本発明は、1種又は2種以上の多糖類を有効成分とする、単糖類、少糖類、又はその糖アルコールを摂取することにより生じる不快な消化器症状を防止する薬剤に関する
糖または糖アルコールは、食品又は医薬品として様々な用途に用いられてきた。食品の領域では、三大栄養素の1つとして、経口的に食事摂取される。一方で、自然な経口摂取が困難な場合には経管(経腸)栄養剤として投与されている。また、すぐれた甘みを有することから甘味料として用いられてきた。糖又は糖アルコールのうち、例えばソルビトール、キシリトール、エリスリトールなど、優れた甘味を有し、かつ消化管で消化酵素により消化されにくいものは、低カロリーの甘味料として、ダイエット食品に限らず広く健康食品に添加されている。また、糖尿病患者に適した甘味料として欠くことのできないものである。さらに、ウ触を直接防止する作用が報告されているキシリトールの他、直接的に抗ウ蝕作用が認められない糖又は糖アルコールも、ショ糖の代替甘味料として、食品やガム、歯磨き剤に甘味料として用いれば、口腔内で細菌、酵素による有機酸の生成がほとんど無いので虫歯の発生原因とならず、抗ウ触効果(並びにウ蝕予防効果)が期待できる。低カロリーとは言い難いが、難消化性の甘味料として二糖類のマルチトール、ラクチトールなどがある。
糖又は糖アルコールは医薬品としても様々に利用されている。その浸透圧作用を利用して、浸透圧利尿剤として用いられているマンニトール、浸透圧下剤として用いられるラクツロース、ソルビトール、高アンモニア血症治療薬、肝性脳症治療薬として用いられているラクツロース(ラクツロース)、ラクチトール水和物(ポルトラック)、肝硬変治療薬として用いられるラクツロースなどがある。他に、メニエール病治療薬として内リンパ水腫減荷効果を有する治療薬イソソルビトールがある。今後、浸透圧効果を利用して、医薬として新たな利用方法の開発も考えられる。例えば緑内障の治療の際、眼内圧上昇の減荷を目指して糖又は糖アルコール類を用いる可能性などが考えられる。特定保健用食品として、血糖値上昇を抑制する作用を有するL-アラビノース、ダイエット効果や整腸効果をうたった難消化性デキストリンなどがある。
また、糖又は糖アルコール類は医薬品や特定保健用食品の添加物としても広く用いられている。賦形剤、結合剤として、D−マンニトール、デキストリン、シクロデキストリンなど、中でもシクロデキストリンは包摂剤として様々な用途が広がっている。溶解補助剤としては、D−マンニトールなど、等張化剤としては、例えばブドウ糖、D−ソルビトール、グリセロール、D−マンニトールなどが挙げられる。
これらを内服した場合、共通の副作用として、下痢、膨満感などの消化器症状がある。難消化性の糖又は糖アルコールは、消化管内で消化酵素により消化、吸収されないため、浸透圧勾配を生じ、瀉下作用を発現する。その結果、摂取後2〜6時間で、軟便、下痢症状が発現し、大量に摂取すると水様便となって、脱水状態に陥る危険性もある。また小腸で未消化の糖質が大腸内の微生物の働きで発酵し、酪酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸が生成し、酸性物質は腸粘膜を刺激して蠕動運動を亢進せしめる。また同時に生成した二酸化炭素、水素、メタンなどが腸内ガスの発生が多くなるため腹部膨満感やゴロゴロ感が強くなる(非特許文献1)。すなわち、難消化性の糖又は糖アルコールの浸透圧作用や消化管で消化されにくい性質は、望まれる効果の発現にとって有用であるが、同時に副作用そのものになるのである。糖又は糖アルコールを安全にかつ有効に服用するためには、この2つの代表的な副作用、A)浸透圧作用による下痢と、B)腸内異常発酵による胃腸症
状のどちらもを防止しなくてはならない。
A)下痢に関しては、キシリトールガム、ラクツロース、イソソルビトールなどでは、添付文書に、服用量に留意し、下痢に注意する旨の付記がなされているが、積極的に下痢の防止策を講じてはいない。デキストリン、シクロデキストリンなどを添加している医薬品などでも防止策を講じることもなく、また代替の添加剤を用いるなどの努力がなされているとは言えない。エリスリトール、キシリトールなどは風味の点で優れた甘味料であるが、エリスリトールを甘味料として添加した低カロリースポーツ飲料をスポーツ後の水分補給のため、短時間に大量に摂取したことで一過性の激しい下痢が発現し、結果的に発売中止に追い込まれた経緯がある。下痢などの消化器症状に対して、摂取を控えるという消極的な対策のみで、手をこまねいていては、これらを安全に使用することはできない。
臨床で用いられる経管又は経腸栄養剤のうち、ブドウ糖、デキストリンなど消化態栄養剤は腸管内で浸透圧が上昇しやすく、その結果高齢者などでは下痢しやすいことがよく知られている。半消化態栄養剤も同様の傾向を示す。投与される患者は自然食流動食を摂取できない重篤な症例が多いので、止瀉を図り、全身状態の維持に努めなくてはならない。
一般に、下痢の治療については‘急性下痢は原因物質を体外に排除する生体防御反応であり、無理に下痢を止める必要はない’と考えられており、‘脱水症状改善のため、水、電解質の補正を補液投与により行う’(標準消化器病学、医学書院)。‘薬剤による治療はこれらの治療と平行して行われる。急性下痢には塩酸ロペラミドが止瀉作用が強い’(消化器病学、医学書院)。また、‘治療としては・・・急性下痢の初期には下剤を用いることもあるが、一般にはタンニン、次硝酸ビスマスのような収斂剤が用いられ、細菌性下痢の疑われるものに対しては化学療法を行う。また、鎮痙薬としてロートエキスの併用、アヘン末の投与も行われ、・・・’(臨床消化器病学、南江堂)とされている。
下痢は精神的な病因でも生じうるが、通常は毒物摂取、細菌又はウイルス感染により生じ、治療の目指すところは、解毒(毒物摂取に対する)、抗菌作用(細菌などの感染に対する)、胃腸の保護、および調整(胃腸炎に対する)であり、いずれも異物を体外に排出する防御反応を助けるものか、炎症に対する対症療法を期待したものである。その間、消化器症状が軽回するまで脱水などに陥らないように体液のバランスに留意し、全身的ケアを続けなくてはならない。また、胃腸症状に対しては胃腸粘膜の保護、および調整(胃腸炎に対する)に加え、腸内微生物のバランスを整える作用を有する整腸剤を用いて、不快な症状を抑制しようとする。
本発明の対象である、糖又は糖アルコールによる下痢症状は、便秘などの本来下剤を投与する状態でないにもかかわらず、継続的に糖又は糖アルコールを摂取せざるを得ない状況が存在するために、糖類を継続投与するという特殊な状況で生じるもので、本発明の目的とするところは瀉下作用を有するものを投与しつつ、一方で止瀉を図らなくてはならないというさらに特殊なものである。加えて、甘味料は日常的に大量を摂取しなくてはならないことから、急性で重篤な下痢であっても、塩酸ロペラミドや麻薬など強力な止瀉薬を用いることは不適当で、より選択的で有効な止瀉が望まれる。
重篤な下痢の場合には脱水症状が続発し、抗利尿ホルモンのアルギニンバソプレシン(以下、AVP)が10〜15倍にも上昇することが報告されている(非特許文献2)。この事実は、乳幼児、高齢者に糖又は糖アルコールを投与するときに予期せぬ危険を招くため、特に細心の注意が必要である。
水代謝を司るものの1つとして、アルギニンバゾプレシンーアクアポリン2(arginine
vasopressin-aquaporin 2)システムが近年注目されており(非特許文献3)、消化管に
もその存在が確認されている(非特許文献4)。メニエール病患者では血漿AVP値が上昇することが報告されている(非特許文献5)。治療目的で投与された糖又は糖アルコール類の下痢により脱水状態に陥り、血漿AVP値が上昇すると、治療薬としての効果は相殺され、さらに直接的に症状の悪化を招くような危険な状態に陥らせることが判った。
消化器症状のうち、特に糖又は糖アルコールによって引き起こされる下痢は激烈で、止瀉をはかることは重要である。が、単に止瀉の実現のみを目指すのではなく、糖又は糖アルコールを投与される患者の状況、投与の目的、用途に応じて、本来の効果の発現を目指しながら、加えて服用の容易さ、服用後の全身状態にも注意を払わなくてはならない。そのためには副作用の抑制のみに目を奪われて、止瀉のために大量の薬剤を追加して服用させるのではなく、用途と状況に応じて適切な量を加えなくてはならない。
例えばメニエール病治療薬として糖アルコールを用いる場合は単味で経口投与すると、下痢に続き脱水状態に陥って、血漿AVPが上昇する。治療薬によってメニエール病の病態を作出し、直接的に症状の増悪を招くという危険な逆効果になる。したがって止瀉をはかることは必須で、何よりも優先されるべきであるから、止瀉のために添加する薬剤は大量になったとしても致し方ないと考えられる。他方、例えば甘味料の場合は止瀉効果を得ることができても、止瀉剤を大量に添加して甘味を損ねたり、摂取時に不快感があったりしてはならない。
B)腸内異常発酵による膨満感、ゴロゴロ感は、腸内微生物の一時的なアンバランスではなく、継続的かつ大量に摂取する糖又は糖アルコール類が大腸内の微生物により発酵することで継続的に発生するガスによるものであるから、通常の腸内微生物のバランスを整える整腸剤での治療効果は期待できない。
下痢も含め、消化器症状には個体差が大きいことから、その点も考慮すると、やはり必要以上の止瀉剤の大量投与は避けるべきで、少ない量で確実に止瀉し、かつ胃腸症状の軽減をはかることのできる添加剤が望ましい。
糖類はその分子の大きさや化学的、生物学的性質で消化吸収には違いがあり、消化器症状も一様ではない。例えば単糖類アルコールのエリスリトールは約90%が小腸で吸収され、代謝されることなく尿に排泄される。残りの10%が大腸に移動するが、大腸の微生物は発酵させることができず、そのまま排泄されると報告されている(非特許文献6)。人体だけなく、腸内微生物によっても代謝されないことは「ノンカロリー甘味料」として非常に好ましい(最大カロリー0.2Kcal/g)が、大量に服用した場合には未分解の糖は全体量の10%といえども重篤な下痢を引き起こすことになる。
一方で二糖類アルコールのマルチトールは小腸である程度まで消化分解、吸収され、マルチトール自体とその分解物による浸透圧勾配を生じ、下痢症状が発現する。さらに大腸で腸内微生物の発酵により分解され、酪酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸が生成し、また同時に生成した二酸化炭素、水素、メタンなどが腸内ガスとなり、腸内異常発酵による膨満感やゴロゴロ感が生じる。短鎖脂肪酸は腸粘膜を刺激して蠕動を亢進せしめるなど腸の機能に直接影響を与えるという不都合な性質を持つだけではなく、一部は腸内微生物の栄養源となり、一部は人体内に吸収され、エネルギー源として利用される(非特許文献7)。したがって「低カロリー」と称されながら、ブドウ糖4.0Kcal/gに対し、3.5Kcal/gのエネルギーを生じる(非特許文献8)ことから、低カロリーの名に値するものかどうか再度検討の余地があるところである。
少糖類の難消化性デキストリン(平均N=10)を含む飲料は「食物繊維の不足を補い、消化管内で水分を吸収することで便の嵩を増すことで軟らかくし、腸の蠕動運動を活発
にし、内容物を速やかに移動させ、便通を改善させる」とうたっている。しかし、安全性の審査に係る食品健康影響評価について意見を求められた発売元は、評価結果として「1日30gの摂取で、水様便は観察されていないが、腹痛、しぶり、腹部のグル感、膨満感、放屁が観察されたが、無処置で消失した」として、謳い文句とは異なる症状を呈したことを報告していながら、なんら対策を講じていない。
消化不良症状を評価する指標としてlactulose/mannitol ratioがあるが、これは単糖類と二糖類の吸収の違いを利用したものである。すなわち、消化器官の細胞はポリオールを能動輸送できず、受動輸送により体内に吸収される。単糖類は粘膜細胞を容易に通過し拡散するが、マルチトール、ラクツロースなど二糖類は、粘膜細胞間隙からごくわずかしか体内に吸収されない。以上のように、消化器症状改善の手だては、その糖又は糖アルコール自体の特徴と使用用途、さらにその糖又は糖アルコールの消化、吸収過程とを合わせて練られる必要がある。
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糖又は糖アルコールを、食品又は医薬品として大量に、多い場合は1日量として30g以上、場合によっては100g以上もの大量を摂取することがあり、その場合には特有の瀉下作用が程度の差はあれ生じる。また、いずれの場合にも2週間程度以上の長期間にわたり、その後も反復して経口摂取することになるため、下痢は一過性にとどまらない。そのため、脱水などが続発しやすく、安全に摂取するためには止瀉をはかることが必須となる。メニエール病治療に用いる場合には、脱水状態に陥ると、AVP上昇は必定で逆にメニエール病の病態を作出することになる危険をはらむため、確実な治療効果を期待するには止瀉作用を持つものを添加するなどしてAVP上昇を抑える工夫が必要となる。
大量投与に伴う副作用としては、下痢のほか、腹部の膨満感、ゴロゴロ感などの消化器症状が知られているが、これは糖又は糖アルコール自体が分解され、発酵して生じるため、大量かつ長期の投与に伴う消化器症状の改善は、通常用いられる腸内微生物のバランスを調整する整腸剤では期待できない。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、糖又は糖アルコールを有効成分としながらA)その固有の浸透圧作用による瀉下作用を抑制又は防止し、B)腸内異常発酵による膨満感、ゴロゴロ感などの不快な消化器症状を防止する薬剤を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究の結果、単糖類、少糖類(N=2〜30)、又はその糖アルコールと共に、一定範囲量の多糖類を1種又は2種以上摂取することによって、下痢、腹部膨満感、ゴロゴロ感などの消化器症状を防止することが可能であることを見出して本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)1種または2種以上の多糖類を有効成分とする、単糖類、少糖類、又はその糖アルコールを摂取することにより生じる消化器症状の防止剤
(2)消化器症状が、下痢及び/又は腸内異常発酵による胃腸症状である、(1)に記載の消化器症状の防止剤。
(3)消化器症状が、腹部膨満感又はゴロゴロ感である、(1)に記載の消化器症状の防止剤。
(4)多糖類の総含有量が、単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコールによる生じる消化器症状を防止するのに有効な量である(1)ないし(3)のいずれか1に記載の消化器症状の防止剤。
(5)多糖類の総含有量が、単糖類、少糖類、又はその糖アルコールに対し、2〜30重量%である、(1)ないし(3)のいずれか1に記載の消化器症状の防止剤。
(6)多糖類の総含有量が、単糖類、少糖類、又はその糖アルコールに対し、2〜20重量%である、(1)ないし(3)のいずれか1に記載の消化器症状の防止剤。
(7)多糖類の総含有量が、単糖類、少糖類、又はその糖アルコールに対し、2〜15重量%である、(1)ないし(3)のいずれか1に記載の消化器症状防止剤。
(8)多糖類の総含有量が、単糖類、少糖類、又はその糖アルコールに対し、2〜10重量%である、(1)ないし(3)のいずれか1に記載の消化器症状防止剤。
(9)単糖類がキシロース、少糖類がラクツロース、デキストリン又はシクロデキストリン、その糖アルコールがグリセロール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、イソソルビトール、マンニトール、ラクチトール又はマルチトールである(1)ないし(8)のいずれか1に記載の消化器症状の防止剤。
(10)多糖類がキサンタンガム、グァーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガム、ペクチン、アルジネートナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天、及びカラギーナンである、(1)ないし(9)のいずれか1に記載の消化器症状の防止剤。
(11)2種の多糖類を有効成分とする、(1)ないし(10)のいずれか1に記載の消化器症状の防止剤。
(12)2種の多糖類の一方は、キサンタンガム、グァーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、及びタラガムよりなる群から選ばれる多糖類であり、他方の多糖類は、ペクチン、アルジネートナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天、及びカラギーナンよりなる群から選ばれる1種の多糖類である、(11)に記載の消化器症状の防止剤。
(13)2種の多糖類がキサンタンガム、グァーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、及びタラガムよりなる群から選ばれる多糖類である、(11)に記載の消化器症状の防止剤。
(14)2種の多糖類が、ペクチン、アルジネートナトリウム、寒天、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びカラギーナンよりなる群から選ばれる多糖類である、(11)に記載の消化器症状の防止剤。
(15)3種の多糖類を有効成分とする、(1)ないし(10)のいずれか1に記載の消化器症状の防止剤。
(16)3種の多糖類が、キサンタンガム、グァーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、及びタラガムよりなる群から選ばれる2種の多糖類、及びペクチン、アルジネートナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース
、寒天、及びカラギーナンよりなる群から選ばれる1種の多糖類である、(15)に記載の消化器症状の防止剤。
(17)3種の多糖類が、キサンタンガム、グァーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、及びタラガムよりなる群から選ばれる1種の多糖類、及びペクチン、アルジネートナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天、及びカラギーナンよりなる群から選ばれる2種の多糖類である、(15)に記載の消化器症状の防止剤。
本発明の下痢及び不快な胃腸症状の防止剤は、単糖類、少糖類(N=2〜30)、又はその糖アルコール(以下、「糖アルコール類」ということもある。糖アルコールは単独でも2種以上でもよい。)と共に、多糖類を一定範囲量で摂取することにより、糖アルコール類に起因する、A)下痢、及び/または、B)腸内異常発酵による胃腸症状などの消化器症状を主訴とする副作用を軽減ないし消失させることができ、重度の下痢に続発する脱水症状の予防に有用である。多糖類の性質の違いを利用して、2種以上を適切な割合で配合して投与することで、より少量で的確な効果を発現することが出来る。
なお、少糖類又はその糖アルコールのうち二糖類又はその糖アルコールは、1種の多糖類単独では、単糖類又はその糖アルコールに用いた量の2倍以上の大量を用いなくては十分な止瀉効果を発現せず、多糖類を増量することにより、むしろB)の不快な消化器症状は重篤になる傾向が認められた。このことから、各々の多糖類の特質を考慮し、2種以上を組み合わせることで、少ない添加量で、A)の止瀉も図りつつ、B)の症状の発現も抑制できることが判った。
また、デキストリン、HSDなどは、瀉下作用はさほど強力ではないが、経口投与すると、便排泄量が減り、中には便通が止って、B)の不快な消化器症状は重篤なものとなった。多糖類を添加することにより、通常の便排泄量となり、かつ規則的な便通が確認できた。単糖類、少糖類又はその糖アルコールにデキストリンなどを添加物として配合するとその瀉下作用は増悪するが、多糖類を添加することで止瀉と同時に消化器症状の軽減も図ることが出来た。
本発明において、消化器症状の防止とは、上記A)またはB)の消化器症状の抑制、防止、改善または軽回など、症状軽減の全てを意味する。
類又はその糖アルコールとしては、グリセロール、エリスリトール、キシリトール、キシロース、マンニトール、ソルビトール、イソソルビトール、ラクツロース、マルチトール、ラクチトール、デキストリン、シクロデキストリンなどの単糖類、少糖類、又はその糖アルコールが挙げられる。本発明において、少糖類とは二糖類ないし三十糖類の糖類をいう。
多糖類としては、キサンタンガム、グァーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガム、ペクチン、アルジネートナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天、カラギーナンなどが挙げられる。分子量が1万以上の多糖類が好ましく、2万以上がより好ましい。さらに、分子量が5万以上のものが強い止瀉作用を持つ傾向が認められた。これらを単独でも複数種組み合わせてもよい。
多糖類の配合量は、糖アルコール類による生じる消化器症状を防止するのに有効な量であって、糖アルコールに対し、2〜30重量%が適当であり、好ましくは2〜20重量%、より好ましくは2〜15重量%、さらに好ましくは2〜10重量%、また下限値を3重
量%、5重量%として、3〜20重量%、5〜20重量%などとすることもできる。
多糖類を糖アルコール類と組み合わせて、糖アルコール類の消化器症状を防止しようとすることは、多糖類自体が消化管内で分解され単糖類、少糖類またはそのアルコール類となることから、配合量や投与形態に注意が必要であると考えられる。多糖類を安易に大量に加えることは、糖アルコール類を大量に投与するのと同じことを意味しており、糖アルコール類の投与量から想定された作用よりはるかに強い作用が現れたり、思いもよらぬ糖アルコール類の激しい副作用が発現したりするおそれがあり、さらに多糖類自体に起因する副作用も発現する危険性をはらんでいるからである。
たとえ難消化性の多糖類といえども、小腸である程度まで酵素により分解され、ブロック構造の単糖類となって吸収される。残りは糖アルコール類と同様の経過をたどり、大腸で腸内微生物によって発酵する。発酵の産物として、酪酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸が生成し、酸性物質が腸粘膜を刺激して蠕動運動を亢進させ、また生成した二酸化炭素、水素、メタンなどが腸内ガスとなり、腹部の膨満感、ゴロゴロ感を増悪させるなどして、止瀉を目指して添加した多糖類によってさらに新たな胃腸症状を発生させる危険がある。
これらの成分は腸の機能に直接影響を与えるだけではなく、一部は吸収され、エネルギー源として利用される。例えばグルコマンナンでは84〜99%、ペクチンは70〜90%、寒天は21〜28%、セルロースの粉末では23%が腸内微生物によって分解される。難消化性多糖類については消化率が正しく算定出来ないため、その利用エネルギーは明らかにされていないが、分解されることでカロリーが多かれ少なかれ発生することは明らかで、例えば寒天、キサンタンガム、アルジネートナトリウム、セルロースなどは0Kcal/gであるが、一方でグァーガム、グァーガム酵素分解物、難消化性でんぷんは2.0Kcal/gとされている。低カロリーの甘味料の下痢を止めるため、安易に多糖類を大量に添加していては低カロリー甘味料の本来の目的を果たせないどころか、大量の糖を摂取することになるため、逆効果である。
さらに、多糖類は栄養素を吸着し、吸収を阻害するため、多糖類の過剰摂取は微量栄養素の無機質やビタミンの吸収率を低下させる。特に、鉄・銅・亜鉛などは影響を受けやすく、実際に全粒穀物を食べている中近東地域の人には亜鉛欠乏症が報告されている。大人の場合は極端に過度の摂取をしない限り問題はないが、幼児や成長期の子供あるいは高齢者で、もともとの鉄・カルシウム・亜鉛などの無機質の摂取が必要量より少なくなりがちな場合には、大量摂取は細心の注意が必要である。
厚生労働省も特定保健用食品(規格基準型)の一つとして、多糖類、オリゴ糖の一日摂取目安量をもうけている。例えば難消化性デキストリン3g〜8g、ポリデキストロース7g〜8g、グァーガム分解物5g〜12gで、他の食品からの重複摂取に注意を促すと同時に、「摂り過ぎあるいは体質・体調によりおなかがゆるくなる」ことを「摂取上の注意事項」として付記している。重複摂取する危険性があることから、添加量は出来る限り少量であることが好ましい。例えば、メニエール病の治療に糖アルコールを用いる場合、一日量が約60gとなる。また、高アンモニア血症治療薬のラクツロースは一日量18〜36g、甘味料は一日平均消費量が50gと言われていることからすると、添加量は20重量%以下にとどめるのが好ましい。
また、甘味料に添加する場合には多糖類を大量に添加すると添加物自体の味が強くなり、甘味が損なわれたり、甘味が殆ど感じられなくなったりして甘味料として本来の意味をなさないものとなる。また多糖類によっては大量の添加により、粘度が増し、ネバネバ感で服用が不快なものとなる。
したがって、多糖類は吟味されたものを選択し、かつ添加比率は糖アルコール類自体の特徴と使用目的に加え、多糖類自体の特徴を考え合わせ、作用発現に必要最小限でなくてはならない。
水溶性多糖類と非水溶性多糖類のどちらが適しているのか、また分子量、構造はどのようなものが好ましいかは、用途に応じて選択できる。一般に非水溶性のものは便を柔らかくし、消化管を通過する時間を短くすると考えられており、水溶性のものは非水溶性のものより、さらに水を吸収して膨らむうえ、保水力が優れているため、便量や消化管通過時間を正しく保つ効果が強いと考えられている。これまでの報告から、非水溶性多糖類は消化管を通過する時間を短くし、下痢が生じやすいと考えられてきたが、本発明では、予想に反して親水性の低い多糖類も親水性の高い多糖類と同等の効果を発現することが判った(実施例6−2)。
さらに消化態栄養剤は浸透圧性下痢をしやすいという事実にも注意が必要である。すなわち、臨床で用いられる経管又は経腸栄養剤のうち、ブドウ糖、デキストリンなど消化態栄養剤は腸管内の浸透圧を上昇させ、その結果浸透圧性下痢をしやすいことはよく知られている。半消化態栄養剤は、消化態栄養剤ほどではないが、同様の傾向を示す。多糖類を投与する場合でも、腸内で消化分解されることを考えれば、十分な注意を要する点である。
分子量の大きい多糖類(例えばキサンタンガムの分子量は約200万もしくは1200万から5000万)の方が少量で強力な止瀉作用を示す傾向を認めた。配合量が少なくて済むため、服用が容易で摂取の際の不都合が少ない。
多糖類のうち、キサンタンガムに代表されるグループには、グァーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガムなどがあるが、これらは粘度の高いものほど止瀉作用が高い傾向が認められた。しかし、摂取して3〜5時間に便の量が約2分の1〜3分の1に減少し、形態も不整で大きさも小さくなる傾向があり、視診で腹部の膨満感、触診でガスの発生が認められ、ゴロゴロ感があることが推測された。ところが、これらは2種以上を組み合わせると飛躍的に粘度が増すため、止瀉作用も向上した。この現象を利用し、複数種組み合わせることで少ない添加量で、十分な止瀉効果を発現させ、同時に、排便が減るという副作用を軽減することが可能となることが判った。
ペクチンは比較的大量に添加しなくては十分な止瀉作用を現わさなかったが、整腸作用に優れており、便の量は何も投与されていない動物と同程度で、形態や性状も同じであった。大量に添加しても便の表面はより滑らかになり、排便は容易で、腹部の膨満感も認められなかった。ペクチンに代表されるグループには、アルジネートナトリウム、寒天、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カラギーナンなどがあり、粘度が高いものほど止瀉作用が強い傾向があった。
したがって、これら2つのグループから適宜選択して組み合わせ、添加することで、止瀉と同時に整腸作用をはかることも可能になり、すぐれた作用を発揮することが出来る。同じグループの中から複数種組み合わせることで添加量を少なくし、かつ優れた作用を得ることが出来る。また、組み合わせによっては流れをよくすることも可能であることも判った。
本発明の実施の態様としては、多糖類は、糖アルコール類を含有する食品・医薬品中に一緒に配合して摂取することもできるし、また、食品・医薬品中に一緒に配合しないで、それとは別途のものとして摂取することもできる。消化器症状の防止という目的の範囲内
で、適宜種々の態様が可能である。多糖類を糖アルコール類と一緒に配合する場合の製剤を得る方法の例は、以下の通りである。
まず、糖アルコール類と多糖類の規定量を混合する。次に該混合物に対し、約10〜約55重量%、好ましくは約15〜約50%の精製水を加えて、常温又は必要に応じて加熱下に練和すると、練和物はゲル化しゼリー状になる。精製水の量が10重量%より少ないと粘度が上がりすぎ、また、55重量%を超えると希薄になりすぎて良質なゲルが得られないため好ましくない。
このゲル剤を乾燥、粉砕すれば粉剤が得られる。また、上記練和物を押し出し造粒等の方法で造粒し、乾燥後製粒することによって顆粒剤が得られる。乾燥、粉砕、及び造粒は、慣用の方法が何れも適用できる。
製剤化に際し、必要に応じて、有効成分に加えて、医薬上許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、防腐剤、安定剤、香味・着色剤などを配合することができる。
そのほかに、本発明の目的を損なわない限り、糖アルコール類、多糖類以外の他の薬効成分、例えば制酸作用、整腸作用を有する薬物として乾燥水酸化アルミニウムゲル、天然ケイ酸アルミニウム、沈降炭酸カルシウムを適宜配合することも可能である。
以下に、実施例、比較例及び参考例を示して本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
糖アルコール類による下痢及び/又は胃腸症状と多糖類によるその防止効果を調べるための実験の組み立ては以下の通りである。実験計画をたてるに当たり、動物愛護が叫ばれる社会的事情にも配慮し、大量の動物を開腹(と殺)することは避けるよう工夫した。
[実施例1]において、経口投与後6時間目(二糖類は24時間目)まで1時間毎に便の性状を観察し、糖アルコール類による下痢の発現の有無、そのピークと増悪過程、回復過程を知り、次に視診触診により腸内のガスの発生、膨満感などを評価、確認した。それにより多糖類の適切な添加量とその効果発現状態を見て、多糖類の消化器症状の改善効果を評価した。
[実施例2]においては、経口投与後、各々設定した時間経過後に開腹して、消化器周辺を観察し、消化管に穿刺し、ガスの発生を調べ、その後、切開して管内を精査し、消化管内の便の形成状況、便の配列状態を評価し、より詳細に検討を加えることで、糖アルコール類摂取後に感じる膨満感、ゴロゴロ感、ガスの発生状態など消化器官の不快な症状の推測に役立てた。
[実施例3]では、糖アルコール類と多糖類の組み合わせを様々に変えて、糖アルコール類の瀉下作用と多糖類添加による下痢防止効果を中心に、視診触診により膨満感、ゴロゴロ感などの消化器症状を観察、評価した。
[実施例1]〜[実施例3]の結果から、多糖類には止瀉作用の優れたものと整腸作用の優れたものがあるとわかったため、[実施例4]から[実施例11]では、多糖類の性質の違いを生かすべく複数の多糖類を組み合わせて、より少量で的確な効果を得る方法を検討した。さらに、多糖類の特質を生かして、適宜、配合物の性状を改良し、摂取又は内服しやすい材質にも改善することに成功した。
なお、糖アルコール類を投与した動物は、一度のみの利用にとどめた。
糖アルコール類による下痢と多糖類による消化器症状の防止効果を調べた。糖アルコール類のうち、4単糖であるエリスリトール(以下Eryと略すこともある)、5単糖であるキシリトール、キシロース(以下XSと略すこともある)、6単糖としてイソソルビトール、ソルビトール(各々、以下IB、SOと略すこともある)二糖類アルコールのマルチトール、その他の少糖類として、デキストリンとヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(以下、HSDと略すこともある)、多糖類としてペクチン(以下、Pec又はPと略すこともある)、キサンタンガム(以下、XGと略すこともある)及びグァーガム(以下、GGと略すこともある)を添加して、モルモットに経口投与し、投与後6時間目まで便を観察した。また、視診、腹部の手指による圧迫などによる触診により、腸内ガスの発生状況の確認も行った。マルチトール、デキストリン、HSDは投与後24時間目まで観察を行なった。
対象と方法)体重280〜320gの正常な便をしているモルモットを、11グループに分け、第1−aグループにはキシリトールのみ[比較例1]、キシリトールとXGまたはPec、第1−bグループにはキシロース(XS)のみ[比較例2]とXSとPec、第1−cグループにはEryのみ[比較例3]、第1−dグループにはEryと天然ケイ酸アルミニウムゲル、さらに炭酸カルシウムを加えたものを経口投与[比較例4,5]した。天然ケイ酸アルミニウムゲル、炭酸カルシウムは日本薬局方には制酸剤、収斂剤、止瀉剤としてあげられている典型的な薬品で、添加量は通常臨床で用いられる量から始め、2〜4倍まで次第に増量しながら効果を観察した。
第1−eグループにはEryと多糖類としてPecを経口投与した。さらに第1−fグループには、天然ケイ酸アルミニウムゲル及び/または炭酸カルシウムを通常量添加して、相乗効果があるかどうかを調べた。
第1−gグループにはIBのみ[比較例6]、IBにXGまたはPecを加えたものを経口投与した。第1−hグループにはSOのみ[比較例7]、SOにXGまたはPecを加えたものを経口投与した。
第1−iグループには二糖類のマルチトールのみ[比較例8]、マルチトールとXGまたはGGを加えたものを経口投与した。第1−jグループには少糖類のデキストリン(N=15ないし25、平均19)のみ[比較例9]、デキストリンとXGまたはPecを加えたものを経口投与した。第1−kグループには少糖類のヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HSD)のみ[比較例10]、HSDとXGまたはPecを加えたものを経口投与した。
投与する糖アルコール類と多糖類の量は表1、表2、表3、表4、表5、表6に示すとおりである。投与薬剤は蒸留水に溶解させ、いずれの場合も水溶液の1回の投与量は8ml/kgとなるようにした。
便の固さ、形状を観察する際の判定基準と評価点を表7に示す。便の観察は投与後6時間(又は24時間)行い、もっとも症状が重篤になった時点の便の固さと形状をその動物の糖アルコールによる症状として判定し、その結果を表1、表2、表3、表4、表5、表6に記した。
蒸留水を3日以上投与した群の便の固さ及び性状を「正常便」:評価点3として、表1の1に示す基準により、「やや軟便」:評価点2、「軟便」:評価点1、「泥状便」:評価点0とした。なお、モルモットの場合は飼料の形状から水様便はない。泥状便はヒトでは水様便に当たり、モルモットの軟便はヒトでは泥状便と軟便を含むものに相当する。
開腹による消化器内部の詳細な観察と、体外に排出された便の観察から、下痢を含め消化器症状を評価、判定するには、排泄された便の固さのみに拘泥していては、糖アルコール類の瀉下作用、消化器症状の改善又は防止効果の評価はできないことがわかった。すなわち、直腸部分にわずか2〜3cmでも便が形成されていれば、体外に排出された便は軟便程度の固さを有していて、止瀉に成功したと判定することになってしまうが、実際には腸管内は、形のない泥状便で満たされ、泥状便は大量の水分を含んでいて、腹部の圧は高く、膨満感は明らかであったことである。また、便が腸管内で形成されていた動物では、間隔が大きく空いた部分には腸管へ穿刺することによりガスの発生が確認できたものがあった。ガスの発生は、膨満感を相乗的に増悪させるものであろうと思われ、不快な症状があったと推定された。
したがって、本発明の実施例、比較例及び参考例においては、止瀉を判定するには、便の固さだけではなく、量や形、大きさ、表面の滑らかさ等を評価し、腹部の視診、手指による触診で、腹部の膨満感やガスの発生、ガスの移動、さらに下腹部に圧を加えることで容易に排便するかどうかなど、詳細に検討し、評価した。
1−a)キシリトール投与の場合
投与前、正常な便をしているモルモット50匹を、5匹ずつ10群に分け、表1に示すようにキシリトール等の水溶液を経口投与した。
ア)キシリトールのみを投与した場合の投与量による影響[比較例1]
キシリトール1.4g/kgでは下痢は起きなかったが、2.1g/kg投与群では3時間後には手指で押さえると便が容易に変形する程度の軟便の動物が1匹いた。2.8g/kgでは投与後1時間では異常は認められなかったが、投与後2時間ですべての動物に程度の差はあったが、明らかな下痢症状があらわれた。投与後3〜4時間で全動物の便が軟化し、うち2匹が泥状便となり、症状がもっとも重篤になったが、6時間後にはほぼ正常な便に戻った。下痢が続く間、腹部には軽度ないし中等度の膨満が触れたが、ガスの移動は認められなかった。
イ)キシリトールにキサンタンガム(XG)を添加
キシリトール2.8g/kgに、XGを0.09g/kg、0.12g/kg添加し経口投与したところ、2時間目からわずかずつ便が軟化し始め、3〜4時間後に明らかな症状が発現し、ピークに達した。その時点の便の評価を表1に示した。便はXGの量が増加するにつれ正常な便をするものが多くなり、0.18g/kgでは観察時間中に殆どの動物が正常便となり、便の固さには比較例1と比べ、有意差が認められた(P<0.01、Mann-Whitney 検定)。3群とも便量が減り、視診により腹部の特に異常な膨満は認められなかったが、触診でガスの発生と移動が触れた。
ウ)キシリトールにペクチン(Pec)を添加
キシリトール2.8g/kgに、各々Pecを0.2g/kg、0.3g/kg添加し経口投与すると、0.2g/kgでは、便は2時間目から軟化傾向を示しはじめ、3〜4時間目に3匹が軟便または泥状便となって、便の固さに比較例1と比べ、有意差はなかった。0.3g/kgで軟便は認められず、便の固さには有意差が認められた(P<0.01、Mann-Whitney 検定)。視診により両群とも腹部の異常な膨満は認められなかった。触診でもガスの発生と移動などの異常は特に認められなかった。
1−b)キシロース(XS)投与の場合
正常な便をしているモルモット16匹を表1に示すように3群に分けた。XS2.8g
/kgのみを投与した5匹(比較例2)のうち4匹は泥状便ないし軟便、XSにXG0.2g/kgを添加した群では、やや軟らかい便の1匹を除いて正常便で、軟便は見られず、便の固さには比較例2と比べ有意差が認められた(P<0.01、Mann-Whitney 検定)。下痢が続く間、腹部には軽度ないし中等度の膨満が触れ、ガスの移動をわずかであるが触れた。Pec0.3g/kgを添加した群では、全て正常便で、便の固さには比較例2と比べ有意差が認められた(P<0.01、Mann-Whitney 検定)。
正常な便をしているモルモット35匹を、5匹ずつ7群に分け、表2に示すようにEry溶液及び添加物を経口投与した。
1−c)Eryのみ2.8g/kgを投与した場合[比較例3]
2時間後には軟便の動物が多くなり、3時間後には全動物が泥状便となり、6時間後にも3匹は泥状便が続いていた。下痢が続く間、腹部には軽度ないし中等度の膨満が触れたが、ガスの移動は認められなかった。
1−d)Eryに従来の胃腸薬のみを添加〔比較例4,5〕
表2に示すようにEry2.8g/kgに天然ケイ酸アルミニウム0.17g/kg及び/または炭酸カルシウム50mg/kgを加えた場合のいずれも殆どの動物が、3時間目には泥状便または軟便で、6時間目も改善が見られず、これらの胃腸薬による下痢の防止効果は認められなかった。さらに、添加量を2ないし4倍に増やしたが、80%が泥状又は軟便であったことから、増量しても下痢を防止することはなく、次の1−eグループの多糖類添加群と比べ、下痢の防止効果は全く不十分なものであることが示された。下痢が続く間、腹部には軽度ないし中等度の膨満が触れたが、ガスの移動は認められなかった。
1−e)Eryにキサンタンガム(XG)またはペクチン(Pec)を添加
ア)Eryにペクチン(Pec)を添加
Ery2.8g/kgにPecを各々0.1g/kg、0.3g/kg、0.5g/kg、1.0g/kg、1.5g/kg添加し、経口投与した。0.5g添加すると便は過半数が正常になり、1.5g/kg添加すると、便は正常よりむしろやや固くなることが判った。0.5g/kg以上を投与した3群で有意な止瀉効果が認められた(P<0.01、Mann-Whitney 検定)。0.1g/kg、0.3g/kg投与群では、下痢の悪化と主に、触診で腹部の膨隆がわずかに感じられたが、ガスの移動は感じられなかった。1.0g/kg、1.5g/kg投与した群では通常よりいくらか便が固くなる傾向があったが、腹部の異常は感じられず、腹部に圧を加えても動物は特に苦しがる様子は見られなかった。腸内のガスの移動も感じられず、不快な消化器症状を発生させることなく、下痢を防止できたことが判った。
消化器症状の防止には、多糖類の添加が必須であると判った。
イ)Eryにキサンタンガム(XG)を添加
Ery2.8g/kgに、各々XGを0.05g/kg、0.10g/kg、0.15g/kg添加し経口投与した。XG0.05g/kgの群では、2時間目からわずかずつ便が軟化し始め、3〜4時間後に明らかな症状が発現し、ピークに達した。その時点の便の評価を表3に示した。便はXGの量が増加するにつれ正常な便をするものが多くなり、0.10g/kgでは観察時間中に軟便となる動物はなく、0.15g/kgでも4匹が正常便で、観察時間中に軟便は認められず、いずれの群も便の固さには比較例3と比べ、有意差が認められた(P<0.01、Mann-Whitney 検定)。3群とも便量が減り、視診により腹部の特に異常な膨満は認められなかったが、触診でガスの発生と移動が触れた。
1−f)Eryにペクチン(Pec)、従来の胃腸薬を添加
表3に示すようにEry2.8g/kgにPec0.5g/kgさらに天然ケイ酸アルミニウム0.17g/kgと炭酸カルシウム50mg/kgを加えた場合、Pec0.5g/kgさらに天然ケイ酸アルミニウム0.17g/kgを加えた場合のいずれも殆どの動物が正常な便であった。下痢が続く間、腹部には軽度ないし中等度の膨満が触れたが、ガスの移動は認められなかった。1−d)で、既に天然ケイ酸アルミニウム及び/または炭酸カルシウムを添加しても止瀉効果はないと判ったが、1−f)でPecと併用した場合には、相乗効果が認められることもなく、また、Pecの作用を相殺するようなこともなく、Pecの下痢防止作用に影響を与えることはないことが判った。
1−g)イソソルビトール(IB)投与の場合
IB1.4g/kgでは1匹のみがやや軟便になった。2.1g/kg投与群では3時間後には手指で押さえると便が容易に変形する程度のやや軟便の動物が2匹、軟便の動物が2匹となった。2.8g/kg([比較例6])では投与後1時間では異常は認められなかったが、投与後2時間で大部分の動物に下痢症状が現れ始め、投与後3〜4時間で症状が重篤になったが、6時間後にはほぼ正常な便に戻った。IBは臨床で投与された場合にも、比較的下痢など胃腸症状を生じにくい糖アルコールであると言われており、実際に本実施例においてもEryと比べれば症状は軽度であると言える結果であった。
XGをIBに対し0.05g/kg(約1.8重量%)添加すると下痢は軽いものとなる。比較例6と比べ有意差はないが、正常便が7匹中5匹であるから、止瀉に成功したと言える。XGは約5.4重量%添加すると、全動物が正常便となり、下痢の防止効果はより確実なものとなった(P<0.05、Mann-Whitney検定)。
IB2.8g/kgに、Pecを0.15g/kg(約5.4重量%)経口投与した場合には、軟便は認められず、0.3g/kg(約10.7%)では経過観察中、全動物が正常便で、いずれも有意に止瀉効果が認められた(各々、P<0.05、P<0.01、Mann-Whitney検定)。
XGを約5.4重量%添加した場合、腹部の軽度膨満が認められ、便の量が3〜4時間目に減少した。Pecの場合には腹部の膨満は認められず、便の量は通常通りであった。
1−h)ソルビトール(SO)投与の場合([比較例7])
SO単味2.8g/kgでは、投与後3〜4時間目に5匹中4匹が軟便または泥状便となったが、Eryと比べれば症状は軽度であると言える結果であった。
XGをSOに対し約2.9重量%添加すると下痢は軽いものとなった。比較例7と比べ有意差はなかったが、泥状便が見られなくなった点で、一定の止瀉に成功したと言える。さらにXGを約5.4重量%添加すると、3匹が正常便となり、下痢の防止効果は確実なものとなった(P<0.05、Mann-Whitney検定)。Pecを添加した場合は、約10.7%の場合に止瀉効果が認められた(各々、P<0.05、Mann-Whitney検定)。XGを約5.4重量%添加した場合、腹部の軽度膨満が認められ、便の量が3〜4時間目に減少した。Pecの場合には腹部の膨満は認められず、便の量は通常通りであった。
1−i)マルチトール投与の場合
正常な便をしているモルモット38匹を、対照群(二糖類のアルコールであるマルチトールのみを投与:比較例8)6匹、残りの32匹を、4匹ずつ8群に分け、マルチトールに多糖類のXGまたはGGを表5のように添加して経口投与し、24時間目まで表7の評価基準に従って便の固さを観察し、下痢の発生状況とXGの改善、防止効果を調べた。消化器症状については、膨満感は腹部の視診、触診により、ゴロゴロ感は触診によりガスを発生しているかどうかで判定した。結果を表5に示した。
二糖類のマルチトールが単糖類と大きく異なる点は下痢の発現が単糖類と比して遅く、4,5時間目以降であり、ピークは約12時間続くことと、その間、腸内異常発酵が重篤であることである。比較的大量のXGまたはGGを添加すると、止瀉は図れたが、腸内異常発酵が生じるなど、経過が単糖類とは異なることから、便の固さの経時的変化(平均値)を表8に示す。
ア)マルチトールのみを投与した場合([比較例8])
二糖類のマルチトール2.8g/kgでは全ての動物で泥状便となった。下痢の経過は、単糖類又はそのアルコール類(投与後3時間目で下痢のピークに達する)と比較すると、下痢の発症はいくらか遅く、3時間目に、便が軟化し始め、4時間ですべての動物の便が軟化し、うち5匹が泥状便となった。5時間目には全6匹が泥状便となり、12時間目まで続いた。18時間目を過ぎるころから少しずつ回復傾向が認められ、24時間後には半数が正常な便に戻った。
5時間目を過ぎる頃から時間の経過とともに、腹部に圧を加えると動物は苦しむ様子が認められ、放屁があった。腹部は外部から視診でも膨満している様子が確認できた。
イ)マルチトールにキサンタンガム(XG)を添加した場合
マルチトール2.8g/kgに、各々XGを0.07g/kg、0.14g/kg、0.28g/kg、0.56g/kg、1.12g/kg添加し経口投与した。XGを0.07g/kg投与した群では多糖類による止瀉効果は殆ど認められなかった。0.14g/kg投与した群では、3時間目から便が軟化し始め、症状は増悪して5時間目には2匹が泥状便、残りの2匹が軟便となった。この状態は12時間後にも続いており、18時間後にはいくらか回復傾向が認められ、24時間後には全動物が正常便に復した。XGの下痢防止効果は認められなかった(有意差なし、Mann-Whitney 検定)。
XGを0.28g/kg投与した群では、0.14g/kg投与した群と同じく、3時間目から便が軟化するものが認められ、6時間後には正常な便をするものはなかった。うち、軟便は1匹であった、12時間後には正常な便をするものが半数になり、24時間後には全動物が正常に復した。XGによる下痢防止効果は不十分なものであった。両群とも腹部の視診により腹部の膨満、触診ではガスの発生が認められ、動物は苦しむ様子が見られた。
XGを0.56g/kg(20重量%)、1.12g/kg(40重量%)投与した両
群では、6時間後半数の動物がやや軟便となり、その後18時間目まで同様の状態が続いたが、24時間後には全動物が便の固さは正常に復した。XGによる下痢防止効果が認められた(両群ともP<0.05、Mann-Whitney 検定)が、便の量は5時間目から極端に減少し、9〜15時間の間は通常の2分の1〜3分の1以下に減少、中には排便が止まって、便の判定が困難なほどであった。また、便の形、大きさはバラツキがあった。投与後12〜14時間後には便の中にXGがそのまま排泄され始め、24時間後まで続いた。
止瀉作用は確認できたものの、腹部の膨満、ガスの発生などによる消化器症状はXG添加量の増加に比較して重篤なものとなった。腹部の膨満は視診でも顕著で、動物の活動は低下し、ケージをたたくなどの刺激に対しても殆ど反応しなかった。触診でガスの発生、軽く圧をかけることで腸管内でのガスの移動が音と共に手指に触れ、放屁があった。腹部に強く圧をかけると、動物は激しく鳴き、苦しそうな様子を示した。その苦しみ方はマルチトール単味の群、XGの少量投与群と比べ、明らかに激しかった。
ウ)マルチトールにグァーガム(GG)と添加した場合
マルチトール2.8g/kgに、GGを0.28g/kg、0.56g/kg、1.12g/kg添加し経口投与した。
GGを0.28g/kg(10重量%)投与した群では、2時間目から便が軟化するものが認められ、4時間後には軟便の1匹を除き泥状便となった。5時間目には全動物が泥状便となり、12時間目まで続いた。18時間目も、4匹が軟便であったが、24時間目には正常に復した。XGと比較し、下痢防止効果は劣っていた。腹部の視診により腹部の膨満、触診ではガスの発生、移動が認められた。
GGを0.56g/kg(20重量%)投与した群では、3時間目から便が軟化するものが認められ、5〜6時間後には正常便、やや軟便は1匹、軟便が2匹となって、下痢はピークに達した。便の大きさ、形は正常便の1匹を除いて小さく、不整で、量は少なくなった。腹部の視診により腹部の膨満、触診ではガスの発生、移動が認められた。XGを同量添加した場合と比較し、下痢防止効果は劣っていた。便の量は多く、腹部の膨満も軽かった。
GGを1.12g/kg(40重量%)投与した群では、3時間目から便が少なくなり、形も小さく、不整になった。5時間後には便がやや軟化した。半数の動物がやや軟便となり、その後18時間目まで同様の状態が続いたが、24時間後には全動物が便の固さは正常に復した。GGによる下痢防止効果が認められた(両群ともP<0.05、Mann-Whitney 検定)。消化器症状はGG添加量の増加に比例して重篤なものとなった。触診でガスの発生、軽く圧をかけることで腸管内でのガスの移動が音と共に手指に触れ、腹部に強く圧をかけると、動物は激しく鳴き、苦しそうな様子を示した。
XGを同量添加した場合と比較し、下痢防止効果は劣っていたが、便の量は通常の2分の1で、XGよりも多かった。腹部の膨満はXGと同程度であったが、触診による苦しみ方は軽かった。
1−j)デキストリン(ナカライテスク社、N=15〜25、平均19)投与の場合
正常な便をしているモルモット28匹を、対照群12匹(比較例9)にデキストリンのみを投与し、残りの16匹を、4匹ずつ4群に分け、デキストリンに多糖類のXGまたはPecを表6のように添加して経口投与し、24時間目まで表7の評価基準に従って便の固さを観察し、下痢の発生状況とXG及びPecの改善、防止効果を調べた。消化器症状については、膨満感は腹部の視診、触診により、ゴロゴロ感は触診によりガスを発生しているかどうかで判定した。結果を表6に示した。
デキストリンも二糖類と同じく、下痢の発現が単糖類と比して遅く、4〜5時間目以降であり、ピークは約12時間続いたが、下痢は二糖類と比較すると軽く、軟便の動物は2.8g/kg投与した8匹のうち1匹だけであった。
便の排泄量が、投与後2時間目から12時間目まで激減した。しかし、腸内異常発酵は二糖類のマルチトールより軽度で、触診によりガスの発生は僅かの動物に認められただけであったが、腹部に圧を加えると苦しむ様子が見られた。便の固さの経時的変化(平均値)を表9に示す。
ア)デキストリンのみを投与した場合
デキストリン1.4g/kgでは2時間目で便が軟化し始めたが、3時間目には便の排泄が止まり、判定が困難になった。2.8g/kgでも同様に便排泄が止まり、18時間目まで僅かな便の排泄しか認められなかった。下痢の発症、持続時間は二糖類とよく似たものであったが、重篤度は二糖類と比べ、軽度であった。18〜24時間後に、通常の固さの便が大量に排泄された。5時間目を過ぎる頃から時間の経過とともに、腹部に圧を加えると動物は苦しむ様子が認められ、放屁があった。腹部は外部から視診でも膨満している様子が確認できた。
イ)デキストリンにキサンタンガム(XG)を添加した場合
デキストリン2.8g/kgに、各々XGを0.1g/kg、0.3g/kg添加し経口投与した。XGを0.1g/kg投与した群では2時間目に便排泄が止まり、18時間目まで小さく形の不整な便が僅かずつ排泄した。12時間目に腹部に圧を加えることで、軟便もしくはやや軟便程度のパサパサした形のないで便が排出した。放屁があり、便の排出や大きさが不規則であることから、腸管内の便の配列はバラバラであることが推測された。XGを添加することによる止瀉効果は全く認められず、むしろ便が軟化する傾向があり、さらに便の形状が異常になり、便排出がさらに減るなど、デキストリン単味の場合より消化器症状が悪化した。0.3g/kg投与した群でも同様に、2時間目から18時間目まで便排出が殆ど止まったが、下痢の程度はデキストリン単味と同程度で、XGを添加することによる止瀉効果は認められなかった(Mann-Whitney 検定)。
両群とも腹部の視診により腹部の膨満、触診ではガスの発生が認められ、動物は苦しむ様子が見られた。両群ともおよそ20〜24時間後に、通常の固さの便が大量に排泄された
。
ウ)デキストリンにペクチン(Pec)を添加した場合
Pecを0.5g/kg、0.8g/kg投与した両群では投与後24時間継続して、通常量、または通常以上の量の便排泄が見られ、6時間ないし12時間目には便が僅かに軟化した。便の形態は一定で表面は滑らかで、両群とも腹部の視診、触診により、腹部の膨満、ガスの発生が認められなかった。
デキストリン単味では便排泄が減少するか、止まるが、Pecを添加することで便通が何も投与していない群以上に改善、排泄量も増加し、結果として腹部の違和感がなくなり、消化器症状が飛躍的に改善することが判った。混和液は粘性が比較的低く、内服もしやすい性状であった。
ペクチンを添加することによって、デキストリンによる便秘状態と腹部膨満感は一定の解消を見たが、ペクチンの添加量は17.8〜28.9重量%と大量で、添加量の削減が課題となる。
エ)ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HSD)のみを投与した場合
HSD1.4g/kgでは3時間目から18時間目まで便の排泄が減少し始め、その間、便の判定が困難であった。HSD2.8g/kgでは、さらにその傾向が強まり、18時間目まで僅かな便の排泄しか認められなかった。下痢の発症、持続時間は二糖類とよく似たものであったが、重篤度は二糖類と比べ、軽度であった。およそ24時間後に、通常の固さの便が通常より大量に排泄された。5時間目を過ぎる頃から時間の経過とともに、腹部に圧を加えると動物は苦しむ様子が認められ、放屁があった。
オ)ヒドロオキシプロピル−β−シクロデキストリン(HSD)にキサンタンガム(XG)またはペクチン(Pec)を添加した場合
HSD2.8g/kgに、XGを0.3g/kg添加し経口投与した。0.3g/kg投与した群でも同様に、2時間目から18時間目まで便排出が殆ど止まった。下痢の程度はHSD単味と同程度の軽度なものではあったが、便は軟化する傾向にあり、XGを添加することによる止瀉効果は認められなかった(Mann-Whitney 検定)。便の形状は異常になり、便排出がさらに減るなどするため、腹部の視診により腹部の膨満、触診ではガスの発生が認められ、HSD単味([比較例10])の場合より消化器症状がむしろ悪化し、動物も苦しむ様子が観察された。
Pecを0.5g/kg投与した群では投与後24時間継続して、通常量程度、または通常以上の便排泄が見られ、6時間ないし12時間目には便が僅かに軟化した。便の形態は一定で表面は滑らかで、両群とも腹部の視診、触診により、腹部の膨満、ガスの発生が認められなかった。HSD単味([比較例7])では便排泄が減少するが、Pecを添加することで何も投与していない群と同程度に、便通が改善、量も増加し、結果として腹部の違和感がなくなり、消化器症状が軽回することが判った。しかしながら、ペクチンの添加量は17.8重量%と大量で、添加量の削減が課題となる。
以上の結果から、糖アルコール類摂取により下痢症状が生じること、この下痢は単糖類とそのアルコール類では、投与後3〜4時間でピークに達するが、6時間目にはいくらか回復傾向を示すこと、従来の制酸作用、整腸作用を有する胃腸薬だけでは殆ど効果が認められず、多糖類を添加することで初めて、糖アルコール類の瀉下作用が軽減されることが判った。瀉下作用が小さいと言われているIBの場合XGを約1.8%添加することである程度の下痢防止効果が現れ、約5.4%添加することで効果は確実となった。Pecは約7.1%添加することで下痢は防止された。Eryの場合はXGを約3.6%、Pecを17.
9%添加すると下痢は確実に防止できた。糖アルコール類にXGまたはPecを適切な量だけ添加することで、止瀉効果を発揮することを確認したが、XGがより少ない量で止瀉効果を発揮する一方で、腹部の膨満感が認められ、Pecは腹部の膨満感は殆ど認められず、排便は規則的であった。このことから、2種類以上の多糖類を適宜組み合わせることで、少量で、各々の特徴をさらに効果的に発現させることが出来る可能性を見出し、以下の[実施例4]ないし[実施例9]を行った。
糖アルコール類に下痢防止効果発現に十分な量の多糖類を添加し、さらに制酸作用、整腸作用を有する薬物を加えることで、下痢の防止効果はいくらか確実になる傾向も認められはしたが、相乗効果は明らかなものではなく、また従来の胃腸薬は、多糖類の下痢防止効果を相殺することもないことが判った。
二糖類とそのアルコール類による下痢は4〜6時間でピークに達し、18時間目まで長時間続く。その間腸内でガスの発生が認められ、腹部の膨満感、ゴロゴロ感が単糖類より著明であった。この消化器症状には、単糖類とそのアルコール類と同様の方法では十分な抑制、防止効果を得ることが出来なかった。
二糖類であるマルチトールに、XGを単糖類で止瀉効果を発現する量(1.8〜3.6重量%)を添加した群では止瀉効果はなく、倍量の10重量%でも十分な止瀉効果は認められなかった。XGを20重量%または40重量%まで増量して、投与すると止瀉効果は有意に認められるようになったが、腹部の膨満感はXGの添加量に比例して次第に増悪し、腹部の不快な症状である膨満感、ゴロゴロ感はマルチトール単味の場合より重篤であった。
この理由は、二糖類の消化吸収過程にあると思われる。消化器官の細胞はポリオールを能動輸送できず、受動輸送により体内に吸収されるため、ごく僅かしか吸収されない。マルチトールは、小腸で一部は分解されるが、分解・吸収されなかった残りのマルチトールは大腸内の微生物フローラによって発酵し、揮発性脂肪酸を生成するが、これに加えて、多糖類も同様の消化吸収過程をたどり、消化器症状を増悪させたものと思われる。
二糖類の消化器症状の軽減には多糖類は単糖類の数倍もの大量を添加しなくては効果を現わさないこと、大量の投与はかえって症状を増悪させるおそれがあることが判った。この結果を踏まえ、二糖類に2種類の多糖類を添加して、投与量を減しても効果が認められる新たな投与法を考案し、[実施例10]を行い、十分な効果を得た。
デキストリン、シクロデキストリンなどは一般に便を軟化させ便通を改善するとされているが、本実施例では、便通が止まることが特徴的であった。この結果は、難溶性デキストリン(平均、N=10)を配合した飲料の安全性の審査に係る食品健康影響評価について厚生労働省に意見を求められ、「デキストリン30g/日の摂取で、水様便は観察されていないが、腹痛、しぶり、腹部のグル感、膨満感、放屁が観察された」と回答(平成16年)した発売元の報告とほぼ一致した。
デキストリン、シクロデキストリンの投与では、投与後2時間目から18〜24時間目まで便排泄量が激減したが、マルチトールで見られたような大量のガスの発生は触診によって認められなかったため、腹部膨満感は比較的軽度であったものと思われる。止瀉効果に優れるXGを添加することでは、この症状は改善せず、整腸作用に優れるPecを添加することで便排泄量も増加し、消化器症状の著明な改善を見た([実施例1−j]、[実施例1−k])。さらに、2種類の多糖類を添加して、より効果的に消化器症状の軽回させることに成功した([実施例11])。
糖アルコール類にデキストリンまたはHSDを配合すると、糖アルコールによる下痢はやや悪化傾向を示し、便排泄量が減少した。さらにペクチンを添加すると、ほぼ完全な止瀉を図ると同時に、便通と便の排泄量が通常に復し、消化器症状が改善した([実施例12])。
糖アルコール類は不快な胃腸症状を生じるが、排出される便の性状を観察しているだけでは、胃腸症状の詳細は判定できない部分もある。そこで、以下のとおり4系列の試験を行って、糖アルコールによる胃腸症状と、多糖類によるその軽減効果、下痢防止効果を詳細に評価するため、灌流固定後、または断頭後に開腹して消化器官、消化管内の便の性状を観察した。第2−1グループ(第1−6群)60匹、第2―2グループ(第7−12群)50匹、第2−3グループ30匹、第2−4グループ20匹の4グループに分け、第2−1グループには、糖アルコール類としてEryのみを投与[比較例11]し、設定した時間経過後にEryによる下痢及び/又は胃腸症状の経時的変化を観察した。
第2−2グループはさらに4グループに分け、第2−2−aグループにはEryに多糖類としてペクチン(Pec)を、添加量を漸増しながら加えた薬剤を経口投与し、第2−1グループの結果から、糖アルコール摂取による下痢のピークと判明した3時間後に、開腹し、便の形成状態と消化管内の状態を観察した。第2−2−bグループはEryにPec0.5g/kg添加し、動物は設定した時間まで、便の性状を観察し、時間経過後、開腹して胃腸症状観察し、検討を加えた。第2−2−cグループはEryにPec1日量0.3g/kgまたは0.6g/kgを3回に分けて投与し、Ery投与後便の性状を観察し、3時間目に開腹して胃腸症状観察し、検討を加えた。
第2−2−dグループはEryに各々、Pec1.0g/kg、Pec1.5g/kgを添加し、6時間目まで便の性状と胃腸症状の変化を観察し、6時間目に開腹して便の形成状態と消化管内の状態を観察観察し、検討を加えた。
第2−3グループは糖アルコール類としてイソソルビトール(IB)のみを投与[比較例12]、またはIBにAlを添加し、各々設定した時間まで便の性状を観察し、時間経過後に開腹してIBによる下痢ならびに胃腸症状の経時的変化を観察し、Alの下痢防止効果の検討を加えた。
第2−4グループは糖アルコール類として5単糖のキシロース(XS)のみを投与[比較例13]、またはXSにXGを添加して、経口投与後便の性状を観察し、3時間経過後に開腹してXSによる下痢ならびに胃腸症状の経時的変化を観察し、XGの下痢防止効果の検討を加えた。
胃腸症状の検討を行うには、排泄された便の状態に加え、大腸、結腸、直腸及びその周囲の状態、便の形成状況については、1)便の固さと形、2)形のある便の形成された長さと便の間隔と配列状態の2点について特に観察し、表7の基準により判定した。結腸、直腸内で正常便の形成された長さは肛門を起点に計測し、腸管内での便の性状、便の間隔が一定かどうか等もあわせて観察した。
(1)第2−1グループ:Eryのみを投与した場合[比較例11]
モルモット60匹を各群10匹ずつ6群に分け、各群に次に示すように薬物の投与を行った。Ery水溶液は1回投与量が8ml/kgとなるように調整した。胃腸症状についての検討結果を表10に示す。なお、便の固さは灌流時のものである。
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第1群:対照群 蒸留水8ml/kg 3時間後
第2群:E1H群 Ery2.8g/kg 1時間後
第3群:E2H群 同 2時間後
第4群:E3H群 同 3時間後
第5群:E6H群 同 6時間後
第6群:E12H群 同 12時間後
ア)便の固さの判定
便の固さは灌流時点に排出された便と直腸部分の便を観察し、評価した。対照群はすべて正常便であった。E1H,E2H群は結腸付近では正常な便が形成されていたが、次第に軟便に移行していた。E3H,E6H群はすべて泥状便であった。E6H群の5匹中1匹は泥状便にわずかな軽回が認められたが、形は形成されていなかった。E12H群では全動物でほぼ正常な固さの便が形成されていた。
イ)形のある便の形成された長さと便の間隔と配列状態
対照群では55.0±8.8cmで、便の大きさは一定で、その間隔も一定であったが、E1H群では体外に排出される便は正常であったが、既に直腸近くまで一部軟便になっていて、大きさは不整、間隔も不定になっているなど不定になっており、不快な胃腸症状の発現が推定された。便の形成された長さは22.8±6.9cmであった。この便はEry投与前に形成されたものであると思われた。E2H−E6H群では、腸内はほぼ泥状便で満たされており、形の形成は0cmであった。腸管は水分の多い大量の便で膨張していたが、ガスの発生は認められなかった。投与後6時間目には10匹中4匹において、2−6cmのわずかではあるが便が形成され始め、12時間のE12H群では、ほぼ一定の形をした便が66.0±12.1cm形成されていた。便の間隔は対照群では通常約0.7〜1cmでほぼ一定であるところ、E12H群の一部の動物では8〜10cmの箇所もあり、不定であった。便の間隔が開いた箇所には、腸管内への穿刺により、ガスの発生が認められた。
以上から、Ery投与による下痢は2〜3時間で重篤なものとなり、6時間後も継続しているが、12時間後には正常に復することが判った。しかし、便の配列は不定で、下痢からの回復過程におけると思われるガスの発生などにより腹部膨満感、ゴロゴロ感などの不快な胃腸症状が一時期存在したものを推測された。
(2)第2−2グループ:Eryにペクチン(P)を添加し投与した場合
モルモット40匹を各群10匹ずつ5群に分け、各群に次に示すように薬物投与を行い、一定時間経過後に大腸、結腸、直腸の状態、特に便の形成、配列状況を観察し、腸内のガスの発生、膨満感を調べた。
[2−2−a:ペクチン(P)の添加量による効果の違いを観察する:投与後3時間目]
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第7群:E+P0.1g群 Ery2.8g/kg+P0.1g/kg 3時間後
第8群:E+P3H群 Ery2.8g/kg+P0.5g/kg 3時間後
[2−2−b:ペクチン(P)0.5g/kg添加し、投与後の経時的変化を観察する]
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第9群:E+P6H群 Ery2.8g/kg+P0.5g/kg 6時間後
第10群:E+P12H群 Ery2.8g/kg+P0.5g/kg 12時間後
[2−2−c:ペクチン(P)を1日量0.3g/kg、0.6g/kgを3回に分けて投与し、その後の経時的変化を観察する]
モルモット10匹を各群5匹ずつ2群に分け、各群に次に示すように薬物投与を行った。PはEry投与の16時間前と8時間前に1日量の3分の1ずつを投与(P懸濁液の1回量2ml/kg)し、3回目にはEryと同時に投与する。3時間後に大腸、結腸、直腸の状態、特に便の形成、配列状況を観察し、腸内のガスの発生、膨満感を調べた。なお、薬剤の1回投与量は第7群から14群までは8ml/kgとした。便の固さ、間隔の判定と便の形成された長さは、上記の比較例11も加えて評価を行った。結果は以下の表11〜15に示す。
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第11群:E+P0.3/分3群 Ery2.8g/kg+P0.3g/kg/分3 3時間後
第12群:E+P0.6/分3群 Ery2.8g/kg+P0.6g/kg/分3 3時間後
[2−2−d:ペクチン(P)の添加量による違いを観察する:投与後6時間目]
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第13群:E+P1.0g群 Ery2.8g/kg+P1.0g/kg 6時間後
第14群:E+P1.5g群 Ery2.8g/kg+P1.5g/kg 6時間後
[2−2−a:ペクチン(P)の添加量による投与後3時間後の効果の違いを観察する]
A)便とB)消化器症状の検討
結果を表11に示す。実施例2−1の第4群のE3H群(Pを添加せずEryのみ投与)は10匹すべてが泥状便であったが、第7群(E+P0.1g群:P0.1g/kg添加)では10匹中、泥状便の動物が5匹、軟便の動物が3匹で、肛門から2〜3cm程度の便の形成がみられた。残りの2匹はやや軟便で、23cm、42cmの便が形成されていたが、その間隔は不定で、間隔が10cm以上開いているところも散見された。便の固さ、間隔ともに、有意差は認められた(各々P<0.05、P<0.05、Mann-Whitney 検定)が、半数の動物に泥状便が認められる状態では下痢の問題は解決されたとは言い難い
。便の形成された長さの平均(10匹)は、7.3±13.3cmであった。
直腸部分にわずか2〜3cmでも便が形成されていれば、体外に排出された便はやや軟便程度の固さを有していると判定することになってしまうが、開腹することにより詳細に検討を加えると、実際には腸管内は、形のない泥状便で満たされ、泥状便は大量の水分を含んでいて、腹部の圧は高く、腸管は膨満していることが判った。また、便が腸管内で形成されていた2匹の動物では、間隔が大きく空いた部分には腸管を開いた際にはガスの発生が確認できなかったが、ガスの発生は想定でき、膨満感を相乗的に増悪させるものであろうと思われ、不快な症状があったと推定された。
第8群(E+P3H群:P0.5g/kg添加)では3匹が泥状便、他の7匹のうち軟便、やや軟便が各1匹、3匹は正常な固さであった。これら7匹の便の間隔はいずれも不定であった。形成された便の長さの平均(10匹)は19.2±21.7cmであった。
Pecを0.1g/kg(3.6重量%)添加した場合でさえも、十分な下痢防止効果が認められないことから、懸濁剤、乳化剤、安定化剤として通常使用される1%以下の量では十分な下痢の防止効果は期待できない。Pecを0.5g(17.9重量%)添加することによって下痢の十分な防止効果が現れることが判った(便の固さ、間隔、各々P<0.01、P<0.01、Mann-Whitney 検定)。
C)全身状態の検討
下痢防止の十分な効果を得、かつ胃腸症状の軽減を図るためには、ペクチンは約0.5g/kg添加しなくてはならないことが判ったが、さらに血漿AVP、血漿浸透圧を計測することで、全身状態及び脱水の危険性の有無を検討した。血液の採取は、投与後、3時間でギロチンを用いて断頭、その直後に採取、すぐに遠心沈殿して血漿を採取し、非特許文献5と同様の方法で、血漿AVPを測定した。
投与薬剤と検査結果を表12に示す。エリスリトール投与量はいずれも2.8g/kgで、水溶液の1回の投与量は8ml/kgとなるように調整した。
表12に示すとおり、ペクチンをEryに対し約3.6重量%配合した場合は、下痢症状が発現し、血漿AVPが高値をとるが、一方、約17.8%の配合量では、4匹中3匹は便は正常で、血漿AVPも低下する。上記の表12の欄外に示すとおり、血漿AVPの上昇は下痢の重篤度に比例する。下痢による脱水の結果であり、輸液などのケアが必要な危険な病態となり得ることを示す。それにとどまらず、この状態は、メニエール病の発作期のAVPと同値(非特許文献3)で、AVP上昇により内リンパ水腫を形成させる(非特許文献5)ことになり、浸透圧による内リンパ減荷治療効果を期待して投与しているにもかかわらず、作用を相殺してしまうという皮肉な結果となった。
[2−2−b:ペクチン(P)0.5g/kg添加し、投与後の経時的変化を観察する]
結果は表13に示す。便の固さは灌流時のものである。
2−2−aの第8群(E+P3H群:3時間後)では泥状便は3匹、正常便4匹であった。投与後6時間で灌流した第9群(E+P6H群)では、1匹が泥状便、2匹が軟便で、1匹がやや軟便で、他の6匹は正常な固さであった。実施例2−1のEryのみの第4群(E3H群:3時間後)では、10匹とも泥状便、第5群(E6H群:6時間後)では7匹が泥状便であることからすると、下痢の防止効果は顕著である(便の固さ、間隔、各々P<0.01、P<0.01、Mann-Whitney 検定)。6時間後の第9群は3時間後の第8群と比較すると有意差はなかった(Mann-Whitney 検定)が、形成された便の長さは30.8±23.6cm(10匹の平均)で明らかな回復が認められた。直腸付近では泥状便、軟便の動物も、結腸付近ではほぼ正常な便が形成されつつあったことから、下痢は一過性のものであると考えられた。第10群(E+P12H:12時間後灌流)では全動物が正常便であった。注目すべきは全動物で便の間隔が一定であることで、Eryのみの第6群(E12H群:12時間後)と比べ、有意に胃腸症状の改善が認められた(P<0.001、Mann-Whitney 検定)。
単糖又はその糖アルコール類摂取による下痢は反復投与をする場合を除いては、投与後数時間経過すると、回復傾向を示すことは日常の臨床でも、本発明の実施例においても確かめられたとおりであるが、第6群で分かるとおり、多糖類を無添加の場合には12時間経過しても便の間隔は不定で不快な胃腸症状が発生した経過が推測され、さらには継続していたと推定される。しかし、Pecを添加することで、3時間後、6時間後の結果が示すとおり、腸内のガスも認められず、ガス発生も抑制されて、不快な胃腸症状を極力抑えられており、かつ早期に正常に復しつつあることが判った。12時間後(第10群)には全ての動物が正常便であった。注目すべきは便の間隔が10匹中9匹で一定であることで、Eryのみの第6群(E12H群:12時間後)では全ての動物が便の配列が不整であることと比べ、有意に胃腸症状の改善が認められた(P<0.001、Mann-Whitney 検定)。形成された便の長さの平均は45.4±11.5cmであった。
[2−2−c:ペクチン(P)を3回に分けて投与し、Ery投与後3時間目の消化器症状]
結果は表14に示す。2−2−cの第11群(Ery+P0.3g/kg/分3群:3時間後)では泥状便は0匹、正常便2匹、やや軟便2匹、軟便1匹であった。さらに倍量のPecを投与した第12群(Ery+Pec0.6g/kg/分3群:3時間)では、全動物が正常便であった。Eryのみの第4群(E3H群)では全動物が泥状便であることからすると、下痢及び消化器症状の防止効果は顕著である(両群とも、便の固さ、間隔、各々P<0.001、P<0.001、Mann-Whitney 検定)。形成された便の長さは各々38.5±4.9cm、67.9±17.9cm(5匹の平均)であった。便の配列は不定で、間隔が2〜5cmと開いていたが、腸管を開いてもガスの存在は認められなかった。
[2−2−d:ペクチン(Pec)の添加量による違いを観察する:投与後6時間目]
実施例1の1−eグループで、便が無投与の動物より固くなる傾向が見られたことから、便秘あるいは宿便になる傾向があるかどうかを開腹して調べた。さらにそのほかの副作用の存在を腸管周辺、腸管内部を調べた。下痢の状態、消化器症状の判定は灌流時の6時間後の体外に排泄された便と直腸内にある便の状態を持って評価した。
第13群の1.0g/kg、第14群の1.5g/kgを投与した群では、便が通常よりいくらか固く、大きさはいくらか小さかったが、便の量はほぼ変わらず、便の大きさ、配列、間隔は、糖アルコール類を投与していない対照群の動物と同様か、それ以上に規則正しく、規則正しく、整然としていた。腸内のガスの発生は認められなかった。Pecを大量に添加しても、不快な消化器症状を発生させることなく、より確実に下痢を防止できるという効果が明確に認められた。
(3)第2−3グループ:イソソルビトール(IB)にアルジネートナトリウム(Al)を添加し投与した場合
正常な便をしているモルモット30匹を各群10匹ずつ3群に分け、対照群にはIBのみ、残りの2群には次に示すようにAlを添加し、薬物投与後、便の状態を観察し、設定した時間経過後に開腹して、腸内の状態、特に便の形成状況を観察した。いずれの群も、1回の投与量は4ml/kgとなるように調製した。結果を表16に示す。
群 投与薬剤 灌流(投与後)
対照群[比較例12] IB2.8g/kg 3時間後
Al添加3H群 IB2.8g/kg+Al 0.11g/kg 3時間後
Al添加6H群 IB2.8g/kg+Al 0.11g/kg 6時間後
IBのみ投与群では、投与後3時間目には正常な便の動物は2匹のみで、6匹が軟便又は泥状便となった。視診、触診では軽度の腹部の膨満が認められ、便の配列は乱れ、間隔が一定のものはいなかった。それに対し、Alを3.6重量%添加した群では3時間後の便の固さは、やや軟便がわずかに2匹で、他の8匹は正常便で、対照群と比べ下痢症状は有意に軽く(P<0.01)、視診、触診では腹部の膨満は特に認められず、消化器症状も軽度であったことが推測される(P<0.05、Mann-Whitney 検定)。6時間後には全ての動物が正常な固さの便で、その間隔は6匹が一定であり、ガスの発生などは認められず、消化器症状は対照群と比べ有意に軽かったことが判った(便の固さ、間隔、各々P<0.001、P<0.01、Mann-Whitney 検定)。
(4)第2−4グループ:キシロース(XS)にキサンタンガム(XG)を添加し投与した場合
モルモット20匹を各群10匹ずつ2群に分け、各群に次に示すように薬物投与を行い、一定時間経過後に腸内の状態、特に便の形成状況を観察した。いずれの群も、1回の投与量は8ml/kgとなるように調製した。
群 投与薬剤 灌流(投与後)
対照群[比較例13] XS2.8g/kg 3時間後
XG添加群 XS2.8g/kg+XG0.2g/kg 3時間後
結果を表17に示す。
XS2.8g/kgのみを投与した群では、投与後3時間目には正常な便の動物はなく、6匹のうち5匹は泥状便ないし軟便となった。便の配列は間隔の一定のものはいなかった。XGを約7.1重量%添加した群では3時間後の便の固さは、やや軟便がわずかに1匹で、他の5匹は正常便で、対照群と比べ止瀉作用が有意に優れていた(P<0.001、Mann-Whitney 検定)。消化器症状も軽かったことが推測されるが、有意差は認められなかった。便の排泄量の減少があった。
以上に示したように、適量の多糖類を添加することで糖アルコール類を摂取すること
により生じる下痢を防止することに成功し、不快な胃腸症状も抑制できたことから、さらに糖アルコール類と多糖類の組み合わせを変えて、消化器症状の防止効果を観察した。
糖アルコール類として、3単糖のグリセロール、4単糖のエリスリトール、6単糖のソルビトール、イソソルビトール、マンニトールに、多糖類として、アルジネートナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天及びカラギーナン、グァーガム、アラビアガムを任意に組み合わせた。表の便の固さの評価点3,2,1,0は表7の1)に示すものである。開腹して観察した事実を踏まえ、体外に排出された便の量や固さ、大きさ、及び手指による圧により体外に排出された便の大きさ、形、表面の滑らかさなどに注意して観察、評価した。
〔3−1: グリセロール(Gly)とカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕
正常な便をしているモルモット12匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、その後6時間、便を観察し、下痢症状の最も重篤な状態の評価を表18にまとめた。
Glyによる下痢は10重量%のCMC添加により有意に軽回した(P<0.01、Mann-Whitney検定)。視診触診により、腹部の膨満は認められず、消化器症状は軽かったものと推定された。
〔3−2: イソソルビトール(IB)と寒天〕
正常な便をしているモルモット7匹に、10.7重量%の寒天を添加したIB水溶液(8ml/kg)を投与した。その後6時間、便を観察し、結果を表19に示す。
IBは単味で投与しても下痢は比較的重篤にならずに済む糖アルコールであるが、約10.7重量%の寒天を添加することにより、有意に下痢を防止することができた(P<0.05、Mann-Whitney検定)
〔3−3: イソソルビトール(IB)とアルジネートナトリウム(Al)〕
正常な便をしているモルモット7匹に、10.7重量%のAlを添加したIB水溶液(8ml/kg)を投与した。その後6時間、便を観察した。
結果を表20に示す。
IBに対し、Alを10.7重量%添加することで、下痢は有意に軽回した(P<0.05、Mann-Whitney検定)。実施例2の第2−3グループで用いた量の3倍のAlを添加したが、評価上は特に大きな改善は認められなかった。
〔3−4: イソソルビトール(IB)とカラギーナン〕
正常な便をしているモルモット7匹に、10.7重量%のカラギーナンを添加したIB水溶液(8ml/kg)を投与し、その後6時間、便を観察した。結果を表21に示す。
IBによる下痢症状は約10.7重量%のカラギーナンを添加することによって改善した。IBは単味でも瀉下作用が他の糖アルコール類ほど強くないが、カラギーナン添加により、泥状便、軟便が認められなかったことは有効であったと考えられる。
〔3−5: マンニトールとカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕
正常な便をしているモルモット8匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、その後6時間、便を観察した。結果を表22に示す。
マンニトールによる下痢は、約7.1重量%のCMCの添加により、有意に軽回した(P<0.05、Mann-Whitney検定)。視診触診により、腹部の膨満は認められず、消化器症状は軽かったものと推定された。
〔3−6: ソルビトール(SO)とヒドロキシプロピルセルロース(HPC)〕
正常な便をしているモルモット10匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、その後6時間、便を観察し、その結果を表23に示した。
SOによる下痢は約5.4重量%のHPC(約1.8重量%のCMCで懸濁)を添加することで、有意に軽回した(P<0.05、Mann-Whitney検定)。非水溶性の多糖類は便を柔らかくし、消化管を通過する時間を短くし、下痢を起こしやすいと考えられているが、非水溶性のHPCも親水性の多糖類と同程度の止瀉効果が認められた。
〔3−7: ソルビトール(SO)とグァーガム(GG、Sigma社)〕
正常な便をしているモルモット10匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、その後6時間、便を観察し、その結果を表24に示した。
GGを10重量%添加して、2匹が正常便、2匹がやや軟便となり、SOによる下痢を止瀉することにほぼ成功した(P<0.05、Mann-Whitney検定)。しかし、投与後3〜4時間目で、便の量は3分の1程度に減り、視診、触診により腹部に軽度の膨満感が認められ、手指により腹部を圧迫すると、ガスの発生と移動が触れた。下腹部を圧迫すると、形が不整で、通常の2分の1以下の小さい便が少しずつ排泄された。
〔3−8: エリスリトールとアラビアガム(AG,Sigma社)〕
正常な便をしているモルモット15匹を3群に分け、次に示すように薬物投与を行い、その後6時間、便を観察し、その結果を表25に示し、[比較例3]と比較検討した。
AGを20重量%添加しても、Eryによる下痢を止瀉することは出来なかった(有意差なし)。40重量%添加すると、下痢はいくらか軽回した(P<0.01、Mann-Whitney検定)が、さらなる確実な止瀉が望まれるところである。両群とも、投与後3―4時間目で、便の量は3分の1程度に減り、視診、触診により腹部の膨満感が認められ、手指により腹部を圧迫すると、ガスの発生と移動が触れたが、泥状便がわずかに排泄されるだけで、不快な状態が推測された。
〔3−9: エリスリトール(Ery)とグァーガム(GG,Sigma社)〕
正常な便をしているモルモット15匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、その後6時間、便を観察し、その結果を表26に示し、[比較例3]と比較検討した。
GGを5重量%、10重量%添加してもEryによる下痢を止瀉することは出来なかった。20重量%添加して、2匹が正常便、2匹がやや軟便でほぼ止瀉に成功した(P<0.001、Mann-Whitney検定)。しかし、投与後3〜4時間目で、便の量は3分の1程度に減り、視診、触診により腹部の膨満感が認められ、手指により腹部を圧迫すると、ガスの発生と移動が触れた。下腹部を圧迫すると、形が不整で、通常の2分の1以下の小さい便が少しずつ排泄されるだけで、不快な状態が推測された。AGは40重量%添加して、GGは20重量%添加して、止瀉に成功したが、増量に伴って膨満感、ゴロゴロ感などが認められるようになり、不快な胃腸症状の増悪が推測された。
ガムは製品によって粘度に幅があり、本実施例にはXGに比較し、粘度の低いAG、GG(Sigma社)を使用したが、目的に合わせて粘度の高いものを使用することが可能である。また、GGに3分の1(重量比)のXGを添加することで、同濃度でも数十倍の粘度となる性質があることが判った。この低濃度で高い粘性を得られることで、添加量を大幅に削減することも可能であることが判った。
以下は、糖アルコール類に2種以上の多糖類を組み合わせた場合の実施例である([実施例4]ないし[実施例12])。
多糖類にはイ)キサンタンガム(XG)に代表されるように止瀉効果に優れたものと、ロ)ペクチン(Pec)に代表される整腸作用に優れたものがある。
〔イ)XGに代表されるグループ(以下、XGグループ)について〕
XGと同様止瀉作用に優れた多糖類としては、グァーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、及びタラガムなどがある。
実施例1の1−a、1−b、1−e、1−g、1−h、1−i、1−j、1−kグループの結果の結果から、著しく粘度の高いXGは止瀉作用に優れるが、添加量が多くなると、場合によっては排便量が一時的に約3分の1に減少し、腹部の膨満が認められるようになる。また1−i、3−7、3−8、3−9のグァーガム、アラビアガムはどちらもXGと比較すると止瀉作用は弱かったが、XGと同様に、投与後3〜4時間後に便の量が減少し、軽度の腹部膨満が認められた。
止瀉作用の強さは粘性の高さに比例する傾向が認められた。例えばXGの粘度は0.5%水溶液で約300mPa・s、1%水溶液で約1350mPa・sとなる。グァーガム、ローカストビーンガム、タラガムはいずれも、0.5%水溶液で70〜80mPa・sで、XGの約20分の1であるが、1%水溶液では約1100mPa・sとなり、濃度の上昇とともに急激に粘度が上がる。
XGは低濃度でも粘性が高い特質があり、強力な止瀉作用を示す。少量の添加で十分な効果が得られることは副作用の面からも好ましく、服用も容易である。また、消化器官では1日に20リットルもの大量の水分が摂取又は分泌され、吸収されるので、低い濃度でも高粘度のものが好ましい効果を発現すると考えられる。粘性の低いアラビアガムは40重量%添加して、グァーガムも20重量%添加して、止瀉効果が発現する(実施例3−7、3−8、3−9)事実からも、止瀉を完全にするには、これらのガムを大量に添加せざるを得ず、粘度、嵩ともに高くなり、摂取が困難になり、且つ味を損なうおそれが生じるため、このままでは食品などの添加剤として適したものとはいい難い。なお、GG、ローカストビーンガム、タラガムなどの製品は粘度に幅があり、添加の目的により適したものを選択できる。また、GGは、本実施例(3−7、3−9)で止瀉効果を発現する0.28g/8mlでは、50mg/8ml(約0.5%水溶液)と比べ、混和の直後既に粘度が高いが、懸濁後30分程度経過すると、さらに急激に粘性が増し、XGに次ぐ粘度となることが判った。この性質は添加量を決定する際に考慮を要する。多糖類の添加量を少なくしたい場合には好都合ではあるが、それでもなお、糖アルコール類の投与量は約60〜90g/日で、GG単独の場合、約12〜18gの添加が必要となる。厚生労働省は特定保健用食品(規格基準型)の一つとしてのグァーガム分解物の一日摂取目安量(5g〜12g)をもうけ、大量摂取に注意を促しているが、その上限を超える大量である。
一方で、これらは摂取して3〜5時間後には、程度の差こそあれ、便の量が約3分の1に減少し、形態も不整で大きさも小さくなる傾向があり、視診で腹部の膨満感、触診でガスの発生が認められ、ゴロゴロ感があることが推測された。添加量が増すにつれ、これらの症状は増悪する傾向にあった。
〔ロ)Pecに代表されるグループ(以下、Pecグループという)について〕
一方Pecは実施例2の2−2−aの結果から、止瀉に17.9重量%の大量を要するため、添加量が多くなる欠点がある。また、他の多糖類、オリゴ糖などを重複摂取する場合、何らかの胃腸障害が生じる可能性があるので、注意を要する。ただし、Pecはその3倍の53.6重量%もの大量を添加しても、便が添加量に比例していくらか固くなる傾向があるが、便の表面は滑らかで排泄量も通常かそれ以上で、排便に障害はなかった(実施例1−c、2−2−d)。腸管内での便の配列は規則正しく、整腸作用が優れている。視診、触診でも腹部の膨満感、ゴロゴロ感が生じず、動物も苦しがる様子がなかった。Pecと同様に、好ましい整腸作用を有し、かつ止瀉作用も発現する多糖類として、アルジネートナトリウム、寒天、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、ヒドロキシプロピルセルロースなどがある。CMCはPecとほぼ同程度の止瀉作用を示したが、Pecより粘性の高い寒天、アルジネートナトリウムはPecより優れた止瀉効果を示した。
Pecが特に著明な効果を示したのは、少糖類、特にデキストリンなどを単味で投与した時、便通が止まってしまった場合で、通常の便通を回復でき、便排泄量は通常以上になった結果、胃腸症状が著明に改善した。この効果はXGグループでは認められなかった。
多糖類を2種以上配合し、その消化器症状の改善効果を見た。
〔その1:XGグループとPecグループから1種ずつ選び、組み合わせた場合〕
XGグループは止瀉作用に優れるが、腸内発酵の増悪、便排泄量の減少などの胃腸症状が発現する。一方、Pecグループは止瀉には比較的大量を要する傾向があるが、整腸作用に優れている。各々の多糖類の特質を吟味し、異なった特徴を持つXGグループ、Pecグループから各々1種ずつの多糖類を組み合わせることで、より少量で的確な止瀉効果を発現させつつ、胃腸症状を生じずに、形の整った便を通常量排泄させることを可能にすることを見出した。
特に二糖類の症状に対して、著明な効果を発揮した。二糖類単味で投与すると、重篤な胃腸症状が長時間継続するが、この症状に対してはXGグループのみでは場合によっては逆効果で、Pecグループのみでは、大量の添加が必要となり、投与が困難である。しかし、2グループの多糖類を組み合わせることで、少量の添加であるにもかかわらず、止瀉効果と消化器症状の改善効果を同時に実現できた。
ローカストビーンガム+カラギーナンは混合比を7:3にすると、ゲル破断応力が各々単独の場合に比し、およそ数倍〜10倍になる相乗効果が知られている。XGグループ単独の場合は便を形作ることが困難になる傾向があり、便の形は小さく且つ不整になるが、この性質を生かせば、便の形態を整ったものとし、かつ性状を好ましいものにすることが出来る。
さらに、XG+CMC、GG+CMCなど、組み合わせによっては流れを良くすることも見出した。XG1:CMC3の粘度は流れのよいCMC単独添加の場合とほぼ同じ程度の低粘度の溶液で、XGの粘性は全く発現しない。これは飲料への添加物に適している。また、嚥下が困難な患者への投与に適しており、経管栄養の患者への投与にも、懸濁水溶液にして微小チューブで支障なく投与することが可能である。このように、適宜、その性質を変えて、目的に適した材質にすることも出来る。なお、服用時に流れが良い材質に変わっても、十分な止瀉効果の発現が認められたことから、消化管内ではXGなど多糖類固有の粘性が発現したと推測される。
〔その2:XGグループから2種以上組み合わせた場合〕
XGグループの多糖類は、2種以上を組み合わせると飛躍的に粘度が上昇する。本発明ではこの事実を利用して、複数種組み合わせたところ、添加量を減し、止瀉作用を向上させ、且つ腹部の膨満感、ゴロゴロ感も軽くすることができることを見出した。例えば同じ0.5%の溶液の場合、GG単味の粘度に対し、XG1:GG3の粘度は数倍〜数十倍と、飛躍的に高くなり、0.5%XG溶液とほぼ同じまたはそれ以上に粘調になることが知られている。同様の現象はAGについても見られ、XG+AG,XG+ローカストビーンガム、XG+タラガム、GG+ローカストビーンガムなどというように、複数の多糖類を組み合わせることで、粘性を飛躍的に高めることも知られている。これによって、投与量を削減することが可能である。実際に複数種組み合わせたところ、少ない添加量でも、止瀉作用を向上させることができ、添加量が少ないため腹部の膨満感、ゴロゴロ感も軽くすることを見出した。
〔その3:Pecグループから2種以上組み合わせた場合〕
Pecを単独に加えた場合の問題点は、止瀉を実現するために大量に添加しなくてはならないことである。Pecグループから2種以上を組み合わせることで各々の特質を生かしながら、添加量も比較的少量で止瀉作用を発現することを見出した。
例えば、アルジネートナトリウムとPecの混和物は、粘性は両剤の中間的な値となったが、止瀉効果は各々を単独で加えた場合と比較し、少ない添加量で十分な効果を発揮することが判った。また、Pecやアルジネートナトリウム等を糖アルコール溶液に混和するとゲル状になり、添加量が増えるにしたがってパサパサして一体感がなくなり、嚥下が困難になる場合もあるが、CMCを加えることでその問題点が解決することを見出した。すなわち、CMC+PecまたはCMC+アルジネートナトリウムの混和物は、どちらも非常に流れがよい混和物で、服用が容易となり、様々な投与法が可能となることを見出した。
〔その4:XGグループから2種とPecグループから1種選び、組み合わせた場合〕
[0217]に示したように、XGグループの多糖類は、2種以上を組み合わせると飛
躍的に粘度が増すことが出来る。添加量が少ないことから、腹部の膨満感、ゴロゴロ感を軽くすることができたが、さらに好ましい整腸作用を得るため、Pecグループから1種選び混合したところ、より少ない添加量で、滑らかな便を排泄させることが出来た。排泄量の減少はごく僅かであった。
〔その5:XGグループから1種とPecグループから2種選び、組み合わせた場合〕
多糖類の多様な特質を吟味し、止瀉作用の強いXGグループに、Pecグループから2種加えることで、少ない添加量で止瀉作用と整腸作用を図りつつ、同時に内服も容易にすることが出来た。[0216]のとおり、CMCを加えることで、XGグループの粘性は全く発現しない。これにPecグループからさらに1種以上加えることで、整腸作用を確実にし、服用時に問題になる服用量の削減と流れも良好にすることに成功した。
例えば、XG0.06g/kgにPec0.15g/kgとCMC0.2g/kgを混和することによって、止瀉と整腸作用を同時に得た。材質は流れが良く内服が容易なものとなった。嚥下の困難なケースや、微小チューブによる投与に適した形態にもなる。なお、服用時に流れが良い材質に変わっても、十分な止瀉効果の発現が認められた。
服用の容易さと携行の簡便さを目指して、添加量を少なくしつつ、減荷作用を確実に発現するため、多糖類の性質の違いを生かして、糖アルコール類に、2種以上の多糖類の組み合わせを様々に変え、添加することで、止瀉に成功するかどうかを調べた。
[実施例4]、[実施例5]、[実施例6]、[実施例7]、[実施例8]は単糖類アルコールに複数種の多糖類を配合し投与して、その効果を観察したところ、単独添加と比較し止瀉効果と同時に消化器症状が軽回することを確認した。各々が上記の[その1]、[その2]、[その3][その4][その5]に相当する。
[実施例9]は重篤な下痢を再現するため、糖アルコール類を増量して、多糖類を添加してその効果を観察し、1種の添加では十分な止瀉効果が認められなかったが、2種以上の配合でより少量で確実な止瀉及び消化器症状の改善効果を確認した。
[実施例10]は二糖類に2種の多糖類を、[実施例11]はデキストリン又はHSDに2種の多糖類を添加し、1種の添加では十分達成できなかった効果を少量の添加で実現した。
なお、[実施例12]では、糖アルコール類に結合材、溶解補助剤などとして汎用されるデキストリンまたはヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HSD)を添加し、消化器症状が悪化することを見出した。それを解決するため、さらに多糖類を配合して、各々の組み合わせによる症状の変化を観察し、Pecグループの多糖類を1種または2種添加することで消化器症状の改善が図れることを確認した。
XGグループとPecグループから1種ずつ選び、組み合わせた場合([0213]の〔その1〕の組合せ)
〔4―1: エリスリトールとXG+ペクチン(Pec)〕
正常な便をしているモルモット15匹を3群に分け、粘度が非常に高いXGと親水性の高いPecとを表27のように組みあせてEryに添加し、投与後6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
XG0.09g/kg+Pec0.2g/kgを組み合わせること(多糖類合計で10.4重量%)で、XGの止瀉作用とPecの整腸作用とを同時に発現させることが出来た。XGだけを添加した場合、止瀉作用は強力であるが、腹部膨満が認められ、便の排泄量が減るが、2種を組み合わせることで下腹部に強く圧を加えでも、動物は苦しむこともなく、表面の滑らかな便が出てきたことで、目的を達したことが確認出来た(P<0.001、Mann-Whitney検定)。
〔4−2: エリスリトールとキサンタンガム(XG)+アルジネートナトリウム(Al)〕
正常な便をしているモルモット15匹を3群に分け、粘度が非常に高いXGと親水性の高いAl(Pecより粘性が高い)とを表28のように組みあせてEryに添加し、投与後6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
XG0.06g/kgとAlを0.2g/kgとの組み合わせ(多糖類合計で9.3重量%)で、XGの止瀉作用とAlの整腸作用とを同時に発現させることが出来た(P<0.001、Mann-Whitney検定)。下痢症状は4〜4.5時間目でピークとなり、通常より約1時間遅かった。XGを0.09g/kgに増量する(多糖類合計で10.4重量%)と、3〜4時間目に少し便量が減少し、大きさと形が不揃いになる傾向か認められたが、より優れた止瀉効果が得られた。腹部膨満は認められず、下腹部に強く圧を加えても、動物は苦しむこともなかった。便の固さは4匹が正常で表面が滑らかであり、目的を達することが出来た(P<0.001、Mann-Whitney検定)。
〔4−3: エリスリトールとキサンタンガム(XG)+カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕
正常な便をしているモルモット15匹を3群に分け、粘度が非常に高いXGと親水性の高いCMC(Pecより粘性が低い)とを表29のように組みあせてEryに添加し、投与後6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
XG0.06g/kg+CMC0.2g/kgの組み合わせ(多糖類合計で9.3重量%)で、止瀉効果が認められ(P<0.01、Mann-Whitney検定)、XG0.09g/kg+CMC0.2g/kgを組み合わせる(多糖類合計で10.4重量%)ことで、XGの止瀉作用とCMCの整腸作用とを同時に発現させることが出来た(P<0.001、Mann-Whitney検定)。特に腹部膨満等も認められなかったが、便の排泄量が僅かながら減り、便の大きさと形が不揃いになった。半数以上が表面の滑らかな正常な固さの便であり、目的を達することが出来た。この合剤は、粘性が低く、流れがよいことから、経管栄養や嚥下の困難な患者の内服用に便利な材質になった。
〔4−4: エリスリトールとグァーガム(GG)+ペクチン(Pec)〕
正常な便をしているモルモット10匹を2群に分け、粘度がXGより劣るGGと親水性の高いPecとを表30のように組みあせてEryに添加し、投与後6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
GG0.09g/kg+Pec0.2g/kgの組み合わせ(多糖類合計で10.4重量%)では止瀉効果は認められなかった。GGを0.18g/kgに増量(多糖類合計で13.6重量%)して、止瀉をはかることが出来た(P<0.001、Mann-Whitney検定)。腹部膨満が認められ、便の排泄量が減り、形態も小さく不揃いであった。
実施例3−9の結果に示すとおり、GG単独の添加では止瀉を実現するには、少なくとも20重量%の添加が必要で、XGより劣るが、ガスの発生など副作用はXGと同様に認められた。Pecと組み合わせることで、単独の添加と比べ少量で止瀉を実現し、且つ胃腸症状を軽減できた。ただし、投与するゲル剤はGGの量が増えると流れが悪くなり、また嚥下の困難な患者には適しないと思われた。
〔4−5: エリスリトールとグァーガム(GG)+アルジネートナトリウム(Al)〕
正常な便をしているモルモット5匹に、粘度がXGより劣るGGと親水性の高いAlとを表31のように組みあせてEryに添加し、投与後6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
GG0.09g/kgとアルジネートナトリウム0.15g/kgを組み合わせること(多糖類合計で8.6重量%)では止瀉効果が認められた(P<0.001、Mann-Whitney検定)。腹部膨満は軽度であったが、便の排泄量が減り、形態も小さく不揃いであった。2剤を合わせることで、GGだけを添加した場合と比較し、胃腸症状を軽減できた。また、投与するゲル剤は流れが比較的良好で、飲料用や嚥下の困難な患者には適したものである。
XGグループから2種選び、組み合わせた場合([0217]の〔その2〕の組合せ)〔エリスリトールとキサンタンガム(XG)+グァーガム(GG)〕
正常な便をしているモルモット15匹を3群に分け、XGグループで粘度が非常に高いXGと比較的粘度の低いGGを表32のように組みあせてEryに添加し、投与後6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
XG0.03g/kg、GG0.06g/kgを組み合わせること(多糖類合計で3.2重量%)では十分な止瀉効果は認められず、いずれも増量して、XG0.06g/kg、GG0.09g/kgを組み合わせること(多糖類合計で5.4重量%)で、有意な止瀉効果が認められた(P<0.001、Mann-Whitney検定)。便は形が不整で、排泄量は約2分の1に減少したが、腹部膨満は認められず、下腹部に強く圧を加えでも、動物は苦しむこともなかった。
Pecグループから2種選び、組み合わせた場合([0218]の〔その3〕の組合せ)
〔6−1: エリスリトールとペクチン(Pec)+カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕
正常な便をしているモルモット15匹を3群に分け、Pecグループで整腸作用に優れるPecとCMCを表33のように組みあせてEryに添加し、投与後6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
Pec0.2g/kg、CMC0.2g/kgとを組み合わせること(多糖類合計で14.3重量%)で、十分な止瀉効果を得ることが出来た(P<0.001、Mann-Whitney検定)。便の表面は滑らかで、形は一定、排泄量は通常量又はそれ以上で、下腹部に強く圧を加えでも、動物は苦しむこともなくすぐれた整腸作用がうかがわれた。特筆すべきことは、CMCの添加により混和物の流れが良くなり、内服しやすい性状になることである。
〔6―2: エリスリトールとヒドロキシプロピルセルロース(HPC)+カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕
正常な便をしているモルモット5匹に不溶性のHPCと水に懸濁するCMCとを表34のように組みあせてEryに添加し、投与後6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
HPC0.2g/kg、CMC0.1g/kgとを組み合わせること(多糖類合計で10.7重量%)で、止瀉作用と同時に整腸作用を発現させることが出来た(P<0.001、Mann-Whitney検定)。HPCは不溶性で懸濁しにくいが、CMCを加えることで水に懸濁し、止瀉作用を発現した。非水溶性のものは便を柔らかくし、消化管を通過する時間を短くするため下痢が生じやすいとされてきたが、予想に反し止瀉作用を発現した。便の排泄量は減少することもなく、下腹部に圧を加えでも、動物は苦しむこともなかった。
XGグループから2種、Pecグループから1種選び、組み合わせた場合([0220]の〔その4〕の組合せ)
〔7−1: エリスリトールとキサンタンガム(XG)+グァーガム(GG)+カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕
正常な便をしているモルモット10匹を2群に分け、XGとGGを混和することで、粘度を飛躍的にあげ、そのことで添加量を少なくし、親水性の高いCMCとを表35のように組みあせてEryに添加し、投与後6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
XG0.02g/kg+GG0.02g/kg+CMC0.1g/kgの組み合わせ(多糖類合計で5重量%)で、止瀉効果が認められ(P<0.01、Mann-Whitney検定)、XG0.02g/kg+GG0.02g/kg+CMC0.2g/kgを組み合わせること(多糖類合計で8.6%)で、XGとGGの止瀉作用とCMCの整腸作用とを同時に発現させることが出来た(P<0.001、Mann-Whitney検定)。特に腹部膨満等も認められなかった。便の排泄量が僅かながら減り、便の大きさと形が不揃いになったが、便の表面は滑らかで、目的を達することが出来た。
XGとGGを混和することで、どちらも少量で飛躍的に粘性をあげることが出来るが、さらにCMCと混和することで、流れがよい合剤を得ることが出来る。特に飲料用添加物としてすぐれており、また、嚥下が困難な患者には便利な材質となった。
〔7−2: エリスリトールとキサンタンガム(XG)+アラビアガム(AG)+カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕
正常な便をしているモルモット10匹を2群に分け、XGとAGを混和することで、粘度を飛躍的にあげ、そのことで添加量を少なくし、親水性の高いCMCとを表36のように組みあせてEryに添加し、投与後6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
XG0.03g/kg+AG0.03g/kg+CMC0.1g/kgの組み合わせ(多糖類合計で5.7重量%)で、止瀉効果が認められ(P<0.01、Mann-Whitney検定)、XG0.05g/kg+AG0.03g/kg+CMC0.2g/kgを組み合わせること(多糖類合計で10重量%)で、XGとAGの止瀉作用とCMCの整腸作用とを同時に発現させることが出来た(P<0.001、Mann-Whitney検定)。特に腹部膨満等も認められなかった。便の排泄量が僅かながら減り、便の大きさと形が一部で不揃いになったが、便の表面が滑らかで、目的を達することが出来た。
XGとAGを混和することで、どちらも少量で飛躍的に粘性をあげることが出来るが、さらにCMCと混和することで、粘性が低く、流れがよい合剤を得ることが出来る。実施例1−6のGGより、さらに流れがよく、経管栄養や飲料の甘味料としてすぐれた材質となった。
XGグループから1種、Pecグループから2種選び、組み合わせた場合([0221]の〔その5〕の組合せ)
〔エリスリトールとキサンタンガム(XG)+ペクチン(Pec)+カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕
正常な便をしているモルモット11匹を2群に分け、XG、Pec、CMCとを表37のように組み合わせ添加して、投与後6時間目、または3時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
XG0.06g/kg+Pec0.15g/kg+CMC0.15g/kg(多糖類合計で12.9重量%、6時間観察)で、止瀉を図ることが出来た(P<0.001、Mann-Whitney検定)が、XG0.06g/kg+Pec0.15g/kg+CMC0.2g/kg(多糖類合計で14.6重量%、3時間目に灌流)では完全な止瀉を達成できた(P<0.001、Mann-Whitney検定)。
XG単独を添加した場合には投与後便の量が減少し、腸内でガス発生が認められた(実施例1)が、Pecグループから2種を加えることで、そのような問題点が生じることなく、止瀉に成功した。消化管内の観察においても、便の配列は、6匹中2匹は形成された便の間隔が4〜7cmのところもあり、僅かながらガスの発生も認められたが、全体的には、ほぼ規則的になり、胃腸症状は軽回したものと推測された(P<0.001、Mann-Whitney検定)。形成された便の長さも57.0±19.6cmで、蒸留水のみ投与の55.0± 8.8cmに近い値となった。
Pecは整腸作用に優れるが、止瀉を図るには添加量が多くなりがちであり、どうしても粘度が高くなるが、CMCを添加することで、流れがよくなり、摂取時の口当たり、舌触りなどに優れた材質になった。違和感なく摂取でき、場合によっては経管栄養に、飲料にと利用の範囲が広がる。
単糖又はその糖アルコール類に対し、多糖類を複数種組み合わせることで、多糖類一種類を添加する場合と比べ、飛躍的に止瀉効果を高め、かつ不快な胃腸症状の軽減、又は防止をはかることができた。
下痢など消化器症状は、個体差があり、糖アルコール類に過敏に反応し、重篤な下痢を引き起こす症例がある。しかし、通常の甘味料を摂取できないような何からの疾患を有する場合があり、また、日常的に摂取しなくてはならない。そこで、糖アルコール類を増量して、重篤な下痢の状態を作出し、多糖類1種だけの添加では止瀉不可能な症状を、多糖類を2種以上組み合わせることで止瀉できるかどうかを調べた。
糖アルコール類を増量した場合
〔9−1: エリスリトールを増量、キサンタンガム(XG)+ペクチン(Pec)〕
([0213]の〔その1〕の組合せ)
正常な便をしているモルモット40匹を8群に分け、Eryを25%、50%増量して、XGとPecとを表38のように組みあせて添加して6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
Eryの量を25%増量すると、下痢は重篤なものとなった。Ery2.8g/kgではPec0.5g/kg単独添加で止瀉に成功したが、Eryを増量すると、Pec0.7g/kg単独添加群においても、XG0.09g/kg+Pec0.5g/kg(多糖類合計で16.9重量%)投与群においても、止瀉効果は認められなかった。XG0.2g/kg+Pec0.5g/kgでは止瀉効果が発現した(P<0.01、Mann-Whitney検定)が、未だ不十分で、XG0.2g/kg+Pec1.2g/kg(多糖類合計で40%)で、十分な効果が見られた(P<0.001、Mann-Whitney検定)。
Eryの量を50%増量すると、さらに下痢は重篤なものとなり、Pec1.2g/kgの添加では、全く止瀉効果は発現しなかった。XG0.2g/kg+Pec1.2g/kg(多糖類合計で33.3重量%)で、一応の止瀉は図れた(P<0.001、Mann-Whitney検定)が、2匹が軟便であった。XG0.3g/kg+Pec1.5g/kg(多糖類合計で42.9%)ではほぼ完全な止瀉を達成できた(P<0.001、Mann-Whitney検定)。投与後便の量が減少することはなかった。キサンタンガムを大量に添加することで止瀉は図れるが、単独では便の量が減少し、またガスが発生して腹部の膨満感などの症状が発現し、動物が苦しむ様子を見せた。しかし、ペクチンを混和することで、胃腸症状を発現することなく止瀉がほぼ完全に達成できた。
ただし、最も大量の多糖類を含む混和物(Ery2.8g/kg+XG0.3g/kg+Pec1.5g/kg+蒸留水8ml)は、ゲル状で蒸留水を追加すると粘性の高い溶液となった。
〔9−2: エリスリトールを増量、キサンタンガム(XG)+ペクチン(Pec)+カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕([0221]の〔その5〕の組合せ)
正常な便をしているモルモット10匹を2群に分け、Eryを50%増量して、XG+Pec+CMCを表39のように組みあせて添加して、投与後6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
Eryの量を50%増量すると、XG0.2g/kg+Pec1.0g/kg+CMC0.2g/kg(多糖類合計で33.3重量%)で、止瀉を図ることが出来た(P<0.001、Mann-Whitney検定)が、XG0.3g/kg+Pec1.2g/kg+CMC0.3g/kg(多糖類合計で42.9%)ではほぼ完全な止瀉を達成できた(P<0.001、Mann-Whitney検定)。投与後便の量が減少することはなかった。XGを大量に添加することで止瀉は図れるが、単独では便の量が減少し、またガスが発生して腹部の膨満感などの症状が発現し、動物が苦しむ様子を見せた。ペクチンを混和することで、胃腸症状を発現することなく止瀉がほぼ完全に達成できたが、粘性が高くなり摂取が困難になる。
ここで特筆すべきは、CMCを添加することで、流れがよくなり、摂取時の口当たり、舌触りなどに優れた材質になることである。これは糖アルコール類に過敏な個体に適しており、違和感なく摂取でき、場合によっては経管栄養に、飲料にと利用の範囲が広がる。
最も多糖類を含む混和物(Ery2.8g/kg+Pec1.0g/kg+XG0.3g/kg+CMC0.5g/kg+蒸留水8ml)は前段落の混和物と比べ、非常に流れがよく、経管栄養や飲料の甘味料として優れたものである。
単糖又はその糖アルコール類に対し、多糖類を複数種組み合わせることで、多糖類一種類を添加する場合と比べ、飛躍的に止瀉効果を高め、かつ不快な胃腸症状の軽減、又は防止をはかることができた。
二糖類または二糖類アルコールの場合
二糖類のマルチトールは、XG単独で添加して止瀉をはかるには、大量に添加する必要があり、結果として腸内異常発酵症状を招くおそれがある。そこで、多糖類の複数種組み合わせることで、少量でかつ不快な胃腸症状を発現することなく、二糖類のマルチトールの瀉下効果を阻止できないかどうかを調べ、十分な結果を得た。
〔10−1: マルチトールとキサンタンガム(XG)+カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕([0213]の〔その1〕の組合せ)
正常な便をしているモルモット10匹を2群に分け、粘度が非常に高いXGと親水性の高いCMC(Pecより粘性が低い)とを表40のように組みあせてマルチトールに添加し、投与後12時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
マルチトールにXGのみを添加した場合(参考例1−h)、XGを0.28g/kg投与しても充分な止瀉効果は認められず、添加量の増加に比例して、腹部の膨満、ガスの発生が認められるようになった。XGを0.56g/kg(20重量%)添加すると、止瀉ははかれたが、9〜15時間の間は通常の3分の1以下に減少、中には排便が止まって、便の判定が困難なほどであった。
しかし、XGにCMCを組み合わせることで少量(10.4重量%)で止瀉に成功した(P<0.01、Mann-Whitney検定)。3〜5時間目には、便の量が減り、形の不整な便が僅かずつ排泄されたが、視診、触診によって、XG単独の添加の場合より、明らかにガスの発生は少ないことが確認できた。
マルチトールの場合は糖自体が大腸で発酵し、ガスが大量に発生するため、便通が悪化すると、不快なゴロゴロ感、膨満感など自覚症状をさらに増悪するおそれがあるが、2剤を組み合わせることで便の減少はXGのみの場合より、緩やかでかつ短期間であることから、胃腸症状は軽いものであったと推測された。
〔10−2: マルチトールとキサンタンガム(XG)+ペクチン(Pec)〕(〔その1〕)
正常な便をしているモルモット5匹に、XGとPecを表41のように組みあせてマルチトールに添加し、投与後、12時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
XGとPecを組み合わせた場合、少量(10.7重量%)で止瀉に成功した(P<0.01、Mann-Whitney検定)。便の量は3〜5時間目に減少したが、視診、触診によって、XG単独の添加の場合より、明らかにガスの発生は少ないことが確認できた。マルチトールの場合は大腸でガスが大量に発生するため、便の排泄の減少は不快な胃腸の自覚症状をことさら増悪させるおそれがあるが、2剤を組み合わせることで便の減少はXGのみの場合より、緩やかでかつ短期間であることから、胃腸症状は軽いものであったと推測された。
〔10−3: マルチトールとキサンタンガム(XG)+アルジネートナトリウム(Al)〕(〔その1〕)
正常な便をしているモルモット4匹に、粘度が非常に高いXGと親水性の高いAl(Pecより粘性が高い)とを表42のように組みあせてマルチトールに添加し、投与後12時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
XGとAlを組み合わせることで少量(10.4重量%)で止瀉に成功した(P<0.01、Mann-Whitney検定)。3〜5時間目には、便の量が減り、形の不整な便が僅かずつ排泄されたが、視診、触診によって、XG単独の添加の場合より、明らかにガスの発生は少ないことが確認できた。マルチトールの場合は大腸でガスが大量に発生するため、便の排泄の減少は不快なゴロゴロ感、膨満感など自覚症状をことさら増悪させるおそれがあるが、2剤を組み合わせることで便の減少はXGのみの場合より、緩やかでかつ短期間であることから、胃腸症状は軽いものであったと推測された。
〔10−4: マルチトールとグァーガム(GG)+カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕(〔その1〕)
正常な便をしているモルモット4匹に、XGより粘度が小さいGGと親水性の高いCMC(ペクチンより粘性が低い)とを表43のように組みあせてマルチトールに添加し、投与後12時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
GGとCMCを組み合わせた場合、XGを組み合わせた場合より止瀉効果は劣ったが、GG単味配合の場合より少量(14.3重量%)で止瀉に成功した。便の量は3〜5時間目に減少したが、視診、触診によって、XG単独の添加の場合より、明らかにガスの発生は少ないことが確認できた。マルチトールの場合は大腸でガスが大量に発生するため、便の排泄の減少は不快な胃腸の自覚症状をことさら増悪させるおそれがあるが、2剤を組み合わせることで便の減少はGG単味配合の場合より、緩やかでかつ短期間であることから、胃腸症状は軽いものであったと推測された。
〔10−5: マルチトールとペクチン(Pec)+カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕(〔その3〕)
正常な便をしているモルモット4匹に、XGより粘度が小さいXGと親水性の高いCMC(Pecより粘性が低い)とを表44のように組みあせてマルチトールに添加し、投与後12時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
PecとCMCを組み合わせた場合、17.9重量%でほぼ完全に止瀉に成功した(P<0.01)。便の量は2〜3時間に減少したが、短時間で回復し、触診によってガスの発生は少なかった。多糖類の添加量はPec単独の場合と同じだが、混和物は流れが良く内服しやすいものである。
デキストリン又はHSDの場合
デキストリン又はHSDによる便秘状態と腹部膨満感は、多糖類のうち、ペクチンを添加
することによって、一定の解消を見たが、その添加量は17.8〜28.9重量%、又は17.8重量%と大量で、添加量の削減が課題となる。
〔11−1:デキストリンとキサンタンガム(XG)+ペクチン(Pec)〕(〔その1〕)
正常な便をしているモルモット4匹に、XGとPecを表45のように組みあせてデキストリンに添加し、投与後、24時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
デキストリン単味投与の場合、下痢は軽度であるが、便排泄量の減少、腹部膨満感、腹部の圧痛などが認められ、重篤な胃腸症状が推測された。XG単独の添加では止瀉効果は認められず、便排泄量は減少した。Pec0.5〜0.8g/kg単独の配合(17.9〜28.6重量%)で便通が通常に復し、便も滑らかで胃腸症状が改善した(実施例1−j)が、XGとPecを組み合わせた場合、Pec単独より少量(12.5重量%)で止瀉に成功した。便排泄量は減少することなく、視診、触診によって、腹部膨満感、ガスの発生は少ないことが確認できた。
〔11−2:ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HSD)とキサンタンガム(XG)+ペクチン(Pec)〕(〔その1〕)
正常な便をしているモルモット4匹に、XGとPecを表46のように組みあせてHSDに添加し、投与後24時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
HSD単味の投与ではデキストリン単味投与の場合と類似の症状が認められ、XGまたはPec単独配合の場合にも、デキストリンと類似の症状が認められた(実施例1−k)。
Pec0.5g/kg単独の配合(17.9重量%)で便通が通常に復し、便も滑らかで胃腸症状が改善した(実施例1−k)が、XGとPecを組み合わせた場合には、Pec単独より少量(8.9重量%)で消化器症状の改善に成功した。便排泄量は減少することなく、視診、触診によって、腹部膨満感、ガスの発生は少ないことが確認できた。
糖アルコール+デキストリン又はHSD+多糖類
デキストリンまたはHSDは便通を止めるが、これらを糖アルコール類と配合した場合の消化器に対する影響を調べた。Eryにデキストリンまたはヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HSD)を配合し、さらに多糖類としてペクチン(Pec)を組み合わせて、投与後24時間目まで、瀉下作用、止瀉効果を観察した。結果を表47、表48に示す。
実施例 糖アルコール類 少糖類 多糖類
12−1 Ery2.8g/kg デキストリン:0.5g/kg
12−2 Ery2.8g/kg デキストリン:0.5g/kg Pec:0.2g/kg
12−3 Ery2.8g/kg HSD:0.5g/kg
12−4 Ery2.8g/kg HSD:0.5g/kg Pec:0.15g/kg
〔12−1:Eryとデキストリン〕
正常な便をしているモルモットに、Eryにデキストリンを表47のように配合し、投与後24時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
デキストリンを配合すると、Ery単味の投与の場合より下痢症状は早期に現れ、程度も重篤なものとなり、便通が2時間目から殆ど止まった。視診、触診で、腹部の膨満、圧痛が観察され、腹部膨満感などの胃腸症状の悪化が認められた。このような症状の悪化はEry単味では殆ど認められなかったもので、これはデキストリンによる便の排泄量が減少に起因すると考えられる。
〔12−2:Eryとデキストリン+ペクチン(Pec)〕
正常な便をしているモルモットに、EryにデキストリンとPec0.2g/kgを配合すると、便排泄量は通常よりいくらか減少するが、〔12−1〕のデキストリン単独配合の場合と比べると改善は著しかった。さらに投与後8時間目には排泄量が通常通りになり、便の固さも軟便ないしやや軟便まで回復した。便が止まることもなく、下痢の程度も持続時間も短かったことで、動物の苦しみ方も軽かった。Pec0.5g/kg(15.2重量%)に増量すると有意な止瀉効果が認められ(P<0.05、Mann-Whitney検定)、全過程をとおして軟便になる動物はいなかった。
〔12−3:Eryとヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HSD)〕
正常な便をしているモルモットに、EryにHSDを表48のように配合し、投与後24時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
HSDを配合すると、デキストリン配合の場合と同様、Ery単味の投与の場合より下痢症状は早期に現れ、程度も重篤なものとなった。かつ、視診、触診で、腹部の膨満、圧痛が観察され、腹部膨満感などの胃腸症状の悪化が認められた。このような症状の悪化はEry単味では殆ど認められなかったもので、これはHSDによる便の排泄量が減少に起因すると考えられる。ただし、デキストリンより症状は軽度であった。
〔12−4:EryとHSD+ペクチン(Pec)〕
正常な便をしているモルモットに、EryにHSDとPec0.15g/kgを配合すると、便排泄量は通常より僅かに減少するが、〔12−3〕のHSD単独配合の場合と比べると改善は著しかった。さらに投与後8時間目には排泄量が通常通りになり、便の固さも軟便ないしやや軟便となり、〔12−3〕のEryとHSD群と比べ、早期に改善した(P<0.05、Fisher-Yates test)。便が止まることもなく、下痢の程度も持続時間も短かったことで、動物の苦しみ方も軽かった。Pec0.4g/kg(12.1重量%)に増量すると有意な止瀉効果が認められ(P<0.05、Mann-Whitney検定)、全過程をとおして軟便になる動物はいなかった。
〔12−5:EryとデキストリンまたはHSD+Pec+CMC〕([0218]の〔その3〕の組合せ)
正常な便をしているモルモットに、EryにデキストリンまたはHSDを配合し、さらに
2種の多糖類、Pec+CMCを表49のように添加して、投与後12時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
2種の多糖類を加えることで、添加量を僅かではあるが、削減(12.1重量%)することが可能になり、なお十分な止瀉効果が得られた(P<0.05、Mann-Whitney検定)。便排泄量は通常通りで、添加により改善は著しかった。さらに投与後8時間目には排泄量が通常通りになり、便の固さも軟便ないしやや軟便となり、〔12−1〕のEryとデキストリン群、〔12−3〕のEryとHSD群と比べ、早期に改善した(P<0.05、Fisher-Yates test)。下痢の程度もごく軽度であり、ガスの発生などは認められなかった。CMCを添加することで、投与薬剤の流れが良くなり、服用が容易になった。
EryにデキストリンまたはHSDを配合することで、下痢は重篤になり、さらに便排泄量が減少することで、腹部膨満感、ゴロゴロ感も増して、動物が苦しがる様子が顕著であった。
デキストリンは結合材、溶解補助剤として医薬品に汎用されている。HSDは包摂剤として非水溶性の主成分を液剤として投与するために添加され、さらに味を調えるために甘味料として糖アルコール類を配合している薬剤があるが、各々単独で配合するより、複雑な消化器症状を呈するおそれが高く、慎重な考慮がなされなくてはならないことが判った。
このような場合にも、Pecグループの多糖類を添加することで、止瀉を図ることが出来ると同時に、便の排泄量の減少もほとんど認められず、胃腸症状の早期の軽回を図ることが出来ることが判った。
多糖類を添加する事で糖アルコール類を摂取することによって生じる下痢は防止できることが判ったが、この効果は糖アルコール類と多糖類との組み合わせに特徴的なものかどうかを検討するため、多糖類と同じく乳化剤、懸濁化剤、増粘剤などとして用いられるポリビニルピロリドン〔比較例14〕、ゼリー〔比較例15〕を多糖類に変えて、下痢防止効果を検討した。
[比較例14]
〔 Eryとポリビニルピロリドン(PVP)〕
体重280−350gで、正常な便をしているモルモット5匹に、Ery2.8g/kgにポリビニルピロリドン(PVP)0.2g/kg(約7.1重量%)を添加、経口投与し
、投与後6時間、便の性状を観察し判定した。結果を表50に示す。
投与後2時間目には、5匹中3匹が泥状便となり、3時間後には5匹全部が泥状便となり、6時間後も下痢が続いていた。下痢の程度はEry単味の場合以上に激しかった。
[比較例15]
〔Ery、イソソルビトール(IB)とゼライス〕
同じく、280−350gのモルモット10匹に、表51に示すように糖アルコール類としてEry又はイソソルビトールに造粘剤としてゼライスを添加し、経口投与して、便の性状を観察し、3時間後灌流固定、消化管内の観察を行い、判定した。
Eryにゼライスを添加した群では、投与後2時間目で一部の動物で軟便となり、3時間目ですべての動物が泥状便となった。これはEry単味と同等の激しい下痢症状であった。
IBにゼライスを添加した群では時間経過とともに次第に便が軟らかくなり、3時間目で約半数の動物が泥状便又は軟便となった。この下痢は、IB単味の場合とほぼ同様の程度で、有意差はなく、どちらの組み合わせにおいても、ゼライスの下痢の防止効果は全く認められなかった。糖アルコール類の消化器症状を改善・防止するためには多糖類の添加が必要であることが判った
[参考例]
多糖類を単味で投与した場合の便及び消化器官へどのような影響があるかを調べるため、正常な便をしているモルモット5匹 (体重280〜350g)に、ペクチン0.5g/kgを経口投与し、便の状態を観察し、3時間後灌流して消化管内部の状態も合わせて観察し、検討した。
その結果、便は5匹すべてが正常でその間隔は一定であった。多糖類を加えることにより、便が固くなるなどの変化はなく、影響は特に認められなかった。ただし、便の表面はつやがあり形も、間隔もより一定になった。便の大きさはいくらか小さくなったように思われた。
多糖類を単味で投与しても、特に影響がないことが判った。