変化した場合の放湿速度Dが1.5(%/時間)以下である請求項1、2又は3に記載の吸放湿性繊維。
  5. 温度20℃、65%RHにおける飽和吸湿率が36%以上である請求項1〜4のいずれかに記載の吸放湿性繊維。
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